万葉集 巻第7
#[番号]07/1069
#[番号]07/1070
#[番号]07/1071
#[番号]07/1072
#[番号]07/1073
#[番号]07/1074
#[番号]07/1075
#[番号]07/1076
#[番号]07/1077
#[番号]07/1078
#[番号]07/1079
#[番号]07/1080
#[番号]07/1081
#[番号]07/1082
#[番号]07/1083
#[番号]07/1084
#[番号]07/1085
#[番号]07/1086
#[番号]07/1087
#[番号]07/1088
#[番号]07/1089
#[番号]07/1090
#[番号]07/1091
#[番号]07/1092
#[番号]07/1093
#[番号]07/1094
#[番号]07/1095
#[番号]07/1096
#[番号]07/1097
#[番号]07/1098
#[番号]07/1099
#[番号]07/1100
#[番号]07/1101
#[番号]07/1102
#[番号]07/1103
#[番号]07/1104
#[番号]07/1105
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#[番号]07/1107
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#[番号]07/1130
#[番号]07/1131
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#[番号]07/1133
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#[番号]07/1135
#[番号]07/1136
#[番号]07/1137
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#[番号]07/1139
#[番号]07/1140
#[番号]07/1141
#[番号]07/1142
#[番号]07/1143
#[番号]07/1144
#[番号]07/1145
#[番号]07/1146
#[番号]07/1147
#[番号]07/1068
#[題詞]雜歌 / 詠天
#[原文]天海丹 雲之波立 月船 星之林丹 榜隠所見
#[訓読]天の海に雲の波立ち月の舟星の林に漕ぎ隠る見ゆ
#[仮名],あめのうみに,くものなみたち,つきのふね,ほしのはやしに,こぎかくるみゆ
#[左注]右一首柿本朝臣人麻呂之歌集出
#[校異]歌 [西] 謌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体
#[訓異]
#[大意]天の海に雲の波が立ち月の舟が星の林に漕ぎ隠れるのが見える
#{語釈]
#[説明]
懐風藻 天武天皇 五言 詠月
#[関連論文]
#[題詞]詠月
#[原文]常者曽 不念物乎 此月之 過匿巻 惜夕香裳
#[訓読]常はさね思はぬものをこの月の過ぎ隠らまく惜しき宵かも
#[仮名],つねはさね,おもはぬものを,このつきの,すぎかくらまく,をしきよひかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]いつもは少しも恋い思わないものなのに、この月が夜空を過ぎて隠れることが惜しい今宵であることだ
#{語釈]
さね 全然 少しも
#[説明]
宴席でのお開きの歌か
#[関連論文]
#[題詞](詠月)
#[原文]大夫之 弓上振起 <猟>高之 野邊副清 照月夜可聞
#[訓読]大夫の弓末振り起し狩高の野辺さへ清く照る月夜かも
#[仮名],ますらをの,ゆずゑふりおこし,かりたかの,のへさへきよく,てるつくよかも
#[左注]
#[校異]借 -> 猟 [類]
#[鄣W],雑歌,高円山,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]大夫が弓末を振り起こして猟をするその狩高の野辺までも清らかに照らして照る月夜であることだ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠月)
#[原文]山末尓 不知夜歴月乎 将出香登 待乍居尓 夜曽降家類
#[訓読]山の端にいさよふ月を出でむかと待ちつつ居るに夜ぞ更けにける
#[仮名],やまのはに,いさよふつきを,いでむかと,まちつつをるに,よぞふけにける
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]山の端にたゆとうている月を出るだろうかと待ち続けているうちに夜が更けてしまったことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠月)
#[原文]明日之夕 将照月夜者 片因尓 今夜尓因而 夜長有
#[訓読]明日の宵照らむ月夜は片寄りに今夜に寄りて夜長くあらなむ
#[仮名],あすのよひ,てらむつくよは,かたよりに,こよひによりて,よながくあらなむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]明日の宵に照るであろう月は片方に今夜は寄って長く照っていて欲しい
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠月)
#[原文]玉垂之 小簾之間通 獨居而 見驗無 暮月夜鴨
#[訓読]玉垂の小簾の間通しひとり居て見る験なき夕月夜かも
#[仮名],たまだれの,をすのまとほし,ひとりゐて,みるしるしなき,ゆふつくよかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]玉が垂れるその簾の間を通って一人でいて見ても何の甲斐もない夕月夜であることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠月)
#[原文]春日山 押而照有 此月者 妹之庭母 清有家里
#[訓読]春日山おして照らせるこの月は妹が庭にもさやけくありけり
#[仮名],かすがやま,おしててらせる,このつきは,いもがにはにも,さやけくありけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,春日山,奈良,慕情,地名
#[訓異]
#[大意]春日山に一面に照らしているこの月は妹の庭にも清らかに照らしているだろう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠月)
#[原文]海原之 道遠鴨 月讀 明少 夜者更下乍
#[訓読]海原の道遠みかも月読の光少き夜は更けにつつ
#[仮名],うなはらの,みちとほみかも,つくよみの,ひかりすくなき,よはふけにつつ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]海原の道が遠いからなのか。月読の光が少ないことだ。夜は更けつつあるのに
#[大意]
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠月)
#[原文]百師木之 大宮人之 退出而 遊今夜之 月清左
#[訓読]ももしきの大宮人の罷り出て遊ぶ今夜の月のさやけさ
#[仮名],ももしきの,おほみやひとの,まかりでて,あそぶこよひの,つきのさやけさ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]ももしきの大宮人が宮中から退出して遊ぶ今夜の月の清けさよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠月)
#[原文]夜干玉之 夜渡月乎 将留尓 西山邊尓 <塞>毛有粳毛
#[訓読]ぬばたまの夜渡る月を留めむに西の山辺に関もあらぬかも
#[仮名],ぬばたまの,よわたるつきを,とどめむに,にしのやまへに,せきもあらぬかも
#[左注]
#[校異]塞 [西(上書訂正)][類][紀][細]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜渡る月を引き留めようから西の山辺に関所でもないだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠月)
#[原文]此月之 此間来者 且今跡香毛 妹之出立 待乍将有
#[訓読]この月のここに来たれば今とかも妹が出で立ち待ちつつあるらむ
#[仮名],このつきの,ここにきたれば,いまとかも,いもがいでたち,まちつつあるらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]この月がこの位置までやってくると今かと妹が門に出て待ち続けているだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠月)
#[原文]真十鏡 可照月乎 白妙乃 雲香隠流 天津霧鴨
#[訓読]まそ鏡照るべき月を白栲の雲か隠せる天つ霧かも
#[仮名],まそかがみ,てるべきつきを,しろたへの,くもかかくせる,あまつきりかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]まそ鏡照っているはずの月を白妙の雲が隠している。天の霧だろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠月)
#[原文]久方乃 天照月者 神代尓加 出反等六 年者經去乍
#[訓読]ひさかたの天照る月は神代にか出で反るらむ年は経につつ
#[仮名],ひさかたの,あまてるつきは,かむよにか,いでかへるらむ,としはへにつつ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]ひさかたの天に照る月は神代の昔に返っているのだろうか。年はずいぶんと経っているのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠月)
#[原文]烏玉之 夜渡月乎 𪫧怜 吾居袖尓 露曽置尓鷄類
#[訓読]ぬばたまの夜渡る月をおもしろみ我が居る袖に露ぞ置きにける
#[仮名],ぬばたまの,よわたるつきを,おもしろみ,わがをるそでに,つゆぞおきにける
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜渡っていく月が趣があるので自分が座っている袖に露が置いたことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠月)
#[原文]水底之 玉障清 可見裳 照月夜鴨 夜之深去者
#[訓読]水底の玉さへさやに見つべくも照る月夜かも夜の更けゆけば
#[仮名],みなそこの,たまさへさやに,みつべくも,てるつくよかも,よのふけゆけば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]水底の玉までもはっきりと見てしまうほど照る月であるよ。夜が更けていくと。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠月)
#[原文]霜雲入 為登尓可将有 久堅之 夜<渡>月乃 不見念者
#[訓読]霜曇りすとにかあるらむ久方の夜渡る月の見えなく思へば
#[仮名],しもぐもり,すとにかあるらむ,ひさかたの,よわたるつきの,みえなくおもへば
#[左注]
#[校異]度 -> 渡 [類][紀][温]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]霜曇りをするというのであろうか。久方の夜渡る月が見えないことを思うと
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠月)
#[原文]山末尓 不知夜經月乎 何時母 吾待将座 夜者深去乍
#[訓読]山の端にいさよふ月をいつとかも我は待ち居らむ夜は更けにつつ
#[仮名],やまのはに,いさよふつきを,いつとかも,わはまちをらむ,よはふけにつつ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,恋情
#[訓異]
#[大意]山の端にたゆとうている月をいつ出るとして自分は待っているのだろうか。夜は更けていくのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠月)
#[原文]妹之當 吾袖将振 木間従 出来月尓 雲莫棚引
#[訓読]妹があたり我が袖振らむ木の間より出で来る月に雲なたなびき
#[仮名],いもがあたり,わはそでふらむ,このまより,いでくるつきに,くもなたなびき
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,恋情
#[訓異]
#[大意]妹のあたりに自分は袖を振ろう。木の間より出てくる月に雲よたなびくなよ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠月)
#[原文]靱懸流 伴雄廣伎 大伴尓 國将榮常 月者照良思
#[訓読]靫懸くる伴の男広き大伴に国栄えむと月は照るらし
#[仮名],ゆきかくる,とものをひろき,おほともに,くにさかえむと,つきはてるらし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,寿歌
#[訓異]
#[大意]靫を懸ける伴の男たちが広くいる大伴の地に国は栄えるとして月は照るらしい
#{語釈]
広き 広く散らばっている 範囲の広い
大伴 難波の大伴
#[説明]
大伴と関係する氏族の宴か。
#[関連論文]
#[題詞]詠雲
#[原文]痛足河 々浪立奴 巻目之 由槻我高仁 雲居立有良志
#[訓読]穴師川川波立ちぬ巻向の弓月が岳に雲居立てるらし
#[仮名],あなしがは,かはなみたちぬ,まきむくの,ゆつきがたけに,くもゐたてるらし
#[左注](右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]立有 [細](塙) 立 / 志 [類][紀][温] 思
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,龍王山,奈良,非略体,地名
#[訓異]
#[大意]穴師川に川浪が立っている。巻向の弓月が岳に雲が立っているらしい
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠雲)
#[原文]足引之 山河之瀬之 響苗尓 弓月高 雲立渡
#[訓読]あしひきの山川の瀬の鳴るなへに弓月が岳に雲立ちわたる
#[仮名],あしひきの,やまがはのせの,なるなへに,ゆつきがたけに,くもたちわたる
#[左注]右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,龍王山,奈良,非略体,枕詞,地名
#[訓異]
#[大意]あしひきの山川の瀬の鳴るごとに弓月が岳に雲が立ち渡る
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠雲)
#[原文]大海尓 嶋毛不在尓 海原 絶塔浪尓 立有白雲
#[訓読]大海に島もあらなくに海原のたゆたふ波に立てる白雲
#[仮名],おほうみに,しまもあらなくに,うなはらの,たゆたふなみに,たてるしらくも
#[左注]右一首伊勢従駕作
#[校異]
#[鄣W],雑歌,伊勢,三重県,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]大海に島もないのに海原の揺らめいている波に立っている白雲よ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]詠雨
#[原文]吾妹子之 赤裳裙之 将染埿 今日之W霂尓 吾共所沾<名>
#[訓読]我妹子が赤裳の裾のひづちなむ今日の小雨に我れさへ濡れな
#[仮名],わぎもこが,あかものすその,ひづちなむ,けふのこさめに,われさへぬれな
#[左注]
#[校異]者 -> 名 [元][類][紀][温]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]我妹子の赤裳の裾もぐっしょり濡れているだろう今日の小雨に自分までも濡れたいものだ。
我妹子の赤裳の裾も今頃は濡れているだろうな。今日の小雨に自分も濡れて行こう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠雨)
#[原文]可融 雨者莫零 吾妹子之 形見之服 吾下尓著有
#[訓読]通るべく雨はな降りそ我妹子が形見の衣我れ下に着り
#[仮名],とほるべく,あめはなふりそ,わぎもこが,かたみのころも,あれしたにけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]下着まで通るほどに雨は降るなよ。我妹子の形見の衣を自分は下に着ているのだから
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]詠山
#[原文]動神之 音耳聞 巻向之 桧原山乎 今日見鶴鴨
#[訓読]鳴る神の音のみ聞きし巻向の桧原の山を今日見つるかも
#[仮名],なるかみの,おとのみききし,まきむくの,ひはらのやまを,けふみつるかも
#[左注](右三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,巻向,奈良,非略体,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]鳴る神の音にばかり聞いていた巻向の桧原の山を今日見たことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠山)
#[原文]三毛侶之 其山奈美尓 兒等手乎 巻向山者 継之宜霜
#[訓読]三諸のその山なみに子らが手を巻向山は継ぎしよろしも
#[仮名],みもろの,そのやまなみに,こらがてを,まきむくやまは,つぎしよろしも
#[左注](右三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,巻向,奈良,非略体,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]三諸のその山の姿にあの子の手を枕とする巻向山は続いているのがよいことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠山)
#[原文]我衣 色<取>染 味酒 三室山 黄葉為在
#[訓読]我が衣色取り染めむ味酒三室の山は黄葉しにけり
#[仮名],あがころも,いろどりそめむ,うまさけ,みむろのやまは,もみちしにけり
#[左注]右三首柿本朝臣人麻呂之歌集出
#[校異]服 -> 取 (塙) / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,三輪山,奈良,略体,地名,枕詞,季節
#[訓異]
#[大意]我が衣を彩って染めよう。味酒三室の山は紅葉したことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠山)
#[原文]三諸就 三輪山見者 隠口乃 始瀬之桧原 所念鴨
#[訓読]三諸つく三輪山見れば隠口の泊瀬の桧原思ほゆるかも
#[仮名],みもろつく,みわやまみれば,こもりくの,はつせのひはら,おもほゆるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,三輪山,奈良,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]三諸が降臨する三輪山を見ると隠口の泊瀬の桧原を思わずにはいられないことだ
#{語釈]
#[説明]
泊瀬の桧原を知っている人を念頭に置いての宴歌
三輪山から初瀬にかけて桧林が広がっていたと見るべきか
#[関連論文]
#[題詞](詠山)
#[原文]昔者之 事波不知乎 我見而毛 久成奴 天之香具山
#[訓読]いにしへのことは知らぬを我れ見ても久しくなりぬ天の香具山
#[仮名],いにしへの,ことはしらぬを,われみても,ひさしくなりぬ,あめのかぐやま
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,香具山,飛鳥,地名
#[訓異]
#[大意]昔のことは知らないが自分が見てからも時が経った天の香具山よ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠山)
#[原文]吾勢子乎 乞許世山登 人者雖云 君毛不来益 山之名尓有之
#[訓読]我が背子をこち巨勢山と人は言へど君も来まさず山の名にあらし
#[仮名],わがせこを,こちこせやまと,ひとはいへど,きみもきまさず,やまのなにあらし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]我が背子をこちらへ来させるという巨勢の山だと人は言うけれども、君もいらっしゃらない。ただ山の名前だけのようだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠山)
#[原文]木道尓社 妹山在云 <玉>櫛上 二上山母 妹許曽有来
#[訓読]紀道にこそ妹山ありといへ玉櫛笥二上山も妹こそありけれ
#[仮名],きぢにこそ,いもやまありといへ,たまくしげ,ふたかみやまも,いもこそありけれ
#[左注]
#[校異]<> -> 玉 [万葉考]
#[鄣W],雑歌,二上山,地名,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]紀州時にこそ妹山はあるというが、玉櫛笥二上山も妹こそあるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]詠岳
#[原文]片岡之 此向峯 椎蒔者 今年夏之 陰尓将<化>疑
#[訓読]片岡のこの向つ峰に椎蒔かば今年の夏の蔭にならむか
#[仮名],かたをかの,このむかつをに,しひまかば,ことしのなつの,かげにならむか
#[左注]
#[校異]比 -> 化 [万葉集古義]
#[鄣W],雑歌,王寺町,香芝町,奈良,地名
#[訓異]
#[大意]片岡のこの向かい側の峰に椎を蒔くと、今年の夏の木陰になるだろうか
#{語釈]
#[説明]
寓意があると見られるが、不明。
「この」という臨場表現があるので、宴席の時に今からあの女性に声を掛けたら夏ぐらいに恋が成就するだろうかという戯れた歌か
#[関連論文]
#[題詞]詠河
#[原文]巻向之 病足之川由 徃水之 絶事無 又反将見
#[訓読]巻向の穴師の川ゆ行く水の絶ゆることなくまたかへり見む
#[仮名],まきむくの,あなしのかはゆ,ゆくみづの,たゆることなく,またかへりみむ
#[左注](右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]病 [類][古][紀] 痛
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,巻向,奈良,非略体,地名,恋情
#[訓異]
#[大意]巻向の穴師の川を通って流れていく水が途絶えないように途絶えることなくまた返り見よう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠河)
#[原文]黒玉之 夜去来者 巻向之 川音高之母 荒足鴨疾
#[訓読]ぬばたまの夜さり来れば巻向の川音高しもあらしかも疾き
#[仮名],ぬばたまの,よるさりくれば,まきむくの,かはとたかしも,あらしかもとき
#[左注]右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,巻向,奈良,非略体,地名,枕詞
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜がやってくると巻向の川音が高い。嵐が激しいのであろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠河)
#[原文]大王之 御笠山之 帶尓為流 細谷川之 音乃清也
#[訓読]大君の御笠の山の帯にせる細谷川の音のさやけさ
#[仮名],おほきみの,みかさのやまの,おびにせる,ほそたにがはの,おとのさやけさ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,三笠山,奈良,地名,枕詞,叙景,土地讃美
#[訓異]
#[大意]大君の三笠の山の帯にしている細谷川の音のさやかなことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠河)
#[原文]今敷者 見目屋跡念之 三芳野之 大川余杼乎 今日見鶴鴨
#[訓読]今しくは見めやと思ひしみ吉野の大川淀を今日見つるかも
#[仮名],いましくは,みめやとおもひし,みよしのの,おほかはよどを,けふみつるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,吉野,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]今しばらくは見ることがあるだろうかと思っていたみ吉野の大川の淀を今日見たことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠河)
#[原文]馬並而 三芳野河乎 欲見 打越来而曽 瀧尓遊鶴
#[訓読]馬並めてみ吉野川を見まく欲りうち越え来てぞ瀧に遊びつる
#[仮名],うまなめて,みよしのがはを,みまくほり,うちこえきてぞ,たきにあそびつる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,吉野,地名
#[訓異]
#[大意]馬を並べてみ吉野川を見たいと思い山を越えて来て急流に遊んでいることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠河)
#[原文]音聞 目者末見 吉野川 六田之与杼乎 今日見鶴鴨
#[訓読]音に聞き目にはいまだ見ぬ吉野川六田の淀を今日見つるかも
#[仮名],おとにきき,めにはいまだみぬ,よしのがは,むつたのよどを,けふみつるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,吉野,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]うわさに聞いてばかりいて目にはまだ見ていない吉野川よ。六田の淀を今日見たことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠河)
#[原文]河豆鳴 清川原乎 今日見而者 何時可越来而 見乍偲食
#[訓読]かはづ鳴く清き川原を今日見てはいつか越え来て見つつ偲はむ
#[仮名],かはづなく,きよきかはらを,けふみては,いつかこえきて,みつつしのはむ
#[左注]
#[校異]河 [類][紀](塙) 川
#[鄣W],雑歌,動物
#[訓異]
#[大意]かわづが鳴く清らかな川原を今日見てはまたいつの日か越えて来て見ては賞美しよう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠河)
#[原文]泊瀬川 白木綿花尓 堕多藝都 瀬清跡 見尓来之吾乎
#[訓読]泊瀬川白木綿花に落ちたぎつ瀬をさやけみと見に来し我れを
#[仮名],はつせがは,しらゆふはなに,おちたぎつ,せをさやけみと,みにこしわれを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,初瀬,奈良,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]初瀬川白木綿花のように落ち流れる早瀬がさやかだとして見に来た自分なのだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠河)
#[原文]泊瀬川 流水尾之 湍乎早 井提越浪之 音之清久
#[訓読]泊瀬川流るる水脈の瀬を早みゐで越す波の音の清けく
#[仮名],はつせがは,ながるるみをの,せをはやみ,ゐでこすなみの,おとのきよけく
#[左注]
#[校異]提 [西(貼紙訂正)] 堤
#[鄣W],雑歌,初瀬,奈良,土地讃美,地名
#[訓異]
#[大意]初瀬川流れる水脈の瀬が速いので堰を越える波の音の清らかなことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠河)
#[原文]佐桧乃熊 桧隅川之 瀬乎早 君之手取者 将縁言毳
#[訓読]さ桧の隈桧隈川の瀬を早み君が手取らば言寄せむかも
#[仮名],さひのくま,ひのくまがはの,せをはやみ,きみがてとらば,ことよせむかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,飛鳥,恋愛,地名
#[訓異]
#[大意]さ桧の隈の桧隈川の瀬が速いのであなたの手を取ったらいろいろと世間では噂をするでしょうか
#{語釈]
言寄せむかも 言葉を寄せる うわさをする
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠河)
#[原文]湯種蒔 荒木之小田矣 求跡 足結出所沾 此水之湍尓
#[訓読]ゆ種蒔くあらきの小田を求めむと足結ひ出で濡れぬこの川の瀬に
#[仮名],ゆだねまく,あらきのをだを,もとめむと,あゆひいでぬれぬ,このかはのせに
#[左注]
#[校異]出 [万葉集略解] 出 / 河 [類][紀](塙) 川
#[鄣W],雑歌,比喩,恋愛
#[訓異]
#[大意]神聖な種を蒔く新しく開墾した田を探そうとして足結をして出かけたが濡れてしまった。この川の早瀬に
#{語釈]
この川の瀬に 歌の並びからして「この川」は桧隈川か
#[説明]何かの譬喩か。女を捜しに行って邪魔が入った。
全注 齋種とあるので、新田開発で川の水量が豊富なことを誉めた歌
#[関連論文]
#[題詞](詠河)
#[原文]古毛 如此聞乍哉 偲兼 此古河之 清瀬之音矣
#[訓読]いにしへもかく聞きつつか偲ひけむこの布留川の清き瀬の音を
#[仮名],いにしへも,かくききつつか,しのひけむ,このふるがはの,きよきせのとを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,天理,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]その昔もこのように聞きながら誉め称えたのだろう。この布留川の清らかな瀬の音を
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠河)
#[原文]波祢蘰 今為妹乎 浦若三 去来率去河之 音之清左
#[訓読]はねかづら今する妹をうら若みいざ率川の音のさやけさ
#[仮名],はねかづら,いまするいもを,うらわかみ,いざいさかはの,おとのさやけさ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,奈良,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]はねかづらを今している妹がうら若いのでいざ誘う率川の音のさやかなことだ
#{語釈]
はねかづら 04/0405
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠河)
#[原文]此小川 白氣結 瀧至 八信井上尓 事上不為友
#[訓読]この小川霧ぞ結べるたぎちゆく走井の上に言挙げせねども
#[仮名],このをがは,きりぞむすべる,たぎちたる,はしりゐのへに,ことあげせねども
#[左注]
#[校異]瀧 [元][類][古] 流
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]この小川に霧が立ち込めている。激しく流れていく流れの中の水くみ場に言挙げはしないけれども
#{語釈]
霧 神の出現で二人の将来の約束を予言すると見た物
走り井 勢いよく吹き出る泉。ここは川の激しい流れで水が上がっている堰のことか
言挙げ 二人の将来の誓い
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠河)
#[原文]吾紐乎 妹手以而 結八川 又還見 万代左右荷
#[訓読]我が紐を妹が手もちて結八川またかへり見む万代までに
#[仮名],わがひもを,いもがてもちて,ゆふやがは,またかへりみむ,よろづよまでに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,序詞,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]自分の服の紐を妹の手で以て結ぶという結八川よ。また戻ってきてみよう。いつまでも
#{語釈]
結八川 所在未詳。次の歌から吉野川のことか。
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠河)
#[原文]妹之紐 結八<河>内乎 古之 并人見等 此乎誰知
#[訓読]妹が紐結八河内をいにしへのみな人見きとここを誰れ知る
#[仮名],いもがひも,ゆふやかふちを,いにしへの,みなひとみきと,ここをたれしる
#[左注]
#[校異]川 -> 河 [元][類][古][紀]
#[鄣W],雑歌,序詞,土地讃美,地名
#[訓異]
#[大意]妹の紐を結ぶ結八川の河内を昔の人がみんな見たとここを誰が知ろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]詠露
#[原文]烏玉之 吾黒髪尓 落名積 天之露霜 取者消乍
#[訓読]ぬばたまの我が黒髪に降りなづむ天の露霜取れば消につつ
#[仮名],ぬばたまの,わがくろかみに,ふりなづむ,あめのつゆしも,とればけにつつ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,枕詞
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの我が黒髪に降りかかっている天の露霜を手で振り払うと消えるが
#{語釈]
降りなづむ 地上に降るのに途中で自分の髪に引っかかる
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]詠花
#[原文]嶋廻為等 礒尓見之花 風吹而 波者雖縁 不取不止
#[訓読]島廻すと磯に見し花風吹きて波は寄すとも採らずはやまじ
#[仮名],しまみすと,いそにみしはな,かぜふきて,なみはよすとも,とらずはやまじ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌
#[訓異]
#[大意]島をめぐるとして磯に咲く花を風が吹い波は寄せるといても採らないではすまされないよて
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]詠葉
#[原文]古尓 有險人母 如吾等架 弥和乃桧原尓 挿頭折兼
#[訓読]いにしへにありけむ人も我がごとか三輪の桧原にかざし折りけむ
#[仮名],いにしへに,ありけむひとも,わがごとか,みわのひはらに,かざしをりけむ
#[左注](右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,三輪山,奈良,非略体,地名,悲嘆
#[訓異]
#[大意]昔いた人も自分のように三輪の桧原で頭にかざして折ったのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠葉)
#[原文]徃川之 過去人之 手不折者 裏觸立 三和之桧原者
#[訓読]行く川の過ぎにし人の手折らねばうらぶれ立てり三輪の桧原は
#[仮名],ゆくかはの,すぎにしひとの,たをらねば,うらぶれたてり,みわのひはらは
#[左注]右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,三輪山,奈良,非略体,地名,悲嘆
#[訓異]
#[大意]流れ行く川のように亡くなってしまった人が手折らないのでしょんぼりとして立っていることだ。三輪の桧原は。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]詠蘿
#[原文]三芳野之 青根我峯之 蘿席 誰将織 經緯無二
#[訓読]み吉野の青根が岳の蘿むしろ誰れか織りけむ経緯なしに
#[仮名],みよしのの,あをねがたけの,こけむしろ,たれかおりけむ,たてぬきなしに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,吉野,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]み吉野の青根が岳の苔の蓆は誰が織ったのだろうか。縦糸も横糸もなくて
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]詠草
#[原文]妹<等所> 我通路 細竹為酢寸 我通 靡細竹原
#[訓読]妹らがり我が通ひ道の小竹すすき我れし通はば靡け小竹原
#[仮名],いもらがり,わがかよひぢの,しのすすき,われしかよはば,なびけしのはら
#[左注]
#[校異]所等 -> 等所
#[鄣W],雑歌,植物,恋情
#[訓異]
#[大意]妹のもとへ自分が通う道の篠竹や薄よ。自分が通っている時は靡けよ。篠原よ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]詠鳥
#[原文]山際尓 渡秋沙乃 <行>将居 其河瀬尓 浪立勿湯目
#[訓読]山の際に渡るあきさの行きて居むその川の瀬に波立つなゆめ
#[仮名],やまのまに,わたるあきさの,ゆきてゐむ,そのかはのせに,なみたつなゆめ
#[左注]
#[校異]徃 -> 行 [類][紀]
#[鄣W],雑歌,動物,序詞
#[訓異]
#[大意]山の間際に渡るあきさが飛んでいって留まるであろうその川の早瀬に波は立つなよ決して。
#{語釈]
あきさ 鴨に似ていて少し小さい水鳥。万葉集中この一例
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠鳥)
#[原文]佐保河之 清河原尓 鳴<知>鳥 河津跡二 忘金都毛
#[訓読]佐保川の清き川原に鳴く千鳥かはづと二つ忘れかねつも
#[仮名],さほがはの,きよきかはらに,なくちどり,かはづとふたつ,わすれかねつも
#[左注]
#[校異]智 -> 知 [類][紀][細]
#[鄣W],雑歌,奈良,地名,動物,恋情
#[訓異]
#[大意]佐保川の清らかな河原で鳴く千鳥よ。蛙と二つは忘れることは出来ないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](詠鳥)
#[原文]佐保<川>尓 小驟千鳥 夜三更而 尓音聞者 宿不難尓
#[訓読]佐保川に騒ける千鳥さ夜更けて汝が声聞けば寐ねかてなくに
#[仮名],さほがはに,さわけるちどり,さよふけて,ながこゑきけば,いねかてなくに
#[左注]
#[校異]河 -> 川 [類][紀][温]
#[鄣W],雑歌,奈良,動物,地名,恋情
#[訓異]
#[大意]佐保川に鳴き騒いでいる千鳥よ。夜更けにお前の声を聞くと寝ることが出来ないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]思故郷
#[原文]清湍尓 千鳥妻喚 山際尓 霞立良武 甘南備乃里
#[訓読]清き瀬に千鳥妻呼び山の際に霞立つらむ神なびの里
#[仮名],きよきせに,ちどりつまよび,やまのまに,かすみたつらむ,かむなびのさと
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,飛鳥,地名,動物
#[訓異]
#[大意]清らかな瀬に千鳥が妻を呼び、山の間際には霞が立っているであろう神南備の里よ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](思故郷)
#[原文]年月毛 末經尓 明日香<川> 湍瀬由渡之 石走無
#[訓読]年月もいまだ経なくに明日香川瀬々ゆ渡しし石橋もなし
#[仮名],としつきも,いまだへなくに,あすかがは,せぜゆわたしし,いしはしもなし
#[左注]
#[校異]河 -> 川 [類][紀][古][紀]
#[鄣W],雑歌,飛鳥,地名
#[訓異]
#[大意]都が遷ってから年月もそれほど経っていないのに明日香川の早瀬毎に渡してあった石橋もなくなっていることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]詠井
#[原文]隕田寸津 走井水之 清有者 <癈>者吾者 去不勝可聞
#[訓読]落ちたぎつ走井水の清くあれば置きては我れは行きかてぬかも
#[仮名],おちたぎつ,はしりゐみづの,きよくあれば,おきてはわれは,ゆきかてぬかも
#[左注]
#[校異]度 -> 癈 [元][類][古]
#[鄣W],雑歌,地名
#[訓異]
#[大意]落ちて激しく泡を立てている水が走っている流れている井戸の水が清らかであるので自分は後にして過ぎ去ることが出来ないことだ
#{語釈]
#[説明]
旅先で井戸の清らかさを讃美したもの
#[関連論文]
#[題詞](詠井)
#[原文]安志妣成 榮之君之 穿之井之 石井之水者 雖飲不飽鴨
#[訓読]馬酔木なす栄えし君が掘りし井の石井の水は飲めど飽かぬかも
#[仮名],あしびなす,さかえしきみが,ほりしゐの,いしゐのみづは,のめどあかぬかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,地名
#[訓異]
#[大意]馬酔木のように元気だったあなたが掘った井戸の石で囲まれた井戸は飲んでも飽きないことだ
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]詠<倭>琴
#[原文]琴取者 嘆先立 盖毛 琴之下樋尓 嬬哉匿有
#[訓読]琴取れば嘆き先立つけだしくも琴の下樋に妻や隠れる
#[仮名],こととれば,なげきさきだつ,けだしくも,ことのしたびに,つまやこもれる
#[左注]
#[校異]和 -> 倭 [元][類][紀][温]
#[鄣W],雑歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]琴を手に取ると嘆きが先立つ。もしかしたら琴の底の樋に妻がこもっているのか
#{語釈]
#[説明]
琴は神の降臨の道具。神が隠るものとされていたので、その考えが背景にある。
#[関連論文]
#[題詞]芳野作
#[原文]神左振 磐根己凝敷 三芳野之 水分山乎 見者悲毛
#[訓読]神さぶる岩根こごしきみ吉野の水分山を見れば悲しも
#[仮名],かむさぶる,いはねこごしき,みよしのの,みくまりやまを,みればかなしも
#[左注]
#[校異]凝 [類][古][紀] 疑
#[鄣W],雑歌,吉野,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]神々しい磐根がごつごつしているみ吉野の水分山を見ると何とも言えない気持ちになる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](芳野作)
#[原文]皆人之 戀三<芳>野 今日見者 諾母戀来 山川清見
#[訓読]皆人の恋ふるみ吉野今日見ればうべも恋ひけり山川清み
#[仮名],みなひとの,こふるみよしの,けふみれば,うべもこひけり,やまかはきよみ
#[左注]
#[校異]吉 -> 芳 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,吉野,羈旅,地名,恋情,土地讃美
#[訓異]
#[大意]みんな人が恋い思うみ吉野よ。今日見るとなるほど恋い思うのももっともだ。山川が清らかなので
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](芳野作)
#[原文]夢乃和太 事西在来 寤毛 見而来物乎 念四念者
#[訓読]夢のわだ言にしありけりうつつにも見て来るものを思ひし思へば
#[仮名],いめのわだ,ことにしありけり,うつつにも,みてけるものを,おもひしおもへば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,吉野,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]夢のわだは名前だけであったよ。実際に見たのだから。ずっと思い続けてきたものだから
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](芳野作)
#[原文]皇祖神之 神宮人 冬薯蕷葛 弥常敷尓 吾反将見
#[訓読]すめろきの神の宮人ところづらいやとこしくに我れかへり見む
#[仮名],すめろきの,かみのみやひと,ところづら,いやとこしくに,われかへりみむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,吉野,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]皇祖の神の代からの宮人が、ところ葛のようにいつまでもやってくるように自分も何度もやってきて見よう
#{語釈]
ところづら 山芋の一種。蔓性のものなのでいつまでもなどにかかる枕詞。
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](芳野作)
#[原文]能野川 石迹柏等 時齒成 吾者通 万世左右二
#[訓読]吉野川巌と栢と常磐なす我れは通はむ万代までに
#[仮名],よしのがは,いはとかしはと,ときはなす,われはかよはむ,よろづよまでに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,吉野,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]吉野川の岩と柏の木が永遠に変わらないであるように自分は変わらずに通おう。万代までも
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]山背作
#[原文]氏河齒 与杼湍無之 阿自呂人 舟召音 越乞所聞
#[訓読]宇治川は淀瀬なからし網代人舟呼ばふ声をちこち聞こゆ
#[仮名],うぢがはは,よどせなからし,あじろひと,ふねよばふこゑ,をちこちきこゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,京都,羈旅,地名,叙景
#[訓異]
#[大意]宇治川は淀も早瀬もないらしい。網代を作る人が舟を呼び合う声があちらこちらで聞こえる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](山背作)
#[原文]氏河尓 生菅藻乎 河早 不取来尓家里 褁為益緒
#[訓読]宇治川に生ふる菅藻を川早み採らず来にけりつとにせましを
#[仮名],うぢがはに,おふるすがもを,かははやみ,とらずきにけり,つとにせましを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,京都,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]宇治川に生える菅藻を川が早いので採らないで来たことだ。みやげにしようと思っていたのに
#{語釈]
菅藻 未詳
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](山背作)
#[原文]氏人之 譬乃足白 吾在者 今齒<与>良増 木積不来友
#[訓読]宇治人の譬への網代我れならば今は寄らまし木屑来ずとも
#[仮名],うぢひとの,たとへのあじろ,われならば,いまはよらまし,こつみこずとも
#[左注]
#[校異]王 -> 与 [万葉集略解] (塙[古義による]) 生
#[鄣W],雑歌,京都,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]宇治の人を喩える網代に自分だったならば今は寄るのに。木屑が来なくとも
#{語釈]
#[説明]
何かの譬喩か
#[関連論文]
#[題詞](山背作)
#[原文]氏河乎 船令渡呼跡 雖喚 不所聞有之 楫音毛不為
#[訓読]宇治川を舟渡せをと呼ばへども聞こえざるらし楫の音もせず
#[仮名],うぢがはを,ふねわたせをと,よばへども,きこえざるらし,かぢのともせず
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,京都,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]宇治川を舟を渡してくれと呼び合うが聞こえないらしい。楫の音もしない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](山背作)
#[原文]千早人 氏川浪乎 清可毛 旅去人之 立難為
#[訓読]ちはや人宇治川波を清みかも旅行く人の立ちかてにする
#[仮名],ちはやひと,うぢがはなみを,きよみかも,たびゆくひとの,たちかてにする
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,京都,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]勇猛な人のような宇治川の川浪が清らかであるからだろうか。旅に行く人が立ちづらそうにする
#{語釈]
ちはや人 勇猛な行動力のある人。宇治川の川の流れに喩えた枕詞
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]攝津作
#[原文]志長鳥 居名野乎来者 有間山 夕霧立 宿者無<而> [一本云 猪名乃浦廻乎 榜来者]
#[訓読]しなが鳥猪名野を来れば有馬山夕霧立ちぬ宿りはなくて [一本云 猪名の浦みを漕ぎ来れば]
#[仮名],しながどり,ゐなのをくれば,ありまやま,ゆふぎりたちぬ,やどりはなくて,[ゐなのうらみを,こぎくれば]
#[左注]
#[校異]為 -> 而 [元][類][紀]
#[鄣W],雑歌,兵庫,大阪,羈旅,動物,地名
#[訓異]
#[大意]しなが鳥の猪名野を来ると有間山に夕霧が立っている。泊まる所はないのに
#{語釈]
しなが鳥 かいつぶり におとり 雄雌でいることから率るの「い」にかかる枕詞
猪名野 兵庫県伊丹市 猪名川両岸
有間山 兵庫県神戸市兵庫区有馬町有馬温泉
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](攝津作)
#[原文]武庫河 水尾急<> 赤駒 足何久激 沾祁流鴨
#[訓読]武庫川の水脈を早みと赤駒の足掻くたぎちに濡れにけるかも
#[仮名],むこがはの,みををはやみと,あかごまの,あがくたぎちに,ぬれにけるかも
#[左注]
#[校異]嘉 -> <> [元][類]
#[鄣W],雑歌,兵庫,大阪,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]武庫川の流れが早いので赤馬の足掻く泡に濡れてしまったことだ
#{語釈]
兵庫県武庫川 尼崎市 西宮市
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](攝津作)
#[原文]命 幸久吉 石流 垂水々乎 結飲都
#[訓読]命をし幸くよけむと石走る垂水の水をむすびて飲みつ
#[仮名],いのちをし,さきくよけむと,いはばしる,たるみのみづを,むすびてのみつ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]命が無事であってくれと石の上を走るように流れる瀧の水を手ですくって飲んだことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](攝津作)
#[原文]作夜深而 穿江水手鳴 松浦船 梶音高之 水尾早見鴨
#[訓読]さ夜更けて堀江漕ぐなる松浦舟楫の音高し水脈早みかも
#[仮名],さよふけて,ほりえこぐなる,まつらぶね,かぢのおとたかし,みをはやみかも
#[左注]
#[校異]船 [類][古][温] 舟
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名,叙景
#[訓異]
#[大意]夜が更けて堀江を漕いでいる松浦舟の楫の音が高く聞こえる。流れが速いからだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](攝津作)
#[原文]悔毛 満奴流塩鹿 墨江之 岸乃浦廻従 行益物乎
#[訓読]悔しくも満ちぬる潮か住吉の岸の浦廻ゆ行かましものを
#[仮名],くやしくも,みちぬるしほか,すみのえの,きしのうらみゆ,ゆかましものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]悔しいことに満ちてくる潮か。住吉の岸の浦をめぐって行こうものなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](攝津作)
#[原文]為妹 貝乎拾等 陳奴乃海尓 所沾之袖者 雖涼常不干
#[訓読]妹がため貝を拾ふと茅渟の海に濡れにし袖は干せど乾かず
#[仮名],いもがため,かひをひりふと,ちぬのうみに,ぬれにしそでは,ほせどかわかず
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]妹のために貝を拾うとして茅渟の海に濡れた袖は干しても乾かない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](攝津作)
#[原文]目頬敷 人乎吾家尓 住吉之 岸乃黄土 将見因毛欲得
#[訓読]めづらしき人を我家に住吉の岸の埴生を見むよしもがも
#[仮名],めづらしき,ひとをわぎへに,すみのえの,きしのはにふを,みむよしもがも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]いとしい人を我が家に住まわせるその住吉の岸の埴生を見る手だてもあればなあ
#{語釈]
めづらしき人 誉め称えるべき人、通ってくるいとしい男
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](攝津作)
#[原文]暇有者 拾尓将徃 住吉之 岸因云 戀忘貝
#[訓読]暇あらば拾ひに行かむ住吉の岸に寄るといふ恋忘れ貝
#[仮名],いとまあらば,ひりひにゆかむ,すみのえの,きしによるといふ,こひわすれがひ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],雑歌,大阪,羈旅,地名,動物
#[訓異]
#[大意]時間があったら拾いに行こう住吉の岸に寄るという恋いを忘れた貝を
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]