万葉集 巻第4
#[番号]04/0485
#[番号]04/0486
#[番号]04/0487
#[番号]04/0488
#[番号]04/0489
#[番号]04/0490
#[番号]04/0491
#[番号]04/0492
#[番号]04/0493
#[番号]04/0494
#[番号]04/0495
#[番号]04/0496
#[番号]04/0498
#[番号]04/0499
#[番号]04/0500
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#[番号]04/0556
#[番号]04/0557
#[番号]04/0558
#[番号]04/0559
#[番号]04/0560
#[番号]04/0561
#[番号]04/0562
#[番号]04/0563
#[番号]04/0564
#[番号]04/0484
#[題詞]相聞 / 難波天皇妹奉上在山跡皇兄御歌一首
#[原文]一日社 人母待<吉> 長氣乎 如此<耳>待者 有不得勝
#[訓読]一日こそ人も待ちよき長き日をかくのみ待たば有りかつましじ
#[仮名],ひとひこそ,ひともまちよき,ながきけを,かくのみまたば,ありかつましじ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 告 -> 吉 [元][紀][細] / 所 -> 耳 [玉の小琴]
#[鄣W],相聞,作者:難波天皇妹,仁徳,孝徳,間人皇女,中大兄,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]一日ぐらいならば人を待つのもよい(待つことも出来る)。しかし長居日をこのように待つのならば生きてはいられないほどだ
#{語釈]
難波天皇妹、山跡に在(いま)す皇兄に奉上(たてま)つる御歌一首
難波天皇妹 仁徳天皇の妹 八田皇女
#[説明]
孝徳天皇という見方もあるが、仁徳天皇に仮託された伝承歌
#[関連論文]
#[題詞]<崗>本天皇御製一首[并短歌]
#[原文]神代従 生継来者 人多 國尓波満而 味村乃 去来者行跡 吾戀流 君尓之不有者 晝波 日乃久流留麻弖 夜者 夜之明流寸食 念乍 寐宿難尓登 阿可思通良久茂 長此夜乎
#[訓読]神代より 生れ継ぎ来れば 人さはに 国には満ちて あぢ群の 通ひは行けど 我が恋ふる 君にしあらねば 昼は 日の暮るるまで 夜は 夜の明くる極み 思ひつつ 寐も寝かてにと 明かしつらくも 長きこの夜を
#[仮名],かむよより,あれつぎくれば,ひとさはに,くににはみちて,あぢむらの,かよひはゆけど,あがこふる,きみにしあらねば,ひるは,ひのくるるまで,よるは,よのあくるきはみ,おもひつつ,いもねかてにと,あかしつらくも,ながきこのよを
#[左注](右今案 高市<崗>本宮後<崗>本宮二代二帝各有異焉 但称<崗>本天皇未審其指)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 岳 -> 崗 [元][古][紀]
#[鄣W],相聞,作者:舒明,皇極,恋情,女歌,挽歌発想,枕詞
#[訓異]
#[大意]神代の昔から代々生まれ継いで来たので、人は国に大勢いて、あじ鴨の群れのように行き通いしているが、自分が恋い思うあなたではないので、昼は日の暮れるまで、夜は夜の明けるまで恋い思い続けて安眠も出来ないで明かしてしまっていることだ。長いこの夜を
#{語釈]
崗本天皇 舒明天皇を指す
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](<崗>本天皇御製一首[并短歌])反歌
#[原文]山羽尓 味村驂 去奈礼騰 吾者左夫思恵 君二四不<在>者
#[訓読]山の端にあぢ群騒き行くなれど我れは寂しゑ君にしあらねば
#[仮名],やまのはに,あぢむらさわき,ゆくなれど,われはさぶしゑ,きみにしあらねば
#[左注](右今案 高市<崗>本宮後<崗>本宮二代二帝各有異焉 但称<崗>本天皇未審其指)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 存 -> 在 [西(右書)][元][類]
#[鄣W],相聞,作者:舒明,皇極,恋情,挽歌発想
#[訓異]
#[大意]山の峰にあじ鴨の群れが騒いで行くようであるが、自分はさびしいことだ。あなたではないので
#{語釈]
ぶしゑ 間投助詞 詠嘆
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]((<崗>本天皇御製一首[并短歌])反歌)
#[原文]淡海路乃 鳥篭之山有 不知哉川 氣乃己呂其侶波 戀乍裳将有
#[訓読]近江道の鳥篭の山なる不知哉川日のころごろは恋ひつつもあらむ
#[仮名],あふみちの,とこのやまなる,いさやかは,けのころごろは,こひつつもあらむ
#[左注]右今案 高市<崗>本宮後<崗>本宮二代二帝各有異焉 但称<崗>本天皇未審其指
#[校異]岳 -> 崗 [元][古][紀] / 岳 -> 崗 [西(右書)][元][類][古][紀] / 岳 -> 崗 [西(右書)][元][類][古][紀]
#[鄣W],相聞,作者:舒明,皇極,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]近江道の鳥篭の山にある不知哉川ではないが、先のことはいざ知らず、とにかく恋い続けていながらいよう
#{語釈]
鳥篭の山 滋賀県彦根市正法寺町 11.2710
不知哉川 滋賀県犬上郡 大堀川 (芹川 ) 11.2710
#[説明]
左注 舒明天皇か斉明天皇か定かではない。男女どちらの歌とも取れる
伊藤博 推古女帝葬送後に慕った舒明天皇の歌が伝承されたものか。
#[関連論文]
#[題詞]額田王思近江天皇作歌一首
#[原文]君待登 吾戀居者 我屋戸之 簾動之 秋風吹
#[訓読]君待つと我が恋ひ居れば我が宿の簾動かし秋の風吹く
#[仮名],きみまつと,あがこひをれば,わがやどの,すだれうごかし,あきのかぜふく
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:額田王,天智,恋情,待つ,漢詩
#[訓異]
#[大意]あなたを待つとして私が恋い思っていると我が家の簾を動かして秋の風が吹いて来る
#{語釈]
#[説明]
玉台新詠 張華「情詩」五首 文選巻29
#[関連論文]
#[題詞]鏡王女作歌一首
#[原文]風乎太尓 戀流波乏之 風小谷 将来登時待者 何香将嘆
#[訓読]風をだに恋ふるは羨し風をだに来むとし待たば何か嘆かむ
#[仮名],かぜをだに,こふるはともし,かぜをだに,こむとしまたば,なにかなげかむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:鏡王女,額田王,天智,待つ
#[訓異]
#[大意]風だけでも恋い思うのはうらやましい。風だけでも来るのを待つならば何を嘆くことがあろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]吹芡刀自歌二首
#[原文]真野之浦乃 与騰<乃>継橋 情由毛 思哉妹之 伊目尓之所見
#[訓読]真野の浦の淀の継橋心ゆも思へや妹が夢にし見ゆる
#[仮名],まののうらの,よどのつぎはし,こころゆも,おもへやいもが,いめにしみゆる
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 乃 [西(右書)][元][類][金]
#[鄣W],相聞,作者:吹芡刀自,恋情,夢,皮肉,誤伝,伝承,序詞
#[訓異]
#[大意]真野の浦の淀みにかかる継梯のように継いで継いで絶えず思ってくれるからであろうか妹が夢に見えることだ
#{語釈]
真野の浦 兵庫県長田区東尻池町 滋賀県大津市真野 11.2771
継橋 八つ橋のようなもの
#[説明]
男の歌 混じったか
#[関連論文]
#[題詞](吹芡刀自歌二首)
#[原文]河上乃 伊都藻之花乃 何時<々々> 来益我背子 時自異目八方
#[訓読]川上のいつ藻の花のいつもいつも来ませ我が背子時じけめやも
#[仮名],かはかみの,いつものはなの,いつもいつも,きませわがせこ,ときじけめやも
#[左注]
#[校異]<> -> 々々 [西(右書)][類][紀][細]
#[鄣W],相聞,作者:吹芡刀自,勧誘,序詞
#[訓異]
#[大意]川のほとりの神聖な藻の花ではないが、いつでもいらっしゃい。我が脊子よ。その時はないということがありましょうか。
#{語釈]
いつ藻の花 花の咲く川藻 不明。
いつは、齋つであり神聖なこと。藻の繁殖する力を神聖視している
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]田部忌寸櫟子任<大>宰時歌四首
#[原文]衣手尓 取等騰己保里 哭兒尓毛 益有吾乎 置而如何将為 [舎人吉年]
#[訓読]衣手に取りとどこほり泣く子にもまされる我れを置きていかにせむ [舎人吉年]
#[仮名],ころもでに,とりとどこほり,なくこにも,まされるわれを,おきていかにせむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 太 -> 大 [桂][元][金][紀]
#[鄣W],相聞,作者:田部櫟子,恋情,羈旅,離別,太宰府,任官
#[訓異]
#[大意]衣の袖に取り付いて泣く子にもまさって別れを悲しんでいる自分なのに、置いて行って自分はどのようにすればいいのか
#{語釈]
田部忌寸櫟子(いちひ) 伝未詳。近江朝の人か
田部は、応神朝の帰化人。阿智王(漢高祖の子孫)の末裔
和名抄 櫟子 いちひ
舎人吉年 天智天皇挽歌 女官。恋人か、恋人を演じているのか
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](田部忌寸櫟子任<大>宰時歌四首)
#[原文]置而行者 妹将戀可聞 敷細乃 黒髪布而 長此夜乎 <[田部忌寸櫟子]>
#[訓読]置きていなば妹恋ひむかも敷栲の黒髪敷きて長きこの夜を <[田部忌寸櫟子]>
#[仮名],おきていなば,いもこひむかも,しきたへの,くろかみしきて,ながきこのよを
#[左注]
#[校異]<> -> 田部忌寸櫟子 [元][細]
#[鄣W],相聞,作者:田部櫟子,恋情,羈旅,離別,太宰府,任官,呪術,枕詞
#[訓異]
#[大意]後に置いていったならば妹は恋い思うだろうか。敷妙の黒髪を敷いて長居この夜を
#{語釈]
敷栲の 黒髪の枕詞。妙(繊維)を敷くという意味で、髪を敷くことが布を敷くように見えることからくるか。
黒髪敷きて 来訪する男を待って寝る呪的行為
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](田部忌寸櫟子任<大>宰時歌四首)
#[原文]吾妹兒乎 相令知 人乎許曽 戀之益者 恨三念
#[訓読]我妹子を相知らしめし人をこそ恋のまされば恨めしみ思へ
#[仮名],わぎもこを,あひしらしめし,ひとをこそ,こひのまされば,うらめしみおもへ
#[左注]
#[校異]乎 [元][紀][金](塙) 矣
#[鄣W],相聞,作者:田部櫟子,恋情,羈旅,離別,太宰府,任官
#[訓異]
#[大意]我妹子を紹介した人を恋いがまさるので恨めしく思うことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](田部忌寸櫟子任<大>宰時歌四首)
#[原文]朝日影 尓保敝流山尓 照月乃 不猒君乎 山越尓置手
#[訓読]朝日影にほへる山に照る月の飽かざる君を山越しに置きて
#[仮名],あさひかげ,にほへるやまに,てるつきの,あかざるきみを,やまごしにおきて
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:田部櫟子,恋情,羈旅,離別,太宰府,任官
#[訓異]
#[大意]朝日の光に照り輝く山に照る月のようにいつまでも見たいと思おうあたなを山の向こうに置いて(行ってしまうのは心苦しいことだ)
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]柿本朝臣人麻呂歌四首
#[原文]三熊野之 浦乃濱木綿 百重成 心者雖念 直不相鴨
#[訓読]み熊野の浦の浜木綿百重なす心は思へど直に逢はぬかも
#[仮名],みくまのの,うらのはまゆふ,ももへなす,こころはもへど,ただにあはぬかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:柿本人麻呂,恋情,挽歌発想,贈答,紀州,和歌山,羈旅,序詞,地名,植物#[訓異]
#[大意]み熊野の浦の浜木綿のように幾重にも心に恋い思うが直接会わないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]04/0497
#[題詞](柿本朝臣人麻呂歌四首)
#[原文]古尓 有兼人毛 如吾歟 妹尓戀乍 宿不勝家牟
#[訓読]いにしへにありけむ人も我がごとか妹に恋ひつつ寐ねかてずけむ
#[仮名],いにしへに,ありけむひとも,あがごとか,いもにこひつつ,いねかてずけむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:柿本人麻呂,恋情,羈旅,和歌山,挽歌発想,昔
#[訓異]
#[大意]昔いたという人も自分のように妹に恋い続けて寝ることが出来なかっただろうか
#{語釈]
#[説明]1118と同想
#[関連論文]
#[題詞](柿本朝臣人麻呂歌四首)
#[原文]今耳之 行事庭不有 古 人曽益而 哭左倍鳴四
#[訓読]今のみのわざにはあらずいにしへの人ぞまさりて音にさへ泣きし
#[仮名],いまのみの,わざにはあらず,いにしへの,ひとぞまさりて,ねにさへなきし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:柿本人麻呂,恋情,羈旅,和歌山,挽歌発想
#[訓異]
#[大意]今だけのことではない。昔の人にまさって大声を上げて泣いたことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](柿本朝臣人麻呂歌四首)
#[原文]百重二物 来及毳常 念鴨 公之使乃 雖見不飽有<武>
#[訓読]百重にも来及かぬかもと思へかも君が使の見れど飽かずあらむ
#[仮名],ももへにも,きしかぬかもと,おもへかも,きみがつかひの,みれどあかずあらむ
#[左注]
#[校異]哉 -> 武 [桂][元][金][紀]
#[鄣W],相聞,作者:柿本人麻呂,恋情,使者
#[訓異]
#[大意]何度も何度もひっきりなしに来て欲しいと思うからだろうか。あなたの使いを見ても満足することはないよ
#{語釈]
来及かぬかも 来て及ぶ ひっきりなしに来る
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]碁檀越徃伊勢國時留妻作歌一首
#[原文]神風之 伊勢乃濱荻 折伏 客宿也将為 荒濱邊尓
#[訓読]神風の伊勢の浜荻折り伏せて旅寝やすらむ荒き浜辺に
#[仮名],かむかぜの,いせのはまをぎ,をりふせて,たびねやすらむ,あらきはまへに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:碁檀越妻,伊勢,三重,羈旅,留守,枕詞,植物
#[訓異]
#[大意]神風の伊勢の浜荻を折り伏せて旅寝をすることだろうか。荒々しい浜辺で。
#{語釈]
碁檀越 伝未詳 檀越は施主の称号。旦那など
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]柿本朝臣人麻呂歌三首
#[原文]未通女等之 袖振山乃 水垣之 久時従 憶寸吾者
#[訓読]娘子らが袖布留山の瑞垣の久しき時ゆ思ひき我れは
#[仮名],をとめらが,そでふるやまの,みづかきの,ひさしきときゆ,おもひきわれは
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:柿本人麻呂,歌垣,枕詞,序詞
#[訓異]
#[大意]
あの娘が袖を振るそのふゆ布留の山の瑞垣が古くからあるようにそのように長い間恋い思って来たのだ。自分は。
#{語釈]
瑞垣 神域を示す垣根。石組みか
#[説明]
類歌 11/2415 人麻呂歌集
#[関連論文]
#[題詞](柿本朝臣人麻呂歌三首)
#[原文]夏野去 小<壮>鹿之角乃 束間毛 妹之心乎 忘而念哉
#[訓読]夏野行く牡鹿の角の束の間も妹が心を忘れて思へや
#[仮名],なつのゆく,をしかのつのの,つかのまも,いもがこころを,わすれておもへや
#[左注]
#[校異]牡 -> 壯 [金][紀]
#[鄣W],相聞,作者:柿本人麻呂,恋情,動物,序詞
#[訓異]
#[大意]夏の野を行く雄鹿の角が生えたてで短いように、そのようにほんのわづかな時間でも妹のことを忘れて思おうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](柿本朝臣人麻呂歌三首)
#[原文]珠衣乃 狭藍左謂沈 家妹尓 物不語来而 思金津裳
#[訓読]玉衣のさゐさゐしづみ家の妹に物言はず来にて思ひかねつも
#[仮名],たまきぬの,さゐさゐしづみ,いへのいもに,ものいはずきにて,おもひかねつも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:柿本人麻呂,恋情,別離,悲別,出発,羈旅
#[訓異]
#[大意]美しい衣の衣擦れではないが、ざわざわと騒々しかった出立の騒ぎが落ち着いてみると家の妻に十分に話しをしてこなかったことが心残りだ
#{語釈]
さゐさゐしづみ 衣の衣擦れと出発の騒がしさ
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]柿本朝臣人麻呂妻歌一首
#[原文]君家尓 吾住坂乃 家道乎毛 吾者不忘 命不死者
#[訓読]君が家に我が住坂の家道をも我れは忘れじ命死なずは
#[仮名],きみがいへに,わがすみさかの,いへぢをも,われはわすれじ,いのちしなずは
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],相聞,作者:柿本人麻呂妻,宇陀,恋情,難解,地名
#[訓異]
#[大意]あなたの家に自分が住むその墨坂の家へ帰る道を自分は忘れることはない。生きている限りは
#{語釈]
住坂 墨坂神社がある 榛原町萩原の西外れ 伊勢街道沿い
#[説明]
人麻呂が通過する場所を思いやって安全を祈る歌
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#[題詞]安倍女郎歌二首
#[原文]今更 何乎可将念 打靡 情者君尓 縁尓之物乎
#[訓読]今さらに何をか思はむうち靡き心は君に寄りにしものを
#[仮名],いまさらに,なにをかおもはむ,うちなびき,こころはきみに,よりにしものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:安倍女郎,恋情
#[訓異]
#[大意]今更何を物思いしようか。すっかり靡き寄って心はあなたに寄っているものなのに
#{語釈]
安倍女郎 伝未詳
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](安倍女郎歌二首)
#[原文]吾背子波 物莫念 事之有者 火尓毛水尓<母> 吾莫七國
#[訓読]我が背子は物な思ひそ事しあらば火にも水にも我れなけなくに
#[仮名],わがせこは,ものなおもひそ,ことしあらば,ひにもみづにも,われなけなくに
#[左注]
#[校異]毛 -> 母 [桂][元][紀]
#[鄣W],相聞,作者:安倍女郎,恋情
#[訓異]
#[大意]あなたは物思いなどなさいますな。事があるなら火にも水にも自分はいないというわけではありません。(どこにでもいますから)
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]駿河婇女歌一首
#[原文]敷細乃 枕従久<々>流 涙二曽 浮宿乎思家類 戀乃繁尓
#[訓読]敷栲の枕ゆくくる涙にぞ浮寝をしける恋の繁きに
#[仮名],しきたへの,まくらゆくくる,なみたにぞ,うきねをしける,こひのしげきに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 久 -> 々 [元][金][紀]
#[鄣W],相聞,作者:駿河婇女,恋情,枕詞
#[訓異]
#[大意]敷妙の枕から漏れ落ちる涙で不安定な寝方をしました。恋いが激しい中で
#{語釈]
駿河采女 伝未詳。駿河出身の采女。08/1420
枕ゆくくる 枕から漏れ落ちる くくるは、潜る
浮寝 船の上で揺られながらねること。不安定で落ち着かない様子で寝る
相手の真意が確かめられないままに寝ること
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]三方沙弥歌一首
#[原文]衣手乃 別今夜従 妹毛吾母 甚戀名 相因乎奈美
#[訓読]衣手の別かる今夜ゆ妹も我れもいたく恋ひむな逢ふよしをなみ
#[仮名],ころもでの,わかるこよひゆ,いももあれも,いたくこひむな,あふよしをなみ
#[左注]
#[校異]母 [金][紀][細] 毛
#[鄣W],相聞,作者:三方沙弥,恋情,別離,羈旅,枕詞
#[訓異]
#[大意]衣手のように別れる今夜は妹も自分もひどく恋い思うだろうな。会う手だてもないので
#{語釈]
三方沙弥 02/123~5
#[説明]
旅に出る時の歌か
#[関連論文]
#[題詞]丹比真人笠麻呂下筑紫國時作歌一首[并短歌]
#[原文]臣女乃 匣尓乗有 鏡成 見津乃濱邊尓 狭丹頬相 紐解不離 吾妹兒尓 戀乍居者 明晩乃 旦霧隠 鳴多頭乃 哭耳之所哭 吾戀流 干重乃一隔母 名草漏 情毛有哉跡 家當 吾立見者 青旗乃 葛木山尓 多奈引流 白雲隠 天佐我留 夷乃國邊尓 直向 淡路乎過 粟嶋乎 背尓見管 朝名寸二 水手之音喚 暮名寸二 梶之聲為乍 浪上乎 五十行左具久美 磐間乎 射徃廻 稲日都麻 浦箕乎過而 鳥自物 魚津左比去者 家乃嶋 荒礒之宇倍尓 打靡 四時二生有 莫告我 奈騰可聞妹尓 不告来二計謀
#[訓読]臣の女の 櫛笥に乗れる 鏡なす 御津の浜辺に さ丹つらふ 紐解き放けず 我妹子に 恋ひつつ居れば 明け暮れの 朝霧隠り 鳴く鶴の 音のみし泣かゆ 我が恋ふる 千重の一重も 慰もる 心もありやと 家のあたり 我が立ち見れば 青旗の 葛城山に たなびける 白雲隠る 天さがる 鄙の国辺に 直向ふ 淡路を過ぎ 粟島を そがひに見つつ 朝なぎに 水手の声呼び 夕なぎに 楫の音しつつ 波の上を い行きさぐくみ 岩の間を い行き廻り 稲日都麻 浦廻を過ぎて 鳥じもの なづさひ行けば 家の島 荒磯の上に うち靡き 繁に生ひたる なのりそが などかも妹に 告らず来にけむ
#[仮名],おみのめの,くしげにのれる,かがみなす,みつのはまべに,さにつらふ,ひもときさけず,わぎもこに,こひつつをれば,あけくれの,あさぎりごもり,なくたづの,ねのみしなかゆ,あがこふる,ちへのひとへも,なぐさもる,こころもありやと,いへのあたり,わがたちみれば,あをはたの,かづらきやまに,たなびける,しらくもがくる,あまさがる,ひなのくにべに,ただむかふ,あはぢをすぎ,あはしまを,そがひにみつつ,あさなぎに,かこのこゑよび,ゆふなぎに,かぢのおとしつつ,なみのうへを,いゆきさぐくみ,いはのまを,いゆきもとほり,いなびつま,うらみをすぎて,とりじもの,なづさひゆけば,いへのしま,ありそのうへに,うちなびき,しじにおひたる,なのりそが,などかもいもに,のらずきにけむ
#[左注]
#[校異]短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌
#[鄣W],相聞,作者:丹比笠麻呂,羈旅,恋情,別離,望郷,枕詞,地名,植物,大阪,兵庫,道行き
#[訓異]
#[大意]
女官の持っている櫛笥の中に入っている鏡のように波もなく海の平らな御津の浜に赤味がかった紐も解き放たず我が妹に恋い続けていると、夜明けの朝霧に隠れて鳴く鶴のように声を上げて泣くばかりである。自分が恋い思う千分の一も慰められる気持ちがあるだろうかと家の方向を自分が立って眺めてみると、青い幡のような葛城山にたなびいている白雲に隠れて見えない。天遠く下がった田舎の国に直接面している淡路を過ぎて粟島を背後に見ながら朝なぎに水夫の声を呼び、夕なぎに楫の音がしながら、波を押し分けて行き、岩礁の間を難渋して廻り、印南妻の浦のめぐりを過ぎて、鳥のように難渋していくと、家の島の荒磯の上に靡いて多く生えている名告り藻ではないが、どうして妹と十分に言葉を交わさずに来たのだろうか
#{語釈]
丹比真人笠麻呂 伝未詳
臣の女 臣下の女 官女 女官が持っている櫛笥
鏡なす御津 鏡を見るので御津(みつ)にかかる。
御津の海は鏡のように穏やかなのでかかる。
明け暮れ 夜明けのまだ薄暗い時
粟島 所在未詳。阿波の国とも家島あたりの島ともいう。
あはしま 兵庫県淡路島 香川県屋島 阿波島 徳島県 四国 阿波国 03.0358 04.0509 07.1207
あはしま 未詳 12.3167
あはしま 山口県熊毛郡平生湾 阿多田島 山口県大島郡屋代島 15.3631 1633(m)
い行きさぐくみ 波を押し分けて行く
家の島 いへしま 兵庫県飾磨郡家島町 15.3627 3718d 3718
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](丹比真人笠麻呂下筑紫國時作歌一首[并短歌])反歌
#[原文]白<細>乃 袖解更而 還来武 月日乎數而 徃而来猿尾
#[訓読]白栲の袖解き交へて帰り来む月日を数みて行きて来ましを
#[仮名],しろたへの,そでときかへて,かへりこむ,つきひをよみて,ゆきてこましを
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 妙 -> 細 [元][紀][類][古]
#[鄣W],相聞,作者:丹比笠麻呂,羈旅,別離,枕詞
#[訓異]
#[大意]白妙の袖を解き交えて帰ってまたここへ来たいものだ。月日を数えて可能ならばこの築紫へ行く船に追いつけるうちに都に行って帰って来るのに。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]幸伊勢國時當麻麻呂大夫妻作歌一首
#[原文]吾背子者 何處将行 己津物 隠之山乎 今日歟超良<武>
#[訓読]我が背子はいづく行くらむ沖つ藻の名張の山を今日か越ゆらむ
#[仮名],わがせこは,いづくゆくらむ,おきつもの,なばりのやまを,けふかこゆらむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 哉 -> 武 [西(訂正)][元][金][類]
#[鄣W],相聞,作者:當麻麻呂妻,行幸,伊勢,留守,重出,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]我が夫はどのあたりを行っているのだろう。沖の藻の名張の山を今日あたり越えているのだろうか
#{語釈]
沖つ藻の 海底の藻は隠れているように、隠れる(なばる)で名張にかかる。
#[説明]
01/0043 異伝
#[関連論文]
#[題詞]草嬢歌一首
#[原文]秋田之 穂田乃苅婆加 香縁相者 彼所毛加人之 吾乎事将成
#[訓読]秋の田の穂田の刈りばかか寄りあはばそこもか人の我を言成さむ
#[仮名],あきのたの,ほたのかりばか,かよりあはば,そこもかひとの,わをことなさむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],相聞,作者:草嬢,恋情,うわさ,序詞
#[訓異]
#[大意]秋の田の稲穂の田を苅る場で二人がこんなにも寄り合ったならば、そのことで人々を自分たちのことを好き放題に言いふらすでしょう。
#{語釈]
草嬢 伝未詳
刈りばか 刈り取る分担範囲 16/3887
#[説明]
稲刈りの時の労働歌か。
#[関連論文]
#[題詞]志貴皇子御歌一首
#[原文]大原之 此市柴乃 何時鹿跡 吾念妹尓 今夜相有香裳
#[訓読]大原のこのいち柴のいつしかと我が思ふ妹に今夜逢へるかも
#[仮名],おほはらの,このいちしばの,いつしかと,あがおもふいもに,こよひあへるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:志貴皇子,恋情,逢会,植物,序詞
#[訓異]
#[大意]大原のこの勢いの盛んな柴ではないが、いつ会えるのかと自分が思っていた彼女に今夜会えることだ
#{語釈]
大原 明日香村小原 藤原夫人の里
いち柴 成長の著しい柴。背丈の低い木。いつ藻と同じく成長の早いものは神霊が宿る神聖なものという考え
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]阿倍女郎歌一首
#[原文]吾背子之 盖世流衣之 針目不落 入尓家良之 我情副
#[訓読]我が背子が着せる衣の針目おちず入りにけらしも我が心さへ
#[仮名],わがせこが,けせるころもの,はりめおちず,いりにけらしも,あがこころさへ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 入 [紀] 入来
#[鄣W],相聞,作者:阿倍女郎,恋情
#[訓異]
#[大意]あなたの着ている衣の針目ごとに糸が縫ってあるでしょう。私の心までも縫われているのです
#{語釈]
#[説明]
衣を作って贈った時に添えた歌か。
私の心がこもっているということを訴える。
#[関連論文]
#[題詞]中臣朝臣東人贈阿倍女郎歌一首
#[原文]獨宿而 絶西紐緒 忌見跡 世武為便不知 哭耳之曽泣
#[訓読]ひとり寝て絶えにし紐をゆゆしみと為むすべ知らに音のみしぞ泣く
#[仮名],ひとりねて,たえにしひもを,ゆゆしみと,せむすべしらに,ねのみしぞなく
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:中臣東人,阿倍女郎,恋情,不安,不吉,贈答
#[訓異]
#[大意]独りで寝ていて切れた衣の紐が不吉であるのでと、どうしようもなく大声を上げて泣くばかりである
#{語釈]
中臣朝臣東人 中臣意美麻呂の子、宅守の父。母は鎌足娘斗売娘。和銅4年従五位下。刑部卿従四位下。
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]阿倍女郎答歌一首
#[原文]吾以在 三相二搓流 絲用而 附手益物 今曽悔寸
#[訓読]我が持てる三相に搓れる糸もちて付けてましもの今ぞ悔しき
#[仮名],わがもてる,みつあひによれる,いともちて,つけてましもの,いまぞくやしき
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:阿倍女郎,中臣東人,贈答
#[訓異]
#[大意]自分が持っている三つ搓に搓った糸を用いた紐を衣に付けておけばよかったおに。今となっては悔しいことだ
#{語釈]
#[説明]
前の歌への返事か。切れない糸を紐にすればよかったと答えたもの。
#[関連論文]
#[題詞]大納言兼大将軍大伴卿歌一首
#[原文]神樹尓毛 手者觸云乎 打細丹 人妻跡云者 不觸物可聞
#[訓読]神木にも手は触るといふをうつたへに人妻といへば触れぬものかも
#[仮名],かむきにも,てはふるといふを,うつたへに,ひとづまといへば,ふれぬものかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴安麻呂,人妻
#[訓異]
#[大意]神木にも手は触れるというのに、めったに人妻と言うと触れないものだろうか
#{語釈]
大納言兼大将軍大伴卿 大伴安麻呂 旅人の父
うつたへに めったに あながちに
#[説明]
神木に触れる罪 0712
相手が他の男とつきあいがあったか。
#[関連論文]
#[題詞]石川郎女歌一首 [即佐保大伴大家也]
#[原文]春日野之 山邊道乎 与曽理無 通之君我 不所見許呂香聞
#[訓読]春日野の山辺の道をよそりなく通ひし君が見えぬころかも
#[仮名],かすがのの,やまへのみちを,よそりなく,かよひしきみが,みえぬころかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 与 [西(貼紙)][元] 於
#[鄣W],相聞,作者:石川郎女(邑婆),大伴安麻呂,地名,奈良
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]春日野の山辺の道を恐れることなく通ったあなたが見えないこの頃である
#[説明]
よそりなく 元により「於」 恐れなく 春日野の神を恐れることなく
註釈 ひたすら 余所に寄ることなく
#[関連論文]
#[題詞]大伴女郎歌一首 [今城王之母也今城王後賜大原真人氏也]
#[原文]雨障 常為公者 久堅乃 昨夜雨尓 将懲鴨
#[訓読]雨障み常する君はひさかたの昨夜の夜の雨に懲りにけむかも
#[仮名],あまつつみ,つねするきみは,ひさかたの,きぞのよのあめに,こりにけむかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴女郎,勧誘
#[訓異]
#[大意]いつも前に阻まれて家におられるあなたは、昨夜の前に懲りてしまったのでしょうか
#{語釈]
大伴女郎 伝未詳。旅との妻とすると、今城王の父に嫁し、後に旅人の正妻となる。
大伴坂上郎女とする とすると穂積王との間に今城王を生む。
今城王 伝未詳。大原真人今城。天平宝字元年従五位下 家持と親交が深い。
#[説明]
たまたま私の所に来た時は大雨だったが、もう懲りて来ないのかとからかい半分でいったもの。
#[関連論文]
#[題詞](大伴女郎歌一首 [今城王之母也今城王後賜大原真人氏也])後人追同歌一首
#[原文]久堅乃 雨毛落<粳> 雨乍見 於君副而 此日令晩
#[訓読]ひさかたの雨も降らぬか雨障み君にたぐひてこの日暮らさむ
#[仮名],ひさかたの,あめもふらぬか,あまつつみ,きみにたぐひて,このひくらさむ
#[左注]
#[校異]糠 -> 粳 [元][類][紀]
#[鄣W],相聞,作者:大伴女郎,追同,枕詞
#[訓異]
#[大意]久方の雨も降らないものか。雨に降りこめられてあなたに寄り添ってこの日を暮らそう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]藤原宇合大夫遷任上京時常陸娘子贈歌一首
#[原文]庭立 麻手苅干 布<暴> 東女乎 忘賜名
#[訓読]庭に立つ麻手刈り干し布曝す東女を忘れたまふな
#[仮名],にはにたつ,あさでかりほし,ぬのさらす,あづまをみなを,わすれたまふな
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 慕 -> 暴 [元]
#[鄣W],相聞,作者:常陸娘子,藤原宇合,餞別,植物
#[訓異]
#[大意]庭に植えて茂り立っている麻を刈って乾して布にして曝す作業をする東女をお忘れにならないで
#{語釈]
藤原宇合大夫 養老3年(719)常陸守、養老5年帰京 正五位上
常陸娘子 現地の女性。遊行女婦か。
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也]
#[原文]𡢳嬬等之 珠篋有 玉櫛乃 神家武毛 妹尓阿波受有者
#[訓読]娘子らが玉櫛笥なる玉櫛の神さびけむも妹に逢はずあれば
#[仮名],をとめらが,たまくしげなる,たまくしの,かむさびけむも,いもにあはずあれば
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:藤原麻呂,坂上郎女,枕詞,序詞,贈答
#[訓異]
#[大意]娘子の持つ美しい櫛笥にある櫛ではないが、神々しくなっているだろうか。妹に会わないでいると
#{語釈]
京職藤原大夫 養老5年6月(721)京職。
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也])
#[原文]好渡 人者年母 有云乎 何時間曽毛 吾戀尓来
#[訓読]よく渡る人は年にもありといふをいつの間にぞも我が恋ひにける
#[仮名],よくわたる,ひとはとしにも,ありといふを,いつのまにぞも,あがこひにける
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:藤原麻呂,坂上郎女,贈答
#[訓異]
#[大意]よく出来た人は一年でも会わないですむというが、いつの間に自分は恋い思うようになったのだろう
#{語釈]
よく渡る よくガマンして日々を送る
年にもあり 一年でもその状態でいる
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也])
#[原文]蒸被 奈胡也我下丹 雖臥 与妹不宿者 肌之寒霜
#[訓読]むし衾なごやが下に伏せれども妹とし寝ねば肌し寒しも
#[仮名],むしふすま,なごやがしたに,ふせれども,いもとしねねば,はだしさむしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:藤原麻呂,坂上郎女,孤独,贈答
#[訓異]
#[大意]むし布団の柔らかい中で寝ているが、妹と寝ていないので肌が寒いことだ
#{語釈]
蒸被 日虫の羽で作った軽い布団
からむし、などのように繊維を取る植物(苧)でつくった布団
蚕の繊維(生糸、真綿)で作った布団
蒸したように暖かい布団
なごや 柔らかい、なごやか
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也])大伴郎女和歌四首
#[原文]狭穂河乃 小石踐渡 夜干玉之 黒馬之来夜者 年尓母有粳
#[訓読]佐保川の小石踏み渡りぬばたまの黒馬来る夜は年にもあらぬか
#[仮名],さほがはの,こいしふみわたり,ぬばたまの,くろまくるよは,としにもあらぬか
#[左注](右郎女者佐保大納言卿之女也 初嫁一品穂積皇子 被寵無儔而皇子薨之後時 藤原麻呂大夫娉之郎女焉 郎女家於坂上里 仍族氏号曰坂上郎女也)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,藤原麻呂,恋情,贈答,地名,奈良,動物,枕詞
#[訓異]
#[大意]佐保川の小石を踏み渡りぬばたまの黒馬の来る夜はせめて一年に一度でもないものか
#{語釈]
佐保川 坂上の里 油阪あたり。麻呂は菅原あたりに邸宅があるので、二条大路を東に行く
或いは、佐保邸にいるか。
小石踏み渡り 目立つ大路を行くのではなく、橋のない小路を行くか。
黒馬 闇夜に目立たないようにする意味
年にもあらぬか 一年に一度でもないことか
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]((京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也])大伴郎女和歌四首)
#[原文]千鳥鳴 佐保乃河瀬之 小浪 止時毛無 吾戀者
#[訓読]千鳥鳴く佐保の川瀬のさざれ波やむ時もなし我が恋ふらくは
#[仮名],ちどりなく,さほのかはせの,さざれなみ,やむときもなし,あがこふらくは
#[左注](右郎女者佐保大納言卿之女也 初嫁一品穂積皇子 被寵無儔而皇子薨之後時 藤原麻呂大夫娉之郎女焉 郎女家於坂上里 仍族氏号曰坂上郎女也)
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,藤原麻呂,恋情,贈答,枕詞,動物,枕詞,地名,奈良
#[訓異]
#[大意]千鳥鳴く佐保の川瀨のさざれ浪よ。その波のように止む時がない。自分が恋い思うことは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]((京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也])大伴郎女和歌四首)
#[原文]将来云毛 不来時有乎 不来云乎 将来常者不待 不来云物乎
#[訓読]来むと言ふも来ぬ時あるを来じと言ふを来むとは待たじ来じと言ふものを
#[仮名],こむといふも,こぬときあるを,こじといふを,こむとはまたじ,こじといふものを
#[左注](右郎女者佐保大納言卿之女也 初嫁一品穂積皇子 被寵無儔而皇子薨之後時 藤原麻呂大夫娉之郎女焉 郎女家於坂上里 仍族氏号曰坂上郎女也)
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,藤原麻呂,贈答
#[訓異]
#[大意]来ようと言いながらも来ない時があるのに来ないというのを来ようというので待ちませんよ。来ないというものであるから。
#{語釈]
#[説明]
来ないと言っているので、急に来ても待っていませんと強がりを言ったもの
#[関連論文]
#[題詞]((京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 [卿諱曰麻呂也])大伴郎女和歌四首)
#[原文]千鳥鳴 佐保乃河門乃 瀬乎廣弥 打橋渡須 奈我来跡念者
#[訓読]千鳥鳴く佐保の川門の瀬を広み打橋渡す汝が来と思へば
#[仮名],ちどりなく,さほのかはとの,せをひろみ,うちはしわたす,ながくとおもへば
#[左注]右郎女者佐保大納言卿之女也 初嫁一品穂積皇子 被寵無儔而皇子薨之後時 藤原麻呂大夫娉之郎女焉 郎女家於坂上里 仍族氏号曰坂上郎女也
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,藤原麻呂,川渡り,贈答,動物,枕詞,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]千鳥鳴く佐保の川岸の流れが速いので打橋を渡す。あなたが来ると思うと
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]又大伴坂上郎女歌一首
#[原文]佐保河乃 涯之官能 <少>歴木莫苅焉 在乍毛 張之来者 立隠金
#[訓読]佐保川の岸のつかさの柴な刈りそねありつつも春し来たらば立ち隠るがね
#[仮名],さほがはの,きしのつかさの,しばなかりそね,ありつつも,はるしきたらば,たちかくるがね
#[左注]
#[校異]小 -> 少 [桂][元][古][紀]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,野遊び,奈良,地名,植物,贈答
#[訓異]
#[大意]佐保川の岸の土手の柴草を刈るなよ。そのままにしておいて春がやって来たら立ち隠れることが出来るように
#{語釈]
つかさ 土手の小高くなっている所
#[説明]
07/1274H01住吉の出見の浜の柴な刈りそね娘子らが赤裳の裾の濡れて行かむ見む
歌垣風に詠んだか。
#[関連論文]
#[題詞]天皇賜海上女王御歌一首 [寧樂宮即位天皇也]
#[原文]赤駒之 越馬柵乃 緘結師 妹情者 疑毛奈思
#[訓読]赤駒の越ゆる馬柵の標結ひし妹が心は疑ひもなし
#[仮名],あかごまの,こゆるうませの,しめゆひし,いもがこころは,うたがひもなし
#[左注]右今案 此歌擬古之作也 但以時當便賜斯歌歟
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],相聞,作者:聖武天皇,海上女王,動物,序詞,贈答
#[訓異]
#[大意]元気な馬を飛び越える馬柵をしっかりと紐で結ぶように契りを結んだ妹の心は疑うこともない
#{語釈]
天皇 聖武天皇
海上女王 志貴皇子の子。養老7年従四位下。神亀元年従三位
赤駒 元気な馬
07/1141H01武庫川の水脈を早みか赤駒の足掻くたぎちに濡れにけるかも
11/2510H01赤駒が足掻速けば雲居にも隠り行かむぞ袖まけ我妹
12/3069H01赤駒のい行きはばかる真葛原何の伝て言直にしよけむ
14/3540H01左和多里の手児にい行き逢ひ赤駒が足掻きを速み言問はず来ぬ
19/4260H01大君は神にしませば赤駒の腹這ふ田居を都と成しつ
20/4417H01赤駒を山野にはがし捕りかにて多摩の横山徒歩ゆか遣らむ
右今案 此歌擬古之作也 但以時當便賜斯歌歟
何の古歌かはわからない。天皇の御製にしては馬柵などがあるので左注者はそのように思ったのか。
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](天皇賜海上女王御歌一首 [寧樂宮即位天皇也])海上<王>奉和歌一首 [志貴皇子之女也]
#[原文]梓弓 爪引夜音之 遠音尓毛 君之御幸乎 聞之好毛
#[訓読]梓弓爪引く夜音の遠音にも君が御幸を聞かくしよしも
#[仮名],あづさゆみ,つまびくよおとの,とほとにも,きみがみゆきを,きかくしよしも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 女王 -> 王 [桂][元][古][紀]
#[鄣W],相聞,作者:聖武天皇,海上女王,贈答
#[訓異]
#[大意]梓弓を爪引く夜のその遠い音のように、遠いうわさでも大君のいらっしゃるということを聞くのはうれしいことです
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴宿奈麻呂宿祢歌二首 [佐保大納言<卿>之第三子也]
#[原文]打日指 宮尓行兒乎 真悲見 留者苦 聴去者為便無
#[訓読]うちひさす宮に行く子をま悲しみ留むれば苦し遣ればすべなし
#[仮名],うちひさす,みやにゆくこを,まかなしみ,とむればくるし,やればすべなし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 卿 [西(右書)][桂] / <> -> 之 [桂][紀]
#[鄣W],相聞,作者:大伴宿奈麻呂,枕詞
#[訓異]
#[大意]うちひさす宮に行くあなたがほんとうに愛しいが、止めると心苦しい。だからといって参らせるとどうしようもない気持ちになる
#{語釈]
大伴宿奈麻呂 坂上郎女との間に大嬢と二嬢をもうける。神亀五年没。
うちひさす 日がさすで宮の枕詞
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](大伴宿奈麻呂宿祢歌二首 [佐保大納言<卿>之第三子也])
#[原文]難波方 塩干之名凝 飽左右二 人之見兒乎 吾四乏毛
#[訓読]難波潟潮干のなごり飽くまでに人の見る子を我れし羨しも
#[仮名],なにはがた,しほひのなごり,あくまでに,ひとのみるこを,われしともしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴宿奈麻呂,大阪,地名,序詞
#[訓異]
#[大意]難波潟の潮干の名残は満足するまで難波の人は見ることが出来るが、自分は十分見ることが出来ずにうらやましいことだ
#{語釈]
#[説明]
神亀六年ぐらいの時、難波宮造営に関わって難波にいたか。
相手は、坂上郎女か。
#[関連論文]
#[題詞]安貴王歌一首[并短歌]
#[原文]遠嬬 此間不在者 玉桙之 道乎多遠見 思空 安莫國 嘆虚 不安物乎 水空徃 雲尓毛欲成 高飛 鳥尓毛欲成 明日去而 於妹言問 為吾 妹毛事無 為妹 吾毛事無久 今裳見如 副而毛欲得
#[訓読]遠妻の ここにしあらねば 玉桙の 道をた遠み 思ふそら 安けなくに 嘆くそら 苦しきものを み空行く 雲にもがも 高飛ぶ 鳥にもがも 明日行きて 妹に言どひ 我がために 妹も事なく 妹がため 我れも事なく 今も見るごと たぐひてもがも
#[仮名],とほづまの,ここにしあらねば,たまほこの,みちをたどほみ,おもふそら,やすけなくに,なげくそら,くるしきものを,みそらゆく,くもにもがも,たかとぶ,とりにもがも,あすゆきて,いもにことどひ,あがために,いももことなく,いもがため,あれもことなく,いまもみるごと,たぐひてもがも
#[左注](右安貴王娶因幡八上釆女 係念極甚愛情尤盛 於時勅断不敬之罪退却本郷焉 于是王意悼怛聊作此歌也)
#[校異]歌 [西] 謌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌
#[鄣W],相聞,作者:安貴王,因幡八上釆女,恋情,離別,枕詞,悲別
#[訓異]
#[大意]今は遠く離れてしまった妻はここにはいないので、玉梓の道が遠いので、思うにつけても心安らかでなく、嘆くにつけても苦しいものであるのに、空を行く雲でもありたいものだ。空高く飛ぶ鳥でありたいものだ。それならば明日にも行って妹を訪ね、自分にとって妹も何事もなく、妹の為にも自分も何事もなく、今も会っているように一緒に連れ添っていたいものだ
#{語釈]
安貴王 志貴王の子、春日王の子か。紀郎女と別離する
"04/0643"紀郎女怨恨歌三首 [鹿人大夫之女名曰小鹿也安貴王之妻也]"
右安貴王、因幡八上釆女を娶る。係念極めて甚しく愛情尤も盛んなり。時に不敬の罪に断罪せられ、本郷に退去せしめらる。是に王の意、悼(いた)び怛(かな)しびて、聊か此の歌を作る。
神亀年中に起きた事件か。
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](安貴王歌一首[并短歌])反歌
#[原文]敷細乃 手枕不纒 間置而 年曽經来 不相念者
#[訓読]敷栲の手枕まかず間置きて年ぞ経にける逢はなく思へば
#[仮名],しきたへの,たまくらまかず,あひだおきて,としぞへにける,あはなくおもへば
#[左注]右安貴王娶因幡八上釆女 係念極甚愛情尤盛 於時勅断不敬之罪退却本郷焉 于是王意悼怛聊作此歌也
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:安貴王,因幡八上釆女,離別,恋情,枕詞,悲別
#[訓異]
#[大意]敷栲の手枕を枕としないうちに長い時が過ぎて、年が経ってしまった。会わないことを思うと。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]門部王戀歌一首
#[原文]飫宇能海之 塩干乃<鹵>之 片念尓 思哉将去 道之永手呼
#[訓読]意宇の海の潮干の潟の片思に思ひや行かむ道の長手を
#[仮名],おうのうみの,しほひのかたの,かたもひに,おもひやゆかむ,みちのながてを
#[左注]右門部王任出雲守時娶部内娘子也 未有幾時 既絶徃来 累月之後更起愛心 仍作此歌贈致娘子
#[校異]歌 [西] 謌 / 滷 -> 鹵 [桂][元] / 歌 [西] 謌
#[鄣W],相聞,作者:門部王,恋情,島根,地名,序詞
#[訓異]
#[大意]意宇の海の潮干の干潟のカタではないが、片思いで物思いをして行くことだろうか。長い道のりを
#{語釈]
門部 長皇子の孫。和銅三年従五位下、天平一二年臣籍降下姓大原真人氏。一七年大蔵卿従四位上で卒。風流侍従の一人。
03/0310
03/0371題詞]出雲守門部王思京歌一首 [後賜大原真人氏也]"
意宇の海の河原の千鳥汝が鳴けば我が佐保川の思ほゆらくに"
意宇の海 中海
#[説明]
都に帰任するときに、現地の女性を恋い思うという趣きの歌。
送別会の場か。
#[関連論文]
#[題詞]高田女王贈今城王歌六首
#[原文]事清 甚毛莫言 一日太尓 君伊之哭者 痛寸<敢>物
#[訓読]言清くいたもな言ひそ一日だに君いしなくはあへかたきかも
#[仮名],こときよく,いともないひそ,ひとひだに,きみいしなくは,あへかたきかも
#[左注]
#[校異]取 -> 敢 [古義][新考][菊沢季生]
#[鄣W],相聞,作者:高田女王,今城王,恋情,贈答
#[訓異]
#[大意]来られないことのきれい言をそんなにもひどくは言わないでください。一日でもあなたに会わないのならばがまんできません
#{語釈]
高田女王 門部王の兄の高安王の娘
今城王 519題詞 伝未詳。大原真人今城。天平宝字元年従五位下 家持と親交が深い。
君い いは強意の副助詞
03/0237H01いなと言へど語れ語れと宣らせこそ志斐いは申せ強ひ語りと詔る
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](高田女王贈今城王歌六首)
#[原文]他辞乎 繁言痛 不相有寸 心在如 莫思吾背<子>
#[訓読]人言を繁み言痛み逢はずありき心あるごとな思ひ我が背子
#[仮名],ひとごとを,しげみこちたみ,あはずありき,こころあるごと,なおもひわがせこ
#[左注]
#[校異]<> -> 子 [西(追補)][桂][紀]
#[鄣W],相聞,作者:高田女王,今城王,うわさ,贈答
#[訓異]
#[大意]人のうわさが激しくてひどいので会わないでいたのですよ。浮気な気持ちがあるようには思わないでください。我が背子よ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](高田女王贈今城王歌六首)
#[原文]吾背子師 遂常云者 人事者 繁有登毛 出而相麻志<乎>
#[訓読]我が背子し遂げむと言はば人言は繁くありとも出でて逢はましを
#[仮名],わがせこし,とげむといはば,ひとごとは,しげくありとも,いでてあはましを
#[左注]
#[校異]呼 -> 乎 [桂][元][紀][温]
#[鄣W],相聞,作者:高田女王,今城王,うわさ,贈答
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]我が背子が添い遂げようとおっしゃるならば、人のうわさがひどくあったとしても家から出て逢おうものなのに
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](高田女王贈今城王歌六首)
#[原文]吾背子尓 復者不相香常 思墓 今朝別之 為便無有都流
#[訓読]我が背子にまたは逢はじかと思へばか今朝の別れのすべなかりつる
#[仮名],わがせこに,またはあはじか,とおもへばか,けさのわかれの,すべなかりつる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:高田女王,今城王,恋情,別れ,贈答
#[訓異]
#[大意]我が背子に再び逢えるだろうかと思うからなんだろうか。今朝の別れはどうしようもない気持ちになる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](高田女王贈今城王歌六首)
#[原文]現世尓波 人事繁 来生尓毛 将相吾背子 今不有十方
#[訓読]この世には人言繁し来む世にも逢はむ我が背子今ならずとも
#[仮名],このよには,ひとごとしげし,こむよにも,あはむわがせこ,いまならずとも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:高田女王,今城王,うわさ,贈答
#[訓異]
#[大意]この世は人のうわさがひどい。来世でも逢おうよ。我が背子よ。今でなくとも
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](高田女王贈今城王歌六首)
#[原文]常不止 通之君我 使不来 今者不相跡 絶多比奴良思
#[訓読]常やまず通ひし君が使ひ来ず今は逢はじとたゆたひぬらし
#[仮名],つねやまず,かよひしきみが,つかひこず,いまはあはじと,たゆたひぬらし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:高田女王,今城王,贈答
#[訓異]
#[大意]いつも頻繁にやって来ていたあなたの使いは来ない。今は逢わないよと滞っているらしい
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]神龜元年甲子冬十月幸紀伊國之時為贈従駕人所誂娘子<作歌>一首[并短歌] <笠朝臣金村>
#[原文]天皇之 行幸乃随意 物部乃 八十伴雄与 出去之 愛夫者 天翔哉 軽路従 玉田次 畝火乎見管 麻裳吉 木道尓入立 真土山 越良武公者 黄葉乃 散飛見乍 親 吾者不念 草枕 客乎便宜常 思乍 公将有跡 安蘇々二破 且者雖知 之加須我仁 黙然得不在者 吾背子之 徃乃萬々 将追跡者 千遍雖念 手<弱>女 吾身之有者 道守之 将問答乎 言将遣 為便乎不知跡 立而爪衝
#[訓読]大君の 行幸のまにま もののふの 八十伴の男と 出で行きし 愛し夫は 天飛ぶや 軽の路より 玉たすき 畝傍を見つつ あさもよし 紀路に入り立ち 真土山 越ゆらむ君は 黄葉の 散り飛ぶ見つつ にきびにし 我れは思はず 草枕 旅をよろしと 思ひつつ 君はあらむと あそそには かつは知れども しかすがに 黙もえあらねば 我が背子が 行きのまにまに 追はむとは 千たび思へど 手弱女の 我が身にしあれば 道守の 問はむ答へを 言ひやらむ すべを知らにと 立ちてつまづく
#[仮名],おほきみの,みゆきのまにま,もののふの,やそとものをと,いでゆきし,うるはしづまは,あまとぶや,かるのみちより,たまたすき,うねびをみつつ,あさもよし,きぢにいりたち,まつちやま,こゆらむきみは,もみちばの,ちりとぶみつつ,にきびにし,われはおもはず,くさまくら,たびをよろしと,おもひつつ,きみはあらむと,あそそには,かつはしれども,しかすがに,もだもえあらねば,わがせこが,ゆきのまにまに,おはむとは,ちたびおもへど,たわやめの,わがみにしあれば,みちもりの,とはむこたへを,いひやらむ,すべをしらにと,たちてつまづく
#[左注]
#[校異]笠朝臣金村作歌 -> 作歌 [桂][元] / <> -> 笠朝臣金村 [桂][元] / 嫋 -> 弱 [桂][元][類][紀]
#[鄣W],相聞,作者:笠金村,代作,行幸,紀伊,妻,都,羈旅,枕詞,地名,神亀1年10月,年紀
#[訓異]
#[大意]大君の行幸に従ってもののふの大勢の伴人として出立していった愛しい夫は、空を飛ぶ雁ではないが、軽の道から玉たすきを項にかける畝傍山を見ながら、よい麻裳を作る紀州路に入り立って、真土山を今頃越えておられるであろうあなたは、黄葉の散り飛ぶのをみながら、慣れ親しんだ自分を思い出すこともなく草枕旅が楽しいと思いながらあなたはいるだろうと、うすうすは一方ではわかるが、そうではあるが黙っているわけにもいられないので、我が夫が行ったのに従って追いかけていこうとは何度も思うが、手弱女の我が身であるので、関所の番人が尋ねる答えを言う方法も知らないで立ちすくんでつまずいていることだ。
#{語釈]
神龜元年甲子冬十月幸紀伊國之時 続日本紀 聖武天皇10月5日~23日 紀州行幸
八十島祭の行事か。
為贈従駕人所誂娘子 従駕する人に贈る為に娘子に誂らえて 従駕する人のために都に残った娘に頼まれて作った
あそそには 未詳 うすうすとの意か
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](神龜元年甲子冬十月幸紀伊國之時為贈従駕人所誂娘子<作歌>一首[并短歌] <笠朝臣金村>)反歌
#[原文]後居而 戀乍不有者 木國乃 妹背乃山尓 有益物乎
#[訓読]後れ居て恋ひつつあらずは紀の国の妹背の山にあらましものを
#[仮名],おくれゐて,こひつつあらずは,きのくにの,いもせのやまに,あらましものを
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:笠金村,代作,行幸,紀伊,和歌山,妻,羈旅,地名,神亀1年10月,年紀#[訓異]
#[大意]後に残って恋い続けてはいずに紀の国の妹背の山であればよかったのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]04/0545
#[題詞]((神龜元年甲子冬十月幸紀伊國之時為贈従駕人所誂娘子<作歌>一首[并短歌] <笠朝臣金村>)反歌)
#[原文]吾背子之 跡履求 追去者 木乃關守伊 将留鴨
#[訓読]我が背子が跡踏み求め追ひ行かば紀の関守い留めてむかも
#[仮名],わがせこが,あとふみもとめ,おひゆかば,きのせきもりい,とどめてむかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠金村,代作,行幸,紀伊,和歌山,妻,羈旅,地名,神亀1年10月,年紀#[訓異]
#[大意]我が夫の後を追いかけて行くならば、紀の関守が止めてしまうだろうか
#{語釈]
紀の関守 軍防令 軍防令 54 置関条 凡置関応守固者。並置配兵士分番上下。其三関者。設鼓吹軍器国司分当守固。所配兵士之数。依別式
紀州で具体的には不明。三関以外では、越中で砺波関
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]04/0546
#[題詞]二年乙丑春三月幸三香原離宮之時得娘子<作歌>一首[并短歌] <笠朝臣金村>
#[原文]三香<乃>原 客之屋取尓 珠桙乃 道能去相尓 天雲之 外耳見管 言将問 縁乃無者 情耳 咽乍有尓 天地 神祇辞因而 敷細乃 衣手易而 自妻跡 憑有今夜 秋夜之 百夜乃長 有与宿鴨
#[訓読]三香の原 旅の宿りに 玉桙の 道の行き逢ひに 天雲の 外のみ見つつ 言問はむ よしのなければ 心のみ 咽せつつあるに 天地の 神言寄せて 敷栲の 衣手交へて 己妻と 頼める今夜 秋の夜の 百夜の長さ ありこせぬかも
#[仮名],みかのはら,たびのやどりに,たまほこの,みちのゆきあひに,あまくもの,よそのみみつつ,こととはむ,よしのなければ,こころのみ,むせつつあるに,あめつちの,かみことよせて,しきたへの,ころもでかへて,おのづまと,たのめるこよひ,あきのよの,ももよのながさ,ありこせぬかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 笠朝臣金村作歌 -> 作歌 [桂][元][紀] / <> -> 笠朝臣金村 [桂][元][紀] / 之 -> 乃 [桂][元]
#[鄣W],相聞,作者:笠金村,行幸,久邇京,京都,地名,枕詞,神亀2年3月,年紀
#[訓異]
#[大意]三香の原、旅の仮泊に玉鉾の道に行き会い、天雲のように余所ながらばかり見続けて言葉を交わす手だてがないので、気持ちばかり鬱屈していた所、天地の神が仲を取り持って敷妙の衣手を取り交わして我が妻と頼みにする今夜、秋の夜の百の夜ほどもある長い夜があってはくれないものか。
#{語釈]
二年乙丑春三月 続日本紀 行幸記事なし。聖武天皇時代。元明上皇の意向によるか。
三香原離宮 後の恭仁宮 甕(野)原とも表記される。
神言寄 神が言葉を寄せて 仲を取り持って
#[説明]
行幸時の都の妻から離れて孤独になっている男の希望を歌ったもの。
#[関連論文]
#[題詞](二年乙丑春三月幸三香原離宮之時得娘子<作歌>一首[并短歌] <笠朝臣金村>)反歌
#[原文]天雲之 外従見 吾妹兒尓 心毛身副 縁西鬼尾
#[訓読]天雲の外に見しより我妹子に心も身さへ寄りにしものを
#[仮名],あまくもの,よそにみしより,わぎもこに,こころもみさへ,よりにしものを
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],相聞,作者:笠金村,行幸,久邇京,京都,枕詞,地名,神亀2年3月
#[訓異]
#[大意]天の雲のように余所ながら見ていた我が妹子に心ばかりでなく体までも寄り添ってしまったものだ
#{語釈]
を 感動の余韻を残す終助詞
#[説明]
官能的に詠んでいる
#[関連論文]
#[題詞]((二年乙丑春三月幸三香原離宮之時得娘子<作歌>一首[并短歌] <笠朝臣金村>)反歌)
#[原文]今夜之 早開者 為便乎無三 秋百夜乎 願鶴鴨
#[訓読]今夜の早く明けなばすべをなみ秋の百夜を願ひつるかも
#[仮名],こよひの,はやくあけなば,すべをなみ,あきのももよを,ねがひつるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:笠金村,行幸,久邇京,京都,地名,神亀2年3月
#[訓異]
#[大意]今夜が早く明けてしまったならばどうしようもないので、秋の長い夜が百もあって欲しいと願っていることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]五年戊辰<大>宰少貳石川足人朝臣遷任餞于筑前國蘆城驛家歌三首
#[原文]天地之 神毛助与 草枕 羈行君之 至家左右
#[訓読]天地の神も助けよ草枕旅行く君が家にいたるまで
#[仮名],あめつちの,かみもたすけよ,くさまくら,たびゆくきみが,いへにいたるまで
#[左注](右三首作者未詳)
#[校異]歌 [西] 謌 / 太 -> 大 [桂][元][紀]
#[鄣W],相聞,石川足人,餞別,羈旅,枕詞,福岡,地名,神亀5年,年紀
#[訓異]
#[大意]天地の神も助けてくれ。草枕旅に行くあなたが都の家に至り着くまで
#{語釈]
五年戊辰 神亀五年 この秋頃に大伴旅人が太宰帥任官
<大>宰少貳石川足人朝臣 和銅5年 従五位下、神亀元年従五位上 6.955 太宰府に任官
蘆城驛家 福岡県筑紫野市 田川道の最初の駅家
#[説明]
餞別の歌
#[関連論文]
#[題詞](五年戊辰<大>宰少貳石川足人朝臣遷任餞于筑前國蘆城驛家歌三首)
#[原文]大船之 念憑師 君之去者 吾者将戀名 直相左右二
#[訓読]大船の思ひ頼みし君が去なば我れは恋ひむな直に逢ふまでに
#[仮名],おほぶねの,おもひたのみし,きみがいなば,あれはこひむな,ただにあふまでに
#[左注](右三首作者未詳)
#[校異]
#[鄣W],相聞,石川足人,餞別,羈旅,恋情,福岡,地名,神亀5年,年紀
#[訓異]
#[大意]大船のように頼みに思っていたあなたが去ってしまったならば自分は恋い思うだろうよ。また直接会うまでは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](五年戊辰<大>宰少貳石川足人朝臣遷任餞于筑前國蘆城驛家歌三首)
#[原文]山跡道之 嶋乃浦廻尓 縁浪 間無牟 吾戀巻者
#[訓読]大和道の島の浦廻に寄する波間もなけむ我が恋ひまくは
#[仮名],やまとぢの,しまのうらみに,よするなみ,あひだもなけむ,あがこひまくは
#[左注]右三首作者未詳
#[校異]
#[鄣W],相聞,石川足人,餞別,羈旅,序詞,恋情,福岡,地名,神亀5年
#[訓異]
#[大意]大和への道の島の浦のめぐりに寄せる波ではないが、間断もないことだろう。自分が恋い思うことは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴宿祢三依歌一首
#[原文]吾君者 和氣乎波死常 念可毛 相夜不相<夜> 二走良武
#[訓読]我が君はわけをば死ねと思へかも逢ふ夜逢はぬ夜二走るらむ
#[仮名],あがきみは,わけをばしねと,おもへかも,あふよあはぬよ,ふたはしるらむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 夜 [西(右書)][桂][元]
#[鄣W],相聞,作者:大伴三依,怨恨,恋情
#[訓異]
#[大意]
我が君は自分を死ねとでも思っているのか、逢う夜と逢わない夜が両方平行して続いている
#{語釈]
大伴宿祢三依 大伴御行の子ども 天平20年40歳あまりで従五位下
宝亀五年散位従四位下で卒
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]丹生女王贈<大>宰帥大伴卿歌二首
#[原文]天雲乃 遠隔乃極 遠鷄跡裳 情志行者 戀流物可聞
#[訓読]天雲のそくへの極み遠けども心し行けば恋ふるものかも
#[仮名],あまくもの,そくへのきはみ,とほけども,こころしゆけば,こふるものかも
#[左注]
#[校異]太 -> 大 [桂][元][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:丹生女王,大伴旅人,羈旅,贈答,恋情
#[訓異]
#[大意]天雲の遠くへだった極みのように遠いけれども思いが通じると恋い思うことです
#{語釈]
丹生女王 天平十一年従四位上 天平勝宝三年正四位上
そくへ 退く辺 遠くへだった所
心し行けば 思いが通じる 何者にもさえぎられずに行く
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](丹生女王贈<大>宰帥大伴卿歌二首)
#[原文]古人乃 令食有 吉備能酒 <病>者為便無 貫簀賜牟
#[訓読]古人のたまへしめたる吉備の酒病めばすべなし貫簀賜らむ
#[仮名],ふるひとの,たまへしめたる,きびのさけ,やめばすべなし,ぬきすたばらむ
#[左注]
#[校異]痛 -> 病 [元][類][紀]
#[鄣W],相聞,作者:丹生女王,大伴旅人,贈答
#[訓異]
#[大意]昔なじみの人が下さった吉備の酒。飲んでも効果がないのならばどうしようもない。どうせならば貫簀をいただきたい
#{語釈]
古人 昔なじみの人 年老いた人 大伴旅人を指す
吉備の酒 備後が酒の産地として有名 吉備産の酒
薬酒を送ったか 甘い芳醇な味醂に似たものか
病めばすべなし せっかく薬用酒をもらったのに、治らなかったらしかたがない
飲み過ぎて嘔吐したらどうしようもない(少し品がない。近い仲だからといってふざけ過ぎ))
貫簀 手や顔を洗う時に、洗い桶の上に懸けて水が飛び散らないようにした簀の子
吉備産が有名であったか
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]<大>宰帥大伴卿贈大貳丹比縣守卿遷任民部卿歌一首
#[原文]為君 醸之待酒 安野尓 獨哉将飲 友無二思手
#[訓読]君がため醸みし待酒安の野にひとりや飲まむ友なしにして
#[仮名],きみがため,かみしまちざけ,やすののに,ひとりやのまむ,ともなしにして
#[左注]
#[校異]太 -> 大 [桂][元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:大伴旅人,丹比縣守,餞別,送別,太宰府,福岡,地名
#[訓異]
#[大意]あなたのために作った待酒を安の野で独りで飲むことなのであろうか。友人もいなくて
#{語釈]
丹比縣守 左大臣嶋の子。和銅四年従五位上 天平九年生三位中納言で薨去。
安の野 549 蘆城驛家周辺の野
待酒 友人と飲むために作った酒。出来上がる前に友人は都へと行く
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]賀茂女王贈大伴宿祢三依歌一首 [故左大臣長屋王之女也]
#[原文]筑紫船 未毛不来者 豫 荒振公乎 見之悲左
#[訓読]筑紫船いまだも来ねばあらかじめ荒ぶる君を見るが悲しさ
#[仮名],つくしふね,いまだもこねば,あらかじめ,あらぶるきみを,みるがかなしさ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:賀茂女王,大伴三依,恨み,離別,贈答
#[訓異]
#[大意]築紫へ行く船がまだ来てもいないのに、よそよそしくするあなたを見るのは悲しいことです
#{語釈]
賀茂女王 08/1613 母阿倍朝臣
荒ぶる 荒々しくする よそよそしくする
#[説明]
築紫へ赴任する直前か
#[関連論文]
#[題詞]土師宿祢水<道>従筑紫上京海路作歌二首
#[原文]大船乎 榜乃進尓 磐尓觸 覆者覆 妹尓因而者
#[訓読]大船を漕ぎの進みに岩に触れ覆らば覆れ妹によりては
#[仮名],おほぶねを,こぎのすすみに,いはにふれ,かへらばかへれ,いもによりては
#[左注]
#[校異]通 -> 道 [桂][元] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:土師水道,羈旅,送別,餞別,太宰府,福岡
#[訓異]大船を漕いで進んで岩に触れて転覆するならば転覆してもよい。帰ることが出来て妹に寄り添えるのならば
#[大意]
#{語釈]
土師宿祢水<道> 伝未詳 05/0843
#[説明]
船が座礁を恐れてゆっくりと進むことからのいらだちか
#[関連論文]
#[題詞](土師宿祢水<道>従筑紫上京海路作歌二首)
#[原文]千磐破 神之社尓 我<挂>師 幣者将賜 妹尓不相國
#[訓読]ちはやぶる神の社に我が懸けし幣は賜らむ妹に逢はなくに
#[仮名],ちはやぶる,かみのやしろに,わがかけし,ぬさはたばらむ,いもにあはなくに
#[左注]
#[校異]掛 -> 挂 [桂][元][紀]
#[鄣W],相聞,作者:土師水道,送別,太宰府,福岡,餞別,枕詞
#[訓異]
#[大意]霊威ある神の社に自分が懸けた幣を返して欲しい。妹に会わないのに
#{語釈]
幣は賜らむ 海が荒れていてうまく旅が進まないことから、安全を祈ったのに約束が実現されていないという気持ちを述べる
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]<大>宰大監大伴宿祢百代戀歌四首
#[原文]事毛無 生来之物乎 老奈美尓 如是戀<乎>毛 吾者遇流香聞
#[訓読]事もなく生き来しものを老いなみにかかる恋にも我れは逢へるかも
#[仮名],こともなく,いきこしものを,おいなみに,かかるこひにも,われはあへるかも
#[左注]
#[校異]太 -> 大 [桂][元][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 于 -> 乎 [桂][元][紀]
#[鄣W],相聞,作者:大伴百代,老齢,恋情
#[訓異]
#[大意]何事もなく生きて来たものなのに。年をとってながらこんな恋に自分は会ったことだ
#{語釈]
<大>宰大監 太宰府の三等官
大伴宿祢百代 05/0823 大伴氏の系譜未詳
天平二年頃太宰大監 天平十九年正五位下
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](<大>宰大監大伴宿祢百代戀歌四首)
#[原文]孤悲死牟 後者何為牟 生日之 為社妹乎 欲見為礼
#[訓読]恋ひ死なむ後は何せむ生ける日のためこそ妹を見まく欲りすれ
#[仮名],こひしなむ,のちはなにせむ,いけるひの,ためこそいもを,みまくほりすれ
#[左注]
#[校異]後 [元][桂][紀] 時
#[鄣W],相聞,作者:大伴百代,恋情
#[訓異]
#[大意]恋い死にしてしまったらどうしようか。生きている今日のためにこそ妹を見たいと思うのだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](<大>宰大監大伴宿祢百代戀歌四首)
#[原文]不念乎 思常云者 大野有 三笠社之 神思知三
#[訓読]思はぬを思ふと言はば大野なる御笠の杜の神し知らさむ
#[仮名],おもはぬを,おもふといはば,おほのなる,みかさのもりの,かみししらさむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴百代,福岡,太宰府,地名,恋情
#[訓異]
#[大意]恋い思わないのを思うとウソをつくのは大野にある御笠の杜の神がお知りになって罰が下るでしょう。(だから私は本心を言っているのです)
#{語釈]
大野なる御笠の杜 福岡県大野城市山田にあった社 南福岡駅の東北の森が跡
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](<大>宰大監大伴宿祢百代戀歌四首)
#[原文]無暇 人之眉根乎 徒 令掻乍 不相妹可聞
#[訓読]暇なく人の眉根をいたづらに掻かしめつつも逢はぬ妹かも
#[仮名],いとまなく,ひとのまよねを,いたづらに,かかしめつつも,あはぬいもかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],相聞,作者:大伴百代,怨恨,恋情
#[訓異]
#[大意]間断なく他人の眉を掻かせ続けるわりには会わない妹であることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴坂上郎女歌二首
#[原文]黒髪二 白髪交 至耆 如是有戀庭 未相尓
#[訓読]黒髪に白髪交り老ゆるまでかかる恋にはいまだ逢はなくに
#[仮名],くろかみに,しろかみまじり,おゆるまで,かかるこひには,いまだあはなくに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,老齢,恋情
#[訓異]
#[大意]黒髪に白髪が交じって年をとった今までこんな激しい恋にはまだ会ったことがない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](大伴坂上郎女歌二首)
#[原文]山菅<之> 實不成事乎 吾尓所依 言礼師君者 与孰可宿良牟
#[訓読]山菅の実ならぬことを我れに寄せ言はれし君は誰れとか寝らむ
#[仮名],やますげの,みならぬことを,われによせ,いはれしきみは,たれとかぬらむ
#[左注]
#[校異]乃 -> 之 [桂][類][紀]
#[鄣W],相聞,作者:坂上郎女,戯笑,怨恨,植物,恋愛
#[訓異]
#[大意]山菅の実がならないように、所詮成就しないことであるので、自分との間をうわさで取りざたされたあなたは今頃誰と寝ているのでしょうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]