選ばれし者






無言のまま重たい空気を感じる。

微笑ましかったアルミオンたちに比べて、この二人はやはりというべきだろうか。

フィーナは瞬きもせずにひらすら前を進むしシオンは何を考えてるのか地面をぼーっと見ながら歩いてる。



「なぁ、ちょっときいてもいいか?」

「なんだ」

ようやく会話が始まった。シオンの言葉からだ。

「俺が夢見を使えるのは、何か関係があるのか?」

今までなんでも内密にしようとしてたフィーナだが、今回ははっきりと答え返す。

「夢見とは神からの知らせだ。夢を通し、神がお前に見せたいものを見せる」

まぁ、神から送られる情報のようなものを貴様が受け取っているんだと短くまとめられた。

だが、フィーナの表情は曇る。

「だが・・・。もう一人、夢見を使える奴がいるらしい」

「あ、もしかしてカルナの王家の・・・ってやつ?」

記憶をめぐらせてフィーナに尋ねる。盗み聞きしたときに、なんだかこんなことを話していたな、と。

「あぁ。まだ16歳かそこらなのに最高指令官の役割にいるらしいぞ」

「最高!?」

つまり、一番偉い指揮官。16歳そこらといえばシオンとあまり変わりはない年齢だ。

「だが・・・」

フィーナのくもり顔は一向にはれない。なんだかよく分からないシオンは、

話を中断し別の話題に切り出すことにした。

「そういえば、リコリスたちは大丈夫かな」

「あぁ。アルミオンがいるから大丈夫だろう。問題はちゃんとアルモンゴラに認めてもらったか・・・だな」

これはリコリスの心配だろうか。そう考えると、なんだかおかしくなりシオンは思わずふきだした。

「何がおかしい」

不満そうにフィーナはシオンを睨む。

「いや、別に」

慌てて笑いを止めた。

「あいつのことだ・・・。きっとあの女を仲間にするぞ」

「へ?アルミオンが?」

長い付き合いのせいで、フィーナは確信を持ってそういった。

リコリスの力は頼りになると見込むだろう。しかもリコリスの目には、何かしらの悲しみに満ちていた。

きっとアルミオンはそれを放っておかない。

「あいつは優しすぎる。だから、私のことも放っておけないんだろうな」

フッと、口の端を持ち上げるだけの笑い。と、いうことはフィーナは・・・。

これ以上は何も聞けなかった。



人里離れたまたまた大きな神殿。しかし、柱がまわりに立ち並んでるだけの単調な神殿だった。

ここにダークマジックストーンがある。

「あれ?ここってモンスターはいないの?」

格好の神殿。野生モンスターならば住み着いてもおかしくはないのだが・・・。

「ここのダークマジックストーンは肉食でな。周りのモンスターを吸収するらしいぞ」

肉食。一気に恐竜のイメージが頭に沸く。漢字の意味的にはフィーナも恐竜なのだが。

しかし、出てきた魔物はやはり典型的な恐竜。ティラノザウルスをそっくりそのままぱくったような魔物だ。

見上げるくらいの大きさ。

だが、これは意外にもあっさりと片がついた。

図体だけで足の遅い相手を仕留めることは、シオンでも簡単だったからだ。

剣が恐竜を突き刺し、ダークマジックストーンと共に砕け散る音がする。

あぁ、そういえばこの剣も神に選ばれたものしか仕えないんだったなとシオン。

それでは出会ったとき、片手でこの剣を振り回した彼女も選ばれたものなのだろうか。

「フィーナも神に選ばれたものなのか?」

「何をバカなことを」

あいかわらずの調子だ。

「神に選ばれしものはこの世で必ず一人だ。必ずな。あんな初めの雑魚くらいは3歳の貴様でも殺せるわ」

「3歳の俺でも、ね」

苦笑しながら、オウム返ししたが気になったのはそこではない。



”神に選ばれしものはこの世で必ず一人だ”



では最高指令官だろう彼は何者なんだろう。シオンを更に混乱させる。

「今では私はその剣を扱えないだろうな」

シオンの混乱を裏腹に、フィーナはぼそりとつぶやいた。剣を扱えない・・・?

「普通なら、剣の力が強すぎて持ち主の力量に納まらない。・・・貴様だからできるんだ」

強い力、強い心、そして強い意思。それを兼ね備えた人間であるシオンだけに。

「あ、あはは・・・」

妙な期待を抱かれ、シオンは逆に乾いた笑いを出した。明らかに場違いだが。



「まぁいい。・・・帰るか」

フィーナは踵を返して、きた道を戻ろうとするが、またすぐ立ち止まった。

「ん?どうした、フィーナ」

「まだ帰るには早すぎるな・・・。もうひとつ行くぞ」

「は?」

「魔石の破壊だ」

有無を言わせることなくたんたんと言い切り、あの謎の予言みたいなものを発する。



“悪魔の虹を駆けしとき、新たなる扉を開きたまえ”



「悪魔の虹?そんなものテルタルトにあるのか?」

「いや、普通にないだろッ」

フィーナが不思議そうに問うたが、そんなもの、普通に考えられない。虹に天使も悪魔もあるわけがない。

第一、虹なんて駆けられるわけがないじゃないか。だが、何かきいたことがある。

悪魔のような仕掛けがほどこされた・・・

「悪戯な宝石」

ぽつりと独り言のように呟いた。

「悪戯な宝石?なんだ、それは」

「テルタルトに昔からある橋の名前だよ。七色の。古くからある橋なんだけどなんだか曰く付きだから誰も近づかなくて伝説的な存在だけど…」

なんのためか分からないが、建てられていた橋。渡ろうとする者を妨害するといわれる橋。

「・・・他にそれらしいものもないしな。それに行く。シオン、場所はわかるな?」

「なんとか」

「じゃあ案内しろ」

案内しろ、といいながら先に進むフィーナ。言葉と行動が噛みあってないですよ、フィーナさん。

苦笑しながらシオンも彼女について歩くことに。





あまり長くは歩かないうちに、その悪戯な宝石というものが露わになる。

赤、黄、緑・・・7種の色が鮮やかにならぶ橋。透けるような透明さ。遠くから見たら虹に見える。

そしてなにより印象深いのが、橋が水平に90度回転しているということ。

悪戯な宝石。決して人を渡らせないということがはっきりと分かった。

「これって渡る間に絶対酔うよな」

「まぁ、これだけの距離じゃあ、な」

引きつるシオンと、あいかわらず表情をかえないフィーナ。

「そうだ!フィーナって氷の魔法も使えたよな?」

「あぁ、そうだが」

それだけ言うと2人の意見が一致したようだ。フィーナが呪文を唱える。

「ブリザードッ」

そう叫ぶと同時、あたりの気温が急激に冷めていく。橋全体を冷気で包み込んだ。

あっという間に、橋には氷が張り付き回転がぴたりとおさまった。

悪戯な宝石も、止まってしまえばただの橋。

「さむっ」

「我慢しろ、それくらい」

歩くたびにジャリジャリと氷が音をたてた。鳥肌もたち、とりあえず早くこの橋を抜けたい一心。



ようやく抜けた冷たい橋。言葉どおり、そこにはおおきな扉が立ちふさがっていた。

まるで、王国を守る壁のような大きさだ。

シオンが好奇心半分で、両手で扉を押してみた。びくともしない。もちろん、引いてみてもびくともしない。

「・・・かしてみろ」

見かねたフィーナがシオンを下がらせ、両手に力をこめる。

すると、ゆっくりゆっくり扉が開いていくではないか。

唖然と開いていく扉を見つめるシオン。目が点だ。

「私は仮にでもドラゴンだぞ?こんな小さな体でも本来の力が圧縮されてる状態にあるからな」

ほら、行くぞと固まったシオンを引きずってフィーナたちは扉の中へ入っていった。

石で作られている扉内。今までの魔石の隠されていた場所に比べると異様に大きい。

ダークマジックストーンはどこだろうか。途端に、シオンの額に冷や汗が流れる。

「フィーナ、まさか、あれが・・・?」

彼の指し示したもの・・・それはものすごい大きさの魔石。

と、いうことは自然にこれから出て来る魔物も当然・・・。

2人の前に現れた魔物の大きさは、ドラゴンの3倍というほどだろうか。

亀のような甲羅に包まれたそれが足をあげるたびに地鳴りがする。冗談だろ、シオンが汗を拭う。

「これは・・・明らかにでかいだろ・・・」

「これは小さくはないだろうな。どう見ても」

 シオンは目の前の敵にはちっぽけであるが彼の剣を抜いた。

こっちに払ってきた尾を剣で弾き返す。そして、剣を握り奴の頭を目掛けて飛び掛ったが・・・

キィィンと火花をあげるほどの悲鳴を剣はあげた。魔物は頭を甲羅の中に引っ込め、剣は甲羅に当ったのだ。

甲羅にはひびどころか、傷すらもつかない。また、魔物は手足を出し、2人目掛けて振り下ろした。

「シオン、とりあえずそいつの相手をしてろ!」

「一人で!?」

「あたり前だ」

そういうや否や、フィーナは呪文を唱えだす。シオンは言われたとおり、注意をこちらに引き、懸命に刃を振るう。

弾きかえすことしかできないで、このままでは傷すらもつけられない。なんとか甲羅の中から奴をひきださなければ・・・。

かといってこちらが飛び込めば、袋のねずみ状態というか一発即死じゃないだろうか。

そんな間にフィーナの呪文が完成したようで・・・

「ブリザード!」

さきほどの氷呪文が奴を包み込む・・・が、やはり奴は甲羅の中に身をひそめ、

身体自体に傷を与えることなんかできなかった。だが、フィーナは続けてもうひとつ呪文を唱える。

「エクスプロードッ!」

ブリザードと正反対の灼熱の炎。体の反応がついていけず、シオンのほうが火傷しそうなほど熱かった。

だが・・・。甲羅に隠れていた魔物だったが、悲鳴をあげだしたではないか。

パキンと、音をたて甲羅はボロボロと崩れていった。あれほど叩いても殴っても割れなかった甲羅がなぜ今さら・・・。

「なんで・・・」

「簡単なことだ。氷で一気に甲羅を収縮し、熱で一気に膨張させる。外殻が温度についていけず割れてしまう。

甲羅のない敵なんて、あとはもう敵ではない」

丁寧に説明してくれたが、今はなるほどなんて納得してる場合じゃない。

痛さでもがき苦しむふにゃふにゃな亀が暴れているんだから。

こっちに攻撃してくる前に片付けなければ。

シオンは地面を蹴り、すばやく相手の懐に飛びこんだ。おもいっきり剣を突きつける。

さっきまでは傷すらつけられなかったのだが、今では悲鳴をあげている。轟音をたてて、魔物は地面にうつぶせた。

「はあぁッ!!」

とどめ。シオンは剣をなぎ払い、残撃が目玉を直撃した。

パリンというダークマジックストーンがはじめ散る音までも耳に残るほど大きい。

「お、終わったぁー・・・」

力なく、シオンは剣を鞘へ。と、フィーナを振り返る。

「うわ!フィーナどうしたんだよ!?」

予想もしていなかったため、驚きだ。フィーナの頭からは血が流れている。フィーナは「?」と頭に手を触れる。

あぁ、本当だと納得したようだ。

「大丈夫だ、こんなもの・・・」

「かすり傷・・・ってか?」

「あぁ」

しょうがないな、とシオンはマントをフィーナに渡す。

「血、止まるまでそれでおさえとけよ。どうせ洗えばとれるし。町にいくときに貸さないといけないんだしな」

初め、マントをつき返そうとしたがフィーナは大人しく受け取ったようだ。



それよりもシオンは今まで闇の力、というものを軽くみていたようだ。

今、もしフィーナがいなかったりしたら自分では勝てただろうか。あんな巨大な相手に、堂々と戦えただろうか。

そして闇の力はもっと強い・・・。もしかすると、死なんてこともありえる。

その瞬間、シオンに今までなかった恐怖が生まれた。

この恐怖が後に重大なことを引きおこすなんてこと、今は予想だにしない。

「どうした、シオン。帰るぞ」

「あ、あぁ」

橋の氷は溶けていたが扉の外はもう暗い。フィーナがドラゴンに戻っても大丈夫だろう。



こうしてシオンたちもアリーナの町へと向かったのだった。



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