テレビ見聞話第五回はコラム「悪役を語る」です。
時代劇に限らずどんなお芝居でも、悪役がしっかりしているからこそヒーローが引き立つのです。
今回はそんな悪役を演じる俳優に焦点を合わせて行きます。
まずは下の図をご覧ください。
まずはこの図の説明からまいりましょう。
「悪代官・幕府高官型」
これは俗に言う悪代官および作事奉行などの武士の中でも身分のある役をさします。
「やくざ・二足の草鞋型」
宿場に巣食うやくざの親分とその子分、チンピラなどをさします。
二足の草鞋をはいて十手持ちをしている親分や悪徳目明しも含みます。
「商人型」
いわゆる「越後屋」です。
『山吹色のお饅頭』を代官の元へ持って行く役どころです。
「侍・用心棒型」
よく、「先生、お願いします。」といわれている人たちです。
食い詰め浪人であったり、邪剣を使うの剣豪だったりします。
【悪代官・幕府高官型】
・川合 信旺
酒好き、女好き、明朗悪代官といえばこの人でしょう。
『ナショナル劇場水戸黄門』に悪代官として登場した回数が最も多いのもこの人です。
目、鼻、口どれをとってもつくりが大きく、それを乗せている顔も相当大きいものです。
悪代官の鑑といっても過言ではないでしょう。
・名和 宏
こちらは川合さんとは違って冷酷な悪代官です。
酒なんかよりも、金そして出世。そのためにはどんな酷い手も厭わない。そういう代官です。
顔は大きいのですが、しっかりしまっていて、その眼光の鋭さで老中の座を狙っています。
怖い顔です。
・金田 龍之介
この人は陰湿明朗どちらの役もこなされます。
最近では、悪役ではありませんが数年前の「葵徳川三代」で南光坊天海を演じました。
なんといってもよく肥えていらっしゃいますので、迫力があります。
・菅 貫太郎
幕府高官というよりは圧政暴君大名とでも言いましょうか。
おなかの中は真っ黒で、何を考えているのか分からない。そういう役を演じられます。
また、用心棒や剣客を演じられることもありますが、
そういう時も、陰にこもった裏の剣なんかを使われます。
私が覚えているのは『新吾捕物帳』の時の「邪剣・左逆手」です。
【やくざ・二足の草鞋型】
・松山 照夫
チンピラ役をさせたら天下一品です。 親分さんとこの子分が多いですね。
番組の冒頭で格さんに蹴散られる役です。
顔付きが小悪党そのままで、
・黒部 進
初代ウルトラマンで有名な人です。
時代劇ではやくざの子分、それも本当に三下です(役名がつかないことも)。
あまり目立った役はされません。まぁ斬られ役ですね。
・藤岡 重慶
この人は一段上がって、親分格を演じられます。
謀略をめぐらすというよりは粗野で乱暴な親分です。
・汐路 章
こちらも親分です。
恐ろしい顔つきと、ドスの効いた声は親分の凄みを一層引き立たせます。
ちなみに、映画『蒲田行進曲』の階段落ちはこの人をモデルにしたという話です。
・江幡 高志
小悪党を演じさせたら松山さんの次に位置する方です。
チンピラから、やくざの三下まで子分役なら何をやらせてもうまい方です。
この間の大河ドラマ『新選組!』にも「ひも爺」の役で出られたそうです。
・田口 計
やくざの親分というよりは、悪い目明し役が多い方です。
太い眉毛とその下にある目玉が雰囲気を出しています。
【商人型】
・嵯峨 善兵
悪徳商人ならなんといってもこの人です。
大きな大きな顔の中に、小さな目が存在するお爺さんです。
その小さな目が、お代官様の前ではそりゃもう猫をなでるがごとく。
か弱き百姓の前では冷たく鋭い目に変わります。
『山吹色のお饅頭』が最もよく似合うのもこの人です。
・中田 博久
その倅です(笑)。何故かいつになっても嵯峨善兵の店の若旦那役です。
よく、父親に金を貸りている吾作(仮名)の娘お花ちゃん(仮名)あたりに横恋慕します。
そして、借金のカタに取ろうとします・・・。
そこで、吾作(仮名)のところに偶然世話になっている黄門様に懲らしめられますな。
そういう役です。
むかし、『キャプテンウルトラ』というヒーローもので主役をやっていたこともあります。
・遠藤 太津朗
「うしゃしゃ」と笑う商人。
大川橋蔵の『銭形平次』では平時のライバル「三ノ輪の万七」親分を演じられていました。
・加藤 嘉
因業大家といった感じでしょうか。
しみったれで奉公人に厳しすぎる旦那の役が多い人です。
・南原 宏治
商人型とやくざ型の中間地点に載せました。
というのも、この方に対する私のイメージが「盗賊の首領」だからです。
日頃はどこぞの旦那の風体をして、裏で手下を操っているという感じです。
鋭い眼光で凄みのある役者さんでした。
【侍・用心棒型】
・福本 清三
用心棒と行ったらこの人をおいて他にはないでしょう。
「先生、お願いします!」の言葉でゆらりと出てくる怖い顔。
そして斬られる姿の見事なこと。
斬られ役でやってこられた方ですが、
刀の遣いかたや足の運び方などもその辺の主役級よりもお上手でいらっしゃいます。
先年、ハリウッドの「ラストサムライ」にも出演されました。私はまだ見ておりませんが。
・天津 敏
水戸黄門最強の刺客と名高い「鉄羅漢玄龍」を好演した人です。
上手く湿ったその声と、大きな体は迫力において他の追随を許しません。
・成田 三樹夫
スマートな顔立ちの方で、時代劇に限らず現代劇でも活躍されます。
印象深かったのは『江戸を斬る・梓右近捕物帳』の時の「由比正雪」です。
あの少し西洋がかった顔と、由比の総髪が見事にあっていました。
また、水戸黄門第三部の「柘植の九郎太」でも冷徹な刺客を演じました。
・睦 五郎
用心棒とか言うよりは、代官所や奉行所の与力の役が多いように思います。
いわゆるナンバー2、軍師の役どころです。
【総括】
冒頭でも述べましたが、悪役の良し悪しで主人公の映え具合も違います。
素晴らしい殺陣も、斬られる側の見事さによって更によく見えるのです。
そこに悪役の存在する意義があるのです。
最近はどうもあくの強い悪役がみられないように思います。
複雑な事情が絡んでいて、半善人のようなのが増えてきて。
一度、とことん悪い、どこまでも悪い悪役というものをやってほしいものですな。
お読みになられて、「この人を忘れているぞ!」とか「この位置はおかしいのではないか?」
などご指摘がございましたら掲示板にでもお書きくだされば幸いです。
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