万葉集 巻第8
#[番号]08/1419
#[番号]08/1420
#[番号]08/1421
#[番号]08/1422
#[番号]08/1423
#[番号]08/1424
#[番号]08/1425
#[番号]08/1426
#[番号]08/1427
#[番号]08/1428
#[番号]08/1429
#[番号]08/1430
#[番号]08/1431
#[番号]08/1432
#[番号]08/1433
#[番号]08/1434
#[番号]08/1435
#[番号]08/1436
#[番号]08/1437
#[番号]08/1438
#[番号]08/1439
#[番号]08/1440
#[番号]08/1441
#[番号]08/1442
#[番号]08/1443
#[番号]08/1444
#[番号]08/1445
#[番号]08/1446
#[番号]08/1447
#[番号]08/1448
#[番号]08/1449
#[番号]08/1450
#[番号]08/1451
#[番号]08/1452
#[番号]08/1453
#[番号]08/1454
#[番号]08/1455
#[番号]08/1456
#[番号]08/1457
#[番号]08/1458
#[番号]08/1459
#[番号]08/1460
#[番号]08/1461
#[番号]08/1462
#[番号]08/1463
#[番号]08/1464
#[番号]08/1465
#[番号]08/1466
#[番号]08/1467
#[番号]08/1468
#[番号]08/1469
#[番号]08/1470
#[番号]08/1471
#[番号]08/1472
#[番号]08/1473
#[番号]08/1474
#[番号]08/1475
#[番号]08/1476
#[番号]08/1477
#[番号]08/1478
#[番号]08/1479
#[番号]08/1480
#[番号]08/1481
#[番号]08/1482
#[番号]08/1483
#[番号]08/1484
#[番号]08/1485
#[番号]08/1486
#[番号]08/1487
#[番号]08/1488
#[番号]08/1489
#[番号]08/1490
#[番号]08/1491
#[番号]08/1492
#[番号]08/1493
#[番号]08/1494
#[番号]08/1495
#[番号]08/1496
#[番号]08/1497
#[番号]08/1418
#[題詞]春雜歌 / 志貴皇子懽御歌一首
#[原文]石激 垂見之上乃 左和良妣乃 毛要出春尓 成来鴨
#[訓読]石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも
#[仮名],いはばしる,たるみのうへの,さわらびの,もえいづるはるに,なりにけるかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 激 [類] 灑
#[鄣W],春雑歌,作者:志貴皇子,喜び,植物
#[訓異]
#[大意]岩の上を走るように流れる瀧のほとりの早蕨の芽が出てくる春になったことである。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]鏡王女歌一首
#[原文]神奈備乃 伊波瀬乃社之 喚子鳥 痛莫鳴 吾戀益
#[訓読]神なびの石瀬の社の呼子鳥いたくな鳴きそ我が恋まさる
#[仮名],かむなびの,いはせのもりの,よぶこどり,いたくななきそ,あがこひまさる
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春雑歌,作者:鏡王女,恋情,慕情,奈良,斑鳩町,地名,動物,枕詞
#[訓異]
#[大意]紙奈備の石瀬の杜の呼子鳥よ。ひどくは鳴くなよ。自分は恋い思うことがまさってくるから
#{語釈]
鏡王女 額田王の姉か。02/0092,0093 04/0489
石瀬の社 奈良県生駒郡斑鳩町 奈良県生駒郡三郷町立野 未詳
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]駿河釆女歌一首
#[原文]沫雪香 薄太礼尓零登 見左右二 流倍散波 何物之花其毛
#[訓読]沫雪かはだれに降ると見るまでに流らへ散るは何の花ぞも
#[仮名],あわゆきか,はだれにふると,みるまでに,ながらへちるは,なにのはなぞも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春雑歌,作者:駿河釆女,雪
#[訓異]
#[大意]沫雪がはだれに降ると見るまでに流れてくるのは何の花なのだろうか。
#{語釈]
駿河釆女 駿河出身の采女
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]尾張連歌二首 [名闕]
#[原文],春山之 開乃乎為<里>尓 春菜採 妹之白紐 見九四与四門
#[訓読]春山の咲きのををりに春菜摘む妹が白紐見らくしよしも
#[仮名],はるやまの,さきのををりに,はるなつむ,いもがしらひも,みらくしよしも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 黒 -> 里 [万葉考]
#[鄣W],春雑歌,作者:尾張連,野遊び,菜摘み,恋情,妻問い
#[訓異]
#[大意]春の山の花が咲きたわんでいる中で春菜を摘んでいる妹の白紐を見るのはよいことだ
#{語釈]
尾張連 未詳
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](尾張連歌二首 [名闕])
#[原文]打<靡> 春来良之 山際 遠木末乃 開徃見者
#[訓読]うち靡く春来るらし山の際の遠き木末の咲きゆく見れば
#[仮名],うちなびく,はるきたるらし,やまのまの,とほきこぬれの,さきゆくみれば
#[左注]
#[校異]麾 -> 靡 [類][紀][細]
#[鄣W],春雑歌,作者:尾張連,花,山遊び,野遊び,叙景
#[訓異]
#[大意]みんな春風に靡く春がやって来たらしい。山の間の遠い梢に花が咲いて来るのを見ると
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]中納言阿倍廣庭卿歌一首
#[原文]去年春 伊許自而殖之 吾屋外之 若樹梅者 花咲尓家里
#[訓読]去年の春いこじて植ゑし我がやどの若木の梅は花咲きにけり
#[仮名],こぞのはる,いこじてうゑし,わがやどの,わかきのうめは,はなさきにけり
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春雑歌,作者:阿倍広庭,植物
#[訓異]
#[大意]去年の春に根こそぎ植えた我が家の若木の梅は花が咲いたことだ
#{語釈]
中納言阿倍廣庭 03/0302 右大臣御主人の子 神亀四年中納言。天平四年薨去。七四歳
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]山部宿祢赤人歌四首
#[原文]春野尓 須美礼採尓等 来師吾曽 野乎奈都可之美 一夜宿二来
#[訓読]春の野にすみれ摘みにと来し我れぞ野をなつかしみ一夜寝にける
#[仮名],はるののに,すみれつみにと,こしわれぞ,のをなつかしみ,ひとよねにける
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春雑歌,作者:山部赤人,野遊び,風流,恋情,植物
#[訓異]
#[大意]春の野に菫を摘みにとやって来た自分なのに。野に心ひかれて一番寝たことだ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](山部宿祢赤人歌四首)
#[原文]足比奇乃 山櫻花 日並而 如是開有者 甚戀目夜裳
#[訓読]あしひきの山桜花日並べてかく咲きたらばいたく恋ひめやも
#[仮名],あしひきの,やまさくらばな,ひならべて,かくさきたらば,いたくこひめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],春雑歌,作者:山部赤人,野遊び,比喩,恋情,植物
#[訓異]
#[大意]あしひきの山桜花が日数長く咲いたならばひどく恋い思うことがあろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](山部宿祢赤人歌四首)
#[原文]吾勢子尓 令見常念之 梅花 其十方不所見 雪乃零有者
#[訓読]我が背子に見せむと思ひし梅の花それとも見えず雪の降れれば
#[仮名],わがせこに,みせむとおもひし,うめのはな,それともみえず,ゆきのふれれば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],春雑歌,作者:山部赤人,野遊び,植物
#[訓異]
#[大意]あの人見せようと思っていた梅の花はそれとも見えない雪が降っているので
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](山部宿祢赤人歌四首)
#[原文]従明日者 春菜将採跡 標之野尓 昨日毛今日<母> 雪波布利管
#[訓読]明日よりは春菜摘まむと標めし野に昨日も今日も雪は降りつつ
#[仮名],あすよりは,はるなつまむと,しめしのに,きのふもけふも,ゆきはふりつつ
#[左注]
#[校異]毛 -> 母 [類][紀]
#[鄣W],春雑歌,作者:山部赤人,野遊び,比喩
#[訓異]
#[大意]明日からは春菜を摘もうと標をしておいた野に昨日も今日も雪は降り続いていて
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]草香山歌一首
#[原文]忍照 難波乎過而 打靡 草香乃山乎 暮晩尓 吾越来者 山毛世尓 咲有馬酔木乃 不悪 君乎何時 徃而早将見
#[訓読]おしてる 難波を過ぎて うち靡く 草香の山を 夕暮れに 我が越え来れば 山も狭に 咲ける馬酔木の 悪しからぬ 君をいつしか 行きて早見む
#[仮名],おしてる,なにはをすぎて,うちなびく,くさかのやまを,ゆふぐれに,わがこえくれば,やまもせに,さけるあしびの,あしからぬ,きみをいつしか,ゆきてはやみむ
#[左注]右一首依作者微不顕名字
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春雑歌,東大阪市日下町,生駒山,羈旅,望郷,恋情,地名,植物,枕詞
#[訓異]
#[大意]おし照る難波を過ぎて、うち靡く草香の山を夕暮れに自分が越えてくると、山も狭いばかりに咲いている馬酔木ではないが嫌いではないあなたをいつになったら行って早く会えようか
#{語釈]
草香山 大阪府東大阪市日下町生駒山西部
#[説明]
旅行をしている男の歌。女の立場で恋愛歌風に歌う
#[関連論文]
#[題詞]櫻花歌一首[并短歌]
#[原文]𡢳嬬等之 頭挿乃多米尓 遊士之 蘰之多米等 敷座流 國乃波多弖尓 開尓鶏類 櫻花能 丹穂日波母安奈<尓>
#[訓読]娘子らが かざしのために 風流士の かづらのためと 敷きませる 国のはたてに 咲きにける 桜の花の にほひはもあなに
#[仮名],をとめらが,かざしのために,みやびをの,かづらのためと,しきませる,くにのはたてに,さきにける,さくらのはなの,にほひはもあなに
#[左注](右二首若宮年魚麻呂誦之)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / 何 -> 尓 [類][紀][温]
#[鄣W],春雑歌,若宮年魚麻呂,伝誦,予祝,植物
#[訓異]
#[大意]あの娘子が頭にかざすために、風流な男が頭に着けるためと大君のお治めになる国ほはての方まで咲き照っている桜の花の美しさもまあ
#{語釈]
はたて 端手 はしの方 周辺
あなに 感動詞 ああ まあ
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](櫻花歌一首[并短歌])反歌
#[原文]去年之春 相有之君尓 戀尓手師 櫻花者 迎来良之母
#[訓読]去年の春逢へりし君に恋ひにてし桜の花は迎へけらしも
#[仮名],こぞのはる,あへりしきみに,こひにてし,さくらのはなは,むかへけらしも
#[左注]右二首若宮年魚麻呂誦之
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],春雑歌,若宮年魚麻呂,伝誦,恋愛,予祝,植物
#[訓異]
#[大意]去年の春会ったあなたに恋してしまった桜の花は再びあなたを迎えたことであるらしい
#{語釈]
#[説明]
桜を擬人化して自分たちを迎えるためにこんなにも美しく花が咲いたと言ったもの
#[関連論文]
#[題詞]山部宿祢赤人歌一首
#[原文]百濟野乃 芽古枝尓 待春跡 居之鴬 鳴尓鶏鵡鴨
#[訓読]百済野の萩の古枝に春待つと居りし鴬鳴きにけむかも
#[仮名],くだらのの,はぎのふるえに,はるまつと,をりしうぐひす,なきにけむかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],春雑歌,作者:山部赤人,奈良県,広陵町,地名,植物,動物
#[訓異]
#[大意]百済野の桜の古枝に春を待つとしてとまっていた鴬は鳴いたことだろうか
#{語釈]
百済野 奈良県北葛城郡広陵町百済 奈良県橿原市高殿
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴坂上郎女柳歌二首
#[原文]吾背兒我 見良牟佐保道乃 青柳乎 手折而谷裳 見<縁>欲得
#[訓読]我が背子が見らむ佐保道の青柳を手折りてだにも見むよしもがも
#[仮名],わがせこが,みらむさほぢの,あをやぎを,たをりてだにも,みむよしもがも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 綵 -> 縁 [代匠記初稿本]
#[鄣W],春雑歌,作者:坂上郎女,奈良,佐保,望郷,恋情,羈旅,植物,地名
#[訓異]
#[大意]あの人が見たであろう佐保道の青柳を手折ってだけでも見る手だてがあればなあ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](大伴坂上郎女柳歌二首)
#[原文]打上 佐保能河原之 青柳者 今者春部登 成尓鶏類鴨
#[訓読]うち上る佐保の川原の青柳は今は春へとなりにけるかも
#[仮名],うちのぼる,さほのかはらの,あをやぎは,いまははるへと,なりにけるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],春雑歌,作者:坂上郎女,奈良,佐保,地名,植物
#[訓異]
#[大意]うち上る佐保の川原の青柳は今は春となったことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴宿祢三林梅歌一首
#[原文]霜雪毛 未過者 不思尓 春日里尓 梅花見都
#[訓読]霜雪もいまだ過ぎねば思はぬに春日の里に梅の花見つ
#[仮名],しもゆきも,いまだすぎねば,おもはぬに,かすがのさとに,うめのはなみつ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春雑歌,作者:大伴三林,奈良,春日,地名,植物
#[訓異]
#[大意]霜や雪の季節もまだ過ぎていないのに、思わないことに春日の里で梅の花を見たことだ
#{語釈]
大伴宿祢三林 伝未詳。三依の誤りか。
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]厚見王歌一首
#[原文]河津鳴 甘南備河尓 陰所見<而> 今香開良武 山振乃花
#[訓読]かはづ鳴く神奈備川に影見えて今か咲くらむ山吹の花
#[仮名],かはづなく,かむなびかはに,かげみえて,いまかさくらむ,やまぶきのはな
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 而 [類][紀]
#[鄣W],春雑歌,作者:厚見王,飛鳥川,竜田川,地名,植物
#[訓異]
#[大意]蛙が鳴く神奈備川に姿が見えて今頃咲いているのだろうか山吹の花は
#{語釈]
厚見王 厚見王 系譜未詳 天平感宝元年 無位より従五位下 天平宝字元年従五位甘南備河 03/0324 4/0668 08/1456
山吹 万葉集他に17例
#[説明]
春の季節になって、神奈備川の山吹を思い起こしている
#[関連論文]
#[題詞]大伴宿祢村上梅歌二首
#[原文]含有常 言之梅我枝 今旦零四 沫雪二相而 将開可聞
#[訓読]含めりと言ひし梅が枝今朝降りし沫雪にあひて咲きぬらむかも
#[仮名],ふふめりと,いひしうめがえ,けさふりし,あわゆきにあひて,さきぬらむかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春雑歌,作者:大伴村上,植物
#[訓異]
#[大意]つぼみだと言っていた梅の枝は今朝降った沫雪と競争して咲いたことである
#{語釈]
大伴宿祢村上 天平勝宝6年民部少丞、宝亀2年従5位下
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](大伴宿祢村上梅歌二首)
#[原文]霞立 春日之里 梅花 山下風尓 落許須莫湯目
#[訓読]霞立つ春日の里の梅の花山のあらしに散りこすなゆめ
#[仮名],かすみたつ,かすがのさとの,うめのはな,やまのあらしに,ちりこすなゆめ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],春雑歌,作者:大伴村上,奈良,春日,地名,植物
#[訓異]
#[大意]霞み立つ春日の里の梅の花よ。山の嵐に散るなよ。決して。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴宿祢駿河丸歌一首
#[原文]霞立 春日里之 梅花 波奈尓将問常 吾念奈久尓
#[訓読]霞立つ春日の里の梅の花花に問はむと我が思はなくに
#[仮名],かすみたつ,かすがのさとの,うめのはな,はなにとはむと,わがおもはなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],春雑歌,作者:大伴駿河麻呂,奈良,春日,地名,植物
#[訓異]
#[大意]霞み立つ春日の里の梅の花。花に尋ねようと自分は思ってもいないのに
#{語釈]
大伴宿祢駿河丸 駿河麻呂 03/0400 大伴御行の孫 天平15年従5位下。宝亀7年参議卒。坂上二嬢の夫。
花に問はむと やがては散っていく花に期待しようとは思わない。実になることを思っているの意。
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]中臣朝臣武良自歌一首
#[原文]時者今者 春尓成跡 三雪零 遠山邊尓 霞多奈婢久
#[訓読]時は今は春になりぬとみ雪降る遠山の辺に霞たなびく
#[仮名],ときはいまは,はるになりぬと,みゆきふる,とほやまのへに,かすみたなびく
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春雑歌,作者:中臣武良自,季節
#[訓異]
#[大意]季節は今は春となった。み雪降るかなたの山のあたりに霞みがたなびいている
#{語釈]
中臣朝臣武良自 伝未詳。中臣宅守の従兄弟か。
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]河邊朝臣東人歌一首
#[原文]春雨乃 敷布零尓 高圓 山能櫻者 何如有良武
#[訓読]春雨のしくしく降るに高円の山の桜はいかにかあるらむ
#[仮名],はるさめの,しくしくふるに,たかまとの,やまのさくらは,いかにかあるらむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春雑歌,作者:河辺東人,高円山,奈良,地名,植物
#[訓異]
#[大意]春雨がしとしとと降る中で高円の山の桜はどのようになっているのだろうか
#{語釈]
河邊朝臣東人 06/0978 神護景雲元年従5位下
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴宿祢家持鴬歌一首
#[原文]打霧之 雪者零乍 然為我二 吾宅乃苑尓 鴬鳴裳
#[訓読]うち霧らひ雪は降りつつしかすがに我家の苑に鴬鳴くも
#[仮名],うちきらし,ゆきはふりつつ,しかすがに,わぎへのそのに,うぐひすなくも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春雑歌,作者:大伴家持,動物,季節
#[訓異]
#[大意]霧がかかって雪は降っている。そうではあるが自分の家の庭園に鴬が鳴いていることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大蔵少輔丹比屋主真人歌一首
#[原文]難波邊尓 人之行礼波 後居而 春菜採兒乎 見之悲也
#[訓読]難波辺に人の行ければ後れ居て春菜摘む子を見るが悲しさ
#[仮名],なにはへに,ひとのゆければ,おくれゐて,はるなつむこを,みるがかなしさ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春雑歌,作者:丹比屋主,菜摘み,大阪,恋情,地名
#[訓異]
#[大意]難波のあたりにあの人が行ったので後に残っていて春菜を摘むあの子を見ると愛しいことだ
#{語釈]
大蔵少輔丹比屋主真人 天平九年従五位下。天平宝字四年従四位下で卒。
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]丹比真人乙麻呂歌一首 [屋主真人之第二子也]
#[原文]霞立 野上乃方尓 行之可波 鴬鳴都 春尓成良思
#[訓読]霞立つ野の上の方に行きしかば鴬鳴きつ春になるらし
#[仮名],かすみたつ,ののへのかたに,ゆきしかば,うぐひすなきつ,はるになるらし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春雑歌,作者:丹比乙麻呂,野遊び,動物,季節
#[訓異]
#[大意]霞みが立つ野のほとりを行ったら鴬が鳴いた。春になったらしい
#{語釈]
丹比真人乙麻呂 天平神護1年 従5位下
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]高田女王歌一首 [高安之女也]
#[原文]山振之 咲有野邊乃 都保須美礼 此春之雨尓 盛奈里鶏利
#[訓読]山吹の咲きたる野辺のつほすみれこの春の雨に盛りなりけり
#[仮名],やまぶきの,さきたるのへの,つほすみれ,このはるのあめに,さかりなりけり
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春雑歌,作者:高田女王,大原高安,高安王,植物,叙景
#[訓異]
#[大意]山吹の咲いている野辺のつぼすみれは、この春の雨に真っ盛りなことだ
#{語釈]
高田女王 04/0537
高安 高安王 04/0577 長皇子の孫。537、844 天平11年大原真人高安
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴坂上郎女歌一首
#[原文]風交 雪者雖零 實尓不成 吾宅之梅乎 花尓令落莫
#[訓読]風交り雪は降るとも実にならぬ我家の梅を花に散らすな
#[仮名],かぜまじり,ゆきはふるとも,みにならぬ,わぎへのうめを,はなにちらすな
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春雑歌,作者:坂上郎女,比喩,植物
#[訓異]
#[大意]風に交じって雪は降るとしても実にはならない我が家の梅を花のまま散らすなよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴宿祢家持<春>雉歌一首
#[原文]春野尓 安佐留雉乃 妻戀尓 己我當乎 人尓令知管
#[訓読]春の野にあさる雉の妻恋ひにおのがあたりを人に知れつつ
#[仮名],はるののに,あさるきぎしの,つまごひに,おのがあたりを,ひとにしれつつ
#[左注]
#[校異]養 -> 春 [西(訂正)][紀][温][矢] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春雑歌,作者:大伴家持,動物
#[訓異]
#[大意]春の野に餌を取っている雉は妻を恋い思って自分のいるあたりを人に知られ続けて
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴坂上郎女歌一首
#[原文]尋常 聞者苦寸 喚子鳥 音奈都炊 時庭成奴
#[訓読]世の常に聞けば苦しき呼子鳥声なつかしき時にはなりぬ
#[仮名],よのつねに,きけばくるしき,よぶこどり,こゑなつかしき,ときにはなりぬ
#[左注]右一首天平四年三月一日佐保宅作
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春雑歌,作者:坂上郎女,動物,季節
#[訓異]
#[大意]いつもだったら聞くと心苦しい呼子鳥よ。声に心引かれる時になったことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]春相聞 / 大伴宿祢家持贈坂上家之大嬢歌一首
#[原文]吾屋外尓 蒔之瞿麥 何時毛 花尓咲奈武 名蘇經乍見武
#[訓読]我がやどに蒔きしなでしこいつしかも花に咲きなむなそへつつ見む
#[仮名],わがやどに,まきしなでしこ,いつしかも,はなにさきなむ,なそへつつみむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],春相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,贈答,恋情,植物
#[訓異]
#[大意]自分の家に蒔いておいた撫子はいつになったら花に咲くのだろうか。咲いたらあなたになぞえて見ようものなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴田村家<之>大嬢與妹坂上大嬢歌一首
#[原文]茅花抜 淺茅之原乃 都保須美礼 今盛有 吾戀苦波
#[訓読]茅花抜く浅茅が原のつほすみれ今盛りなり我が恋ふらくは
#[仮名],つばなぬく,あさぢがはらの,つほすみれ,いまさかりなり,あがこふらくは
#[左注]
#[校異]毛 -> 之 [代匠記初稿本] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春相聞,作者:田村大嬢,坂上大嬢,贈答,恋情,植物
#[訓異]
#[大意]茅花が咲く浅茅が原のつぼすみれは、今盛んに咲いている。自分が恋い思っているように。
#{語釈]
大伴田村家<之>大嬢 04/0759 旅人兄、宿奈麻呂の娘
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴宿祢坂上郎女歌一首
#[原文]情具伎 物尓曽有鶏類 春霞 多奈引時尓 戀乃繁者
#[訓読]心ぐきものにぞありける春霞たなびく時に恋の繁きは
#[仮名],こころぐき,ものにぞありける,はるかすみ,たなびくときに,こひのしげきは
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春相聞,作者:坂上郎女,恋情
#[訓異]
#[大意]鬱陶しいものである。春霞みのたなびく時に恋い心が激しいのは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]笠女郎贈大伴家持歌一首
#[原文]水鳥之 鴨乃羽色乃 春山乃 於保束無毛 所念可聞
#[訓読]水鳥の鴨の羽色の春山のおほつかなくも思ほゆるかも
#[仮名],みづどりの,かものはいろの,はるやまの,おほつかなくも,おもほゆるかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春相聞,作者:笠郎女,大伴家持,贈答,恋情,動物
#[訓異]
#[大意]水鳥である鴨の羽の色のような春山が霞みでぼんやりとしているようにはっきりしない気持ちに思われてならないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]紀女郎歌一首 [名曰小鹿也]
#[原文]闇夜有者 宇倍毛不来座 梅花 開月夜尓 伊而麻左自常屋
#[訓読]闇ならばうべも来まさじ梅の花咲ける月夜に出でまさじとや
#[仮名],やみならば,うべもきまさじ,うめのはな,さけるつくよに,いでまさじとや
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春相聞,作者:紀女郎,小鹿,恋情,怨恨,植物,贈答
#[訓異]
#[大意]闇夜ならばなるほどお来しにならないでしょう。梅の花の咲いている月夜にお出でにならないとは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]天平五年癸酉春閏三月笠朝臣金村贈入唐使歌一首[并短歌]
#[原文]玉手次 不懸時無 氣緒尓 吾念公者 虚蝉之 <世人有者 大王之> 命恐 夕去者 鶴之妻喚 難波方 三津埼従 大舶尓 二梶繁貫 白浪乃 高荒海乎 嶋傳 伊別徃者 留有 吾者幣引 齊乍 公乎者将<待> 早還万世
#[訓読]玉たすき 懸けぬ時なく 息の緒に 我が思ふ君は うつせみの 世の人なれば 大君の 命畏み 夕されば 鶴が妻呼ぶ 難波潟 御津の崎より 大船に 真楫しじ貫き 白波の 高き荒海を 島伝ひ い別れ行かば 留まれる 我れは幣引き 斎ひつつ 君をば待たむ 早帰りませ
#[仮名],たまたすき,かけぬときなく,いきのをに,あがおもふきみは,うつせみの,よのひとなれば,おほきみの,みことかしこみ,ゆふされば,たづがつまよぶ,なにはがた,みつのさきより,おほぶねに,まかぢしじぬき,しらなみの,たかきあるみを,しまづたひ,いわかれゆかば,とどまれる,われはぬさひき,いはひつつ,きみをばまたむ,はやかへりませ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 短歌 [西] 短謌 [西(訂正)] 短歌 / <> -> 世人有者 大王之 [代匠記初稿本] / 徃 -> 待 [代匠記初稿本]
#[鄣W],春相聞,作者:笠金村,入唐使,贈答,送別,遣唐使,枕詞,地名,大阪,餞別,天平5年閏3月,年紀
#[訓異]
#[大意]玉たすきを懸けるのではないが、心に懸けない時もなく息の続きの命のように自分は思うあなたは、この世の人であるので大君のご命令を恐れ多く思って、夕方になると鶴が妻を呼ぶ難波潟の御津の崎より大船に両舷に楫を多く貫き、白波の高い荒海を嶋伝いに別れて行くので、後に留まっている自分は幣帛を引いて祈りながらあなたを待とう。早くお帰りなさい
#{語釈]
入唐使 太使丹比広成 天平4年8月17日任命。翌5年閏3月26日節刀 吉備真備ら同行。
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](天平五年癸酉春閏三月笠朝臣金村贈入唐使歌一首[并短歌])反歌
#[原文]波上従 所見兒嶋之 雲隠 穴氣衝之 相別去者
#[訓読]波の上ゆ見ゆる小島の雲隠りあな息づかし相別れなば
#[仮名],なみのうへゆ,みゆるこしまの,くもがくり,あないきづかし,あひわかれなば
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春相聞,作者:笠金村,入唐使,贈答,送別,遣唐使,餞別,天平5年閏3月,年紀
#[訓異]
#[大意]波の上から見える小嶋のように、あなたは雲居はるかに隠れて行き、ああため息が出ることだ。ともに別れたならば
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]((天平五年癸酉春閏三月笠朝臣金村贈入唐使歌一首[并短歌])反歌)
#[原文]玉切 命向 戀従者 公之三舶乃 梶柄母我
#[訓読]たまきはる命に向ひ恋ひむゆは君が御船の楫柄にもが
#[仮名],たまきはる,いのちにむかひ,こひむゆは,きみがみふねの,かぢからにもが
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],春相聞,作者:笠金村,入唐使,贈答,送別,遣唐使,枕詞,天平5年閏3月,年紀
#[訓異]
#[大意]たまきはる命をかけて恋い思っているよりは、あなたの御船の楫の束にでもなりたいものだ。
#{語釈]
命に向ひ 命をかけて
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]藤原朝臣廣嗣櫻花贈娘子歌一首
#[原文]此花乃 一与能内尓 百種乃 言曽隠有 於保呂可尓為莫
#[訓読]この花の一節のうちに百種の言ぞ隠れるおほろかにすな
#[仮名],このはなの,ひとよのうちに,ももくさの,ことぞこもれる,おほろかにすな
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春相聞,作者:藤原広嗣,娘子,贈答
#[訓異]
#[大意]この花の一節のうちにもたくさんの言葉が隠れているのだ。いい加減にするなよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]娘子和歌一首
#[原文]此花乃 一与能裏波 百種乃 言持不勝而 所折家良受也
#[訓読]この花の一節のうちは百種の言待ちかねて折らえけらずや
#[仮名],このはなの,ひとよのうちは,ももくさの,ことまちかねて,をらえけらずや
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],春相聞,藤原広嗣,作者:娘子,和歌,贈答
#[訓異]
#[大意]この花の一節の中はたくさんの言葉を持つことが出来なくて折られてしまうことはないでしょうね
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]厚見王贈久米女郎歌一首
#[原文]室戸在 櫻花者 今毛香聞 松風疾 地尓落良武
#[訓読]やどにある桜の花は今もかも松風早み地に散るらむ
#[仮名],やどにある,さくらのはなは,いまもかも,まつかぜはやみ,つちにちるらむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春相聞,作者:厚見王,久米女郎,贈答,比喩,心変わり,植物
#[訓異]
#[大意]家にある桜の花は今もだろうか。松風が早いので地面に散っているだろうか。
#{語釈]
厚見王 1435 系譜未詳 天平感宝元年 無位より従五位下 天平宝字元年従五位
久米女郎 伝未詳
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]久米女郎報贈歌一首
#[原文]世間毛 常尓師不有者 室戸尓有 櫻花乃 不所比日可聞
#[訓読]世間も常にしあらねばやどにある桜の花の散れるころかも
#[仮名],よのなかも,つねにしあらねば,やどにある,さくらのはなの,ちれるころかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],春相聞,作者:久米女郎,贈答,厚見王,植物
#[訓異]
#[大意]人の世も常ではないので、家にある桜の花が散っている頃だろう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]紀女郎贈大伴宿祢家持歌二首
#[原文]戯奴 [變云 和氣] 之為 吾手母須麻尓 春野尓 抜流茅花曽 御食而肥座
#[訓読]戯奴 [變云 わけ] がため我が手もすまに春の野に抜ける茅花ぞ食して肥えませ
#[仮名],わけ[わけ],がため,わがてもすまに,はるののに,ぬけるつばなぞ,めしてこえませ
#[左注](右折<攀>合歡花并茅花贈也)
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春相聞,作者:紀女郎,大伴家持,贈答,植物
#[訓異]
#[大意]お前のために我が手も休めずに春の野に抜いてきた茅花であるぞ。お召し上がりになって太りなさいよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](紀女郎贈大伴宿祢家持歌二首)
#[原文]晝者咲 夜者戀宿 合歡木花 君耳将見哉 和氣佐倍尓見代
#[訓読]昼は咲き夜は恋ひ寝る合歓木の花君のみ見めや戯奴さへに見よ
#[仮名],ひるはさき,よるはこひぬる,ねぶのはな,きみのみみめや,わけさへにみよ
#[左注]右折<攀>合歡花并茅花贈也
#[校異]擧 -> 攀 [細][温][矢][京]
#[鄣W],春相聞,作者:紀女郎,大伴家持,贈答,植物
#[訓異]
#[大意]昼は咲き夜は恋い思って寝る合歓の花は、主人である自分だけ見てよいというわけではない。お前も見なさい。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴家持贈和歌二首
#[原文]吾君尓 戯奴者戀良思 給有 茅花手雖喫 弥痩尓夜須
#[訓読]我が君に戯奴は恋ふらし賜りたる茅花を食めどいや痩せに痩す
#[仮名],あがきみに,わけはこふらし,たばりたる,つばなをはめど,いややせにやす
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],春相聞,作者:大伴家持,和歌,紀女郎,植物,贈答
#[訓異]
#[大意]我が主君に下僕である自分は恋い思うらしい。いただいた茅花を食べるがますます痩せに痩せることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](大伴家持贈和歌二首)
#[原文]吾妹子之 形見乃合歡木者 花耳尓 咲而盖 實尓不成鴨
#[訓読]我妹子が形見の合歓木は花のみに咲きてけだしく実にならじかも
#[仮名],わぎもこが,かたみのねぶは,はなのみに,さきてけだしく,みにならじかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],春相聞,作者:大伴家持,和歌,紀女郎,植物,贈答
#[訓異]
#[大意]我妹子の形見の合歓は花ばかり咲いてもしかして実にならないのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴家持贈坂上大嬢歌一首
#[原文]春霞 軽引山乃 隔者 妹尓不相而 月曽經去来
#[訓読]春霞たなびく山のへなれれば妹に逢はずて月ぞ経にける
#[仮名],はるかすみ,たなびくやまの,へなれれば,いもにあはずて,つきぞへにける
#[左注]右従久邇京贈寧樂宅
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],春相聞,作者:大伴家持,坂上大嬢,贈答,恋情
#[訓異]
#[大意]春霞がたなびく山が隔たっているので妹に会わないで月が経ったことだ
#{語釈]
#[説明]
山が隔たっている
04/0601H01心ゆも我は思はずき山川も隔たらなくにかく恋ひむとは
04/0689H01海山も隔たらなくに何しかも目言をだにもここだ乏しき
#[関連論文]
#[題詞]夏雜歌 / 藤原夫人歌<一首> [明日香清御原<宮>御宇天皇之夫人也 字曰大原大刀自 即新田部皇子之母也]
#[原文]霍公鳥 痛莫鳴 汝音乎 五月玉尓 相貫左右二
#[訓読]霍公鳥いたくな鳴きそ汝が声を五月の玉にあへ貫くまでに
#[仮名],ほととぎす,いたくななきそ,ながこゑを,さつきのたまに,あへぬくまでに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 / <> -> 一首 [類][紀] / <> -> 宮 [紀][温][矢]
#[鄣W],夏雑歌,作者:藤原夫人,大原大刀自,天武天皇,新田部皇子,動物
#[訓異]
#[大意]霍公鳥よ。ひどくは鳴くなよ。お前の声を五月の玉に合わせて貫くまでは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]志貴皇子御歌一首
#[原文]神名火乃 磐瀬之<社>之 霍公鳥 毛無乃岳尓 何時来将鳴
#[訓読]神奈備の石瀬の社の霍公鳥毛無の岡にいつか来鳴かむ
#[仮名],かむなびの,いはせのもりの,ほととぎす,けなしのをかに,いつかきなかむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 杜 -> 社 [類][紀]
#[鄣W],夏雑歌,作者:志貴皇子,奈良,斑鳩,動物,地名
#[訓異]
#[大意]神奈備の石瀬の杜の霍公鳥よ。、毛無の岡にいつになったらやって来て鳴くのだろうか
#{語釈]
石瀬の社 奈良県生駒郡斑鳩町 奈良県生駒郡三郷町立野 未詳
毛無の岡 奈良県生駒郡三郷町坂上
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]弓削皇子御歌一首
#[原文]霍公鳥 無流國尓毛 去而師香 其鳴音手 間者辛苦母
#[訓読]霍公鳥なかる国にも行きてしかその鳴く声を聞けば苦しも
#[仮名],ほととぎす,なかるくににも,ゆきてしか,そのなくこゑを,きけばくるしも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],夏雑歌,作者:弓削皇子,動物
#[訓異]
#[大意]霍公鳥のいない国にも行きたいものだ。その鳴く声を聞くと心苦しいことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]小治田廣瀬王霍公鳥歌一首
#[原文]霍公鳥 音聞小野乃 秋風<尓> 芽開礼也 聲之乏寸
#[訓読]霍公鳥声聞く小野の秋風に萩咲きぬれや声の乏しき
#[仮名],ほととぎす,こゑきくをのの,あきかぜに,はぎさきぬれや,こゑのともしき
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 尓 [類][紀]
#[鄣W],夏雑歌,作者:小治田広瀬王,動物,植物
#[訓異]
#[大意]霍公鳥の声を聞く小野の秋風に萩が咲いたというのであろうか(もう秋なのだろうか)、声が乏しいことだ
#{語釈]
小治田廣瀬王 小治田 奈良県高市郡明日香村飛鳥
廣瀬王 系譜未詳 01/0044 天武10年国史編纂の命。和銅元年従四位上大蔵卿。和銅六年1月28日薨去。
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]沙弥霍公鳥歌一首
#[原文]足引之 山霍公鳥 汝鳴者 家有妹 常所思
#[訓読]あしひきの山霍公鳥汝が鳴けば家なる妹し常に偲はゆ
#[仮名],あしひきの,やまほととぎす,ながなけば,いへなるいもし,つねにしのはゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],夏雑歌,作者:沙弥,恋情,望郷,動物
#[訓異]
#[大意]あしひきの山霍公鳥よ。お前が鳴くならば家にいる妹をいつも思われてならない
#{語釈]
沙弥 未詳
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]刀理宣令歌一首
#[原文]物部乃 石瀬之<社>乃 霍公鳥 今毛鳴奴<香> 山之常影尓
#[訓読]もののふの石瀬の社の霍公鳥今も鳴かぬか山の常蔭に
#[仮名],もののふの,いはせのもりの,ほととぎす,いまもなかぬか,やまのとかげに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(別筆訂正)] 歌 / 杜 -> 社 [西(訂正)][類][紀] / <> -> 香 [代匠記初稿本]
#[鄣W],夏雑歌,作者:刀理宣令,奈良,斑鳩,地名,動物
#[訓異]
#[大意]もののふの石瀬の杜の霍公鳥よ。今すぐにでも鳴いて欲しい。山のいつも影になっている所で
#{語釈]
刀理宣令 養老5年正月従7位下。東宮侍講師。
もののふの 大勢の意味で五十(い)にかかる枕詞
石瀬の社 奈良県生駒郡斑鳩町 奈良県生駒郡三郷町立野 未詳
08.1419 1466 1470
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]山部宿祢赤人歌一首
#[原文]戀之家婆 形見尓将為跡 吾屋戸尓 殖之藤浪 今開尓家里
#[訓読]恋しけば形見にせむと我がやどに植ゑし藤波今咲きにけり
#[仮名],こひしけば,かたみにせむと,わがやどに,うゑしふぢなみ,いまさきにけり
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],夏雑歌,作者:山部赤人,恋情,植物
#[訓異]
#[大意]恋しいならば見て偲ぼうと思う我が家に植えた藤波は今咲いたことだ
#{語釈]
#[説明]
死に別れた妹か、別れた恋人を言うか。
03/0464H01秋さらば見つつ偲へと妹が植ゑしやどのなでしこ咲きにけるかも
#[関連論文]
#[題詞]式部大輔石上堅魚朝臣歌一首
#[原文]霍公鳥 来鳴令響 宇乃花能 共也来之登 問麻思物乎
#[訓読]霍公鳥来鳴き響もす卯の花の伴にや来しと問はましものを
#[仮名],ほととぎす,きなきとよもす,うのはなの,ともにやこしと,とはましものを
#[左注]右神龜五年戊辰大宰帥大伴卿之妻大伴郎女遇病長逝焉 于時 勅使式部大輔石上朝臣堅魚遣<大>宰府弔喪并賜物也 其事既畢驛使及府諸卿大夫等共登記夷城而望遊之日乃作此歌
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 太 -> 大 [紀][温] / 歌 [西] 謌
#[鄣W],夏雑歌,作者:石上堅魚,太宰府,大伴旅人,動物,植物
#[訓異]
#[大意]霍公鳥がやってきて鳴き響かせる。卯の花を友にして来たのかと尋ねたいものだ
#{語釈]
石上堅魚 神亀3年正月従五位上、天平8年正月正五位上
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]<大>宰帥大伴卿和歌一首
#[原文]橘之 花散里乃 霍公鳥 片戀為乍 鳴日四曽多寸
#[訓読]橘の花散る里の霍公鳥片恋しつつ鳴く日しぞ多き
#[仮名],たちばなの,はなちるさとの,ほととぎす,かたこひしつつ,なくひしぞおほき
#[左注]
#[校異]太 -> 大 [紀][温][矢] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],夏雑歌,作者:大伴旅人,太宰府,和歌,石上堅魚,非情,恋情,植物,動物
#[訓異]
#[大意]橘の花が散る里の霍公鳥よ。そのように片恋いをしながら嘆く日が多いことだ
#{語釈]
#[説明]
石上堅魚に和したものか。そうだとすると都の堅魚を恋い思うという意味。
亡き妻に恋い思うという意味か。
#[関連論文]
#[題詞]大伴坂上郎女思筑紫大城山歌一首
#[原文]今毛可聞 大城乃山尓 霍公鳥 鳴令響良武 吾無礼杼毛
#[訓読]今もかも大城の山に霍公鳥鳴き響むらむ我れなけれども
#[仮名],いまもかも,おほきのやまに,ほととぎす,なきとよむらむ,われなけれども
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],夏雑歌,作者:坂上郎女,奈良,大野城,回顧,太宰府,地名,動物
#[訓異]
#[大意]今もなんだろうか。大城の山の霍公鳥は鳴き響かせているのだろうか。自分はいないけれども
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴坂上郎女霍公鳥歌一首
#[原文]何奇毛 幾許戀流 霍公鳥 鳴音聞者 戀許曽益礼
#[訓読]何しかもここだく恋ふる霍公鳥鳴く声聞けば恋こそまされ
#[仮名],なにしかも,ここだくこふる,ほととぎす,なくこゑきけば,こひこそまされ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 奇 [類][温] 哥
#[鄣W],夏雑歌,作者:坂上郎女,恋情,動物
#[訓異]
#[大意]どうしてこんなにもひどく恋い思うのか霍公鳥よ。鳴く声を聞くと恋いしさがなおさら勝ってくることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]小治田朝臣廣耳歌一首
#[原文]獨居而 物念夕尓 霍公鳥 従此間鳴渡 心四有良思
#[訓読]ひとり居て物思ふ宵に霍公鳥こゆ鳴き渡る心しあるらし
#[仮名],ひとりゐて,ものもふよひに,ほととぎす,こゆなきわたる,こころしあるらし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],夏雑歌,作者:小治田広耳,恋情,動物
#[訓異]
#[大意]独りでいて物思いをしている宵に霍公鳥がここを通って鳴き渡って行く。自分を慰める心があるらしい
#{語釈]
小治田朝臣廣耳 伝未詳。1501
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴家持霍公鳥歌一首
#[原文]宇能花毛 未開者 霍公鳥 佐保乃山邊 来鳴令響
#[訓読]卯の花もいまだ咲かねば霍公鳥佐保の山辺に来鳴き響もす
#[仮名],うのはなも,いまださかねば,ほととぎす,さほのやまへに,きなきとよもす
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],夏雑歌,作者:大伴家持,佐保,奈良,動物,地名,植物
#[訓異]
#[大意]卯の花もまだ咲いていないのに霍公鳥は佐保の山辺にやって来て鳴き響かせる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴家持橘歌一首
#[原文]吾屋前之 花橘乃 何時毛 珠貫倍久 其實成奈武
#[訓読]我が宿の花橘のいつしかも玉に貫くべくその実なりなむ
#[仮名],わがやどの,はなたちばなの,いつしかも,たまにぬくべく,そのみなりなむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],夏雑歌,作者:大伴家持,植物
#[訓異]
#[大意]我が家の橘の花はいつになったら玉に貫き通せるようにその実がなるだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴家持晩蝉歌一首
#[原文]隠耳 居者欝悒 奈具左武登 出立聞者 来鳴日晩
#[訓読]隠りのみ居ればいぶせみ慰むと出で立ち聞けば来鳴くひぐらし
#[仮名],こもりのみ,をればいぶせみ,なぐさむと,いでたちきけば,きなくひぐらし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],夏雑歌,作者:大伴家持,鬱屈,動物
#[訓異]
#[大意]家の中に閉じこもってばかりいると鬱陶しいので心が慰められるだろうかと外に出て立ち聞くとやって来て鳴くひぐらしであることだ
#{語釈]
晩蝉 ひぐらし
#[説明]
08/1568H01雨隠り心いぶせみ出で見れば春日の山は色づきにけり
#[関連論文]
#[題詞]大伴書持歌二首
#[原文]我屋戸尓 月押照有 霍公鳥 心有今夜 来鳴令響
#[訓読]我が宿に月おし照れり霍公鳥心あれ今夜来鳴き響もせ
#[仮名],わがやどに,つきおしてれり,ほととぎす,こころあれこよひ,きなきとよもせ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],夏雑歌,作者:大伴書持,動物
#[訓異]
#[大意]我が家に月が皎皎と照っている。霍公鳥よ。心があって今夜はやって来て鳴き響かせてくれ
#{語釈]
心あれ 命令形
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](大伴書持歌二首)
#[原文]我屋<戸>前乃 花橘尓 霍公鳥 今社鳴米 友尓相流時
#[訓読]我が宿の花橘に霍公鳥今こそ鳴かめ友に逢へる時
#[仮名],わがやどの,はなたちばなに,ほととぎす,いまこそなかめ,ともにあへるとき
#[左注]
#[校異]<> -> 戸 [類][紀]
#[鄣W],夏雑歌,作者:大伴書持,植物,動物
#[訓異]
#[大意]我が家の橘の花に霍公鳥よ。今こそ鳴いてくれ。友に合っている時に
#{語釈]
友 橘の花と霍公鳥が友。家持の友人に会う
19/4210H01藤波の茂りは過ぎぬあしひきの山霍公鳥などか来鳴かぬ
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴清縄歌一首
#[原文]皆人之 待師宇能花 雖落 奈久霍公鳥 吾将忘哉
#[訓読]皆人の待ちし卯の花散りぬとも鳴く霍公鳥我れ忘れめや
#[仮名],みなひとの,まちしうのはな,ちりぬとも,なくほととぎす,われわすれめや
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],夏雑歌,作者:大伴清縄,植物,動物
#[訓異]
#[大意]人がみんな待っていた卯の花が散ったとしても鳴く霍公鳥を自分は忘れると言うことがあろうか
#{語釈]
大伴清縄 伝未詳
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]奄君諸立歌一首
#[原文]吾背子之 屋戸乃橘 花乎吉美 鳴霍公鳥 見曽吾来之
#[訓読]我が背子が宿の橘花をよみ鳴く霍公鳥見にぞ我が来し
#[仮名],わがせこが,やどのたちばな,はなをよみ,なくほととぎす,みにぞわがこし
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],夏雑歌,作者:奄君諸立,宴席,主人讃美,植物,動物
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]我が背子の家の橘は花がいいとして鳴く霍公鳥を自分も見に来たのだ
奄君諸立 伝未詳
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴坂上郎女歌一首
#[原文]霍公鳥 痛莫鳴 獨居而 寐乃不所宿 聞者苦毛
#[訓読]霍公鳥いたくな鳴きそひとり居て寐の寝らえぬに聞けば苦しも
#[仮名],ほととぎす,いたくななきそ,ひとりゐて,いのねらえぬに,きけばくるしも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],夏雑歌,作者:坂上郎女,動物
#[訓異]
#[大意]霍公鳥よ。ひどくは鳴くなよ。独りで寝ていて寝られないのだから聞くと苦しいから
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴家持唐棣花歌一首
#[原文],夏儲而 開有波祢受 久方乃 雨打零者 将移香
#[訓読]夏まけて咲きたるはねずひさかたの雨うち降らば移ろひなむか
#[仮名],なつまけて,さきたるはねず,ひさかたの,あめうちふらば,うつろひなむか
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],夏雑歌,作者:大伴家持,植物
#[訓異]
#[大意]夏を待って咲いたはねずは、久方の雨が降ったならば散ってしまうだろうか
#{語釈]
はねず 未詳。夏に花をつけるもの 12/3074
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴家持恨霍公鳥晩喧歌二首
#[原文]吾屋前之 花橘乎 霍公鳥 来不喧地尓 令落常香
#[訓読]我が宿の花橘を霍公鳥来鳴かず地に散らしてむとか
#[仮名],わがやどの,はなたちばなを,ほととぎす,きなかずつちに,ちらしてむとか
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],夏雑歌,作者:大伴家持,植物,動物
#[訓異]
#[大意]我が家の橘の花を霍公鳥よ。鳴かない阿ままに地面に散らしてしまおうというのか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](大伴家持恨霍公鳥晩喧歌二首)
#[原文]霍公鳥 不念有寸 木晩乃 如此成左右尓 奈何不来喧
#[訓読]霍公鳥思はずありき木の暗のかくなるまでに何か来鳴かぬ
#[仮名],ほととぎす,おもはずありき,このくれの,かくなるまでに,なにかきなかぬ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],夏雑歌,作者:大伴家持,動物,怨恨
#[訓異]
#[大意]霍公鳥よ。思ってもいなかった。木が茂ってこんなになるまでどうしてやって来て鳴かないのか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴家持懽霍公鳥歌一首
#[原文]何處者 鳴毛思仁家武 霍公鳥 吾家乃里尓 <今>日耳曽鳴
#[訓読]いづくには鳴きもしにけむ霍公鳥我家の里に今日のみぞ鳴く
#[仮名],いづくには,なきもしにけむ,ほととぎす,わぎへのさとに,けふのみぞなく
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 乃 [春][紀] 之 / <> -> 今 [西(右書)][類][紀][細]
#[鄣W],夏雑歌,作者:大伴家持,動物
#[訓異]
#[大意]どこかではすでに鳴いてもいるだろう霍公鳥よ。自分の家の里では今日だけ鳴いている
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴家持惜橘花歌一首
#[原文]吾屋前之 花橘者 落過而 珠尓可貫 實尓成二家利
#[訓読]我が宿の花橘は散り過ぎて玉に貫くべく実になりにけり
#[仮名],わがやどの,はなたちばなは,ちりすぎて,たまにぬくべく,みになりにけり
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],夏雑歌,作者:大伴家持,植物
#[訓異]
#[大意]我が家の橘の花は散り過ぎて玉に貫くように実になったことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴家持霍公鳥歌一首
#[原文]霍公鳥 雖待不来喧 <菖>蒲草 玉尓貫日乎 未遠美香
#[訓読]霍公鳥待てど来鳴かず菖蒲草玉に貫く日をいまだ遠みか
#[仮名],ほととぎす,まてどきなかず,あやめぐさ,たまにぬくひを,いまだとほみか
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 菖 [代匠記初稿本]
#[鄣W],夏雑歌,作者:大伴家持,動物,植物
#[訓異]
#[大意]霍公鳥を待ってもやって来て鳴かない。菖蒲草を玉に貫く日はまだ遠いからだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴家持雨日聞霍公鳥喧歌一首
#[原文]宇乃花能 過者惜香 霍公鳥 雨間毛不置 従此間喧渡
#[訓読]卯の花の過ぎば惜しみか霍公鳥雨間も置かずこゆ鳴き渡る
#[仮名],うのはなの,すぎばをしみか,ほととぎす,あままもおかず,こゆなきわたる
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],夏雑歌,作者:大伴家持,植物,動物
#[訓異]
#[大意]卯の花が散りすぎてしまうのが惜しいからなのだろうか。霍公鳥は雨の間も置かないでここから鳴き渡っている
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]橘歌一首 [遊行女婦]
#[原文]君家乃 花橘者 成尓家利 花乃有時尓 相益物乎
#[訓読]君が家の花橘はなりにけり花のある時に逢はましものを
#[仮名],きみがいへの,はなたちばなは,なりにけり,はななるときに,あはましものを
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 花乃 [類][紀](塙) 花
#[鄣W],夏雑歌,作者:遊行女婦,宴席,植物
#[訓異]
#[大意]あなたの家の橘の花はすっかり実になってしまった。花のある時に会えばよかったのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴村上橘歌一首
#[原文]吾屋前乃 花橘乎 霍公鳥 来鳴令動而 本尓令散都
#[訓読]我が宿の花橘を霍公鳥来鳴き響めて本に散らしつ
#[仮名],わがやどの,はなたちばなを,ほととぎす,きなきとよめて,もとにちらしつ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],夏雑歌,作者:大伴村上,植物,動物
#[訓異]
#[大意]我が家の橘の花を霍公鳥はやって来て鳴いて地面に散らしてしまった
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴家持霍公鳥歌二首
#[原文]夏山之 木末乃繁尓 霍公鳥 鳴響奈流 聲之遥佐
#[訓読]夏山の木末の茂に霍公鳥鳴き響むなる声の遥けさ
#[仮名],なつやまの,こぬれのしげに,ほととぎす,なきとよむなる,こゑのはるけさ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],夏雑歌,作者:大伴家持,動物,叙景
#[訓異]
#[大意]夏山の梢が茂っている中で霍公鳥が鳴き響いている声が聞こえる。その声のはるかなることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](大伴家持霍公鳥歌二首)
#[原文]足引乃 許乃間立八十一 霍公鳥 如此聞始而 後将戀可聞
#[訓読]あしひきの木の間立ち潜く霍公鳥かく聞きそめて後恋ひむかも
#[仮名],あしひきの,このまたちくく,ほととぎす,かくききそめて,のちこひむかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],夏雑歌,作者:大伴家持,動物
#[訓異]
#[大意]あしひきの木の間を立ち隠れて霍公鳥をこのように聞き始めると後になって恋しく思うだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]大伴家持石竹花歌一首
#[原文]吾屋前之 瞿麥乃花 盛有 手折而一目 令見兒毛我母
#[訓読]我が宿のなでしこの花盛りなり手折りて一目見せむ子もがも
#[仮名],わがやどの,なでしこのはな,さかりなり,たをりてひとめ,みせむこもがも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],夏雑歌,作者:大伴家持,恋情,植物
#[訓異]
#[大意]我が家のなでしこの花が盛んに咲いている。手折って人目見せる女性がいればなあ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]惜不登筑波山歌一首
#[原文]筑波根尓 吾行利世波 霍公鳥 山妣兒令響 鳴麻志也其
#[訓読]筑波嶺に我が行けりせば霍公鳥山彦響め鳴かましやそれ
#[仮名],つくはねに,わがゆけりせば,ほととぎす,やまびことよめ,なかましやそれ
#[左注]右一首高橋連蟲麻呂之歌中出
#[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
#[鄣W],夏雑歌,作者:高橋虫麻呂歌集,筑波,茨城,地名,動物
#[訓異]
#[大意]筑波嶺に自分が行ったならば霍公鳥が山彦を響かせて鳴いていただそうに。それは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]