万葉集 巻第12
#[番号]12/2842
#[番号]12/2843
#[番号]12/2844
#[番号]12/2845
#[番号]12/2846
#[番号]12/2847
#[番号]12/2848
#[番号]12/2849
#[番号]12/2850
#[番号]12/2851
#[番号]12/2852
#[番号]12/2853
#[番号]12/2854
#[番号]12/2855
#[番号]12/2856
#[番号]12/2857
#[番号]12/2858
#[番号]12/2859
#[番号]12/2860
#[番号]12/2861
#[番号]12/2861S
#[番号]12/2862
#[番号]12/2863
#[番号]12/2864
#[番号]12/2865
#[番号]12/2866
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#[番号]12/2899
#[番号]12/2900
#[番号]12/2901
#[番号]12/2902
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#[番号]12/2918
#[番号]12/2919
#[番号]12/2920
#[番号]12/2841
#[題詞]正述心緒
#[原文]我背子之 朝明形 吉不見 今日間 戀暮鴨
#[訓読]我が背子が朝明の姿よく見ずて今日の間を恋ひ暮らすかも
#[仮名],わがせこが,あさけのすがた,よくみずて,けふのあひだを,こひくらすかも
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作 者:柿本人麻呂歌集,略体,女歌,恋情,後朝
#[訓異]
#[大意]我が背子の早朝お帰りになる姿をよく見なかったので、今日は一日中恋い思って暮らすことであるよ。
#{語釈]
#[説明]
類歌
10/1925H01朝戸出の君が姿をよく見ずて長き春日を恋ひや暮らさむ
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]我心 等望使念 新夜 一夜不落 夢見<与>
#[訓読]我が心ともしみ思ふ新夜の一夜もおちず夢に見えこそ
#[仮名],あがこころ,ともしみおもふ,あらたよの,ひとよもおちず,いめにみえこそ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]<> -> 与 [新訓]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]自分の気持ちは慕わしく思う。これからの毎晩一夜も欠かさずあなたが夢に見えて欲しい
#{語釈]
我が心ともしみ思ふ 原文 我心 等望使念
代精 我心等 望使念 わがこころと のぞみしもへば
考 我心等 無使念 わがこころと すべなくもへば
新訓 我心等 望使念 わがこころと のぞみしおもふ
全註釈 我心等 望使念 わがこころと ねがひしおもはば
注釈 我心 無使念 わがこころ すべなくおもへば
「ともし」と訓むならば、慕わしい。なかなか逢えなくて恋い思っている状態
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]<愛> 我念妹 人皆 如去見耶 手不纒為
#[訓読]愛しと我が思ふ妹を人皆の行くごと見めや手にまかずして
#[仮名],うつくしと,あがおもふいもを,ひとみなの,ゆくごとみめや,てにまかずして
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]与愛 -> 愛 [新訓]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情
#[訓異]
#[大意]きれいだと自分が思う妹を、人がみんな道を通るように、そのまま見過ごしていようか。手に枕としないで。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]<比>日 寐之不寐 敷細布 手枕纒 寐欲
#[訓読]このころの寐の寝らえぬは敷栲の手枕まきて寝まく欲りこそ
#[仮名],このころの,いのねらえぬは,しきたへの,たまくらまきて,ねまくほりこそ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]此 -> 比 [西(朱筆訂正)][元][紀][細]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情,枕詞
#[訓異]
#[大意]この頃の眠ることが出来ないのは敷妙の手枕を枕として寝たいと思うからだ。
#{語釈]
釋注 寝られない理由は、寝たいと思っているからだ
注釈 寐の寝らえぬに 寝まく欲りすも 寝られないにつけて、寝ることを願う
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]<忘>哉 語 意遣 雖過不過 猶戀
#[訓読]忘るやと物語りして心遣り過ぐせど過ぎずなほ恋ひにけり
#[仮名],わするやと,ものがたりして,こころやり,すぐせどすぎず,なほこひにけり
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]忌 -> 忘 [細][温][矢][京]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情
#[訓異]
#[大意]忘れるだろうかと人と話などして気晴らしをして時を過ごしているが、恋い心がおさまらない。ますます恋い思うことだ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]夜不寐 安不有 白細布 衣不脱 及直相
#[訓読]夜も寝ず安くもあらず白栲の衣は脱かじ直に逢ふまでに
#[仮名],よるもねず,やすくもあらず,しろたへの,ころもはぬかじ,ただにあふまでに
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]夜も寝られないで、心も安まることはない。白妙の衣を着替えることもしないよ。直接逢うまでは。
#{語釈]
衣は脱かじ そのままの状態でいて、相手を来ることを願う呪的信仰
04/0747H01我妹子が形見の衣下に着て直に逢ふまでは我れ脱かめやも
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]後相 吾莫戀 妹雖云 戀間 年經乍
#[訓読]後も逢はむ我にな恋ひそと妹は言へど恋ふる間に年は経につつ
#[仮名],のちもあはむ,われになこひそと,いもはいへど,こふるあひだに,としはへにつつ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情
#[訓異]
#[大意]そのうち後ででも会おう。自分には恋い思うなと妹は言うが、恋い思っている間に年月がたってしまって。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]不直<相> 有諾 夢谷 何人 事繁 [或本歌曰 <寤>者 諾毛不相 夢左倍]
#[訓読]直に会はずあるはうべなり夢にだに何しか人の言の繁けむ [或本歌曰 うつつにはうべも逢はなく夢にさへ]
#[仮名],ただにあはず,あるはうべなり,いめにだに,なにしかひとの,ことのしげけむ,[うつつには,うべもあはなく,いめにさへ]
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]相者 -> 相 [元][紀][細][温] / 寝 -> 寤 [万葉拾穂抄]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,異伝,,恋情,うわさ
#[訓異]
#[大意]直接逢わないでいることはもっともなことだ。夢までもどうして他人のうわさがひどいのだろうか。或本歌 実際にはなるほど逢わないことには、夢でさえ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]烏玉 彼夢 見継哉 袖乾日無 吾戀矣
#[訓読]ぬばたまのその夢にだに見え継ぐや袖干る日なく我れは恋ふるを
#[仮名],ぬばたまの,そのいめにだに,みえつぐや,そでふるひなく,あれはこふるを
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]ぬばたまのその夢にだけでも続いて見えているでしょうか。逢えない悲しみの涙で袖が乾く日もなく自分は恋い思っておりますのを。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]現 直不相 夢谷 相見与 我戀國
#[訓読]うつつには直には逢はず夢にだに逢ふと見えこそ我が恋ふらくに
#[仮名],うつつには,ただにはあはず,いめにだに,あふとみえこそ,あがこふらくに
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情
#[訓異]
#[大意]現実には直接には逢うことはない。夢だけでも逢うと見えて欲しい。自分は恋い思っていることなのに。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]寄物陳思
#[原文]人所見 表結 人不見 裏紐開 戀日太
#[訓読]人の見る上は結びて人の見ぬ下紐開けて恋ふる日ぞ多き
#[仮名],ひとのみる,うへはむすびて,ひとのみぬ,したひもあけて,こふるひぞおほき
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情,人目,女歌
#[訓異]
#[大意]人の見る上の衣の紐は結んで、人の見ない下紐を解き開けて恋い思う日が多いことだ。
#{語釈]
下紐開けて 恋人にあうという呪的信仰も含んでいるか
20/4427H01家の妹ろ我を偲ふらし真結ひに結ひし紐の解くらく思へば
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]人言 繁時 吾妹 衣有 裏服矣
#[訓読]人言の繁き時には我妹子し衣にありせば下に着ましを
#[仮名],ひとごとの,しげきときには,わぎもこし,ころもにありせば,したにきましを
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]人のうわさがひどい時には我妹子が衣であったならば、下に着るものなのに。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]真珠<服> 遠兼 念 一重衣 一人服寐
#[訓読]真玉つくをちをし兼ねて思へこそ一重の衣ひとり着て寝れ
#[仮名],またまつく,をちをしかねて,おもへこそ,ひとへのころも,ひとりきてぬれ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]眼 -> 服 [古]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]真玉が付く緒ではないが、将来の事をあらかじめ思っているからこそ、一重の衣を一人で着て寝ているのだ。
#{語釈]
真玉つく 玉を付ける緒の意味で「を」にかかる。
をちをし をち 未来、将来 「を」「し」強意 ずっと先のことを
かねて あらかじめ
06/1047H03天の下 知らしまさむと 八百万 千年を兼ねて 定めけむ 奈良の都は
一重の衣ひとり着て寝れ 独り寝をすること。将来は一緒になることを思っているので、他の女とは浮気をしていないということを言ったもの。
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]白細布 我紐緒 不絶間 戀結為 及相日
#[訓読]白栲の我が紐の緒の絶えぬ間に恋結びせむ逢はむ日までに
#[仮名],しろたへの,わがひものをの,たえぬまに,こひむすびせむ,あはむひまでに
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]白妙の自分の紐の緒が切れない間に恋い結びをしよう。次に逢う日までに
#{語釈]
恋結び 考 下紐の絶るは人と絶る祥なるべし。仍っていまだ絶はてぬさきに結ばん、といふ也。さて恋結びとは、其恋のかための為に結ぶといふ。又たへぬ前にむかへ結びするをも、乞結びてふ事もや有けん。今神の社に、願結びといふ事するも此意か。
途絶えないことを願って約束をする呪的行為か。
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]新<治> 今作路 清 聞鴨 妹於事矣
#[訓読]新治の今作る道さやかにも聞きてけるかも妹が上のことを
#[仮名],にひはりの,いまつくるみち,さやかにも,ききてけるかも,いもがうへのことを
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]治 [西(上書訂正)][類][古][紀]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,序詞,恋情,うわさ
#[訓異]
#[大意]開墾して新しく作る道が目立ってはっきりしているように、はっきりと聞いたことであるよ。妹の上のことを。
#{語釈]
新治 新しく開拓して作る
14/3399H01信濃道は今の墾り道刈りばねに足踏ましなむ沓はけ我が背
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]山代 石田<社> 心鈍 手向為在 妹相難
#[訓読]山背の石田の社に心おそく手向けしたれや妹に逢ひかたき
#[仮名],やましろの,いはたのもりに,こころおそく,たむけしたれや,いもにあひかたき
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]杜 -> 社 [西(朱書訂正)][類][紀][温]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,地名,京都府,伏見,恋情
#[訓異]
#[大意]山城の石田の社にいいかげんに手向けをしたためなのか、妹に逢いがたいのは。
#{語釈]
山背の石田の社 京都府京都市伏見区石田町 石田神社
山城志 宇治郡、天穂日命神社 在石田村石田森 称田中明神
09/1730H01山科の石田の小野のははそ原見つつか君が山道越ゆらむ
09/1731H01山科の石田の杜に幣置かばけだし我妹に直に逢はむかも
心おそく おそ 2/126 にぶい いいかげん
#[説明]
同想
04/0712H01味酒を三輪の祝がいはふ杉手触れし罪か君に逢ひかたき
#[関連論文]
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]菅根之 惻隠々々 照日 乾哉吾袖 於妹不相為
#[訓読]菅の根のねもころごろに照る日にも干めや我が袖妹に逢はずして
#[仮名],すがのねの,ねもころごろに,てるひにも,ひめやわがそで,いもにあはずして
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,枕詞,植物,恋情
#[訓異]
#[大意]菅の根ではないが、懇ろによく照る日にも乾くだろうか。我が袖よ。妹に逢わないで。
#{語釈]
干めや我が袖 妹に逢えないで涙で袖を濡らしている
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]妹戀 不寐朝 吹風 妹經者 吾与經
#[訓読]妹に恋ひ寐ねぬ朝明に吹く風は妹にし触れば我れさへに触れ
#[仮名],いもにこひ,いねぬあさけに,ふくかぜは,いもにしふれば,われさへにふれ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]与 [細] 共
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情
#[訓異]
#[大意]妹に恋いこがれて寝られない明け方に吹く風は、妹に触れたならば、自分にも触れなさい
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]飛鳥川 高川避紫 越来 信今夜 不明行哉
#[訓読]明日香川高川避かし越ゑ来しをまこと今夜は明けずも行かぬか
#[仮名],あすかがは,たかがはよかし,こゑこしを,まことこよひは,あけずもゆかぬか
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]高 (塙)(楓) 奈 / 避紫 [万葉集新考](塙)(楓) 柴避
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,地名,明日香,奈良県,恋愛,川渡り,難渋
#[訓異]
#[大意]飛鳥川の水かさの高いところをお避けになって越えて来たのに、本当に今夜は夜も明かさないで行く(帰る)ということがあろうか。
#{語釈]
高川避かし 水量の増した川をお避けになって
西 高川避紫越 橋本四郎 高川避 [此云越] の注の誤写か。
たかかはよきて こしものを
新考 南川柴避 なづさひ と訓む
明けずも行かぬか 苦労して来たのだから、夜も明けないでいかないものか
苦労して来たのだから、夜を明かさないで帰ろうものか
苦労してお越しになってので、夜を明かさないで帰るということがありましょうか(女の歌)
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]八<釣>川 水底不絶 行水 續戀 是比歳 [或本歌曰 水尾母不絶]
#[訓読]八釣川水底絶えず行く水の継ぎてぞ恋ふるこの年ころを [或本歌曰 水脈も絶えせず]
#[仮名],やつりがは,みなそこたえず,ゆくみづの,つぎてぞこふる,このとしころを,[みをもたえせず]
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]鈎 -> 釣 [紀][温]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,地名,明日香,奈良県,異伝,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]八釣川の水底も絶えないで流れていく水のように絶え間なく恋い思うこの年月を。
或本歌に曰う 水の流れも絶やさないで
#{語釈]
八釣川 奈良県高市郡明日香村 八釣山の麓を流れる川
03/0262H01矢釣山木立も見えず降りまがふ雪に騒ける朝楽しも
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]礒上 生小松 名惜 人不知 戀渡鴨
#[訓読]礒の上に生ふる小松の名を惜しみ人に知らえず恋ひわたるかも
#[仮名],いそのうへに,おふるこまつの,なををしみ,ひとにしらえず,こひわたるかも
#[左注]或本歌曰 巌上尓 立小松 名惜 人尓者不云 戀渡鴨 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,植物,人目,うわさ,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]磯のほとりに生えている松ではないが、名が惜しいので他人にわからないように恋い続けていることだ
#{語釈]
小松の 名にかかる序詞 かかり方未詳
考 目立っているから名前にあらわれる
古義 松の根はなに通じる 大系 根の古形か
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](寄物陳思)或本歌曰
#[原文]巌上尓 立小松 名惜 人尓者不云 戀渡鴨
#[訓読]岩の上に立てる小松の名を惜しみ人には言はず恋ひわたるかも
#[仮名],いはのうへに,たてるこまつの,なををしみ,ひとにはいはず,こひわたるかも
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,序詞,植物,人目,うわさ,恋情,異伝
#[訓異]
#[大意]岩の上に立っている松ではないが名前が惜しいので他人には言わないで恋い続けていることだ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]山川 水陰生 山草 不止妹 所念鴨
#[訓読]山川の水陰に生ふる山菅のやまずも妹は思ほゆるかも
#[仮名],やまがはの,みづかげにおふる,やますげの,やまずもいもは,おもほゆるかも
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,植物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]山川の水かげに生えている山菅ではないが、やまないで絶えず妹は恋い思われることであるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]淺葉野 立神古 菅根 惻隠誰故 吾不戀 [或本歌曰 誰葉野尓 立志奈比垂]
#[訓読]浅葉野に立ち神さぶる菅の根のねもころ誰がゆゑ我が恋ひなくに [或本歌曰 誰が葉野に立ちしなひたる]
#[仮名],あさはのに,たちかむさぶる,すがのねの,ねもころたがゆゑ,あがこひなくに,[たがはのに,たちしなひたる]
#[左注]右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,植物,序詞,恋情,異伝
#[訓異]
#[大意]浅葉野に生えて神々しくなっている菅の根ではないが、懇ろにあなた以外の誰のために自分は恋い思うということはないのに 或本歌曰う 誰葉野に立ち靡いている
#{語釈]
浅葉野 未詳 拾穂抄 武蔵国 埼玉県入間郡坂戸町浅羽
略解 遠江 静岡県磐田郡浅羽町
11/2763H01紅の浅葉の野らに刈る草の束の間も我を忘らすな
誰がゆゑ我が恋ひなくに
07/1320H01水底に沈く白玉誰が故に心尽して我が思はなくに
或本歌 誰葉野 未詳 古義 豊前国田河郡 田河の野か
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]正述心緒
#[原文]吾背子乎 且今々々跡 待居尓 夜更深去者 嘆鶴鴨
#[訓読]我が背子を今か今かと待ち居るに夜の更けゆけば嘆きつるかも
#[仮名],わがせこを,いまかいまかと,まちゐるに,よのふけゆけば,なげきつるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]我が背子を今来るか今来るかと待っているのに夜が更けていくので嘆いていることであるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]玉釼 巻宿妹母 有者許増 夜之長毛 歡有倍吉
#[訓読]玉釧まき寝る妹もあらばこそ夜の長けくも嬉しくあるべき
#[仮名],たまくしろ,まきぬるいもも,あらばこそ,よのながけくも,うれしくあるべき
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋愛
#[訓異]
#[大意]玉釧を巻くように枕として寝る妹もあるからこそ、夜の長いこともうれしくあるようだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]人妻尓 言者誰事 酢衣乃 此紐解跡 言者孰言
#[訓読]人妻に言ふは誰が言さ衣のこの紐解けと言ふは誰が言
#[仮名],ひとづまに,いふはたがこと,さごろもの,このひもとけと,いふはたがこと
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],女歌,歌謡
#[訓異]
#[大意]人妻である自分に言うのは誰の言葉ですか。衣の紐をほどけと言うのは誰の言葉ですか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]如是許 将戀物其跡 知者 其夜者由多尓 有益物乎
#[訓読]かくばかり恋ひむものぞと知らませばその夜はゆたにあらましものを
#[仮名],かくばかり,こひむものぞと,しらませば,そのよはゆたに,あらましものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,未練
#[訓異]
#[大意]このように恋い思うものだとあらかじめ知っていたならば、その夜はゆったりとしていればよかった
#{語釈]
#[説明]
類想
11/2547H01かくばかり恋ひむものぞと思はねば妹が手本をまかぬ夜もありき
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]戀乍毛 後将相跡 思許増 己命乎 長欲為礼
#[訓読]恋ひつつも後も逢はむと思へこそおのが命を長く欲りすれ
#[仮名],こひつつも,のちもあはむと,おもへこそ,おのがいのちを,ながくほりすれ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]恋い続けて後でも会おうと思うからこそ自分の命を長くと願うのだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]今者吾者 将死与吾妹 不相而 念渡者 安毛無
#[訓読]今は我は死なむよ我妹逢はずして思ひわたれば安けくもなし
#[仮名],いまはわは,しなむよわぎも,あはずして,おもひわたれば,やすけくもなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]今は自分は死ぬよ我妹よ。逢わないで思い続けていると心安らかなことは少しもないよ
#{語釈]
#[説明]
類想
04/0684H01今は我は死なむよ我が背生けりとも我れに依るべしと言ふといはなくに
12/2936H01今は我は死なむよ我が背恋すれば一夜一日も安けくもなし
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]我背子之 将来跡語之 夜者過去 思咲八更々 思許理来目八面
#[訓読]我が背子が来むと語りし夜は過ぎぬしゑやさらさらしこり来めやも
#[仮名],わがせこが,こむとかたりし,よはすぎぬ,しゑやさらさら,しこりこめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],女歌,怨恨,恋愛
#[訓異]
#[大意]我が背子が来ようと話していた夜は過ぎてしまった。ええいもう今更間違っても来るだろうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]人言之 讒乎聞而 玉<桙>之 道毛不相常 云吾妹
#[訓読]人言の讒しを聞きて玉桙の道にも逢はじと言へりし我妹
#[仮名],ひとごとの,よこしをききて,たまほこの,みちにもあはじと,いへりしわぎも
#[左注]
#[校異]杵 -> 桙 [細][温][矢][京]
#[鄣W],うわさ,枕詞,恋愛
#[訓異]
#[大意]人のうわさの悪口を聞いて、玉鉾の道でも逢わないよと言った我妹であるよ
#{語釈]
讒し 新撰字鏡 讒 毀也、与己須 又不久也久 悪口
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]不相毛 懈常念者 弥益二 人言繁 所聞来可聞
#[訓読]逢はなくも憂しと思へばいや増しに人言繁く聞こえ来るかも
#[仮名],あはなくも,うしとおもへば,いやましに,ひとごとしげく,きこえくるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],うわさ,恋愛
#[訓異]
#[大意]逢わないこともつらいと思っているのに、ますます人のうわさがひどく聞こえて来ることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]里人毛 謂告我祢 縦咲也思 戀而毛将死 誰名将有哉
#[訓読]里人も語り継ぐがねよしゑやし恋ひても死なむ誰が名ならめや
#[仮名],さとびとも,かたりつぐがね,よしゑやし,こひてもしなむ,たがなならめや
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],うわさ,人目,恋愛
#[訓異]
#[大意]里の人も語り継ぐように。ええいままよ。あなたを恋い思って死んでしまおう。あなた以外の誰の名前が立とうか。
#{語釈]
誰が名ならめや 誰の名前だろうか。
自分が死んだならば、誰がうわさになろうか。他でもないあなたなのだ。
と相手を脅した言い方。
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[本文](り) 使乎無跡 情乎曽 使尓遣之 夢所見哉
#[訓読]確かなる使をなみと心をぞ使に遣りし夢に見えきや
#[仮名],たしかなる,つかひをなみと,こころをぞ,つかひにやりし,いめにみえきや
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋愛
#[訓異]
#[大意]確実な使いがないのでと、心を使いにやったが夢に見えたでしょうか。
#{語釈]
(り) 音 ソウ あわただしい 国意 たしかに たしかな
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]天地尓 小不至 大夫跡 思之吾耶 <雄>心毛無寸
#[訓読]天地に少し至らぬ大夫と思ひし我れや雄心もなき
#[仮名],あめつちに,すこしいたらぬ,ますらをと,おもひしわれや,をごころもなき
#[左注]
#[校異]雄 [西(上書訂正)][元][紀][細][温]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]天地には少し足りないが大きな大夫だと思っていた自分であるが、その雄々しい気持ちもないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]里近 家<哉>應居 此吾目之 人目乎為乍 戀繁口
#[訓読]里近く家や居るべきこの我が目の人目をしつつ恋の繁けく
#[仮名],さとちかく,いへやをるべき,このわがめの,ひとめをしつつ,こひのしげけく
#[左注]
#[校異]武 -> 哉 [西(右書訂正)][元][紀][細][温] / 目之 [元] 目
#[鄣W],うわさ,人目,恋情
#[訓異]
#[大意]人里近くで住まいをするべきであろうか。この自分の目が人目を気にしながら恋が激しいことであるよ。
#{語釈]
人目をしつつ 人目をはばかりながら
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]何時奈毛 不<戀>有登者 雖不有 得田直比来 戀之繁母
#[訓読]いつはなも恋ひずありとはあらねどもうたてこのころ恋し繁しも
#[仮名],いつはなも,こひずありとは,あらねども,うたてこのころ,こひししげしも
#[左注]
#[校異]戀奈毛 -> 戀 [西(訂正)][紀][細][温]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]何時はとて恋い思わないということはないが、しきりにこの頃は恋が激しいことであるよ。
#{語釈]
いつはなも 「なも」係助詞 集中この一例のみ
後に「なむ」
うたてこのころ 甚だしく、しきりに
全釈「尋常でなく悪い、又は厭わしいなどの意とするのが誤解のもとである。これはこの語の原義で、何となく進む意。即ち転(うたた)というに同じである。」
10/1889H01我が宿の毛桃の下に月夜さし下心よしうたてこのころ
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]黒玉之 宿而之晩乃 物念尓 割西(る)者 息時裳無
#[訓読]ぬばたまの寐ねてし宵の物思ひに裂けにし胸はやむ時もなし
#[仮名],ぬばたまの,いねてしよひの,ものもひに,さけにしむねは,やむときもなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]ぬば玉の共に寝た宵を思い出して物思いをし、張り裂けた胸の気持ちはやむときもないことだ
#{語釈]
寐ねてし宵の物思ひに 共寝をした宵であって、その物思いに
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]三空去 名之惜毛 吾者無 不相日數多 年之經者
#[訓読]み空行く名の惜しけくも我れはなし逢はぬ日まねく年の経ぬれば
#[仮名],みそらゆく,なのをしけくも,われはなし,あはぬひまねく,としのへぬれば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]空を行くように目立ってしまった名前も惜しいことはない。逢わない日が数多く年が経ってしまっているので。
#{語釈]
み空行く 空を行くように広がった、目立って人のうわさになっている浮き名
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]得管二毛 今毛見<壮>鹿 夢耳 手本纒宿登 見者辛苦毛 [或本歌發<句>曰 吾妹兒乎]
#[訓読]うつつにも今も見てしか夢のみに手本まき寝と見るは苦しも [或本歌發<句>曰 我妹子を]
#[仮名],うつつにも,いまもみてしか,いめのみに,たもとまきぬと,みるはくるしも,[わぎもこを]
#[左注]
#[校異]社 -> 壮 [元][細][紀] / 勺 -> 句 [元][紀][細]
#[鄣W],異伝,恋情
#[訓異]
#[大意]現実にも今も見たいものだ。夢ばかりに手もとを巻いて寝ると見るのは苦しいことだ。或本歌發句曰う 我妹子を
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]立而居 為便乃田時毛 今者無 妹尓不相而 月之經去者 [或本歌曰 君之目不見而 月之經去者]
#[訓読]立ちて居てすべのたどきも今はなし妹に逢はずて月の経ぬれば [或本歌曰 君が目見ずて月の経ぬれば]
#[仮名],たちてゐて,すべのたどきも,いまはなし,いもにあはずて,つきのへぬれば,[きみがめみずて,つきのへぬれば]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],異伝,恋情
#[訓異]
#[大意]立っても座っていてもどうにも方法がないことだ。妹に逢わないで月が経ったので。或本歌に曰う あなたの目を見ないで月が経ったので
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]不相而 戀度等母 忘哉 弥日異者 思益等母
#[訓読]逢はずして恋ひわたるとも忘れめやいや日に異には思ひ増すとも
#[仮名],あはずして,こひわたるとも,わすれめや,いやひにけには,おもひますとも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]逢わないで恋い続けるとしても忘れることがあろうか。日を追ってますます思いが増すことはあっても。
#{語釈]
#[説明]
笠郎女歌 この歌によったか 私注は郎女歌が民謡化したのがこの歌か
04/0595H01我が命の全けむ限り忘れめやいや日に異には思ひ増すとも
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]外目毛 君之光儀乎 見而者社 吾戀山目 命不死者 [一云 壽向 吾戀止目]
#[訓読]外目にも君が姿を見てばこそ我が恋やまめ命死なずは [一云 命に向ふ我が恋やまめ]
#[仮名],よそめにも,きみがすがたを,みてばこそ,あがこひやまめ,いのちしなずは,[いのちにむかふ,あがこひやまめ]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,異伝
#[訓異]
#[大意]よそ目にでもあなたの姿を見たならばこそ自分は恋い思う気持ちがおさまるだろう。それまで恋い死にをしなければ。一云 命がけの自分の恋いはおさまるだろう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]戀管母 今日者在目杼 玉匣 将開明日 如何将暮
#[訓読]恋ひつつも今日はあらめど玉櫛笥明けなむ明日をいかに暮らさむ
#[仮名],こひつつも,けふはあらめど,たまくしげ,あけなむあすを,いかにくらさむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]恋い続けながらも今日は暮らせるが、玉櫛笥を明けるように明ける明日をどのように暮らそうか
#{語釈]
#[説明]
類歌
10/1914H01恋ひつつも今日は暮らしつ霞立つ明日の春日をいかに暮らさむ
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]左夜深而 妹乎念出 布妙之 枕毛衣世二 <嘆>鶴鴨
#[訓読]さ夜更けて妹を思ひ出で敷栲の枕もそよに嘆きつるかも
#[仮名],さよふけて,いもをおもひいで,しきたへの,まくらもそよに,なげきつるかも
#[左注]
#[校異]歎 -> 嘆 [元][紀][細][温]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]夜が更けて妹を思い出し敷き妙の枕もそよと鳴るばかりに嘆いたことであるよ
#{語釈]
枕もそよに
20/4398H09はろはろに 家を思ひ出 負ひ征矢の そよと鳴るまで
11/2515H01敷栲の枕響みて夜も寝ず思ふ人には後も逢ふものを
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]他言者 真言痛 成友 彼所将障 吾尓不有國
#[訓読]人言はまこと言痛くなりぬともそこに障らむ我れにあらなくに
#[仮名],ひとごとは,まことこちたく,なりぬとも,そこにさはらむ,われにあらなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]人のうわさは本当にひどくなってしまおうとも、そこに障害が出来る自分ではないことなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]立居 田時毛不知 吾意 天津空有 土者踐鞆
#[訓読]立ちて居てたどきも知らず我が心天つ空なり地は踏めども
#[仮名],たちてゐて,たどきもしらず,あがこころ,あまつそらなり,つちはふめども
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]立っても座っていてもその手だてがわからないで、自分の気持ちはうわの空である。地面は踏んでいるが。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]世間之 人辞常 所念莫 真曽戀之 不相日乎多美
#[訓読]世の中の人のことばと思ほすなまことぞ恋ひし逢はぬ日を多み
#[仮名],よのなかの,ひとのことばと,おもほすな,まことぞこひし,あはぬひをおほみ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]世間の人の普通の言葉とはお思いになるな。本当に恋しいことだ。逢わない日が多いので。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]乞如何 吾幾許戀流 吾妹子之 不相跡言流 事毛有莫國
#[訓読]いで如何に我がここだ恋ふる我妹子が逢はじと言へることもあらなくに
#[仮名],いでいかに,あがここだこふる,わぎもこが,あはじといへる,こともあらなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]さあどうして自分はこんなにも恋い思うのだろうか。我妹子が逢うまいと言ったこともないことなのに。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]夜干玉之 夜乎長鴨 吾背子之 夢尓夢西 所見還良武
#[訓読]ぬばたまの夜を長みかも我が背子が夢に夢にし見えかへるらむ
#[仮名],ぬばたまの,よをながみかも,わがせこが,いめにいめにし,みえかへるらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜が長いからか、我が背子が夢という夢に何度も繰り返し見えるのだろう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]荒玉之 年緒長 如此戀者 信吾命 全有目八面
#[訓読]あらたまの年の緒長くかく恋ひばまこと我が命全くあらめやも
#[仮名],あらたまの,としのをながく,かくこひば,まことわがいのち,またくあらめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]あらたまの年月長くこのように恋い思うと、本当に自分の命はまっとうできようか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]思遣 為便乃田時毛 吾者無 不相數多 月之經去者
#[訓読]思ひ遣るすべのたどきも我れはなし逢はずてまねく月の経ぬれば
#[仮名],おもひやる,すべのたどきも,われはなし,あはずてまねく,つきのへぬれば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]思いを晴らす手だても自分はない。逢わないで多くの月が経ったので。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]朝去而 暮者来座 君故尓 忌々久毛吾者 歎鶴鴨
#[訓読]朝去にて夕は来ます君ゆゑにゆゆしくも我は嘆きつるかも
#[仮名],あしたいにて,ゆふへはきます,きみゆゑに,ゆゆしくもわは,なげきつるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]朝は帰って行って夕方いらっしゃるあなたなのに、あさましいほどに自分は嘆いたことであるよ
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]従聞 物乎念者 我(る)者 破而摧而 鋒心無
#[訓読]聞きしより物を思へば我が胸は破れて砕けて利心もなし
#[仮名],ききしより,ものをおもへば,あがむねは,われてくだけて,とごころもなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]うわさに聞いたことでもの思いをしているので、自分の胸は割れて砕けて、しっかりした心もないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]人言乎 繁三言痛三 我妹子二 去月従 未相可母
#[訓読]人言を繁み言痛み我妹子に去にし月よりいまだ逢はぬかも
#[仮名],ひとごとを,しげみこちたみ,わぎもこに,いにしつきより,いまだあはぬかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]人のうわさが激しくてひどいので、我妹子に先月から逢わないことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]歌方毛 曰管毛有鹿 吾有者 地庭不落 空消生
#[訓読]うたがたも言ひつつもあるか我れならば地には落ちず空に消なまし
#[仮名],うたがたも,いひつつもあるか,われならば,つちにはおちず,そらにけなまし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]一途に言い続けていることだ。自分だったら地面には落ちずに空に消えてしまったほうがましだ。
#{語釈]
うたがたも 一途に きっと
12/2896H01うたがたも言ひつつもあるか我れならば地には落ちず空に消なまし
15/3600H01離れ礒に立てるむろの木うたがたも久しき時を過ぎにけるかも
17/3949H01天離る鄙にある我れをうたがたも紐解き放けて思ほすらめや
17/3968H01鴬の来鳴く山吹うたがたも君が手触れず花散らめやも
地には落ちず空に消なまし 雪や花のように消えてなくなろう。死んでしまおう
06/1010H01奥山の真木の葉しのぎ降る雪の降りは増すとも地に落ちめやも
08/1653H01今のごと心を常に思へらばまづ咲く花の地に落ちめやも
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]何 日之時可毛 吾妹子之 裳引之容儀 朝尓食尓将見
#[訓読]いかならむ日の時にかも我妹子が裳引きの姿朝に日に見む
#[仮名],いかならむ,ひのときにかも,わぎもこが,もびきのすがた,あさにけにみむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]いつの日や時になったらかなあ。我妹子が裳を引いている姿を毎朝、昼に見ることだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]獨居而 戀者辛苦 玉手次 不懸将忘 言量欲
#[訓読]ひとり居て恋ふるは苦し玉たすき懸けず忘れむ事計りもが
#[仮名],ひとりゐて,こふるはくるし,たまたすき,かけずわすれむ,ことはかりもが
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]独りでじっとしていて恋い思うのは苦しいことだ。玉たすきではないが心にかけないで忘れる計画もないものだろうか
#{語釈]
懸けず忘れむ あなたのことを心にかけないで忘れる
#[説明]
類歌
04/0756H01外に居て恋ふれば苦し我妹子を継ぎて相見む事計りせよ
12/2908H01常かくし恋ふれば苦ししましくも心休めむ事計りせよ
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]中々二 黙然毛有申尾 小豆無 相見始而毛 吾者戀香
#[訓読]なかなかに黙もあらましをあづきなく相見そめても我れは恋ふるか
#[仮名],なかなかに,もだもあらましを,あづきなく,あひみそめても,あれはこふるか
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]かえって黙っていればよかったのに。つまらなく共に逢い始めて自分は恋い思うことであるよ
#{語釈]
#[説明]
類歌
04/0612H01なかなかに黙もあらましを何すとか相見そめけむ遂げざらまくに
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]吾妹子之 咲眉引 面影 懸而本名 所念可毛
#[訓読]我妹子が笑まひ眉引き面影にかかりてもとな思ほゆるかも
#[仮名],わぎもこが,ゑまひまよびき,おもかげに,かかりてもとな,おもほゆるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]我妹子のほほえむ眉根が面影にかかって、やたらに思われてならないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]赤根指 日之暮去者 為便乎無三 千遍嘆而 戀乍曽居
#[訓読]あかねさす日の暮れゆけばすべをなみ千たび嘆きて恋ひつつぞ居る
#[仮名],あかねさす,ひのくれゆけば,すべをなみ,ちたびなげきて,こひつつぞをる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]あかねさす日が暮れていくとどうしようもないので、何度も歎息して恋い続けていることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]吾戀者 夜晝不別 百重成 情之念者 甚為便無
#[訓読]我が恋は夜昼わかず百重なす心し思へばいたもすべなし
#[仮名],あがこひは,よるひるわかず,ももへなす,こころしおもへば,いたもすべなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]自分の恋いは夜昼の区別もなく幾重にも心に思うのでたいそうなんともしようのないことだ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]五十殿寸太 薄寸眉根乎 徒 令掻管 不相人可母
#[訓読]いとのきて薄き眉根をいたづらに掻かしめつつも逢はぬ人かも
#[仮名],いとのきて,うすきまよねを,いたづらに,かかしめつつも,あはぬひとかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]格別に薄い眉根をむだに掻かせ続けるばかりで逢わない人であることだ
#{語釈]
いとのきて
05/0892H14ことも忘れて ぬえ鳥の のどよひ居るに いとのきて 短き物を
#[説明]
類歌
04/0562H01暇なく人の眉根をいたづらに掻かしめつつも逢はぬ妹かも
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]戀々而 後裳将相常 名草漏 心四無者 五十寸手有目八面
#[訓読]恋ひ恋ひて後も逢はむと慰もる心しなくは生きてあらめやも
#[仮名],こひこひて,のちもあはむと,なぐさもる,こころしなくは,いきてあらめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]恋い焦がれて後々にも逢おうと慰められる気持ちがないと生きていられようか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]幾 不生有命乎 戀管曽 吾者氣衝 人尓不所知
#[訓読]いくばくも生けらじ命を恋ひつつぞ我れは息づく人に知らえず
#[仮名],いくばくも,いけらじいのちを,こひつつぞ,われはいきづく,ひとにしらえず
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]いくらも生きてはいられない命であるのに恋い続けて自分は歎息している。人には知られないで
#{語釈]
人 恋い思う相手
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]他國尓 結婚尓行而 大刀之緒毛 未解者 左夜曽明家流
#[訓読]他国によばひに行きて大刀が緒もいまだ解かねばさ夜ぞ明けにける
#[仮名],ひとくにに,よばひにゆきて,たちがをも,いまだとかねば,さよぞあけにける
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋愛
#[訓異]
#[大意]他の国に夜ばいに行って、太刀の緒もまだ解かないのに夜が明けてしまった
#{語釈]
太刀が緒 古事記
この八千矛の神、高志の国の沼河比売を婚はむとして、幸でましし時、その沼河比売の家に到りて歌ひたまひしく、
八島国 妻枕きかねて 遠々し 高志の国に 賢し女を 有りと聞かして
麗し女を 有りと聞こして さ婚ひに 在立たし 婚ひに 在通はせ
太刀が緒も いまだ解かずて 襲(おすひ)をも いまだ解かねば
嬢子の 寝(な)すや板戸を 押そぶらひ 我が立たせれば
引こづらひ 我が立たせれば 青山に ●(ぬえ)は鳴きぬ
さ野つ鳥 雉は響む 庭つ鳥 鶏は鳴く うれたくも 鳴くなる鳥か
この鳥も 打ち止めこせね
いしたふや 海人駈使 事の 語り言も こをば
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]大夫之 <聡>神毛 今者無 戀之奴尓 吾者可死
#[訓読]ますらをの聡き心も今はなし恋の奴に我れは死ぬべし
#[仮名],ますらをの,さときこころも,いまはなし,こひのやつこに,われはしぬべし
#[左注]
#[校異]聴 -> 聡 [西(訂正頭書)][元][紀][細][温]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]大夫の賢明な心も今はないよ。恋いの奴に自分は死ぬだろう
#{語釈]
#[説明]
11/2574H01面忘れだにもえすやと手握りて打てども懲りず恋といふ奴
12/2907H01ますらをの聡き心も今はなし恋の奴に我れは死ぬべし
16/3816H01家にありし櫃にかぎさし蔵めてし恋の奴のつかみかかりて
0/2122H01大夫の心はなしに秋萩の恋のみにやもなづみてありなむ
11/2635H01剣大刀身に佩き添ふる大夫や恋といふものを忍びかねてむ
11/2758H01菅の根のねもころ妹に恋ふるにし大夫心思ほえぬかも
12/2987H01梓弓引きて緩へぬ大夫や恋といふものを忍びかねてむ
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]常如是 戀者辛苦 蹔毛 心安目六 事計為与
#[訓読]常かくし恋ふれば苦ししましくも心休めむ事計りせよ
#[仮名],つねかくし,こふればくるし,しましくも,こころやすめむ,ことはかりせよ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]いつもこのように恋い思っていると苦しいことだ。しばらくの間も気持ちを休める計画を立ててくれ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]凡尓 吾之念者 人妻尓 有云妹尓 戀管有米也
#[訓読]おほろかに我れし思はば人妻にありといふ妹に恋ひつつあらめや
#[仮名],おほろかに,われしおもはば,ひとづまに,ありといふいもに,こひつつあらめや
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[番号]12/2910
#[題詞](正述心緒)
#[原文]心者 千重百重 思有杼 人目乎多見 妹尓不相可母
#[訓読]心には千重に百重に思へれど人目を多み妹に逢はぬかも
#[仮名],こころには,ちへにももへに,おもへれど,ひとめをおほみ,いもにあはぬかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,人目,うわさ
#[訓異]
#[大意]心には何度も幾重にも思うが、人目が多いので妹に逢わないことであるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]人目多見 眼社忍礼 小毛 心中尓 吾念莫國
#[訓読]人目多み目こそ忍ぶれすくなくも心のうちに我が思はなくに
#[仮名],ひとめおほみ,めこそしのぶれ,すくなくも,こころのうちに,わがおもはなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],人目,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]人目が多いので逢うことこそこらえているが、少なくとも心の中では自分は思っていないということはないよ
#{語釈]
目こそ忍ぶれ 已然条件法 忍ぶれ(ば)
已然形 普通にみると 忍ぶ バ行下二段活用 耐える、こらえる
四段活用 れ 完了「り」の已然形
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]人見而 事害目不為 夢尓吾 今夜将至 屋戸閇勿勤
#[訓読]人の見て言とがめせぬ夢に我れ今夜至らむ宿閉すなゆめ
#[仮名],ひとのみて,こととがめせぬ,いめにわれ,こよひいたらむ,やどさすなゆめ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],人目,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]他人が見て何も言わない夢を見たので自分は今夜妹の所へ行こう。家の戸を閉めるなよ。決して
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]何時左右二 将生命曽 凡者 戀乍不有者 死上有
#[訓読]いつまでに生かむ命ぞおほかたは恋ひつつあらずは死なましものを
#[仮名],いつまでに,いかむいのちぞ,おほかたは,こひつつあらずは,しなましものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]いつまで生きている命だろうか。だいたいは恋い続けていずに死んだ方がましであるのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]<愛>等 念吾妹乎 夢見而 起而探尓 無之不怜
#[訓読]愛しと思ふ我妹を夢に見て起きて探るになきが寂しさ
#[仮名],うつくしと,おもふわぎもを,いめにみて,おきてさぐるに,なきがさぶしさ
#[左注]
#[校異]愛 [西(上書訂正)][元][紀][細][温]
#[鄣W],恋情,遊仙窟
#[訓異]
#[大意]かわいいと思う我妹を夢に見て、起きて探ったがいないのが寂しいことだ
#{語釈]
#[説明]
04/0741H01夢の逢ひは苦しかりけりおどろきて掻き探れども手にも触れねば
遊仙窟
少時坐睡、即夢見十娘、驚覚探之、忽然空手、心中悵怏、復何可論
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]妹登曰者 無礼恐 然為蟹 懸巻欲 言尓有鴨
#[訓読]妹と言はばなめし畏ししかすがに懸けまく欲しき言にあるかも
#[仮名],いもといはば,なめしかしこし,しかすがに,かけまくほしき,ことにあるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋愛
#[訓異]
#[大意]恋人と言ったら無礼であり恐れ多いことである。そうではあるが口にかけたい言葉であるなあ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]玉勝間 相登云者 誰有香 相有時左倍 面隠為
#[訓読]玉かつま逢はむと言ふは誰れなるか逢へる時さへ面隠しする
#[仮名],たまかつま,あはむといふは,たれなるか,あへるときさへ,おもかくしする
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋愛
#[訓異]
#[大意]美しい籠が合うではないが逢おうと言うのは誰なのか。逢った時でさえ顔を隠したりするのに
#{語釈]
玉かつま 玉 美称 かつま 籠 かたま 美しい籠 蓋と身が合うことから合うの枕詞
面隠しする
11/2554H01相見ては面隠さゆるものからに継ぎて見まくの欲しき君かも
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]寤香 妹之来座有 夢可毛 吾香惑流 戀之繁尓
#[訓読]うつつにか妹が来ませる夢にかも我れか惑へる恋の繁きに
#[仮名],うつつにか,いもがきませる,いめにかも,われかまとへる,こひのしげきに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]現実だろうか。妹がお越しになったのは。それとも夢で自分が迷ったのだろうか。恋い思うことの激しいために。
#{語釈]
#[説明]
類同歌
11/2595H01夢にだに何かも見えぬ見ゆれども我れかも惑ふ恋の繁きに
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]大方者 何鴨将戀 言擧不為 妹尓依宿牟 年者近<綬>
#[訓読]おほかたは何かも恋ひむ言挙げせず妹に寄り寝む年は近きを
#[仮名],おほかたは,なにかもこひむ,ことあげせず,いもによりねむ,としはちかきを
#[左注]
#[校異]絞 -> 綬 [元][紀][矢][京]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]だいたいはどうして恋い思おうか。言葉に出さなくとも妹に寄って寝る年月は近いものなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]二為而 結之紐乎 一為而 吾者解不見 直相及者
#[訓読]ふたりして結びし紐をひとりして我れは解きみじ直に逢ふまでは
#[仮名],ふたりして,むすびしひもを,ひとりして,あれはときみじ,ただにあふまでは
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,羈旅
#[訓異]
#[大意]二人で結んだ紐を一人ではほどいてはみないよ。直接逢うまでは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](正述心緒)
#[原文]終命 此者不念 唯毛 妹尓不相 言乎之曽念
#[訓読]終へむ命ここは思はずただしくも妹に逢はざることをしぞ思ふ
#[仮名],をへむいのち,ここはおもはず,ただしくも,いもにあはざる,ことをしぞおもふ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]終えてしまうような命であるがそのことは思わない。ただ妹に逢わないことばかりを思っているよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]