今回は『武士は食わねど高楊枝』。
普段の実入りだけでは食べていけないお侍さんに焦点を当ててまいります。
中でも今回は内職(副業)を見ていきましょう。
・傘張り
皆さんご存知、傘張り浪人です。
『傘張り』はお侍さんの内職の中でも、もっともポピュラーなものですね。
よくテレビで見るのは、傘の骨組みに紙を張っているシーンだと思います。
見ての通り、「傘を張っている」わけですね。
しかし、傘の骨自体を作っているシーンというのはめったに出てきません。
では、あの骨組みはどこから調達しているのでしょうか。
実は、浪人が張っている傘の骨組みは大部分が「中古品」なんです。
入手先は調達しているのは屑屋さんです。
屑屋さんが長屋なんかを回って、抜けた桶とか割れた茶碗なんかを集めます。
その時、破れてしまって使えなくなった傘も集めています。
そして、そういったものを問屋に持っていって、きれいに骨だけにします。
その骨を傘張りをする浪人が買ったり、傘張りを請け負ったりして
あのように張っているわけですね。
・用心棒
これも有名なものです。「先生!」なんて呼ばれているやつですね。
腕っぷしに自信のある侍が、つてを頼って用心棒の口にありつきます。
内容は大体の場合、現在でいう警備員です。
この仕事は結構割りのいい仕事だったようで、人気もあったようです。
住み込みの場合もあったりして、いい仕事だったようです。
・盆栽作り
これまで述べてきた仕事はいわゆる「浪人向き」のものでしたが、
今度は「旗本・御家人」という、れっきとした幕臣がやっていた内職です。
幕府に仕えているのに内職なんか必要なの?
と思われる方もおられるでしょうが、必要なのです。
旗本でも、○○奉行などという役がついている人はもちろんそんなことはありませんが、
小普請組という無役の人たちは収入といってもすずめの涙です。
ちなみに小普請組とは、何か普請があるたびにお金だけとられる、そういう役です。
その上、とりあえず旗本という体裁を整えるために、家臣も雇わねばならないので
家計は火の車です。そこで、内職に走ってしまいます。
その中でも代表的なのがこの「盆栽」です。
松、梅、つつじなど色々な盆栽を育てて植木屋などに買い取ってもらいます。
趣味ではなく大事な収入源ですから、その数も1鉢や2鉢ではありません。
また、屋敷ごとにばらばらな種類を育てているのではなく、
地域ごとにある程度まとまって同じ植物を育てていましたので、
花なんかは季節になると、見物だったそうです。
・作家活動
これは内職というよりも副業といったほうがいいかもしれません。
生活に困って無理に行うというよりも、趣味としてやっている場合もあります。
こういうことをする(できる)のも小普請組の人々です。
小普請というのは前述したように、とりあえず何かあった時にお金だけ出せば、
ほかにすることもない役ですから、時間ばかり余ります。
『旗本退屈男』という作品もあるように、退屈なんですね。
「お金があるので旅に出よう。」と思っても、旗本というのは常に江戸にいて、
有事に備えるのが本分なので、めったなことでは幕府の許可が下りません。
江戸の町をふらつくといっても、時代劇のように自由には行きません。
ですから、本当にすることがなかったのです。
暇があって、金もある。という状態ですね。
旗本兼作家で有名な人を挙げると、柳亭種彦があります。
『偽紫田舎源氏』という黄表紙を書いた人です。
(高校の古典の端っこのほうに名前だけ載っていると思います。)
この人は200石の旗本で、無役小普請でした。
ちなみに『偽紫田舎源氏』は13年間連載されたベストセラーでしたが、
当時の「天保の改革」に引っかっかってしまいました。
内容に、将軍の大奥での女性問題が書かれていた為ということです。
がっかりした種彦はその数ヵ月後に亡くなられたそうです。
今回は、「お武家さんの手内職」と題して、侍の内職・副業についてお話しました。
偉いお侍さんでも色々お金には苦労したわけですね。
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