潜入 SL出発式を追う
今回のミッションは報復戦である。
このことを書くと、私の所在地が分かってしまうがあえて書く。
毎年、SLは3月第三週から秋口まで運行される観光資源である。
この最初の日に出発式を行う。
これがコンペなのだ。
県内のイベント会社や広告代理店に依頼が来て、お金の安いところに決まる。
3年連続でうちの組織が取ってきた。
今年はそれに負けた。7350円の差で。
この屈辱を来年にはらすべく、またノウハウが錆びないよう、偵察に行ったわけである。
大したミッションではない。
議事進行の記録と、看板類、音響装置の配置などをデジカメに撮影するのだ。
メモを取れるところはメモを取りながら。
と、ここで話はコンペに戻る。
出資者は沿線市町村とJRからなる「委員会」である。
役場というところは責任の所在を曖昧にしたいからなのか、すぐに委員会を作る。
で、窓口は県の観光課の兄ちゃんだったりする。
コンペの案内書には諸元があり、これらをいくらでやりますかってな調子。
ここ大事なので良く読んで欲しい。
「音響装置 スピーカ×4、有線マイク2、花束、ステージ、テープカット」
これが主な諸元である。

7350円の差で負けた我が組織、そして参加各社は、どこがいくらで取ったのか?を「委員会」に問いつめた。
ある会社が開示された。
こんなことは以前にはなかったことだ。
さすがに週刊文春で「暇なお役所」グラビアを飾って綱紀粛正されたか?
そして当日を迎えた。今回のオプションはうちのちびっ子(4才)。
もう一つのオプション(俗に言う嫁)がパート勤務で俺が面倒を見なければならなかったからだ。
このちびっ子は絵が好きで、SLを絵にすると言い、スケッチブックを装備している。
こういった偵察作戦ではちびっ子オプションは実は有益である。
なぜなら撮影禁止の区域でもちびっ子を撮る振りをして、ターゲットを補足できるからだ。
このことは映画「RONIN」(ジャン・レノ主演。俺は途中で見るのを止めた)で学んだ技である。
実際には鉄道マニアがテキトーにいてくれたので、ちびっ子オプションなしでもイケた作戦だった。
結論を書く。
諸元「スピーカ4」は守られず、2本だった。
それじゃ〜、7350円位どの会社でも負けまんがな!とツッコミを入れるところだ。
何してるんだ「委員会」!
所詮は素人の集まりである。異動があるのでノウハウの蓄積ってもんがないのだ。
怒りを抑えながら看板の撮影、関係者の撮影、進行のメモを取り、一通りの任務を完了した。
俺はメカが好きだ。今回のSLは昭和14年製のC56。昭和14年製てのが泣ける。
ただ出力が弱いらしく、後ろにディーゼルカーをつけた重連でのお目見えだ。
これも初めて見た。さて、手入れされた機関部では炎が燃えさかり、車輪付近からはスチームが沸き上がる。
そして時として、得も言われぬ汽笛(これが本当の汽笛だ。電化された今の列車はブザー)が腹に響く。
まさにスチーム・ロコモーションたる所以だ。
機関車トーマスなんてものじゃない。
年季から言って、機関車・権左右衛門といった風情。
さて、オプションのちびっ子はどうしたか? 俺が撮影している後に付いてきてはいたが、SLが入線すると
SLのフロント部が見える場所でスケッチを本当に始めた。
これでは、俺の作戦に支障を来す。
いくら、このちびっ子が「お父さん嫌い」とか「猫を飼ってはいけません」とか言う「おじゃ魔女」であっても。
独りにしておけない。
SLに昔、轢かれたカメラ少年もいたと言うし。
スケッチしているのはこのちびっ子だけである。
あとはめいめいが機関車の前で記念撮影である。
ちびっ子は前からSLを見ているのに、描いた絵は横から見たSL全体。
しかも敷石まで書き込んでいる。
「片岡鶴太郎の初期の作品だ」と言ったら売れるんじゃねえの? と思ったが、親馬鹿だろうか? 
自分ではバカ親だと思っているのだが。
言葉の置き換えでこうも印象が違うという一席でございました。
おあとは、こう締めるべきだろう。
「いいんかい?」
SLを模写するオジャ魔女
2004年3月20日 撮影