「ちゅっ」  ( By.HANABUSAさん )




あ〜、今日もおそなってもたぁ・・・
ま、ええかぁ、腕っぷしのええ居候もおるしな〜。
留守番の心配せんでええわなぁ。観鈴もおるしぃ。
夜風が、酔い心地に気持ちええなぁ〜。

・・・どんがらぐわっしゃん!!・・・

あ〜、また納屋に突っ込んでもうたぁ・・・
「あ、お母さん、帰って来たよぉ」
「おい、晴子、無事かぁ」
観鈴と往人が納屋を覗きにきよった。
「うちは何ともないでぇ・・・」
往人がうちの手ぇ握って引っ張り起こしてくれる。
目つきは悪いが、根はええ奴やねん、こいつ。
せやから観鈴の遊び相手頼んだんやけどな。
そのまんま、酔ったうちは、往人の身体にからみついて、
「なぁ、家に連れて入ってぇな」と甘える。
「しょうがないな、ほら、大丈夫か」と両脇に往人と観鈴を
ぶら下げて、違うわ、両脇から支えられてやな、家に入る。

うちは、ぺたん、と座敷に座って、往人と向かいあう。
観鈴は自分の部屋に行ってもうた。
当然、二人の間には、一升瓶がドンっとある。
「あんた、今夜は酒、つきおうてや」
「ちょっとだけだぞ」
「そんな、いけず言わんと、しっかりつきおうてぇな」
「ちょっとだけだ」
「ええやないの、な、お酒、口移しでのましたるよ、居候」
「う・・・居候とは痛い言葉を・・・」
「ま、冗談や、冗談。本気にしたんか〜、スケベやなぁ」
うちは、笑って手酌で一息に飲み干した。
おもろいやっちゃな〜この居候。
扇風機を回しながら過ぎていく時間が何や、ええなぁ。
うちは、ふと思いついて言ってみた。
「ほならな、怖い怖い怪談のコーナーっ!!」
「俺が怖いのは、晴子が酔って無理難題をふっかける事だっ」
「あんた、旅暮らし長いねんから、何かあるやろ」
「まあ、無い・・・事も無いが・・・」
「それ教えてぇな」

あれは・・・金が無くなって、神社の縁側(というのか)で
夜明かししたときだった。
ウツラウツラと半分眠り込んでいたかもしれない。
俺は、突然、身体が動かなくなっているのを感じた。
金縛りという奴だ。神社の本殿の三方を囲んでいる縁側を、
誰かが歩き回る気配がした。
動けない俺の脇をぼんやりと光る人の形をした物が通りすぎ
やがて掻き消えて行った。

「なんや、それだけかいな」
「ああ、それだけだ」
「そいつ、どんな奴やったんや?」
「真っ白に光る髪の長い綺麗な女みたいだった」
「そうかぁ、うちより綺麗かぁ」
「髪の長さは似てるかな。あとはよくわからん」
そう言って、往人は、コップの酒をあおった。
「うちの方が、綺麗て言わしたる〜」
そうしてうちは、口に酒を含むと往人に抱きついた。
なんでか、わからへんけど、この居候に前に質問した
「口移しで酒のましたろか?」
を思い出してしもうたからかもしれん。
「おい、晴子、おいっ・・・・・・よせえ!!」
そして、無理矢理に口移しで酒、飲ましたった・・・
キスなんか、すごぉ久しぶりやった。
「どや、うちの方が綺麗やったやろ?な、な、な」
「支離滅裂ってのは、晴子の事を言うんだな。
 もういい、俺、納屋で寝る。お休み」
「うち、まだ答え聞いてへんで、どっちなん?」
「うるさいな、お休みと言ったろう」
往人は納屋へ行ってしまった。
しばらく、うちは酒を相手にぼんやりしている。
なんでやろ。いけずやなぁ。こんなええ女なのに。
けどまあ、ええわ・・・

うちは、ゆっくり納屋に入った。
「居候、起きてるか?」
「ああ、起きてるぞ」
「さっきはすまんかったな、無理やりで。
 いつも観鈴のこと頼んどるのに、堪忍な」
「別に怒ってない、驚いただけだ」
「あしたからも、観鈴の事、頼むで」
「それは、約束だからな」
「頼むで。ほな、お互い明日もあるし、もう寝よか」
そう言って、うちは往人にかるく「ちゅっ」と
口付けをした。
今回、往人は抵抗せんかった。何でやろ?
「人魚の口付けや、ええ夢見れるで、お休み」
うちは、言い残して納屋を出ようとした。
後ろから声がした。
「晴子、十分、綺麗だよ。お休み」

END

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