第二十八回 昨日消えた男


第二十八回目は、長谷川一夫主演『昨日消えた男』(昭和16年・東宝)です。
これは私も結構好きな作品です。
まずは粗筋からどうぞ。



長屋の因業大家・勘兵衛(杉寛)が何者かに殺された。
容疑者は遊び人・文吉(長谷川一夫)、浪人・篠崎源左衛門(徳川夢声)、
同・横山求馬(坂東橘之助)ら長屋の住人すべてであった。

与力・原六之進(江川宇礼雄)、目明し・八五郎(川田義雄)は下手人探しに躍起になる。
果たして勘兵衛殺しの真なる下手人は、誰なのでありましょうや。



ミステリー兼喜劇といった作品です。
私は、数年前に見たことがありまして、今回は2度目の鑑賞ということになります。

まず最初のキャストの場面です。
普通だと、「誰某・○○」などと、役名と俳優名がただ字で書いてあるのが流れていくだけなのですが、
この作品では、俳優の映像の上に、横書きで役名と俳優名が出ています。
当時としては、画期的なことのように感じます。(実際はどうなのかわかりませんが。)

この作品、先ほども述べましたように、ミステリーの要素を多分に含んでおります。
今風に言えば、『因業大家殺人事件・十三人の店子』とでもいうのでしょうか。
複雑怪奇な(?)殺人事件を文吉を中心に下手人探しをするわけです。
ミステリーとして見ると、多少トリックが稚拙な感じがしないでもないですが、
最後の犯人解明時のどんでん返しは最初見たときは結構驚きました。ちょっと強引でしたけれど。

また、舞台が長屋ということで、さまざまな個性の住人が住んでいます。
粗筋にある、遊び人の文吉、浪人の源左衛門・求馬らのほかにも、
人形師や駕籠屋、錠前屋に大道芸の一つ、居合抜の先生なんかもいます。
この個性、職業を活かすに、長屋という舞台は最適だと思います。

上でこの作品は喜劇、とも書きましたがこっちの面から見ても相当な出来であります。
駕籠屋の甚公(渡辺篤)・一公(サトウ・ロクロー)は古川ロッパ座の人ですし、
目明し役の川田義雄も吉本興業からの出演です。
人形師の女房役の清川虹子もなかなか面白い演技を見せてくれます。
スター・長谷川一夫も存外こういう面も上手く、なかなか見ごたえがありました。
キャスト場面の効果もこの喜劇風味があるからこそ出来たのかもしれません。

では、役者さんについてみてまいりましょうか。
今回取り上げるのは飲み屋上州屋の親父役の進藤英太郎です。
進藤英太郎といえば、戦後は東映もので悪の親玉をしたり、
テレビでは大久保彦左衛門をやったりした、演技派の俳優さんです。
今回は長屋の連中が集まる飲み屋の主人という役どころ。

それでね、この作品の頃の進藤英太郎、まだだいぶ若いんですよ。
後年のように膨れた顔ではなく、細面とはいえませんがやせてますね。
声は進藤英太郎そのままなのですが、やはり若い。
演技は、やはり上手いものです。


時代劇ミステリーの特A級のこの作品、見て損する内容ではございません。
機会がございましたら是非ご覧ください。


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