<目線>

 「新入職員オリエンテーション」定番は、「目線が大事!」。
患者さんは医師だけじゃなくスタッフに遠慮がちがフツーだけど、そらオカシイ。
最終的には「目線を水平に」で閉じるが、私以外にも忘れるヤツが多い。

「センセ、Y施設から患者さんの診察をお願いしますって」
「どうなんよ、どういう患者さんね?」
「朝から熱があって、ご飯も減ってるそうです」

「じゃあ、今すぐ連れておいでって。待ってるよ!」
「あのー、それが・・・患者さんの家族が来るのが遅くて。まだ来られない・・・」

「何イ、朝から熱があって。患者より仕事優先でエエんか。ホンマにエエんか、それで?
 今、午後の4時過ぎやで。エエ加減にせんかいッ。患者を殺すつもりかッ!
 それまで待つ気なら、300年待ったり。目線がオカシイデ」

「ウウ・・・取り次いだあたしにそこまで言わなくても。婦長さーん」
「あ、しもうた。言い過ぎたけど、もう遅いわなー」声が変わって。
「センセ、あんまりキレないように。お願いしますね」に、素直に「ファーい」

 胸の聴診やレントゲンをチェックして、点滴を指示すれば。
「えー、今からですかア。2時間はかかるから、6時過ぎますねー。困ったワー」
「困ってるのは、本人とこっちやで」

「そこまで言わなくても・・・」外来婦長。
「危機管理が蜂蜜より甘いで、目線がオカシイし。全員、反省ッ!
 後は、何かあったら当直医にお任せだかんねー」

 お気楽かますのは想定以下の軽症だったからで、そうじゃなければもっと吠えたかも?
そう言うときは、水平目線は無視して言いたい放題かもー・・・。

<経管栄養の注入スピードは?>

 早飯は芸のうちとも言いまして、高校生の頃は3時限目のあとに20分の休憩時間。
この時間に弁当をやっつけて、ホントの昼休みはしたいことをする1時間。
それが当たり前だったから、弁当は3分から5分で食べるものと決まっていて。

 結婚するときの先輩からのアドバイスは、全部30回噛むこと。
先ずビールで、2杯目から時間を持たして奥さんの進み具合をチラリ。
食半ば過ぎを確認してゆっくりおかず、時間調整が必要ならトイレへ行くのが裏技?

 10時を過ぎる頃のナースステーションは、昼食を注文する電話が定番で。
「花丸弁当にミニカップうどんは、多いやろかー。ご飯少なめで」主任さん。
「どうせおやつを用意してあるんでしょ?じゃったら、うどん無しッ」はブー1号。
「なんか口が寂しいんよねー」ブツブツ主任さん。

「あんたらは早メシ、大食いやからと言って。患者さんの経管栄養注入速度速すぎん?」
「400ccを40分、遅くて60分やろ?ワシが調べたら、うちはやたら速いで。
 遅いところで1時間に100cc、速いところで200ccらしいで。何でやのん?
 経管栄養食品の能書には、1時間に100ccって書いてるけどな。少なくとも2倍や!
 速すぎたら、下痢したり吐いたり。なんかワシの患者さんで、吐く人が多いような」

「でも業務委員会で、それで良いって決まったんですけどオ」
「栄養サポートチームが使ってる教科書は、全然ちゃうで。胃は時速200mlやし、
 腸は時速が胃よりプラス100mlで落とすとか同じでエエとか?ここは語尾上げや。んでその委員会のメンバーは誰?」
「Pさん、Tさん、Wさん、Rさんとあたしかな?」

「全員、体脂肪30%以上ばっかやんか!」
「あたし、ぎりぎり29%」
「そんなん誤差範囲やで。体脂肪とメシの速さは比例する、背脂の法則を知っとる?」
「キャー、どうしよ!」のブ一族3人の悲鳴コーラスに送られて撤収。

「センセ、Pさん今朝から軟便ですけど。お薬は?」まったり医局へ主任さん。
「Pさん、経管栄養やったよな?んで、注入速度はどうやの?」
「40-50分ですねー」に、「全量400mlとか500mlやろ?」

「ハイ、そうですけど」と来るから、「速すぎイ!最低でその倍時間をかけなきゃ」。
「じゃあ、3時間ですねー。全部入れたら。3回で起きてる間ずーっとポタポタ?」
「ハイハイ、ポタポタになりますが宜しかったでしょうかア。
 私の持ってる5つの文献が根拠やけど、あんたは自分のペースが根拠じゃ?」

「花丸弁当3分で食うて、ミニうどん1分処理のヤツと一緒にするか?
 経管栄養せなアカン人は、年齢も運動量もあんたらとはゼンゼンちゃいますよ。
 胃腸の動きが凄く遅いのを、スキマだらけの脳みそにたたき込んでおかなきゃ!」

「センセ。講習会では今のスピードで良いって、それで・・・」
「講師は相撲取りか、ブー1号?何の講習会じゃ、大飯食いや早食い大会?」
「そんな講習会に行って、何の役に立つんですか?」

「その逆で行けば、無駄飯・無駄太り・無駄時間が減るやろ。家には鏡がナインか」
「じゃあじゃあ。センセはビアジョッキ中1杯を、3時間かけますウ?」
「アホ言え、何がじゃあじゃあや!そんなことしたら、半分以上温くなるやんか!
 そんなモン飲むくらいなら、んーと・・・目エ噛んで、死んだ方がマシやで」

「それは楽しそう、やって見せていただけますウ」
「リクエストされればヤランではないが。その代わり、あんたは自分の素足を舐める?」
「そんなことしたら、口が腐るでしょ!」

「お楽しみは取っておいて、今度の栄養サポートチーム委員会にかけるかんね」
「業務委員会が対抗しますけど」
「患者優先か業務優先か?ちょっと考えれば、全員がノータリンでも分かるやろッ!
 どっちが真っ当か、上品か。グイグイ経管栄養なんて、アホなことを言うでないッ!」
「センセって。凄ーくたまには、真面目になるんだ!」
早経管栄養か、まったり(フツー?)経管栄養か。決着は1ヶ月先に。

<研修医指導(2)>

「おろ?この暑さで訪問診療なんだ!ぐっちょり汗かいて。しかも美人研修医だと。
 あ、ワシのタイプやねー。アゴが尖ってて、今風で。MIHIセンセは緊張するから苦手!
 ゴジャゴジャ言わずに行っておいで」ラブラドールの哲っちゃん押されて、病院玄関。

「で、この2週間どうやった?」に、すかさず「ハイ、とっても楽しかったです」。
「記念に、ボクの師匠と仰ぐ人の作品を差し上げます」に「えー、良いんですかア」
「東海林さだおと、土屋賢二は読んだことある?」に、「イエ」はちょい嬉しく。

 Tセンセが後部座席に乗り込む10分前に、婦長さんと交わした会話。
「センセ、今日の採血の半分をTセンセにお願いしても良いでしょ?」
「エエけど、ワシはよう言わんから。泣かれたら、MIHIセンセにセクハラされたなんて。
 あっちの院長の前でサメザメ、ウウウ・・・じゃマズイもんなー」
「まさか泣かんでしょ。お医者さんじゃモン」

「でもな、ワシの娘と同じ年やから。あんまりいじめちゃアカンで!」
「年は関係ないでしょ」
「そら、あんたはエエ歳やから。後ろ姿は、ニューハー・・・」
「はあ、なんか仰いました?」に、「いえ、なにも。あ、Tセンセ」で話題をそらす。

 乗り込むTセンセに「1番は・・・」と状況を解説すれば、
「あ、その方。昨日ホームヘルパーさんと伺いました」もう既に馴染み。
「認知症があるけど、ワシに笑顔が凄く良いんよ」と部屋に侵入すれば。
とっても良い笑顔で迎えてくれたけど、採血した後はプンプンで撤収。

「次は10年以上のお付き合いじゃったけど、訪問診療は今日が初めて」
「あ、昨日訪問しました。ヘルパーさんが、大阪のおばちゃんって」もう既に仲良し。
「ちゃうちゃう、あれは讃岐のおばちゃん」

「でも、関西弁でしたよ」
「あれはコテコテの讃岐弁なんよ、ボクの高校の直ぐ側に住んでいたんよ」
「どう違うんですか?関西弁と」

「讃岐弁は、関西弁+京都弁を足して2で割って。土着語をまぶしたような。
 ワシと讃岐弁で話し出したら、理解できんやろなー」
と言うことで、戸締まりした玄関を迂回して、窓から侵入する3人。

「おーい、来たでエ。往診やー」
「あー、スンマセンなー。こっちこっち」
私を見るなり「嬉しいわア、ウウウ・・・」カン極まって泣き出す讃岐おばちゃん。
(タヌキおばちゃんじゃありません。もしそうなら、あたしはタヌキおやじ?)

「ナカンデエーガネ」(泣かなくても良いよ)
「食欲がノーテナ、なーもホシナインよ」(食欲が無くて、何にも欲しくないんです)
「今朝、ナンクウタナ?」(今朝、何を食べた?)

 このおばちゃんは日中ほとんどベッドで過ごし、口うるさい分だけ家族が遠巻きだから。
方言が通じる私に会うと、止めどもなく讃岐弁が出て。それだけで癒されるようで。
これからは月一回、讃岐弁アワーが催されることになりそうな気配。

 4ヶ所での採血を無事終え、「暑さの中、よく頑張りました!」のひと言。
その後手をズボンで拭いて握手を求めれば、一瞬ためらいつつ手が出る。

<あ、これはセクハラじゃないよね?フツーの握手だかかんね。あくまでも。
 オネガイだから誤解しないでねッ!オヤジ脂は拭ったからネ。ホント>

 頭をよぎるこの焦りと冷や汗で、幕を閉じた初研修医指導。
って言うかア、ただのコーディネーターみたいなア(語尾あげ)。

「では、レポートはメールでお送りします」で、お別れして20分後。
A41ページだけど、しっかり書かれたレポートが添付され届く。
これで私の報告書を付けて、あっちの院長に送れば初研修医指導は終了。

 「現場研修は楽しかった」となると、大学へ帰って丁稚奉公をする気になれんやろなー。
昔の「足の裏の飯粒」「医学博士」の紙切れ1枚は、今じゃ「靴の裏の小石」程度?
取っても取らなくても殆ど差し支えなく、「どれだけ耐えたか?」の証だけ。
学会に入って経験積んで試験さえ通過すれば、学会認定医の方が多少評価が上の昨今。
新しい研修医制度は、大学の人員不足危機を増幅させるのを実感した研修医指導。

<研修医指導(1)>

 研修医の女医さんを預けられて、ご希望通り現場中心と言うことで。
訪問看護・ホームヘルパー・デイサービス・グループホーム・ショートステイびっちり。
真打ち登場は、医師としての在宅支援「訪問診療」となったわけで。

「じゃあ、明日1時10分に玄関で」ブルブルゴトゴト言いながら、10年物の車に3人。
「先ずはCOPDの患者さんやけど、肺気腫やねー。13,4年のお付き合いかナー」
「凄いですねー、長いんですね」に、「HOT(在宅酸素療法)なんよ」

 坂道を上がる中古自動車は、エンジンが苦しそうにうなりを上げ。
ゲホゲホゲホ(ちょっとオーバーですけど)と、咽せそうになったのにはワケがあって。
回転数が上がるとエアコンの勢いも増したようで、前に座った女医さんの髪を通過した風。
ナンか知らないシャンプーの良い香りは、化粧品じゃないみたいだけどオヤジにはキツイ。

 後ろの窓をちょっとだけ開ければ、運転する婦長さんは地獄耳。
「あら、センセ。寒いんですか?」に、「いや、換気」。
「ほのかな熟女と美女の香りが、中年オヤジには厳しいかも」

 そのまま沈黙するわけには行かないし、頭の中で話のきっかけを探し回る。
いきなり「趣味は?」じゃあ、「こいつ、ストーカーか?」と思われちゃ不味いし。
そつのないところで「専門は何に?」と切り出せば、「1年研修して放射線科かも」

 そこで唐突に「じゃあ出身は?」は身辺調査みたいやなーと気づいたときは。
「ハイ、福岡です。ノウガタって言うところで。来年帰ろうかと」
「じゃあ、九大に?」には、一呼吸あって「ハイ、恐らく」。

 ようやく登場は「じゃあ、趣味は?」
「ピアノを少し、あと読書。スポーツは未定」
「一つは深い趣味、あとは幅広くいろいろ趣味を広げると良いお医者さんになれるよ」
「ハイ」(しまった!、趣味を聞くのが早すぎた?ヘンなオヤジと思ったかな?)
「センセ着きました」で救われて、患者さんのお宅へ3人が侵入。

 時間がたっぷりあったから、いつもの倍の時間で気持ちが落ち着く帰り道。
患者さんとの出会いや息子のこと、訪問診療歴18年のこと、100人以上関わったこと。
家にいるときと入院中じゃ、顔つきが違うこと。グダグダ言って無事終了。
「じゃあ、来週レポート提出ネ」

 教えるならやっぱ男が楽だ!と思った研修医指導1週目。特に美人は疲れるゾ!
ミョーなことを言って「あんたアホちゃうか?」に、パワハラで泣かれちゃ困る。

「ウウ・・・、いくらあたしが美人だって、それだけじゃセクハラもんですわ。コノヤロ。
ストロー2つに割ったような、さっぱりとして分かりやすい性格。ナメんじゃねーぜ。
シャネルの389番よりかぐわしい香り、耳から溢れてタレる知性と教養。一昨日おいで。
いくらMIHIセンセが、胴長短足のデブでのろまな亀だからって・・・ウウ」みたいな。

 彼女を送り込んだ某院長に、次は男でオネガイシマスって頼んじゃおうかな?
でもそんなことを頼んで、「あいつ、モーホー(逆さから読んでください)?」も困る。

団塊の世代の医者が、研修医に送る挑戦エッセイ

<団塊の世代と医師受難の時代>
 週末外来は新患が3人、先輩開業医から移動。
「こっちで診てもらって良くなった」は、「あたり前田のクラッカーだぜい」鼻息荒く。
検診心電図を自己チェックで仕事を終え、昼食はサンドイッチとビールうぐうぐ。
ながら読書しつつ、1976年製作「タクシードライバー」をチラチラ。

 学生時代に見たことがあったが、これほどスローなテンポの展開だったかな?
まどろっこしさのあまり庭の単純作業を始めると、むかし聞いて驚いたことを思い出す。
イタリアでは職場のない医者が、タクシードライバーで生計を立てているらしいと。

 甘い予測で医局講座制を壊して研修医制度を作ったツケが、既に医師の配置偏位を生み。
地方に医者が減り大学に医者が減り、学会認定専門医制度が「医学博士」を減らした。
別に「医学博士」が偉いとか、ゼッタイ取らなきゃ仕事が出来ないモノではないが。

 少なくとも自分にとっては、「考えるプロセス」を構築するのに大いに役に立った。
周りの同級生は新しい機械が使えるようになり、尤もらしいことを言い出して胸を張った。

「でもな、あんたが何年頑張って博士になっても。ワシはあと3年で甲の博士やデ。
 いくら逆立ちして屁をこいても、あんたは乙博士やけど。ワシは甲博士、悪りいねー」
をぐっと飲み込んで、憂さを晴らせない自分が悔しい。
自分だけ取り残されたような気になっているところへ、先輩の一言。

「MIHI、おまえなあ。今からはエコーやぞ、脂なんかやってちゃいかんぞ」
その言葉は、その翌年テキサスの学会に出席したときにぶっ飛んだ。
演題の2/3は脂関係が占めており、我が師匠の脂に関する共同研究は結構なモノで納得。

 ボクの手の平より大きなステーキとビールが待つ、学会主催ロデオ・エンジョイツアー。
ボクの「ワンモア」に「リアリイ?」は、カウボーイハットのオニーさんニタニタ。
「プリーズ」で乗せてもらった、皿の端からはみ出した肉をフォークで押さえつつ席に。

「センセ、これからはエコーじゃなくて脂ですよね?ビーフの脂も良いけど」のボクに。
「MIHI君。つまらんことを言っちゃイカンよ。エコーなんて、ゲフゲフッ」
 ビールのゲップを2発処理して、師匠の言葉が続く。

「アメリカじゃ検査技師がするんだよ。循環器医は脂研究一番!が、よーく分かったろ?」
当時医局で脂研究4人の我が超マイナーグループ、残りの殆どの医者は「脂なんてナー」。
今や教授の口から聞ける「脂は大切だねー」は、およそ30年前の想定内。


 そんなことを思い出しつつ、庭単純作業で次に思うのは昨今の行政改革の悪行三昧。
先を読まず危機管理もなく、反省も学習もない人気取りだけの政治家。
「老人医療はタダにしちゃおう!」のどんぶり勘定が元凶なのは、誰の目にも明らか。

療養病床は、医療保険が適用される「医療型」が23万床、介護保険が適用される
「介護保険型」が15万床、計38万床。改悪案では、2012年3月末までに
「介護型」は全廃、「医療型」も15万床へと大幅に減らし。現在の6割の
23万床を6年間でなくす計画。

 療養病床の患者の場合、分かりやすいように平均で患者:主治医=50:1とすると。
減ると言われる23万人分に対して、4600人の医者が職場を失う計算。
施設を担当する医者が必要だから、多く見積もって4000人がタクシードライバー予備軍。

 現在24万人の医者が日本で仕事をしているらしいから、1.7%があぶれる計算。
医学的知識と経験を積んで自己研鑽に励み、自分の品のある人生観を形成し。
研修医でも医師である限り、「もし自分が院長なら」の「コスト意識を忘れない」。

厚労省は、「療養病床入院患者の受け皿が、いまあるとは思われない」と認めてる。
療養病床大削減は、特別養護老人ホームの待機者38500人(?)をどうするのか?
勘違い市場原理を医療業界の持ち込んだ反省がないまま、米国の失敗を再現するのか?

 介護保険が始まった時、「シルバー受難の時代」の幕を開けたのは介護保険と唸った私。
「団塊の世代受難の時代」と「医者の受難の時代」の幕を開けたのは誰?と再び唸る。
唸ってばかり居ては先が思いやられるから、自己研鑽と危機管理を怠らず。

 規制緩和でタクシードライバーが急増し、医者がタクシー業界に入り込む余地はない。
グータラ仕事でもある程度の収入を得られる医者の時代は、既に終わった。
残った医者生活20年を、仕事の楽しみを忘れず人生の先輩のために腰を据えて進むか!

 今からはもちろん技術も大切だが、品のある智慧と真摯な姿勢が不可欠。
技術がなくとも「それが出来るやつに任せる智慧が」あれば、出来るのと変わらない。
一般社会で近未来に訪れる「団塊の世代大量退職」の後に続く、団塊の医者大量退職。

先輩にも若い医者にも負けちゃおれないが、勢いのない老兵は去るのみ。
団塊の世代以降の医者リストラを始めて、老害を振りまかないことも重要。
受験戦争で鍛えられたから、リストラ戦争でも負けるわけには行かない団塊の医者。

さあ、研修医よ。かかっておいで!

<活きの良い医者はどこへ?>

「おろ?手に何ぶら下げてんの、ワウ?ほうほうそれが電卓ってんだ。
 そう言えば我が家のオバちゃんも、難しい顔してそれ打ってるわ」
 昨日ボタン電池を入れ替えて復活した、マルチ電卓を持って出勤するMIHIセンセ。

 昔は新薬の特許がキレルとゾロゾロ出てくるから「ゾロ」、今はジェネリック。
名前は新しいが基本は変わらないけど、能力は充分にあるメーカーも参入。
メーカー品の「ゾロ」なんて言うのが増えてきて、薬業界も混沌とし。

 病院も昔は出来高払いでをどれだけ使ったから、同じ病気でも電卓弾いて報酬が違った。
出来の悪い医者ほど不必要な検査をして、不必要な治療をして稼げた時代もあった。
特に慢性疾患の患者さんはご飯を食べても点滴、イラン検査をして儲けた電卓医者。

 年寄りはドクターショッピングをして、あちこちから風呂敷いっぱいの薬を貰い。
ゴミ捨てに放り込んだら、犬が食べて体を壊した等という話がまことしやかに語られ。
貰った薬を砂利代わりに庭にまき散らし、飲みもしない薬の数を競ったり薬でおはじきまで。

 それじゃイカンぞ!と政治家が気づいて、いくらやっても報酬は同じ!に切り替えられ。
お年寄りのどっぷり点滴と検査は、大赤字の爪痕を残して竜巻のように過ぎ去った。
年寄りの医療費は無料!なんて、人気取りばっかり考えるアホな政治家がいたのが元凶。

 一方で誤った「医者=お金持ち」の構図が、世の中ではフツーとなり。
団塊の世代が受験する頃は、「目指せ医学部!」が合い言葉になった。
同級生は競争率当初「48倍」フタを開ければ敬遠減の「32倍」は実感無く、まぐれ合格?

 新設医大が各県に出来ても、医学部フィーバーは冷めないから焼け石に水。
大学は医者で溢れていたと思ったら、最近は卒後飛び出した医者はそのまま居着いて。
大学の研究機関としての役割は、風前の灯火状態とも言われ。
田舎じゃ「おーい、活きの良い若い医者はどこ行ったんやー」が、空しくこだまする。

 そう言う中で(どういう中じゃ?)、MIHIセンセは電卓弾く。
ジェネリックを使いつつ、足し算は上手だけど引き算苦手な処方箋を計算し直し。
コスト意識はクライアント優先で、経営優先ではないけれど。

 浮いた分を守銭奴するのではなく、クライアントのために回すのが上品。
下品なヤツは直ぐ財布に突っ込んで、舌は出しても金出さないのは下品。
上品に電卓弾けば、クライアントも職員もやる気が出るというモノ。
「やる気のあるところに、美味しい看護介護が生まれる。品ある電卓あるとこにも」

<尊敬されること>

「センセ。あそこの医院、堪忍袋の緒が切れてとうとう辞表を出しました」
「おう、やっと出したか。ヘエ、10か月も我慢できたか!ギネスもんやねー。
 あいつ、我が医局の奇人変人大集合ベストスリーやもんなー。凄すぎやで」

「真っ当じゃないですモン、あの医者。根っこから腐ってる。
 センセがすごーく、異常なくらい普通に見えるから。ホント、不思議やわー」
「何処が不思議なんじゃ?ワシくらい真っ当で、フツーの医者はオランで」

「あのセンセに比べたら、MIHIセンセのヘンさ加減はアリンコのホクロ程度。
 ほとほと尊敬しますね、MIHIセンセでも。」
「何か引っかかるけど、気のせいやろなー。でも尊敬されるってーのは、片腹痛いな」

 ヤツに尊敬されても嬉しくも何ともないなーと思いつつ、愚痴を聞いて送り出し。
医学雑誌に目をやると、ある病院の院長が書いたエッセイ。

タイトルの「医者が尊敬されなくなった理由」は、MIHI風に言わせて貰えりゃちょい違う。
「医師が尊敬されていると言う妄想がぶっ飛んだ理由」でしょ?

 彼の結論は、「個と社会との関係やバランス感覚の欠如、複雑な生命体である人を
総体として見るという視野の欠落などを背景に、医師・患者関係の基本である「信頼」
と言う意味や価値が分からなくなったから」なんですが。(ワケ分からん!)

 内容よりも先ず、句読点の位置が気になるところで。
「そうだとすれば、この国は相当進行した全身病にかかっている」と結ぶ。

 医聖ヒポクラテスは、プラタナスの下で弟子達に医学を説いたらしいけど。
青空教室とは、良いですねー。まったりした良い時代だったから、みんな冷静に判断でき。
そよ風を頬に受けつつビールでもあればなお結構、おつまみは乾き物でOKなんて不遜な。

 魔術師か占い師かそれとも詐欺師が、いつしか医師になったんじゃないかと。
パターナリズムなんて言って、医師を怖い「オヤジ」的に受け止めていたから。
医師は間違うはずが無く失敗するはずが無いから、文句や訴訟なんて無かった。

 医師の裏付けのない自信が考え方を濁らせ、偉そうにすることで形が保てた昔。
ぬるま湯にどっぷり漬かっていた時代は去り、市場原理が導入されて慌てたのは医者。
患者と医師が対等となり、契約で間をつなぐシステムが導入されるとお互いの立場が揺らぐ。

 尊敬できない政治家や役人が、尊敬されない医者に圧力を加え。
尊敬とは次元の違うところで、世の中の医療・看護・介護が流れてゆく。
ハナから「医者に対する尊敬」など存在しないから、「尊敬というバブル」が弾けただけ。
ヒポクラテスもナイチンゲールも、まさかそうなるとは思っていなかったはず?

素敵な病院にしようや!10・10;
基本スタンスは、地道コツコツ!

スタッフは、
1;近所の方が受診しやすい病院
2;スタッフと気安く話や相談が出来る。医師は当然のこと!(基本)
3;全てのスタッフが礼儀をわきまえ、はっきり大きな声で挨拶し笑顔が良い(基本)
4;患者離れが良い(何時までも引っ張らない)
5;スタッフ全員が双方向性のコミュニケーションが取れる(押しつけは要らない)
6;他の機関と区別化を計る(良い個性をたくさん持つ)
7;知恵と工夫と優しさがある(脳みそ使って仕事をする)
8;外と病院に人の動線を邪魔するモノがない(直ぐに入れる、出やすい;泥棒じゃなくて)
9;時には遊び心も大切(心のゆとりを持つ)
10;向上心がある(下を見ていては伸びない)
これに尽きますね。

そしてトップはさらに、
1;遠い将来と、少し先を見て作戦を練る(泥縄じゃ論外)
2;はっきりとしたビジョンがあり、いつでも示せる(達成できそうな夢がある)
3;部下の10倍は仕事をする(土光さんのパクリ)
4;全ての職員に平等(基本)
5;お金はきれいに使い(使うときには思い切って使う)、無駄なく(お金は上手に使える)
6;公私混同は絶対しない(基本)
7;明らかなアイデンティティを持つ(考えが揺れ動いては下はついて行けない)
8;充分な危機管理で、リスクに直ぐ対処する(危機管理は基本中の基本!)
9;複数の人が良いと思ったことは、先ずやってみる(フットワークが軽い)
10;センスが良く、知性と教養を感じさせる趣味を持つ(難しいけど)
でしょうか?

これでタイトル通り、と言うか計算通り。
「素敵な病院にするために、スタッフに10個とトップに10個だから10・10」。
1010個あるワケじゃありません(強引な展開なんだけど)。
でも、よーく考えれば毒とるMIHIに無いモノばかりじゃん!トホホ・・・

研究大会の名前から思うこと

 やっとこぎつけた、スタッフの研究大会へ向けての準備段階。
ネーミングを頼まれて、TVをちらちらしながら昨夜は頭をひねりました。
清く澄み渡った感じをあらわす「さやけ(施設の頭の文字をパクッて)研究大会」とか。

 で結局、ぱっと見て研究大会の内容が分かった方が良いかも?となって。
企業などでは有名な「TQC」をパクって、「TMC(=Total;Management;Control)」を使い。
「TMC研究大会」にしちゃおうと、私と総婦長さんで勝手に決定したものの。
「TMC」なんて言葉があるんだろうか?もしかして、我々の造語?と思ったら。

 ちょっとインターネットで検索しただけで、ボロボロ出てきて。
しかもやたらドイツ語のものが多くて、内容はちょっと・・・(単位は取ったけど)。
略語辞典にも載っていたので、安心して使わせてもらうことに決定。ちょっと残念!

 発表形式や抄録形式も決めて、第一回は山口の看護関係教授に特別講演をお願いして。
「30分くらいで良いわよね」に、私の「30分は失礼じゃないのー」は無視され。
講演とポスターセッションにして、いつかはシンポジウムも行ってみる?なんて。
二人で盛り上がっていたら、「あ、私あと1年少々で定年だわ」でちょっと冷めたりして。

 どうもトップ3役は、病院機能評価取得を目指しているらしいので。
その点、黙って言うことを聞くなら言いたいことがいっぱいあるけど。
聞くふりをして、聞かないで文句を言ったりケチを付けるのが医者の悪いところ。
けっこう居るんだよなー、比較的多いんだよなー、身近にも居るんだよなー。
自分が医者であることを忘れて、つい漏らす愚痴。

 ノウハウは色々あるけど、結局はトップの院長が「ゼッタイとるぞ!」と言いまくり。
医局の医者の尻を叩きまくり、事務長からその部下に言いまくれば。
ナースは結構出来るモンでして、総婦長さんの「医者が問題ですよねー」に。
大きくうなずく私も、医者だった。

 1年計画で一つ一つ問題点を、マニュアルに従ってつぶして行けばOK。
1年間持続するには、トップの息が切れないで最低半年は言いまくること。
そうすりゃ、あんなモン大したことはありません。思わず「楽勝!」と言えば。
「どうしてそこまで自信に溢れているんですか?」を無視する私。

 既にそうなることを想定して、動いて2年ですから。ハイ。
こう言うのを順調に進めるには、我が社は船頭が多すぎるんですね。
その点だけは私的病院は一致団結して動きやすく、動かし安いねー。

<流行る店と流行る施設>

 流行る店とじり貧で潰れる店って、5分そこにいれば分かりますよね。
その時は客が多くても、「ダメだこりゃ!」って言う臭いみたいなモノがあって。
一回試しに行った焼き肉の店とかレストラン、6ヶ月以内の潰れた様が見えるような。

 繁盛する店は店構えにも職員の動きにも勢いがあり、何か違うか明らかに違うか。
入ったばかりなのに、「また今度も来よう」と言う気にさせる。
私が行った時はいつも客が少ないので、「どうして潰れないんだろうか?」だったり。

 市街地から離れていても、ちょっと頑張って来ちゃおうかな?と思わせたり。
「値段はちょっと高いけど味も雰囲気も良いから、よそへ2回行くところをここ1回に。
空いてる時間をチェックして、ちょっと時間調整してでも来よう。」なんてのもあって。

 流行る店はそれなりの理由があり、リピーターが増え続けるワケで。
何時行っても見た客が1人もいない店は、メチャメチャ流行っているかいつか潰れるか。
大抵は後者が多いような気がしますけど。

 我が職域もお店と同じで、基本を押さえていないのは論外ですが。
職員がきびきびと楽しく仕事をしていないところは、クライアントのQOLが低い。

 店構え(療養環境)は、明るく綺麗でゴミが落ちていない。
ゴミは、誰でも見つけた人がすぐ拾う(もちろん医者でもゴミを拾うのは当たり前)。
部屋はまぶしくない程度に明るく、イヤな臭いがなく、もちろん埃はない。
職員がいつも音に気を遣っていて、やたらTVの音が鳴り響いていない。
その評価は、クライアントの笑顔に反映するからクライアントを見ればすぐ分かる。

 もちろん医師にも言えることで、医師といえども医療サービス業チームの一員。
話す声は大きくはっきり、笑顔、挨拶、丁寧、親切・・・ウエイターと変わりませんね。
「エラそうな医者が一番食えない」で、医師にとって「患者さんは先生」を忘れないこと。
話しにくい、取っつきにくい医者は既にシーラカンスかミイラ状態。

 鏡を見れば、自然な笑顔を作る練習を怠らず。
いつも大きな声で、陽気で全身から燦々とエネルギーを発散し。
「センセに手を握ってもらって死にたい」と患者さんから言われる。
そんな医師に私はなりたい・・・と、まあ。宮沢賢治風。

 本日は雨模様でしたが、空に明るさがさして来たからちょっとデジカメ散策でも。
ホントに最近は、銀塩写真を撮らなくなりましたねー。
「ちょっと2,3枚行ってみる?」や「これは削除して、これは修正を入れて」は、
便利この上なしで、良い世の中になったモンです。
それに引き替え、「この施設は削除して、この施設は修正を入れて」なんて。
医師も施設も、そう都合良く自分勝手には行きませんネ。

自分の’売り’を考える

 落ちた雨粒が地面からわき上がってくる臭いに混じって、胸苦しくなるほどに甘い香り。
玄関脇の背丈およそ5mのキンモクセイ、黄色いツブツブの花から香ってきます。
見上げると香りの山のようで、足下は夜空に散った黄金の花。

 熟年になってくると、ふと自分の足元を見たり外から自分を眺めたり。
昨夜は、「自己評価」を考えながら眠りについたわけですが。
私事で強縮ですが卒後30年近くなりますと、もう医者しか出来なくなりました。
10年前なら、医者以外で例えば営業とかもOKと思っていたのに。

 じゃあ、いまの自分の「ウリ(売り)」はナンだろうと思ったわけです。
ぱっと見ても、体型・顔つきと言いそれほど格好が良いわけじゃないし。
裕次郎みたいに、異常に足が長いわけでもない。

 唯一大学院で学んだのは、テクニックでもなく「思考回路を養うこと」。
この世界では、知識はある程度のパワーとなり。テクニックは練習次第。
成功経験を大切にすると言うのは、織田信長には無かったらしい。
そう思うと、挫折こそパワーかも知れないと思うんです。

 迷惑早朝回診を済ませたので、午前の外来はのーんびりと思っていたら。
いつになく盛況でちょっと緊張する症例が2例も続き、検査をしては説明。
何処をどう見ても進行性肺ガンで、もう一人は肺気腫で。

 呼吸筋を鍛える方法を、ジェスチャーたっぷりで伝授していたら。
壁の向こうの患者さんの「私も検査してもらおうかなー」に、「エエよ」で。
数少ないナースは、久しぶりに走り回ってましたね。

 事務の方が、「今日はえらく多いですねー」って言うから。
「昔はこの3倍は・・・」と言いかけて、織田信長を思い出し「そうじゃねー」。
久しぶりに、病院の売り上げに貢献したような気になり。

 誉められるのはあまり得意な方じゃないので、「凄いですねー、センセ」に。
「ハイ、スイマセン。もっと頑張りますウ」と答える私。

 午後は、まったりラウンド2でステーション。
「昨日、鏡を見て驚いちゃったワ。下腹ポッコリ、お尻ぷっくり。
 昔は8等身美人だったのに。何これ!どうしてこれ!って感じイ。やだ、もう」
「昔の嗚呼勘違い」と「いまの残酷な現実」のギャップに嘆くのは、ブーちゃん1号。
「うーん。あんたの売りは、全身にたっぷり貯まった脂身かな?」を飲み込み。

 病棟を徘徊していて捕まってしまったカンファレンスが、やっと終わったらしい20分。
雑談なのかディスカッションの続きなのか、ワカラン状態だったから。
「これって、終わったの?おしっこに行っても良い?」と聞けば、
「あ、ハイ。どうぞ」で分かる終了状態。
クダランカンファの終了を確認するには、これに限るワケですわ。
別にボーコーが、昔に比べて小さくなったわけでもないんです。
我慢の器が、昔より小さくなったのかも知れないけど。
こうして売るモノが少しずつ減って行くのでしょうか?

<さん様と呼ばないで?>

『「さん」を「様」と』を略して「さん様」(省略しすぎ?)。
ご多分に漏れず、我が家の奥様も「冬ソナ」にちょっとだけはまったようで。
私もたまにヨン様にお付き合いしてみると、どこぞの俳優が言ってたけど。
「ありゃ、昔の日本のドラマじゃねー」、確かに「愛染かつら」や「君の名は」状態。
ホントは悲しいストーリーなのに、台詞も笑える純愛モノに見える不思議。

 さん様とは、ヨン様の兄貴のお話ではなく。
最近の我が業界で、患者さんを「XX様」と呼ぶようになって久しく。
殆どの施設で呼び方が変わり、いかにも患者さんを大切に扱っているような勘違い。

 確かに目下や同級生を「様」で呼ばないし、目上の人に「さん」はあまり付けない。
裏へまわると、「様」と呼ばれる方の扱いとは思えない言動を目にしたりして。
そう言うのを見るとかえって腹が立ってくるのは、私だけでしょうか?

 広辞林によれば「様」は「貴方、愛しい方」の敬語的呼称で、
「さん」は「様」の少し軽い言い方の敬語なんだそうで。
と言うことは、軽さをとるか重く行くかの違いだけなのかも知れませんね。
患者さんが愛しい人は「様」で、そうじゃない人は「さん」で良いのでしょうか?

 口の悪い噺家が言ってましたけど、
「どうせ患者を、ネギと鍋を背中にしょった鴨くらいにしか思ってねーから。
 おいらを見て、なんとか様なんて言うんだぜ」
それを聞いて「上手いッ!」って拍手しましたネ。

 医師と患者の関係は、昔とずいぶん様変わりして。
「ワシに任せなさい!」と「ハイ。よろしくお願いします」ではなくて。
2者の間に「契約」と言う概念が入り込んだのをはっきり感じたのは、介護保険からで。
介護保険を使って施設に入所するのにも、介護を受けるにも、退所するにも「契約」。
インフォームド・コンセントなんて言い出して、「契約」を意識し始めたし。

 「隙あらば訴えちゃうモンねー」が、医師と患者の関係をギスギスさせて。
形だけでも大切に扱っているような勘違いを引き起こさせるために、「様」でも行く?
「様」と呼ばれて最初は背中がむずがゆくなった人も、「様」に慣れさせられて。
いつしか「あたしゃXXさんだったっけ?」から、「あたしゃXX様だモンねー」に。

 「様」と呼ばれる方が、スタッフの申し送りで「困った人なんよ」とか「イヤになる人」と言われ。
挙げ句の果てに、「ああいう人は家族が面倒を見ればいいのに」なんて言われていると「さん」以下で。
人は弱いから、本音が出るのを抑えろとは言わないけど。
そろそろ、エセ「様」呼ばわりは止めにしても宜しいのではないでしょうかネ?

 軽い感じで昔通りに患者さんは「XXさん」、医者も「MIHIさん」にすればすっきり?
「先生と言われるほどのバカでなし」で、「先生」と呼ばれるヤツにろくなヤツは居ないし。
思い切って、お互いに「様」を止めて「さん」にしちゃおうと思った次第。

 学生時代も患者の立場になっても、全ての医者(教授も)を「さん」で呼んだ元学長。
学長に「さん」を付けて呼ばれた懐かしい記憶を手繰りながら、ビールでも一杯?
全ての方に「さん」を付けて呼べるほど偉くなれないけど、自然体が一番!

<ボクにとって、論文を書くこと>

 ラウンド2を軽くこなして、医局でまったりしておりました。
模様替え気分が沸々と湧いてきて、机の引き出しをグッと引き出すと論文別冊の段。
本格的に山口市に住み、臨床で遊び始めてから16年になるんですが。
果たして書きまくった論文はどれだけあるんじゃろか?となったワケです。
紙袋からH3年以降の別冊を取り出し、ファイルに綴じてみたんですけど。

 ホントは数十段のレターケースに、たっぷり別冊がつまっているのが理想。
大学院の時に名古屋大学生化学教室(八木国夫教授)で勉強させてもらってた時、
「MIHIさん、コレが今年書いた教室員の論文ですわ」の感動が忘れられない。
半年で20段以上が埋められていて、戦う前から白旗掲げるしかなくて。

 一度まねしてみたけど、7段のレターケース3個が限界は当たり前。
こちとら山口市医師会報まで入れてみたものの、無駄な努力。
能力と研究内容、時間と資金、指導者と研究対象等々に差が大きすぎて比べられない。
それでも症例報告7、院内感染関係1、介護保険関係2、薬と血液透析関係2、
在宅医療関係2の14編ほどがあり、1年に1編の目標は達成。
まあ論文と言えば聞こえが良いですが、書き殴り臨床エッセイみたいなモンで。

 殆どが県医師会雑誌だから、共同執筆者に会員以外もOK。
おかげで、関わったいろんな人の名前を載せるのが楽しくて。
これがフツーの医学雑誌なら採用されないか、共同執筆者に制限があるか。
もう少しで投稿予定の症例報告も、我が社の検査技師さんが入っていて。
はっきり言って、趣味の世界ですね。

 そんなものより、今までに書き殴った雑誌連載2本、単発雑誌2本、某新聞コラム1本
の方が個人的には嬉しくて。今月号に掲載予定が1本。
楽しんで収入があるわけですから、んもー・・・たまりませんワ。

 主任さんの介護に関する原稿に、私は論文用写真撮影で参加。
「センセ、これ」手渡す論文別冊。
「おー、凄いねー。美しいねー、勿論あんたのことやないデ。気分エエやろ?」
「でも、目一杯疲れました」まんざらではない様子。
「何冊目?」に、「初めてですけど」ニコニコ。
「デビューかア、どんどん書きまくってねー」ニコニコ。
「書くって言うことは、格闘技じゃから。疲れるけど、すごーく達成感があるやろ?」に、
「ハイ」の笑顔を見ると。こうやって、書くことが癖になって行くんだと思います。

 臨床では、患者さんが先生とよく言われます。
毒とるMIHI的には「エー何でやのーこう言うのって、珍しいんちゃうのー」とか、
「何でやろ、どうするとそうなるん?」とかが引き金になって。
「それって、結構面白いんやないのー」で情報収集し。

 文献を読んでいるうちに、どうやったら症例報告が書けるか?(既に書くのが前提!)、
そのプロットは?となって。臨床エッセイが出来上がるわけです。ここが一番楽しい!

 大学にいた頃は、先輩から尻を突っつかれつつ研究と論文に追いまくられて。
楽しめる気分になってから13年、書くという格闘技をエンジョイ出来るようになり。
この気分はいつまで持続するのか、楽しみなところであります。

 仕上げの雑巾がけで机周りが綺麗になって、すっきり良い気分。
投稿したらもっと良い気分かも?

勤務医にとっての病院の魅力とは?

 本日はお日柄も良くお天気に恵まれて、ある病棟の屋外レクリエーション。
ラウンド2を終えて廊下をうろうろしていると、「ここでちょっと待っててね」。
思わず「ハーイ」って言いそうになって、よく見ると車いすが1つ。
その先を見ると、既に陣取っている車いす軍団へ向かう介護士とクライアント。
「じゃあ、行きますかねー」私の移動介助で、待ちバッちゃんも参入。

 いきなり始まる「さくらさくら」の合唱と言うか雑唱に、恥ずかしながら参加して。
クライアントの頭や頬に、そよ風に舞う桜の花びら数枚が嬉しい。
午後の一時、15,6名のクライアントと7,8名の介護士に4名の看護師&医師。
見上げる木の枝に葉少々とかなりの桜の花で、青空に溶け込んで心地よく。

 のーんびりライフ(スローライフって言うらしいけど)は、良いモンだと思う次第。
同僚の毒とると交わした「魅力ある医局」についての会話を、ふと思い出すんですが。
研修医制度が変わって、全国的に医師の分布が様変わりしているのがTVでも放映され。

 そこで病院に求められる魅力とは何か?を考えたわけですわ。
優先順位を考えずに、適当に挙げてみると。

1;給料が良い(そりゃ、多ければ多いほど嬉しいでしょ?)
2;自分の時間が十分取れる(飽きるほど趣味に没頭出来れば、日々が楽しくて仕方がない)
3;資格が取れるまたは資格が維持出来る(専門医や認定医で、最近流行してます)
4;学問的に自己研鑽が出来る(本人の問題でもあるけど、やる気がなければフリータイムに)
5;やり甲斐のある仕事が出来る(やり甲斐には、いろんな要素があるけど。ボーっとして過ごせるヤツには関係ない)
6;拘束時間が短い(目一杯忙しいよりは、のんびりダラダラがましだけど)
7;医局の医者との楽しい交流がある(医者が3人いると2つの派閥が出来るそうな)
8;集団で行う宴会がない(今時の若い医者は、特にそうらしい)
9;クダラン会議が少ない(とっても私的でスイマセンが、時に爆睡タイム?)
10;新しい高度な機械が十分に揃っている(まともな問診・聴診・触診の出来ない医者も問題)
11;先輩が十分に指導してくれる(当たりはずれが大きい)
12;当直をしなくても良い(たまになら、休肝日になる)
13;自由に仕事が出来る(経営とのマッチングが問題)
14;職場は遊び心にあふれている(遊びすぎてもいけない)

 で、さて我が社はどうかと言うことになるわけですが・・・。
この14項目が全て揃うような病院は、怖くて居られませんね。
何処かに凄ーく大きな落とし穴が、ぽっかり口を開けていそうで。
自分の中だけで遊び心は溢れているから、取りあえず今のところOKかな?と。
でもこれって、何処でも同じような遊び心が生まれそうな気もして・・・。
じゃあ、医師にとって病院の魅力って?

回診って?

 普通の入院患者さんは、最初に外来で診察をするんですが。
だいたい視診・触診・聴診で、時に簡単な神経反射を含めて15分少々。
回診の時も診察はしますが、1回に費やされるのは3−5分ほどで。

 現在45人の患者さんを担当させてもらっているので、入院時と同じ時間をかけると。
45X15分では、11時間もかかってしまい非現実的。
1人3分ほどカルテを書いたら、病棟を歩く時間を無視しても13時間を超え。

 たいていは、胸の音を聞いてお腹と足を触ってお話をして「回診」は終了。
患者さんの状況がいつもと違っていれば、もっと時間がかかりますが。
実際の1人の平均回診時間は、あの昔から言われる「3分診療」。

 私が「回診」と呼んでいるモノは、本当は「日々のお別れ」で。
お年寄りは多様な病気を抱えておられるので、いつ何時急変するか分かりません。
「今日は元気で会えたけど、明日また会えたら嬉しいです」そう言う意味を含め。
「回診」ではなく、「日々のお別れ」のご挨拶なのです。

 このことを、ある患者さんの奥様にお話ししたことがあります。
返ってきた答えが、「私も同じ気持ちで毎日お見舞いに来ています」。
そして、「そんな風な思いで回診してもらっている主人は、嬉しいと思います」。

 滅多にありませんが、3分間じっと見ているだけのことがあります。
あんまり気持ちよさそうにお休みになっている時、胸の動きをじっと見ていたり。
顔の表情や刻まれたシワを見ながら、胸にそっと手を当てたり。

先日、ある患者さんが転院されてきて。
飲酒をされて畑を焼いているうちに、火が燃え広がって来たもんで。
慌てて消火活動をしているうちに熱中症になり、極度の低ナトリウム血症から
多臓器不全に陥り最終的に遷延性脳障害になられた方がいらっしゃって。

 けいれん様の筋肉の緊張が、2パターンあるような気がして。
刺激ごとのモノと、短周期のモノと思われるような。
で、短周期は一種のてんかんではないかと結論し。
抗てんかん薬を開始したら、短周期のモノは明らかに減少。
刺激ごとのモノもやや改善し、ちょっと嬉しい状況で。
最近、「じっと見つめる回診」も増えました。

<他人の文章にイチャモン癖>

 どうも師匠譲りというか、印刷物は赤ペン握りしめて読むのが定番で。
ナース・ステーションを出ようとして、「ありゃ、何これ?」に。
婦長さんが、「ケースカンファレンスの資料ですけど。
どうせ読むなら、仕上がったやつを読んでくださいよ」って言うから。
医局に持ち帰って、赤ペンで真っ赤にして。
感想を付けて返しに行ったら、「あらら、えー。これ、直しちゃったんですか!」と来た。
「とっても日本語じゃなかったから、普通の日本語に直しただけだけど・・・」
「んまッ、日本語じゃないってですかー」

僕の師匠なら
「MIHIちゃん、あれ下書きやろ。論文は、アラビア語じゃなくて日本語で書くんよ」
「あれ清書です。しかも、日本語ですけど・・・」なんて言おうモノなら、
「ほオー、ああいうのを最近は日本語って言うんかね。ほオー」でしょうか。
まだまだ修行が足りないからそこまでは言えないけど、追い打ちをかけるように。
「赤ペン入れておいたからねー。すっきりスリムになって、ワシのお腹みたい」
とか言いながら太鼓腹をぽんぽん。よく見ると、名前とちょっとなおした所属だけ。
非常に情けない思いをしたのが、私の初めての論文でした。
30年前、A4で2ページしかなかったのに。

 話を元へ戻して。
Yさんと言う脳梗塞の患者さんで、言葉が不自由で怒りっぽい性格の方だそうで。
スタッフが全身でコミュニケーションをとり、スタッフ間で情報を共有したら
次第にうちとけて「良い人になった」らしい。
当たり前すぎて、今更カンファレンスをするほどのケースじゃないと思ったけど。
若い人たちの学習する意欲をそいじゃまずいと、何かお手伝いと感想を!と思ったわけで。

で、以下が感想です。(当たり前すぎることですが、実行するのは難しいようで。
日頃の業務に流されて、つい・・・となるようです。自己反省も含めて)
ーーーーー
1;目線の高さ
 スタッフの高い目線は、患者の訴えや行動を自分中心に考えてしまうことが多いです。
入院初期にある思いこみがそのまま尾を引いてお世話をするようになれば、
患者のQOLを高めることは出来ないと思います。
また、よほどのことがないと思いこみを修正することが困難です。

2;問題意識を持ってお世話する
 「こんなモンだ」と言った時にその人の思考活動は停止します。
そう言う意味で、小さなことにも、いつも「どうして?」と自問自答しながら
お世話をして欲しいモノです。

3;分からなかったら急ぐ時は上司に聞き、時間に余裕があれば調べること。
「こんなモノ」は向上を妨げると思います。

4;どうして良いか迷ったら、「自分の親ならどうするか?」で動けば半分以上正解。
親にもしないことを他人の親にして良いはずがないと思います。

 これをY氏に当てはめると、
1;入院当初の決めつけが間違っていたのに気づいたのはY氏のおかげです。
2;コミュニケーションの方法がたくさんあって、個別性があることを
 教えていただいたのはY氏のおかげです。
3;引用数は少ないけど、とりあえず文献を探したのはY氏のおかげです。

臨床では「患者さんが先生です」を教えていただいたのはY氏のおかげです。

Y氏に感謝!
ーーーーー
 学習しようという勢いを大切にしつつ、患者さんに対する感謝の念を忘れないことって
大切ですよね。魅力ある医局作りを考えて、同僚の毒とるとちょっとだけ盛り上がりました。
医師は、一般病院の医局の何処に「魅力」を感じるか?を悩んでます。

医者のパフォーマンスは必要か?

 私いろんなニックネームがあるらしいんです。
1;「おはようセンセ」:朝の回診は睡眠を邪魔する大声「おはよう」連発
2;「OKセンセ」:何かにつけてすぐに「ハイOKですウ」
3;「ミスセンセ」:処方箋の日付を間違えるのでは、他の追従を許さないダントツ。
 この他にも、スタッフの油断を許さないためにミスを連発?
この3つにくわえて、本日追加は。
4;「サンタセンセ」;病棟のクリスマスパーティで、飛び込みのサンタをしたんです。
「センセ、体型がサンタに超お似合い!」だったそうで。

 しかしなんですよ、こう言っちゃあ悪いけど。(だれも悪いっていってない?)
日本老年医学会と日本内科学会の認定医で丑年6月まれで(そこまで言うか!)
サンタをやらせりゃ、左に出ても右に出るヤツはそんじょそこらには・・・
まあ、そこまで限定すれば当然だけど。

 第一、年季が入ってるからネッ。ホント、サンタの衣装が体に馴染んじゃってああた。
毎日通勤でも着て歩きたいくらいナンだけどオー、哲平に吠えられそうだしイー。
そんなことをして昔懐かしチンドン屋と勘違いされたら、ビラを用意していないしイー。

 たかが医者がほんの20分ほどサンタをやっただけで、人生の先輩が喜んだり涙まで。
最初は気まぐれのパフォーマンスのつもりが、スタッフに驚きを与えそれを見て喜ぶ私。
「来年もお願いしますね!」と言われれば、そう悪い気はしないから「ハイ、OK!」。

 閑話休題(相変わらず唐突な!)
医師におけるパフォーマンスの必要性について、考えてしまいました。
例えば、本日初めて病棟で飛び込みのサンタをしたわけですが。

 外来で久しぶりにクライアントに会えば、自然に抱き合い(良く外人がやってるヤツ)。
「久しぶりやんかー、元気じゃったかねー」と言えば、クライアントは嬉しそうで。
クライアントの方がかえってはにかんで、引くぐらいやらなきゃと思うんです。

 こういう世界に入ってみると、パフォーマンスの必要性を感じます。
最初は意識してパフォーマンスをするわけですが、やっている内に自然に身に付いてきて。
意識しなくても自然体で、普通の医者がやらないようなことも出来るようになるんです。

 嬉しい時は、ジッちゃんやバッちゃんと一緒に喜び合うように素直に体が動き。
心底嬉しがっていることを本当以上に感じてもらえば、次第にそれがホントになってくる。
パフォーマンスをする心が、今わがギョーカイに必要なのです・・・なんちって、ネッ。

こだわりとY氏

 文章を見ると、イチャモンを付けたくなる悪い癖がありまして。
どうも師匠譲りというか、印刷物は赤ペン持参で読むのが定番で。

 ナース・ステーションを出ようとして、「ありゃ、何これ?」に。
婦長さんが、「ケースカンファレンスの資料ですけど。
どうせ読むなら、仕上がったやつを読んでくださいよ」って言うから。
医局に持ち帰って、赤ペンで真っ赤にして。
感想を付けて返しに行ったら、「直しちゃったんですか!」と来た。
「日本語じゃなかったから。普通の日本語に直しただけだけど・・・」
「んまッ、日本語じゃないってですかー」

僕の師匠なら
「MIHIちゃん、あれ下書きやろ。英語じゃなくて、日本語で書いて持っておいで」
「あれ清書です。しかも、日本語ですけど・・・」なんて言おうモノなら、
「ほオー、ああいうのを最近は日本語って言うんかね。ほオー」でしょうか。
まだまだ修行が足りないから、そこまでは言えないけど。
そして、追い打ちをかけるように。
「赤ペン入れておいたからねー。すっきりスリムになって、ワシのお腹みたい」
とか言いながら太鼓腹をぽんぽん。よく見ると、名前と所属しか残っていなくて。
非常に情けない思いをしたのが、私の初めての論文でした。
30年前、A4で2ページしかなかったのに。

 話を元へ戻して。
Yさんと言う脳梗塞の患者さんで、言葉が不自由で怒りっぽい性格の方だそうで。
スタッフが全身でコミュニケーションをとり、スタッフ間で情報を共有したら
次第にうちとけて「良い人になった」らしい。
当たり前すぎて、今更カンファレンスをするほどのケースじゃないと思ったけど。
若い人たちの学習する意欲をそいじゃまずいと、何かお手伝いと感想を!と思ったわけで。

で、以下が感想です。(当たり前すぎることですが、実行するのは難しいようで。
日頃の業務に流されて、つい・・・となるようです。自己反省も含めて)
ーーーーー
1;目線の高さ
 スタッフの高い目線は、患者の訴えや行動を自分中心に考えてしまうことが多いです。
入院初期にある思いこみがそのまま尾を引いてお世話をするようになれば、
患者のQOLを高めることは出来ないと思います。
また、よほどのことがないと思いこみを修正することが困難です。

2;問題意識を持ってお世話する
 「こんなモンだ」と言った時にその人の思考活動は停止します。
そう言う意味で、小さなことにも、いつも「どうして?」と自問自答しながら
お世話をして欲しいモノです。

3;分からなかったら急ぐ時は上司に聞き、時間に余裕があれば調べること。
「こんなモノ」は向上を妨げると思います。

4;どうして良いか迷ったら、「自分の親ならどうするか?」で動けば半分以上正解。
親にもしないことを他人の親にして良いはずがないと思います。

 これをY氏に当てはめると、
1;入院当初の決めつけが違っていたのに気づいたのはY氏のおかげです。
2;コミュニケーションの方法がたくさんあって、個別性があることを
教えていただいたのはY氏のおかげです。
3;引用数は少ないけど、文献を探したのはY氏のおかげです。

臨床では「患者さんが先生です」を教えていただいたのはY氏のおかげです。

Y氏に感謝!
ーーーーー
 学習しようという勢いを大切にしつつ、患者さんに対する感謝の念を忘れないこと。
それって大切ですよね。魅力ある医局作りを考えて、同僚の毒とるとちょっとだけ盛り上がりました。
医師は、一般病院の医局の何処に「魅力」を感じるか?を悩んでます。
院長でもないのに、何でこんなことを考えなきゃならんのかな?

<ゾロと医者のこだわり>

 むかし「ゾロ品(メーカー品の後に続いてゾロソロ出てくるから?)」
と呼ばれたジェネリック製品が、大学病院でも採用され始めているようで。
大昔のゾロ品は、吸収されずにそのまま便の中に出てきたなんてのもあったようです。
モノによっては、メーカー品に変わってもかまわないのがあって。

 開発費が要らないから、その分を独自の工夫に持っていけるはずなんですけど。
ジェネリック専門メーカーだけじゃなくて、メーカー品を作る会社がジェネリックを
どんどん作っちゃうから凄い時代になってきたわけで。
メーカー品を作っている会社は開発力だけじゃなくて、
応用力もあるから昔の「ゾロ品だけのメーカー」は太刀打ちできないはずで。

 そうなってくると、処方する方もうかうか出来ない。
医療の質的管理で、クオリティマネージメントの手法の中にあるんですが。
読んでいるとマックやケンタッキーと発想は全く同じで。
基本は、「速い・安い・美味い(良い)」なんですね。

 この考え方が通用するのは、特殊な病気以外の範囲とは思うのですが。
ほとんどの病気が対象になるはず。その上、スタッフの対応も我が業界に通じるわけで。
研修の場所として、いくら何でもマックやケンタッキーと言うわけには行かないから。
病院=ホスピタルの語源になった「もてなす」の意味から、ホテル業界でしょうか?

 院長が率先して医師は全員、ホテルマンの研修があったりして。
医者がふんぞり返って、「全てワシに任せなさい」の時代は終わり。
クライアント(患者さん)に選ばれて、どこまでお互いの信頼関係が築けるか。
医療という医師と患者の共同作業を達成するか、最終的にはそこに至るような気がします。

 国立大学病院も、平成15年度には診療報酬包括請求制度が導入され。
独立法人へ移行し、ビジネスシーンの状況が生まれやすくなり。(エエぞ、エエぞ)
トップは、医学的能力以外に経営手腕を要求され。(第三者的にはワクワクで)
やりがいがある分、大変な努力と体力が必要になり。(これも同じくワクワクで)
研修形態が変わり、評価方法も変わってきて。(ウー、これもワクワクだけど)
端から見る分には楽しいけど、ど真ん中にいるヤツは必死で。(自分だけはお気楽に行きたいナ)
本音は、そんな時代はゆっくり来て欲しいけど。(ホントに!)
まだ自分が現役の時に来ることは必至だから、色んなモノを蓄積せねばと(ウウ・・・)
苦しみながらも、エンジョイ。(まだお気楽状態だけど、そのうち尻から煙が!)
やっぱそうなると、異業種間の交流が必要で。
参考になるところを吸収する言うか、良いところを奪わなきゃ!
我が業界のスタッフも、井の中の蛙じゃダメ。

介護施設への私のこだわり(3)

<「様」と「ちゃん」について>
 今日の外来でもあったのですが。
患者さんを「XX様」って呼んでいるのを聞くと、なんだかお尻が痒くなってくるんです。
別にお尻の水虫とか、お尻が甘くてありんこが寄ってくるとかじゃなくて。
少し前は「XXさん」と呼んで平気でいたのに、急によそよそしくなってしまって。

 ビジネスの世界では、顧客満足度を上げるのに色んな手を使うのですが。
我が医療業界の方々は、かなり勘違いしているらしくて。
「様」で患者を呼べば、それだけで丁寧に扱ったと思っている。
その割には、患者の扱いがぞんざいで。
かえって扱いのギャップが大きいのが目立っちゃう。
通常は相手を「様」で呼ぶ時は、気持ちの根底に「客」=「飯の種」があることが多く。
こっちがへりくだって、相手を持ち上げる時に「様」を使うことが多いワケで。

 最近の我が業界、特に介護保険がらみは「契約」を重視するようになってきて。
対等の立場で、物事を考えるようになってきました。
別にエラそうにすることも、卑屈になることも必要ではないし。
もちろん下手に出る必要はないのですから、患者さんを「様」で呼ぶ必要もない。
何処かの院長先生が、これに似たようなことを日本医事新報に書いていましたネ。
私はこれを読んで思わず膝をたたき、ニンマリしました。

「患者さんを「様」で呼ぶような病院の職員やそれをさせるトップは、
患者さんをネギを背負ったカモと思ってるんじゃないのか?とまで。
立場は対等で良い、商売人とは違うのだから。」と。

 もう一つ呼び方で気になることがありまして。
職員が患者さん(様じゃなくて)を「XXちゃん」と呼んでることがあるんです。
何処の施設にも、そう言うアホな職員がいるもんですが。
なぜ「ちゃん」付けで呼ぶかを聞いたら、親近感が大切だからナンだそうで。
「ホーホー。お宅じゃ親をちゃん付けで呼んでるんだ!」と言うと。
「そんなことをしたら、ゼッタイ怒られます」だと。
他人の親なら「ちゃん」付けで呼んでも、怒られないと思っているらしい。
目上の人には使わず、目下に使うのが「ちゃん」。
尊敬している人を、「ちゃん」付けで呼べるはずがないし。
対等の人でもせいぜい「さん」で、「ちゃん」はよほどの間柄じゃないと使わない。
とっても不思議なスタッフです。

 注意しようと思って聞いてみたら、某ナース曰く。
「センセは、あの人の上司じゃないから。センセが言わない方が・・・」
今読んでいる本で「超管理職」に、
「上司は上の存在ではなくパートナーだ」みたいなのがありました。
取りあえずその上司の所へすっ飛んでいったら、「私が注意します」。
でも、いつまで経っても相変わらずの「XXちゃん」だモンねー。情けネ・・・。

 もう一つの施設長と話をした時。
酒の席だったんで、私の言い方に異常な勢いがあったのかも知れませんが。
彼曰く、「上司かどうかは関係ないから、気づいたことはどんどんお願いします」。
そう言うところのスタッフに限って、結構しっかりやってるんものなんですね。
私が通りかかったら、クライアントの家族に「いらっしゃいませ」の声。
スタッフには、「ご苦労様」も良かった。いつもの「お疲れさま」じゃなくて。

介護施設への私のこだわり(2)

<おつかれさまへのこだわり:そんなに職員は疲れているのか?>
 何故か、この業界は疲れやすいらしい。
だから、顔を見るたびに癒しの言葉が口をついて出るようで。
施設全体で、「おつかれさま」の大合唱になる。
朝昼夕、時間に関係なく疲れているようで。
昼休みの後でも、お互いに癒し合うのが癖になっている。
「おはよう」も、「こんにちわ」も、「こんばんわ」も、「いただきます」さえも
「おつかれさま」で代用されいる不思議な業界だ。
正しい日本語を知らない人種なのだろう。
アフリカでは、大抵のことは「ジャンボ」で済むらしいし。
ハワイ滞在中の私は、ほとんどは「アロハ」で済ませた。
食事をいただく時も、まずくて文句を言う時も、土産物屋でふっかけられた時も。
いつも「アロハ」で済ませることが出来た。
もしかすると「お疲れさま」をハワイ語(?)で「アロハ」言うのだろう。
試しにナースの頭をぶん殴って、笑顔で「アロハ」と言ってみようと思った。
きっと彼女は笑顔で「お疲れさま」って言うに違いない。

 仕事を始める時に既に疲れていて、まず癒しの言葉が飛び交う。
恐らく、昨夜は一睡もしないで遊びほうけたか。
それとも、ヘンなオヤジの私のために落とし穴を一晩中掘っていたのか。
はたまた、仕事がとっても楽だから体を休め過ぎて入眠障害が来ているのかもしれない。

 おかしなことに、昼食にはいる時も癒しの言葉がある。
疲れなければならない食事?、いったい彼らは何を食べようとしているのだろう。
象の丸焼きとか、鯨の活け作りとか、キリンの首の軟骨からあげとか。
私はそれを想像しただけで疲れたから、きっとその3つのうちに答があるに違いない。

 「ちょっと、失礼します」と言いながらトイレに行く人も、癒す必要があるようで。
きっと半年ぶりに大腸の中身を出すに違いない。大仕事になることは明らかだ。
私はそれを想像しただけで、腹部が膨満して疲れてきた。

 なぜ新人が、施設内ではお互いに癒し合う必要があるのを知っているのか不思議だ。
きっと自分の家でも、お互いに「おつかれさま」と言って癒し合っているのだろう。
けんかなど30年以上見たことがない、そんな優しい家族なのであろう。
残念ながらと言うべきなのか、そんな恥ずかしい習慣が我が家にはない。
我が家は幸いにして、癒しの言葉を言わなくても30年近く平静を保っている。
焼き肉の時とお好み焼きの時に真っ先に一番大きいのを取っても、
一度もケンカをしない歴史を誇る家族である。

 ニューフェースが緊張して疲れている後輩を見た先輩が、
「おつかれさま」と言ってねぎらいの言葉を使うのは自然だ。
緊張感のない「おつかれさまでエーす」とか、
「**(ふにゃに聞こえるのだが)でーす」になると蹴りを入れたくなる。

まして朝一番に病棟でだれきったような「おつかれさまでエーす」と言われると、
強力な掃除機で元気が吸い取られる気がする。
そう言う時は「おはよう」の代わりに「いいえ、疲れてないモン」と返事をしよう。

 「おれつかれさま」は、オールマイティの挨拶言葉ではない。
正しい日本語を使おうじゃん!

介護施設についての私のこだわり(1)

施設の入り口のこだわりについて一言
 昨日は、ある身体障害者の方のために出来た施設の祝賀会に行きましたが・・・。
ボク的には、入り口に入る前のスタッフの足下を見て帰ろうかと思いました。
失望と腹立たしさが入り交じり、医局へもう一足の靴を取りに向かい。
少し遅れるという密かな抵抗だけで、祝賀会に望んでは見たモノの。
靴を履いているボクを見たスタッフが「センセ、ここは土足禁止です」と言った時、
ここのスタッフは目線が身体障害者の方に合わせることが出来ない悲しい施設と判断。
まったく見学する気にもなれず、与えられた椅子に座ってひたすら飲むだけで。
家に帰ってそのことを奥様に話をしたら、「今時何処でもバリアフリーなのに」と。

<ボク的施設入り口のこだわり>
 人間は、自分が元気だと弱いモノの目線で見るのを忘れがちです。
体の不自由な方のための施設は、入り口で靴を履き替えてはならないのです。
動線を何故止めるのか、膝の悪い人にはスリッパは嫌なことに配慮なされていないのか。
健常者が靴を履き替えて、車いすのタイヤは外と中は同じなのは何故か。
スリッパはすぐに汚れ、誰が履いたか分からないものを平気ではけるかな?
夏は臭いが残り、玄関に臭いがし出し田舎を醸し出すのが分からないのかな?
医師も看護婦もいるのに、スリッパで雑菌が繁殖するのを知らないのかな?
次に来る時には、自分のスリッパを持参する人が結構いらっしゃるんだけど。

 施設が汚くなるから土足禁止は、10年以上前の田舎モノの発想です。
昔は道路が舗装されていないし、土間もあり土が付くから履き物を履き替えたわけで。
今時の道路はほとんど舗装してあり、それほど靴は汚れません。
玄関マットを敷き、一日一回ちゃんと掃除をすればそれほど汚れることはないのです。
8年前に、介護老人保健施設を立ち上げる時にそのことを十分検討しました。
その結果小倉の病院に併設された日本では老舗みたいな介護老人保健施設は、土足OKで。
何処を歩いてもピカピカで、お掃除の方に聞いたら一日一回の掃除とか。
以来、施設見学のチェックポイントは何と言っても「入り口」。

 広島に有名な施設が玄関で靴を履き替えて、夕方なのに照明が落としてあった。
中にはいると壁が木目になっていて、さもそれが自慢であるように。
「木目が暖かいカンジを与えて良いでしょ」とぬかすトップの寒さひしひし。
思わず、「うーさぶ、早く外へ行かなきゃ!」って言いそうになりました。
土足禁止を良しとしたトップの質で、その施設の質も想像がつきます。

 夕暮れになった時、玄関の照明が落とされるのも許されないこと。
中が明るいとなおのこと、施設に入ろうとするのを拒んでいるようで。
入所者が夕暮れに施設に帰ってきて、そんな玄関だったら。
土足がOKでも、暗い玄関は外の世界との「気持ちのバリア」になるのです。
中が明るければ明るいほど、その気持ちが強く感じられるのです。

 出来れば、気持ちの良い音楽が玄関で迎えてくれたら最高で。
個人的には、ピアノの音がとっても嬉しくて。
そこまで配慮している施設が8年前から山口にあります。
そして、「自分が掃除機を持って歩きます」と言って援護射撃をしてくれたOさん。
おかげで、トップの抵抗はなくなりボクのこだわりはかなえられました。
やっぱ、良いよねー。あれは。

 施設の道具は新しいモノに変えれば済むけど、問題意識は目線を変えないとダメ。
ボク的には、ポリシーの貧弱な施設の完成を祝う気になれなかっただけで。
第一に病院がバリアフリーで、その病院と施設は廊下で繋がっていて。
そのハザマの処理をどうするのかナ?
それより何より、土足禁止に誰も疑問を持たなかったのか不思議で。
トップとスタッフの意識改革が、絶対必要でしょうね。
私がトップならもちろん靴のままで、玄関は軟らかい間接照明と生花。
BGMは、小曽根さんかビルエバンスのジャズピアノでキマリ。

MRSA院内感染予防対策;スコアによるケア区分の妥当性(2002年10月投稿)

−「ゆおび MRSA スコア」−

緒 言

 新聞やテレビ等の報道に「MRSA」の情報があふれ、インターネットのMedlineで「MRSA」のキーワードにより検索すると2795件の論文タイトルが入手できる(2002年6月15日現在)。MRSAに関する情報を容易に入手しやすくなった反面、あふれる情報の中でMRSAの感染および保菌者対処への過剰反応が起きている。その結果、不十分な病院内感染予防対策の取り組みの中で不必要な差別が見られたり、MRSA保菌者が施設入所を拒否されたり特別扱いを受けることがある。MRSAに差別ではない適切な区別は重要であるが、その区別を行うにあたって安全・必要十分でどこの施設でも可能な指標は見あたらない。MRSA院内感染予防対策に対しスコアを用いてケアの区分を行い、安全性とアウトカムからその妥当性を検討した。

方 法

(1)「ゆおびMRSAスコア」の作成

 MRSA保菌および感染患者の状態を基準化するためのスコア(以下、「(湯田・温泉・病院の頭の文字をとって)ゆおびMRSAスコア」と略す)を作成した。「ゆおびMRSAスコア」の評価項目には、どの施設でも簡単に出来る検査を採用した。「ゆおびMRSAスコア」評価項目における点数配分は、次のように決めた。すなわちMRSA菌量に関しては、痰の場合のみ咳によって拡散する可能性を考慮して(+)が増えるほど段階的に高い点数とした。また尿・便・膿・滲出液の細菌量の点数配分は、処置の際の汚染範囲が広くなる可能性を考えて菌量が(+++)の場合に高い点数とした。さらに体温は福原らと同様に、肺炎の重症度分類を参考にして点数を与えた1)。すなわち、37度から37.5度、37.6度から38.5度、38.6度以上の3段階に分けてそれぞれ点数を与えた。白血球数異常に関しては3000以下と8000以上に点を与え、CRPが1mg/dlを越えたときにCRPの増加として点を与えた。用いた「ゆおびMRSAスコア」の配点を表1に示す。この「ゆおびMRSAスコア」を用いて、MRSA院内感染対策においてケアの区分を行った。

表1「ゆおびMRSAスコア」

MRSA

菌量

体温

WBC

CRP

検体

(+)

(++)

(+++)

37-37,5度

37,6-38,5度

<38,6度

<3000

>8000

増加

1

2

4

1

2

3

1

1

1

尿

1

1

3

便

浸出液

(2)「ゆおびMRSAスコア」の実行

基本的な各ケア区分の患者イメージは、菌量が(++)以上で発熱と白血球数の異常とCRP増加の両者を認めるケースを感染者として「要注意(Caution=C)」、菌量が(++)以上で微熱および白血球数の異常かCRP増加のいずれかを認めるケースを保菌者として「要観察(Observation=O)」、菌量が(++)以下であって発熱や血液検査で異常のないケースを比較的自由な保菌者として「フリー(F)」とした。痰が極端に多いと判断された場合は、菌量が「+」でもケースによっては「C」とすることがあった。点数によるケア区分は、7点以上を「C」、6から4点を「O」、3点以下を「F」とし、MRSAの連続3回の陰性結果で「解除」とした。差別的印象を与えるというスタッフの意見をもとに、旧マニュアルで用いた隔離や準隔離と言う言葉の使用を中止した。「ゆおびMRSAスコア」の評価方法を表2に示し、ケア区分別の対応を表3に示す。2001年9月1日より、「ゆおびMRSAスコア」に基づき院内感染予防対策を実施した。

表2「ゆおびMRSAスコア」評価表

対応

点数

要注意(C)

(旧;完全隔離)

7以上

要観察(O)

(旧;準隔離)

6から4

フリー(F)

3以下

表3「ゆおびMRSAスコア」によるケア区分と対応

項  目

ゆおびMRSAスコア

7点以上

6〜4点

3点以下

病 室

専用室に区分する

易感染者を避ける

フリー

病 棟

3および1病棟

規制なし

規制なし

ガウンテクニック

ガウン マスク着用

手洗い

一般患者と同様

リハビリ

病室

リハビリ室

但し、一般患者終了後

職員の手洗い

リハビリ室

規制なし

職員の手洗い

定期検査

検体(痰、尿など)

末梢血(白血球)

CRP

2回/月

1回/月

1回/月

区分緩和

3回連続O

3回連続F

解除

~2週毎、連続3回陰性

~2週毎、連続3回陰性

~2週毎、連続3回陰性

その他

スコア6点以下の保菌者でも痰量が多い場合Cに準ずる

状態例

菌検出量が多く、周囲を汚染する危険性が高い

@気道感染を発症しており発熱、炎症所見がある

慢性呼吸器疾患で咳、痰が多い

気管瘻造設

A広範囲の創傷、浸出液が多い

B広範囲の皮膚病変

CMRSA腸炎で便失禁、弄便等がある

菌検出量が少なく周囲を汚染する危険性が低い

@尿:カテーテル留置していても十分被覆できない

A創傷部からの浸出液が少ない

B皮膚病変が小範囲

感染源性が低い

 

@無症候性気道内保菌者

A各種ドレーンから検出されても他へ拡散の恐れがない

B便、尿がおむつで処理できる

(3)「ゆおびMRSAスコア」のアウトカム

 旧マニュアルでケアを行っていた2001年1月4日から2001年6月30日までのMRSAを排菌する45ケースについて、「ゆおびMRSAスコア」で再評価したケア区分を旧マニュアルによるそれと比較した。また「ゆおびMRSAスコア」を用いて2001年9月から2002年4月までのMRSAを排菌する17ケースについて、患者の転帰を旧マニュアル対応と比較した。

さらにアンケート方式でスタッフの「ゆおびMRSAスコア」に対する意識調査を行い、「ゆおびMRSAスコア」のアウトカムを見た。対象は表4に示すように4種類の職種で49名であり、行ったアンケートの内容を表5に示した。

 

表4アンケート対象

年代

医師

看護師

介護士

看護助手

合計

20

12

6

2

20

30

1

3

0

5

9

40

1

8

2

1

12

50

3

4

0

0

7

60

0

1

0

0

1

合計

5

28

8

8

49

表5アンケート内容

―――――――――

ゆおびMRSAスコアを使った感想をお聞きします。

年齢(  )才代:性別(男・女)、職種(介護士・看護助手・看護師・医師)

A)スコアを使うにあたって、

(1)使う前はMRSAに対して不安があったが今はない

(2)使う前はMRSAに対して不安があり、今もある

(3)使う前はMRSAに対して不安がなかったが、今はある

(4)使う前後でMRSAに対して不安を感じたことは全くない

B)ゆおびMRSAスコアを使う前後で比較すると(前を10とすると)

(1)仕事量が(  )増えた

(2)仕事量が(  )減った

(3)仕事量は変わらない

C)ゆおびMRSAスコアを使う前後で比較すると(前を10とすると)

(1)仕事時間が(  )増えた

(2)仕事時間が(  )減った

(3)事時間は変わらない

D)ゆおびMRSAスコアを使う前後で比較すると(前を10とすると)

(1)介護や看護に使用する材料が(  )増えた

(2)介護や看護に使用する材料が(  )減った

(3)介護や看護に使用する材料は変わらない

E)ゆおびMRSAスコアを使う前後で比較すると(前を10とすると)

(1)自分の時間が、(  )増えた

(2)自分の時間が、(  )減った

(3)自分の時間は変わらない

F)ゆおびMRSAスコアを使う前後で比較すると(前を10とすると)

(1)MRSA関連の情報が、(  )気になるようになった

(2)MRSA関連の情報は、(  )気にならなくなった

(3)MRSA関連の情報については、変わらない

注)(  )の中には、感じたままの数字を書いてください。

――――――――――

結 果

(1)旧マニュアルと「ゆおびMRSAスコア」との評価の比較

旧マニュアルでは、MRSAの排菌がある患者については発熱と痰、尿・便失禁が多い場合「隔離」とし、平熱が続き痰・尿・便失禁などが減少した場合「準隔離」としていた。又わずかでも排菌がある場合は、病状が安定していても「ゆおびMRSAスコア」で言う「フリー(F)」にすることはなかった。「ゆおびMRSAスコア」で初めて「フリー」というケア区分を設定したので旧マニュアルと「ゆおびMRSAスコア」は完全には対応していないが、旧マニュアルでのケア区分の隔離と「C」、準隔離と「O」のケア内容が近似していたのでそれぞれを対比した。表6に示すように隔離と「C」、準隔離と「O」の一致率はそれぞれ57.6%と33.3%であった。旧マニュアルより「ゆおびMRSAスコア」の方が軽く評価したのは42.2%、重く評価したのは6.7%であった。

表6同一患者での旧マニュアルと「ゆおびMRSAスコア」によるケア区分の比較

旧マニュアル区分

「ゆおびMRSAスコア区分」

ケース数

隔離

C

19

隔離

O

10

隔離

F

4

準隔離

C

3

準隔離

O

準隔離

F

(2)旧マニュアルと「ゆおびMRSAスコア」による患者の転帰の比較

旧マニュアルで「C」であった方が「ゆおびMRSAスコア」で「F」に判定された方は、最終的に自宅が1名、ケアハウス入所が1名、介護施設入所と介護病床転出がそれぞれ1名であった。「O」が「ゆおびMRSAスコア」で「F」となった方は、転院が2名、介護病床転出が2名、施設入所が1名であった(表7)。

表7 旧マニュアルと「ゆおびMRSAスコア」による転帰の比較

患者の転帰

旧マニュアル対応(45例)

ゆおびスコア対応(28例)

自宅

2

2

当院介護病床へ転出

0

3

他の病院へ転院

3

2

施設へ入所

2

0

死亡

2

2

(3)患者の経過の把握

「ゆおびMRSAスコア」で「C」「O」「F」に区分すると、患者の経過を把握しやすく誰が見ても共通の認識が得られる。さらに細かなケア区分を検討したが、区分作業が煩雑になりやすく共通の認識が持ちにくくなるのを考えて作業の単純化を選択した。表8に見られるように、いずれのケースも評価結果から患者の経過を把握しやすい。

表8「ゆおびMRSAスコア」による患者の経過例

患者名/入院病日

入院時

1M

2M

3M

4M

5M

6M

(イ)

C

F

O

O

O

O

O

(ロ)

C

O

O

O

O

O

O

(ハ)

O

O

O

O

O

O

O

(ニ)

C

O

C

C

F

F

F

(ホ)

O

F

F

F

F

F

F

(ヘ)

C

C

C

O

C

C

C

(ト)

C

O

O

F

F

F

退院

(チ)

C

O

O

O

退院

(リ)

O

O

F

F

F

退院

(ヌ)

F

F

F

O

退院

(4)「ゆおびMRSAスコア」導入後のスタッフの意識調査結果

アンケート方式で、20代から60代までの医師、看護師、介護士、看護助手の意識調査を行った。アンケート回収率は98%であった。

20代と50代のスタッフはMRSAに対する不安の無い者が半数であったが、30代と40代は不安を持つ者が半数を超えていた(図1)。

 


図1「ゆおびMRSAスコア」に対する印象の年代別比較

職種別では、サンプル数が少なかったが医師は不安の減った割合が60%であった。しかし、他の職種は不安がある者がどれもおよそ半数を占めていた(図2)。


図2「ゆおびMRSAスコア」に対する印象の職種別比較

仕事の時間や量、材料が増えたと感じているのは圧倒的に20代が多かったが、個人的な時間に食い込むことは少なかった(表9)。

表9年代別の比較;増加・減少の数値は合計値

質問/年代

20代

30代

40代

50代

60代

B-1

35の増加(25%)

7の増加(22%)

(0%)

21の増加(29%)

(0%)

B-2

17の減少(25%)

(0%)

11の減少(17%)

8の減少(29%)

(0%)

B-3

(50%)

(78%)

(83%)

(42%)

(100%)

(合計)

(100%)

(100%)

(100%)

(100%)

(100%)

C-1

30の増加(15%)

6の増加(22%)

20の増加(25%)

6の増加(29%)

(0%)

C-2

24の減少(25%)

(0%)

14の減少(17%)

8の減少(29%)

(0%)

C-3

(60%)

(78%)

(58%)

(42%)

(100%)

(合計)

(100%)

(100%)

(100%)

(100%)

(100%)

D-1

26の増加(30%)

11の増加(33%)

3の増加(8%)

20の増加(14%)

(0%)

D-2

15の減少(30%)

(0%)

26の減少(34%)

7の減少(29%)

(0%)

D-3

(40%)

(67%)

(58%)

(57%)

(100%)

(合計)

(100%)

(100%)

(100%)

(100%)

(100%)

E-1

3の増加(5%)

(0%)

3の増加(8%)

6の増加(29%)

(0%)

E-2

5の減少(5%)

7の減少(22%)

(0%)

(0%)

(0%)

E-3

(90%)

(78%)

(92%)

(71%)

(100%)

(合計)

(100%)

(100%)

(100%)

(100%)

(100%)

F-1

57の増加(50%)

22の増加(56%)

15の増加(25%)

32の増加(57%)

(0%)

F-2

(0%)

(0%)

(0%)

(0%)

(0%)

F-3

(50%)

(44%)

(75%)

(43%)

(100%)

(合計)

(100%)

(100%)

(100%)

(100%)

(100%)

看護師は、仕事の量や時間・材料が増加したと感じた割合と増えたと感じた量は、ともに減ったと感じた者より明らかに多かった。しかし、介護士や看護助手はいずれもそれらは減少したと感じていた(表10)。

 

表10職種の比較;増加・減少の数値は合計値

質問/職種

医師

看護師

介護士

看護助手

B-1

3の増加(40%)

65の増加(29%)

(0%)

(0%)

B-2

3の減少(20%)

19の減少(11%)

11の減少(38%)

3の減少(12%)

B-3

(40%)

(60%)

(62%)

(88%)

(合計)

(100%)

(100%)

(100%)

(100%)

C-1

2の増加(40%)

63の増加(32%)

(0%)

(0%)

C-2

3の減少(20%)

22の減少(14%)

10の減少(25%)

3の減少(12%)

C-3

(40%)

(54%)

(75%)

(88%)

(合計)

(100%)

(100%)

(100%)

(100%)

D-1

1の増加(20%)

52の増加(29%)

2の増加(13%)

5の増加(13%)

D-2

2の減少(20%)

32の減少(18%)

13の減少(49%)

5の減少(13%)

D-3

(60%)

(53%)

(38%)

(74%)

(合計)

(100%)

(100%)

(100%)

(100%)

E-1

1の増加(20%)

8の増加(7%)

(0%)

(0%)

E-2

2の減少(20%)

10の減少(7%)

(0%)

3の減少(13%)

E-3

(60%)

(86%)

(100%)

(87%)

(合計)

(100%)

(100%)

(100%)

(100%)

F-1

9の増加(40%)

93の増加(54%)

20の増加(38%)

12の増加(38%)

F-2

(0%)

(0%)

(0%)

(0%)

F-3

(60%)

(46%)

(62%)

(62%)

(合計)

(100%)

(100%)

(100%)

(100%)

(5)「ゆおびMRSAスコア」導入後のMRSA感染の院内発生

 入院中にMRSAが陽性となったケースを1例認めた。この症例は72歳の女性で、コントロール不良の慢性関節リュウマチ患者であり、プレドニン1日10mgが投与されていた。入院時から白血球増加(9500)を認め、37.5度前後の微熱が続いていた。喀痰細菌検査1回目(2002年3月22日)はStaphylococcus coagulase、Staphylococcus aureusを検出した。2002年3月25日からミノサイクリン200mgの投与を受けており、3月26日のみ38度の発熱があった。その後は37.5度前後と入院時と同様の状態になっている。喀痰細菌検査2回目(3月26日)からMRSAが検出された。3回目(4月1日)、4回目(5月9日)もMRSAが陽性であった。抗生物質を中止しても、体温は37.5度前後が持続していた。入院時に鼻腔や痰の細菌検査を行っていなかったので、「ゆおびMRSAスコア」を用いたために旧マニュアルよりもケア区分が緩和されたことでこの症例がMRSA保菌状態になったか否かは明らかではなかった。入院後にMRSAが陽性と確認された1例以外には、その発生後3ヶ月間での新しいMRSA保菌または感染患者の発生は見られなかった。

考 察

MRSAの保菌者に対する過剰な対応は、人的、経済的に大きな無駄を生み出すだけでなく、保護されるべき患者や家族をいたずらに苦しめる結果になりかねない。またMRSA保菌者の疎外・隔離による精神活動の低下や介護者の恐怖心が問題になってきた。院内感染対策委員会において作成した旧マニュアルの問題点は、必要以上に厳しすぎること及び主治医によってケア区分の判断が統一されていないことであった。その問題を解決するのに、安全で再現性のある方法を検討した。MRSA感染症の易感染性要因については、危険度をグレードTからグレードVまでの3段階に区分しているものが見られる(2)。一方、重症度評価と予後判定にスコアを用いるAPACHEV(3)は外科系の各分野で使われている。また、手術を受けた患者のアウトカムをスコアで評価するPOSSUMもある(4)。しかし、スコアを利用してケア区分を行うものは見あたらない。今回作成したケア区分の評価は、客観性、再現性、評価項目の簡便さに配慮した。2001年9月から「ゆおびMRSAスコア」に基づいてケアを行っているが2002年9月現在MRSA院内感染の拡大は見られておらず、「ゆおびMRSAスコア」は院内感染予防対策のためのケア区分を行うのに安全かつ有用であった。

(1)旧マニュアルと「ゆおびMRSAスコア」のケア区分の比較

両者の一致率は「O」より「C」の方が高く、「ゆおびMRSAスコア」は旧マニュアルよりもケア区分を緩和する傾向にあった。旧マニュアルではMRSAが陽性で痰の量や咳が強いとスタッフと主治医の判断で「ゆおびMRSAスコア」で言う「C」または「O」となっており、判定時期によって評価はスタッフ内で意見が別れて最終的には主治医の判断が採用されていた。旧マニュアルでは主治医や看護師の主観がケア区分の判定に反映するため再現性に問題があったが、「ゆおびMRSAスコア」は客観的パラメーターを用いたので再現性と客観性が見られるようになった。しかし区分が2つから3つに増えたことによって、病棟内でのベッドの流動性に新たな問題が生じた。「C」「O」「F」の同じケア区分の患者が同室になるようにしているが、ベッド数の都合で適切なケア区分が行えないことがある。その場合は、家人と可能なら本人に説明をした上でより1ランク厳しい区分(「O」なら「C」、「F」なら「O」)で待機していただくことになる。

急性上気道炎や尿路感染症で一過性に発熱した場合、その時点で「ゆおびMRSAスコア」を判定すれば「F」が「C」や「O」になることがある。一過性の病状変化と思われるケースでは、ケア区分の数度の評価によって修正を加えた。これによって、誰もが納得できるケア区分のもとにケアができるようになった。本来「F」であった方は、治療後に短期間(1−2週間)で再度評価するとそれ以降は「F」となることが多い。「一過性の病状変化」と「持続性の病状」を混同していた旧マニュアルの欠点は、「ゆおびMRSAスコア」によって是正された。

(2)「ゆおびMRSAスコア」の病床回転に対する効果

 菊池によれば、MRSA保菌者が施設入所を断られたり入所制限が行われているという。また、患者側の不利益のみならず、一般病院の患者回転にも大きな支障になっていることを指摘している(5)。「ゆおびMRSAスコア」によりケア区分評価を行うことによって、家族や他施設スタッフの理解と納得につながった。その結果、MRSA排菌患者における在宅をはじめ転院や他施設入所の割合が高まった。「ゆおびMRSAスコア」で「F」に判定された方は最終的に全てのケースでケア区分が緩和され、現在のところ何ら問題を生じていない。

 MRSA保菌患者のうちで自宅及び他施設へ受け入れが可能となったのは、旧マニュアル対応では15.6%であった。一方、「ゆおびMRSAスコア」対応では25%であり、「ゆおびMRSAスコア」を用いるようになってMRSA保菌患者の流動性が高まった。

院内感染予防対策プログラムの費用が高かったり便益が限られていることを理由に、MRSA院内感染対策を実施していない病院がある。また、隔離基準も統一されたものがない。Chaixらによれば、MRSAの蔓延対策に関する費用と便益について、MRSA感染にかかる平均費用は9,275ドルであり、接触隔離対策費用は340ドルから1,480ドルであった。MRSA感染率が14%低減するならば、接触隔離対策は費用便益が良いと言う(6)。また牧本は病院感染対策のアウトカムとして感染率や感染による死亡率だけでなく、入院日数・再入院、医療費など多くの指標があるという(7)。「ゆおびMRSAスコア」に関するアンケートから、アウトカムを検討した。アンケート結果では、看護師は材料が増えたと感じた人が多かったが、介護士は減少したと感じた人が多かった。仕事量・仕事時間・材料すべてが増えたと感じているのは20代の看護師であり、同じ20代の介護士は仕事量・仕事時間が増えたと感じてはおらず逆にやや減ったと感じていた。これは主治医の最終確認の前に20代の看護師が中心になって「ゆおびMRSAスコア」の評価と一次的な判定を行っていたことと、今までの細菌検査に加えて末梢血検査と血清CRPの検査が増えたことがその理由である。しかし86%の人は自分の時間には影響がなかったと感じていたことから、スタッフの個人的な生活への影響は少ないと判断した。それに反して多くの介護士が仕事量・仕事時間が減少したと感じているが、ケアの区分がはっきりしてケアに対する不安が減少したこととケア区分「O」と「F」の方への対応が緩和されたのがその理由であった。「C」から「O」や「F」になって面会の時間や回数が増えたと言う声を、数人の患者家族から得た。これは、院内感染予防対策は患者だけではなく家族にも良い効果であった。

(3)「ゆおびMRSAスコア」によるケア区分に対するスタッフの意識の変化

 浅利によれば、現在の日本のMRSA隔離基準は、スタッフのMRSAに対する知識や経験が豊富になるにつれて緩和されていく傾向にあるという(8)。今回のアンケートでMRSAの情報が気になるようになったと感じた人が多かったが、情報が気にならなくなった人はどの年代および職種でいなかった。「ゆおびMRSAスコア」の導入により、およそ半数の人がMRSAを意識してケアを行うようになったことになる。 「ゆおびMRSAスコア」導入により、半数のスタッフのMRSAに対する不安が減少している。この「ゆおびMRSAスコア」を使用した期間が8ヶ月と短く、全てのスタッフの不安をなくすには至らなかった。経験を積みながらサーベイランスを行い、スタッフへデータを開示することがスタッフの不安解消につながる。

(4)「ゆおびMRSAスコア」導入後のMRSA感染の院内発生

「ゆおびMRSAスコア」を導入後、1例のMRSA感染の院内発生を見た。この症例は重症化せずにケア区分「O」の保菌者の状態で経過を見ている。新たなMRSA感染者も発生2週間以内の新たなMRSA陽性者も全く出ず、発生より1年間は認めなかった。入院後48時間以降に発症したものを院内感染と判断する(9)のなら、MRSA院内感染の発生が1例認められたことを否定できない。このことが「ゆおびMRSAスコア」導入が原因であったのか、スタッフの手洗いや看護・介護器具の使用方法に問題があったのかは明らかにできなかった。スタッフの再教育を行いながら、サーベイランスを行うこととした。高木によれば蔓延の定義を「交差感染(院内感染)の疑われる経路により、以下のような状況が生じた場合としている。(1)生命の危険のある重症MRSA陽性者が、1例以上発症した場合、(2)鼻腔内保菌以外のMRSA陽性者が、2週間以内に4例以上新しく判明した場合」である(10)。この定義を用いれば、「ゆおびMRSAスコア」を用いてから院内感染の蔓延を認めない。

(5)「ゆおびMRSAスコア」の評価項目の問題点

現在の「ゆおびMRSAスコア」の項目や評価で何ら問題は生じていないが、今後検討すべき点がいくつか考えられる。感染に伴う白血球増多としては、加齢の影響を考慮して8000を超えるときに点数を与えた。感染症による白血球減少症は顆粒球の数で論ずべきところであるが、末梢血自動計算機使用を前提にしたので白血球の総数が3000以下を白血球数の減少とすることを採用した。奈良県立医科大学中央臨床検査部によれば、白血球数は加齢の影響を受けると言う(11)。そのデータによれば白血球数の異常値の基準として9000と3000とするのが妥当であろうと思われるが、今後サーベイランスの結果を見て検討したい。Rossによれば、健常高齢者の45人のうち11人はCRPが1mg/dlを越えていたと言う(12)。またStanley らは健常高齢者のCRPの値は健常若年者に比べて高く、0.55±0.6mg/dl(Mean±SD)であったと述べている(13)。我々がこの2つの論文を根拠にCRPの増加と判断した1mg/dlの値の設定と白血球数の値の設定が、高齢者の院内感染対策に対して妥当であるか否かは今後サーベイランスの中で再評価する。次に、感染の成立と菌量に相関性が少ないと言われる(14)ことから、痰の菌量と点数に修正すべき点がある。さらに、渡辺は血清蛋白値6g/dlと血清アルブミンの値3g/dlを、患者の病態の判断基準にしている(15)。高齢者の全身状態を判断する項目に関して、院内感染予防委員会で定期的に見直しを行う必要がある。院内感染とリスクマネジメントの問題解決方法は、改善と標準化の修正を何度も繰り返し標準化が完全となったときに創造型解決策へと昇華すると中川が述べている(16)。いずれ「ゆおびMRSAスコア」が創造型解決策となり、安全管理であるとともに患者の満足度を高めることを行動目標となるようにしてゆきたい。

尚、本論文の要旨は第55回済生会学会(2002年10月、松山)において発表した。

結 語

MRSA院内感染予防対策に対し、スコアを用いて基準化を図った。「ゆおびMRSAスコア」実行後およそ1年間の調査ではMRSAの院内感染の蔓延が見られなかったことから、「ゆおびMRSAスコア」の使用は安全な対策と判断した。患者の状態把握がしやすくなり、再現性のあるケア区分の評価ができた。またスタッフが患者の経過を把握しやすく、ケアの中で共通の認識が得られた。さらに自宅を含めた他施設の受け入れが進み、病床の回転性も向上した。

「ゆおびMRSAスコア」導入によって自分の仕事が増えたと感じた看護師も、自分の時間に影響はなく、スタッフのMRSAに対する不安が減少している。また、46.9%のスタッフは、MRSAの情報に対して気になるようになった。「ゆおびMRSAスコア」導入によりケア区分が緩和する傾向にあったが、院内MRSA感染の蔓延は認めない。

 今後の経験の積み重ねと院内研修やサーベイランスはケア区分の安全な緩和につながり、それは患者とスタッフだけでなく患者家族のQOLも高める。

文 献

(1)福原徳子他:一般細菌性肺炎;臨床と研究、77(1):40-43,2000

(2)高橋成輔監修.院内感染予防対策Q&A200−現場の生の声に答える.医歯薬出版株式会社.東京.2001

(3)WA.Knaus,MD. et al:The APACHE V Prognostic System;Chest,100(6);1619-1636,1991

(4)M.S.Whitey,et al:An evaluation of the POSSUM surgical scoring system,Br J Surg;83:812-815,1996

(5)菊池賢:MRSA/各種耐性菌の現状と対策.日医誌、127:347-352,2002

(6)Chaix.C,etal:Control of endemic methicillin-resistant Staphylococcus aureus.A cost-benefit analysis in an intensive care unit,JAMA,282:1745-1751,1999

(7)牧本清子:病院感染対策のアウトカム志向;INFECTION CONTROL、10(1);60-64,2001

(8)浅利誠志:http://www.jarman.gr.jp/situmon/mrsa.html

(9) The Steering Group:National prevalence survey of hospital acquired infections:definitions,J Hosp Infect 24:69-76,1993

(10)高木宏明、地域ケアにおける感染対策−在宅ケア・施設ケア統一マニュアル、医歯薬出版株式会社、東京、1999

(11)奈良県立医科大学:http://www.naramed-u.ac.jp/~lab-h/labo-med/research/aging/aging.html

(12)Robert D.Ross,MD, et al:Elevated C-Reactive Protein in Older People,J Am Geriatr Soc,1992;40:104-105.

(13)Stanley P.Ballou, et al:Quantitative and Qualitative Alterations of Acute-phase Proteins in Healthy Elderly Persons, Age Ageing,1996;25:224-230.

(14)真野 勇夫 (湯布院厚生年金病院),巨勢 秋男 (健寿会黒木病院),桑原 宏(天心堂へつぎ病院);リターンネット:http://www4.gateway.ne.jp/~akiodesu/gakuj/inkansen_05.htm

(15)渡辺彰:化学療法の面から見たMRSA感染症対策と成果;化学療法の領域、9(8):1465-1472,1993

(16)中川俊正:院内感染とリスクマネジメント;耳喉頭頸、74(1):37-42,2002

山口市介護認定審査会での要介護度変更から見る一次および二次判定の問題点
(2002年9月投稿)

<緒言>

介護保険による高齢者介護の基盤作りの中で、要介護度の判定は介護サービス内容を決定する上で最も大きな要素の1つである。一次判定の不足を補うために行われる二次判定は、調査員の行った一次判定と主治医意見書の2枚だけで行われている。実際の調査対象を見ることなく判定を行わなければならないもどかしさが、常に介護審査委員に存在している。介護認定審査委員として要介護度の判定を行ってきたが、私が加わった班では1/4のケースで要介護度が変更された。基礎となった統計モデルに問題を含んだ一次判定コンピューターソフトだけが、二次判定での要介護度の変更理由なのだろうか。山口市介護認定審査委員として入手し得た資料から、一次判定の要介護度が二次判定で変更される理由を探った。

<方法>

調査期間は、1999年11月から2000年3月までの5ヶ月間である。調査対象を、私が参加した山口市介護認定審査会で介護認定審査を行った155ケースとした。尚、今回調査結果について論ずるにあたって用いたデータは、個人データを破棄し対象者を特定出来ない「匿名化された情報」だけである。

女性109名83.6±7.3(mean±SD)、男性46名80.8±7.6(mean±SD)であった。尚、日常生活動作(以下ADLと略す)のレベルは、「J」は何らかの障害等を有するが、日常生活はほぼ自立しており独力で外出する状態とした。「A」は、屋内での生活は概ね自立しているが、介助無しには外出しない状態とした。「B」は、屋内での生活は何らかの介助を要し、日中もベッド上での生活が主体であるが座位を保つ状態とした。「C」は、一日中ベッド上で過ごし、排泄、食事、着替えに介助を要する状態とした。痴呆のレベルは、「T」は何らかの痴呆を有するが、日常生活は家庭内および社会的にほぼ自立している状態とした。「U」は、日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られても誰かが注意していれば自立できる状態とした。「V」は日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通困難さがときどき見られ、介護を必要とする状態とした。「W」は日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通困難さが頻繁に見られ、常に介護を要する状態とした。「M」は著しい精神症状や問題行動あるいは重篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする状態とした。

ADLレベル・痴呆レベル・要介護度の判定について、調査員による一次判定結果と主治医意見書を比較した。また、コンピューターソフトによって得られた1分間タイムスタディによる介護時間に、調査員の特記事項と主治医意見書によって介護時間追加の有無を見た。更に、要介護度について、一次判定と二次判定を比較した。

<成績>

 ADL判定に主として関与する基礎疾患では、男女ともに脳血管障害(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血等)が最も多く、次いで脊椎疾患、関節疾患、下肢の骨折であった。痴呆判定に主として関与する基礎疾患では、脳血管性痴呆が多くを占めていた。ADLレベル判定は、一次判定と主治医の判定ともに「J」が最も多かった。一次判定と主治医の判定について、ADLレベル判定を比較すると、「B」は一次判定で多く、「C」は主治医判定で多い傾向にあった。主治医のADL判定未記入が3ケースあった(表1)。

一次判定

医師判定

ADL

56

58

43

45

36

24

20

25

未記入

3

表1:ADL判定の比較

痴呆のレベル判定では、「正常」が最も多く、次いで「V」が多かった。一次判定と主治医判定を比較すると、「U」、「V」、「W」に差があった。痴呆の各レベル間の境界があいまいなケースが多く、痴呆の状態が日によっても 時間によっても異なるため、また痴呆の判断に個人差があるために、痴呆レベル判定が難しいことを示していた。主治医の痴呆レベル判定未記入が、7ケースあった。(表2)。

痴呆

正常

71

62

T

22

22

U

13

24

V

37

26

W

8

13

4

1

未記入

7

表2:痴呆判定の比較

調査員の判定と主治医の判定に、明らかにレベルに差があるケースが155ケース中64ケースであった。ADLレベルの判定であれば、「A」、「B」、「C」、痴呆レベルの判定であれば、「T」、「U」、「V」、「W」、「M」のそれぞれのレベルが一次判定と主治医判定でレベルの明らかに異なるケースについての結果を示す(表3)。尚、表中では、ADLレベルの判定では一次判定が主治医判定より1段階以上レベルを重く判定した場合は「一次判定>主治医判定」と表し、痴呆レベルの判定では主治医判定が一次判定より1段階以上レベルを重く判定した場合「一次判定<主治医判定」と表した。ADLレベルの判定においては調査員が主治医より重く判定することが多く、痴呆レベルの判定においては主治医が調査員より重く判定するケースが多かった。これは患者との接触における深さの差や、日によっても時間によっても状態が異なるためであった。

ADL判定

一次判定<主治医判定

一次判定>主治医判定

1999.11.

1

6

1999.12.

1

2

2000.1.

4

5

2000.2.

6

7

2000.3.

8

5

合計

20

25

痴呆判定

一次判定<主治医判定

一次判定>主治医判定

総数

1999.11.

5

1

29

1999.12.

8

4

30

2000.1.

8

5

20

2000.2.

7

7

33

2000.3.

5

9

43

合計

33

26

155

表3:ADLと痴呆の判定の比較

コンピューターソフトによって得られた1分間タイムスタディによる介護時間に、調査員による特記事項と主治医意見書によってさらに介護時間を追加する必要有りと判断されたケースを示す(表4)。

特記事項による追加介護時間有り

主治医意見書による追加介護時間有り

総数

1999.11.

18(62.1%)

4(13.8%)

29

1999.12.

18(90%)

12(40%)

20

2000.1.

14(46.7%)

26(86.7%)

30

2000.2.

24(72.7%)

23(69.7%)

33

2000.3.

26(60.5%)

25(58.1%)

43

合計

100(64.5%)

90(58.1%)

155

表4:介護時間の追加

介護認定開始から3ヶ月が過ぎると、特記事項と主治医意見書で追加時間の有無の数に明らかな差が無くなった。

介護時間の追加によって介護度が変わって重くなった数は1回の審査のうち平均25.8%であったが、軽くなったケースはなかった(表5)。

重くなったケース

1999.11

4ケース(13.8%)

1999.12

6ケース(30%)

2000.1

9ケース(30%)

2000.2

7ケース(21.2%)

2000.3

14ケース(32.6%)

合計

40ケース(25.8%)

表5:二次判定で重くなったケース

一次判定と二次判定を比較すると、「2」の占める割合に明らかな差があった(表6)。

介護度判定

一次判定

二次判定

自立

18

16

要支援

20

15

1

60

50

2

8

18

3

17

18

4

17

18

5

15

20

表6:介護度判定の比較

<考察>

東京都福祉機器総合センターのホームページでは、「全国で年間約500億円が認定作業にかけられており、経済的に非効率なシステムがかなりを占めている」ことを指摘している(1)。徘徊などの問題行動があってもADLが高いと一次判定で要介護度が低く(介護の必要性が少なく)判定されることがあるのは周知の事実である。また尾形は、チェックを増やすと逆に要介護度が下がって(軽くなって)しまう「状態像の逆転」があることを指摘している(2)。 要介護度判定を行うための一次判定の基礎になったのは、施設における介護時間を推定する統計モデルである。関らはその統計モデルの妥当性を論じているが、その中で介護量の分布は標準の樹形回帰分析によく適合する正規分布からはかなり異なった分布になることを指摘しており、統計モデルのデータが不十分であることを意味している。また、「心身状態が悪化した場合に必ずしも介護の必要度が高まるとは限らないから、状態像が悪く見える高齢者の方が介護時間が短いと考えられる」と言う点に矛盾はないと言う(3)。心身状態が悪化して介護的ケアが減る代わりに看護的ケアが増えることが多く、これは現実的ではない。しかし、問題を含んだ一次判定ソフトだけが二次判定での要介護度の変更理由なのだろうか?

 ADLも痴呆も、日単位や時間単位で変化する可能性がある。それを踏まえた上で、より適切な要介護度の判定には正しい病像の把握が必要であることは言うまでもない。一次判定と介護認定審査会での二次判定において、2000年1月末現在の全国30都道府県での変化が新聞で報道された(2000年3月6日、毎日新聞)。これによれば、上昇した(重くなった)ケースは、16.2%、下降した(軽くなった)ケースは4.9%であった。一方、1999年11月30日現在の日本医師会のそれは、上昇は14.7%、下降は4.5%。厚生省の発表(1999.12.31.現在)では、それぞれ上昇は15.3%、下降は4.4%であった。新聞、日本医師会、厚生省いずれの結果にも大きな差はなかった。しかし、私が参加した山口市介護認定審査会のグループでは、上昇したケースは25.8%、下降したケースはなかった。

 今回得られたデータから、一次判定を変更した理由について検討した。

1:調査員の問題

今回の検討では、ADLと痴呆のレベルで一次判定と主治医意見書の間で明らかな差があったのはADLレベルで 29.0%、痴呆レベルで38.1%であった。これは痴呆レベル判定の困難さを示している。この原因として主治医意見書の内容以外に、調査員の経験不足と記入要領の不整備がある。最近の調査はマニュアル化が進み、調査員の間での差は減りつつあると言われる。

ホームページ「リハビリからみた介護保険講座」の中でK.Kaneko氏は、「できるADL」と「しているADL」の間に大きなギャップがあることを指摘している(4) 。我々が関わっている訪問診療を行うスタッフや在宅支援サービス担当者によれば、患者が同じ様なADLや痴呆のレベルでも介護する家族によって調査員の印象が変わると言う。それは、患者の家族が患者に何でも手を出して、患者が出来ることも介助してしまう場合である。調査員の聞き取り調査では、調査項目によっては「出来る」ことも「全介助」または「一部介助」になってしまう。これによって、一次判定は重くなる。逆に、独居のお年寄りで、かなり時間がかかっても不十分ながらなんとか出来てしまうケースの調査にも問題があった。「やっと何とか不十分だが出来る」が、調査員の聞き取りでは「出来る」となって介護時間の算定がなされないことになる。ほとんど同じように見えるADLや痴呆でも、結果的に判定にかなりの差が出ることになる。「できるADL」と「しているADL」以外に、我々のケースで見られたように「すぐに手を出さずに待てばなんとか出来る」と言うのもある。

2:主治医の問題

主治医意見書と調査票ならびに特記事項との間の矛盾が、要介護度判定の変更に影響しやすいことを池田らは示した(5)。ADLに関しては調査員が主治医より重い判定をし、痴呆に関しては主治医が調査員より重く判定する傾向にあった。要介護度の変更理由として、日本医師会の調査では調査員の特記事項によるのものが8.9%、主治医意見書によるものが21.5%であった。また内田らによれば、要介護度変更において全国では状態像による変更が60.8%、特記事項によるものが16.5%、主治医意見書によるものが13.9%であったと言う。さらに、状態像による変更・特記事項による変更・主治医意見書による変更は、それぞれ群馬県では41.6%・21.6%・28%であり沼田圏域では9.8%・55.9%・32.2%であった。そして、沼田圏域では状態像による変更は減少しつつあるという。一次判定コンピューターの一層の合理化と二次判定の地域的較差に対応する必要があることを指摘している(6)。ただ、ここでの問題は、特記事項と主治医意見書に重複する部分があることである。この重複する部分のどちらから採用するかによって、統計処理結果は変わってくる。要介護度の変更理由の検討を行うのなら、私が3つに分類したように変更理由の根拠を「特記事項」「主治医意見書」「両者」とすべきである。我々のグループでの介護時間の追加は、調査員の特記事項によるのものが63.2%、主治医意見書によるものが58.1%であった(両者重複あり)。このうち、要介護度判定変更に関与するものとしては、特記事項のみによるものが1/4、主治医意見書のみによるものが1/10、両者によるものがおよそ3/5であった。調査員も主治医も共に、要介護度判定に大きな影響を与えることは明らかである。正確な病態像の把握のためには、調査員も主治医もその責任は重く、患者や家族と接触する時間と深さが大切になってくる。

僅かではあるが、主治医意見書に不備があった。山口県では、不備のある主治医意見書の場合その6割が他の調査状況だけで認定された(7)。我々の検討では、ADL判定の記述がないのが3ケース、痴呆判定の記述がないのが7ケース認められた。このケースについてのADLと痴呆のレベルは、一次判定を参考にして判定がなされた。行天の言うように、主治医としての自覚が重要である(8)

3:被判定者側の問題

池田らは、痴呆があるとその判定に差が出やすいことをモデル事業の結果で示したが(2)、今回の結果でも上昇した40ケースのうち31ケースに痴呆が認められた。主治医意見書における痴呆による問題行動の記述のうち、いわゆる「身体的に元気な痴呆の評価」が介護認定審査会で常に問題になった。即ち、ADL判定が「A2」より軽くて、徘徊や不穏、ケアへの抵抗を認める場合である。問題行動がたくさんあれば重く評価されるのは当然であるが、問題行動の数が少なくても1日中認めるケースについては介護の大変さへの評価は高かった。一次判定において、痴呆レベルとADLレベルとの関連の中で痴呆に対する介護のための時間についての再検討が必要である。

 同じADLレベルまたは痴呆レベルでも、在宅と施設での判定には違いが出やすいと言われる。繁信らは、在宅高齢者群の方が施設入所者群に比して一次判定と臨床推定の一致率が低いことを示した(9)。今回は、在宅高齢者と施設入所者との差については検討できなかった。

4:介護認定審査員の問題

 山口市の介護認定審査員の構成は、介護関係者、福祉関係者、看護関係者、医師(2名)の5名である。医師については、内科と整形外科以外の専門分野の方も含まれている。介護認定審査を行う医師に、介護認定審査の対象としての高齢者のADLや痴呆に関する経験と知識に問題がないとは言えない。小林の言うように、特記事項で介護の手間からの観点と医療からの手間の観点での評価が違う場合どのように総合判定をするかは難しい(10)。我々のデータでは、要介護度「2」の判定が難しかった。

以上4つの点に関しては、山口市特有のものではない。一次判定の修正のために行われる介護認定審査会での二次判定は、非能率的システムである。平成14年山口市では、1年で合計230回の認定審査会が行われる。1回の認定審査会が2時間平均として1年間に460時間と、人件費が使われる計算になる。この課題に加えて関らも指摘するように(3)一次判定の調査項目を見直し、介護認定を一次判定だけで済ませることが出来れば時間と費用を節約できる。さらに二次判定が不必要となるほどに一次判定と二次判定の一致率が100%に近くなれば、要介護度認定の公平さを高めることができる。

<結語>

介護保険下で介護サービスを受けるにあたり、要介護度の判定は最も大きな要素である。調査員も、主治医も出来るだけ正確な病態像の把握に努めなければならない。実態に見合った要介護度の判定を行うためには、調査員も主治医もその責任は重い。

 ADLと痴呆レベルの判定において、一次判定と主治医判定との間で明らかな差があったのはADL判定で29.0%、痴呆判定で38.1%だった。主治医と調査票ならびに特記事項との矛盾が、介護度判定の変更に影響すると言われている。今回の検討では、ADL判定は調査員が主治医より重い判定をし、痴呆判定は主治医が調査員より重く判定する傾向にあった。

155ケースのうち介護度が重くなった40ケースの中で、痴呆が認められたのは78%だった。一次判定と二次判定の一致率を高めるためには一次判定での痴呆とADLに関する判定項目を見直す必要がある。一次判定と二次判定の一致率が高まって要介護度の認定を一次判定だけで済ませることが出来れば、時間と費用を節約できるだけでなく要介護度認定の公平さを高めることが出来る。そして、これが要介護度認定において将来あるべき姿である。

尚、本論文の要旨は第13回日本老年医学会中国地方会(2001年11月、岡山)において発表した。

<文献>

(1)介護保険制度ウオッチング;http://www.mars.dti.ne.jp/~doi/index_2000-07-03_2001-03-22.html

(2)尾形新一、Yahho!KAIGO;http://www.o-ga-ta.or.jp/2000/o-ga-ta238.htm

(3)関庸一ら:要介護認定一次判定方式の基礎となった統計モデルの妥当性、応用統計学、2000;29(2):101-110

(4)K.Kaneko.、リハビリからみた介護保険講座;http://homepage1.nifty.com/ringonosato/kaigokoza.html

(5)池田 学、鉾石 和彦、牧 徳彦、田辺 敬貴:介護保険モデル事業における要介護認定の一次判定と二次判定のずれ−痴呆の有無との関連で−、日老医誌、2000;37:528−531.

(6)内田好司ら:介護保険二次判定の平準化のために−介護度変更理由の視点から−、日本医事新報、2002;4074:56−58

(7)山口県医師会報 2000;1573:286−290.

(8)行天良雄:介護保険における医師の役割−介護保険の原点を考える−日臨内科医会誌1998;13(2):70−76

(9)繁信和恵、池田 学、牧 徳彦、田辺 敬貴、松浦 千枝子:介護保険制度訪問調査時の調査員および精神神経科医師による要介護推定と一次判定結果の異同について−在宅患者と施設入所者における検討−、日老医誌 2000;37:1009−1011.

(10)小林之誠:介護保険認定審査会の課題、日本医事新報 2000;3997:57−60

高齢者の膠原病:分類不能型結合織病(UCTD)の2症例

緒 言
高齢者が原因不明の微熱や関節痛を訴えることは稀なことではない。一方、老化により自己抗体が陽性となることも知られている。最近、老人発症膠原病も注目されており、これらの解釈に悩むことも多い。我々はいわゆる感冒様症状を呈し自己抗体陽性高齢者の中に、分類不能型結合織病(UCTD:Unclassified connective tissue disease)と思われる2症例を経験したので報告する。
症 例
症例1:M.T.80歳、女性
主訴;微熱と手関節、肩関節および両膝関節の痛み
既往歴;特記すべきものなし。
現病歴;2、3年前より微熱と手関節、肩関節および両膝関節痛があったが、自宅で安静にしていた。1,2週間前より夕方になると両足背の浮腫が出現するのに気づき当院を受診し、精査のため平成5年8月6日入院した。現症;体格中等度、栄養良。胸腹部理学的検査では異常なく、関節の腫張無し。
血液検査結果は表1に示した。
胸部レントゲンでは、肺線維症を思わせる所見はなかった。
経過;夕方になると37.5度前後の微熱を認め、全身倦怠感とともに手関節、肩関節と両膝関節の痛みを訴えた。少量の非ステロイド性消炎鎮痛剤(フェノプロフェンを1日600mg)の投与にて、関節痛は改善した。また、体温は37度前後となり、自宅療養が可能となって約1ヶ月後に退院した。

症例2:T.F.88歳、女性
主訴;微熱と両膝関節および腰の痛み
既往歴;8年前より、僧帽弁閉鎖不全と慢性心不全で通院治療していた。
現病歴;脳血管性痴呆にて老人保健施設へ平成8年10月17日入所した。
現症;体格中等度、栄養良。胸腹部理学的検査では異常なく、関節の腫張無し。
血液検査結果は表1に示した。
胸部レントゲンでは、肺線維症を思わせる所見はなかった。
経過:昼食後に37.5度前後の微熱を認め、頭重感と倦怠感および両膝関節痛と腰痛を訴えた。少量の非ステロイド性消炎鎮痛剤(フェノプロフェンを1日600mg)の投与にて、関節痛は軽減した。しかし、夕方になると体温は37〜37.5度に上昇した。約6ヶ月後に、ショートスティとディケアを利用することで自宅療養が可能となり退所した。
  症例ショウレイ 症例ショウレイ   症例ショウレイ 症例ショウレイ
Age 80 88 FBS(mg/dl) 109 82
Sex F F GOT(IU/l) 16 18
      GPT(IU/l) 17 12
検尿     LDH(IU/l) 456 369
(-) (+++) T-ch(mg/dl) 145 205
蛋白 (-) (++) TG(mg/dl) 57 74
潜血 (+) (-) HDL-ch(mg/dl) 44 47
      BUN(mg/dl) 12.3 44.8
RBC(万/μg) 381 365 Crea(mg/dl) 0.7 0.9
       Hb(mg/dl) 11.2 9.9 UA(mg/dl) 3.6 3.8
       Ht(%) 35.9 31.3      
WBC(/μl) 4200 5500 Na(mEq/l) 137 133
St(%) 5 3 K(mEq/l) 4.1 3.9
Seg(%) 50 50 Cl(mEq/l) 98 100
Lym(%) 42 43      
Mo(%) 2 2 SP(mg/dl) 7.1 7.6
Eo(%) 1 2 Alb.(mg/dl) 3.2 3.9
Ba(%) 0 0 A/G 0.82 1.05
Plt(万/μl) 33.2 22.4 Alb.(%) 44.5 52.5
      Glob.(%)    
ESR(mm/min)     α1 5.7 4.1
60 129 26 α2 13 11.4
120 158 63 β 10.4 8.7
      γ 26.4 23.3
CRP(mg/dl) 4.7 0.5
LE細胞サイボウ (-) (-)
補体価(CH50) 49 41
IG-G 2930 2201
IG-M 161 149
BFP (-) (-)
RA (-) (-)
ADNA LT80 80
ANA 160 160
homogeneous 160 160
speckled 160 160
A−RNP (-) 9.1
A-SS-A Ab 1.9 (-)
A-SS-B Ab (-) (-)
A−SCL−70 8.3 3.7
ヒョウ:1血液ケツエキ検査ケンサ所見ショケン
考 察

 UCTDは一般に抗核抗体陽性で、発熱や関節痛などの症状を有するが、各結合織疾患の診断基準を満たしていない状態と位置づけられている(1)。西間木はUCTDを「膠原病は一つの連峰を形成している病態と考えられる。それぞれの疾患に特徴的な病態とともに、その裾野にはかなりの共通な所見がいわばマグマのように流れており、分類不能の病態を形成している。」と表現している(2)。また、膠原病における高齢の定義はSLEの場合、50歳以上とされるが、UCTDにおける高齢の定義はなされていない(3)。また、強皮症(以下PSSと略す)の70歳以上の発症は稀である(4)。この2例とも年齢は80歳を越えていた。老人発症膠原病は女性に多いが、年齢とともに相対的に男性の占める割合が増えると言われている(5)。
我々の2症例に共通した臨床症状は次の3点であった。
1週間以上続く37〜37.5度の微熱があり、感染症の症状はなく、微熱は経過中発現消退を繰り返した。
複数の関節痛を訴えた。
倦怠感を訴え「風邪をひいた」と言う表現をした。
 高齢者のSLEでは症状が乏しく多彩性がない(6)。高齢者のUCTDにも同様のことがいえるとすれば我々の2例の症状も当てはまる。UCTDの100%にレイノー現象が見られるとされる(7)が、我々の2症例には認めなかった。
健常高齢者に抗核抗体陽性率の増加を認め、加齢とともにγ-グロブリン量も増加している例が多い。また、高齢者における抗核抗体の陽性率について、吉田らは膠原病や自己免疫疾患を合併しない高齢者では、70歳代と80歳代でそれぞれ16.2%、13.6%であり、そのタイプは斑状型が多く、抗体価は40〜160倍と低く、性差はなかったと報告している(8)。また、Ricardoらは、65歳以上の健常高齢者での抗核抗体の陽性率は女性に高く、75歳〜84歳では12.9%、85歳以上では6.6%であったと報告している(9)。老化に伴う自己抗体の陽性率増加の理由は明らかでないが、東條らは、長い間の外的刺激のために自己組織が変性し、これを排除する機構が働いて自己抗体が増量していると推察している(10)。また、佐野らも、高齢者の病的自己抗体の増加は、自己免疫疾患を持つ患者の増加とは相関せず、老化した細胞や壊死細胞の除去に関与する生理的な自己抗体が見られるのではないかと述べている(11)。我々の症例の自己抗体検査では、抗核抗体は2例ともにhomogenous typeとspeckled typeが混在しており、症例1では抗Scl−70抗体が、症例2では抗RNP抗体、抗DNA抗体、抗Scl−70抗体が陽性であった。さらに臨床症状を認めたことより、単なる加齢による抗核抗体陽性とは異なり病因的意味を有すると考えられる。症例1は抗Scl−70抗体が陽性であり、いずれPSSとなる可能性がある。症例2は抗DNA抗体、抗RNP抗体が疑陽性であり、今後SLEやMCTDの像を示す可能性がある。尚、抗SS−A(RO)抗体、抗SS−B(LA)抗体はいずれも陰性であった。
 治療については、水島によればUCTDは一般的に経過を観察していればよく、対症的に治療することでよい。そして、腎臓やその他の重要臓器に病変がある場合には積極的に治療し、場合によってはステロイドを用いる。しかし、陽性のリウマチ因子、陽性の抗核抗体、γ−グロブリンの増加のみで治療すべきではないと述べている(12)。我々の経験した2症例では少量の非ステロイド消炎鎮痛剤の内服で症状は軽減したが、いずれ典型的な膠原病の病像を呈する可能性があり経過観察が必要である。

結 語
微熱と関節痛を感冒様症状として訴える高齢者を、しばしば見受ける。その中には自己抗体が陽性を示すことがあり、高齢者のUCTDを疑うことが必要である。
参 考 文 献
(1)東條毅、混合性結合組織病の最近の動向、日内誌、85(8);1−2,1996
(2)西間木友衛、分類不能の膠原病、Chronic Disease,6(3);59-70,1996
(3)加藤慎二郎、柏木平八郎、Pharma Medica、8(6);33−35,1990
(4)山内康平、恒松徳五郎、高齢者に発症しやすい膠原病、臨床成人病、18(3)8−19,1988
(5)加藤慎二郎、柏木平八郎、Pharma Medica、8(6);33−35,1990
(6)廣瀬俊一、鳥飼勝隆、柏崎禎夫、高齢者における膠原病の特徴、臨床成人病、18(3);61−76,   1988
(7)井上哲文、レイノー現象の治療、Chronic Disease Vol.6 No.3、137−    139、1995
(8)吉田 浩、茂木積雄、尾形正裕、他、老齢者の免疫・血清検査、臨床病理、37(6):634−      639、1989
(9)Xavier,R.M.,et al,Antinuclear antibodies in healthy aging people:a prospective study,Mech.Aging    Dev.78:145-154,1995
(10)東條毅、膠原病関連自己抗体、臨床免疫、18(7):630−635,1986
(11)佐野統、近藤元治、老化における自己抗体の意義、Geriatric Medicine,30(5):697-700,1992
(12)水島裕、Chronic Disease Vol.6 No.3 269−272、1995

key word ; Unclassified connective tissue disease(UCTD)

Thymolipomaと思われる巨大腫瘤陰影を呈した1症例

緒 言
胸部単純X線写真で巨大腫瘤陰影を認めるも、全く症状のない症例を経験した。臨床所見と胸部単純X線写真及び胸部CT所見より、巨大腫瘤陰影について文献的に検討を行った。
症 例
Y.Y. 36歳、女性
身長160cm、体重50Kg。
生後6ヶ月の頃に発熱して近医受診し、胸部単純X線写真で肺野異常陰影を指摘された。肺炎の診断のもとに精査を受け、先天的な胸膜の異常であろうと言われた。

十数年前、健診で右肺野に巨大腫瘤陰影を指摘され、確定診断のために生検を勧められたが全く症状がないため拒否した。これ以後、この巨大腫瘤陰影について胸部単純X線写真上で増大を指摘されたことはなく、症状の出現もない。
既往歴;気管支喘息。ヨード過敏症あり。
<胸部単純X線写真>
平成9年5月に撮影された胸部単純X線写真正面像では、右中下肺野を占めるほぼ三角形の巨大腫瘤陰影を認めた。これは上大静脈や心陰影とのシルエットサインは陽性であるが肺野との境界は鮮明であり、縦隔陰影の移動は認められなかった。また、陰影の濃度はほぼ均一であり、肺血管が透見できた。尚、脊椎に左方へ凸の側弯症を認めた。側面像では心陰影と重なって、横隔膜の上部を基底とする細長い三角形の陰影を認めた。

 平成8年1月に撮影された胸部単純X線写真正面像では右肺野の巨大腫瘤は平成9年のそれと比較して、大きさや形および陰影濃度に差違は見られなかった。
<胸部CT>
上縦隔から下縦隔まで広く位置する巨大腫瘤を認めた。腫瘤は辺縁整で肺組織との境界は鮮明であった。前胸壁および縦隔内の血管や心臓と接しているが圧排や浸潤を示す所見はなかった。腫瘤の平均CT値は約−70HUであった。この腫瘤は脂肪組織を多く含むものと思われ、内部に線状の軟部組織様の部分が混在していた。また、石灰化や腹腔内脂肪組織との連続性は認められなかった。

<血液検査>
 表−1に示すように炎症所見は認めなかった。

RBC(/μl) 427マン ビリルビン(mg/dl) 0.7
Hb(g/dl) 13.2 GOT(mg/dl) 15
Ht(%) 39.7 GPT(mg/dl) 15
BUN(mg/dl) 12.5
WBC(/μl) 4500 クレアチニン(mg/dl) 0.8
St(%) 2 尿酸ニョウサン(mg/dl) 4.2
Seg(%) 50
Lym(%) 42 蛋白タンパク分画ブンカク
Mo(%) 2 A/G 2.24
Eo(%) 3 Alb.(%) 69.2
Ba(%) 1 α1(%) 2.2
α2(%) 7.8
血小板ケッショウバン(/μl) 16.5マン β(%) 6.7
γ(%) 14.1
ESR(mm)
30フン 1
60フン 3
120フン 5
CRP(mg/dl) 0.1
血糖ケットウ(mg/dl) 83
表1:血液検査結果
考 察
 胸部単純X線写真で巨大な腫瘤陰影を見た場合、鑑別すべき疾患として、脂肪腫(良性・悪性)、縦隔の脂肪塊、Thymolipoma、成熟した奇形腫、大網のヘルニア、巨大な胸膜腫瘍、心臓陰影の拡大などがある(1)(2)。確定診断は組織所見によるが、画像診断でそれぞれに特徴的な所見が報告されている。他医療機関で十数年前に巨大腫瘤を指摘されて以後、その腫瘤の増大はなく全く症状がないという臨床経過、胸部単純X線写真および胸部CTからこの症例は、前述した疾患のうち脂肪腫、縦隔の脂肪塊、Thymolipoma、大網のヘルニア(Morgagni hernia)および巨大な胸膜腫瘍などが考えられた。
<臨床経過について>
本症例は、右肺に巨大な腫瘤陰影が存在しているが無症状であり、腫瘤陰影を指摘されてから比較的長い間(乳児期に指摘されたものと今回の腫瘤陰影が同一とすれば約36年、我々の手元にあるX線写真でも少なくとも1年4ヶ月)大きさに変化無いと思われ悪性のものは考えにくい。さらに、Morgagni herniaを来しうる肥満、老人、外傷、その他腹腔内圧の高まる疾患もなく、大網の脂肪が増加しうる長期糖質コルチコイド治療も受けていなかった。また、血液検査から炎症反応は見られなかった。
 胸腺由来の良性腫瘍であるThymolipomaはLangeが1916年初めて報告したとされる。(3)このThymolipomaは胸部単純X線写真上で時に特徴的な所見を呈すると言われるが、術前に診断がなされることは稀である。また、Thymolipomaの症状はかなり大きいものでも無症状のことが多く、時に咳や息苦しさを訴えるが胸痛は稀とされる。
 成人のMorgagni herniaは稀とされ(4)、無症状のものもあるが(5)嘔吐を訴えた症例(6)、心窩部痛と嘔吐を訴えた症例(4)や、腸閉塞を発症した症例がある(7)(8)。
 本症例において臨床経過で疾患を明確に鑑別するのは困難であった。
<胸部単純X線所見について>
Thymolipomaの胸部単純X線の特徴は(1)多くの場合、前下縦隔に存在し、心臓に接し(3)、(2)肺組織に接してはっきりした境界を示す(2)、と言われる。また、注意すべき点として、Thymolipoma がPulmonary Sequestrationに類似した所見を呈することがあると言われる(9)。
Morgagni hernia は一般的に、右側に多い。これは左側の欠損の場合、心臓と心膜によって塞がれてしまうためである。そのため、Morgagni herniaは右肺野の脂肪に類似した腫瘤と鑑別が必要となってくる。単純X線写真では大腸のループを見ることがあれば容易に診断される。しかし、大腸のループを見ない Morgagni herniaで脂肪腫に似た症例が報告されている(10)。
 本症例の胸部単純X線写真から、巨大腫瘤陰影は縦隔洞由来の脂肪組織を多く含んだ腫瘤である可能性が高いと考えられた。
<胸部CT所見について>
 ThymolipomaのCT所見の特徴について、次の2つの報告がある。(1)脂肪組織内に軟部組織影が点在している。この点で広範な脂肪濃度を示す良性脂肪腫と鑑別される(11)(12)。(2)脂肪組織と軟部組織とがおよそ同量存在するようなCT値を示す型と脂肪組織優位のCT値を示す型とがある。ミクロ的に石灰化があってもCT上は石灰化が見られない(2)。
一方、CT所見からMorgagni herniaを強く示唆する特徴には、(1)脂肪組織の中にはっきりとした直線または曲線がみられる、(2)横隔膜との不連続、腹部脂肪と連続している胸腔内脂肪塊である、(3)大網の血管陰影などであると言う報告がある(13)。
本症例では、全体的には脂肪組織優位のCT値を示し内部に軟部組織影が混在していた。また、腹部脂肪との連続性が見られずMorgagni hernia よりもThymolipomaが強く疑われた。
結 語
本症例のように長期にわたって無症状であると、侵襲的検査に対する患者の同意を受けにくい。
臨床経過と胸部単純X線写真および胸部CT所見から、本症例の巨大腫瘤陰影はThymolipoma が最も疑われた。最終診断は生検によらねばならないが、長期にわたって無症状のため生検を拒否しており経過観察とした。

引用文献
(1) Almog,C.H.,Weissberg,D.,Herczeg,E.,Pajewski,M.,Tymolipoma simulating cardiomegaly:a clinicopathological rarity,Thorax,32:116-120,1977
(2)Pugatch,R.D.,Moran,C.A.,Galobardes,J.,Thymolipoma:Analysis of 27 cases,Radiology,193:121-126,1994
(3)Teplick,J,G.、Nedwich,A、Haskin,M.E.、Roentgenographic features of thymolipoma.AJR ;117:873-877,1973
(4)Bhasin,D.K.,Nai,B.,Gupta,N.M.,Singh,K.,chronic Intermittent Gastric Volvulus within the Foramen of Morgagni,Am.Coll.of Gastroenterology,84(8);1106-1108,1989
(5)Chauhan,M.S.,Chopra,R.K.,Jayaswal,R.,Tewari,S.C.,Morgagni's hernia in an asymptomatic individual,Indian J Chest Dis & All Sci.29(3);171-174,1987
(6)Sortey,D.D.,Mehta,M.M.,Jain,P.K.,Agrawal,S.R.,Gadkari,S.M.,Congenital Hernia Through the Foramen of Morgagni, Journal of Postgraduate Medicine,36(2);109-111,1990
(7)Sakalkale,R.P.,Sankhe,M.,Nagral S.,Patel,C.V.,Obstructed Morgagni's Hernia,Journal of Postgraduate Medicine,37(4);229-230,1991
(8)Kuster,G.G.R.,Kline,L.E.,Garzo,G.,Diaphragmatic Hernia Through the Foramen of Morgagni:Laparoscopic Repair Case Repot,Journal of Laparoscopic Surgery,2(2);93-100,1992
(9)Lemuel Herrera,Mustafa Oz,James Lally,Allen Davies, Thymolipoma simulating Pulmonary Sequestration.J Pediatric Surgery,17(3);313-315,1982
(10)Gerard,P.S.,Wilck,E.,Senderoff,E.,Golbey,S.,Morgagni hernia mimiking a lipomatous tumor,New York State J of Med.,93(19):58-59,1993
(11)Yeh,H-C.,Gordon,A.,Kirschner,P.A.,Cohen,B.A.,Computed Tomography and Sonography of Thymolipoma,AJR 140:1131-1133,1983)
(12)Faerber,E.N.,Balsara,R.K.,Schidlow,D.V.,Marmon,L.M.,Zaeri,N.,Thymolipoma:computed tomographic appearances ,Pediatr Radiol,20:196-197,1990
(13)King,S.L., ,New York State J of Med., Letter to the editor ,September,1987

Keyord: Thymolipoma,Giant tumor,Lung

尖端熱性紅痛症と異所性石灰化症を合併した血液透析患者の1例

緒 言
全身性エリテマトーデス(以下、SLEと略す)により腎不全を来した血液透析患者において、尖端熱性紅痛症(以下、EMと略す)の発症とともに皮下に急速に異所性石灰化症(以下、ECと略す)を来した症例を経験したので報告する。
症 例
H.T.30歳、男性
主訴;両側指先の熱感とじんじんする痛み
既往歴;特記すべきもの無し。
現病歴;
18歳よりSLEの診断のもとに某医にて外来治療を受けていた。ネフローゼ状態となり慢性腎不全が悪化し、20歳で血液透析を導入した。23歳の時に腎臓移植を受けたが、腎機能が次第に悪化した。このため26歳より再び血液透析を開始し、移植腎は摘出された。尚、血液透析は1回4時間、週3回行った。使用した透析膜の有効膜面積は1.5u、内径200μmであり、用いた透析液は100ml中に塩化カルシウムを0.772g含むものであった。血液透析を再導入して約1年後より、次第に階段の昇降のときに両膝関節痛が増強するようになった。非ステロイド消炎鎮痛剤(ロキソプロフェンナトリウムを1日120mg)を投与したが改善せず、平成8年1月(28歳)よりプレドニン15mg/日の投与を開始し、痛みは日常生活に支障を来さない程となった。平成8年6月、膝関節痛が改善したのでプレドニンを10mg/日に減量した。平成8年8月、左手第2指の尖端に発赤が出現した。その発赤は次第に拡大し、熱い感じとじんじんする痛みを伴うようになった。入浴したり手を振り下ろすときに同部の痛みは増強し、冷水に浸すと軽減した。


写真:1

平成9年10月、左手第2、3,4指および右手第2指の腫張が出現した。特に左手第2、3指の腫張は急速に進行し、腫張が著しい左手第2指の最も発赤した部位ではその中央の一部が黄色であった(写真1)。


写真:2

両手指レントゲン写真で左手第2,3指と右手第2指に、ブドウの房様の石灰沈着を認めた(写真2)。


写真:3

穿刺したところ乳白色不透明、粘稠な液体が流出した(写真3)。


写真:4

室温放置すると白色の石灰の塊になった(写真:4)。

現症;
 体格中等度、栄養良好。
 眼瞼結膜に貧血を認める以外に胸腹部理学的所見に異常を認めず。
 血液検査にて血清Caは正常範囲にあったが、血清PおよびALPは常に高値を示し、高感度PTHも高値であった。自己抗体の推移をみるとプレドニン非投与時、抗核抗体が陽性であった。膝関節痛のためプレドニン10mg/日投与している経過中、補体価は低下していたが抗核抗体は陰性となった。また、抗燐脂質抗体は陰性であった。左第2中手骨中央でDIP法にて骨塩量の変化をみると、狽fS/DもMCIいずれも次第に低下した(表1)。ビー・エム・エル株式会社に乾燥した穿刺液(写真4)の分析を依頼したところ、主成分はリン酸カルシウムであった。治療経過を図2に示す。
H6.4 H8.11 H9.1
抗核抗体コウカクコウタイ 640(speckled) 20以下イカ
コウDNA抗体コウタイ LT80 LT80
コウRNP抗体コウタイELISA 2.6 2.4
LE細胞サイボウ (-) (-)
補体価ホタイカ(U/ml) 27 19
コウリン脂質シシツ抗体コウタイ(U/ml) 0.7未満ミマン
HCV抗体コウタイ (+)
反応ハンノウ (-)
コツエンリョウ/DIP(ヒダリダイ中手骨チュウシュコツ中央チュウオウ
H7.6. H7.12. H8.6. H8.12.
ΣGS/D (mmal) 2.82 2.39 2.46 2.29
MCI 0.39 0.363 0.352 0.334
H8.7. H8.8. H.8.9. H.8.10. H.8.11.
Ca(mg/dl) 9.4 9.5 9.7 9.4 9.4
P(mg/dl) 8.6 7.3 8.4 11.2 8.4
ALP(IU/l) 337 293 312 342 293
H8.5. H9.3.
高感度コウカンドPTH(ng/ml) 170 130
ヒョウ1:検査ケンサ結果ケッカ
H6.4 H8.1 H8.3 H.8.6 H.8.10 H8.11 H9.4.1
プレドニゾロン   5mg 15mg 10mg 10mg 10mg 10mg
プラノプロフェン   25mg 25mg 25mg 25mg 25mg
クロナゼパム(0.5mg)   0.5mg 0.5mg
乳酸ニュウサンカルシウム 3g −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− −−−−−−−−−−−−− 3g
アルファカルシドール 0.5μg −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− −−−−−−−−−−−−− 0.5μg
パルス療法リョウホウ   H8.3.17−3.19  
エルカルシトニン(20単位タンイ   シュウカイ
エチドロンサンナトリウム H9.1.24-2.4            
ヒョウ2:治療チリョウ経過ケイカ (H9.4.1転院)
考 察
尖端熱性紅痛症(erythermalgia)や肢端紅痛症(erythromelalgia)と言われる指先の痛みや熱感は特徴的であることが多く、特発性のものや基礎疾患を有する二次性のものがある。
肢端紅痛症は慢性骨髄性疾患に多く見られ、アスピリンに良く反応する燃えるような苦痛と赤色の欝血であるといわれる。これに対して、EMはいくつかの特徴がある。特発性のEMの場合、1)増強する局所の熱感と燃えるような痛みの発作、2)両側性、3)運動や熱によって生じ増強する、4)冷やしたり安静や症状のある側の四肢を挙上する事でいつも軽減される、5)基礎疾患や併発症がない、6)治療に反応しないなどである。またEMはadult-onsetとearly-onsetに分類されており、そのうちadult-onsetは特発性、骨髄疾患に伴うもの、全身疾患に伴うものの3つに分けられている。
SLEは二次性のEMを来すことが報告されており、その発生頻度はSLE患者210例中5例であったとの報告もある(1)。SegoviaらはEMがSLEの初期症状であった症例を報告している(2)。SLEにおけるEMの発症メカニズムは不明であるが、Michelsらは炎症性循環障害が関与することを示唆し(3)、EMを来したSLE患者の皮膚病理組織学的検討からDrenthらは皮膚の血管炎の関与を示唆している(4)。
本症例は、SLEの合併症である腎不全により血液透析が行われる中でECが出現した。透析患者に見られるECの誘因で最も多いのは高リン血症であり、次いで、高カルシウム透析液の使用、急激かつ過度の体液のアルカリ化、副甲状腺機能亢進症、活性型ビタミンDの過剰投与がある(5)。本症例では高リン血症と血清副甲状腺ホルモンの増加が見られた。Velentzas らは血液中のカルシウム濃度とリンの濃度の積が透析患者において84.3±23.7と高値であったグループでECを発症しやすいと報告している(6)。本症例は血液中のカルシウム濃度とリンの濃度の積が69〜105の間で変動しており、本症例は臨床経過から、SLEにEMを発症したことでECが促進されたものと思われる。
 SLEに伴うEMに有効な治療は少ないと言われるが、Segoviaらは1日プレドニン30mgの投与で全ての症状が消失した症例を報告している(7)。さらに、SLE患者の肢端紅痛症にたいしてはclonazepamが有効であった報告がある(8)。本症例では、EMに対して非ステロイド性消炎鎮痛剤を投与したが無効であり、プレドニンを15mg/日に増量し膝関節痛のコントロールが可能となったが腹部不快感をきたし、維持量を10mg/日とした。手指の痛みのコントロールに対してリボトリールを用いたが眠気が強く十分な量を投与できなかった。このため、疼痛のコントロールは不十分であった。ECの治療は、食事によるリンの制限には限界があり、透析効率を上げて血液中のリンやカルシウム濃度のコントロールを行うにも限界がある。ECにカルシトニンが有効であると言われており、本症例にも投与したが効果はみられなかった。さらに、外科的に穿刺排除する方法もある。本症例も穿刺排除を行ったがブドウの房状になっており十分な排除が出来ず、再び石灰が沈着した。この他の治療として副甲状腺亜全摘術もあるが、本症例は仕事の都合で転院したため行っていない(5)。
結 語
血液透析を行っているSLE患者で、二次性尖端熱性紅痛症に異所性石灰化症を合併した症例を経験したので報告した。

参考文献
(1)Segovia.D.A..,Jouanen.E.D.、Erythromalgia in systemic lupus erythematosus、Am J Med Sci,266(2):149-151,1973
(2)Segovia,D.A.,Babb.R,R.Fairbairn.J.F.,Systemic lupus erythematosus with erythermalgia,Arch Intern Med ,112:102-106,1963
(3)Michels,J.J.,Van Joost,T.,Primary and secondary erythermalgia,a critical review、Netherlands J Med,33:205-208,1988
(4)DrenthJ.P.H.,Michels,J.J.,Joost,T.V.,Vuzevski.V.D..、Secondary Erytermalgia in Systemic Lupus Erythemaosus、J Rheumatol 20(1):144-146,1993
(5)井上聖士、透析患者の骨病変、黒川清、他 編集、351−360,1993
(6)Velentzas.C.,et al,Detection and pathogenesis of visceral calcification in dialysis patients and patients with malignant disease,CMA Jounal,118:45-50,1978
(7)Segovia,D.A,.Jouanen.E.D.、Erythromalgia in systemic lupus erythematosus、Am J Med Sci,266(2):149-151,1973
(8)Kraus,A..,Erythromelalgia in a patient with systemic lupus erythematosus treated with clonazepam,J Reumatol,17:120,1990

Keyword::hemodialysis 、systemic lupus erythematosus、erythromalgia、ectopic calcification

痴呆性老人の異食症:新素材オムツの異食により食道閉塞を来した1症例

緒  言

 痴呆性老人の異食症は稀なことではなく、ケアには細心の注意を払わなければならない。一方、水分を含んで膨張しその水分を取り込んだまま固まり、粘着性をもつ新素材のオムツの使用量が増加しており、この異食による事故は今後増えるものと思われる。今回、新素材オムツの異食により食道閉塞を来した痴呆性老人を経験したので報告する。

症例;A.U.84歳、女性。

既往歴:特記すべきものなし
現病歴:生来健康であった。平成8年5月24日脳血管性痴呆の診断のもとに老人保健施設へ入所した。
現症:体格小、栄養やや不良。胸腹部理学的所見は異常なし。
痴呆症状:記憶障害、場所・時・人物等全てに対する失見当識、徘徊、収集癖
HDS−R:0点
柄沢式痴呆評価:(+4)高度の痴呆

経過:時にティッシュペーパーを、口に入れることがあった。熟睡するようになって、不穏行動や徘徊は減少した。平成9年5月3日朝食摂取量が減少し、少量の嘔吐を認めた。昼食は摂取せず、夕食は1/3摂取してすぐに全て嘔吐した。5月4日食欲が著しく低下し、口渇感を訴え少量の水分摂取で嘔吐した。吐物は唾液と水分のみで腹部に圧痛は認めなかった。絶食とし、1日1500mlの点滴で経過を見ていた。腹部単純X線写真でイレウスを疑わせる所見はなかった。5月5日の朝、少量の水分を摂取したが嘔吐はなかった。昼に約50CCの水分摂取で嘔吐したため5月6日併設の当院に入院し、胃内視鏡を行った。

写真シャシン:1 写真シャシン:2
写真シャシン:3 写真シャシン:4

前歯列より20cmの部位より食道壁に密着したゼリー状異物少量の線維が認められた。内視鏡の挿入は可能であった(写真1)。その奥はゼリー状異物で内腔は狭くなっており(写真2)、さらに進むとパルプ状異物と膨張したゼリー状異物によって食道内腔は1/2程度に狭くなっていた(写真3)。前歯列より35cmの部位で食道はほぼ閉塞し、この部位からさらに内視鏡の挿入を試みたが弾力性のある抵抗を認め中止した。そのゼリー状異物は、鉗子でつかむとちぎれて取り出すことは不可能であった。また、食道壁に強く密着しており、内視鏡を用いて肛側へ落下させることは不可能であった(写真4)。絶食とし、1日1500mlの点滴を行った。脱水症状の改善とともに体動が活発となったため、持続点滴を維持しにくくなり中心静脈栄養に変更した。ケアへの抵抗があり、中心静脈カテーテルを抜去する事があった。手術を前提に5月13日再び胃内視鏡を行ったところ、食道壁に少量のゼリー状異物と白色繊維を残して、食道閉塞は軽快していた。5月14日より食事を開始したが、それ以後の嘔吐は認めなかった。

考  察
 痴呆患者の異食症は稀なことではない。そして、痴呆患者の異食症による事故には充分な注意を払っていても、それを完全に防ぐことは難しい。痴呆患者の異食症の報告では、コイン(1)や小さな珠や直径3cmの石(2)などがある。
また尿失禁の対策としてのケア用品の素材は変化しつつあるが、最近は水分吸収素材にポリマー(高分子吸収体)が使われることが多くなった。
本症例は、尿吸収パッドのポリマーを夜間に異食し、飲水によりポリマーが水分を吸収して膨張することにより食道閉塞を起こした。この尿吸収パッドの主な素材はポリプロピレン製不織布、綿状パルプ、ポリマーであった。これらの素材のうちポリマーは、強力に水分をキャッチし素早くゼリー状に固める性質を持っている。ポリマーが水分を吸収してゼリー状になると、水分を保持する性質を持っているので体積が減少しにくい。異食されたポリマーは食道壁の水分を吸収してゼリー状になり食道壁に付着する。さらに飲み込んだ水分を含んで膨張し、次第に食道の内腔は狭くなる。場合によっては、本症例のように食道閉塞に至る。このようになったポリマーからの水分の放出は、あまり期待できないと思われる。本症例が自然軽快を見た理由としては、異食したティッシュとパルプ材の水分減少が考えられる。更に、PH3の塩酸によりポリマーは完全にとは言えないが溶けるのが確認されたことから、逆流した胃液により食道内異物の体積減少と粘着性の低下をもたらした可能性があった。こうして偶然、食道内異物が肛側へ落下して食道閉塞が軽快したものと思われた。本症例は外科的処置を行わずに1週間の絶食と中心静脈栄養で自然軽快をみた。ポリマーによる消化管通過障害は脱水に注意しながら1週間前後の絶食で、場合によっては軽快する可能性があることが示唆された。
異食による消化管閉塞の事故を予防するために、口の中に入れると催吐症状を引き起こすような素材の工夫が必要と思われた。
 痴呆患者の異食症において確認された異物の中に、新しい素材であるポリマーの報告は見あたらない。痴呆患者に異食症を見ることは稀なことではなく、ポリマーの使用頻度が高くなるにつれて、この異食症が今後増加するものと思われる。

結  語

痴呆性老人は増加傾向を示し、異食症による事故の増加が予想される。尿失禁ケア用品の新素材として水分を含んで膨張し水分を取り込んだまま固まり、粘着性もある素材が多く使用されている。異食症の痴呆性老人が新素材オムツを食べて食道閉塞を来したが、外科的処置を行わずに1週間の絶食と中心静脈栄養で自然軽快をみた。

尚、本症例は第1回山口県老年痴呆研究会(2000.3.23)において発表した。

引用文献
(1)Gary D.Roark,Kalyanam Subramanyam,Margcel Patterson: Ingested Foreign Material in Mentally Disturbed Patients,Southern Medical Journal:76(9);1125-1127,1983
(2)A.C.Robinson and G.Radcliffe, Foreign bodies and dementia:The Journal of Laryngology and Otology,99;609-610,1985

Key words:痴呆、異食、ポリマー、食道閉塞

Pica of polymer in the Patient with Dementia


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