さあ、第十八回は大河内伝次郎主演「水戸黄門漫遊記 飛龍の剣」(昭和26年・大映)です。
皆様ご存知の水戸黄門物です。では粗筋から。
水戸光圀(大河内傳次郎)、佐々木助三郎(本間謙太郎)、渥美格之進(阿部九州男)の主従三名は
気ままに旅を続けていた。
その道中で一行はある娘と出会う。
その物腰に町人とは思われぬ節があったので話を聞いてみると、武家の出だという。
娘の父、安之助(清川荘司)は元をいえば尾張家の家臣であったが、
家を私せんとする安藤内匠(月形龍之介)らの画策で放逐されたのだという。
早速尾張に乗り込む黄門一行。城の様子を見てみると、新しい能舞台の落成式が行われるとのこと。
呼ばれた能楽師、観世元之烝(大河内の一人二役)は黄門様と瓜二つであった。
黄門様を城に入れまいとする安藤らであったが、観世の協力により城に入るを得る。
娯楽痛快時代劇の代表格、「水戸黄門」です。
大河内主演の水戸黄門の存在は以前から知っておりましたが、今回始めて見ることが叶いました。
大河内傳次郎というと、「シェイ(性)は丹下、名はシャゼン(左膳)」の丹下左膳が有名ですが、
こういう役もなかなかうまいものです。
大河内黄門は好々爺の田舎じみた黄門様というよりも、より風格があって、
ちょっとしたところのお爺さんという感じです。
本作品の大河内傳次郎もさることながら、存在感を示しているのは敵役、月形龍之介です。
彼は後に自身の当たり役として水戸黄門を演じるようになりますが
この頃は脇役筆頭という場所が多くありました。
月形の悪役振りは堂に入ったもので、その腹の底から出るような声は重厚で凄みがあります。
また、ラストに大河内との立ち回りがあるのですが、
剣道の有段者だけあって実に見事な殺陣を見せます。
太刀筋も綺麗ですが見るべきは足捌き。うまいことスルスルッと移動するのです。
今の役者さんに殺陣の際、これほどうまくすり足で動ける人がいるでしょうか。
さて、この作品ではテレビのように徹底的に身分を隠すようなことはしておりません。
旅籠の払いが出来なくなって、「代金の代わりにこれをとっておきなさい。」と
葵の御紋入りの印籠を出してしまうくらいです。作品中で黄門様の人相書きまで出回っています。
そのため、ほとんど田舎も爺さんというよりも黄門様とばれた上で話が進んでいきます。
悪人も、「水戸の隠居が来た!」ということを分かった上で画策をしています。
そして落ち着くところは、「どこの馬の骨とも分からぬ爺として葬ってしまえ。」となります。
結局失敗しますが。
そうそう、印籠の扱いについても述べておきましょう。
テレビだと、「この紋所が目に入らぬかぁっ!!」と大仰に出して身分を明かす
重要な小道具として使われていますが、この作品ではそれほど大仰には出しません。
上で書いたように、宿代のカタにしようとしたり、出しても「ちょっと御覧なさい」程度に無造作に出しています。
この作品も「水戸黄門」ですから、
全体的に見たところ大きな感動だとか悲壮感だとかいうものはありません。
ただただ痛快、爽快な時代劇なのです。
肩肘を張らずに見られる娯楽時代劇として完成されているのです。
また、水戸黄門では、誰のどの作品にもでてくる定番の「俵座り」(蔵松敷兵ヱ命名)がこれにもでてきます。
百姓家で水を貰おうとそこの婆さんに頼み、持ってくるまで座って待っていると、
その座っている姿を見た婆さんが黄門様を殴りつけます。
黄門様の尻の下にあるのは米俵で、それに座るとはなんという罰当たりかというのですな。
そして黄門様が平謝りに謝る、とこういった場面です。
定番を散りばめた、定番中の定番「水戸黄門」。安心して楽しめる一作でした。
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