再び…






水晶の魔窟へ行く。フィーナが言うには、これからはアルミオンの力が

必要になるので自分達に強力してほしいという。

「で、なんでアルミオンはそんな危険なところに?」

しかも一人でなんて。相当強いのか、命がいくつもあるのかのどちらかだ。

「・・・もう少ししたら出発する。それまでに準備をしておけ」

アルミオンのことを一切話さず、フィーナはシオンに背を向けた。

ここで口論してもしょうがない。おとなしく、準備を整えることにした。





「アルミオン・・・。1000年前のことを繰り返さぬためにも・・・」

残されたフィーナは小さな声で呟いた。

誰にも聞こえぬほどの小さな声で・・・・。









「さて、ここからは気を引き締めていけ」

長い距離を歩いてたどりついた目的地・・・。

水晶の魔窟と呼ばれるモンスターの巣。

ここのモンスターが強いのはちゃんとした心理的理由がある。

ここには水の精霊が住み着いているという伝説がある。

その精霊の力が共鳴して、あたりのモンスターの力を増幅させてしまう。

一見するとただのそこらへんにある洞窟なのだが、それは中に入ると一気に覆された。

「うっわーっ!!すっげぇー水晶!」

上下左右、そこをみても透明で薄い白色を帯びた生き生きした水晶が突き出していた。

どれも眩しいばかりの光を放っている。

「はしゃぐな。行くぞ」

感動しているシオンと尻目に、フィーナは水晶と水晶の間を通り抜けて先へ急いだ。

緊張とか、そういう感情を知らないのだろうか・・・。

シオンも見失わないように彼女のあとを追いかけた。

(こけたりしたら、死ぬな・・・)

思わず苦笑するしかない。



「なぁなぁ。アルミオンはなんでここにいるんだ?」

「・・・」

また話さないんだな、とため息をついたシオンだったが今度は違った。

「アルミオンは・・・貴様のその剣の力の増幅を図っている」

振り返らずに、ぶっきらぼうにいわれた。シオンは思わず自分の剣へ視線を移動させる。

このままでも十分強いと思うのだが。大体、こんなところでどうやってするのやら。

「・・・力の増幅ねぇ。このままでもいいんじゃないの?」

フィーナのほうをちらっと見ると、小さく首を振っていた。

「貴様は『アイツ』の恐ろしさをわかっていないんだ・・・」

アイツ・・・。闇の化身、ダークヴォルマ。1000年前、

テスタルトに現れ世界を侵食した・・・。



どれくらい歩いただろうか。水晶を跨ぎ、潜り、かなりの距離を進んだ気がする。

感動したこれらの水晶も今となっては、ただの邪魔な岩でしかない。

と、奥の空間の水晶が異様にまばゆい光を放っていることに気が付き目を細める。

奥の空間――水晶に囲まれた広間――にアルミオンの姿があった。



「あれ?フィーナ・・・達。どうしたの?こんなところで」

あいかわらず、愛想のよい笑みでふたりに話かけてきた。

その彼の手には、あたりの水晶に負けないくらいの輝きを持つ、水晶のかけら・・・。

「お前に頼みがあってな」

フィーナは、アルミオンから目をそらし、兎のような耳をぴんをたてた。

「頼み・・・?あ、ちょっと待って。シオンさん、だっけ?」

アルミオンは、今度はシオンを向かい合う。

「剣を少しかしてください」

「えっ!?」

唐突な、しかも正体不明の彼からのお願いに思わず後退る。

「あはは、大丈夫です。変なことなんかしませんから」

シオンは恐る恐る剣を抜き、柄の方をアルミオンに手渡す。

すると、どこから取り出したのかは知らないが、水晶と同じ様なさまざまな石を持ち出した。

炎が閉じ込められたようないし、琥珀のような石、ありえないくらいの軽さの石・・・。

アルミオンがぶつぶつと何かを唱えると、それらの石は剣へと吸い込まれてしまった。

「はい、どうぞ」

アルミオンは満足げに、シオンに剣を返そうとそれを前へ突き出した。

(どうぞって言われても怖いんだけど・・・!?)

何が起きたのか理解できないシオンは、受け取るのを躊躇していた。だが・・・

「シオン、さっさとしろ」

フィーナの苛ついた声に反射的に素早く剣を受け取った。

「それで・・・頼みって何?」

アルミオンの問いにフィーナの耳はまたぴんと動く。しばらく言葉を選んでいたが

「貴様の力を貸してほしいのだが・・・」

俯いて、言葉を濁しながら彼女は言い切った。

他人の力を借りるのは癪なのか、プライドが許さないのか・・・。

そんな彼女を見ても、彼の様子は変わらず。

「僕の力が必要になったの?」

「・・・いても邪魔にはならない」

正直に、アルミオンの力が必要だと言えばいいものを。

なんてシオンには嘘でも口に出せまい。

それよりもカルナにはあれほど「邪魔だ」と連発していたのに

アルミオンは「邪魔にならない」らしい。

そんなにも強いのか、彼は・・・?

シオンの視線も気にせず、アルミオンは「うーん」と難しい声をあげた。

「時間・・・かかるよ?」

「そんなの承知の上だ」

(時間!?なんの時間!?)

このふたりの会話の中で、ひとり浮いてるシオンはあたふた・・・。



「わかったよ」



案外、あっさりとアルミオンは返答した。

いろいろ謎はあるけれども用が終われば、とりあえずこんな所はおさらばしてしまいたい。

安堵しながら着た道へ帰ろうとしたが、そんなに甘い所ではない。

ここにすみついてる数匹もモンスターが3人を囲みこんだ。

それも鋭い目つきで彼らを睨み、凶悪そうな容貌・・・。思わず身震いする。

「あ、ちょうどいいや。シオンさん、一人で頑張って!」

アルミオンの軽率な言葉にシオンは思い切り咳き込んだ。

「な・・・はっ、一人!?」

こんな数匹のモンスター対シオン一人。死ねというのと同じこと。

「骨は埋めてやる」

フィーナはフィーナで冗談なのか本気なのか縁起でもない事を言う。

シオンは剣を抜き、構える。

と、同時に凶悪な群れは剣を構える敵へと襲い掛かってきた。

覚悟を決めて、というよりは半分自棄になり、シオンもモンスターへ向かって走った。

「鳳凰波ッ!!」

シオンは群に向かって剣を真横に振るった。

すると、剣からは燃え立つ炎があふれ出て、群を燃やし尽くした。

一瞬にして燃え散った奴らは、吹っ飛ばされた。

これ『鳳凰波』は気をためて標的を飛ばす、という剣技のひとつ。

だが、こんな威力の炎が出るほど気をためることなど人間業では無理だ。

気が消えつくしてしまうから。技を使ったシオン自身が一番驚き、硬直していた。

「これが、さっきの石の力のおかげだよ」

アルミオンが、今のシオンの力を見てにこりと微笑んだ。

「さっきの水晶とかは全部、精霊の力が含まれたものなんだ」

一言の説明だったが、シオンもなんとなく理解することができた。

「つまり・・・さっきの石とかで剣の威力が増して・・・あんな炎が出てきたんだろ?」

「ご名答」

アルミオンは軽く頷いた。

「さらに、剣自体の力も上がってるから」

そういわれたので剣に視線を巡らせてみたが、目で感じ取れるものではない。

だが、精霊の石4つ分の力もあがり更に属性力もパワーアップしてるということだ。

なんだかすごい石なんだな・・・と思いつつ、剣を鞘へと戻した。

「まぁ、あとはお前次第だがな」

プレッシャーとなるフィーナの言葉にも、強く「うん」と頷いた。



こうして、あの水晶の魔窟も難なく生還することができたのだった。




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