万葉集 巻第14

#[番号]14/3348
#[題詞]東歌
#[原文]奈都素妣久 宇奈加美我多能 於伎都渚尓 布袮波等<杼>米牟 佐欲布氣尓家里
#[訓読]夏麻引く海上潟の沖つ洲に船は留めむさ夜更けにけり
#[仮名],なつそびく,うなかみがたの,おきつすに,ふねはとどめむ,さよふけにけり
#[左注]右一首上総國歌
#[校異]抒 -> 杼 [類][古][京]
#[KW],東歌,千葉県,枕詞,市原市,地名
#[訓異]
#[大意]夏麻を引き抜く畝ではないが、海上潟の沖の州浜に船は停泊しよう。夜も更けたことだ
#{語釈]
なつそびく 夏の麻を引き抜く畝から「うな」にかかる枕詞
海上潟  千葉県市原市

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3349
#[題詞]
#[原文]可豆思加乃 麻萬能宇良<未>乎 許具布祢能 布奈妣等佐和久 奈美多都良思母
#[訓読]葛飾の真間の浦廻を漕ぐ船の船人騒く波立つらしも
#[仮名],かづしかの,ままのうらみを,こぐふねの,ふなびとさわく,なみたつらしも
#[左注]右一首下総國歌
#[校異]末 -> 未 [万葉集古義]
#[KW],東歌,千葉県,地名,葛飾区,市原市,景物
#[訓異]
#[大意]葛飾の真間の浦のめぐりを漕ぐ船の船頭が騒ぎ立てる。波が立っているらしい
#{語釈]
葛飾の真間の浦廻  千葉県東葛飾郡 東京都葛飾区

#[説明]
類歌
07/1228H01風早の三穂の浦廻を漕ぐ舟の舟人騒く波立つらしも

#[関連論文]


#[番号]14/3350
#[題詞]
#[原文]筑波祢乃 尓比具波麻欲能 伎奴波安礼杼 伎美我美家思志 安夜尓伎保思母
#[訓読]筑波嶺の新桑繭の衣はあれど君が御衣しあやに着欲しも
#[仮名],つくはねの,にひぐはまよの,きぬはあれど,きみがみけしし,あやにきほしも
#[左注]或本歌曰 多良知祢能 又云 安麻多伎保思母 / (右二首常陸國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,茨城県,筑波山,地名,,恋愛,新婚,婚姻
#[訓異]
#[大意]筑波嶺の新しい桑で育った繭の衣はあるが、あなたの衣をやたらと着たいものだ
#{語釈]
筑波嶺  茨城県筑波郡 筑波山
あやに 自分でも不思議に思うほど程度の甚だしい様子

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3350S
#[題詞]或本歌曰 又云
#[原文]多良知祢能 安麻多伎保思母
#[訓読]たらちねの あまた着欲しも
#[仮名]たらちねの,あまたきほしも
#[左注](右二首常陸國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,茨城県,異伝,筑波山,新婚,恋愛
#[訓異]
#[大意]母が世話をして新しい桑で育った繭の衣はあるが、あなたの衣を非常に着たいものだ
#{語釈]
たらちねの 普通、母の枕詞。ここは、母自身の意味。
      母が世話をした新しい桑で育った繭の意味
あまた  甚だしく、非常に

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3351
#[題詞]
#[原文]筑波祢尓 由伎可母布良留 伊奈乎可母 加奈思吉兒呂我 尓努保佐流可母
#[訓読]筑波嶺に雪かも降らるいなをかも愛しき子ろが布乾さるかも
#[仮名],つくはねに,ゆきかもふらる,いなをかも,かなしきころが,にのほさるかも
#[左注]右二首常陸國歌
#[校異]
#[KW],東歌,茨城県,筑波山,地名,恋情,景物
#[訓異]
#[大意]筑波嶺に雪が降っているのだろうか。そうではないのだろうか。愛しいあの子が布を乾しているのだろうか
#{語釈]
降らる  降れる 完了
乾さる  乾せる 完了

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3352
#[題詞]
#[原文]信濃奈流 須我能安良能尓 保登等藝須 奈久許恵伎氣<婆> 登伎須疑尓家里
#[訓読]信濃なる須我の荒野に霍公鳥鳴く声聞けば時過ぎにけり
#[仮名],しなぬなる,すがのあらのに,ほととぎす,なくこゑきけば,ときすぎにけり
#[左注]右一首信濃國歌
#[校異]波 -> 婆 [紀][細]
#[KW],東歌,長野県,地名,真田町,菅平,動物,別離,農事,女歌
#[訓異]
#[大意]信濃にある菅の荒野にほととぎすの鳴く声を聞くと時が過ぎたことだ
#{語釈]
須我の荒野  大日本地名辞書 梓川と楢井川の間の荒野
               松本市の西南、今井、和田あたり
       古義 信濃地名考 伊那郡阿智川に菅野村
       田子檀 菅平のこと

時過ぎにけり 伊藤博 都の官人が信濃までやってきて、もうほととぎすの鳴く季節になったと慕ぶ望郷の歌
       代匠紀、折口信夫 ほととぎすが鳴くと行わなければならない農事を思い出し、その時期が過ぎてしまったといったもの

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3353
#[題詞]相聞
#[原文]阿良多麻能 伎倍乃波也之尓 奈乎多弖天 由伎可都麻思自 移乎佐伎太多尼
#[訓読]あらたまの伎倍の林に汝を立てて行きかつましじ寐を先立たね
#[仮名],あらたまの,きへのはやしに,なをたてて,ゆきかつましじ,いをさきだたね
#[左注](右二首遠江國歌)
#[校異]伎 [類][細](塙) 吉
#[KW],東歌,相聞,静岡県,枕詞,地名,浜名市,歌謡,歌垣,民謡,恋愛
#[訓異]
#[大意]あらたまの伎倍の林にあなたを立たせたまま通り過ぎて行くことはとても出来ない。先にあなたと寝よう。
#{語釈]
あらたまの 遠江国麁玉郡 静岡県浜松市北部、浜北市あたり
伎倍の林  所在未詳

#[説明]
歌垣の歌か、伊藤博 労働歌か 正述心緒

#[関連論文]


#[番号]14/3354
#[題詞]
#[原文]伎倍比等乃 萬太良夫須麻尓 和多佐波太 伊利奈麻之母乃 伊毛我乎杼許尓
#[訓読]伎倍人のまだら衾に綿さはだ入りなましもの妹が小床に
#[仮名],きへひとの,まだらぶすまに,わたさはだ,いりなましもの,いもがをどこに
#[左注]右二首遠江國歌
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,静岡県,地名,浜名市,恋愛,歌垣,歌謡,民謡
#[訓異]
#[大意]伎倍の人々のまだらな色の布団に綿がたくさん入っているように、入ってしまおうものを。妹の寝床に
#{語釈]
まだら衾 まだらに染めた懸け布団
さはだ入りなましもの たくさん入ってもしまおうものを
           完了「ぬ」の未然形「な」に反実仮想の「まし」がついたもの

#[説明]
上の歌に対して寄物陳思

#[関連論文]


#[番号]14/3355
#[題詞]
#[原文]安麻乃波良 不自能之婆夜麻 己能久礼能 等伎由都利奈波 阿波受可母安良牟
#[訓読]天の原富士の柴山この暗の時ゆつりなば逢はずかもあらむ
#[仮名],あまのはら,ふじのしばやま,このくれの,ときゆつりなば,あはずかもあらむ
#[左注](右五首駿河國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,静岡県,富士山,地名,歌垣,歌謡,民謡,恋愛
#[訓異]
#[大意]天の原にそびえる富士山の麓の雑木林の暗がりの時節が過ぎていったならば逢うことの機会がなくなるだろうか。
#{語釈]
富士の柴山 富士山の麓の雑木林
この暗 新緑で木の下が暗くなるのと、日が暮れるのとを懸けた

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3356
#[題詞]
#[原文]不盡能祢乃 伊夜等保奈我伎 夜麻治乎毛 伊母我理登倍婆 氣尓餘婆受吉奴
#[訓読]富士の嶺のいや遠長き山道をも妹がりとへばけによばず来ぬ
#[仮名],ふじのねの,いやとほながき,やまぢをも,いもがりとへば,けによばずきぬ
#[左注](右五首駿河國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,静岡県,富士山,地名,恋愛
#[訓異]
#[大意]富士の嶺のますます遠く長い山道をも妹のもとへと思えば、息を切らずにやってきたことだ
#{語釈]
いや遠長き めっぽう遠く長い
とへば  と言へば
けによばず 気呻吟(によ)ばず  うめき声を上げずに 息を切らさずに
      によふ 霊異記 呻 によふ 名義抄 吟 によふ、なげく

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3357
#[題詞]
#[原文]可須美為流 布時能夜麻備尓 和我伎奈婆 伊豆知武吉弖加 伊毛我奈氣可牟
#[訓読]霞居る富士の山びに我が来なばいづち向きてか妹が嘆かむ
#[仮名],かすみゐる,ふじのやまびに,わがきなば,いづちむきてか,いもがなげかむ
#[左注](右五首駿河國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,静岡県,富士山,地名,恋情,別離,後朝
#[訓異]
#[大意]霞が立ちこめている富士の山辺に自分が来たならば、どの方向を向いて妹が嘆くだろうか
#{語釈]
#[説明]
旅に出た夫が富士山付近を通過することを思って作った歌
相模、甲斐あたり

#[関連論文]


#[番号]14/3358
#[題詞]
#[原文]佐奴良久波 多麻乃緒婆可里 <古>布良久波 布自能多可祢乃 奈流佐波能其登
#[訓読]さ寝らくは玉の緒ばかり恋ふらくは富士の高嶺の鳴沢のごと
#[仮名],さぬらくは,たまのをばかり,こふらくは,ふじのたかねの,なるさはのごと
#[左注]或本歌曰 麻可奈思美 奴良久波思家良久 佐奈良久波 伊豆能多可祢能 奈流佐波奈須与 一本歌曰 阿敝良久波 多麻能乎思家也 古布良久波 布自乃多可祢尓 布流由伎奈須毛 / (右五首駿河國歌)
#[校異]右 -> 古 [西(訂正右書)][類][紀][温] / 久波 [細](塙) 久
#[KW],東歌,相聞,静岡県,富士山,地名,恋情,歌謡,民謡,歌垣
#[訓異]
#[大意]寝るのは玉の緒のようにほんのちょっと。恋い思うのは富士の高嶺の鳴沢のように自分の心は激しく鳴るよ
#{語釈]
玉の緒  長い意味12/3082 にも用いるが短い意味にも使われる。ここでは短い意味
12/3086H01なかなかに人とあらずは桑子にもならましものを玉の緒ばかり
なまじっか人でいずに蚕にもなったらよかろうに。短い間でも

鳴沢 高く音を立てる渓谷  富士西部の大沢など崩壊沢 岩石が崩れ落ちる大きな音
   代匠紀 此の山の頂に大なる沢あり。山のもゆる火の気とその沢の水と相克して常にわきかえりなりひびくゆへになるさはといふ

たとえの意味 代匠紀 なりやむ期もなければ玉の緒の短きに対して云へり
       考 この鳴沢のおびただしくわきかへり鳴を想いのわきかえるにたとふるか。
       音がはげしいように想いがはげしいことか

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3358S1
#[題詞]或本歌曰
#[原文]麻可奈思美 奴良久波思家良久 佐奈良久波 伊豆能多可祢能 奈流佐波奈須与
#[訓読]ま愛しみ寝らくはしけらくさ鳴らくは伊豆の高嶺の鳴沢なすよ
#[仮名]まかなしみ,ぬらくはしけらく,さならくは,いづのたかねの,なるさはなすよ
#[左注](右五首駿河國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,静岡県,地名,伊豆,天城山,うわさ,人目,恋愛,歌垣,民謡,歌謡
#[訓異]
#[大意]愛しく思って寝ることは愛しく(しょっちゅう)、噂にとどろくことは伊豆の高い山の嶺の鳴沢のようだよ
#{語釈]
ぬらくはしけらく 寝らく愛しけらく
         細、宮 「波」なし。 及(し)けらく  しょっちゅう
伊豆の高嶺 天城山か、伊豆から見える富士山か

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3358S2
#[題詞]一本歌曰
#[原文]阿敝良久波 多麻能乎思家也 古布良久波 布自乃多可祢尓 布流由伎奈須毛
#[訓読]逢へらくは玉の緒しけや恋ふらくは富士の高嶺に降る雪なすも
#[仮名]あへらくは,たまのをしけや,こふらくは,ふじのたかねに,ふるゆきなすも
#[左注](右五首駿河國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,静岡県,富士山,地名,恋情,歌垣,民謡,歌謡
#[訓異]
#[大意]逢うことは玉の緒に及ばない。恋い思うのは富士の高嶺に降る雪のように多く積もっていることだ
#{語釈]
玉の緒しけや 玉の緒のような長さには及ばない
       しけ の如く、のように  及ぶ
       全注釈 玉の緒の短いのにも及ばない

降る雪なすも 雪がいつも積もっているように、恋い思う気持ちはしきりに降り積もる
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3359
#[題詞]
#[原文]駿河能宇美 於思敝尓於布流 波麻都豆良 伊麻思乎多能美 波播尓多我比奴 [一云 於夜尓多我比奴]
#[訓読]駿河の海おし辺に生ふる浜つづら汝を頼み母に違ひぬ [一云 親に違ひぬ]
#[仮名],するがのうみ,おしへにおふる,はまつづら,いましをたのみ,ははにたがひぬ,[おやにたがひぬ]
#[左注]右五首駿河國歌
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,静岡県,駿河湾,地名,植物,恋情,異伝,歌謡,歌垣,民謡
#[訓異]
#[大意]駿河の海の磯部に生えている浜の蔓草が長く絶えないので頼みとできるように、あなたを頼みとして母の言いつけに背いてしまった
#{語釈]
おし辺  磯部
浜つづら  浜辺に生えている蔓草  長く絶えずにの意で頼るにかかる

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3360
#[題詞]
#[原文]伊豆乃宇美尓 多都思良奈美能 安里都追毛 都藝奈牟毛能乎 <美>太礼志米梅楊
#[訓読]伊豆の海に立つ白波のありつつも継ぎなむものを乱れしめめや
#[仮名],いづのうみに,たつしらなみの,ありつつも,つぎなむものを,みだれしめめや
#[左注]或本歌曰 之良久毛能 多延都追母 都我牟等母倍也 美太礼曽米家武 / 右一首伊豆國歌
#[校異]<> -> 美 [西(右書)][類][紀][細]
#[KW],東歌,相聞,静岡県,地名,伊豆,女歌,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]伊豆の海に立つ白波のように絶えずあるように、そのままにあって継いで行こうものなのに、心を乱れさせようか。
#{語釈]
乱れしめめや  乱れしむ めや
#[説明]
いつまでも続く鯉なのだから、心を乱れさせることはないの意

#[関連論文]


#[番号]14/3360S
#[題詞]或本歌曰
#[原文]之良久毛能 多延都追母 都我牟等母倍也 美太礼曽米家武
#[訓読]白雲の絶えつつも継がむと思へや乱れそめけむ
#[仮名],しらくもの,たえつつも,つがむともへや,みだれそめけむ
#[左注]右一首伊豆國歌
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,静岡県,異伝,女歌,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]白雲のように途絶えながらもまた続けようと思うから、心が乱れ始めたのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3361
#[題詞]
#[原文]安思我良能 乎弖毛許乃母尓 佐須和奈乃 可奈流麻之豆美 許呂安礼比毛等久
#[訓読]足柄のをてもこのもにさすわなのかなるましづみ子ろ我れ紐解く
#[仮名],あしがらの,をてもこのもに,さすわなの,かなるましづみ,ころあれひもとく
#[左注](右十二首相模國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,神奈川県,地名,足柄,序詞,恋愛,狩猟,民謡,歌謡
#[訓異]
#[大意]足柄のあちらこちらに張ってある罠が音を立てるように、かまびすしい時が静まってあの子と自分は紐を解くことだ
#{語釈]
をてもこのもに あちらこちらに 彼面(おちおも)此面(このおも)

さすわな 罠に獲物がかかって音が立つことから「かなる」にかかる序詞

かなるましづみ 20/4430
代匠紀 鹿鳴間沈なり。鹿が鳴いて寄ってくる間、狩人は静かにして待つことから言う
   新考 かなる がなる、やかましい意味 夜が更けてかまびすしい人が寝静まっての意

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3362
#[題詞]
#[原文]相模祢乃 乎美祢見所久思 和須礼久流 伊毛我名欲妣弖 吾乎祢之奈久奈
#[訓読]相模嶺の小峰見そくし忘れ来る妹が名呼びて我を音し泣くな
#[仮名],さがむねの,をみねみそくし,わすれくる,いもがなよびて,あをねしなくな
#[左注]或本歌曰 武蔵祢能 乎美祢見可久思 和須礼<遊>久 伎美我名可氣弖 安乎祢思奈久流 / (右十二首相模國歌)
#[校異]所 [岩波大系](塙)(楓) 可 / <> -> 遊 [西(右書)][元][類][古][紀]
#[KW],東歌,相聞,神奈川県,地名,丹沢,別離,恋情,異伝
#[訓異]
#[大意]相模の嶺のその嶺を見捨てて忘れて来るのに妹の名前を呼んで、自分を泣かせるな
#{語釈]
見そくし 代匠紀 見過ごし
     折口  遠く見やる、見はるかす
     西宮一民 所は乙類 見過ごしの場合の退くは、甲類
         見退く 背を向けて見捨てるようにする
     大系  所は可の誤り 見隠くし  見てみないふりをする

我を音し泣くな 泣く 下二段使役動詞  泣かせるな

#[説明]
旅をしている男が、妹の名前を呼ばれて嘆いている歌

#[関連論文]


#[番号]14/3362S
#[題詞]或本歌曰
#[原文]武蔵祢能 乎美祢見可久思 和須礼<遊>久 伎美我名可氣弖 安乎祢思奈久流
#[訓読]武蔵嶺の小峰見隠し忘れ行く君が名懸けて我を音し泣くる
#[仮名],むざしねの,をみねみかくし,わすれゆく,きみがなかけて,あをねしなくる
#[左注](右十二首相模國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,神奈川県,異伝,地名,別離,恋情
#[訓異]
#[大意]武蔵の嶺のあの嶺に背を向けて忘れていくあなたの名前を言葉に懸けて自分を泣かせることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3363
#[題詞]
#[原文]和我世古乎 夜麻登敝夜利弖 麻都之太須 安思我良夜麻乃 須疑乃木能末可
#[訓読]我が背子を大和へ遣りて待つしだす足柄山の杉の木の間か
#[仮名],わがせこを,やまとへやりて,まつしだす,あしがらやまの,すぎのこのまか
#[左注](右十二首相模國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,神奈川県,女歌,別離,悲別,地名,足柄,掛詞
#[訓異]
#[大意]我が背子を大和に出してやって待つ時の足柄山の杉の木の間なのか
#{語釈]
待つしだす 難解 全釈 待つ時(しだ)し

#[説明]
釈注 待つ折りしも私は松ならぬ足柄山の杉 過ぎの木の間なのか

#[関連論文]


#[番号]14/3364
#[題詞]
#[原文]安思我良能 波(I)祢乃夜麻尓 安波麻吉弖 實登波奈礼留乎 阿波奈久毛安夜思
#[訓読]足柄の箱根の山に粟蒔きて実とはなれるを粟無くもあやし
#[仮名],あしがらの,はこねのやまに,あはまきて,みとはなれるを,あはなくもあやし
#[左注]或本歌末句曰 波布久受能 比可波与利己祢 思多奈保那保尓 / (右十二首相模國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,神奈川県,箱根,地名,足柄,掛詞,植物,恋情,農事,民謡,歌謡,異伝
#[訓異]
#[大意]足柄の箱根の山に粟を蒔いて、実にもなっているのに逢わないのは怪しいことだ
#{語釈]
#[説明]
11/2641H01時守の打ち鳴す鼓数みみれば時にはなりぬ逢はなくもあやし
12/3076H01住吉の敷津の浦のなのりその名は告りてしを逢はなくも怪し

#[関連論文]


#[番号]14/3364S
#[題詞]或本歌末句曰
#[原文]波布久受能 比可波与利己祢 思多奈保那保尓
#[訓読]延ふ葛の引かば寄り来ね下なほなほに
#[仮名],はふくずの,ひかばよりこね,したなほなほに
#[左注](右十二首相模國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,神奈川県,異伝,序詞,恋情,民謡,歌謡
#[訓異]
#[大意]這っている葛を引くように誘ったならば寄ってきてくれよ。心すなおに
#{語釈]
下なほなほに 心すなおに

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3365
#[題詞]
#[原文]可麻久良乃 美胡之能佐吉能 伊波久叡乃 伎美我久由倍伎 己許呂波母多自
#[訓読]鎌倉の見越しの崎の岩崩えの君が悔ゆべき心は持たじ
#[仮名],かまくらの,みごしのさきの,いはくえの,きみがくゆべき,こころはもたじ
#[左注](右十二首相模國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,神奈川県,地名,鎌倉,稲村が崎,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]鎌倉の見越しの崎の岩が崩れているようにあなたが後悔するような気持ちは持つまいよ
#{語釈]
見越しの崎  神奈川県鎌倉市稲村が崎 腰越

岩崩え  磯の岩が波に崩れている様子
#[説明]
類歌
03/0437H01妹も我れも清みの川の川岸の妹が悔ゆべき心は持たじ

#[関連論文]


#[番号]14/3366
#[題詞]
#[原文]麻可奈思美 佐祢尓和波由久 可麻久良能 美奈能瀬河泊尓 思保美都奈武賀
#[訓読]ま愛しみさ寝に我は行く鎌倉の水無瀬川に潮満つなむか
#[仮名],まかなしみ,さねにわはゆく,かまくらの,みなのせがはに,しほみつなむか
#[左注](右十二首相模國歌)
#[校異]泊 [元][類][古] 伯
#[KW],東歌,相聞,神奈川県,鎌倉,稲背川,地名,恋愛
#[訓異]
#[大意]かわいくて寝に自分は行く。鎌倉の水無瀬川に潮が満ちていることであろうか
#{語釈]
水無瀬川  みなのせがわ 大日本地名辞書 神奈川県鎌倉市 稲瀬川

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3367
#[題詞]
#[原文]母毛豆思麻 安之我良乎夫祢 安流吉於保美 目許曽可流良米 己許呂波毛倍杼
#[訓読]百づ島足柄小舟歩き多み目こそ離るらめ心は思へど
#[仮名],ももづしま,あしがらをぶね,あるきおほみ,めこそかるらめ,こころはもへど
#[左注](右十二首相模國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,神奈川県,足柄,女歌,恋情,皮肉,揶揄,民謡,歌謡
#[訓異]
#[大意]多くの島を足柄小舟が行くように出歩く所が多いので、逢うことが離れているのだろう。心では思っているのだが。
#{語釈]
百づ島 多くの島を足柄小舟が行くように

目こそ離るらめ心は思へど 目は離れるだろう。心には思っているが。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3368
#[題詞]
#[原文]阿之我利能 刀比能可布知尓 伊豆流湯能 余尓母多欲良尓 故呂河伊波奈久尓
#[訓読]あしがりの土肥の河内に出づる湯のよにもたよらに子ろが言はなくに
#[仮名],あしがりの,とひのかふちに,いづるゆの,よにもたよらに,ころがいはなくに
#[左注](右十二首相模國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,神奈川県,湯河原町,地名,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]足柄の土肥の河内に出る温泉のように決してゆらいではあの子に言わないのに
#{語釈]
土肥の河内  地名辞書 神奈川県足柄下郡湯河原町

よにもたよらに  「よにも」ちっとも、けっして
         「たよらに」ゆらいで安定しない様

#[説明]
不安を与えるようなことを言っていないのに、相手は心変わりの不安を言っているというか

#[関連論文]


#[番号]14/3369
#[題詞]
#[原文]阿之我利乃 麻萬能古須氣乃 須我麻久良 安是加麻可左武 許呂勢多麻久良
#[訓読]あしがりの麻万の小菅の菅枕あぜかまかさむ子ろせ手枕
#[仮名],あしがりの,ままのこすげの,すがまくら,あぜかまかさむ,ころせたまくら
#[左注](右十二首相模國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,神奈川県,地名,足柄,植物,民謡,歌垣,歌謡,口説き,恋愛
#[訓異]
#[大意]足柄のままの小菅の菅枕をどうして枕になさるのか。この子よ。しなさいよ。私の手枕を
#{語釈]
麻万の小菅 全釈 南足柄市壗下(まました)あたりか
      新考 地形の一般名詞 断崖を示す

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3370
#[題詞]
#[原文]安思我里乃 波故祢能祢呂乃 尓古具佐能 波奈都豆麻奈礼也 比母登可受祢牟
#[訓読]あしがりの箱根の嶺ろのにこ草の花つ妻なれや紐解かず寝む
#[仮名],あしがりの,はこねのねろの,にこぐさの,はなつつまなれや,ひもとかずねむ
#[左注](右十二首相模國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,神奈川県,箱根,植物,序詞,恋情,怨恨,地名
#[訓異]
#[大意]足柄の箱根の嶺の柔らかい草の花の妻であるのだったら紐も解かずに寝ようが、そうでないから紐を解いて寝ずにはいられない。
#{語釈]
にこ草 11/2762 和草 柔らかい草
花つ妻 ただ花だけの実態のない妻の意に用いている。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3371
#[題詞]
#[原文]安思我良乃 美佐可加思古美 久毛利欲能 阿我志多婆倍乎 許知弖都流可<毛>
#[訓読]足柄のみ坂畏み曇り夜の我が下ばへをこち出つるかも
#[仮名],あしがらの,みさかかしこみ,くもりよの,あがしたばへを,こちでつるかも
#[左注](右十二首相模國歌)
#[校異]母 -> 毛 [元][類][古][細]
#[KW],東歌,相聞,神奈川県,足柄,恋情,うわさ,地名
#[訓異]
#[大意]足柄のみ坂が恐ろしくて、曇った夜ではないが自分の心の思いを言葉に出したことであるよ
#{語釈]
曇り夜の 曇った夜はものがはっきりと見えないので、「下ばへ」の枕詞
下ばへ  心の中で思っていること 9/1792
こち出つるかも 言出(こといで)。言葉に出したことだ

#[説明]
秘密をもったまま神の前を通り過ぎると祟りがあるという俗信がもとか。

#[関連論文]


#[番号]14/3372
#[題詞]
#[原文]相模治乃 余呂伎能波麻乃 麻奈胡奈須 兒良波可奈之久 於毛波流留可毛
#[訓読]相模道の余綾の浜の真砂なす子らは愛しく思はるるかも
#[仮名],さがむぢの,よろぎのはまの,まなごなす,こらはかなしく,おもはるるかも
#[左注]右十二首相模國歌
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,神奈川県,大磯,地名,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]相模道の余綾の浜の砂のような美しいあの子は愛しく思われることだ
#{語釈]
余綾の浜 神奈川県小田原市国府津(小田原と平塚の間)

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3373
#[題詞]
#[原文]多麻河泊尓 左良須弖豆久利 佐良左良尓 奈仁曽許能兒乃 己許太可奈之伎
#[訓読]多摩川にさらす手作りさらさらになにぞこの子のここだ愛しき
#[仮名],たまかはに,さらすてづくり,さらさらに,なにぞこのこの,ここだかなしき
#[左注](右九首武蔵國歌)
#[校異]泊 [元][古] 伯
#[KW],東歌,相聞,埼玉県,東京都,多摩川,恋情,地名
#[訓異]
#[大意]多摩川にさらす手作りの布のようにさらにさらにどうしてこの子がひどくかわいいのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3374
#[題詞]
#[原文]武蔵野尓 宇良敝可多也伎 麻左弖尓毛 乃良奴伎美我名 宇良尓R尓家里
#[訓読]武蔵野に占部肩焼きまさでにも告らぬ君が名占に出にけり
#[仮名],むざしのに,うらへかたやき,まさでにも,のらぬきみがな,うらにでにけり
#[左注](右九首武蔵國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,埼玉県,東京都,地名,女歌,うわさ,人目,恋愛
#[訓異]
#[大意]武蔵野に占いをし肩を焼いたら、本当にも言葉には出ないあなたの名前が占いに出てしまったことだ
#{語釈]
占部  占いをする
肩焼き 鹿の肩の骨を焼いて占う。亀の甲羅を焼く
まさでにも告らぬ 本当に打ち明けていない
         実際には言葉に出るはずもない(知られるはずのない)

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3375
#[題詞]
#[原文]武蔵野乃 乎具奇我吉藝志 多知和可礼 伊尓之与比欲利 世呂尓安波奈布与
#[訓読]武蔵野のをぐきが雉立ち別れ去にし宵より背ろに逢はなふよ
#[仮名],むざしのの,をぐきがきぎし,たちわかれ,いにしよひより,せろにあはなふよ
#[左注](右九首武蔵國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,埼玉県,東京都,地名,動物,序詞,女歌,悲別,恋情
#[訓異]
#[大意]武蔵野の山の洞穴にいる雉がどこかに行くように立ち別れて行った日からあの人には会わないことだ
#{語釈]
をぐきが雉 「を」接頭語、くきは「岫」。山の洞窟

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3376
#[題詞]
#[原文]古非思家波 素弖毛布良武乎 牟射志野乃 宇家良我波奈乃 伊呂尓豆奈由米
#[訓読]恋しけば袖も振らむを武蔵野のうけらが花の色に出なゆめ
#[仮名],こひしけば,そでもふらむを,むざしのの,うけらがはなの,いろにづなゆめ
#[左注]或本歌曰 伊可尓思弖 古非波可伊毛尓 武蔵野乃 宇家良我波奈乃 伊呂尓R受安良牟 / (右九首武蔵國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,埼玉県,東京都,地名,植物,うわさ,人目,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]恋しいならば袖も振ろうものを。武蔵野のうけらの花のようなはっきりと色には出すなよ。決して。
#{語釈]
うけらが花  山野に自生する菊科の多年生草本。秋に白または紅の花。根は薬用。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3376S
#[題詞]或本歌曰
#[原文]伊可尓思弖 古非波可伊毛尓 武蔵野乃 宇家良我波奈乃 伊呂尓R受安良牟
#[訓読]いかにして恋ひばか妹に武蔵野のうけらが花の色に出ずあらむ
#[仮名],いかにして,こひばかいもに,むざしのの,うけらがはなの,いろにでずあらむ
#[左注](右九首武蔵國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,埼玉県,東京都,異伝,地名,植物,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]どのようにして恋い思ったら、妹に対して武蔵野のうけらの花のような色に出ないでいられようか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3377
#[題詞]
#[原文]武蔵野乃 久佐波母呂武吉 可毛可久母 伎美我麻尓末尓 吾者余利尓思乎
#[訓読]武蔵野の草葉もろ向きかもかくも君がまにまに我は寄りにしを
#[仮名],むざしのの,くさはもろむき,かもかくも,きみがまにまに,わはよりにしを
#[左注](右九首武蔵國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,埼玉県,東京都,地名,女歌,怨恨,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]武蔵野の草葉があちらこちらに向いているように、ともかくもあなたの心のままに自分は寄ったものなのに
#{語釈]
#[説明]
相手の心変わりか浮気をなじっている

#[関連論文]


#[番号]14/3378
#[題詞]
#[原文]伊利麻治能 於保屋我波良能 伊波為都良 比可婆奴流々々 和尓奈多要曽祢
#[訓読]入間道の於保屋が原のいはゐつら引かばぬるぬる我にな絶えそね
#[仮名],いりまぢの,おほやがはらの,いはゐつら,ひかばぬるぬる,わになたえそね
#[左注](右九首武蔵國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,埼玉県,地名,入間,植物,序詞,恋情,民謡,歌垣,歌謡
#[訓異]
#[大意]入間道の大家の原のいわゐ葛ではないが、引くとずるずると付いてきて自分とは途絶えてくれるなよ。
#{語釈]
入間道 和名抄 武蔵国入間郡大家  埼玉県入間郡
いはゐつら 未詳 蔓草の植物 すべりひゆ、じゅんさい、ねなしかずら等

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3379
#[題詞]
#[原文]和我世故乎 安杼可母伊波武 牟射志野乃 宇家良我波奈乃 登吉奈伎母能乎
#[訓読]我が背子をあどかも言はむ武蔵野のうけらが花の時なきものを
#[仮名],わがせこを,あどかもいはむ,むざしのの,うけらがはなの,ときなきものを
#[左注](右九首武蔵國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,埼玉県,東京都,地名,植物,女歌,序詞
#[訓異]
#[大意]我が背子をどのように言おうか。武蔵野のうけらが花ではないが、時とはなく恋しいものだから。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3380
#[題詞]
#[原文]佐吉多萬能 津尓乎流布祢乃 可是乎伊多美 都奈波多由登毛 許登奈多延曽祢
#[訓読]埼玉の津に居る船の風をいたみ綱は絶ゆとも言な絶えそね
#[仮名],さきたまの,つにをるふねの,かぜをいたみ,つなはたゆとも,ことなたえそね
#[左注](右九首武蔵國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,埼玉県,地名,行田,序詞,恋情,女歌,民謡,歌謡
#[訓異]
#[大意]埼玉の船着き場にいる船が風がひどいのでと綱は切れるとしても、二人の音信は絶えるなよ。
#{語釈]
埼玉の津  行田、羽生市のあたりの利根川の船着き場

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3381
#[題詞]
#[原文]奈都蘇妣久 宇奈比乎左之弖 等夫登利乃 伊多良武等曽与 阿我之多波倍思
#[訓読]夏麻引く宇奈比をさして飛ぶ鳥の至らむとぞよ我が下延へし
#[仮名],なつそびく,うなひをさして,とぶとりの,いたらむとぞよ,あがしたはへし
#[左注]右九首武蔵國歌
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,埼玉県,東京都,地名,枕詞,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]夏麻引くうなひを指して飛ぶ鳥のように、あなたの所に行き着こうと自分は密かに思っていることだ。
#{語釈]
夏麻引く 3348 夏の麻を引き抜く畝から「う」にかかる枕詞
宇奈比 地名と見られるが未詳

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3382
#[題詞]
#[原文]宇麻具多能 祢呂乃佐左葉能 都由思母能 奴礼弖和伎奈婆 汝者故布婆曽毛
#[訓読]馬来田の嶺ろの笹葉の露霜の濡れて我来なば汝は恋ふばぞも
#[仮名],うまぐたの,ねろのささはの,つゆしもの,ぬれてわきなば,なはこふばぞも
#[左注](右二首上総國歌)
#[校異]毛 [元][類] 母
#[KW],東歌,相聞,千葉県,木更津,地名,恋情,悲別
#[訓異]
#[大意]馬来田の嶺の笹の葉の露霜のように濡れて自分が来たならば、あなたは恋い思うことだろうよ
#{語釈]
馬来田 千葉県君津郡 木更津市 不明
露霜の濡れて 序の対応関係未詳  露霜のように自分が濡れる
       注釈 露霜のように涙に濡れてやって来たならば
          露霜のように袖が濡れる

恋ふばぞも 未詳 恋ひむぞもの意か

#[説明]
旅立つ男の歌か。

#[関連論文]


#[番号]14/3383
#[題詞]
#[原文]宇麻具多能 祢呂尓可久里為 可久太尓毛 久尓乃登保可婆 奈我目保里勢牟
#[訓読]馬来田の嶺ろに隠り居かくだにも国の遠かば汝が目欲りせむ
#[仮名],うまぐたの,ねろにかくりゐ,かくだにも,くにのとほかば,ながめほりせむ
#[左注]右二首上総國歌
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,千葉県,地名,木更津,羈旅,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]馬来田の嶺に隠れているように、こんなにも国から遠くなったらあなたの目が欲しくなる(逢いたくなる)だろう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3384
#[題詞]
#[原文]可都思加能 麻末能手兒奈乎 麻許登可聞 和礼尓余須等布 麻末乃弖胡奈乎
#[訓読]葛飾の真間の手児名をまことかも我れに寄すとふ真間の手児名を
#[仮名],かづしかの,ままのてごなを,まことかも,われによすとふ,ままのてごなを
#[左注](右四首下総國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,千葉県,地名,伝説,恋愛,民謡,歌謡
#[訓異]
#[大意]葛飾の真間の手児名をほんとうだろうか。自分に言い寄せるというよ。真間の手児名はまあ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3385
#[題詞]
#[原文]可豆思賀能 麻萬能手兒奈我 安里之<可婆> 麻末乃於須比尓 奈美毛登杼呂尓
#[訓読]葛飾の真間の手児名がありしかば真間のおすひに波もとどろに
#[仮名],かづしかの,ままのてごなが,ありしかば,ままのおすひに,なみもとどろに
#[左注](右四首下総國歌)
#[校異]婆可 -> 可婆 [細]
#[KW],東歌,相聞,千葉県,地名,葛飾,伝説,市川
#[訓異]
#[大意]葛飾の真間の手児名がいたので、真間の磯部に波もとどろくばかりに大騒ぎになったのだ
#{語釈]
おすひ 代匠紀 磯部
    裳のこと   裳に波もとどろくばかりに大騒ぎ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3386
#[題詞]
#[原文]尓保杼里能 可豆思加和世乎 尓倍須登毛 曽能可奈之伎乎 刀尓多弖米也母
#[訓読]にほ鳥の葛飾早稲をにへすともその愛しきを外に立てめやも
#[仮名],にほどりの,かづしかわせを,にへすとも,そのかなしきを,とにたてめやも
#[左注](右四首下総國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,千葉県,地名,葛飾,新嘗,祭り,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]にほ鳥の水に潜るその葛飾の早稲の新嘗の祭りの時であったとしても、そのいとしい子を門口で立たしておこうものか
#{語釈]
にほ鳥の  かいつぶり にほ鳥が水に潜る(かづく)からかづしかに続く
にへす  神に供える  新嘗の祭り

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3387
#[題詞]
#[原文]安能於登世受 由可牟古馬母我 可豆思加乃 麻末乃都藝波思 夜麻受可欲波牟
#[訓読]足の音せず行かむ駒もが葛飾の真間の継橋やまず通はむ
#[仮名],あのおとせず,ゆかむこまもが,かづしかの,ままのつぎはし,やまずかよはむ
#[左注]右四首下総國歌
#[校異]豆 [元][類](塙) 都
#[KW],東歌,相聞,千葉県,地名,葛飾,市川,恋情
#[訓異]
#[大意]足の音もしないで行く馬もあればなあ。あるのだったら葛飾の真間の継橋を絶えず通おうものを
#{語釈]
継橋  幅の広い川に板を継いで渡している橋

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3388
#[題詞]
#[原文]筑波祢乃 祢呂尓可須美為 須宜可提尓 伊伎豆久伎美乎 為祢弖夜良佐祢
#[訓読]筑波嶺の嶺ろに霞居過ぎかてに息づく君を率寝て遣らさね
#[仮名],つくはねの,ねろにかすみゐ,すぎかてに,いきづくきみを,ゐねてやらさね
#[左注](右十首常陸國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,茨城県,地名,筑波山,女歌,歌垣,勧誘,恋愛
#[訓異]
#[大意]筑波の嶺に霞がかかっているように、通り過ぎることが出来ないでため息をついている君を寝て帰らせなさいよ
#{語釈]
#[説明]
歌垣の歌か

#[関連論文]


#[番号]14/3389
#[題詞]
#[原文]伊毛我可度 伊夜等保曽吉奴 都久波夜麻 可久礼奴保刀尓 蘇提婆布利弖奈
#[訓読]妹が門いや遠そきぬ筑波山隠れぬほとに袖は振りてな
#[仮名],いもがかど,いやとほそきぬ,つくはやま,かくれぬほとに,そではふりてな
#[左注](右十首常陸國歌)
#[校異]婆 [類] 波
#[KW],東歌,相聞,茨城県,筑波山,地名,別離,羈旅,恋情
#[訓異]
#[大意]妹の門がますます遠くなっていった。筑波山に隠れない間は袖を振ろうよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3390
#[題詞]
#[原文]筑波祢尓 可加奈久和之能 祢乃未乎可 奈伎和多里南牟 安布登波奈思尓
#[訓読]筑波嶺にかか鳴く鷲の音のみをか泣きわたりなむ逢ふとはなしに
#[仮名],つくはねに,かかなくわしの,ねのみをか,なきわたりなむ,あふとはなしに
#[左注](右十首常陸國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,茨城県,地名,筑波山,動物,序詞,恋情,別離
#[訓異]
#[大意]筑波嶺にかかと鳴く鷲の声ではないが、大声を上げてばかり泣き続けていることだろうか。逢うこともなくて
#{語釈]
かか鳴く 擬声語 かかと鳴く

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3391
#[題詞]
#[原文]筑波祢尓 曽我比尓美由流 安之保夜麻 安志可流登我毛 左祢見延奈久尓
#[訓読]筑波嶺にそがひに見ゆる葦穂山悪しかるとがもさね見えなくに
#[仮名],つくはねに,そがひにみゆる,あしほやま,あしかるとがも,さねみえなくに
#[左注](右十首常陸國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,茨城県,地名,筑波山,足尾山,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]筑波嶺の背後に見える葦穂山ではないが、悪いところもちっとも見えないことだ(欠点があればあきらめもしようものなのに)
#{語釈]
葦穂山  筑波山北方足尾山

#[説明]
あばたもえくぼと同じ

#[関連論文]


#[番号]14/3392
#[題詞]
#[原文]筑波祢乃 伊波毛等杼呂尓 於都流美豆 代尓毛多由良尓 和我於毛波奈久尓
#[訓読]筑波嶺の岩もとどろに落つる水よにもたゆらに我が思はなくに
#[仮名],つくはねの,いはもとどろに,おつるみづ,よにもたゆらに,わがおもはなくに
#[左注](右十首常陸國歌)
#[校異]於毛 [元] 毛
#[KW],東歌,相聞,茨城県,地名,筑波山,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]筑波嶺の岩もとどろくばかりに落ちる水のように、ゆらゆらと揺らぐように自分は決して思っていないことだよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3393
#[題詞]
#[原文]筑波祢乃 乎弖毛許能母尓 毛利敝須恵 波播已毛礼杼母 多麻曽阿比尓家留
#[訓読]筑波嶺のをてもこのもに守部据ゑ母い守れども魂ぞ会ひにける
#[仮名],つくはねの,をてもこのもに,もりへすゑ,ははいもれども,たまぞあひにける
#[左注](右十首常陸國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,茨城県,地名,筑波山,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]筑波嶺のあちらこちらに山の番人を置くように母は自分を見張るが魂が会ったことであるよ
#{語釈]
をてもこのも 3361
守部  山の番人 2/0154

#[説明]
類歌 12/3000

#[関連論文]


#[番号]14/3394
#[題詞]
#[原文]左其呂毛能 乎豆久波祢呂能 夜麻乃佐吉 和須<良>許婆古曽 那乎可家奈波賣
#[訓読]さ衣の小筑波嶺ろの山の崎忘ら来ばこそ汝を懸けなはめ
#[仮名],さごろもの,をづくはねろの,やまのさき,わすらこばこそ,なをかけなはめ
#[左注](右十首常陸國歌)
#[校異]良延 -> 良 [元][類]
#[KW],東歌,相聞,茨城県,地名,筑波山,別離,恋情,羈旅
#[訓異]
#[大意]さ衣の小筑波嶺の山の出っ張りよ。お前を忘れて来たらこそお前を心に懸けることもないのに(忘れられないから心から離れないよ)
#{語釈]
さ衣の 緒と小を懸けた枕詞

#[説明]
筑波を離れて旅に出る男の歌か

#[関連論文]


#[番号]14/3395
#[題詞]
#[原文]乎豆久波乃 祢呂尓都久多思 安比太欲波 佐波<太>奈利努乎 萬多祢天武可聞
#[訓読]小筑波の嶺ろに月立し間夜はさはだなりぬをまた寝てむかも
#[仮名],をづくはの,ねろにつくたし,あひだよは,さはだなりぬを,またねてむかも
#[左注](右十首常陸國歌)
#[校異]太尓 -> 太 [元][紀][細][矢]
#[KW],東歌,相聞,茨城県,筑波山,地名,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]小筑波の嶺に月が立つように月になった間の夜はずいぶん経ったがそろそろまた寝てもいいなな
#{語釈]
月立し間夜は 空の月と女の月を懸けている

さはだなりぬ  数多くなった

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3396
#[題詞]
#[原文]乎都久波乃 之氣吉許能麻欲 多都登利能 目由可汝乎見牟 左祢射良奈久尓
#[訓読]小筑波の茂き木の間よ立つ鳥の目ゆか汝を見むさ寝ざらなくに
#[仮名],をづくはの,しげきこのまよ,たつとりの,めゆかなをみむ,さねざらなくに
#[左注](右十首常陸國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,茨城県,地名,筑波山,恋情,別離,羈旅
#[訓異]
#[大意]小筑波の茂っている木の間から飛び立つ鳥が網目にかかっているように、遠目にあなたを見てばかりだろうか。寝てもいないことだが。

#{語釈]
小筑波の茂き木の間よ立つ鳥の 飛び立つ鳥が網にかかる、その網の目

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3397
#[題詞]
#[原文]比多知奈流 奈左可能宇美乃 多麻毛許曽 比氣波多延須礼 阿杼可多延世武
#[訓読]常陸なる浪逆の海の玉藻こそ引けば絶えすれあどか絶えせむ
#[仮名],ひたちなる,なさかのうみの,たまもこそ,ひけばたえすれ,あどかたえせむ
#[左注]右十首常陸國歌
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,茨城県,地名,北浦,植物,恋情
#[訓異]
#[大意]常陸の浪逆の海の玉藻こそ引くと切れるが、二人の仲はどうして途絶えようか
#{語釈]
浪逆の海  茨城県行方郡潮来町から香取あたりの浦

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3398
#[題詞]
#[原文]比等未奈乃 許等波多由登毛 波尓思奈能 伊思井乃手兒我 許<登>奈多延曽祢
#[訓読]人皆の言は絶ゆとも埴科の石井の手児が言な絶えそね
#[仮名],ひとみなの,ことはたゆとも,はにしなの,いしゐのてごが,ことなたえそね
#[左注](右四首信濃國歌)
#[校異]等 -> 登 [元][類][古][紀]
#[KW],東歌,相聞,長野県,埴科,地名,伝説,恋情
#[訓異]
#[大意]人のみんなの音信は途絶えようとも埴科の石井の娘との音信は絶えるなよ
#{語釈]
埴科の石井 長野県埴科郡 川中島の南、千曲川の東 石井は不明

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3399
#[題詞]
#[原文]信濃道者 伊麻能波里美知 可里婆祢尓 安思布麻之<奈牟> 久都波氣和我世
#[訓読]信濃道は今の墾り道刈りばねに足踏ましなむ沓はけ我が背
#[仮名],しなぬぢは,いまのはりみち,かりばねに,あしふましなむ,くつはけわがせ
#[左注](右四首信濃國歌)
#[校異]牟奈 -> 奈牟 [元]
#[KW],東歌,相聞,長野県,女歌,木曽路,地名,恋愛
#[訓異]
#[大意]信濃へ行く道は新しく開いた道です。切り株に葦をお踏みつけなさるでしょう。履き物をはいていらっしゃい。あなた。
#{語釈]
信濃道  木曽路のことを言っているか。大宝二年(702)12月10日「始めて美濃国岐蘇山道を開く」、和銅六年7月7日「吉蘇路を通ず」とあって12年かけて完成。

刈りばね  切り株のこと。

くつはけわがせ

全注釈(従来の多くの解釈) 昭和33年

くつは履物。葛飾の真間の手児名を詠んだ歌に、「履をだにはかず行けども」(巻九・一八〇七)とある。履をはかないではだしであるくのが、むしろ普通だった。わがせは、男子に対して呼びかけている。

後藤利雄
原文「波氣」 「氣」は、上代特殊仮名遣「乙類」仮名
「はけ」は命令形であり、四段活用だと甲類、下二段活用だと乙類仮名が用いられる。
東歌には、乙類のケヘメを甲類で示した例は多くあるが、甲類のケヘメを乙類で示す例は他に全くない。従って従来のように「靴を履きなさい」と「履け」を自動詞四段活用の命令形だとすると甲類仮名となるので、ここは他動詞下二段命令形と見なければならない。
他動詞下二段命令形だと、「靴を履かせなさい」ということになる。
しかし誰に靴を履かせるのか。???

原文
信濃道者 伊麻能波里美知 可里婆祢尓 安思布麻之<牟奈> 久都波氣和我世

諸写本 平安朝末期 元暦校本のみ 奈牟 他はすべて牟奈
しかし、「足踏ましむな」と訓むと、誰の足を踏ませないようにするのか不明であったために、足踏ましなむ(足をお踏みになるだろう)という解釈。

素直に解釈すれば、「足を踏ませないように。靴を履かせなさい。」ということになる。しかし、使役や他動詞になるので、誰への注意なのかが不明であったために、「足踏ましなむ。靴はけ。我が背よ」として、元暦本も勝手に解釈して字を改めたかも知れない。

「くつを履く」ということへの先入観。くつは人間だけが履く物か?

実は「馬」に対しての思いということも考えられる。

「はけ」乙類に気が付いた後藤氏でも、まだこの先入観から出ていない。

遠くの方から旅をする裸足の旅人の妻が、信濃路にさしかかると開墾したばかりの路であるから切り株が残っていてあぶない。だから今は荷に付けておいて、その時になったら靴を履きなさいよ。という思いを言ったものという解釈。

澤潟注釈は、下二段活用を理解しながらも、「(その足に)靴をおはかせなさい」としてしまう。

最近の注釈

伊藤博(釈注)
信濃路は今拓いたばかりの道です。切り株に馬の足を踏ませてはなりません。ちゃんと沓を履かせていらっしゃいな。あなた。

最近の注釈

伊藤博(釈注)
信濃路は今拓いたばかりの道です。切り株に馬の足を踏ませてはなりません。ちゃんと沓を履かせていらっしゃいな。あなた。

「沓」は馬のわらじ。蹄鉄は当時はまだなかった。
筆者の幼年時代でも、藁製がしばしば用いられた。万一の場合を考えて、中馬(荷運び馬)の馬などには鞍に数本のわらじを具備したり、険難な道では、蹄鉄を打ったその上にわらじの馬沓を履かせたりして、馬をいたわったのである。
沓を履いて旅立つに決まっている夫に、「沓履け我が背」と呼びかけるのは自然とは言えない。

ただし、
「気(乙類)」が誤字である。
東歌の四段命令形を筆録者が乙類仮名に聞き取った。
「牟奈」の方が誤りで、元暦本の方が正しい
当時の農民は裸足であることが証明された場合

という可能性はあるが、上記の方が説得性が高い。

「馬」に対する概念(記号)を知らなければならない。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3400
#[題詞]
#[原文]信濃奈流 知具麻能河泊能 左射礼思母 伎弥之布美弖婆 多麻等比呂波牟
#[訓読]信濃なる千曲の川のさざれ石も君し踏みてば玉と拾はむ
#[仮名],しなぬなる,ちぐまのかはの,さざれしも,きみしふみてば,たまとひろはむ
#[左注](右四首信濃國歌)
#[校異]泊 [元] 伯
#[KW],東歌,相聞,長野県,千曲川,地名,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]信濃にある千曲の川のさざれ石もあなたが踏んだならば玉として拾おう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3401
#[題詞]
#[原文]中麻奈尓 宇伎乎流布祢能 許藝弖奈婆 安布許等可多思 家布尓思安良受波
#[訓読]なかまなに浮き居る船の漕ぎ出なば逢ふことかたし今日にしあらずは
#[仮名],なかまなに,うきをるふねの,こぎでなば,あふことかたし,けふにしあらずは
#[左注]右四首信濃國歌
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,長野県,地名,千曲川,別離,女歌,恋情,羈旅
#[訓異]
#[大意]なかまなに浮いて停泊している舟が漕ぎ出したならば逢うことは難しい。今日でなかったら
#{語釈]
なかまな  地名 未詳 千曲川流域
     「中」は ching 「ちぐ」と訓み得る。ちぐまなか

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3402
#[題詞]
#[原文]比能具礼尓 宇須比乃夜麻乎 古由流日波 勢奈能我素R母 佐夜尓布良思都
#[訓読]日の暮れに碓氷の山を越ゆる日は背なのが袖もさやに振らしつ
#[仮名],ひのぐれに,うすひのやまを,こゆるひは,せなのがそでも,さやにふらしつ
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,碓氷,別離,女歌,恋情,羈旅
#[訓異]
#[大意]日暮れ時に碓氷の山を越える日は背なの袖もはっきりとお振りになった
#{語釈]
背なのが 背な 「の」親しみの語  2/236

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3403
#[題詞]
#[原文]安我古非波 麻左香毛可奈思 久佐麻久良 多胡能伊利野乃 於<久>母可奈思母
#[訓読]我が恋はまさかも愛し草枕多胡の入野の奥も愛しも
#[仮名],あがこひは,まさかもかなし,くさまくら,たごのいりのの,おくもかなしも
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]父 -> 久 [代匠記初稿本]
#[KW],東歌,相聞,群馬県,枕詞,地名,多胡,吉井町,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]自分の恋いは今もいとしい。草枕多湖の入野ではないが、将来もいとしいことだ
#{語釈]
まさか 12/2985 現在、今
草枕  「た」にかかる枕詞として使用
多胡の入野 群馬県多野郡吉井町  多湖碑の場所
      入野は、奥へ入り込んだ平野
奥  時間的な奥。将来のこと。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3404
#[題詞]
#[原文]可美都氣努 安蘇能麻素武良 可伎武太伎 奴礼杼安加奴乎 安杼加安我世牟
#[訓読]上つ毛野安蘇のま麻むらかき抱き寝れど飽かぬをあどか我がせむ
#[仮名],かみつけの,あそのまそむら,かきむだき,ぬれどあかぬを,あどかあがせむ
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]上つ毛野の安蘇の麻の束を抱えて運ぶように抱いて寝るが飽きないのを自分はどのようにしようか
#{語釈]
安蘇のま麻むら  栃木県佐野市 安蘇郡 14.3425、3434
         当時上野国にもこの名前があったか
         当時は上野国になっていたのか。
    ま麻むら 麻の束 胸に抱えて運ぶことから抱くにかかる序詞


#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3405
#[題詞]
#[原文]可美都氣努 乎度能多杼里我 可波治尓毛 兒良波安波奈毛 比等理能未思弖
#[訓読]上つ毛野乎度の多杼里が川路にも子らは逢はなもひとりのみして
#[仮名],かみつけの,をどのたどりが,かはぢにも,こらはあはなも,ひとりのみして
#[左注]或本歌曰 可美都氣乃 乎野乃多杼里我 安波治尓母 世奈波安波奈母 美流比登奈思尓 / (右廿二首上野國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,恋情
#[訓異]
#[大意]上つ毛野の乎度の多杼里の川添の道ででもあの子に逢いたいものだ。ひとりだけで。
#{語釈]
乎度の多杼里 群馬県 地名であろうが未詳

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3405S
#[題詞]或本歌曰
#[原文]可美都氣乃 乎野乃多杼里我 安波治尓母 世奈波安波奈母 美流比登奈思尓
#[訓読]上つ毛野小野の多杼里があはぢにも背なは逢はなも見る人なしに
#[仮名],かみつけの,をののたどりが,あはぢにも,せなはあはなも,みるひとなしに
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]上つ毛野の小野の多杼里のあはじでも背なは逢って欲しい。見る人もいないで
#{語釈]
あはぢ 未詳

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3406
#[題詞]
#[原文]可美都氣野 左野乃九久多知 乎里波夜志 安礼波麻多牟恵 許登之許受登母
#[訓読]上つ毛野佐野の茎立ち折りはやし我れは待たむゑ来とし来ずとも
#[仮名],かみつけの,さののくくたち,をりはやし,あれはまたむゑ,ことしこずとも
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,高崎,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]上つ毛野の佐野の菜っ葉を折ってはやし、自分は待とうよ。来ても来ないでも
#{語釈]
佐野  群馬県高崎市 東南烏川沿いに上佐野、下佐野
茎立ち  あぶらな、たかななどの菜類  和名抄 草冠豊に久々太知
折りはやし 料理する意か。
    釈注 呪的行為  「はやす」は栄えあらしめるようにする 16/3885

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3407
#[題詞]
#[原文]可美都氣努 麻具波思麻度尓 安佐日左指 麻伎良波之母奈 安利都追見礼婆
#[訓読]上つ毛野まぐはしまとに朝日さしまきらはしもなありつつ見れば
#[仮名],かみつけの,まぐはしまとに,あさひさし,まきらはしもな,ありつつみれば
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,序詞,恋愛,逢会
#[訓異]
#[大意]上つ毛野のまぐは島戸に朝日がさすようにまぶしいようことだ。こうしてあなたの側にいて眺めていると
#{語釈]
まぐはしまと 仙覚抄 ま妙し窓 まどより、あさひのさしいれて、もののいろのくはしくみゆれば、まくはしまどといへり
       考 真桑島てふ川島など有りて、その潮瀬を門(と)といふならん。さて朝日に向かふ所なるべし
       地名か まぐは島門

まきらはし 目がきらきらとしてまぶしいこと

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3408
#[題詞]
#[原文]尓比多夜麻 祢尓波都可奈那 和尓余曽利 波之奈流兒良師 安夜尓可奈思<母>
#[訓読]新田山嶺にはつかなな我に寄そりはしなる子らしあやに愛しも
#[仮名],にひたやま,ねにはつかなな,わによそり,はしなるこらし,あやにかなしも
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]毛 -> 母 [元][類][古][紀]
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,太田市,金山,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]新田山の嶺ではないが、他人とは寝につくようなことはするなよ。自分に寄り添うとうわさのある中途半端なあの子が、妙に愛しいことだ
#{語釈]
新田山  和名抄 新田郡新田  群馬県太田市金山
     嶺と寝をかける

はしなる 間なる 中途半端な

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3409
#[題詞]
#[原文]伊香保呂尓 安麻久母伊都藝 可奴麻豆久 比等登於多波布 伊射祢志米刀羅
#[訓読]伊香保ろに天雲い継ぎかぬまづく人とおたはふいざ寝しめとら
#[仮名],いかほろに,あまくもいつぎ,かぬまづく,ひととおたはふ,いざねしめとら
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]奴 [元] 努
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,伊香保,人目,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]伊香保の嶺に雲が次々にかかるように次々と近づいてくる人も静まった。さあ寝させないよ。刀羅よ。
#{語釈]
伊香保ろ 群馬県北群馬郡伊香保町

かぬまづく 未詳 代匠紀 彼真附 彼とは上の雲をさす。真附は真は萬に真実なるに付る言葉。雲の山に附如く夫に附依る女とつづくる意なり
      考 いかほの山の雨雲おはびこりつづきて可奴麻てふ所までひとつにつぎ成したり。今も可奴萬のをとて麻を出す所有り
      略解、古義 鹿沼
      新考 鹿沼は下野国にありて伊香保とはいたく相離れたり、。かぬまづくはおそらくはたびたび、かさねがさねなどいふ意の副詞なるべし
      全釈 神沼または上沼の略。伊香保の沼のことで雲が降りてきて着く

人と  人ぞ 訛化

おたはふ 考 おらばふ 音高く言い騒ぐ
     静まる、穏やかになる

とら  不明 刀羅という人の名前か。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3410
#[題詞]
#[原文]伊香保呂能 蘇比乃波里波良 祢毛己呂尓 於久乎奈加祢曽 麻左可思余加婆
#[訓読]伊香保ろの沿ひの榛原ねもころに奥をなかねそまさかしよかば
#[仮名],いかほろの,そひのはりはら,ねもころに,おくをなかねそ,まさかしよかば
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,伊香保,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]伊香保の嶺に沿っている蓁原の根ではないが、ねんごろに行く末を心に懸けるな。今さえよければ。
#{語釈]
蓁原 蓁の原の木の根ではないが ねにかかる

奥をなかねそ 奥 将来、行く末のこと 3403
       11/2728H01近江の海沖つ島山奥まへて我が思ふ妹が言の繁けく
       かね  かける

まさか  3403 今、現在

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3411
#[題詞]
#[原文]多胡能祢尓 与西都奈波倍弖 与須礼騰毛 阿尓久夜斯豆之 曽能可<抱>与吉尓
#[訓読]多胡の嶺に寄せ綱延へて寄すれどもあにくやしづしその顔よきに
#[仮名],たごのねに,よせつなはへて,よすれども,あにくやしづし,そのかほよきに
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]之 [元] 久 / 把 -> 抱 [矢]
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,多胡,吉井町,序詞,怨恨,恋情,口説き
#[訓異]
#[大意]多湖の嶺に引き寄せる綱を掛けて寄せるように、あの子を言い寄せようとするがどうして寄ってこようか。落ち着いていて。その顔はいいのになあ。
#{語釈]
多胡の嶺 群馬県多野郡吉井町

寄せ綱延へて 寄綱を掛けて
  祈年祭祝詞 遠き国は八十綱(やそつな)うち挂(か)けて引き寄する事の如く
  出雲国風土記 三身(みつみ)の綱(つな)うち挂(か)けて、霜黒葛(しもつづら)くるやくるやに、河船(かはふね)のもそろもそろに、国来々々(くにこくにこ)と
引き来縫(きぬ)へる国は、

あにくや どうして寄って来ようか(来るはずもない)
しづし 重石 沈石  落ち着いている
     あ 憎くや しづし
     あに くやし づし
     あに 来や しづし

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3412
#[題詞]
#[原文]賀美都家野 久路保乃祢呂乃 久受葉我多 可奈師家兒良尓 伊夜射可里久母
#[訓読]上つ毛野久路保の嶺ろの葛葉がた愛しけ子らにいや離り来も
#[仮名],かみつけの,くろほのねろの,くずはがた,かなしけこらに,いやざかりくも
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,赤城山,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]上つ毛野の黒保の嶺の葛の葉の蔓がどこまでも延びるように、かわいいあの子にいよいよ離れて来たことだ
#{語釈]
久路保の嶺ろ 赤城山の一峰。黒檜岳

葛葉がた  13/3323「かた」は、14/3412など蔓、条(すぢ)の意や、蔓草の意に用いら れた。そこで「かた」は、「かづ(葛)」と語源は同じ。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3413
#[題詞]
#[原文]刀祢河泊乃 可波世毛思良受 多太和多里 奈美尓安布能須 安敝流伎美可母
#[訓読]利根川の川瀬も知らず直渡り波にあふのす逢へる君かも
#[仮名],とねがはの,かはせもしらず,ただわたり,なみにあふのす,あへるきみかも
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]泊 [元] 伯
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,利根川,序詞,女歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]利根川の川瀬もわからずにむやみに渡り波に合うように、偶然会ったあなたであることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3414
#[題詞]
#[原文]伊香保呂能 夜左可能為提尓 多都努自能 安良波路萬代母 佐祢乎佐祢弖婆
#[訓読]伊香保ろのやさかのゐでに立つ虹の現はろまでもさ寝をさ寝てば
#[仮名],いかほろの,やさかのゐでに,たつのじの,あらはろまでも,さねをさねてば
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,伊香保,序詞,人目,恋愛,逢会
#[訓異]
#[大意]伊香保の八坂の堰に立つ虹のように人目につくまで寝て寝通すことが出来たら
#{語釈]
やさかのゐで ゐでは堰。所在未詳 榛名山麓のどこか。
現はろ 夜が明けて人目につく
    多く会い過ぎて、つきあいがばれて噂になる

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3415
#[題詞]
#[原文]可美都氣努 伊可保乃奴麻尓 宇恵古奈<宜> 可久古非牟等夜 多祢物得米家武
#[訓読]上つ毛野伊香保の沼に植ゑ小水葱かく恋ひむとや種求めけむ
#[仮名],かみつけの,いかほのぬまに,うゑこなぎ,かくこひむとや,たねもとめけむ
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]伎 -> 宜 [元][類][古]
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,伊香保,植物,譬喩,恋情,反省
#[訓異]
#[大意]上つ毛野の伊香保の沼で栽培している小水葱よ。こんなにも恋い思うとして種を探したのだろうか
#{語釈]
植ゑ小水葱  みずあおい科の一年草。葉や芽を食用にする。
種求めけむ 女を捜したであろうか。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3416
#[題詞]
#[原文]可美都氣努 可保夜我奴麻能 伊波為都良 比可波奴礼都追 安乎奈多要曽祢
#[訓読]上つ毛野可保夜が沼のいはゐつら引かばぬれつつ我をな絶えそね
#[仮名],かみつけの,かほやがぬまの,いはゐつら,ひかばぬれつつ,あをなたえそね
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,植物,序詞,採草歌,恋情
#[訓異]
#[大意]上つ毛野の可保夜が沼のいはゐつらを引くとずるずるとついて来るように自分とは途絶えてはくれるな
#{語釈]
可保夜が沼  所在未詳  あるいは天明三年の浅間焼、吾妻川泥おしの時に流失したか。
いはゐつら 未詳 蔓草の植物 すべりひゆ、じゅんさい、ねなしかずら等
ねれつつ ぬるぬると同じ

#[説明]
類歌
14/3378

#[関連論文]


#[番号]14/3417
#[題詞]
#[原文]可美都氣努 伊奈良能奴麻乃 於保為具左 与曽尓見之欲波 伊麻許曽麻左礼 [柿本朝臣人麻呂歌集出也]
#[訓読]上つ毛野伊奈良の沼の大藺草外に見しよは今こそまされ [柿本朝臣人麻呂歌集出也]
#[仮名],かみつけの,いならのぬまの,おほゐぐさ,よそにみしよは,いまこそまされ
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,植物,序詞,恋情,作者:柿本人麻呂歌集
#[訓異]
#[大意]上つ毛野のいならの沼の大藺草よ。よそながら見ていた時よりは今こそ思いがまさるよ
#{語釈]
伊奈良の沼 所在未詳  群馬県邑楽郡板倉町
大藺草  太藺(ふとい) 池沼中に群生。茎は七ミリ程度。丈は二メートル
     筵を織る
     刈り取って筵にした時の方がの意の序詞

#[説明]
よそながら見ていた時も恋しく思っていたが、つきあったらよけいに思いがまさることだと言ったもの

#[関連論文]


#[番号]14/3418
#[題詞]
#[原文]可美都氣<努> 佐野田能奈倍能 武良奈倍尓 許登波佐太米都 伊麻波伊可尓世母
#[訓読]上つ毛野佐野田の苗のむら苗に事は定めつ今はいかにせも
#[仮名],かみつけの,さのだのなへの,むらなへに,ことはさだめつ,いまはいかにせも
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]奴 -> 努 [元][類]
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,佐野,高崎,恋情
#[訓異]
#[大意]上つ毛野の佐野田の苗のむら苗ではないが、占いで結婚を決心しました。今更どうしましょうか
#{語釈]
佐野田  栃木県佐野郡玉村町斎田 群馬県高崎市東南部
むら苗 未詳 偏って生えている苗(直まき) 占いを引き出す序
事は定めつ  結婚を決めたこと

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3419
#[題詞]
#[原文]伊可保世欲 奈可中次下 於毛比度路 久麻許曽之都等 和須礼西奈布母
#[訓読]伊香保せよ奈可中次下思ひどろくまこそしつと忘れせなふも
#[仮名],いかほせよ,*******,おもひどろ,くまこそしつと,わすれせなふも
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]次 [元][類][古] 吹
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,難訓,恋情
#[訓異]
#[大意]意味不明
#{語釈]
伊香保せよ 伊香保瀬から 伊香保の湖の川の瀬から
奈可中次下 難訓
思ひどろ  未詳  思い出るか
くまこそしつと 未詳
忘れせなふも わすれられないことだ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3420
#[題詞]
#[原文]可美都氣努 佐野乃布奈波之 登里波奈之 於也波左久礼騰 和波左可流賀倍
#[訓読]上つ毛野佐野の舟橋取り離し親は放くれど我は離るがへ
#[仮名],かみつけの,さののふなはし,とりはなし,おやはさくれど,わはさかるがへ
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,高崎,恋情,女歌,序詞
#[訓異]
#[大意]上つ毛野の佐野の舟橋を取り放すように親は仲を裂くが自分は割かれるものか
#{語釈]
佐野の舟橋 群馬県高崎市東南  舟を並べてその上に板を置いた橋
      大水の時には取り外すので、放すにかかる序
がへ  かはの訛

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3421
#[題詞]
#[原文]伊香保祢尓 可未奈那里曽祢 和我倍尓波 由恵波奈家杼母 兒良尓与里弖曽
#[訓読]伊香保嶺に雷な鳴りそね我が上には故はなけども子らによりてぞ
#[仮名],いかほねに,かみななりそね,わがへには,ゆゑはなけども,こらによりてぞ
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,伊香保,恋情
#[訓異]
#[大意]伊香保の嶺に雷よ鳴るなよ。自分の上には理由はないが、あの子にとってだぞ。
#{語釈]
子らによりてぞ あの子が怖がるから

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3422
#[題詞]
#[原文]伊可保可是 布久日布加奴日 安里登伊倍杼 安我古非能未思 等伎奈可里家利
#[訓読]伊香保風吹く日吹かぬ日ありと言へど我が恋のみし時なかりけり
#[仮名],いかほかぜ,ふくひふかぬひ,ありといへど,あがこひのみし,ときなかりけり
#[左注](右廿二首上野國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,伊香保,恋情
#[訓異]
#[大意]伊香保風が吹く日や吹かない日があるというが、自分の恋いばかりは時がないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3423
#[題詞]
#[原文]可美都氣努 伊可抱乃祢呂尓 布路与伎能 遊吉須宜可提奴 伊毛賀伊敝乃安多里
#[訓読]上つ毛野伊香保の嶺ろに降ろ雪の行き過ぎかてぬ妹が家のあたり
#[仮名],かみつけの,いかほのねろに,ふろよきの,ゆきすぎかてぬ,いもがいへのあたり
#[左注]右廿二首上野國歌
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,群馬県,地名,伊香保,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]上つ毛野の伊香保の嶺に降る雪ではないが、行き過ぎることの出来ない妹の家のあたりよ
#{語釈]
雪の 行くを引き出す類似音の序詞

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3424
#[題詞]
#[原文]之母都家野 美可母乃夜麻能 許奈良能須 麻具波思兒呂波 多賀家可母多牟
#[訓読]下つ毛野みかもの山のこ楢のすまぐはし子ろは誰が笥か持たむ
#[仮名],しもつけの,みかものやまの,こならのす,まぐはしころは,たがけかもたむ
#[左注](右二首下野國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,栃木県,地名,太田和山,植物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]下つ毛野のみかもの山のこ楢のようなかわいいあの子は誰の茶碗を世話するのだろうか
#{語釈]
みかもの山  栃木県下都賀郡藤岡町大田和三毳山
こ楢  ドングリを付けるブナ科の落葉高木
誰が笥か持たむ 誰のお茶碗を持つだろうか。誰の夫となるだろうかの意

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3425
#[題詞]
#[原文]志母都家<努> 安素乃河泊良欲 伊之布<麻>受 蘇良由登伎奴与 奈我己許呂能礼
#[訓読]下つ毛野阿蘇の川原よ石踏まず空ゆと来ぬよ汝が心告れ
#[仮名],しもつけの,あそのかはらよ,いしふまず,そらゆときぬよ,ながこころのれ
#[左注]右二首下野國歌
#[校異]<> -> 努 [西(右書)][元][類][古][紀] / 泊 [元] 伯 / 麻努 -> 麻 [西(訂正)][元][類][古][紀]
#[KW],東歌,相聞,栃木県,地名,恋情,口説き,求婚
#[訓異]
#[大意]下つ毛野阿蘇の河原を通って石も踏まないで空を飛んで来たのだよ。だからお前の気持ちを聞かせてくれ
#{語釈]
阿蘇の川原  栃木県佐野市 安蘇郡の秋山川
       3434に阿蘇山

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3426
#[題詞]
#[原文]安比豆祢能 久尓乎佐杼抱美 安波奈波婆 斯努比尓勢毛等 比毛牟須婆佐祢
#[訓読]会津嶺の国をさ遠み逢はなはば偲ひにせもと紐結ばさね
#[仮名],あひづねの,くにをさどほみ,あはなはば,しのひにせもと,ひもむすばさね
#[左注](右三首陸奥國歌)
#[校異]毛 [細] 牟
#[KW],東歌,相聞,福島県,東北地方,地名,会津,磐梯山,悲別,恋情
#[訓異]
#[大意]会津の嶺の国が遠くなって逢えなくなったならば思い出すよすがにと紐を結んでくれよ
#{語釈]
会津嶺  会津の方の山々の嶺

紐結ばさね  服の紐か 旅に出る時の別れ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3427
#[題詞]
#[原文]筑紫奈留 尓抱布兒由恵尓 美知能久乃 可刀利乎登女乃 由比思比毛等久
#[訓読]筑紫なるにほふ子ゆゑに陸奥の可刀利娘子の結ひし紐解く
#[仮名],つくしなる,にほふこゆゑに,みちのくの,かとりをとめの,ゆひしひもとく
#[左注](右三首陸奥國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,福島県,東北地方,地名,筑紫,福岡,遊行女婦,浮気,恋愛,防人
#[訓異]
#[大意]筑紫の美しいあの子のために陸奥のかとり娘子の結んだ紐をほどくことだ
#{語釈]
可刀利娘子  かとりは地名であろうが、未詳

#[説明]
防人として旅立った歌

#[関連論文]


#[番号]14/3428
#[題詞]
#[原文]安太多良乃 祢尓布須思之能 安里都々毛 安礼波伊多良牟 祢度奈佐利曽祢
#[訓読]安達太良の嶺に伏す鹿猪のありつつも我れは至らむ寝処な去りそね
#[仮名],あだたらの,ねにふすししの,ありつつも,あれはいたらむ,ねどなさりそね
#[左注]右三首陸奥國歌
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,福島県,東北地方,地名,二本松市,安達太良山,動物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]安達太良の嶺に寝ている鹿や猪がいつも同じねぐらにいるように自分はいつまでも行こう。だから寝る場所を変えないでくれ
#{語釈]
安達太良  福島県安達郡 安達太良山
07/1329H01陸奥の安達太良真弓弦はけて引かばか人の我を言なさむ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3429
#[題詞]譬喩歌
#[原文]等保都安布美 伊奈佐保曽江乃 水乎都久思 安礼乎多能米弖 安佐麻之物能乎
#[訓読]遠江引佐細江のみをつくし我れを頼めてあさましものを
#[仮名],とほつあふみ,いなさほそえの,みをつくし,あれをたのめて,あさましものを
#[左注]右一首遠江國歌
#[校異]
#[KW],東歌,譬喩歌,静岡県,地名,浜名湖,怨恨,恋愛
#[訓異]
#[大意]遠江引佐細江のみをつくしではないが、自分を信頼させておいて、やがては心浅くなっていくものなのに
#{語釈]
引佐細江 静岡県引佐郡細江町気賀
みをつくし 航行の指標となるもの 
あさましものを 心浅くなっていく 舟が頼りとするがそのうち底が浅くなっていく
      底を浅くしておけばよかった
      自分を信頼させて底を浅くしておけばよかった。(そうすればみをつくしなどに頼らなくてもすんだ)

#[説明]
譬喩だとすると、2案か。

#[関連論文]


#[番号]14/3430
#[題詞]
#[原文]斯太能宇良乎 阿佐許求布祢波 与志奈之尓 許求良米可母与 <余>志許佐流良米
#[訓読]志太の浦を朝漕ぐ船はよしなしに漕ぐらめかもよよしこさるらめ
#[仮名],しだのうらを,あさこぐふねは,よしなしに,こぐらめかもよ,よしこさるらめ
#[左注]右一首駿河國歌
#[校異]奈 -> 余 [元]
#[KW],東歌,譬喩歌,静岡県,地名,後朝,恋愛
#[訓異]
#[大意]志太の浦を朝に漕ぐ船は理由もなく漕ぐことがあろうか。理由あってのことなのだ
#{語釈]
志太の浦  静岡県志太郡大井川町
よしなしに  由なしに 理由もなく
漕ぐらめかも 漕ぐことがあろうか
よしこさるらめ 由こそあるらめの略 
#[説明]
朝帰りの男を船にたとえて、からかったもの

#[関連論文]


#[番号]14/3431
#[題詞]
#[原文]阿之我里乃 安伎奈乃夜麻尓 比古布祢乃 斯利比可志母與 許己波故賀多尓
#[訓読]足柄の安伎奈の山に引こ船の後引かしもよここばこがたに
#[仮名],あしがりの,あきなのやまに,ひこふねの,しりひかしもよ,ここばこがたに
#[左注](右三首相模國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,譬喩歌,神奈川県,地名,恋愛
#[訓異]
#[大意]足柄の安伎奈の山で綱で引き下ろす船のように、後ろに引きずられているよ。ひどくあの子のせいで
#{語釈]
安伎奈の山  神奈川県足柄山中 未詳
引こ船の  山で船を造って引き下ろす時に、艫の方へ綱をつけて滑らないようにしておろすこと  播磨国風土記引船山
ここばこがたに  ここだ子が為にの意  こんなにもひどくあの子のせいで

#[説明]
前歌と同様、朝帰りの男をからかっている

#[関連論文]


#[番号]14/3432
#[題詞]
#[原文]阿之賀利乃 和乎可鶏夜麻能 可頭乃木能 和乎可豆佐祢母 可豆佐可受等母
#[訓読]足柄のわを可鶏山のかづの木の我をかづさねも門さかずとも
#[仮名],あしがりの,わをかけやまの,かづのきの,わをかづさねも,かづさかずとも
#[左注](右三首相模國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,譬喩歌,神奈川県,地名,植物,恋愛
#[訓異]
#[大意]足柄の自分を心に懸ける可鶏山のかづの木ではないが、自分をかどわかしてくださいよ。門が開いていないとしても
#{語釈]
可鶏山  神奈川県足柄山中 未詳
かづの木  ぬるでの木
かづさね 誘う かどわかす
門さかず 難解 門し開かずともの意か  

#[説明]
誘いを待つ女の歌

#[関連論文]


#[番号]14/3433
#[題詞]
#[原文]多伎木許流 可麻久良夜麻能 許太流木乎 麻都等奈我伊波婆 古非都追夜安良牟
#[訓読]薪伐る鎌倉山の木垂る木を松と汝が言はば恋ひつつやあらむ
#[仮名],たきぎこる,かまくらやまの,こだるきを,まつとながいはば,こひつつやあらむ
#[左注]右三首相模國歌
#[校異]
#[KW],東歌,譬喩歌,神奈川県,鎌倉,地名,掛詞,恋情
#[訓異]
#[大意]薪を伐る鎌という名前の鎌倉山の枝が茂って垂れている木を松とあなたが云うならば恋い続けているだろうか
#{語釈]
薪伐る 鎌で鎌倉に掛けた実質的枕詞
鎌倉山 神奈川県鎌倉市
松 待つとを掛ける

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3434
#[題詞]
#[原文]可美都家野 安蘇夜麻都豆良 野乎比呂美 波比尓思物能乎 安是加多延世武
#[訓読]上つ毛野阿蘇山つづら野を広み延ひにしものをあぜか絶えせむ
#[仮名],かみつけの,あそやまつづら,のをひろみ,はひにしものを,あぜかたえせむ
#[左注](右三首上野國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,譬喩歌,群馬県,地名,恋情
#[訓異]
#[大意]上つ毛野の安蘇山の蔓草は野が広いので延びはびこっているものであるのに、どうして途絶えるということがあろうか。
#{語釈]
阿蘇 3404
山つづら 3359 蔓草

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3435
#[題詞]
#[原文]伊可保呂乃 蘇比乃波里波良 和我吉奴尓 都伎与良之母与 比多敝登於毛敝婆
#[訓読]伊香保ろの沿ひの榛原我が衣に着きよらしもよひたへと思へば
#[仮名],いかほろの,そひのはりはら,わがきぬに,つきよらしもよ,ひたへとおもへば
#[左注](右三首上野國歌)
#[校異]
#[KW],東歌,譬喩歌,群馬県,地名,伊香保,恋愛
#[訓異]
#[大意]伊香保の嶺の山沿いの榛の木の原は自分の衣によく摺り着くことだ。一重だと思うと。
#{語釈]
着きよらしもよ 3431 もよ 詠嘆
ひたへ  一重 裏がない  一心に思っていること

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3436
#[題詞]
#[原文]志良登保布 乎尓比多夜麻乃 毛流夜麻乃 宇良賀礼勢奈<那> 登許波尓毛我母
#[訓読]しらとほふ小新田山の守る山のうら枯れせなな常葉にもがも
#[仮名],しらとほふ,をにひたやまの,もるやまの,うらがれせなな,とこはにもがも
#[左注]右三首上野國歌
#[校異]<> -> 那 [西(右書)][元][紀][温]
#[KW],東歌,譬喩歌,群馬県,地名,太田市,金山,恋情
#[訓異]
#[大意]しらとほふ小新田山の番人をおいて守る山が木末の葉も枯れないで、いつまでも青々とした葉であって欲しい
#{語釈]
しらとほふ 語義、かかり方未詳  小新田山の枕詞
小新田山 3408
うら枯れせなな 木末の葉が枯れないで  打ち消し「な」に願望の助詞「な」

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3437
#[題詞]
#[原文]美知乃久能 安太多良末由美 波自伎於伎弖 西良思馬伎那婆 都良波可馬可毛
#[訓読]陸奥の安達太良真弓はじき置きて反らしめきなば弦はかめかも
#[仮名],みちのくの,あだたらまゆみ,はじきおきて,せらしめきなば,つらはかめかも
#[左注]右一首陸奥國歌
#[校異]
#[KW],東歌,譬喩歌,福島県,東北地方,地名,二本松市,安達太良山,女歌,浮気,恋愛
#[訓異]
#[大意]陸奥の安達太良真弓を弦をはづしておいて反らせてしまったならば、弦を張ることが出来ようか
#{語釈]
安達太良真弓  1329  福島県安達太良山周辺の檀の木で作った弓
はじき置きて 弦をはづしておいて
反らしめきなば 反らせてきたならば
弦はかめ  弦を張ること

#[説明]
02/0097H01み薦刈る信濃の真弓引かずして強ひさるわざを知ると言はなくに[郎女]
02/0098H01梓弓引かばまにまに寄らめども後の心を知りかてぬかも[郎女]
02/0099H01梓弓弦緒取りはけ引く人は後の心を知る人ぞ引く

#[関連論文]


#[番号]14/3438
#[題詞]雜歌
#[原文]都武賀野尓 須受我於等伎許由 可牟思太能 等能乃奈可知師 登我里須良思母
#[訓読]都武賀野に鈴が音聞こゆ可牟思太の殿のなかちし鳥猟すらしも
#[仮名],つむがのに,すずがおときこゆ,かむしだの,とののなかちし,とがりすらしも
#[左注]或本歌曰 美都我野尓 又曰 和久胡思
#[校異]
#[KW],東歌,雑歌,地名,静岡県,鷹狩り,狩り讃美
#[訓異]
#[大意]都武賀野に鈴の音が聞こえる。上志太の殿の次男坊が鷹狩りをするらしいよ
#{語釈]
都武賀野  所在未詳
鈴が音  鷹につける鈴  17/4011
可牟思太  不明  上シダ 駿河国志太郡、常陸国信太郡、陸奥国志太郡
なかち   仲子、次男

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3438S
#[題詞]或本歌曰 又曰
#[原文]美都我野尓 和久胡思
#[訓読]美都我野に 若子し
#[仮名],みつがのに ,わくごし,
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,雑歌,地名,異伝,狩り讃美
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]
美都我野 地名か。未詳
若子  若殿

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3439
#[題詞]
#[原文]須受我祢乃 波由馬宇馬夜能 都追美井乃 美都乎多麻倍奈 伊毛我多太手欲
#[訓読]鈴が音の早馬駅家の堤井の水を給へな妹が直手よ
#[仮名],すずがねの,はゆまうまやの,つつみゐの,みづをたまへな,いもがただてよ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,雑歌,宿駅,宴席,歌謡
#[訓異]
#[大意]鈴の音のする駅馬の宿駅のつつみ井戸の水を下さいな。妹の手から直接。
#{語釈]
つつみ井 石などを積んで包んだようになっている井戸
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3440
#[題詞]
#[原文]許乃河泊尓 安佐菜安良布兒 奈礼毛安礼毛 余知乎曽母弖流 伊R兒多婆里尓 [一云 麻之毛安礼母]
#[訓読]この川に朝菜洗ふ子汝れも我れもよちをぞ持てるいで子給りに [一云 ましも我れも]
#[仮名],このかはに,あさなあらふこ,なれもあれも,よちをぞもてる,いでこたばりに,[ましもあれも]
#[左注]
#[校異]泊 [元][紀] 伯
#[KW],東歌,雑歌,戯笑,宴席,異伝,歌謡,東歌
#[訓異]
#[大意]この川で朝菜を洗っている子よ。お前も自分もよい物を持っているよ。さあ子を授かりに。お前も自分も
#{語釈]
よち  よちこ 5/804 13/3307 同年輩の子  同じ年頃の子ども
    全釈 このヨチ・ヨチコは同年輩の若い男女の意から転じた隠語であって卑猥な意味になるのではあるまいかと想像される。河岸で朝菜を洗っている処女のだらしない姿を見て、若い男が対岸から呼びかけたもの

いで子給りに  子どもを授かりに。子どもを授かることをしようと歌いかけたもの
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3441
#[題詞]
#[原文]麻等保久能 久毛為尓見由流 伊毛我敝尓 伊都可伊多良武 安由賣安我古麻
#[訓読]ま遠くの雲居に見ゆる妹が家にいつか至らむ歩め我が駒
#[仮名],まとほくの,くもゐにみゆる,いもがへに,いつかいたらむ,あゆめあがこま
#[左注]柿本朝臣人麻呂歌集曰 等保久之弖 又曰 安由賣久路古<麻>
#[校異]麿 -> 麻 [元][類][紀]
#[KW],東歌,雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,異伝,羈旅,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]遠くの雲居に見える妹の家に早く行き着こう。歩け。我が馬よ。
#{語釈]
人麻呂歌集歌 7/1271

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3441S
#[題詞]柿本朝臣人麻呂歌集曰 又曰
#[原文]等保久之弖 安由賣久路古<麻>
#[訓読]遠くして 歩め黒駒
#[仮名],とほくして ,あゆめくろこま
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,雑歌,異伝,作者:柿本人麻呂歌集,羈旅,恋情,望郷
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]
黒駒 夜に目立たないので妻問いに用いられる黒毛の馬

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3442
#[題詞]
#[原文]安豆麻治乃 手兒乃欲妣左賀 古要我祢弖 夜麻尓可祢牟毛 夜杼里波奈之尓
#[訓読]東道の手児の呼坂越えがねて山にか寝むも宿りはなしに
#[仮名],あづまぢの,てごのよびさか,こえがねて,やまにかねむも,やどりはなしに
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,雑歌,地名,静岡県,蒲原町,羈旅,難渋
#[訓異]
#[大意]東国の手児の呼坂を越えることが出来ないで山に寝ることだ。宿る家もなくて
#{語釈]
東道の手児の呼坂 所在未詳 手児が呼びかける坂

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3443
#[題詞]
#[原文]宇良毛奈久 和我由久美知尓 安乎夜宜乃 波里弖多弖礼波 物能毛比弖都母
#[訓読]うらもなく我が行く道に青柳の張りて立てれば物思ひ出つも
#[仮名],うらもなく,わがゆくみちに,あをやぎの,はりてたてれば,ものもひでつも
#[左注]
#[校異]弖 [元][類][古] 豆
#[KW],東歌,雑歌,植物,羈旅,望郷
#[訓異]
#[大意]無心に自分が行く道に青柳が芽を張って立っているので物思いが出たことであるよ
#{語釈]
うらもなく 12/2968 無心に
#[説明]
旅の途中、何の思いもなく道を歩いていたら、柳の芽が出ているのを見て、家の柳を思い出して、望郷の念が出てしまったというもの。

#[関連論文]


#[番号]14/3444
#[題詞]
#[原文]伎波都久乃 乎加能久君美良 和礼都賣杼 故尓毛<美>多奈布 西奈等都麻佐祢
#[訓読]伎波都久の岡のくくみら我れ摘めど籠にも満たなふ背なと摘まさね
#[仮名],きはつくの,をかのくくみら,われつめど,こにもみたなふ,せなとつまさね
#[左注]
#[校異]乃 -> 美 [万葉考]
#[KW],東歌,雑歌,地名,茨城県,真壁郡,植物,野遊び,掛け合い,女歌,歌垣,歌謡,恋愛
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]
伎波都久の岡  地名 仙覚抄 常陸国真壁郡
        名義抄 栫 かき、ませ、きはつく 家のまわりを丘が取り囲むようになている場所

くくみら ニラの茎

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3445
#[題詞]
#[原文]美奈刀<能> 安之我奈可那流 多麻古須氣 可利己和我西古 等許乃敝太思尓
#[訓読]港の葦が中なる玉小菅刈り来我が背子床の隔しに
#[仮名],みなとの,あしがなかなる,たまこすげ,かりこわがせこ,とこのへだしに
#[左注]
#[校異]安之能 -> 能 [元][類][古][紀] [西(訂正左書)] 能也
#[KW],東歌,雑歌,植物,女歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]港の葦の中にある美しい小菅を刈って来てください。我が背子よ。寝床の隔てにするために。
#{語釈]
床の隔し  床の囲いにするもの
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3446
#[題詞]
#[原文]伊毛奈呂我 都可布河泊豆乃 佐<左良乎疑> 安志等比<登>其等 加多理与良斯毛
#[訓読]妹なろが使ふ川津のささら荻葦と人言語りよらしも
#[仮名],いもなろが,つかふかはづの,ささらをぎ,あしとひとごと,かたりよらしも
#[左注]
#[校異]泊 [元][紀] 伯 / 左良乎疑 [西(上書訂正)][元][類][紀] / 等 -> 登 [元][類][紀]
#[KW],東歌,雑歌,植物,うわさ,譬喩,恋愛,遊行女婦
#[訓異]
#[大意]妹が使う川津のささら荻なのに、葦(悪い)と世間の人は言い寄っていることだ
#{語釈]
妹なろが  「な」愛称、「ろ」接尾語

使ふ  使う 利用する 荻を何かに編んでいるか
    付かふ 菜洗いなどのためにいつも寄り付いている
    新考 妹が小舟に棹をさして近づく川津

ささら荻 さざれと同じ。最小の荻  共寝の床を言うか。

語りよらしも 語り宜しも 話すのが調子がいいがいかがなものか
       語り寄らしも  言い寄っていることだ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3447
#[題詞]
#[原文]久佐可氣乃 安努奈由可武等 波里之美知 阿努波由加受弖 阿良久佐太知奴
#[訓読]草蔭の安努な行かむと墾りし道安努は行かずて荒草立ちぬ
#[仮名],くさかげの,あのなゆかむと,はりしみち,あのはゆかずて,あらくさだちぬ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,雑歌,植物,地名,静岡県,浮島沼,枕詞,新道,譬喩
#[訓異]
#[大意]草陰の安努へ行こうと開墾した道なのに、安努へは行かないで雑草が茂ってしまった
#{語釈]
草蔭の 12/3192 「あ」にかかる枕詞。係り方未詳
安努  地名 伊勢国阿濃郡 東国には入らない。駿河阿野荘


#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3448
#[題詞]
#[原文]波奈治良布 己能牟可都乎乃 乎那能乎能 比自尓都久麻提 伎美我与母賀母
#[訓読]花散らふこの向つ峰の乎那の峰のひじにつくまで君が代もがも
#[仮名],はなぢらふ,このむかつをの,をなのをの,ひじにつくまで,きみがよもがも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,雑歌,地名,静岡県,引佐郡,三日ヶ町,尾奈山,寿歌,長久
#[訓異]
#[大意]花が散りみだれるこの向こうの嶺である乎那の峰が海に浸るような長い間、あなたの寿命があればなあ。
#{語釈]
乎那の峰  未詳 考 上総国 
         古義 和名抄 信濃国更級郡小谷 乎宇奈
                遠江国磐田郡小谷
ひじにつくまで  未詳 ひじ 仙覚抄 海中の州か
            つくは漬くで見ずに浸る。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3449
#[題詞]
#[原文]思路多倍乃 許呂母能素R乎 麻久良我欲 安麻許伎久見由 奈美多都奈由米
#[訓読]白栲の衣の袖を麻久良我よ海人漕ぎ来見ゆ波立つなゆめ
#[仮名],しろたへの,ころものそでを,まくらがよ,あまこぎくみゆ,なみたつなゆめ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,雑歌,枕詞,地名,茨城県,古川市,掛詞
#[訓異]
#[大意]白妙の衣の袖を枕にするその麻久良我を通って漁師が漕いで来るのが見える。波よ立つなよ。決して。
#{語釈]
麻久良我よ  地名 未詳 3555

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3450
#[題詞]
#[原文]乎久佐乎等 乎具佐受家乎等 斯抱布祢乃 那良敝弖美礼婆 乎具佐可<知>馬利
#[訓読]乎久佐男と乎具佐受家男と潮舟の並べて見れば乎具佐勝ちめり
#[仮名],をくさをと,をぐさずけをと,しほぶねの,ならべてみれば,をぐさかちめり
#[左注]
#[校異]利 -> 知 [類]
#[KW],東歌,雑歌,地名,宴席,戯笑
#[訓異]
#[大意]乎久佐男と乎具佐受家男と潮船のように並べて見ると乎具佐が勝つだろう
#{語釈]
乎久佐男 乎久佐の男 村落名であろうが不明
乎具佐受家男  次丁(老丁)  助男か。年上の男
潮舟の  潮の満ち引きの流れを利用して進む船
     引き潮で浜辺に並んでいる船。並べるの枕詞 東歌のみ

#[説明]
祭りや座興で若者と年寄りとを競争させるときの歌か

#[関連論文]


#[番号]14/3451
#[題詞]
#[原文]左奈都良能 乎可尓安波麻伎 可奈之伎我 <古>麻波多具等毛 和波素登毛波自
#[訓読]左奈都良の岡に粟蒔き愛しきが駒は食ぐとも我はそとも追じ
#[仮名],さなつらの,をかにあはまき,かなしきが,こまはたぐとも,わはそともはじ
#[左注]
#[校異]古 [西(上書訂正)][元][類][紀]
#[KW],東歌,雑歌,地名,植物,動物,女歌,宴席
#[訓異]
#[大意]左奈都良の岡に粟を蒔いていとしい人の馬が食べようとも自分はそそとも追わないよ
#{語釈]
左奈都良の岡 地名であろうが未詳。
食ぐとも  食べる  02/0221
そとも追じ そそとも追わない 13/3324

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3452
#[題詞]
#[原文]於毛思路伎 野乎婆奈夜吉曽 布流久左尓 仁比久佐麻自利 於非波於布流我尓
#[訓読]おもしろき野をばな焼きそ古草に新草交り生ひは生ふるがに
#[仮名],おもしろき,のをばなやきそ,ふるくさに,にひくさまじり,おひはおふるがに
#[左注]
#[校異]左 [元][類] 佐
#[KW],東歌,雑歌,野焼き
#[訓異]
#[大意]風趣ある野をは焼くなよ。古い草に新しい草が混じって生えるなら生えるように。
#{語釈]
生ふるがに  ように
04/0594H01我がやどの夕蔭草の白露の消ぬがにもとな思ほゆるかも

#[説明]
伊勢物語  武蔵野は今日はな焼きそ若草のつまもこもれり我もこもれり

#[関連論文]


#[番号]14/3453
#[題詞]
#[原文]可是<能>等能 登抱吉和伎母賀 吉西斯伎奴 多母登乃久太利 麻欲比伎尓家利
#[訓読]風の音の遠き我妹が着せし衣手本のくだりまよひ来にけり
#[仮名],かぜのとの,とほきわぎもが,きせしきぬ,たもとのくだり,まよひきにけり
#[左注]
#[校異]乃 -> 能 [元][類]
#[KW],東歌,雑歌,枕詞,羈旅,望郷
#[訓異]
#[大意]風の音のように遙か遠くにいる我妹が着せた衣よ。袂の筋がほつれてきたことだ
#{語釈]
手本のくだり 袖口から袖付けまでの筋

#[説明]
長旅に出た男の望郷

#[関連論文]


#[番号]14/3454
#[題詞]
#[原文]尓波尓多都 安佐提古夫須麻 許余比太尓 都麻余之許西祢 安佐提古夫須麻
#[訓読]庭に立つ麻手小衾今夜だに夫寄しこせね麻手小衾
#[仮名],にはにたつ,あさでこぶすま,こよひだに,つまよしこせね,あさでこぶすま
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,雑歌,植物,恋情
#[訓異]
#[大意]庭に立つ麻で織った布団よ。今夜だけでも夫を寄せて来てくれよ。麻の布団よ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3455
#[題詞]相聞
#[原文]古非思家婆 伎麻世和我勢古 可伎都楊疑 宇礼都美可良思 和礼多知麻多牟
#[訓読]恋しけば来ませ我が背子垣つ柳末摘み枯らし我れ立ち待たむ
#[仮名],こひしけば,きませわがせこ,かきつやぎ,うれつみからし,われたちまたむ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,女歌,恋情,植物
#[訓異]
#[大意]恋しいならばいらっしゃい。我が背子よ。垣根の柳の木末の葉を摘み枯らして自分は立って待っていよう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3456
#[題詞]
#[原文]宇都世美能 夜蘇許登乃敝波 思氣久等母 安良蘇比可祢弖 安乎許登奈須那
#[訓読]うつせみの八十言のへは繁くとも争ひかねて我を言なすな
#[仮名],うつせみの,やそことのへは,しげくとも,あらそひかねて,あをことなすな
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,うわさ,恋愛,女歌
#[訓異]
#[大意]世間の人の多くのうわさはどんなに繁くとも、抵抗しかねて自分の名前を口には出すなよ。
#{語釈]
争ひかねて  抵抗しかねて あらがいかねて
言なす  口に出す 言葉に出す

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3457
#[題詞]
#[原文]宇知日佐須 美夜能和我世波 夜麻<登>女乃 比射麻久其登尓 安乎和須良須奈
#[訓読]うちひさす宮の我が背は大和女の膝まくごとに我を忘らすな
#[仮名],うちひさす,みやのわがせは,やまとめの,ひざまくごとに,あをわすらすな
#[左注]
#[校異]等 -> 登 [元][類][古][紀]
#[KW],東歌,相聞,恋愛,不安,別離,女歌
#[訓異]
#[大意]内日さす宮仕えをする我が背は大和女の膝を枕にすることはあるのは仕方がないにしても、自分をお忘れにはなるなよ。
#{語釈]
うちひさす 宮の枕詞
宮  衛士あたりで都に出仕する
まくごとに 膝はまくとも に近い気持ち

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3458
#[題詞]
#[原文]奈勢能古夜 等里乃乎加恥志 奈可太乎礼 安乎祢思奈久与 伊久豆君麻弖尓
#[訓読]汝背の子や等里の岡道しなかだ折れ我を音し泣くよ息づくまでに
#[仮名],なせのこや,とりのをかちし,なかだをれ,あをねしなくよ,いくづくまでに
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,恋情,後朝,女歌
#[訓異]
#[大意]我が背の子よ。等里の岡道は真ん中で折れ曲がっていて、あなたの姿がすぐに見えなくなり大声を上げて泣くことだ。嘆息するまでに。
#{語釈]
汝背の子 我が背
等里の岡道  未詳 和名抄 常陸国鹿島郡下つ鳥中つ鳥上つ鳥
なかだ折れ  中途で折れ曲がる

#[説明]
後朝の別れを歌ったものか。

#[関連論文]


#[番号]14/3459
#[題詞]
#[原文]伊祢都氣波 可加流安我<手>乎 許余比毛可 等能乃和久胡我 等里弖奈氣可武
#[訓読]稲つけばかかる我が手を今夜もか殿の若子が取りて嘆かむ
#[仮名],いねつけば,かかるあがてを,こよひもか,とののわくごが,とりてなげかむ
#[左注]
#[校異]手 [西(上書訂正)][元][類][紀]
#[KW],東歌,相聞,女歌,作業歌,恋愛
#[訓異]
#[大意]稲をつくのであかぎれできれた自分の手を今夜もだろうか。殿の若様が取って嘆くだろうか。
#{語釈]
かかる  あかぎれがきれる

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3460
#[題詞]
#[原文]多礼曽許能 屋能戸於曽夫流 尓布奈未尓 和<我>世乎夜里弖 伊波布許能戸乎
#[訓読]誰れぞこの屋の戸押そぶる新嘗に我が背を遣りて斎ふこの戸を
#[仮名],たれぞこの,やのとおそぶる,にふなみに,わがせをやりて,いはふこのとを
#[左注]
#[校異]家 -> 我 [元][類][古]
#[KW],東歌,相聞,女歌,新嘗,咎め歌,妻問い
#[訓異]
#[大意]誰がこの家の戸を押しゆさぶるのか。新嘗の祭りに我が背を遣わして、精進潔斎しているこの戸を
#{語釈]
押そぶる  開けようと押し揺さぶる 鍵がかかっている
      八千矛の神謡 押そぶらひ我が立たせれば
我が背を遣りて 我が背は祭りの場に遣わして、自分は家で潔斎している
男を外に出して、自分が祭りをしている

#[説明]
14/3386
新嘗祭は、女がひとりで忌み隠りをして御祖の神を迎える習慣があったか。
そのような時は、浮気な男の訪問の絶好の機会になる。

#[関連論文]


#[番号]14/3461
#[題詞]
#[原文]安是登伊敝可 佐宿尓安波奈久尓 真日久礼弖 与比奈波許奈尓 安家奴思太久流
#[訓読]あぜと言へかさ寝に逢はなくにま日暮れて宵なは来なに明けぬしだ来る
#[仮名],あぜといへか,さねにあはなくに,まひくれて,よひなはこなに,あけぬしだくる
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,女歌,恋情,妻問い,怨恨
#[訓異]
#[大意]何としたことか。寝るのに逢わなくて、日が暮れて宵には来ないで明ける時に来るとは。
#{語釈]
あぜと言へか  あぜ 3369 何と言ったことか
宵な 「な」は伴寝の出来る宵を親しんで言ったもの。背なの「な」と同じ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3462
#[題詞]
#[原文]安志比奇乃 夜末佐波妣登乃 比登佐波尓 麻奈登伊布兒我 安夜尓可奈思佐
#[訓読]あしひきの山沢人の人さはにまなと言ふ子があやに愛しさ
#[仮名],あしひきの,やまさはびとの,ひとさはに,まなといふこが,あやにかなしさ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]あしひきの山沢に住む人が大勢集まっているように、多くの人がかわいいというあの子がやけにかわいいことだ
#{語釈]
山沢人  山沢に集まって住む人 山あいの集落の人
     さはにを引き出す序
まな  代匠紀 愛子と書きてまなごとよめる意


#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3463
#[題詞]
#[原文]麻等保久能 野尓毛安波奈牟 己許呂奈久 佐刀乃美奈可尓 安敝流世奈可母
#[訓読]ま遠くの野にも逢はなむ心なく里のみ中に逢へる背なかも
#[仮名],まとほくの,のにもあはなむ,こころなく,さとのみなかに,あへるせなかも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,人目,うわさ,恋愛,女歌
#[訓異]
#[大意]遠く離れた野ででも逢いたいものだ。無情にも里の真ん中で逢った背であるなあ
#{語釈]
#[説明]
類想 3405

#[関連論文]


#[番号]14/3464
#[題詞]
#[原文]比登其登乃 之氣吉尓余里弖 麻乎其母能 於夜自麻久良波 和波麻可自夜毛
#[訓読]人言の繁きによりてまを薦の同じ枕は我はまかじやも
#[仮名],ひとごとの,しげきによりて,まをごもの,おやじまくらは,わはまかじやも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,うわさ,恋愛,女歌
#[訓異]
#[大意]人のうわさのひどいからといって薦で作った同じ枕を自分は枕としないということがあろうか
#{語釈]
まを薦 まを 接頭語  さを鹿などと同じ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3465
#[題詞]
#[原文]巨麻尓思吉 比毛登伎佐氣弖 奴流我倍尓 安杼世呂登可母 安夜尓可奈之伎
#[訓読]高麗錦紐解き放けて寝るが上にあどせろとかもあやに愛しき
#[仮名],こまにしき,ひもときさけて,ぬるがへに,あどせろとかも,あやにかなしき
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]高麗錦の紐を解き放して寝るうえに何をしろというのか。やたらといとおしいことだ。
#{語釈]
寝るが上に 寝るがうへにのつづまったもの
あどせろとかも 3404

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3466
#[題詞]
#[原文]麻可奈思美 奴礼婆許登尓豆 佐祢奈敝波 己許呂乃緒呂尓 能里弖可奈思母
#[訓読]ま愛しみ寝れば言に出さ寝なへば心の緒ろに乗りて愛しも
#[仮名],まかなしみ,ぬればことにづ,さねなへば,こころのをろに,のりてかなしも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,うわさ,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]愛しいのでと寝るとうわさになる。寝ないと心にかかっていとしいことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3467
#[題詞]
#[原文]於久夜麻能 真木乃伊多度乎 等杼登之弖 和<我>比良可武尓 伊利伎弖奈左祢
#[訓読]奥山の真木の板戸をとどとして我が開かむに入り来て寝さね
#[仮名],おくやまの,まきのいたとを,とどとして,わがひらかむに,いりきてなさね
#[左注]
#[校異]我 [西(上書訂正)][元][類][古][紀]
#[KW],東歌,相聞,妻問い,恋愛
#[訓異]
#[大意]奥山の立派な木の板戸をごとごとと音を立てて自分は開こうから入ってきて寝なさいよ
#{語釈]
とどとして  ごとごとと音を立てて
11/2653H01馬の音のとどともすれば松蔭に出でてぞ見つるけだし君かと
とどとも 馬の足音の擬態語 とつとつと

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3468
#[題詞]
#[原文]夜麻杼里乃 乎呂能<波>都乎尓 可賀美可家 刀奈布倍美許曽 奈尓与曽利鶏米
#[訓読]山鳥の峰ろのはつをに鏡懸け唱ふべみこそ汝に寄そりけめ
#[仮名],やまとりの,をろのはつをに,かがみかけ,となふべみこそ,なによそりけめ
#[左注]
#[校異]<> -> 波 [西(左書)][元][類][紀]
#[KW],東歌,相聞,うわさ,恋愛,神祭り
#[訓異]
#[大意]山鳥の尾の長い尾に鏡を掛け、神の名前を唱えるように、あなたの名前を唱えるからこそあなたに寄り添ったことだ
#{語釈]
はつを 代匠紀 秀尾(ほつを) 長い尾
    全注釈 尾に鏡が掛けられるはずがない。
        初麻苧 初麻に鏡を掛けて唱えごとをして神霊を降ろす祝いの祭り
        麻の収穫を祝う祭り
唱ふべみこそ  唱えるからこそ 神の導きであなたに寄った
        浮き名を唱えようとこそ、あなたに心を寄せた
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3469
#[題詞]
#[原文]由布氣尓毛 許余比登乃良路 和賀西奈波 阿是曽母許与比 与斯呂伎麻左奴
#[訓読]夕占にも今夜と告らろ我が背なはあぜぞも今夜寄しろ来まさぬ
#[仮名],ゆふけにも,こよひとのらろ,わがせなは,あぜぞもこよひ,よしろきまさぬ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,女歌,妻問い,恋情
#[訓異]
#[大意]夕占にも今夜来ると出た。なのに我が背はどうして今夜は寄っては来られないのだろう
#{語釈]
#[説明]
みやこ言葉
夕占にも今夜と告らる。我が背子は何ぞも今夜寄りて来まさぬ

#[関連論文]


#[番号]14/3470
#[題詞]
#[原文]安比見弖波 千等世夜伊奴流 伊奈乎加<母> 安礼也思加毛布 伎美末知我弖尓 [柿本朝臣人麻呂歌集出也]
#[訓読]相見ては千年やいぬるいなをかも我れやしか思ふ君待ちがてに [柿本朝臣人麻呂歌集出也]
#[仮名],あひみては,ちとせやいぬる,いなをかも,あれやしかもふ,きみまちがてに
#[左注]
#[校異]毛 -> 母 [類][紀]
#[KW],東歌,相聞,女歌,恋情,作者:柿本人麻呂歌集
#[訓異]
#[大意]ともに逢ってからは千年も経ったのだろうか。そうではあるまい。自分がそのように思うのだろうか。あなたを待ちかねて。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3471
#[題詞]
#[原文]思麻良久波 祢都追母安良牟乎 伊米能未尓 母登奈見要都追 安乎祢思奈久流
#[訓読]しまらくは寝つつもあらむを夢のみにもとな見えつつ我を音し泣くる
#[仮名],しまらくは,ねつつもあらむを,いめのみに,もとなみえつつ,あをねしなくる
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]しばらくは寝続けていたいものなのに。夢ばかりにむやみに見え続けて自分を泣かせることだ
#{語釈]
音し泣くる 声を上げて泣かれることだ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3472
#[題詞]
#[原文]比登豆麻等 安是可曽乎伊波牟 志可良<婆>加 刀奈里乃伎奴乎 可里弖伎奈波毛
#[訓読]人妻とあぜかそを言はむしからばか隣の衣を借りて着なはも
#[仮名],ひとづまと,あぜかそをいはむ,しからばか,となりのきぬを,かりてきなはも
#[左注]
#[校異]波 -> 婆 [元][紀][古]
#[KW],東歌,相聞,怨恨,恋情
#[訓異]
#[大意]自分は人妻だとどうしてそのように言うのか。そうであるならば隣の人の着物を借りて着ないのであろうか。そうではあるまいに。
#{語釈]
隣の衣を借りて 当時の農村は衣を借りることが多かったか。
        伊藤博 祭礼の衣ばかりでなく農機具や飯までも借りる

#[説明]
人妻に言い寄って拒否された男の居直った歌

#[関連論文]


#[番号]14/3473
#[題詞]
#[原文]左努夜麻尓 宇都也乎能登乃 等抱可騰母 祢毛等可兒呂賀 於<母>尓美要都留
#[訓読]左努山に打つや斧音の遠かども寝もとか子ろが面に見えつる
#[仮名],さのやまに,うつやをのとの,とほかども,ねもとかころが,おもにみえつる
#[左注]
#[校異]由 -> 母 [万葉考]
#[KW],東歌,相聞,地名,群馬県,高崎市,栃木県,佐野市,羈旅,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]左努山で打つ斧の音が遠いように、遠ざかってはいるが、寝ようというのだろうか。あの子が面影に見えたことだ

#{語釈]
左努山 所在未詳
遠かども 距離的に遠いのか、心理的に遠いのか
寝もとか 寝むとか

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3474
#[題詞]
#[原文]宇恵太氣能 毛登左倍登与美 伊R弖伊奈婆 伊豆思牟伎弖可 伊毛我奈氣可牟
#[訓読]植ゑ竹の本さへ響み出でて去なばいづし向きてか妹が嘆かむ
#[仮名],うゑだけの,もとさへとよみ,いでていなば,いづしむきてか,いもがなげかむ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,羈旅,別離,恋愛,植物
#[訓異]
#[大意]門口に植えてある竹の根本さえも音を立てるほど騒がしく出て行ったならば、どちらを向いて妹が嘆くことだろうか。
#{語釈]
植ゑ竹  門口にでも植えてある竹

#[説明]
旅立ちのあわただしさを歌ったものか。

#[関連論文]


#[番号]14/3475
#[題詞]
#[原文]古非都追母 乎良牟等須礼杼 遊布麻夜万 可久礼之伎美乎 於母比可祢都母
#[訓読]恋ひつつも居らむとすれど遊布麻山隠れし君を思ひかねつも
#[仮名],こひつつも,をらむとすれど,ゆふまやま,かくれしきみを,おもひかねつも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,女歌,別離,羈旅
#[訓異]
#[大意]恋しながらもそのままでいようとするが、遊布麻山に隠れたあなたを思って堪えかねていることだ
#{語釈]
遊布麻山  所在未詳  12/3191

#[説明]
旅だった男を見送った妻の歌

#[関連論文]


#[番号]14/3476
#[題詞]
#[原文]宇倍兒奈波 和奴尓故布奈毛 多刀都久能 努賀奈敝由家婆 故布思可流奈母
#[訓読]うべ子なは我ぬに恋ふなも立と月のぬがなへ行けば恋しかるなも
#[仮名],うべこなは,わぬにこふなも,たとつくの,ぬがなへゆけば,こふしかるなも
#[左注]或本歌末句曰 奴我奈敝由家杼 和<奴><由賀>乃敝波
#[校異]努 -> 奴 [元][類][紀] / 賀由 -> 由賀 [万葉集略解]
#[KW],東歌,相聞,羈旅,恋情
#[訓異]
#[大意]なるほどお前が自分に恋い思っていることであろう。立つ月が流れて行くので恋しがることだろう
#{語釈]
子なは 背なと同じ 子らは あの子は
我ぬ われ
恋ふなも 恋ふらむ

#[説明]
うべ子らは我に恋ふらむ。立つ月の流らへ行けば恋しかるらむ

#[関連論文]


#[番号]14/3476S
#[題詞]或本歌末句曰
#[原文]奴我奈敝由家杼 和<奴><由賀>乃敝波
#[訓読]ぬがなへ行けど我ぬ行がのへば
#[仮名],ぬがなへゆけど,わぬゆがのへば
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,恋情,異伝
#[訓異]
#[大意]流れて行くが、自分が行かなかったら
#{語釈]
行がのへば のへ なへと同じ 打ち消し「ない」

#[説明]
流らへ行けど我行かなへば

#[関連論文]


#[番号]14/3477
#[題詞]
#[原文]安都麻道乃 手兒乃欲婢佐可 古要弖伊奈婆 安礼波古非牟奈 能知波安比奴登母
#[訓読]東路の手児の呼坂越えて去なば我れは恋ひむな後は逢ひぬとも
#[仮名],あづまぢの,てごのよびさか,こえていなば,あれはこひむな,のちはあひぬとも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,静岡県,蒲原町,羈旅,恋情
#[訓異]
#[大意]東路の手児の呼坂を越えて行ってしまうと、自分は恋い思うことだろうなあ。また後では逢えるとしても
#{語釈]
手児の呼坂  3442 所在未詳

#[説明]
類歌 11/3190

#[関連論文]


#[番号]14/3478
#[題詞]
#[原文]等保斯等布 故奈乃思良祢尓 阿抱思太毛 安波乃敝思太毛 奈尓己曽与佐礼
#[訓読]遠しとふ故奈の白嶺に逢ほしだも逢はのへしだも汝にこそ寄され
#[仮名],とほしとふ,こなのしらねに,あほしだも,あはのへしだも,なにこそよされ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,群馬県,白根山,石川県,白山,うわさ,恋愛,羈旅
#[訓異]
#[大意]遠いという故奈の白峰に逢うときも逢わない時もあなたに寄っているよ
#{語釈]
故奈の白嶺 古義 奈は志の誤り 越の白峰で白山のこと。
      全釈 日光の白根山。伊豆地方にも古奈温泉があり、その近くの山か
      佐々木信綱 群馬県吾妻郡白根山

逢はのへ 逢はなへ

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]14/3479
#[題詞]
#[原文]安可見夜麻 久左祢可利曽氣 安波須賀倍 安良蘇布伊毛之 安夜尓可奈之毛
#[訓読]安可見山草根刈り除け逢はすがへ争ふ妹しあやに愛しも
#[仮名],あかみやま,くさねかりそけ,あはすがへ,あらそふいもし,あやにかなしも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,栃木県,佐野市,赤見町,恋愛
#[訓異]
#[大意]安可見山の草を刈り除いて逢ってくれながら、言い争う妹がむやみにいとしいことだ
#{語釈]
安可見山  所在未詳 あるいは栃木県佐野市赤見町の山
逢はすがへ 逢はすが上
争ふ  自分と争う 官能的か
    注釈 人には逢っていないと言い争う
    
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3480
#[題詞]
#[原文]於保伎美乃 美己等可思古美 可奈之伊毛我 多麻久良波奈礼 欲太知伎努可母
#[訓読]大君の命畏み愛し妹が手枕離れ夜立ち来のかも
#[仮名],おほきみの,みことかしこみ,かなしいもが,たまくらはなれ,よだちきのかも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,防人,恋情,羈旅,出発,別離
#[訓異]
#[大意]大君のご命令を恐れ謹んで、いとしい妹の手枕を離れて夜出発して来たことである
#{語釈]
#[説明]
防人の歌か。

#[関連論文]


#[番号]14/3481
#[題詞]
#[原文]安利伎奴乃 佐恵々々之豆美 伊敝能伊母尓 毛乃伊波受伎尓弖 於毛比具流之母
#[訓読]あり衣のさゑさゑしづみ家の妹に物言はず来にて思ひ苦しも
#[仮名],ありきぬの,さゑさゑしづみ,いへのいもに,ものいはずきにて,おもひぐるしも
#[左注]柿本朝臣人麻呂歌集中出 見上已<訖>也
#[校異]説 -> 訖 [類][紀][古][矢]
#[KW],東歌,相聞,作者:柿本人麻呂歌集,重出,羈旅,出発,別離,恋情
#[訓異]
#[大意]あり衣のようにざわざわとしていたのも静まってみると、家の妹に物も言わないで出てきて心苦しいことだ
#{語釈]
あり衣の 上質の布で作った衣 衣擦れの音でさゑさゑの枕詞
さゑさゑ さわがしい
見上已<訖>也 上に見ゆること已に訖りぬ

#[説明]
04/0503H01玉衣のさゐさゐしづみ家の妹に物言はず来にて思ひかねつも

#[関連論文]


#[番号]14/3482
#[題詞]
#[原文]可良許呂毛 須蘇乃宇知可倍 安波祢杼毛 家思吉己許呂乎 安我毛波奈久尓
#[訓読]韓衣裾のうち交へ逢はねども異しき心を我が思はなくに
#[仮名],からころも,すそのうちかへ,あはねども,けしきこころを,あがもはなくに
#[左注]或本歌曰 可良己呂母 須素能宇知可比 阿波奈敝婆 祢奈敝乃可良尓 許等多可利都母
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,恋愛,序詞
#[訓異]
#[大意]唐衣の裾の辻褄が合わないように、妹と逢わないが違った気持ちを自分は持っているわけではないよ
#{語釈]
韓衣 唐風の衣は裾が合わなかったのか
11/2619H01朝影に我が身はなりぬ韓衣裾のあはずて久しくなれば

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3482S
#[題詞]或本歌曰
#[原文]可良己呂母 須素能宇知可比 阿波奈敝婆 祢奈敝乃可良尓 許等多可利都母
#[訓読]韓衣裾のうち交ひ逢はなへば寝なへのからに言痛かりつも
#[仮名]からころも,すそのうちかひ,あはなへば,ねなへのからに,ことたかりつも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,うわさ,恋愛,異伝
#[訓異]
#[大意]唐衣の裾の辻褄が合わないように、逢っていないので寝てもいないのにうわさがひどいことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3483
#[題詞]
#[原文]比流等家波 等<家>奈敝比毛乃 和賀西奈尓 阿比与流等可毛 欲流等家也須家
#[訓読]昼解けば解けなへ紐の我が背なに相寄るとかも夜解けやすけ
#[仮名],ひるとけば,とけなへひもの,わがせなに,あひよるとかも,よるとけやすけ
#[左注]
#[校異]<> -> 家 [西(右書)][元][類][古][紀]
#[KW],東歌,相聞,女歌,恋情,妻問い
#[訓異]
#[大意]昼にほどこうと思ってもほどけない紐が、我が背子に近寄るというのだろうか、夜はほどけやすいことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3484
#[題詞]
#[原文]安左乎良乎 遠家尓布須左尓 宇麻受登毛 安須伎西佐米也 伊射西乎騰許尓
#[訓読]麻苧らを麻笥にふすさに績まずとも明日着せさめやいざせ小床に
#[仮名],あさをらを,をけにふすさに,うまずとも,あすきせさめや,いざせをどこに
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,恋愛
#[訓異]
#[大意]麻苧なんど麻笥にたくさん糸にしなくとも、明日お着になるというのか。それよりもさあしようよ。寝床に。
#{語釈]
麻苧  3468 麻の繊維
麻笥  麻を入れる容器
ふすさに たくさんの意
績まずとも 糸に縒る  糸にしなくともいいではないか。
明日着せさめや 明日にでも衣にして着るというのか。そんなにも急いでいないのならばの意
いざせ いざ、せ さあ、しようよ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3485
#[題詞]
#[原文]都流伎多知 身尓素布伊母乎 等里見我祢 哭乎曽奈伎都流 手兒尓安良奈久尓
#[訓読]剣大刀身に添ふ妹を取り見がね音をぞ泣きつる手児にあらなくに
#[仮名],つるぎたち,みにそふいもを,とりみがね,ねをぞなきつる,てごにあらなくに
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,枕詞,恋愛
#[訓異]
#[大意]剣大刀ではないが、身に寄り添う妹を世話することが出来なくて大声を上げて泣いたことだ。子どもでもないのに
#{語釈]
#[説明]
防人として出発したときの心情

#[関連論文]


#[番号]14/3486
#[題詞]
#[原文]可奈思伊毛乎 由豆加奈倍麻伎 母許呂乎乃 許登等思伊波婆 伊夜可多麻斯尓
#[訓読]愛し妹を弓束並べ巻きもころ男のこととし言はばいや勝たましに
#[仮名],かなしいもを,ゆづかなべまき,もころをの,こととしいはば,いやかたましに
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,恋情,逢会
#[訓異]
#[大意]いとしい妹を弓の束を並べ巻くように並べて別の男のことと言うのであれば、ますます勝つだろうよ。(だけどそうではないのでお前には勝てないよ)
#{語釈]
弓束並べ巻き  弓の握りに藤をしっかり並べ巻く
        女を抱いて寝ることの譬喩
        童蒙抄 一女を二男の争ひし義  競って求婚するたとえ

もころ男 9/1809 もころ男に 02/0196玉藻のもころ 同様な 同じ
山田孝男 新撰字鏡「聟 毛古又加太支」 「聟 □許反雙之貌乎不止又加太支」
雙之貌 相並び立つ意。 仇(かたき)は、本来は嫡妻の意味がある。
もこ=かたき -> もこ -> むこ
-> かたき(怨仇)
競争相手 匹敵する男

いや勝たましに 代匠紀 勝つこと
        集成  片まし 片方へ一方的に増して加わる状態
            さらにしっかり抱いてやるぞの意

#[説明]
競争相手がいるのだったらそれには勝つ自身はあるが、女には勝てないといったもの
釈注 しっかりと抱いて寝るが、別の男と変わらないというのならば、もっとしっかりと抱いてやるぞいという解釈

#[関連論文]


#[番号]14/3487
#[題詞]
#[原文]安豆左由美 須恵尓多麻末吉 可久須酒曽 宿莫奈那里尓思 於久乎可奴加奴
#[訓読]梓弓末に玉巻きかくすすぞ寝なななりにし奥をかぬかぬ
#[仮名],あづさゆみ,すゑにたままき,かくすすぞ,ねなななりにし,おくをかぬかぬ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,恋情
#[訓異]
#[大意]梓弓の弓末に玉を付けて飾って大事にして、このように大事にして寝ないままになってしまった。先々のことを思っていると。
#{語釈]
かくすすぞ  このようにしいしいして 大事にしすぎて
奥をかぬかぬ 先々をかねて  先々のことを今と変わらないと思って

#[説明]
将来も今と変わらないと思って大事にしてきたのに、他の男の所に行ってしまったと嘆いたもの

#[関連論文]


#[番号]14/3488
#[題詞]
#[原文]於布之毛等 許乃母登夜麻乃 麻之波尓毛 能良奴伊毛我名 可多尓伊弖牟可母
#[訓読]生ふしもとこの本山のましばにも告らぬ妹が名かたに出でむかも
#[仮名],おふしもと,このもとやまの,ましばにも,のらぬいもがな,かたにいでむかも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,うわさ,植物,不安,恋愛
#[訓異]
#[大意]生えている細枝、この山の麓のその細枝の柴ではないが、しばしばもめったに言わない妹の名前が占いの結果に出るだろうか
#{語釈]
生ふしもと  生えるシモト しもと 和名抄 枝条  木細枝
       実態と「もと」を繰り返した枕詞
かた  卜占の結果。象

#[説明]
14/3374H01武蔵野に占部肩焼きまさでにも告らぬ君が名占に出にけり

#[関連論文]


#[番号]14/3489
#[題詞]
#[原文]安豆左由美 欲良能夜麻邊能 之牙可久尓 伊毛呂乎多弖天 左祢度波良布母
#[訓読]梓弓欲良の山辺の茂かくに妹ろを立ててさ寝処払ふも
#[仮名],あづさゆみ,よらのやまへの,しげかくに,いもろをたてて,さねどはらふも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,枕詞,恋愛
#[訓異]
#[大意]梓弓の欲良の山辺の木の茂っている所に妹を立たせて寝床を払っていることだ
#{語釈]
梓弓 ゆみの「ゆ」の音の「よ」に掛けた枕詞
   釈注 弓に神霊が憑り着くから「よら」の枕詞

欲良の山辺  未詳 和名抄 遠江国山香郡與利
       全釈 小諸市東部与良町か
茂かくに 茂けくにの訛
さ寝処払ふも  寝床を作っている 寝床の草を刈り払っている

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3490
#[題詞]
#[原文]安都左由美 須恵波余里祢牟 麻左可許曽 比等目乎於保美 奈乎波思尓於家礼 [柿本朝臣人麻呂歌集出也]
#[訓読]梓弓末は寄り寝むまさかこそ人目を多み汝をはしに置けれ [柿本朝臣人麻呂歌集出也]
#[仮名],あづさゆみ,すゑはよりねむ,まさかこそ,ひとめをおほみ,なをはしにおけれ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,人目,うわさ,枕詞,恋情,作者:柿本人麻呂歌集
#[訓異]
#[大意]梓弓の行く末は寄って寝よう。今こそは人目が多いので、なお粗末にしているのだ
#{語釈]
梓弓 弓末から末にかかる枕詞
まさか  現在、今
はし 10/1868 大切なものは真ん中に置くはずで、「はしに置く」ということは粗末に扱うことである。そこで、粗末にはしてくれるなの意

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3491
#[題詞]
#[原文]楊奈疑許曽 伎礼波伴要須礼 余能比等乃 古非尓思奈武乎 伊可尓世余等曽
#[訓読]柳こそ伐れば生えすれ世の人の恋に死なむをいかにせよとぞ
#[仮名],やなぎこそ,きればはえすれ,よのひとの,こひにしなむを,いかにせよとぞ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,植物,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]柳こそ切ってもまた生えてくるが、世の中の人の恋に死のうとするのをどのようにせよというのか。
#{語釈]
柳こそ伐れば生えすれ
07/1293H01霰降り遠つ淡海の吾跡川楊刈れどもまたも生ふといふ吾跡川楊

#[説明]
[関連論文]


#[番号]14/3492
#[題詞]
#[原文]乎夜麻田乃 伊氣能都追美尓 左須楊奈疑 奈里毛奈良受毛 奈等布多里波母
#[訓読]小山田の池の堤にさす柳成りも成らずも汝と二人はも
#[仮名],をやまだの,いけのつつみに,さすやなぎ,なりもならずも,なとふたりはも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,植物,恋情
#[訓異]
#[大意]山の田の池の堤に挿し木にする柳ではないが、うまくいってもいかなくとも、お前と二人の仲は変わらないよ。
#{語釈]
山田の池  斜面なので下の箇所は堤になる
堤にさす柳  灌漑用貯水池の土手に植える柳。根を張らして崩れないようにする
成りも成らずも 親などの反対に合う

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3493
#[題詞]
#[原文]於曽波夜母 奈乎許曽麻多賣 牟可都乎能 四比乃故夜提能 安比波多<我>波自
#[訓読]遅速も汝をこそ待ため向つ峰の椎の小やで枝の逢ひは違はじ
#[仮名],おそはやも,なをこそまため,むかつをの,しひのこやでの,あひはたがはじ
#[左注]或本歌曰 於曽波夜毛 伎美乎思麻多武 牟可都乎能 思比乃佐要太能 登吉波須具登母
#[校異]家 -> 我 [元][類]
#[KW],東歌,相聞,植物,恋情,異伝
#[訓異]
#[大意]遅くとも速くともお前を待とう。向こうの峰の椎の木の小枝のように逢うことは間違いはないだろうから
#{語釈]
小やで  小枝

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3493S
#[題詞]或本歌曰
#[原文]於曽波夜毛 伎美乎思麻多武 牟可都乎能 思比乃佐要太能 登吉波須具登母
#[訓読]遅速も君をし待たむ向つ峰の椎のさ枝の時は過ぐとも
#[仮名],おそはやも,きみをしまたむ,むかつをの,しひのさえだの,ときはすぐとも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,異伝,植物,恋情
#[訓異]
#[大意]遅くとも速くともあなたを待とう。向かいの峰の椎の小枝のように時は過ぎるとしても
#{語釈]
時は過ぐとも  小枝が延びてくる時節ではないが、その時
時は過ぐとも  逢う時が過ぎる

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3494
#[題詞]
#[原文]兒毛知夜麻 和可加敝流弖能 毛美都麻弖 宿毛等和波毛布 汝波安杼可毛布
#[訓読]子持山若かへるでのもみつまで寝もと我は思ふ汝はあどか思ふ
#[仮名],こもちやま,わかかへるでの,もみつまで,ねもとわはもふ,なはあどかもふ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,群馬県,子持村,恋情,植物
#[訓異]
#[大意]子持山の若いかえでが公用するまで寝ようと自分は思う。お前はどのように思う。
#{語釈]
子持山  群馬県北群馬郡 子持山

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3495
#[題詞]
#[原文]伊波保呂乃 蘇比能和可麻都 可藝里登也 伎美我伎麻左奴 宇良毛等奈久文
#[訓読]巌ろの沿ひの若松限りとや君が来まさぬうらもとなくも
#[仮名],いはほろの,そひのわかまつ,かぎりとや,きみがきまさぬ,うらもとなくも
#[左注]
#[校異]文 [細] 毛
#[KW],東歌,相聞,植物,怨恨,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]岩の横の若い松ではないが待っていてもこれを限りというのか。あなたがいらっしゃらないのは。心もとないことだ。
#{語釈]
巌ろの沿ひの若松 3410 伊香保ろの沿ひの榛原  待つの意味を含ませた序詞

うらもとなくも  心もとない  心の中がうっとうしい

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3496
#[題詞]
#[原文]多知婆奈乃 古婆乃波奈里我 於毛布奈牟 己許呂宇都久思 伊弖安礼波伊可奈
#[訓読]橘の古婆の放髪が思ふなむ心うつくしいで我れは行かな
#[仮名],たちばなの,こばのはなりが,おもふなむ,こころうつくし,いであれはいかな
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,神奈川県,川崎市,恋情
#[訓異]
#[大意]橘の古婆のお下げ髪が自分を思っている。その気持ちがかわいい。さあ自分は行こうよ
#{語釈]
橘の古婆 地名か。和名抄 武蔵国橘樹郡橘樹 現在の川崎から横浜市港北区
         代匠紀 地名がわかっていれば武蔵国にいれるはず。

放髪  お下げ髪の童女
思ふなむ 「なむ」は、「らむ」の東国形 3366
うつくし  心ひかれる様
      03/0438H01愛しき人のまきてし敷栲の我が手枕をまく人あらめや

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3497
#[題詞]
#[原文]可波加美能 祢自路多可我夜 安也尓阿夜尓 左宿佐寐弖許曽 己登尓弖尓思可
#[訓読]川上の根白高萱あやにあやにさ寝さ寝てこそ言に出にしか
#[仮名],かはかみの,ねじろたかがや,あやにあやに,さねさねてこそ,ことにでにしか
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,植物,恋愛,譬喩,うわさ
#[訓異]
#[大意]川の上流の根の白い丈の高いカヤではないがアヤに不思議なほど寝ることを重ねたのでうわさになったことだ
#{語釈]
川上の根白高萱 川の上流の根が白くて丈が高い茅
        カヤとアヤの類似音でつながる序詞

あやにあやに 不思議に不思議に

さ寝さ寝てこそ 寝に寝る 寝ることを重ねる

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3498
#[題詞]
#[原文]宇奈波良乃 根夜波良古須氣 安麻多安礼婆 伎美波和須良酒 和礼和須流礼夜
#[訓読]海原の根柔ら小菅あまたあれば君は忘らす我れ忘るれや
#[仮名],うなはらの,ねやはらこすげ,あまたあれば,きみはわすらす,われわするれや
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,植物,譬喩,女歌,怨恨,恋情
#[訓異]
#[大意]海辺の根つきの柔らかい小菅のようなやさしい女の人が大勢いるので、あなたはお忘れになるが、自分は忘れることがあろうか
#{語釈]
根柔ら小菅 根つきの柔らかい小菅  やさしい女に喩える
                  集成 遊行女婦か

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3499
#[題詞]
#[原文]乎可尓与西 和我可流加夜能 佐祢加夜能 麻許等奈其夜波 祢呂等敝奈香母
#[訓読]岡に寄せ我が刈る萱のさね萱のまことなごやは寝ろとへなかも
#[仮名],をかによせ,わがかるかやの,さねかやの,まことなごやは,ねろとへなかも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,植物,譬喩,恋愛,勧誘
#[訓異]
#[大意]陸地の方に寄せて自分が刈る萱の根萱の本当に柔らかいのは寝よと言うのだろうか
#{語釈]
岡に寄せ 岡の方に寄せる  釈注 水辺のカヤを刈っているので陸地の方に寄せて
萱    女に喩えている
さね萱  さ根萱とさ寝カヤとを掛ける
なごや  柔らかい ふかふかしている  4/0524
寝ろとへなかも 寝ろと言へるかも

#[説明]
柔らかい萱を褥(しとね)にして寝るのと女がやさしく柔らかいので寝るを掛ける

#[関連論文]


#[番号]14/3500
#[題詞]
#[原文]牟良佐伎波 根乎可母乎布流 比等乃兒能 宇良我奈之家乎 祢乎遠敝奈久尓
#[訓読]紫草は根をかも終ふる人の子のうら愛しけを寝を終へなくに
#[仮名],むらさきは,ねをかもをふる,ひとのこの,うらがなしけを,ねををへなくに
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,植物,譬喩,恋愛
#[訓異]
#[大意]紫草は根をすっかり使ってしまう。それなのにあの子のいとしいのを寝ることが遂げないことだ
#{語釈]
根をかも終ふる  染料を取るために根をすっかり使ってしまう

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3501
#[題詞]
#[原文]安波乎呂能 乎呂田尓於波流 多波美豆良 比可婆奴流奴留 安乎許等奈多延
#[訓読]安波峰ろの峰ろ田に生はるたはみづら引かばぬるぬる我を言な絶え
#[仮名],あはをろの,をろたにおはる,たはみづら,ひかばぬるぬる,あをことなたえ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,千葉県,植物,序詞,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]安波の峰の尾根の山田に生えるたはみづらのように引くとずるずると寄って来て自分と音信が絶えるなよ
#{語釈]
安波峰 考 安房国の山
    古義 和名抄 常陸国那珂郡阿波か

たはみづら 仙覚抄 三稜(みくさ)草
      考 玉かづら 動植正名 じゅんさい 松田 ひるむしろ

引かばぬるぬる 3378 3416

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3502
#[題詞]
#[原文]和我目豆麻 比等波左久礼杼 安佐我保能 等思佐倍己其登 和波佐可流我倍
#[訓読]我が目妻人は放くれど朝顔のとしさへこごと我は離るがへ
#[仮名],わがめづま,ひとはさくれど,あさがほの,としさへこごと,わはさかるがへ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,恋情,人目,枕詞
#[訓異]
#[大意]我が愛しい妻。人は仲を裂こうとするが朝顔のような人を何年経とうと自分は裂かれるものか。
#{語釈]
我が目妻 代匠紀 真妻。本妻か。
     略解 目につきて思ふ妻。目を通じての妻。目と目で許し合っている妻
     新考 めづる妻。
     自分の愛しい妻
人は放くれど 人は放そうとするが

朝顔の 桔梗のこと。
朝顔 今の朝顔ではなく、桔梗のこと
8/1538 10/2104 2247
桔梗 新撰字鏡 阿佐加保 又 岡止ゝ支(おかととき)
享和本 加良久波 又云 阿佐加保
本草和名 和名 阿利乃比布岐(ありのひふき) 一名 乎加止ゝ岐
和名抄 阿利乃比布岐

桔梗の古名であったのが平安中期現在の花に移った

   かかり具合不明。

としさへこごと 未詳。代匠紀 ここだの転か。何年経とうとも

我は離るがへ 3420 がへ  かはの訛

#[説明]
全体が難解。

#[関連論文]


#[番号]14/3503
#[題詞]
#[原文]安齊可我多 志保悲乃由多尓 於毛敝良婆 宇家良我波奈乃 伊呂尓弖米也母
#[訓読]安齊可潟潮干のゆたに思へらばうけらが花の色に出めやも
#[仮名],あせかがた,しほひのゆたに,おもへらば,うけらがはなの,いろにでめやも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,植物,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]安齊可潟の潮干がゆったりしているようにゆったりと思っているのであったらうけらが花のように表に現れようか。
#{語釈]
安齊可潟 地名 未詳。全釈 常陸国風土記香島郡 安是湖(みなと)か。
潮干のゆたに  潮干のゆったりしているように、ゆったりと
思へらば 思っているのであったら
うけらが花 3376 山野に自生する菊科の多年生草本。秋に白または紅の花。根は薬用。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3504
#[題詞]
#[原文]波流敝左久 布治能宇良葉乃 宇良夜須尓 左奴流夜曽奈伎 兒呂乎之毛倍婆
#[訓読]春へ咲く藤の末葉のうら安にさ寝る夜ぞなき子ろをし思へば
#[仮名],はるへさく,ふぢのうらばの,うらやすに,さぬるよぞなき,ころをしもへば
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,植物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]春べに咲く藤の葉の末ではないが、心安らかに寝る夜がないことだ。あの子を思うと。
#{語釈]
末葉の 葉の端。うらを引き出す序詞
うら安に 心安らかに

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3505
#[題詞]
#[原文]宇知比佐都 美夜能瀬河泊能 可保婆奈能 孤悲天香眠良武 <伎>曽母許余比毛
#[訓読]うちひさつ宮能瀬川のかほ花の恋ひてか寝らむ昨夜も今夜も
#[仮名],うちひさつ,みやのせがはの,かほばなの,こひてかぬらむ,きぞもこよひも
#[左注]
#[校異]泊 [元] 伯 / <> -> 伎 [西(左書)][元][類][古]
#[KW],東歌,相聞,地名,長野県,植物,恋情
#[訓異]
#[大意]うちひさつ宮能瀬川のかほ花のようにあの子は独りで自分を恋い思って寝ているであろう。昨夜も今夜も。
#{語釈]
うちひさつ  13/3295 うちひさす
宮能瀬川 不明。長野県の諏訪湖に注ぐ宮川か。
かほ花 かほ花 水草であること ひるがお かきつばた おもだか 美しい花の意

08/1630H01高円の野辺のかほ花面影に見えつつ妹は忘れかねつも
10/2288H01石橋の間々に生ひたるかほ花の花にしありけりありつつ見れば
14/3505H01うちひさつ宮能瀬川のかほ花の恋ひてか寝らむ昨夜も今夜も

恋ひてか寝らむ 相手の女の現在の行動の推量。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3506
#[題詞]
#[原文]尓比牟路能 許騰伎尓伊多礼婆 波太須酒伎 穂尓弖之伎美我 見延奴己能許呂
#[訓読]新室のこどきに至ればはだすすき穂に出し君が見えぬこのころ
#[仮名],にひむろの,こどきにいたれば,はだすすき,ほにでしきみが,みえぬこのころ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,諸物,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]新しい蚕室の養蚕の時になったので、はだすすきの穂のようにはっきりと思いを打ち明けたあなたが見えないこの頃であるよ
#{語釈]
新室のこどき 養蚕のための蚕室。こどきは、蚕を育てる時
はだすすき 肌すすきで、皮に包まれてまだ穂に出ていないススキ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3507
#[題詞]
#[原文]多尓世婆美 弥<年>尓波比多流 多麻可豆良 多延武能己許呂 和我母波奈久尓
#[訓読]谷狭み峰に延ひたる玉葛絶えむの心我が思はなくに
#[仮名],たにせばみ,みねにはひたる,たまかづら,たえむのこころ,わがもはなくに
#[左注]
#[校異]羊 -> 年 [類][古][紀]
#[KW],東歌,相聞,植物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]谷が狭いので峰に延びている玉葛の蔓が絶えないように途絶えようという気持ちは自分は思わないのに
#{語釈]
谷狭み  12/3067H01谷狭み嶺辺に延へる玉葛延へてしあらば年に来ずとも

#[説明]
類想
11/2775H01山高み谷辺に延へる玉葛絶ゆる時なく見むよしもがも
12/3071H01丹波道の大江の山のさな葛絶えむの心我が思はなくに

#[関連論文]


#[番号]14/3508
#[題詞]
#[原文]芝付乃 御宇良佐伎奈流 根都古具佐 安比見受安良婆 安礼古非米夜母
#[訓読]芝付の御宇良崎なるねつこ草相見ずあらば我れ恋ひめやも
#[仮名],しばつきの,みうらさきなる,ねつこぐさ,あひみずあらば,あれこひめやも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,神奈川県,植物,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]芝付の御宇良崎のねつこ草よ。お前と会わなかったならば、自分は恋い思うことがあろうか。(出会ってしまったので恋い思うことだ)
#{語釈]
芝付の御宇良崎 地名 未詳 神奈川県三浦半島
ねつこぐさ 未詳 キンポウゲ科のおきなぐさか。根が大きい。
      釈注 寝っ子草で、女の喩え
相見ずあらば  会わなかったら

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3509
#[題詞]
#[原文]多久夫須麻 之良夜麻可是能 宿奈敝杼母 古呂賀於曽伎能 安路許曽要志母
#[訓読]栲衾白山風の寝なへども子ろがおそきのあろこそえしも
#[仮名],たくぶすま,しらやまかぜの,ねなへども,ころがおそきの,あろこそえしも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,恋情,地名,石川県
#[訓異]
#[大意]栲衾の白山から吹き下ろす風が寒い中で共寝をしないけれども、あの子の上着のあるのがいいことだ
#{語釈]
栲衾  コウゾで作った衾は白いので白にかかる枕詞
白山風 所在未詳 加賀の白山か。
おそき  襲衣  上からかける上着

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3510
#[題詞]
#[原文]美蘇良由久 <君>母尓毛我母奈 家布由伎弖 伊母尓許等<杼>比 安須可敝里許武
#[訓読]み空行く雲にもがもな今日行きて妹に言どひ明日帰り来む
#[仮名],みそらゆく,くもにもがもな,けふゆきて,いもにことどひ,あすかへりこむ
#[左注]
#[校異]君尓 -> 君 [西(訂正)][類][紀][細] / 抒 -> 杼 [類][紀][細]
#[KW],東歌,相聞,恋情,羈旅,別離
#[訓異]
#[大意]み空行く雲であればなあ。そうすれば今日行って妹と話をして、明日は帰って来ようものなのに
#{語釈]
#[説明]
類想
11/2676H01ひさかたの天飛ぶ雲にありてしか君をば相見むおつる日なしに

#[関連論文]


#[番号]14/3511
#[題詞]
#[原文]安乎祢呂尓 多奈婢久君母能 伊佐欲比尓 物能乎曽於毛布 等思乃許能己呂
#[訓読]青嶺ろにたなびく雲のいさよひに物をぞ思ふ年のこのころ
#[仮名],あをねろに,たなびくくもの,いさよひに,ものをぞおもふ,としのこのころ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,恋情
#[訓異]
#[大意]青嶺にたなびく雲のように心がさまよって物思いをすることだ。この年頃を
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3512
#[題詞]
#[原文]比登祢呂尓 伊波流毛能可良 安乎祢呂尓 伊佐欲布久母能 余曽里都麻波母
#[訓読]一嶺ろに言はるものから青嶺ろにいさよふ雲の寄そり妻はも
#[仮名],ひとねろに,いはるものから,あをねろに,いさよふくもの,よそりづまはも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,恋情,うわさ
#[訓異]
#[大意]一つの嶺ではないが、一つに寝ると言われるものながら、青嶺にただよっている雲のように、自分と寝ることにためらっている寄り添った妻はなあ。
#{語釈]
一嶺ろに 一つの嶺と一つに寝るを掛ける
ものから ものながら
04/0766H01道遠み来じとは知れるものからにしかぞ待つらむ君が目を欲り
06/0951H01見わたせば近きものから岩隠りかがよふ玉を取らずはやまじ
10/2078H01玉葛絶えぬものからさ寝らくは年の渡りにただ一夜のみ
11/2554H01相見ては面隠さゆるものからに継ぎて見まくの欲しき君かも
14/3512H01一嶺ろに言はるものから青嶺ろにいさよふ雲の寄そり妻はも
19/4154H03思ふものから 語り放け 見放くる人目 乏しみと 思ひし繁し

青嶺ろ  青嶺と我を寝るとを掛ける
寄そり妻 自分に寄り添った妻 3408

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3513
#[題詞]
#[原文]由布佐礼婆 美夜麻乎左良奴 尓努具母能 安是可多要牟等 伊比之兒呂<波>母
#[訓読]夕さればみ山を去らぬ布雲のあぜか絶えむと言ひし子ろはも
#[仮名],ゆふされば,みやまをさらぬ,にのぐもの,あぜかたえむと,いひしころはも
#[左注]
#[校異]婆 -> 波 [元]
#[KW],東歌,相聞,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]夕方になると山を離れない布のような雲のようにどうして途絶えようと言っていたあの子なのになあ。
#{語釈]
布雲 布のような雲

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3514
#[題詞]
#[原文]多可伎祢尓 久毛能都久能須 和礼左倍尓 伎美尓都吉奈那 多可祢等毛比弖
#[訓読]高き嶺に雲のつくのす我れさへに君につきなな高嶺と思ひて
#[仮名],たかきねに,くものつくのす,われさへに,きみにつきなな,たかねともひて
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,恋情
#[訓異]
#[大意]高い嶺に雲が寄りつくように自分もまたあなたに付いていたいものだ。あなたを高い嶺だと思って。
#{語釈]
我れさへに  雲ばかりでなく自分もまた

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3515
#[題詞]
#[原文]阿我於毛乃 和須礼牟之太波 久尓波布利 祢尓多都久毛乎 見都追之努波西
#[訓読]我が面の忘れむしだは国はふり嶺に立つ雲を見つつ偲はせ
#[仮名],あがおもの,わすれむしだは,くにはふり,ねにたつくもを,みつつしのはせ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,女歌,恋情,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]自分の顔を忘れる時は国にあふれて嶺に立つ雲を見ながら思い出してください
#{語釈]
#[説明]
類歌
14/3520H01面形の忘れむしだは大野ろにたなびく雲を見つつ偲はむ
20/4367H01我が面の忘れもしだは筑波嶺を振り放け見つつ妹は偲はね

#[関連論文]


#[番号]14/3516
#[題詞]
#[原文]對馬能祢波 之多具毛安良南敷 可牟能祢尓 多奈婢久君毛乎 見都追思努<波>毛
#[訓読]対馬の嶺は下雲あらなふ可牟の嶺にたなびく雲を見つつ偲はも
#[仮名],つしまのねは,したぐもあらなふ,かむのねに,たなびくくもを,みつつしのはも
#[左注]
#[校異]婆 -> 波 [元][類][紀]
#[KW],東歌,相聞,地名,対馬,長崎県,望郷,羈旅,防人
#[訓異]
#[大意]対馬の嶺は低いので上の方に雲はない。そこで九州の可牟の嶺にたなびく雲を見ながらあなたを偲ぼう。
#{語釈]
可牟の嶺  上の嶺。ただし下に雲がないから上の雲というのは、犬が西向きゃ尾は東で当たり前。また、「かみ」が「かむ」となる例はない。
     そこで、神(かむ)の嶺か。ただし「上(かみ)甲類」。神(かみ)乙類。
     背振山系の九州の山か。

#[説明]
対馬に行く防人が九州を出発する時の歌か

#[関連論文]


#[番号]14/3517
#[題詞]
#[原文]思良久毛能 多要尓之伊毛乎 阿是西呂等 許己呂尓能里弖 許己婆可那之家
#[訓読]白雲の絶えにし妹をあぜせろと心に乗りてここば愛しけ
#[仮名],しらくもの,たえにしいもを,あぜせろと,こころにのりて,ここばかなしけ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,恋情,別離
#[訓異]
#[大意]白雲のように途絶えてしまった妹であるのにどうしろと言うのだろうか。心にかかってひどく愛しいことだ
#{語釈]
ここば愛しけ  ここだ愛しき

#[説明]
仲が途絶えた男がさらに恋情が湧いている歌

#[関連論文]


#[番号]14/3518
#[題詞]
#[原文]伊波能倍尓 伊可賀流久毛能 可努麻豆久 比等曽於多波布 伊射祢之賣刀良
#[訓読]岩の上にいかかる雲のかのまづく人ぞおたはふいざ寝しめとら
#[仮名],いはのへに,いかかるくもの,かのまづく,ひとぞおたはふ,いざねしめとら
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]岩の上にかかる雲のように次々と近づいてくる人も静まった。さあ寝させないよ。刀羅よ。
#{語釈]
かぬまづく 未詳 代匠紀 彼真附 彼とは上の雲をさす。真附は真は萬に真実なるに付る言葉。雲の山に附如く夫に附依る女とつづくる意なり
      考 いかほの山の雨雲おはびこりつづきて可奴麻てふ所までひとつにつぎ成したり。今も可奴萬のをとて麻を出す所有り
      略解、古義 鹿沼
      新考 鹿沼は下野国にありて伊香保とはいたく相離れたり、。かぬまづくはおそらくはたびたび、かさねがさねなどいふ意の副詞なるべし
      全釈 神沼または上沼の略。伊香保の沼のことで雲が降りてきて着く

人と  人ぞ 訛化

おたはふ 考 おらばふ 音高く言い騒ぐ
     静まる、穏やかになる

とら  不明 刀羅という人の名前か。

#[説明]
場所を代えた異伝歌
14/3409H01伊香保ろに天雲い継ぎかぬまづく人とおたはふいざ寝しめとら


#[関連論文]


#[番号]14/3519
#[題詞]
#[原文]奈我波伴尓 己良例安波由久 安乎久毛能 伊弖来和伎母兒 安必見而由可武
#[訓読]汝が母に嘖られ我は行く青雲の出で来我妹子相見て行かむ
#[仮名],ながははに,こられあはゆく,あをくもの,いでこわぎもこ,あひみてゆかむ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,恋情
#[訓異]
#[大意]お前の母に叱られて自分は帰って行く。青雲のように出て来いよ。我妹子よ。一目でも見て行こう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3520
#[題詞]
#[原文]於毛可多能 和須礼牟之太波 於抱野呂尓 多奈婢久君母乎 見都追思努波牟
#[訓読]面形の忘れむしだは大野ろにたなびく雲を見つつ偲はむ
#[仮名],おもかたの,わすれむしだは,おほのろに,たなびくくもを,みつつしのはむ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,恋情,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]顔形を忘れる時は大野にたなびく雲を見ながらお前を偲ぼう。
#{語釈]
大野ろ  広い野 一般名詞

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3521
#[題詞]
#[原文]可良須等布 於保乎曽杼里能 麻左R尓毛 伎麻左奴伎美乎 許呂久等曽奈久
#[訓読]烏とふ大をそ鳥のまさでにも来まさぬ君をころくとぞ鳴く
#[仮名],からすとふ,おほをそとりの,まさでにも,きまさぬきみを,ころくとぞなく
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,動物,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]烏という大の騒がしい鳥が、ほんとうにいらっしゃらないあなたに対して「児ろ来」と鳴くことだ
#{語釈]
烏とふ大をそ鳥  烏という騒がしい鳥
     をそ そそかっしい 騒がしい 4/654、8/1548

まさでにも ほんとうに 3374

ころく  烏の鳴き声を児ろ来としたもの

#[説明]
日本霊異記(中)烏の邪婬を見て、世を厭ひ、善を修する縁 第二
妻烏が他の鳥と浮気をして去った後、夫烏は雛を抱き続けたまま息絶えていた。それを見た和泉の国の大領が出家。行基に従ったが先に死んだ。そこで行基が悲しんで作った歌。
烏といふ大をそ鳥の言をのみ共にといひて先だち去ぬる

#[関連論文]


#[番号]14/3522
#[題詞]
#[原文]伎曽許曽波 兒呂等左宿之香 久毛能宇倍由 奈伎由久多豆乃 麻登保久於毛保由
#[訓読]昨夜こそば子ろとさ寝しか雲の上ゆ鳴き行く鶴の間遠く思ほゆ
#[仮名],きぞこそば,ころとさねしか,くものうへゆ,なきゆくたづの,まとほくおもほゆ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,動物,恋情
#[訓異]
#[大意]たった昨日こそあの子と寝たのだ。雲の上の鳴いていく鶴のように間遠く思われてならない
#{語釈]
#[説明]
旅の途中の歌か。

#[関連論文]


#[番号]14/3523
#[題詞]
#[原文]佐可故要弖 阿倍乃田能毛尓 為流多豆乃 等毛思吉伎美波 安須左倍母我毛
#[訓読]坂越えて安倍の田の面に居る鶴のともしき君は明日さへもがも
#[仮名],さかこえて,あへのたのもに,ゐるたづの,ともしききみは,あすさへもがも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,静岡県,序詞,動物,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]坂を越えて安倍の田の地面にいる鶴のように心引かれるあなたは明日もまた来てくれたらなあ。
#{語釈]
安倍の田  駿河国に安倍郡(仙覚抄) 足柄の坂を越えて安倍というと合うが不明。
ともしき  心引かれる
03/0358H01武庫の浦を漕ぎ廻る小舟粟島をそがひに見つつ羨しき小舟

#[説明]
遊行女婦の歌か。やはり安倍は駿河の安倍か。
03/0284H01焼津辺に我が行きしかば駿河なる阿倍の市道に逢ひし子らはも

#[関連論文]


#[番号]14/3524
#[題詞]
#[原文]麻乎其母能 布能<末>知可久弖 安波奈敝波 於吉都麻可母能 奈氣伎曽安我須流
#[訓読]まを薦の節の間近くて逢はなへば沖つま鴨の嘆きぞ我がする
#[仮名],まをごもの,ふのまちかくて,あはなへば,おきつまかもの,なげきぞあがする
#[左注]
#[校異]未 -> 末 [細]
#[KW],東歌,相聞,植物,動物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]まを薦の節のように間近なのに逢わないので沖のカモメのような長い嘆きを自分はすることだ
#{語釈]
まを薦 「まを」接頭語
ま鴨  カモメ 長い息をする

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3525
#[題詞]
#[原文]水久君野尓 可母能波抱能須 兒呂我宇倍尓 許等乎呂波敝而 伊麻太宿奈布母
#[訓読]水久君野に鴨の這ほのす子ろが上に言緒ろ延へていまだ寝なふも
#[仮名],みくくのに,かものはほのす,ころがうへに,ことをろはへて,いまだねなふも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,動物,恋情
#[訓異]
#[大意]水久君野で鴨が這うようにあの子の上に言葉を約束しただけで、まだ寝ていないことだ
#{語釈]
水久君野  地名であろうが所在未詳
      考 武蔵秩父郡に水久具利
      語義としては水に潜った所 沼地のような所か。鴨がいる。

鴨の這ほのす 「のす」は「なす」~のように
       鴨が這うように
       鴨が水に潜るように

言緒ろ延へて 言葉を長く続けて 長く続けるというので緒と言った
       口約束をした
       密かに言葉を交わした

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3526
#[題詞]
#[原文]奴麻布多都 可欲波等里我栖 安我己許呂 布多由久奈母等 奈与母波里曽祢
#[訓読]沼二つ通は鳥が巣我が心二行くなもとなよ思はりそね
#[仮名],ぬまふたつ,かよはとりがす,あがこころ,ふたゆくなもと,なよもはりそね
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,恋愛
#[訓異]
#[大意]沼を二カ所行き来する鳥の巣のように自分の心が二カ所に行くのだろうとお思いになってはくれるな
#{語釈]
沼二つ通は鳥が巣 沼二つを行き来する鳥の巣 実態不明
         釈注 巣は餌場のこと

行くなも  行くらむ
なよ思はりそね なおぼしそね  お思いになってはくれるな
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3527
#[題詞]
#[原文]於吉尓須毛 乎加母乃毛己呂 也左可杼利 伊伎豆久伊毛乎 於伎弖伎努可母
#[訓読]沖に住も小鴨のもころ八尺鳥息づく妹を置きて来のかも
#[仮名],おきにすも,をかものもころ,やさかどり,いきづくいもを,おきてきのかも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,動物,羈旅,別離,恋情,出発
#[訓異]
#[大意]岸から離れた所にすむ鴨のように長い息をする鳥。そのように長く嘆息をする妹を後に残してやって来たことだ
#{語釈]
小鴨のもころ 「を」接頭語 鴨のように
八尺鳥  13/3276 八尺の長い息をする鳥

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3528
#[題詞]
#[原文]水都等利乃 多々武与曽比尓 伊母能良尓 毛乃伊波受伎尓弖 於毛比可祢都母
#[訓読]水鳥の立たむ装ひに妹のらに物言はず来にて思ひかねつも
#[仮名],みづとりの,たたむよそひに,いものらに,ものいはずきにて,おもひかねつも
#[左注]
#[校異]乃 [元][類](塙) 能 / 母 [元][類][細](塙) 毛
#[KW],東歌,相聞,羈旅,出発,別離,恋情
#[訓異]
#[大意]水鳥が出発するように旅に出発する準備にまぎれて妹にものを言わないでやって来て思いに堪えかねていることだ
#{語釈]
立たむ装ひ 出発する装い

#[説明]
類歌
04/0503H01玉衣のさゐさゐしづみ家の妹に物言はず来にて思ひかねつも
14/3481H01あり衣のさゑさゑしづみ家の妹に物言はず来にて思ひ苦しも

#[関連論文]


#[番号]14/3529
#[題詞]
#[原文]等夜乃野尓 乎佐藝祢良波里 乎佐乎左毛 祢奈敝古由恵尓 波伴尓許呂波要
#[訓読]等夜の野に兎ねらはりをさをさも寝なへ子ゆゑに母に嘖はえ
#[仮名],とやののに,をさぎねらはり,をさをさも,ねなへこゆゑに,ははにころはえ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,動物,恋愛
#[訓異]
#[大意]等夜の野にウサギを狙っているのではないが、そうたいして寝ていないあの子なのに母に叱られて。
#{語釈]
等夜の野 地名か 略解 和名抄 下総因旛郡鳥矢郷か
     考 鷹などを隠しておく所を鳥屋(とや)。さらに獲物を捕る仕掛けをしている野
     「をさぎ」と「をさをさ」を掛ける序詞

をさをさも 多くも ろくに

母に嘖はえ  しかられる
11/2527H01誰れぞこの我が宿来呼ぶたらちねの母に嘖はえ物思ふ我れを

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3530
#[題詞]
#[原文]左乎思鹿能 布須也久草無良 見要受等母 兒呂我可奈門欲 由可久之要思母
#[訓読]さを鹿の伏すや草むら見えずとも子ろが金門よ行かくしえしも
#[仮名],さをしかの,ふすやくさむら,みえずとも,ころがかなとよ,ゆかくしえしも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,動物,恋愛,序詞
#[訓異]
#[大意]さを鹿の伏す草むらで鹿が見えないように、妹が見えなくともあの子の門を通って行くのはいいことだ
#{語釈]
可奈門 金門
09/1739H01金門にし人の来立てば夜中にも身はたな知らず出でてぞ逢ひける
09/1775H01泊瀬川夕渡り来て我妹子が家の金門に近づきにけり

#[説明]
母にも許されて堂々と妹のもとに通う男の気持ちか
後藤利雄 草むら、金門は、女性の物の譬喩か。
釈注 鹿猪狩りの歌か

#[関連論文]


#[番号]14/3531
#[題詞]
#[原文]伊母乎許曽 安比美尓許思可 麻欲婢吉能 与許夜麻敝呂能 思之奈須於母敝流
#[訓読]妹をこそ相見に来しか眉引きの横山辺ろの獣なす思へる
#[仮名],いもをこそ,あひみにこしか,まよびきの,よこやまへろの,ししなすおもへる
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,枕詞,恋愛,怨恨,動物
#[訓異]
#[大意]妹に会いに来たのに、眉引きの横山あたりの鹿や猪のように思っているよ
#{語釈]
眉引きの  横に引くので「横山」の枕詞
横山 横に長い丘陵
01/0022D02十市皇女参赴於伊勢神宮時見波多横山巌吹B刀自作歌
20/4417H01赤駒を山野にはがし捕りかにて多摩の横山徒歩ゆか遣らむ

#[説明]
母親あたりに追い払われた男の歌

#[関連論文]


#[番号]14/3532
#[題詞]
#[原文]波流能野尓 久佐波牟古麻能 久知夜麻受 安乎思努布良武 伊敝乃兒呂波母
#[訓読]春の野に草食む駒の口やまず我を偲ふらむ家の子ろはも
#[仮名],はるののに,くさはむこまの,くちやまず,あをしのふらむ,いへのころはも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,動物,序詞,恋情,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]春の野で草を食べる馬の口を休ませないように、絶えず自分を偲んでいるであろう家のあの子はなあ
#{語釈]
#[説明]
旅に出た男の歌か

#[関連論文]


#[番号]14/3533
#[題詞]
#[原文]比登乃兒乃 可奈思家之太波 々麻渚杼里 安奈由牟古麻能 乎之家口母奈思
#[訓読]人の子の愛しけしだは浜洲鳥足悩む駒の惜しけくもなし
#[仮名],ひとのこの,かなしけしだは,はますどり,あなゆむこまの,をしけくもなし
#[左注]
#[校異]乃 [元][類] 能
#[KW],東歌,相聞,動物,恋情
#[訓異]
#[大意]人のあの子のいとしい時は州浜をいく鳥の千鳥足のように足をなづませている馬は惜しいこともないよ
#{語釈]
駒の惜しけくもなし たとえ馬がつぶれても惜しいことはない

#[説明]
妹に早く会いたい一心から馬の疲れも考えないで早く走らせている男の気落ち

#[関連論文]


#[番号]14/3534
#[題詞]
#[原文]安可胡麻我 可度弖乎思都々 伊弖可天尓 世之乎見多弖思 伊敝能兒良波母
#[訓読]赤駒が門出をしつつ出でかてにせしを見立てし家の子らはも
#[仮名],あかごまが,かどでをしつつ,いでかてに,せしをみたてし,いへのこらはも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,動物,羈旅,別離,望郷,出発
#[訓異]
#[大意]赤駒が出発をするのに出たがらなくしていたのを見ていた家のあの子はなあ
#{語釈]
#[説明]
旅に出る男の歌
釈注
第二次大戦の初期、出征兵士が出で立つに際し、筆者の育った南信州の農村では、各戸に一頭は飼育する愛馬に乗って門出をした。かれらは村境まで馬に乗って見送られ、あとはバスで最寄りの駅に向かうのであったが、主人の心を知ってか、はたまた家族の心を汲み取ってか、門でたじろぎ、一歩をはかばかしく打ち出さぬ馬を筆者は何回も見た。その一瞬、見送る人々のざわめきに水が打たれるのであった。

#[関連論文]


#[番号]14/3535
#[題詞]
#[原文]於能我乎遠 於保尓奈於毛比曽 尓波尓多知 恵麻須我可良尓 古麻尓安布毛能乎
#[訓読]己が命をおほにな思ひそ庭に立ち笑ますがからに駒に逢ふものを
#[仮名],おのがをを,おほになおもひそ,にはにたち,ゑますがからに,こまにあふものを
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,動物,恋情,慰撫
#[訓異]
#[大意]自分の命をいいかげんには思うなよ。庭に立ってほほえまれるだけで、恋人の乗った馬に出会うものだから
#{語釈]
おほに
02/0219H01そら数ふ大津の子が逢ひし日におほに見しかば今ぞ悔しき
03/0476H01我が大君天知らさむと思はねばおほにぞ見ける和束杣山

笑ますがからに
04/0624H01道に逢ひて笑まししからに降る雪の消なば消ぬがに恋ふといふ我妹

#[説明]
男に会えないと嘆いている女を教喩したものか。
釈注 庭に立ってほほえむと思う人が馬に乗ってやってくるという諺があったか。

#[関連論文]


#[番号]14/3536
#[題詞]
#[原文]安加胡麻乎 宇知弖左乎妣吉 己許呂妣吉 伊可奈流勢奈可 和我理許武等伊布
#[訓読]赤駒を打ちてさ緒引き心引きいかなる背なか我がり来むと言ふ
#[仮名],あかごまを,うちてさをびき,こころひき,いかなるせなか,わがりこむといふ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,動物,女歌,怨恨,恋愛,序詞
#[訓異]
#[大意]赤駒を鞭打ったり手綱を引いたりするように自分の心を引いて、どういう背なのか。自分の所に来ようと言うのは。
#{語釈]
赤駒 元気のいい馬


#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3537
#[題詞]
#[原文]久敝胡之尓 武藝波武古宇馬能 波都々々尓 安比見之兒良之 安夜尓可奈思母
#[訓読]くへ越しに麦食む小馬のはつはつに相見し子らしあやに愛しも
#[仮名],くへごしに,むぎはむこうまの,はつはつに,あひみしこらし,あやにかなしも
#[左注]或本歌曰 宇麻勢胡之 牟伎波武古麻能 波都々々尓 仁必波太布礼思 古呂之可奈思母
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,異伝,動物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]馬柵越しに麦を食べる子馬が首を出してわづかに食べるように、ちょっとだけ見たあの子がやけにいとしいことだ
#{語釈]
くへ  馬柵に同じ
12/3096H01馬柵越しに麦食む駒の罵らゆれど猶し恋しく思ひかねつも

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3537S
#[題詞]或本歌曰
#[原文]宇麻勢胡之 牟伎波武古麻能 波都々々尓 仁必波太布礼思 古呂之可奈思母
#[訓読]馬柵越し麦食む駒のはつはつに新肌触れし子ろし愛しも
#[仮名],うませごし,むぎはむこまの,はつはつに,にひはだふれし,ころしかなしも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,異伝,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]馬柵越しに麦を食べる駒がわづかにしか食べられないように、そのようにちょっとだけ新肌に触れたあの子がいとしいことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3538
#[題詞]
#[原文]比呂波之乎 宇馬古思我祢弖 己許呂能未 伊母我理夜里弖 和波己許尓思天
#[訓読]広橋を馬越しがねて心のみ妹がり遣りて我はここにして
#[仮名],ひろはしを,うまこしがねて,こころのみ,いもがりやりて,わはここにして
#[左注]或本歌發句曰 乎波夜之尓 古麻乎波左佐氣
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,異伝,うわさ,恋情,動物
#[訓異]
#[大意]広い橋を馬が越えることが出来なくて心ばかり妹のもとへやって。自分はここにあって
#{語釈]
広橋  幅の広い川に渡した舟橋のような橋か。馬を渡すのが難しい
    幅の広い橋で馬も簡単に渡ることが出来るが、実際にはなかなか行けない気持ちを言ったものか 全注釈 ヲはそれだのにの意味を含む

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3538S
#[題詞]或本歌發句曰
#[原文]乎波夜之尓 古麻乎波左佐氣
#[訓読]小林に駒を馳ささげ
#[仮名],をばやしに,こまをはささげ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,異伝,恋情
#[訓異]
#[大意]林の中に馬を走り込ませてしまって
#{語釈]
馳ささげ 馳せ上げさせ
     心は急いでいるのに、馬は木立に阻まれてのろのろとしか進まない

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3539
#[題詞]
#[原文]安受乃宇敝尓 古馬乎都奈伎弖 安夜抱可等 比等豆麻古呂乎 伊吉尓和我須流
#[訓読]あずの上に駒を繋ぎて危ほかど人妻子ろを息に我がする
#[仮名],あずのうへに,こまをつなぎて,あやほかど,ひとづまころを,いきにわがする
#[左注]
#[校異]豆 [類] 都
#[KW],東歌,相聞,序詞,恋情,動物
#[訓異]
#[大意]崩れた崖の上に馬をつないで危ないように、危ないが人妻のあの子を命にかけて自分は思っている
#{語釈]
あず  新撰字鏡「 久豆礼又阿須」 崩れた崖
息に我がする 息の緒に思うと同じ。ハアハアと息を吐いて思いつめている

#[説明]
若者たちの間で歌われた歌謡か。

#[関連論文]


#[番号]14/3540
#[題詞]
#[原文]左和多里能 手兒尓伊由伎安比 安可胡麻我 安我伎乎波夜未 許等登波受伎奴
#[訓読]左和多里の手児にい行き逢ひ赤駒が足掻きを速み言問はず来ぬ
#[仮名],さわたりの,てごにいゆきあひ,あかごまが,あがきをはやみ,こととはずきぬ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,群馬県,動物,恋情
#[訓異]
#[大意]左和多里のかわいい処女に行き会ったが赤駒の足掻きが早いのでものも言わないでやって来たことだ
#{語釈]
左和多里  未詳 群馬県吾妻郡猿渡 下総印旛郡曰理(わたり)、陸奥国安達郡曰理

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3541
#[題詞]
#[原文]安受倍可良 古麻<能>由胡能須 安也波刀文 比<登>豆麻古呂乎 麻由可西良布母
#[訓読]あずへから駒の行ごのす危はとも人妻子ろをまゆかせらふも
#[仮名],あずへから,こまのゆごのす,あやはとも,ひとづまころを,まゆかせらふも
#[左注]
#[校異]乃 -> 能 [元][類] / 等 -> 登 [元][類]
#[KW],東歌,相聞,動物,序詞,訓義未詳,恋愛
#[訓異]
#[大意]崩れた崖のあたりから駒が行くように危なくあるとも人妻のあの子を「まゆかせらふ」ことだ
#{語釈]
あずへ 3539 崩れた崖のあたり
まゆかせらふも 意味不明
        代匠紀 まゆかさすらくもの意か。
        童蒙抄 一説にまひなひをかせん 追従せんか
        略解  ゆかしくせるを言う
        大系  目で見てだけいられようか。
        私注  まやかすの古形「まゆかす」 誘惑する

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3542
#[題詞]
#[原文]<佐>射礼伊思尓 古馬乎波佐世弖 己許呂伊多美 安我毛布伊毛我 伊敝<能>安多里可聞
#[訓読]さざれ石に駒を馳させて心痛み我が思ふ妹が家のあたりかも
#[仮名],さざれいしに,こまをはさせて,こころいたみ,あがもふいもが,いへのあたりかも#[左注]
#[校異]伊 -> 佐 [西(訂正右書)][元][類][紀] / 乃 -> 能 [元][類]
#[KW],東歌,相聞,動物,恋愛,妻問い
#[訓異]
#[大意]小石に馬を駆けさせてけがはしないかと心配するように、心が痛いほど自分が思う妹の家のあたりであるよ
#{語釈]
心痛み  馬のけがを心配していううちに妹の家に着いたということ

#[説明]
#[関連論文]



#[番号]14/3543
#[題詞]
#[原文]武路我夜乃 都留能都追美乃 那利奴賀尓 古呂波伊敝<杼>母 伊末太<年>那久尓
#[訓読]むろがやの都留の堤の成りぬがに子ろは言へどもいまだ寝なくに
#[仮名],むろがやの,つるのつつみの,なりぬがに,ころはいへども,いまだねなくに
#[左注]
#[校異]抒 -> 杼 [類][細] / 羊 -> 年 [元][類][紀]
#[KW],東歌,相聞,地名,山梨県,上野原町,恋情
#[訓異]
#[大意]むろがやの都留の堤防が出来たように恋が出来たとあの子は言うがまだ寝ていないのに。
#{語釈]
むろがやの 代匠紀 室草  新室を葺く草 連なり生えるから「つる」にかかる
      全釈  室が谷と表記する地名か。所在未詳
          
都留    未詳 和名抄 山梨県北都留郡鶴川村(上野原町)か。

なりぬがに  なったように
04/0594H01我がやどの夕蔭草の白露の消ぬがにもとな思ほゆるかも
14/3452H01おもしろき野をばな焼きそ古草に新草交り生ひは生ふるがに

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3544
#[題詞]
#[原文]阿須可河泊 之多尓其礼留乎 之良受思天 勢奈那登布多理 左宿而久也思母
#[訓読]あすか川下濁れるを知らずして背ななと二人さ寝て悔しも
#[仮名],あすかがは,したにごれるを,しらずして,せななとふたり,さねてくやしも
#[左注]
#[校異]泊 [元][類][紀] 伯
#[KW],東歌,相聞,明日香,奈良,地名,浮気,恋情,後悔,怨恨
#[訓異]
#[大意]あすか川の底が濁っているように心の中が不純であるのを知らないで背と二人寝てくやしいことだ
#{語釈]
あすか川 飛鳥川か。東国でも有名。ただ同名の川が東国にもあったか。
下濁れる 川底が濁っているのと、心の中が濁っている

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3545
#[題詞]
#[原文]安須可河泊 世久登之里世波 安麻多欲母 為祢弖己麻思乎 世久得四里世<婆>
#[訓読]あすか川堰くと知りせばあまた夜も率寝て来ましを堰くと知りせば
#[仮名],あすかがは,せくとしりせば,あまたよも,ゐねてこましを,せくとしりせば
#[左注]
#[校異]泊 [元][紀] 伯 / 波 -> 婆 [元][類][紀]
#[KW],東歌,相聞,明日香,奈良,地名,恋情
#[訓異]
#[大意]あすか川ではないが流れを堰止めると知っていたならば、幾夜も連れ出して寝て来たものなのに。堰き止めると知っていたならば。
#{語釈]
堰く  堰き止める 親がじゃまをすること

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3546
#[題詞]
#[原文]安乎楊木能 波良路可波刀尓 奈乎麻都等 西美度波久末受 多知度奈良須母
#[訓読]青柳の張らろ川門に汝を待つと清水は汲まず立ち処平すも
#[仮名],あをやぎの,はらろかはとに,なをまつと,せみどはくまず,たちどならすも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,植物,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]青柳が芽を張っている川の渡し場であなたを待つとして、汲みに来た清水は汲まないで立っている所を踏みならすことであるよ
#{語釈]
清水 川の水、清水。女は水汲みに来ている
立ち処 立っている所。踏みならす。男を待ってじっとしている

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3547
#[題詞]
#[原文]阿遅乃須牟 須沙能伊利江乃 許母理沼乃 安奈伊伎豆加思 美受比佐尓指天
#[訓読]あぢの棲む須沙の入江の隠り沼のあな息づかし見ず久にして
#[仮名],あぢのすむ,すさのいりえの,こもりぬの,あないきづかし,みずひさにして
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,動物,恋情,序詞
#[訓異]
#[大意]あぢ鴨の住む須沙の入江の隠り沼ではないが、うっとうしくて本当に嘆息されるよ。見ないことが長くなって。
#{語釈]
あぢ あぢ鴨
須沙の入江  未詳
      代匠記 紀伊 神名帳 須佐神社
精撰本 東国 東歌
松田好夫 知多半島先端の伊勢湾側にある須佐湾のこと
現 愛知県知多郡南知多町豊浜 須佐湾
11/2751H01あぢの住む渚沙の入江の荒礒松我を待つ子らはただ独りのみ

あな息づかし
08/1454H01波の上ゆ見ゆる小島の雲隠りあな息づかし相別れなば

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3548
#[題詞]
#[原文]奈流世<呂>尓 木都能余須奈須 伊等能伎提 可奈思家世呂尓 比等佐敝余須母
#[訓読]鳴る瀬ろにこつの寄すなすいとのきて愛しけ背ろに人さへ寄すも
#[仮名],なるせろに,こつのよすなす,いとのきて,かなしけせろに,ひとさへよすも
#[左注]
#[校異]路 -> 呂 [元][類]
#[KW],東歌,相聞,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]鳴り響く早瀬に木屑が寄ってくるように、ひどく愛しい背に他人まで言い寄せてくれるよ
#{語釈]
こつ 木屑  こづみ
07/1137H01宇治人の譬への網代我れならば今は寄らまし木屑来ずとも
11/2724H01秋風の千江の浦廻の木屑なす心は寄りぬ後は知らねど
19/4217H01卯の花を腐す長雨の始水に寄る木屑なす寄らむ子もがも
20/4396H01堀江より朝潮満ちに寄る木屑貝にありせばつとにせましを

いとのきて  特別に ひどく
05/0892H14ことも忘れて ぬえ鳥の のどよひ居るに いとのきて 短き物を

人さへ寄すも 他人までもが自分を背に言い寄せてくれる。だからもっと愛しくなる

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3549
#[題詞]
#[原文]多由比我多 志保弥知和多流 伊豆由可母 加奈之伎世呂我 和賀利可欲波牟
#[訓読]多由比潟潮満ちわたるいづゆかも愛しき背ろが我がり通はむ
#[仮名],たゆひがた,しほみちわたる,いづゆかも,かなしきせろが,わがりかよはむ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,福井県,恋情,女歌,妻問い
#[訓異]
#[大意]多由比潟に潮が満ちていっぱいになる。どこから愛しい背が自分の所へ通ってくるのだろう
#{語釈]
多由比潟潮  越前田結潟 福井県敦賀市手結
03/0366H02ますらをの 手結が浦に 海女娘子 塩焼く煙
ここは東国地方なので未詳

#[説明]
潮が引いていると陸続きに通れるが、満ち潮になると通り道がなくなると心配したもの

#[関連論文]


#[番号]14/3550
#[題詞]
#[原文]於志弖伊奈等 伊祢波都可祢杼 奈美乃保能 伊多夫良思毛与 伎曽比登里宿而
#[訓読]おしていなと稲は搗かねど波の穂のいたぶらしもよ昨夜ひとり寝て
#[仮名],おしていなと,いねはつかねど,なみのほの,いたぶらしもよ,きぞひとりねて
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,恋情,作業歌,歌謡,孤独
#[訓異]
#[大意]しいていやだと思って稲をつくのではないが、その稲穂ではないが白波の波頭のように心が揺れて落ち着かないことだ。昨晩は独りで寝て。
#{語釈]
おしていなと  しいてはいやだと
        
いたぶらしもよ  心がひどく動揺する
11/2736H01風をいたみいたぶる波の間なく我が思ふ妹は相思ふらむか

#[説明]
釈注 稲をつく女の労働歌か。稲つきをさぼったか、調子が乱れたかでまわりの女たちから叱責されて、いいわけしたものか。
稲つきはいやではないが、今日は気が進まないのは昨日は彼が来なかったから、イライラしているだけなの。
とでも言ったもの。

#[関連論文]


#[番号]14/3551
#[題詞]
#[原文]阿遅可麻能 可多尓左久奈美 比良湍尓母 比毛登久毛能可 加奈思家乎於吉弖
#[訓読]阿遅可麻の潟にさく波平瀬にも紐解くものか愛しけを置きて
#[仮名],あぢかまの,かたにさくなみ,ひらせにも,ひもとくものか,かなしけをおきて
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,恋情,女歌,序詞,浮気
#[訓異]
#[大意]あじかまの潟に咲く波よ。その波の広がる平瀬のように浅くかりそめにも紐を解くものか。いとしい人を差し置いて
#{語釈]
阿遅可麻の潟 11/2747
代匠記 東国の地名 14/3551、3553
私注 枕詞とすると、あぢはあぢかも かまは、かもの転
港等水辺をあらわす語に続く

さく波 白く波が立つ様子
平瀬  平らな浅い所  浅いかりそめの契りの譬喩

#[説明]
浮気をしない気持ちを女に言ったもの

#[関連論文]


#[番号]14/3552
#[題詞]
#[原文]麻都我宇良尓 佐和恵宇良太知 麻比<登>其等 於毛抱須奈母呂 和賀母抱乃須毛
#[訓読]まつが浦にさわゑうら立ちま人言思ほすなもろ我が思ほのすも
#[仮名],まつがうらに,さわゑうらだち,まひとごと,おもほすなもろ,わがもほのすも
#[左注]
#[校異]等 -> 登 [元][類][紀]
#[KW],東歌,相聞,地名,宮城県,福島県,うわさ,恋愛,女歌
#[訓異]
#[大意]まつが浦にざわざわと浦波が立つように立ったうわさをあなたはお思いになっていらっしゃるかしら。私が思うのと同じように
#{語釈]
まつが浦 未詳 宮城県宮城郡七ヶ浜の松が浜 福島県相馬市松川浦
さわゑうら立ち ざわめき 人々のうわさになって騒がしい
ま人言  「ま」接頭語
思ほすなもろ 思ほす 尊敬 なも らむと同じ ろ 詠嘆
       おぼすらむかも と同じ
我が思ほのすも 思ほ のす なすと同じ  自分が思うのと同じように

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3553
#[題詞]
#[原文]安治可麻能 可家能水奈刀尓 伊流思保乃 許弖多受久毛可 伊里弖祢麻久母
#[訓読]あじかまの可家の港に入る潮のこてたずくもが入りて寝まくも
#[仮名],あぢかまの,かけのみなとに,いるしほの,こてたずくもが,いりてねまくも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,愛知県,序詞,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]あじかまの可家の港に入ってくる潮が穏やかなように、人のうわさが穏やかであって欲しい。そうすれば寝床に入って共寝をすることなのに。
#{語釈]
可家の港  不明  愛知県東海市上野町 横須賀町
こてたずくもが  難解 こてたずく・もが
         言(こて)たずく(ゆるいの意)・もが(願望) か。
         人の言葉(うわさ)がおだやかであって欲しい

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3554
#[題詞]
#[原文]伊毛我奴流 等許<能>安多理尓 伊波具久留 水都尓母我毛与 伊里弖祢末久母
#[訓読]妹が寝る床のあたりに岩ぐくる水にもがもよ入りて寝まくも
#[仮名],いもがぬる,とこのあたりに,いはぐくる,みづにもがもよ,いりてねまくも
#[左注]
#[校異]乃 -> 能 [元][類]
#[KW],東歌,相聞,恋情
#[訓異]
#[大意]妹が寝る寝床のあたりに、岩をくぐっていく水であればなあ。そうすれば入っていって寝ることなのに
#{語釈]
岩ぐくる水  岩の隙間からしみ出している水を見ている

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3555
#[題詞]
#[原文]麻久良我乃 許我能和多利乃 可良加治乃 於<登>太可思母奈 宿莫敝兒由恵尓
#[訓読]麻久良我の許我の渡りの韓楫の音高しもな寝なへ子ゆゑに
#[仮名],まくらがの,こがのわたりの,からかぢの,おとだかしもな,ねなへこゆゑに
#[左注]
#[校異]等 -> 登 [類][細]
#[KW],東歌,相聞,地名,茨城県,古河,序詞,うわさ,恋愛
#[訓異]
#[大意]麻久良我の許我の渡りの船楫の音が高いように、うわさが高いことだ。まだ寝ていないあの子なのに。
#{語釈]
麻久良我  未詳 茨城県古川市 3449
許我の渡り 古川市の利根川の渡し場か

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3556
#[題詞]
#[原文]思保夫祢能 於可礼婆可奈之 左宿都礼婆 比登其等思氣志 那乎杼可母思武
#[訓読]潮船の置かれば愛しさ寝つれば人言繁し汝をどかもしむ
#[仮名],しほぶねの,おかればかなし,さねつれば,ひとごとしげし,なをどかもしむ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,枕詞,恋情,うわさ
#[訓異]
#[大意]潮船のようにほおっておくと愛しい。寝ると人のうわさがひどい。お前をどのようにしようか
#{語釈]
潮船  3450  潮の満ち引きの流れを利用して進む船
      引き潮で浜辺に並んでいる船。並べるの枕詞 東歌のみ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3557
#[題詞]
#[原文]奈夜麻思家 比登都麻可母与 許具布祢能 和須礼波勢奈那 伊夜母比麻須尓
#[訓読]悩ましけ人妻かもよ漕ぐ舟の忘れはせなないや思ひ増すに
#[仮名],なやましけ,ひとづまかもよ,こぐふねの,わすれはせなな,いやもひますに
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]悩ましい人妻であることだ。漕ぐ船は遠くへ行って忘れてしまうが、忘れることはなくてますます思いがつのることだ
#{語釈]
漕ぐ舟の  漕ぐ船が遠くへ行って忘れてしまう

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3558
#[題詞]
#[原文]安波受之弖 由加婆乎思家牟 麻久良我能 許賀己具布祢尓 伎美毛安波奴可毛
#[訓読]逢はずして行かば惜しけむ麻久良我の許我漕ぐ船に君も逢はぬかも
#[仮名],あはずして,ゆかばをしけむ,まくらがの,こがこぐふねに,きみもあはぬかも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,茨城県,古河,遊行女婦,女歌
#[訓異]
#[大意]このまま逢わないで行ったら心残りだろう。麻久良我の許我を漕ぐ船であなたに逢わないことだろうか
#{語釈]
麻久良我の許我 3555

#[説明]
遊行女婦の名残を惜しむ歌か

#[関連論文]


#[番号]14/3559
#[題詞]
#[原文]於保夫祢乎 倍由毛登母由毛 可多米提之 許曽能左刀妣等 阿良波左米可母
#[訓読]大船を舳ゆも艫ゆも堅めてし許曽の里人あらはさめかも
#[仮名],おほぶねを,へゆもともゆも,かためてし,こそのさとびと,あらはさめかも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,序詞,うわさ,恋愛,地名
#[訓異]
#[大意]大船を舳からも艫からもつなぎ固めるように契り固めたのだから、たとえ許曽の里人であってもばらしたりすることが出来ようか
#{語釈]
許曽の里人  未詳

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3560
#[題詞]
#[原文]麻可祢布久 尓布能麻曽保乃 伊呂尓R<弖> 伊波奈久能未曽 安我古布良久波
#[訓読]ま金ふく丹生のま朱の色に出て言はなくのみぞ我が恋ふらくは
#[仮名],まかねふく,にふのまそほの,いろにでて,いはなくのみぞ,あがこふらくは
#[左注]
#[校異]々 -> 弖 [元][類]
#[KW],東歌,相聞,地名,奈良,吉野,岐阜,序詞,うわさ,恋情
#[訓異]
#[大意]ま金を吹き出す丹生の赤土ではないが、顔色に顕著に出して言わないだけだ。自分が恋い思っていることは。
#{語釈]
ま金ふく  鉄を精錬する
      金を精錬する 金渡金
丹生のま朱 丹生は辰砂を含む赤土のある地名 紀伊半島、越前に多い
      ここでは蹈鞴の土のことを言う
      金の精錬だとすると水銀のこと

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3561
#[題詞]
#[原文]可奈刀田乎 安良我伎麻由美 比賀刀礼婆 阿米乎万刀能須 伎美乎等麻刀母
#[訓読]金門田を荒垣ま斎み日が照れば雨を待とのす君をと待とも
#[仮名],かなとだを,あらがきまゆみ,ひがとれば,あめをまとのす,きみをとまとも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,序詞,恋情,女歌
#[訓異]
#[大意]門前の田を目の荒い垣根から見ては日が照ると雨を待つようにあなたを待つことだ
#{語釈]
金門 農家の入り口  道に対して曲がり角のある入り口
荒垣ま斎み  荒垣間ゆ見  目の荒い垣根の間からのぞき見をする
              たえず田の水の様子を見る
       荒掻き真忌み(代掻きをして田植えのために潔斎する)
待とのす 待つなす

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3562
#[題詞]
#[原文]安里蘇夜尓 於布流多麻母乃 宇知奈婢伎 比登里夜宿良牟 安乎麻知可祢弖
#[訓読]荒礒やに生ふる玉藻のうち靡きひとりや寝らむ我を待ちかねて
#[仮名],ありそやに,おふるたまもの,うちなびき,ひとりやぬらむ,あをまちかねて
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,植物,序詞,恋情,孤独
#[訓異]
#[大意]荒磯のまわりに生える玉藻のようにうち靡いて今頃はひとりで寝ているであろうか。自分を待ちかねて。
#{語釈]
荒礒や  荒磯のあたり 「や」はあたりという接尾語か
玉藻の  容姿、髪の毛の形容

#[説明]
類歌
11/2483H01敷栲の衣手離れて玉藻なす靡きか寝らむ我を待ちかてに
11/2564H01ぬばたまの妹が黒髪今夜もか我がなき床に靡けて寝らむ

#[関連論文]


#[番号]14/3563
#[題詞]
#[原文]比多我多能 伊蘇乃和可米乃 多知美太要 和乎可麻都那毛 伎曽毛己余必母
#[訓読]比多潟の礒のわかめの立ち乱え我をか待つなも昨夜も今夜も
#[仮名],ひたがたの,いそのわかめの,たちみだえ,わをかまつなも,きぞもこよひも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,茨城県,植物,序詞,恋情
#[訓異]
#[大意]比多潟の礒のわかめのように立ち乱れて自分を待っているだろうか。昨夜も今夜も。
#{語釈]
比多潟  未詳 茨城県霞ヶ浦
待つなも 待つらむ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3564
#[題詞]
#[原文]古須氣呂乃 宇良布久可是能 安騰須酒香 可奈之家兒呂乎 於毛比須吾左牟
#[訓読]古須気ろの浦吹く風のあどすすか愛しけ子ろを思ひ過ごさむ
#[仮名],こすげろの,うらふくかぜの,あどすすか,かなしけころを,おもひすごさむ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,地名,東京都,小菅町,恋情
#[訓異]
#[大意]古須気の浦を吹く風が吹き抜けるのではないが、どうすればいとしいあの子を思い過ごすことが出来るだろうか
#{語釈]
古須気ろの浦  考 東京都葛飾区小菅町
あどすすか 何ど為為か
思ひ過ごさむ 忘れる

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3565
#[題詞]
#[原文]可能古呂等 宿受夜奈里奈牟 波太須酒伎 宇良野乃夜麻尓 都久可多与留母
#[訓読]かの子ろと寝ずやなりなむはだすすき宇良野の山に月片寄るも
#[仮名],かのころと,ねずやなりなむ,はだすすき,うらののやまに,つくかたよるも
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,植物,地名,長野県,恋情
#[訓異]
#[大意]あの子と寝ないままになってしまうのかなあ。はだすすきの生える宇良野の山に月が片寄っていることだ
#{語釈]
宇良野の山 長野県小県郡川西村浦野 長野県小県郡青木村沓掛

#[説明]
妹と待ち合わせて、今夜は寝ないままかな
妹との失恋で、このままずっと寝ないままになってしまうのかと嘆く

#[関連論文]


#[番号]14/3566
#[題詞]
#[原文]和伎毛古尓 安我古非思奈婆 曽和敝可毛 加未尓於保世牟 己許呂思良受弖
#[訓読]我妹子に我が恋ひ死なばそわへかも神に負ほせむ心知らずて
#[仮名],わぎもこに,あがこひしなば,そわへかも,かみにおほせむ,こころしらずて
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,恋情
#[訓異]
#[大意]我妹子に自分が恋死にしたならば、まわりの人たちは神のせいにするだろうか。自分の本心も知らなくて
#{語釈]
そわへかも 未詳   側辺(そばへ)か。まわりの連中
神に負ほせむ  神のせいにする 鬼神、祟り

#[説明]
まわりの連中は自分の本心など知らないさという気持ち

#[関連論文]


#[番号]14/3567
#[題詞]防人歌
#[原文]於伎弖伊可婆 伊毛婆麻可奈之 母知弖由久 安都佐能由美乃 由都可尓母我毛
#[訓読]置きて行かば妹はま愛し持ちて行く梓の弓の弓束にもがも
#[仮名],おきていかば,いもはまかなし,もちてゆく,あづさのゆみの,ゆづかにもがも
#[左注](右二首<問>答)
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,恋情,出発
#[訓異]
#[大意]後に置いて行ったならば妹はいとしい。持って行く梓の弓の弓束でもあればなあ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3568
#[題詞]
#[原文]於久礼為弖 古非波久流思母 安佐我里能 伎美我由美尓母 奈良麻思物能乎
#[訓読]後れ居て恋ひば苦しも朝猟の君が弓にもならましものを
#[仮名],おくれゐて,こひばくるしも,あさがりの,きみがゆみにも,ならましものを
#[左注]右二首<問>答
#[校異]問 [西(訂正右書)][紀][細][温]
#[KW],東歌,相聞,女歌,恋情,出発
#[訓異]
#[大意]後に残っていて恋い思っていると苦しい。朝猟のあなたの弓にでもなろうものなのに
#{語釈]
#[説明]
伊藤博 朝猟の弓の持ち主である夫はずっとこちらにいなければならなくなる。この発言は「行く梓の弓を否定して、夫婦にとってより望ましい「朝猟の君の弓」を主張したもの。あきらかに引き留める趣。

本来は、出征の時の国別れ歌としてあったか。

#[関連論文]


#[番号]14/3569
#[題詞]
#[原文]佐伎母理尓 多知之安佐氣乃 可奈刀R尓 手婆奈礼乎思美 奈吉思兒良<波>母
#[訓読]防人に立ちし朝開の金戸出にたばなれ惜しみ泣きし子らはも
#[仮名],さきもりに,たちしあさけの,かなとでに,たばなれをしみ,なきしこらはも
#[左注]
#[校異]婆 -> 波 [類]
#[KW],東歌,相聞,防人,出発,羈旅,望郷,恋情
#[訓異]
#[大意]防人に出立する朝明けの門前で手を離れるのを惜しんで泣いたあの子はなあ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3570
#[題詞]
#[原文]安之能葉尓 由布宜里多知弖 可母我鳴乃 左牟伎由布敝思 奈乎波思努波牟
#[訓読]葦の葉に夕霧立ちて鴨が音の寒き夕し汝をば偲はむ
#[仮名],あしのはに,ゆふぎりたちて,かもがねの,さむきゆふへし,なをばしのはむ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,動物,望郷,恋情
#[訓異]
#[大意]葦の葉に夕霧が立って鴨の鳴き声が寒い夕べはお前を偲ぼう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3571
#[題詞]
#[原文]於能豆麻乎 比登乃左刀尓於吉 於保々思久 見都々曽伎奴流 許能美知乃安比太
#[訓読]己妻を人の里に置きおほほしく見つつぞ来ぬるこの道の間
#[仮名],おのづまを,ひとのさとにおき,おほほしく,みつつぞきぬる,このみちのあひだ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,相聞,防人,望郷,不安,恋情
#[訓異]
#[大意]自分の妻を他人の里に置いて、ぼんやりとその里を見続けてやってきたことだ。この道の間を。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3572
#[題詞]譬喩歌
#[原文]安杼毛敝可 阿自久麻<夜>末乃 由豆流波乃 布敷麻留等伎尓 可是布可受可母
#[訓読]あど思へか阿自久麻山の弓絃葉のふふまる時に風吹かずかも
#[仮名],あどもへか,あじくまやまの,ゆづるはの,ふふまるときに,かぜふかずかも
#[左注]
#[校異]<> -> 夜 [西(下書)][類][紀][細]
#[KW],東歌,譬喩歌,地名,茨城県,子飼山,植物,婚姻
#[訓異]
#[大意]どのように思ってか。阿自久麻山の弓絃葉がつぼみの時でも風が吹かないということがあろうか
#{語釈]
阿自久麻山 茨城県筑波郡筑波町平沢 子飼山
弓絃葉  
02/0111H01いにしへに恋ふる鳥かも弓絃葉の御井の上より鳴き渡り行く

#[説明]
どうして何もしないでいるのか。女がまだ成人していなくとも、他の男がだまっていようか と言ったもの。

#[関連論文]


#[番号]14/3573
#[題詞]
#[原文]安之比奇能 夜麻可都良加氣 麻之波尓母 衣我多奇可氣乎 於吉夜可良佐武
#[訓読]あしひきの山かづらかげましばにも得がたきかげを置きや枯らさむ
#[仮名],あしひきの,やまかづらかげ,ましばにも,えがたきかげを,おきやからさむ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,譬喩歌,植物,婚姻
#[訓異]
#[大意]あしひきの山かづらである日陰のかづら。滅多には手に入らない日陰のかづらを置いたまま枯らしてよいものか。
#{語釈]
山かづらかげ  山かづらである日陰のかづら
ましばにも  めったには なかなか

#[説明]
得難い女をそのままにして枯らしてよいものかと言ったもの。

#[関連論文]


#[番号]14/3574
#[題詞]
#[原文]乎佐刀奈流 波奈多知波奈乎 比伎余治弖 乎良無登須礼杼 宇良和可美許曽
#[訓読]小里なる花橘を引き攀ぢて折らむとすれどうら若みこそ
#[仮名],をさとなる,はなたちばなを,ひきよぢて,をらむとすれど,うらわかみこそ
#[左注]
#[校異]
#[KW],東歌,譬喩歌,植物,婚姻
#[訓異]
#[大意]里の花橘を引き寄せて折ろうとするがまだ若いこと
#{語釈]
小里  「お」接頭語  作者の住んでいる村

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3575
#[題詞]
#[原文]美夜自呂乃 <須>可敝尓多弖流 可保我波奈 莫佐吉伊<R>曽祢 許米弖思努波武
#[訓読]美夜自呂のすかへに立てるかほが花な咲き出でそねこめて偲はむ
#[仮名],みやじろの,すかへにたてる,かほがはな,なさきいでそね,こめてしのはむ
#[左注]
#[校異]渚 -> 須 [類][古] / 弖 -> R [類][紀]
#[KW],東歌,譬喩歌,地名,植物,恋情
#[訓異]
#[大意]美夜自呂の砂丘に立っているかほ花よ。人の目につくように咲き出してはくるな。隠したまま賞美しよう。
#{語釈]
美夜自呂 未詳 長野県安曇郡宮城
すかへ 「すか」河川や海岸の砂丘  「すか」のあたり
かほが花 かほ花 3505 水草であること
ひるがお かきつばた おもだか 美しい花の意

08/1630H01高円の野辺のかほ花面影に見えつつ妹は忘れかねつも
10/2288H01石橋の間々に生ひたるかほ花の花にしありけりありつつ見れば
14/3505H01うちひさつ宮能瀬川のかほ花の恋ひてか寝らむ昨夜も今夜も

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]14/3576
#[題詞]
#[原文]奈波之呂乃 <古>奈宜我波奈乎 伎奴尓須里 奈流留麻尓末仁 安是可加奈思家
#[訓読]苗代の小水葱が花を衣に摺りなるるまにまにあぜか愛しけ
#[仮名],なはしろの,こなぎがはなを,きぬにすり,なるるまにまに,あぜかかなしけ
#[左注]
#[校異]告 -> 古 [西(訂正頭書)][元][類][紀]
#[KW],東歌,譬喩歌,植物,恋情
#[訓異]
#[大意]苗代の小水葱の花を衣に摺り、着慣れるままなのにどうしていとしいのだろう
#{語釈]
苗代 私注 小水葱が花は九月頃だから、この苗代は通し苗代(一年中苗代として土を休ませているもの)。今でも東北地方にあるものは小水葱のよく繁茂するのを見かける

小水葱が花 みずあおい科の一年草本 九月頃に青紫色の花をつける
03/0407H01春霞春日の里の植ゑ小水葱苗なりと言ひし枝はさしにけむ
14/3415H01上つ毛野伊香保の沼に植ゑ小水葱かく恋ひむとや種求めけむ
16/3829H01醤酢に蒜搗きかてて鯛願ふ我れにな見えそ水葱の羹

#[説明]
ちょっと手を出した女なのに馴染むにつれて情が移ってくることを読んだ
長年つきあっているがいとしさが抜けない

#[関連論文]