万葉集 巻第12

#[番号]12/2841
#[題詞]正述心緒
#[原文]我背子之 朝明形 吉不見 今日間 戀暮鴨
#[訓読]我が背子が朝明の姿よく見ずて今日の間を恋ひ暮らすかも
#[仮名],わがせこが,あさけのすがた,よくみずて,けふのあひだを,こひくらすかも
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作 者:柿本人麻呂歌集,略体,女歌,恋情,後朝
#[訓異]
#[大意]我が背子の早朝お帰りになる姿をよく見なかったので、今日は一日中恋い思って暮らすことであるよ。
#{語釈]
#[説明]
類歌
10/1925H01朝戸出の君が姿をよく見ずて長き春日を恋ひや暮らさむ
#[関連論文]


#[番号]12/2842
#[題詞](正述心緒)
#[原文]我心 等望使念 新夜 一夜不落 夢見<与>
#[訓読]我が心ともしみ思ふ新夜の一夜もおちず夢に見えこそ
#[仮名],あがこころ,ともしみおもふ,あらたよの,ひとよもおちず,いめにみえこそ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]<> -> 与 [新訓]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]自分の気持ちは慕わしく思う。これからの毎晩一夜も欠かさずあなたが夢に見えて欲しい
#{語釈]
我が心ともしみ思ふ 原文 我心 等望使念
代精 我心等 望使念 わがこころと のぞみしもへば
考 我心等 無使念 わがこころと すべなくもへば
新訓 我心等 望使念 わがこころと のぞみしおもふ
全註釈 我心等 望使念 わがこころと ねがひしおもはば
注釈 我心 無使念 わがこころ すべなくおもへば

「ともし」と訓むならば、慕わしい。なかなか逢えなくて恋い思っている状態

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2843
#[題詞](正述心緒)
#[原文]<愛> 我念妹 人皆 如去見耶 手不纒為
#[訓読]愛しと我が思ふ妹を人皆の行くごと見めや手にまかずして
#[仮名],うつくしと,あがおもふいもを,ひとみなの,ゆくごとみめや,てにまかずして
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]与愛 -> 愛 [新訓]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情
#[訓異]
#[大意]きれいだと自分が思う妹を、人がみんな道を通るように、そのまま見過ごしていようか。手に枕としないで。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2844
#[題詞](正述心緒)
#[原文]<比>日 寐之不寐 敷細布 手枕纒 寐欲
#[訓読]このころの寐の寝らえぬは敷栲の手枕まきて寝まく欲りこそ
#[仮名],このころの,いのねらえぬは,しきたへの,たまくらまきて,ねまくほりこそ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]此 -> 比 [西(朱筆訂正)][元][紀][細]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情,枕詞
#[訓異]
#[大意]この頃の眠ることが出来ないのは敷妙の手枕を枕として寝たいと思うからだ。
#{語釈]
釋注 寝られない理由は、寝たいと思っているからだ
注釈 寐の寝らえぬに 寝まく欲りすも 寝られないにつけて、寝ることを願う

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2845
#[題詞](正述心緒)
#[原文]<忘>哉 語 意遣 雖過不過 猶戀
#[訓読]忘るやと物語りして心遣り過ぐせど過ぎずなほ恋ひにけり
#[仮名],わするやと,ものがたりして,こころやり,すぐせどすぎず,なほこひにけり
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]忌 -> 忘 [細][温][矢][京]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情
#[訓異]
#[大意]忘れるだろうかと人と話などして気晴らしをして時を過ごしているが、恋い心がおさまらない。ますます恋い思うことだ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2846
#[題詞](正述心緒)
#[原文]夜不寐 安不有 白細布 衣不脱 及直相
#[訓読]夜も寝ず安くもあらず白栲の衣は脱かじ直に逢ふまでに
#[仮名],よるもねず,やすくもあらず,しろたへの,ころもはぬかじ,ただにあふまでに
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]夜も寝られないで、心も安まることはない。白妙の衣を着替えることもしないよ。直接逢うまでは。
#{語釈]
衣は脱かじ そのままの状態でいて、相手を来ることを願う呪的信仰
04/0747H01我妹子が形見の衣下に着て直に逢ふまでは我れ脱かめやも

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2847
#[題詞](正述心緒)
#[原文]後相 吾莫戀 妹雖云 戀間 年經乍
#[訓読]後も逢はむ我にな恋ひそと妹は言へど恋ふる間に年は経につつ
#[仮名],のちもあはむ,われになこひそと,いもはいへど,こふるあひだに,としはへにつつ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情
#[訓異]
#[大意]そのうち後ででも会おう。自分には恋い思うなと妹は言うが、恋い思っている間に年月がたってしまって。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2848
#[題詞](正述心緒)
#[原文]不直<相> 有諾 夢谷 何人 事繁 [或本歌曰 <寤>者 諾毛不相 夢左倍]
#[訓読]直に会はずあるはうべなり夢にだに何しか人の言の繁けむ [或本歌曰 うつつにはうべも逢はなく夢にさへ]
#[仮名],ただにあはず,あるはうべなり,いめにだに,なにしかひとの,ことのしげけむ,[うつつには,うべもあはなく,いめにさへ]
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]相者 -> 相 [元][紀][細][温] / 寝 -> 寤 [万葉拾穂抄]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,異伝,,恋情,うわさ
#[訓異]
#[大意]直接逢わないでいることはもっともなことだ。夢までもどうして他人のうわさがひどいのだろうか。或本歌 実際にはなるほど逢わないことには、夢でさえ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2849
#[題詞](正述心緒)
#[原文]烏玉 彼夢 見継哉 袖乾日無 吾戀矣
#[訓読]ぬばたまのその夢にだに見え継ぐや袖干る日なく我れは恋ふるを
#[仮名],ぬばたまの,そのいめにだに,みえつぐや,そでふるひなく,あれはこふるを
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]ぬばたまのその夢にだけでも続いて見えているでしょうか。逢えない悲しみの涙で袖が乾く日もなく自分は恋い思っておりますのを。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2850
#[題詞](正述心緒)
#[原文]現 直不相 夢谷 相見与 我戀國
#[訓読]うつつには直には逢はず夢にだに逢ふと見えこそ我が恋ふらくに
#[仮名],うつつには,ただにはあはず,いめにだに,あふとみえこそ,あがこふらくに
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情
#[訓異]
#[大意]現実には直接には逢うことはない。夢だけでも逢うと見えて欲しい。自分は恋い思っていることなのに。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2851
#[題詞]寄物陳思
#[原文]人所見 表結 人不見 裏紐開 戀日太
#[訓読]人の見る上は結びて人の見ぬ下紐開けて恋ふる日ぞ多き
#[仮名],ひとのみる,うへはむすびて,ひとのみぬ,したひもあけて,こふるひぞおほき
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情,人目,女歌
#[訓異]
#[大意]人の見る上の衣の紐は結んで、人の見ない下紐を解き開けて恋い思う日が多いことだ。
#{語釈]
下紐開けて 恋人にあうという呪的信仰も含んでいるか
20/4427H01家の妹ろ我を偲ふらし真結ひに結ひし紐の解くらく思へば

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2852
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]人言 繁時 吾妹 衣有 裏服矣
#[訓読]人言の繁き時には我妹子し衣にありせば下に着ましを
#[仮名],ひとごとの,しげきときには,わぎもこし,ころもにありせば,したにきましを
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]人のうわさがひどい時には我妹子が衣であったならば、下に着るものなのに。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2853
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]真珠<服> 遠兼 念 一重衣 一人服寐
#[訓読]真玉つくをちをし兼ねて思へこそ一重の衣ひとり着て寝れ
#[仮名],またまつく,をちをしかねて,おもへこそ,ひとへのころも,ひとりきてぬれ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]眼 -> 服 [古]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]真玉が付く緒ではないが、将来の事をあらかじめ思っているからこそ、一重の衣を一人で着て寝ているのだ。
#{語釈]
真玉つく 玉を付ける緒の意味で「を」にかかる。

をちをし をち 未来、将来 「を」「し」強意 ずっと先のことを

かねて あらかじめ
06/1047H03天の下 知らしまさむと 八百万 千年を兼ねて 定めけむ 奈良の都は

一重の衣ひとり着て寝れ 独り寝をすること。将来は一緒になることを思っているので、他の女とは浮気をしていないということを言ったもの。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2854
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]白細布 我紐緒 不絶間 戀結為 及相日
#[訓読]白栲の我が紐の緒の絶えぬ間に恋結びせむ逢はむ日までに
#[仮名],しろたへの,わがひものをの,たえぬまに,こひむすびせむ,あはむひまでに
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]白妙の自分の紐の緒が切れない間に恋い結びをしよう。次に逢う日までに
#{語釈]
恋結び 考 下紐の絶るは人と絶る祥なるべし。仍っていまだ絶はてぬさきに結ばん、といふ也。さて恋結びとは、其恋のかための為に結ぶといふ。又たへぬ前にむかへ結びするをも、乞結びてふ事もや有けん。今神の社に、願結びといふ事するも此意か。

途絶えないことを願って約束をする呪的行為か。

#[説明]
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#[番号]12/2855
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]新<治> 今作路 清 聞鴨 妹於事矣
#[訓読]新治の今作る道さやかにも聞きてけるかも妹が上のことを
#[仮名],にひはりの,いまつくるみち,さやかにも,ききてけるかも,いもがうへのことを
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]治 [西(上書訂正)][類][古][紀]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,序詞,恋情,うわさ
#[訓異]
#[大意]開墾して新しく作る道が目立ってはっきりしているように、はっきりと聞いたことであるよ。妹の上のことを。
#{語釈]
新治 新しく開拓して作る
14/3399H01信濃道は今の墾り道刈りばねに足踏ましなむ沓はけ我が背

#[説明]
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#[番号]12/2856
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]山代 石田<社> 心鈍 手向為在 妹相難
#[訓読]山背の石田の社に心おそく手向けしたれや妹に逢ひかたき
#[仮名],やましろの,いはたのもりに,こころおそく,たむけしたれや,いもにあひかたき
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]杜 -> 社 [西(朱書訂正)][類][紀][温]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,地名,京都府,伏見,恋情
#[訓異]
#[大意]山城の石田の社にいいかげんに手向けをしたためなのか、妹に逢いがたいのは。
#{語釈]
山背の石田の社 京都府京都市伏見区石田町 石田神社
山城志 宇治郡、天穂日命神社 在石田村石田森 称田中明神
09/1730H01山科の石田の小野のははそ原見つつか君が山道越ゆらむ
09/1731H01山科の石田の杜に幣置かばけだし我妹に直に逢はむかも

心おそく おそ 2/126 にぶい いいかげん

#[説明]
同想
04/0712H01味酒を三輪の祝がいはふ杉手触れし罪か君に逢ひかたき

#[関連論文]


#[番号]12/2857
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]菅根之 惻隠々々 照日 乾哉吾袖 於妹不相為
#[訓読]菅の根のねもころごろに照る日にも干めや我が袖妹に逢はずして
#[仮名],すがのねの,ねもころごろに,てるひにも,ひめやわがそで,いもにあはずして
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,枕詞,植物,恋情
#[訓異]
#[大意]菅の根ではないが、懇ろによく照る日にも乾くだろうか。我が袖よ。妹に逢わないで。
#{語釈]
干めや我が袖 妹に逢えないで涙で袖を濡らしている

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2858
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]妹戀 不寐朝 吹風 妹經者 吾与經
#[訓読]妹に恋ひ寐ねぬ朝明に吹く風は妹にし触れば我れさへに触れ
#[仮名],いもにこひ,いねぬあさけに,ふくかぜは,いもにしふれば,われさへにふれ
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]与 [細] 共
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情
#[訓異]
#[大意]妹に恋いこがれて寝られない明け方に吹く風は、妹に触れたならば、自分にも触れなさい
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2859
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]飛鳥川 高川避紫 越来 信今夜 不明行哉
#[訓読]明日香川高川避かし越ゑ来しをまこと今夜は明けずも行かぬか
#[仮名],あすかがは,たかがはよかし,こゑこしを,まことこよひは,あけずもゆかぬか
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]高 (塙)(楓) 奈 / 避紫 [万葉集新考](塙)(楓) 柴避
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,地名,明日香,奈良県,恋愛,川渡り,難渋
#[訓異]
#[大意]飛鳥川の水かさの高いところをお避けになって越えて来たのに、本当に今夜は夜も明かさないで行く(帰る)ということがあろうか。
#{語釈]
高川避かし 水量の増した川をお避けになって
西 高川避紫越 橋本四郎 高川避 [此云越] の注の誤写か。
たかかはよきて こしものを
新考 南川柴避 なづさひ と訓む

明けずも行かぬか 苦労して来たのだから、夜も明けないでいかないものか
苦労して来たのだから、夜を明かさないで帰ろうものか
苦労してお越しになってので、夜を明かさないで帰るということがありましょうか(女の歌)

#[説明]


#[関連論文]


#[番号]12/2860
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]八<釣>川 水底不絶 行水 續戀 是比歳 [或本歌曰 水尾母不絶]
#[訓読]八釣川水底絶えず行く水の継ぎてぞ恋ふるこの年ころを [或本歌曰 水脈も絶えせず]
#[仮名],やつりがは,みなそこたえず,ゆくみづの,つぎてぞこふる,このとしころを,[みをもたえせず]
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]鈎 -> 釣 [紀][温]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,地名,明日香,奈良県,異伝,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]八釣川の水底も絶えないで流れていく水のように絶え間なく恋い思うこの年月を。
或本歌に曰う 水の流れも絶やさないで
#{語釈]
八釣川 奈良県高市郡明日香村 八釣山の麓を流れる川
03/0262H01矢釣山木立も見えず降りまがふ雪に騒ける朝楽しも

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2861
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]礒上 生小松 名惜 人不知 戀渡鴨
#[訓読]礒の上に生ふる小松の名を惜しみ人に知らえず恋ひわたるかも
#[仮名],いそのうへに,おふるこまつの,なををしみ,ひとにしらえず,こひわたるかも
#[左注]或本歌曰 巌上尓 立小松 名惜 人尓者不云 戀渡鴨 (右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,植物,人目,うわさ,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]磯のほとりに生えている松ではないが、名が惜しいので他人にわからないように恋い続けていることだ
#{語釈]
小松の 名にかかる序詞 かかり方未詳
考 目立っているから名前にあらわれる
古義 松の根はなに通じる 大系 根の古形か

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2861S
#[題詞](寄物陳思)或本歌曰
#[原文]巌上尓 立小松 名惜 人尓者不云 戀渡鴨
#[訓読]岩の上に立てる小松の名を惜しみ人には言はず恋ひわたるかも
#[仮名],いはのうへに,たてるこまつの,なををしみ,ひとにはいはず,こひわたるかも
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,序詞,植物,人目,うわさ,恋情,異伝
#[訓異]
#[大意]岩の上に立っている松ではないが名前が惜しいので他人には言わないで恋い続けていることだ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2862
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]山川 水陰生 山草 不止妹 所念鴨
#[訓読]山川の水陰に生ふる山菅のやまずも妹は思ほゆるかも
#[仮名],やまがはの,みづかげにおふる,やますげの,やまずもいもは,おもほゆるかも
#[左注](右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,植物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]山川の水かげに生えている山菅ではないが、やまないで絶えず妹は恋い思われることであるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2863
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]淺葉野 立神古 菅根 惻隠誰故 吾不戀 [或本歌曰 誰葉野尓 立志奈比垂]
#[訓読]浅葉野に立ち神さぶる菅の根のねもころ誰がゆゑ我が恋ひなくに [或本歌曰 誰が葉野に立ちしなひたる]
#[仮名],あさはのに,たちかむさぶる,すがのねの,ねもころたがゆゑ,あがこひなくに,[たがはのに,たちしなひたる]
#[左注]右廿三首柿本朝臣人麻呂之歌集出
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,植物,序詞,恋情,異伝
#[訓異]
#[大意]浅葉野に生えて神々しくなっている菅の根ではないが、懇ろにあなた以外の誰のために自分は恋い思うということはないのに 或本歌曰う 誰葉野に立ち靡いている
#{語釈]
浅葉野 未詳 拾穂抄 武蔵国 埼玉県入間郡坂戸町浅羽
略解 遠江 静岡県磐田郡浅羽町
11/2763H01紅の浅葉の野らに刈る草の束の間も我を忘らすな

誰がゆゑ我が恋ひなくに
07/1320H01水底に沈く白玉誰が故に心尽して我が思はなくに

或本歌 誰葉野 未詳 古義 豊前国田河郡 田河の野か

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2864
#[題詞]正述心緒
#[原文]吾背子乎 且今々々跡 待居尓 夜更深去者 嘆鶴鴨
#[訓読]我が背子を今か今かと待ち居るに夜の更けゆけば嘆きつるかも
#[仮名],わがせこを,いまかいまかと,まちゐるに,よのふけゆけば,なげきつるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]我が背子を今来るか今来るかと待っているのに夜が更けていくので嘆いていることであるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2865
#[題詞](正述心緒)
#[原文]玉釼 巻宿妹母 有者許増 夜之長毛 歡有倍吉
#[訓読]玉釧まき寝る妹もあらばこそ夜の長けくも嬉しくあるべき
#[仮名],たまくしろ,まきぬるいもも,あらばこそ,よのながけくも,うれしくあるべき
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋愛
#[訓異]
#[大意]玉釧を巻くように枕として寝る妹もあるからこそ、夜の長いこともうれしくあるようだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2866
#[題詞](正述心緒)
#[原文]人妻尓 言者誰事 酢衣乃 此紐解跡 言者孰言
#[訓読]人妻に言ふは誰が言さ衣のこの紐解けと言ふは誰が言
#[仮名],ひとづまに,いふはたがこと,さごろもの,このひもとけと,いふはたがこと
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],女歌,歌謡
#[訓異]
#[大意]人妻である自分に言うのは誰の言葉ですか。衣の紐をほどけと言うのは誰の言葉ですか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2867
#[題詞](正述心緒)
#[原文]如是許 将戀物其跡 知者 其夜者由多尓 有益物乎
#[訓読]かくばかり恋ひむものぞと知らませばその夜はゆたにあらましものを
#[仮名],かくばかり,こひむものぞと,しらませば,そのよはゆたに,あらましものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,未練
#[訓異]
#[大意]このように恋い思うものだとあらかじめ知っていたならば、その夜はゆったりとしていればよかった
#{語釈]
#[説明]
類想
11/2547H01かくばかり恋ひむものぞと思はねば妹が手本をまかぬ夜もありき

#[関連論文]


#[番号]12/2868
#[題詞](正述心緒)
#[原文]戀乍毛 後将相跡 思許増 己命乎 長欲為礼
#[訓読]恋ひつつも後も逢はむと思へこそおのが命を長く欲りすれ
#[仮名],こひつつも,のちもあはむと,おもへこそ,おのがいのちを,ながくほりすれ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]恋い続けて後でも会おうと思うからこそ自分の命を長くと願うのだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2869
#[題詞](正述心緒)
#[原文]今者吾者 将死与吾妹 不相而 念渡者 安毛無
#[訓読]今は我は死なむよ我妹逢はずして思ひわたれば安けくもなし
#[仮名],いまはわは,しなむよわぎも,あはずして,おもひわたれば,やすけくもなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]今は自分は死ぬよ我妹よ。逢わないで思い続けていると心安らかなことは少しもないよ
#{語釈]
#[説明]
類想
04/0684H01今は我は死なむよ我が背生けりとも我れに依るべしと言ふといはなくに
12/2936H01今は我は死なむよ我が背恋すれば一夜一日も安けくもなし

#[関連論文]


#[番号]12/2870
#[題詞](正述心緒)
#[原文]我背子之 将来跡語之 夜者過去 思咲八更々 思許理来目八面
#[訓読]我が背子が来むと語りし夜は過ぎぬしゑやさらさらしこり来めやも
#[仮名],わがせこが,こむとかたりし,よはすぎぬ,しゑやさらさら,しこりこめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],女歌,怨恨,恋愛
#[訓異]
#[大意]我が背子が来ようと話していた夜は過ぎてしまった。ええいもう今更間違っても来るだろうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2871
#[題詞](正述心緒)
#[原文]人言之 讒乎聞而 玉<桙>之 道毛不相常 云吾妹
#[訓読]人言の讒しを聞きて玉桙の道にも逢はじと言へりし我妹
#[仮名],ひとごとの,よこしをききて,たまほこの,みちにもあはじと,いへりしわぎも
#[左注]
#[校異]杵 -> 桙 [細][温][矢][京]
#[鄣W],うわさ,枕詞,恋愛
#[訓異]
#[大意]人のうわさの悪口を聞いて、玉鉾の道でも逢わないよと言った我妹であるよ
#{語釈]
讒し 新撰字鏡 讒 毀也、与己須 又不久也久 悪口

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2872
#[題詞](正述心緒)
#[原文]不相毛 懈常念者 弥益二 人言繁 所聞来可聞
#[訓読]逢はなくも憂しと思へばいや増しに人言繁く聞こえ来るかも
#[仮名],あはなくも,うしとおもへば,いやましに,ひとごとしげく,きこえくるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],うわさ,恋愛
#[訓異]
#[大意]逢わないこともつらいと思っているのに、ますます人のうわさがひどく聞こえて来ることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2873
#[題詞](正述心緒)
#[原文]里人毛 謂告我祢 縦咲也思 戀而毛将死 誰名将有哉
#[訓読]里人も語り継ぐがねよしゑやし恋ひても死なむ誰が名ならめや
#[仮名],さとびとも,かたりつぐがね,よしゑやし,こひてもしなむ,たがなならめや
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],うわさ,人目,恋愛
#[訓異]
#[大意]里の人も語り継ぐように。ええいままよ。あなたを恋い思って死んでしまおう。あなた以外の誰の名前が立とうか。
#{語釈]
誰が名ならめや 誰の名前だろうか。
自分が死んだならば、誰がうわさになろうか。他でもないあなたなのだ。
と相手を脅した言い方。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2874
#[題詞](正述心緒)
#[本文](り) 使乎無跡 情乎曽 使尓遣之 夢所見哉
#[訓読]確かなる使をなみと心をぞ使に遣りし夢に見えきや
#[仮名],たしかなる,つかひをなみと,こころをぞ,つかひにやりし,いめにみえきや
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋愛
#[訓異]
#[大意]確実な使いがないのでと、心を使いにやったが夢に見えたでしょうか。
#{語釈]
(り) 音 ソウ あわただしい 国意 たしかに たしかな

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2875
#[題詞](正述心緒)
#[原文]天地尓 小不至 大夫跡 思之吾耶 <雄>心毛無寸
#[訓読]天地に少し至らぬ大夫と思ひし我れや雄心もなき
#[仮名],あめつちに,すこしいたらぬ,ますらをと,おもひしわれや,をごころもなき
#[左注]
#[校異]雄 [西(上書訂正)][元][紀][細][温]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]天地には少し足りないが大きな大夫だと思っていた自分であるが、その雄々しい気持ちもないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2876
#[題詞](正述心緒)
#[原文]里近 家<哉>應居 此吾目之 人目乎為乍 戀繁口
#[訓読]里近く家や居るべきこの我が目の人目をしつつ恋の繁けく
#[仮名],さとちかく,いへやをるべき,このわがめの,ひとめをしつつ,こひのしげけく
#[左注]
#[校異]武 -> 哉 [西(右書訂正)][元][紀][細][温] / 目之 [元] 目
#[鄣W],うわさ,人目,恋情
#[訓異]
#[大意]人里近くで住まいをするべきであろうか。この自分の目が人目を気にしながら恋が激しいことであるよ。
#{語釈]
人目をしつつ 人目をはばかりながら

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2877
#[題詞](正述心緒)
#[原文]何時奈毛 不<戀>有登者 雖不有 得田直比来 戀之繁母
#[訓読]いつはなも恋ひずありとはあらねどもうたてこのころ恋し繁しも
#[仮名],いつはなも,こひずありとは,あらねども,うたてこのころ,こひししげしも
#[左注]
#[校異]戀奈毛 -> 戀 [西(訂正)][紀][細][温]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]何時はとて恋い思わないということはないが、しきりにこの頃は恋が激しいことであるよ。
#{語釈]
いつはなも 「なも」係助詞 集中この一例のみ
後に「なむ」

うたてこのころ 甚だしく、しきりに
全釈「尋常でなく悪い、又は厭わしいなどの意とするのが誤解のもとである。これはこの語の原義で、何となく進む意。即ち転(うたた)というに同じである。」
10/1889H01我が宿の毛桃の下に月夜さし下心よしうたてこのころ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2878
#[題詞](正述心緒)
#[原文]黒玉之 宿而之晩乃 物念尓 割西(る)者 息時裳無
#[訓読]ぬばたまの寐ねてし宵の物思ひに裂けにし胸はやむ時もなし
#[仮名],ぬばたまの,いねてしよひの,ものもひに,さけにしむねは,やむときもなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]ぬば玉の共に寝た宵を思い出して物思いをし、張り裂けた胸の気持ちはやむときもないことだ
#{語釈]
寐ねてし宵の物思ひに 共寝をした宵であって、その物思いに

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2879
#[題詞](正述心緒)
#[原文]三空去 名之惜毛 吾者無 不相日數多 年之經者
#[訓読]み空行く名の惜しけくも我れはなし逢はぬ日まねく年の経ぬれば
#[仮名],みそらゆく,なのをしけくも,われはなし,あはぬひまねく,としのへぬれば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]空を行くように目立ってしまった名前も惜しいことはない。逢わない日が数多く年が経ってしまっているので。
#{語釈]
み空行く 空を行くように広がった、目立って人のうわさになっている浮き名

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2880
#[題詞](正述心緒)
#[原文]得管二毛 今毛見<壮>鹿 夢耳 手本纒宿登 見者辛苦毛 [或本歌發<句>曰 吾妹兒乎]
#[訓読]うつつにも今も見てしか夢のみに手本まき寝と見るは苦しも [或本歌發<句>曰 我妹子を]
#[仮名],うつつにも,いまもみてしか,いめのみに,たもとまきぬと,みるはくるしも,[わぎもこを]
#[左注]
#[校異]社 -> 壮 [元][細][紀] / 勺 -> 句 [元][紀][細]
#[鄣W],異伝,恋情
#[訓異]
#[大意]現実にも今も見たいものだ。夢ばかりに手もとを巻いて寝ると見るのは苦しいことだ。或本歌發句曰う 我妹子を
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2881
#[題詞](正述心緒)
#[原文]立而居 為便乃田時毛 今者無 妹尓不相而 月之經去者 [或本歌曰 君之目不見而 月之經去者]
#[訓読]立ちて居てすべのたどきも今はなし妹に逢はずて月の経ぬれば [或本歌曰 君が目見ずて月の経ぬれば]
#[仮名],たちてゐて,すべのたどきも,いまはなし,いもにあはずて,つきのへぬれば,[きみがめみずて,つきのへぬれば]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],異伝,恋情
#[訓異]
#[大意]立っても座っていてもどうにも方法がないことだ。妹に逢わないで月が経ったので。或本歌に曰う あなたの目を見ないで月が経ったので
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2882
#[題詞](正述心緒)
#[原文]不相而 戀度等母 忘哉 弥日異者 思益等母
#[訓読]逢はずして恋ひわたるとも忘れめやいや日に異には思ひ増すとも
#[仮名],あはずして,こひわたるとも,わすれめや,いやひにけには,おもひますとも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]逢わないで恋い続けるとしても忘れることがあろうか。日を追ってますます思いが増すことはあっても。
#{語釈]

#[説明]
笠郎女歌 この歌によったか 私注は郎女歌が民謡化したのがこの歌か
04/0595H01我が命の全けむ限り忘れめやいや日に異には思ひ増すとも

#[関連論文]


#[番号]12/2883
#[題詞](正述心緒)
#[原文]外目毛 君之光儀乎 見而者社 吾戀山目 命不死者 [一云 壽向 吾戀止目]
#[訓読]外目にも君が姿を見てばこそ我が恋やまめ命死なずは [一云 命に向ふ我が恋やまめ]
#[仮名],よそめにも,きみがすがたを,みてばこそ,あがこひやまめ,いのちしなずは,[いのちにむかふ,あがこひやまめ]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,異伝
#[訓異]
#[大意]よそ目にでもあなたの姿を見たならばこそ自分は恋い思う気持ちがおさまるだろう。それまで恋い死にをしなければ。一云 命がけの自分の恋いはおさまるだろう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2884
#[題詞](正述心緒)
#[原文]戀管母 今日者在目杼 玉匣 将開明日 如何将暮
#[訓読]恋ひつつも今日はあらめど玉櫛笥明けなむ明日をいかに暮らさむ
#[仮名],こひつつも,けふはあらめど,たまくしげ,あけなむあすを,いかにくらさむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]恋い続けながらも今日は暮らせるが、玉櫛笥を明けるように明ける明日をどのように暮らそうか
#{語釈]
#[説明]
類歌
10/1914H01恋ひつつも今日は暮らしつ霞立つ明日の春日をいかに暮らさむ

#[関連論文]


#[番号]12/2885
#[題詞](正述心緒)
#[原文]左夜深而 妹乎念出 布妙之 枕毛衣世二 <嘆>鶴鴨
#[訓読]さ夜更けて妹を思ひ出で敷栲の枕もそよに嘆きつるかも
#[仮名],さよふけて,いもをおもひいで,しきたへの,まくらもそよに,なげきつるかも
#[左注]
#[校異]歎 -> 嘆 [元][紀][細][温]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]夜が更けて妹を思い出し敷き妙の枕もそよと鳴るばかりに嘆いたことであるよ
#{語釈]
枕もそよに
20/4398H09はろはろに 家を思ひ出 負ひ征矢の そよと鳴るまで
11/2515H01敷栲の枕響みて夜も寝ず思ふ人には後も逢ふものを

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2886
#[題詞](正述心緒)
#[原文]他言者 真言痛 成友 彼所将障 吾尓不有國
#[訓読]人言はまこと言痛くなりぬともそこに障らむ我れにあらなくに
#[仮名],ひとごとは,まことこちたく,なりぬとも,そこにさはらむ,われにあらなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]人のうわさは本当にひどくなってしまおうとも、そこに障害が出来る自分ではないことなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2887
#[題詞](正述心緒)
#[原文]立居 田時毛不知 吾意 天津空有 土者踐鞆
#[訓読]立ちて居てたどきも知らず我が心天つ空なり地は踏めども
#[仮名],たちてゐて,たどきもしらず,あがこころ,あまつそらなり,つちはふめども
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]立っても座っていてもその手だてがわからないで、自分の気持ちはうわの空である。地面は踏んでいるが。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2888
#[題詞](正述心緒)
#[原文]世間之 人辞常 所念莫 真曽戀之 不相日乎多美
#[訓読]世の中の人のことばと思ほすなまことぞ恋ひし逢はぬ日を多み
#[仮名],よのなかの,ひとのことばと,おもほすな,まことぞこひし,あはぬひをおほみ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]世間の人の普通の言葉とはお思いになるな。本当に恋しいことだ。逢わない日が多いので。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2889
#[題詞](正述心緒)
#[原文]乞如何 吾幾許戀流 吾妹子之 不相跡言流 事毛有莫國
#[訓読]いで如何に我がここだ恋ふる我妹子が逢はじと言へることもあらなくに
#[仮名],いでいかに,あがここだこふる,わぎもこが,あはじといへる,こともあらなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]さあどうして自分はこんなにも恋い思うのだろうか。我妹子が逢うまいと言ったこともないことなのに。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2890
#[題詞](正述心緒)
#[原文]夜干玉之 夜乎長鴨 吾背子之 夢尓夢西 所見還良武
#[訓読]ぬばたまの夜を長みかも我が背子が夢に夢にし見えかへるらむ
#[仮名],ぬばたまの,よをながみかも,わがせこが,いめにいめにし,みえかへるらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜が長いからか、我が背子が夢という夢に何度も繰り返し見えるのだろう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2891
#[題詞](正述心緒)
#[原文]荒玉之 年緒長 如此戀者 信吾命 全有目八面
#[訓読]あらたまの年の緒長くかく恋ひばまこと我が命全くあらめやも
#[仮名],あらたまの,としのをながく,かくこひば,まことわがいのち,またくあらめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]あらたまの年月長くこのように恋い思うと、本当に自分の命はまっとうできようか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2892
#[題詞](正述心緒)
#[原文]思遣 為便乃田時毛 吾者無 不相數多 月之經去者
#[訓読]思ひ遣るすべのたどきも我れはなし逢はずてまねく月の経ぬれば
#[仮名],おもひやる,すべのたどきも,われはなし,あはずてまねく,つきのへぬれば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]思いを晴らす手だても自分はない。逢わないで多くの月が経ったので。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2893
#[題詞](正述心緒)
#[原文]朝去而 暮者来座 君故尓 忌々久毛吾者 歎鶴鴨
#[訓読]朝去にて夕は来ます君ゆゑにゆゆしくも我は嘆きつるかも
#[仮名],あしたいにて,ゆふへはきます,きみゆゑに,ゆゆしくもわは,なげきつるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]朝は帰って行って夕方いらっしゃるあなたなのに、あさましいほどに自分は嘆いたことであるよ
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2894
#[題詞](正述心緒)
#[原文]従聞 物乎念者 我(る)者 破而摧而 鋒心無
#[訓読]聞きしより物を思へば我が胸は破れて砕けて利心もなし
#[仮名],ききしより,ものをおもへば,あがむねは,われてくだけて,とごころもなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]うわさに聞いたことでもの思いをしているので、自分の胸は割れて砕けて、しっかりした心もないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2895
#[題詞](正述心緒)
#[原文]人言乎 繁三言痛三 我妹子二 去月従 未相可母
#[訓読]人言を繁み言痛み我妹子に去にし月よりいまだ逢はぬかも
#[仮名],ひとごとを,しげみこちたみ,わぎもこに,いにしつきより,いまだあはぬかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]人のうわさが激しくてひどいので、我妹子に先月から逢わないことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2896
#[題詞](正述心緒)
#[原文]歌方毛 曰管毛有鹿 吾有者 地庭不落 空消生
#[訓読]うたがたも言ひつつもあるか我れならば地には落ちず空に消なまし
#[仮名],うたがたも,いひつつもあるか,われならば,つちにはおちず,そらにけなまし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]一途に言い続けていることだ。自分だったら地面には落ちずに空に消えてしまったほうがましだ。
#{語釈]
うたがたも 一途に きっと
12/2896H01うたがたも言ひつつもあるか我れならば地には落ちず空に消なまし
15/3600H01離れ礒に立てるむろの木うたがたも久しき時を過ぎにけるかも
17/3949H01天離る鄙にある我れをうたがたも紐解き放けて思ほすらめや
17/3968H01鴬の来鳴く山吹うたがたも君が手触れず花散らめやも

地には落ちず空に消なまし 雪や花のように消えてなくなろう。死んでしまおう
06/1010H01奥山の真木の葉しのぎ降る雪の降りは増すとも地に落ちめやも
08/1653H01今のごと心を常に思へらばまづ咲く花の地に落ちめやも

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2897
#[題詞](正述心緒)
#[原文]何 日之時可毛 吾妹子之 裳引之容儀 朝尓食尓将見
#[訓読]いかならむ日の時にかも我妹子が裳引きの姿朝に日に見む
#[仮名],いかならむ,ひのときにかも,わぎもこが,もびきのすがた,あさにけにみむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]いつの日や時になったらかなあ。我妹子が裳を引いている姿を毎朝、昼に見ることだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2898
#[題詞](正述心緒)
#[原文]獨居而 戀者辛苦 玉手次 不懸将忘 言量欲
#[訓読]ひとり居て恋ふるは苦し玉たすき懸けず忘れむ事計りもが
#[仮名],ひとりゐて,こふるはくるし,たまたすき,かけずわすれむ,ことはかりもが
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]独りでじっとしていて恋い思うのは苦しいことだ。玉たすきではないが心にかけないで忘れる計画もないものだろうか
#{語釈]
懸けず忘れむ あなたのことを心にかけないで忘れる

#[説明]
類歌
04/0756H01外に居て恋ふれば苦し我妹子を継ぎて相見む事計りせよ
12/2908H01常かくし恋ふれば苦ししましくも心休めむ事計りせよ

#[関連論文]


#[番号]12/2899
#[題詞](正述心緒)
#[原文]中々二 黙然毛有申尾 小豆無 相見始而毛 吾者戀香
#[訓読]なかなかに黙もあらましをあづきなく相見そめても我れは恋ふるか
#[仮名],なかなかに,もだもあらましを,あづきなく,あひみそめても,あれはこふるか
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]かえって黙っていればよかったのに。つまらなく共に逢い始めて自分は恋い思うことであるよ
#{語釈]
#[説明]
類歌
04/0612H01なかなかに黙もあらましを何すとか相見そめけむ遂げざらまくに

#[関連論文]


#[番号]12/2900
#[題詞](正述心緒)
#[原文]吾妹子之 咲眉引 面影 懸而本名 所念可毛
#[訓読]我妹子が笑まひ眉引き面影にかかりてもとな思ほゆるかも
#[仮名],わぎもこが,ゑまひまよびき,おもかげに,かかりてもとな,おもほゆるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]我妹子のほほえむ眉根が面影にかかって、やたらに思われてならないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2901
#[題詞](正述心緒)
#[原文]赤根指 日之暮去者 為便乎無三 千遍嘆而 戀乍曽居
#[訓読]あかねさす日の暮れゆけばすべをなみ千たび嘆きて恋ひつつぞ居る
#[仮名],あかねさす,ひのくれゆけば,すべをなみ,ちたびなげきて,こひつつぞをる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]あかねさす日が暮れていくとどうしようもないので、何度も歎息して恋い続けていることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2902
#[題詞](正述心緒)
#[原文]吾戀者 夜晝不別 百重成 情之念者 甚為便無
#[訓読]我が恋は夜昼わかず百重なす心し思へばいたもすべなし
#[仮名],あがこひは,よるひるわかず,ももへなす,こころしおもへば,いたもすべなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]自分の恋いは夜昼の区別もなく幾重にも心に思うのでたいそうなんともしようのないことだ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2903
#[題詞](正述心緒)
#[原文]五十殿寸太 薄寸眉根乎 徒 令掻管 不相人可母
#[訓読]いとのきて薄き眉根をいたづらに掻かしめつつも逢はぬ人かも
#[仮名],いとのきて,うすきまよねを,いたづらに,かかしめつつも,あはぬひとかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]格別に薄い眉根をむだに掻かせ続けるばかりで逢わない人であることだ
#{語釈]
いとのきて
05/0892H14ことも忘れて ぬえ鳥の のどよひ居るに いとのきて 短き物を

#[説明]
類歌
04/0562H01暇なく人の眉根をいたづらに掻かしめつつも逢はぬ妹かも

#[関連論文]


#[番号]12/2904
#[題詞](正述心緒)
#[原文]戀々而 後裳将相常 名草漏 心四無者 五十寸手有目八面
#[訓読]恋ひ恋ひて後も逢はむと慰もる心しなくは生きてあらめやも
#[仮名],こひこひて,のちもあはむと,なぐさもる,こころしなくは,いきてあらめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]恋い焦がれて後々にも逢おうと慰められる気持ちがないと生きていられようか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2905
#[題詞](正述心緒)
#[原文]幾 不生有命乎 戀管曽 吾者氣衝 人尓不所知
#[訓読]いくばくも生けらじ命を恋ひつつぞ我れは息づく人に知らえず
#[仮名],いくばくも,いけらじいのちを,こひつつぞ,われはいきづく,ひとにしらえず
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]いくらも生きてはいられない命であるのに恋い続けて自分は歎息している。人には知られないで
#{語釈]
人 恋い思う相手

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2906
#[題詞](正述心緒)
#[原文]他國尓 結婚尓行而 大刀之緒毛 未解者 左夜曽明家流
#[訓読]他国によばひに行きて大刀が緒もいまだ解かねばさ夜ぞ明けにける
#[仮名],ひとくにに,よばひにゆきて,たちがをも,いまだとかねば,さよぞあけにける
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋愛
#[訓異]
#[大意]他の国に夜ばいに行って、太刀の緒もまだ解かないのに夜が明けてしまった
#{語釈]
太刀が緒 古事記
この八千矛の神、高志の国の沼河比売を婚はむとして、幸でましし時、その沼河比売の家に到りて歌ひたまひしく、
八島国 妻枕きかねて 遠々し 高志の国に 賢し女を 有りと聞かして
麗し女を 有りと聞こして さ婚ひに 在立たし 婚ひに 在通はせ
太刀が緒も いまだ解かずて 襲(おすひ)をも いまだ解かねば
嬢子の 寝(な)すや板戸を 押そぶらひ 我が立たせれば
引こづらひ 我が立たせれば 青山に ●(ぬえ)は鳴きぬ
さ野つ鳥 雉は響む 庭つ鳥 鶏は鳴く うれたくも 鳴くなる鳥か
この鳥も 打ち止めこせね
いしたふや 海人駈使 事の 語り言も こをば

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2907
#[題詞](正述心緒)
#[原文]大夫之 <聡>神毛 今者無 戀之奴尓 吾者可死
#[訓読]ますらをの聡き心も今はなし恋の奴に我れは死ぬべし
#[仮名],ますらをの,さときこころも,いまはなし,こひのやつこに,われはしぬべし
#[左注]
#[校異]聴 -> 聡 [西(訂正頭書)][元][紀][細][温]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]大夫の賢明な心も今はないよ。恋いの奴に自分は死ぬだろう
#{語釈]
#[説明]
11/2574H01面忘れだにもえすやと手握りて打てども懲りず恋といふ奴
12/2907H01ますらをの聡き心も今はなし恋の奴に我れは死ぬべし
16/3816H01家にありし櫃にかぎさし蔵めてし恋の奴のつかみかかりて

0/2122H01大夫の心はなしに秋萩の恋のみにやもなづみてありなむ
11/2635H01剣大刀身に佩き添ふる大夫や恋といふものを忍びかねてむ
11/2758H01菅の根のねもころ妹に恋ふるにし大夫心思ほえぬかも
12/2987H01梓弓引きて緩へぬ大夫や恋といふものを忍びかねてむ

#[関連論文]


#[番号]12/2908
#[題詞](正述心緒)
#[原文]常如是 戀者辛苦 蹔毛 心安目六 事計為与
#[訓読]常かくし恋ふれば苦ししましくも心休めむ事計りせよ
#[仮名],つねかくし,こふればくるし,しましくも,こころやすめむ,ことはかりせよ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]いつもこのように恋い思っていると苦しいことだ。しばらくの間も気持ちを休める計画を立ててくれ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2909
#[題詞](正述心緒)
#[原文]凡尓 吾之念者 人妻尓 有云妹尓 戀管有米也
#[訓読]おほろかに我れし思はば人妻にありといふ妹に恋ひつつあらめや
#[仮名],おほろかに,われしおもはば,ひとづまに,ありといふいもに,こひつつあらめや
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情

#[番号]12/2910
#[題詞](正述心緒)
#[原文]心者 千重百重 思有杼 人目乎多見 妹尓不相可母
#[訓読]心には千重に百重に思へれど人目を多み妹に逢はぬかも
#[仮名],こころには,ちへにももへに,おもへれど,ひとめをおほみ,いもにあはぬかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,人目,うわさ
#[訓異]
#[大意]心には何度も幾重にも思うが、人目が多いので妹に逢わないことであるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2911
#[題詞](正述心緒)
#[原文]人目多見 眼社忍礼 小毛 心中尓 吾念莫國
#[訓読]人目多み目こそ忍ぶれすくなくも心のうちに我が思はなくに
#[仮名],ひとめおほみ,めこそしのぶれ,すくなくも,こころのうちに,わがおもはなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],人目,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]人目が多いので逢うことこそこらえているが、少なくとも心の中では自分は思っていないということはないよ
#{語釈]
目こそ忍ぶれ 已然条件法 忍ぶれ(ば)
已然形 普通にみると 忍ぶ バ行下二段活用 耐える、こらえる
四段活用 れ 完了「り」の已然形

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2912
#[題詞](正述心緒)
#[原文]人見而 事害目不為 夢尓吾 今夜将至 屋戸閇勿勤
#[訓読]人の見て言とがめせぬ夢に我れ今夜至らむ宿閉すなゆめ
#[仮名],ひとのみて,こととがめせぬ,いめにわれ,こよひいたらむ,やどさすなゆめ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],人目,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]他人が見て何も言わない夢を見たので自分は今夜妹の所へ行こう。家の戸を閉めるなよ。決して
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2913
#[題詞](正述心緒)
#[原文]何時左右二 将生命曽 凡者 戀乍不有者 死上有
#[訓読]いつまでに生かむ命ぞおほかたは恋ひつつあらずは死なましものを
#[仮名],いつまでに,いかむいのちぞ,おほかたは,こひつつあらずは,しなましものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]いつまで生きている命だろうか。だいたいは恋い続けていずに死んだ方がましであるのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2914
#[題詞](正述心緒)
#[原文]<愛>等 念吾妹乎 夢見而 起而探尓 無之不怜
#[訓読]愛しと思ふ我妹を夢に見て起きて探るになきが寂しさ
#[仮名],うつくしと,おもふわぎもを,いめにみて,おきてさぐるに,なきがさぶしさ
#[左注]
#[校異]愛 [西(上書訂正)][元][紀][細][温]
#[鄣W],恋情,遊仙窟
#[訓異]
#[大意]かわいいと思う我妹を夢に見て、起きて探ったがいないのが寂しいことだ
#{語釈]
#[説明]
04/0741H01夢の逢ひは苦しかりけりおどろきて掻き探れども手にも触れねば

遊仙窟
少時坐睡、即夢見十娘、驚覚探之、忽然空手、心中悵怏、復何可論

#[関連論文]


#[番号]12/2915
#[題詞](正述心緒)
#[原文]妹登曰者 無礼恐 然為蟹 懸巻欲 言尓有鴨
#[訓読]妹と言はばなめし畏ししかすがに懸けまく欲しき言にあるかも
#[仮名],いもといはば,なめしかしこし,しかすがに,かけまくほしき,ことにあるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋愛
#[訓異]
#[大意]恋人と言ったら無礼であり恐れ多いことである。そうではあるが口にかけたい言葉であるなあ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2916
#[題詞](正述心緒)
#[原文]玉勝間 相登云者 誰有香 相有時左倍 面隠為
#[訓読]玉かつま逢はむと言ふは誰れなるか逢へる時さへ面隠しする
#[仮名],たまかつま,あはむといふは,たれなるか,あへるときさへ,おもかくしする
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋愛
#[訓異]
#[大意]美しい籠が合うではないが逢おうと言うのは誰なのか。逢った時でさえ顔を隠したりするのに
#{語釈]
玉かつま 玉 美称 かつま 籠 かたま 美しい籠 蓋と身が合うことから合うの枕詞

面隠しする
11/2554H01相見ては面隠さゆるものからに継ぎて見まくの欲しき君かも

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2917
#[題詞](正述心緒)
#[原文]寤香 妹之来座有 夢可毛 吾香惑流 戀之繁尓
#[訓読]うつつにか妹が来ませる夢にかも我れか惑へる恋の繁きに
#[仮名],うつつにか,いもがきませる,いめにかも,われかまとへる,こひのしげきに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]現実だろうか。妹がお越しになったのは。それとも夢で自分が迷ったのだろうか。恋い思うことの激しいために。
#{語釈]
#[説明]
類同歌
11/2595H01夢にだに何かも見えぬ見ゆれども我れかも惑ふ恋の繁きに

#[関連論文]


#[番号]12/2918
#[題詞](正述心緒)
#[原文]大方者 何鴨将戀 言擧不為 妹尓依宿牟 年者近<綬>
#[訓読]おほかたは何かも恋ひむ言挙げせず妹に寄り寝む年は近きを
#[仮名],おほかたは,なにかもこひむ,ことあげせず,いもによりねむ,としはちかきを
#[左注]
#[校異]絞 -> 綬 [元][紀][矢][京]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]だいたいはどうして恋い思おうか。言葉に出さなくとも妹に寄って寝る年月は近いものなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2919
#[題詞](正述心緒)
#[原文]二為而 結之紐乎 一為而 吾者解不見 直相及者
#[訓読]ふたりして結びし紐をひとりして我れは解きみじ直に逢ふまでは
#[仮名],ふたりして,むすびしひもを,ひとりして,あれはときみじ,ただにあふまでは
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,羈旅
#[訓異]
#[大意]二人で結んだ紐を一人ではほどいてはみないよ。直接逢うまでは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2920
#[題詞](正述心緒)
#[原文]終命 此者不念 唯毛 妹尓不相 言乎之曽念
#[訓読]終へむ命ここは思はずただしくも妹に逢はざることをしぞ思ふ
#[仮名],をへむいのち,ここはおもはず,ただしくも,いもにあはざる,ことをしぞおもふ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]終えてしまうような命であるがそのことは思わない。ただ妹に逢わないことばかりを思っているよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2921
#[題詞](正述心緒)
#[原文]幼婦者 同情 須臾 止時毛無久 将見等曽念
#[訓読]たわや女は同じ心にしましくもやむ時もなく見てむとぞ思ふ
#[仮名],たわやめは,おやじこころに,しましくも,やむときもなく,みてむとぞおもふ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]手弱女である自分はあなたと同じ心で、少しの間も止むときもなく、逢っていようと思うことだ
#{語釈]
#[説明]
いつも一緒にいたいと思う気持ちはあなたと同じだという意
#[関連論文]


#[番号]12/2922
#[題詞](正述心緒)
#[原文]夕去者 於君将相跡 念許<増> 日之晩毛 悞有家礼
#[訓読]夕さらば君に逢はむと思へこそ日の暮るらくも嬉しくありけれ
#[仮名],ゆふさらば,きみにあはむと,おもへこそ,ひのくるらくも,うれしくありけれ
#[左注]
#[校異]憎 -> 増 [元][紀][温][京]
#[鄣W],恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]夕方になるとあなたに逢うだろうと思うからこそ日が暮れることもうれしくもあることなのだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2923
#[題詞](正述心緒)
#[原文]直今日毛 君尓波相目跡 人言乎 繁不相而 戀度鴨
#[訓読]ただ今日も君には逢はめど人言を繁み逢はずて恋ひわたるかも
#[仮名],ただけふも,きみにはあはめど,ひとごとを,しげみあはずて,こひわたるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,うわさ,女歌
#[訓異]
#[大意]すぐに今日にでもあなたに逢おうが、人のうわさがひどいので逢わないで恋い続けることであるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2924
#[題詞](正述心緒)
#[原文]世間尓 戀将繁跡 不念者 君之手本乎 不枕夜毛有寸
#[訓読]世の中に恋繁けむと思はねば君が手本をまかぬ夜もありき
#[仮名],よのなかに,こひしげけむと,おもはねば,きみがたもとを,まかぬよもありき
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]世の中でこんなに恋いが激しいと思わなかったので、あなたの袂を枕としない夜もあったことだ
#{語釈]
#[説明]
同想歌
11/2547H01かくばかり恋ひむものぞと思はねば妹が手本をまかぬ夜もありき

#[関連論文]


#[番号]12/2925
#[題詞](正述心緒)
#[原文]緑兒之 為社乳母者 求云 乳飲哉君之 於毛求覧
#[訓読]みどり子のためこそ乳母は求むと言へ乳飲めや君が乳母求むらむ
#[仮名],みどりこの,ためこそおもは,もとむといへ,ちのめやきみが,おももとむらむ
#[左注]
#[校異]社 [西(訂正)] 杜
#[鄣W],恋愛,女歌,戯歌
#[訓異]
#[大意]赤ん坊のために乳母を探すというのに、あなたはまだ乳を飲むからか、乳母を求めているのか
#{語釈]
求むと言へ 乳を飲めばや 反語的疑問 乳をお飲みになる方でもないものを
#[説明]
年若い男をはねつけている年上の女の歌

注釈
「已然形+や」の例の最もよくわかる作として私はよくこの歌を引いて説明していたのであるが、ある時女子大でこの歌の解釈を試験に出したらさっぱり出来ていなかったので、その後この作者と相手の男の事とを質問してみるとやはり答えられない。女子大生にはこの歌の意味がわかるにまだ十年は若いのだから無理はないと思ったが、それ以来ていねいに説明する事にしたのである。次の歌と同時にあげればわかりやすいと思う

#[関連論文]


#[番号]12/2926
#[題詞](正述心緒)
#[原文]悔毛 老尓来鴨 我背子之 求流乳母尓 行益物乎
#[訓読]悔しくも老いにけるかも我が背子が求むる乳母に行かましものを
#[仮名],くやしくも,おいにけるかも,わがせこが,もとむるおもに,ゆかましものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋愛,戯歌
#[訓異]
#[大意]くやしい事にも年をとってしまったことだ。(もう少し若かったら)我が背子が求める乳母に行こうものなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2927
#[題詞](正述心緒)
#[原文]浦觸而 可例西袖S 又巻者 過西戀<以> 乱今可聞
#[訓読]うらぶれて離れにし袖をまたまかば過ぎにし恋い乱れ来むかも
#[仮名],うらぶれて,かれにしそでを,またまかば,すぎにしこひい,みだれこむかも
#[左注]
#[校異]也 -> 以 [元]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]しょんぼりとして離れてしまったあなたの袖をまた枕にしたならば、過ぎてしまった恋いがまた乱れて来ることであろうか
#{語釈]
恋い い 強意の助詞
03/0237H01いなと言へど語れ語れと宣らせこそ志斐いは申せ強ひ語りと詔る

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2928
#[題詞](正述心緒)
#[原文]各寺師 人死為良思 妹尓戀 日異羸沼 人丹不所知
#[訓読]おのがじし人死にすらし妹に恋ひ日に異に痩せぬ人に知らえず
#[仮名],おのがじし,ひとしにすらし,いもにこひ,ひにけにやせぬ,ひとにしらえず
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]おのおの思い思いに人間は自分の死に方をするらしい。妹に恋い思い一日一日痩せてきた。あなたには知られずに
#{語釈]
おのがじし おのおの
人 相手 妹
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2929
#[題詞](正述心緒)
#[原文]夕々 吾立待尓 若雲 君不来益者 應辛苦
#[訓読]宵々に我が立ち待つにけだしくも君来まさずは苦しかるべし
#[仮名],よひよひに,わがたちまつに,けだしくも,きみきまさずは,くるしかるべし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]毎晩毎晩自分は立って待っているが、もしもあなたがいらっしゃらなかったら苦しいことだろう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2930
#[題詞](正述心緒)
#[原文]生代尓 戀云物乎 相不見者 戀中尓毛 吾曽苦寸
#[訓読]生ける世に恋といふものを相見ねば恋のうちにも我れぞ苦しき
#[仮名],いけるよに,こひといふものを,あひみねば,こひのうちにも,われぞくるしき
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]生きている世の中に恋というものを出会ったことがないので、世の中の恋の中でも自分の恋がもっとも苦しい
#{語釈]
生ける世に恋といふものを相見ねば 恋を擬人化した中で、恋というものに出会ったことがないという 今まではそんな恋に出会ったことがない

恋のうちにも我れぞ苦しき 恋というもののなかでも自分のがいちばん苦しい

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2931
#[題詞](正述心緒)
#[原文]念管 座者苦毛 夜干玉之 夜尓至者 吾社湯龜
#[訓読]思ひつつ居れば苦しもぬばたまの夜に至らば我れこそ行かめ
#[仮名],おもひつつ,をればくるしも,ぬばたまの,よるにいたらば,われこそゆかめ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]思いつづけてじっとしていると苦しい。ぬばたまの夜になったら自分から行こう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2932
#[題詞](正述心緒)
#[原文]情庭 燎而念杼 虚蝉之 人目乎繁 妹尓不相鴨
#[訓読]心には燃えて思へどうつせみの人目を繁み妹に逢はぬかも
#[仮名],こころには,もえておもへど,うつせみの,ひとめをしげみ,いもにあはぬかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],人目,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]心には燃えて思っているが、現実の人目が多いので妹に逢わないことであるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2933
#[題詞](正述心緒)
#[原文]不相念 公者雖座 肩戀丹 吾者衣戀 君之光儀
#[訓読]相思はず君はまさめど片恋に我れはぞ恋ふる君が姿に
#[仮名],あひおもはず,きみはまさめど,かたこひに,あれはぞこふる,きみがすがたに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]私を思ってくれないであなたはいらっしゃるが、片恋いに自分は恋い思っていることだ。あなたの姿に
#{語釈]
#[説明]
片恋いの恨み
04/0717H01つれもなくあるらむ人を片思に我れは思へばわびしくもあるか
10/1989H01卯の花の咲くとはなしにある人に恋ひやわたらむ片思にして
12/3078H01波の共靡く玉藻の片思に我が思ふ人の言の繁けく
12/3111H01すべもなき片恋をすとこの頃に我が死ぬべきは夢に見えきや
17/3929H01旅に去にし君しも継ぎて夢に見ゆ我が片恋の繁ければかも

#[関連論文]


#[番号]12/2934
#[題詞](正述心緒)
#[原文]味澤相 目者非不飽 携 不問事毛 苦勞有来
#[訓読]あぢさはふ目は飽かざらねたづさはり言とはなくも苦しくありけり
#[仮名],あぢさはふ,めはあかざらね,たづさはり,こととはなくも,くるしくありけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]あぢさはふあなたの目は飽きないが、手を携えて言葉を言い交わさないのは苦しいことであるよ
#{語釈]
あぢさはふ 目にかかる枕詞 味鴨のかかる網の目の意味か

あかざらね 逆接「ど」が省略 近くで姿を見る
姿は毎日お見かけしているが、

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2935
#[題詞](正述心緒)
#[原文]璞之 年緒永 何時左右鹿 我戀将居 壽不知而
#[訓読]あらたまの年の緒長くいつまでか我が恋ひ居らむ命知らずて
#[仮名],あらたまの,としのをながく,いつまでか,あがこひをらむ,いのちしらずて
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]あらたまの年月を長くいつまで自分は恋しているのか。いつまで生きるかもわからないのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2936
#[題詞](正述心緒)
#[原文]今者吾者 指南与我兄 戀為者 一夜一日毛 安毛無
#[訓読]今は我は死なむよ我が背恋すれば一夜一日も安けくもなし
#[仮名],いまはわは,しなむよわがせ,こひすれば,ひとよひとひも,やすけくもなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]今は自分は死ぬよ。わが背よ。恋いすると一晩一日も心安らかなことはないよ
#{語釈]
#[説明]
04/0684H01今は我は死なむよ我が背生けりとも我れに依るべしと言ふといはなくに
類歌
12/2869H01今は我は死なむよ我妹逢はずして思ひわたれば安けくもなし

#[関連論文]


#[番号]12/2937
#[題詞](正述心緒)
#[原文]白細布之 袖<折>反 戀者香 妹之容儀乃 夢二四三湯流
#[訓読]白栲の袖折り返し恋ふればか妹が姿の夢にし見ゆる
#[仮名],しろたへの,そでをりかへし,こふればか,いもがすがたの,いめにしみゆる
#[左注]
#[校異]打 -> 折 [元][紀][細][温]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]白妙の袖を折り返して恋い思うからか、妹の姿が夢に見えたことだ。
#{語釈]
白栲の袖折り返し 相手が来ることの呪術的行為
自分がしているのか、相手の妹がしているのかは不明
11/2812H01我妹子に恋ひてすべなみ白栲の袖返ししは夢に見えきや
11/2813H01我が背子が袖返す夜の夢ならしまことも君に逢ひたるごとし

7/3973H08すみれを摘むと 白栲の 袖折り返し 紅の 赤裳裾引き 娘子らは
20/4331H11袖折り返し ぬばたまの 黒髪敷きて 長き日を 待ちかも恋ひむ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2938
#[題詞](正述心緒)
#[原文]人言乎 繁三毛人髪三 我兄子乎 目者雖見 相因毛無
#[訓読]人言を繁み言痛み我が背子を目には見れども逢ふよしもなし
#[仮名],ひとごとを,しげみこちたみ,わがせこを,めにはみれども,あふよしもなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],うわさ,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]人のうわさがひどいので我が背子を目には見るけれども逢うてだてもないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2939
#[題詞](正述心緒)
#[原文]戀云者 薄事有 雖然 我者不忘 戀者死十万
#[訓読]恋と言へば薄きことなりしかれども我れは忘れじ恋ひは死ぬとも
#[仮名],こひといへば,うすきことなり,しかれども,われはわすれじ,こひはしぬとも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]恋という言葉はなんでもないことである。しかし自分は忘れることはあるまい。恋い思って死ぬとしても
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2940
#[題詞](正述心緒)
#[原文]中々二 死者安六 出日之 入別不知 吾四九流四毛
#[訓読]なかなかに死なば安けむ出づる日の入る別知らぬ我れし苦しも
#[仮名],なかなかに,しなばやすけむ,いづるひの,いるわきしらぬ,われしくるしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]なまじっか死んだならば簡単なことだろう。出る日の入った区別もわからないでいる自分は苦しいことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2941
#[題詞](正述心緒)
#[原文]念八流 <跡>状毛我者 今者無 妹二不相而 年之經行者
#[訓読]思ひ遣るたどきも我れは今はなし妹に逢はずて年の経ぬれば
#[仮名],おもひやる,たどきもわれは,いまはなし,いもにあはずて,としのへぬれば
#[左注]
#[校異]<> -> 跡 [元][紀][細][温]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]思いを晴らしやる手段も自分は今はない。妹に逢わないで年が経ったので
#{語釈]
#[説明]
類歌
12/2881H01立ちて居てすべのたどきも今はなし妹に逢はずて月の経ぬれば
12/2892H01思ひ遣るすべのたどきも我れはなし逢はずてまねく月の経ぬれば

#[関連論文]


#[番号]12/2942
#[題詞](正述心緒)
#[原文]吾兄子尓 戀跡二四有四 小兒之 夜哭乎為乍 宿不勝苦者
#[訓読]我が背子に恋ふとにしあらしみどり子の夜泣きをしつつ寐ねかてなくは
#[仮名],わがせこに,こふとにしあらし,みどりこの,よなきをしつつ,いねかてなくは
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]我が背子に恋い思うというのであろうか、みどり子のように夜泣き続けて寝られないことは
#{語釈]
みどり子の夜泣きをしつつ みどり子のように夜泣き続けて
略解 みどり子も我が背子を恋い思って夜泣きをする
みどり子が夜泣きをするにつけても

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2943
#[題詞](正述心緒)
#[原文]我命之 長欲家口 偽乎 好為人乎 執許乎
#[訓読]我が命の長く欲しけく偽りをよくする人を捕ふばかりを
#[仮名],わがいのちの,ながくほしけく,いつはりを,よくするひとを,とらふばかりを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,怨恨,戯歌
#[訓異]
#[大意]我が命が長くあって欲しいと思うのは、嘘をよくつく人を捕らえるだけのことよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2944
#[題詞](正述心緒)
#[原文]人言 繁跡妹 不相 情裏 戀比日
#[訓読]人言を繁みと妹に逢はずして心のうちに恋ふるこのころ
#[仮名],ひとごとを,しげみといもに,あはずして,こころのうちに,こふるこのころ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]人のうわさがひどいとして妹に逢わないで心のうちに恋い思っているこの頃であるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2945
#[題詞](正述心緒)
#[原文]玉<梓>之 君之使乎 待之夜乃 名凝其今毛 不宿夜乃大寸
#[訓読]玉梓の君が使を待ちし夜のなごりぞ今も寐ねぬ夜の多き
#[仮名],たまづさの,きみがつかひを,まちしよの,なごりぞいまも,いねぬよのおほき
#[左注]
#[校異]桙 -> 梓 [西(左書)][元][紀][細][温]
#[鄣W],枕詞,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]玉梓のあなたの使いを待っていた夜のなごりだ。今も寝られない夜が多いのは
#{語釈]
#[説明]
類想
11/2588H01夕されば君来まさむと待ちし夜のなごりぞ今も寐ねかてにする

#[関連論文]


#[番号]12/2946
#[題詞](正述心緒)
#[原文]玉桙之 道尓行相而 外目耳毛 見者吉子乎 何時鹿将待
#[訓読]玉桙の道に行き逢ひて外目にも見ればよき子をいつとか待たむ
#[仮名],たまほこの,みちにゆきあひて,よそめにも,みればよきこを,いつとかまたむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]玉鉾の道で出会ってよそ目に見ただけでもかわいいあの子を、いつになったら自分のものに出来るかと待つことだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2947
#[題詞](正述心緒)
#[原文]念西 餘西鹿齒 為便乎無美 吾者五十日手寸 應忌鬼尾
#[訓読]思ひにしあまりにしかばすべをなみ我れは言ひてき忌むべきものを
#[仮名],おもひにし,あまりにしかば,すべをなみ,われはいひてき,いむべきものを
#[左注]或本歌曰 門出而 吾反側乎 人見<監>可毛 [一云 無乏 出行 家當見] 柿本朝臣人麻呂歌集云 尓保鳥之 奈<津>柴<比>来乎 人見鴨
#[校異]濫 -> 監 [元][紀][細][温] / 流 -> 津 [元][紀][細][温] / 汁 -> 比 [西(訂正右書)][紀][細][温]
#[鄣W],異伝,非略体,恋情,うわさ,作者:柿本人麻呂歌集
#[訓異]
#[大意]思いあまってどうしようもなく、自分は妹の名前を口に出してしまった。つつしむべきものなのに
#{語釈]
#[説明]
類想
11/2441H01隠り沼の下ゆ恋ふればすべをなみ妹が名告りつ忌むべきものを
11/2719H01隠り沼の下に恋ふれば飽き足らず人に語りつ忌むべきものを

#[関連論文]


#[番号]12/2947S1
#[題詞](正述心緒)或本歌曰
#[原文]門出而 吾反側乎 人見<監>可毛 [一云 無乏 出行 家當見]
#[訓読]門に出でて我が臥い伏すを人見けむかも [一云 すべをなみ出でてぞ行きし家のあたり見に]
#[仮名],かどにいでて,わがこいふすを,ひとみけむかも,[,すべをなみ,いでてぞゆきし,いへのあたりみに]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],異伝,或本,恋情,うわさ,人目
#[訓異]
#[大意]門口に出て自分が恋い臥しているのを人が見たことだろうか。[どうしようもなく出かけて行ったよ。家のあたりを見に]
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2947S2
#[題詞](正述心緒)柿本朝臣人麻呂歌集云
#[原文]尓保鳥之 奈<津>柴<比>来乎 人見鴨
#[訓読]にほ鳥のなづさひ来しを人見けむかも
#[仮名]にほどりの,なづさひこしを,ひとみけむかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,異伝,非略体,恋情,枕詞,人目
#[訓異]
#[大意]にほ鳥のように難渋してやって来たのを人は見たことだろうか
#{語釈]
にほ鳥 かいつぶり 歩く姿から連想する

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2948
#[題詞](正述心緒)
#[原文]明日者 其門将去 出而見与 戀有容儀 數知兼
#[訓読]明日の日はその門行かむ出でて見よ恋ひたる姿あまたしるけむ
#[仮名],あすのひは,そのかどゆかむ,いでてみよ,こひたるすがた,あまたしるけむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]明日の日はあなたの門口を行きましょう。出て見なさい。恋い思っている姿をひどく目立つでしょう
#{語釈]
しるけむ 著しい

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2949
#[題詞](正述心緒)
#[原文]得田價異 心欝悒 事計 吉為吾兄子 相有時谷
#[訓読]うたて異に心いぶせし事計りよくせ我が背子逢へる時だに
#[仮名],うたてけに,こころいぶせし,ことはかり,よくせわがせこ,あへるときだに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]いよいよ異に自分の気持ちは鬱陶しい。いいぐあいにやってください。我が背子よ。逢っている時だけでも
#{語釈]
うたて うたてし はなはだしい
10/1889H01我が宿の毛桃の下に月夜さし下心よしうたてこのころ
11/2464H01三日月のさやにも見えず雲隠り見まくぞ欲しきうたてこのころ
12/2877H01いつはなも恋ひずありとはあらねどもうたてこのころ恋し繁しも
12/2949H01うたて異に心いぶせし事計りよくせ我が背子逢へる時だに
20/4307H01秋と言へば心ぞ痛きうたて異に花になそへて見まく欲りかも

けに ことに
10/2166H01妹が手を取石の池の波の間ゆ鳥が音異に鳴く秋過ぎぬらし

事計り 計画する 自分本意でなく、私を楽しませる
04/0756H01外に居て恋ふれば苦し我妹子を継ぎて相見む事計りせよ
12/2898H01ひとり居て恋ふるは苦し玉たすき懸けず忘れむ事計りもが
12/2908H01常かくし恋ふれば苦ししましくも心休めむ事計りせよ
12/2949H01うたて異に心いぶせし事計りよくせ我が背子逢へる時だに
13/3227H05事計り 夢に見せこそ 剣太刀 斎ひ祭れる 神にしませば

佐々木信綱 取り成し、愛撫を意味する
注釈 大成本 いいぐあいになって下さいよ もっと上手にあつかってください

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2950
#[題詞](正述心緒)
#[原文]吾妹子之 夜戸出乃光儀 見而之従 情空有 地者雖踐
#[訓読]我妹子が夜戸出の姿見てしより心空なり地は踏めども
#[仮名],わぎもこが,よとでのすがた,みてしより,こころそらなり,つちはふめども
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]我妹子が夜に戸を出る姿を見てからは心はうわの空である。地面は踏んでいるが。
#{語釈]
夜戸出 朝戸出 朝帰りに戸を出て行くのに対して、夜に外出する
夜に門口に出ている
10/1925H01朝戸出の君が姿をよく見ずて長き春日を恋ひや暮らさむ
11/2357H01朝戸出の君が足結を濡らす露原早く起き出でつつ我れも裳裾濡らさな
11/2692H01夕凝りの霜置きにけり朝戸出にいたくし踏みて人に知らゆな
20/4408H04嘆きのたばく 鹿子じもの ただ独りして 朝戸出の 愛しき我が子

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2951
#[題詞](正述心緒)
#[原文]海石榴市之 八十衢尓 立平之 結紐乎 解巻惜毛
#[訓読]海石榴市の八十の街に立ち平し結びし紐を解かまく惜しも
#[仮名],つばいちの,やそのちまたに,たちならし,むすびしひもを,とかまくをしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,桜井,奈良県,恋情,歌垣
#[訓異]
#[大意]海石榴市のあちらこちらの分かれ道を行き通って結んだ紐を解くのが惜しいことだ
#{語釈]
海石榴市 櫻井市金屋 椿市観音
12/3101H01紫は灰さすものぞ海石榴市の八十の街に逢へる子や誰れ

立ち平し 歌垣などで熱心に通って

解かまく惜しも 代匠記 市に相て二人して結びし紐を独りはとかじと互いに約したれど、早く人の心変わりて独り打ちときたるに、さのみやは我独り結びはつべきなれば、今はと解かむことの惜しきなり
考 はじめ君ならではとかじ、と結びてし紐をその男今絶えたれど、又他男の為に解んは心ゆかぬよし也
全釈 自由な性の関係が想像せられる
注釈 他の男ではなく、二人で結んだ紐を解くのが惜しいという気持ち
「じゃ、また来週の土曜日よ、ね」
といって外套のボタンをはめてくれた。その外套を脱ごうとして自分の指がボタンにさわった刹那、ふと感じた躊躇。その痴情がこの作者の心である。

#[説明]
やっと出会いにこぎつけた男が同じ女とはいっても約束した紐をほどくのが惜しいという気持ち。

#[関連論文]


#[番号]12/2952
#[題詞](正述心緒)
#[原文]吾<齡>之 衰去者 白細布之 袖乃<狎>尓思 君乎母准其念
#[訓読]我が命の衰へぬれば白栲の袖のなれにし君をしぞ思ふ
#[仮名],わがいのちの,おとろへぬれば,しろたへの,そでのなれにし,きみをしぞおもふ
#[左注]
#[校異]歯 -> 齡 [紀][細][温][矢] / 押 -> 狎 [細][矢][京]
#[鄣W],枕詞,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]自分の齢が衰えてしまったので、白妙の慣れ親しんだあなたを思うことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2953
#[題詞](正述心緒)
#[原文]戀君 吾哭<涕> 白妙 袖兼所漬 為便母奈之
#[訓読]君に恋ひ我が泣く涙白栲の袖さへ漬ちてせむすべもなし
#[仮名],きみにこひ,わがなくなみた,しろたへの,そでさへひちて,せむすべもなし
#[左注]
#[校異]泣 -> 涕 [紀][細][温][矢]
#[鄣W],枕詞,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]あなたに恋い慕って自分が泣く涙は白妙の袖までもぬれて、どうしようもないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2954
#[題詞](正述心緒)
#[原文]従今者 不相跡為也 白妙之 我衣袖之 干時毛奈吉
#[訓読]今よりは逢はじとすれや白栲の我が衣手の干る時もなき
#[仮名],いまよりは,あはじとすれや,しろたへの,わがころもでの,ふるときもなき
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情,不安
#[訓異]
#[大意]今からはもう逢うまいとするからか、白妙の自分の衣手は乾く時もないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2955
#[題詞](正述心緒)
#[原文]夢可登 情班 月數<多> 干西君之 事之通者
#[訓読]夢かと心惑ひぬ月まねく離れにし君が言の通へば
#[仮名],いめかと,こころまどひぬ,つきまねく,かれにしきみが,ことのかよへば
#[左注]
#[校異]多二 -> 多 [元][温][矢][京]
#[鄣W],恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]夢かとばかり気持ちが惑ったことだ。何ヶ月も離れていたあなたの便りが来たので
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2956
#[題詞](正述心緒)
#[原文]未玉之 年月兼而 烏玉乃 夢尓所見 君之容儀者
#[訓読]あらたまの年月かねてぬばたまの夢に見えけり君が姿は
#[仮名],あらたまの,としつきかねて,ぬばたまの,いめにみえけり,きみがすがたは
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]あらたまの年月をかさねてぬばたまの夢に見えたことだ。あなたの姿は
#{語釈]
年月かねて あらかじめ、年月を設けて ここでは重ねて
06/1047H03天の下 知らしまさむと 八百万 千年を兼ねて 定めけむ 奈良の都は
12/2853H01真玉つくをちをし兼ねて思へこそ一重の衣ひとり着て寝れ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2957
#[題詞](正述心緒)
#[原文]従今者 雖戀妹尓 将相<哉>母 床邊不離 夢<尓>所見乞
#[訓読]今よりは恋ふとも妹に逢はめやも床の辺去らず夢に見えこそ
#[仮名],いまよりは,こふともいもに,あはめやも,とこのへさらず,いめにみえこそ
#[左注]
#[校異]哉乃 -> 哉 [元][紀][細][温] / <> -> 尓 [元]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]今からは恋い思うとしても妹に逢うということがあろうか。床のあたりを離れないで夢に見えてほしい
#{語釈]
#[説明]
新考 旅立つ時の歌なり
11/2501H01里遠み恋ひうらぶれぬまそ鏡床の辺去らず夢に見えこそ

#[関連論文]


#[番号]12/2958
#[題詞](正述心緒)
#[原文]人見而 言害目不為 夢谷 不止見与 我戀将息
#[訓読]人の見て言とがめせぬ夢にだにやまず見えこそ我が恋やまむ
#[仮名],ひとのみて,こととがめせぬ,いめにだに,やまずみえこそ,あがこひやまむ
#[左注]或本歌頭云 人目多 直者不相
#[校異]
#[鄣W],異伝,人目,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]他人が見て文句を言わない夢だけでも絶えず見えてほしい。そうすれば自分の恋いはおさまるだろう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2958S
#[題詞](正述心緒)或本歌頭云
#[原文]人目多 直者不相
#[訓読]人目多み直には逢はず
#[仮名],ひとめおほみ,ただにはあはず,,,
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],異伝,人目,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]人目が多いので直接には逢わない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2959
#[題詞](正述心緒)
#[原文]現者 言絶有 夢谷 嗣而所見与 直相左右二
#[訓読]うつつには言も絶えたり夢にだに継ぎて見えこそ直に逢ふまでに
#[仮名],うつつには,こともたえたり,いめにだに,つぎてみえこそ,ただにあふまでに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]現実には音信が絶えた。夢だけでも続いて見えて欲しい。直接逢うまで。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2960
#[題詞](正述心緒)
#[原文]虚蝉之 宇都思情毛 吾者無 妹乎不相見而 年之經去者
#[訓読]うつせみの現し心も我れはなし妹を相見ずて年の経ぬれば
#[仮名],うつせみの,うつしごころも,われはなし,いもをあひみずて,としのへぬれば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]現実のしっかりした気持ちも自分はない。妹をともに見ないで年が経ったので。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2961
#[題詞](正述心緒)
#[原文]虚蝉之 常辞登 雖念 継而之聞者 心遮焉
#[訓読]うつせみの常のことばと思へども継ぎてし聞けば心惑ひぬ
#[仮名],うつせみの,つねのことばと,おもへども,つぎてしきけば,こころまどひぬ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情

#[番号]12/2962
#[題詞](正述心緒)
#[原文]白<細>之 袖不數而<宿> 烏玉之 今夜者<早毛> 明<者>将開
#[訓読]白栲の袖離れて寝るぬばたまの今夜は早も明けば明けなむ
#[仮名],しろたへの,そでかれてぬる,ぬばたまの,こよひははやも,あけばあけなむ
#[左注]
#[校異]妙 -> 細 [元][紀][細][温] / <> -> 宿 [細] / 不寝 -> 早毛 [西(訂正左書)][元][紀][細] / <> -> 者 [元][細]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]白妙のあなたの袖を離れて寝ているぬばたまの今夜は早くも明けるならば明けて欲しい
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2963
#[題詞](正述心緒)
#[原文]白細之 手本寛久 人之宿 味宿者不寐哉 戀将渡
#[訓読]白栲の手本ゆたけく人の寝る味寐は寝ずや恋ひわたりなむ
#[仮名],しろたへの,たもとゆたけく,ひとのぬる,うまいはねずや,こひわたりなむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]しろたえの袂がゆったりとして人が寝る安眠もしないで恋い続けることであろうか
#{語釈]
手本ゆたけく ゆったりとしているようにゆったりと寝る
かいまきのような衾で寝ているからか

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2964
#[題詞]寄物陳思
#[原文]如是耳 在家流君乎 衣尓有者 下毛将著跡 <吾>念有家留
#[訓読]かくのみにありける君を衣にあらば下にも着むと我が思へりける
#[仮名],かくのみに,ありけるきみを,きぬにあらば,したにもきむと,わがおもへりける
#[左注]
#[校異]吾 [西(上書訂正)][元][類][古]
#[鄣W],女歌,恋情,衣
#[訓異]
#[大意]これだけの気持ちであったあなたなのに、衣であったら下に着けて肌身離さず着ようと自分は思っていたことだ
#{語釈]
#[説明]
相手の気持ちを知って落胆している
類歌
16/3804H01かくのみにありけるものを猪名川の沖を深めて我が思へりける

#[関連論文]


#[番号]12/2965
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]橡之 袷衣 裏尓為者 吾将強八方 君之不来座
#[訓読]橡の袷の衣裏にせば我れ強ひめやも君が来まさぬ
#[仮名],つるはみの,あはせのころも,うらにせば,われしひめやも,きみがきまさぬ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],女歌,恋情,怨恨,序詞,衣
#[訓異]
#[大意]橡の袷の着物の裏地ではないが、あなたを裏にして、いい加減に思っているのだったら、自分はあなたに来いと強いることがあろうか。それなのにあなたが来られない。
#{語釈]
橡の袷の衣 どんぐりの煮汁で染めた衣 どす黒い色 袷であるので裏地がある。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2966
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]紅 薄染衣 淺尓 相見之人尓 戀比日可聞
#[訓読]紅の薄染め衣浅らかに相見し人に恋ふるころかも
#[仮名],くれなゐの,うすそめころも,あさらかに,あひみしひとに,こふるころかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],衣,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]紅で薄く染めた着物のようにあっさりと少しだけ逢った人に恋い思う頃であるよ
#{語釈]
浅らかに あっさりと ほんの少し

#[説明]
総釈 紅の薄染め衣とあるので、女の歌か
注釈 相手の女の印象が紅の薄染め衣であろう

#[関連論文]


#[番号]12/2967
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]年之經者 見管偲登 妹之言思 衣乃<縫>目 見者哀裳
#[訓読]年の経ば見つつ偲へと妹が言ひし衣の縫目見れば悲しも
#[仮名],としのへば,みつつしのへと,いもがいひし,ころものぬひめ,みればかなしも
#[左注]
#[校異]継 -> 縫 [西(訂正右書)][元][古][紀]
#[鄣W],恋情,形見,衣,羈旅
#[訓異]
#[大意]年が経ったならば見ては思い出してくれと妹が言った衣の縫い目を見ると悲しいことだ
#{語釈]
#[説明]
妹は死んだ
妹と別れた
旅に出ている(考)

#[関連論文]


#[番号]12/2968
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]橡之 一重衣 裏毛無 将有兒故 戀渡可聞
#[訓読]橡の一重の衣うらもなくあるらむ子ゆゑ恋ひわたるかも
#[仮名],つるはみの,ひとへのころも,うらもなく,あるらむこゆゑ,こひわたるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],衣,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]橡の一重の衣は裏地もなく、そのように秘め事もなく無心であるあの子だから恋い続けることであるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2969
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]解衣之 念乱而 雖戀 何之故其跡 問人毛無
#[訓読]解き衣の思ひ乱れて恋ふれども何のゆゑぞと問ふ人もなし
#[仮名],とききぬの,おもひみだれて,こふれども,なにのゆゑぞと,とふひともなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],衣,恋情,枕詞
#[訓異]
#[大意]ほどいた衣のように思い乱れて恋い思うが、どうしてかと尋ねる人もいないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2970
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]桃花褐 淺等乃衣 淺尓 念而妹尓 将相物香裳
#[訓読]桃染めの浅らの衣浅らかに思ひて妹に逢はむものかも
#[仮名],ももそめの,あさらのころも,あさらかに,おもひていもに,あはむものかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,衣,序詞
#[訓異]
#[大意]桃染めの色の浅い着物のように浅く思って妹に逢おうとするものか
#{語釈]
桃染め 天智紀 桃染布五十八端
衣服令 衛士。皂縵頭巾。桃染衫。
左衛門府式 衛士皂縷 末額 桃染布衫。

逢はむものかも か 反語 浅い気持ちで逢おうとするのではない

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2971
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]大王之 塩焼海部乃 藤衣 穢者雖為 弥希将見毛
#[訓読]大君の塩焼く海人の藤衣なれはすれどもいやめづらしも
#[仮名],おほきみの,しほやくあまの,ふぢころも,なれはすれども,いやめづらしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,序詞,衣,恋愛
#[訓異]
#[大意]大君に献上する塩を焼く海人の藤で作った粗末な衣のように、馴れ親しんではいるが、ますます目新しくかわいいことだ
#{語釈]
大君の塩焼く海人 代匠記 大王の塩焼きは越前敦賀海のあま

藤衣
03/0413H01須磨の海女の塩焼き衣の藤衣間遠にしあればいまだ着なれず

めづらしも 誉め称えるべき かわいい

#[説明]
類歌
11/2623H01紅の八しほの衣朝な朝な馴れはすれどもいやめづらしも

#[関連論文]


#[番号]12/2972
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]赤帛之 純裏衣 長欲 我念君之 不所見比者鴨
#[訓読]赤絹の純裏の衣長く欲り我が思ふ君が見えぬころかも
#[仮名],あかきぬの,ひたうらのきぬ,ながくほり,あがおもふきみが,みえぬころかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],衣,序詞,女歌,恋愛,不安
#[訓異]
#[大意]赤い絹の表裏が同じ着物が長いようにいつまでもと願って自分が思っているあなたが見えない頃であるなあ
#{語釈]
純裏の衣 表と裏が同じ色の着物 丈が長い

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2973
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]真玉就 越乞兼而 結鶴 言下紐之 <所>解日有米也
#[訓読]真玉つくをちこち兼ねて結びつる我が下紐の解くる日あらめや
#[仮名],またまつく,をちこちかねて,むすびつる,わがしたびもの,とくるひあらめや
#[左注]
#[校異]之 [西(朱書消去)] / <> -> 所 [西(朱筆右書)][元][類][古]
#[鄣W],枕詞,恋愛,後朝,紐
#[訓異]
#[大意]真玉を着ける緒のあちらとこちらを結んで途切れないように、途絶えることがないようにと願って結んだ自分の下紐がほどける日があろうか
#{語釈]
真玉つく 玉をたばねる緒の意味で を にかかる

をちこち兼ねて 緒のあちらとこちらを合わせて結んで輪にすると途切れないように、現在も将来もずっと変わらないことを願う

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2974
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]紫 帶之結毛 解毛不見 本名也妹尓 戀度南
#[訓読]紫の帯の結びも解きもみずもとなや妹に恋ひわたりなむ
#[仮名],むらさきの,おびのむすびも,ときもみず,もとなやいもに,こひわたりなむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],帯,恋情
#[訓異]
#[大意]紫の帯の結びもほどきもしないで、むやみに妹に恋い続けていることであろうか
#{語釈]
紫の帯の結び 相手の女の帯か

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2975
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]高麗錦 紐之結毛 解不放 齊而待杼 驗無可聞
#[訓読]高麗錦紐の結びも解き放けず斎ひて待てど験なきかも
#[仮名],こまにしき,ひものむすびも,ときさけず,いはひてまてど,しるしなきかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],紐,恋情
#[訓異]
#[大意]高麗錦の紐の結びも解き放たず、潔斎して待っているがそれらしい兆候もないことだ
#{語釈]
高麗錦紐の結び 衣服に付いている立派な紐

斎ひて 潔斎して 身を清めて 相手の訪れを期待する呪的行為

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2976
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]紫 我下紐乃 色尓不出 戀可毛将痩 <相>因乎無見
#[訓読]紫の我が下紐の色に出でず恋ひかも痩せむ逢ふよしをなみ
#[仮名],むらさきの,わがしたひもの,いろにいでず,こひかもやせむ,あふよしをなみ
#[左注]
#[校異]<> -> 相 [西(右書)][元][類][紀]
#[鄣W],紐,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]紫の自分の下紐が表に現れないように、表面に顕れないで恋いに痩せることだろうか。逢う手だてもなくて。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2977
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]何故可 不思将有 紐緒之 心尓入而 戀布物乎
#[訓読]何ゆゑか思はずあらむ紐の緒の心に入りて恋しきものを
#[仮名],なにゆゑか,おもはずあらむ,ひものをの,こころにいりて,こほしきものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],紐,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]どうして思わないでいようか。紐の緒のように心に入って恋しいものであるのに
#{語釈]
紐の緒の 紐を結ぶときに一方を輪にして一方を通すので、入るの枕詞

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2978
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]真十鏡 見座吾背子 吾形見 将持辰尓 将不相哉
#[訓読]まそ鏡見ませ我が背子我が形見待てらむ時に逢はざらめやも
#[仮名],まそかがみ,みませわがせこ,わがかたみ,まてらむときに,あはざらめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情,女歌,鏡
#[訓異]
#[大意]この真澄鏡をご覧ください。我が背子よ。我が形見であるこの鏡をお持ちである時に会わないということがあろうか。
#{語釈]
#[説明]
自分の形見である鏡を相手が持っている間は、思い出して逢わないということがあろうかと相手をなじったもの

#[関連論文]


#[番号]12/2979
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]真十鏡 直目尓君乎 見者許増 命對 吾戀止目
#[訓読]まそ鏡直目に君を見てばこそ命に向ふ我が恋やまめ
#[仮名],まそかがみ,ただめにきみを,みてばこそ,いのちにむかふ,あがこひやまめ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],鏡,女歌,恋情,枕詞
#[訓異]
#[大意]真澄鏡ではないが、直接あなたを見たならばこそ、命がけの自分の恋いもやむことだろう
#{語釈]
#[説明]
類歌
04/0678H01直に逢ひて見てばのみこそたまきはる命に向ふ我が恋やまめ
12/2883H01外目にも君が姿を見てばこそ我が恋やまめ命死なずは [一云 命に向ふ我が恋やまめ]

#[関連論文]


#[番号]12/2980
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]犬馬鏡 見不飽妹尓 不相而 月之經去者 生友名師
#[訓読]まそ鏡見飽かぬ妹に逢はずして月の経ゆけば生けりともなし
#[仮名],まそかがみ,みあかぬいもに,あはずして,つきのへゆけば,いけりともなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],鏡,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]まそ鏡ではないが見て飽きない妹に逢わないで月が経って行くので生きた心地もしないことだ
#{語釈]
犬馬鏡 11/2645 泉之追馬喚犬二 泉の杣に 喚犬(ま)追馬(そ)を略した表記

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2981
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]祝部等之 齊三諸乃 犬馬鏡 懸而偲 相人毎
#[訓読]祝部らが斎くみもろのまそ鏡懸けて偲ひつ逢ふ人ごとに
#[仮名],はふりらが,いつくみもろの,まそかがみ,かけてしのひつ,あふひとごとに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],鏡,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]神官たちが斎き祭る御諸のまそ鏡ではないが、心に掛けて偲んでいることだ。逢う人ごとに
#{語釈]
逢ふ人ごとに 続き具合がはっきりしない
代匠記 似たる人同じ程にうるはしき人或しなかたちの及ばぬ人それぞれに付きて思ひ出て偲ふとなり
大系 私は逢う人ごとにあなたのことを口に出して偲んでいます
私注 あふひとごとをかけてしぬぶ 逢う人を誰でもなつかしく思ってしまう

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2982
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]針者有杼 妹之無者 将著哉跡 吾乎令煩 絶紐之緒
#[訓読]針はあれど妹しなければ付けめやと我れを悩まし絶ゆる紐の緒
#[仮名],はりはあれど,いもしなければ,つけめやと,われをなやまし,たゆるひものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋愛,針,紐
#[訓異]
#[大意]針はあるが妹がいないので付けられようかと自分を悩まして切れる紐の緒であることだ
#{語釈]
#[説明]
妹と離れている状態 だから早く逢いたいといったもの

#[関連論文]


#[番号]12/2983
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]高麗劔 己之景迹故 外耳 見乍哉君乎 戀渡奈牟
#[訓読]高麗剣我が心から外のみに見つつや君を恋ひわたりなむ
#[仮名],こまつるぎ,わがこころから,よそのみに,みつつやきみを,こひわたりなむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,女歌,剣,恋情
#[訓異]
#[大意]高麗剣ではないが、自分の性格のせいで外からばかり見続けてあなたを恋い続けることであろうか
#{語釈]
高麗剣 環頭であることから「わ」にかかる枕詞

我が心から 自分の心のせいで 気が弱い 消極的

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2984
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]劔大刀 名之惜毛 吾者無 比来之間 戀之繁尓
#[訓読]剣大刀名の惜しけくも我れはなしこのころの間の恋の繁きに
#[仮名],つるぎたち,なのをしけくも,われはなし,このころのまの,こひのしげきに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],剣,枕詞,恋情,人目,うわさ
#[訓異]
#[大意]剣太刀ではないが、名前の惜しいことも自分はない。この頃の恋の思いの激しいことで。
#{語釈]
#[説明]
類歌
04/0616H01剣太刀名の惜しけくも我れはなし君に逢はずて年の経ぬれば
11/2499H01我妹子に恋ひしわたれば剣大刀名の惜しけくも思ひかねつも

#[関連論文]


#[番号]12/2985
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]梓弓 末者師不知 雖然 真坂者<君>尓 縁西物乎
#[訓読]梓弓末はし知らずしかれどもまさかは君に寄りにしものを
#[仮名],あづさゆみ,すゑはししらず,しかれども,まさかはきみに,よりにしものを
#[左注]一本歌曰 梓弓 末乃多頭吉波 雖不知 心者君尓 因之物乎
#[校異]吾 -> 君 [類][紀][細]
#[鄣W],枕詞,弓,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]梓弓の末ではないが、行く末はわからない。そうではあるが、ただ今はあなたに寄っているものなのに
#{語釈]
まさかは 現在
14/3403H01我が恋はまさかも愛し草枕多胡の入野の奥も愛しも
14/3490H01梓弓末は寄り寝むまさかこそ人目を多み汝をはしに置けれ
18/4088H01さ百合花ゆりも逢はむと思へこそ今のまさかもうるはしみすれ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2985S
#[題詞](寄物陳思)一本歌曰
#[原文]梓弓 末乃多頭吉波 雖不知 心者君尓 因之物乎
#[訓読]梓弓末のたづきは知らねども心は君に寄りにしものを
#[仮名],あづさゆみ,すゑのたづきは,しらねども,こころはきみに,よりにしものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],弓,枕詞,女歌,恋情,異伝
#[訓異]
#[大意]梓弓の末ではないが、行く末のてだてはわからないが、心はあなたに寄っているものだから
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2986
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]梓弓 引見<緩>見 思見而 既心齒 因尓思物乎
#[訓読]梓弓引きみ緩へみ思ひみてすでに心は寄りにしものを
#[仮名],あづさゆみ,ひきみゆるへみ,おもひみて,すでにこころは,よりにしものを
#[左注]
#[校異]縦 -> 緩 [西(貼紙)]
#[鄣W],弓,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]梓弓のように引いたり弛めたりいろいろと考えてみて、すでに心は寄っているものなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2987
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]梓弓 引而不<緩> 大夫哉 戀云物乎 忍不得牟
#[訓読]梓弓引きて緩へぬ大夫や恋といふものを忍びかねてむ
#[仮名],あづさゆみ,ひきてゆるへぬ,ますらをや,こひといふものを,しのびかねてむ
#[左注]
#[校異]縦 -> 緩 [西(貼紙)][元][類]
#[鄣W],弓,恋情,枕詞
#[訓異]
#[大意]梓弓のように引いてもゆるめない、心の張りつめた大夫なのに、恋というものをこらえきれないのだろうか
#{語釈]
#[説明]
類歌
11/2635H01剣大刀身に佩き添ふる大夫や恋といふものを忍びかねてむ

#[関連論文]


#[番号]12/2988
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]梓弓 末中一伏三起 不通有之 君者會奴 嗟羽将息
#[訓読]梓弓末の中ごろ淀めりし君には逢ひぬ嘆きはやめむ
#[仮名],あづさゆみ,すゑのなかごろ,よどめりし,きみにはあひぬ,なげきはやめむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情,弓
#[訓異]
#[大意]梓弓で末ではないが、最近途絶えがちだったあなたに逢った。嘆くのはやめよう。
#{語釈]
末の中ごろ 最近の今 一伏三起 樗蒲(ちょぼ)のさいころの現れ方 ころと訓む。
諸伏 まにまに

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2989
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]今更 何壮鹿将念 梓弓 引見縦見 縁西鬼乎
#[訓読]今さらに何をか思はむ梓弓引きみ緩へみ寄りにしものを
#[仮名],いまさらに,なにをかおもはむ,あづさゆみ,ひきみゆるへみ,よりにしものを
#[左注]
#[校異]縦 [元][類](塙) 弛
#[鄣W],弓,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]今更ながら何を思おうか。梓弓ではないが引いたり弛めたりして寄ったものなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2990
#[題詞](寄物陳思)
#[本文]𡢳嬬等之 <續>麻之多<田>有 打麻<懸> 續時無<三> 戀度鴨
#[訓読]娘子らが績み麻のたたり打ち麻懸けうむ時なしに恋ひわたるかも
#[仮名],をとめらが,うみをのたたり,うちそかけ,うむときなしに,こひわたるかも
#[左注]
#[校異]漬 -> 續 [西(訂正右書)][元][類][古][紀] / 患 -> 田 [元][類][古][紀] / <> -> 懸 [西(補筆訂正)][元][類][古][紀] / 三 -> 二 [類][古][紀]
#[鄣W],序詞,麻,恋情
#[訓異]
#[大意]娘子たちが麻糸を紡ぐためのたたりに打った麻をかけて紡ぐ時ではないが、うむ時、飽きることなしに恋い続けることであるよ
#{語釈]
たたり 四角の台に3本の枝のついた柱を立てて糸をかける具
和名抄 楊氏漢語抄 絡? 多々理 下他果反
伊勢大神宮神宝 金銅多多利二基 高各一尺一寸六分 土居径三寸六分

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2991
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]垂乳根之 母我養蚕乃 眉隠 馬聲蜂音石花蜘(ろ)荒鹿 異母二不相而
#[訓読]たらちねの母が飼ふ蚕の繭隠りいぶせくもあるか妹に逢はずして
#[仮名],たらちねの,ははがかふこの,まよごもり,いぶせくもあるか,いもにあはずして
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,繭,恋情,戯書
#[訓異]
#[大意]たらちねの母が飼う蚕が繭に隠るように隠ってばかりいて鬱陶しいことだ。妹に逢わないで
#{語釈]
繭隠り お母さんの言いつけで家に閉じこもっている相手の女を言う

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2992
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]玉手次 不懸者辛苦 懸垂者 續手見巻之 欲寸君可毛
#[訓読]玉たすき懸けねば苦し懸けたれば継ぎて見まくの欲しき君かも
#[仮名],たまたすき,かけねばくるし,かけたれば,つぎてみまくの,ほしききみかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,襷,枕詞
#[訓異]
#[大意]玉たすきではないが、心に掛けなければ苦しい。かけると常に見たいとおもうあなたであるよ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2993
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]紫 綵色之蘰 花八香尓 今日見人尓 後将戀鴨
#[訓読]紫のまだらのかづら花やかに今日見し人に後恋ひむかも
#[仮名],むらさきの,まだらのかづら,はなやかに,けふみしひとに,のちこひむかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]紫色でまだらに染まっているかづらではないが、華やかに今日逢った人にまた後で恋い思うことであろうか
#{語釈]
紫のまだらのかづら 紫色でまだらに染めてある布で頭に巻くもの
感染呪術、魔除けのためのもの

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2994
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]玉蘰 不懸時無 戀<友> 何如妹尓 相時毛名寸
#[訓読]玉葛懸けぬ時なく恋ふれども何しか妹に逢ふ時もなき
#[仮名],たまかづら,かけぬときなく,こふれども,なにしかいもに,あふときもなき
#[左注]
#[校異]支 -> 友 [元][類][紀][細]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]玉葛ではないが、心に掛けない時はなく恋い思ってはいるが、どうして妹に逢う時がないのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2995
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]相因之 出来左右者 疊薦 重編數 夢西将見
#[訓読]逢ふよしの出でくるまでは畳薦隔て編む数夢にし見えむ
#[仮名],あふよしの,いでくるまでは,たたみこも,へだてあむかず,いめにしみえむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],比喩,植物,恋情
#[訓異]
#[大意]逢うてだてが出てくるまでは、畳にする薦を並べて編むのではないが、編む薦の数ほど夢に見ていよう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2996
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]白香付 木綿者花物 事社者 何時之真枝毛 常不所忘
#[訓読]しらかつく木綿は花もの言こそばいつのまえだも常忘らえね
#[仮名],しらかつく,ゆふははなもの,ことこそば,いつのまえだも,つねわすらえね
#[左注]
#[校異]枝 [万葉考](塙)(楓) 坂
#[鄣W],植物,枕詞,怨恨,
#[訓異]
#[大意]しらかつく白い木綿は華やかだがしょせん造花。そのようにあなたの言葉は華やかで作り物かも知れませんが、いつも忘れることは出来ません。
#{語釈]
しらかつく 純白の繊維 白く繊維状にして花の形にしたものが木綿花
木綿の枕詞
03/0379H02しらか付け 木綿取り付けて 斎瓮を 斎ひ掘り据ゑ 竹玉を
19/4265H01四つの船早帰り来としらか付け我が裳の裾に斎ひて待たむ

花もの 華やかではあるが、はかないもの。ここは造花であることをいうか
13/3332H02しかまことならめ 人は花ものぞ うつせみ世人

いつのまえだ 本当にいつもの意か。意味不明とみて「いつのまさか」という訓読もある。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2997
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]石上 振之高橋 高々尓 妹之将待 夜曽深去家留
#[訓読]石上布留の高橋高々に妹が待つらむ夜ぞ更けにける
#[仮名],いそのかみ,ふるのたかはし,たかたかに,いもがまつらむ,よぞふけにける
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,序詞,地名,天理,奈良県,恋愛
#[訓異]
#[大意]石上布留の川にかかっている高橋ではないが、今か今かと妹が待つであろう夜が更けたことだ
#{語釈]
布留の高橋 布留川にかかっている川面から高い橋

高々に 今か今かと待つ
11/2804H01高山にたかべさ渡り高々に我が待つ君を待ち出でむかも
12/2997H01石上布留の高橋高々に妹が待つらむ夜ぞ更けにける
12/3005H01十五日に出でにし月の高々に君をいませて何をか思はむ
12/3220H01豊国の企救の高浜高々に君待つ夜らはさ夜更けにけり
13/3337H01母父も妻も子どもも高々に来むと待ちけむ人の悲しさ
13/3340H01母父も妻も子どもも高々に来むと待つらむ人の悲しさ
15/3692H01はしけやし妻も子どもも高々に待つらむ君や島隠れぬる
18/4107H01あをによし奈良にある妹が高々に待つらむ心しかにはあらじか

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2998
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]湊入之 葦別小船 障多 今来吾乎 不通跡念莫
#[訓読]港入りの葦別け小舟障り多み今来む我れを淀むと思ふな
#[仮名],みなといりの,あしわけをぶね,さはりおほみ,いまこむわれを,よどむとおもふな
#[左注]或本歌曰 湊入尓 蘆別小船 障多 君尓不相而 年曽經来
#[校異]
#[鄣W],序詞,恋情,植物
#[訓異]
#[大意]港に入るとして葦を掻き分けながら入る小舟が障害が多いように、障害が多くて今来ない自分を恋の停滞だと思ってはくれるな。
#{語釈]
港入りの葦別け小舟
11/2745H01港入りの葦別け小舟障り多み我が思ふ君に逢はぬころかも

障り多み 人のうわさなどを言う

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2998S
#[題詞](寄物陳思)或本歌曰
#[原文]湊入尓 蘆別小船 障多 君尓不相而 年曽經来
#[訓読]港入りに葦別け小舟障り多み君に逢はずて年ぞ経にける
#[仮名],みなといりに,あしわけをぶね,さはりおほみ,きみにあはずて,としぞへにける
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],異伝,植物,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]港に入るとして葦を掻き分けながら入る小舟が障害が多いように、障害が多くてあなたに逢わないで年が経ったことだ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/2999
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]水乎多 上尓種蒔 比要乎多 擇擢之業曽 吾獨宿
#[訓読]水を多み上田に種蒔き稗を多み選らえし業ぞ我がひとり寝る
#[仮名],みづをおほみ,あげにたねまき,ひえをおほみ,えらえしわざぞ,わがひとりぬる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],植物,比喩,怨恨
#[訓異]
#[大意]水が多いのでと高い土地の田に種を蒔いて耕作し、そうすると稗が多くなり、選び棄てられる、そのように耕作のように選び棄てられた自分は独りで寝ていることだ
#{語釈]
上田 あげ 土地の高い田 低い土地だと湿田以上に水が多くなるので、稲作に適した土地。水が少ないと稗などの雑草が生える

#[説明]
類歌
11/2476H01打つ田には稗はしあまたありといへど選えし我れぞ夜をひとり寝る

#[関連論文]


#[番号]12/3000
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]霊合者 相宿物乎 小山田之 鹿猪田禁如 母之守為裳 [一云 母之守之師]
#[訓読]魂合へば相寝るものを小山田の鹿猪田守るごと母し守らすも [一云 母が守らしし]
#[仮名],たまあへば,あひぬるものを,をやまだの,ししだもるごと,ははしもらすも,[ははがもらしし]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],異伝,動物,障害,恋愛
#[訓異]
#[大意]二人の魂が合えさえすればともに寝るものなのに。小山田で鹿や猪の番をしているように母が見張っているよ。
#{語釈]
小山田 里からちょっと入った山の田 猪や鹿が田を荒らす

#[説明]
魂の出会い
14/3393H01筑波嶺のをてもこのもに守部据ゑ母い守れども魂ぞ会ひにける

07/1353H01石上布留の早稲田を秀でずとも縄だに延へよ守りつつ居らむ
10/2156H01あしひきの山の常蔭に鳴く鹿の声聞かすやも山田守らす子
10/2219H01あしひきの山田作る子秀でずとも縄だに延へよ守ると知るがね
11/2649H01あしひきの山田守る翁が置く鹿火の下焦れのみ我が恋ひ居らむ

#[関連論文]


#[番号]12/3001
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]春日野尓 照有暮日之 外耳 君乎相見而 今曽悔寸
#[訓読]春日野に照れる夕日の外のみに君を相見て今ぞ悔しき
#[仮名],かすがのに,てれるゆふひの,よそのみに,きみをあひみて,いまぞくやしき
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,奈良,序詞,後悔,恋愛
#[訓異]
#[大意]春日野に照っている夕日をよそながら見るのではないが、よそからばかりあなたを見て、今となっては悔しいことであるよ
#{語釈]
春日野に照れる夕日の 外にかかる序詞 春日野の夕映えを作者の位置から眺めている

#[説明]
10/1909H01春霞山にたなびきおほほしく妹を相見て後恋ひむかも
10/1921H01おほほしく君を相見て菅の根の長き春日を恋ひわたるかも

#[関連論文]


#[番号]12/3002
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]足日木乃 従山出流 月待登 人尓波言而 妹待吾乎
#[訓読]あしひきの山より出づる月待つと人には言ひて妹待つ我れを
#[仮名],あしひきの,やまよりいづる,つきまつと,ひとにはいひて,いもまつわれを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋愛
#[訓異]
#[大意]あしひきの山から出る月を待っていると人には言って妹を待つ自分であるなあ
#{語釈]
#[説明]
末尾が同じ
13/3276H06さ丹つらふ 君が名言はば 色に出でて 人知りぬべみ あしひきの
13/3276H07山より出づる 月待つと 人には言ひて 君待つ我れを

#[関連論文]


#[番号]12/3003
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]夕月夜 五更闇之 不明 見之人故 戀渡鴨
#[訓読]夕月夜暁闇のおほほしく見し人ゆゑに恋ひわたるかも
#[仮名],ゆふづくよ,あかときやみの,おほほしく,みしひとゆゑに,こひわたるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]夕月夜のある暁は真っ暗で物がぼんやりとしか見えない。そのようにぼんやりと見た人であるのに、恋い続けることであるよ。
#{語釈]
夕月夜暁闇 夕方の月は上弦の月であるから月の入りは夜半。明け方は暗闇になる
11/2664H01夕月夜暁闇の朝影に我が身はなりぬ汝を思ひかねに

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3004
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]久堅之 天水虚尓 照<月>之 将失日社 吾戀止目
#[訓読]久方の天つみ空に照る月の失せなむ日こそ我が恋止まめ
#[仮名],ひさかたの,あまつみそらに,てるつきの,うせなむひこそ,あがこひやまめ
#[左注]
#[校異]日 -> 月 [西(右書)][元][類]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]久方の天のみ空に照っている月が消えてなくなってしまう日こそ自分は恋いやむときだろう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3005
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]十五日 出之月乃 高々尓 君乎座而 何物乎加将念
#[訓読]十五日に出でにし月の高々に君をいませて何をか思はむ
#[仮名],もちのひに,いでにしつきの,たかたかに,きみをいませて,なにをかおもはむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]十五日に出た月のように今か今かと待ち望んだあなたに来ていただいて何を思うことがあろうか
#{語釈]
十五日に 望月の出る日であるのでもちの日と訓む。
03/0320H01富士の嶺に降り置く雪は六月の十五日に消ぬればその夜降りけり
月が中天高く登っている意で高々の序詞

高々に つま先立てて待ち望む
04/0758H01白雲のたなびく山の高々に我が思ふ妹を見むよしもがも
11/2804H01高山にたかべさ渡り高々に我が待つ君を待ち出でむかも
12/2997H01石上布留の高橋高々に妹が待つらむ夜ぞ更けにける
12/3005H01十五日に出でにし月の高々に君をいませて何をか思はむ
12/3220H01豊国の企救の高浜高々に君待つ夜らはさ夜更けにけり
13/3337H01母父も妻も子どもも高々に来むと待ちけむ人の悲しさ
13/3340H01母父も妻も子どもも高々に来むと待つらむ人の悲しさ
15/3692H01はしけやし妻も子どもも高々に待つらむ君や島隠れぬる
18/4107H01あをによし奈良にある妹が高々に待つらむ心しかにはあらじか

君をいませて 来ていただく 居させになって

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3006
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]月夜好 門尓出立 足占為而 徃時禁八 妹二不相有
#[訓読]月夜よみ門に出で立ち足占して行く時さへや妹に逢はずあらむ
#[仮名],つくよよみ,かどにいでたち,あしうらして,ゆくときさへや,いもにあはずあらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,不安,占い
#[訓異]
#[大意]月夜がよいので門口に出て足占をして行く時でさえも妹に逢わないであるのだろうか
#{語釈]
足占 吉凶を唱えて歩き、あらかじめ定めた目標に行き着いたときの足の様子で吉凶を占うもの
04/0736H01月夜には門に出で立ち夕占問ひ足占をぞせし行かまくを欲り

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3007
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]野干玉 夜渡月之 清者 吉見而申尾 君之光儀乎
#[訓読]ぬばたまの夜渡る月のさやけくはよく見てましを君が姿を
#[仮名],ぬばたまの,よわたるつきの,さやけくは,よくみてましを,きみがすがたを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情,後朝,女歌
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜空を渡る月が清やかに照っていたならばよく見たものだろうに。あなたの姿を
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3008
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]足引之 山<呼>木高三 暮月乎 何時君乎 待之苦沙
#[訓読]あしひきの山を木高み夕月をいつかと君を待つが苦しさ
#[仮名],あしひきの,やまをこだかみ,ゆふつきを,いつかときみを,まつがくるしさ
#[左注]
#[校異]乎 -> 呼 [元][細][矢][京]
#[鄣W],枕詞,恋情,序詞,女歌
#[訓異]
#[大意]あしひきの山の木が高いので夕方の月の出をいつだろうかと待つように、いつ来るだろうかとあなたを待つ苦しさよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3009
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]橡之 衣解洗 又打山 古人尓者 猶不如家利
#[訓読]橡の衣解き洗ひ真土山本つ人にはなほしかずけり
#[仮名],つるはみの,きぬときあらひ,まつちやま,もとつひとには,なほしかずけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,植物,地名,和歌山,序詞,恋愛
#[訓異]
#[大意]橡で染めた衣をほどいて洗ってまた打つというまつち山よ。そのまつちとよく似た音のもとつ人である古なじみの人にはやはり及ばないことだ
#{語釈]
真土山 奈良県五條市上野町 真土山
衣をほどいて洗って砧で打ってやわらかくするということでまた打つで真土と続ける

もとつ人 古なじみの人 女房
まつちともとつを懸ける

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3010
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]佐保川之 川浪不立 静雲 君二副而 明日兼欲得
#[訓読]佐保川の川波立たず静けくも君にたぐひて明日さへもがも
#[仮名],さほがはの,かはなみたたず,しづけくも,きみにたぐひて,あすさへもがも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,奈良,序詞,女歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]佐保川の川波が立たないで静かなように、静かにあなたに寄り添って明日もいたいものだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3011
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]吾妹兒尓 衣借香之 宜寸川 因毛有額 妹之目乎将見
#[訓読]我妹子に衣春日の宜寸川よしもあらぬか妹が目を見む
#[仮名],わぎもこに,ころもかすがの,よしきがは,よしもあらぬか,いもがめをみむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,奈良,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]我妹子に衣を貸すではないが春日の宜寸川、そのよしのように手だてもないものだろうか。妹の目を見よう。
#{語釈]
宜寸川 奈良県春日 吉城川

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3012
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]登能雲入 雨零川之 左射礼浪 間無毛君者 所念鴨
#[訓読]との曇り雨布留川のさざれ波間なくも君は思ほゆるかも
#[仮名],とのぐもり,あめふるかはの,さざれなみ,まなくもきみは,おもほゆるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]どんよりと曇って雨の降るその布留川のさざ波のように間断なくあなたを思われてならないことだ
#{語釈]
との曇る
03/0370H01雨降らずとの曇る夜のぬるぬると恋ひつつ居りき君待ちがてり
12/3012H01との曇り雨布留川のさざれ波間なくも君は思ほゆるかも
13/3268H01みもろの 神奈備山ゆ との曇り 雨は降り来ぬ 天霧らひ 風さへ吹きぬ
17/4011H11醜つ翁の 言だにも 我れには告げず との曇り 雨の降る日を
18/4122H08沖つ宮辺に 立ちわたり との曇りあひて 雨も賜はね
18/4123H01この見ゆる雲ほびこりてとの曇り雨も降らぬか心足らひに

布留川 奈良県天理市布留

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3013
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]吾妹兒哉 安乎忘為莫 石上 袖振川之 将絶跡念倍也
#[訓読]我妹子や我を忘らすな石上袖布留川の絶えむと思へや
#[仮名],わぎもこや,あをわすらすな,いそのかみ,そでふるかはの,たえむとおもへや
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,天理,奈良,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]我妹子よ。自分をお忘れになるな。石上の袖を振る布留川のように、途絶えようと思うだろうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3014
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]神山之 山下響 逝水之 水尾不絶者 後毛吾妻
#[訓読]三輪山の山下響み行く水の水脈し絶えずは後も我が妻
#[仮名],みわやまの,やましたとよみ,ゆくみづの,みをしたえずは,のちもわがつま
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,桜井,奈良,序詞,恋愛
#[訓異]
#[大意]三輪山の山の下を響かせて流れていく水の水脈が絶えないように、途絶えさえしなければ後々も自分の妻であるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3015
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]如神 所聞瀧之 白浪乃 面知君之 不所見比日
#[訓読]神のごと聞こゆる瀧の白波の面知る君が見えぬこのころ
#[仮名],かみのごと,きこゆるたきの,しらなみの,おもしるきみが,みえぬこのころ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],序詞,女歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]雷のように聞こえる激流の白波ではないが顔を知るあなたが見えないこの頃であるよ
#{語釈]
しらなみの しらなみとおもしるを懸けた

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3016
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]山川之 瀧尓益流 戀為登曽 人知尓来 無間念者
#[訓読]山川の瀧にまされる恋すとぞ人知りにける間なくし思へば
#[仮名],やまがはの,たきにまされる,こひすとぞ,ひとしりにける,まなくしおもへば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],人目,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]山の川の激流にまさる激しい恋をすると人が知ってしまった。間断なく思うので
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3017
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]足桧木之 山川水之 音不出 人之子姤 戀渡青頭鶏
#[訓読]あしひきの山川水の音に出でず人の子ゆゑに恋ひわたるかも
#[仮名],あしひきの,やまがはみづの,おとにいでず,ひとのこゆゑに,こひわたるかも
#[左注]
#[校異]桧木 [元][類][古](塙) 桧
#[鄣W],枕詞,うわさ,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]あしひきの山の川の水の音ではないが音には出ず、人の子であるがために密かに恋い続けることだ
#{語釈]
音には出ず 表には出ずに うわさにはしないで

人の子ゆゑに 童蒙抄 人の妻 新考 人のいつく娘
人間の常として
02/0122H01大船の泊つる泊りのたゆたひに物思ひ痩せぬ人の子故に
11/2367H01海原の道に乗りてや我が恋ひ居らむ大船のゆたにあるらむ人の子ゆゑに
11/2486H01茅渟の海の浜辺の小松根深めて我れ恋ひわたる人の子ゆゑに
11/2486H02[茅渟の海の潮干の小松ねもころに恋ひやわたらむ人の子ゆゑに]
12/3017H01あしひきの山川水の音に出でず人の子ゆゑに恋ひわたるかも

14/3500H01紫草は根をかも終ふる人の子のうら愛しけを寝を終へなくに
14/3533H01人の子の愛しけしだは浜洲鳥足悩む駒の惜しけくもなし
16/3799H01あにもあらじおのが身のから人の子の言も尽さじ我れも寄りなむ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3018
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]高湍尓有 能登瀬乃川之 後将合 妹者吾者 今尓不有十万
#[訓読]高湍なる能登瀬の川の後も逢はむ妹には我れは今にあらずとも
#[仮名],たかせなる,のとせのかはの,のちもあはむ,いもにはわれは,いまにあらずとも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,奈良,近江,滋賀県,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]高瀬にある能登瀬の川の名前のように後にも逢おう。妹には自分は今すぐでなくとも
#{語釈]
高湍なる能登瀬の川 考 こせと訓み、巨瀬の知
注釈 高や越のコは甲類。巨瀬は乙類。
所在未詳 越路であるとすると滋賀県坂田郡近江町能登瀬付近天野川

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3019
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]浣衣 取替河之 <河>余杼能 不通牟心 思兼都母
#[訓読]洗ひ衣取替川の川淀の淀まむ心思ひかねつも
#[仮名],あらひきぬ,とりかひがはの,かはよどの,よどまむこころ,おもひかねつも
#[左注]
#[校異]川 -> 河 [元][古][紀]
#[鄣W],地名,摂津,大阪,奈良,序詞,恋愛
#[訓異]
#[大意]洗った衣を取り替える取替川の川淀のように淀み滞る気持ちは思うことが出来ないことだ
#{語釈]
取替川 未詳
代匠記 和名抄 大和添下郡 鳥貝 止利加比 現在の生駒郡 現存しない
略解 鳥見の小川 または大和物語の河内の鳥飼の御湯 摂津三島郡三島

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3020
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]斑鳩之 因可<乃>池之 宜毛 君乎不言者 念衣吾為流
#[訓読]斑鳩の因可の池のよろしくも君を言はねば思ひぞ我がする
#[仮名],いかるがの,よるかのいけの,よろしくも,きみをいはねば,おもひぞわがする
#[左注]
#[校異]及 -> 乃 [元][類][古][紀]
#[鄣W],地名,奈良,序詞,うわさ,恋愛
#[訓異]
#[大意]斑鳩の因可の池のようにいいことにもあなたを言わないので心配を自分はすることだ
#{語釈]
因可の池 奈良県生駒郡斑鳩町だろうが不明
古義 法隆寺村天満の池 私注 法起寺の岡本池の別名か

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3021
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]絶沼之 下従者将戀 市白久 人之可知 歎為米也母
#[訓読]隠り沼の下ゆは恋ひむいちしろく人の知るべく嘆きせめやも
#[仮名],こもりぬの,したゆはこひむ,いちしろく,ひとのしるべく,なげきせめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,うわさ,人目,恋情
#[訓異]
#[大意]水が隠っている沼のように密かに恋い思おう。著しく人が知りそうなほど嘆くことがあろうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3022
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]去方無三 隠有小沼乃 下思尓 吾曽物念 頃者之間
#[訓読]ゆくへなみ隠れる小沼の下思に我れぞ物思ふこのころの間
#[仮名],ゆくへなみ,こもれるをぬの,したもひに,われぞものもふ,このころのあひだ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]水の行方がないので隠っている沼のように密かな思いで自分は物思いをしている。この頃は
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3023
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]隠沼乃 下従戀餘 白浪之 灼然出 人之可知
#[訓読]隠り沼の下ゆ恋ひあまり白波のいちしろく出でぬ人の知るべく
#[仮名],こもりぬの,したゆこひあまり,しらなみの,いちしろくいでぬ,ひとのしるべく
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情,うわさ,人目
#[訓異]
#[大意]水が隠っている沼のように密かに恋い思うことがあふれ出て、著しく現れてしまった。人が知りそうなほどに
#{語釈]
#[説明]
同歌 平群女郎
17/3935H01隠り沼の下ゆ恋ひあまり白波のいちしろく出でぬ人の知るべく

#[関連論文]


#[番号]12/3024
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]妹目乎 見巻欲江之 小浪 敷而戀乍 有跡告乞
#[訓読]妹が目を見まく堀江のさざれ波しきて恋ひつつありと告げこそ
#[仮名],いもがめを,みまくほりえの,さざれなみ,しきてこひつつ,ありとつげこそ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,大阪,掛詞,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]妹の目を見たいと思う堀江のさざ波のようにしきりに恋い続けていると告げて欲しい
#{語釈]
堀江 難波の堀江

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3025
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]石走 垂水之水能 早敷八師 君尓戀良久 吾情柄
#[訓読]石走る垂水の水のはしきやし君に恋ふらく我が心から
#[仮名],いはばしる,たるみのみづの,はしきやし,きみにこふらく,わがこころから
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]岩を早く流れる瀧の水がはしるように、愛しいあなたに恋い思うことは自分の本心からなのだ。
#{語釈]
石走る垂水の水の 岩の上を水が走るように流れるということで、はしにかかる序詞

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3026
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]君者不来 吾者故無 立浪之 敷和備思 如此而不来跡也
#[訓読]君は来ず我れは故なみ立つ波のしくしくわびしかくて来じとや
#[仮名],きみはこず,われはゆゑなみ,たつなみの,しくしくわびし,かくてこじとや
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],序詞,恋情,女歌,不安,怨恨
#[訓異]
#[大意]あなたは来ない。自分は理由がわからないので立つ波のようにしきりに心わびしい。このようにして来ないというのだろうか。
#{語釈]
我れは故なみ 拾穂抄 我にはかくうとまるべき故もなしとの心也
代匠記 何の故とて彼方へ行くべき由のなきなり
考 女の行くべきにはゆゑよしの無也
大系 わけもなく立つ波

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3027
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]淡海之海 邊多波人知 奥浪 君乎置者 知人毛無
#[訓読]近江の海辺は人知る沖つ波君をおきては知る人もなし
#[仮名],あふみのうみ,へたはひとしる,おきつなみ,きみをおきては,しるひともなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,滋賀県,比喩,恋情
#[訓異]
#[大意]近江の海の岸辺は人が知っている。しかし沖の波はあなたをおいては知る人もいない。(そのように表向きは自分を知る人は多いが、自分の本心はあなた以外には誰も知らない)
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3028
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]大海之 底乎深目而 結<義>之 妹心者 疑毛無
#[訓読]大海の底を深めて結びてし妹が心はうたがひもなし
#[仮名],おほうみの,そこをふかめて,むすびてし,いもがこころは,うたがひもなし
#[左注]
#[校異]美 -> 義 [西(貼紙)][元][類][紀][細]
#[鄣W],掛詞,恋愛
#[訓異]
#[大意]大海の底が深いように心深くして契った妹の気持ちは疑いもないよ。
#{語釈]
#[説明]
類相
04/0530H01赤駒の越ゆる馬柵の標結ひし妹が心は疑ひもなし

#[関連論文]


#[番号]12/3029
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]貞能汭尓 依流白浪 無間 思乎如何 妹尓難相
#[訓読]佐太の浦に寄する白波間なく思ふを何か妹に逢ひかたき
#[仮名],さだのうらに,よするしらなみ,あひだなく,おもふをなにか,いもにあひかたき
#[左注]
#[校異]汭 [元][細] 納
#[鄣W],地名,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]佐太の浦に寄せてくる白波ではないが間断なく恋い思うのにどうして妹になかなか会えないのだろう
#{語釈]
佐太の浦 未詳 高知県土佐清水市足摺岬 愛媛県西宇和郡三崎町佐田岬
11/2732

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3030
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]念出而 為便無時者 天雲之 奥香裳不知 戀乍曽居
#[訓読]思ひ出でてすべなき時は天雲の奥処も知らず恋ひつつぞ居る
#[仮名],おもひいでて,すべなきときは,あまくもの,おくかもしらず,こひつつぞをる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]思い出してどうしようもない時は天雲のはてもわからないようにはてしもなく恋い続けていることだ。
#{語釈]
奥処 果て 奥の場所

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3031
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]天雲乃 絶多比安 心<有>者 吾乎莫憑 待者苦毛
#[訓読]天雲のたゆたひやすき心あらば我れをな頼めそ待たば苦しも
#[仮名],あまくもの,たゆたひやすき,こころあらば,われをなたのめそ,またばくるしも
#[左注]
#[校異]<> -> 有 [西(挿入)][元][類][紀]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]天雲のように動きやすい気持ちであるならば、自分を信頼させないでくれ。待っていると苦しいことだ
#{語釈]
たゆたひ 動揺する 心変わりする
02/0122H01大船の泊つる泊りのたゆたひに物思ひ痩せぬ人の子故に
04/0542H01常やまず通ひし君が使ひ来ず今は逢はじとたゆたひぬらし
04/0713H01垣ほなす人言聞きて我が背子が心たゆたひ逢はぬこのころ
11/2690H01白栲の我が衣手に露は置き妹は逢はさずたゆたひにして
12/3031H01天雲のたゆたひやすき心あらば我れをな頼めそ待たば苦しも
15/3716H01天雲のたゆたひ来れば九月の黄葉の山もうつろひにけり

頼めそ 頼みとさせるな 信頼させるな
04/0620H01初めより長く言ひつつ頼めずはかかる思ひに逢はましものか
04/0740H01言のみを後も逢はむとねもころに我れを頼めて逢はざらむかも
14/3429H01遠江引佐細江のみをつくし我れを頼めてあさましものを

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3032
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]君之當 見乍母将居 伊駒山 雲莫蒙 雨者雖零
#[訓読]君があたり見つつも居らむ生駒山雲なたなびき雨は降るとも
#[仮名],きみがあたり,みつつもをらむ,いこまやま,くもなたなびき,あめはふるとも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,奈良,恋情
#[訓異]
#[大意]あなたのあたりを見続けてもいよう。生駒山に雲よたなびくなよ。雨は降ったとしても
#{語釈]
#[説明]
伊勢物語二十三段 筒井筒

#[関連論文]


#[番号]12/3033
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]中々二 如何知兼 吾山尓 焼流火氣能 外見申尾
#[訓読]なかなかに何か知りけむ我が山に燃ゆる煙の外に見ましを
#[仮名],なかなかに,なにかしりけむ,わがやまに,もゆるけぶりの,よそにみましを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],序詞,後悔,恋情,怨恨
#[訓異]
#[大意]なまじっかどうして知り合ったのだろう。自分のいる近くの山で燃えている煙ではないが、余所ながらみていればよかったのに
#{語釈]
なかなかに なまじっか知り合ったばかりにかえって恋心が苦しい

我が山に燃ゆる煙 略解 原文「吾」は春の誤り
春の野火、水蒸気など山にけぶるもの
火山を言っているか

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3034
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]吾妹兒尓 戀為便名鴈 (る)乎熱 旦戸開者 所見霧可聞
#[訓読]我妹子に恋ひすべながり胸を熱み朝戸開くれば見ゆる霧かも
#[仮名],わぎもこに,こひすべながり,むねをあつみ,あさとあくれば,みゆるきりかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]我妹子に恋い思ってどうしようもない。胸が熱いので朝に戸を開くと見える霧であるよ
#{語釈]
見ゆる霧 嘆く息吹が霧となって立ちこめている
05/0799H01大野山霧立ちわたる我が嘆くおきその風に霧立ちわたる

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3035
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]暁之 朝霧隠 反羽二 如何戀乃 色<丹>出尓家留
#[訓読]暁の朝霧隠りかへらばに何しか恋の色に出でにける
#[仮名],あかときの,あさぎりごもり,かへらばに,なにしかこひの,いろにいでにける
#[左注]
#[校異]舟 -> 丹 [西(訂正)][元][類][紀]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]暁の朝霧に隠れているのにかえってどうして恋が表に現れてしまったのだろう
#{語釈]
かへらばに 不明 西 かへれはに 紀 かへるさに
代匠記 反の上に黄が落ちた もみちはの
考 反詞二 かへりしに 古義 反為二 かへりしに
新考 11/2823 かへらまに と同じ さかさまに の意

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3036
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]思出 時者為便無 佐保山尓 立雨霧乃 應消所念
#[訓読]思ひ出づる時はすべなみ佐保山に立つ雨霧の消ぬべく思ほゆ
#[仮名],おもひいづる,ときはすべなみ,さほやまに,たつあまぎりの,けぬべくおもほゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,奈良,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]思い出すとどうしようもないので佐保山に立つ雨霧のように消えそうに思われてならない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3037
#[題詞](寄物陳思)
#[本文]g目山 徃反道之 朝霞 髣髴谷八 妹尓不相牟
#[訓読]殺目山行き返り道の朝霞ほのかにだにや妹に逢はざらむ
#[仮名],きりめやま,ゆきかへりぢの,あさがすみ,ほのかにだにや,いもにあはざらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,和歌山,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]殺目山を行っては帰る道の朝霞ではないが、ほのかにだけでも妹に逢わないことであろうか
#{語釈]
g目山 gは、殺と同じ 和歌山県日高郡印南町島田

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3038
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]如此将戀 物等知者 夕置而 旦者消流 露有申尾
#[訓読]かく恋ひむものと知りせば夕置きて朝は消ぬる露ならましを
#[仮名],かくこひむ,ものとしりせば,ゆふへおきて,あしたはけぬる,つゆならましを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]このように恋い思うものと知っていたならば、夕べには置いて朝には消えてしまう霧であればよいのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3039
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]暮置而 旦者消流 白露之 可消戀毛 吾者為鴨
#[訓読]夕置きて朝は消ぬる白露の消ぬべき恋も我れはするかも
#[仮名],ゆふへおきて,あしたはけぬる,しらつゆの,けぬべきこひも,あれはするかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]夕べに置いて朝には消えてしまう白露のような消えてしまいそうな恋も自分はすることであるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3040
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]後遂尓 <妹>将相跡 旦露之 命者生有 戀者雖繁
#[訓読]後つひに妹は逢はむと朝露の命は生けり恋は繁けど
#[仮名],のちつひに,いもはあはむと,あさつゆの,いのちはいけり,こひはしげけど
#[左注]
#[校異]妹尓 -> 妹 [元][紀][細]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]後には結局妹に逢おうと朝霧のようなはかない命は生きているよ。恋は激しいけれども
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3041
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]朝旦 草上白 置露乃 消者共跡 云師君者毛
#[訓読]朝な朝な草の上白く置く露の消なばともにと言ひし君はも
#[仮名],あさなさな,くさのうへしろく,おくつゆの,けなばともにと,いひしきみはも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],序詞,女歌,挽歌発想,恋情
#[訓異]
#[大意]毎朝毎朝草の上を白く置く露のように消えてしまうならば一緒に言ったあなただったのに。(今はどうしているかなあ)
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3042
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]朝日指 春日能小野尓 置露乃 可消吾身 惜雲無
#[訓読]朝日さす春日の小野に置く露の消ぬべき我が身惜しけくもなし
#[仮名],あさひさす,かすがのをのに,おくつゆの,けぬべきあがみ,をしけくもなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,奈良,序詞,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]朝日さす春日の小野に置く露のように消えてしまいそうな自分の身であるよ。惜しいこともない。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3043
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]露霜乃 消安我身 雖老 又若反 君乎思将待
#[訓読]露霜の消やすき我が身老いぬともまたをちかへり君をし待たむ
#[仮名],つゆしもの,けやすきあがみ,おいぬとも,またをちかへり,きみをしまたむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],女歌,恋情,枕詞
#[訓異]
#[大意]露霜の消えやすい自分の身である。年をとったとしてもまた若返ってあなたを待とう。
#{語釈]
#[説明]
同歌
11/2689H01朝露の消やすき我が身老いぬともまたをちかへり君をし待たむ

#[関連論文]


#[番号]12/3044
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]待君<常> 庭耳居者 打靡 吾黒髪尓 <霜>曽置尓家留
#[訓読]君待つと庭のみ居ればうち靡く我が黒髪に霜ぞ置きにける
#[仮名],きみまつと,にはのみをれば,うちなびく,わがくろかみに,しもぞおきにける
#[左注]或本歌尾句云 白細之 吾衣手尓 露曽置尓家留
#[校異]常常 -> 常 [西(訂正)][元][類][紀] / 耳 [万葉集古義](楓) 西 / 云 [元] 曰
#[鄣W],異伝,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]あなたを待つとして庭ばかりにいると、うち靡く自分の黒髪に霜が置いたことであるよ
#{語釈]
#[説明]
同想
02/0089H01居明かして君をば待たむぬばたまの我が黒髪に霜は降るとも

#[関連論文]


#[番号]12/3044S
#[題詞](寄物陳思)或本歌尾句云
#[原文]白細之 吾衣手尓 露曽置尓家留
#[訓読]白栲の我が衣手に霜ぞ置きにける
#[仮名],しろたへの,わがころもでに,しもぞおきにける
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],異伝,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]白妙の自分の衣の手に霜が置いたことである
#{語釈]
#[説明]
同想
11/2688H01待ちかねて内には入らじ白栲の我が衣手に露は置きぬとも

#[関連論文]


#[番号]12/3045
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]朝<霜>乃 可消耳也 時無二 思将度 氣之緒尓為而
#[訓読]朝霜の消ぬべくのみや時なしに思ひわたらむ息の緒にして
#[仮名],あさしもの,けぬべくのみや,ときなしに,おもひわたらむ,いきのをにして
#[左注]
#[校異]露 -> 霜 [西(訂正貼紙][元][類][紀]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]朝霜のように消えてしまいそうにばかりして時と無く思い続けていることだろうか。命に掛けて
#{語釈]
息の緒にして
04/0644H01今は我はわびぞしにける息の緒に思ひし君をゆるさく思へば
04/0681H01なかなかに絶ゆとし言はばかくばかり息の緒にして我れ恋ひめやも
07/1360H01息の緒に思へる我れを山ぢさの花にか君がうつろひぬらむ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3046
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]左佐浪之 波越安蹔仁 落小雨 間文置而 吾不念國
#[訓読]楽浪の波越すあざに降る小雨間も置きて我が思はなくに
#[仮名],ささなみの,なみこすあざに,ふるこさめ,あひだもおきて,わがおもはなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,地名,滋賀県,序詞
#[訓異]
#[大意]さされ波が越えるアザに降る小雨のように、間も置いて自分は思っているというわけではないのに
#{語釈]
楽浪 新考 地名 滋賀県 越は衍字 安は鞍 暫は蟹の誤り なみくらがねに か

安ま 旧訓 あざ 未詳 童蒙抄 あせ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3047
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]神左備而 巌尓生 松根之 君心者 忘不得毛
#[訓読]神さびて巌に生ふる松が根の君が心は忘れかねつも
#[仮名],かむさびて,いはほにおふる,まつがねの,きみがこころは,わすれかねつも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,植物,女歌
#[訓異]
#[大意]神々しくて巌に生えている松の根ではないが、いつまでもと思うあなたの気持ちは忘れることが出来ないよ
#{語釈]
松が根 常磐にあるように、いつまでもを示す序詞

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3048
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]御猟為 鴈羽之小野之 <櫟柴之> 奈礼波不益 戀社益
#[訓読]み狩りする雁羽の小野の櫟柴のなれはまさらず恋こそまされ
#[仮名],みかりする,かりはのをのの,ならしばの,なれはまさらず,こひこそまされ
#[左注]
#[校異]柏 -> 櫟柴之 [紀][細][温][矢]
#[鄣W],地名,植物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]狩りをする雁羽の小野の楢の灌木ではないが、馴れることは増えないで恋い思うことばかりが勝っていくことだ
#{語釈]
雁羽の小野 所在未詳

櫟柴 楢の木 柴 背丈の低い木 ならとなれの音の繰り返しの序詞

なれはまさらず 相手と慣れ親しんで気持ちが落ち着くことは増えないで

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3049
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]櫻麻之 麻原<乃>下草 早生者 妹之下紐 下解有申尾
#[訓読]桜麻の麻生の下草早く生ひば妹が下紐解かずあらましを
#[仮名],さくらをの,をふのしたくさ,はやくおひば,いもがしたびも,とかずあらましを
#[左注]
#[校異]<> -> 乃 [元][類][紀]
#[鄣W],序詞,恋情,植物
#[訓異]
#[大意]桜麻の麻の生えている畑の下草が早く生えるように、妹も早く成長していたならば下紐を解かないでいたものであろうものだったのに。
#{語釈]
桜麻の麻生 11/2687 桜麻の麻生の下草露しあれば明かしてい行け母は知るとも
桜麻 不明 代匠記 桜のさく此まく物なるゆへにいふといへり
精撰 今案立たるさま、葉のさまの桜にやや似たれば云なるべし
冠辞考 をふを重ねる枕詞 さくらは所の名前
橘枝直 6/942 桜皮(かには) 麻の朱(あか)きをかにはをといふべきにや

麻生 をふ 麻の生えているところ 麻の畑

下紐解かずあらましを 考 ゆるらかに物せし故に遂にかく妹がひもとく時にも至りけりと悦ぶなり
古義 我より先に妹にいひよする人のあるにたとふ。我より先に妹にいひよする人の有しならば、かく我が為に妹が下紐をとくということは、得せざらましを、人のいひよせぬうちに、我早くいひよせたればこそ、我が物になりしなれ、と悦ぶなり
折口口訳 いとしい人がもっと以前に成長していたならば、人の物となってしまって、自分が下紐を解くことができなかったかも知れないのだが、今子どもであってくれたことが有り難いことだ
全註釈 自分が早く生い出ていたら、時代が違って妹と逢うことも無かったろうにという意の前提法である

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3050
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]春日野尓 淺茅標結 断米也登 吾念人者 弥遠長尓
#[訓読]春日野に浅茅標結ひ絶えめやと我が思ふ人はいや遠長に
#[仮名],かすがのに,あさぢしめゆひ,たえめやと,わがおもふひとは,いやとほながに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,奈良,植物,恋情,永遠
#[訓異]
#[大意]春日野に浅茅に標しを付けて絶えるだろうかと自分が思う人はますます末長くあるように
#{語釈]
標結ひ 標を結んでずっとそれが残っている 絶えめやに続く序
07/1347H01君に似る草と見しより我が標めし野山の浅茅人な刈りそね
標を結んでも空しいことで絶えるを引き出す
11/2466H01浅茅原小野に標結ふ空言をいかなりと言ひて君をし待たむ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3051
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]足桧木之 山菅根之 懃 吾波曽戀流 君之光儀乎
#[訓読]あしひきの山菅の根のねもころに我れはぞ恋ふる君が姿を
#[仮名],あしひきの,やますがのねの,ねもころに,あれはぞこふる,きみがすがたを
#[左注]或本歌曰 吾念人乎 将見因毛我母
#[校異]桧木 [元][類][紀] 桧
#[鄣W],異伝,枕詞,植物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]あしひきの山菅の根ではないが懇ろに自分は恋い思う。あなたの姿を
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3051S
#[題詞](寄物陳思)或本歌曰
#[原文]吾念人乎 将見因毛我母
#[訓読]我が思ふ人を見むよしもがも
#[仮名],わがおもふひとを,みむよしもがも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],異伝,恋情
#[訓異]
#[大意]自分が恋い思う人を見る手だてもあればなあ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3052
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]垣津旗 開澤生 菅根之 絶跡也君之 不所見頃者
#[訓読]かきつはた佐紀沢に生ふる菅の根の絶ゆとや君が見えぬこのころ
#[仮名],かきつはた,さきさはにおふる,すがのねの,たゆとやきみが,みえぬこのころ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],植物,枕詞,奈良,恋情,不安
#[訓異]
#[大意]かきつはたが咲く佐紀沢に生える菅の根が絶えるというわけではないが、途絶えるというのだろうか。あなたが見えないこの頃であるよ
#{語釈]
かきつはた佐紀沢に生ふる菅
11/2818H01かきつはた佐紀沼の菅を笠に縫ひ着む日を待つに年ぞ経にける

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3053
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]足桧木乃 山菅根之 懃 不止念者 於妹将相可聞
#[訓読]あしひきの山菅の根のねもころにやまず思はば妹に逢はむかも
#[仮名],あしひきの,やますがのねの,ねもころに,やまずおもはば,いもにあはむかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],植物,枕詞,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]あしひきの山菅の根ではないがねんごろに絶えず恋い思ったならば妹に逢うことだろうかなあ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3054
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]相不念 有物乎鴨 菅根乃 懃懇 吾念有良武
#[訓読]相思はずあるものをかも菅の根のねもころごろに我が思へるらむ
#[仮名],あひおもはず,あるものをかも,すがのねの,ねもころごろに,わがもへるらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],植物,枕詞,恋情,怨恨
#[訓異]
#[大意]共に恋い思わずにいるものなのに。菅の根ではないが懇ろに自分は恋い思っているのだろうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3055
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]山菅之 不止而公乎 念可母 吾心神之 頃者名寸
#[訓読]山菅のやまずて君を思へかも我が心どのこの頃はなき
#[仮名],やますげの,やまずてきみを,おもへかも,あがこころどの,このころはなき
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],植物,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]山菅の止まないであなたを思ってるからだろうか。自分のしっかりとした気持ちもこの頃はないことだ
#[説明]
心ど しっかりとした気持ち
03/0457H01遠長く仕へむものと思へりし君しまさねば心どもなし
03/0471H01家離りいます我妹を留めかね山隠しつれ心どもなし
11/2525H01ねもころに片思ひすれかこのころの我が心どの生けるともなき
12/3055H01山菅のやまずて君を思へかも我が心どのこの頃はなき
13/3275H01ひとり寝る夜を数へむと思へども恋の繁きに心どもなし
17/3972H01出で立たむ力をなみと隠り居て君に恋ふるに心どもなし
19/4173H01妹を見ず越の国辺に年経れば我が心どのなぐる日もなし

#[関連論文]


#[番号]12/3056
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]妹門 去過不得而 草結 風吹解勿 又将顧 [一云 直相麻<弖>尓]
#[訓読]妹が門行き過ぎかねて草結ぶ風吹き解くなまたかへり見む [一云 直に逢ふまでに]
#[仮名],いもがかど,ゆきすぎかねて,くさむすぶ,かぜふきとくな,またかへりみむ,[ただにあふまでに]
#[左注]
#[校異]土 -> 弖 [古][紀][細]
#[鄣W],異伝,恋情
#[訓異]
#[大意]妹の門を行き過ぎることが出来なくて草を結ぶ。風よ。これを吹いてほどくなよ。またかえり見ようから
#{語釈]
草結ぶ 代匠記 自分が来たことを相手に気づかせるためのもの
他例 旅に出る時の歌


#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3057
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]淺茅原 茅生丹足踏 意具美 吾念兒等之 家當見津 [一云 妹之家當見津]
#[訓読]浅茅原茅生に足踏み心ぐみ我が思ふ子らが家のあたり見つ [一云 妹が家のあたり見つ]
#[仮名],あさぢはら,ちふにあしふみ,こころぐみ,あがもふこらが,いへのあたりみつ,[いもが,いへのあたりみつ]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],異伝,恋情
#[訓異]
#[大意]浅茅原の茅の生えている所で足を踏み込んで足が痛いように心が痛く晴れ晴れしないので、自分が恋い思うあの子の家のあたりを見たことだ 一云 妹の家のあたりを見たことだ
#{語釈]
心ぐみ 心ぐし 心が鬱陶しい 晴れ晴れとしない
04/0735H01春日山霞たなびき心ぐく照れる月夜にひとりかも寝む

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3058
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]内日刺 宮庭有跡 鴨頭草之 移情 吾思名國
#[訓読]うちひさす宮にはあれど月草のうつろふ心我が思はなくに
#[仮名],うちひさす,みやにはあれど,つきくさの,うつろふこころ,わがおもはなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,植物,恋愛
#[訓異]
#[大意]うちひさす宮にはあるけれども露草のように移り変わる気持ちは自分は思わないことなのに
#{語釈]
月草 露草 草木染めにしたものがすぐに褪色するからか。花がすぐに散るからか
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3059
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]百尓千尓 人者雖言 月草之 移情 吾将持八方
#[訓読]百に千に人は言ふとも月草のうつろふ心我れ持ためやも
#[仮名],ももにちに,ひとはいふとも,つきくさの,うつろふこころ,われもためやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],植物,うわさ,恋愛
#[訓異]
#[大意]百も千も他人はうわさをするとしても露草のように移り行く気持ちを自分は持っていようか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3060
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]萱草 吾紐尓著 時常無 念度者 生跡文奈思
#[訓読]忘れ草我が紐に付く時となく思ひわたれば生けりともなし
#[仮名],わすれくさ,わがひもにつく,ときとなく,おもひわたれば,いけりともなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],植物,恋情
#[訓異]
#[大意]忘れ草を自分の紐に付ける。時となく思い続けると生きた心地もしない
#{語釈]
忘れ草 萱草 ユリ科の多年草
03/0334H01忘れ草我が紐に付く香具山の古りにし里を忘れむがため
04/0727H01忘れ草我が下紐に付けたれど醜の醜草言にしありけり
11/2475H01我が宿の軒にしだ草生ひたれど恋忘れ草見れどいまだ生ひず
12/3060H01忘れ草我が紐に付く時となく思ひわたれば生けりともなし
12/3062H01忘れ草垣もしみみに植ゑたれど醜の醜草なほ恋ひにけり

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3061
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]五更之 目不酔草跡 此乎谷 見乍座而 吾止偲為
#[訓読]暁の目覚まし草とこれをだに見つついまして我れと偲はせ
#[仮名],あかときの,めさましくさと,これをだに,みつついまして,われをしのはせ
#[左注]
#[校異]止 (塙)(楓) 少
#[鄣W],女歌,形見,恋愛
#[訓異]
#[大意]明け方の目覚ましのものとしてこれでも見続けて自分を偲んでください。
#{語釈]
これ 不明 歌をつけた贈り物のことか。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3062
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]萱草 垣毛繁森 雖殖有 鬼之志許草 猶戀尓家利
#[訓読]忘れ草垣もしみみに植ゑたれど醜の醜草なほ恋ひにけり
#[仮名],わすれくさ,かきもしみみに,うゑたれど,しこのしこくさ,なほこひにけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],植物,恋情
#[訓異]
#[大意]忘れ草を垣根にいっぱいに植えたが、みにくい役立たずの草だ。やはり恋しいことだ。
#{語釈]
醜の醜草 同じ句
04/0727H01忘れ草我が下紐に付けたれど醜の醜草言にしありけり

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3063
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]淺茅原 小野尓標結 空言毛 将相跡令聞 戀之名種尓
#[訓読]浅茅原小野に標結ふ空言も逢はむと聞こせ恋のなぐさに
#[仮名],あさぢはら,をのにしめゆふ,むなことも,あはむときこせ,こひのなぐさに
#[左注]或本歌曰 将来知志 君矣志将待 又見柿本朝臣人麻呂歌集 然落<句小>異耳
#[校異]勺少 -> 句小 [元][類]
#[鄣W],恋情,異伝,柿本人麻呂歌集
#[訓異]
#[大意]浅茅原の小野に印を付けるような空しい甲斐のない言葉にでも会おうとおっしゃってください。恋のなぐさめに。
#{語釈]
浅茅原
11/2466H01浅茅原小野に標結ふ空言をいかなりと言ひて君をし待たむ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3063S
#[題詞](寄物陳思)或本歌曰
#[原文]将来知志 君矣志将待
#[訓読]来むと知らせし君をし待たむ
#[仮名],こむとしらせし,きみをしまたむ
#[左注]又見柿本朝臣人麻呂歌集 然落<句小>異耳
#[校異]
#[鄣W],異伝,恋情
#[訓異]
#[大意]来ようと知らせた。あなたを待とう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3064
#[題詞](寄物陳思)
#[本文]<人皆>之 笠尓縫云 有間菅 在而後尓毛 相等曽念
#[訓読]人皆の笠に縫ふといふ有間菅ありて後にも逢はむとぞ思ふ
#[仮名],ひとみなの,かさにぬふといふ,ありますげ,ありてのちにも,あはむとぞおもふ
#[左注]
#[校異]皆人 -> 人皆 [元][紀][温][矢]
#[鄣W],植物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]人がみんな笠に縫うという有間の菅の名のように、有り長らえて後々にも会おうと思う
#{語釈]
有間菅
11/2757H01大君の御笠に縫へる有間菅ありつつ見れど事なき我妹

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3065
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]三吉野之 蜻乃小野尓 苅草之 念乱而 宿夜四曽多
#[訓読]み吉野の秋津の小野に刈る草の思ひ乱れて寝る夜しぞ多き
#[仮名],みよしのの,あきづのをのに,かるかやの,おもひみだれて,ぬるよしぞおほき
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,吉野,奈良,植物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]み吉野の秋津の小野に刈る萱ではないが、思い乱れて寝る夜が多いことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3066
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]妹待跡 三笠乃山之 山菅之 不止八将戀 命不死者
#[訓読]妹待つと御笠の山の山菅の止まずや恋ひむ命死なずは
#[仮名],いもまつと,みかさのやまの,やますげの,やまずやこひむ,いのちしなずは
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,奈良,植物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]妹を待つとして御笠山の山菅の名前のようにやまずに恋い思おう。命が死なない限り
#{語釈]
妹待つと 止まずに掛かる。
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3067
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]谷迫 峯邊延有 玉葛 令蔓之<有>者 年二不来友 [一云 石葛 令蔓之有者]
#[訓読]谷狭み嶺辺に延へる玉葛延へてしあらば年に来ずとも [一云 岩つなの延へてしあらば]
#[仮名],たにせまみ,みねへにはへる,たまかづら,はへてしあらば,としにこずとも,[いはつなの,はへてしあらば]
#[左注]
#[校異]<> -> 有 [元][類][紀]
#[鄣W],異伝,植物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]谷が狭いので峰のあたりに伸びていく玉葛ではないが、思いが通じていたならば一年は来なくとも
#{語釈]
延へてしあらば 伸ばす 思いが通じる
09/1792H01白玉の 人のその名を なかなかに 言を下延へ 逢はぬ日の
09/1809H08隠り沼の 下延へ置きて うち嘆き 妹が去ぬれば 茅渟壮士

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3068
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]水茎之 岡乃田葛葉緒 吹變 面知兒等之 不見比鴨
#[訓読]水茎の岡の葛葉を吹きかへし面知る子らが見えぬころかも
#[仮名],みづくきの,をかのくずはを,ふきかへし,おもしるこらが,みえぬころかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],植物,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]水茎の岡の葛の葉を吹き返しておもしろいように顔を見知っているあの子が見えないこの頃である。
#{語釈]
水茎の 岡の枕詞
07/1231H01天霧らひひかた吹くらし水茎の岡の港に波立ちわたる

#[説明]
類歌
12/3015H01神のごと聞こゆる瀧の白波の面知る君が見えぬこのころ

#[関連論文]


#[番号]12/3069
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]赤駒之 射去羽計 真田葛原 何傳言 直将吉
#[訓読]赤駒のい行きはばかる真葛原何の伝て言直にしよけむ
#[仮名],あかごまの,いゆきはばかる,まくずはら,なにのつてこと,ただにしよけむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],動物,植物,序詞,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]元気のいい赤駒が行くのも困難な真葛原ではないが、憚られるのに何の伝言か。直接にすればいいのに
#{語釈]
真葛原 葛のツタに足がとられるので馬も行きなずむ
憚るのを、直接会うのを憚ってという序詞

何の伝て言 直接会うのを遠慮して伝言してきた相手をなじったもの

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3070
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]木綿疊 田上山之 狭名葛 在去之毛 <今>不有十万
#[訓読]木綿畳田上山のさな葛ありさりてしも今ならずとも
#[仮名],ゆふたたみ,たなかみやまの,さなかづら,ありさりてしも,いまならずとも
#[左注]
#[校異]令 -> 今 [童蒙抄]
#[鄣W],地名,滋賀県,枕詞,植物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]木綿畳ではないが田上山のさな葛のツタが長く続くように、在り長らえてあなたに会おう。今でなくとも
#{語釈]
木綿畳 木綿で作った畳 「た」にかかる枕詞
06/1017H01木綿畳手向けの山を今日越えていづれの野辺に廬りせむ我れ

田上山 滋賀県粟田郡 瀬田川東側
01/0050H03石走る 近江の国の 衣手の 田上山の

ありさりて
04/0790H01春風の音にし出なばありさりて今ならずとも君がまにまに
17/3933H01ありさりて後も逢はむと思へこそ露の命も継ぎつつ渡れ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3071
#[題詞](寄物陳思)
#[本文]<丹>波道之 大江乃山之 真玉葛 絶牟乃心 我不思
#[訓読]丹波道の大江の山のさな葛絶えむの心我が思はなくに
#[仮名],たにはぢの,おほえのやまの,さなかづら,たえむのこころ,わがおもはなくに
#[左注]
#[校異]舟 -> 丹 [西(訂正)][元][類][紀]
#[鄣W],地名,京都,植物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]丹波路の大江の山のさな葛のツタではないが、途絶えようという心は自分は持ってはいないよ
#{語釈]
大江の山 京都府右京区大枝沓掛町 山陰道
天武八年十一月 是月、初置関於龍田山、大江山
古義 後の酒呑童子の大江山は、丹後の背甲山でこの山ではない

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3072
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]大埼之 有礒乃渡 延久受乃 徃方無哉 戀度南
#[訓読]大崎の荒礒の渡り延ふ葛のゆくへもなくや恋ひわたりなむ
#[仮名],おほさきの,ありそのわたり,はふくずの,ゆくへもなくや,こひわたりなむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,和歌山,植物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]大崎の荒磯の渡しに這う葛のように行く先もわからないで恋い続けることであるよ
#{語釈]
大崎 和歌山県海草郡下津町大崎
06/1023H01大崎の神の小浜は狭けども百舟人も過ぐと言はなくに

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3073
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]木綿褁 [一云 疊] 白月山之 佐奈葛 後毛必 将相等曽念 [或本歌曰 将絶跡妹乎 吾念莫久尓]
#[訓読]木綿包み [一云 畳] 白月山のさな葛後もかならず逢はむとぞ思ふ [或本歌曰 絶えむと妹を我が思はなくに]
#[仮名],ゆふづつみ[たたみ],しらつきやまの,さなかづら,のちもかならず,あはむとぞおもふ,[たえむといもを,わがおもはなくに]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,地名,植物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]木綿の包み[一云 畳]ではないが白月山のさな葛の蔓が後で合っているように、後にでも必ず会おうと思う [或本歌曰 途絶えるだろうと妹を自分は思ってはいないよ]
#{語釈]
木綿包み [一云 畳] 白いので、白月山の枕詞

白月山 未詳 岡山県後月郡

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3074
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]唐棣花色之 移安 情有者 年乎曽寸經 事者不絶而
#[訓読]はねず色のうつろひやすき心あれば年をぞ来経る言は絶えずて
#[仮名],はねずいろの,うつろひやすき,こころあれば,としをぞきふる,ことはたえずて
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]はねず色のように褪せやすい心であるので、会わないままに年月を過ごしてきたことだ。音信は途絶えないが。
#{語釈]
はねず色 庭梅の花の色
04/0657H01思はじと言ひてしものをはねず色のうつろひやすき我が心かも
11/2786H01山吹のにほへる妹がはねず色の赤裳の姿夢に見えつつ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3075
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]如此為而曽 人之死云 藤浪乃 直一目耳 見之人故尓
#[訓読]かくしてぞ人は死ぬといふ藤波のただ一目のみ見し人ゆゑに
#[仮名],かくしてぞ,ひとはしぬといふ,ふぢなみの,ただひとめのみ,みしひとゆゑに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],植物,恋情
#[訓異]
#[大意]このようにして人は死ぬというのだ。藤波のようにただ一目だけ見た人のために
#{語釈]
藤波の 枕詞か。係り方未詳 拾穂抄 藤波は見るものであるから一目見るに続く

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3076
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]住吉之 敷津之浦乃 名告藻之 名者告而之乎 不相毛恠
#[訓読]住吉の敷津の浦のなのりその名は告りてしを逢はなくも怪し
#[仮名],すみのえの,しきつのうらの,なのりその,なはのりてしを,あはなくもあやし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,大阪,植物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]住吉の敷津の浦のなのりそではないが、名前は言ったのに会わないことがあやしいことだ
#{語釈]
住吉の敷津の浦 大阪市住吉区敷津 住吉神社西 住ノ江公園を中心にしたあたり

なのりそ ほんだわら

名は告りてしを 結婚を約束したのに だまされたかという疑いの気持ち

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3077
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]三佐呉集 荒礒尓生流 勿謂藻乃 吉名者不<告> 父母者知鞆
#[訓読]みさご居る荒礒に生ふるなのりそのよし名は告らじ親は知るとも
#[仮名],みさごゐる,ありそにおふる,なのりその,よしなはのらじ,おやはしるとも
#[左注]
#[校異]吉 -> 告 [類][紀] / 鞆 [元][類](塙)(楓) 等毛
#[鄣W],動物,植物,序詞,恋情,人目
#[訓異]
#[大意]みさごが居る荒磯に生えているなのりそではないが、あなたの名前は言うまい。親は二人の仲を知っているとしても
#{語釈]
みさご 和名抄「雎鳩 鷲の属なり。好く江辺の山中に在りて、また魚を食ふ者也」

#[説明]
類歌
03/0363H01みさご居る荒磯に生ふるなのりそのよし名は告らせ親は知るとも

#[関連論文]


#[番号]12/3078
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]浪之共 靡玉藻乃 片念尓 吾念人之 言乃繁家口
#[訓読]波の共靡く玉藻の片思に我が思ふ人の言の繁けく
#[仮名],なみのむた,なびくたまもの,かたもひに,わがおもふひとの,ことのしげけく
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],植物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]波と共に靡く美しい藻があちらこちら靡くように相手次第の片思いで自分が思っている人のうわさがひどいことだ
#{語釈]
玉藻 片思の序 あちらこちらに靡いてゆらめいているように相手の思いにゆらめく気持ち

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3079
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]海若之 奥津玉藻乃 靡将寐 早来座君 待者苦毛
#[訓読]わたつみの沖つ玉藻の靡き寝む早来ませ君待たば苦しも
#[仮名],わたつみの,おきつたまもの,なびきねむ,はやきませきみ,またばくるしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],植物,序詞,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]海の沖の美しい藻のように靡いて寝よう。早くいらっしゃい。あなたよ。待っていると苦しいことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3080
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]海若之 奥尓生有 縄<乗>乃 名者曽不告 戀者雖死
#[訓読]わたつみの沖に生ひたる縄海苔の名はかつて告らじ恋ひは死ぬとも
#[仮名],わたつみの,おきにおひたる,なはのりの,なはかつてのらじ,こひはしねとも
#[左注]
#[校異]垂 -> 乗 [西(朱筆訂正)][元][類][紀]
#[鄣W],植物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]海の沖に生えている縄海苔ではないがあなたの名前はけっして言わないよ。恋い思って死ぬとしても
#{語釈]
縄海苔 未詳 11/2779 縄のような海苔
品物解 うみそうめん
動植正名 ぼむめ 昆布の幅の狭いもの つるも

かつて 注釈 さね 決して ちっとも
04/0675H01をみなへし佐紀沢に生ふる花かつみかつても知らぬ恋もするかも

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3081
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]玉緒乎 片緒尓搓而 緒乎弱弥 乱時尓 不戀有目八方
#[訓読]玉の緒を片緒に縒りて緒を弱み乱るる時に恋ひずあらめやも
#[仮名],たまのをを,かたをによりて,ををよわみ,みだるるときに,こひずあらめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]玉の緒を片糸の緒によじて緒が弱いので乱れるように、恋が乱れる時に恋い思わないということがあろうか
#{語釈]
乱るる時に 二人の仲が別れ別れになった時に

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3082
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]君尓不相 久成宿 玉緒之 長命之 惜雲無
#[訓読]君に逢はず久しくなりぬ玉の緒の長き命の惜しけくもなし
#[仮名],きみにあはず,ひさしくなりぬ,たまのをの,ながきいのちの,をしけくもなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],女歌,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]あなたに会わないで月日が経った。もう玉の緒のような長い命が惜しいということもないよ
#{語釈]
命の惜しけくもなし 類想
11/2358H01何せむに命をもとな長く欲りせむ生けりとも我が思ふ妹にやすく逢はなくに
11/2416H01ちはやぶる神の持たせる命をば誰がためにかも長く欲りせむ
12/2868H01恋ひつつも後も逢はむと思へこそおのが命を長く欲りすれ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3083
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]戀事 益今者 玉緒之 絶而乱而 可死所念
#[訓読]恋ふることまされる今は玉の緒の絶えて乱れて死ぬべく思ほゆ
#[仮名],こふること,まされるいまは,たまのをの,たえてみだれて,しぬべくおもほゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]恋い思うことが勝っている今は玉の緒ではないが、途絶えて恋い乱れて死にそうに思われることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3084
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]海處女 潜取云 忘貝 代二毛不忘 妹之容儀者
#[訓読]海人娘子潜き採るといふ忘れ貝世にも忘れじ妹が姿は
#[仮名],あまをとめ,かづきとるといふ,わすれがひ,よにもわすれじ,いもがすがたは
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]海人の娘子が潜って採るという忘れ貝ではないが、決して忘れることはないだろう。妹の姿は。
#{語釈]
忘れ貝 鮑など

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3085
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]朝影尓 吾身者成奴 玉蜻 髣髴所見而 徃之兒故尓
#[訓読]朝影に我が身はなりぬ玉かぎるほのかに見えて去にし子ゆゑに
#[仮名],あさかげに,あがみはなりぬ,たまかぎる,ほのかにみえて,いにしこゆゑに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]朝日に映る影のようにやせ細って自分の身はなった。玉がほのかに輝くようにほんのわずかに見えて去っていったあの子のために
#{語釈]
#[説明]
同歌 人麻呂歌集 正述心緒部
11/2394H01朝影に我が身はなりぬ玉かきるほのかに見えて去にし子ゆゑに

#[関連論文]


#[番号]12/3086
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]中々二 人跡不在者 桑子尓毛 成益物乎 玉之緒<許>
#[訓読]なかなかに人とあらずは桑子にもならましものを玉の緒ばかり
#[仮名],なかなかに,ひととあらずは,くはこにも,ならましものを,たまのをばかり
#[左注]
#[校異]計 -> 許 [元][類][紀]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]なまじっか人でいずに蚕にもなったらよかろうに。短い間でも
#{語釈]
桑子 蚕

玉の緒 短い喩え
14/3358H01さ寝らくは玉の緒ばかり恋ふらくは富士の高嶺の鳴沢のごと

#[説明]
人として長い間恋い思って苦しく過ごしているよりは、蚕にでもなったらほんの少しの間しか生きられないので、楽だという意味

#[関連論文]


#[番号]12/3087
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]真菅吉 宗我乃河原尓 鳴千鳥 間無吾背子 吾戀者
#[訓読]ま菅よし宗我の川原に鳴く千鳥間なし我が背子我が恋ふらくは
#[仮名],ますげよし,そがのかはらに,なくちどり,まなしわがせこ,あがこふらくは
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],動物,枕詞,植物,地名,奈良,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]ま菅がよい曾我の河原に鳴く千鳥のように絶え間のないことだ。我が背子よ。自分が恋い思うことは。
#{語釈]
ま菅よし よい菅が生えている 「すが」と「そが」の類音くりかえし

宗我の川原 曾我川

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3088
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]戀衣 著<楢>乃山尓 鳴鳥之 間無<時無> 吾戀良苦者
#[訓読]恋衣着奈良の山に鳴く鳥の間なく時なし我が恋ふらくは
#[仮名],こひごろも,きならのやまに,なくとりの,まなくときなし,あがこふらくは
#[左注]
#[校異]猶 -> 楢 [西(訂正)][紀][温][矢] / 無時 -> 時無 [元][紀][温]
#[鄣W],奈良,掛詞,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]恋い衣を着慣らすわけではないが奈良の山に鳴く鳥のように絶え間のないことだ。自分が恋い思うことは。
#{語釈]
恋衣 恋いの衣を着慣らす 奈良の枕詞 ここ一例

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3089
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]遠津人 猟道之池尓 住鳥之 立毛居毛 君乎之曽念
#[訓読]遠つ人狩道の池に住む鳥の立ちても居ても君をしぞ思ふ
#[仮名],とほつひと,かりぢのいけに,すむとりの,たちてもゐても,きみをしぞおもふ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,地名,榛原,奈良,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]遠方の人である雁。その猟路の池に住む鳥ではないが、立っても座っていてもあなたを思うことだ
#{語釈]
遠つ人 遠くから渡ってくる雁への連想

猟路池 未詳 奈良県桜井市鹿路
03/0239D01長皇子遊猟路池之時柿本朝臣人麻呂作歌一首并短歌

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3090
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]葦邊徃 鴨之羽音之 聲耳 聞管本名 戀度鴨
#[訓読]葦辺行く鴨の羽音の音のみに聞きつつもとな恋ひわたるかも
#[仮名],あしへゆく,かものはおとの,おとのみに,ききつつもとな,こひわたるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],動物,植物,序詞,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]葦のあたりを行く鴨の羽の音ではないがうわさばかり聞いて、むやみに恋い続けることであるよ
#{語釈]
葦辺行く鴨
01/0064H01葦辺行く鴨の羽交ひに霜降りて寒き夕は大和し思ほゆ

もとな
03/0305H01かく故に見じと言ふものを楽浪の旧き都を見せつつもとな
12/2974H01紫の帯の結びも解きもみずもとなや妹に恋ひわたりなむ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3091
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]鴨尚毛 己之妻共 求食為而 所遺間尓 戀云物乎
#[訓読]鴨すらもおのが妻どちあさりして後るる間に恋ふといふものを
#[仮名],かもすらも,おのがつまどち,あさりして,おくるるあひだに,こふといふものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],動物,恋情
#[訓異]
#[大意]鴨ですら自分の妻と一緒に餌を求めていて、どちらかが後れたら恋い思うというものであるのに(まして人間である自分はなおさら恋しいことだ)
#{語釈]
#[説明]
同想
03/0390H01軽の池の浦廻行き廻る鴨すらに玉藻の上にひとり寝なくに

#[関連論文]


#[番号]12/3092
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]白檀 斐太乃細江之 菅鳥乃 妹尓戀哉 寐宿金鶴
#[訓読]白真弓斐太の細江の菅鳥の妹に恋ふれか寐を寝かねつる
#[仮名],しらまゆみ,ひだのほそえの,すがどりの,いもにこふれか,いをねかねつる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,地名,動物,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]白真弓を引く飛騨の細江の菅鳥ではないが、妹に恋い思うからか、寝ることも出来ないでいることだ。
#{語釈]
白真弓 白木の真弓 「引く」にかかる枕詞 ここでは「ひ」にかかる。
「引く」の「ひ」は甲類。「斐太」は乙類。大系 真弓の産地だったか

斐太の細江 未詳 奈良県橿原市飛騨 岐阜県吉城郡古川町細江

菅鳥 不明 類聚名義抄 あまとり、すがとり、菅鳥、家はと
東光治 すが鳥考 鴛鴦か。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3093
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]小竹之上尓 来居而鳴<鳥> 目乎安見 人妻姤尓 吾戀二来
#[訓読]小竹の上に来居て鳴く鳥目を安み人妻ゆゑに我れ恋ひにけり
#[仮名],しののうへに,きゐてなくとり,めをやすみ,ひとづまゆゑに,あれこひにけり
#[左注]
#[校異]<> -> 鳥 [西(左書)][元][類][紀]
#[鄣W],植物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]篠竹の上に来て鳴いている鳥ではないが、美しい人であるので、人妻ではあるが自分は恋い思ってしまった
#{語釈]
目を安み 代匠記 鳥の声もよく形もよきに女を譬えて、目を安みとは云ふなるべし
注釈 14/3396 目にかかる序詞。
大系 すずめ、つばめ、ひめ、かまめ、など鳥には「め」という接尾辞が多 い 古くは鳥そのものを表す言葉だったか
井出至 鳥を捕らえる網の目のこと
ここの情景は、網が張られていなくて鳥たちが安心して鳴いている様 子
美しい人 心安く接することの出来る人

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3094
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]物念常 不宿起有 旦開者 和備弖鳴成 鶏左倍
#[訓読]物思ふと寐ねず起きたる朝明にはわびて鳴くなり庭つ鳥さへ
#[仮名],ものもふと,いねずおきたる,あさけには,わびてなくなり,にはつとりさへ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],動物,恋情
#[訓異]
#[大意]もの思いをするとして寝ないで起きた早朝にはわびしそうに鳴くようだ。鶏ですら。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3095
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]朝烏 早勿鳴 吾背子之 旦開之容儀 見者悲毛
#[訓読]朝烏早くな鳴きそ我が背子が朝明の姿見れば悲しも
#[仮名],あさがらす,はやくななきそ,わがせこが,あさけのすがた,みればかなしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],動物,女歌,後朝
#[訓異]
#[大意]朝の烏よ。早くは鳴くな。我が背子の朝帰って行く姿を見ると悲しいことだよ。
#{語釈]
烏 07/1263H01暁と夜烏鳴けどこの岡の木末の上はいまだ静けし

朝明の姿 12/2841H01我が背子が朝明の姿よく見ずて今日の間を恋ひ暮らすかも

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3096
#[題詞](寄物陳思)
#[本文]柜(ゐ)越尓 麦咋駒乃 雖詈 猶戀久 思不勝焉
#[訓読]馬柵越しに麦食む駒の罵らゆれど猶し恋しく思ひかねつも
#[仮名],ませごしに,むぎはむこまの,のらゆれど,なほしこひしく,おもひかねつも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],動物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]馬柵越しに麦を食べる馬のように罵られるけれど、やはり恋しく思いに耐えかねることだ
#{語釈]
馬柵越しに麦食む駒
14/3537H02馬柵越し麦食む駒のはつはつに新肌触れし子ろし愛しも

罵らゆれど 親から叱られるが

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3097
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]左桧隈 <桧隈>河尓 駐馬 馬尓水令飲 吾外将見
#[訓読]さ桧隈桧隈川に馬留め馬に水飼へ我れ外に見む
#[仮名],さひのくま,ひのくまかはに,うまとどめ,うまにみづかへ,われよそにみむ
#[左注]
#[校異]々々 -> 桧隈 [元][類][紀]
#[鄣W],地名,明日香,奈良,動物,恋情,歌垣
#[訓異]
#[大意]さ桧隈の桧隈川に馬を留めて馬に水を飲ませなさい。その間、自分は余所ながらでも見ていましょう
#{語釈]
さ桧隈 「さ」接頭語 曾我川上流 明日香桧の隈あたりを流れている川
07/1109H01さ桧の隈桧隈川の瀬を早み君が手取らば言寄せむかも

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3098
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]於能礼故 所詈而居者 (ゑ)馬之 面高夫駄尓 乗而應来哉
#[訓読]おのれゆゑ罵らえて居れば青馬の面高夫駄に乗りて来べしや
#[仮名],おのれゆゑ,のらえてをれば,あをうまの,おもたかぶだに,のりてくべしや
#[左注]右一首 平群文屋朝臣益人傳云 昔<多>紀皇女竊嫁高安王被嘖之時 御作<此>歌 但高安王左降任<之>伊与國守也
#[校異]聞 -> 多 [吉永登説] / <> -> 此 [元][類][紀] / <> -> 之 [西(右書)][元][紀][温]
#[鄣W],動物,怨恨,伝承,歌語り,紀皇女,高安王,平群文屋益人
#[訓異]
#[大意]お前のせいで叱れているのに、青馬の顔をたかだかと上げた荷馬に堂々と乗ってきてよいものか。
#{語釈]
おのれゆゑ 他称 あなたのせいで

青馬 原文「(ゑ)馬」 和名抄 青馬 青白雑毛馬也
あをうま

面高夫駄 不明 面高 代匠記 馬は常に頭を高く差し上げて有る物なれば面高と云うか
頭をもたげていばった様子
夫駄 釋注 夫役に駆り出される荷馬のことか

平群文屋朝臣益人 伝未詳
正倉院文書 民部省解 天平十七年二月二十八日の文書に署名

<多>紀皇女 吉永登 諸写本「聞紀皇女」奈良遷都以前に薨去
高安王 和銅六年に無位から従五位下 二十一歳か。
奈良遷都時は十八歳。伊予守は養老三年
紀皇女と高安王とは時代がずれる。
「聞」は「伝」と重複の感。多と聞とを誤った
多紀皇女は、紀皇女の異腹の妹 文武二年伊勢斎宮 十四歳
高安王とは年齢的に合う

聞紀皇女 注釈 多紀皇女の年齢は、推定すると吉永登氏よりも二十歳近く上
釋注 天平十五年頃大伴氏に伝えられた話。実際とは食い違うことはよくあ る。

#[説明]
後に付託されたか。歌語りがその背後にある。

#[関連論文]


#[番号]12/3099
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]紫草乎 草跡別々 伏鹿之 野者殊異為而 心者同
#[訓読]紫草を草と別く別く伏す鹿の野は異にして心は同じ
#[仮名],むらさきを,くさとわくわく,ふすしかの,のはことにして,こころはおやじ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],植物,動物,恋情
#[訓異]
#[大意]紫草を他の草と区別して寝る鹿のように、場所は違っているがあなたとは心は同じだ
#{語釈]
紫草を草と別く別く伏す鹿 相手が高貴な身分だからという寓意があるか。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3100
#[題詞](寄物陳思)
#[原文]不想乎 想常云者 真鳥住 卯名手乃<社>之 神<思>将御知
#[訓読]思はぬを思ふと言はば真鳥住む雲梯の杜の神し知らさむ
#[仮名],おもはぬを,おもふといはば,まとりすむ,うなてのもりの,かみししらさむ
#[左注]
#[校異]杜 -> 社 [元][類][温] / 忌 -> 思 [元][古][紀]
#[鄣W],怨恨,皮肉,恋愛,動物,地名,橿原市,奈良
#[訓異]
#[大意]思ってもいないのに思うというのは、恐ろしい鷲の住む雲梯の杜の神がお知りになることだろう。
#{語釈]
真鳥住む雲梯の杜 奈良県橿原市雲梯 雲梯(事代主)神社 畝傍山西北
立派な鳥(鷲)が住む
07/1344H01真鳥棲む雲梯の杜の菅の根を衣にかき付け着せむ子もがも

#[説明]
類歌
04/0561H01思はぬを思ふと言はば大野なる御笠の杜の神し知らさむ

#[関連論文]


#[番号]12/3101
#[題詞]問答歌
#[原文]紫者 灰指物曽 海石榴市之 八十街尓 相兒哉誰
#[訓読]紫は灰さすものぞ海石榴市の八十の街に逢へる子や誰れ
#[仮名],むらさきは,はひさすものぞ,つばいちの,やそのちまたに,あへるこやたれ
#[左注](右二首)
#[校異]
#[鄣W],地名,奈良,桜井,歌垣,染色,問いかけ,求婚
#[訓異]
#[大意]紫染めは灰を加えるものだ。その椿ではないが海石榴市の八方の巷で出会ったあの子は誰だろうか。
#{語釈]
紫は灰さすものぞ 紫草を染料とする場合、椿の灰を入れる

海石榴市 奈良県桜井市金屋
12/2951H01海石榴市の八十の街に立ち平し結びし紐を解かまく惜しも

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3102
#[題詞](問答歌)
#[原文]足千根乃 母之召名乎 雖白 路行人乎 孰跡知而可
#[訓読]たらちねの母が呼ぶ名を申さめど道行く人を誰れと知りてか
#[仮名],たらちねの,ははがよぶなを,まをさめど,みちゆくひとを,たれとしりてか
#[左注]右二首
#[校異]
#[鄣W],歌垣,枕詞,求婚拒否
#[訓異]
#[大意]たらちねの母が自分を呼ぶ名前を申し上げようとは思うが、道を行く人を誰だと知って申し上げられようか。
#{語釈]
たらちねの母が呼ぶ名 本名。実名。結婚許諾を意味する

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3103
#[題詞](問答歌)
#[原文]不相 然将有 玉<梓>之 使乎谷毛 待八金<手>六
#[訓読]逢はなくはしかもありなむ玉梓の使をだにも待ちやかねてむ
#[仮名],あはなくは,しかもありなむ,たまづさの,つかひをだにも,まちやかねてむ
#[左注](右二首)
#[校異]桙 -> 梓 [元][紀][細] / 手 [西(上書訂正)][元][古][紀]
#[鄣W],女歌,恋情,枕詞
#[訓異]
#[大意]逢わないことは何かわけがあるのでしょう。しかし玉梓の使いすら待ちかねなければならないのでしょうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3104
#[題詞](問答歌)
#[原文]将相者 千遍雖念 蟻通 人眼乎多 戀乍衣居
#[訓読]逢はむとは千度思へどあり通ふ人目を多み恋つつぞ居る
#[仮名],あはむとは,ちたびおもへど,ありがよふ,ひとめをおほみ,こひつつぞをる
#[左注]右二首
#[校異]
#[鄣W],人目,恋情,うわさ
#[訓異]
#[大意]逢おうとは何度も思うが、しょっちゅう行き来する人目が多いので恋い続けているのだ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3105
#[題詞](問答歌)
#[原文]人目太 直不相而 盖雲 吾戀死者 誰名将有裳
#[訓読]人目多み直に逢はずてけだしくも我が恋ひ死なば誰が名ならむも
#[仮名],ひとめおほみ,ただにあはずて,けだしくも,あがこひしなば,たがなならむも
#[左注](右二首)
#[校異]
#[鄣W],人目,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]人目が多いので直接は会わないで、もしも自分が恋い死ぬと立つのは誰の名前なのだろうか(他でもないあなただろう)
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3106
#[題詞](問答歌)
#[原文]相見 欲為者 従君毛 吾曽益而 伊布可思美為也
#[訓読]相見まく欲しきがためは君よりも我れぞまさりていふかしみする
#[仮名],あひみまく,ほしきがためは,きみよりも,われぞまさりて,いふかしみする
#[左注]右二首
#[校異]
#[鄣W],女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]ともに逢いたいと思うために、あなたよりは自分の方がまさって不安に思っているのだ
#{語釈]
いふかし 不審に思って心が動揺する。あやしい。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3107
#[題詞](問答歌)
#[原文]空蝉之 人目乎繁 不相而 年之經者 生跡毛奈思
#[訓読]うつせみの人目を繁み逢はずして年の経ぬれば生けりともなし
#[仮名],うつせみの,ひとめをしげみ,あはずして,としのへぬれば,いけりともなし
#[左注](右二首)
#[校異]
#[鄣W],人目,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]現実の人目が激しいので逢わないで年が経ったので生きた気持ちもない。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3108
#[題詞](問答歌)
#[原文]空蝉之 人目繁者 夜干玉之 夜夢乎 次而所見欲
#[訓読]うつせみの人目繁くはぬばたまの夜の夢にを継ぎて見えこそ
#[仮名],うつせみの,ひとめしげくは,ぬばたまの,よるのいめにを,つぎてみえこそ
#[左注]右二首
#[校異]
#[鄣W],枕詞,人目,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]現実の人目が激しいならば、ぬばたまの夜の夢には毎日見えて欲しい
#{語釈]
#[説明]
12/2850H01うつつには直には逢はず夢にだに逢ふと見えこそ我が恋ふらくに
12/2912H01人の見て言とがめせぬ夢に我れ今夜至らむ宿閉すなゆめ
12/2958H01人の見て言とがめせぬ夢にだにやまず見えこそ我が恋やまむ

#[関連論文]


#[番号]12/3109
#[題詞](問答歌)
#[原文]慇懃 憶吾妹乎 人言之 繁尓因而 不通比日可聞
#[訓読]ねもころに思ふ我妹を人言の繁きによりて淀むころかも
#[仮名],ねもころに,おもふわぎもを,ひとごとの,しげきによりて,よどむころかも
#[左注](右二首)
#[校異]
#[鄣W],人目,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]ねんごろに恋い思う我妹を人のうわさの激しいのによって停滞するこの頃であるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3110
#[題詞](問答歌)
#[原文]人言之 繁思有者 君毛吾毛 将絶常云而 相之物鴨
#[訓読]人言の繁くしあらば君も我れも絶えむと言ひて逢ひしものかも
#[仮名],ひとごとの,しげくしあらば,きみもあれも,たえむといひて,あひしものかも
#[左注]右二首
#[校異]
#[鄣W],人目,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]人のうわさが激しくあったらあなたも自分も止めようと言って、逢い始めたものだろうか。(そうではないだろう)
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3111
#[題詞](問答歌)
#[原文]為便毛無 片戀乎為登 比日尓 吾可死者 夢所見哉
#[訓読]すべもなき片恋をすとこの頃に我が死ぬべきは夢に見えきや
#[仮名],すべもなき,かたこひをすと,このころに,わがしぬべきは,いめにみえきや
#[左注](右二首)
#[校異]
#[鄣W],恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]どうしようもない片恋いをするとして、この頃自分が死にそうになっているのをあなたは夢に見たでしょうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3112
#[題詞](問答歌)
#[原文]夢見而 衣乎取服 装束間尓 妹之使曽 先尓来
#[訓読]夢に見て衣を取り着装ふ間に妹が使ぞ先立ちにける
#[仮名],いめにみて,ころもをとりき,よそふまに,いもがつかひぞ,さきだちにける
#[左注]右二首
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]夢に見て衣を取って来て出かける支度をしている間に妹の使いが先になってしまった
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3113
#[題詞](問答歌)
#[原文]在有而 後毛将相登 言耳乎 堅要管 相者無尓
#[訓読]ありありて後も逢はむと言のみを堅く言ひつつ逢ふとはなしに
#[仮名],ありありて,のちもあはむと,ことのみを,かたくいひつつ,あふとはなしに
#[左注](右二首)
#[校異]
#[鄣W],怨恨,恋情
#[訓異]
#[大意]こうしていて後にでも逢おうと言葉ばかりを堅く約束をし続けて逢うということは無くて
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3114
#[題詞](問答歌)
#[原文]極而 吾毛相登 思友 人之言社 繁君尓有
#[訓読]ありありて我れも逢はむと思へども人の言こそ繁き君にあれ
#[仮名],ありありて,われもあはむと,おもへども,ひとのことこそ,しげききみにあれ
#[左注]右二首
#[校異]
#[鄣W],恋情,うわさ,女歌
#[訓異]
#[大意]こうしていて自分も逢おうとは思うが人のうわさばかりが激しいあなたであるので。
#{語釈]
ありありて 原文「極而」 旧訓 きはまりて

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3115
#[題詞](問答歌)
#[原文]氣緒尓 言氣築之 妹尚乎 人妻有跡 聞者悲毛
#[訓読]息の緒に我が息づきし妹すらを人妻なりと聞けば悲しも
#[仮名],いきのをに,わがいきづきし,いもすらを,ひとづまなりと,きけばかなしも
#[左注](右二首)
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]命にかけて自分が歎息して恋い思っている妹ですらあるのに、人妻であると聞くと悲しいことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3116
#[題詞](問答歌)
#[原文]我故尓 痛勿和備曽 後遂 不相登要之 言毛不有尓
#[訓読]我がゆゑにいたくなわびそ後つひに逢はじと言ひしこともあらなくに
#[仮名],わがゆゑに,いたくなわびそ,のちつひに,あはじといひし,こともあらなくに
#[左注]右二首
#[校異]
#[鄣W],恋愛,慰め,女歌
#[訓異]
#[大意]自分のためにひどくはわびしく思うなよ。後々でも結局は逢わないということでもないのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3117
#[題詞](問答歌)
#[原文]門立而 戸毛閇而有乎 何處従鹿 妹之入来而 夢所見鶴
#[訓読]門立てて戸も閉したるをいづくゆか妹が入り来て夢に見えつる
#[仮名],かどたてて,ともさしてあるを,いづくゆか,いもがいりきて,いめにみえつる
#[左注](右二首)
#[校異]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]門を閉めて戸も閉ざしてあるのを、どこからからなのか妹が入ってきて夢に見えたのか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3118
#[題詞](問答歌)
#[原文]門立而 戸者雖闔 盗人之 穿穴従 入而所見牟
#[訓読]門立てて戸は閉したれど盗人の穿れる穴より入りて見えけむ
#[仮名],かどたてて,とはさしたれど,ぬすびとの,ほれるあなより,いりてみえけむ
#[左注]右二首
#[校異]
#[鄣W],恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]門を閉めて戸は閉ざしてあるが、泥棒が掘った穴から入って見えたのでしょう。
#{語釈]
盗人 和名抄 沼須比斗

穿れる 類聚名義抄 ほる うがつ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3119
#[題詞](問答歌)
#[原文]従明日者 戀乍将<去> 今夕弾 速初夜従 綏解我妹
#[訓読]明日よりは恋ひつつ行かむ今夜だに早く宵より紐解け我妹
#[仮名],あすよりは,こひつつゆかむ,こよひだに,はやくよひより,ひもとけわぎも
#[左注](右二首)
#[校異]在 -> 去 [元]
#[鄣W],恋情
#[訓異]
#[大意]明日からは恋い思い続けて行こう。今夜だけでも早く宵のうちから紐を解けよ。我が妹よ。
#{語釈]
#[説明]
旅に出るときの歌か。

#[関連論文]


#[番号]12/3120
#[題詞](問答歌)
#[原文]今更 将寐哉我背子 荒田<夜>之 全夜毛不落 夢所見欲
#[訓読]今さらに寝めや我が背子新夜の一夜もおちず夢に見えこそ
#[仮名],いまさらに,ねめやわがせこ,あらたよの,ひとよもおちず,いめにみえこそ
#[左注]右二首
#[校異]寐 -> 夜 [元]
#[鄣W],恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]今さらに一晩だけになって寝ましょうか。我が背子よ。これからはやって来る夜の一晩も欠かさず夢に見えて欲しい
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3121
#[題詞](問答歌)
#[原文]吾<勢>子之 使乎待跡 笠不著 出乍曽見之 雨零尓
#[訓読]我が背子が使を待つと笠も着ず出でつつぞ見し雨の降らくに
#[仮名],わがせこが,つかひをまつと,かさもきず,いでつつぞみし,あめのふらくに
#[左注](右二首)
#[校異]背 -> 勢 [元][紀][細]
#[鄣W],女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]我背子の使いを待つとして笠も着ないで何度も外に出て見たことだ。雨が降っているのに
#{語釈]
#[説明]
同歌
11/2681H01我が背子が使を待つと笠も着ず出でつつぞ見し雨の降らくに

#[関連論文]


#[番号]12/3122
#[題詞](問答歌)
#[原文]無心 雨尓毛有鹿 人目守 乏妹尓 今日谷相<乎>
#[訓読]心なき雨にもあるか人目守り乏しき妹に今日だに逢はむを
#[仮名],こころなき,あめにもあるか,ひとめもり,ともしきいもに,けふだにあはむを
#[左注]右二首
#[校異]牟 -> 乎 [元][紀][温]
#[鄣W],人目,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]無常な雨であることか。人の目をうかがって逢うのがそう多くない妹に今日だけでも逢う予定なのに
#{語釈]
人目守り 人目をうかがって

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3123
#[題詞](問答歌)
#[原文]直獨 宿杼宿不得而 白細 袖乎笠尓著 沾乍曽来
#[訓読]ただひとり寝れど寝かねて白栲の袖を笠に着濡れつつぞ来し
#[仮名],ただひとり,ぬれどねかねて,しろたへの,そでをかさにき,ぬれつつぞこし
#[左注](右二首)
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情,難渋
#[訓異]
#[大意]ただ独りで寝たが寝ることも出来なくて、白妙の袖を笠にして着て、濡れながらやって来たことだ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3124
#[題詞](問答歌)
#[原文]雨毛零 夜毛更深利 今更 君将行哉 紐解設<名>
#[訓読]雨も降り夜も更けにけり今さらに君去なめやも紐解き設けな
#[仮名],あめもふり,よもふけにけり,いまさらに,きみいなめやも,ひもときまけな
#[左注]右二首
#[校異]名 [西(上書訂正)][元][類][紀]
#[鄣W],女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]雨も降って夜も更けてしまった。今更あなたはお帰りにはなりますまい。紐をほどいて寝る用意をしなさいよ。
#{語釈]
#[説明]
18/4138D01縁檢察墾田地事宿礪波郡主帳多治比部北里之家 于時忽起風雨不得辞去作歌
18/4138H01薮波の里に宿借り春雨に隠りつつむと妹に告げつや

#[関連論文]


#[番号]12/3125
#[題詞](問答歌)
#[原文]久堅乃 雨零日乎 我門尓 蓑笠不蒙而 来有人哉誰
#[訓読]ひさかたの雨の降る日を我が門に蓑笠着ずて来る人や誰れ
#[仮名],ひさかたの,あめのふるひを,わがかどに,みのかさきずて,けるひとやたれ
#[左注](右二首)
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋愛,女歌
#[訓異]
#[大意]ひさかたの雨の降る日を我が門口に箕笠も着けないでやって来る人は誰ですか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3126
#[題詞](問答歌)
#[原文]纒向之 病足乃山尓 雲居乍 雨者雖零 所<沾>乍<焉>来
#[訓読]巻向の穴師の山に雲居つつ雨は降れども濡れつつぞ来し
#[仮名],まきむくの,あなしのやまに,くもゐつつ,あめはふれども,ぬれつつぞこし
#[左注]右二首
#[校異]沽 -> 沾 [細][京] / 為 -> 焉 [元][類][紀][温]
#[鄣W],地名,桜井,奈良,難渋,恋愛
#[訓異]
#[大意]巻向の穴師の山に雲がかかっていて雨は降るが、濡れながらやって来たことだ
#{語釈]
巻向の穴師の山 奈良県桜井市穴師

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3127
#[題詞]羇旅發思
#[原文]度會 大川邊 若歴木 吾久在者 妹戀鴨
#[訓読]度会の大川の辺の若久木我が久ならば妹恋ひむかも
#[仮名],わたらひの,おほかはのへの,わかひさぎ,わがひさならば,いもこひむかも
#[左注](右四首柿本朝臣人麻呂歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,地名,三重県,伊勢,植物,序詞,恋愛,羈旅
#[訓異]
#[大意]度会の大川のほとりの若い久木よ。そのように自分が久しく旅に出たならば妹は恋い思うだろうか
#{語釈]
度会の大川 三重県伊勢市 宮川

久木 木ささげ 06/0925

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3128
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]吾妹子 夢見来 倭路 度瀬別 手向吾為
#[訓読]我妹子を夢に見え来と大和道の渡り瀬ごとに手向けぞ我がする
#[仮名],わぎもこを,いめにみえこと,やまとぢの,わたりぜごとに,たむけぞわがする
#[左注](右四首柿本朝臣人麻呂歌集出)
#[校異]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,奈良,恋情,羈旅
#[訓異]
#[大意]我が妹を夢に見えて来いと大和道の川の渡り瀬ごとに手向けを自分はすることだ
#{語釈]
大和道 大和へ行く道

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3129
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]櫻花 開哉散 <及>見 誰此 所見散行
#[訓読]桜花咲きかも散ると見るまでに誰れかもここに見えて散り行く
#[仮名],さくらばな,さきかもちると,みるまでに,たれかもここに,みえてちりゆく
#[左注](右四首柿本朝臣人麻呂歌集出)
#[校異]乃 -> 及 [元][紀][細]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,植物,恋情,羈旅
#[訓異]
#[大意]桜花が咲いて散るかと見えるまでに誰だろうか。ここで出会ってまた散り散りになるのは。
#{語釈]
散り行く 桜の花が咲いたと思ったら散るように、旅人同士が出会ったと思ったら散り散りになる様子

#[説明]
旅の途中で出会った遊行女婦との別れを言うか

#[関連論文]


#[番号]12/3130
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]豊洲 聞濱松 心<哀> 何妹 相云始
#[訓読]豊国の企救の浜松ねもころに何しか妹に相言ひそめけむ
#[仮名],とよくにの,きくのはままつ,ねもころに,なにしかいもに,あひいひそめけむ
#[左注]右四首柿本朝臣人麻呂歌集出
#[校異]裳 -> 哀 [元][類]
#[鄣W],作者:柿本人麻呂歌集,略体,福岡,北九州市,地名,序詞,恋情,羈旅
#[訓異]
#[大意]豊前国の企救の浜の松よ。その根ではないが、ねんごろにどうして妹に好きだと言い始めたのだろうか。
#{語釈]
豊国の企救の浜松 福岡県北九州市小倉西区長浜付近
07/1393H01豊国の企救の浜辺の真砂土真直にしあらば何か嘆かむ

#[説明]
今となっては、契ったことを後悔している。旅の身でまた別れなければならないからか。
妹は、遊行女婦か

#[関連論文]


#[番号]12/3131
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]月易而 君乎婆見登 念鴨 日毛不易為而 戀之重
#[訓読]月変へて君をば見むと思へかも日も変へずして恋の繁けむ
#[仮名],つきかへて,きみをばみむと,おもへかも,ひもかへずして,こひのしげけむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,羈旅
#[訓異]
#[大意]月が改まってからあなたに逢おうと思うからだろうか。一日もかわらないうちに恋心が激しいことだ
#{語釈]
#[説明]
月が変わってからしか会えない。その間は旅に出ている相手に対して言う

#[関連論文]


#[番号]12/3132
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]莫去跡 變毛来哉常 顧尓 雖徃不歸 道之長手矣
#[訓読]な行きそと帰りも来やとかへり見に行けど帰らず道の長手を
#[仮名],なゆきそと,かへりもくやと,かへりみに,ゆけどかへらず,みちのながてを
#[左注]
#[校異]歸 [元] 満
#[鄣W],恋情,羈旅
#[訓異]
#[大意]行くなよと帰っても来るかと振り返りながら行くけれども帰っても来ない。長い道のりを
#{語釈]
#[説明]
妹が「行ってはいや」と引き留めに戻ってくるかと振り返るが、戻っても来ない。旅立つ夫の歌

#[関連論文]


#[番号]12/3133
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]去家而 妹乎念出 灼然 人之應知 <歎>将為鴨
#[訓読]旅にして妹を思ひ出でいちしろく人の知るべく嘆きせむかも
#[仮名],たびにして,いもをおもひいで,いちしろく,ひとのしるべく,なげきせむかも
#[左注]
#[校異]欲 -> 歎 [西(訂正右書)][元][紀][温]
#[鄣W],羈旅,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]旅にあって妹を思い出し、目立って人が知りそうなほど嘆きをするだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3134
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]里離 遠有莫國 草枕 旅登之思者 尚戀来
#[訓読]里離り遠くあらなくに草枕旅とし思へばなほ恋ひにけり
#[仮名],さとさかり,とほくあらなくに,くさまくら,たびとしおもへば,なほこひにけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],羈旅,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]故郷を離れて遠くはないのに、草枕の旅だと思うとやはり恋い思うことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3135
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]近有者 名耳毛聞而 名種目津 今夜従戀乃 益々南
#[訓読]近くあれば名のみも聞きて慰めつ今夜ゆ恋のいやまさりなむ
#[仮名],ちかくあれば,なのみもききて,なぐさめつ,こよひゆこひの,いやまさりなむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],羈旅,恋情,望郷,うわさ
#[訓異]
#[大意]今までは故郷から近かったのでうわさばかりでも聞いて心を慰めていた。しかし今夜からは遠く離れていくのでますます恋い思うことが勝ることだろう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3136
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]客在而 戀者辛苦 何時毛 京行而 君之目乎将見
#[訓読]旅にありて恋ふれば苦しいつしかも都に行きて君が目を見む
#[仮名],たびにありて,こふればくるし,いつしかも,みやこにゆきて,きみがめをみむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],羈旅,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]旅にあって故郷を恋い思っていると苦しいことだ。いつか都に戻ってあなたの目を見ようものを
#{語釈]
都に行きて君 注釈 宮廷の女官か。
釋注 行幸などに供奉した女官が都の男を言う

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3137
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]遠有者 光儀者不所見 如常 妹之咲者 面影為而
#[訓読]遠くあれば姿は見えず常のごと妹が笑まひは面影にして
#[仮名],とほくあれば,すがたはみえず,つねのごと,いもがゑまひは,おもかげにして
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],羈旅,望郷,恋情
#[訓異]
#[大意]遠くあるので姿は見えない。いつものように妹のにこやかな姿は面影に立って
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3138
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]年毛不歴 反来甞跡 朝影尓 将待妹之 面影所見
#[訓読]年も経ず帰り来なむと朝影に待つらむ妹し面影に見ゆ
#[仮名],としもへず,かへりこなむと,あさかげに,まつらむいもし,おもかげにみゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],羈旅,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]年もたたないで帰って来てほしいと朝影のようにやせ細って待っているであろう妹が面影に見えることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3139
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]玉桙之 道尓出立 別来之 日従于念 忘時無
#[訓読]玉桙の道に出で立ち別れ来し日より思ふに忘る時なし
#[仮名],たまほこの,みちにいでたち,わかれこし,ひよりおもふに,わするときなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,羈旅,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]玉鉾の道に出て立って別れて来たその日から、妹のことを思うにつけて忘れるときはないよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3140
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]波之寸八師 志賀在戀尓毛 有之鴨 君所遺而 戀敷念者
#[訓読]はしきやししかある恋にもありしかも君に後れて恋しき思へば
#[仮名],はしきやし,しかあるこひに,ありしかも,きみにおくれて,こほしきおもへば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],羈旅,望郷,恋情,女歌,遊行女婦
#[訓異]
#[大意]いとしいことだ。こうした苦しい恋であったことなのか。旅に出たあなたの後に残って恋しいことを思うと
#{語釈]
しかある恋 相手と別れてその苦しさを実感した

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3141
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]草枕 客之悲 有苗尓 妹乎相見而 後将戀可聞
#[訓読]草枕旅の悲しくあるなへに妹を相見て後恋ひむかも
#[仮名],くさまくら,たびのかなしく,あるなへに,いもをあひみて,のちこひむかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],羈旅,枕詞,恋情,遊行女婦
#[訓異]
#[大意]草枕の旅が悲しくある折りに、妹をともに見て別れた後になって恋い思うことかなあ
#{語釈]
なへに 従って、ごとに、
02/0209H01黄葉の散りゆくなへに玉梓の使を見れば逢ひし日思ほゆ
05/0841H01鴬の音聞くなへに梅の花我家の園に咲きて散る見ゆ
07/1088H01あしひきの山川の瀬の鳴るなへに弓月が岳に雲立ちわたる

妹 旅先の遊行女婦などを指すか

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3142
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]國遠 直不相 夢谷 吾尓所見社 相日左右二
#[訓読]国遠み直には逢はず夢にだに我れに見えこそ逢はむ日までに
#[仮名],くにとほみ,ただにはあはず,いめにだに,われにみえこそ,あはむひまでに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],羈旅,望郷,恋情
#[訓異]
#[大意]故郷が遠いので直接には逢えない。だからせめて夢にだけでも自分に見えて欲しい。再び逢える日までに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3143
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]如是将戀 物跡知者 吾妹兒尓 言問麻思乎 今之悔毛
#[訓読]かく恋ひむものと知りせば我妹子に言問はましを今し悔しも
#[仮名],かくこひむ,ものとしりせば,わぎもこに,こととはましを,いましくやしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,羈旅,望郷
#[訓異]
#[大意]こんなにも恋い思うものだとあらかじめ知っていたならば、我妹子と話をしてくればよかったのに。今となってはくやしいことだ
#{語釈]
#[説明]
旅に出てからあまり別れを惜しんでこなかったことを後悔している
04/0503H01玉衣のさゐさゐしづみ家の妹に物言はず来にて思ひかねつも

#[関連論文]


#[番号]12/3144
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]客夜之 久成者 左丹頬合 紐開不離 戀流比日
#[訓読]旅の夜の久しくなればさ丹つらふ紐解き放けず恋ふるこのころ
#[仮名],たびのよの,ひさしくなれば,さにつらふ,ひもときさけず,こふるこのころ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],羈旅,枕詞,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]旅の夜が長くなってきたので、赤い色の衣の紐も解き放たないで妹のことを恋い思うこの頃であるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3145
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]吾妹兒之 阿<乎>偲良志 草枕 旅之丸寐尓 下紐解
#[訓読]我妹子し我を偲ふらし草枕旅のまろ寝に下紐解けぬ
#[仮名],わぎもこし,あをしのふらし,くさまくら,たびのまろねに,したびもとけぬ
#[左注]
#[校異]手 -> 乎 [西(訂正右書)][元][類][紀]
#[鄣W],枕詞,恋情,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]我妹子は自分を偲んでいるらしい。草枕の旅のまる寝に下紐がほどけたことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3146
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]草枕 旅之衣 紐解 所念鴨 此年比者
#[訓読]草枕旅の衣の紐解けて思ほゆるかもこの年ころは
#[仮名],くさまくら,たびのころもの,ひもとけて,おもほゆるかも,このとしころは
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,恋情,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]草枕の旅の衣の紐がほどけて、思われてならないことだ。この年月のことが
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3147
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]草枕 客之紐解 家之妹志 吾乎待不得而 歎良霜
#[訓読]草枕旅の紐解く家の妹し我を待ちかねて嘆かふらしも
#[仮名],くさまくら,たびのひもとく,いへのいもし,わをまちかねて,なげかふらしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],羈旅,枕詞,望郷,恋情
#[訓異]
#[大意]草枕の旅の衣の紐がほどける。故郷の妹が自分の帰りを待ちかねて何度も嘆いているらしいよ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3148
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]玉釼 巻寝志妹乎 月毛不經 置而八将越 此山岫
#[訓読]玉釧まき寝し妹を月も経ず置きてや越えむこの山の崎
#[仮名],たまくしろ,まきねしいもを,つきもへず,おきてやこえむ,このやまのさき
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,羈旅,恋情,望郷,臨場表現
#[訓異]
#[大意]美しい釧を巻くように、枕として寝た妹を月もたたないで置いて越えるのだろうか。この山の出た所を
#{語釈]
山の崎 山のすそ野の平野に出た部分。道は迂回している

#[説明]
新婚の夫が旅に出る時か、旅先での遊行女婦か。

#[関連論文]


#[番号]12/3149
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]梓弓 末者不知杼 愛美 君尓副而 山道越来奴
#[訓読]梓弓末は知らねど愛しみ君にたぐひて山道越え来ぬ
#[仮名],あづさゆみ,すゑはしらねど,うるはしみ,きみにたぐひて,やまぢこえきぬ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,羈旅,女歌,遊行女婦
#[訓異]
#[大意]梓弓の末ではないが、将来はわからないがいとおしくてあなたに連れ添って山道を越えてきたことだ
#{語釈]
梓弓 末
12/2985H01梓弓末はし知らずしかれどもまさかは君に寄りにしものを
12/2985H02梓弓末のたづきは知らねども心は君に寄りにしものを

#[説明]
旅先で出会った女か。旅に出発したときに同行した妻の歌か

#[関連論文]


#[番号]12/3150
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]霞立 春長日乎 奥香無 不知山道乎 戀乍可将来
#[訓読]霞立つ春の長日を奥処なく知らぬ山道を恋ひつつか来む
#[仮名],かすみたつ,はるのながひを,おくかなく,しらぬやまぢを,こひつつかこむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],羈旅,恋情
#[訓異]
#[大意]霞の立つ春の長い一日をはてもなく知らない山道を妹を恋い続けて来ることだろうか
#{語釈]
奥処なく 至り着く果て
05/0886H02国の奥処を 百重山 越えて過ぎ行き いつしかも 都を見むと
12/3030H01思ひ出でてすべなき時は天雲の奥処も知らず恋ひつつぞ居る

#[説明]

#[関連論文]


#[番号]12/3151
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]外耳 君乎相見而 木綿牒 手向乃山乎 明日香越将去
#[訓読]外のみに君を相見て木綿畳手向けの山を明日か越え去なむ
#[仮名],よそのみに,きみをあひみて,ゆふたたみ,たむけのやまを,あすかこえいなむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,羈旅,遊行女婦,恋情
#[訓異]
#[大意]余所にばかりあなたを見て、木綿畳を手向ける手向けの山を明日にも越えて行ってしまうのだろうか
#{語釈]
#[説明]
都の女が父の地方赴任に従って行く時に男との別れを惜しんだもの
遊行女婦が旅の一夜を明かして男との別れを惜しむ歌

#[関連論文]


#[番号]12/3152
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]玉勝間 安倍嶋山之 暮露尓 旅宿得為也 長此夜乎
#[訓読]玉かつま安倍島山の夕露に旅寝えせめや長きこの夜を
#[仮名],たまかつま,あへしまやまの,ゆふつゆに,たびねえせめや,ながきこのよを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,地名,孤独,羈旅
#[訓異]
#[大意]玉かつまの合う安倍の島山の夕霧に旅寝をすることが出来ようか。長いこの夜を
#{語釈]
玉かつま 枕詞 美しい籠の蓋を合わせるということで、「あへ」に掛かる

安倍島山 未詳
03/0359H01阿倍の島鵜の住む磯に寄する波間なくこのころ大和し思ほゆ
と同一としても未詳。或いは大阪府大阪市阿倍野区 和歌山県和歌山市

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3153
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]三雪零 越乃大山 行過而 何日可 我里乎将見
#[訓読]み雪降る越の大山行き過ぎていづれの日にか我が里を見む
#[仮名],みゆきふる,こしのおほやま,ゆきすぎて,いづれのひにか,わがさとをみむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,北陸,石川,富山,恋情,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]み雪の降る越の国の大山を行き過ぎていつの日になったら我が故郷を見ることだろうか
#{語釈]
越の大山 未詳 越前の愛発山 加賀の白山 か

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3154
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]乞吾駒 早去欲 亦打山 将待妹乎 去而速見牟
#[訓読]いで我が駒早く行きこそ真土山待つらむ妹を行きて早見む
#[仮名],いであがこま,はやくゆきこそ,まつちやま,まつらむいもを,ゆきてはやみむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,和歌山,望郷,羈旅,恋情
#[訓異]
#[大意]さあ我が馬よ。早く行ってくれ。真土山ではないが、待っているであろう妹を行って早く見よう
#{語釈]
真土山 奈良県五條市上野町 真土山
01/0055H01あさもよし紀人羨しも真土山行き来と見らむ紀人羨しも

#[説明]
催馬楽 我駒
いであが駒 早く行きこせ まつち山 あはれ、まつち山、はれ、まつち山、待つらむ人を 行きてはや あはれ 行きてはや見む

#[関連論文]


#[番号]12/3155
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]悪木山 木<末>悉 明日従者 靡有社 妹之當将見
#[訓読]悪木山木末ことごと明日よりは靡きてありこそ妹があたり見む
#[仮名],あしきやま,こぬれことごと,あすよりは,なびきてありこそ,いもがあたりみむ
#[左注]
#[校異]未 -> 末 [元][類][古][紀]
#[鄣W],地名,福岡県,恋情,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]あしき山の梢はことごとく明日からは靡いてあって欲しい。妹のあたりを見ようから
#{語釈]
悪木山 福岡県筑紫野市阿志岐 宮地岳か
あしきの宿駅 五年戊辰大宰少貳石川足人朝臣遷任餞于筑前國蘆城驛家歌三首

靡きてありこそ 人麻呂の歌を参考にしているか
02/0131H11夏草の 思ひ萎へて 偲ふらむ 妹が門見む 靡けこの山

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3156
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]鈴鹿河 八十瀬渡而 誰故加 夜越尓将越 妻毛不在君
#[訓読]鈴鹿川八十瀬渡りて誰がゆゑか夜越えに越えむ妻もあらなくに
#[仮名],すずかがは,やそせわたりて,たがゆゑか,よごえにこえむ,つまもあらなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,三重県,羈旅,恋愛
#[訓異]
#[大意]鈴鹿川のあちらこちらの瀬を渡って、誰のために夜も徹夜で越えて行くのか。その向こうには妻がいるというわけでもないのに
#{語釈]
鈴鹿川 三重県亀山市

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3157
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]吾妹兒尓 又毛相海之 安河 安寐毛不宿尓 戀度鴨
#[訓読]我妹子にまたも近江の安の川安寐も寝ずに恋ひわたるかも
#[仮名],わぎもこに,またもあふみの,やすのかは,やすいもねずに,こひわたるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,滋賀,序詞,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]我が妹にまたも逢うという近江の安の川。その安ではないが安眠もしないで故郷の妹を恋い続けることであるよ
#{語釈]
安の川 滋賀県野洲郡野洲町 野洲川

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3158
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]客尓有而 物乎曽念 白浪乃 邊毛奥毛 依者無尓
#[訓読]旅にありてものをぞ思ふ白波の辺にも沖にも寄るとはなしに
#[仮名],たびにありて,ものをぞおもふ,しらなみの,へにもおきにも,よるとはなしに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],羈旅,遊行女婦,鬱屈,恋情
#[訓異]
#[大意]旅にあってもの思いをしている。白波が岸辺にも沖にも寄るということがないように、心が漂って妹に言い寄るということはなくて
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3159
#[題詞](羇旅發思)
#[本文]<湖>轉尓 満来塩能 弥益二 戀者雖剰 不所忘鴨
#[訓読]港廻に満ち来る潮のいや増しに恋はまされど忘らえぬかも
#[仮名],みなとみに,みちくるしほの,いやましに,こひはまされど,わすらえぬかも
#[左注]
#[校異]潮 ->湖 [元][古][紀]
#[鄣W],羈旅,遊行女婦,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]港のめぐりに満ちてくる潮のように、いよいよますます恋は募るが、忘れることは出来ないことだ。
#{語釈]
港 原文「湖」 03/0253 説文解字「大陂也」玉篇「陂 澤障也池也」 大きな土手、堤
みなとの意 水の戸で船の集まる所

恋 望郷か、遊行女婦(へ)の恋

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3160
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]奥浪 邊浪之来依 貞浦乃 此左太過而 後将戀鴨
#[訓読]沖つ波辺波の来寄る佐太の浦のこのさだ過ぎて後恋ひむかも
#[仮名],おきつなみ,へなみのきよる,さだのうらの,このさだすぎて,のちこひむかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,序詞,遊行女婦,恋情,羈旅
#[訓異]
#[大意]沖の波や岸辺の波が寄ってくる佐太の浦のさだではないが、この時を過ぎて後になって恋い思うであろうか。
#{語釈]
佐太の浦
佐太の浦 未詳
考 和泉、出雲
古義 高知県土佐清水市足摺岬
全釈 愛媛県西宇和郡三崎町佐田岬

さだ 古義 しだと同じく時の古語 好機を逸して
14/3461H01あぜと言へかさ寝に逢はなくにま日暮れて宵なは来なに明けぬしだ来る
14/3515H01我が面の忘れむしだは国はふり嶺に立つ雲を見つつ偲はせ

#[説明]
重出 11/2732

#[関連論文]


#[番号]12/3161
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]在千方 在名草目而 行目友 家有妹伊 将欝悒
#[訓読]在千潟あり慰めて行かめども家なる妹いいふかしみせむ
#[仮名],ありちがた,ありなぐさめて,ゆかめども,いへなるいもい,いふかしみせむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,枕詞,羈旅,遊行女婦
#[訓異]
#[大意]在千潟の名前のように、ありありて慰めて行こうとは思うが、家にいる妹は不安に思っているだろうか
#{語釈]
在千潟 未詳

いふかし 不審に思って心が動揺する。あやしい。
新訓 おほほしみせむ 心の晴れない思いでいるだろう

#[説明]
遊行女婦との歌だとすると、「いふかしみ」であって、このままあり続けて気を晴らした上で行こうとは思うが、家の妹は不審に思うだろうという意味になる。

#[関連論文]


#[番号]12/3162
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]水咫衝石 心盡而 念鴨 此間毛本名 夢西所見
#[訓読]みをつくし心尽して思へかもここにももとな夢にし見ゆる
#[仮名],みをつくし,こころつくして,おもへかも,ここにももとな,いめにしみゆる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,羈旅,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]みをつくしではないが、心を尽くして妹が思うからだろうか。ここでもむやみに夢に見えることだ
#{語釈]
みをつくし 水中に立てた航路標識 水の流れや深さを示す
心尽くして の枕詞

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3163
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]吾妹兒尓 觸者無二 荒礒廻尓 吾衣手者 所<沾>可母
#[訓読]我妹子に触るとはなしに荒礒廻に我が衣手は濡れにけるかも
#[仮名],わぎもこに,ふるとはなしに,ありそみに,わがころもでは,ぬれにけるかも
#[左注]
#[校異]沽 -> 沾 [京]
#[鄣W],羈旅,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]我妹子に触れるとはないのに、荒磯のめぐりに触れて、自分の衣手は濡れたことであるよ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3164
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]室之浦之 湍戸之埼有 鳴嶋之 礒越浪尓 所<沾>可聞
#[訓読]室の浦の瀬戸の崎なる鳴島の磯越す波に濡れにけるかも
#[仮名],むろのうらの,せとのさきなる,なきしまの,いそこすなみに,ぬれにけるかも
#[左注]
#[校異]沽 -> 沾 [京]
#[鄣W],地名,室津,兵庫県,御津町,金ヶ崎,君島,望郷,恋情,掛詞,羈旅
#[訓異]
#[大意]室の浦の瀬戸の崎にある鳴島の磯を越す波に濡れてしまったことであるよ
#{語釈]
室の浦 兵庫県揖保郡御津町室津 兵庫県赤穂市

鳴島 未詳 兵庫県揖保郡御津町室津君島 兵庫県赤穂市坂越湾内生島
代匠記 播磨。鳴島は今も同じ名に呼べり
略解 なるしま
荒木良雄 室津港の対岸、金ヶ崎の岬角に最も近い君島のこと

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3165
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]霍公鳥 飛幡之浦尓 敷浪乃 屡君乎 将見因毛鴨
#[訓読]霍公鳥飛幡の浦にしく波のしくしく君を見むよしもがも
#[仮名],ほととぎす,とばたのうらに,しくなみの,しくしくきみを,みむよしもがも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],動物,枕詞,地名,福岡県,北九州市,戸畑,序詞,恋情,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]霍公鳥が飛ぶ戸畑の浦にしきりに寄せる波のように、重ね重ねあなたを見るてだてもあればなあ
#{語釈]
飛幡の浦 福岡県北九州市戸畑区

#[説明]
土地の女の歌か

#[関連論文]


#[番号]12/3166
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]吾妹兒乎 外耳哉将見 越懈乃 子難<懈>乃 嶋楢名君
#[訓読]我妹子を外のみや見む越の海の子難の海の島ならなくに
#[仮名],わぎもこを,よそのみやみむ,こしのうみの,こがたのうみの,しまならなくに
#[左注]
#[校異]懈 [西(上書訂正)][元][紀][温]
#[鄣W],地名,北陸,石川,富山,恋情,羈旅,遊行女婦
#[訓異]
#[大意]我妹子を余所からばかり見ることだろうか。越の海のこがたの海の島ではないのに
#{語釈]
越の海 越の国の海

子難の海 未詳
16/3870H01紫の粉潟の海に潜く鳥玉潜き出ば我が玉にせむ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3167
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]浪間従 雲位尓所見 粟嶋之 不相物故 吾尓所依兒等
#[訓読]波の間ゆ雲居に見ゆる粟島の逢はぬものゆゑ我に寄そる子ら
#[仮名],なみのまゆ,くもゐにみゆる,あはしまの,あはぬものゆゑ,わによそるこら
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],羈旅,地名,序詞,うわさ,恋愛
#[訓異]
#[大意]波の間から雲居はるかに見える粟島ではないが、逢わないものなのに、みんなが自分に言い寄せるあの子であるよ
#{語釈]
粟島 兵庫県淡路島 香川県屋島 阿波島 徳島県 四国 阿波国 03.0358 04.0509 07.1207
未詳 12.3167
山口県熊毛郡平生湾 阿多田島 山口県大島郡屋代島 15.3631 1633(m)

我に寄そる子ら 寄そる 言い寄せる そうだとみんながうわさをする
旅先の女のことを言うか

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3168
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]衣袖之 真若之浦之 愛子地 間無時無 吾戀钁
#[訓読]衣手の真若の浦の真砂地間なく時なし我が恋ふらくは
#[仮名],ころもでの,まわかのうらの,まなごつち,まなくときなし,あがこふらくは
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,地名,和歌の浦,和歌山,序詞,恋情,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]衣手の真若の浦のまさごではないが間断なく時がないことだ。自分が恋い思うことは
#{語釈]
衣手の 両袖を真袖というので、「ま」にかけた枕詞

真若の浦 和歌山県和歌山市和歌浦

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3169
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]能登海尓 釣為海部之 射去火之 光尓伊徃 月待香光
#[訓読]能登の海に釣する海人の漁り火の光りにいませ月待ちがてり
#[仮名],のとのうみに,つりするあまの,いざりひの,ひかりにいませ,つきまちがてり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],羈旅,地名,能登,石川,遊行女婦,誘い歌
#[訓異]
#[大意]能登の海に釣りをする漁師の漁り火の光をたよりとしてお行きなさい。月の出を待ちながら
#{語釈]
待ちがてり 一方では待って

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3170
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]思香乃白水郎乃 <釣>為燭有 射去火之 髣髴妹乎 将見因毛欲得
#[訓読]志賀の海人の釣りし燭せる漁り火のほのかに妹を見むよしもがも
#[仮名],しかのあまの,つりしともせる,いざりひの,ほのかにいもを,みむよしもがも
#[左注]
#[校異]鉤 -> 釣 [元][紀][温][京]
#[鄣W],地名,福岡,序詞,恋情,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]志賀の海人の釣りをして灯している漁り火のようにほのかにでも妹を見るてだてもあればなあ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3171
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]難波方 水手出船之 遥々 別来礼杼 忘金津毛
#[訓読]難波潟漕ぎ出る舟のはろはろに別れ来ぬれど忘れかねつも
#[仮名],なにはがた,こぎづるふねの,はろはろに,わかれきぬれど,わすれかねつも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],羈旅,大阪,序詞,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]難波潟を漕ぎ出す船のようにはるばると別れて来たけれども忘れることが出来ないでいるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3172
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]浦廻榜 <熊>野舟附 目頬志久 懸不思 月毛日毛無
#[訓読]浦廻漕ぐ熊野舟つきめづらしく懸けて思はぬ月も日もなし
#[仮名],うらみこぐ,くまのぶねつき,めづらしく,かけておもはぬ,つきもひもなし
#[左注]
#[校異]能 -> 熊 [代匠記初校本]
#[鄣W],序詞,羈旅,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]浦のめぐりを漕ぐ熊野船の形がめづらしいように、めづらしく心に懸けて思わない月も日もないことだ
#{語釈]
熊野舟
06/0944H01島隠り我が漕ぎ来れば羨しかも大和へ上るま熊野の船
06/1033H01御食つ国志摩の海人ならしま熊野の小舟に乗りて沖へ漕ぐ見ゆ

舟つき 総釈 顔つき、目つきの「つき」で様子、有様の意
熊野舟というのは特長ある形や体裁だったのか
全註釈 その舟が到着すること
熊野舟が港に着岸することがめづらしいということか。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3173
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]松浦舟 乱穿江之 水尾早 楫取間無 所念鴨
#[訓読]松浦舟騒く堀江の水脈早み楫取る間なく思ほゆるかも
#[仮名],まつらぶね,さわくほりえの,みをはやみ,かぢとるまなく,おもほゆるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,大阪,羈旅,望郷,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]松浦舟が音を立てている堀江の水の流れが速いので楫を取る間もないように、そのように間断なく思われることであるよ
#{語釈]
松浦舟 07/1143H01さ夜更けて堀江漕ぐなる松浦舟楫の音高し水脈早みかも

楫取る間なく
17/3961H01白波の寄する礒廻を漕ぐ舟の楫取る間なく思ほえし君
17/4027H01香島より熊来をさして漕ぐ船の楫取る間なく都し思ほゆ
20/4336H01防人の堀江漕ぎ出る伊豆手船楫取る間なく恋は繁けむ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3174
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]射去為 海部之楫音 湯<按>干 妹心 乗来鴨
#[訓読]漁りする海人の楫音ゆくらかに妹は心に乗りにけるかも
#[仮名],いざりする,あまのかぢおと,ゆくらかに,いもはこころに,のりにけるかも
#[左注]
#[校異]鞍 -> 按 [元][類]
#[鄣W],序詞,恋情,羈旅,遊行女婦
#[訓異]
#[大意]漁をする海人の船の楫の音のようにゆったりと妹は心に乗ったことであるよ
#{語釈]
ゆくらかに ここ一例 ゆったりと 代匠記 ゆるやかに

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3175
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]若乃浦尓 袖左倍<沾>而 忘貝 拾杼妹者 不所忘尓
#[訓読]和歌の浦に袖さへ濡れて忘れ貝拾へど妹は忘らえなくに [忘れかねつも]
#[仮名],わかのうらに,そでさへぬれて,わすれがひ,ひりへどいもは,わすらえなくに,[わすれかねつも]
#[左注][或本歌末句云 忘可祢都母]
#[校異]若乃 [元][類](塙)(楓) 若 / 沽 -> 沾 [京]
#[鄣W],地名,和歌山,異伝,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]和歌の浦に袖までも濡れて忘れ貝を拾うが、妹は忘れられないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3175S
#[題詞](羇旅發思)[或本歌末句云]
#[原文][忘可祢都母]
#[訓読][忘れかねつも]
#[仮名],[わすれかねつも]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],異伝,羈旅,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]忘れることが出来ないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3176
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]草枕 羈西居者 苅薦之 擾妹尓 不戀日者無
#[訓読]草枕旅にし居れば刈り薦の乱れて妹に恋ひぬ日はなし
#[仮名],くさまくら,たびにしをれば,かりこもの,みだれていもに,こひぬひはなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,羈旅,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]草枕旅にいると、刈った薦のように乱れて妹に恋い思わない日はないことだ
#{語釈]
刈り薦の
04/0697H01我が聞きに懸けてな言ひそ刈り薦の乱れて思ふ君が直香ぞ
11/2520H01刈り薦の一重を敷きてさ寝れども君とし寝れば寒けくもなし

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3177
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]然海部之 礒尓苅干 名告藻之 名者告手師乎 如何相難寸
#[訓読]志賀の海人の礒に刈り干すなのりその名は告りてしを何か逢ひかたき
#[仮名],しかのあまの,いそにかりほす,なのりその,なはのりてしを,なにかあひかたき
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,福岡,植物,序詞,女歌,羈旅,遊行女婦
#[訓異]
#[大意]志賀の海人の磯に刈って干すなのりそではないが名前を言ったのにどうして逢いがたいのか
#{語釈]
#[説明]
同想歌
12/3076H01住吉の敷津の浦のなのりその名は告りてしを逢はなくも怪し

#[関連論文]


#[番号]12/3178
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]國遠見 念勿和備曽 風之共 雲之行如 言者将通
#[訓読]国遠み思ひなわびそ風の共雲の行くごと言は通はむ
#[仮名],くにとほみ,おもひなわびそ,かぜのむた,くものゆくごと,ことはかよはむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],羈旅,女歌,旅立ち,恋情
#[訓異]
#[大意]故郷が遠いのでと思いわびるなよ。風とともに雲が流れて行くように言葉も通うだろう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3179
#[題詞](羇旅發思)
#[原文]留西 人乎念尓 蜒野 居白雲 止時無
#[訓読]留まりにし人を思ふに秋津野に居る白雲のやむ時もなし
#[仮名],とまりにし,ひとをおもふに,あきづのに,ゐるしらくもの,やむときもなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],序詞,地名,和歌山,吉野,奈良,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]後に残った人を思うにつけて秋津野にいる白雲のように思いが止む時もない
#{語釈]
秋津野
奈良県吉野郡吉野町宮滝付近 和歌山県田辺市秋津町
04/0693H01かくのみし恋ひやわたらむ秋津野にたなびく雲の過ぐとはなしに
07/1345H01常ならぬ人国山の秋津野のかきつはたをし夢に見しかも
07/1405H01秋津野を人の懸くれば朝撒きし君が思ほえて嘆きはやまず
07/1406H01秋津野に朝居る雲の失せゆけば昨日も今日もなき人思ほゆ
10/2292H01秋津野の尾花刈り添へ秋萩の花を葺かさね君が仮廬に

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3180
#[題詞]悲別歌
#[原文]浦毛無 去之君故 朝旦 本名焉戀 相跡者無杼
#[訓読]うらもなく去にし君ゆゑ朝な朝なもとなぞ恋ふる逢ふとはなけど
#[仮名],うらもなく,いにしきみゆゑ,あさなさな,もとなぞこふる,あふとはなけど
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],恋情,後朝,旅立ち,女歌,別れ
#[訓異]
#[大意]無頓着に出かけて行ったあなたのせいで、毎朝毎朝むやみに恋い思うことだ。逢うということはないけれど
#{語釈]
うらもなく 無心に 裏心なく

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3181
#[題詞](悲別歌)
#[原文]白細之 君之下紐 吾<左>倍尓 今日結而名 将相日之為
#[訓読]白栲の君が下紐我れさへに今日結びてな逢はむ日のため
#[仮名],しろたへの,きみがしたびも,われさへに,けふむすびてな,あはむひのため
#[左注]
#[校異]佐 -> 左 [元][類]
#[鄣W],枕詞,女歌,恋情,別れ
#[訓異]
#[大意]白妙のあなたの下紐を自分もいっしょに今日結ぼうよ。再び逢う日のために
#{語釈]
我れさへに 7/1090 自分も一緒に

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3182
#[題詞](悲別歌)
#[原文]白妙之 袖之別者 雖<惜> 思乱而 赦鶴鴨
#[訓読]白栲の袖の別れは惜しけども思ひ乱れて許しつるかも
#[仮名],しろたへの,そでのわかれは,をしけども,おもひみだれて,ゆるしつるかも
#[左注]
#[校異]借 -> 惜 [元][類][紀]
#[鄣W],枕詞,別れ,恋情
#[訓異]
#[大意]白妙の袖の別れは惜しいが、思い乱れて許してしまったことだ
#{語釈]
#[説明]
旅の別れか、後朝の別れ(私注)ともとれる

#[関連論文]


#[番号]12/3183
#[題詞](悲別歌)
#[原文]京師邊 君者去之乎 孰解可 言紐緒乃 結手懈毛
#[訓読]都辺に君は去にしを誰が解けか我が紐の緒の結ふ手たゆきも
#[仮名],みやこへに,きみはいにしを,たがとけか,わがひものをの,ゆふてたゆきも
#[左注]
#[校異]紐 [元][古] 紐乃
#[鄣W],女歌,遊行女婦,羈旅,恋情
#[訓異]
#[大意]都の方へあなたは帰られたのに、誰が解けというのか、自分の紐の緒を結ぶ手もだるいことだ
#{語釈]
結ふ手たゆきも 大儀である だるい

#[説明]
藤原あたりの女で奈良へ帰る男を送る
旅先での遊行女婦
地方官が都に帰る

#[関連論文]


#[番号]12/3184
#[題詞](悲別歌)
#[原文]草枕 <客>去君乎 人目多 袖不振為而 安萬田悔毛
#[訓読]草枕旅行く君を人目多み袖振らずしてあまた悔しも
#[仮名],くさまくら,たびゆくきみを,ひとめおほみ,そでふらずして,あまたくやしも
#[左注]
#[校異]谷 -> 客 [元][類][紀]
#[鄣W],枕詞,羈旅,人目,うわさ,別れ,後悔,恋情
#[訓異]
#[大意]草枕の旅を行くあなたは人目が多いので袖を振らないでひどく悔しいことだ
#{語釈]
#[説明]
類歌
04/0503H01玉衣のさゐさゐしづみ家の妹に物言はず来にて思ひかねつも

#[関連論文]


#[番号]12/3185
#[題詞](悲別歌)
#[原文]白銅鏡 手二取持而 見常不足 君尓所贈而 生跡文無
#[訓読]まそ鏡手に取り持ちて見れど飽かぬ君に後れて生けりともなし
#[仮名],まそかがみ,てにとりもちて,みれどあかぬ,きみにおくれて,いけりともなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],序詞,恋情,別れ
#[訓異]
#[大意]まそ鏡のように手に取り持って見ても見飽きないあなたの後に残っていると生きた気持ちもしない
#{語釈]
#[説明]
旅にでた夫のことを思っている

#[関連論文]


#[番号]12/3186
#[題詞](悲別歌)
#[原文]陰夜之 田時毛不知 山越而 徃座君者 何時将待
#[訓読]曇り夜のたどきも知らぬ山越えています君をばいつとか待たむ
#[仮名],くもりよの,たどきもしらぬ,やまこえて,いますきみをば,いつとかまたむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],女歌,羈旅,恋情
#[訓異]
#[大意]曇った夜のように道を行く方法もわからない山を越えていらっしゃるあなたをいつ帰ってくるかと待とうか
#{語釈]
曇り夜のたどきも知らぬ山 曇った真っ暗な夜に道を歩くようにおぼつかなく、不安な山

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3187
#[題詞](悲別歌)
#[本文]<立>名付 青垣山之 隔者 數君乎 言不<問>可聞
#[訓読]たたなづく青垣山の隔なりなばしばしば君を言問はじかも
#[仮名],たたなづく,あをかきやまの,へなりなば,しばしばきみを,こととはじかも
#[左注]
#[校異]田立 -> 立 [西(訂正貼紙][元][紀][温] / 同 -> 問 [元][類][紀]
#[鄣W],別離,恋情
#[訓異]
#[大意]重なり合う青垣のような山が隔てになったならば、しばしばもあなたに手紙を出すことも出来ないかなあ
#{語釈]
たたなづく しっとりとした 落ち着いて重なり合っている
02/0194H03たたなづく 柔肌すらを 剣太刀 身に添へ寝ねば ぬばたまの

青垣
01/0038H02高殿を 高知りまして 登り立ち 国見をせせば たたなはる 青垣山
06/0923H01やすみしし 我ご大君の 高知らす 吉野の宮は たたなづく 青垣隠り

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3188
#[題詞](悲別歌)
#[原文]朝霞 蒙山乎 越而去者 吾波将戀奈 至于相日
#[訓読]朝霞たなびく山を越えて去なば我れは恋ひむな逢はむ日までに
#[仮名],あさがすみ,たなびくやまを,こえていなば,あれはこひむな,あはむひまでに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],別離,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]朝霞がたなびいている山を越えて行ってしまったならば、自分は恋い思うだろうよ。再び逢う日までは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3189
#[題詞](悲別歌)
#[原文]足桧乃 山者百重 雖隠 妹者不忘 直相左右二 [一云 雖隠 君乎思苦 止時毛無]
#[訓読]あしひきの山は百重に隠すとも妹は忘れじ直に逢ふまでに [一云 隠せども君を思はくやむ時もなし]
#[仮名],あしひきの,やまはももへに,かくすとも,いもはわすれじ,ただにあふまでに,[かくせども,きみをおもはく,やむときもなし]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],異伝,枕詞,恋情,羈旅,女歌
#[訓異]
#[大意]あしひきの山は幾重にも隠すとしても妹は忘れることはない。直接逢うまでは 一云 隠してはいるが、あなたを思うことはやむときもない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3190
#[題詞](悲別歌)
#[原文]雲居<有> 海山超而 伊徃名者 吾者将戀名 後者相宿友
#[訓読]雲居なる海山越えてい行きなば我れは恋ひむな後は逢ひぬとも
#[仮名],くもゐなる,うみやまこえて,いゆきなば,あれはこひむな,のちはあひぬとも
#[左注]
#[校異]者 -> 有 [元][類][紀]
#[鄣W],恋情,別離,羈旅
#[訓異]
#[大意]雲のいる所のようにはるかに海山を越えて行ったならば、自分は恋い思うよ。後には逢うとしても
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3191
#[題詞](悲別歌)
#[原文]不欲恵八<師> 不戀登為杼 木綿間山 越去之公之 所念良國
#[訓読]よしゑやし恋ひじとすれど木綿間山越えにし君が思ほゆらくに
#[仮名],よしゑやし,こひじとすれど,ゆふまやま,こえにしきみが,おもほゆらくに
#[左注]
#[校異]跡 -> 師 [元][紀]
#[鄣W],地名,別離,羈旅,恋情
#[訓異]
#[大意]ええいままよ。恋い思うまいとするが、木綿間山を越えたあなたが思われてならないことだ
#{語釈]
木綿山 所在未詳 東国にあるか
14/3475H01恋ひつつも居らむとすれど遊布麻山隠れし君を思ひかねつも

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3192
#[題詞](悲別歌)
#[原文]草蔭之 荒藺之埼乃 笠嶋乎 見乍可君之 山道超良無 [一云 三坂越良牟]
#[訓読]草蔭の荒藺の崎の笠島を見つつか君が山道越ゆらむ [一云 み坂越ゆらむ]
#[仮名],くさかげの,あらゐのさきの,かさしまを,みつつかきみが,やまぢこゆらむ,[みさかこゆらむ]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],枕詞,地名,羈旅,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]草陰の荒藺の崎の笠島を見続けてあなたが山道を越えているだろうか 一云 み坂を越えているだろうか
#{語釈]
草蔭の 荒藺の枕詞 14/3447 「あ」にかかる枕詞。係り方未詳

荒藺の崎の笠島 所在未詳 東京都大田区中央西新井
拾穂抄 武蔵也。笠島も八雲抄に武蔵也
略解 今武蔵橘樹郡にあらゐと云地有りて、入り江に近くて崎とも言ふべし。
全釈 江戸砂子 あらゐの崎は荒井宿の木原山
今の大森の山手。その付近に笠島もあったか。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3193
#[題詞](悲別歌)
#[原文]玉勝間 嶋熊山之 夕晩 獨可君之 山道将越 [一云 暮霧尓 長戀為乍 寐不勝可母]
#[訓読]玉かつま島熊山の夕暮れにひとりか君が山道越ゆらむ [一云 夕霧に長恋しつつ寐ねかてぬかも]
#[仮名],たまかつま,しまくまやまの,ゆふぐれに,ひとりかきみが,やまぢこゆらむ,[ゆふぎりに,ながこひしつつ,いねかてぬかも]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],異伝,地名,羈旅,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]玉かつま島熊山の夕暮れにひとりであなたが山道を越えているだろうか 一云 夕霧に長く恋い思って寝られないでいるだろうか
#{語釈]
玉かつま 美しい籠 係り方未詳

島熊山 未詳

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3194
#[題詞](悲別歌)
#[原文]氣緒尓 吾念君者 鶏鳴 東方重坂乎 今日可越覧
#[訓読]息の緒に我が思ふ君は鶏が鳴く東の坂を今日か越ゆらむ
#[仮名],いきのをに,あがおもふきみは,とりがなく,あづまのさかを,けふかこゆらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,枕詞,羈旅,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]命にかけて自分が思うあなたは鶏が鳴く東の方の坂を今日あたり越えているだろうか
#{語釈]
東の坂 碓氷の坂、足柄の坂あたりを念頭か

#[説明]
旅先の相手を思っている
01/0043H01我が背子はいづく行くらむ沖つ藻の名張の山を今日か越ゆらむ
羈旅離別の主題 物語歌か
02/0106H01ふたり行けど行き過ぎかたき秋山をいかにか君がひとり越ゆらむ
04/0511H01我が背子はいづく行くらむ沖つ藻の名張の山を今日か越ゆらむ
09/1666H01朝霧に濡れにし衣干さずしてひとりか君が山道越ゆらむ
09/1681H01後れ居て我が恋ひ居れば白雲のたなびく山を今日か越ゆらむ
09/1730H01山科の石田の小野のははそ原見つつか君が山道越ゆらむ
12/3192H01草蔭の荒藺の崎の笠島を見つつか君が山道越ゆらむ
12/3192H02[み坂越ゆらむ]
12/3193H01玉かつま島熊山の夕暮れにひとりか君が山道越ゆらむ
12/3194H01息の緒に我が思ふ君は鶏が鳴く東の坂を今日か越ゆらむ
19/4195H01我がここだ偲はく知らに霍公鳥いづへの山を鳴きか越ゆらむ

#[関連論文]


#[番号]12/3195
#[題詞](悲別歌)
#[原文]磐城山 直越来益 礒埼 許奴美乃濱尓 吾立将待
#[訓読]磐城山直越え来ませ礒崎の許奴美の浜に我れ立ち待たむ
#[仮名],いはきやま,ただこえきませ,いそさきの,こぬみのはまに,われたちまたむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,静岡県,女歌,恋情,羈旅
#[訓異]
#[大意]磐城山をまっすぐに越えていらっしゃい。礒崎の許奴美の浜で自分は立って待っていよう
#{語釈]
磐城山 所在未詳 静岡県清水市 庵原郡由比町 薩多峠あたりの山

礒崎の許奴美の浜 静岡県清水市 庵原郡由比町 代匠記 廬崎(いほさき)のこと
代匠記 静岡県清水市興津町 考 茨城県鹿島郡大洗町

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3196
#[題詞](悲別歌)
#[原文]春日野之 淺茅之原尓 後居而 時其友無 吾戀良苦者
#[訓読]春日野の浅茅が原に遅れ居て時ぞともなし我が恋ふらくは
#[仮名],かすがのの,あさぢがはらに,おくれゐて,ときぞともなし,あがこふらくは
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,奈良,恋情,女歌,歌垣
#[訓異]
#[大意]春日野の浅茅が原で後に残っていて、決まった時があるというわけでもないよ。自分が恋い思うことは。
#{語釈]
時ぞともなし 決まった時がない しょっちゅうだ 絶えず

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3197
#[題詞](悲別歌)
#[原文]住吉乃 崖尓向有 淡路嶋 𪫧怜登君乎 不言日者无
#[訓読]住吉の岸に向へる淡路島あはれと君を言はぬ日はなし
#[仮名],すみのえの,きしにむかへる,あはぢしま,あはれときみを,いはぬひはなし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,大阪,序詞,兵庫,淡路,恋愛,羈旅
#[訓異]
#[大意]住吉の岸に向かっている淡路島のあはではないが、いとしいとあなたを言わない日はないよ
#{語釈]
淡路島 「あは」を引き出す序詞

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3198
#[題詞](悲別歌)
#[原文]明日従者 将行乃河之 出去者 留吾者 戀乍也将有
#[訓読]明日よりはいなむの川の出でて去なば留まれる我れは恋ひつつやあらむ
#[仮名],あすよりは,いなむのかはの,いでていなば,とまれるあれは,こひつつやあらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,加古川,兵庫,序詞,女歌,不安,恋情,羈旅
#[訓異]
#[大意]明日からは帰ろうという名前の印南川の名前のように、あなたが旅に出て行ったので後に留まっている自分は恋い続けることであろうか
#{語釈]
いなむの川 印南川 印南野を流れている川 加古川か

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3199
#[題詞](悲別歌)
#[原文]海之底 奥者恐 礒廻従 <水>手運徃為 月者雖經過
#[訓読]海の底沖は畏し礒廻より漕ぎ廻みいませ月は経ぬとも
#[仮名],わたのそこ,おきはかしこし,いそみより,こぎたみいませ,つきはへぬとも
#[左注]
#[校異]水水 -> 水 [元][類][紀]
#[鄣W],羈旅,女歌,不安
#[訓異]
#[大意]海の底である沖は恐ろしい。磯のまわりより漕ぎめぐっていらっしゃい。月は立つとしても
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3200
#[題詞](悲別歌)
#[原文]飼飯乃浦尓 依流白浪 敷布二 妹之容儀者 所念香毛
#[訓読]飼飯の浦に寄する白波しくしくに妹が姿は思ほゆるかも
#[仮名],けひのうらに,よするしらなみ,しくしくに,いもがすがたは,おもほゆるかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,淡路,兵庫,序詞,恋情,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]飼飯の浦に寄せる白波ではないが、重ね重ね何度も妹の姿は思われてならないことだ
#{語釈]
飼飯の浦 淡路島三島郡西淡町飼飯の松原の海

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3201
#[題詞](悲別歌)
#[原文]時風 吹飯乃濱尓 出居乍 贖命者 妹之為社
#[訓読]時つ風吹飯の浜に出で居つつ贖ふ命は妹がためこそ
#[仮名],ときつかぜ,ふけひのはまに,いでゐつつ,あかふいのちは,いもがためこそ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,枕詞,大阪,岬町深日,恋情,望郷,手向け,羈旅
#[訓異]
#[大意]時の風が吹く、その吹飯の浜に出ていながら神に無事を祈る命は妹のためなのだ
#{語釈]
時つ風 毎日定期的に吹く風 ここでは海風
02/220

吹飯の浜 大阪府泉南郡岬町深日(ふけ) 代匠記 和歌山市内吹上

贖ふ 普通は、財をもって罪をつぐなう
神に供物をして命の無事を祈る

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3202
#[題詞](悲別歌)
#[原文]柔田津尓 舟乗<将>為跡 聞之苗 如何毛君之 所見不来将<有>
#[訓読]熟田津に舟乗りせむと聞きしなへ何ぞも君が見え来ずあるらむ
#[仮名],にきたつに,ふなのりせむと,ききしなへ,なにぞもきみが,みえこずあるらむ
#[左注]
#[校異]時 -> 将 [西(朱筆左書][紀][細][温] / 者 -> 有 [元][類][紀]
#[鄣W],地名,松山,愛媛県,女歌
#[訓異]
#[大意]熟田津で舟に乗ったと聞くにつれて、どうしてあなたは見えて来ないでいるのだろうか
#{語釈]
熟田津 1/8

#[説明]
出発したと聞いたのに、予定の時になっても少しも現れないいぶかしさを歌ったもの
遊行女婦の歌か。額田王の熟田津の歌がもとになっている

#[関連論文]


#[番号]12/3203
#[題詞](悲別歌)
#[原文]三沙呉居 渚尓居舟之 榜出去者 裏戀監 後者會宿友
#[訓読]みさご居る洲に居る舟の漕ぎ出なばうら恋しけむ後は逢ひぬとも
#[仮名],みさごゐる,すにゐるふねの,こぎでなば,うらごほしけむ,のちはあひぬとも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],動物,別離,出発,遊行女婦,羈旅
#[訓異]
#[大意]みさごがいる洲砂にいる舟が漕ぎ出すように、あなたの舟が漕ぎ出したならば心恋しいことだろう。後で必ず逢うとしても
#{語釈]
みさご居る洲に居る舟
11/2831H01みさご居る洲に居る舟の夕潮を待つらむよりは我れこそまされ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3204
#[題詞](悲別歌)
#[原文]玉葛 無<恙>行核 山菅乃 思乱而 戀乍将待
#[訓読]玉葛幸くいまさね山菅の思ひ乱れて恋ひつつ待たむ
#[仮名],たまかづら,さきくいまさね,やますげの,おもひみだれて,こひつつまたむ
#[左注]
#[校異]怠 -> 恙 [元]
#[鄣W],枕詞,植物,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]玉葛のように無事でいらっしゃい。山菅のように思い乱れて恋い続けて待っていよう
#{語釈]
玉葛 幸くにかかる枕詞 蔓草の予祝的な植物観からか
大系 蔓が長く伸びていく意で「行く」にかかる

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3205
#[題詞](悲別歌)
#[原文]後居而 戀乍不有者 田籠之浦乃 海部有申尾 珠藻苅々
#[訓読]後れ居て恋ひつつあらずは田子の浦の海人ならましを玉藻刈る刈る
#[仮名],おくれゐて,こひつつあらずは,たごのうらの,あまならましを,たまもかるかる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,静岡,遊行女婦,女歌,羈旅,恋情
#[訓異]
#[大意]後に残っていて恋い続けてはいずに、田子の浦の海人であればよいのに。玉藻を刈り刈りして。
#{語釈]
#[説明]
類歌
11/2743H01なかなかに君に恋ひずは比良の浦の海人ならましを玉藻刈りつつ
11/2743S01或本歌曰
11/2743H02なかなかに君に恋ひずは縄の浦の海人にあらましを玉藻刈る刈る

#[関連論文]


#[番号]12/3206
#[題詞](悲別歌)
#[原文]筑紫道之 荒礒乃玉藻 苅鴨 君久 待不来
#[訓読]筑紫道の荒礒の玉藻刈るとかも君が久しく待てど来まさぬ
#[仮名],つくしぢの,ありそのたまも,かるとかも,きみがひさしく,まてどきまさぬ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],植物,女歌,羈旅
#[訓異]
#[大意]筑紫道の荒磯の玉藻を刈っているというのだろうか。あなたが長く待ってもいらっしゃらない
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3207
#[題詞](悲別歌)
#[原文]荒玉乃 年緒永 照月 不猒君八 明日別南
#[訓読]あらたまの年の緒長く照る月の飽かざる君や明日別れなむ
#[仮名],あらたまの,としのをながく,てるつきの,あかざるきみや,あすわかれなむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],序詞,枕詞,女歌,別離,遊行女婦,羈旅
#[訓異]
#[大意]あらたまの年月長く照っている月のように、見飽かないあなたが明日別れてしまうのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3208
#[題詞](悲別歌)
#[原文]久将在 君念尓 久堅乃 清月夜毛 闇夜耳見
#[訓読]久にあらむ君を思ふにひさかたの清き月夜も闇の夜に見ゆ
#[仮名],ひさにあらむ,きみをおもふに,ひさかたの,きよきつくよも,やみのよにみゆ
#[左注]
#[校異]耳 (塙) 所
#[鄣W],枕詞,旅立ち,女歌,不安,恋情
#[訓異]
#[大意]会わないで久しくあるあなたを思うと、ひさかたの清らかな月夜であっても闇の夜のように見える
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3209
#[題詞](悲別歌)
#[原文]春日在 三笠乃山尓 居雲乎 出見毎 君乎之曽念
#[訓読]春日なる御笠の山に居る雲を出で見るごとに君をしぞ思ふ
#[仮名],かすがなる,みかさのやまに,ゐるくもを,いでみるごとに,きみをしぞおもふ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],地名,奈良,恋情,羈旅,女歌
#[訓異]
#[大意]春日にある御笠の山にかかる雲を出て見るごとにあなたのことを思うことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3210
#[題詞](悲別歌)
#[原文]足桧木乃 片山雉 立徃牟 君尓後而 打四鶏目八方
#[訓読]あしひきの片山雉立ち行かむ君に後れてうつしけめやも
#[仮名],あしひきの,かたやまきぎし,たちゆかむ,きみにおくれて,うつしけめやも
#[左注]
#[校異]桧木 [元][類] 桧
#[鄣W],枕詞,動物,序詞,旅立ち,羈旅,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]あしひきの片山に住む雉が飛び立って行くように、旅に立って行くあなたの後に残って、生きた心地でいられようか
#{語釈]
片山 片方が崖になっているような山
10/1818H01子らが名に懸けのよろしき朝妻の片山崖に霞たなびく
12/3210H01あしひきの片山雉立ち行かむ君に後れてうつしけめやも
16/3885H03四月と 五月との間に 薬猟 仕ふる時に あしひきの この片山に
16/3886H07この片山の もむ楡を 五百枝剥き垂り 天照るや 日の異に干し
20/4418H01我が門の片山椿まこと汝れ我が手触れなな土に落ちもかも

うつしけめやも 正気でいる 現実を認識している
15/3752H01春の日のうら悲しきに後れ居て君に恋ひつつうつしけめやも

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3211
#[題詞]問答<歌>
#[原文]玉緒乃 <徙>心哉 八十梶懸 水手出牟船尓 後而将居
#[訓読]玉の緒の現し心や八十楫懸け漕ぎ出む船に後れて居らむ
#[仮名],たまのをの,うつしこころや,やそかかけ,こぎでむふねに,おくれてをらむ
#[左注](右二首)
#[校異]<> -> 歌 [元][紀] / 徒 -> 徙 [矢]
#[鄣W],枕詞,出発,羈旅,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]玉の緒のような現実の心で、多くの楫を懸けて漕ぎ出す船に後に残っていることだろうか
#{語釈]
玉の緒の 心、命の枕詞
11/2792H01玉の緒の現し心や年月の行きかはるまで妹に逢はずあらむ
12/3082H01君に逢はず久しくなりぬ玉の緒の長き命の惜しけくもなし
12/3211H01玉の緒の現し心や八十楫懸け漕ぎ出む船に後れて居らむ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3212
#[題詞](問答歌)
#[原文]八十梶懸 嶋隠去者 吾妹兒之 留登将振 袖不所見可聞
#[訓読]八十楫懸け島隠りなば我妹子が留まれと振らむ袖見えじかも
#[仮名],やそかかけ,しまがくりなば,わぎもこが,とまれとふらむ,そでみえじかも
#[左注]右二首
#[校異]
#[鄣W],羈旅,船出,袖振り,羈旅,出発,恋情
#[訓異]
#[大意]多くの楫を懸けて島隠れてしまったならば、我妹子が留まれと振る袖が見えないだろうかなあ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3213
#[題詞](問答歌)
#[原文]十月 鍾礼乃雨丹 <沾>乍哉 君之行疑 宿可借疑
#[訓読]十月しぐれの雨に濡れつつか君が行くらむ宿か借るらむ
#[仮名],かむなづき,しぐれのあめに,ぬれつつか,きみがゆくらむ,やどかかるらむ
#[左注](右二首)
#[校異]沽 -> 沾 [矢][京]
#[鄣W],羈旅,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]十月の時雨の雨に濡れながらあなたは行っているのだろうか。それとも宿を借りているだろうか。
#{語釈]
十月しぐれ
19/4259H01十月時雨の常か我が背子が宿の黄葉散りぬべく見ゆ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3214
#[題詞](問答歌)
#[原文]十月 <雨>間毛不置 零尓西者 誰里<之> 宿可借益
#[訓読]十月雨間も置かず降りにせばいづれの里の宿か借らまし
#[仮名],かむなづき,あままもおかず,ふりにせば,いづれのさとの,やどかからまし
#[左注]右二首
#[校異]々 -> 雨 [元][紀][温] / 之間 -> 之 [元][類]
#[鄣W],羈旅
#[訓異]
#[大意]十月の雨の間も置かないで降ったならば、どこの里の宿を借ることが出来ようか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3215
#[題詞](問答歌)
#[原文]白妙乃 袖之別乎 難見為而 荒津之濱 屋取為鴨
#[訓読]白栲の袖の別れを難みして荒津の浜に宿りするかも
#[仮名],しろたへの,そでのわかれを,かたみして,あらつのはまに,やどりするかも
#[左注](右二首)
#[校異]
#[鄣W],地名,福岡,出発,惜別,羈旅,恋情
#[訓異]
#[大意]白妙の袖の別れを出来かねて荒津の浜で一晩泊まりをすることだ
#{語釈]
荒津の浜
福岡県福岡市中央区西公園
15/3660H01神さぶる荒津の崎に寄する波間なくや妹に恋ひわたりなむ
17/3891H01荒津の海潮干潮満ち時はあれどいづれの時か我が恋ひざらむ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3216
#[題詞](問答歌)
#[原文]草枕 羈行君乎 荒津左右 送来 <飽>不足社
#[訓読]草枕旅行く君を荒津まで送りぞ来ぬる飽き足らねこそ
#[仮名],くさまくら,たびゆくきみを,あらつまで,おくりぞきぬる,あきだらねこそ
#[左注]右二首
#[校異]飽 [西(上書訂正)][元][類][紀]
#[鄣W],地名,福岡,枕詞,送別,恋情,惜別,女歌,遊行女婦
#[訓異]
#[大意]草枕の旅に行くあなたを荒津まで送って来たことだ。満足出来ないからこそ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3217
#[題詞](問答歌)
#[原文]荒津海 吾幣奉 将齊 早<還>座 面變不為
#[訓読]荒津の海我れ幣奉り斎ひてむ早帰りませ面変りせず
#[仮名],あらつのうみ,われぬさまつり,いはひてむ,はやかへりませ,おもがはりせず
#[左注](右二首)
#[校異]速 -> 還 [西(訂正右書)][元][類][紀]
#[鄣W],地名,福岡,手向け,出発,遊行女婦,送別,羈旅,恋情
#[訓異]
#[大意]荒津の海に自分は幣帛を奉って潔斎していましょう。早くお帰りください。顔も変わらないで
#{語釈]
斎ひてむ 身を清めて潔斎する
08/1453H04い別れ行かば 留まれる 我れは幣引き 斎ひつつ 君をば待たむ
12/3217H01荒津の海我れ幣奉り斎ひてむ早帰りませ面変りせず
20/4402H01ちはやぶる神の御坂に幣奉り斎ふ命は母父がため
20/4426H01天地の神に幣置き斎ひつついませ我が背な我れをし思はば

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3218
#[題詞](問答歌)
#[本文]<旦>々 筑紫乃方乎 出見乍 哭耳吾泣 痛毛為便無三
#[訓読]朝な朝な筑紫の方を出で見つつ音のみぞ我が泣くいたもすべなみ
#[仮名],あさなさな,つくしのかたを,いでみつつ,ねのみぞあがなく,いたもすべなみ
#[左注]右二首
#[校異]且 -> 旦 [元][類][紀][矢]
#[鄣W],羈旅,恋情,地名,福岡,九州
#[訓異]
#[大意]毎朝毎朝筑紫の方を出て見続けて大声を上げて自分は泣くよ。なんとも方法もないので
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]12/3219
#[題詞](問答歌)
#[原文]豊國乃 聞之長濱 去晩 日之昏去者 妹食序念
#[訓読]豊国の企救の長浜行き暮らし日の暮れゆけば妹をしぞ思ふ
#[仮名],とよくにの,きくのながはま,ゆきくらし,ひのくれゆけば,いもをしぞおもふ
#[左注](右二首)
#[校異]
#[鄣W],地名,福岡,北九州市,恋情,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]豊国の企救の長浜を行っては一日を暮らし、日が暮れていくので妹のことが思われてならない
#{語釈]
豊国の企救の長浜
福岡県北九州市小倉西区長浜付近
07/1393H01豊国の企救の浜辺の真砂土真直にしあらば何か嘆かむ
12/3130H01豊国の企救の浜松ねもころに何しか妹に相言ひそめけむ
12/3219H01豊国の企救の長浜行き暮らし日の暮れゆけば妹をしぞ思ふ
12/3220H01豊国の企救の高浜高々に君待つ夜らはさ夜更けにけり
16/3876H01豊国の企救の池なる菱の末を摘むとや妹がみ袖濡れけむ

#[説明]
#[関連論文]