手錠とタバコ
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 放課後。
 数人の他校生に絡まれて、俺は路地裏に連れ込まれた。
 相手は5人。こっちは俺と気のあう友人が1人。
 5対2か。そんなに歩が悪くも無い……な?
、と腐れ縁の勇次に目配せして、乱闘は始まった。
 相手の拳をかわしながら、腹を蹴り上げて。勢いが止まったところで殴りかかる。負けじと加勢に加わってきた奴に多少てこずっていると、一人沈めた勇次が手伝いにきた。
「なーにやってんだよ、雅哉」
 勇次がのんきな調子で声をかけてくるのを、見知らぬ不良男の頬に拳をめり込ませながら、
「っ、うっせぇよ! そもそもこいつら、オマエが目的だろ!?」
 怒鳴るように言う。
 そう。こいつらみんな勇次が目当てなのだ。
 俺はただ単に、勇次から『昼食3日分』で手を売って借り出されただけの助っ人に過ぎない。
「はぁ? 俺はこんな不細工な男達、知らないなぁ」
「てめっ、こないだ、こいつらの学校の女と付き合ってただろ? それ関係じゃねぇの?」
「え!? ミユキ? マユ? あいつこんな奴らとも付き合ってたのか? ……変なもんうつらねぇかなぁ」
「…………オマエ、その口の悪さが敵作ってるんだ…」
 そんな事を言い合っているうちに、もう一人路地裏のゴミ箱に突き飛ばして、俺の顔にも一つ二つ擦り傷ができてきた頃。
 パトカーの音が聞こえた。
「おいっ、警察だ!」
 相手のリーダー格の男がそう声を上げた。
 何人かがはっとして顔を上げると、その音はすぐ近くで止まり、数人の警官らしい足音が近付いてくるのが分かった。
「くそっ。覚えてやがれっ!」
 なんて定番な言葉を投げつけ、向こうは仲間を引きずって逃げていく。
 俺も、勇次に目を向ける。
「おい、こっちもさっさと引き上げようぜ」
「そうだな」
 こんなところに長居は無用とばかりに、路地を抜けようとしたときだった。
「うわっ!?」
 突然首根っこを背後から捕まれ、俺は立ち止まる。
 学ランの下に着たシャツで首が絞まり、思わず咽こむ。
 なんだぁ?
 びっくりして振り返り、
「………ッ!?」
 もう一度、息を飲む。
 そこには。


「こんにちは。雅哉君」
 微笑を浮かべた男がいた。
 この世で、上から嫌いな奴ランキングの一位に堂々入賞してくるような、知り合いの刑事だった。
 少年課の刑事で、何かと俺に目をつけてくる男、在原克利。
 齢30前にして、その地位は結構上らしく。なんか有名どころの大学を卒業したエリートだとか、そのくせ柔道は段持ちだとかで所内では一目置かれている。
 聞いた話では、身内に警視ナンタラがいるとかいないとか。
 道端でタバコを吸っていればどこからともなく現われタバコを没収し、夜街に繰り出そうものなら、見計らったように補導員の数が増える。
 全部が全部こいつの仕業ではないにしろ、俺には宝くじに当たらないのも朝遅刻して担任にいびられるのも、この前好きだった女に手痛く振られたのも、全部この男のせいな気がしてならなかった。
 とにかく、それくらい嫌いな男なのだ。
「おーい、雅哉ぁ。どしたの?」
 少し離れたところから先に逃げていた勇次が戻ってくる。
 そして、俺の制服の首元を掴んだままニコニコと微笑んでいる刑事を見て、ぺこりと頭を下げた。
「ああ、在原さん。こんにちは」
 奴も、この刑事の顔は知っていた。二人で何かと世話になっているのだ。だけど。
 ちくしょうっ。こんなときだけ礼儀よくなりやがって!!
 在原はそんな勇次を見ると、
「悪いけど、この子借りていくよ」
 いけしゃあしゃあと、得意の甘い笑顔で言ってのけた。
「雅哉ですか?」
 勇次が少し驚いて聞き返す。
 頼む! これから用事があるとか言ってくれ!!
 そう必死に目で訴えたが、通じていないのか無視されたのか。
「かまいませんよ。もう必要ないですから」
 勇次も負けじと爽やかな笑顔で言ってのけた。
「ちくしょう! てめぇなんてもう友人でもなんでもねーっ!! もうてめぇの喧嘩はてつだわねぇからなっ…………っ!!?」
 喚きたてる俺を、背後から在原が口を押さえて黙らす。
「じゃあ借りていくね。それと、他の人には上手い事言っておいてあげるから、早く逃げた方がいいよ。また今度暇な時にでも事情聞かせてね」
「わ、ありがとうございます!」
 在原の職権乱用しまくった台詞に、勇次は嬉々として去っていき。
 引きずられるようにしてして俺は在原の車に運転席から放り込まれた。


 慌てて逃げようとすると、車は勢いよくエンジンを始動させ、スピードにのって走り出す。
 助手席側のドアはロックがかかっていて、見た目にも高級車を窺わせるその車の、静かなエンジン音に、彼の愛車だと気づいた。
「いったい、何なんだよっ。てめぇはっ!!」
 助手席に嫌々収まりながら怒鳴りつけると、在原は機嫌のよさそうな笑みでステアリングをきりながら口を開く。
「何って、雅哉君を助けてあげたんじゃないか」
「助ける!?」
「そう。あのままあそこにいたら、警察の長ーい取り調べをうけてたよ?」
「う……そ、そんなの逃げられたに決まってるだろ!」
「……逃がさないよ」
 一瞬、誰の声かと思うくらい冷たい声がもれたかと思うと、車は急ブレーキをかけて、人気のない山道に乗り込んだ。
「うわっ!」
 急なブレーキでフロントガラスに飛び込みそうになったのを何とか押しとどまる。
 それから、一言荒い運転に文句を言ってやろうと思い顔を上げた瞬間。


―――カチャリ。


 手首に冷たい輪っかがはまり、俺はギョッとした。
 それは、紛う事なき銀の輪。………手錠だった。
「っ!? な、なんだよっ!」
 びっくりしていると、手錠の片方が車の天井付近の取っ手に回され、別の手にはめられる。車が急停止してからほとんど間を置かないうちに、俺は両手を吊り上げるように固定されてしまった。
 勿論やったのは、在原だ。
「離せっ!」
 驚いて在原にがなりたてると、そこには。
「!」
 今まで俺に見せたことのない、冷たい双眸の在原が、じっとこっちを見ていた。
 思わず、背筋に汗が伝うくらい、ゾッとするような両眼。
 警察官らしい鋭い光に、悔しいけど一瞬怯えて、俺は逃げを打つ。
 けれど、すぐ背後のドアに阻まれて、それもままならなかった。
 在原が口を開く。
「どうして、喧嘩なんてしたんだ」
「ど…どうしてって………向こうが勝手に……」
 思わず途切れがちの返答を、途中でかき消すように、
「以前喧嘩したときに、もう止めるようにって言っただろう?」
 静かに言いながら、在原が俺の制服の胸元に手をかけた。
 何をされるのだろうと思って見ていると、律儀に制服のボタンを外し始める。
 ただならぬ気配に体を身じろぐと、在原はちらりと俺を見上げて、勢いよくその下に着ていたシャツを捲り上げた。
「なっ!?」
 素肌が露になり、ぎょっとして相手を見る。
 そんな俺の視線に彼は気をよくしたように一瞬口元を歪めると、そっと身をかがめて俺の胸元に口を寄せた。
 いや、胸を…乳首を舐められた。
「ぁっ…な、何、して……」
 不自由な姿勢でそんなところを舐められるのなんて勿論経験がなく、思わず上ずった声が漏れる。
 けれど、暴れようにもチャラチャラと金属音が上から落ちるだけで。
「やめっ……変なこと、すんなっ!」
 思わず怒気を含んだ声に、
「…………タバコの匂いがするな」
 在原の低く冷たい声がかぶさり、俺はぎくっとした。
「タバコも止めるように言ったはずだけどな」
「ッ………す、吸ってない……」
 苦し紛れの俺の言い訳なんて鼻っから聞く耳持たずといった感じで、在原は慣れた手つきで俺のズボンのベルト引き抜いた。
 そこまできて、俺はようやくこの男に何をされそうになっているのかに、気づいた。


「や、やめろよっ! やめろっ!!」
 暴れる俺を物ともせず、下着ごとズボンを抜き取られ。
 恥ずかしがってる場合もなく膝を曲げて、足を振り上げて暴れる俺を器用に押さえつけ、両足を左右に割り開き、身体を割って入らせる。
「け、警察がこんなことしてもいいのかよっ!」
「聞き分けのない子供には多少荒療治が必要だと判断したんだ」
 にやりと笑い、在原は再び俺の胸に顔を下ろす。
 片方を舐められ、甘噛みされ、もう片方は空いた指で痛いくらいに捻り上げられる。
「っ……、い、痛っ!」
「痛くないと、自分が悪いことをしたって事に気付かないだろう」
「いっ……だって、今日のは、俺が悪いんじゃないっ!」
「喧嘩自体が悪いんだよ」
 聞き分けのない子供に言い聞かせるように、胸を離れた口は、僅かに唾液を帯びたまま、急に俺の口を塞いだ。
「んぐぅっ!」
 深く口を覆われ、熱い舌が縦横無尽に口腔内を陵辱する。
 逃げようとすると、口の端の、喧嘩でできた傷を舐められ、背中にびりびりとした痛みが走る。
「やめっ……っ、こんなっ……ぁっ!!」
 キスで攻め立てられていると、在原の手が俺の自身を直接握ってきた。
 やわらかな部分を、普段男なんかに触られたことのない部分を触られ、驚くと同時に、巧みな手腕に体が強張る。
 あやすように握られ、大きな男の手で上下に擦られれば、若いそこは一もにもなく熱を滾らせ始め。
「うっ……いやっ……さわんなっ」
 身を捩って拒絶すると、在原の手は今度は素直に引いた。
 そして、膝の裏に手を差し込むと、片足を勢いよく抱え上げ。
 在原の眼前に自身だけでなくその奥の閉じ窄まった部分も晒され、嫌だ嫌だと手錠の鎖だけがいっそう音を立てる。
「女と遊んでいるみたいだけど、ココは未使用みたいだな」
 からかう様に言いながら、在原の指がぴたりと、後ろに添えられる。
「っ……ひっ、んなとこっ……触るなっ!!」
「どんなとこ?」
 口の端に笑みを浮かべて、人差し指を舐めて濡らすと、在原はゆっくりとそれを俺の尻の穴に突き入れてきた。
「いっ……いぁぁっ!」
 ピリッとした痛みと、内側を押し入る指の動きに、思わず声が上がる。
「やっ、やめ……抜いてっ」
「抜いていいのか?」
 付け根まで押し入れた指を、在原はクスクスと笑いながら、今度はゆっくりと引き出す。
 わざとゆっくりと、時間をかけるようにして、
「あっ、ああっ……ぅッ」
 全身に力が入り、その排泄感に似た感じに堪えていると、在原は作ったような口調で「抜けないなぁ」なんてほざくと、また深く強引に指を沈めてきた。
「やぁぁっ!」
 二度、三度とそれは繰り返され、その指の動きは次第に滑らかになってくる。
それと同時に、自分の中に得体の知れない熱がわき、俺は怯えて顔を上げた。
「いたっ……くるしぃ……やめっ……そこ、やッ」
「ん? なんだ。言う割には大丈夫そうじゃないか。指、増やそうか?」
「やめっ!! やめ、やだぁっ!!」
 笑い声と同時に、指が更に一本増やされる。
 ようやく慣れたそこは、また痛みに悲鳴を上げ。
 けれど、そうこうするうちにすぐに、またさっきの熱が奥からジワリと沸いてくる。
「ッ……なっ……も、そこ…変っ…」
 ガチャガチャという鎖の音と、俺の荒い息遣い。それと同時に濡れた音が下から漏れるのに時間はかからず。
 そんな俺を満足そうに見て、狙いを定めたように内壁のある一点を指が突いた瞬間、俺の意に反して一段と高い声が漏れた。
「っ、あああっ!」
「いい声だ」
 いやらしく在原が耳元で囁いてくる。
 その間も指がそこを撫で、擦り上げる。
 たまらない刺激が俺の中をぐるぐる回って、中心に集まってきた。
「っ……も、やっ、だっ……あ、ああっ」
「ああ、本当に。ここ、そんなに触ってないのに、凄く濡れてる」
「ひぅっ」
 白みがかった液を知らず尿道から流していると、在原がそれを指先で撫で上げた。
 けれど、在原が触ったのはたったそれだけで。
 あとは胸を舐めたり、奥の抜き差しを激しくしたりで、そこに触れるのを避けている。
 奥を抉られ、熱だけがどんどん自身に集中するのに、そこには一切の刺激がないから、絶頂は近くて遠く。
 喘ぎというよりも嗚咽に近い声の中。
 俺は懇願するように搾り出した。
「もっ……前、……触って…!」
 俺の必死の訴えにも在原は意地悪く、
「触るなと君が言ったんだろう。これはお仕置き何だから、後ろだけでいきなさい」
 そんな言葉を残酷に告げる。
「ん、なのっ……無理っ」
 前立腺への刺激は初めてで、強すぎるのか微妙にはぐらさかれているのか、自身が絶頂に至るには足りない。
 たまらず腰を在原に擦りつけるように動かすが、それすらも駄目だと言うように体を離され。
 俺の頬を涙が伝う。
 あと、もう少しなのに。それで、いけるのに。いけない。
 そんなむず痒い、ギリギリの感覚が俺の涙腺を壊し。
 ボロボロと涙をこぼして泣きながら喘ぐ俺に、在原の囁きが近付く。
「どうしたんだ、君らしくない。泣いたりして」
「っ……だ、って……ぁ、も、もう……ッ……ねがっ…」
「じゃあ、喧嘩はしないかい?」
 ずるりと指を引き抜かれて、俺はガクガクと首を振った。
 在原が笑う。
「タバコも、吸わない?」
「す、わな……からっ……頼むよっ……もぅ。ああっ」
「じゃあ、許してあげようね」
 もう一度深く指を入れられ、前立腺を押される。と同時に、前を在原が口で覆った。
「っ、あ、あああああっ!!!」
 舌が俺のものに絡み付き、ぐっと吸われる。
 それに合わせるようにして、俺は濃厚な蜜を吐き出していた。



 数日後の放課後。
 在原に言われて仕方なくタバコを辞めガムを噛んでいると、あの日俺を置いて逃げた悪友が、ニコニコしながら近づいてきた。
「何だよ。なんかいいことでもあったのか?」
「いや、それがさぁ。俺に付きまとってたあいつら、在原さんが全部まとめて厳重注意だとか色々してくれたみたいでさ。もう、俺の回りスッキリよ。在原サマサマだね」
「ああ………そう」
 もう、在原の名を聞くだけで誰彼構わず殴りかかりたい衝動に駆られる。
 だけど、あの日以来三日と開けずに在原がやってくるのだ。
 顔や手に傷でも作った日には、今度はどんなことをされるか分からなかった。
 悔しくって腹がたって、行き場の無い怒りをタバコで紛らわせることもできなくて項垂れていると、一人機嫌のいい勇次が今気付いたといった感じで聞いてきた。
「そう言えばお前、タバコ辞めたんだ?」


 教室中に俺の罵声が響いた。



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何に困ったって、題名に困りました。
元題名『淫猥刑事にご用心』はもう、心臓が痛くなるので。
題名変えました。
その他は加筆少しです。