第二十二回 銭形平次捕物控 からくり屋敷


第二十二回目は長谷川一夫主演「銭形平次捕物控 からくり屋敷」(昭和28年・大映)です。
皆さんご存知、銭形の親分さんで御座います。
ではいつものように、粗筋からご覧ください。



江戸に新興宗教「紫教」がやってきた。
これに帰依すれば、足の悪いのも目の開かないのも、
教祖・紫琴女(三浦光子)のが一たび祈ればたちまち治り、
お金を供えれば倍になって帰ってくるという大評判。
紫は別当の赤井主水(黒川弥太郎)らと「紫御殿」なる邸宅に住み、数多くの信者を集めていた。

そんなある日、川で釣り糸を垂らしていたのが、平次の下っぴき・八五郎(花菱アチャコ)であった。
しかし釣れたのは魚ではなく、女の死体であった。手には紫教の首飾りが握られていた。
これは臭いとにらんだ銭形平次(長谷川一夫)は八五郎を紫御殿に潜入させる。
八五郎は一万両を寄進してついに身代限りをする井筒屋や、
大奥の三笠局(入江たか子)を赤井がたらし込んでいる現場を目にしたが、
結局見つかり、捕まってしまった。

いつまでたっても戻ってこない八五郎。
心配する平次はついに御殿へ乗り込む。
御殿で紫琴女と会い、顔を見た平次はおどろいた。
なんと、紫琴女は昔、平次と同じ長屋に住んでいた、幼馴染みのお琴であったのだ。



江戸は神田の明神下、銭形平次親分のお話です。
テレビシリーズでは大川橋蔵や北大路欣也なんかが演じましたね。
そして、今回は映画の本家・長谷川一夫の平次を紹介いたします。

この作品はやはり、こう、娯楽作品でございます。

基本的には、怪しげな宗教「紫教」と対する銭形平次、
という構図でご覧いただけたらいいのですが、これが一筋縄では参りません。
教祖が平次と幼馴染みであったり、
尚且つ将軍家光の弟、駿河大納言忠長の御落胤という代物です。
(ちなみに、本物です。)

また、黒川弥太郎扮する赤井主水も、
ただ御落胤を奉じて家老にでもなろう、という狭い了見ではありません。
彼は天草一揆の残党で、幕府転覆を狙っているというのです。
そういった伏線が複雑に絡み合って、ストーリーに深みを増しています。

先ほども書きましたが、かたき役は黒川弥太郎が演じました。
この人は古い役者さんで、戦前には主役の作品もそれなりにあります。
戦後は大体脇役ですが、今回のように悪玉の場合もありますし、
水戸黄門の助さんなどの準主役級も演じられました。
幅広く、いろんな役をやられる方ですね。
今回の赤井主水もどっしりと凄みのある、重厚な演技でした。
ところで、この黒川氏、やはり男前でかっこいいですね。
きりりとした眉に、目がしっかりとあって。美形だと思っています。

また、紫教の被害者で、三百両を騙し取られる役を丹下キヨ子が演じているのですが、
守銭奴根性を丸出しにしたような演技は滑稽でありながら、非常に哀れでもありました。

今度は立ち回りについて書きましょうか。
なんといっても『銭形平次』ですから、御存知の投げ銭シーンが御座います。
テレビでは格好よく、悪役に向かってビシッとあたるわけですが、この作品はそうは行きません。
見たところ、やたらめったら相手に向かって銭を投げ、終いには銭がなくなり、
なんと目明しの魂であるはずの、「十手」まで投げてしまいます。

そのあとはもう、素手ですね。素手で刀を持った相手と戦います。
逃げながら、手当たりしだい椅子やなんかを相手にぶつけながら戦っています。
ですから、主人公が絶対的に強いというわけでなく、しっかり弱さも見せています。
そういう見せ方は私の好みではあります。

結論を申しますと、文芸的な方面から見るとそれほどではないものの、
娯楽作品としては、一級と言っていいのではないかと思います。
笑わせるところはしっかり笑わせてくれますし、力の入るところもそれなりに入れさせてくれます。
まぁリラックスして、気楽に見る分には最適な作品です。
機会がありましたらぜひご覧になられるといいと思いますよ。


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