万葉集 巻第3
#[番号]03/0235
#[題詞]雜歌 / 天皇御遊雷岳之時柿本朝臣人麻呂作歌一首
#[原文]皇者 神二四座者 天雲之 雷之上尓 廬為<流鴨>
#[訓読]大君は神にしませば天雲の雷の上に廬りせるかも
#[仮名],おほきみは,かみにしませば,あまくもの,いかづちのうへに,いほりせるかも
#[左注]右或本云獻忍壁皇子也 其歌曰 王 神座者 雲隠伊加土山尓 宮敷座
#[校異]鴨流 -> 流鴨 [西(訂正)][類][古][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,現人神,天皇讃美,宮廷讃美,飛鳥,地名,枕詞,忍壁皇子
#[訓異]
#[大意]大君は神でいらっしゃるので天雲の雷のほとりに廬をお造りになっていることだ
#{語釈]
天皇 天武天皇、持統天皇、文武
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0235S
#[題詞]右或本云獻忍壁皇子也 其歌曰
#[原文]王 神座者 雲隠伊加土山尓 宮敷座
#[訓読]大君は神にしませば雲隠る雷山に宮敷きいます
#[仮名],おほきみは,かみにしませば,くもがくる,いかづちやまに,みやしきいます
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,現人神,天皇讃美,宮廷讃美,飛鳥,地名,枕詞,異伝,忍壁皇子
#[訓異]
#[大意]大君は神でいらしゃるので雲に隠れる雷山に宮をご造営になっていらっしゃる。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0236
#[題詞]天皇賜志斐嫗御歌一首
#[原文]不聴跡雖云 強流志斐能我 強語 比者不聞而 朕戀尓家里
#[訓読]いなと言へど強ふる志斐のが強ひ語りこのころ聞かずて我れ恋ひにけり
#[仮名],いなといへど,しふるしひのが,しひかたり,このころきかずて,あれこひにけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:持統,問答,志斐嫗
#[訓異]
#[大意]いやだと言っても無理強いをする志斐の強い語りよ。この頃聞かないで自分は恋い思っていることだ
#{語釈]
天皇 持統天皇
志斐嫗 伝未詳 伝承の語りを行っていたか。担い手は古老。
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0237
#[題詞]志斐嫗奉和歌一首 [嫗名未詳]
#[原文]不聴雖謂 語礼々々常 詔許曽 志斐伊波奏 強<語>登言
#[訓読]いなと言へど語れ語れと宣らせこそ志斐いは申せ強ひ語りと詔る
#[仮名],いなといへど,かたれかたれと,のらせこそ,しひいはまをせ,しひかたりとのる
#[左注]
#[校異]話 -> 語 [紀]
#[鄣W],雑歌,作者:志斐嫗,持統,問答
#[訓異]
#[大意]いやだと言っても語れ語れとおっしゃるから志斐めは申し上げるのです。なのにどうして強い語りとおっしゃるおですか。
#{語釈]
志斐い 「い」強意の副助詞 04/0545
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0238
#[題詞]長忌寸意吉麻呂應詔歌一首
#[原文]大宮之 内二手所聞 網引為跡 網子調流 海人之呼聲
#[訓読]大宮の内まで聞こゆ網引すと網子ととのふる海人の呼び声
#[仮名],おほみやの,うちまできこゆ,あびきすと,あごととのふる,あまのよびこゑ
#[左注]右一首
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:長意吉麻呂,大阪,地名,応詔
#[訓異]
#[大意]大宮の仲まで聞こえてくる。網を引くとして網の引き手を統率する海人の呼び声よ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0239
#[題詞]長皇子遊猟路池之時柿本朝臣人麻呂作歌一首[并短歌]
#[原文]八隅知之 吾大王 高光 吾日乃皇子乃 馬並而 三猟立流 弱薦乎 猟路乃小野尓 十六社者 伊波比拝目 鶉己曽 伊波比廻礼 四時自物 伊波比拝 鶉成 伊波比毛等保理 恐等 仕奉而 久堅乃 天見如久 真十鏡 仰而雖見 春草之 益目頬四寸 吾於富吉美可聞
#[訓読]やすみしし 我が大君 高照らす 我が日の御子の 馬並めて 御狩り立たせる 若薦を 狩路の小野に 獣こそば い匍ひ拝め 鶉こそ い匍ひ廻れ 獣じもの い匍ひ拝み 鶉なす い匍ひ廻り 畏みと 仕へまつりて ひさかたの 天見るごとく まそ鏡 仰ぎて見れど 春草の いやめづらしき 我が大君かも
#[仮名],やすみしし,わがおほきみ,たかてらす,わがひのみこの,うまなめて,みかりたたせる,わかこもを,かりぢのをのに,ししこそば,いはひをろがめ,うづらこそ,いはひもとほれ,ししじもの,いはひをろがみ,うづらなす,いはひもとほり,かしこみと,つかへまつりて,ひさかたの,あめみるごとく,まそかがみ,あふぎてみれど,はるくさの,いやめづらしき,わがおほきみかも
#[左注]
#[校異]短歌 [西] 短謌
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,長皇子,猟,大君讃美,枕詞
#[訓異]
#[大意]八方をお治めになる我が大君。天高くお照らしになる我が日の御子が馬を並べて御猟にお立ちになる若い薦を苅るという狩路の小野に鹿や猪こそ這って拝むであろう。鶉こそはい回るであろう。その獣たちのように伏し拝み、鶉のように這い回り恐れ多いのでお仕え申し上げて久方の天を見るようにまそ鏡ではないが仰いで見るけれども春草のようにますますご立派で心引かれる我が大君であることだ
#{語釈]
長皇子 天武天皇第七皇子 母は天智天皇娘大江皇女。同母弟に弓削皇子。和銅八年六月四日薨去。01/60
猟路池 奈良県桜井市鹿路、或いは奈良県宇陀郡榛原町
#[説明]
いつ頃詠まれたかは不明。
#[関連論文]
#[番号]03/0240
#[題詞](長皇子遊猟路池之時柿本朝臣人麻呂作歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]久堅乃 天歸月乎 網尓刺 我大王者 盖尓為有
#[訓読]ひさかたの天行く月を網に刺し我が大君は蓋にせり
#[仮名],ひさかたの,あめゆくつきを,あみにさし,わがおほきみは,きぬがさにせり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,長皇子,大君讃美,枕詞
#[訓異]
#[大意]h久方の天を行く月を網で捕まえて我が大君は衣笠になさった。
#{語釈]
網に刺し 狩場にふさわしい言い方として網で捕まえるとした
#[説明]
狩りの宴での即興歌か。
#[関連論文]
#[番号]03/0241
#[題詞](長皇子遊猟路池之時柿本朝臣人麻呂作歌一首[并短歌])或本反歌一首
#[原文]皇者 神尓之坐者 真木<乃>立 荒山中尓 海成可聞
#[訓読]大君は神にしませば真木の立つ荒山中に海を成すかも
#[仮名],おほきみは,かみにしませば,まきのたつ,あらやまなかに,うみをなすかも
#[左注]
#[校異]乃 -> 之 [類][古][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,長皇子,現人神,大君讃美,猟,異伝
#[訓異]
#[大意]大君は神でいらっしゃるので立派な木が林立している荒い山の仲に海を作られている
#{語釈]
海を成すかも 猟路池を海に見立てて長皇子を讃美したもの
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0242
#[題詞]弓削皇子遊吉野時御歌一首
#[原文]瀧上之 三船乃山尓 居雲乃 常将有等 和我不念久尓
#[訓読]滝の上の三船の山に居る雲の常にあらむと我が思はなくに
#[仮名],たきのうへの,みふねのやまに,ゐるくもの,つねにあらむと,わがおもはなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:弓削皇子,吉野,地名,不安
#[訓異]
#[大意]急流のほとりの三船の山にかかっている雲のようにいつまでも生きながらえていようとは思ってはいないよ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0243
#[題詞](弓削皇子遊吉野時御歌一首)春日王奉和歌一首
#[原文]王者 千歳<二>麻佐武 白雲毛 三船乃山尓 絶日安良米也
#[訓読]大君は千年に座さむ白雲も三船の山に絶ゆる日あらめや
#[仮名],おほきみは,ちとせにまさむ,しらくもも,みふねのやまに,たゆるひあらめや
#[左注]
#[校異]尓 -> 二 [類][古][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:春日王,弓削皇子,吉野,地名
#[訓異]
#[大意]大君は千年も後までいらっしゃるでしょう。白雲も三船の山に堪える日がありましょうか。
春日王 系譜未詳。文武3年(699)6月27日で没。04/669の志貴皇子の子の春日王とは別人。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0244
#[題詞](弓削皇子遊吉野時御歌一首)或本歌一首
#[原文]三吉野之 御船乃山尓 立雲之 常将在跡 我思莫苦二
#[訓読]み吉野の三船の山に立つ雲の常にあらむと我が思はなくに
#[仮名],みよしのの,みふねのやまに,たつくもの,つねにあらむと,わがおもはなくに
#[左注]右一首柿本朝臣人麻呂之歌集出
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,弓削皇子,吉野,異伝,地名,柿本人麻呂歌集,非略体
#[訓異]
#[大意]み吉野の三船の山に立つ雲ではないがいつまでも生きているとは自分は思っていなよ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0245
#[題詞]長田王被遣筑紫渡水嶋之時歌二首
#[原文]如聞 真貴久 奇母 神左備居賀 許礼能水嶋
#[訓読]聞きしごとまこと尊くくすしくも神さびをるかこれの水島
#[仮名],ききしごと,まことたふとく,くすしくも,かむさびをるか,これのみづしま
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:長田王,羈旅,土地讃美,水俣,熊本,地名
#[訓異]
#[大意]話に聞いていたとおりに本当に貴く霊妙に神々しくなっているかここ水島は。
#{語釈]
長田王 奈良朝風流侍従の一人。天平9年6月正四位下で没。03/248に隼人の瀬戸での歌がある。この時は慶雲年中か神亀年中の注。03/247。この時と同じか。
水嶋 熊本県八代市植柳 球磨川の支流南川河口の島か。
#[説明]景行天皇一八年四月一八日
#[関連論文]
#[番号]03/0246
#[題詞](長田王被遣筑紫渡水嶋之時歌二首)
#[原文]葦北乃 野坂乃浦従 船出為而 水嶋尓将去 浪立莫勤
#[訓読]芦北の野坂の浦ゆ船出して水島に行かむ波立つなゆめ
#[仮名],あしきたの,のさかのうらゆ,ふなでして,みづしまにゆかむ,なみたつなゆめ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:長田王,羈旅,水俣,熊本,地名
#[訓異]
#[大意]芦北の野坂の浦から船出して水島に行こう。浪よ立つな。決して。
#{語釈]
芦北の野坂の浦 熊本県葦北郡不知火海に面した海岸。芦北町佐敷、田浦町あたりか
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0247
#[題詞]石川大夫和歌一首 [名闕]
#[原文]奥浪 邊波雖立 和我世故我 三船乃登麻里 瀾立目八方
#[訓読]沖つ波辺波立つとも我が背子が御船の泊り波立ためやも
#[仮名],おきつなみ,へなみたつとも,わがせこが,みふねのとまり,なみたためやも
#[左注]右今案 従四位下石川宮麻呂朝臣 慶雲年中任大貳 又正五位下石川朝臣吉美侯 神龜年中任小貳 不知兩人誰作此歌焉
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:石川大夫(宮麻呂:君子),長田王,羈旅,和歌
#[訓異]
#[大意]沖の波や岸辺の波が立つとしても我が背子の御船の停泊地に波が立つでしょうか。
#{語釈]
従四位下石川宮麻呂朝臣大臣石川連子の子 慶雲2年11月従四位下太宰大貳
正五位下石川朝臣吉美侯 霊亀元年播磨守 太宰小貳任官は記録にない。
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0248
#[題詞]又長田王作歌一首
#[原文]隼人乃 薩麻乃迫門乎 雲居奈須 遠毛吾者 今日見鶴鴨
#[訓読]隼人の薩摩の瀬戸を雲居なす遠くも我れは今日見つるかも
#[仮名],はやひとの,さつまのせとを,くもゐなす,とほくもわれは,けふみつるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:長田王,羈旅,黒瀬戸,鹿児島,地名
#[訓異]
#[大意]隼人の薩摩の瀬戸を雲がいるはるかなように遠くまで自分は今日やって来たことだ
#{語釈]
隼人の薩摩の瀬戸 黒の瀬戸
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0249
#[題詞]柿本朝臣人麻呂覊旅歌八首
#[原文]三津埼 浪矣恐 隠江乃 舟公宣奴嶋尓
#[訓読]御津の崎波を畏み隠江の舟公宣奴嶋尓
#[仮名],みつのさき,なみをかしこみ,こもりえの,******
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,難訓,大阪,地名
#[訓異]
#[大意]御津の崎の波が恐ろしいので波の静かな江の******
#{語釈]
舟公宣奴嶋尓 難訓
ふねなるきみはぬしまへとのる 船にいるあなたは野島に速くとおっしゃる
#[説明]
往路(下り)
#[関連論文]
#[番号]03/0250
#[題詞](柿本朝臣人麻呂覊旅歌八首)
#[原文]珠藻苅 敏馬乎過 夏草之 野嶋之埼尓 舟近著奴
#[訓読]玉藻刈る敏馬を過ぎて夏草の野島が崎に船近づきぬ
#[仮名],たまもかる,みぬめをすぎて,なつくさの,のしまがさきに,ふねちかづきぬ
#[左注]一本云 處女乎過而 夏草乃 野嶋我埼尓 伊保里為吾等者
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,兵庫,道行き,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]玉藻を苅る敏馬を過ぎて夏草の野島の崎に船が近づいた
#{語釈]
玉藻刈る敏馬 敏馬神社がある。玉藻刈るで、人がいる様子。
夏草の野島が崎 人もいない荒涼とした様子。
宮古から離れる様子を言う。
往路(下り)
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0251
#[題詞](柿本朝臣人麻呂覊旅歌八首)
#[原文]粟路之 野嶋之前乃 濱風尓 妹之結 紐吹返
#[訓読]淡路の野島が崎の浜風に妹が結びし紐吹き返す
#[仮名],あはぢの,のしまがさきの,はまかぜに,いもがむすびし,ひもふきかへす
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,望郷,兵庫,地名
#[訓異]
#[大意]淡路の野島の崎の浜風で妹が結んだ紐を吹き返すことだ
#{語釈]
#[説明]
往路、帰路どちらとも(上り、下り)
#[関連論文]
#[番号]03/0252
#[題詞](柿本朝臣人麻呂覊旅歌八首)
#[原文]荒栲 藤江之浦尓 鈴木釣 泉郎跡香将見 旅去吾乎
#[訓読]荒栲の藤江の浦に鱸釣る海人とか見らむ旅行く我れを
#[仮名],あらたへの,ふぢえのうらに,すずきつる,あまとかみらむ,たびゆくわれを
#[左注]一本云 白栲乃 藤江能浦尓 伊射利為流
#[校異]泉 [西(左書)][類][細] 白水
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,霊触り,兵庫,異伝,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]荒栲の藤江の浦に鱸を釣る海人と見られるであろうか。旅を行く自分たちを
#{語釈]
荒栲の藤江の浦
#[説明]
往路、帰路どちらとも(上り、下り)
#[関連論文]
#[番号]03/0253
#[題詞](柿本朝臣人麻呂覊旅歌八首)
#[原文]稲日野毛 去過勝尓 思有者 心戀敷 可古能嶋所見 [一云 湖見]
#[訓読]稲日野も行き過ぎかてに思へれば心恋しき加古の島見ゆ [一云 水門見ゆ]
#[仮名],いなびのも,ゆきすぎかてに,おもへれば,こころこほしき,かこのしまみゆ,[みなとみゆ]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,土地讃美,異伝,兵庫,地名
#[訓異]
#[大意]稲日野も行き過ぎがたく思っていた所、心恋しい加古の島が見える
#{語釈]
#[説明]
帰路(上り)
#[関連論文]
#[番号]03/0254
#[題詞](柿本朝臣人麻呂覊旅歌八首)
#[原文]留火之 明大門尓 入日哉 榜将別 家當不見
#[訓読]燈火の明石大門に入らむ日や漕ぎ別れなむ家のあたり見ず
#[仮名],ともしびの,あかしおほとに,いらむひや,こぎわかれなむ,いへのあたりみず
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,望郷,兵庫,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]燈火の明石の海峡に入っていく日にだろうか。漕ぎ別れるのだろうか。故郷のあたりも見えない
#{語釈]
#[説明]
往路(下り)
#[関連論文]
#[番号]03/0255
#[題詞](柿本朝臣人麻呂覊旅歌八首)
#[原文]天離 夷之長道従 戀来者 自明門 倭嶋所見 [一本云 家門當見由]
#[訓読]天離る鄙の長道ゆ恋ひ来れば明石の門より大和島見ゆ [一本云 家のあたり見ゆ]
#[仮名],あまざかる,ひなのながちゆ,こひくれば,あかしのとより,やまとしまみゆ,[いへのあたりみゆ]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,望郷,兵庫,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]天離る鄙の長い道のりを家を恋い思って来ると、明石の海峡より大和嶋が見える[家のあたりが見える]
#{語釈]
#[説明]
大和を見ているので帰路(上り)
#[関連論文]
#[番号]03/0256
#[題詞](柿本朝臣人麻呂覊旅歌八首)
#[原文]飼飯海乃 庭好有之 苅薦乃 乱出所見 海人釣船
#[訓読]笥飯の海の庭よくあらし刈薦の乱れて出づ見ゆ海人の釣船
#[仮名],けひのうみの,にはよくあらし,かりこもの,みだれていづみゆ,あまのつりぶね
#[左注]一本云 武庫乃海 舳尓波有之 伊射里為流 海部乃釣船 浪上従所見
#[校異]海舳尓波 [紀]朱書 [全註釈] 海能尓波好 [訓 海の庭よくあらし]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,魂触り,兵庫,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]笥飯の海の庭はおだやかであるらしい。刈った薦のように乱れて出ているのが見える。海人の釣船よ。
#{語釈]
#[説明]
歌順からすると帰路(上り)
#[関連論文]
#[番号]03/0257
#[題詞]鴨君足人香具山歌一首[并短歌]
#[原文]天降付 天之芳来山 霞立 春尓至婆 松風尓 池浪立而 櫻花 木乃晩茂尓 奥邊波 鴨妻喚 邊津方尓 味村左和伎 百礒城之 大宮人乃 退出而 遊船尓波 梶棹毛 無而不樂毛 己具人奈四二
#[訓読]天降りつく 天の香具山 霞立つ 春に至れば 松風に 池波立ちて 桜花 木の暗茂に 沖辺には 鴨妻呼ばひ 辺つ辺に あぢ群騒き ももしきの 大宮人の 退り出て 遊ぶ船には 楫棹も なくて寂しも 漕ぐ人なしに
#[仮名],あもりつく,あめのかぐやま,かすみたつ,はるにいたれば,まつかぜに,いけなみたちて,さくらばな,このくれしげに,おきへには,かもつまよばひ,へつへに,あぢむらさわき,ももしきの,おほみやひとの,まかりでて,あそぶふねには,かぢさをも,なくてさぶしも,こぐひとなしに
#[左注]?(右今案 遷都寧樂之後怜舊作此歌歟)
#[校異]歌 [西] 謌 / 短歌 [西] 短謌
#[鄣W],雑歌,作者:鴨足人,哀惜,荒都歌,高市皇子,飛鳥,地名,植物
#[訓異]
#[大意]
天から降って来て付いた天の香具山よ。霞が立つ春になると松を吹く風で埴安の池に波が立ち、桜花が木の下が暗いばかりに沖では鴨が妻を呼び合い、岸の近くはあじ鴨が騒ぎ合っているがいつもだったら、百敷の大宮人が退出して船遊びをするその船には棹も梶もなくて寂しいことである。漕ぐ人もいなくって
#{語釈]
鴨君足人 伝未詳。現在藤原宮跡西に鴨公小学校がある。高市皇子の舎人だったか
池波 埴安池か
あぢ群 あじ鴨の群れ
#[説明]
左注には、奈良線都後のさびしさとあるが、高市皇子の薨去後、香具山宮を中心とした周辺に人気が亡くなっていく様子を描いたものか
#[関連論文]
#[番号]03/0258
#[題詞](鴨君足人香具山歌一首[并短歌])反歌二首
#[原文]人不榜 有雲知之 潜為 鴦与高部共 船上住
#[訓読]人漕がずあらくもしるし潜きする鴛鴦とたかべと船の上に棲む
#[仮名],ひとこがず,あらくもしるし,かづきする,をしとたかべと,ふねのうへにすむ
#[左注]?(右今案 遷都寧樂之後怜舊作此歌歟)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:鴨足人,哀惜,荒都歌,高市皇子,飛鳥,動物
#[訓異]
#[大意]人が船遊びをしないのも著しい。水に潜る鴛鴦とたかべが船の上に棲んでいる
#{語釈]
たかべ ガンカモ科の小型の水鳥
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0259
#[題詞]((鴨君足人香具山歌一首[并短歌])反歌二首)
#[原文]何時間毛 神左備祁留鹿 香山之 <鉾>椙之本尓 薜生左右二
#[訓読]いつの間も神さびけるか香具山の桙杉の本に苔生すまでに
#[仮名],いつのまも,かむさびけるか,かぐやまの,ほこすぎのもとに,こけむすまでに
#[左注]?(右今案 遷都寧樂之後怜舊作此歌歟)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:鴨足人,哀惜,荒都歌,高市皇子,飛鳥,地名
#[訓異]
#[大意]いつの間に神々しくなっていったのか。香具山の鉾杉の元に苔が生すまでに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0260
#[題詞](鴨君足人香具山歌一首[并短歌])或本歌云
#[原文]天降就 神乃香山 打靡 春去来者 櫻花 木暗茂 松風丹 池浪飆 邊都遍者 阿遅村動 奥邊者 鴨妻喚 百式乃 大宮人乃 去出 榜来舟者 竿梶母 無而佐夫之毛 榜与雖思
#[訓読]天降りつく 神の香具山 うち靡く 春さり来れば 桜花 木の暗茂に 松風に 池波立ち 辺つ辺には あぢ群騒き 沖辺には 鴨妻呼ばひ ももしきの 大宮人の 退り出て 漕ぎける船は 棹楫も なくて寂しも 漕がむと思へど
#[仮名],あもりつく,かみのかぐやま,うちなびく,はるさりくれば,さくらばな,このくれしげに,まつかぜに,いけなみたち,へつへには,あぢむらさわき,おきへには,かもつまよばひ,ももしきの,おほみやひとの,まかりでて,こぎけるふねは,さをかぢも,なくてさぶしも,こがむとおもへど
#[左注]右今案 遷都寧樂之後怜舊作此歌歟
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:鴨足人,哀惜,荒都歌,高市皇子,飛鳥,地名
#[訓異]
#[大意]
空から降ってきた神の香具山よ。草木の葉が風に靡く春になると桜花は満開になり木も暗くなるばかり。松を吹く風で池の波が立ち、岸辺ではあじ顔の群れが騒ぎ立て、沖では鴨が妻を呼び合っている。だけどももしきの大宮人が宮を退出して漕いでいた船は棹や梶もなくてさびしいことだ。漕ごうとは思うのだが
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0261
#[題詞]柿本朝臣人麻呂獻新田部皇子歌一首[并短歌]
#[原文]八隅知之 吾大王 高輝 日之皇子 茂座 大殿於 久方 天傳来 <白>雪仕物 徃来乍 益及常世
#[訓読]やすみしし 我が大君 高照らす 日の御子 敷きいます 大殿の上に ひさかたの 天伝ひ来る 雪じもの 行き通ひつつ いや常世まで
#[仮名],やすみしし,わがおほきみ,たかてらす,ひのみこ,しきいます,おほとののうへに,ひさかたの,あまづたひくる,ゆきじもの,ゆきかよひつつ,いやとこよまで
#[左注]
#[校異]短歌 [西] 短謌 / 自 -> 白 [類][紀][細]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,新田部皇子,献呈歌,飛鳥,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]やすみしし我が大君。空高くお照らしになる日の御子。いらっしゃる御殿の上に久方の天から伝わってくる雪のように、行き通い続けよう。いつまでも。
#{語釈]
新田部皇子 天武天皇の末息子。天平七年没。五五歳ぐらいか。
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0262
#[題詞](柿本朝臣人麻呂獻新田部皇子歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]矢釣山 木立不見 落乱 雪驪 朝樂毛
#[訓読]矢釣山木立も見えず降りまがふ雪に騒ける朝楽しも
#[仮名],やつりやま,こだちもみえず,ふりまがふ,ゆきにさわける,あしたたのしも
#[左注]
#[校異]矢 [細] 矣 / 釣 [類][紀][細] 駒 / 驪 [類] 驟
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,新田部皇子,献呈歌,飛鳥,地名
#[訓異]
#[大意]矢釣山の木立も見えないぐらい降り乱れる雪の中で騒いでいる朝は楽しいことだ
#{語釈]
矢釣山 明日香村八釣の東北の山 新田部皇子の宮があったか。
騒ける 原文「驪」 騒の意味を持つ
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0263
#[題詞]従近江國上来時刑部垂麻呂作歌一首
#[原文]馬莫疾 打莫行 氣並而 見弖毛和我歸 志賀尓安良七國
#[訓読]馬ないたく打ちてな行きそ日ならべて見ても我が行く志賀にあらなくに
#[仮名],うまないたく,うちてなゆきそ,けならべて,みてもわがゆく,しがにあらなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:刑部垂麻呂,羈旅,土地讃美,滋賀,地名
#[訓異]
#[大意]馬をひどくむち打っては急がせて行くなよ。何日もかけて見に行ける滋賀ではないのだから。
#{語釈]
刑部垂麻呂 伝未詳 文武朝の人か
#[説明]
再び見るとなると大変だから、滋賀の風景をゆっくりと見て行こうという意味
#[関連論文]
#[番号]03/0264
#[題詞]柿本朝臣人麻呂従近江國上来時至宇治河邊作歌一首
#[原文]物乃部能 八十氏河乃 阿白木尓 不知代經浪乃 去邊白不母
#[訓読]もののふの八十宇治川の網代木にいさよふ波のゆくへ知らずも
#[仮名],もののふの,やそうぢかはの,あじろきに,いさよふなみの,ゆくへしらずも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,不安,宇治,京都,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]もののふの八十宇治川の網代木に漂っている波の行き先がわからないことだ
#{語釈]
#[説明]
漂泊の思いや無常観を詠んでいるか。たんなる宇治川の流れの速い様子を言ったものか。
#[関連論文]
#[番号]03/0265
#[題詞]長忌寸奥麻呂歌一首
#[原文]苦毛 零来雨可 神之埼 狭野乃渡尓 家裳不有國
#[訓読]苦しくも降り来る雨か三輪の崎狭野の渡りに家もあらなくに
#[仮名],くるしくも,ふりくるあめか,みわのさき,さののわたりに,いへもあらなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:長意吉麻呂,羈旅,和歌山,苦難,地名
#[訓異]
#[大意]苦しいことにも降って来た雨か。三輪の崎よ。狭野の渡りに家もないのに
#{語釈]
長忌寸奥麻呂 0238
三輪の崎 和歌山県新宮市三輪崎町
狭野の渡り 新宮市佐野あたり。
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0266
#[題詞]柿本朝臣人麻呂歌一首
#[原文]淡海乃海 夕浪千鳥 汝鳴者 情毛思<努>尓 古所念
#[訓読]近江の海夕波千鳥汝が鳴けば心もしのにいにしへ思ほゆ
#[仮名],あふみのうみ,ゆふなみちどり,ながなけば,こころもしのに,いにしへおもほゆ
#[左注]
#[校異]奴 -> 努 [西(補入)][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,懐古,荒都歌,鎮魂,滋賀,地名,動物
#[訓異]
#[大意]近江の海の夕波に浮かぶ千鳥よ。お前が泣くと心もしおれるばかりに昔のことが思われる
#{語釈]
#[説明]
近江荒都への懐古
#[関連論文]
#[番号]03/0267
#[題詞]志貴皇子御歌一首
#[原文]牟佐々婢波 木末求跡 足日木乃 山能佐都雄尓 相尓来鴨
#[訓読]むささびは木末求むとあしひきの山のさつ男にあひにけるかも
#[仮名],むささびは,こぬれもとむと,あしひきの,やまのさつをに,あひにけるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:志貴皇子,猟,動物,枕詞
#[訓異]
#[大意]むささびは梢を探そうとして山の猟師に出会ったことだ
#{語釈]
#[説明]
むささびの不運を言っている。何か寓意があるか
06/1028D01十一年己卯 天皇遊猟高圓野之時小獣泄走都里之中 於是適値勇士生而
06/1028D02見獲即以此獣獻上御在所副歌一首 [獣名俗曰牟射佐妣]
06/1028H01ますらをの高円山に迫めたれば里に下り来るむざさびぞこれ
06/1028S01右一首大伴坂上郎女作之也 但未逕奏而小獣死斃 因此獻歌停之
#[関連論文]
#[番号]03/0268
#[題詞]長屋王故郷歌一首
#[原文]吾背子我 古家乃里之 明日香庭 乳鳥鳴成 <嬬>待不得而
#[訓読]我が背子が古家の里の明日香には千鳥鳴くなり妻待ちかねて
#[仮名],わがせこが,ふるへのさとの,あすかには,ちどりなくなり,つままちかねて
#[左注]右今案従明日香遷藤原宮之後作此歌歟
#[校異]嶋 -> 嬬 [注釈] / 歌 [西] 謌 [西(右書)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:長屋王,望郷,故郷,荒都歌,飛鳥,地名,動物
#[訓異]
#[大意]我が背子の昔いた旧宅のある里である飛鳥には千鳥が鳴いている。妻を待ちかねて
{語釈]
妻 千鳥がつがいを待つ 旧宅の住人
#[説明]
飛鳥に残る長屋王が藤京に移住した友人に宛てたもの
藤原京に移住した長屋王が飛鳥の旧宅に帰り、友人に宛てたもの
#[関連論文]
#[番号]03/0269
#[題詞]阿倍女郎屋部坂歌一首
#[原文]人不見者 我袖用手 将隠乎 所焼乍可将有 不服而来来
#[訓読]人見ずは我が袖もちて隠さむを焼けつつかあらむ着ずて来にけり
#[仮名],ひとみずは,わがそでもちて,かくさむを,やけつつかあらむ,きずてきにけり
#[左注]
#[校異]来来 [紀][細] 来々
#[鄣W],雑歌,作者:阿倍女郎,難解,恋愛,飛鳥,地名
#[訓異]
#[大意]他人が見ていないならば自分の袖で隠すものなのに。あなた(坂)は焼け続けているのでしょうか。何も着ないままに今まで来たのですね
#{語釈]
阿倍女郎 伝未詳 04/0505・6 514~6 08/1631は別人
屋部坂 未詳。法隆寺より西の竜田川西岸か。明日香村、田原本町
#[説明]
矢部坂というのは赤土が向きだしの坂だったのだろう。それを擬人的に歌っている。
坂越えの手向け歌
#[関連論文]
#[番号]03/0270
#[題詞]高市連黒人覊旅歌八首
#[原文]客為而 物戀敷尓 山下 赤乃曽<保><船> 奥榜所見
#[訓読]旅にしてもの恋しきに山下の赤のそほ船沖を漕ぐ見ゆ
#[仮名],たびにして,ものこほしきに,やましたの,あけのそほふね,おきをこぐみゆ
#[左注]
#[校異](Y) -> 保 [西(右書)][類][紀] / 舡 -> 船 [類][紀][細]
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,望郷
#[訓異]
#[大意]旅に出ていて何となく恋しい感じがしているのに、この山の下の方では赤い官船が起きを漕いでいるのが見える
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0271
#[題詞](高市連黒人覊旅歌八首)
#[原文]櫻田部 鶴鳴渡 年魚市方 塩干二家良之 鶴鳴渡
#[訓読]桜田へ鶴鳴き渡る年魚市潟潮干にけらし鶴鳴き渡る
#[仮名],さくらだへ,たづなきわたる,あゆちがた,しほひにけらし,たづなきわたる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,名古屋,愛知,地名,動物
#[訓異]
#[大意]桜田へ鶴が鳴き渡っている。年魚市潟が潮が干いたらしい。鶴が鳴き渡っている
#{語釈]
桜田 名古屋市南区桜田町一帯
年魚市潟 名古屋市熱田区、南区の海岸。現在は埋め立てられてない。東海道の近道だったか
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0272
#[題詞](高市連黒人覊旅歌八首)
#[原文]四極山 打越見者 笠縫之 嶋榜隠 棚無小舟
#[訓読]四極山うち越え見れば笠縫の島漕ぎ隠る棚なし小舟
#[仮名],しはつやま,うちこえみれば,かさぬひの,しまこぎかくる,たななしをぶね
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,大阪,地名
#[訓異]
#[大意]四極山を越えて見ると笠縫の島を漕ぎ隠れる船棚のない小さな丸木船が見える
#{語釈]
四極山 所在未詳。愛知あたりか。大阪、天王寺あたりとも考えられるが、配列に会わない
笠縫の島 所在未詳。
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0273
#[題詞](高市連黒人覊旅歌八首)
#[原文]礒前 榜手廻行者 近江海 八十之湊尓 鵠佐波二鳴 [未詳]
#[訓読]磯の崎漕ぎ廻み行けば近江の海八十の港に鶴さはに鳴く [未詳]
#[仮名],いそのさき,こぎたみゆけば,あふみのうみ,やそのみなとに,たづさはになく
#[左注]
#[校異]未詳 [類][紀](塙) <>
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,琵琶湖,滋賀,地名,動物
#[訓異]
#[大意]磯の先を漕ぎ廻って行くと近江の海の多くの水門に鶴がたくさん鳴いている
#{語釈]
未詳 次の2首と同じ時の歌詠かどうかはわからないという意味
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0274
#[題詞](高市連黒人覊旅歌八首)
#[原文]吾船者 枚乃湖尓 榜将泊 奥部莫避 左夜深去来
#[訓読]我が舟は比良の港に漕ぎ泊てむ沖へな離りさ夜更けにけり
#[仮名],わがふねは,ひらのみなとに,こぎはてむ,おきへなさかり,さよふけにけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,琵琶湖,滋賀,地名
#[訓異]
#[大意]我が船は比良の水門に漕いで到着しよう。沖へは離れるなよ。夜も更けたことだから
#{語釈]
比良の港 比良山の麓 近江舞子の南
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0275
#[題詞](高市連黒人覊旅歌八首)
#[原文]何處 吾将宿 高嶋乃 勝野原尓 此日暮去者
#[訓読]いづくにか我は宿らむ高島の勝野の原にこの日暮れなば
#[仮名],いづくにか,われはやどらむ,たかしまの,かちののはらに,このひくれなば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,滋賀,地名
#[訓異]
#[大意]どの場所に自分は宿を取ろう。高島の勝野の原にこの日が暮れてしまうと
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0276
#[題詞](高市連黒人覊旅歌八首)
#[原文]妹母我母 一有加母 三河有 二見自道 別不勝鶴
#[訓読]妹も我れも一つなれかも三河なる二見の道ゆ別れかねつる
#[仮名],いももあれも,ひとつなれかも,みかはなる,ふたみのみちゆ,わかれかねつる
#[左注]一本云 水河乃 二見之自道 別者 吾勢毛吾文 獨可文将去
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,異伝,愛知,地名
#[訓異]
#[大意]妹も我も一つであろうか。三河にある二見の道から別れることが出来ないでいる
#{語釈]
#[説明]
二見の道 愛知県豊川市御油町と国府町の堺。姫街道と東海道の分かれ道
#[関連論文]
#[番号]03/0277
#[題詞](高市連黒人覊旅歌八首)
#[原文]速来而母 見手益物乎 山背 高槻村 散去奚留鴨
#[訓読]早来ても見てましものを山背の高の槻群散りにけるかも
#[仮名],はやきても,みてましものを,やましろの,たかのつきむら,ちりにけるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,京都,地名,植物
#[訓異]
#[大意]早くやって来て見ればよかったものを。山城の高のけやきの林もすっかり葉が散ってしまっていることだ
#{語釈]
高の槻群 京都府綴喜郡多賀あたり
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0278
#[題詞]石川少郎歌一首
#[原文]然之海人者 軍布苅塩焼 無暇 髪梳乃<小>櫛 取毛不見久尓
#[訓読]志賀の海女は藻刈り塩焼き暇なみ櫛笥の小櫛取りも見なくに
#[仮名],しかのあまは,めかりしほやき,いとまなみ,くしげのをぐし,とりもみなくに
#[左注]右今案 石川朝臣君子号曰少郎子也
#[校異]少 -> 小 [古][矢]
#[鄣W],雑歌,作者:石川君子,羈旅,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]志賀島の海女は藻を苅り、塩を焼、暇がないので、櫛笥の小櫛を取って見ることもないことだ
#{語釈]
石川少郎 石川君子 247左注 霊亀元年播磨守 太宰小貳任官は記録にない。
#[説明]
働き物の志賀島の海女たちを讃美したもの
#[関連論文]
#[番号]03/0279
#[題詞]高市連黒人歌二首
#[原文]吾妹兒二 猪名野者令見都 名次山 角松原 何時可将示
#[訓読]我妹子に猪名野は見せつ名次山角の松原いつか示さむ
#[仮名],わぎもこに,ゐなのはみせつ,なすきやま,つののまつばら,いつかしめさむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,兵庫,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]我妹子に猪名野は見せた。景勝の名次山や角の松原をいつになったら示そうか
#{語釈]
猪名野 兵庫県伊丹市 猪名川両岸
名次山 兵庫県西宮市名次町
角の松原 兵庫県西宮市津門
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0280
#[題詞](高市連黒人歌二首)
#[原文]去来兒等 倭部早 白菅乃 真野乃榛原 手折而将歸
#[訓読]いざ子ども大和へ早く白菅の真野の榛原手折りて行かむ
#[仮名],いざこども,やまとへはやく,しらすげの,まののはりはら,たをりてゆかむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,兵庫,地名,植物,枕詞
#[訓異]
#[大意]さあ、者どもよ。大和へ早く戻ろう。白菅の生えている真野の榛の原で手折って行こう
#{語釈]
白菅 湿地に生えるカヤツリグサ科の菅
真野の榛原 兵庫県長田区東尻池町
手折りて行かむ 榛の枝を手折ってみやげにしようというのである。黄葉の時期か
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0281
#[題詞]黒人妻答歌一首
#[原文]白菅乃 真野之榛原 徃左来左 君社見良目 真野乃榛原
#[訓読]白菅の真野の榛原行くさ来さ君こそ見らめ真野の榛原
#[仮名],しらすげの,まののはりはら,ゆくさくさ,きみこそみらめ,まののはりはら
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人妻,羈旅,兵庫,地名,植物,枕詞
#[訓異]
#[大意]白菅の真野の榛原よ行き帰りにあなたこそご覧になったでしょうが私は初めてです。。この美しい真野の蓁原を。だからゆっくりと見て行きましょう。
#{語釈]
#[説明]
黒人が早く帰ろうと即したのに対して、妻は初めて見るのだからゆっくりと行こうと言ったもの
#[関連論文]
#[番号]03/0282
#[題詞]春日蔵首老歌一首
#[原文]角障經 石村毛不過 泊瀬山 何時毛将超 夜者深去通都
#[訓読]つのさはふ磐余も過ぎず泊瀬山いつかも越えむ夜は更けにつつ
#[仮名],つのさはふ,いはれもすぎず,はつせやま,いつかもこえむ,よはふけにつつ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:春日老,羈旅,飛鳥,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]つのさはふ磐余もまだ過ぎていない。初瀨山をいつになった越えるのだろうか。夜も更けて来ているのにら
#{語釈]
春日蔵首老 01/0056 もと僧 弁基 大宝元年還俗
つのさはふ 芽がさえぎられる岩の意味か
磐余 桜井市、橿原市の当たり
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0283
#[題詞]高市連黒人歌一首
#[原文]墨吉乃 得名津尓立而 見渡者 六兒乃泊従 出流船人
#[訓読]住吉の得名津に立ちて見わたせば武庫の泊りゆ出づる船人
#[仮名],すみのえの,えなつにたちて,みわたせば,むこのとまりゆ,いづるふなびと
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,羈旅,大阪,兵庫,地名
#[訓異]
#[大意]住吉の得南津に立って見渡すと、武庫の波止場にか出て行く船人が見える
#{語釈]
得名津 大阪市住之江区住之江あたり
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0284
#[題詞]春日蔵首老歌一首
#[原文]焼津邊 吾去鹿齒 駿河奈流 阿倍乃市道尓 相之兒等羽裳
#[訓読]焼津辺に我が行きしかば駿河なる阿倍の市道に逢ひし子らはも
#[仮名],やきづへに,わがゆきしかば,するがなる,あべのいちぢに,あひしこらはも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:春日老,羈旅,静岡,恋愛,地名
#[訓異]
#[大意]屋焼津のあたりを自分が行っていると阿倍の市の道ばたで問いかけていたあの子はなあ
#{語釈]
阿倍の市道 静岡市の古い名前
#[説明]
歌垣を回想しているか。
#[関連論文]
#[番号]03/0285
#[題詞]丹比真人笠麻呂徃紀伊國超勢能山時作歌一首
#[原文]栲領巾乃 懸巻欲寸 妹名乎 此勢能山尓 懸者奈何将有 [一云 可倍波伊香尓安良牟]
#[訓読]栲領巾の懸けまく欲しき妹が名をこの背の山に懸けばいかにあらむ [一云 替へばいかにあらむ]
#[仮名],たくひれの,かけまくほしき,いもがなを,このせのやまに,かけばいかにあらむ,[かへばいかにあらむ]
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正右書)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:丹比笠麻呂,羈旅,土地讃美,和歌山,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]栲領巾を肩に懸けるということではないが、言葉に懸けたい妹の名前をこの背の山に懸けるとどのようであろうか
#{語釈]
丹比真人笠麻呂 伝未詳
背の山 和歌山県伊都郡かつらぎ町 紀ノ川北岸 01/0035
栲領巾の 楮の繊維で作った薄い布 そのヒレ 懸けるにかかる枕詞
#[説明]
羇旅中の望郷と土地讃美
#[関連論文]
#[番号]03/0286
#[題詞]春日蔵首老即和歌一首
#[原文]宜奈倍 吾背乃君之 負来尓之 此勢能山乎 妹者不喚
#[訓読]よろしなへ我が背の君が負ひ来にしこの背の山を妹とは呼ばじ
#[仮名],よろしなへ,わがせのきみが,おひきにし,このせのやまを,いもとはよばじ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:春日老,羈旅,土地讃美,和歌山,地名
#[訓異]
#[大意]都合よく我が背の君が背負ってきたこの背とちう名前の山を妹とは呼ぶまいよ
#{語釈]
よろしなへ都合よく ふさわしい
#[説明]
丹比笠麻呂が妹という名前を背に懸けたらどうだろうかと言ったのに対して、長い間我が背の君が背負ってきた「背」なのだから、「妹」などとは決して呼ばないよと答えたもの。
#[関連論文]
#[番号]03/0287
#[題詞]幸志賀時石上卿作歌一首 [名闕]
#[原文]此間為而 家八方何處 白雲乃 棚引山乎 超而来二家里
#[訓読]ここにして家やもいづく白雲のたなびく山を越えて来にけり
#[仮名],ここにして,いへやもいづく,しらくもの,たなびくやまを,こえてきにけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:石上卿,羈旅,行幸,従駕,望郷,滋賀,地名
#[訓異]
#[大意]ここにあって家はどの方向だろうか。白雲のたなびく山を越えて来たことだ
#{語釈]
幸志賀時 不明 文武朝頃か 霊亀二年の元明天皇美濃行幸時とすると石上豊庭
石上卿 不明 石上麻呂か
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0288
#[題詞]穂積朝臣老歌一首
#[原文]吾命之 真幸有者 亦毛将見 志賀乃大津尓 縁流白波
#[訓読]我が命のま幸くあらばまたも見む志賀の大津に寄する白波
#[仮名],わがいのちの,まさきくあらば,またもみむ,しがのおほつに,よするしらなみ
#[左注]右今案 不審幸行年月
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:穂積老,羈旅,予祝,大津,滋賀,地名
#[訓異]
#[大意]自分の命が無事だったならばまた見よう。志賀の大津に寄せる白波を
#{語釈]
穂積朝臣老 養老6年元正天皇を誹謗した罪により斬刑の所を首皇太子のとりなしで佐渡へ流罪。天平12年大赦。天平勝宝元年没。
ま幸くあらば 有間皇子の結び松の歌 羇旅の無事を願う
不審幸行年月 編纂者は行幸だと考えている。
13-3241と同じ時か。遺伝か。
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0289
#[題詞]間人宿祢大浦初月歌二首
#[原文]天原 振離見者 白真弓 張而懸有 夜路者将吉
#[訓読]天の原振り放け見れば白真弓張りて懸けたり夜道はよけむ
#[仮名],あまのはら,ふりさけみれば,しらまゆみ,はりてかけたり,よみちはよけむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:間人大浦,恋歌
#[訓異]
#[大意]天の原を振り仰いでみると白木の真弓が弦を張ったように空に掛けてある。夜道は明るいだろう
#{語釈]
間人宿祢大浦 伝未詳 09/1685
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0290
#[題詞](間人宿祢大浦初月歌二首)
#[原文]椋橋乃 山乎高可 夜隠尓 出来月乃 光乏寸
#[訓読]倉橋の山を高みか夜隠りに出で来る月の光乏しき
#[仮名],くらはしの,やまをたかみか,よごもりに,いでくるつきの,ひかりともしき
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:間人大浦,初瀬,地名
#[訓異]
#[大意]倉橋の山が高いからなのだろうか。夜隠っていて出てくる月の光が乏しいことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0291
#[題詞]小田事勢能山歌一首
#[原文]真木葉乃 之奈布勢能山 之<努>波受而 吾超去者 木葉知家武
#[訓読]真木の葉のしなふ背の山偲はずて我が越え行けば木の葉知りけむ
#[仮名],まきのはの,しなふせのやま,しのはずて,わがこえゆけば,このはしりけむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 奴 -> 努 [類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:小田事,羈旅,和歌山,地名
#[訓異]
#[大意]立派な木立の枝がたわむばかりの鬱蒼とした背の山を賞美しないで自分が越えて行くと、木の葉はそれを知ってしまうだろうか。
#{語釈]
小田事 伝未詳
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0292
#[題詞]角麻呂歌四首
#[原文]久方乃 天之探女之 石船乃 泊師高津者 淺尓家留香裳
#[訓読]ひさかたの天の探女が岩船の泊てし高津はあせにけるかも
#[仮名],ひさかたの,あまのさぐめが,いはふねの,はてしたかつは,あせにけるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:角麻呂,羈旅,大阪,地名
#[訓異]
#[大意]久方の天の深女の岩舟が停泊した高津は浅くなってしまったことだ
#{語釈]
角麻呂 伝未詳
天の探女が岩船 摂津国風土記逸聞
#[説明]
風光が変化していることを言う。淀川の土砂の堆積により海岸線が進出していく様子。
#[関連論文]
#[番号]03/0293
#[題詞](角麻呂歌四首)
#[原文]塩干乃 三津之海女乃 久具都持 玉藻将苅 率行見
#[訓読]潮干の御津の海女のくぐつ持ち玉藻刈るらむいざ行きて見む
#[仮名],しほひの,みつのあまの,くぐつもち,たまもかるらむ,いざゆきてみむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:角麻呂,羈旅,大阪,地名,植物
#[訓異]
#[大意]潮が干いた御津の海女がくぐつを持って玉今頃は藻を苅っているだろう。さあ行って見よう
#{語釈]
くぐつ 海草(くぐ)を縄にして編んだ籠
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0294
#[題詞](角麻呂歌四首)
#[原文]風乎疾 奥津白波 高有之 海人釣船 濱眷奴
#[訓読]風をいたみ沖つ白波高からし海人の釣舟浜に帰りぬ
#[仮名],かぜをいたみ,おきつしらなみ,たかからし,あまのつりぶね,はまにかへりぬ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:角麻呂,羈旅,大阪,地名
#[訓異]
#[大意]風がひどいので沖の白波が高いらしい。海人の釣船が浜へ帰ってしまった
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0295
#[題詞](角麻呂歌四首)
#[原文]清江乃 木笶松原 遠神 我王之 幸行處
#[訓読]住吉の岸の松原遠つ神我が大君の幸しところ
#[仮名],すみのえの,きしのまつばら,とほつかみ,わがおほきみの,いでましところ
#[左注]
#[校異]木 [紀] 野木
#[鄣W],雑歌,作者:角麻呂,羈旅,大阪,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]住吉の岸の松原よ。遠い神である我が大君の行幸された所である
#{語釈]
岸の松原 「笑」異訓あり。音仮名として「し」、岸の松原
紀州「清江乃 野木笶松原」 「笑」は矢竹を意味する「の」 のぎの松 原 野に生えている木
遠つ神 遠い御代で神となった大君の意 人倫に遠い神としての存在である大君
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0296
#[題詞]田口益人大夫任上野國司時至駿河浄見埼作歌二首
#[原文]廬原乃 浄見乃埼乃 見穂之浦乃 寛見乍 物念毛奈信
#[訓読]廬原の清見の崎の三保の浦のゆたけき見つつ物思ひもなし
#[仮名],いほはらの,きよみのさきの,みほのうらの,ゆたけきみつつ,ものもひもなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:田口益人,羈旅,土地讃美,静岡,地名
#[訓異]
#[大意]廬原の清見の崎の三保の浦のゆったりとした風景を見続けて物思いもないことだ
#{語釈]
田口益人 大宝四年正月 従五位下
任上野國司時 通常は東山道を行く。何故東海道かはわからない
駿河浄見埼 清水市興津清見寺町の岬
廬原の清見の崎の三保の浦 美保の松原の海
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0297
#[題詞](田口益人大夫任上野國司時至駿河浄見埼作歌二首)
#[原文]晝見騰 不飽田兒浦 大王之 命恐 夜見鶴鴨
#[訓読]昼見れど飽かぬ田子の浦大君の命畏み夜見つるかも
#[仮名],ひるみれど,あかぬたごのうら,おほきみの,みことかしこみ,よるみつるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:田口益人,羈旅,静岡,土地讃美,地名,大夫
#[訓異]
#[大意]昼見ても見飽きることのない田子の浦を大君のご命令を恐れ多く思って夜見ていることである
#{語釈]
田子の浦 浄見埼から15キロほどの所
大君の命畏み 下降の日数が決まっていたので、滞在出来ないという意味
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0298
#[題詞]弁基歌一首
#[原文]亦打山 暮越行而 廬前乃 角太川原尓 獨可毛将宿
#[訓読]真土山夕越え行きて廬前の角太川原にひとりかも寝む
#[仮名],まつちやま,ゆふこえゆきて,いほさきの,すみだかはらに,ひとりかもねむ
#[左注]右或云 弁基者春日蔵首老之法師名也
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:弁基,羈旅,和歌山,地名
#[訓異]
#[大意]真土山を夕方に越えて行って廬前の角太川原に独りで野宿することであろうか
#{語釈]
弁基 春日蔵人老の出家名 282、4、6の作者
廬前の角太川原 和歌山県橋本市隅田あたりを流れる紀ノ川
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0299
#[題詞]大納言大伴卿歌一首 [未詳]
#[原文]奥山之 菅葉凌 零雪乃 消者将惜 雨莫零行年
#[訓読]奥山の菅の葉しのぎ降る雪の消なば惜しけむ雨な降りそね
#[仮名],おくやまの,すがのはしのぎ,ふるゆきの,けなばをしけむ,あめなふりそね
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人
#[訓異]
#[大意]奥山の菅の葉を凌いで降り積もる雪が消えてしまうと惜しいので雨よ降るなよ
#{語釈]
大納言大伴卿 大伴安麻呂、旅人 かが [未詳] 編者の注
雨な降りそね みぞれ混じりで雨に変わって行ったか。
雪はめでたい予祝のもの。しかも奥山に降るので神聖なもという概念があ る。そこで惜しいということになる。
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0300
#[題詞]長屋王駐馬寧樂山作歌二首
#[原文]佐保過而 寧樂乃手祭尓 置幣者 妹乎目不離 相見染跡衣
#[訓読]佐保過ぎて奈良の手向けに置く幣は妹を目離れず相見しめとぞ
#[仮名],さほすぎて,ならのたむけに,おくぬさは,いもをめかれず,あひみしめとぞ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:長屋王,羈旅,手向け,奈良,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]佐保を過ぎて奈良の手向けに置く御幣は妹の目を離れずに共に見させて欲しいという意味があるのだ
#{語釈]
佐保過ぎて 藤原京にいた文武朝の頃。何の旅であるかは不明
#[説明]
平城山での手向けの歌
#[関連論文]
#[番号]03/0301
#[題詞](長屋王駐馬寧樂山作歌二首)
#[原文]磐金之 凝敷山乎 超不勝而 哭者泣友 色尓将出八方
#[訓読]岩が根のこごしき山を越えかねて音には泣くとも色に出でめやも
#[仮名],いはがねの,こごしきやまを,こえかねて,ねにはなくとも,いろにいでめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:長屋王,羈旅,望郷,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]岩のごつごつした山を越えることが出来なくて声を上げて泣くことはあっても顔に出るだろうか
#{語釈]
#[説明]
手向けの望郷。不吉とされたか。
#[関連論文]
#[番号]03/0302
#[題詞]中納言阿倍廣庭卿歌一首
#[原文]兒等之家道 差間遠焉 野干<玉>乃 夜渡月尓 競敢六鴨
#[訓読]子らが家道やや間遠きをぬばたまの夜渡る月に競ひあへむかも
#[仮名],こらがいへぢ,ややまどほきを,ぬばたまの,よわたるつきに,きほひあへむかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 子 -> 玉 [西(左書)][類][細]
#[鄣W],雑歌,作者:阿倍広庭,恋愛
#[訓異]
#[大意]あの子への家路はちょっと遠いのだが、ぬばたまの夜空を渡っていく月と競争して勝てるかなあ
#{語釈]
阿倍廣庭卿 右大臣御主人の子 神亀四年中納言。天平四年薨去。七四歳
競ひあへむかも あふ 耐える、こらえる
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0303
#[題詞]柿本朝臣人麻呂下筑紫國時海路作歌二首
#[原文]名細寸 稲見乃海之 奥津浪 千重尓隠奴 山跡嶋根者
#[訓読]名ぐはしき印南の海の沖つ波千重に隠りぬ大和島根は
#[仮名],なぐはしき,いなみのうみの,おきつなみ,ちへにかくりぬ,やまとしまねは
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,望郷,兵庫,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]名前を霊妙な印南の海の沖の波に幾重にも隠れてしまった。大和島根は。
#{語釈]
名ぐはしき 名も霊妙な
印南の海 播磨灘
大和島根 生駒山から葛城、和泉山脈を指す
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0304
#[題詞](柿本朝臣人麻呂下筑紫國時海路作歌二首)
#[原文]大王之 遠乃朝庭跡 蟻通 嶋門乎見者 神代之所念
#[訓読]大君の遠の朝廷とあり通ふ島門を見れば神代し思ほゆ
#[仮名],おほきみの,とほのみかどと,ありがよふ,しまとをみれば,かむよしおもほゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂,羈旅,兵庫,土地讃美,地名
#[訓異]
#[大意]大君の遠の朝廷として行き来する海峡を見ると神代のことが思われる
#{語釈]
神代し思ほゆ 淡路の国生み神話を想定しているか。
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0305
#[題詞]高市連黒人近江舊都歌一首
#[原文]如是故尓 不見跡云物乎 樂浪乃 舊都乎 令見乍本名
#[訓読]かく故に見じと言ふものを楽浪の旧き都を見せつつもとな
#[仮名],かくゆゑに,みじといふものを,ささなみの,ふるきみやこを,みせつつもとな
#[左注]右歌或本曰少辨作也 未審此少弁者也
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:高市黒人,少辨,近江荒都,荒都歌,大津,滋賀,異伝,地名
#[訓異]
#[大意]このように悲しくなるから見ないと言ったのに楽浪の古い都をむやみに見せてしまって
#{語釈]
少辨作 伝未詳 役職名 09/1734
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0306
#[題詞]幸伊勢國之時安貴王作歌一首
#[原文]伊勢海之 奥津白浪 花尓欲得 褁而妹之 家褁為
#[訓読]伊勢の海の沖つ白波花にもが包みて妹が家づとにせむ
#[仮名],いせのうみの,おきつしらなみ,はなにもが,つつみていもが,いへづとにせむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:安貴王,羈旅,望郷,伊勢,三重,地名
#[訓異]
#[大意]伊勢の海の沖の白波が花にでもあればよいのに。そうすれば包んで妹のみやげにしようものを
#{語釈]
安貴王 志貴皇子の孫 04/534 八上采女との不倫。04/0643 紀女郎の離婚
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0307
#[題詞]博通法師徃紀伊國見三穂石室作歌三首
#[原文]皮為酢寸 久米能若子我 伊座家留 [一云 家牟] 三穂乃石室者 雖見不飽鴨 [一云 安礼尓家留可毛]
#[訓読]はだ薄久米の若子がいましける [一云 けむ] 三穂の石室は見れど飽かぬかも [一云 荒れにけるかも]
#[仮名],はだすすき,くめのわくごが,いましける,[けむ],みほのいはやは,みれどあかぬかも,[あれにけるかも]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:博通法師,羈旅,土地讃美,和歌山,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]はだ薄久米の若者がいらっしゃった三穂の岩屋は見ても見飽きることがないよ
#{語釈]
博通法師 伝未詳
三穂石室 和歌山県日高郡美浜町三尾
はだ薄 皮に包まれて穂が出ていない薄。穂が隠れているので隠れるの意味の「くめ」に係る。 くみど、こもど
久米の若子 伝説上の人物か。久米の若者、神人
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0308
#[題詞](博通法師徃紀伊國見三穂石室作歌三首)
#[原文]常磐成 石室者今毛 安里家礼騰 住家類人曽 常無里家留
#[訓読]常磐なす石室は今もありけれど住みける人ぞ常なかりける
#[仮名],ときはなす,いはやはいまも,ありけれど,すみけるひとぞ,つねなかりける
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:博通法師,羈旅,和歌山,地名
#[訓異]
#[大意]永遠の岩のような岩屋は今もあるが住んでいた人は永遠ではないのだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0309
#[題詞](博通法師徃紀伊國見三穂石室作歌三首)
#[原文]石室戸尓 立在松樹 汝乎見者 昔人乎 相見如之
#[訓読]石室戸に立てる松の木汝を見れば昔の人を相見るごとし
#[仮名],いはやとに,たてるまつのき,なをみれば,むかしのひとを,あひみるごとし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:博通法師,羈旅,和歌山,地名,植物
#[訓異]
#[大意]岩屋の入り口に立っている松の木よ。お前を見ると昔の人をともに見ているようだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0310
#[題詞]門部王詠東市之樹作歌一首 [後賜姓大原真人氏也]
#[原文]東 市之殖木乃 木足左右 不相久美 宇倍<戀>尓家利
#[訓読]東の市の植木の木垂るまで逢はず久しみうべ恋ひにけり
#[仮名],ひむがしの,いちのうゑきの,こだるまで,あはずひさしみ,うべこひにけり
#[左注]
#[校異]吾戀 -> 戀 [類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:門部王,東市,奈良都,植物
#[訓異]
#[大意]東の市の植木が繁く成って木が垂れ下がるまであなたに逢っていないのだからなるほど恋しくなるのも当然だ
#{語釈]
門部王長皇子の孫。和銅三年従五位下、天平一二年臣籍降下姓大原真人氏。一七年大蔵卿従四位上で卒。風流侍従の一人。
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0311
#[題詞]按作村主益人従豊前國上京時作歌一首
#[原文]梓弓 引豊國之 鏡山 不見久有者 戀敷牟鴨
#[訓読]梓弓引き豊国の鏡山見ず久ならば恋しけむかも
#[仮名],あづさゆみ,ひきとよくにの,かがみやま,みずひさならば,こほしけむかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:按作益人,鏡山,豊前国,福岡県,羈旅,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]梓弓を引き響めるという豊国の鏡山よ。見ないで久しくなったならば恋しくなることだろうか
#{語釈]
按作村主益人 伝未詳。05/1004 仏師按作鳥と関係あるか
鏡山 大分県西部 香春町の山 鏡造部がいる 417
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0312
#[題詞]式部卿藤原宇合卿被使改造難波堵之時作歌一首
#[原文]昔者社 難波居中跡 所言奚米 今者京引 都備仁鷄里
#[訓読]昔こそ難波田舎と言はれけめ今は都引き都びにけり
#[仮名],むかしこそ,なにはゐなかと,いはれけめ,いまはみやこひき,みやこびにけり
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:藤原宇合,難波,大阪,地名
#[訓異]
#[大意]昔こそ難波田舎と言われただろう。しかし今は都を引いてきて、都らしくなった
#{語釈]
造難波堵 藤原宇合が任命されたのは、損気二年七月から天平四年三月
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]03/0313
#[題詞]土理宣令歌一首
#[原文]見吉野之 瀧乃白浪 雖不知 語之告者 古所念
#[訓読]み吉野の滝の白波知らねども語りし継げばいにしへ思ほゆ
#[仮名],みよしのの,たきのしらなみ,しらねども,かたりしつげば,いにしへおもほゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:土理宣令,吉野,地名
#[訓異]
#[大意]み吉野の急流の白波よ。その音のように知らないが人々が語り継ぐので昔のことが思われる
#{語釈]
土理宣令 伝未詳 08/1470 懐風藻
いにしへ思ほゆ 今は奈良時代。吉野の過去の歴史のことを言う。主に天武から持統時代を言っているか。
#[説明]
#[関連論文]