さて、蔵松観賞記第二十回目は
片岡千恵蔵主演「鴛鴦歌合戦」(昭和14年・日活)です。
天下一品のオペレッタ時代劇でございます。
まずは恒例によりまして、粗筋から。
浪人、志村狂斎(志村喬)は傘を張って娘お春(市川春代)と暮らしていた。
また隣には浪人、浅井禮三郎(片岡千恵蔵)が住んでいた。
狂斎は無類の骨董好きで、
よく道具屋六兵衛(尾上華丈)方へ掘り出し物を探しにいっていた。
ある日、狂斎が六兵衛方へいってみると、
これも骨董好きの大名、峰山丹波守(ディック・ミネ)が掛け軸を見ている。
狂斎もその軸を欲しがったが、値が五十両と聞いてあきらめる。
それを見ていた丹波守、同じ趣味のよしみとして、狂斎にその軸を買ってやることにした。
喜んだ狂斎は丹波守に自分の収集物を見せようと家に連れて行く。
しかし、丹波守は狂斎のコレクションを見るどころではなかった。
茶を入れるお春の姿を見て惚れてしまったのだ。
しかしお春は隣人の禮三郎が好きであった。
丹波守の家来、遠山満右ヱ門(遠山満)は掛け軸の恩に着せてお春を
譲り受けるよう入知恵する。
冒頭にも「オペレッタ時代劇」と書いておりますように、
この作品は歌劇仕立てで作られております。とにかく唄うわけです。
色々な人がその喉を披露してくれるのですが、中でも以外に上手いのが志村喬。
作中で何曲も歌っていますが、低音も高音も当時の俳優にしては結構な響きです。
実際にこの映画が公開された当時、レコード会社から誘いがきたほどですから
相当のものだったのでしょう。
ところで、私は志村喬というと「お爺さん」の役しか見たことがないのですが
皆さん、どうでしょうか?
勝手に私は笠智衆と並べて二大老け役と呼んでいるのですが、
本当に昔から年寄り役ばかり演じているんですよね。
この作品でも役どころは大体50代後半から上、七人の侍でも老け役です。
志村喬のこの作品のときの実年齢は34歳で、
娘の恋人役の片岡千恵蔵は2歳上の36歳だったんですね。年上のお婿さんですな。
話が脱線しました。映画に戻りましょう。
志村喬ともう一人、いい喉を聞かせてくれるのがディック・ミネです。
この人は本業の歌手ですが、いわゆるジャズシンガーなんですね。
ですから妙に甘ったるいジャズ風の発声で歌われます。
これが意外と時代劇と違和感がないんですね。
作品自体のせいかもしれませんが、戦後にも『ジャズ大名』なんて作品もありますから、
ジャズと時代劇は合うのかもしれません。
この作品は、日本映画界がトーキーに移行している最中の映画で、
当時としては先進的な作品です。
見たいと思われた方は、DVDのお店にいってみてください。
4千円〜5千円くらいで売っていると思います。
ちなみに私は例によって、大学の生協で取り寄せました。
【おまけ・泡立つ青春】
今回はおまけでもう一作。
先ほど、「鴛鴦歌合戦」のDVDを買ったと書きましたが、
私が買ったのは「コレクターズ・エディション」というやつでして、おまけが入っています。
それがここで紹介する、「泡立つ青春」(昭和9年・映音)です。
この映画は普通の映画ではなく、いわゆる宣伝映画です。
ですからあまりストーリーらしいストーリーはありません。
宣伝映画といって、どこの宣伝かといいますと、どこだと思いますか?
今でも存在する会社です。
ヒントは「泡立つ」。泡が立っているものです。
正解は「サッポロビール」です。題名の「泡立つ」というのはビールの泡なんですね。
肝心の内容ですが、前半20分くらいはなにやらちょっとした芝居があります。
はっきりいうと、あまり面白くありません。
本番は後半に来ます。
30分ほど、サッポロビール工場の所在地とビールの製造工程とが流されます。
最後にちょっと、「ビールよいもの」という歌が流れて終わり、というけったいな作品です。
まさに、「コレクターズ・エディション」。あまり一般人が買うものではありませんな。