第二十四回目は織田作之助原作『夫婦善哉』(昭和30年・東宝)です。
では例によって例のごとく、まずは粗筋から。
大阪船場の化粧問屋維康商店の長男・柳吉(森繁久彌)は芸者の蝶子(淡島千景)と駆け落ちをする。
娘のみつ子(森川佳子)と、病気で二年前から実家に帰っている妻を残したままにである。
腹を立てた柳吉の父・伊兵衛(小堀誠)は柳吉を勘当する。
これによって二人は間借りをして共に暮らすことになるが、
坊ちゃん育ちの柳吉はろくに働きもせず、生活費は蝶子が座敷に出て稼いでいた。
ある日、柳吉は妹の筆子(司洋子)が婿養子をとると言う話を耳にする。
店もその養子に継がせるというのだ。
いつかは勘当が解けるなりして店に戻れると思っていた柳吉は大慌て。
実家に談判に行くも、蝶子と別れねば店はやれぬという父親の言葉を受けてしまう。
そこで、蝶子と別れると一芝居打って金だけ取ろうと策を弄するが失敗、
筆子から300円を無心して、蝶子の元に戻った。
その300円と蝶子の貯金を合わせて、関東炊き屋を始めた二人。
店は軌道に乗ってきたある日、柳吉は腎臓病で倒れてしまう。
文学映画の代表作、『夫婦善哉』です。
昭和初期の大阪を舞台にした作品でございます。
この作品の見所ですが、一つ目は『食べもの』です。
粗筋には書いておりませんが、柳吉は食い道楽、今でいえば食通という設定になっています。
ですから色々とでてまいります。
中でも有名なのが、『自由軒のライスカレー』です。
このカレーは一般のように、ご飯の上にルーがかけてあるのではなくて
ご飯にカレーがまぶしてあるのです。
家でカレーを作って、残り少なくなった時に、鍋の中にご飯を入れてまぶったようなあんな感じです。
それでもって、中央に生卵が落としてあります。
これをですね、またおいしそうに食べるわけです。
また、この『自由軒』実際にあるお店で、今でも大阪千日前に店を構えておられます。
もちろんこの『ライスカレー』もあります。お値段は650円だそうですよ。
さて、内容に入りましょうか。
夫婦善哉と言うぐらいですから、柳吉・蝶子の二人を中心にお話が進んでいきます。
柳吉も放蕩男ですから二人の間でも喧嘩シーンがあるわけですね。
中でも凄まじいのが柳吉が酔って朝帰りした時の喧嘩シーン。
怒った蝶子が柳吉の首根っこを捕まえて、水桶にザバンザバン突っ込むのです。
ここはもう、鬼気迫るといった感じで迫力がありましたよ。
森繁久彌の卒寿を記念して発行された本、『銀幕の天才・森繁久彌』(2003)にも
淡島千景はインタビューでこのシーンについて、
「森繁さんをあやうく殺すところでしたの(笑)」と語っておりますし、
森繁久彌自身も
「えらいめに遭った」と話しています。
とにかく凄まじいシーンでした。
また、助演陣も個性的な演技を見せてくれまして、
中でも蝶子の父親を演じた田村楽太、この人が貧乏だが律義者の親父をよく演じました。
小さな小汚い惣菜屋(てんぷらと思われる)を営んでいるのですが、
貧しさの悲哀、当時の庶民、貧乏人の感じが身体全体から滲み出ているようでした。
とにもかくにもこの作品は名作です。
機会がございましたら、是非々々ご覧ください。