第十二回は笠智衆主演「好人好日」(昭和36年・松竹)です。
いつものようにまずは粗筋から。
小関等は世界的数学者であったが、晴れていても雨靴を履くなどの奇行で変人で通っていた。
その娘登紀子(岩下志麻)は、奈良でも由緒ある店の跡取り息子、竜二(川津祐介)と好きあっており、
それは縁談にもまで発展していた。
ところが、等はその縁談に乗り気ではなく、竜二が持ってきた羊羹を犬にやったり、
贈り物のテレビもつき返す有様であった。
ある日、等に文化勲章が授与されるとの報が届く。
等と妻節子(淡島千景)は勲章の授与式のために上京する。
泊まりは二人が学生時代の頃にいたボロ下宿だった。
勲章を下賜された日の晩、下宿に泥棒が入り、勲章は盗まれてしまう。
奈良へ帰って皆が勲章を見せろというも、手元には無し。かといって、盗まれたともみっともなくていえない。
困った困った。
先日、NHK衛星第二で放送された作品です。分類としては喜劇でしょうか。
いろいろなところに散りばめられた笑いの種にすっかりと魅了されます。
さらに、笠智衆の、訥々としたしゃべり方が変人教授のキャラクターとぴったりで余計に面白く仕上がっています。
さて、今回の笠智衆ですが、先ほどから何度も書いておりますように、
彼の作品には珍しく常識人の役ではありません。
他の作品では、男はつらいよの御前様や東京物語をはじめとする小津作品でのお父さん役など、
真面目な役回りをよく演じています。
しかし、本作品では大いなる変人を演じています。
粗筋の中に書いてある以外にも、やたらとコーヒーを飲みたがったり、
喫茶店からうさぎをもらってきたりとその一つ一つの行動が常人から外れていて、
またそれを大真面目にやっているその姿が我々を笑わせてくれます。
また、笠智衆以外にも、妻役の淡島千景や泥棒役の三木のり平など、
数々の名優がその個性を生かして素晴らしい演技をしております。
とにもかくにも本作品は、いつもとは違う新しい笠智衆を見ることのできる作品です。
機会があったらどうぞご覧ください。
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