万葉集 巻第15
#[番号]15/3579
#[番号]15/3580
#[番号]15/3581
#[番号]15/3582
#[番号]15/3583
#[番号]15/3584
#[番号]15/3585
#[番号]15/3586
#[番号]15/3587
#[番号]15/3588
#[番号]15/3589
#[番号]15/3590
#[番号]15/3591
#[番号]15/3592
#[番号]15/3593
#[番号]15/3594
#[番号]15/3595
#[番号]15/3596
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#[番号]15/3600
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#[番号]15/3606
#[番号]15/3606S
#[番号]15/3607S
#[番号]15/3608
#[番号]15/3608S
#[番号]15/3609
#[番号]15/3609S
#[番号]15/3610
#[番号]15/3610S
#[番号]15/3611
#[番号]15/3612
#[番号]15/3613
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#[番号]15/3616
#[番号]15/3617
#[番号]15/3618
#[番号]15/3619
#[番号]15/3620
#[番号]15/3621
#[番号]15/3622
#[番号]15/3623
#[番号]15/3624
#[番号]15/3625
#[番号]15/3626
#[番号]15/3627
#[番号]15/3628
#[番号]15/3629
#[番号]15/3630
#[番号]15/3631
#[番号]15/3632
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#[番号]15/3636
#[番号]15/3637
#[番号]15/3638
#[番号]15/3639
#[番号]15/3640
#[番号]15/3641
#[番号]15/3642
#[番号]15/3643
#[番号]15/3643S
#[番号]15/3644
#[番号]15/3645
#[番号]15/3646
#[番号]15/3647
#[番号]15/3648
#[番号]15/3649
#[番号]15/3650
#[番号]15/3651
#[番号]15/3578
#[題詞]遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌
#[原文]武庫能浦乃 伊里江能渚鳥 羽具久毛流 伎美乎波奈礼弖 古非尓之奴倍之
#[訓読]武庫の浦の入江の洲鳥羽ぐくもる君を離れて恋に死ぬべし
#[仮名],むこのうらの,いりえのすどり,はぐくもる,きみをはなれて,こひにしぬべし
#[左注](右十一首贈答)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,地名,兵庫県,武庫川,動物,女歌,悲別,序詞,恋情,羈旅,出発,難波,大阪
#[訓異]武庫の浦の入り江の州浜にいる鳥が親鳥の羽に包まれて育てられるように、大事にされたあなたを離れては恋い思う気持ちで死んでしまいそうだ
#[大意]
#{語釈]
武庫の浦 武庫川河口
#[説明]
男を送る女の歌
遣新羅使 続日本紀には、大化から宝亀まで全27回。うち天平8年は第23次
天平08/02/28/戊寅、從五位下阿倍朝臣繼麻呂を遣新羅大使と爲す
天平08/04/17/夏四月丙寅、遣新羅使阿倍朝臣繼麻呂等拜朝す
天平09/01/26/辛丑、遣新羅使大判官從六位上壬生使主宇太麻呂、少判官正七位上大藏忌寸麻呂等入京、大使從五位下阿倍朝臣繼麻呂津嶋に泊まりて卒しぬ。副使從六位下大伴宿祢三中病に染みて京に入ることを得ず。
天平09/02/15/己未、遣新羅使奏すらく、新羅國、常の礼を失ひて使の旨を受けずとまうす。是に、五位已上并せて六位已下の官人、惣て三十五人を内裏に召して、意見を陳べしむ。
天平09/02/22/丙寅、諸司竟見の表を奏す。或は言さく、「使を遣して其の由を問はしむ」とまうし、或は「兵(いくさ)を發(おこ)して征伐を加へむ」とまうす。
天平09/03/28/壬寅、遣新羅使副使正六位上大伴宿祢三中等三十人拜朝。(三中は病気のために拝朝が遅れる)
天平09/04/01/夏四月乙已朔、使を伊勢神宮、大神社(おほみわのやしろ)、筑紫の住吉(すみのえ)、八幡の二社と香椎宮とに遣して、幣(みてぐら)を奉りて新羅の禮无(いやなき)状を告(まう)さしむ。
対新羅関係は険悪な雰囲気。修交のための遣使も逆効果か。
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]大船尓 伊母能流母能尓 安良麻勢<婆> 羽具久美母知弖 由可麻之母能乎
#[訓読]大船に妹乗るものにあらませば羽ぐくみ持ちて行かましものを
#[仮名],おほぶねに,いものるものに,あらませば,はぐくみもちて,ゆかましものを
#[左注](右十一首贈答)
#[校異]波 -> 婆 [類]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,恋情,悲別,出発,羈旅,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]大船に妹が乗るものであったならば、羽で包んで持って連れて行こうものなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]君之由久 海邊乃夜杼尓 奇里多々婆 安我多知奈氣久 伊伎等之理麻勢
#[訓読]君が行く海辺の宿に霧立たば我が立ち嘆く息と知りませ
#[仮名],きみがゆく,うみへのやどに,きりたたば,あがたちなげく,いきとしりませ
#[左注](右十一首贈答)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,女歌,羈旅,出発,悲別,恋情,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]あなたが行く海辺の宿に霧が立つならば、自分が立ち嘆く息と思ってください
#{語釈]
#[説明]
05/0799H01大野山霧立ちわたる我が嘆くおきその風に霧立ちわたる
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]秋佐良婆 安比見牟毛能乎 奈尓之可母 奇里尓多都倍久 奈氣伎之麻佐牟
#[訓読]秋さらば相見むものを何しかも霧に立つべく嘆きしまさむ
#[仮名],あきさらば,あひみむものを,なにしかも,きりにたつべく,なげきしまさむ
#[左注](右十一首贈答)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,悲別,羈旅,出発,慰撫,恋愛,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]秋になったらまた逢えるものなのに、どうして霧に立ちそうなほど嘆きをなさるのか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]大船乎 安流美尓伊太之 伊麻須君 都追牟許等奈久 波也可敝里麻勢
#[訓読]大船を荒海に出だしいます君障むことなく早帰りませ
#[仮名],おほぶねを,あるみにいだし,いますきみ,つつむことなく,はやかへりませ
#[左注](右十一首贈答)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,女歌,羈旅,出発,悲別,餞別,恋愛,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]大船を荒海に出していらっしゃる君よ。障害なく早くお帰りください
#{語釈]
障むことなく早帰りませ 好去好来歌
05/0894H14御船は泊てむ 障みなく 幸くいまして 早帰りませ
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]真幸而 伊毛我伊波伴伐 於伎都奈美 知敝尓多都等母 佐波里安良米也母
#[訓読]ま幸くて妹が斎はば沖つ波千重に立つとも障りあらめやも
#[仮名],まさきくて,いもがいははば,おきつなみ,ちへにたつとも,さはりあらめやも
#[左注](右十一首贈答)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,羈旅,出発,悲別,恋愛,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]無事で妹が潔斎したならば、沖の波が千重に立つとも障害があるだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]和可礼奈波 宇良我奈之家武 安我許呂母 之多尓乎伎麻勢 多太尓安布麻弖尓
#[訓読]別れなばうら悲しけむ我が衣下にを着ませ直に逢ふまでに
#[仮名],わかれなば,うらがなしけむ,あがころも,したにをきませ,ただにあふまでに
#[左注](右十一首贈答)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,羈旅,女歌,恋情,出発,悲別,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]別れたならばうら悲しいことだろう。自分の衣を下に着て下さい。直接逢うまでは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]和伎母故我 之多尓毛伎余等 於久理多流 許呂母能比毛乎 安礼等可米也母
#[訓読]我妹子が下にも着よと贈りたる衣の紐を我れ解かめやも
#[仮名],わぎもこが,したにもきよと,おくりたる,ころものひもを,あれとかめやも
#[左注](右十一首贈答)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,羈旅,恋情,出発,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]我が妹が下にも着なさいと送った衣の紐を自分は解くことがあろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]和我由恵尓 於毛比奈夜勢曽 秋風能 布可武曽能都奇 安波牟母能由恵
#[訓読]我がゆゑに思ひな痩せそ秋風の吹かむその月逢はむものゆゑ
#[仮名],わがゆゑに,おもひなやせそ,あきかぜの,ふかむそのつき,あはむものゆゑ
#[左注](右十一首贈答)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,出発,悲別,餞別,羈旅,恋情,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]自分のために物思いをして痩せるようなことはするな。秋風が吹くであろうその月に逢おうものだから
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]多久夫須麻 新羅邊伊麻須 伎美我目乎 家布可安須可登 伊波比弖麻多牟
#[訓読]栲衾新羅へいます君が目を今日か明日かと斎ひて待たむ
#[仮名],たくぶすま,しらきへいます,きみがめを,けふかあすかと,いはひてまたむ
#[左注](右十一首贈答)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,地名,韓国,枕詞,悲別,羈旅,餞別,女歌,難波,大阪#[訓異]
#[大意]栲衾新羅へいらっしゃるあなたの目を今日見れるか明日かと潔斎して待ちましょう
#{語釈]
栲衾 楮で作った夜具。楮の皮は白いので、シラにかけた枕詞
14/3509H01栲衾白山風の寝なへども子ろがおそきのあろこそえしも
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]波呂波呂尓 於<毛>保由流可母 之可礼杼毛 異情乎 安我毛波奈久尓
#[訓読]はろはろに思ほゆるかもしかれども異しき心を我が思はなくに
#[仮名],はろはろに,おもほゆるかも,しかれども,けしきこころを,あがもはなくに
#[左注]右十一首贈答
#[校異]母 -> 毛 [類][紀]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,羈旅,悲別,出発,恋愛,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]遙かに遠くに思われることだ。そうではあるが怪しい気持ちを自分は思わないよ
#{語釈]
はろはろに思ほゆるかも 思うと遠くに離ればなれになることだ
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]由布佐礼婆 比具良之伎奈久 伊故麻山 古延弖曽安我久流 伊毛我目乎保里
#[訓読]夕さればひぐらし来鳴く生駒山越えてぞ我が来る妹が目を欲り
#[仮名],ゆふされば,ひぐらしきなく,いこまやま,こえてぞあがくる,いもがめをほり
#[左注]右一首秦間満
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,作者:秦間満,地名,奈良,難波,大阪,出発,羈旅,恋情
#[訓異]
#[大意]夕方になったならばひぐらしがやって来て鳴く生駒山を越えて自分はやって来る。妹の目を見たく思って
#{語釈]
ひぐらし 出発は6月はじめと見られる
生駒山 出発までの間の日をぬって奈良に戻っている(草加の直越か)
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]伊毛尓安波受 安良婆須敝奈美 伊波祢布牟 伊故麻乃山乎 故延弖曽安我久流
#[訓読]妹に逢はずあらばすべなみ岩根踏む生駒の山を越えてぞ我が来る
#[仮名],いもにあはず,あらばすべなみ,いはねふむ,いこまのやまを,こえてぞあがくる
#[左注]右一首蹔還私家陳思
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,地名,奈良,難波,大阪,出発,恋情,羈旅
#[訓異]
#[大意]妹に逢わないままでいたならばどうしようもないので、岩根を踏む険しい生駒の山を越えて自分は来たことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]妹等安里之 時者安礼杼毛 和可礼弖波 許呂母弖佐牟伎 母能尓曽安里家流
#[訓読]妹とありし時はあれども別れては衣手寒きものにぞありける
#[仮名],いもとありし,ときはあれども,わかれては,ころもでさむき,ものにぞありける
#[左注](右三首臨發之時作歌)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,悲別,羈旅,恋情,出発,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]妹といた時はなんとも思わないでいたが、別れると衣手の寒いものであることだ
#{語釈]
#[説明]
代匠紀 この歌夏なれば衣手寒きまではあるまじけれど、独りぬることのわびしきをいふなり。意を得て言を忘べし
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]海原尓 宇伎祢世武夜者 於伎都風 伊多久奈布吉曽 妹毛安良奈久尓
#[訓読]海原に浮寝せむ夜は沖つ風いたくな吹きそ妹もあらなくに
#[仮名],うなはらに,うきねせむよは,おきつかぜ,いたくなふきそ,いももあらなくに
#[左注](右三首臨發之時作歌)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,悲別,出発,難波,大阪,恋情
#[訓異]
#[大意]海原に浮いて寝る夜は沖の風よ。ひどくは吹くなよ。妹もいないことなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]大伴能 美津尓布奈能里 許藝出而者 伊都礼乃思麻尓 伊保里世武和礼
#[訓読]大伴の御津に船乗り漕ぎ出てはいづれの島に廬りせむ我れ
#[仮名],おほともの,みつにふなのり,こぎでては,いづれのしまに,いほりせむわれ
#[左注]右三首臨發之時作歌
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,出発,難波,大阪,地名
#[訓異]
#[大意]大伴の御津に船に乗って漕ぎだしてはどこの島に庵をしようか。自分は
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]之保麻都等 安里家流布祢乎 思良受之弖 久夜之久妹乎 和可礼伎尓家利
#[訓読]潮待つとありける船を知らずして悔しく妹を別れ来にけり
#[仮名],しほまつと,ありけるふねを,しらずして,くやしくいもを,わかれきにけり
#[左注](右八首乗船入海路上作歌)
#[校異]之 [類][細] 志
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,悲別,恋情,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]潮を待つのでまだ出航しないである船だと知らないで、くやしいことにも妹とあわてて別れてきたことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]安佐妣良伎 許藝弖天久礼婆 牟故能宇良能 之保非能可多尓 多豆我許恵須毛
#[訓読]朝開き漕ぎ出て来れば武庫の浦の潮干の潟に鶴が声すも
#[仮名],あさびらき,こぎでてくれば,むこのうらの,しほひのかたに,たづがこゑすも
#[左注](右八首乗船入海路上作歌)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,地名,兵庫県,武庫川,動物,出発,羈旅,叙景,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]朝船出をして漕ぎ出して来ると、武庫の浦の潮干の潟に鶴の声がすることだ
#{語釈]
朝開き
03/0351H01世間を何に譬へむ朝開き漕ぎ去にし船の跡なきごとし
09/1670H01朝開き漕ぎ出て我れは由良の崎釣りする海人を見て帰り来む
17/4029H01珠洲の海に朝開きして漕ぎ来れば長浜の浦に月照りにけり
18/4065H01朝開き入江漕ぐなる楫の音のつばらつばらに我家し思ほゆ
20/4408H17水手ととのへて 朝開き 我は漕ぎ出ぬと 家に告げこそ
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]和伎母故我 可多美尓見牟乎 印南都麻 之良奈美多加弥 与曽尓可母美牟
#[訓読]我妹子が形見に見むを印南都麻白波高み外にかも見む
#[仮名],わぎもこが,かたみにみむを,いなみつま,しらなみたかみ,よそにかもみむ
#[左注](右八首乗船入海路上作歌)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,悲別,望郷,地名,加古川,兵庫
#[訓異]
#[大意]我妹子の形見として見ようものなのに印南妻は白波が高くて沖から見ることだ
#{語釈]
我妹子が形見に見むを 印南妻という名前であるから形見にしようという
印南都麻 印南野の播州平野 加古川河口付近
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]和多都美能 於伎津之良奈美 多知久良思 安麻乎等女等母 思麻我久<流>見由
#[訓読]わたつみの沖つ白波立ち来らし海人娘子ども島隠る見ゆ
#[仮名],わたつみの,おきつしらなみ,たちくらし,あまをとめども,しまがくるみゆ
#[左注](右八首乗船入海路上作歌)
#[校異]礼 -> 流 [紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,叙景,兵庫
#[訓異]
#[大意]わたつみの沖の白波が立って来るらしい。海人娘子たちが島に隠れるのが見える
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]奴波多麻能 欲波安氣奴良之 多麻能宇良尓 安佐里須流多豆 奈伎和多流奈里
#[訓読]ぬばたまの夜は明けぬらし玉の浦にあさりする鶴鳴き渡るなり
#[仮名],ぬばたまの,よはあけぬらし,たまのうらに,あさりするたづ,なきわたるなり
#[左注](右八首乗船入海路上作歌)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,枕詞,地名,岡山県,倉敷市,動物,叙景,羈旅
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜は明けたらしい。玉の浦に餌を求める鶴が鳴き渡ることだ
#{語釈]
玉の浦 未詳 岡山県倉敷市玉島 岡山県岡山市西大寺東片岡
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]月余美能 比可里乎伎欲美 神嶋乃 伊素<未>乃宇良由 船出須和礼波
#[訓読]月読の光りを清み神島の礒廻の浦ゆ船出す我れは
#[仮名],つくよみの,ひかりをきよみ,かみしまの,いそみのうらゆ,ふなですわれは
#[左注](右八首乗船入海路上作歌)
#[校異]末 -> 未 [細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,地名,広島,福山市,羈旅
#[訓異]
#[大意]月読の光が清らかなので神島の磯のめぐりの浦から船出をするよ。自分は
#{語釈]
神島 13/3339
岡山県笠岡市 神ノ島
代匠記 神名帳 備中国小田郡神嶋神社
宮本喜一郎 福山市西部の神島町
船出す 全集 夕月夜に潮流を利して少しでも舟を漕ぎ進めようとするのであろう
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]波奈礼蘇尓 多弖流牟漏能木 宇多我多毛 比左之伎時乎 須疑尓家流香母
#[訓読]離れ礒に立てるむろの木うたがたも久しき時を過ぎにけるかも
#[仮名],はなれそに,たてるむろのき,うたがたも,ひさしきときを,すぎにけるかも
#[左注](右八首乗船入海路上作歌)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,福山,広島
#[訓異]
#[大意]離れ磯に立っている室の木よ。そのように久しい時がむやみに過ぎてしまったことであるよ
#{語釈]
むろの木 天木香 ねず いぶき
03/0446H01我妹子が見し鞆の浦のむろの木は常世にあれど見し人ぞなき
03/0447H01鞆の浦の礒のむろの木見むごとに相見し妹は忘らえめやも
03/0448H01礒の上に根延ふむろの木見し人をいづらと問はば語り告げむか
11/2488H01礒の上に立てるむろの木ねもころに何しか深め思ひそめけむ
15/3601H01しましくもひとりありうるものにあれや島のむろの木離れてあるらむ
16/3830H01玉掃刈り来鎌麻呂むろの木と棗が本とかき掃かむため
うたがたも むやみに いちづに
12/2896H01うたがたも言ひつつもあるか我れならば地には落ちず空に消なまし
17/3949H01天離る鄙にある我れをうたがたも紐解き放けて思ほすらめや
17/3968H01鴬の来鳴く山吹うたがたも君が手触れず花散らめやも
#[説明]
室の木を見て、妻と会わない無駄な時が長く経ってしまったという気持ちを示したもの
#[関連論文]
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]之麻思久母 比等利安里宇流 毛能尓安礼也 之麻能牟漏能木 波奈礼弖安流良武
#[訓読]しましくもひとりありうるものにあれや島のむろの木離れてあるらむ
#[仮名],しましくも,ひとりありうる,ものにあれや,しまのむろのき,はなれてあるらむ
#[左注]右八首乗船入海路上作歌
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,福山,広島
#[訓異]
#[大意]しばらくでも独りでいられるものであろうか。それなのにあの島のむろの木は離れているのだろう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]當所誦詠古歌
#[原文]安乎尓余志 奈良能美夜古尓 多奈妣家流 安麻能之良久毛 見礼杼安可奴加毛
#[訓読]あをによし奈良の都にたなびける天の白雲見れど飽かぬかも
#[仮名],あをによし,ならのみやこに,たなびける,あまのしらくも,みれどあかぬかも
#[左注]右一首詠雲
#[校異]歌 [西] 謌 [紀][温] 哥
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,枕詞,望郷,羈旅,転用
#[訓異]
#[大意]あをによし奈良の都にたなびいている空の白雲を見ても見飽きることがないよ
#{語釈]
#[説明]
本来は、奈良の土地讃美の歌か。望郷に転用している。
井手至 大伴御中が古歌巻を持参していて、それを誦唱した
#[関連論文]
#[題詞](當所誦詠古歌)
#[原文]安乎<楊>疑能 延太伎里於呂之 湯種蒔 忌忌伎美尓 故非和多流香母
#[訓読]青楊の枝伐り下ろしゆ種蒔きゆゆしき君に恋ひわたるかも
#[仮名],あをやぎの,えだきりおろし,ゆだねまき,ゆゆしききみに,こひわたるかも
#[左注](右三首戀歌)
#[校異]揚 -> 楊 [類][紀][温]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,転用,望郷,恋情,植物,羈旅
#[訓異]
#[大意]青柳の枝を切り下ろして忌み清めた種米を蒔くような、はばかるべきあなたに恋い続けることであるよ
#{語釈]
青楊の枝伐り下ろし 柳の生命力を言祝いで苗代に刺して、種の発育を即す呪術。
ゆ種 神聖に忌み清めたもみ米
ゆゆしき 神聖な はばかるべき
#[説明]
元来は身分違いの男を恋い思う女の歌
類歌
04/0600H01伊勢の海の礒もとどろに寄する波畏き人に恋ひわたるかも
#[関連論文]
#[題詞](當所誦詠古歌)
#[原文]妹我素弖 和可礼弖比左尓 奈里奴礼杼 比登比母伊毛乎 和須礼弖於毛倍也
#[訓読]妹が袖別れて久になりぬれど一日も妹を忘れて思へや
#[仮名],いもがそで,わかれてひさに,なりぬれど,ひとひもいもを,わすれておもへや
#[左注](右三首戀歌)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,恋情,望郷,羈旅,転用
#[訓異]
#[大意]妹の袖を別れて久しくなったけれども、一日も妹のことを忘れて思うことがあろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](當所誦詠古歌)
#[原文]和多都美乃 宇美尓伊弖多流 思可麻河<泊> 多延無日尓許曽 安我故非夜麻米
#[訓読]わたつみの海に出でたる飾磨川絶えむ日にこそ我が恋やまめ
#[仮名],わたつみの,うみにいでたる,しかまがは,たえむひにこそ,あがこひやまめ
#[左注]右三首戀歌
#[校異]伯 -> 泊 [古][細][温]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,枕詞,恋情,望郷,兵庫,姫路,船場川,転用,羈旅
#[訓異]
#[大意]わたつみの海に流れ出ている飾磨川の水が絶える日にこそ自分は恋することをやめるだろう。(絶える時がないから恋がやまないのだ)
#{語釈]
飾磨川 兵庫県姫路市飾磨
#[説明]
類歌
09/1770H01みもろの神の帯ばせる泊瀬川水脈し絶えずは我れ忘れめや
12/3004H01久方の天つみ空に照る月の失せなむ日こそ我が恋止まめ
#[関連論文]
#[題詞](當所誦詠古歌)
#[原文]多麻藻可流 乎等女乎須疑弖 奈都久佐能 野嶋我左吉尓 伊保里須和礼波
#[訓読]玉藻刈る処女を過ぎて夏草の野島が崎に廬りす我れは
#[仮名],たまもかる,をとめをすぎて,なつくさの,のしまがさきに,いほりすわれは
#[左注]柿本朝臣人麻呂歌曰 敏馬乎須疑弖 又曰 布祢知可豆伎奴
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,柿本人麻呂,枕詞,地名,兵庫,淡路,異伝,道行き,羈旅,転用
#[訓異]
#[大意]玉藻刈る処女を過ぎて夏草の野島が崎に旅の仮泊をするよ。自分は。
#{語釈]
処女 所在未詳の地名。処女塚があるのでそのあたりか。兵庫県芦屋市 神戸市
人麻呂歌の「敏馬」から転じたもの
野島 兵庫県津名郡北淡町野島
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](當所誦詠古歌)柿本朝臣人麻呂歌曰 又曰
#[原文]敏馬乎須疑弖 布祢知可豆伎奴
#[訓読]敏馬を過ぎて 船近づきぬ
#[仮名],みぬめをすぎて ,ふねちかづきぬ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,作者:柿本人麻呂,地名,兵庫,異伝,道行き,羈旅,転用
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]
敏馬 兵庫県神戸市灘区岩屋
#[説明]
03/0250H01玉藻刈る敏馬を過ぎて夏草の野島が崎に船近づきぬ
03/0250S01一本云
03/0250H02処女を過ぎて夏草の野島が崎に廬りす我れは
#[関連論文]
#[番号]15/3607
#[題詞](當所誦詠古歌)
#[原文]之路多倍能 藤江能宇良尓 伊<射>里須流 安麻等也見良武 多妣由久和礼乎
#[訓読]白栲の藤江の浦に漁りする海人とや見らむ旅行く我れを
#[仮名],しろたへの,ふぢえのうらに,いざりする,あまとやみらむ,たびゆくわれを
#[左注]柿本朝臣人麻呂歌曰 安良多倍乃 又曰 須受吉都流 安麻登香見良武
#[校異]時 -> 射 [西(訂正)][類][紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,枕詞,地名,兵庫,明石,羈旅,柿本人麻呂,異伝,転用
#[訓異]
#[大意]白妙の藤江の浦に漁をしている漁師と見られるだろうか。旅を行く自分を
#{語釈]
藤江の浦 兵庫県明石市藤江
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](當所誦詠古歌)柿本朝臣人麻呂歌曰 又曰
#[原文]安良多倍乃 須受吉都流 安麻登香見良武
#[訓読]荒栲の 鱸釣る海人とか見らむ
#[仮名],あらたへの ,すずきつる,あまとかみらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,異伝,作者:柿本人麻呂,枕詞,羈旅,転用
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]
#[説明]
03/0252H01荒栲の藤江の浦に鱸釣る海人とか見らむ旅行く我れを
03/0252S01一本云
03/0252H02白栲の藤江の浦に漁りする
#[関連論文]
#[題詞](當所誦詠古歌)
#[原文]安麻射可流 比奈乃奈我道乎 孤悲久礼婆 安可思能門欲里 伊敝乃安多里見由
#[訓読]天離る鄙の長道を恋ひ来れば明石の門より家のあたり見ゆ
#[仮名],あまざかる,ひなのながちを,こひくれば,あかしのとより,いへのあたりみゆ
#[左注]柿本朝臣人麻呂歌曰 夜麻等思麻見由
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,異伝,柿本人麻呂,羈旅,地名,明石,兵庫,望郷,転用
#[訓異]
#[大意]天離る田舎の長い道のりの中を都を恋い思って来ると、明石の海峡より家のあたりが見える
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](當所誦詠古歌)柿本朝臣人麻呂歌曰
#[原文]夜麻等思麻見由
#[訓読]大和島見ゆ
#[仮名],やまとしまみゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,異伝,作者:柿本人麻呂,大和,奈良,地名,明石,羈旅,望郷,転用
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]
#[説明]
03/0255H01天離る鄙の長道ゆ恋ひ来れば明石の門より大和島見ゆ
03/0255I01[一本云]
03/0255H02[家のあたり見ゆ]
#[関連論文]
#[題詞](當所誦詠古歌)
#[原文]武庫能宇美能 尓波余久安良之 伊射里須流 安麻能都里船 奈美能宇倍由見由
#[訓読]武庫の海の庭よくあらし漁りする海人の釣舟波の上ゆ見ゆ
#[仮名],むこのうみの,にはよくあらし,いざりする,あまのつりぶね,なみのうへゆみゆ
#[左注]柿本朝臣人麻呂歌曰 氣比乃宇美能 又曰 可里許毛能 美<太>礼弖出見由 安麻能都里船
#[校異]多 -> 太 [類][紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,羈旅,地名,西宮,兵庫,柿本人麻呂,異伝,叙景,土地讃美,転用
#[訓異]
#[大意]武庫の海の海面はよくあるらしい。漁をしている漁師の釣船が波の上に見える
#{語釈]
武庫の海 兵庫県武庫川河口 尼崎市 西宮市
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](當所誦詠古歌)柿本朝臣人麻呂歌曰 又曰
#[原文]氣比乃宇美能 可里許毛能 美<太>礼弖出見由 安麻能都里船
#[訓読]笥飯の海の 刈り薦の乱れて出づ見ゆ海人の釣船
#[仮名],けひのうみの ,かりこもの,みだれていづみゆ,あまのつりぶね
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,羈旅,枕詞,異伝,作者:柿本人麻呂,叙景,土地讃美,地名,淡路,兵庫,転用
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]
笥飯の海 兵庫県三原郡西淡町松帆
#[説明]
03/0256H01笥飯の海の庭よくあらし刈薦の乱れて出づ見ゆ海人の釣船
03/0256S01一本云
03/0256H02武庫の海船庭ならし漁りする海人の釣船波の上ゆ見ゆ
#[関連論文]
#[題詞](當所誦詠古歌)
#[原文]安胡乃宇良尓 布奈能里須良牟 乎等女良我 安可毛能須素尓 之保美都良武賀
#[訓読]安胡の浦に舟乗りすらむ娘子らが赤裳の裾に潮満つらむか
#[仮名],あごのうらに,ふなのりすらむ,をとめらが,あかものすそに,しほみつらむか
#[左注]柿本朝臣人麻呂歌曰 安美能宇良 又曰 多<麻>母能須蘇尓
#[校異]麻能 -> 麻 [西(訂正)][類][紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,地名,異伝,柿本人麻呂,羈旅,転用
#[訓異]
#[大意]安胡の浦に船に乗る娘子の赤裳の裾に潮が満ちているだろうか
#{語釈]
安胡の浦 未詳 三重県志摩郡阿児町東方海浜 三重県鳥羽市答志島和具
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](當所誦詠古歌)柿本朝臣人麻呂歌曰 又曰
#[原文]安美能宇良 多<麻>母能須蘇尓
#[訓読]嗚呼見の浦 玉裳の裾に
#[仮名],あみのうら ,たまものすそに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,地名,三重県,異伝,作者:柿本人麻呂,転用
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]
嗚呼見の浦 三重県鳥羽市小浜
#[説明]
01/0040D01幸于伊勢國時留京柿本朝臣人麻呂作歌
01/0040H01嗚呼見の浦に舟乗りすらむをとめらが玉裳の裾に潮満つらむか
#[関連論文]
#[題詞]七夕歌一首
#[原文]於保夫祢尓 麻可治之自奴伎 宇奈波良乎 許藝弖天和多流 月人乎登(I)
#[訓読]大船に真楫しじ貫き海原を漕ぎ出て渡る月人壮士
#[仮名],おほぶねに,まかぢしじぬき,うなはらを,こぎでてわたる,つきひとをとこ
#[左注]右柿本朝臣人麻呂歌
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,作者:柿本人麻呂,転用,古歌,誦詠,七夕,羈旅
#[訓異]
#[大意]大船に両舷に多くの櫂をたくさん貫いて海原を漕ぎ出して渡る月人壮子よ。
#{語釈]
#[説明]
10/2223H01天の海に月の舟浮け桂楫懸けて漕ぐ見ゆ月人壮士
人麻呂歌にはない。
#[関連論文]
#[題詞]備後國水調郡長井浦舶泊之夜作歌三首
#[原文]安乎尓与之 奈良能美也故尓 由久比等毛我母 久左麻久良 多妣由久布祢能 登麻利都(ん)武仁 [旋頭歌也]
#[訓読]あをによし奈良の都に行く人もがも草枕旅行く船の泊り告げむに [旋頭歌也]
#[仮名],あをによし,ならのみやこに,ゆくひともがも,くさまくら,たびゆくふねの,とまりつげむに
#[左注]右一首大判官
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,広島,三原,作者:壬生宇太麻呂,枕詞,旋頭歌,羈旅,望郷
#[訓異]
#[大意]あをによし奈良の都に行く人もいればなあ。草枕旅を行く船の宿泊場所を告げようものなのに
#{語釈]
備後國水調(みつぎ)郡長井浦 和名抄 御調 三豆木 現在も御調郡
広島県三原市糸崎港
大判官 続日本紀 天平9年1月27日 遣新羅使者大判官従六位上壬生使主宇太麻呂
天平18年4月23日 授正六位壬生使主宇太麻呂外従五位下
同 8月8日 為右京亮
天平勝宝2年5月14日 為但馬守
6年7月13日 外従五位下壬生使主宇陀麻呂為玄蕃頭
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](備後國水調郡長井浦舶泊之夜作歌三首)
#[原文]海原乎 夜蘇之麻我久里 伎奴礼杼母 奈良能美也故波 和須礼可祢都母
#[訓読]海原を八十島隠り来ぬれども奈良の都は忘れかねつも
#[仮名],うなはらを,やそしまがくり,きぬれども,ならのみやこは,わすれかねつも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,広島,三原,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]海原を多くの島に隠れながらやって来たけれども奈良の都は忘れることが出来ないでいることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](備後國水調郡長井浦舶泊之夜作歌三首)
#[原文]可敝流散尓 伊母尓見勢武尓 和多都美乃 於伎都白玉 比利比弖由賀奈
#[訓読]帰るさに妹に見せむにわたつみの沖つ白玉拾ひて行かな
#[仮名],かへるさに,いもにみせむに,わたつみの,おきつしらたま,ひりひてゆかな
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,広島,三原,羈旅,みやげ,魂触り
#[訓異]
#[大意]帰った時に妹に見せようものだからわたつみの沖の白玉を拾って行こうよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]風速浦舶泊之夜作歌二首
#[原文]和我由恵仁 妹奈氣久良之 風早能 宇良能於伎敝尓 奇里多奈妣家利
#[訓読]我がゆゑに妹嘆くらし風早の浦の沖辺に霧たなびけり
#[仮名],わがゆゑに,いもなげくらし,かざはやの,うらのおきへに,きりたなびけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,広島,安芸津町,望郷,羈旅,叙景
#[訓異]
#[大意]自分のせいで妹は嘆いているらしい。風早の浦の沖辺に霧がたなびいている。
#{語釈]
風速浦 広島県豊田郡安芸津町風速
霧たなびけり
15/3580H01君が行く海辺の宿に霧立たば我が立ち嘆く息と知りませ
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](風速浦舶泊之夜作歌二首)
#[原文]於伎都加是 伊多久布伎勢波 和伎毛故我 奈氣伎能奇里尓 安可麻之母能乎
#[訓読]沖つ風いたく吹きせば我妹子が嘆きの霧に飽かましものを
#[仮名],おきつかぜ,いたくふきせば,わぎもこが,なげきのきりに,あかましものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,広島,安芸津町,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]沖の風がひどく吹いたならば我妹子の嘆きの霧にもっと包まれて満足しようものなのに
#{語釈]
#[説明]
海上に霧が立ちこめているので、船のいる方向に風がふいたら霧が寄ってくると言ったもの
#[関連論文]
#[題詞]安藝國長門嶋舶泊礒邊作歌五首
#[原文]伊波婆之流 多伎毛登杼呂尓 鳴蝉乃 許恵乎之伎氣婆 京師之於毛保由
#[訓読]石走る瀧もとどろに鳴く蝉の声をし聞けば都し思ほゆ
#[仮名],いはばしる,たきもとどろに,なくせみの,こゑをしきけば,みやこしおもほゆ
#[左注]右一首大石蓑麻呂
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,望郷,広島,倉橋島,作者:大石蓑麻呂
#[訓異]
#[大意]岩の上を流れる激流がとどろいているように激しく鳴く蝉の声を聞くと都のことが思われてならない
#{語釈]
安藝國長門嶋 広島県安芸郡倉橋島江の浦 13/3243
蝉
15/3589H01夕さればひぐらし来鳴く生駒山越えてぞ我が来る妹が目を欲り
大石蓑麻呂
伝未詳。正倉院文書 天平十八年十二月東大寺写経所
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](安藝國長門嶋舶泊礒邊作歌五首)
#[原文]夜麻河<泊>能 伎欲吉可波世尓 安蘇倍杼母 奈良能美夜故波 和須礼可祢都母
#[訓読]山川の清き川瀬に遊べども奈良の都は忘れかねつも
#[仮名],やまがはの,きよきかはせに,あそべども,ならのみやこは,わすれかねつも
#[左注]
#[校異]伯 -> 泊 [類][細][温]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,広島,倉橋島,望郷,羈旅,宴席
#[訓異]
#[大意]山川の清らかな川瀬で遊んでみても奈良の都は忘れかねることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](安藝國長門嶋舶泊礒邊作歌五首)
#[原文]伊蘇乃麻由 多藝都山河 多延受安良婆 麻多母安比見牟 秋加多麻氣弖
#[訓読]礒の間ゆたぎつ山川絶えずあらばまたも相見む秋かたまけて
#[仮名],いそのまゆ,たぎつやまがは,たえずあらば,またもあひみむ,あきかたまけて
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,広島,倉橋島,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]磯の間から激流の流れる山川が絶えないであるならばまたも共に逢えるだろう。秋を待ち設けて。
#{語釈]
絶えずあらば 絶えないでいるように、自分たちも無事だったら
かたまけて 待ち受けて 近づいて
02/0191H01けころもを時かたまけて出でましし宇陀の大野は思ほえむかも
05/0838H01梅の花散り乱ひたる岡びには鴬鳴くも春かたまけて
10/2133H01秋の田の我が刈りばかの過ぎぬれば雁が音聞こゆ冬かたまけて
10/2163H01草枕旅に物思ひ我が聞けば夕かたまけて鳴くかはづかも
11/2373H01いつはしも恋ひぬ時とはあらねども夕かたまけて恋ひはすべなし
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](安藝國長門嶋舶泊礒邊作歌五首)
#[原文]故悲思氣美 奈具左米可祢弖 比具良之能 奈久之麻可氣尓 伊保利須流可母
#[訓読]恋繁み慰めかねてひぐらしの鳴く島蔭に廬りするかも
#[仮名],こひしげみ,なぐさめかねて,ひぐらしの,なくしまかげに,いほりするかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,広島,倉橋島,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]恋情が激しいので心を慰めることも出来なくて、ひぐらしの鳴く島影に仮の宿をとることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](安藝國長門嶋舶泊礒邊作歌五首)
#[原文]和我伊能知乎 奈我刀能之麻能 小松原 伊久与乎倍弖加 可武佐備和多流
#[訓読]我が命を長門の島の小松原幾代を経てか神さびわたる
#[仮名],わがいのちを,ながとのしまの,こまつばら,いくよをへてか,かむさびわたる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,広島,倉橋島,土地讃美,羈旅
#[訓異]
#[大意]我が命を長くと思うその長門の島の小松原よ。幾代経って神々しくなっているのか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]従長門浦舶<出>之夜仰觀月光作歌三首
#[原文]月余美乃 比可里乎伎欲美 由布奈藝尓 加古能己恵欲妣 宇良<未>許具可聞
#[訓読]月読みの光りを清み夕なぎに水手の声呼び浦廻漕ぐかも
#[仮名],つくよみの,ひかりをきよみ,ゆふなぎに,かこのこゑよび,うらみこぐかも
#[左注]
#[校異]出 [西(上書訂正)][紀][細] / 末 -> 未 [万葉集古義]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,船出,出発,広島,倉橋島
#[訓異]
#[大意]月読みの光が清らかなので夕なぎに水夫の声をかけながら浦のめぐりを漕ぐことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](従長門浦舶<出>之夜仰觀月光作歌三首)
#[原文]山乃波尓 月可多夫氣婆 伊射里須流 安麻能等毛之備 於伎尓奈都佐布
#[訓読]山の端に月傾けば漁りする海人の燈火沖になづさふ
#[仮名],やまのはに,つきかたぶけば,いざりする,あまのともしび,おきになづさふ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,出発,広島,倉橋島,叙景,船出
#[訓異]
#[大意]山の稜線に月が傾くと漁をしている海人の漁り火が海にただよっている
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](従長門浦舶<出>之夜仰觀月光作歌三首)
#[原文]和礼乃未夜 欲布祢波許具登 於毛敝礼婆 於伎敝能可多尓 可治能於等須奈里
#[訓読]我れのみや夜船は漕ぐと思へれば沖辺の方に楫の音すなり
#[仮名],われのみや,よふねはこぐと,おもへれば,おきへのかたに,かぢのおとすなり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,広島,倉橋島,出発,羈旅,船出,叙景
#[訓異]
#[大意]自分たちだけが夜の船を漕ぐと思っていると、沖の方で楫の音がする
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]古挽歌一首[并短歌]
#[原文]由布左礼婆 安之敝尓佐和伎 安氣久礼婆 於伎尓奈都佐布 可母須良母 都麻等多具比弖 和我尾尓波 之毛奈布里曽等 之<路>多倍乃 波祢左之可倍弖 宇知波良比 左宿等布毛能乎 由久美都能 可敝良奴其等久 布久可是能 美延奴我其登久 安刀毛奈吉 与能比登尓之弖 和可礼尓之 伊毛我伎世弖思 奈礼其呂母 蘇弖加多思吉弖 比登里可母祢牟
#[訓読]夕されば 葦辺に騒き 明け来れば 沖になづさふ 鴨すらも 妻とたぐひて 我が尾には 霜な降りそと 白栲の 羽さし交へて うち掃ひ さ寝とふものを 行く水の 帰らぬごとく 吹く風の 見えぬがごとく 跡もなき 世の人にして 別れにし 妹が着せてし なれ衣 袖片敷きて ひとりかも寝む
#[仮名],ゆふされば,あしへにさわき,あけくれば,おきになづさふ,かもすらも,つまとたぐひて,わがをには,しもなふりそと,しろたへの,はねさしかへて,うちはらひ,さぬとふものを,ゆくみづの,かへらぬごとく,ふくかぜの,みえぬがごとく,あともなき,よのひとにして,わかれにし,いもがきせてし,なれごろも,そでかたしきて,ひとりかもねむ
#[左注](右丹比大夫悽愴亡妻歌)
#[校異]歌 [西] 謌 / 露 -> 路 [類][紀]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,挽歌,転用,古歌,作者:丹比大夫,笠麻呂,羈旅,悲別,望郷,広島,倉橋島
#[訓異]
#[大意]夕方になると葦辺に鳴き騒ぎ、夜が明けて来ると沖にただよう鴨ですら妻と一緒にいて、自分の尾には霜よ降るなと白妙の羽を互いに差し交えて、床を払って寝るというものなのに、行く水がもとへ戻らないというように、吹く風が見えないように、跡もない世の中の人であって別れてしまった妹が着せた着慣れた衣の袖を片敷いて独りで寝ることであろうか
#{語釈]
#[説明]
妻と離れている旅のわびしさを古挽歌の心情に託して船中で歌われたもの
不吉な挽歌であっても、哀歌が望郷の心情の代弁として歌われる
#[関連論文]
#[題詞](古挽歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]多都我奈伎 安之<敝>乎左之弖 等妣和多類 安奈多頭多頭志 比等里佐奴礼婆
#[訓読]鶴が鳴き葦辺をさして飛び渡るあなたづたづしひとりさ寝れば
#[仮名],たづがなき,あしへをさして,とびわたる,あなたづたづし,ひとりさぬれば
#[左注]右丹比大夫悽愴亡妻歌
#[校異]倍 -> 敝 [紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,挽歌,転用,古歌,作者:丹比大夫,笠麻呂,羈旅,悲別,望郷,広島,倉橋島
#[訓異]
#[大意]鶴が鳴き葦辺を指して飛び渡るように、ああたづたづしい、心細いことだ。独りで寝ていると
#{語釈]
たづたづし 心細い たどたどしい。鶴(たづ)がたづたづを引き出す序
04/0575H01草香江の入江にあさる葦鶴のあなたづたづし友なしにして
04/0709H01夕闇は道たづたづし月待ちて行ませ我が背子その間にも見む
11/2490H01天雲に翼打ちつけて飛ぶ鶴のたづたづしかも君しまさねば
15/3626H01鶴が鳴き葦辺をさして飛び渡るあなたづたづしひとりさ寝れば
18/4062H01夏の夜は道たづたづし船に乗り川の瀬ごとに棹さし上れ
#[説明]
歌われた時は夏なので鶴はいないが、情景は異なっても、古挽歌の持つ哀感が望郷の心情と一致している
#[関連論文]
#[題詞]属物發思歌一首[并短歌]
#[原文]安佐散礼婆 伊毛我手尓麻久 可我美奈須 美津能波麻備尓 於保夫祢尓 真可治之自奴伎 可良久尓々 和多理由加武等 多太牟可布 美奴面乎左指天 之保麻知弖 美乎妣伎由氣婆 於伎敝尓波 之良奈美多可美 宇良<未>欲理 許藝弖和多礼婆 和伎毛故尓 安波治乃之麻波 由布左礼婆 久毛為可久里奴 左欲布氣弖 由久敝乎之良尓 安我己許呂 安可志能宇良尓 布祢等米弖 宇伎祢乎詞都追 和多都美能 於<枳>敝乎見礼婆 伊射理須流 安麻能乎等女波 小船乗 都良々尓宇家里 安香等吉能 之保美知久礼婆 安之辨尓波 多豆奈伎和多流 安左奈藝尓 布奈弖乎世牟等 船人毛 鹿子毛許恵欲妣 柔保等里能 奈豆左比由氣婆 伊敝之麻婆 久毛為尓美延奴 安我毛敝流 許己呂奈具也等 波夜久伎弖 美牟等於毛比弖 於保夫祢乎 許藝和我由氣婆 於伎都奈美 多可久多知伎奴 与曽能<未>尓 見都追須疑由伎 多麻能宇良尓 布祢乎等杼米弖 波麻備欲里 宇良伊蘇乎見都追 奈久古奈須 祢能未之奈可由 和多都美能 多麻伎能多麻乎 伊敝都刀尓 伊毛尓也良牟等 比里比登里 素弖尓波伊礼弖 可敝之也流 都可比奈家礼婆 毛弖礼杼毛 之留思乎奈美等 麻多於伎都流可毛
#[訓読]朝されば 妹が手にまく 鏡なす 御津の浜びに 大船に 真楫しじ貫き 韓国に 渡り行かむと 直向ふ 敏馬をさして 潮待ちて 水脈引き行けば 沖辺には 白波高み 浦廻より 漕ぎて渡れば 我妹子に 淡路の島は 夕されば 雲居隠りぬ さ夜更けて ゆくへを知らに 我が心 明石の浦に 船泊めて 浮寝をしつつ わたつみの 沖辺を見れば 漁りする 海人の娘子は 小舟乗り つららに浮けり 暁の 潮満ち来れば 葦辺には 鶴鳴き渡る 朝なぎに 船出をせむと 船人も 水手も声呼び にほ鳥の なづさひ行けば 家島は 雲居に見えぬ 我が思へる 心なぐやと 早く来て 見むと思ひて 大船を 漕ぎ我が行けば 沖つ波 高く立ち来ぬ 外のみに 見つつ過ぎ行き 玉の浦に 船を留めて 浜びより 浦礒を見つつ 泣く子なす 音のみし泣かゆ わたつみの 手巻の玉を 家づとに 妹に遣らむと 拾ひ取り 袖には入れて 帰し遣る 使なければ 持てれども 験をなみと また置きつるかも
#[仮名],あさされば,いもがてにまく,かがみなす,みつのはまびに,おほぶねに,まかぢしじぬき,からくにに,わたりゆかむと,ただむかふ,みぬめをさして,しほまちて,みをひきゆけば,おきへには,しらなみたかみ,うらみより,こぎてわたれば,わぎもこに,あはぢのしまは,ゆふされば,くもゐかくりぬ,さよふけて,ゆくへをしらに,あがこころ,あかしのうらに,ふねとめて,うきねをしつつ,わたつみの,おきへをみれば,いざりする,あまのをとめは,をぶねのり,つららにうけり,あかときの,しほみちくれば,あしべには,たづなきわたる,あさなぎに,ふなでをせむと,ふなびとも,かこもこゑよび,にほどりの,なづさひゆけば,いへしまは,くもゐにみえぬ,あがもへる,こころなぐやと,はやくきて,みむとおもひて,おほぶねを,こぎわがゆけば,おきつなみ,たかくたちきぬ,よそのみに,みつつすぎゆき,たまのうらに,ふねをとどめて,はまびより,うらいそをみつつ,なくこなす,ねのみしなかゆ,わたつみの,たまきのたまを,いへづとに,いもにやらむと,ひりひとり,そでにはいれて,かへしやる,つかひなければ,もてれども,しるしをなみと,またおきつるかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 末 -> 未 [万葉集古義] / 枳 [西(上書訂正)][紀][細][温] / 末 -> 未 [西(訂正)][細][紀][温]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,地名,道行き,羈旅,大阪,兵庫,岡山,広島,倉橋島,序詞,枕詞,望郷,孤独
#[訓異]
#[大意]朝になると妹が手に取って抱く鏡。その鏡を見るという御津の浜辺に大船に両舷に楫をたくさん貫いて韓国へ渡って行こうと、直接に向き合っている敏馬を指して潮を待って流れをたどって行くと、沖のあたりは白波が高いので浦のめぐりから漕いで渡ると、我妹子に会うという淡路の島は夕方になると雲が置いて隠れてしまった。夜が更けて行き先もわからないで自分の気持ちは明るいという明石の浦に船を止めて波に浮いたまま寝続けて、わたつみの沖の方を見ると、漁をする海人の娘は小舟に乗って、列を作って浮いている。暁で潮が満ちてくると葦辺には鶴が鳴き渡っている。朝なぎに船出をしようと船の人も水夫も声を呼び合って、にほ鳥のように波を漂って行くと、家島は雲居はるかに見えた。自分が思っている心が穏やかになるかと早く来て見ようと思って大船を漕いで自分が行くと、沖の波が高く立って来た。外からばかり見続けて過ぎて行き、玉の浦に船を停泊させて浜辺から浦の磯を見ながら泣く子のように声を上げてばかり泣かずにはいられない。わたつみの神の手に巻いている玉を家のみやげとして妹にやろうと拾い取って袖には入れても帰し送る使いがないので、持っていてもしかたがないとまた置いたことであるよ
#{語釈]
鏡なす 見つと御津とをかける枕詞
御津 難波の御津
韓国 もともとは朝鮮半島。やがて中国も指す。広く外国という意味になる。
水脈 潮の流れ
つららに つらつらに 列をなして
にほ鳥 かいつぶり
家島 04/0509 飾磨郡家島町 相生市沖
心なぐやと 家島を見ると心が穏やかになる 家なので心が安らぐ
玉の浦 3598 未詳 岡山県倉敷市玉島 岡山県岡山市西大寺東片岡
わたつみの 手巻の玉を 海神の手に巻いている玉 07/1301
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](属物發思歌一首[并短歌])反歌二首
#[原文]多麻能宇良能 於伎都之良多麻 比利敝礼杼 麻多曽於伎都流 見流比等乎奈美
#[訓読]玉の浦の沖つ白玉拾へれどまたぞ置きつる見る人をなみ
#[仮名],たまのうらの,おきつしらたま,ひりへれど,またぞおきつる,みるひとをなみ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,望郷,地名,岡山,倉敷,広島,倉橋島,孤独
#[訓異]
#[大意]玉の浦の沖の白玉を拾うがまた置いたことだ。見る人がいないので
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]((属物發思歌一首[并短歌])反歌二首)
#[原文]安伎左良婆 和<我>布祢波弖牟 和須礼我比 与世伎弖於家礼 於伎都之良奈美
#[訓読]秋さらば我が船泊てむ忘れ貝寄せ来て置けれ沖つ白波
#[仮名],あきさらば,わがふねはてむ,わすれがひ,よせきておけれ,おきつしらなみ
#[左注]
#[校異]<> -> 我 [西(左書)][紀][細][温]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,望郷,広島,倉橋島,孤独
#[訓異]
#[大意]秋になるならば自分の船が停泊するだろう。忘れ貝よ。寄せて来て置いてくれ(そうすればしばらくはつらいことは忘れるだろう)。沖の白波よ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首
#[原文]真可治奴伎 布祢之由加受波 見礼杼安可奴 麻里布能宇良尓 也杼里世麻之乎
#[訓読]真楫貫き船し行かずは見れど飽かぬ麻里布の浦に宿りせましを
#[仮名],まかぢぬき,ふねしゆかずは,みれどあかぬ,まりふのうらに,やどりせましを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,土地讃美,山口,岩国,地名
#[訓異]
#[大意]両舷に楫を取り付けて船が行くのでなかったのなら見ても見飽きることのない麻里布の浦に仮の宿をとろうものなのに
#{語釈]
周防國玖河郡麻里布浦 続紀養老五年四月二〇日周防国熊毛郡を分きて玖珂郡を置く
山口県岩国市麻里布町
旧玖珂郡麻里布町 今津、室木、装束、桂島
山口県熊毛郡田布施町
旧熊毛郡麻里布町 別府、馬島
全注 倉橋島長門の浦出発 天平八年六月十二日午後四時半頃
厳島南方の阿多田島北方で北流してきた潮流が西に転流するのを利用して、午後十時半頃には麻里布の浦に到着。(大島の鳴門を日中の通過になるように強行)
十三日午前七時半頃に出発。南下。大島の鳴門に向かう。
十四日熊毛浦到着 十五日出発
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
#[原文]伊都之可母 見牟等於毛比師 安波之麻乎 与曽尓也故非無 由久与思<乎>奈美
#[訓読]いつしかも見むと思ひし粟島を外にや恋ひむ行くよしをなみ
#[仮名],いつしかも,みむとおもひし,あはしまを,よそにやこひむ,ゆくよしをなみ
#[左注]
#[校異]於 -> 乎 [類][紀]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,地名,山口,岩国,土地讃美,恋情,羈旅
#[訓異]
#[大意]いつになったら逢えるだろうと思っていた粟島をよそ目に恋い思うことだろうか。行くてだてもなくて。
#{語釈]
粟島 山口県大島郡屋代島 周防大島
外にや恋ひむ 寄港、上陸しないこと。 沖合から眺めて通り過ぎていくこと
#[説明]
古事記神話の淡島と粟島とを懸けているか。
粟島も淡島の候補地の一つ。
#[関連論文]
#[題詞](周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
#[原文]大船尓 可之布里多弖天 波麻藝欲伎 麻里布能宇良尓 也杼里可世麻之
#[訓読]大船にかし振り立てて浜清き麻里布の浦に宿りかせまし
#[仮名],おほぶねに,かしふりたてて,はまぎよき,まりふのうらに,やどりかせまし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,山口,岩国,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]大船にかしを振り立てて船をつなぎ、浜の清らかな麻里布の浦に宿りをしようものなのに。出来ないことだ。
#{語釈]
かし振り立てて 07/1190 船をつなぐために水中に立てる棒杭
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
#[原文]安波思麻能 安波自等於毛布 伊毛尓安礼也 夜須伊毛祢受弖 安我故非和多流
#[訓読]粟島の逢はじと思ふ妹にあれや安寐も寝ずて我が恋ひわたる
#[仮名],あはしまの,あはじとおもふ,いもにあれや,やすいもねずて,あがこひわたる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,地名,岩国,山口,望郷,恋情,羈旅
#[訓異]
#[大意]粟島ではないが、逢えないと思う妹だからなのだろうか。安眠も出来なくて自分は恋い続けていることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
#[原文]筑紫道能 可太能於保之麻 思末志久母 見祢婆古非思吉 伊毛乎於伎弖伎奴
#[訓読]筑紫道の可太の大島しましくも見ねば恋しき妹を置きて来ぬ
#[仮名],つくしぢの,かだのおほしま,しましくも,みねばこひしき,いもをおきてきぬ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,地名,岡山,山口,岩国,望郷,恋情
#[訓異]
#[大意]筑紫へ向かう道の可太の大島よ。そのシマというわけではないが、しばらくも見ないと恋しい妹を置いて来たことだ
#{語釈]
可太の大島 山口県大島郡屋代島 周防大島 シマとシマラクを懸ける
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
#[原文]伊毛我伊敝治 知可久安里世婆 見礼杼安可奴 麻里布能宇良乎 見世麻思毛能乎
#[訓読]妹が家路近くありせば見れど飽かぬ麻里布の浦を見せましものを
#[仮名],いもがいへぢ,ちかくありせば,みれどあかぬ,まりふのうらを,みせましものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,地名,山口,岩国,望郷,恋情,土地讃美
#[訓異]
#[大意]妹の家への道が近くにあるのだったら、見ても見飽きることのない麻里布の浦を見せてやろうものなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
#[原文]伊敝妣等波 可敝里波也許等 伊波比之麻 伊波比麻都良牟 多妣由久和礼乎
#[訓読]家人は帰り早来と伊波比島斎ひ待つらむ旅行く我れを
#[仮名],いへびとは,かへりはやこと,いはひしま,いはひまつらむ,たびゆくわれを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,地名,山口,上関町,望郷,掛詞
#[訓異]
#[大意]家の人は早く帰って来いと祝島ではないが、潔斎して無事を祈って待っているだろう。旅を行く自分を
#{語釈]
伊波比島 山口県熊毛郡上関町 祝島
釈注 次の瀬戸の鳴門を通過した場所になる。
難所である鳴門通過前の安全祈願の歌と見なければならない。
鳴門の東側にある屋代島を指す
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
#[原文]久左麻久良 多妣由久比等乎 伊波比之麻 伊久与布流末弖 伊波比伎尓家牟
#[訓読]草枕旅行く人を伊波比島幾代経るまで斎ひ来にけむ
#[仮名],くさまくら,たびゆくひとを,いはひしま,いくよふるまで,いはひきにけむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,枕詞,羈旅,地名,山口,上関町,土地讃美,掛詞
#[訓異]
#[大意]草枕旅を行く人を祝島よ。幾代経つまで祝ってきたのだろう
#{語釈]
祝ひ 精進潔斎して無事を祈る 難所である祝島の通過を祈ってきたのか
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]過大嶋鳴門而經再宿之後追作歌二首
#[原文]巨礼也己能 名尓於布奈流門能 宇頭之保尓 多麻毛可流登布 安麻乎等女杼毛
#[訓読]これやこの名に負ふ鳴門のうづ潮に玉藻刈るとふ海人娘子ども
#[仮名],これやこの,なにおふなるとの,うづしほに,たまもかるとふ,あまをとめども
#[左注]右一首田邊秋庭
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,土地讃美,山口,大畠瀬戸,叙景,追想
#[訓異]
#[大意]これがまあこの有名な鳴門の渦潮に玉藻を刈るという海人娘子たちか
#{語釈]
大嶋鳴門 大畠瀬戸
再宿 二泊
#[説明]
釈注 麻里布の浦 六月十四日午前七時半出発(前掲)
大島の鳴門 日中の通過
田邊秋庭 伝未詳
玉藻 角島の瀬戸のワカメ 潮流の早い場所の藻が良質とされたか
#[関連論文]
#[題詞](過大嶋鳴門而經再宿之後追作歌二首)
#[原文]奈美能宇倍尓 宇伎祢世之欲比 安杼毛倍香 許己呂我奈之久 伊米尓美要都流
#[訓読]波の上に浮き寝せし宵あど思へか心悲しく夢に見えつる
#[仮名],なみのうへに,うきねせしよひ,あどもへか,こころがなしく,いめにみえつる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,山口,大畠瀬戸,追想,望郷
#[訓異]
#[大意]波の上に浮かんで寝た宵に、どのように思ったことなのか。心悲しくも妹が夢に見えたのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]熊毛浦舶泊之夜作歌四首
#[原文]美夜故邊尓 由可牟船毛我 可里許母能 美太礼弖於毛布 許登都(ん)夜良牟
#[訓読]都辺に行かむ船もが刈り薦の乱れて思ふ言告げやらむ
#[仮名],みやこへに,ゆかむふねもが,かりこもの,みだれておもふ,ことつげやらむ
#[左注]右一首羽栗
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羽栗,枕詞,山口,上関町,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]都の方に行く船もあればなあ。刈った薦のように乱れて思う言葉を告げてやろうのに
#{語釈]
熊毛浦 熊毛郡室津 熊毛郡平尾町小郡(おぐに) 光市室積
羽栗 伝未詳 代匠紀「名前が落ちたか」
孝昭記 天押帯日子命の子孫 羽栗臣
#[説明]
釈注 熊毛浦での船中泊の時に、見張りとして下級官僚が不寝番をしている。
その時のものか。
#[関連論文]
#[題詞](熊毛浦舶泊之夜作歌四首)
#[原文]安可等伎能 伊敝胡悲之伎尓 宇良<未>欲理 可治乃於等須流波 安麻乎等女可母
#[訓読]暁の家恋しきに浦廻より楫の音するは海人娘子かも
#[仮名],あかときの,いへごひしきに,うらみより,かぢのおとするは,あまをとめかも
#[左注]
#[校異]末 -> 未 [万葉集古義]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,山口,上関町,望郷,叙景
#[訓異]
#[大意]暁の時に家が恋しい中で、浦のめぐりから梶の音がするのは海人娘女だろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](熊毛浦舶泊之夜作歌四首)
#[原文]於枳敝欲理 之保美知久良之 可良能宇良尓 安佐里須流多豆 奈伎弖佐和伎奴
#[訓読]沖辺より潮満ち来らし可良の浦にあさりする鶴鳴きて騒きぬ
#[仮名],おきへより,しほみちくらし,からのうらに,あさりするたづ,なきてさわきぬ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,山口,上関町,叙景
#[訓異]
#[大意]沖の方から潮が満ちて来るらしい。可良の浦に餌を求めている鶴が鳴いて騒いでいる
#{語釈]
可良の浦 山口県熊毛郡上関町室津 陸地の干潟近い海か
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](熊毛浦舶泊之夜作歌四首)
#[原文]於吉敝欲里 布奈妣等能煩流 与妣与勢弖 伊射都氣也良牟 多婢能也登里乎
#[訓読]沖辺より船人上る呼び寄せていざ告げ遣らむ旅の宿りを
#[仮名],おきへより,ふなびとのぼる,よびよせて,いざつげやらむ,たびのやどりを
#[左注]一云 多妣能夜杼里乎 伊射都氣夜良奈
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,山口,上関町,望郷,異伝
#[訓異]
#[大意]沖の方から船人が上って来る。こちらに呼び寄せてさあ都の妹に知らせてやろう。旅の宿りのことを
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](熊毛浦舶泊之夜作歌四首)一云
#[原文]多妣能夜杼里乎 伊射都氣夜良奈
#[訓読]旅の宿りをいざ告げ遣らな
#[仮名],たびのやどりを,いざつげやらな
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,異伝,羈旅,山口,上関町,望郷
#[訓異]
#[大意]旅の宿りのわびしさをさあ告げてやろう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛(しもつみけ)郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首
#[原文]於保伎美能 美許等可之故美 於保<夫>祢能 由伎能麻尓末<尓> 夜杼里須流可母
#[訓読]大君の命畏み大船の行きのまにまに宿りするかも
#[仮名],おほきみの,みことかしこみ,おほぶねの,ゆきのまにまに,やどりするかも
#[左注]右一首雪宅麻呂
#[校異]布 -> 夫 [類][紀][細] / <> -> 尓 [西(右書)][類][紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,大分,中津市,作者:雪宅麻呂,不安
#[訓異]
#[大意]大君のご命令を恐れ謹んで、大船の行くのに従って宿りをすることであるなあ
#{語釈]
佐婆の海中にして忽ち逆風に遭ひ、漲浪に漂流す。經宿の後に幸くして順風を得、豊前國下毛郡分間浦に到り著く。是に追ひて艱難を怛(いた)みし、悽惆(かな)しびて作る八首
佐婆の海中 山口県防府沖 佐波郡
漲浪 みなぎる波 大波
經宿 一夜を経ること
分間浦 大分県中津市田尻 中津市和田 山国川河口付近
於是追 後になって これまでの漂流の苦しみを回想して悲しみ
怛 万象名義 切也、痛也、憂也
悽惆 19/4292 家持の手になっているか
雪宅麻呂 伝未詳 3688題詞 壱岐で客死。雪連姓
雪は壱岐氏か。そうだとすると卜部系で卜占を司った氏族。ただし壱岐直
新撰姓氏録 伊吉連 連姓であるので渡来系であり壱岐氏とは別系統
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
#[原文]和伎毛故波 伴也母許奴可登 麻都良牟乎 於伎尓也須麻牟 伊敝都可受之弖
#[訓読]我妹子は早も来ぬかと待つらむを沖にや住まむ家つかずして
#[仮名],わぎもこは,はやもこぬかと,まつらむを,おきにやすまむ,いへつかずして
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,大分,中津市,望郷,不安
#[訓異]
#[大意]我妹子は早くも帰っては来ないかと待っているであろうものなのに、自分は沖に住むことだろうか。家に近づくこともなくて
#{語釈]
家つかずして 3720
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
#[原文]宇良<未>欲里 許藝許之布祢乎 風波夜美 於伎都美宇良尓 夜杼里須流可毛
#[訓読]浦廻より漕ぎ来し船を風早み沖つみ浦に宿りするかも
#[仮名],うらみより,こぎこしふねを,かぜはやみ,おきつみうらに,やどりするかも
#[左注]
#[校異]末 -> 未 [万葉集古義]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,大分,中津市,不安
#[訓異]
#[大意]浦のめぐりから漕いで来た船は風が早いので沖の浦で宿りをすることだ
#{語釈]
み浦 御坂と同じく恐ろしい神の宿る浦の意味
宿りするかも 漂流して一晩過ごしたことを言う
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
#[原文]和伎毛故我 伊可尓於毛倍可 奴婆多末能 比登欲毛於知受 伊米尓之美由流
#[訓読]我妹子がいかに思へかぬばたまの一夜もおちず夢にし見ゆる
#[仮名],わぎもこが,いかにおもへか,ぬばたまの,ひとよもおちず,いめにしみゆる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,大分,中津市,望郷,枕詞,不安
#[訓異]
#[大意]我妹子がどのように恋しく思っているからか、ぬばたまの一夜も欠かさないで夢に見えることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
#[原文]宇奈波良能 於伎敝尓等毛之 伊射流火波 安可之弖登母世 夜麻登思麻見無
#[訓読]海原の沖辺に灯し漁る火は明かして灯せ大和島見む
#[仮名],うなはらの,おきへにともし,いざるひは,あかしてともせ,やまとしまみむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,大分,中津市,望郷
#[訓異]
#[大意]海原の沖のあたりにともして漁をしている漁り火は明るくしてともせ。大和島を見ようから
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
#[原文]可母自毛能 宇伎祢乎須礼婆 美奈能和多 可具呂伎可美尓 都由曽於伎尓家類
#[訓読]鴨じもの浮寝をすれば蜷の腸か黒き髪に露ぞ置きにける
#[仮名],かもじもの,うきねをすれば,みなのわた,かぐろきかみに,つゆぞおきにける
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,大分,中津市,漂泊,不安
#[訓異]
#[大意]鴨のように波に浮いて寝ると蜷の腸のように真っ黒な髪に露が置いたことであるよ
#{語釈]
露ぞ置きにける 甲板で大和の方を見て偲んでいる様子
普通は、男を待つ女の髪に露が置くという様子が多く、都の妻のイメージと重ねる
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
#[原文]比左可多能 安麻弖流月波 見都礼杼母 安我母布伊毛尓 安波奴許呂可毛
#[訓読]ひさかたの天照る月は見つれども我が思ふ妹に逢はぬころかも
#[仮名],ひさかたの,あまてるつきは,みつれども,あがもふいもに,あはぬころかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,枕詞,大分,中津市,望郷,恋情
#[訓異]
#[大意]ひさかたの天に照る月は見たけれども、自分が恋い思う妹に逢わないこのごろであるなあ
#{語釈]
見つれども やっと空も晴れて月を見ることが出来た
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
#[原文]奴波多麻能 欲和多流月者 波夜毛伊弖奴香文 宇奈波良能 夜蘇之麻能宇倍由 伊毛我安多里見牟 [旋頭歌也]
#[訓読]ぬばたまの夜渡る月は早も出でぬかも海原の八十島の上ゆ妹があたり見む [旋頭歌也]
#[仮名],ぬばたまの,よわたるつきは,はやもいでぬかも,うなはらの,やそしまのうへゆ,いもがあたりみむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,旋頭歌,枕詞,大分,中津市,望郷
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜渡る月ははやく出ては来ないか。海原の多くの島の上を通って妹のあたりを見ようものだから
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]