万葉集 巻第6

#[番号]06/0907
#[題詞]雜歌 / 養老七年癸亥夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌]
#[原文]瀧上之 御舟乃山尓 水枝指 四時尓<生>有 刀我乃樹能 弥継嗣尓 萬代 如是二<二>知三 三芳野之 蜻蛉乃宮者 神柄香 貴将有 國柄鹿 見欲将有 山川乎 清々 諾之神代従 定家良思母
#[訓読]瀧の上の 三船の山に 瑞枝さし 繁に生ひたる 栂の木の いや継ぎ継ぎに 万代に かくし知らさむ み吉野の 秋津の宮は 神からか 貴くあるらむ 国からか 見が欲しからむ 山川を 清みさやけみ うべし神代ゆ 定めけらしも
#[仮名],たきのうへの,みふねのやまに,みづえさし,しじにおひたる,とがのきの,いやつぎつぎに,よろづよに,かくししらさむ,みよしのの,あきづのみやは,かむからか,たふとくあるらむ,くにからか,みがほしくあらむ,やまかはを,きよみさやけみ,うべしかむよゆ,さだめけらしも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 作歌 [西] 作謌 [西(訂正)] 作歌 / 主 -> 生 [元][類][紀] / 三 -> 二 [元][類][古]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,吉野,地名,行幸,従駕,宮廷讃美,離宮,養老7年5月,年紀,植物,枕詞
#[訓異]
#[大意]急流のほとりの三船の山にみずみずしい枝を刺して多く生えている栂の木ではないがますます継いで継いで永久にこのようにお治めになるみ吉野の秋津の宮は、神格があるからなのか貴くあるだろう。国の性格からなのか見たいと思うだろう。山川が清らかでさやかであるので、確かに神代からここだとお定めになったことである

#{語釈]
養老七年 続紀 元正天皇 5月9日行幸、13日帰京

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0908
#[題詞](雑歌 / 養老七年癸亥夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首
#[原文]毎年 如是裳見<壮>鹿 三吉野乃 清河内之 多藝津白浪
#[訓読]年のはにかくも見てしかみ吉野の清き河内のたぎつ白波
#[仮名],としのはに,かくもみてしか,みよしのの,きよきかふちの,たぎつしらなみ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 牡 -> 壮 [元][金][類]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,吉野,行幸,従駕,宮廷讃美,離宮,養老7年5月,年紀,地名
#[訓異]
#[大意]毎年毎年このように見たいものだ。み吉野の清らかな川の中の瀧り流れる白波よ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0909
#[題詞]((雑歌 / 養老七年癸亥夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首)
#[原文]山高三 白木綿花 落多藝追 瀧之河内者 雖見不飽香聞
#[訓読]山高み白木綿花におちたぎつ瀧の河内は見れど飽かぬかも
#[仮名],やまたかみ,しらゆふばなに,おちたぎつ,たきのかふちは,みれどあかぬかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,吉野,行幸,従駕,宮廷讃美,離宮,養老7年5月,年紀
#[訓異]
#[大意]山が高いので白木綿の花のように落ちるように流れる瀧の川内は見ても見飽きることはない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0910
#[題詞](雑歌 / 養老七年癸亥夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])或本反<歌>曰
#[原文]神柄加 見欲賀藍 三吉野乃 瀧<乃>河内者 雖見不飽鴨
#[訓読]神からか見が欲しからむみ吉野の滝の河内は見れど飽かぬかも
#[仮名],かむからか,みがほしからむ,みよしのの,たきのかふちは,みれどあかぬかも
#[左注]
#[校異]謌歌 -> 歌 [西(訂正)] / <> -> 乃 [元][金][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,吉野,行幸,従駕,宮廷讃美,離宮,養老7年5月,年紀,或本歌,異伝,地名
#[訓異]
#[大意]神格のせいからなのだろうか。見たいのだろ。み吉野の瀧の川内は見ても見飽きることはない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0911
#[題詞]((雑歌 / 養老七年癸亥夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])或本反<歌>曰)
#[原文]三芳野之 秋津乃川之 万世尓 断事無 又還将見
#[訓読]み吉野の秋津の川の万代に絶ゆることなくまたかへり見む
#[仮名],みよしのの,あきづのかはの,よろづよに,たゆることなく,またかへりみむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,吉野,行幸,従駕,宮廷讃美,離宮,養老7年5月,年紀,或本歌,異伝,地名
#[訓異]
#[大意]み吉野の秋津の川のようにいつまでも途絶えることなくまた還り見よう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0912
#[題詞]((雑歌 / 養老七年癸亥夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])或本反<歌>曰)
#[原文]泊瀬女 造木綿花 三吉野 瀧乃水沫 開来受屋
#[訓読]泊瀬女の造る木綿花み吉野の滝の水沫に咲きにけらずや
#[仮名],はつせめの,つくるゆふばな,みよしのの,たきのみなわに,さきにけらずや
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,吉野,行幸,従駕,宮廷讃美,離宮,養老7年5月,年紀,或本歌,異伝,地名
#[訓異]
#[大意]初瀨女の作る木綿花は、み吉野の瀧のあぶくに咲いてはいないであろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0913
#[題詞]車持朝臣千年作歌一首[并短歌]
#[原文]味凍 綾丹乏敷 鳴神乃 音耳聞師 三芳野之 真木立山湯 見降者 川之瀬毎 開来者 朝霧立 夕去者 川津鳴奈<拝> 紐不解 客尓之有者 吾耳為而 清川原乎 見良久之惜蒙
#[訓読]味凝り あやにともしく 鳴る神の 音のみ聞きし み吉野の 真木立つ山ゆ 見下ろせば 川の瀬ごとに 明け来れば 朝霧立ち 夕されば かはづ鳴くなへ 紐解かぬ 旅にしあれば 我のみして 清き川原を 見らくし惜しも
#[仮名],うまこり,あやにともしく,なるかみの,おとのみききし,みよしのの,まきたつやまゆ,みおろせば,かはのせごとに,あけくれば,あさぎりたち,ゆふされば,かはづなくなへ,ひもとかぬ,たびにしあれば,わのみして,きよきかはらを,みらくしをしも
#[左注](右年月不審 但以歌類載於此次焉 / 或本云 養老七年五月幸于芳野離宮之時作)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 辨詳 -> 拝 [元][類][紀] [古](楓) 利
#[鄣W],雑歌,作者:車持千年,吉野,行幸,従駕,宮廷讃美,羈旅,養老7年5月,年紀,動物,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]味が凝っているものではないが、妙に心引かれ、雷のようにうわさにばかり聞いていたみ吉野の立派な木が立つ山を通って見下ろすと川の早瀬ごとに夜が明けてくれば朝霧が立ち、夕方になると川津が鳴くごとに衣服の紐を解かない度であるので、自分だけで清ららかな川原を見るのは惜しいことだ

#{語釈]
味凝り  02/0162 あやにの枕詞と見られるが、係り方未詳。
    おいしさが甚だしくて、妙だという係り方か。
おいしい煮こごりに心引かれる意か

#[説明] 望郷と土地讃美の両方が出ている

#[関連論文]


#[番号]06/0914
#[題詞](車持朝臣千年作歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]瀧上乃 三船之山者 雖<畏> 思忘 時毛日毛無
#[訓読]滝の上の三船の山は畏けど思ひ忘るる時も日もなし
#[仮名],たきのうへの,みふねのやまは,かしこけど,おもひわするる,ときもひもなし
#[左注](右年月不審 但以歌類載於此次焉 / 或本云 養老七年五月幸于芳野離宮之時作)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 畏 [西(右書)][元][金][類]
#[鄣W],雑歌,作者:車持千年,吉野,行幸,従駕,宮廷讃美,羈旅,養老7年5月,年紀,地名
#[訓異]
#[大意]急流のほとりの三船の山は神々しいが、思い忘れる時も日もない
#{語釈]
#[説明]
忘るる  故郷が対象か 望郷
     昔の聖帝の時代  神武、雄略、天武、持統


#[関連論文]


#[番号]06/0915
#[題詞](車持朝臣千年作歌一首[并短歌])或本反歌曰
#[原文]千鳥鳴 三吉野川之 <川音> 止時梨二 所思<公>
#[訓読]千鳥泣くみ吉野川の川音のやむ時なしに思ほゆる君
#[仮名],ちどりなく,みよしのかはの,かはおとの,やむときなしに,おもほゆるきみ
#[左注](右年月不審 但以歌類載於此次焉 / 或本云 養老七年五月幸于芳野離宮之時作)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 音成 -> 川音 [金][紀] / 君 -> 公 [元][金][類]
#[鄣W],雑歌,作者:車持千年,吉野,行幸,従駕,宮廷讃美,羈旅,養老7年5月,年紀,或本歌,異伝,枕詞,動物,序詞
#[訓異]
#[大意]千鳥が鳴くみ吉野川の川音のやむ時がないように、しきりに思えてならない君であることだ
#{語釈]
#[説明]
君 昔の聖帝を慕う気持ちで讃美している
  単なる望郷で、女の立場として夫を恋い思う様子

#[関連論文]


#[番号]06/0916
#[題詞]((車持朝臣千年作歌一首[并短歌])或本反歌曰)
#[原文]茜刺 日不並二 吾戀 吉野之河乃 霧丹立乍
#[訓読]あかねさす日並べなくに我が恋は吉野の川の霧に立ちつつ
#[仮名],あかねさす,ひならべなくに,あがこひは,よしののかはの,きりにたちつつ
#[左注]右年月不審 但以歌類載於此次焉 / 或本云 養老七年五月幸于芳野離宮之時作
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 五 [元][金][紀] 正
#[鄣W],雑歌,作者:車持千年,吉野,行幸,従駕,讃美,羈旅,養老7年5月,年紀,或本歌,異伝,枕詞,恋情,地名
#[訓異]
#[大意]茜指す日がそれほど経っていないので、我が恋は吉野の川の霧が立つようにしきりに心に立っている
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0917
#[題詞]神龜元年甲子冬十月五日幸于紀伊國時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌]
#[原文]安見知之 和期大王之 常宮等 仕奉流 左日鹿野由 背<匕>尓所見 奥嶋 清波瀲尓 風吹者 白浪左和伎 潮干者 玉藻苅管 神代従 然曽尊吉 玉津嶋夜麻
#[訓読]やすみしし 我ご大君の 常宮と 仕へ奉れる 雑賀野ゆ そがひに見ゆる 沖つ島 清き渚に 風吹けば 白波騒き 潮干れば 玉藻刈りつつ 神代より しかぞ貴き 玉津島山
#[仮名],やすみしし,わごおほきみの,とこみやと,つかへまつれる,さひかのゆ,そがひにみゆる,おきつしま,きよきなぎさに,かぜふけば,しらなみさわき,しほふれば,たまもかりつつ,かむよより,しかぞたふとき,たまつしまやま
#[左注](右年月不記 但称従駕玉津嶋也 因今檢注行幸年月以載之焉)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 上 -> 匕 [西(右貼紙)][元][金]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,紀州,和歌山,行幸,神亀1年10月5日,年紀,土地讃美,羈旅,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]やすみしし我が大君の永遠の宮としてお仕え申し上げる雑賀野を通って背後に見える沖の島の清らかな渚に風が吹くと白波が騒ぎ、潮が干くと玉藻を苅りながら神代よりこのように貴い玉津島山よ



#{語釈]
神龜元年  聖武天皇紀州行幸
    続紀 神亀元年10月5日平城京を出発
           8日 玉津島頓宮に到着
           21日帰京
      八十島祭的な行事とされている。
雑賀野 和歌山県和歌山市和歌浦町雑賀崎
玉津島山 和歌山県和歌浦玉津島

#[説明]
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#[番号]06/0918
#[題詞](神龜元年甲子冬十月五日幸于紀伊國時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌二首
#[原文]奥嶋 荒礒之玉藻 潮干満 伊隠去者 所念武香聞
#[訓読]沖つ島荒礒の玉藻潮干満ちい隠りゆかば思ほえむかも
#[仮名],おきつしま,ありそのたまも,しほひみち,いかくりゆかば,おもほえむかも
#[左注](右年月不記 但称従駕玉津嶋也 因今檢注行幸年月以載之焉)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,紀州,和歌山,行幸,神亀1年10月5日,年紀,土地讃美,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]沖の島の荒磯の玉藻の潮が干いている所に満ちてきて隠れて行くと玉藻のことが思われてならないことだ

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0919
#[題詞]((神龜元年甲子冬十月五日幸于紀伊國時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌二首)
#[原文]若浦尓 塩満来者 滷乎無美 葦邊乎指天 多頭鳴渡
#[訓読]若の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る
#[仮名],わかのうらに,しほみちくれば,かたをなみ,あしへをさして,たづなきわたる
#[左注]右年月不記 但称従駕玉津嶋也 因今檢注行幸年月以載之焉
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,紀州,和歌山,行幸,土地讃美,羈旅,地名,動物,神亀1年10月5日,年紀
#[訓異]
#[大意]和歌浦に潮が満ちてくると干潟がないので芦辺を指して鶴が鳴き渡っている
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0920
#[題詞]神龜二年乙丑夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌]
#[原文]足引之 御山毛清 落多藝都 芳野<河>之 河瀬乃 浄乎見者 上邊者 千鳥數鳴 下邊者 河津都麻喚 百礒城乃 大宮人毛 越乞尓 思自仁思有者 毎見 文丹乏 玉葛 絶事無 萬代尓 如是霜願跡 天地之 神乎曽祷 恐有等毛
#[訓読]あしひきの み山もさやに 落ちたぎつ 吉野の川の 川の瀬の 清きを見れば 上辺には 千鳥しば鳴く 下辺には かはづ妻呼ぶ ももしきの 大宮人も をちこちに 繁にしあれば 見るごとに あやに乏しみ 玉葛 絶ゆることなく 万代に かくしもがもと 天地の 神をぞ祈る 畏くあれども
#[仮名],あしひきの,みやまもさやに,おちたぎつ,よしののかはの,かはのせの,きよきをみれば,かみへには,ちどりしばなく,しもべには,かはづつまよぶ,ももしきの,おほみやひとも,をちこちに,しじにしあれば,みるごとに,あやにともしみ,たまかづら,たゆることなく,よろづよに,かくしもがもと,あめつちの,かみをぞいのる,かしこくあれども
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 川 -> 河 [金][元][類]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,吉野,行幸,宮廷讃美,神亀2年5月,年紀,枕詞,動物,地名
#[訓異]
#[大意]あしひきのみ山も清かに落ち滾っている吉野の川の川の瀬の清らかなのを見ると上流には千鳥がさかんに鳴いている。下流では蛙が妻を呼んでいる。ももしきの大宮人もあちらこちらに大勢いるので、見る度に不思議にすばらしく思われて、玉鬘ではないが絶えることなく永遠にこのようにあって欲しいと天地の神を祈る。恐れ多いことではあるが
#{語釈]
神龜二年 行幸記事はなし  元年 聖武天皇吉野行幸

#[説明]
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#[番号]06/0921
#[題詞](神龜二年乙丑夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首
#[原文]萬代 見友将飽八 三芳野乃 多藝都河内乃 大宮所
#[訓読]万代に見とも飽かめやみ吉野のたぎつ河内の大宮所
#[仮名],よろづよに,みともあかめや,みよしのの,たぎつかふちの,おほみやところ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,吉野,行幸,宮廷讃美,神亀2年5月,年紀,地名
#[訓異]
#[大意]永遠に見ても見飽きることがあろうか。み吉野の急流の川内の大宮所よ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0922
#[題詞]((神龜二年乙丑夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首)
#[原文]人皆乃 壽毛吾母 三<吉>野乃 多吉能床磐乃 常有沼鴨
#[訓読]皆人の命も我れもみ吉野の滝の常磐の常ならぬかも
#[仮名],みなひとの,いのちもわれも,みよしのの,たきのときはの,つねならぬかも
#[左注]
#[校異]人皆 [元][類] 皆人 / 芳 -> 吉 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,吉野,行幸,宮廷讃美,神亀2年5月,年紀,地名,序詞
#[訓異]
#[大意]みんなの人の命も自分もみ吉野の瀧が永遠なように永遠であってくれないものだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0923
#[題詞]山部宿祢赤人作歌二首[并短歌]
#[原文]八隅知之 和期大王乃 高知為 芳野宮者 立名附 青垣隠 河次乃 清河内曽 春部者 花咲乎遠里 秋去者 霧立渡 其山之 弥益々尓 此河之 絶事無 百石木能 大宮人者 常将通
#[訓読]やすみしし 我ご大君の 高知らす 吉野の宮は たたなづく 青垣隠り 川なみの 清き河内ぞ 春へは 花咲きををり 秋されば 霧立ちわたる その山の いやしくしくに この川の 絶ゆることなく ももしきの 大宮人は 常に通はむ
#[仮名],やすみしし,わごおほきみの,たかしらす,よしののみやは,たたなづく,あをかきごもり,かはなみの,きよきかふちぞ,はるへは,はなさきををり,あきされば,きりたちわたる,そのやまの,いやしくしくに,このかはの,たゆることなく,ももしきの,おほみやひとは,つねにかよはむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 去 [元][細] 部
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,吉野,行幸,宮廷讃美,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]やすみしし我が大君の立派にご統治される吉野の宮は、幾重にも重なり合う青垣のような山に隠っていて、川の風景の清らかな川内は、春は花が咲きたわみ、秋になると霧が立ちこめる。その山のようにますます重ね重ね、この川のように絶えることなくもおしきの大宮人はいつまでも通おう
#{語釈]
たたなづく 幾重にも重なり合う

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0924
#[題詞](山部宿祢赤人作歌二首[并短歌])反歌二首
#[原文]三吉野乃 象山際乃 木末尓波 幾許毛散和口 鳥之聲可聞
#[訓読]み吉野の象山の際の木末にはここだも騒く鳥の声かも
#[仮名],みよしのの,きさやまのまの,こぬれには,ここだもさわく,とりのこゑかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,吉野,行幸,宮廷讃美,地名
#[訓異]
#[大意]み吉野の象山の山際の梢にはひどく鳴き騒ぐ鳥の声である
#{語釈]
#[説明]
宮廷の躍動を述べることによって宮廷を讃美
#[関連論文]


#[番号]06/0925
#[題詞]((山部宿祢赤人作歌二首[并短歌])反歌二首)
#[原文]烏玉之 夜之深去者 久木生留 清河原尓 知鳥數鳴
#[訓読]ぬばたまの夜の更けゆけば久木生ふる清き川原に千鳥しば鳴く
#[仮名],ぬばたまの,よのふけゆけば,ひさぎおふる,きよきかはらに,ちどりしばなく
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,吉野,行幸,宮廷讃美,地名,植物,動物,叙景
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜が更けていくと久木が生える清らかな河原に千鳥がさかんに鳴いている
#{語釈]
久木 未詳  赤目柏か、きささげ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0926
#[題詞](山部宿祢赤人作歌二首[并短歌])
#[原文]安見知之 和期大王波 見吉野乃 飽津之小野笶 野上者 跡見居置而 御山者 射目立渡 朝猟尓 十六履起之 夕狩尓 十里蹋立 馬並而 御<猟>曽立為 春之茂野尓
#[訓読]やすみしし 我ご大君は み吉野の 秋津の小野の 野の上には 跡見据ゑ置きて み山には 射目立て渡し 朝狩に 獣踏み起し 夕狩に 鳥踏み立て 馬並めて 御狩ぞ立たす 春の茂野に
#[仮名],やすみしし,わごおほきみは,みよしのの,あきづのをのの,ののへには,とみすゑおきて,みやまには,いめたてわたし,あさがりに,ししふみおこし,ゆふがりに,とりふみたて,うまなめて,みかりぞたたす,はるのしげのに
#[左注](右不審先後 但以便故載於此<次>)
#[校異]狩 -> 猟 [元][紀][細]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,吉野,行幸,宮廷讃美,地名,枕詞,動物
#[訓異]
#[大意]やすみしし我が大君は、み吉野の秋津の小野の野のほとりには足跡の監視係を置いて、み山には弓を射る場所を設けて、朝猟に動物を踏み起こし、夕方の猟に鳥を踏み立てて、御狩りをお立てになる。春の茂った野に
#{語釈]
跡見 動物の足跡を見つける役
射目 鳥獣を射るために隠れる場所
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0927
#[題詞](山部宿祢赤人作歌二首[并短歌])反歌一首
#[原文]足引之 山毛野毛 御<猟>人 得物矢手<挟> 散動而有所見
#[訓読]あしひきの山にも野にも御狩人さつ矢手挾み騒きてあり見ゆ
#[仮名],あしひきの,やまにものにも,みかりひと,さつやたばさみ,さわきてありみゆ
#[左注]右不審先後 但以便故載於此<次>
#[校異]狩 -> 猟 [元][類][細] / 狭 -> 挟 [元][古][紀] / 歟 -> 次 [西(右書訂正)][元][古][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,吉野,行幸,宮廷讃美,狩猟,地名
#[訓異]
#[大意]あしひきの山にも野にも御狩りをする人が狩りの矢を手挟んで騒いでいるのが見える
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0928
#[題詞]冬十月幸于難波宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌]
#[原文]忍照 難波乃國者 葦垣乃 古郷跡 人皆之 念息而 都礼母無 有之間尓 續麻成 長柄之宮尓 真木柱 太高敷而 食國乎 治賜者 奥鳥 味經乃原尓 物部乃 八十伴雄者 廬為而 都成有 旅者安礼十方
#[訓読]おしてる 難波の国は 葦垣の 古りにし里と 人皆の 思ひやすみて つれもなく ありし間に 続麻なす 長柄の宮に 真木柱 太高敷きて 食す国を 治めたまへば 沖つ鳥 味経の原に もののふの 八十伴の男は 廬りして 都成したり 旅にはあれども
#[仮名],おしてる,なにはのくには,あしかきの,ふりにしさとと,ひとみなの,おもひやすみて,つれもなく,ありしあひだに,うみをなす,ながらのみやに,まきはしら,ふとたかしきて,をすくにを,をさめたまへば,おきつとり,あぢふのはらに,もののふの,やそとものをは,いほりして,みやこなしたり,たびにはあれども
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,難波,大阪,離宮,宮廷讃美,羈旅,枕詞,地名,神亀2年10月,年紀
#[訓異]
#[大意]おしてる難波の国は葦の垣根が古ぼけた里だと人はみんなこの宮のことを思うことをやめて、縁遠くなっていた間に、紡いだ麻糸ではないが長柄の宮に立派な柱を高く立てて造営された国をお治めになるので、沖の鳥の味鴨ではないが、味経の原にもののふの大勢の伴人は仮小屋を建てて都のようにしている。旅ではないけれども

#{語釈]
冬十月 神亀2年10月10日難波行幸 11月10日難波で冬至の賀。11月中旬に還幸か。
縁もなく 養老元年2月11日、元正天皇の難波行幸以来8年半ぶり
続麻なす 紡いだ麻糸が長い意
長柄の宮 孝徳天皇 大化元年 難波長柄豊碕宮
沖つ鳥 味鴨のこと
味経の原 難波宮の南に広がる平野 大阪市法円坂あたり


#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0929
#[題詞](冬十月幸于難波宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首
#[原文]荒野等丹 里者雖有 大王之 敷座時者 京師跡成宿
#[訓読]荒野らに里はあれども大君の敷きます時は都となりぬ
#[仮名],あらのらに,さとはあれども,おほきみの,しきますときは,みやことなりぬ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,難波,大阪,離宮,宮廷讃美,羈旅,地名,神亀2年10月,年紀
#[訓異]
#[大意]荒野には人家はあるが、大君がお治めになる時は都となった
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0930
#[題詞]((冬十月幸于難波宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首)
#[原文]海末通女 棚無小舟 榜出良之 客乃屋取尓 梶音所聞
#[訓読]海人娘女棚なし小舟漕ぎ出らし旅の宿りに楫の音聞こゆ
#[仮名],あまをとめ,たななしをぶね,こぎづらし,たびのやどりに,かぢのおときこゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,難波,大阪,離宮,宮廷讃美,羈旅,地名,神亀2年10月,年紀
#[訓異]
#[大意]海女の娘子が船棚もない小さな船でこぎ出したらしい。旅の仮宿に楫の音が聞こえる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0931
#[題詞]車持朝臣千年作歌一首[并短歌]
#[原文]鯨魚取 濱邊乎清三 打靡 生玉藻尓 朝名寸二 千重浪縁 夕菜寸二 五百重<波>因 邊津浪之 益敷布尓 月二異二 日日雖見 今耳二 秋足目八方 四良名美乃 五十開廻有 住吉能濱
#[訓読]鯨魚取り 浜辺を清み うち靡き 生ふる玉藻に 朝なぎに 千重波寄せ 夕なぎに 五百重波寄す 辺つ波の いやしくしくに 月に異に 日に日に見とも 今のみに 飽き足らめやも 白波の い咲き廻れる 住吉の浜
#[仮名],いさなとり,はまへをきよみ,うちなびき,おふるたまもに,あさなぎに,ちへなみよせ,ゆふなぎに,いほへなみよす,へつなみの,いやしくしくに,つきにけに,ひにひにみとも,いまのみに,あきだらめやも,しらなみの,いさきめぐれる,すみのえのはま
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 浪 -> 波 [元][紀][細] / 日 [元][温][矢] 々
#[鄣W],雑歌,作者:車持千年,難波,大阪,住吉,離宮,宮廷讃美,羈旅,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]鯨を捕る浜辺が清らかなので、靡いて生えている玉藻に朝なぎに幾重もの重なった波が寄せて来て、夕なぎに幾重もの波が寄せてくる。その岸辺の波のようにますます重なって、毎月ごとに一日ごとに見たとしても今だけで満足出来ようか。白波が咲いて廻っている住吉の浜を

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0932
#[題詞](車持朝臣千年作歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]白浪之 千重来縁流 住吉能 岸乃黄土粉 二寶比天由香名
#[訓読]白波の千重に来寄する住吉の岸の埴生ににほひて行かな
#[仮名],しらなみの,ちへにきよする,すみのえの,きしのはにふに,にほひてゆかな
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:車持千年,難波,大阪,住吉,離宮,宮廷讃美,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]白波の幾重にも来て寄せる住吉の崖の土に色づいて行こうよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0933
#[題詞]山部宿祢赤人作歌一首[并短歌]
#[原文]天地之 遠我如 日月之 長我如 臨照 難波乃宮尓 和期大王 國所知良之 御食都國 日之御調等 淡路乃 野嶋之海子乃 海底 奥津伊久利二 鰒珠 左盤尓潜出 船並而 仕奉之 貴見礼者
#[訓読]天地の 遠きがごとく 日月の 長きがごとく おしてる 難波の宮に 我ご大君 国知らすらし 御食つ国 日の御調と 淡路の 野島の海人の 海の底 沖つ海石に 鰒玉 さはに潜き出 舟並めて 仕へ奉るし 貴し見れば
#[仮名],あめつちの,とほきがごとく,ひつきの,ながきがごとく,おしてる,なにはのみやに,わごおほきみ,くにしらすらし,みけつくに,ひのみつきと,あはぢの,のしまのあまの,わたのそこ,おきついくりに,あはびたま,さはにかづきで,ふねなめて,つかへまつるし,たふとしみれば
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,難波,大阪,離宮,宮廷讃美,羈旅,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]天地が遠く隔たっているように、日月が永遠であるようにおしてる難波の宮に我ご大君は国をお治めになるらしい。御食事を奉じる国であり天皇への貢ぎ物として淡路の能島の海人が海の底の沖の岩礁にある鮑玉をたくさん潜って取って船を並べて仕え申し上げるのは貴いのを見ると
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0934
#[題詞](山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]朝名寸二 梶音所聞 三食津國 野嶋乃海子乃 船二四有良信
#[訓読]朝なぎに楫の音聞こゆ御食つ国野島の海人の舟にしあるらし
#[仮名],あさなぎに,かぢのおときこゆ,みけつくに,のしまのあまの,ふねにしあるらし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,難波,大阪,離宮,宮廷讃美,羈旅,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]朝ごとに楫の音が聞こえる。御食事を奉る国である能島の海人の船であるらしい
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0935
#[題詞]三年丙寅秋九月十五日幸於播磨國印南野時笠朝臣金村作歌一首[并短歌]
#[原文]名寸隅乃 船瀬従所見 淡路嶋 松<帆>乃浦尓 朝名藝尓 玉藻苅管 暮菜寸二 藻塩焼乍 海末通女 有跡者雖聞 見尓将去 餘四能無者 大夫之 情者梨荷 手弱女乃 念多和美手 俳徊 吾者衣戀流 船梶雄名三

#[訓読]名寸隅の 舟瀬ゆ見ゆる 淡路島 松帆の浦に 朝なぎに 玉藻刈りつつ 夕なぎに 藻塩焼きつつ 海人娘女 ありとは聞けど 見に行かむ よしのなければ ますらをの 心はなしに 手弱女の 思ひたわみて たもとほり 我れはぞ恋ふる 舟楫をなみ
#[仮名],なきすみの,ふなせゆみゆる,あはぢしま,まつほのうらに,あさなぎに,たまもかりつつ,ゆふなぎに,もしほやきつつ,あまをとめ,ありとはきけど,みにゆかむ,よしのなければ,ますらをの,こころはなしに,たわやめの,おもひたわみて,たもとほり,あれはぞこふる,ふなかぢをなみ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 机 -> 帆 [元][細][京]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,播磨,兵庫,羈旅,恋情,神亀3年9月15日,年紀,地名,枕詞,植物
#[訓異]
#[大意]名寸隅の船瀬から見える淡路島の松帆の浦に朝なぎに玉藻を刈っては夕なぎに藻塩を焼いては海人娘がいるとは聞くけれども、見に行く手立てもないので大夫の心はなくて手弱女のように思いしおれてうろついて自分は恋い思う。舟も楫もなくて。

#{語釈]
三年丙寅秋九月十五 続日本紀 神亀三年十月七日出発。十日印南野邑美の行宮到着。十九日難波宮還幸。二十九日帰京。
          九月というのは行幸の詔が降りた日か
名寸隅  明石市西端魚住町付近か
舟瀬  舟が風波を避けて停泊する所。類聚三代格 魚住(なすみ)の舟瀬
松帆の浦 淡路島北端

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0936
#[題詞](三年丙寅秋九月十五日幸於播磨國印南野時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首
#[原文]玉藻苅 海未通女等 見尓将去 船梶毛欲得 浪高友
#[訓読]玉藻刈る海人娘子ども見に行かむ舟楫もがも波高くとも
#[仮名],たまもかる,あまをとめども,みにゆかむ,ふなかぢもがも,なみたかくとも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,播磨,兵庫,羈旅,恋情,神亀3年9月15日,年紀,植物,地名
#[訓異]
#[大意]玉藻カル海人娘子たちを見に行く舟や楫が欲しい。たとえ波が高くとも
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0937
#[題詞]((三年丙寅秋九月十五日幸於播磨國印南野時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首)
#[原文]徃廻 雖見将飽八 名寸隅乃 船瀬之濱尓 四寸流思良名美
#[訓読]行き廻り見とも飽かめや名寸隅の舟瀬の浜にしきる白波
#[仮名],ゆきめぐり,みともあかめや,なきすみの,ふなせのはまに,しきるしらなみ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,播磨,兵庫,羈旅,恋情,神亀3年9月15日,地名
#[訓異]
#[大意]行き廻って見るとしても見飽きることがあろうか。名寸隅の舟瀬の浜に重なって寄せる白波よ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0938
#[題詞]山部宿祢赤人作歌一首[并短歌]
#[原文]八隅知之 吾大王乃 神随 高所知流 稲見野能 大海乃原笶 荒妙 藤井乃浦尓 鮪釣等 海人船散動 塩焼等 人曽左波尓有 浦乎吉美 宇倍毛釣者為 濱乎吉美 諾毛塩焼 蟻徃来 御覧母知師 清白濱
#[訓読]やすみしし 我が大君の 神ながら 高知らせる 印南野の 大海の原の 荒栲の 藤井の浦に 鮪釣ると 海人舟騒き 塩焼くと 人ぞさはにある 浦をよみ うべも釣りはす 浜をよみ うべも塩焼く あり通ひ 見さくもしるし 清き白浜
#[仮名],やすみしし,わがおほきみの,かむながら,たかしらせる,いなみのの,おふみのはらの,あらたへの,ふぢゐのうらに,しびつると,あまぶねさわき,しほやくと,ひとぞさはにある,うらをよみ,うべもつりはす,はまをよみ,うべもしほやく,ありがよひ,みさくもしるし,きよきしらはま
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 流 [元][紀] 須
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,播磨,兵庫,羈旅,土地讃美,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]やすみしし我が大君の神さながらに立派にお治めになる印南野の大海の原の荒栲の藤井の浦に鮪を釣るとして漁師の舟が入り乱れ、塩を焼くとして人が大勢いる。その浦がよいのでなるほど釣りはしている。浜がよいのでなるほど塩を焼く。いつも通ってご覧になるのも当然のことだ。清らかな白浜は。
#{語釈]
大海の原  明石市西北部 大久保町周辺 行宮があった
藤井の浦  明石市藤江付近
鮪  まぐろの類
見さくも  見るの敬語「見(め)す」のク語法

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/0939
#[題詞](山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌三首
#[原文]奥浪 邊波安美 射去為登 藤江乃浦尓 船曽動流
#[訓読]沖つ波辺波静けみ漁りすと藤江の浦に舟ぞ騒ける
#[仮名],おきつなみ,へなみしづけみ,いざりすと,ふぢえのうらに,ふねぞさわける
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,播磨,兵庫,羈旅,土地讃美,地名
#[訓異]
#[大意]沖の波も岸辺の波も静かなので漁をするとして藤江の浦に船が入り乱れている
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/0940
#[題詞]((山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌三首)
#[原文]不欲見野乃 淺茅押靡 左宿夜之 氣長<在>者 家之小篠生
#[訓読]印南野の浅茅押しなべさ寝る夜の日長くしあれば家し偲はゆ
#[仮名],いなみのの,あさぢおしなべ,さぬるよの,けながくしあれば,いへししのはゆ
#[左注]
#[校異]有 -> 在 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,播磨,兵庫,羈旅,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]印南野の低い茅萱を押し靡かせて寝る夜が日数長くなったので自分は家郷のことが思われる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/0941
#[題詞]((山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌三首)
#[原文]明方 潮干乃道乎 従明日者 下咲異六 家近附者
#[訓読]明石潟潮干の道を明日よりは下笑ましけむ家近づけば
#[仮名],あかしがた,しほひのみちを,あすよりは,したゑましけむ,いへちかづけば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,播磨,兵庫,羈旅,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]明石潟よ。潮が干いた道を明日よりは心密かにうれしいことだ。家が近づくので
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/0942
#[題詞]過辛荷嶋時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌]
#[原文]味澤相 妹目不數見而 敷細乃 枕毛不巻 櫻皮纒 作流舟二 真梶貫 吾榜来者 淡路乃 野嶋毛過 伊奈美嬬 辛荷乃嶋之 嶋際従 吾宅乎見者 青山乃 曽許十方不見 白雲毛 千重尓成来沼 許伎多武流 浦乃盡 徃隠 嶋乃埼々 隈毛不置 憶曽吾来 客乃氣長弥
#[訓読]あぢさはふ 妹が目離れて 敷栲の 枕もまかず 桜皮巻き 作れる船に 真楫貫き 我が漕ぎ来れば 淡路の 野島も過ぎ 印南嬬 辛荷の島の 島の際ゆ 我家を見れば 青山の そことも見えず 白雲も 千重になり来ぬ 漕ぎ廻むる 浦のことごと 行き隠る 島の崎々 隈も置かず 思ひぞ我が来る 旅の日長み
#[仮名],あぢさはふ,いもがめかれて,しきたへの,まくらもまかず,かにはまき,つくれるふねに,まかぢぬき,わがこぎくれば,あはぢの,のしまもすぎ,いなみつま,からにのしまの,しまのまゆ,わぎへをみれば,あをやまの,そこともみえず,しらくもも,ちへになりきぬ,こぎたむる,うらのことごと,ゆきかくる,しまのさきざき,くまもおかず,おもひぞわがくる,たびのけながみ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,羈旅,望郷,兵庫,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]あじさはふ妹の目を離れて敷妙の枕もしないで桜の皮を巻いて作った船に両舷に楫を通し自分が漕いでくると、淡路の野島も過ぎ、印南妻の辛荷の島の島の間から我が家を見ると、青い山が連なってそこだとも見えない。白雲も幾重にも重なった所に来た。漕ぎ廻る浦の全て、行って隠れていく島の御崎の全て、その場所ごとに恋しく思って自分は来る。旅の日が長いので
#{語釈]
辛荷嶋 兵庫県西部 揖保郡御津町室津 三島
あぢさはふ 目にかかる枕詞 味鴨を捕らえる網の目か
桜皮巻き 桜の樹皮 かにはがかんば、かばとなる。
印南嬬  播磨國風土記

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/0943
#[題詞](過辛荷嶋時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌三首
#[原文]玉藻苅 辛荷乃嶋尓 嶋廻為流 水烏二四毛有哉 家不念有六
#[訓読]玉藻刈る唐荷の島に島廻する鵜にしもあれや家思はずあらむ
#[仮名],たまもかる,からにのしまに,しまみする,うにしもあれや,いへおもはずあらむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,羈旅,望郷,兵庫,地名,植物
#[訓異]
#[大意]玉藻を苅る辛荷の島に廻りをまわる鵜でもあるというのか。そうでもないので自分は家郷のことを思わないではいられない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/0944
#[題詞]((過辛荷嶋時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌三首)
#[原文]嶋隠 吾榜来者 乏毳 倭邊上 真熊野之船
#[訓読]島隠り我が漕ぎ来れば羨しかも大和へ上るま熊野の船
#[仮名],しまがくり,わがこぎくれば,ともしかも,やまとへのぼる,まくまののふね
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,羈旅,望郷,兵庫,地名
#[訓異]
#[大意]島に隠れて自分が漕いで来るとうらやましいことだ大和へ上るま熊野の船よ
#{語釈]
ま熊野の船 熊野で作った船。頑丈な良船であったらしい
06/1033H01御食つ国志摩の海人ならしま熊野の小舟に乗りて沖へ漕ぐ見ゆ
12/3172H01浦廻漕ぐ熊野舟つきめづらしく懸けて思はぬ月も日もなし

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/0945
#[題詞]((過辛荷嶋時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌三首)
#[原文]風吹者 浪可将立跡 伺候尓 都太乃細江尓 浦隠居
#[訓読]風吹けば波か立たむとさもらひに都太の細江に浦隠り居り
#[仮名],かぜふけば,なみかたたむと,さもらひに,つだのほそえに,うらがくりをり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,羈旅,兵庫,地名
#[訓異]
#[大意]風が吹くと浪が立つだろう。浪を避けて停泊する津田の細江に浪を避けていることだ
#{語釈]
都太の細江 姫路市南 飾磨区津田

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/0946
#[題詞]過<敏馬>浦時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌]
#[原文]御食向 淡路乃嶋二 直向 三犬女乃浦能 奥部庭 深海松採 浦廻庭 名告藻苅 深見流乃 見巻欲跡 莫告藻之 己名惜三 間使裳 不遣而吾者 生友奈重二
#[訓読]御食向ふ 淡路の島に 直向ふ 敏馬の浦の 沖辺には 深海松採り 浦廻には なのりそ刈る 深海松の 見まく欲しけど なのりその おのが名惜しみ 間使も 遣らずて我れは 生けりともなし
#[仮名],みけむかふ,あはぢのしまに,ただむかふ,みぬめのうらの,おきへには,ふかみるとり,うらみには,なのりそかる,ふかみるの,みまくほしけど,なのりその,おのがなをしみ,まつかひも,やらずてわれは,いけりともなし
#[左注](右作歌年月未詳也 但以類故載於此<次>)
#[校異]驚 -> 敏馬 [西(右書訂正)][元][紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,羈旅,兵庫,望郷,枕詞,地名,植物
#[訓異]
#[大意]御食に供する淡路の島に直接向かい合っている敏馬の浦の沖の方には底深く海松を採り、浦の廻りにはなのりそを刈る。その深海松のように見たいと思うが、なのりその自分の名前が惜しいので使いも遣らないで生きた心地もしない

#{語釈]
#[説明]
望郷か、土地の女への哀愁か
人麻呂歌の影響

#[関連論文]



#[番号]06/0947
#[題詞](過<敏馬>浦時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]為間乃海人之 塩焼衣乃 奈礼名者香 一日母君乎 忘而将念
#[訓読]須磨の海女の塩焼き衣の慣れなばか一日も君を忘れて思はむ
#[仮名],すまのあまの,しほやききぬの,なれなばか,ひとひもきみを,わすれておもはむ
#[左注]右作歌年月未詳也 但以類故載於此<次>
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歟 -> 次 [西(右書訂正)][元][紀][細]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,羈旅,兵庫,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]須磨の海女の塩を焼く衣がよれよれになっているのではないが、馴れてしまったら一日でもあなたのことを忘れて思うだろう。まだ会ったばかりなので一日も忘れることが出来ないことだ

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/0948
#[題詞]四年丁卯春正月勅諸王諸臣子等散禁於授刀寮時作歌一首[并短歌]
#[原文]真葛延 春日之山者 打靡 春去徃跡 山上丹 霞田名引 高圓尓 鴬鳴沼 物部乃 八十友能<壮>者 折<木>四哭之 来継<比日 如>此續 常丹有脊者 友名目而 遊物尾 馬名目而 徃益里乎 待難丹 吾為春乎 决巻毛 綾尓恐 言巻毛 湯々敷有跡 豫 兼而知者 千鳥鳴 其佐保川丹 石二生 菅根取而 之努布草 解除而益乎 徃水丹 潔而益乎 天皇之 御命恐 百礒城之 大宮人之 玉桙之 道毛不出 戀比日

#[訓読]ま葛延ふ 春日の山は うち靡く 春さりゆくと 山の上に 霞たなびく 高円に 鴬鳴きぬ もののふの 八十伴の男は 雁が音の 来継ぐこの頃 かく継ぎて 常にありせば 友並めて 遊ばむものを 馬並めて 行かまし里を 待ちかてに 我がする春を かけまくも あやに畏し 言はまくも ゆゆしくあらむと あらかじめ かねて知りせば 千鳥鳴く その佐保川に 岩に生ふる 菅の根採りて 偲ふ草 祓へてましを 行く水に みそぎてましを 大君の 命畏み ももしきの 大宮人の 玉桙の 道にも出でず 恋ふるこの頃

#[仮名],まくずはふ,かすがのやまは,うちなびく,はるさりゆくと,やまのへに,かすみたなびく,たかまとに,うぐひすなきぬ,もののふの,やそとものをは,かりがねの,きつぐこのころ,かくつぎて,つねにありせば,ともなめて,あそばむものを,うまなめて,ゆかましさとを,まちかてに,わがせしはるを,かけまくも,あやにかしこし,いはまくも,ゆゆしくあらむと,あらかじめ,かねてしりせば,ちどりなく,そのさほがはに,いはにおふる,すがのねとりて,しのふくさ,はらへてましを,ゆくみづに,みそぎてましを,おほきみの,みことかしこみ,ももしきの,おほみやひとの,たまほこの,みちにもいでず,こふるこのころ
#[左注](右神龜四年正月 數王子<及>諸臣子等 集於春日野而作打毬之樂 其日忽天陰 雨雷電 此時宮中無侍従及侍衛 勅行刑罰皆散禁於授刀寮而妄不得出道路 于時悒憤即作斯歌 [作者未詳])
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 上 [元](塙) 匕 / 牡 -> 壮 [元][紀][矢] / 不 -> 木 [元] / 皆石 -> 比日如 [万葉集略解]
#[鄣W],雑歌,奈良,神亀4年,大夫,枕詞,地名,神亀4年1月,年紀
#[訓異]
#[大意]ま葛が這い回っている春日の山は、草木が靡く春になったので山のほとりには霞みがたなびいて、高円には鶯が鳴いている。もののふの大勢の官人たちは北へ帰る雁が次々にやってくるこの頃、そのように続いて何事もなかったならば、友達を一緒に遊ぶものなのに。馬を連ねて行ったであろう里なのに。待ちかねて自分が思っていた春であるのに、心に掛けるのも恐れ多く言葉に出すのもはばかられるだろうと、あらかじめかねてから知っていたならば、千鳥が鳴くその佐保川に岩に生える管の根を取って物思いの草を祓えておいたものなのに。流れていく水に禊ぎをして穢れを落としておいたものなのに。大君の命を恐れ多く思ってももしきの大宮人が多く通る玉鉾の道にも出ないで恋い思うこの頃である

#{語釈]
四年 神亀四年  聖武天皇の時
散禁  監禁、禁固 外出禁止
授刀寮 授刀舎人寮  帯刀して天皇の身辺を警護する舎人の詰める役所
    天平神護元年 近衛府に改称
ま葛延ふ 春日山の実質的枕詞
うち靡く 春の枕詞
ゆゆしくあらむと  はばかれることであろうと 事件を言う
管  祓えの道具 420
03/0420H07木綿たすき かひなに懸けて 天なる ささらの小野の 七節菅
03/0420H08手に取り持ちて ひさかたの 天の川原に 出で立ちて みそぎてましを

偲ふ草  もの思いの草  種

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/0949
#[題詞](四年丁卯春正月勅諸王諸臣子等散禁於授刀寮時作歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]梅柳 過良久惜 佐保乃内尓 遊事乎 宮動々尓
#[訓読]梅柳過ぐらく惜しみ佐保の内に遊びしことを宮もとどろに
#[仮名],うめやなぎ,すぐらくをしみ,さほのうちに,あそびしことを,みやもとどろに
#[左注]右神龜四年正月 數王子<及>諸臣子等 集於春日野而作打毬之樂 其日忽天陰 雨雷電 此時宮中無侍従及侍衛 勅行刑罰皆散禁於授刀寮而妄不得出道路 于時悒憤即作斯歌 [作者未詳]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 乃 -> 及 [元][類][古] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,奈良,神亀4年,大夫,地名,神亀4年1月,年紀
#[訓異]
#[大意]梅や柳が散りすぎて行くのが惜しいので佐保の内で遊んだことが宮もとどろくばかりに噂になってしまった
#{語釈]
佐保の内 法蓮町あたり。春日野とは違う。ちょっと宮廷の中で遊んだこととごまかしている
とどろに とどろくばかりに話しが広まってしまった
18/4110H01左夫流子が斎きし殿に鈴懸けぬ駅馬下れり里もとどろに

右神龜四年正月、數(あまた)の王子及諸臣子等、春日野に集ひて打毬之樂を作(な)す。其の日忽に天陰(くも)り、雨ふり雷電(いなびかり)す。此の時、宮の中(うち)に侍従及侍衛無し。勅(みことのり)して刑罰に行ひ、皆授刀寮に散禁せしめ妄(みだり)に道路(みち)に出ること得ざらじむ。その時に悒憤(いぶせみ)し、即ち斯の歌を作る。 [作者未詳]

#[説明]
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#[番号]06/0950
#[題詞]五年戊辰幸于難波宮時作歌四首
#[原文]大王之 界賜跡 山守居 守云山尓 不入者不止
#[訓読]大君の境ひたまふと山守据ゑ守るといふ山に入らずはやまじ
#[仮名],おほきみの,さかひたまふと,やまもりすゑ,もるといふやまに,いらずはやまじ
#[左注](右笠朝臣金村之歌中出也 或云車持朝臣千年作<之>也)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村歌集,車持千年,作者異伝,難波,大阪,比喩,恋愛,神亀5年,年紀,掛け合い,地名
#[訓異]
#[大意]大君が境界をお決めになるとして山の番人を据えて守る山に入らないではおさまらない
#{語釈]
五年 神亀五年聖武天皇難波行幸  続日本紀に記述なし
境ひたまふ 境界をお決めになる

#[説明]
行幸先の宴の歌。遊行女婦か女官を譬喩にしている

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#[番号]06/0951
#[題詞](五年戊辰幸于難波宮時作歌四首)
#[原文]見渡者 近物可良 石隠 加我欲布珠乎 不取不巳
#[訓読]見わたせば近きものから岩隠りかがよふ玉を取らずはやまじ
#[仮名],みわたせば,ちかきものから,いはがくり,かがよふたまを,とらずはやまじ
#[左注](右笠朝臣金村之歌中出也 或云車持朝臣千年作<之>也)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村歌集,車持千年,作者異伝,難波,大阪,比喩,恋愛,神亀5年,年紀,掛け合い,地名
#[訓異]
#[大意]見渡すと近いものでありながら岩に隠れて輝いている玉を取らないでは気がすまない
#{語釈]
#[説明]
行幸先での宴の歌か。遊行女婦を相手にしているか。

#[関連論文]



#[番号]06/0952
#[題詞](五年戊辰幸于難波宮時作歌四首)
#[原文]韓衣 服楢乃里之 嶋待尓 玉乎師付牟 好人欲得食
#[訓読]韓衣着奈良の里の嶋松に玉をし付けむよき人もがも
#[仮名],からころも,きならのさとの,しままつに,たまをしつけむ,よきひともがも
#[左注](右笠朝臣金村之歌中出也 或云車持朝臣千年作<之>也)
#[校異]嶋 (塙)(楓) 嬬
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村歌集,車持千年,作者異伝,難波,大阪,比喩,恋愛,神亀5年,年紀,女歌,掛け合い,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]官服を着馴らす奈良の里の(島松ではないが)妻を待つ松の木に玉を付けるよい人もいればなあ
#{語釈]
嶋松  塙本 妻松  妻を待つの意味

#[説明]
女性の立場の歌

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#[番号]06/0953
#[題詞](五年戊辰幸于難波宮時作歌四首)
#[原文]竿<壮>鹿之 鳴奈流山乎 越将去 日谷八君 當不相将有
#[訓読]さを鹿の鳴くなる山を越え行かむ日だにや君がはた逢はざらむ
#[仮名],さをしかの,なくなるやまを,こえゆかむ,ひだにやきみが,はたあはざらむ
#[左注]右笠朝臣金村之歌中出也 或云車持朝臣千年作<之>也
#[校異]牡 -> 壮 [元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 之 [元][紀][細]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村歌集,車持千年,作者異伝,難波,大阪,比喩,恋愛,神亀5年,年紀,望郷,女歌,掛け合い,動物,地名
#[訓異]
#[大意]雄鹿の鳴く山を越え行く日ですらあなたは私に会ってはくださらないのでしょうか。
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]06/0954
#[題詞]膳王歌一首
#[原文]朝波 海邊尓安左里為 暮去者 倭部越 鴈四乏母
#[訓読]朝は海辺にあさりし夕されば大和へ越ゆる雁し羨しも
#[仮名],あしたは,うみへにあさりし,ゆふされば,やまとへこゆる,かりしともしも
#[左注]右作歌之年不審<也> 但以歌類便載此次
#[校異]歌 [西] 謌 [西(別筆訂正)] 歌 / 越 [元][紀](塙) 超 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 也 [元][紀][細] / 以歌 [西] 以謌 [西(訂正)] 以歌
#[鄣W],雑歌,作者:膳王,羈旅,望郷,動物
#[訓異]
#[大意]朝には海辺で餌を取り、夕べには大和へ越えていく雁がうらやましいことだ
#{語釈]
膳王 03/0442 膳部王 長屋王の子 母は草壁王の子吉備内親王 神亀六年自尽

#[説明]
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#[番号]06/0955
#[題詞]<大>宰少貳石<川>朝臣足人歌一首
#[原文]刺竹之 大宮人乃 家跡住 佐保能山乎者 思哉毛君
#[訓読]さす竹の大宮人の家と住む佐保の山をば思ふやも君
#[仮名],さすたけの,おほみやひとの,いへとすむ,さほのやまをば,おもふやもきみ
#[左注]
#[校異]太 -> 大 [元][紀][細] / 河 -> 川 [元][紀][温] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:石川足人,望郷,太宰府,福岡,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]刺す竹の大宮人が家として住んでいる佐保の山を思っているのでしょうか。あなたは
#{語釈]
大宰少貳石川朝臣足人 和銅5年 従五位下、神亀元年従五位上 6.955 太宰府に任官
04/0549
さす竹の  大宮の枕詞 係り方未詳 竹の強い生命力から宮廷の繁栄を言祝いだものか
#[説明]
"#[番号]03/0330"
"#[題詞](防人司佑大伴四綱歌二首)"
"#[訓読]藤波の花は盛りになりにけり奈良の都を思ほすや君"

"#[左注]"
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#[番号]06/0956
#[題詞]帥大伴卿和歌一首
#[原文]八隅知之 吾大王乃 御食國者 日本毛此間毛 同登曽念
#[訓読]やすみしし我が大君の食す国は大和もここも同じとぞ思ふ
#[仮名],やすみしし,わがおほきみの,をすくには,やまともここも,おやじとぞおもふ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,太宰府,福岡,大夫,王権,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]やすみしし我が大君のお治めになる苦には大和もここも同じだと思う
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]06/0957
#[題詞]冬十一月大宰官人等奉拜香椎廟訖退歸之時馬駐于香椎浦各述作懐歌 / 帥大伴卿歌一首
#[原文]去来兒等 香椎乃滷尓 白妙之 袖左倍所沾而 朝菜採手六
#[訓読]いざ子ども香椎の潟に白栲の袖さへ濡れて朝菜摘みてむ
#[仮名],いざこども,かしひのかたに,しろたへの,そでさへぬれて,あさなつみてむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,福岡,香椎,太宰府,地名,神亀5年11月,年紀
#[訓異]
#[大意]さあ者どもよ。香椎の潟に白妙の袖までも濡れて朝の菜を摘もうよ
#{語釈]
(神亀五年)冬十一月、大宰の官人等、香椎廟を奉拝(おがみまつる)こと訖(おは)りて退(まか)り歸る時に、馬を香椎の浦に駐(とど)めて各懐(おもひ)を述べて作る歌
香椎廟 仲哀天皇と神功皇后の廟所

#[説明]
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#[番号]06/0958
#[題詞](冬十一月大宰官人等奉拜香椎廟訖退歸之時馬駐于香椎浦各述作懐歌)大貳小野老朝臣歌一首
#[原文]時風 應吹成奴 香椎滷 潮干汭尓 玉藻苅而名
#[訓読]時つ風吹くべくなりぬ香椎潟潮干の浦に玉藻刈りてな
#[仮名],ときつかぜ,ふくべくなりぬ,かしひがた,しほひのうらに,たまもかりてな
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:小野老,福岡,香椎,太宰府,地名,植物,神亀5年11月,年紀
#[訓異]
#[大意]時の風が吹く気配になってきた。香椎潟の潮干の浦に玉藻を苅ろうよ
#{語釈]
時つ風  毎日一定の時刻に吹く海風

#[説明]
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#[番号]06/0959
#[題詞](冬十一月大宰官人等奉拜香椎廟訖退歸之時馬駐于香椎浦各述作懐歌)豊前守宇努首男人歌一首
#[原文]徃還 常尓我見之 香椎滷 従明日後尓波 見縁母奈思
#[訓読]行き帰り常に我が見し香椎潟明日ゆ後には見むよしもなし
#[仮名],ゆきかへり,つねにわがみし,かしひがた,あすゆのちには,みむよしもなし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:宇努男人,福岡,香椎,太宰府,地名,神亀5年11月,年紀
#[訓異]
#[大意]行き帰りにいつも自分が見ていた香椎潟よ。明日から後は見るてだてもないこだ
#{語釈]
豊前守宇努首男人  養老四年豊前守で征隼人大将軍
          そのまま帰京する時のものか

#[説明]
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#[番号]06/0960
#[題詞]帥大伴卿遥思芳野離宮作歌一首
#[原文]隼人乃 湍門乃磐母 年魚走 芳野之瀧<尓> 尚不及家里
#[訓読]隼人の瀬戸の巌も鮎走る吉野の瀧になほしかずけり
#[仮名],はやひとの,せとのいはほも,あゆはしる,よしののたきに,なほしかずけり
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 乃 -> 尓 [西(訂正)][元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,吉野,比較,鹿児島,黒瀬戸,山口,関門海峡,地名
#[訓異]
#[大意]早人の背との巌も岩に走る吉野の急流になお及ぶものではないよ
#{語釈]
隼人の瀬戸 3/248 隼人の薩摩の瀬戸と同じか
      早鞆の瀬戸(関門海峡)か。

#[説明]
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#[番号]06/0961
#[題詞]帥大伴卿宿次田温泉聞鶴喧作歌一首
#[原文]湯原尓 鳴蘆多頭者 如吾 妹尓戀哉 時不定鳴
#[訓読]湯の原に鳴く葦鶴は我がごとく妹に恋ふれや時わかず鳴く
#[仮名],ゆのはらに,なくあしたづは,あがごとく,いもにこふれや,ときわかずなく
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,太宰府,福岡,二日市温泉,妻,地名,動物,恋情
#[訓異]
#[大意]湯の原に鳴く葦鶴は自分のように妹に恋思っているのか時を隔てないで鳴いていることだ
#{語釈]
次田温泉  太宰府市二日市温泉

#[説明]
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#[番号]06/0962
#[題詞]天平二年庚午勅遣<擢>駿馬使大伴道足宿祢時歌一首
#[原文]奥山之 磐尓蘿生 恐毛 問賜鴨 念不堪國
#[訓読]奥山の岩に苔生し畏くも問ひたまふかも思ひあへなくに
#[仮名],おくやまの,いはにこけむし,かしこくも,とひたまふかも,おもひあへなくに
#[左注]右 勅使大伴道足宿祢饗于帥家 此日會集衆諸相誘驛使葛井連廣成言須作歌詞 登時廣成應聲即吟此歌
#[校異]推 -> 擢 [元][古][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 此歌 [西] 此謌 [西(訂正)] 此歌
#[鄣W],雑歌,作者:葛井広成,大伴道足,太宰府,福岡,宴席,地名,序詞,天平2年,年紀
#[訓異]
#[大意]奥山の岩に苔が生えて神々しくなるように、恐れ多くもお尋ねになるのですね。歌など詠めませんのに
#{語釈]
勅(みことのり)して<擢>駿馬使大伴道足宿祢を遣はす時の歌一首
<擢>駿馬使(てきしゅんめし) すぐれた馬を求めるために諸国に遣わされる勅使
     兵部省式 西海道の牧場 肥前2、肥後2 日向3 5、6歳になると太宰府に送られる
大伴道足 安麻呂のいとこ。天平3年参議。天平13年頃卒。
勅使大伴道足宿祢を帥の家に饗す。此の日會集(つど)ふ衆諸(もろひと)、驛使(はゆまつかひ)葛井連廣成を相ひ誘ひて。作歌詞(うた)を作るべしと言ふ。登(その)時に廣成應、聲に(こた)へて即ち此の歌を吟(うた)ふ。

#[説明]
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#[番号]06/0963
#[題詞]冬十一月大伴坂上郎女發帥家上道超筑前國宗形郡名兒山之時作歌一首
#[原文]大汝 小彦名能 神社者 名著始鷄目 名耳乎 名兒山跡負而 吾戀之 干重之一重裳 奈具<佐>米七國
#[訓読]大汝 少彦名の 神こそば 名付けそめけめ 名のみを 名児山と負ひて 我が恋の 千重の一重も 慰めなくに
#[仮名],おほなむち,すくなひこなの,かみこそば,なづけそめけめ,なのみを,なごやまとおひて,あがこひの,ちへのひとへも,なぐさめなくに
#[左注]
#[校異]名 [元][紀][細] 名々 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 作 -> 佐 [元][紀][細]
#[鄣W],雑歌,作者:坂上郎女,羈旅,福岡,望郷,恋情,天平2年11月,年紀,地名
#[訓異]
#[大意]大汝 少彦名の 神こそは名付け始めたのだろう。心が和むという名前ばかり名児山と背負っているだけで自分が恋い思う千分の一も慰めることはないのに
#{語釈]
大伴坂上郎女帥の家を發(た)ち、道に上(のぼ)り、筑前國宗形郡名兒山を超(こ)ゆる時に作る歌一首
名児山 心が和む 慰められる

#[説明]
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#[番号]06/0964
#[題詞]同坂上郎女向京海路見濱<貝>作歌一首
#[原文]吾背子尓 戀者苦 暇有者 拾而将去 戀忘貝
#[訓読]我が背子に恋ふれば苦し暇あらば拾ひて行かむ恋忘貝
#[仮名],わがせこに,こふればくるし,いとまあらば,ひりひてゆかむ,こひわすれがひ
#[左注]
#[校異]貝 [西(上書訂正)][紀] [寛永] 具 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:坂上郎女,羈旅,福岡,恋情,天平2年11月,年紀,地名,動物
#[訓異]
#[大意]我が背子に恋い思うと心苦しい。時間があったら拾って行こう。恋忘れ貝を。
#{語釈]
恋忘貝 二枚貝の片方だけになっている貝殻。アワビを指す場合もある

#[説明]
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#[番号]06/0965
#[題詞]冬十二月<大>宰帥大伴卿上京<時>娘子作歌二首
#[原文]凡有者 左毛右毛将為乎 恐跡 振痛袖乎 忍而有香聞
#[訓読]おほならばかもかもせむを畏みと振りたき袖を忍びてあるかも
#[仮名],おほならば,かもかもせむを,かしこみと,ふりたきそでを,しのびてあるかも
#[左注](右大宰帥<大>伴卿兼任大納言向京上道 此日馬駐水城顧望府家 于時送卿府吏之中有遊行女婦 其字曰兒嶋也 於是娘子傷此易別嘆彼難會 拭涕自吟振袖之歌)
#[校異]太 -> 大 [元][類][紀] / <> -> 時 [元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:児島,遊行女婦,太宰府,大伴旅人,別離,恋情,福岡,天平2年12月,年紀,地名,餞別,宴席
#[訓異]
#[大意]あなたが普通の人だったら別れを惜しんでああもこうもするところであるが、畏れ多いのでと振りたい袖を堪えているのですよ
#{語釈]
此の日に馬を水城に駐めて府家を顧り望む。時に卿を送る府吏の中に遊行女婦有り。其字を兒嶋と曰ふ。是に娘子、此の別れ易きことを傷み、彼の會ひ難きことを嘆き、涕を拭ひて自ら袖を振る歌を吟(うた)ふ。

おほならば  普通だったら あなたが普通の人だったら
かもかもせむを 別れを惜しんであれやこれやとしようものなのに

#[説明]
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#[番号]06/0966
#[題詞](冬十二月<大>宰帥大伴卿上京<時>娘子作歌二首)
#[原文]倭道者 雲隠有 雖然 余振袖乎 無礼登母布奈
#[訓読]大和道は雲隠りたりしかれども我が振る袖をなめしと思ふな
#[仮名],やまとぢは,くもがくりたり,しかれども,わがふるそでを,なめしともふな
#[左注]右大宰帥<大>伴卿兼任大納言向京上道 此日馬駐水城顧望府家 于時送卿府吏之中有遊行女婦 其字曰兒嶋也 於是娘子傷此易別嘆彼難會 拭涕自吟振袖之歌
#[校異]太 -> 大 [元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:児島,遊行女婦,太宰府,大伴旅人,別離,恋情,福岡,天平2年11月,年紀,餞別,宴席,地名
#[訓異]
#[大意]大和への道ははるかに雲に隠れている。そうではあるが私が振る袖を無礼だとは思ってはくださいますな。
#{語釈]
しかれども あなたがはるか遠い大和へと帰ってしまわれるので、畏れ多いと思いながらも袖を振る

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/0967
#[題詞]大納言大伴卿和歌二首
#[原文]日本道乃 吉備乃兒嶋乎 過而行者 筑紫乃子嶋 所念香聞
#[訓読]大和道の吉備の児島を過ぎて行かば筑紫の児島思ほえむかも
#[仮名],やまとぢの,きびのこしまを,すぎてゆかば,つくしのこしま,おもほえむかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 聞 [元][紀][温](塙) 裳
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,児島,太宰府,福岡,別離,恋情,遊行女婦,天平2年11月,餞別,宴席,地名
#[訓異]
#[大意]大和への道の途中、吉備の児島を過ぎて行くならば、築紫の児島が思われてならないだろうなあ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/0968
#[題詞](大納言大伴卿和歌二首)
#[原文]大夫跡 念在吾哉 水莖之 水城之上尓 泣将拭
#[訓読]ますらをと思へる我れや水茎の水城の上に涙拭はむ
#[仮名],ますらをと,おもへるわれや,みづくきの,みづきのうへに,なみたのごはむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,児島,太宰府,福岡,別離,恋情,遊行女婦,天平2年11月,餞別,宴席,地名
#[訓異]
#[大意]ますらをと思っている自分ではあるが、水茎の水城の上で涙を拭くことである
#{語釈]
水茎の 水城の枕詞 語義未詳

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/0969
#[題詞]三年辛未大納言大伴卿在寧樂家思故郷歌二首
#[原文]須臾 去而見<壮>鹿 神名火乃 淵者淺而 瀬二香成良武
#[訓読]しましくも行きて見てしか神なびの淵はあせにて瀬にかなるらむ
#[仮名],しましくも,ゆきてみてしか,かむなびの,ふちはあせにて,せにかなるらむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 牡 -> 壮 [元][類][古][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,望郷,奈良,天平3年,年紀,飛鳥,恋慕,地名
#[訓異]
#[大意]ちょっとの間も行って見たいおのだ。神なびの淵は浅くなって早瀬になっているだろうか

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/0970
#[題詞](三年辛未大納言大伴卿在寧樂家思故郷歌二首)
#[原文]指進乃 粟栖乃小野之 芽花 将落時尓之 行而手向六
#[訓読]指進の栗栖の小野の萩の花散らむ時にし行きて手向けむ
#[仮名],****の,くるすのをのの,はぎのはな,ちらむときにし,ゆきてたむけむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,望郷,亡妻,恋慕,天平3年,年紀,飛鳥,地名,植物
#[訓異]
#[大意]指進の栗栖の小野の萩の花よ。散る時に行って手向けよう
#{語釈]
指進の  栗栖の枕詞。訓、係方未詳。或いは、さしすみのと訓んで、指す墨で、墨縄がくるくる回るという意味で、栗にかかるか。

栗栖 所在未詳。飛鳥のどこか。或いは妻大伴郎女の故郷である巨勢の地か。

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/0971
#[題詞]四年壬申藤原宇合卿遣西海道節度使之時高橋連蟲麻呂作歌一首[并短歌]
#[原文]白雲乃 龍田山乃 露霜尓 色附時丹 打超而 客行<公>者 五百隔山 伊去割見 賊守 筑紫尓至 山乃曽伎 野之衣寸見世常 伴部乎 班遣之 山彦乃 将應極 谷潜乃 狭渡極 國方乎 見之賜而 冬<木>成 春去行者 飛鳥乃 早御来 龍田道之 岳邊乃路尓 丹管土乃 将薫時能 櫻花 将開時尓 山多頭能 迎参出六 <公>之来益者
#[訓読]白雲の 龍田の山の 露霜に 色づく時に うち越えて 旅行く君は 五百重山 い行きさくみ 敵守る 筑紫に至り 山のそき 野のそき見よと 伴の部を 班ち遣はし 山彦の 答へむ極み たにぐくの さ渡る極み 国形を 見したまひて 冬こもり 春さりゆかば 飛ぶ鳥の 早く来まさね 龍田道の 岡辺の道に 丹つつじの にほはむ時の 桜花 咲きなむ時に 山たづの 迎へ参ゐ出む 君が来まさば
#[仮名],しらくもの,たつたのやまの,つゆしもに,いろづくときに,うちこえて,たびゆくきみは,いほへやま,いゆきさくみ,あたまもる,つくしにいたり,やまのそき,ののそきみよと,とものへを,あかちつかはし,やまびこの,こたへむきはみ,たにぐくの,さわたるきはみ,くにかたを,めしたまひて,ふゆこもり,はるさりゆかば,とぶとりの,はやくきまさね,たつたぢの,をかへのみちに,につつじの,にほはむときの,さくらばな,さきなむときに,やまたづの,むかへまゐでむ,きみがきまさば
#[左注](右檢補任文八月十七日任東山々陰西海節度使)
#[校異]06/0971D01歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 君 -> 公 [元][類][紀] / <> -> 木 [元][類][紀] / 君 -> 公 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:高橋虫麻呂,藤原宇合,羈旅,送別,大夫,天平4年8月17日,年紀,枕詞,植物,地名
#[訓異]
#[大意]白雲の龍田の山の露霜にあって色づく時に、越えて旅に行くあなたは、幾重にも重なった山を難渋して行って、外敵から守る築紫に到着して、山の果て、野の果てを見よと大君は伴の部を振り分けてお遣わしになって、山彦が答える果てまで、蛙が谷を渡っていく果てまで国の様子をご覧になって、冬が隠って春になって行くと、飛ぶ鳥のように早く都にお帰りになってください。龍田の道の岡辺の道に赤いつつじが咲く時に、桜花が咲く時に、山たづではないが迎えに参り出ましょう。あなたがいらっしゃるならば
#{語釈]
四年壬申 続紀天平四年八月一七日房前を東海、東山、丹比県守を山陰、宇合を西海道節      度使に任じる

節度使  軍備増強を図るために唐の制度にならって置かれた地方観察官
     この時が初めて
そき  遠くに意味。退(そ)く そくへ、そきへ
#[説明]
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#[番号]06/0972
#[題詞](四年壬申藤原宇合卿遣西海道節度使之時高橋連蟲麻呂作歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]千萬乃 軍奈利友 言擧不為 取而可来 男常曽念
#[訓読]千万の軍なりとも言挙げせず取りて来ぬべき男とぞ思ふ
#[仮名],ちよろづの,いくさなりとも,ことあげせず,とりてきぬべき,をのことぞおもふ
#[左注]右檢補任文八月十七日任東山々陰西海節度使
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高橋虫麻呂,藤原宇合,羈旅,送別,大夫,天平4年8月17日,年紀
#[訓異]
#[大意]千万の敵の軍勢であったとしても、言挙げをしないで討ち取って来るような男だと思いますよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/0973
#[題詞]天皇賜酒節度使卿等御歌一首[并短歌]
#[原文]食國 遠乃御朝庭尓 汝等之 如是退去者 平久 吾者将遊 手抱而 我者将御在 天皇朕 宇頭乃御手以 掻撫曽 祢宜賜 打撫曽 祢宜賜 将還来日 相飲酒曽 此豊御酒者

#[訓読]食す国の 遠の朝廷に 汝らが かく罷りなば 平けく 我れは遊ばむ 手抱きて 我れはいまさむ 天皇我れ うづの御手もち かき撫でぞ ねぎたまふ うち撫でぞ ねぎたまふ 帰り来む日 相飲まむ酒ぞ この豊御酒は

#[仮名],をすくにの,とほのみかどに,いましらが,かくまかりなば,たひらけく,われはあそばむ,たむだきて,われはいまさむ,すめらわれ,うづのみてもち,かきなでぞ,ねぎたまふ,うちなでぞ,ねぎたまふ,かへりこむひ,あひのまむきぞ,このとよみきは
#[左注](右御歌者或云太上天皇御製也)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短哥 [西(訂正)] 短歌
#[鄣W],雑歌,作者:聖武天皇,作者異伝,送別,大夫,天平4年,年紀,枕詞,餞別,宴席
#[訓異]
#[大意]治める国の遠くの朝廷にお前たちがこのように出かけて行ったならば、心安らかに自分は遊んでいよう。手を組んで自分はいよう。天皇である自分は、貴い御手で頭を撫でねぎらおう。撫でてねぎらおう。帰って来る日にまた飲む酒であるぞ。この立派な御酒は
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/0974
#[題詞](天皇賜酒節度使卿等御歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]大夫之 去跡云道曽 凡可尓 念而行勿 大夫之伴
#[訓読]大夫の行くといふ道ぞおほろかに思ひて行くな大夫の伴
#[仮名],ますらをの,ゆくといふみちぞ,おほろかに,おもひてゆくな,ますらをのとも
#[左注]右御歌者或云太上天皇御製也
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:聖武天皇,作者異伝,送別,大夫,天平4年,餞別,宴席
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]大夫の行くという道であるぞ。いい加減に思って行くなよ。大夫の伴たちよ。
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/0975
#[題詞]中納言安倍廣庭卿歌一首
#[原文]如是為管 在久乎好叙 霊剋 短命乎 長欲為流
#[訓読]かくしつつあらくをよみぞたまきはる短き命を長く欲りする
#[仮名],かくしつつ,あらくをよみぞ,たまきはる,みじかきいのちを,ながくほりする
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:安倍広庭,宴席,大夫,枕詞
#[訓異]
#[大意]このようにし続けているのがよいので、たまきはる短い命も長くと望んでいるのです
#{語釈]
中納言安倍廣庭 03/302、370 天平4年3月22日従三位薨去
#[説明]
かくしつつ  おそらく宴席での歌か

#[関連論文]



#[番号]06/0976
#[題詞]五年癸酉超草香山時神社忌寸老麻呂作歌二首
#[原文]難波方 潮干乃奈凝 委曲見 在家妹之 待将問多米
#[訓読]難波潟潮干のなごりよく見てむ家なる妹が待ち問はむため
#[仮名],なにはがた,しほひのなごり,よくみてむ,いへなるいもが,まちとはむため
#[左注]
#[校異]歌 [西] 哥 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:神社老麻呂,難波,大阪,望郷,羈旅,土地讃美,天平5年,年紀,地名
#[訓異]
#[大意]難波潟の潮干の名残をよく見ておこう。家にある妹が待って尋ねるために
#{語釈]
五年 天平五年
草香山 生駒山西側 東大阪市日下町
神社忌寸老麻呂 かみこそ、みわもり、もり 訓不明、伝未詳

#[説明]
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#[番号]06/0977
#[題詞](五年癸酉超草香山時神社忌寸老麻呂作歌二首)
#[原文]直超乃 此徑尓<弖師> 押照哉 難波乃<海>跡 名附家良思<蒙>
#[訓読]直越のこの道にしておしてるや難波の海と名付けけらしも
#[仮名],ただこえの,このみちにして,おしてるや,なにはのうみと,なづけけらしも
#[左注]
#[校異]師弖 -> 弖師 [元][紀][細] / <> -> 海 [西(右書)][元][類] / 裳 -> 蒙 [元][細]
#[鄣W],雑歌,作者:神社老麻呂,難波,大阪,土地讃美,羈旅,天平5年,年紀,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]直接越えるこの道にあって、おしてるや難波の海と名付けたらしい
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]06/0978
#[題詞]山上臣憶良沈痾之時歌一首
#[原文]士也母 空應有 萬代尓 語續可 名者不立之而
#[訓読]士やも空しくあるべき万代に語り継ぐべき名は立てずして
#[仮名],をのこやも,むなしくあるべき,よろづよに,かたりつぐべき,なはたてずして
#[左注]右一首山上憶良臣沈痾之時 藤原<朝>臣八束使河邊朝臣東人 令問所疾之状 於是憶良臣報語已畢 有須拭涕悲嘆口吟此歌
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 朝 [元][紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:山上憶良,辞世,大夫,天平5年,年紀
#[訓異]
#[大意]士大夫たるべきものがこのまま空しく死んでよいものだろうか。後世に語り継ぐべき名は立てないで。
#{語釈]
有須  しばらくありて

#[説明]
孝経による解釈。名を立て功を成さないのは不孝の始まりである

#[関連論文]



#[番号]06/0979
#[題詞]大伴坂上郎女<与>姪家持従佐保還歸西宅歌一首
#[原文]吾背子我 著衣薄 佐保風者 疾莫吹 及<家>左右
#[訓読]我が背子が着る衣薄し佐保風はいたくな吹きそ家に至るまで
#[仮名],わがせこが,けるきぬうすし,さほかぜは,いたくなふきそ,いへにいたるまで
#[左注]
#[校異]輿 -> 与 [元][紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 宅 -> 家 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:坂上郎女,大伴家持,佐保,恋情,相聞的,地名,贈答
#[訓異]
#[大意]我が背子が着ている衣は薄い。佐保風はひどくは吹くなよ。家に帰り着くまでは
#{語釈]
着る きありの略

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/0980
#[題詞]安倍朝臣蟲麻呂月歌一首
#[原文]雨隠 三笠乃山乎 高御香裳 月乃不出来 夜者更降管
#[訓読]雨隠り御笠の山を高みかも月の出で来ぬ夜はくたちつつ
#[仮名],あまごもり,みかさのやまを,たかみかも,つきのいでこぬ,よはくたちつつ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:安倍虫麻呂,題詠,地名,奈良
#[訓異]
#[大意]雨に降り籠められて御笠の山が高いからだろうか。月が出て来ない。夜は更けて来ているのに
#{語釈]
安倍朝臣蟲麻呂 04/0665、672 坂上郎女との歌
雨隠り  三笠の枕詞

#[説明]
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#[番号]06/0981
#[題詞]大伴坂上郎女月歌三首
#[原文]猟高乃 高圓山乎 高弥鴨 出来月乃 遅将光
#[訓読]狩高の高円山を高みかも出で来る月の遅く照るらむ
#[仮名],かりたかの,たかまとやまを,たかみかも,いでくるつきの,おそくてるらむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:坂上郎女,題詠,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]猟高の高円山が高いからだろうか。出てくる月が遅く照っているのだろう。
#{語釈]
狩高の 07/1070 鹿野園付近

#[説明]
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#[番号]06/0982
#[題詞](大伴坂上郎女月歌三首)
#[原文]烏玉乃 夜霧立而 不清 照有月夜乃 見者悲沙
#[訓読]ぬばたまの夜霧の立ちておほほしく照れる月夜の見れば悲しさ
#[仮名],ぬばたまの,よぎりのたちて,おほほしく,てれるつくよの,みればかなしさ
#[左注]
#[校異]玉乃 [類][紀](塙) 玉
#[鄣W],雑歌,作者:坂上郎女,題詠,枕詞
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜霧が立ってぼんやりと照っている月夜を見るとしみじいとした感慨になる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/0983
#[題詞](大伴坂上郎女月歌三首)
#[原文]山葉 左佐良榎<壮>子 天原 門度光 見良久之好藻
#[訓読]山の端のささら愛壮士天の原門渡る光見らくしよしも
#[仮名],やまのはの,ささらえをとこ,あまのはら,とわたるひかり,みらくしよしも
#[左注]右一首歌或云 月別名曰佐散良衣壮<士>也 縁此辞作此歌
#[校異]牡 -> 壮 [紀][温][矢] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 哥 / 此歌 [西] 此謌 / <> -> 士 [類][紀][細]
#[鄣W],雑歌,作者:坂上郎女,題詠,月
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]山の稜線のささらえ壮子よ。天の原の出入り口を渡る光を見るのは気持ちがいい。
ささら愛壮士 月。神話的発想に因っているか。
門 月が出てくる場所を天の原の門と見立てる。

#[説明]
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#[番号]06/0984
#[題詞]豊前<國>娘子月歌一首 [娘子字曰大宅姓氏未詳也]
#[原文]雲隠 去方乎無跡 吾戀 月哉君之 欲見為流
#[訓読]雲隠り去方をなみと我が恋ふる月をや君が見まく欲りする
#[仮名],くもがくり,ゆくへをなみと,あがこふる,つきをやきみが,みまくほりする
#[左注]
#[校異]<> -> 國 [西(右書)][紀][細][温] / 歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:豊前国娘子,大宅,題詠,恋情,相聞
#[訓異]
#[大意]雲に隠れて行く方がわからなくなったとして自分が恋い思っている月をあなたは見たいと思うでしょうか。(何とも説明がつきません)

雲に隠れて行く方が分からなくなったとして私が恋しく思っている月をあなたも見たいと思っているのですか。

#{語釈]
月 相手の譬喩

#[説明]
遊行女婦の月の宴での歌か。

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#[番号]06/0985
#[題詞]湯原王月歌二首
#[原文]天尓座 月讀<壮>子 幣者将為 今夜乃長者 五百夜継許増
#[訓読]天にます月読壮士賄はせむ今夜の長さ五百夜継ぎこそ
#[仮名],あめにます,つくよみをとこ,まひはせむ,こよひのながさ,いほよつぎこそ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 哥 / 牡 -> 壮 [紀][温][矢]
#[鄣W],雑歌,作者:湯原王,題詠,相聞
#[訓異]
#[大意]天にいる月読壮子に賄をしよう。だから今夜の長さ五百夜も継いで欲しい
#{語釈]
湯原王 志貴皇子の子

#[説明]
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#[番号]06/0986
#[題詞](湯原王月歌二首)
#[原文]愛也思 不遠里乃 君来跡 大能備尓鴨 月之照有
#[訓読]はしきやし間近き里の君来むとおほのびにかも月の照りたる
#[仮名],はしきやし,まちかきさとの,きみこむと,おほのびにかも,つきのてりたる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:湯原王,題詠,恋情,相聞
#[訓異]
#[大意]愛しいことだ。すぐ近くの里のあなたが来るだろうと背伸びをして月が照っている。
#{語釈]
おほのび 未詳。大野辺、大伸びび、あまねくなどの解釈
#[説明]
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#[番号]06/0987
#[題詞]藤原八束朝臣月歌一首
#[原文]待難尓 余為月者 妹之著 三笠山尓 隠而有来
#[訓読]待ちかてに我がする月は妹が着る御笠の山に隠りてありけり
#[仮名],まちかてに,わがするつきは,いもがきる,みかさのやまに,こもりてありけり
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:藤原八束,題詠,恋情,相聞,比喩,奈良,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]待ちかねて自分がしている月は妹が着ている御笠の山に隠れているようだ
#{語釈]
#[説明]
三笠の山とあるのは、三笠山麓で詠んだもの。春日里か。

#[関連論文]


#[番号]06/0988
#[題詞]市原王宴祷父安貴王歌一首
#[原文]春草者 後<波>落易 巌成 常磐尓座 貴吾君
#[訓読]春草は後はうつろふ巌なす常盤にいませ貴き我が君
#[仮名],はるくさは,のちはうつろふ,いはほなす,ときはにいませ,たふときあがきみ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 者 -> 波 [類][紀][古]
#[鄣W],雑歌,作者:市原王,安貴王,寿歌,父,儒教,永遠,植物
#[訓異]
#[大意]春草は盛んであるがその後は散ってしまう。巌のように常盤であってください。貴い我が君よ
#{語釈]
市原王 安貴王と紀女郎の間の子。独り子であったらしい。
安貴王 志貴皇子の子

#[説明]
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#[番号]06/0989
#[題詞]湯原王打酒歌一首
#[原文]焼刀之 加度打放 大夫之 祷豊御酒尓 吾酔尓家里
#[訓読]焼太刀のかど打ち放ち大夫の寿く豊御酒に我れ酔ひにけり
#[仮名],やきたちの,かどうちはなち,ますらをの,ほくとよみきに,われゑひにけり
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:湯原王,謝酒,宴席
#[訓異]
#[大意]焼き太刀のかどを打ち払って大夫が寿ぐ立派な酒に自分はすっかり酔ってしまった
#{語釈]
湯原王 0985
打酒  酒を酌むこと
かど打ち放ち  未詳。かどとは鎬のことか。太刀を振って寿ぐ儀礼があったか。

#[説明]
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#[番号]06/0990
#[題詞]紀朝臣鹿人<跡>見茂岡之松樹歌一首
#[原文]茂岡尓 神佐備立而 榮有 千代松樹乃 歳之不知久
#[訓読]茂岡に神さび立ちて栄えたる千代松の木の年の知らなく
#[仮名],しげをかに,かむさびたちて,さかえたる,ちよまつのきの,としのしらなく
#[左注]
#[校異]<> -> 跡 [紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:紀鹿人,桜井,奈良,土地讃美,大伴荘園,植物,地名
#[訓異]
#[大意]木が茂っている丘に神々しく立って繁茂している千年の松の木がどのくらい時代が立っているかわからないことだ
#{語釈]
紀朝臣鹿人 紀女郎の父
<跡>見   奈良県桜井市東方  大伴家の荘園がある
    8/1549 大伴稲公の歌
茂岡  木が茂っている丘

#[説明]
稲公との宴で主人稲公を寿いで詠んだ歌か

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#[番号]06/0991
#[題詞]同鹿人至泊瀬河邊作歌一首
#[原文]石走 多藝千流留 泊瀬河 絶事無 亦毛来而将見
#[訓読]石走りたぎち流るる泊瀬川絶ゆることなくまたも来て見む
#[仮名],いはばしり,たぎちながるる,はつせがは,たゆることなく,またもきてみむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:紀鹿人,桜井,奈良,土地讃美,大伴荘園,地名
#[訓異]
#[大意]石を走るように泡を立てて流れる泊瀬川の水が絶えないように、途絶えることなくまたも来て見よう
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]06/0992
#[題詞]大伴坂上郎女詠元興寺之里歌一首
#[原文]古郷之 飛鳥者雖有 青丹吉 平城之明日香乎 見樂思好裳
#[訓読]故郷の飛鳥はあれどあをによし奈良の明日香を見らくしよしも
#[仮名],ふるさとの,あすかはあれど,あをによし,ならのあすかを,みらくしよしも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:坂上郎女,飛鳥,奈良,土地讃美,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]故郷の飛鳥はあるけれどもあをによし奈良の明日香を見るのはよいことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0993
#[題詞]同坂上郎女初月歌一首
#[原文]月立而 直三日月之 眉根掻 氣長戀之 君尓相有鴨
#[訓読]月立ちてただ三日月の眉根掻き日長く恋ひし君に逢へるかも
#[仮名],つきたちて,ただみかづきの,まよねかき,けながくこひし,きみにあへるかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:坂上郎女,相聞
#[訓異]
#[大意]月が立ってただ三日月のような眉根を?いて日数長く恋い思っていたあなたに会えるだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0994
#[題詞]大伴宿祢家持初月歌一首
#[原文]振仰而 若月見者 一目見之 人乃眉引 所念可聞
#[訓読]振り放けて三日月見れば一目見し人の眉引き思ほゆるかも
#[仮名],ふりさけて,みかづきみれば,ひとめみし,ひとのまよびき,おもほゆるかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:大伴家持,恋情,相聞,題詠,練習
#[訓異]
#[大意]振り仰いで三日月を見ると一目見た人の眉引きが思われてならないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0995
#[題詞]大伴坂上郎女宴親族歌一首
#[原文]如是為乍 遊飲與 草木尚 春者生管 秋者落去
#[訓読]かくしつつ遊び飲みこそ草木すら春は咲きつつ秋は散りゆく
#[仮名],かくしつつ,あそびのみこそ,くさきすら,はるはさきつつ,あきはちりゆく
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:坂上郎女,宴席,植物
#[訓異]
#[大意]このようにしながら楽しんで飲みたいものだ。草木ですら春は花が咲いて秋は散っていくものだから。
#{語釈]
#[説明]
一年は短いように人生も短いので、歓をを尽くせる時は尽くそうといったもの

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#[番号]06/0996
#[題詞]六年甲戌海犬養宿祢岡麻呂應詔歌一首
#[原文]御民吾 生有驗在 天地之 榮時尓 相樂念者
#[訓読]御民我れ生ける験あり天地の栄ゆる時にあへらく思へば
#[仮名],みたみわれ,いけるしるしあり,あめつちの,さかゆるときに,あへらくおもへば
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:海犬養岡麻呂,応詔,天平6年,年紀
#[訓異]
#[大意]御民である自分は生きている甲斐があるというものです。天地の栄える時に遇うことを思うと
#{語釈]
六年  天平六年
海犬養宿祢岡麻呂 伝未詳

#[説明]
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#[番号]06/0997
#[題詞]春三月幸于難波宮之時歌六首
#[原文]住吉乃 粉濱之四時美 開藻不見 隠耳哉 戀度南
#[訓読]住吉の粉浜のしじみ開けもみず隠りてのみや恋ひわたりなむ
#[仮名],すみのえの,こはまのしじみ,あけもみず,こもりてのみや,こひわたりなむ
#[左注]右一首作者未詳
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,行幸,羈旅,望郷,恋情,難波,大阪,天平6年3月,年紀,地名,動物
#[訓異]
#[大意]住吉の粉浜のしじみを開けてもみないで隠ってばかりいて恋い続けることであろうか
#{語釈]
春三月 天平六年三月十日平城京出発、一九日還幸。
粉濱 住吉公園の北

#[説明]
遊行女婦を対象とした譬喩歌か

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#[番号]06/0998
#[題詞](春三月幸于難波宮之時歌六首)
#[原文]如眉 雲居尓所見 阿波乃山 懸而榜舟 泊不知毛
#[訓読]眉のごと雲居に見ゆる阿波の山懸けて漕ぐ舟泊り知らずも
#[仮名],まよのごと,くもゐにみゆる,あはのやま,かけてこぐふね,とまりしらずも
#[左注]右一首船王作
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:船王,行幸,羈旅,大阪,難波,黒人,不安,恋情,天平6年3月,年紀,地名
#[訓異]
#[大意]眉のように見える雲居はるかに見える阿波の山をめがけて漕ぐ船のどこに停泊するかはわからないことだ
#{語釈]
船王 舎人皇子の子、天武天皇の孫。神亀四年従四位下。淳仁天皇天平宝字二年従三位。仲麻呂の変の時に隠岐流罪。
阿波の山 難波からは淡路島しか見えない。観念的に詠んだ。阿波と会はを掛けていて遊行女婦への比喩的な歌か

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/0999
#[題詞](春三月幸于難波宮之時歌六首)
#[原文]従千<沼>廻 雨曽零来 四八津之白水郎 <綱手>乾有 沾将堪香聞
#[訓読]茅渟廻より雨ぞ降り来る四極の海人綱手干したり濡れもあへむかも
#[仮名],ちぬみより,あめぞふりくる,しはつのあま,つなでほしたり,ぬれもあへむかも
#[左注]右一首遊覧住吉濱還宮之時道上守部王應詔作歌
#[校異]紹 -> 沼 [元][類][紀] / 網手綱 -> 綱手 [万葉集古義] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:守部王,行幸,羈旅,長意吉麻呂,大阪,天平6年3月,年紀,地名,応詔
#[訓異]
#[大意]茅渟の辺りから雨が降ってくる。四極の海人が網を干している。濡れてしまうだろうか
#{語釈]
守部王  舎人親王の子、船王の弟、淳仁天皇の兄 天平一二年十一月以降記事がない。他界したか。
濡れもあへむかも  あふ 補助動詞として、~してしまうの意味

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/1000
#[題詞](春三月幸于難波宮之時歌六首)
#[原文]兒等之有者 二人将聞乎 奥渚尓 鳴成多頭乃 暁之聲
#[訓読]子らしあらばふたり聞かむを沖つ洲に鳴くなる鶴の暁の声
#[仮名],こらしあらば,ふたりきかむを,おきつすに,なくなるたづの,あかときのこゑ
#[左注]右一首守部王作
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:守部王,行幸,大阪,恋情,望郷,天平6年3月,年紀,地名
#[訓異]
#[大意]あの子がいたら二人で聞こうものなのに。沖の中州で鳴き声が聞こえる鶴の夜明けの声を
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/1001
#[題詞](春三月幸于難波宮之時歌六首)
#[原文]大夫者 御<猟>尓立之 未通女等者 赤裳須素引 清濱備乎
#[訓読]大夫は御狩に立たし娘子らは赤裳裾引く清き浜びを
#[仮名],ますらをは,みかりにたたし,をとめらは,あかもすそひく,きよきはまびを
#[左注]右一首山部宿祢赤人作
#[校異]臈 -> 猟 [西(左貼紙)][元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,行幸,大阪,難波,従駕,宮廷歌人,天平6年3月,年紀,地名
#[訓異]
#[大意]大夫はみ猟にお立ちになり、娘子は赤裳の裾を引く。清らかな浜辺を
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/1002
#[題詞](春三月幸于難波宮之時歌六首)
#[原文]馬之歩 押止駐余 住吉之 岸乃黄土 尓保比而将去
#[訓読]馬の歩み抑へ留めよ住吉の岸の埴生ににほひて行かむ
#[仮名],うまのあゆみ,おさへとどめよ,すみのえの,きしのはにふに,にほひてゆかむ
#[左注]右一首安<倍>朝臣豊継作
#[校異]部 -> 倍 [元][細]
#[鄣W],雑歌,作者:安倍豊継,行幸,羈旅,土地讃美,大阪,難波,天平6年3月,地名
#[訓異]
#[大意]馬の歩みを押さえて留めなさい。住吉の崖の赤土に色づけて行こう
#{語釈]
安<倍>朝臣豊継 天平9年2月従五位下  吉志舞を奏した一員か。

#[説明]
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#[番号]06/1003
#[題詞]筑後守外従五位下葛井連大成遥見海人釣船作歌一首
#[原文]海𡢳嬬 玉求良之 奥浪 恐海尓 船出為利所見
#[訓読]海女娘子玉求むらし沖つ波畏き海に舟出せり見ゆ
#[仮名],あまをとめ,たまもとむらし,おきつなみ,かしこきうみに,ふなでせりみゆ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:葛井大成,羈旅,佐賀,土地,叙景,漁夫,地名,属目
#[訓異]
#[大意]海女娘子は玉を探しているらしい。沖の浪の恐ろしい海に舟を出しているのが見える
#{語釈]
#[説明]
葛井連大成 百済系渡来人 神亀5年5月外従五位下
外従五位下 外位  三位以上に上る貴族の内位に対して、地方豪族、渡来系氏族に与えられる位階。

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#[番号]06/1004
#[題詞]按作村主益人歌一首
#[原文]不所念 来座君乎 <佐>保<川>乃 河蝦不令聞 還都流香聞
#[訓読]思ほえず来ましし君を佐保川のかはづ聞かせず帰しつるかも
#[仮名],おもほえず,きまししきみを,さほがはの,かはづきかせず,かへしつるかも
#[左注]右内<匠>大属按作村主益人聊設<飲饌>以饗長官佐為王 未及日斜王既還歸 於時益人怜惜不猒之歸仍作此歌
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 左 -> 佐 [元][類][紀] / 河 -> 川 [元][類][紀] / 匠寮 -> 匠 [元][紀] / 饌飲 -> 飲饌 [元][紀] / 歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:按作益人,宴席,主人,もてなし,佐為王,別れ,哀惜,地名,奈良
#[訓異]
#[大意]思いがけずやって来られたあなたを佐保川の蛙を聞かせないで帰してしまうことであるなあ
#{語釈]
按作村主益人 09/0311 伝未詳

#[説明]
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#[番号]06/1005
#[題詞]八年丙子夏六月幸于芳野離宮之時山<邊>宿祢赤人應詔作歌一首[并短歌]
#[原文]八隅知之 我大王之 見給 芳野宮者 山高 雲曽軽引 河速弥 湍之聲曽清寸 神佐備而 見者貴久 宜名倍 見者清之 此山<乃> 盡者耳社 此河乃 絶者耳社 百師紀能 大宮所 止時裳有目
#[訓読]やすみしし 我が大君の 見したまふ 吉野の宮は 山高み 雲ぞたなびく 川早み 瀬の音ぞ清き 神さびて 見れば貴く よろしなへ 見ればさやけし この山の 尽きばのみこそ この川の 絶えばのみこそ ももしきの 大宮所 やむ時もあらめ
#[仮名],やすみしし,わがおほきみの,めしたまふ,よしののみやは,やまたかみ,くもぞたなびく,かははやみ,せのおとぞきよき,かむさびて,みればたふとき,よろしなへ,みればさやけし,このやまの,つきばのみこそ,このかはの,たえばのみこそ,ももしきの,おほみやところ,やむときもあらめ
#[左注]
#[校異]部 -> 邊 [元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短哥 / 久 (楓) 之 / 之 -> 乃 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,行幸,従駕,応詔,吉野,離宮,宮廷讃美,天平8年6月,年紀,地名
#[訓異]
#[大意]やすみしし我が大君のご覧になる吉野の宮は山が高いので雲がたなびいている。川の流れが速いので川瀨の音が清らかである。山は神々しくて見ると貴く、川は心地よく見れば清らかである。この山がなくなれば、この川が絶える時があれば、ももしきの大宮所がなくなる時があるだろう。(そんなことはないので永遠に栄える宮である)

#{語釈]
#[説明]
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#[番号]06/1006
#[題詞](八年丙子夏六月幸于芳野離宮之時山<邊>宿祢赤人應詔作歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]自神代 芳野宮尓 蟻通 高所知者 山河乎吉三
#[訓読]神代より吉野の宮にあり通ひ高知らせるは山川をよみ
#[仮名],かむよより,よしののみやに,ありがよひ,たかしらせるは,やまかはをよみ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,行幸,従駕,応詔,吉野,離宮,讃美,天平8年6月,年紀,地名#[訓異]
#[大意]神代の昔から吉野の宮にいつも通ってりっぱにお治めになるのは山川がよいからである
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]06/1007
#[題詞]市原王悲獨子歌一首
#[原文]言不問 木尚妹與兄 有云乎 直獨子尓 有之苦者
#[訓読]言問はぬ木すら妹と兄とありといふをただ独り子にあるが苦しさ
#[仮名],こととはぬ,きすらいもとせと,ありといふを,ただひとりこに,あるがくるしさ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:市原王,独り,悲哀
#[訓異]
#[大意]言葉を話さない木ですら妹や兄がいるというのにただ独り子でいる苦しさよ
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]06/1008
#[題詞]忌部首黒麻呂恨友賖来歌一首
#[原文]山之葉尓 不知世經月乃 将出香常 我待君之 夜者更降管
#[訓読]山の端にいさよふ月の出でむかと我が待つ君が夜はくたちつつ
#[仮名],やまのはに,いさよふつきの,いでむかと,わがまつきみが,よはくたちつつ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:忌部黒麻呂,怨恨,待つ,宴席
#[訓異]
#[大意]山の稜線でうろうろしている月が早く出てこないかと待つように自分が待っているあなたなのに、夜は更けて行く

#{語釈]
忌部首黒麻呂 天平宝字二年外従五位下
し  遅く来る

#[説明]
宴席での遅参を相聞風にしている。

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#[番号]06/1009
#[題詞]冬十一月左大辨葛城王等賜姓橘氏之時御製歌一首
#[原文]橘者 實左倍花左倍 其葉左倍 枝尓霜雖降 益常葉之<樹>
#[訓読]橘は実さへ花さへその葉さへ枝に霜降れどいや常葉の木
#[仮名],たちばなは,みさへはなさへ,そのはさへ,えにしもふれど,いやとこはのき
#[左注]右冬十一月九日 従三位葛城王従四位上佐為王等 辞皇族之高名 賜外家之橘姓已訖 於時太上天皇々后共在于皇后宮 以為肆宴而即御製賀橘之歌 并賜御酒宿祢等也 或云 此歌一首太上天皇御歌 但天皇々后御歌各有一首者 其歌遺落未得<探>求焉 今檢案内 八年十一月九日葛城王等願橘宿祢之姓上表 以十七日依表乞賜橘宿祢
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 樹 [西(上書訂正)][元][類] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 此歌 [西] 此謌 [西(訂正)] 此歌 / 御歌 [西] 御哥 [西(訂正)] 御歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 其歌 [西] 其謌 [西(訂正)] 其歌 / 採 -> 探 [元][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:聖武天皇,元正天皇,作者異伝,讃美,宴席,寿歌,祝い,天平8年11月,植物
#[訓異]
#[大意]橘は実さえも花さえもその葉さえ、枝に霜が降ってもますます常葉の木である。
#{語釈]
冬十一月  天平八年
御製歌  聖武天皇
右、冬十一月九日、従三位葛城王、従四位上佐為王等、皇族の高き名を辞し、外家の橘姓を賜ふこと已に訖ぬ。時に太上天皇(元正)々后、共に皇后宮に在り、以て肆宴を為して即ち橘を賀(ほ)く歌を御製(つくら)し、并せて御酒を宿祢等に賜ふ。
或ひは云ふ、此の歌一首は、太上天皇の御歌ぞ。但し天皇々后の御歌は各一首有りといへり。其の歌遺(う)せ落(お)ちて未だ<探>求することを得ず。今案内(あない)を檢(ただ)すに、八年十一月九日、葛城王等、橘宿祢の姓を願ひてを表を上(たてま)つる。十七日を以て表の乞(ねが)ひに依りて橘姓を賜ふ。


#[説明]
家持 18/4111~2 橘歌

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#[番号]06/1010
#[題詞]橘宿祢奈良麻呂應詔歌一首
#[原文]奥山之 真木葉凌 零雪乃 零者雖益 地尓落目八方
#[訓読]奥山の真木の葉しのぎ降る雪の降りは増すとも地に落ちめやも
#[仮名],おくやまの,まきのはしのぎ,ふるゆきの,ふりはますとも,つちにおちめやも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:橘奈良麻呂,応詔,寿歌,祝い,天平8年11月,植物
#[訓異]
#[大意]奥山の大きな木に覆いかぶさって降る雪がどんなに降り積もろうとも橘の実や葉は地面に落ちることがありましょうか。(ますます栄えるめでたい木なのです)
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]06/1011
#[題詞]冬十二月十二日歌儛所之諸王臣子等集葛井連廣成家宴歌二首 / 比来古儛盛興 古歳漸晩 理宜共盡古情同唱<古>歌 故擬此趣<輙>獻古曲二節 風流意氣之士儻有此集之中 争發念心々和古體
#[原文]我屋戸之 梅咲有跡 告遣者 来云似有 散去十方吉
#[訓読]我が宿の梅咲きたりと告げ遣らば来と言ふに似たり散りぬともよし
#[仮名],わがやどの,うめさきたりと,つげやらば,こといふににたり,ちりぬともよし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 宴歌 [西] 宴謌 [西(訂正)] 宴歌 / 此 -> 古 [元(赭)] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 輙 [西(右書)][類][紀]
#[鄣W],雑歌,古歌,唱和,伝誦,葛井広成,風流,天平8年12月12日,年紀,植物
#[訓異]
#[大意]我が家の梅が咲いたらば知らせてやろう。しかしこれは来いというようなものだ。散ってもかまわないだろう。
#{語釈]
冬十二月十二日、歌儛所の諸王臣子等、葛井連廣成の家に集まりて宴する歌二首
比来(このごろ)古儛盛りに興(おこ)り、古歳(こさい)漸(やくやく)に晩(く)れぬ。理(ことわり)に、共に古情を盡くし、同じく古歌を唱ふべし。故に此趣に擬(なずら)へて輙(すなはち)古曲二節を獻る。風流意氣の士、儻(たまさか)に此の集(つどひ)の中に有らば、争ひて念(おもひ)を發し、心々(こころごころ)古體に和せよ。

この頃、古舞が盛んになって、旧年もようやく暮れようとしている。だから当然みんな古情に浸り、同じく古歌を唱誦するべきである。そこでこの趣旨に従って古曲二篇を提示する。風流に意気込んでいる人がたまたまこの宴の中にいるならば、競って思いを述べ、思い思いにこの古歌に唱和しなさい。

歌儛所 律令治部省の雅楽寮と同一かどうかは不明。風俗歌や古来の歌舞が伝えられた所か。
葛井連廣成 962
理に  筋道として 道理として

#[説明]
梅の花を口実に一杯やろうというもの。

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#[番号]06/1012
#[題詞](冬十二月十二日歌儛所之諸王臣子等集葛井連廣成家宴歌二首 / 比来古儛盛興 古歳漸晩 理宜共盡古情同唱<古>歌 故擬此趣<輙>獻古曲二節 風流意氣之士儻有此集之中 争發念心々和古體)
#[原文]春去者 乎呼理尓乎呼里 鴬<之 鳴>吾嶋曽 不息通為
#[訓読]春さればををりにををり鴬の鳴く我が山斎ぞやまず通はせ
#[仮名],はるされば,ををりにををり,うぐひすの,なくわがしまぞ,やまずかよはせ
#[左注]
#[校異]<> -> 之鳴 [西(左書)][元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,古歌,唱和,伝誦,葛井広成,風流,天平8年12月12日,年紀,動物
#[訓異]
#[大意]春になると枝もたわむばかりにやってきて鴬が鳴く我が庭園であるぞ。絶えずお通いになってください。
#{語釈]
#[説明]
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#[番号]06/1013
#[題詞]九年丁丑春正月橘少卿并諸大夫等集弾正尹門部王家宴歌二首
#[原文]豫 公来座武跡 知麻世婆 門尓屋戸尓毛 珠敷益乎
#[訓読]あらかじめ君来まさむと知らませば門に宿にも玉敷かましを
#[仮名],あらかじめ,きみきまさむと,しらませば,かどにやどにも,たましかましを
#[左注]右一首主人門部王 [後賜姓大原真人氏也]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:門部王,宴席,歓迎,天平9年1月,年紀
#[訓異]
#[大意]あらかじめあなたがたがいらっしゃると知っていたならば門にも家にも玉を敷いて掃除しておいたものなのに。
#{語釈]
玉を敷く
06/1013H01あらかじめ君来まさむと知らませば門に宿にも玉敷かましを
06/1015H01玉敷きて待たましよりはたけそかに来る今夜し楽しく思ほゆ
11/2824H01思ふ人来むと知りせば八重葎覆へる庭に玉敷かましを
11/2825H01玉敷ける家も何せむ八重葎覆へる小屋も妹と居りせば
15/3706H01玉敷ける清き渚を潮満てば飽かず我れ行く帰るさに見む
18/4056H01堀江には玉敷かましを大君を御船漕がむとかねて知りせば
18/4057H01玉敷かず君が悔いて言ふ堀江には玉敷き満てて継ぎて通はむ
19/4270H01葎延ふ賎しき宿も大君の座さむと知らば玉敷かましを
19/4271H01松蔭の清き浜辺に玉敷かば君来まさむか清き浜辺に

#[説明]
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#[番号]06/1014
#[題詞](九年丁丑春正月橘少卿并諸大夫等集弾正尹門部王家宴歌二首)
#[原文]前日毛 昨日毛<今>日毛 雖見 明日左倍見巻 欲寸君香聞
#[訓読]一昨日も昨日も今日も見つれども明日さへ見まく欲しき君かも
#[仮名],をとつひも,きのふもけふも,みつれども,あすさへみまく,ほしききみかも
#[左注]右一首橘宿祢文成 [即少卿之子也]
#[校異]尓 -> 今 [西(貼紙)][元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:橘文成,宴席,主人讃美,天平9年
#[訓異]
#[大意]一昨日も昨日も今日も見ているが明日さえも見たいと思うあなたであることだ
#{語釈]
橘宿祢文成  伝未詳。

#[説明]
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#[番号]06/1015
#[題詞]榎井王後追和歌一首 [志貴親王之子也]
#[原文]玉敷而 待益欲利者 多鷄蘇香仁 来有今夜四 樂所念
#[訓読]玉敷きて待たましよりはたけそかに来る今夜し楽しく思ほゆ
#[仮名],たましきて,またましよりは,たけそかに,きたるこよひし,たのしくおもほゆ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:榎井王,追和,門部王,宴席
#[訓異]
#[大意]玉を敷いて待っているよりは、不意にやって来た今夜の方が楽しく思われる
#{語釈]
榎井王 伝未詳。日本後紀に大同元年四月神王薨去。田原天皇(志貴皇子の追尊号)之孫、榎井王の子とある。
たけそかに 未詳。不意に、唐突にの意か。

#[説明]
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#[番号]06/1016
#[題詞]春二月諸大夫等集左少辨巨勢宿奈麻呂朝臣家宴歌一首
#[原文]海原之 遠渡乎 遊士之 遊乎将見登 莫津左比曽来之
#[訓読]海原の遠き渡りを風流士の遊ぶを見むとなづさひぞ来し
#[仮名],うなはらの,とほきわたりを,みやびをの,あそぶをみむと,なづさひぞこし
#[左注]右一首書白紙懸著屋壁也 題云 蓬莱仙媛所<化>嚢蘰 為風流秀才之士矣 斯凡客不所望見哉
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 化 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,巨勢宿奈麻呂,宴席,風流,神仙,遊び,天平9年2月
#[訓異]
#[大意]海原の遠い渡りを風流士の遊びを見ようとして難渋してやって来たのだ。
#{語釈]
巨勢宿奈麻呂 天平元年 長屋王糾問使。少納言。天平五年従五位下。
右一首は、白き紙に書きて懸著屋の壁に懸著(か)く。題して云く、蓬莱の仙媛の<化>(な)れる嚢蘰(ふくろかづら)は、風流秀才の士の為なり。斯(これ)凡客の望み見る所ならじか。

嚢蘰 実態未詳。今の植物に同名のものがある。

#[説明]
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#[番号]06/1017
#[題詞]夏四月大伴坂上郎女奉拝賀茂神社之時便超相坂山望見近江海而晩頭還来作歌一首
#[原文]木綿疊 手向乃山乎 今日<越>而 何野邊尓 廬将為<吾>等
#[訓読]木綿畳手向けの山を今日越えていづれの野辺に廬りせむ我れ
#[仮名],ゆふたたみ,たむけのやまを,けふこえて,いづれののへに,いほりせむわれ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 超 -> 越 [元][類] / 子 -> 吾 [元][類][紀][細]
#[鄣W],雑歌,作者:坂上郎女,京都,羈旅,黒人,旅愁,天平9年4月
#[訓異]
#[大意]木綿畳を奉って手向けをするこの逢坂山を今日越えて、どこの野で宿りをすればいいのだろうか。自分は。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/1018
#[題詞]十年戊寅元興寺之僧自嘆歌一首
#[原文]白珠者 人尓不所知 不知友縦 雖不知 吾之知有者 不知友任意
#[訓読]白玉は人に知らえず知らずともよし知らずとも我れし知れらば知らずともよし
#[仮名],しらたまは,ひとにしらえず,しらずともよし,しらずとも,われししれらば,しらずともよし
#[左注]右一首<或云> 元興寺之僧獨覺多智 未有顯聞 衆諸<狎>侮 因此僧作此歌 自嘆身才也
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 或云 [元][細] / 押 -> 狎 [代匠記精撰本] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:元興寺僧,孤高,天平10年,年紀
#[訓異]
#[大意]白玉は他人に知られていない。知らなくともかまわない。自分だけが知っていれば他人は知らなくともよい。
#{語釈]
白玉 自分の才能の譬喩

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/1019
#[題詞]石上乙麻呂卿配土左國之時歌三首[并短歌]
#[原文]石上 振乃尊者 弱女乃 或尓縁而 馬自物 縄取附 肉自物 弓笶圍而 王 命恐 天離 夷部尓退 古衣 又打山従 還来奴香聞
#[訓読]石上 布留の命は 手弱女の 惑ひによりて 馬じもの 縄取り付け 獣じもの 弓矢囲みて 大君の 命畏み 天離る 鄙辺に罷る 古衣 真土の山ゆ 帰り来ぬかも
#[仮名],いそのかみ,ふるのみことは,たわやめの,まどひによりて,うまじもの,なはとりつけ,ししじもの,ゆみやかくみて,おほきみの,みことかしこみ,あまざかる,ひなへにまかる,ふるころも,まつちのやまゆ,かへりこぬかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短哥 [西(訂正)] 短歌
#[鄣W],雑歌,石上乙麻呂,流罪,久米若賣,密通,天平11年,年紀,土佐,高知,同情,歌語り#[訓異]
#[大意]石上布留の命は、手弱女の誘惑によって馬のように縄を取り付け、四つ足のように弓矢で囲んで、大君のご命令を恐れ多く思って天から離れた田舎に下って行く。古衣真土の山を通って帰って来ないかなあ。

#{語釈]
石上乙麻呂 父左大臣石川麻呂。
配土左國  続日本紀「天平十一年三月二十八日庚辰、石川朝臣乙麻呂、久米連若売を姦すといふに坐(つみ)せられて、土佐の国に配流せらる。若売は下総の国に配せらる。」
久米連若売  天平九年八月五日薨じた、藤原宇合の未亡人。
一年半後であるので、服喪期間は過ぎているが、それ以前から交際があったか。
真相は不明。橘諸兄による失脚工作か。

天平十三年九月八日久邇京遷都の大赦で赦されて、十五年四月従四位上。天平勝宝三年九月一日従三位中納言兼中務卿で薨去。

古衣 真土の枕詞。ここ一例。古い衣を洗い、また鎚で打つ意からか。

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1020,1021
#[題詞](石上乙麻呂卿配土佐國之時歌三首[并短歌])
#[原文]王 命恐見 刺<並> 國尓出座 <愛>耶 吾背乃公<矣> 繋巻裳 湯々石恐石 住吉乃 荒人神 <船>舳尓 牛吐賜 付賜将 嶋之<埼>前 依賜将 礒乃埼前 荒浪 風尓不<令>遇 <莫>管見 身疾不有 急 令變賜根 本國部尓
#[訓読]大君の 命畏み さし並ぶ 国に出でます はしきやし 我が背の君を かけまくも ゆゆし畏し 住吉の 現人神 船舳に うしはきたまひ 着きたまはむ 島の崎々 寄りたまはむ 磯の崎々 荒き波 風にあはせず 障みなく 病あらせず 速けく 帰したまはね もとの国辺に
#[仮名],おほきみの,みことかしこみ,さしならぶ,くににいでます,はしきやし,わがせのきみを,かけまくも,ゆゆしかしこし,すみのえの,あらひとがみ,ふなのへに,うしはきたまひ,つきたまはむ,しまのさきざき,よりたまはむ,いそのさきざき,あらきなみ,かぜにあはせず,つつみなく,やまひあらせず,すむやけく,かへしたまはね,もとのくにへに
#[左注]
#[校異]並之 -> 並 [元][紀][細] / <> -> 愛 [万葉集注釈] / 矣 [西(上書訂正)][元][紀][細] / 舡 -> 船 [元][紀][細] / 崎 -> 埼 [元][細] / 合 -> 令 [元][紀][細] / 草 -> 莫 [玉勝間]
#[鄣W],雑歌,石上乙麻呂,流罪,久米若賣,密通,天平11年,年紀,土佐,高知,同情,歌語り#[訓異]
#[大意]大君のご命令を恐れ多く思って同じく並んでいる国にお出でになり、いとしい我が背の君を言葉に掛けるのもはばかられ恐れ多い住吉の人間の姿をした神が船の舳先にお立ちになり、到着される島の御崎全て、お寄りになる磯のことごとに荒い波や風に遭遇させることなく何事もなく、病気にもかからせず、速やかにお帰しなさって下さい。もとの国まで
#{語釈]
さし並ぶ 土佐は紀伊と同じく南海道に属する。
現人神 住吉の神は人間の姿をして船の舳先に立つ

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1022
#[題詞](石上乙麻呂卿配土佐國之時歌三首[并短歌])
#[原文]父公尓 吾者真名子叙 妣刀自尓 吾者愛兒叙 参昇 八十氏人乃 手向<為> 恐乃坂尓 <幣>奉 吾者叙追 遠杵土左道矣
#[訓読]父君に 我れは愛子ぞ 母刀自に 我れは愛子ぞ 参ゐ上る 八十氏人の 手向けする 畏の坂に 幣奉り 我れはぞ追へる 遠き土佐道を
#[仮名],ちちぎみに,われはまなごぞ,ははとじに,われはまなごぞ,まゐのぼる,やそうぢひとの,たむけする,かしこのさかに,ぬさまつり,われはぞおへる,とほきとさぢを
#[左注]
#[校異]為等 -> 為 [元][細] / 弊 -> 幣 [元][細]
#[鄣W],雑歌,石上乙麻呂,流罪,久米若賣,密通,天平11年,土佐,高知,同情,歌語り
#[訓異]
#[大意]父母にとって自分は愛しい子どもであるぞ。母上にとって自分は愛しい子どもであるぞ。都に上る大勢お人たちが手向けをする恐れ多い坂に幣を奉り、自分は追っていく。遠い土佐への道を

#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/1023
#[題詞](石上乙麻呂卿配土佐國之時歌三首[并短歌])反歌一首
#[原文]大埼乃 神之小濱者 雖小 百船<純>毛 過迹云莫國
#[訓読]大崎の神の小浜は狭けども百舟人も過ぐと言はなくに
#[仮名],おほさきの,かみのをばまは,せばけども,ももふなびとも,すぐといはなくに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 能 -> 純 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,石上乙麻呂,流罪,久米若賣,密通,天平11年,年紀,土佐,高知,同情,歌語り#[訓異]
#[大意]大崎の神の小浜は狭いけれども、多くの船や人は安全には過ぎるとは言うことはないよ。
#{語釈]
大崎 和歌山県海草郡下津町大崎。或いは和歌山市加太。

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1024
#[題詞]秋八月廿日宴右大臣橘家歌四首
#[原文]長門有 奥津借嶋 奥真經而 吾念君者 千歳尓母我毛
#[訓読]長門なる沖つ借島奥まへて我が思ふ君は千年にもがも
#[仮名],ながとなる,おきつかりしま,おくまへて,あがもふきみは,ちとせにもがも
#[左注]右一首長門守巨曽倍對馬朝臣
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:巨曽倍對馬,橘諸兄,天平11年8月20日,年紀,主人讃美,宴席,山口,長門,長寿,地名
#[訓異]
#[大意]長門にある奥の借島ではないが、心深く大切に思っているあなたは、千年までも生きて欲しいものです。
#{語釈]
沖つ借島  未詳。下関市蓋井島。萩、東萩雁島。
巨曽倍對馬 天平2年頃大和守 天平4年外従五位下

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/1025
#[題詞](秋八月廿日宴右大臣橘家歌四首)
#[原文]奥真經而 吾乎念流 吾背子者 千<年>五百歳 有巨勢奴香聞
#[訓読]奥まへて我れを思へる我が背子は千年五百年ありこせぬかも
#[仮名],おくまへて,われをおもへる,わがせこは,ちとせいほとせ,ありこせぬかも
#[左注]右一首右大臣和歌
#[校異]歳 -> 年 [元][類][紀] / 歌 [西] 哥 [西(訂正)] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:橘諸兄,天平11年8月20日,年紀,宴席,長寿
#[訓異]
#[大意]心から自分を思ってくださるあなたは千年でも五百年でも生きてはくれないだろうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/1026
#[題詞](秋八月廿日宴右大臣橘家歌四首)
#[原文]百礒城乃 大宮人者 今日毛鴨 暇<无>跡 里尓不<出>将有
#[訓読]ももしきの大宮人は今日もかも暇をなみと里に出でずあらむ
#[仮名],ももしきの,おほみやひとは,けふもかも,いとまをなみと,さとにいでずあらむ
#[左注]右一首右大臣傳云 故豊嶋采女歌
#[校異]無 -> 无 [元][類] / 去 -> 出 [類][古] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:豊島采女,伝誦,橘諸兄,宴席,天平11年8月20日,年紀
#[訓異]
#[大意]ももしきの大宮人は今日もでしょうか。暇がないと言って里に出ないでいらっしゃる
#{語釈]
里   貴族たちの出身地または知行地。借り入れのための田暇があった(仮寧令)
    田暇を取る時期の宴であることから、諸兄が采女のよく歌っていた古歌を披露した。
    都の町中(遊びに行く)
故豊嶋采女 武蔵国豊島郡(東京都豊島区)、摂津豊島郡(箕面市あたり)出身の采女

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]06/1027
#[題詞](秋八月廿日宴右大臣橘家歌四首)
#[原文]橘 本尓道履 八衢尓 物乎曽念 人尓不所知
#[訓読]橘の本に道踏む八衢に物をぞ思ふ人に知らえず
#[仮名],たちばなの,もとにみちふむ,やちまたに,ものをぞおもふ,ひとにしらえず
#[左注]右一首右大辨高<橋>安麻呂卿語云 故豊嶋采女之作也 但或本云三方沙弥戀妻苑臣作歌也 然則豊嶋采女當時當所口吟此歌歟
#[校異]橘 -> 橋 [西(訂正)][元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 此歌 [西] 此謌 [西(訂正)] 此歌
#[鄣W],雑歌,作者:豊島采女,三方沙弥,伝誦,高橋安麻呂,宴席,古歌,植物,鬱屈,天平11年8月20日,年紀
#[訓異]
#[大意]橘の本に道を踏むその八街に物思いをすることだ。他人に気付かれず。
#{語釈]
高橋安麻呂卿 養老二年従五位下、天平一二年従四位下。太宰大弐。
      卿は三位以上の尊称。従四位下でも卿とするのは宴席の賓客でも一番高齢だったからか

三方沙弥の歌
02/0125H01橘の蔭踏む道の八衢に物をぞ思ふ妹に逢はずして[三方沙弥]

#[説明]
宴の場として、諸兄が故豊島采女の歌を出したので、それに和する形で同じく豊島采女のよく歌っていた橘が歌われている歌を高橋安麻呂は出した。本歌は秘めた恋の歌であるが、諸兄のことを人知れず思っているという意味に転用している。

#[関連論文]


#[番号]06/1028
#[題詞]十一年己卯 天皇遊猟高圓野之時小獣<泄>走<都>里之中 於是適値勇士生而見獲即以此獣獻上御在所<副>歌一首 [獣名俗曰牟射佐妣]
#[原文]大夫之 高圓山尓 迫有者 里尓下来流 牟射佐(i)曽此
#[訓読]ますらをの高円山に迫めたれば里に下り来るむざさびぞこれ
#[仮名],ますらをの,たかまとやまに,せめたれば,さとにおりける,むざさびぞこれ
#[左注]右一首大伴坂上郎女作之也 但未逕奏而小獣死斃 因此獻歌停之
#[校異]泄 [西(上書訂正)][紀][細] / 堵 -> 都 [元][紀] / 製 -> 副 [西(訂正右書)][元][紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 之也 [元][紀](塙) 之 / 歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:坂上郎女,聖武天皇,遊猟,不奏,天平11年,年紀,動物,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]大夫が高円山に追い詰めたので里に下りてきたムササビですよ。これは。
#{語釈]
天皇、高圓野に遊猟(みかりしたまひ)し時、小獣都里の中に泄走す。是に適(たまさか)に勇士に値(あ)ひ、生きながらにして獲らえぬ。即ち此の獣を以て御在所(いましどころ)に獻上(たてまつ)るに副(そ)ふ歌一首 [獣名俗曰牟射佐妣]

泄走 泄は去る。山から下りてくる

#[説明]
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#[番号]06/1029
#[題詞]十二年庚辰冬十月依<大>宰少貳藤原朝臣廣嗣謀反發軍 幸于伊勢國之時河口行宮内舎人大伴宿祢家持作歌一首
#[原文]河口之 野邊尓廬而 夜乃歴者 妹之手本師 所念鴨
#[訓読]河口の野辺に廬りて夜の経れば妹が手本し思ほゆるかも
#[仮名],かはぐちの,のへにいほりて,よのふれば,いもがたもとし,おもほゆるかも
#[左注]
#[校異]太 -> 大 [紀][細][温] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:大伴家持,羈旅,行幸従駕,聖武天皇,伊勢,三重,天平12年10月,年紀,望郷,三重県,地名
#[訓異]
#[大意]川口の野辺に庵を建てて夜が何日にもなるので妹の袂のことが思われてならないことだ
#{語釈]
藤原朝臣廣嗣 九月三日太宰府で反乱挙兵。一〇月二六日大将軍大野東人により敗残。一一月一日五島列島値嘉島で捕らえられ斬刑。
河口行宮 三重県津市(旧一志郡)白山町川口
     到着は、一一月二日

#[説明]
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#[番号]06/1030
#[題詞](十二年庚辰冬十月依<大>宰少貳藤原朝臣廣嗣謀反發軍 幸于伊勢國之時)天皇御製歌一首
#[原文]妹尓戀 吾乃松原 見渡者 潮干乃滷尓 多頭鳴渡
#[訓読]妹に恋ひ吾の松原見わたせば潮干の潟に鶴鳴き渡る
#[仮名],いもにこひ,あがのまつばら,みわたせば,しほひのかたに,たづなきわたる
#[左注]右一首今案 吾松原在三重郡 相去河口行宮遠矣 若疑御在朝明行宮之時 所製御歌 傳者誤之歟
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:聖武天皇,望郷,行幸,羈旅,三重,天平12年10月,年紀,叙景,三重県,地名
#[訓異]
#[大意]妹に恋い思う自分ではないが吾の松原を見渡すと潮が引いた干潟に鶴が鳴き渡っている
#{語釈]
今案ずるに、吾の松原は三重郡に在り。河口行宮を相去ること遠し。若疑(けだし)朝明行宮に御在(いましし)時に 所製(つくらす)御歌なるを傳へる者誤れるか。

吾の松原 所在未詳
三重郡 三重群南部と四日市市
朝明行宮 三重郡朝明群朝明川付近 11月12日川口行宮を出発。23日朝明行宮到着。

#[説明]
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#[番号]06/1031
#[題詞](十二年庚辰冬十月依<大>宰少貳藤原朝臣廣嗣謀反發軍 幸于伊勢國之時)丹比屋主真人歌一首
#[原文]後尓之 <人>乎思久 四泥能埼 木綿取之泥而 <好>住跡其念
#[訓読]後れにし人を思はく思泥の崎木綿取り垂でて幸くとぞ思ふ
#[仮名],おくれにし,ひとをおもはく,しでのさき,ゆふとりしでて,さきくとぞおもふ
#[左注]右案此歌者不有此<行>之作乎 所以然言 勅大夫従河口行宮還京勿令従駕焉 何有詠思泥埼作歌哉
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 人 [西(右書)][元][類][紀] / 將 -> 好 [元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 行宮 -> 行 [元][類][紀][温] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:丹比屋主,行幸従駕,望郷,羈旅,三重,天平12年10月,年紀,家主,地名
#[訓異]
#[大意]後に残った人を思っては、思泥の崎ではないが、木綿を取り付け垂らして無事であってくれと祈ることだ
#{語釈]
丹比屋主真人 家主(やかぬし)を謝ったか。天平九年従五位下。天平宝字四年従四位下で卒。
屋主は、勅命により河口行宮(11月2日到着、12日出発)から都に還される。思泥の崎は11月23日に朝明の行宮に到着する直前の地であるので屋主の歌があるはずがない。
11月21日に鈴鹿郡赤坂の頓宮で叙位。この時に屋主の名前はない。家主が叙位を受けている。従ってこの人か。

思泥の崎 三重県四日市市北部

右は案(かんが)ふるに此の歌は此の<行>(たび)の作に有らじか。然言ふ所以(ゆゑ)は、大夫(まへつぎみ)に勅して河口行宮より京に還し、従駕(おほみとも)せしむることなし。いかにしてか思泥の埼にして作る歌を詠むことあらむか。
事情をよく知っている人の注。

#[説明]
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#[番号]06/1032
#[題詞](十二年庚辰冬十月依<大>宰少貳藤原朝臣廣嗣謀反發軍 幸于伊勢國之時)狭殘<行宮>大伴宿祢家持作歌二首
#[原文]天皇之 行幸之随 吾妹子之 手枕不巻 月曽歴去家留
#[訓読]大君の行幸のまにま我妹子が手枕まかず月ぞ経にける
#[仮名],おほきみの,みゆきのまにま,わぎもこが,たまくらまかず,つきぞへにける
#[左注]
#[校異]<> -> 大宮 [西(右書)][元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:大伴家持,行幸従駕,望郷,羈旅,三重,天平12年10月,年紀,地名
#[訓異]大君の行幸に従っていると、我妹子の手枕を枕としないで月が経ったことだ
#[大意]
#{語釈]
狭殘<行宮 所在未詳。一志郡、多気郡明和町、鈴鹿市

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1033
#[題詞]((十二年庚辰冬十月依<大>宰少貳藤原朝臣廣嗣謀反發軍 幸于伊勢國之時)狭殘<行宮>大伴宿祢家持作歌二首)
#[原文]御食國 志麻乃海部有之 真熊野之 小船尓乗而 奥部榜所見
#[訓読]御食つ国志摩の海人ならしま熊野の小舟に乗りて沖へ漕ぐ見ゆ
#[仮名],みけつくに,しまのあまならし,まくまのの,をぶねにのりて,おきへこぐみゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴家持,叙景,羈旅,天平12年10月,年紀,三重,属目,地名
#[訓異]
#[大意]天皇に食材を提供する国である志摩の海であろうか。ま熊野の小舟に乗って沖へ漕ぐのが見える
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1034
#[題詞](十二年庚辰冬十月依<大>宰少貳藤原朝臣廣嗣謀反發軍 幸于伊勢國之時)美濃國多藝行宮大伴宿祢東人作歌一首
#[原文]従古 人之言来流 老人之 <變>若云水曽 名尓負瀧之瀬
#[訓読]いにしへゆ人の言ひ来る老人の変若つといふ水ぞ名に負ふ瀧の瀬
#[仮名],いにしへゆ,ひとのいひける,おいひとの,をつといふみづぞ,なにおふたきのせ
#[左注]
#[校異]戀 -> 變 [西(訂正左書)][元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴東人,岐阜,羈旅,土地讃美,天平12年10月,年紀,養老瀧,地名
#[訓異]
#[大意]昔の人が言い継いで来る老人が若返るという水であるぞ。その名前にふさわしい滝の早瀬であることだ
#{語釈]
美濃國多藝行宮 岐阜県養老郡養老町付近
大伴宿祢東人 系譜未詳。天平宝字二年従五位下。

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1035
#[題詞](十二年庚辰冬十月依<大>宰少貳藤原朝臣廣嗣謀反發軍 幸于伊勢國之時)大伴宿祢家持作歌一首
#[原文]田跡河之 瀧乎清美香 従古 <官>仕兼 多藝乃野之上尓
#[訓読]田跡川の瀧を清みかいにしへゆ宮仕へけむ多芸の野の上に
#[仮名],たどかはの,たきをきよみか,いにしへゆ,みやつかへけむ,たぎのののへに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 宮 -> 官 [元][類][古][細]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴家持,岐阜,羈旅,宮廷讃美,大夫,天平12年10月,年紀,養老瀧,地名
#[訓異]
#[大意]田跡川の流れが清らかであるからだろうか。昔から宮に仕えてきたのだろう。多芸の野のあたりに
#{語釈]
田跡川  養老川、揖斐川支流。
多芸の野 養老川周辺

#[説明]
金村 0907 赤人 1006と同類。

#[関連論文]



#[番号]06/1036
#[題詞](十二年庚辰冬十月依<大>宰少貳藤原朝臣廣嗣謀反發軍 幸于伊勢國之時)不破行宮大伴宿祢家持作歌一首
#[原文]關無者 還尓谷藻 打行而 妹之手枕 巻手宿益乎
#[訓読]関なくは帰りにだにもうち行きて妹が手枕まきて寝ましを
#[仮名],せきなくは,かへりにだにも,うちゆきて,いもがたまくら,まきてねましを
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:大伴家持,羈旅,行幸従駕,望郷,天平12年10月,年紀,岐阜,地名
#[訓異]
#[大意]関所がないならばちょっと帰るだけでも馬をむち打って行き、妹の手枕を枕として寝るだろうのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1037
#[題詞]十五年癸未秋八月十六日内舎人大伴宿祢家持讃久邇京作歌一首
#[原文]今造 久<邇>乃王都者 山河之 清見者 宇倍所知良之
#[訓読]今造る久迩の都は山川のさやけき見ればうべ知らすらし
#[仮名],いまつくる,くにのみやこは,やまかはの,さやけきみれば,うべしらすらし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 尓 -> 邇 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴家持,宮廷讃美,京都,天平15年8月16日,地名
#[訓異]
#[大意]今作っている久迩の都は山河の清花なのを見るとなるほど造営になるらしい
#{語釈]
今造る



#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1038
#[題詞]高丘河内連歌二首
#[原文]故郷者 遠毛不有 一重山 越我可良尓 念曽吾世思
#[訓読]故郷は遠くもあらず一重山越ゆるがからに思ひぞ我がせし
#[仮名],ふるさとは,とほくもあらず,ひとへやま,こゆるがからに,おもひぞわがせし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:高丘河内,望郷,京都,地名
#[訓異]
#[大意]故郷奈良は遠くもない。山一つを超えるだけなのに恋しい思いを自分はすることだ
#{語釈]
高丘河内連 百済系渡来人 養老五年憶良らとおもに東宮侍講。天平勝宝六年正五位下。

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1039
#[題詞](高丘河内連歌二首)
#[原文]吾背子與 二人之居者 山高 里尓者月波 不曜十方余思
#[訓読]我が背子とふたりし居らば山高み里には月は照らずともよし
#[仮名],わがせこと,ふたりしをらば,やまたかみ,さとにはつきは,てらずともよし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高丘河内,恋情,相聞,京都,地名
#[訓異]
#[大意]我が背子と二人でいさえすれば山が高くて里には月は照らなくてもいいよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1040
#[題詞]安積親王宴左少辨藤原八束朝臣家之日内舎人大伴宿祢家持作歌一首
#[原文]久堅乃 雨者零敷 念子之 屋戸尓今夜者 明而将去
#[訓読]ひさかたの雨は降りしけ思ふ子がやどに今夜は明かして行かむ
#[仮名],ひさかたの,あめはふりしけ,おもふこが,やどにこよひは,あかしてゆかむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:大伴家持,安積皇子,藤原八束,宴席,京都,地名,久邇京
#[訓異]
#[大意]ひさかたの雨はたくさん降れ、気心が通じている人たちでこの家に今夜は明かして行こう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1041
#[題詞]十六年甲申春正月五日諸卿大夫集安倍蟲麻呂朝臣家宴歌一首 [作者不審]
#[原文]吾屋戸乃 君松樹尓 零雪<乃> 行者不去 待西将待
#[訓読]我がやどの君松の木に降る雪の行きには行かじ待にし待たむ
#[仮名],わがやどの,きみまつのきに,ふるゆきの,ゆきにはゆかじ,まちにしまたむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 之 -> 乃 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,安倍虫麻呂,宴席,京都,久邇京,地名,天平16年1月5日,年紀
#[訓異]
#[大意]我が家のあなたを待つ松の木に降る雪のように行くことはしません。ただひたすら待っていましょう
#{語釈]
安倍蟲麻呂 坂上郎女の母方のいとこ。天平勝宝四年中務大輔従四位下卒

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1042
#[題詞]同月十一日登活道岡集一株松下飲歌二首
#[原文]一松 幾代可歴流 吹風乃 聲之清者 年深香聞
#[訓読]一つ松幾代か経ぬる吹く風の音の清きは年深みかも
#[仮名],ひとつまつ,いくよかへぬる,ふくかぜの,おとのきよきは,としふかみかも
#[左注]右一首市原王作
#[校異]歌 [西] 哥 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:市原王,宴席,天平16年1月11日,年紀,寿,京都,久邇京,地名
#[訓異]
#[大意]一本の松はそのくらい時が経っているのだろうか。吹く風の音の清らかなのは年月が経っているからだろうか
#{語釈]
活道岡 所在未詳。安積皇子晩歌

#[説明]
漢詩文

#[関連論文]



#[番号]06/1043
#[題詞](同月十一日登活道岡集一株松下飲歌二首)
#[原文]霊剋 壽者不知 松之枝 結情者 長等曽念
#[訓読]たまきはる命は知らず松が枝を結ぶ心は長くとぞ思ふ
#[仮名],たまきはる,いのちはしらず,まつがえを,むすぶこころは,ながくとぞおもふ
#[左注]右一首大伴宿祢家持作
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴家持,宴席,天平16年1月11日,年紀,永遠,寿,京都,久邇京,地名
#[訓異]
#[大意]たまきはる命はいつ無くなるかわからない。松の枝を結ぶ気持ちはいつまでもと思うからなのです
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1044
#[題詞]傷惜寧樂京荒墟作歌三首 [作者不審]
#[原文]紅尓 深染西 情可母 寧樂乃京師尓 年之歴去倍吉
#[訓読]紅に深く染みにし心かも奈良の都に年の経ぬべき
#[仮名],くれなゐに,ふかくしみにし,こころかも,ならのみやこに,としのへぬべき
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,哀惜,平城京,荒都歌,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]紅の深い色のように深く染まってしまった気持ちからなのだろうか。奈良の都で何時までも時を過ごすことが出来るだろうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1045
#[題詞](傷惜寧樂京荒墟作歌三首 [作者不審])
#[原文]世間乎 常無物跡 今曽知 平城京師之 移徙見者
#[訓読]世間を常なきものと今ぞ知る奈良の都のうつろふ見れば
#[仮名],よのなかを,つねなきものと,いまぞしる,ならのみやこの,うつろふみれば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,哀惜,平城京,荒都歌,無常,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]世の中を不変でないものだと今身に染みてわかる。奈良の都が移り変わって行くのを見ると
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1046
#[題詞](傷惜寧樂京荒墟作歌三首 [作者不審])
#[原文]石綱乃 又變若反 青丹吉 奈良乃都乎 又将見鴨
#[訓読]岩綱のまた変若ちかへりあをによし奈良の都をまたも見むかも
#[仮名],いはつなの,またをちかへり,あをによし,ならのみやこを,またもみむかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,哀惜,平城京,荒都歌,奈良,京都
#[訓異]
#[大意]岩綱のようにまた若返ってあをによし奈良の都をまた見ることだろうか。
#{語釈]
岩綱の  また、再びにかかる枕詞。蔓が分かれまた合うことから言う

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1047
#[題詞]悲寧樂故郷作歌一首[并短歌]
#[原文]八隅知之 吾大王乃 高敷為 日本國者 皇祖乃 神之御代自 敷座流 國尓之有者 阿礼将座 御子之嗣継 天下 所知座跡 八百萬 千年矣兼而 定家牟 平城京師者 炎乃 春尓之成者 春日山 御笠之野邊尓 櫻花 木晩牢 皃鳥者 間無數鳴 露霜乃 秋去来者 射駒山 飛火賀<(す)>丹 芽乃枝乎 石辛見散之 狭男<壮>鹿者 妻呼令動 山見者 山裳見皃石 里見者 里裳住吉 物負之 八十伴緒乃 打經而 思<煎>敷者 天地乃 依會限 萬世丹 榮将徃迹 思煎石 大宮尚矣 恃有之 名良乃京矣 新世乃 事尓之有者 皇之 引乃真尓真荷 春花乃 遷日易 村鳥乃 旦立徃者 刺竹之 大宮人能 踏平之 通之道者 馬裳不行 人裳徃莫者 荒尓異類香聞

#[訓読]やすみしし 我が大君の 高敷かす 大和の国は すめろきの 神の御代より 敷きませる 国にしあれば 生れまさむ 御子の継ぎ継ぎ 天の下 知らしまさむと 八百万 千年を兼ねて 定めけむ 奈良の都は かぎろひの 春にしなれば 春日山 御笠の野辺に 桜花 木の暗隠り 貌鳥は 間なくしば鳴く 露霜の 秋さり来れば 生駒山 飛火が岳に 萩の枝を しがらみ散らし さを鹿は 妻呼び響む 山見れば 山も見が欲し 里見れば 里も住みよし もののふの 八十伴の男の うちはへて 思へりしくは 天地の 寄り合ひの極み 万代に 栄えゆかむと 思へりし 大宮すらを 頼めりし 奈良の都を 新代の ことにしあれば 大君の 引きのまにまに 春花の うつろひ変り 群鳥の 朝立ち行けば さす竹の 大宮人の 踏み平し 通ひし道は 馬も行かず 人も行かねば 荒れにけるかも

#[仮名],やすみしし,わがおほきみの,たかしかす,やまとのくには,すめろきの,かみのみよより,しきませる,くににしあれば,あれまさむ,みこのつぎつぎ,あめのした,しらしまさむと,やほよろづ,ちとせをかねて,さだめけむ,ならのみやこは,かぎろひの,はるにしなれば,かすがやま,みかさののへに,さくらばな,このくれがくり,かほどりは,まなくしばなく,つゆしもの,あきさりくれば,いこまやま,とぶひがたけに,はぎのえを,しがらみちらし,さをしかは,つまよびとよむ,やまみれば,やまもみがほし,さとみれば,さともすみよし,もののふの,やそとものをの,うちはへて,おもへりしくは,あめつちの,よりあひのきはみ,よろづよに,さかえゆかむと,おもへりし,おほみやすらを,たのめりし,ならのみやこを,あらたよの,ことにしあれば,おほきみの,ひきのまにまに,はるはなの,うつろひかはり,むらとりの,あさだちゆけば,さすたけの,おほみやひとの,ふみならし,かよひしみちは,うまもゆかず,ひともゆかねば,あれにけるかも
#[左注](右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 塊 -> す [元][細] / 牡 -> 壮 [元][紀][細][温] / 並 -> 煎 [定本] / 踏 [元][類](塙) 蹈
#[鄣W],雑歌,作者:田辺福麻呂歌集,哀惜,平城京,荒都歌,動物,植物,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]やすみしし我が大君の立派にお治めになる大和の国は皇祖の神の御代よりお治めになる国であるのでお生まれになる御子が代々天の下をお治めになると八百年、千年までも後までとお定めになった奈良の都はかげろうが立ち上る春になると春日山や三笠の野辺には桜花の木の暗がりに隠れて貌鳥は絶えず盛んに鳴く。露霜の置く秋がやって来ると生駒山の飛火が岳にはぎの枝をからみつけて散らし雄鹿は妻を呼び響かせる。山を見ると山も見るのに非常によい。里を見ると里も住みやすい。武人の大勢の朝廷に仕える官人たちがずっと続けて思っていたことは天地が寄り合うその果てまでいつまでも栄えていくだろうと思っていた大宮までも、信頼してきた奈良の都を新しい世の中のことであるので大君が引率されるのに従って春の花のように移り変わって行って、鳥の群れが朝飛び立つように朝出ていかれたので、さす竹の栄える大宮人の踏み平して通っていた道は馬も行かないで人も通らないので荒れてしまったことであるよ

#{語釈]
うちはえて うち延へて ずっと続けて

#[説明]
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#[番号]06/1048
#[題詞](悲寧樂故郷作歌一首[并短歌])反歌二首
#[原文]立易 古京跡 成者 道之志婆草 長生尓異<煎>
#[訓読]たち変り古き都となりぬれば道の芝草長く生ひにけり
#[仮名],たちかはり,ふるきみやこと,なりぬれば,みちのしばくさ,ながくおひにけり
#[左注](右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 利 -> 煎 [類][紀][細]
#[鄣W],雑歌,作者:田辺福麻呂歌集,哀惜,平城京,荒都歌,植物,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]すっかり変わって古い都となってしまたので、道の雑草が長くなってしまった
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1049
#[題詞]((悲寧樂故郷作歌一首[并短歌])反歌二首)
#[原文]名付西 奈良乃京之 荒行者 出立毎尓 嘆思益
#[訓読]なつきにし奈良の都の荒れゆけば出で立つごとに嘆きし増さる
#[仮名],なつきにし,ならのみやこの,あれゆけば,いでたつごとに,なげきしまさる
#[左注](右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:田辺福麻呂歌集,哀惜,平城京,荒都歌,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]住み慣れた奈良の都が荒れて行くので出て立つごとに嘆きが勝ることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1050
#[題詞]讃久邇新京歌二首[并短歌]
#[原文]明津神 吾皇之 天下 八嶋之中尓 國者霜 多雖有 里者霜 澤尓雖有 山並之 宜國跡 川次之 立合郷跡 山代乃 鹿脊山際尓 宮柱 太敷奉 高知為 布當乃宮者 河近見 湍音叙清 山近見 鳥賀鳴慟 秋去者 山裳動響尓 左男鹿者 妻呼令響 春去者 岡邊裳繁尓 巌者 花開乎呼理 痛𪫧怜 布當乃原 甚貴 大宮處 諾己曽 吾大王者 君之随 所聞賜而 刺竹乃 大宮此跡 定異等霜

#[訓読]現つ神 我が大君の 天の下 八島の内に 国はしも さはにあれども 里はしも さはにあれども 山なみの よろしき国と 川なみの たち合ふ里と 山背の 鹿背山の際に 宮柱 太敷きまつり 高知らす 布当の宮は 川近み 瀬の音ぞ清き 山近み 鳥が音響む 秋されば 山もとどろに さを鹿は 妻呼び響め 春されば 岡辺も繁に 巌には 花咲きををり あなあはれ 布当の原 いと貴 大宮所 うべしこそ 吾が大君は 君ながら 聞かしたまひて さす竹の 大宮ここと 定めけらしも
#[仮名],あきつかみ,わがおほきみの,あめのした,やしまのうちに,くにはしも,さはにあれども,さとはしも,さはにあれども,やまなみの,よろしきくにと,かはなみの,たちあふさとと,やましろの,かせやまのまに,みやばしら,ふとしきまつり,たかしらす,ふたぎのみやは,かはちかみ,せのおとぞきよき,やまちかみ,とりがねとよむ,あきされば,やまもとどろに,さをしかは,つまよびとよめ,はるされば,をかへもしじに,いはほには,はなさきををり,あなあはれ,ふたぎのはら,いとたふと,おほみやところ,うべしこそ,わがおほきみは,きみながら,きかしたまひて,さすたけの,おほみやここと,さだめけらしも
#[左注](右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:田辺福麻呂歌集,久邇京,新都讃美,動物,植物,京都,地名
#[訓異]
#[大意]現人神である我が大君の天の下である八島国の内に国は多くあるけれども、里はたくさんあるけれども、山の並びがよい国であるとして、川の様子が流れ寄っている里として山城の鹿背山の近くに宮柱を立派にお立てになり立派に治めになる布当の宮は、川が近いので川瀨の音が清らかである。山が近いので鳥の鳴き声が響いている。秋になると山も轟くばかりに雄鹿は妻を呼び響かせて、春になると岡のあたりも茂るばかりに巌には花が咲きたわみ、ああすばらしいことだ。布当の宮よ。たいそう貴い大宮所であることだ。なるほど我が大君は、大君としてご統治なさってさす竹の大宮はここだとお定めになったらしい
#{語釈]
たち合ふ  木津川に和束川などが流れ寄っている
君ながら  大君として  諸兄という考えもある。
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1051
#[題詞](讃久邇新京歌二首[并短歌])反歌二首
#[原文]三日原 布當乃野邊 清見社 大宮處 [一云 此跡標刺] 定異等霜
#[訓読]三香の原布当の野辺を清みこそ大宮所 [一云 ここと標刺し] 定めけらしも
#[仮名],みかのはら,ふたぎののへを,きよみこそ,おほみやところ,[こことしめさし],さだめけらしも
#[左注](右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:田辺福麻呂歌集,久邇京,新都讃美,京都,地名
#[訓異]
#[大意]三日の原布當の野辺が清らかであるからこそ大宮所[一云 ここに印をして]お定めになったらしい
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1052
#[題詞]((讃久邇新京歌二首[并短歌])反歌二首)
#[原文]<山>高来 川乃湍清石 百世左右 神之味将<徃> 大宮所
#[訓読]山高く川の瀬清し百代まで神しみゆかむ大宮所
#[仮名],やまたかく,かはのせきよし,ももよまで,かむしみゆかむ,おほみやところ
#[左注](右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
#[校異]弓 -> 山 [万葉考] / <> -> 徃 [西(右書)][元][古][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:田辺福麻呂歌集,久邇京,新都讃美,京都,地名
#[訓異]
#[大意]山が高く川の瀬が清らかだ。百代まで神々しくなっていくだろう大宮所よ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1053
#[題詞](讃久邇新京歌二首[并短歌])
#[原文]吾皇 神乃命乃 高所知 布當乃宮者 百樹成 山者木高之 落多藝都 湍音毛清之 鴬乃 来鳴春部者 巌者 山下耀 錦成 花咲乎呼里 左<壮>鹿乃 妻呼秋者 天霧合 之具礼乎疾 狭丹頬歴 黄葉散乍 八千年尓 安礼衝之乍 天下 所知食跡 百代尓母 不可易 大宮處
#[訓読]吾が大君 神の命の 高知らす 布当の宮は 百木盛り 山は木高し 落ちたぎつ 瀬の音も清し 鴬の 来鳴く春へは 巌には 山下光り 錦なす 花咲きををり さを鹿の 妻呼ぶ秋は 天霧らふ しぐれをいたみ さ丹つらふ 黄葉散りつつ 八千年に 生れ付かしつつ 天の下 知らしめさむと 百代にも 変るましじき 大宮所
#[仮名],わがおほきみ,かみのみことの,たかしらす,ふたぎのみやは,ももきもり,やまはこだかし,おちたぎつ,せのおともきよし,うぐひすの,きなくはるへは,いはほには,やましたひかり,にしきなす,はなさきををり,さをしかの,つまよぶあきは,あまぎらふ,しぐれをいたみ,さにつらふ,もみちちりつつ,やちとせに,あれつかしつつ,あめのした,しらしめさむと,ももよにも,かはるましじき,おほみやところ
#[左注](右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
#[校異]牡 -> 壮 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:田辺福麻呂歌集,久邇京,新都讃美,京都,地名
#[訓異]
#[大意]我が大君よ。神の命が立派にお治めになる布当の宮はたくさんの木々が茂って山は木々が高く茂っている。流れ落ちて急流となっている川瀨の音も清らかである。鴬がやって来て鳴く春辺は山の岩には山の麓を明るく照らして錦織りのように花が咲きたわみ、雄鹿が妻を呼ぶ秋は天に霧がかかって時雨が多く赤い頬のような黄葉が散り続け、八千年の後までもお生まれになって天の下をお治めになるとして百代にも変わることがないであろう大宮所であるよ。
#{語釈]
百木盛り 盛りは茂る
生れ付かしつつ 生まれつきのものとしてこの世に現れる
        天下を治める御子として生まれる

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1054
#[題詞](讃久邇新京歌二首[并短歌])反歌五首
#[原文]泉<川> 徃瀬乃水之 絶者許曽 大宮地 遷徃目
#[訓読]泉川行く瀬の水の絶えばこそ大宮所移ろひ行かめ
#[仮名],いづみがは,ゆくせのみづの,たえばこそ,おほみやところ,うつろひゆかめ
#[左注](右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 河 -> 川 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:田辺福麻呂歌集,久邇京,新都讃美,京都,地名
#[訓異]
#[大意]泉川の流れ行く早瀬が絶えるならばこそ大宮所は変化して行くであろう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1055
#[題詞]((讃久邇新京歌二首[并短歌])反歌五首)
#[原文]布當山 山並見者 百代尓毛 不可易 大宮處
#[訓読]布当山山なみ見れば百代にも変るましじき大宮所
#[仮名],ふたぎやま,やまなみみれば,ももよにも,かはるましじき,おほみやところ
#[左注](右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:田辺福麻呂歌集,久邇京,新都讃美,京都,地名
#[訓異]
#[大意]布当山の山並みを見ると百代まで後までも変わることはないであろう。大宮所よ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1056
#[題詞]((讃久邇新京歌二首[并短歌])反歌五首)
#[原文]𡢳嬬等之 續麻繁云 鹿脊之山 時之徃<者> 京師跡成宿
#[訓読]娘子らが続麻懸くといふ鹿背の山時しゆければ都となりぬ
#[仮名],をとめらが,うみをかくといふ,かせのやま,ときしゆければ,みやことなりぬ
#[左注](右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
#[校異]去 -> 者 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:田辺福麻呂歌集,久邇京,新都讃美,京都,地名
#[訓異]
#[大意]娘子が紡いだ麻糸を掛けるという?の名前を持つ鹿背の山は、時が行くと都となった。
#{語釈]
が続麻懸くといふ鹿背  紡いだ麻糸を掛ける?(かせ)の名前を持つ鹿背

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1057
#[題詞]((讃久邇新京歌二首[并短歌])反歌五首)
#[原文]鹿脊之山 樹立矣繁三 朝不去 寸鳴響為 鴬之音
#[訓読]鹿背の山木立を茂み朝さらず来鳴き響もす鴬の声
#[仮名],かせのやま,こだちをしげみ,あささらず,きなきとよもす,うぐひすのこゑ
#[左注](右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:田辺福麻呂歌集,久邇京,新都讃美,京都,地名
#[訓異]
#[大意]鹿背の山よ。木立が茂っているので朝が来るこどにやって来て鳴き響かせる鴬の声よ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1058
#[題詞]((讃久邇新京歌二首[并短歌])反歌五首)
#[原文]狛山尓 鳴霍公鳥 泉河 渡乎遠見 此間尓不通 [一云 渡遠哉 不通<有>武]
#[訓読]狛山に鳴く霍公鳥泉川渡りを遠みここに通はず [一云 渡り遠みか通はずあるらむ]
#[仮名],こまやまに,なくほととぎす,いづみがは,わたりをとほみ,ここにかよはず,[わたりとほみか,かよはずあるらむ]
#[左注](右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
#[校異]者 -> 有 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:田辺福麻呂歌集,久邇京,新都讃美,京都,地名
#[訓異]
#[大意]狛山に鳴く時鳥よ。泉川の渡りが遠いのでここに通って来ない。
#{語釈]
狛山 木津川をはさんで鹿背山の対岸にある山
ここ 鹿背山の麓か。

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1059
#[題詞]春日悲傷三香原荒墟作歌一首[并短歌]
#[原文]三香原 久邇乃京師者 山高 河之瀬清 在吉迹 人者雖云 在吉跡 吾者雖念 故去之 里尓四有者 國見跡 人毛不通 里見者 家裳荒有 波之異耶 如此在家留可 三諸著 鹿脊山際尓 開花之 色目列敷 百鳥之 音名束敷 在<杲>石 住吉里乃 荒樂苦惜哭
#[訓読]三香の原 久迩の都は 山高み 川の瀬清み 住みよしと 人は言へども ありよしと 我れは思へど 古りにし 里にしあれば 国見れど 人も通はず 里見れば 家も荒れたり はしけやし かくありけるか みもろつく 鹿背山の際に 咲く花の 色めづらしく 百鳥の 声なつかしく ありが欲し 住みよき里の 荒るらく惜しも
#[仮名],みかのはら,くにのみやこは,やまたかみ,かはのせきよみ,すみよしと,ひとはいへども,ありよしと,われはおもへど,ふりにし,さとにしあれば,くにみれど,ひともかよはず,さとみれば,いへもあれたり,はしけやし,かくありけるか,みもろつく,かせやまのまに,さくはなの,いろめづらしく,ももとりの,こゑなつかしく,ありがほし,すみよきさとの,あるらくをしも
#[左注](右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 在 [類](塙) 住 / 耶 (塙[全釈による]) 耶思 / 果 -> 杲 [細][矢][京]
#[鄣W],雑歌,作者:田辺福麻呂歌集,荒都歌,久邇京,京都,地名
#[訓異]
#[大意]三香の原の久迩の都は山が高いので川の流れが清らかである。住みやすいと人は言うけれども、いるのによいと自分は思うが、古びた里であるので、周りを見ても人も通わない。里を見ると家も荒れてしまっている。何と言うことか。このようにあったのか。神の降りる鹿背山の麓に咲く花の色はすばらしく、多くの鳥の声に心引かれ、あって欲しい住みやすい里が荒れることが惜しいことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1060
#[題詞](春日悲傷三香原荒墟作歌一首[并短歌])反歌二首
#[原文]三香原 久邇乃京者 荒去家里 大宮人乃 遷去礼者
#[訓読]三香の原久迩の都は荒れにけり大宮人のうつろひぬれば
#[仮名],みかのはら,くにのみやこは,あれにけり,おほみやひとの,うつろひぬれば
#[左注](右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:田辺福麻呂歌集,荒都歌,久邇京,京都,地名
#[訓異]
#[大意]三香の原久迩の都は荒れたことである。大宮人がいなくなって行くと
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1061
#[題詞]((春日悲傷三香原荒墟作歌一首[并短歌])反歌二首)
#[原文]咲花乃 色者不易 百石城乃 大宮人叙 立易<奚>流
#[訓読]咲く花の色は変らずももしきの大宮人ぞたち変りける
#[仮名],さくはなの,いろはかはらず,ももしきの,おほみやひとぞ,たちかはりける
#[左注](右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
#[校異]去 -> 奚 [元][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:田辺福麻呂歌集,荒都歌,久邇京,京都,地名
#[訓異]
#[大意]咲く花の色は変化していない。ももしきの大宮人が変わったのだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1062
#[題詞]難波宮作歌一首[并短歌]
#[原文]安見知之 吾大王乃 在通 名庭乃宮者 不知魚取 海片就而 玉拾 濱邊乎近見 朝羽振 浪之聲糝 夕薙丹 櫂合之聲所聆 暁之 寐覺尓聞者 海石之 塩干乃共 <汭>渚尓波 千鳥妻呼 葭部尓波 鶴鳴動 視人乃 語丹為者 聞人之 視巻欲為 御食向 味原宮者 雖見不飽香聞
#[訓読]やすみしし 我が大君の あり通ふ 難波の宮は 鯨魚取り 海片付きて 玉拾ふ 浜辺を清み 朝羽振る 波の音騒き 夕なぎに 楫の音聞こゆ 暁の 寝覚に聞けば 海石の 潮干の共 浦洲には 千鳥妻呼び 葦辺には 鶴が音響む 見る人の 語りにすれば 聞く人の 見まく欲りする 御食向ふ 味経の宮は 見れど飽かぬかも
#[仮名],やすみしし,わがおほきみの,ありがよふ,なにはのみやは,いさなとり,うみかたづきて,たまひりふ,はまへをきよみ,あさはふる,なみのおとさわく,ゆふなぎに,かぢのおときこゆ,あかときの,ねざめにきけば,いくりの,しほひのむた,うらすには,ちどりつまよび,あしへには,たづがねとよむ,みるひとの,かたりにすれば,きくひとの,みまくほりする,みけむかふ,あぢふのみやは,みれどあかぬかも
#[左注](右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(別筆訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短哥 [西(訂正)] 短歌 / 納 -> 汭 [万葉集略解]
#[鄣W],雑歌,作者:田辺福麻呂歌集,難波,大阪,新都讃美,地名
#[訓異]
#[大意]やすみしし我が大君のいつもお通いになっている難波の宮は鯨魚取り海に片方が付いていて玉を拾う浜辺が清らかなので、朝鳥が羽を振るので立つ波の音がざわめき、夕なぎに楫の音が聞こえてくる。暁の寝覚める頃に聞くと岩場の潮が干くとともに浦の州浜には千鳥が妻を呼び交わし、蘆辺には鶴の鳴き声が響いている。見る人の語りぐさすると聞く人が見たいと思う。御食事に供せられる味ではないが、味経の宮は見ても見飽きることがないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1063
#[題詞](難波宮作歌一首[并短歌])反歌二首
#[原文]有通 難波乃宮者 海近見 <漁>童女等之 乗船所見
#[訓読]あり通ふ難波の宮は海近み海人娘子らが乗れる舟見ゆ
#[仮名],ありがよふ,なにはのみやは,うみちかみ,あまをとめらが,のれるふねみゆ
#[左注](右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 漁 [西(右書)] 海 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:田辺福麻呂歌集,難波,大阪,新都讃美,地名
#[訓異]
#[大意]いつもお通いになる難波の宮は海が近いからなのか海人娘が乗る船が見られる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1064
#[題詞]((難波宮作歌一首[并短歌])反歌二首)
#[原文]塩干者 葦邊尓糝 白鶴乃 妻呼音者 宮毛動響二
#[訓読]潮干れば葦辺に騒く白鶴の妻呼ぶ声は宮もとどろに
#[仮名],しほふれば,あしへにさわく,しらたづの,つまよぶこゑは,みやもとどろに
#[左注](右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:田辺福麻呂歌集,難波,大阪,新都讃美,地名
#[訓異]
#[大意]潮が干くと蘆辺に騒ぐ白鶴の妻呼ぶ声は宮も轟くばかりに聞こえてくる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1065
#[題詞]過敏馬浦時作歌一首[并短歌]
#[原文]八千桙之 神乃御世自 百船之 泊停跡 八嶋國 百船純乃 定而師 三犬女乃浦者 朝風尓 浦浪左和寸 夕浪尓 玉藻者来依 白沙 清濱部者 去還 雖見不飽 諾石社 見人毎尓 語嗣 偲家良思吉 百世歴而 所偲将徃 清白濱
#[訓読]八千桙の 神の御代より 百舟の 泊つる泊りと 八島国 百舟人の 定めてし 敏馬の浦は 朝風に 浦波騒き 夕波に 玉藻は来寄る 白真砂 清き浜辺は 行き帰り 見れども飽かず うべしこそ 見る人ごとに 語り継ぎ 偲ひけらしき 百代経て 偲はえゆかむ 清き白浜
#[仮名],やちほこの,かみのみよより,ももふねの,はつるとまりと,やしまくに,ももふなびとの,さだめてし,みぬめのうらは,あさかぜに,うらなみさわき,ゆふなみに,たまもはきよる,しらまなご,きよきはまへは,ゆきかへり,みれどもあかず,うべしこそ,みるひとごとに,かたりつぎ,しのひけらしき,ももよへて,しのはえゆかむ,きよきしらはま
#[左注](右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短哥 [西(訂正)] 短歌
#[鄣W],雑歌,作者:田辺福麻呂歌集,羈旅,土地讃美,兵庫,地名
#[訓異]
#[大意]八千矛の神の御代から多くの船が泊まる港として全国の多くの船人が定めた敏馬の浦は朝風に浦波がさざめき、夕波に玉藻は打ち寄せられる。白真砂の清らかな浜辺は生き帰りに見ても見飽きることはない。なるほど見る人ごとに語り継ぎ思い出すのももっともらしい百代の後を経て誉め称えて行こう。清らかな白浜よ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]06/1066
#[題詞](過敏馬浦時作歌一首[并短歌])反歌二首
#[原文]真十鏡 見宿女乃浦者 百船 過而可徃 濱有<七>國
#[訓読]まそ鏡敏馬の浦は百舟の過ぎて行くべき浜ならなくに
#[仮名],まそかがみ,みぬめのうらは,ももふねの,すぎてゆくべき,はまならなくに
#[左注](右廿一首田邊福麻呂之歌集中出也)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 七 [西(上書訂正)][元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:田辺福麻呂歌集,羈旅,土地讃美,兵庫,地名
#[訓異]
#[大意]まそ鏡敏馬の浦はは多くの船が通り過ぎて行くような浜ではないのに(必ず立ち寄って行きたい美しい浜なのだ)
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]