なまこと私。

冬の味覚の王者はなにか?
その人の育ちや環境、成長過程で嗜好は変わるものである。
俺は海辺の育ち、戦中派の親のもとで育った。
親父は肉より魚が好きな男。
母親は魚を完璧に、さばき、調理の出来る女。
地元は毎日、完璧に魚の供給の出来る海辺。
そんなわけで、魚は我が家庭内で権力を誇った。
肉はどうか?
子供達は肉が好きだ。
刺身で飯が食えるか?と考えながら刺身を食った。
焼き魚、煮魚は飯が食えるアイテムだと渋々、承認した。
冬は海鼠(なまこ)が権勢を誇っていた。
これは大根おろしと混ぜたもの。
後年、俺も自覚するのだが、海鼠は日本酒に良く合う。
関東以北では、その地位は「ホヤ」ではなかろうか?
しかし、いかんせん、子供の俺だ。
飯のおかずになる、ならないは別にして好きになったのは高校以降か?
食感が好きになったのだ。
海鼠の真骨頂たる内臓「このわた」が好きになるのは、まだ後だ。
なまこにはグレードがある。
赤海鼠と青海鼠である。
赤鬼と青鬼ではない。
まさに、見た目で赤い斑点の多い赤海鼠、全体的に青い青海鼠。
値段は赤海鼠のほうが高い。
柔らかいからだ。
しかし、我が大家族ではもっぱら青海鼠。
安いからだ。
だから、海鼠は固くて、ガジガジ咀嚼するのが醍醐味だと思っていた。
アジト第一期生活でオプション(俗名・嫁)と暮らすようになった。
赤海鼠の存在を知った。
そして
海鼠とは損耗率の高い食材であることを知った。
海鼠は丸のままで買ってくる。
こんなに食えるか?というボリュームだ。
しかし
包丁を入れると水が出て、20%位に萎縮してしまうのだ。
うわ、ちっちぇ〜。
ここから、背を開きコノワタを抜き出す。
コノワタから包丁の背を使い、慎重に砂を出す。
コノワタは完成だ。
ちっちぇーなまこを薄切りする。
ぬるぬるして難しい。
そうして、なまこは俺を幻惑の世界に誘うのだ。
日本酒と共に。
さて、子供達が成人した実家での海鼠環境はどうなったか?
最大競争倍率は「コノワタ」に集中するのが道理。
と、思ったが、家庭内宴会時などの優先権を俺は握った。
なぜか?
他の兄弟は「コノワタ」は苦手らしい。
日頃、実家に帰るたび「海鼠食わせてくれ〜」と叫んでいた
俺に軍配は下ったのだ。
かくして、我が一族で大の海鼠好きとして親戚縁者にまで
その称号を知らしめた俺である。