第三十八回目の今回は市川雷蔵主演『大阪物語』(昭和34年・大映)です。
以外にも当サイトではこれまで扱わなかった雷蔵作品。
ひとつ最初のレビューでございます。
では恒例によりまして、あらすじからどうぞ。
水呑百姓・仁兵衛(中村雁治朗)は、妻と2人の子を連れて夜逃げをした。
年貢米を払えぬための代官の催促に耐えかねたのだ。
大坂へでて田の地主・花屋を頼った仁兵衛らであったが、門前払いを食らう。
これで行くところもなし、もはやこれまでと夫婦で命を捨てる覚悟していたところ、
子供たちがどこからか米を拾ってきた。
米俵の荷揚げ場で、俵からこぼれた米を集めてきたのだという。
その晩から一家は荷揚げ場で米を拾っては売り、拾っては売りで生計を立てていった。
十余年がたち、その間ずっと米売りで少しずつ金をためていた仁兵衛一家は
近江屋という両替商を営むほどになった。
店を一件持つほどの余裕が出来たのだが、少しの金も惜しんで身代を作り上げたためか、
仁兵衛は守銭奴さながらのケチになってしまっていたのだった。
ある日仁兵衛は建築中の家に立ち寄る。廃材を家に持ち帰り、炊き付けにしようというのであった。
家に入ると2階から老婆が降りてきた。
話してみるとこの老婆は油問屋鐙(あぶみ)屋の女主人・お徳(三益愛子)で、
このお徳もケチで名の知れた人物であった。
すっかり意気投合した2人はそれぞれの子をめあわせることにする。
子とは、仁兵衛の娘・おなつ(香川京子)とお徳の息子・市之助(勝新太郎)らである。
しかし、おなつは近江屋の番頭・忠三郎(市川雷蔵)と言い交わした仲であり、
市之助にしても新町の遊女・滝野(小野道子)と駆け落ちの算段をしているところであった…。
上のあらすじを読んでみると本当は市川雷蔵でなくて中村雁治朗が主役なんじゃないかと思ってしまいますね。
そうなんです。作品自体を見ても雁治朗が前面に出てきて雷蔵は中心でない感じなんですね。
私も最初に見ているときは雁治朗を主役と思って見ていまして、
これを書くための確認の時点で雷蔵が主役だったんだ、としったという次第。
キャストの一番最初に出るんだから主役なんでしょう。ということでひとつ。
それでですね、この作品の原々作は井原西鶴ということになります。
といっても井原西鶴に『大坂物語』という著書があるわけでありませんで、
皆さんの中にも古典で習った人もあるかもしれませんが、
『日本永代蔵』や『当世胸算用』、『萬の文反古』といった作品から
いろいろと溝口健二がエピソードを拾って話を組み、脚色したということです。
ですからスタッフロールとしての原作は溝口健二と書かれております。
で、本来この作品は溝口監督がメガホンをとって製作される予定でした。
しかし図らずも監督が急逝されたため、同社の吉村公三郎が監督をしました。
溝口健二追悼作品となったわけです。
前置きはこのくらいにしてそろそろ内容に入っていきましょうか。
やはりなんといってもこの作品で取り上げるべきは、仁兵衛の守銭奴ぶりです。
ようここまで描けるものだと思うほどバリバリの守銭奴です。
例えば、作中の近江屋は両替商のほかに副業として茶屋を営んでおります。
団子やなんかを出す方の茶屋でなくて、お茶の葉を売る方の茶屋ですね。
売り物の茶にですね、出がらしのお茶を乾燥させたのを加えてカサを増す。
家々を周って使ったお茶の葉をタダで貰ってくるんですね。
それを庭先で乾かして、新茶と混ぜて売ってしまうわけです。
他には、お正月の餅ですね。
小僧さんが餅屋からつきたての餅を買ってくる。それを見て叱るわけです。
つきたての餅というのは同じ重さのそうでない餅と比べて、水を多く含んでいるだけ損をする。
ちゃんと乾いたのを買ってこんか!というところです。
こういった、ケチだのなんだのという言葉で形容されることですわね。
一番凄いのがもうラストですね。
仁兵衛と喧嘩をして息子(林成年)も娘も出て行ってしまう。
家族のいなくなってしまった仁兵衛は倒れてしまいます。
病床で考えます。
「わしが死んだらあの金は誰のもんになるんや。」
考えてしまったんです。
「誰にもやらん、金は全部わしのもんや。だれにもやらん。」
床から飛び起きた仁兵衛は金蔵へ走ります。
蔵の中へ入り、鍵を閉めてしまいます。
「誰にもやらん、わしの金じゃ。」
千両箱の山の前でとうとう発狂してしまう、というシーンです。
ここは凄いですよ。
金の持つ魔力、人に憑く恐ろしさを雁治郎が見事に演じております。
この作品最大の見せ場ではないでしょうか。
最後にふれておきます。中村玉緒。
この作品には小野道子と同じ遊女として出てまいります。
林成年演じる近江屋の倅といい仲になる役どころ。
なんでしょうねえ、年月というのはこうも人を変えてしまうのでしょうか。
そういうものなんでしょうね。
といったところで今回はお終いです。
機会があったらどうぞご覧になってください。