第十三回は、原節子主演の「お嬢さん乾杯」(昭和24年・松竹)です。
恒例によりまして、まずは粗筋を。
時は戦後、まだ混沌としている世の中。
自動車修理工の石津(佐野周二)は、見合いを持ちかけられる。
相手は旧華族のお嬢さん、泰子(原節子)であった。
身分が合わないなどと渋っていた石津であったが、見合いの席で泰子の姿を見て、一目惚れしてしまう。
見合いの返事も色よく、石津は大喜び。
しかし、泰子側の結婚の真意は金であった。
泰子の家は旧華族でも、事情があって傾きかけていた。
そこで、金がある石津のところへ泰子を嫁にやろうというのであった。
兎も角、見合いで合意したので結婚を前提とした付き合いを始めた二人だが、
育ちの違いからどうにもギクシャクして会わない。
ショパンを弾かれても石津には良くわからないといった具合であった。
二人の間には気まずい空気が流れていく。
ジャンルわけとしてはそうですね、青春ものでしょうか。
石津が34歳と少し籐がたってはおりますがそういうところだと思います。
いやぁ、いいですよ。
この作品のポイントはズバリ『身分の差』なんですね。
お嬢様育ちの泰子と土佐から出てきた成りあがりの石津の対照的なこと。
また、その教養の溝を埋めようとわざわざクラシックのレコードを買ってきて聞くところなどうまいもんです。
身分といえば、今回の原節子は、おしとやかなお嬢さんっぷりが本当に上手くて、
それが彼女自身の持っている雰囲気とあいまって絶妙な味に仕上がっておるのですな。
そして見所はといいますと、最後に石津が去った後のバーに泰子が現れる場面ですな。
バーのマダムに石津が去ったことを聞かされ、石津の思いを聞かされます。
そして、石津を追って駅へ向かう前の泰子の一言。
「私は石津さんに惚れておりますわ。」
この台詞がね、文で書くと分かりにくいのですが、なんともかっこいいとでもいうんですかね。
兎に角いいんですよ。それでいてホロリとさせられる場面でもあるんです。
さて、監督は名匠木下恵介。音楽はやはり、木下忠司氏がやっておられます。
この使い方がまた匠で、うまいこと配置されておるのです。
所々流れる曲は同じ音楽(主題歌)なのですけども、
これが同じ曲なのに場面によって千変万化して聞こえるから不思議です。
さすが木下忠司。というところにしておきましょう。
今までモノクロ映画なんかまるで見たことがないといった人でも観やすい映画だと思います。
お薦めの作品です。
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