万葉集 巻第6
#[番号]06/0908
#[番号]06/0909
#[番号]06/0910
#[番号]06/0911
#[番号]06/0912
#[番号]06/0913
#[番号]06/0914
#[番号]06/0915
#[番号]06/0916
#[番号]06/0917
#[番号]06/0918
#[番号]06/0919
#[番号]06/0920
#[番号]06/0921
#[番号]06/0922
#[番号]06/0923
#[番号]06/0924
#[番号]06/0925
#[番号]06/0926
#[番号]06/0927
#[番号]06/0928
#[番号]06/0929
#[番号]06/0930
#[番号]06/0931
#[番号]06/0932
#[番号]06/0933
#[番号]06/0934
#[番号]06/0935
#[番号]06/0936
#[番号]06/0937
#[番号]06/0938
#[番号]06/0907
#[題詞]雜歌 / 養老七年癸亥夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌]
#[原文]瀧上之 御舟乃山尓 水枝指 四時尓<生>有 刀我乃樹能 弥継嗣尓 萬代 如是二<二>知三 三芳野之 蜻蛉乃宮者 神柄香 貴将有 國柄鹿 見欲将有 山川乎 清々 諾之神代従 定家良思母
#[訓読]瀧の上の 三船の山に 瑞枝さし 繁に生ひたる 栂の木の いや継ぎ継ぎに 万代に かくし知らさむ み吉野の 秋津の宮は 神からか 貴くあるらむ 国からか 見が欲しからむ 山川を 清みさやけみ うべし神代ゆ 定めけらしも
#[仮名],たきのうへの,みふねのやまに,みづえさし,しじにおひたる,とがのきの,いやつぎつぎに,よろづよに,かくししらさむ,みよしのの,あきづのみやは,かむからか,たふとくあるらむ,くにからか,みがほしくあらむ,やまかはを,きよみさやけみ,うべしかむよゆ,さだめけらしも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 作歌 [西] 作謌 [西(訂正)] 作歌 / 主 -> 生 [元][類][紀] / 三 -> 二 [元][類][古]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,吉野,地名,行幸,従駕,宮廷讃美,離宮,養老7年5月,年紀,植物,枕詞
#[訓異]
#[大意]急流のほとりの三船の山にみずみずしい枝を刺して多く生えている栂の木ではないがますます継いで継いで永久にこのようにお治めになるみ吉野の秋津の宮は、神格があるからなのか貴くあるだろう。国の性格からなのか見たいと思うだろう。山川が清らかでさやかであるので、確かに神代からここだとお定めになったことである
#{語釈]
養老七年 続紀 元正天皇 5月9日行幸、13日帰京
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](雑歌 / 養老七年癸亥夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首
#[原文]毎年 如是裳見<壮>鹿 三吉野乃 清河内之 多藝津白浪
#[訓読]年のはにかくも見てしかみ吉野の清き河内のたぎつ白波
#[仮名],としのはに,かくもみてしか,みよしのの,きよきかふちの,たぎつしらなみ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 牡 -> 壮 [元][金][類]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,吉野,行幸,従駕,宮廷讃美,離宮,養老7年5月,年紀,地名
#[訓異]
#[大意]毎年毎年このように見たいものだ。み吉野の清らかな川の中の瀧り流れる白波よ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]((雑歌 / 養老七年癸亥夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首)
#[原文]山高三 白木綿花 落多藝追 瀧之河内者 雖見不飽香聞
#[訓読]山高み白木綿花におちたぎつ瀧の河内は見れど飽かぬかも
#[仮名],やまたかみ,しらゆふばなに,おちたぎつ,たきのかふちは,みれどあかぬかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,吉野,行幸,従駕,宮廷讃美,離宮,養老7年5月,年紀
#[訓異]
#[大意]山が高いので白木綿の花のように落ちるように流れる瀧の川内は見ても見飽きることはない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](雑歌 / 養老七年癸亥夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])或本反<歌>曰
#[原文]神柄加 見欲賀藍 三吉野乃 瀧<乃>河内者 雖見不飽鴨
#[訓読]神からか見が欲しからむみ吉野の滝の河内は見れど飽かぬかも
#[仮名],かむからか,みがほしからむ,みよしのの,たきのかふちは,みれどあかぬかも
#[左注]
#[校異]謌歌 -> 歌 [西(訂正)] / <> -> 乃 [元][金][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,吉野,行幸,従駕,宮廷讃美,離宮,養老7年5月,年紀,或本歌,異伝,地名
#[訓異]
#[大意]神格のせいからなのだろうか。見たいのだろ。み吉野の瀧の川内は見ても見飽きることはない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]((雑歌 / 養老七年癸亥夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])或本反<歌>曰)
#[原文]三芳野之 秋津乃川之 万世尓 断事無 又還将見
#[訓読]み吉野の秋津の川の万代に絶ゆることなくまたかへり見む
#[仮名],みよしのの,あきづのかはの,よろづよに,たゆることなく,またかへりみむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,吉野,行幸,従駕,宮廷讃美,離宮,養老7年5月,年紀,或本歌,異伝,地名
#[訓異]
#[大意]み吉野の秋津の川のようにいつまでも途絶えることなくまた還り見よう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]((雑歌 / 養老七年癸亥夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])或本反<歌>曰)
#[原文]泊瀬女 造木綿花 三吉野 瀧乃水沫 開来受屋
#[訓読]泊瀬女の造る木綿花み吉野の滝の水沫に咲きにけらずや
#[仮名],はつせめの,つくるゆふばな,みよしのの,たきのみなわに,さきにけらずや
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,吉野,行幸,従駕,宮廷讃美,離宮,養老7年5月,年紀,或本歌,異伝,地名
#[訓異]
#[大意]初瀨女の作る木綿花は、み吉野の瀧のあぶくに咲いてはいないであろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]車持朝臣千年作歌一首[并短歌]
#[原文]味凍 綾丹乏敷 鳴神乃 音耳聞師 三芳野之 真木立山湯 見降者 川之瀬毎 開来者 朝霧立 夕去者 川津鳴奈<拝> 紐不解 客尓之有者 吾耳為而 清川原乎 見良久之惜蒙
#[訓読]味凝り あやにともしく 鳴る神の 音のみ聞きし み吉野の 真木立つ山ゆ 見下ろせば 川の瀬ごとに 明け来れば 朝霧立ち 夕されば かはづ鳴くなへ 紐解かぬ 旅にしあれば 我のみして 清き川原を 見らくし惜しも
#[仮名],うまこり,あやにともしく,なるかみの,おとのみききし,みよしのの,まきたつやまゆ,みおろせば,かはのせごとに,あけくれば,あさぎりたち,ゆふされば,かはづなくなへ,ひもとかぬ,たびにしあれば,わのみして,きよきかはらを,みらくしをしも
#[左注](右年月不審 但以歌類載於此次焉 / 或本云 養老七年五月幸于芳野離宮之時作)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 辨詳 -> 拝 [元][類][紀] [古](楓) 利
#[鄣W],雑歌,作者:車持千年,吉野,行幸,従駕,宮廷讃美,羈旅,養老7年5月,年紀,動物,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]味が凝っているものではないが、妙に心引かれ、雷のようにうわさにばかり聞いていたみ吉野の立派な木が立つ山を通って見下ろすと川の早瀬ごとに夜が明けてくれば朝霧が立ち、夕方になると川津が鳴くごとに衣服の紐を解かない度であるので、自分だけで清ららかな川原を見るのは惜しいことだ
#{語釈]
味凝り 02/0162 あやにの枕詞と見られるが、係り方未詳。
おいしさが甚だしくて、妙だという係り方か。
おいしい煮こごりに心引かれる意か
#[説明] 望郷と土地讃美の両方が出ている
#[関連論文]
#[題詞](車持朝臣千年作歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]瀧上乃 三船之山者 雖<畏> 思忘 時毛日毛無
#[訓読]滝の上の三船の山は畏けど思ひ忘るる時も日もなし
#[仮名],たきのうへの,みふねのやまは,かしこけど,おもひわするる,ときもひもなし
#[左注](右年月不審 但以歌類載於此次焉 / 或本云 養老七年五月幸于芳野離宮之時作)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 畏 [西(右書)][元][金][類]
#[鄣W],雑歌,作者:車持千年,吉野,行幸,従駕,宮廷讃美,羈旅,養老7年5月,年紀,地名
#[訓異]
#[大意]急流のほとりの三船の山は神々しいが、思い忘れる時も日もない
#{語釈]
#[説明]
忘るる 故郷が対象か 望郷
昔の聖帝の時代 神武、雄略、天武、持統
#[関連論文]
#[題詞](車持朝臣千年作歌一首[并短歌])或本反歌曰
#[原文]千鳥鳴 三吉野川之 <川音> 止時梨二 所思<公>
#[訓読]千鳥泣くみ吉野川の川音のやむ時なしに思ほゆる君
#[仮名],ちどりなく,みよしのかはの,かはおとの,やむときなしに,おもほゆるきみ
#[左注](右年月不審 但以歌類載於此次焉 / 或本云 養老七年五月幸于芳野離宮之時作)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 音成 -> 川音 [金][紀] / 君 -> 公 [元][金][類]
#[鄣W],雑歌,作者:車持千年,吉野,行幸,従駕,宮廷讃美,羈旅,養老7年5月,年紀,或本歌,異伝,枕詞,動物,序詞
#[訓異]
#[大意]千鳥が鳴くみ吉野川の川音のやむ時がないように、しきりに思えてならない君であることだ
#{語釈]
#[説明]
君 昔の聖帝を慕う気持ちで讃美している
単なる望郷で、女の立場として夫を恋い思う様子
#[関連論文]
#[題詞]((車持朝臣千年作歌一首[并短歌])或本反歌曰)
#[原文]茜刺 日不並二 吾戀 吉野之河乃 霧丹立乍
#[訓読]あかねさす日並べなくに我が恋は吉野の川の霧に立ちつつ
#[仮名],あかねさす,ひならべなくに,あがこひは,よしののかはの,きりにたちつつ
#[左注]右年月不審 但以歌類載於此次焉 / 或本云 養老七年五月幸于芳野離宮之時作
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 五 [元][金][紀] 正
#[鄣W],雑歌,作者:車持千年,吉野,行幸,従駕,讃美,羈旅,養老7年5月,年紀,或本歌,異伝,枕詞,恋情,地名
#[訓異]
#[大意]茜指す日がそれほど経っていないので、我が恋は吉野の川の霧が立つようにしきりに心に立っている
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]神龜元年甲子冬十月五日幸于紀伊國時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌]
#[原文]安見知之 和期大王之 常宮等 仕奉流 左日鹿野由 背<匕>尓所見 奥嶋 清波瀲尓 風吹者 白浪左和伎 潮干者 玉藻苅管 神代従 然曽尊吉 玉津嶋夜麻
#[訓読]やすみしし 我ご大君の 常宮と 仕へ奉れる 雑賀野ゆ そがひに見ゆる 沖つ島 清き渚に 風吹けば 白波騒き 潮干れば 玉藻刈りつつ 神代より しかぞ貴き 玉津島山
#[仮名],やすみしし,わごおほきみの,とこみやと,つかへまつれる,さひかのゆ,そがひにみゆる,おきつしま,きよきなぎさに,かぜふけば,しらなみさわき,しほふれば,たまもかりつつ,かむよより,しかぞたふとき,たまつしまやま
#[左注](右年月不記 但称従駕玉津嶋也 因今檢注行幸年月以載之焉)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 上 -> 匕 [西(右貼紙)][元][金]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,紀州,和歌山,行幸,神亀1年10月5日,年紀,土地讃美,羈旅,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]やすみしし我が大君の永遠の宮としてお仕え申し上げる雑賀野を通って背後に見える沖の島の清らかな渚に風が吹くと白波が騒ぎ、潮が干くと玉藻を苅りながら神代よりこのように貴い玉津島山よ
#{語釈]
神龜元年 聖武天皇紀州行幸
続紀 神亀元年10月5日平城京を出発
8日 玉津島頓宮に到着
21日帰京
八十島祭的な行事とされている。
雑賀野 和歌山県和歌山市和歌浦町雑賀崎
玉津島山 和歌山県和歌浦玉津島
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](神龜元年甲子冬十月五日幸于紀伊國時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌二首
#[原文]奥嶋 荒礒之玉藻 潮干満 伊隠去者 所念武香聞
#[訓読]沖つ島荒礒の玉藻潮干満ちい隠りゆかば思ほえむかも
#[仮名],おきつしま,ありそのたまも,しほひみち,いかくりゆかば,おもほえむかも
#[左注](右年月不記 但称従駕玉津嶋也 因今檢注行幸年月以載之焉)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,紀州,和歌山,行幸,神亀1年10月5日,年紀,土地讃美,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]沖の島の荒磯の玉藻の潮が干いている所に満ちてきて隠れて行くと玉藻のことが思われてならないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]((神龜元年甲子冬十月五日幸于紀伊國時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌二首)
#[原文]若浦尓 塩満来者 滷乎無美 葦邊乎指天 多頭鳴渡
#[訓読]若の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る
#[仮名],わかのうらに,しほみちくれば,かたをなみ,あしへをさして,たづなきわたる
#[左注]右年月不記 但称従駕玉津嶋也 因今檢注行幸年月以載之焉
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,紀州,和歌山,行幸,土地讃美,羈旅,地名,動物,神亀1年10月5日,年紀
#[訓異]
#[大意]和歌浦に潮が満ちてくると干潟がないので芦辺を指して鶴が鳴き渡っている
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]神龜二年乙丑夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌]
#[原文]足引之 御山毛清 落多藝都 芳野<河>之 河瀬乃 浄乎見者 上邊者 千鳥數鳴 下邊者 河津都麻喚 百礒城乃 大宮人毛 越乞尓 思自仁思有者 毎見 文丹乏 玉葛 絶事無 萬代尓 如是霜願跡 天地之 神乎曽祷 恐有等毛
#[訓読]あしひきの み山もさやに 落ちたぎつ 吉野の川の 川の瀬の 清きを見れば 上辺には 千鳥しば鳴く 下辺には かはづ妻呼ぶ ももしきの 大宮人も をちこちに 繁にしあれば 見るごとに あやに乏しみ 玉葛 絶ゆることなく 万代に かくしもがもと 天地の 神をぞ祈る 畏くあれども
#[仮名],あしひきの,みやまもさやに,おちたぎつ,よしののかはの,かはのせの,きよきをみれば,かみへには,ちどりしばなく,しもべには,かはづつまよぶ,ももしきの,おほみやひとも,をちこちに,しじにしあれば,みるごとに,あやにともしみ,たまかづら,たゆることなく,よろづよに,かくしもがもと,あめつちの,かみをぞいのる,かしこくあれども
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 川 -> 河 [金][元][類]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,吉野,行幸,宮廷讃美,神亀2年5月,年紀,枕詞,動物,地名
#[訓異]
#[大意]あしひきのみ山も清かに落ち滾っている吉野の川の川の瀬の清らかなのを見ると上流には千鳥がさかんに鳴いている。下流では蛙が妻を呼んでいる。ももしきの大宮人もあちらこちらに大勢いるので、見る度に不思議にすばらしく思われて、玉鬘ではないが絶えることなく永遠にこのようにあって欲しいと天地の神を祈る。恐れ多いことではあるが
#{語釈]
神龜二年 行幸記事はなし 元年 聖武天皇吉野行幸
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](神龜二年乙丑夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首
#[原文]萬代 見友将飽八 三芳野乃 多藝都河内乃 大宮所
#[訓読]万代に見とも飽かめやみ吉野のたぎつ河内の大宮所
#[仮名],よろづよに,みともあかめや,みよしのの,たぎつかふちの,おほみやところ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,吉野,行幸,宮廷讃美,神亀2年5月,年紀,地名
#[訓異]
#[大意]永遠に見ても見飽きることがあろうか。み吉野の急流の川内の大宮所よ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]((神龜二年乙丑夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首)
#[原文]人皆乃 壽毛吾母 三<吉>野乃 多吉能床磐乃 常有沼鴨
#[訓読]皆人の命も我れもみ吉野の滝の常磐の常ならぬかも
#[仮名],みなひとの,いのちもわれも,みよしのの,たきのときはの,つねならぬかも
#[左注]
#[校異]人皆 [元][類] 皆人 / 芳 -> 吉 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,吉野,行幸,宮廷讃美,神亀2年5月,年紀,地名,序詞
#[訓異]
#[大意]みんなの人の命も自分もみ吉野の瀧が永遠なように永遠であってくれないものだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]山部宿祢赤人作歌二首[并短歌]
#[原文]八隅知之 和期大王乃 高知為 芳野宮者 立名附 青垣隠 河次乃 清河内曽 春部者 花咲乎遠里 秋去者 霧立渡 其山之 弥益々尓 此河之 絶事無 百石木能 大宮人者 常将通
#[訓読]やすみしし 我ご大君の 高知らす 吉野の宮は たたなづく 青垣隠り 川なみの 清き河内ぞ 春へは 花咲きををり 秋されば 霧立ちわたる その山の いやしくしくに この川の 絶ゆることなく ももしきの 大宮人は 常に通はむ
#[仮名],やすみしし,わごおほきみの,たかしらす,よしののみやは,たたなづく,あをかきごもり,かはなみの,きよきかふちぞ,はるへは,はなさきををり,あきされば,きりたちわたる,そのやまの,いやしくしくに,このかはの,たゆることなく,ももしきの,おほみやひとは,つねにかよはむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 去 [元][細] 部
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,吉野,行幸,宮廷讃美,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]やすみしし我が大君の立派にご統治される吉野の宮は、幾重にも重なり合う青垣のような山に隠っていて、川の風景の清らかな川内は、春は花が咲きたわみ、秋になると霧が立ちこめる。その山のようにますます重ね重ね、この川のように絶えることなくもおしきの大宮人はいつまでも通おう
#{語釈]
たたなづく 幾重にも重なり合う
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](山部宿祢赤人作歌二首[并短歌])反歌二首
#[原文]三吉野乃 象山際乃 木末尓波 幾許毛散和口 鳥之聲可聞
#[訓読]み吉野の象山の際の木末にはここだも騒く鳥の声かも
#[仮名],みよしのの,きさやまのまの,こぬれには,ここだもさわく,とりのこゑかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,吉野,行幸,宮廷讃美,地名
#[訓異]
#[大意]み吉野の象山の山際の梢にはひどく鳴き騒ぐ鳥の声である
#{語釈]
#[説明]
宮廷の躍動を述べることによって宮廷を讃美
#[関連論文]
#[題詞]((山部宿祢赤人作歌二首[并短歌])反歌二首)
#[原文]烏玉之 夜之深去者 久木生留 清河原尓 知鳥數鳴
#[訓読]ぬばたまの夜の更けゆけば久木生ふる清き川原に千鳥しば鳴く
#[仮名],ぬばたまの,よのふけゆけば,ひさぎおふる,きよきかはらに,ちどりしばなく
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,吉野,行幸,宮廷讃美,地名,植物,動物,叙景
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜が更けていくと久木が生える清らかな河原に千鳥がさかんに鳴いている
#{語釈]
久木 未詳 赤目柏か、きささげ
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](山部宿祢赤人作歌二首[并短歌])
#[原文]安見知之 和期大王波 見吉野乃 飽津之小野笶 野上者 跡見居置而 御山者 射目立渡 朝猟尓 十六履起之 夕狩尓 十里蹋立 馬並而 御<猟>曽立為 春之茂野尓
#[訓読]やすみしし 我ご大君は み吉野の 秋津の小野の 野の上には 跡見据ゑ置きて み山には 射目立て渡し 朝狩に 獣踏み起し 夕狩に 鳥踏み立て 馬並めて 御狩ぞ立たす 春の茂野に
#[仮名],やすみしし,わごおほきみは,みよしのの,あきづのをのの,ののへには,とみすゑおきて,みやまには,いめたてわたし,あさがりに,ししふみおこし,ゆふがりに,とりふみたて,うまなめて,みかりぞたたす,はるのしげのに
#[左注](右不審先後 但以便故載於此<次>)
#[校異]狩 -> 猟 [元][紀][細]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,吉野,行幸,宮廷讃美,地名,枕詞,動物
#[訓異]
#[大意]やすみしし我が大君は、み吉野の秋津の小野の野のほとりには足跡の監視係を置いて、み山には弓を射る場所を設けて、朝猟に動物を踏み起こし、夕方の猟に鳥を踏み立てて、御狩りをお立てになる。春の茂った野に
#{語釈]
跡見 動物の足跡を見つける役
射目 鳥獣を射るために隠れる場所
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](山部宿祢赤人作歌二首[并短歌])反歌一首
#[原文]足引之 山毛野毛 御<猟>人 得物矢手<挟> 散動而有所見
#[訓読]あしひきの山にも野にも御狩人さつ矢手挾み騒きてあり見ゆ
#[仮名],あしひきの,やまにものにも,みかりひと,さつやたばさみ,さわきてありみゆ
#[左注]右不審先後 但以便故載於此<次>
#[校異]狩 -> 猟 [元][類][細] / 狭 -> 挟 [元][古][紀] / 歟 -> 次 [西(右書訂正)][元][古][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,吉野,行幸,宮廷讃美,狩猟,地名
#[訓異]
#[大意]あしひきの山にも野にも御狩りをする人が狩りの矢を手挟んで騒いでいるのが見える
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]冬十月幸于難波宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌]
#[原文]忍照 難波乃國者 葦垣乃 古郷跡 人皆之 念息而 都礼母無 有之間尓 續麻成 長柄之宮尓 真木柱 太高敷而 食國乎 治賜者 奥鳥 味經乃原尓 物部乃 八十伴雄者 廬為而 都成有 旅者安礼十方
#[訓読]おしてる 難波の国は 葦垣の 古りにし里と 人皆の 思ひやすみて つれもなく ありし間に 続麻なす 長柄の宮に 真木柱 太高敷きて 食す国を 治めたまへば 沖つ鳥 味経の原に もののふの 八十伴の男は 廬りして 都成したり 旅にはあれども
#[仮名],おしてる,なにはのくには,あしかきの,ふりにしさとと,ひとみなの,おもひやすみて,つれもなく,ありしあひだに,うみをなす,ながらのみやに,まきはしら,ふとたかしきて,をすくにを,をさめたまへば,おきつとり,あぢふのはらに,もののふの,やそとものをは,いほりして,みやこなしたり,たびにはあれども
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,難波,大阪,離宮,宮廷讃美,羈旅,枕詞,地名,神亀2年10月,年紀
#[訓異]
#[大意]おしてる難波の国は葦の垣根が古ぼけた里だと人はみんなこの宮のことを思うことをやめて、縁遠くなっていた間に、紡いだ麻糸ではないが長柄の宮に立派な柱を高く立てて造営された国をお治めになるので、沖の鳥の味鴨ではないが、味経の原にもののふの大勢の伴人は仮小屋を建てて都のようにしている。旅ではないけれども
#{語釈]
冬十月 神亀2年10月10日難波行幸 11月10日難波で冬至の賀。11月中旬に還幸か。
縁もなく 養老元年2月11日、元正天皇の難波行幸以来8年半ぶり
続麻なす 紡いだ麻糸が長い意
長柄の宮 孝徳天皇 大化元年 難波長柄豊碕宮
沖つ鳥 味鴨のこと
味経の原 難波宮の南に広がる平野 大阪市法円坂あたり
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](冬十月幸于難波宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首
#[原文]荒野等丹 里者雖有 大王之 敷座時者 京師跡成宿
#[訓読]荒野らに里はあれども大君の敷きます時は都となりぬ
#[仮名],あらのらに,さとはあれども,おほきみの,しきますときは,みやことなりぬ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,難波,大阪,離宮,宮廷讃美,羈旅,地名,神亀2年10月,年紀
#[訓異]
#[大意]荒野には人家はあるが、大君がお治めになる時は都となった
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]((冬十月幸于難波宮時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首)
#[原文]海末通女 棚無小舟 榜出良之 客乃屋取尓 梶音所聞
#[訓読]海人娘女棚なし小舟漕ぎ出らし旅の宿りに楫の音聞こゆ
#[仮名],あまをとめ,たななしをぶね,こぎづらし,たびのやどりに,かぢのおときこゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,難波,大阪,離宮,宮廷讃美,羈旅,地名,神亀2年10月,年紀
#[訓異]
#[大意]海女の娘子が船棚もない小さな船でこぎ出したらしい。旅の仮宿に楫の音が聞こえる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]車持朝臣千年作歌一首[并短歌]
#[原文]鯨魚取 濱邊乎清三 打靡 生玉藻尓 朝名寸二 千重浪縁 夕菜寸二 五百重<波>因 邊津浪之 益敷布尓 月二異二 日日雖見 今耳二 秋足目八方 四良名美乃 五十開廻有 住吉能濱
#[訓読]鯨魚取り 浜辺を清み うち靡き 生ふる玉藻に 朝なぎに 千重波寄せ 夕なぎに 五百重波寄す 辺つ波の いやしくしくに 月に異に 日に日に見とも 今のみに 飽き足らめやも 白波の い咲き廻れる 住吉の浜
#[仮名],いさなとり,はまへをきよみ,うちなびき,おふるたまもに,あさなぎに,ちへなみよせ,ゆふなぎに,いほへなみよす,へつなみの,いやしくしくに,つきにけに,ひにひにみとも,いまのみに,あきだらめやも,しらなみの,いさきめぐれる,すみのえのはま
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 浪 -> 波 [元][紀][細] / 日 [元][温][矢] 々
#[鄣W],雑歌,作者:車持千年,難波,大阪,住吉,離宮,宮廷讃美,羈旅,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]鯨を捕る浜辺が清らかなので、靡いて生えている玉藻に朝なぎに幾重もの重なった波が寄せて来て、夕なぎに幾重もの波が寄せてくる。その岸辺の波のようにますます重なって、毎月ごとに一日ごとに見たとしても今だけで満足出来ようか。白波が咲いて廻っている住吉の浜を
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](車持朝臣千年作歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]白浪之 千重来縁流 住吉能 岸乃黄土粉 二寶比天由香名
#[訓読]白波の千重に来寄する住吉の岸の埴生ににほひて行かな
#[仮名],しらなみの,ちへにきよする,すみのえの,きしのはにふに,にほひてゆかな
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:車持千年,難波,大阪,住吉,離宮,宮廷讃美,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]白波の幾重にも来て寄せる住吉の崖の土に色づいて行こうよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]山部宿祢赤人作歌一首[并短歌]
#[原文]天地之 遠我如 日月之 長我如 臨照 難波乃宮尓 和期大王 國所知良之 御食都國 日之御調等 淡路乃 野嶋之海子乃 海底 奥津伊久利二 鰒珠 左盤尓潜出 船並而 仕奉之 貴見礼者
#[訓読]天地の 遠きがごとく 日月の 長きがごとく おしてる 難波の宮に 我ご大君 国知らすらし 御食つ国 日の御調と 淡路の 野島の海人の 海の底 沖つ海石に 鰒玉 さはに潜き出 舟並めて 仕へ奉るし 貴し見れば
#[仮名],あめつちの,とほきがごとく,ひつきの,ながきがごとく,おしてる,なにはのみやに,わごおほきみ,くにしらすらし,みけつくに,ひのみつきと,あはぢの,のしまのあまの,わたのそこ,おきついくりに,あはびたま,さはにかづきで,ふねなめて,つかへまつるし,たふとしみれば
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,難波,大阪,離宮,宮廷讃美,羈旅,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]天地が遠く隔たっているように、日月が永遠であるようにおしてる難波の宮に我ご大君は国をお治めになるらしい。御食事を奉じる国であり天皇への貢ぎ物として淡路の能島の海人が海の底の沖の岩礁にある鮑玉をたくさん潜って取って船を並べて仕え申し上げるのは貴いのを見ると
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]朝名寸二 梶音所聞 三食津國 野嶋乃海子乃 船二四有良信
#[訓読]朝なぎに楫の音聞こゆ御食つ国野島の海人の舟にしあるらし
#[仮名],あさなぎに,かぢのおときこゆ,みけつくに,のしまのあまの,ふねにしあるらし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,難波,大阪,離宮,宮廷讃美,羈旅,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]朝ごとに楫の音が聞こえる。御食事を奉る国である能島の海人の船であるらしい
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]三年丙寅秋九月十五日幸於播磨國印南野時笠朝臣金村作歌一首[并短歌]
#[原文]名寸隅乃 船瀬従所見 淡路嶋 松<帆>乃浦尓 朝名藝尓 玉藻苅管 暮菜寸二 藻塩焼乍 海末通女 有跡者雖聞 見尓将去 餘四能無者 大夫之 情者梨荷 手弱女乃 念多和美手 俳徊 吾者衣戀流 船梶雄名三
#[訓読]名寸隅の 舟瀬ゆ見ゆる 淡路島 松帆の浦に 朝なぎに 玉藻刈りつつ 夕なぎに 藻塩焼きつつ 海人娘女 ありとは聞けど 見に行かむ よしのなければ ますらをの 心はなしに 手弱女の 思ひたわみて たもとほり 我れはぞ恋ふる 舟楫をなみ
#[仮名],なきすみの,ふなせゆみゆる,あはぢしま,まつほのうらに,あさなぎに,たまもかりつつ,ゆふなぎに,もしほやきつつ,あまをとめ,ありとはきけど,みにゆかむ,よしのなければ,ますらをの,こころはなしに,たわやめの,おもひたわみて,たもとほり,あれはぞこふる,ふなかぢをなみ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 机 -> 帆 [元][細][京]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,播磨,兵庫,羈旅,恋情,神亀3年9月15日,年紀,地名,枕詞,植物
#[訓異]
#[大意]名寸隅の船瀬から見える淡路島の松帆の浦に朝なぎに玉藻を刈っては夕なぎに藻塩を焼いては海人娘がいるとは聞くけれども、見に行く手立てもないので大夫の心はなくて手弱女のように思いしおれてうろついて自分は恋い思う。舟も楫もなくて。
#{語釈]
三年丙寅秋九月十五 続日本紀 神亀三年十月七日出発。十日印南野邑美の行宮到着。十九日難波宮還幸。二十九日帰京。
九月というのは行幸の詔が降りた日か
名寸隅 明石市西端魚住町付近か
舟瀬 舟が風波を避けて停泊する所。類聚三代格 魚住(なすみ)の舟瀬
松帆の浦 淡路島北端
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](三年丙寅秋九月十五日幸於播磨國印南野時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首
#[原文]玉藻苅 海未通女等 見尓将去 船梶毛欲得 浪高友
#[訓読]玉藻刈る海人娘子ども見に行かむ舟楫もがも波高くとも
#[仮名],たまもかる,あまをとめども,みにゆかむ,ふなかぢもがも,なみたかくとも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,播磨,兵庫,羈旅,恋情,神亀3年9月15日,年紀,植物,地名
#[訓異]
#[大意]玉藻カル海人娘子たちを見に行く舟や楫が欲しい。たとえ波が高くとも
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]((三年丙寅秋九月十五日幸於播磨國印南野時笠朝臣金村作歌一首[并短歌])反歌二首)
#[原文]徃廻 雖見将飽八 名寸隅乃 船瀬之濱尓 四寸流思良名美
#[訓読]行き廻り見とも飽かめや名寸隅の舟瀬の浜にしきる白波
#[仮名],ゆきめぐり,みともあかめや,なきすみの,ふなせのはまに,しきるしらなみ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村,播磨,兵庫,羈旅,恋情,神亀3年9月15日,地名
#[訓異]
#[大意]行き廻って見るとしても見飽きることがあろうか。名寸隅の舟瀬の浜に重なって寄せる白波よ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]山部宿祢赤人作歌一首[并短歌]
#[原文]八隅知之 吾大王乃 神随 高所知流 稲見野能 大海乃原笶 荒妙 藤井乃浦尓 鮪釣等 海人船散動 塩焼等 人曽左波尓有 浦乎吉美 宇倍毛釣者為 濱乎吉美 諾毛塩焼 蟻徃来 御覧母知師 清白濱
#[訓読]やすみしし 我が大君の 神ながら 高知らせる 印南野の 大海の原の 荒栲の 藤井の浦に 鮪釣ると 海人舟騒き 塩焼くと 人ぞさはにある 浦をよみ うべも釣りはす 浜をよみ うべも塩焼く あり通ひ 見さくもしるし 清き白浜
#[仮名],やすみしし,わがおほきみの,かむながら,たかしらせる,いなみのの,おふみのはらの,あらたへの,ふぢゐのうらに,しびつると,あまぶねさわき,しほやくと,ひとぞさはにある,うらをよみ,うべもつりはす,はまをよみ,うべもしほやく,ありがよひ,みさくもしるし,きよきしらはま
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 流 [元][紀] 須
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,播磨,兵庫,羈旅,土地讃美,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]やすみしし我が大君の神さながらに立派にお治めになる印南野の大海の原の荒栲の藤井の浦に鮪を釣るとして漁師の舟が入り乱れ、塩を焼くとして人が大勢いる。その浦がよいのでなるほど釣りはしている。浜がよいのでなるほど塩を焼く。いつも通ってご覧になるのも当然のことだ。清らかな白浜は。
#{語釈]
大海の原 明石市西北部 大久保町周辺 行宮があった
藤井の浦 明石市藤江付近
鮪 まぐろの類
見さくも 見るの敬語「見(め)す」のク語法
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0939
#[題詞](山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌三首
#[原文]奥浪 邊波安美 射去為登 藤江乃浦尓 船曽動流
#[訓読]沖つ波辺波静けみ漁りすと藤江の浦に舟ぞ騒ける
#[仮名],おきつなみ,へなみしづけみ,いざりすと,ふぢえのうらに,ふねぞさわける
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,播磨,兵庫,羈旅,土地讃美,地名
#[訓異]
#[大意]沖の波も岸辺の波も静かなので漁をするとして藤江の浦に船が入り乱れている
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0940
#[題詞]((山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌三首)
#[原文]不欲見野乃 淺茅押靡 左宿夜之 氣長<在>者 家之小篠生
#[訓読]印南野の浅茅押しなべさ寝る夜の日長くしあれば家し偲はゆ
#[仮名],いなみのの,あさぢおしなべ,さぬるよの,けながくしあれば,いへししのはゆ
#[左注]
#[校異]有 -> 在 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,播磨,兵庫,羈旅,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]印南野の低い茅萱を押し靡かせて寝る夜が日数長くなったので自分は家郷のことが思われる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0941
#[題詞]((山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌三首)
#[原文]明方 潮干乃道乎 従明日者 下咲異六 家近附者
#[訓読]明石潟潮干の道を明日よりは下笑ましけむ家近づけば
#[仮名],あかしがた,しほひのみちを,あすよりは,したゑましけむ,いへちかづけば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,播磨,兵庫,羈旅,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]明石潟よ。潮が干いた道を明日よりは心密かにうれしいことだ。家が近づくので
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0942
#[題詞]過辛荷嶋時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌]
#[原文]味澤相 妹目不數見而 敷細乃 枕毛不巻 櫻皮纒 作流舟二 真梶貫 吾榜来者 淡路乃 野嶋毛過 伊奈美嬬 辛荷乃嶋之 嶋際従 吾宅乎見者 青山乃 曽許十方不見 白雲毛 千重尓成来沼 許伎多武流 浦乃盡 徃隠 嶋乃埼々 隈毛不置 憶曽吾来 客乃氣長弥
#[訓読]あぢさはふ 妹が目離れて 敷栲の 枕もまかず 桜皮巻き 作れる船に 真楫貫き 我が漕ぎ来れば 淡路の 野島も過ぎ 印南嬬 辛荷の島の 島の際ゆ 我家を見れば 青山の そことも見えず 白雲も 千重になり来ぬ 漕ぎ廻むる 浦のことごと 行き隠る 島の崎々 隈も置かず 思ひぞ我が来る 旅の日長み
#[仮名],あぢさはふ,いもがめかれて,しきたへの,まくらもまかず,かにはまき,つくれるふねに,まかぢぬき,わがこぎくれば,あはぢの,のしまもすぎ,いなみつま,からにのしまの,しまのまゆ,わぎへをみれば,あをやまの,そこともみえず,しらくもも,ちへになりきぬ,こぎたむる,うらのことごと,ゆきかくる,しまのさきざき,くまもおかず,おもひぞわがくる,たびのけながみ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,羈旅,望郷,兵庫,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]あじさはふ妹の目を離れて敷妙の枕もしないで桜の皮を巻いて作った船に両舷に楫を通し自分が漕いでくると、淡路の野島も過ぎ、印南妻の辛荷の島の島の間から我が家を見ると、青い山が連なってそこだとも見えない。白雲も幾重にも重なった所に来た。漕ぎ廻る浦の全て、行って隠れていく島の御崎の全て、その場所ごとに恋しく思って自分は来る。旅の日が長いので
#{語釈]
辛荷嶋 兵庫県西部 揖保郡御津町室津 三島
あぢさはふ 目にかかる枕詞 味鴨を捕らえる網の目か
桜皮巻き 桜の樹皮 かにはがかんば、かばとなる。
印南嬬 播磨國風土記
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0943
#[題詞](過辛荷嶋時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌三首
#[原文]玉藻苅 辛荷乃嶋尓 嶋廻為流 水烏二四毛有哉 家不念有六
#[訓読]玉藻刈る唐荷の島に島廻する鵜にしもあれや家思はずあらむ
#[仮名],たまもかる,からにのしまに,しまみする,うにしもあれや,いへおもはずあらむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,羈旅,望郷,兵庫,地名,植物
#[訓異]
#[大意]玉藻を苅る辛荷の島に廻りをまわる鵜でもあるというのか。そうでもないので自分は家郷のことを思わないではいられない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0944
#[題詞]((過辛荷嶋時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌三首)
#[原文]嶋隠 吾榜来者 乏毳 倭邊上 真熊野之船
#[訓読]島隠り我が漕ぎ来れば羨しかも大和へ上るま熊野の船
#[仮名],しまがくり,わがこぎくれば,ともしかも,やまとへのぼる,まくまののふね
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,羈旅,望郷,兵庫,地名
#[訓異]
#[大意]島に隠れて自分が漕いで来るとうらやましいことだ大和へ上るま熊野の船よ
#{語釈]
ま熊野の船 熊野で作った船。頑丈な良船であったらしい
06/1033H01御食つ国志摩の海人ならしま熊野の小舟に乗りて沖へ漕ぐ見ゆ
12/3172H01浦廻漕ぐ熊野舟つきめづらしく懸けて思はぬ月も日もなし
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0945
#[題詞]((過辛荷嶋時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌三首)
#[原文]風吹者 浪可将立跡 伺候尓 都太乃細江尓 浦隠居
#[訓読]風吹けば波か立たむとさもらひに都太の細江に浦隠り居り
#[仮名],かぜふけば,なみかたたむと,さもらひに,つだのほそえに,うらがくりをり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,羈旅,兵庫,地名
#[訓異]
#[大意]風が吹くと浪が立つだろう。浪を避けて停泊する津田の細江に浪を避けていることだ
#{語釈]
都太の細江 姫路市南 飾磨区津田
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0946
#[題詞]過<敏馬>浦時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌]
#[原文]御食向 淡路乃嶋二 直向 三犬女乃浦能 奥部庭 深海松採 浦廻庭 名告藻苅 深見流乃 見巻欲跡 莫告藻之 己名惜三 間使裳 不遣而吾者 生友奈重二
#[訓読]御食向ふ 淡路の島に 直向ふ 敏馬の浦の 沖辺には 深海松採り 浦廻には なのりそ刈る 深海松の 見まく欲しけど なのりその おのが名惜しみ 間使も 遣らずて我れは 生けりともなし
#[仮名],みけむかふ,あはぢのしまに,ただむかふ,みぬめのうらの,おきへには,ふかみるとり,うらみには,なのりそかる,ふかみるの,みまくほしけど,なのりその,おのがなをしみ,まつかひも,やらずてわれは,いけりともなし
#[左注](右作歌年月未詳也 但以類故載於此<次>)
#[校異]驚 -> 敏馬 [西(右書訂正)][元][紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,羈旅,兵庫,望郷,枕詞,地名,植物
#[訓異]
#[大意]御食に供する淡路の島に直接向かい合っている敏馬の浦の沖の方には底深く海松を採り、浦の廻りにはなのりそを刈る。その深海松のように見たいと思うが、なのりその自分の名前が惜しいので使いも遣らないで生きた心地もしない
#{語釈]
#[説明]
望郷か、土地の女への哀愁か
人麻呂歌の影響
#[関連論文]
#[番号]06/0947
#[題詞](過<敏馬>浦時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]為間乃海人之 塩焼衣乃 奈礼名者香 一日母君乎 忘而将念
#[訓読]須磨の海女の塩焼き衣の慣れなばか一日も君を忘れて思はむ
#[仮名],すまのあまの,しほやききぬの,なれなばか,ひとひもきみを,わすれておもはむ
#[左注]右作歌年月未詳也 但以類故載於此<次>
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歟 -> 次 [西(右書訂正)][元][紀][細]
#[鄣W],雑歌,作者:山部赤人,羈旅,兵庫,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]須磨の海女の塩を焼く衣がよれよれになっているのではないが、馴れてしまったら一日でもあなたのことを忘れて思うだろう。まだ会ったばかりなので一日も忘れることが出来ないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0948
#[題詞]四年丁卯春正月勅諸王諸臣子等散禁於授刀寮時作歌一首[并短歌]
#[原文]真葛延 春日之山者 打靡 春去徃跡 山上丹 霞田名引 高圓尓 鴬鳴沼 物部乃 八十友能<壮>者 折<木>四哭之 来継<比日 如>此續 常丹有脊者 友名目而 遊物尾 馬名目而 徃益里乎 待難丹 吾為春乎 决巻毛 綾尓恐 言巻毛 湯々敷有跡 豫 兼而知者 千鳥鳴 其佐保川丹 石二生 菅根取而 之努布草 解除而益乎 徃水丹 潔而益乎 天皇之 御命恐 百礒城之 大宮人之 玉桙之 道毛不出 戀比日
#[訓読]ま葛延ふ 春日の山は うち靡く 春さりゆくと 山の上に 霞たなびく 高円に 鴬鳴きぬ もののふの 八十伴の男は 雁が音の 来継ぐこの頃 かく継ぎて 常にありせば 友並めて 遊ばむものを 馬並めて 行かまし里を 待ちかてに 我がする春を かけまくも あやに畏し 言はまくも ゆゆしくあらむと あらかじめ かねて知りせば 千鳥鳴く その佐保川に 岩に生ふる 菅の根採りて 偲ふ草 祓へてましを 行く水に みそぎてましを 大君の 命畏み ももしきの 大宮人の 玉桙の 道にも出でず 恋ふるこの頃
#[仮名],まくずはふ,かすがのやまは,うちなびく,はるさりゆくと,やまのへに,かすみたなびく,たかまとに,うぐひすなきぬ,もののふの,やそとものをは,かりがねの,きつぐこのころ,かくつぎて,つねにありせば,ともなめて,あそばむものを,うまなめて,ゆかましさとを,まちかてに,わがせしはるを,かけまくも,あやにかしこし,いはまくも,ゆゆしくあらむと,あらかじめ,かねてしりせば,ちどりなく,そのさほがはに,いはにおふる,すがのねとりて,しのふくさ,はらへてましを,ゆくみづに,みそぎてましを,おほきみの,みことかしこみ,ももしきの,おほみやひとの,たまほこの,みちにもいでず,こふるこのころ
#[左注](右神龜四年正月 數王子<及>諸臣子等 集於春日野而作打毬之樂 其日忽天陰 雨雷電 此時宮中無侍従及侍衛 勅行刑罰皆散禁於授刀寮而妄不得出道路 于時悒憤即作斯歌 [作者未詳])
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 上 [元](塙) 匕 / 牡 -> 壮 [元][紀][矢] / 不 -> 木 [元] / 皆石 -> 比日如 [万葉集略解]
#[鄣W],雑歌,奈良,神亀4年,大夫,枕詞,地名,神亀4年1月,年紀
#[訓異]
#[大意]ま葛が這い回っている春日の山は、草木が靡く春になったので山のほとりには霞みがたなびいて、高円には鶯が鳴いている。もののふの大勢の官人たちは北へ帰る雁が次々にやってくるこの頃、そのように続いて何事もなかったならば、友達を一緒に遊ぶものなのに。馬を連ねて行ったであろう里なのに。待ちかねて自分が思っていた春であるのに、心に掛けるのも恐れ多く言葉に出すのもはばかられるだろうと、あらかじめかねてから知っていたならば、千鳥が鳴くその佐保川に岩に生える管の根を取って物思いの草を祓えておいたものなのに。流れていく水に禊ぎをして穢れを落としておいたものなのに。大君の命を恐れ多く思ってももしきの大宮人が多く通る玉鉾の道にも出ないで恋い思うこの頃である
#{語釈]
四年 神亀四年 聖武天皇の時
散禁 監禁、禁固 外出禁止
授刀寮 授刀舎人寮 帯刀して天皇の身辺を警護する舎人の詰める役所
天平神護元年 近衛府に改称
ま葛延ふ 春日山の実質的枕詞
うち靡く 春の枕詞
ゆゆしくあらむと はばかれることであろうと 事件を言う
管 祓えの道具 420
03/0420H07木綿たすき かひなに懸けて 天なる ささらの小野の 七節菅
03/0420H08手に取り持ちて ひさかたの 天の川原に 出で立ちて みそぎてましを
偲ふ草 もの思いの草 種
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0949
#[題詞](四年丁卯春正月勅諸王諸臣子等散禁於授刀寮時作歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]梅柳 過良久惜 佐保乃内尓 遊事乎 宮動々尓
#[訓読]梅柳過ぐらく惜しみ佐保の内に遊びしことを宮もとどろに
#[仮名],うめやなぎ,すぐらくをしみ,さほのうちに,あそびしことを,みやもとどろに
#[左注]右神龜四年正月 數王子<及>諸臣子等 集於春日野而作打毬之樂 其日忽天陰 雨雷電 此時宮中無侍従及侍衛 勅行刑罰皆散禁於授刀寮而妄不得出道路 于時悒憤即作斯歌 [作者未詳]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 乃 -> 及 [元][類][古] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,奈良,神亀4年,大夫,地名,神亀4年1月,年紀
#[訓異]
#[大意]梅や柳が散りすぎて行くのが惜しいので佐保の内で遊んだことが宮もとどろくばかりに噂になってしまった
#{語釈]
佐保の内 法蓮町あたり。春日野とは違う。ちょっと宮廷の中で遊んだこととごまかしている
とどろに とどろくばかりに話しが広まってしまった
18/4110H01左夫流子が斎きし殿に鈴懸けぬ駅馬下れり里もとどろに
右神龜四年正月、數(あまた)の王子及諸臣子等、春日野に集ひて打毬之樂を作(な)す。其の日忽に天陰(くも)り、雨ふり雷電(いなびかり)す。此の時、宮の中(うち)に侍従及侍衛無し。勅(みことのり)して刑罰に行ひ、皆授刀寮に散禁せしめ妄(みだり)に道路(みち)に出ること得ざらじむ。その時に悒憤(いぶせみ)し、即ち斯の歌を作る。 [作者未詳]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0950
#[題詞]五年戊辰幸于難波宮時作歌四首
#[原文]大王之 界賜跡 山守居 守云山尓 不入者不止
#[訓読]大君の境ひたまふと山守据ゑ守るといふ山に入らずはやまじ
#[仮名],おほきみの,さかひたまふと,やまもりすゑ,もるといふやまに,いらずはやまじ
#[左注](右笠朝臣金村之歌中出也 或云車持朝臣千年作<之>也)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村歌集,車持千年,作者異伝,難波,大阪,比喩,恋愛,神亀5年,年紀,掛け合い,地名
#[訓異]
#[大意]大君が境界をお決めになるとして山の番人を据えて守る山に入らないではおさまらない
#{語釈]
五年 神亀五年聖武天皇難波行幸 続日本紀に記述なし
境ひたまふ 境界をお決めになる
#[説明]
行幸先の宴の歌。遊行女婦か女官を譬喩にしている
#[関連論文]
#[番号]06/0951
#[題詞](五年戊辰幸于難波宮時作歌四首)
#[原文]見渡者 近物可良 石隠 加我欲布珠乎 不取不巳
#[訓読]見わたせば近きものから岩隠りかがよふ玉を取らずはやまじ
#[仮名],みわたせば,ちかきものから,いはがくり,かがよふたまを,とらずはやまじ
#[左注](右笠朝臣金村之歌中出也 或云車持朝臣千年作<之>也)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村歌集,車持千年,作者異伝,難波,大阪,比喩,恋愛,神亀5年,年紀,掛け合い,地名
#[訓異]
#[大意]見渡すと近いものでありながら岩に隠れて輝いている玉を取らないでは気がすまない
#{語釈]
#[説明]
行幸先での宴の歌か。遊行女婦を相手にしているか。
#[関連論文]
#[番号]06/0952
#[題詞](五年戊辰幸于難波宮時作歌四首)
#[原文]韓衣 服楢乃里之 嶋待尓 玉乎師付牟 好人欲得食
#[訓読]韓衣着奈良の里の嶋松に玉をし付けむよき人もがも
#[仮名],からころも,きならのさとの,しままつに,たまをしつけむ,よきひともがも
#[左注](右笠朝臣金村之歌中出也 或云車持朝臣千年作<之>也)
#[校異]嶋 (塙)(楓) 嬬
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村歌集,車持千年,作者異伝,難波,大阪,比喩,恋愛,神亀5年,年紀,女歌,掛け合い,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]官服を着馴らす奈良の里の(島松ではないが)妻を待つ松の木に玉を付けるよい人もいればなあ
#{語釈]
嶋松 塙本 妻松 妻を待つの意味
#[説明]
女性の立場の歌
#[関連論文]
#[番号]06/0953
#[題詞](五年戊辰幸于難波宮時作歌四首)
#[原文]竿<壮>鹿之 鳴奈流山乎 越将去 日谷八君 當不相将有
#[訓読]さを鹿の鳴くなる山を越え行かむ日だにや君がはた逢はざらむ
#[仮名],さをしかの,なくなるやまを,こえゆかむ,ひだにやきみが,はたあはざらむ
#[左注]右笠朝臣金村之歌中出也 或云車持朝臣千年作<之>也
#[校異]牡 -> 壮 [元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 之 [元][紀][細]
#[鄣W],雑歌,作者:笠金村歌集,車持千年,作者異伝,難波,大阪,比喩,恋愛,神亀5年,年紀,望郷,女歌,掛け合い,動物,地名
#[訓異]
#[大意]雄鹿の鳴く山を越え行く日ですらあなたは私に会ってはくださらないのでしょうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0954
#[題詞]膳王歌一首
#[原文]朝波 海邊尓安左里為 暮去者 倭部越 鴈四乏母
#[訓読]朝は海辺にあさりし夕されば大和へ越ゆる雁し羨しも
#[仮名],あしたは,うみへにあさりし,ゆふされば,やまとへこゆる,かりしともしも
#[左注]右作歌之年不審<也> 但以歌類便載此次
#[校異]歌 [西] 謌 [西(別筆訂正)] 歌 / 越 [元][紀](塙) 超 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 也 [元][紀][細] / 以歌 [西] 以謌 [西(訂正)] 以歌
#[鄣W],雑歌,作者:膳王,羈旅,望郷,動物
#[訓異]
#[大意]朝には海辺で餌を取り、夕べには大和へ越えていく雁がうらやましいことだ
#{語釈]
膳王 03/0442 膳部王 長屋王の子 母は草壁王の子吉備内親王 神亀六年自尽
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0955
#[題詞]<大>宰少貳石<川>朝臣足人歌一首
#[原文]刺竹之 大宮人乃 家跡住 佐保能山乎者 思哉毛君
#[訓読]さす竹の大宮人の家と住む佐保の山をば思ふやも君
#[仮名],さすたけの,おほみやひとの,いへとすむ,さほのやまをば,おもふやもきみ
#[左注]
#[校異]太 -> 大 [元][紀][細] / 河 -> 川 [元][紀][温] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:石川足人,望郷,太宰府,福岡,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]刺す竹の大宮人が家として住んでいる佐保の山を思っているのでしょうか。あなたは
#{語釈]
大宰少貳石川朝臣足人 和銅5年 従五位下、神亀元年従五位上 6.955 太宰府に任官
04/0549
さす竹の 大宮の枕詞 係り方未詳 竹の強い生命力から宮廷の繁栄を言祝いだものか
#[説明]
"#[番号]03/0330"
"#[題詞](防人司佑大伴四綱歌二首)"
"#[訓読]藤波の花は盛りになりにけり奈良の都を思ほすや君"
"#[左注]"
#[関連論文]
#[番号]06/0956
#[題詞]帥大伴卿和歌一首
#[原文]八隅知之 吾大王乃 御食國者 日本毛此間毛 同登曽念
#[訓読]やすみしし我が大君の食す国は大和もここも同じとぞ思ふ
#[仮名],やすみしし,わがおほきみの,をすくには,やまともここも,おやじとぞおもふ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,太宰府,福岡,大夫,王権,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]やすみしし我が大君のお治めになる苦には大和もここも同じだと思う
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0957
#[題詞]冬十一月大宰官人等奉拜香椎廟訖退歸之時馬駐于香椎浦各述作懐歌 / 帥大伴卿歌一首
#[原文]去来兒等 香椎乃滷尓 白妙之 袖左倍所沾而 朝菜採手六
#[訓読]いざ子ども香椎の潟に白栲の袖さへ濡れて朝菜摘みてむ
#[仮名],いざこども,かしひのかたに,しろたへの,そでさへぬれて,あさなつみてむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,福岡,香椎,太宰府,地名,神亀5年11月,年紀
#[訓異]
#[大意]さあ者どもよ。香椎の潟に白妙の袖までも濡れて朝の菜を摘もうよ
#{語釈]
(神亀五年)冬十一月、大宰の官人等、香椎廟を奉拝(おがみまつる)こと訖(おは)りて退(まか)り歸る時に、馬を香椎の浦に駐(とど)めて各懐(おもひ)を述べて作る歌
香椎廟 仲哀天皇と神功皇后の廟所
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0958
#[題詞](冬十一月大宰官人等奉拜香椎廟訖退歸之時馬駐于香椎浦各述作懐歌)大貳小野老朝臣歌一首
#[原文]時風 應吹成奴 香椎滷 潮干汭尓 玉藻苅而名
#[訓読]時つ風吹くべくなりぬ香椎潟潮干の浦に玉藻刈りてな
#[仮名],ときつかぜ,ふくべくなりぬ,かしひがた,しほひのうらに,たまもかりてな
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:小野老,福岡,香椎,太宰府,地名,植物,神亀5年11月,年紀
#[訓異]
#[大意]時の風が吹く気配になってきた。香椎潟の潮干の浦に玉藻を苅ろうよ
#{語釈]
時つ風 毎日一定の時刻に吹く海風
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0959
#[題詞](冬十一月大宰官人等奉拜香椎廟訖退歸之時馬駐于香椎浦各述作懐歌)豊前守宇努首男人歌一首
#[原文]徃還 常尓我見之 香椎滷 従明日後尓波 見縁母奈思
#[訓読]行き帰り常に我が見し香椎潟明日ゆ後には見むよしもなし
#[仮名],ゆきかへり,つねにわがみし,かしひがた,あすゆのちには,みむよしもなし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:宇努男人,福岡,香椎,太宰府,地名,神亀5年11月,年紀
#[訓異]
#[大意]行き帰りにいつも自分が見ていた香椎潟よ。明日から後は見るてだてもないこだ
#{語釈]
豊前守宇努首男人 養老四年豊前守で征隼人大将軍
そのまま帰京する時のものか
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0960
#[題詞]帥大伴卿遥思芳野離宮作歌一首
#[原文]隼人乃 湍門乃磐母 年魚走 芳野之瀧<尓> 尚不及家里
#[訓読]隼人の瀬戸の巌も鮎走る吉野の瀧になほしかずけり
#[仮名],はやひとの,せとのいはほも,あゆはしる,よしののたきに,なほしかずけり
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 乃 -> 尓 [西(訂正)][元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,吉野,比較,鹿児島,黒瀬戸,山口,関門海峡,地名
#[訓異]
#[大意]早人の背との巌も岩に走る吉野の急流になお及ぶものではないよ
#{語釈]
隼人の瀬戸 3/248 隼人の薩摩の瀬戸と同じか
早鞆の瀬戸(関門海峡)か。
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0961
#[題詞]帥大伴卿宿次田温泉聞鶴喧作歌一首
#[原文]湯原尓 鳴蘆多頭者 如吾 妹尓戀哉 時不定鳴
#[訓読]湯の原に鳴く葦鶴は我がごとく妹に恋ふれや時わかず鳴く
#[仮名],ゆのはらに,なくあしたづは,あがごとく,いもにこふれや,ときわかずなく
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,太宰府,福岡,二日市温泉,妻,地名,動物,恋情
#[訓異]
#[大意]湯の原に鳴く葦鶴は自分のように妹に恋思っているのか時を隔てないで鳴いていることだ
#{語釈]
次田温泉 太宰府市二日市温泉
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0962
#[題詞]天平二年庚午勅遣<擢>駿馬使大伴道足宿祢時歌一首
#[原文]奥山之 磐尓蘿生 恐毛 問賜鴨 念不堪國
#[訓読]奥山の岩に苔生し畏くも問ひたまふかも思ひあへなくに
#[仮名],おくやまの,いはにこけむし,かしこくも,とひたまふかも,おもひあへなくに
#[左注]右 勅使大伴道足宿祢饗于帥家 此日會集衆諸相誘驛使葛井連廣成言須作歌詞 登時廣成應聲即吟此歌
#[校異]推 -> 擢 [元][古][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 此歌 [西] 此謌 [西(訂正)] 此歌
#[鄣W],雑歌,作者:葛井広成,大伴道足,太宰府,福岡,宴席,地名,序詞,天平2年,年紀
#[訓異]
#[大意]奥山の岩に苔が生えて神々しくなるように、恐れ多くもお尋ねになるのですね。歌など詠めませんのに
#{語釈]
勅(みことのり)して<擢>駿馬使大伴道足宿祢を遣はす時の歌一首
<擢>駿馬使(てきしゅんめし) すぐれた馬を求めるために諸国に遣わされる勅使
兵部省式 西海道の牧場 肥前2、肥後2 日向3 5、6歳になると太宰府に送られる
大伴道足 安麻呂のいとこ。天平3年参議。天平13年頃卒。
勅使大伴道足宿祢を帥の家に饗す。此の日會集(つど)ふ衆諸(もろひと)、驛使(はゆまつかひ)葛井連廣成を相ひ誘ひて。作歌詞(うた)を作るべしと言ふ。登(その)時に廣成應、聲に(こた)へて即ち此の歌を吟(うた)ふ。
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0963
#[題詞]冬十一月大伴坂上郎女發帥家上道超筑前國宗形郡名兒山之時作歌一首
#[原文]大汝 小彦名能 神社者 名著始鷄目 名耳乎 名兒山跡負而 吾戀之 干重之一重裳 奈具<佐>米七國
#[訓読]大汝 少彦名の 神こそば 名付けそめけめ 名のみを 名児山と負ひて 我が恋の 千重の一重も 慰めなくに
#[仮名],おほなむち,すくなひこなの,かみこそば,なづけそめけめ,なのみを,なごやまとおひて,あがこひの,ちへのひとへも,なぐさめなくに
#[左注]
#[校異]名 [元][紀][細] 名々 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 作 -> 佐 [元][紀][細]
#[鄣W],雑歌,作者:坂上郎女,羈旅,福岡,望郷,恋情,天平2年11月,年紀,地名
#[訓異]
#[大意]大汝 少彦名の 神こそは名付け始めたのだろう。心が和むという名前ばかり名児山と背負っているだけで自分が恋い思う千分の一も慰めることはないのに
#{語釈]
大伴坂上郎女帥の家を發(た)ち、道に上(のぼ)り、筑前國宗形郡名兒山を超(こ)ゆる時に作る歌一首
名児山 心が和む 慰められる
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0964
#[題詞]同坂上郎女向京海路見濱<貝>作歌一首
#[原文]吾背子尓 戀者苦 暇有者 拾而将去 戀忘貝
#[訓読]我が背子に恋ふれば苦し暇あらば拾ひて行かむ恋忘貝
#[仮名],わがせこに,こふればくるし,いとまあらば,ひりひてゆかむ,こひわすれがひ
#[左注]
#[校異]貝 [西(上書訂正)][紀] [寛永] 具 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:坂上郎女,羈旅,福岡,恋情,天平2年11月,年紀,地名,動物
#[訓異]
#[大意]我が背子に恋い思うと心苦しい。時間があったら拾って行こう。恋忘れ貝を。
#{語釈]
恋忘貝 二枚貝の片方だけになっている貝殻。アワビを指す場合もある
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0965
#[題詞]冬十二月<大>宰帥大伴卿上京<時>娘子作歌二首
#[原文]凡有者 左毛右毛将為乎 恐跡 振痛袖乎 忍而有香聞
#[訓読]おほならばかもかもせむを畏みと振りたき袖を忍びてあるかも
#[仮名],おほならば,かもかもせむを,かしこみと,ふりたきそでを,しのびてあるかも
#[左注](右大宰帥<大>伴卿兼任大納言向京上道 此日馬駐水城顧望府家 于時送卿府吏之中有遊行女婦 其字曰兒嶋也 於是娘子傷此易別嘆彼難會 拭涕自吟振袖之歌)
#[校異]太 -> 大 [元][類][紀] / <> -> 時 [元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:児島,遊行女婦,太宰府,大伴旅人,別離,恋情,福岡,天平2年12月,年紀,地名,餞別,宴席
#[訓異]
#[大意]あなたが普通の人だったら別れを惜しんでああもこうもするところであるが、畏れ多いのでと振りたい袖を堪えているのですよ
#{語釈]
此の日に馬を水城に駐めて府家を顧り望む。時に卿を送る府吏の中に遊行女婦有り。其字を兒嶋と曰ふ。是に娘子、此の別れ易きことを傷み、彼の會ひ難きことを嘆き、涕を拭ひて自ら袖を振る歌を吟(うた)ふ。
おほならば 普通だったら あなたが普通の人だったら
かもかもせむを 別れを惜しんであれやこれやとしようものなのに
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0966
#[題詞](冬十二月<大>宰帥大伴卿上京<時>娘子作歌二首)
#[原文]倭道者 雲隠有 雖然 余振袖乎 無礼登母布奈
#[訓読]大和道は雲隠りたりしかれども我が振る袖をなめしと思ふな
#[仮名],やまとぢは,くもがくりたり,しかれども,わがふるそでを,なめしともふな
#[左注]右大宰帥<大>伴卿兼任大納言向京上道 此日馬駐水城顧望府家 于時送卿府吏之中有遊行女婦 其字曰兒嶋也 於是娘子傷此易別嘆彼難會 拭涕自吟振袖之歌
#[校異]太 -> 大 [元][類][紀] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:児島,遊行女婦,太宰府,大伴旅人,別離,恋情,福岡,天平2年11月,年紀,餞別,宴席,地名
#[訓異]
#[大意]大和への道ははるかに雲に隠れている。そうではあるが私が振る袖を無礼だとは思ってはくださいますな。
#{語釈]
しかれども あなたがはるか遠い大和へと帰ってしまわれるので、畏れ多いと思いながらも袖を振る
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0967
#[題詞]大納言大伴卿和歌二首
#[原文]日本道乃 吉備乃兒嶋乎 過而行者 筑紫乃子嶋 所念香聞
#[訓読]大和道の吉備の児島を過ぎて行かば筑紫の児島思ほえむかも
#[仮名],やまとぢの,きびのこしまを,すぎてゆかば,つくしのこしま,おもほえむかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 聞 [元][紀][温](塙) 裳
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,児島,太宰府,福岡,別離,恋情,遊行女婦,天平2年11月,餞別,宴席,地名
#[訓異]
#[大意]大和への道の途中、吉備の児島を過ぎて行くならば、築紫の児島が思われてならないだろうなあ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0968
#[題詞](大納言大伴卿和歌二首)
#[原文]大夫跡 念在吾哉 水莖之 水城之上尓 泣将拭
#[訓読]ますらをと思へる我れや水茎の水城の上に涙拭はむ
#[仮名],ますらをと,おもへるわれや,みづくきの,みづきのうへに,なみたのごはむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,児島,太宰府,福岡,別離,恋情,遊行女婦,天平2年11月,餞別,宴席,地名
#[訓異]
#[大意]ますらをと思っている自分ではあるが、水茎の水城の上で涙を拭くことである
#{語釈]
水茎の 水城の枕詞 語義未詳
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0969
#[題詞]三年辛未大納言大伴卿在寧樂家思故郷歌二首
#[原文]須臾 去而見<壮>鹿 神名火乃 淵者淺而 瀬二香成良武
#[訓読]しましくも行きて見てしか神なびの淵はあせにて瀬にかなるらむ
#[仮名],しましくも,ゆきてみてしか,かむなびの,ふちはあせにて,せにかなるらむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 牡 -> 壮 [元][類][古][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,望郷,奈良,天平3年,年紀,飛鳥,恋慕,地名
#[訓異]
#[大意]ちょっとの間も行って見たいおのだ。神なびの淵は浅くなって早瀬になっているだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0970
#[題詞](三年辛未大納言大伴卿在寧樂家思故郷歌二首)
#[原文]指進乃 粟栖乃小野之 芽花 将落時尓之 行而手向六
#[訓読]指進の栗栖の小野の萩の花散らむ時にし行きて手向けむ
#[仮名],****の,くるすのをのの,はぎのはな,ちらむときにし,ゆきてたむけむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:大伴旅人,望郷,亡妻,恋慕,天平3年,年紀,飛鳥,地名,植物
#[訓異]
#[大意]指進の栗栖の小野の萩の花よ。散る時に行って手向けよう
#{語釈]
指進の 栗栖の枕詞。訓、係方未詳。或いは、さしすみのと訓んで、指す墨で、墨縄がくるくる回るという意味で、栗にかかるか。
栗栖 所在未詳。飛鳥のどこか。或いは妻大伴郎女の故郷である巨勢の地か。
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0971
#[題詞]四年壬申藤原宇合卿遣西海道節度使之時高橋連蟲麻呂作歌一首[并短歌]
#[原文]白雲乃 龍田山乃 露霜尓 色附時丹 打超而 客行<公>者 五百隔山 伊去割見 賊守 筑紫尓至 山乃曽伎 野之衣寸見世常 伴部乎 班遣之 山彦乃 将應極 谷潜乃 狭渡極 國方乎 見之賜而 冬<木>成 春去行者 飛鳥乃 早御来 龍田道之 岳邊乃路尓 丹管土乃 将薫時能 櫻花 将開時尓 山多頭能 迎参出六 <公>之来益者
#[訓読]白雲の 龍田の山の 露霜に 色づく時に うち越えて 旅行く君は 五百重山 い行きさくみ 敵守る 筑紫に至り 山のそき 野のそき見よと 伴の部を 班ち遣はし 山彦の 答へむ極み たにぐくの さ渡る極み 国形を 見したまひて 冬こもり 春さりゆかば 飛ぶ鳥の 早く来まさね 龍田道の 岡辺の道に 丹つつじの にほはむ時の 桜花 咲きなむ時に 山たづの 迎へ参ゐ出む 君が来まさば
#[仮名],しらくもの,たつたのやまの,つゆしもに,いろづくときに,うちこえて,たびゆくきみは,いほへやま,いゆきさくみ,あたまもる,つくしにいたり,やまのそき,ののそきみよと,とものへを,あかちつかはし,やまびこの,こたへむきはみ,たにぐくの,さわたるきはみ,くにかたを,めしたまひて,ふゆこもり,はるさりゆかば,とぶとりの,はやくきまさね,たつたぢの,をかへのみちに,につつじの,にほはむときの,さくらばな,さきなむときに,やまたづの,むかへまゐでむ,きみがきまさば
#[左注](右檢補任文八月十七日任東山々陰西海節度使)
#[校異]06/0971D01歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 君 -> 公 [元][類][紀] / <> -> 木 [元][類][紀] / 君 -> 公 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:高橋虫麻呂,藤原宇合,羈旅,送別,大夫,天平4年8月17日,年紀,枕詞,植物,地名
#[訓異]
#[大意]白雲の龍田の山の露霜にあって色づく時に、越えて旅に行くあなたは、幾重にも重なった山を難渋して行って、外敵から守る築紫に到着して、山の果て、野の果てを見よと大君は伴の部を振り分けてお遣わしになって、山彦が答える果てまで、蛙が谷を渡っていく果てまで国の様子をご覧になって、冬が隠って春になって行くと、飛ぶ鳥のように早く都にお帰りになってください。龍田の道の岡辺の道に赤いつつじが咲く時に、桜花が咲く時に、山たづではないが迎えに参り出ましょう。あなたがいらっしゃるならば
#{語釈]
四年壬申 続紀天平四年八月一七日房前を東海、東山、丹比県守を山陰、宇合を西海道節 度使に任じる
節度使 軍備増強を図るために唐の制度にならって置かれた地方観察官
この時が初めて
そき 遠くに意味。退(そ)く そくへ、そきへ
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0972
#[題詞](四年壬申藤原宇合卿遣西海道節度使之時高橋連蟲麻呂作歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]千萬乃 軍奈利友 言擧不為 取而可来 男常曽念
#[訓読]千万の軍なりとも言挙げせず取りて来ぬべき男とぞ思ふ
#[仮名],ちよろづの,いくさなりとも,ことあげせず,とりてきぬべき,をのことぞおもふ
#[左注]右檢補任文八月十七日任東山々陰西海節度使
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:高橋虫麻呂,藤原宇合,羈旅,送別,大夫,天平4年8月17日,年紀
#[訓異]
#[大意]千万の敵の軍勢であったとしても、言挙げをしないで討ち取って来るような男だと思いますよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0973
#[題詞]天皇賜酒節度使卿等御歌一首[并短歌]
#[原文]食國 遠乃御朝庭尓 汝等之 如是退去者 平久 吾者将遊 手抱而 我者将御在 天皇朕 宇頭乃御手以 掻撫曽 祢宜賜 打撫曽 祢宜賜 将還来日 相飲酒曽 此豊御酒者
#[訓読]食す国の 遠の朝廷に 汝らが かく罷りなば 平けく 我れは遊ばむ 手抱きて 我れはいまさむ 天皇我れ うづの御手もち かき撫でぞ ねぎたまふ うち撫でぞ ねぎたまふ 帰り来む日 相飲まむ酒ぞ この豊御酒は
#[仮名],をすくにの,とほのみかどに,いましらが,かくまかりなば,たひらけく,われはあそばむ,たむだきて,われはいまさむ,すめらわれ,うづのみてもち,かきなでぞ,ねぎたまふ,うちなでぞ,ねぎたまふ,かへりこむひ,あひのまむきぞ,このとよみきは
#[左注](右御歌者或云太上天皇御製也)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短哥 [西(訂正)] 短歌
#[鄣W],雑歌,作者:聖武天皇,作者異伝,送別,大夫,天平4年,年紀,枕詞,餞別,宴席
#[訓異]
#[大意]治める国の遠くの朝廷にお前たちがこのように出かけて行ったならば、心安らかに自分は遊んでいよう。手を組んで自分はいよう。天皇である自分は、貴い御手で頭を撫でねぎらおう。撫でてねぎらおう。帰って来る日にまた飲む酒であるぞ。この立派な御酒は
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0974
#[題詞](天皇賜酒節度使卿等御歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]大夫之 去跡云道曽 凡可尓 念而行勿 大夫之伴
#[訓読]大夫の行くといふ道ぞおほろかに思ひて行くな大夫の伴
#[仮名],ますらをの,ゆくといふみちぞ,おほろかに,おもひてゆくな,ますらをのとも
#[左注]右御歌者或云太上天皇御製也
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:聖武天皇,作者異伝,送別,大夫,天平4年,餞別,宴席
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]大夫の行くという道であるぞ。いい加減に思って行くなよ。大夫の伴たちよ。
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0975
#[題詞]中納言安倍廣庭卿歌一首
#[原文]如是為管 在久乎好叙 霊剋 短命乎 長欲為流
#[訓読]かくしつつあらくをよみぞたまきはる短き命を長く欲りする
#[仮名],かくしつつ,あらくをよみぞ,たまきはる,みじかきいのちを,ながくほりする
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:安倍広庭,宴席,大夫,枕詞
#[訓異]
#[大意]このようにし続けているのがよいので、たまきはる短い命も長くと望んでいるのです
#{語釈]
中納言安倍廣庭 03/302、370 天平4年3月22日従三位薨去
#[説明]
かくしつつ おそらく宴席での歌か
#[関連論文]
#[番号]06/0976
#[題詞]五年癸酉超草香山時神社忌寸老麻呂作歌二首
#[原文]難波方 潮干乃奈凝 委曲見 在家妹之 待将問多米
#[訓読]難波潟潮干のなごりよく見てむ家なる妹が待ち問はむため
#[仮名],なにはがた,しほひのなごり,よくみてむ,いへなるいもが,まちとはむため
#[左注]
#[校異]歌 [西] 哥 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:神社老麻呂,難波,大阪,望郷,羈旅,土地讃美,天平5年,年紀,地名
#[訓異]
#[大意]難波潟の潮干の名残をよく見ておこう。家にある妹が待って尋ねるために
#{語釈]
五年 天平五年
草香山 生駒山西側 東大阪市日下町
神社忌寸老麻呂 かみこそ、みわもり、もり 訓不明、伝未詳
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0977
#[題詞](五年癸酉超草香山時神社忌寸老麻呂作歌二首)
#[原文]直超乃 此徑尓<弖師> 押照哉 難波乃<海>跡 名附家良思<蒙>
#[訓読]直越のこの道にしておしてるや難波の海と名付けけらしも
#[仮名],ただこえの,このみちにして,おしてるや,なにはのうみと,なづけけらしも
#[左注]
#[校異]師弖 -> 弖師 [元][紀][細] / <> -> 海 [西(右書)][元][類] / 裳 -> 蒙 [元][細]
#[鄣W],雑歌,作者:神社老麻呂,難波,大阪,土地讃美,羈旅,天平5年,年紀,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]直接越えるこの道にあって、おしてるや難波の海と名付けたらしい
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0978
#[題詞]山上臣憶良沈痾之時歌一首
#[原文]士也母 空應有 萬代尓 語續可 名者不立之而
#[訓読]士やも空しくあるべき万代に語り継ぐべき名は立てずして
#[仮名],をのこやも,むなしくあるべき,よろづよに,かたりつぐべき,なはたてずして
#[左注]右一首山上憶良臣沈痾之時 藤原<朝>臣八束使河邊朝臣東人 令問所疾之状 於是憶良臣報語已畢 有須拭涕悲嘆口吟此歌
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 朝 [元][紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:山上憶良,辞世,大夫,天平5年,年紀
#[訓異]
#[大意]士大夫たるべきものがこのまま空しく死んでよいものだろうか。後世に語り継ぐべき名は立てないで。
#{語釈]
有須 しばらくありて
#[説明]
孝経による解釈。名を立て功を成さないのは不孝の始まりである
#[関連論文]
#[番号]06/0979
#[題詞]大伴坂上郎女<与>姪家持従佐保還歸西宅歌一首
#[原文]吾背子我 著衣薄 佐保風者 疾莫吹 及<家>左右
#[訓読]我が背子が着る衣薄し佐保風はいたくな吹きそ家に至るまで
#[仮名],わがせこが,けるきぬうすし,さほかぜは,いたくなふきそ,いへにいたるまで
#[左注]
#[校異]輿 -> 与 [元][紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 宅 -> 家 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,作者:坂上郎女,大伴家持,佐保,恋情,相聞的,地名,贈答
#[訓異]
#[大意]我が背子が着ている衣は薄い。佐保風はひどくは吹くなよ。家に帰り着くまでは
#{語釈]
着る きありの略
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0980
#[題詞]安倍朝臣蟲麻呂月歌一首
#[原文]雨隠 三笠乃山乎 高御香裳 月乃不出来 夜者更降管
#[訓読]雨隠り御笠の山を高みかも月の出で来ぬ夜はくたちつつ
#[仮名],あまごもり,みかさのやまを,たかみかも,つきのいでこぬ,よはくたちつつ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:安倍虫麻呂,題詠,地名,奈良
#[訓異]
#[大意]雨に降り籠められて御笠の山が高いからだろうか。月が出て来ない。夜は更けて来ているのに
#{語釈]
安倍朝臣蟲麻呂 04/0665、672 坂上郎女との歌
雨隠り 三笠の枕詞
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0981
#[題詞]大伴坂上郎女月歌三首
#[原文]猟高乃 高圓山乎 高弥鴨 出来月乃 遅将光
#[訓読]狩高の高円山を高みかも出で来る月の遅く照るらむ
#[仮名],かりたかの,たかまとやまを,たかみかも,いでくるつきの,おそくてるらむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:坂上郎女,題詠,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]猟高の高円山が高いからだろうか。出てくる月が遅く照っているのだろう。
#{語釈]
狩高の 07/1070 鹿野園付近
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0982
#[題詞](大伴坂上郎女月歌三首)
#[原文]烏玉乃 夜霧立而 不清 照有月夜乃 見者悲沙
#[訓読]ぬばたまの夜霧の立ちておほほしく照れる月夜の見れば悲しさ
#[仮名],ぬばたまの,よぎりのたちて,おほほしく,てれるつくよの,みればかなしさ
#[左注]
#[校異]玉乃 [類][紀](塙) 玉
#[鄣W],雑歌,作者:坂上郎女,題詠,枕詞
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜霧が立ってぼんやりと照っている月夜を見るとしみじいとした感慨になる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0983
#[題詞](大伴坂上郎女月歌三首)
#[原文]山葉 左佐良榎<壮>子 天原 門度光 見良久之好藻
#[訓読]山の端のささら愛壮士天の原門渡る光見らくしよしも
#[仮名],やまのはの,ささらえをとこ,あまのはら,とわたるひかり,みらくしよしも
#[左注]右一首歌或云 月別名曰佐散良衣壮<士>也 縁此辞作此歌
#[校異]牡 -> 壮 [紀][温][矢] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 哥 / 此歌 [西] 此謌 / <> -> 士 [類][紀][細]
#[鄣W],雑歌,作者:坂上郎女,題詠,月
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]山の稜線のささらえ壮子よ。天の原の出入り口を渡る光を見るのは気持ちがいい。
ささら愛壮士 月。神話的発想に因っているか。
門 月が出てくる場所を天の原の門と見立てる。
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0984
#[題詞]豊前<國>娘子月歌一首 [娘子字曰大宅姓氏未詳也]
#[原文]雲隠 去方乎無跡 吾戀 月哉君之 欲見為流
#[訓読]雲隠り去方をなみと我が恋ふる月をや君が見まく欲りする
#[仮名],くもがくり,ゆくへをなみと,あがこふる,つきをやきみが,みまくほりする
#[左注]
#[校異]<> -> 國 [西(右書)][紀][細][温] / 歌 [西] 謌
#[鄣W],雑歌,作者:豊前国娘子,大宅,題詠,恋情,相聞
#[訓異]
#[大意]雲に隠れて行く方がわからなくなったとして自分が恋い思っている月をあなたは見たいと思うでしょうか。(何とも説明がつきません)
雲に隠れて行く方が分からなくなったとして私が恋しく思っている月をあなたも見たいと思っているのですか。
#{語釈]
月 相手の譬喩
#[説明]
遊行女婦の月の宴での歌か。
#[関連論文]
#[番号]06/0985
#[題詞]湯原王月歌二首
#[原文]天尓座 月讀<壮>子 幣者将為 今夜乃長者 五百夜継許増
#[訓読]天にます月読壮士賄はせむ今夜の長さ五百夜継ぎこそ
#[仮名],あめにます,つくよみをとこ,まひはせむ,こよひのながさ,いほよつぎこそ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 哥 / 牡 -> 壮 [紀][温][矢]
#[鄣W],雑歌,作者:湯原王,題詠,相聞
#[訓異]
#[大意]天にいる月読壮子に賄をしよう。だから今夜の長さ五百夜も継いで欲しい
#{語釈]
湯原王 志貴皇子の子
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0986
#[題詞](湯原王月歌二首)
#[原文]愛也思 不遠里乃 君来跡 大能備尓鴨 月之照有
#[訓読]はしきやし間近き里の君来むとおほのびにかも月の照りたる
#[仮名],はしきやし,まちかきさとの,きみこむと,おほのびにかも,つきのてりたる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:湯原王,題詠,恋情,相聞
#[訓異]
#[大意]愛しいことだ。すぐ近くの里のあなたが来るだろうと背伸びをして月が照っている。
#{語釈]
おほのび 未詳。大野辺、大伸びび、あまねくなどの解釈
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]06/0987
#[題詞]藤原八束朝臣月歌一首
#[原文]待難尓 余為月者 妹之著 三笠山尓 隠而有来
#[訓読]待ちかてに我がする月は妹が着る御笠の山に隠りてありけり
#[仮名],まちかてに,わがするつきは,いもがきる,みかさのやまに,こもりてありけり
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:藤原八束,題詠,恋情,相聞,比喩,奈良,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]待ちかねて自分がしている月は妹が着ている御笠の山に隠れているようだ
#{語釈]
#[説明]
三笠の山とあるのは、三笠山麓で詠んだもの。春日里か。
#[関連論文]