第三十七回 旗本退屈男


ほぼひと月ぶりの更新です。
今回は市川右太衛門御大、『旗本退屈男』(昭和33年・東映)です。
御大映画出演300本記念のオールスター映画でございます。
では、粗筋からどうぞ。



伊達領に通りかかった早乙女主水之介(市川右太衛門)一行はある騒ぎに出くわす。
話によると、名取権現へ村の娘・お妙(大川恵子)を人身御供に出すとのこと。
それを聞いた主水之介、むずむずと退屈の虫が騒ぎ出す。
お妙を助けんと名取権現へ向かった一行の前に現れたのは忍び装束の一団。
腕に憶えの諸刃流で曲者を追い払った主水之介は、その落としていった印籠を拾う。
そこに書かれた紋所は、竹に雀。まさに伊達家の紋所であった。

さて、伊達家の当主忠宗(片岡千恵蔵)は名君の誉れ高い領主であったが、
昨今の行状は目に余るものがあった。
先のお妙誘拐も、忠宗による女狩りの命によるものであった。
その折、伊達家の世子・鶴千代(植木千恵)が突然病に倒れる。
御典医・大場道白(柳永二郎)の治療を受けるが快復する兆しは見えない。

実のところその病は、御家乗っ取りをたくらむ
伊達兵庫(進藤英太郎)と原口刑部(山形勲)一派の差し金であった。
大場道白もその一味である。
さまざまなところからそれに感づいた退屈男。
額の傷が暴くお家騒動の結末やいかに。



「この眉間に冴ゆる三日月形は天下御免の向こう傷、直参旗本早乙女主水之介、人呼んで旗本退屈男。ぱっ。
 諸刃流青眼崩し破邪の一刀、一指し舞うて仕る。ぷはっ。」

やはり市川右太衛門御大といえば『旗本退屈男』ですね。
上記のですね、「ぱっ」とか「ぷはっ」とかいうのはやはり台詞に変な抑揚をつけるからなんでしょうね。
それがひとつの魅力ではあるのですが。

最初にも書きましたように、この作品は市川右太衛門映画出演300本記念映画でありまして、
東映オールスター総出演で作られております。
市川・片岡両御大を始め、大河内傳次郎、月形龍之介、進藤英太郎、山形勲らのベテランから
大友柳太朗、東千代之介、中村錦之助、大川橋蔵、北大路欣也、里見浩太郎といった若手、
桜町弘子、花柳小菊、大川恵子、岡さとみ、千原しのぶら東映城のお姫様までみんな出ております。
なんといってもオールスターということでございますね。

さて、内容でございますが、オーソドックスな御家騒動物語ですね。
殿様をたらし込む奸臣、赤い包みは毒ぐすり、実は芝居だった殿様の乱行、
すべて東映王道パターンをそのまま踏襲しています。
ですから、展開の先が読める予定調和性の強いお話になっています。
そのためか、他の退屈男作品よりもやや面白みに欠ける部分があります。

その原因ですが、やはりストーリーがまとまり過ぎておるのでしょうね。
オールスターですからカット割りもちゃんと上手いこと配分されるようにしなければなりませんし、
東映の威信もありますから、あまり冒険をして失敗するようなことがあってはならない。
そういうことで、無難に無難を重ねた結果の作品というような感じですね。

しかし、俳優個々の演技となればそれはまた別で、やはりスターさん、名演です。
まずは片岡千恵蔵。いわゆる御乱行殿様の役でしたね。
やはり上手いですよ。見事にこなしています。
こういったいわば汚れ役、敵めいた役も見事に演じられる器用さというのが
千恵蔵の強みなんだと思うのですよ。
映画が衰退した後もテレビ時代劇にて名脇役でやっていけた要因ですわね。

そこが市川右太衛門には足りなかったんでしょうね。
後、66歳の時にテレビでも退屈男をやりましたがひどかったですね。
テレビの小さな画面でも映画の壮大な大きな演技でやっていたんですよ。
例の「ぷはっ」というのもですね、映画だからこそ豪快に見えた。
しかし、カメラも安けりゃ、セットもせこいというテレビではその演技は浮いてしまうんですね。
銀幕とテレビの違いですわね。

何か話が逸れましたな。閑話休題。
次は月形龍之介あたりいきましょうか。今回は忠臣・角倉十太夫の役。家老です。
珍しく善玉なんですよ。悪いところは全く無し。
それがですね、こっちはいつも月形の悪役になれてしまってますから、
さぁ、いつ悪役へ寝返るか、さあ、さあ。なんて思ってですね、疑いながら見ますいね。
いうなれば、それが本作品で最も力の入るところでもあったわけであります。
しかし、月形の雰囲気はいいですね。台詞回しはそんなでもないんですけどね。
そこにいるだけで、「月形ぁ!」という重みが出るんですよ。


興味のある方はどうぞご覧になって下さい。

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