第三十二回 大勝負


こっちの更新はだいぶ間が空いてしまいましたね。
一月半ぶりの観賞記は『大勝負』(昭和40年・東映)です。
では恒例によりまして、粗筋よりどうぞ。



関八州の治安は乱れに乱れていた。
それというのもお上の十手がやくざの親分衆に一手に握られているためだ。
この状況を打破せんとする勘定奉行・堀大和守(大友柳太朗)は
真岡代官・檜垣三右衛門(大坂志郎)へ博徒殲滅の令を下す。
これに危機感を持った常吉(天王寺虎之助)、虎五郎(多々良純)ら
関八州の親分衆は力を結集して代官に対抗しようとする。

そういった時分、真岡の宿に二人の人物が現れた。
越後なまりの浪人・海野蛸十郎(片岡千恵蔵)と渡世人・御嶽の仙太郎(大川橋蔵)であった。
二人は旅芝居一座の用心棒の座を賭けていざ斬りあうところであったが、結局無しに。
当座のため、蛸十郎は虎五郎の、仙太郎は常吉の用心棒に座ることとなった。



管理人も大好きな片岡千恵蔵御大の作品です。
今回千恵蔵は海野蛸十郎という田舎侍に扮しております。
越後浪人ということで、ことばは越後なまり、純朴そうな中年の浪人をよく演じています。

対する相手役に大川橋蔵が起用されています。
このとき36歳、まだまだ東映城では若手です。
後に、映画から半ば引退して生涯の当たり役、『銭形平次』をするようになるわけですが、
この頃はまだ若さあふれる演技であります。
で、こちらは渡世人の役。

以上主役級の二人の紹介をいたしましたが、
そこは東映、二人ともただの浪人、ただの渡世人ではありません。
まずは千恵蔵扮。浪人海野蛸十郎とは仮の姿。
しかしてその実態は、越後長岡藩士・河合又十郎、藩の密命を受け、人買いを暴きに潜入していたのであります。
また、渡世人仙太郎も、実は博徒・常吉に殺されてしまった前代官の息子だったりします。
これがまた、父親は現代官に殺されたものと思い込んでいたり、
また現代官の娘と好きあっていた(推測)されるようなつくり。
まったくもって東映らしい、娯楽性に富んだ設定であります。

そして、今回の注目俳優ですが、代官役の大坂志郎を挙げましょう。
大坂志郎、今作品では幕府の命を遂行する、大真面目なお代官様を演じています。
なかなか好演しております。顔付きもそれらしいですし、声の高さもちょうどよかったのではないかと。

さて、私は大坂志郎といって思い浮かぶのは、
ナショナル劇場『大岡越前』での村上源次郎役が一番ですね。
同心の中でも年配の束ね役で、いわゆる親父さんといった役どころでした。
この源次郎役も多少三枚目風味は入りましたが、やはり真面目なふう。
大坂志郎はやはり真面目な役が似合うようです。

もっとも本当に若〜いときはいろいろやられたわけですが。
たとえば、『東京物語』での大阪弁の三男やなんか、まあいろいろですわね。

では最後に、東映作品での見せ場、チャンバラについて書いて終わりにしましょう。
この作品では大きな立ち回りは3回。
まずは、蛸十郎による代官襲撃の場面です。
これは本当は斬る気は無いのですが、常吉を信用させるため嘘の襲撃をします。
これがですね、立ち捌きというよりも、顔の演技がよかったですね。
よく「千恵蔵は剣で斬らずに顔で斬る」なんていいますが、まさにそういう立ち回りでした。

2番目は芝居小屋の乱闘。
仲間割れした常吉一家と虎五郎一家が芝居小屋でぶつかり合う場面です。
蛸十郎も仙太郎も双方の用心棒ですからこれに参加するのですが、この立ち回りは面白かった。
乱闘で、敵も味方も入り乱れて戦っております。
すると、仙太郎が間違って自分のほうのやくざをぶちのめしてしまうわけですね。
そこへ蛸十郎が「おい、そりゃワシのエモノじゃ。こっちへ貸せ。」なんていいます。
仙太郎、投げてよこします。
そして蛸さんが自分側のを捕まえると、「そ〜れ、お返しじゃ。」
こういうのんびりしたの、いいですよね。
東映でしか見られない非現実的な立ち回りの典型ですよ。

最後はクライマックス、関八州のやくざを敵に回して閻魔堂で二人の大立ち回りです。
これはもう、千恵蔵の荒削りではありますが豪快な剣、そして顔。
橋蔵の綺麗な型の剣。
それらがあいまって、チャリンチャリンと刀の音が響く間に
バッタバッタと倒れていきますやくざの群れ。
ラストにふさわしい立ち回りでした。

と、今回はこのくらいで終わりにしましょうか。
とにもかくにも、 若手・大川橋蔵と大御所・片岡千恵蔵による迫真のぶつかり合い。
古きよき東映の味のする良作です。
お薦めの一作、機会があったら是非ご覧ください。


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