第三十五回目は森繁久彌主演『水戸黄門漫遊記』(昭和44年・東宝)です。
森繁久彌がご存知の水戸黄門に扮します。
ではまずは粗筋から。
常陸の国の農村に一軒の質素な別荘が建っていた。名は「西山荘」。
主の水戸黄門光圀(森繁久彌)は、このまま武家の世界しか知らずに死んでいってはもったいないとして、
諸国漫遊の旅に出ることを思い立つ。。
早速家来の佐々木助三郎(宝田明)、渥美格之丞(高島忠夫)を呼び出し、
自らは百姓光右衛門、家来は助さん・格さんとして出立する。
水戸を離れて幾十里、箱根の関にかかった一行であったが、通行切符を忘れたのに気づく。
さてどうしたものかと茶店で思案していると、他の旅人の話が聞こえてきた。
それによると、どうやら裏街道の関所の通行切符が横流しされていて、
この休んでいる茶店で売られているとのこと。
茶店のばあさんに確かめてみると、関所で切符が溜まるたびに
店のゆで卵と交換しているのだという。
しかし、黄門ともあろうものがそんなものを買うわけにうも行かない。
とりあえず裏街道の関所に向かい、関所役人(獅子てんや・瀬戸わんや)に会う。
その脇には山になったゆで卵。
このような木っ端役人に身分を明かすのもつまらぬと考えた黄門様は
旅芸人の振りをして、ゆで卵を一度食べて、それをまた元に戻すという手品を見せようとのたまう。
実際にゆで卵を食べてしまったが、もちろん黄門様は手妻など使えない。
窮した黄門様はついに身分を明かし、役人を叱責。
無事、関所を通るを得る。
まだまだ旅は始まったばかり、黄門様の旅は続いていく…。
喜劇をやらせたら日本屈指の森繁久彌が水戸黄門に扮しました。
そのため、今回の『水戸黄門漫遊記』も全編喜劇調で書かれております。
粗筋で書いた、ゆで卵の話もそうですし、
博打宿の女将(草笛光子)を相手に博打を打って大負けした話など色々です。
しかも、森繁久彌が黄門役ということで、黄門様も他の作品と比べて大いに助平です。
すなわち、助さん・格さんを連れて遊女屋へ遊びに行ったり、
「猛烈丸」なる精力剤(一晩に5人を相手にしても太刀打ちできるという代物)を探し回ったりします。
前述の博打も賭けたものは黄門様は全財産、女将のほうはその身体でした。
他では見られない、黄門様ですね。
他を見てみますと、社長シリーズでも森繁と一緒にやっていた、三木のり平が出ています。
若い人はご存知ないかもしれませんが(このサイト自体そういうのばかりですけども)、
桃屋のCMに出てくるメガネの人物のモデルになっている人です。
役どころは江戸は日本橋に店を構える、のり屋の平兵衛。
コント55号の二人を、助さん格さんにして、ニセ黄門を気取ります。
これがまたうまいものでして、ニセ黄門としての空威厳や胡散臭さをよく出しています。
のり平自身も立派な喜劇役者で、期待通りしっかりと笑わせてくれます。
本作品はナレーター付きでありまして、冒頭や話の中でも流していくところはナレータが話していきます。
これを務めているのが、講談師・一龍斎貞鳳。
昔、NHKで放送されていた『お笑い三人組』で三遊亭小金馬や江戸家猫八とやっていた人です。
自民党の参議院議員にもなりました。
水戸黄門自体、講談でも散々やられているネタでありますので、しっかりしたものです。
本職でありベテランである貞鳳の立派な語りでありました。
では最後に時代劇「ですので立ち回りについて書いておきましょう。
この作品最大の立ち回りシーンは、
終盤、尾張徳川家のお家乗っ取りをたくらむ黒川外記(平田明彦)一派との闘いです。
ここでも森繁流のチャンバラが出てきます。
普通の時代劇のように正面から正々堂々とぶつかって行くなんてことはしません。
地蔵堂の地蔵に化けて、敵が近づいたら、後ろから鉄のつえでポカリ、といった具合です。
その後、地蔵の姿でちょっと立ち回りがありますが、黄門様も殿さま剣法、
つえを跳ね飛ばされて、刀を振り上げられ絶体絶命のピンチ。
さて、この後はどうなったでしょうか。
普通なら、助さんなり格さんなりが横から助けるか、
どこかから手裏剣が飛んできて敵にグサリでしょう。
しかし、さすが森繁喜劇、そんじょそこらの水戸黄門とは訳が違います。
おもむろに懐に手を入れて取り出だしたるものが敵に向かって火を噴きます。
そうです、ピストルです。黄門様が至近距離で敵に向かって「バーン!」です。
これは、笑いましたよ。時代劇てのは、「飛び道具とは卑怯なり!」の世界ですよ。
それを、正義の味方の代表である水戸黄門が撃ってしまったんですから。
森繁久彌ならではの荒業でした。
とにもかくにも今回の作品は、森繁喜劇のエッセンスが十二分につまった時代劇です。
機会がございましたら是非ご覧ください。
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