第二十七回 錦絵江戸姿


今回ご紹介致しまするは、市川右太衛門主演『錦絵江戸姿』(昭和14年・新興キネマ)です。
無声映画でも後期のこの作品、まずは粗筋からご覧を。



侠客・朝比奈三郎兵衛(市川右太衛門)は、
酔った侍に絡まれている武家娘・千早(国友和歌子)を助ける。
侠客と侍の喧嘩だというので、近くで花見をしていた、
喧嘩好きの旗本・三浦小次郎(浅香新八郎)がその場へ駆けつける。
しかし、三郎兵衛の姿を見て吃驚。
実は三郎兵衛は旗本三浦家の次男坊で、家を飛び出し侠客になっていたのである。
これを叱責せんと詰め寄るも、兄弟喧嘩となって、物別れになってしまった。

三郎兵衛は家をでて、当主の小次郎まで喧嘩好き、
これが家名を傷つけることにはならないかと案じた伯母・数江(三保敦美)は
神田駿河台の旗本・大久保彦左衛門(松本泰輔)に相談を持ちかける。
話は小次郎に嫁を取らせようということで落ち着く。
相手とされたのは、千早であった。

しかし、小次郎にはすでに言い交わした仲の、三浦家腰元・お浪(雲井八重子)がいた。
その上、千早のほうは実のところ三郎兵衛に惚れていたのだ。



市川右太衛門主演ということで、新興キネマという当時では大手の映画会社の作品です。
新興キネマは後に大映となって、現在の角川映画になります。

内容ですが、ちょっとした恋愛のもつれ、といったところでしょうか。
お浪がいるのだから、小次郎も断ればいいのですが、
大久保様のお声掛かりの縁談ですからむげに断れないわけです。
その上、伯母さんも大乗り気ですから。
そこで、弟・三郎兵衛が兄・小次郎、というよりもお浪の恋の手助けをするわけです。

話の運びとしては、それなりに無難でしたね。
大きな冒険もありませんでしたし、いわゆる定石通りのお話だったように思います。
立ち回りも、いわゆる一人対多数というようなのはありません。

それらしいといえば、兄弟喧嘩の場面ですね。
これはなかなかに面白く仕上がっておりました。
二人とも若かったんでしょうけれど、くんずほぐれつ、
投げつ投げられつの本当に兄弟喧嘩そのままといった感じでほほえましいように思われました、

役者さんの話ですが、大久保彦左衛門を演じた松本泰輔という人。
この人の演技はなかなかよいものでした。
頑固者でありながら少しばかり空回り気味の喜劇的な彦左を上手く表現していました。
無声映画は声が出ない分、表情や動きで面白さを表現せねばなりませんから、
相当の役者さんなんだと思いますよ。
ついでに、ネット検索しましたところ、
彦左もそうですが、水戸黄門なんかの年寄り役の方のようです。
年寄り役の演じ方というのも関係しているのかもしれません。

ところで、再三言っていますように、この作品は無声映画なんですね。
昭和14年ということで、思っていたよりも新しいんですよ。
前に書いた「忠臣蔵天の巻・地の巻」や「鴛鴦歌合戦」もトーキーですから、
この頃はトーキー化していると思い込んでいました。
ですから、たまげたわけです。
もっと勉強せねばなりませんね。

今回はこれにてお終いです。
では、また次回。


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