万葉集 巻第15

#[番号]15/3578
#[題詞]遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌
#[原文]武庫能浦乃 伊里江能渚鳥 羽具久毛流 伎美乎波奈礼弖 古非尓之奴倍之
#[訓読]武庫の浦の入江の洲鳥羽ぐくもる君を離れて恋に死ぬべし
#[仮名],むこのうらの,いりえのすどり,はぐくもる,きみをはなれて,こひにしぬべし
#[左注](右十一首贈答)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,地名,兵庫県,武庫川,動物,女歌,悲別,序詞,恋情,羈旅,出発,難波,大阪
#[訓異]武庫の浦の入り江の州浜にいる鳥が親鳥の羽に包まれて育てられるように、大事にされたあなたを離れては恋い思う気持ちで死んでしまいそうだ
#[大意]
#{語釈]
武庫の浦  武庫川河口

#[説明]
男を送る女の歌

遣新羅使 続日本紀には、大化から宝亀まで全27回。うち天平8年は第23次

天平08/02/28/戊寅、從五位下阿倍朝臣繼麻呂を遣新羅大使と爲す
天平08/04/17/夏四月丙寅、遣新羅使阿倍朝臣繼麻呂等拜朝す
天平09/01/26/辛丑、遣新羅使大判官從六位上壬生使主宇太麻呂、少判官正七位上大藏忌寸麻呂等入京、大使從五位下阿倍朝臣繼麻呂津嶋に泊まりて卒しぬ。副使從六位下大伴宿祢三中病に染みて京に入ることを得ず。
天平09/02/15/己未、遣新羅使奏すらく、新羅國、常の礼を失ひて使の旨を受けずとまうす。是に、五位已上并せて六位已下の官人、惣て三十五人を内裏に召して、意見を陳べしむ。
天平09/02/22/丙寅、諸司竟見の表を奏す。或は言さく、「使を遣して其の由を問はしむ」とまうし、或は「兵(いくさ)を發(おこ)して征伐を加へむ」とまうす。
天平09/03/28/壬寅、遣新羅使副使正六位上大伴宿祢三中等三十人拜朝。(三中は病気のために拝朝が遅れる)
天平09/04/01/夏四月乙已朔、使を伊勢神宮、大神社(おほみわのやしろ)、筑紫の住吉(すみのえ)、八幡の二社と香椎宮とに遣して、幣(みてぐら)を奉りて新羅の禮无(いやなき)状を告(まう)さしむ。

対新羅関係は険悪な雰囲気。修交のための遣使も逆効果か。

#[関連論文]


#[番号]15/3579
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]大船尓 伊母能流母能尓 安良麻勢<婆> 羽具久美母知弖 由可麻之母能乎
#[訓読]大船に妹乗るものにあらませば羽ぐくみ持ちて行かましものを
#[仮名],おほぶねに,いものるものに,あらませば,はぐくみもちて,ゆかましものを
#[左注](右十一首贈答)
#[校異]波 -> 婆 [類]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,恋情,悲別,出発,羈旅,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]大船に妹が乗るものであったならば、羽で包んで持って連れて行こうものなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3580
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]君之由久 海邊乃夜杼尓 奇里多々婆 安我多知奈氣久 伊伎等之理麻勢
#[訓読]君が行く海辺の宿に霧立たば我が立ち嘆く息と知りませ
#[仮名],きみがゆく,うみへのやどに,きりたたば,あがたちなげく,いきとしりませ
#[左注](右十一首贈答)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,女歌,羈旅,出発,悲別,恋情,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]あなたが行く海辺の宿に霧が立つならば、自分が立ち嘆く息と思ってください
#{語釈]
#[説明]
05/0799H01大野山霧立ちわたる我が嘆くおきその風に霧立ちわたる

#[関連論文]


#[番号]15/3581
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]秋佐良婆 安比見牟毛能乎 奈尓之可母 奇里尓多都倍久 奈氣伎之麻佐牟
#[訓読]秋さらば相見むものを何しかも霧に立つべく嘆きしまさむ
#[仮名],あきさらば,あひみむものを,なにしかも,きりにたつべく,なげきしまさむ
#[左注](右十一首贈答)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,悲別,羈旅,出発,慰撫,恋愛,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]秋になったらまた逢えるものなのに、どうして霧に立ちそうなほど嘆きをなさるのか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3582
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]大船乎 安流美尓伊太之 伊麻須君 都追牟許等奈久 波也可敝里麻勢
#[訓読]大船を荒海に出だしいます君障むことなく早帰りませ
#[仮名],おほぶねを,あるみにいだし,いますきみ,つつむことなく,はやかへりませ
#[左注](右十一首贈答)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,女歌,羈旅,出発,悲別,餞別,恋愛,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]大船を荒海に出していらっしゃる君よ。障害なく早くお帰りください
#{語釈]
障むことなく早帰りませ  好去好来歌
05/0894H14御船は泊てむ 障みなく 幸くいまして 早帰りませ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3583
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]真幸而 伊毛我伊波伴伐 於伎都奈美 知敝尓多都等母 佐波里安良米也母
#[訓読]ま幸くて妹が斎はば沖つ波千重に立つとも障りあらめやも
#[仮名],まさきくて,いもがいははば,おきつなみ,ちへにたつとも,さはりあらめやも
#[左注](右十一首贈答)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,羈旅,出発,悲別,恋愛,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]無事で妹が潔斎したならば、沖の波が千重に立つとも障害があるだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3584
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]和可礼奈波 宇良我奈之家武 安我許呂母 之多尓乎伎麻勢 多太尓安布麻弖尓
#[訓読]別れなばうら悲しけむ我が衣下にを着ませ直に逢ふまでに
#[仮名],わかれなば,うらがなしけむ,あがころも,したにをきませ,ただにあふまでに
#[左注](右十一首贈答)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,羈旅,女歌,恋情,出発,悲別,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]別れたならばうら悲しいことだろう。自分の衣を下に着て下さい。直接逢うまでは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3585
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]和伎母故我 之多尓毛伎余等 於久理多流 許呂母能比毛乎 安礼等可米也母
#[訓読]我妹子が下にも着よと贈りたる衣の紐を我れ解かめやも
#[仮名],わぎもこが,したにもきよと,おくりたる,ころものひもを,あれとかめやも
#[左注](右十一首贈答)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,羈旅,恋情,出発,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]我が妹が下にも着なさいと送った衣の紐を自分は解くことがあろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3586
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]和我由恵尓 於毛比奈夜勢曽 秋風能 布可武曽能都奇 安波牟母能由恵
#[訓読]我がゆゑに思ひな痩せそ秋風の吹かむその月逢はむものゆゑ
#[仮名],わがゆゑに,おもひなやせそ,あきかぜの,ふかむそのつき,あはむものゆゑ
#[左注](右十一首贈答)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,出発,悲別,餞別,羈旅,恋情,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]自分のために物思いをして痩せるようなことはするな。秋風が吹くであろうその月に逢おうものだから
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3587
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]多久夫須麻 新羅邊伊麻須 伎美我目乎 家布可安須可登 伊波比弖麻多牟
#[訓読]栲衾新羅へいます君が目を今日か明日かと斎ひて待たむ
#[仮名],たくぶすま,しらきへいます,きみがめを,けふかあすかと,いはひてまたむ
#[左注](右十一首贈答)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,地名,韓国,枕詞,悲別,羈旅,餞別,女歌,難波,大阪#[訓異]
#[大意]栲衾新羅へいらっしゃるあなたの目を今日見れるか明日かと潔斎して待ちましょう
#{語釈]
栲衾  楮で作った夜具。楮の皮は白いので、シラにかけた枕詞
14/3509H01栲衾白山風の寝なへども子ろがおそきのあろこそえしも

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3588
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]波呂波呂尓 於<毛>保由流可母 之可礼杼毛 異情乎 安我毛波奈久尓
#[訓読]はろはろに思ほゆるかもしかれども異しき心を我が思はなくに
#[仮名],はろはろに,おもほゆるかも,しかれども,けしきこころを,あがもはなくに
#[左注]右十一首贈答
#[校異]母 -> 毛 [類][紀]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,贈答,羈旅,悲別,出発,恋愛,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]遙かに遠くに思われることだ。そうではあるが怪しい気持ちを自分は思わないよ
#{語釈]
はろはろに思ほゆるかも  思うと遠くに離ればなれになることだ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3589
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]由布佐礼婆 比具良之伎奈久 伊故麻山 古延弖曽安我久流 伊毛我目乎保里
#[訓読]夕さればひぐらし来鳴く生駒山越えてぞ我が来る妹が目を欲り
#[仮名],ゆふされば,ひぐらしきなく,いこまやま,こえてぞあがくる,いもがめをほり
#[左注]右一首秦間満
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,作者:秦間満,地名,奈良,難波,大阪,出発,羈旅,恋情
#[訓異]
#[大意]夕方になったならばひぐらしがやって来て鳴く生駒山を越えて自分はやって来る。妹の目を見たく思って
#{語釈]
ひぐらし 出発は6月はじめと見られる
生駒山  出発までの間の日をぬって奈良に戻っている(草加の直越か)

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3590
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]伊毛尓安波受 安良婆須敝奈美 伊波祢布牟 伊故麻乃山乎 故延弖曽安我久流
#[訓読]妹に逢はずあらばすべなみ岩根踏む生駒の山を越えてぞ我が来る
#[仮名],いもにあはず,あらばすべなみ,いはねふむ,いこまのやまを,こえてぞあがくる
#[左注]右一首蹔還私家陳思
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,地名,奈良,難波,大阪,出発,恋情,羈旅
#[訓異]
#[大意]妹に逢わないままでいたならばどうしようもないので、岩根を踏む険しい生駒の山を越えて自分は来たことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3591
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]妹等安里之 時者安礼杼毛 和可礼弖波 許呂母弖佐牟伎 母能尓曽安里家流
#[訓読]妹とありし時はあれども別れては衣手寒きものにぞありける
#[仮名],いもとありし,ときはあれども,わかれては,ころもでさむき,ものにぞありける
#[左注](右三首臨發之時作歌)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,悲別,羈旅,恋情,出発,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]妹といた時はなんとも思わないでいたが、別れると衣手の寒いものであることだ
#{語釈]
#[説明]
代匠紀 この歌夏なれば衣手寒きまではあるまじけれど、独りぬることのわびしきをいふなり。意を得て言を忘べし

#[関連論文]


#[番号]15/3592
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]海原尓 宇伎祢世武夜者 於伎都風 伊多久奈布吉曽 妹毛安良奈久尓
#[訓読]海原に浮寝せむ夜は沖つ風いたくな吹きそ妹もあらなくに
#[仮名],うなはらに,うきねせむよは,おきつかぜ,いたくなふきそ,いももあらなくに
#[左注](右三首臨發之時作歌)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,悲別,出発,難波,大阪,恋情
#[訓異]
#[大意]海原に浮いて寝る夜は沖の風よ。ひどくは吹くなよ。妹もいないことなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3593
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]大伴能 美津尓布奈能里 許藝出而者 伊都礼乃思麻尓 伊保里世武和礼
#[訓読]大伴の御津に船乗り漕ぎ出てはいづれの島に廬りせむ我れ
#[仮名],おほともの,みつにふなのり,こぎでては,いづれのしまに,いほりせむわれ
#[左注]右三首臨發之時作歌
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,出発,難波,大阪,地名
#[訓異]
#[大意]大伴の御津に船に乗って漕ぎだしてはどこの島に庵をしようか。自分は
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3594
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]之保麻都等 安里家流布祢乎 思良受之弖 久夜之久妹乎 和可礼伎尓家利
#[訓読]潮待つとありける船を知らずして悔しく妹を別れ来にけり
#[仮名],しほまつと,ありけるふねを,しらずして,くやしくいもを,わかれきにけり
#[左注](右八首乗船入海路上作歌)
#[校異]之 [類][細] 志
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,悲別,恋情,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]潮を待つのでまだ出航しないである船だと知らないで、くやしいことにも妹とあわてて別れてきたことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3595
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]安佐妣良伎 許藝弖天久礼婆 牟故能宇良能 之保非能可多尓 多豆我許恵須毛
#[訓読]朝開き漕ぎ出て来れば武庫の浦の潮干の潟に鶴が声すも
#[仮名],あさびらき,こぎでてくれば,むこのうらの,しほひのかたに,たづがこゑすも
#[左注](右八首乗船入海路上作歌)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,地名,兵庫県,武庫川,動物,出発,羈旅,叙景,難波,大阪
#[訓異]
#[大意]朝船出をして漕ぎ出して来ると、武庫の浦の潮干の潟に鶴の声がすることだ
#{語釈]
朝開き
03/0351H01世間を何に譬へむ朝開き漕ぎ去にし船の跡なきごとし
09/1670H01朝開き漕ぎ出て我れは由良の崎釣りする海人を見て帰り来む
17/4029H01珠洲の海に朝開きして漕ぎ来れば長浜の浦に月照りにけり
18/4065H01朝開き入江漕ぐなる楫の音のつばらつばらに我家し思ほゆ
20/4408H17水手ととのへて 朝開き 我は漕ぎ出ぬと 家に告げこそ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3596
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]和伎母故我 可多美尓見牟乎 印南都麻 之良奈美多加弥 与曽尓可母美牟
#[訓読]我妹子が形見に見むを印南都麻白波高み外にかも見む
#[仮名],わぎもこが,かたみにみむを,いなみつま,しらなみたかみ,よそにかもみむ
#[左注](右八首乗船入海路上作歌)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,悲別,望郷,地名,加古川,兵庫
#[訓異]
#[大意]我妹子の形見として見ようものなのに印南妻は白波が高くて沖から見ることだ
#{語釈]
我妹子が形見に見むを 印南妻という名前であるから形見にしようという
印南都麻 印南野の播州平野 加古川河口付近

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3597
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]和多都美能 於伎津之良奈美 多知久良思 安麻乎等女等母 思麻我久<流>見由
#[訓読]わたつみの沖つ白波立ち来らし海人娘子ども島隠る見ゆ
#[仮名],わたつみの,おきつしらなみ,たちくらし,あまをとめども,しまがくるみゆ
#[左注](右八首乗船入海路上作歌)
#[校異]礼 -> 流 [紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,叙景,兵庫
#[訓異]
#[大意]わたつみの沖の白波が立って来るらしい。海人娘子たちが島に隠れるのが見える
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3598
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]奴波多麻能 欲波安氣奴良之 多麻能宇良尓 安佐里須流多豆 奈伎和多流奈里
#[訓読]ぬばたまの夜は明けぬらし玉の浦にあさりする鶴鳴き渡るなり
#[仮名],ぬばたまの,よはあけぬらし,たまのうらに,あさりするたづ,なきわたるなり
#[左注](右八首乗船入海路上作歌)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,枕詞,地名,岡山県,倉敷市,動物,叙景,羈旅
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜は明けたらしい。玉の浦に餌を求める鶴が鳴き渡ることだ
#{語釈]
玉の浦 未詳  岡山県倉敷市玉島 岡山県岡山市西大寺東片岡

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3599
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]月余美能 比可里乎伎欲美 神嶋乃 伊素<未>乃宇良由 船出須和礼波
#[訓読]月読の光りを清み神島の礒廻の浦ゆ船出す我れは
#[仮名],つくよみの,ひかりをきよみ,かみしまの,いそみのうらゆ,ふなですわれは
#[左注](右八首乗船入海路上作歌)
#[校異]末 -> 未 [細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,地名,広島,福山市,羈旅
#[訓異]
#[大意]月読の光が清らかなので神島の磯のめぐりの浦から船出をするよ。自分は
#{語釈]
神島 13/3339
 岡山県笠岡市 神ノ島
代匠記 神名帳 備中国小田郡神嶋神社
宮本喜一郎 福山市西部の神島町
船出す 全集 夕月夜に潮流を利して少しでも舟を漕ぎ進めようとするのであろう

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3600
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]波奈礼蘇尓 多弖流牟漏能木 宇多我多毛 比左之伎時乎 須疑尓家流香母
#[訓読]離れ礒に立てるむろの木うたがたも久しき時を過ぎにけるかも
#[仮名],はなれそに,たてるむろのき,うたがたも,ひさしきときを,すぎにけるかも
#[左注](右八首乗船入海路上作歌)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,福山,広島
#[訓異]
#[大意]離れ磯に立っている室の木よ。そのように久しい時がむやみに過ぎてしまったことであるよ
#{語釈]
むろの木  天木香 ねず いぶき
03/0446H01我妹子が見し鞆の浦のむろの木は常世にあれど見し人ぞなき
03/0447H01鞆の浦の礒のむろの木見むごとに相見し妹は忘らえめやも
03/0448H01礒の上に根延ふむろの木見し人をいづらと問はば語り告げむか
11/2488H01礒の上に立てるむろの木ねもころに何しか深め思ひそめけむ
15/3601H01しましくもひとりありうるものにあれや島のむろの木離れてあるらむ
16/3830H01玉掃刈り来鎌麻呂むろの木と棗が本とかき掃かむため

うたがたも むやみに いちづに
12/2896H01うたがたも言ひつつもあるか我れならば地には落ちず空に消なまし
17/3949H01天離る鄙にある我れをうたがたも紐解き放けて思ほすらめや
17/3968H01鴬の来鳴く山吹うたがたも君が手触れず花散らめやも

#[説明]
室の木を見て、妻と会わない無駄な時が長く経ってしまったという気持ちを示したもの

#[関連論文]


#[番号]15/3601
#[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)
#[原文]之麻思久母 比等利安里宇流 毛能尓安礼也 之麻能牟漏能木 波奈礼弖安流良武
#[訓読]しましくもひとりありうるものにあれや島のむろの木離れてあるらむ
#[仮名],しましくも,ひとりありうる,ものにあれや,しまのむろのき,はなれてあるらむ
#[左注]右八首乗船入海路上作歌
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,福山,広島
#[訓異]
#[大意]しばらくでも独りでいられるものであろうか。それなのにあの島のむろの木は離れているのだろう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3602
#[題詞]當所誦詠古歌
#[原文]安乎尓余志 奈良能美夜古尓 多奈妣家流 安麻能之良久毛 見礼杼安可奴加毛
#[訓読]あをによし奈良の都にたなびける天の白雲見れど飽かぬかも
#[仮名],あをによし,ならのみやこに,たなびける,あまのしらくも,みれどあかぬかも
#[左注]右一首詠雲
#[校異]歌 [西] 謌 [紀][温] 哥
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,枕詞,望郷,羈旅,転用
#[訓異]
#[大意]あをによし奈良の都にたなびいている空の白雲を見ても見飽きることがないよ
#{語釈]
#[説明]
本来は、奈良の土地讃美の歌か。望郷に転用している。
井手至 大伴御中が古歌巻を持参していて、それを誦唱した

#[関連論文]


#[番号]15/3603
#[題詞](當所誦詠古歌)
#[原文]安乎<楊>疑能 延太伎里於呂之 湯種蒔 忌忌伎美尓 故非和多流香母
#[訓読]青楊の枝伐り下ろしゆ種蒔きゆゆしき君に恋ひわたるかも
#[仮名],あをやぎの,えだきりおろし,ゆだねまき,ゆゆしききみに,こひわたるかも
#[左注](右三首戀歌)
#[校異]揚 -> 楊 [類][紀][温]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,転用,望郷,恋情,植物,羈旅
#[訓異]
#[大意]青柳の枝を切り下ろして忌み清めた種米を蒔くような、はばかるべきあなたに恋い続けることであるよ
#{語釈]
青楊の枝伐り下ろし  柳の生命力を言祝いで苗代に刺して、種の発育を即す呪術。
ゆ種  神聖に忌み清めたもみ米
ゆゆしき 神聖な はばかるべき

#[説明]
元来は身分違いの男を恋い思う女の歌
類歌
04/0600H01伊勢の海の礒もとどろに寄する波畏き人に恋ひわたるかも

#[関連論文]


#[番号]15/3604
#[題詞](當所誦詠古歌)
#[原文]妹我素弖 和可礼弖比左尓 奈里奴礼杼 比登比母伊毛乎 和須礼弖於毛倍也
#[訓読]妹が袖別れて久になりぬれど一日も妹を忘れて思へや
#[仮名],いもがそで,わかれてひさに,なりぬれど,ひとひもいもを,わすれておもへや
#[左注](右三首戀歌)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,恋情,望郷,羈旅,転用
#[訓異]
#[大意]妹の袖を別れて久しくなったけれども、一日も妹のことを忘れて思うことがあろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3605
#[題詞](當所誦詠古歌)
#[原文]和多都美乃 宇美尓伊弖多流 思可麻河<泊> 多延無日尓許曽 安我故非夜麻米
#[訓読]わたつみの海に出でたる飾磨川絶えむ日にこそ我が恋やまめ
#[仮名],わたつみの,うみにいでたる,しかまがは,たえむひにこそ,あがこひやまめ
#[左注]右三首戀歌
#[校異]伯 -> 泊 [古][細][温]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,枕詞,恋情,望郷,兵庫,姫路,船場川,転用,羈旅
#[訓異]
#[大意]わたつみの海に流れ出ている飾磨川の水が絶える日にこそ自分は恋することをやめるだろう。(絶える時がないから恋がやまないのだ)
#{語釈]
飾磨川   兵庫県姫路市飾磨

#[説明]
類歌
09/1770H01みもろの神の帯ばせる泊瀬川水脈し絶えずは我れ忘れめや
12/3004H01久方の天つみ空に照る月の失せなむ日こそ我が恋止まめ

#[関連論文]


#[番号]15/3606
#[題詞](當所誦詠古歌)
#[原文]多麻藻可流 乎等女乎須疑弖 奈都久佐能 野嶋我左吉尓 伊保里須和礼波
#[訓読]玉藻刈る処女を過ぎて夏草の野島が崎に廬りす我れは
#[仮名],たまもかる,をとめをすぎて,なつくさの,のしまがさきに,いほりすわれは
#[左注]柿本朝臣人麻呂歌曰 敏馬乎須疑弖 又曰 布祢知可豆伎奴
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,柿本人麻呂,枕詞,地名,兵庫,淡路,異伝,道行き,羈旅,転用
#[訓異]
#[大意]玉藻刈る処女を過ぎて夏草の野島が崎に旅の仮泊をするよ。自分は。
#{語釈]
処女  所在未詳の地名。処女塚があるのでそのあたりか。兵庫県芦屋市 神戸市
    人麻呂歌の「敏馬」から転じたもの
野島  兵庫県津名郡北淡町野島

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3606S
#[題詞](當所誦詠古歌)柿本朝臣人麻呂歌曰 又曰
#[原文]敏馬乎須疑弖 布祢知可豆伎奴
#[訓読]敏馬を過ぎて 船近づきぬ
#[仮名],みぬめをすぎて ,ふねちかづきぬ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,作者:柿本人麻呂,地名,兵庫,異伝,道行き,羈旅,転用
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]
敏馬  兵庫県神戸市灘区岩屋

#[説明]
03/0250H01玉藻刈る敏馬を過ぎて夏草の野島が崎に船近づきぬ
03/0250S01一本云
03/0250H02処女を過ぎて夏草の野島が崎に廬りす我れは

#[関連論文]



#[番号]15/3607
#[題詞](當所誦詠古歌)
#[原文]之路多倍能 藤江能宇良尓 伊<射>里須流 安麻等也見良武 多妣由久和礼乎
#[訓読]白栲の藤江の浦に漁りする海人とや見らむ旅行く我れを
#[仮名],しろたへの,ふぢえのうらに,いざりする,あまとやみらむ,たびゆくわれを
#[左注]柿本朝臣人麻呂歌曰 安良多倍乃 又曰 須受吉都流 安麻登香見良武
#[校異]時 -> 射 [西(訂正)][類][紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,枕詞,地名,兵庫,明石,羈旅,柿本人麻呂,異伝,転用
#[訓異]
#[大意]白妙の藤江の浦に漁をしている漁師と見られるだろうか。旅を行く自分を
#{語釈]
藤江の浦  兵庫県明石市藤江

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3607S
#[題詞](當所誦詠古歌)柿本朝臣人麻呂歌曰 又曰
#[原文]安良多倍乃 須受吉都流 安麻登香見良武
#[訓読]荒栲の 鱸釣る海人とか見らむ
#[仮名],あらたへの ,すずきつる,あまとかみらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,異伝,作者:柿本人麻呂,枕詞,羈旅,転用
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]
#[説明]
03/0252H01荒栲の藤江の浦に鱸釣る海人とか見らむ旅行く我れを
03/0252S01一本云
03/0252H02白栲の藤江の浦に漁りする

#[関連論文]


#[番号]15/3608
#[題詞](當所誦詠古歌)
#[原文]安麻射可流 比奈乃奈我道乎 孤悲久礼婆 安可思能門欲里 伊敝乃安多里見由
#[訓読]天離る鄙の長道を恋ひ来れば明石の門より家のあたり見ゆ
#[仮名],あまざかる,ひなのながちを,こひくれば,あかしのとより,いへのあたりみゆ
#[左注]柿本朝臣人麻呂歌曰 夜麻等思麻見由
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,異伝,柿本人麻呂,羈旅,地名,明石,兵庫,望郷,転用
#[訓異]
#[大意]天離る田舎の長い道のりの中を都を恋い思って来ると、明石の海峡より家のあたりが見える
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3608S
#[題詞](當所誦詠古歌)柿本朝臣人麻呂歌曰
#[原文]夜麻等思麻見由
#[訓読]大和島見ゆ
#[仮名],やまとしまみゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,異伝,作者:柿本人麻呂,大和,奈良,地名,明石,羈旅,望郷,転用
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]
#[説明]
03/0255H01天離る鄙の長道ゆ恋ひ来れば明石の門より大和島見ゆ
03/0255I01[一本云]
03/0255H02[家のあたり見ゆ]

#[関連論文]


#[番号]15/3609
#[題詞](當所誦詠古歌)
#[原文]武庫能宇美能 尓波余久安良之 伊射里須流 安麻能都里船 奈美能宇倍由見由
#[訓読]武庫の海の庭よくあらし漁りする海人の釣舟波の上ゆ見ゆ
#[仮名],むこのうみの,にはよくあらし,いざりする,あまのつりぶね,なみのうへゆみゆ
#[左注]柿本朝臣人麻呂歌曰 氣比乃宇美能 又曰 可里許毛能 美<太>礼弖出見由 安麻能都里船
#[校異]多 -> 太 [類][紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,羈旅,地名,西宮,兵庫,柿本人麻呂,異伝,叙景,土地讃美,転用
#[訓異]
#[大意]武庫の海の海面はよくあるらしい。漁をしている漁師の釣船が波の上に見える
#{語釈]
武庫の海 兵庫県武庫川河口 尼崎市 西宮市

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3609S
#[題詞](當所誦詠古歌)柿本朝臣人麻呂歌曰 又曰
#[原文]氣比乃宇美能 可里許毛能 美<太>礼弖出見由 安麻能都里船
#[訓読]笥飯の海の 刈り薦の乱れて出づ見ゆ海人の釣船
#[仮名],けひのうみの ,かりこもの,みだれていづみゆ,あまのつりぶね
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,羈旅,枕詞,異伝,作者:柿本人麻呂,叙景,土地讃美,地名,淡路,兵庫,転用
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]
笥飯の海  兵庫県三原郡西淡町松帆

#[説明]
03/0256H01笥飯の海の庭よくあらし刈薦の乱れて出づ見ゆ海人の釣船
03/0256S01一本云
03/0256H02武庫の海船庭ならし漁りする海人の釣船波の上ゆ見ゆ

#[関連論文]


#[番号]15/3610
#[題詞](當所誦詠古歌)
#[原文]安胡乃宇良尓 布奈能里須良牟 乎等女良我 安可毛能須素尓 之保美都良武賀
#[訓読]安胡の浦に舟乗りすらむ娘子らが赤裳の裾に潮満つらむか
#[仮名],あごのうらに,ふなのりすらむ,をとめらが,あかものすそに,しほみつらむか
#[左注]柿本朝臣人麻呂歌曰 安美能宇良 又曰 多<麻>母能須蘇尓
#[校異]麻能 -> 麻 [西(訂正)][類][紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,地名,異伝,柿本人麻呂,羈旅,転用
#[訓異]
#[大意]安胡の浦に船に乗る娘子の赤裳の裾に潮が満ちているだろうか
#{語釈]
安胡の浦  未詳 三重県志摩郡阿児町東方海浜 三重県鳥羽市答志島和具

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3610S
#[題詞](當所誦詠古歌)柿本朝臣人麻呂歌曰 又曰
#[原文]安美能宇良 多<麻>母能須蘇尓
#[訓読]嗚呼見の浦 玉裳の裾に
#[仮名],あみのうら ,たまものすそに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,古歌,誦詠,地名,三重県,異伝,作者:柿本人麻呂,転用
#[訓異]
#[大意]
#{語釈]
嗚呼見の浦  三重県鳥羽市小浜

#[説明]
01/0040D01幸于伊勢國時留京柿本朝臣人麻呂作歌
01/0040H01嗚呼見の浦に舟乗りすらむをとめらが玉裳の裾に潮満つらむか

#[関連論文]


#[番号]15/3611
#[題詞]七夕歌一首
#[原文]於保夫祢尓 麻可治之自奴伎 宇奈波良乎 許藝弖天和多流 月人乎登(I)
#[訓読]大船に真楫しじ貫き海原を漕ぎ出て渡る月人壮士
#[仮名],おほぶねに,まかぢしじぬき,うなはらを,こぎでてわたる,つきひとをとこ
#[左注]右柿本朝臣人麻呂歌
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,作者:柿本人麻呂,転用,古歌,誦詠,七夕,羈旅
#[訓異]
#[大意]大船に両舷に多くの櫂をたくさん貫いて海原を漕ぎ出して渡る月人壮子よ。
#{語釈]
#[説明]
10/2223H01天の海に月の舟浮け桂楫懸けて漕ぐ見ゆ月人壮士

人麻呂歌にはない。
#[関連論文]


#[番号]15/3612
#[題詞]備後國水調郡長井浦舶泊之夜作歌三首
#[原文]安乎尓与之 奈良能美也故尓 由久比等毛我母 久左麻久良 多妣由久布祢能 登麻利都(ん)武仁 [旋頭歌也]
#[訓読]あをによし奈良の都に行く人もがも草枕旅行く船の泊り告げむに [旋頭歌也]
#[仮名],あをによし,ならのみやこに,ゆくひともがも,くさまくら,たびゆくふねの,とまりつげむに
#[左注]右一首大判官
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,広島,三原,作者:壬生宇太麻呂,枕詞,旋頭歌,羈旅,望郷
#[訓異]
#[大意]あをによし奈良の都に行く人もいればなあ。草枕旅を行く船の宿泊場所を告げようものなのに
#{語釈]
備後國水調(みつぎ)郡長井浦  和名抄 御調 三豆木  現在も御調郡
        広島県三原市糸崎港

大判官 続日本紀 天平9年1月27日 遣新羅使者大判官従六位上壬生使主宇太麻呂
天平18年4月23日 授正六位壬生使主宇太麻呂外従五位下
         同 8月8日  為右京亮
         天平勝宝2年5月14日  為但馬守
6年7月13日 外従五位下壬生使主宇陀麻呂為玄蕃頭

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3613
#[題詞](備後國水調郡長井浦舶泊之夜作歌三首)
#[原文]海原乎 夜蘇之麻我久里 伎奴礼杼母 奈良能美也故波 和須礼可祢都母
#[訓読]海原を八十島隠り来ぬれども奈良の都は忘れかねつも
#[仮名],うなはらを,やそしまがくり,きぬれども,ならのみやこは,わすれかねつも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,広島,三原,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]海原を多くの島に隠れながらやって来たけれども奈良の都は忘れることが出来ないでいることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3614
#[題詞](備後國水調郡長井浦舶泊之夜作歌三首)
#[原文]可敝流散尓 伊母尓見勢武尓 和多都美乃 於伎都白玉 比利比弖由賀奈
#[訓読]帰るさに妹に見せむにわたつみの沖つ白玉拾ひて行かな
#[仮名],かへるさに,いもにみせむに,わたつみの,おきつしらたま,ひりひてゆかな
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,広島,三原,羈旅,みやげ,魂触り
#[訓異]
#[大意]帰った時に妹に見せようものだからわたつみの沖の白玉を拾って行こうよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]



#[番号]15/3615
#[題詞]風速浦舶泊之夜作歌二首
#[原文]和我由恵仁 妹奈氣久良之 風早能 宇良能於伎敝尓 奇里多奈妣家利
#[訓読]我がゆゑに妹嘆くらし風早の浦の沖辺に霧たなびけり
#[仮名],わがゆゑに,いもなげくらし,かざはやの,うらのおきへに,きりたなびけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,広島,安芸津町,望郷,羈旅,叙景
#[訓異]
#[大意]自分のせいで妹は嘆いているらしい。風早の浦の沖辺に霧がたなびいている。
#{語釈]
風速浦  広島県豊田郡安芸津町風速
霧たなびけり
15/3580H01君が行く海辺の宿に霧立たば我が立ち嘆く息と知りませ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3616
#[題詞](風速浦舶泊之夜作歌二首)
#[原文]於伎都加是 伊多久布伎勢波 和伎毛故我 奈氣伎能奇里尓 安可麻之母能乎
#[訓読]沖つ風いたく吹きせば我妹子が嘆きの霧に飽かましものを
#[仮名],おきつかぜ,いたくふきせば,わぎもこが,なげきのきりに,あかましものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,広島,安芸津町,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]沖の風がひどく吹いたならば我妹子の嘆きの霧にもっと包まれて満足しようものなのに
#{語釈]
#[説明]
海上に霧が立ちこめているので、船のいる方向に風がふいたら霧が寄ってくると言ったもの

#[関連論文]


#[番号]15/3617
#[題詞]安藝國長門嶋舶泊礒邊作歌五首
#[原文]伊波婆之流 多伎毛登杼呂尓 鳴蝉乃 許恵乎之伎氣婆 京師之於毛保由
#[訓読]石走る瀧もとどろに鳴く蝉の声をし聞けば都し思ほゆ
#[仮名],いはばしる,たきもとどろに,なくせみの,こゑをしきけば,みやこしおもほゆ
#[左注]右一首大石蓑麻呂
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,望郷,広島,倉橋島,作者:大石蓑麻呂
#[訓異]
#[大意]岩の上を流れる激流がとどろいているように激しく鳴く蝉の声を聞くと都のことが思われてならない
#{語釈]
安藝國長門嶋  広島県安芸郡倉橋島江の浦  13/3243

15/3589H01夕さればひぐらし来鳴く生駒山越えてぞ我が来る妹が目を欲り

大石蓑麻呂
伝未詳。正倉院文書 天平十八年十二月東大寺写経所

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3618
#[題詞](安藝國長門嶋舶泊礒邊作歌五首)
#[原文]夜麻河<泊>能 伎欲吉可波世尓 安蘇倍杼母 奈良能美夜故波 和須礼可祢都母
#[訓読]山川の清き川瀬に遊べども奈良の都は忘れかねつも
#[仮名],やまがはの,きよきかはせに,あそべども,ならのみやこは,わすれかねつも
#[左注]
#[校異]伯 -> 泊 [類][細][温]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,広島,倉橋島,望郷,羈旅,宴席
#[訓異]
#[大意]山川の清らかな川瀬で遊んでみても奈良の都は忘れかねることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3619
#[題詞](安藝國長門嶋舶泊礒邊作歌五首)
#[原文]伊蘇乃麻由 多藝都山河 多延受安良婆 麻多母安比見牟 秋加多麻氣弖
#[訓読]礒の間ゆたぎつ山川絶えずあらばまたも相見む秋かたまけて
#[仮名],いそのまゆ,たぎつやまがは,たえずあらば,またもあひみむ,あきかたまけて
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,広島,倉橋島,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]磯の間から激流の流れる山川が絶えないであるならばまたも共に逢えるだろう。秋を待ち設けて。
#{語釈]
絶えずあらば  絶えないでいるように、自分たちも無事だったら

かたまけて  待ち受けて 近づいて
02/0191H01けころもを時かたまけて出でましし宇陀の大野は思ほえむかも
05/0838H01梅の花散り乱ひたる岡びには鴬鳴くも春かたまけて
10/2133H01秋の田の我が刈りばかの過ぎぬれば雁が音聞こゆ冬かたまけて
10/2163H01草枕旅に物思ひ我が聞けば夕かたまけて鳴くかはづかも
11/2373H01いつはしも恋ひぬ時とはあらねども夕かたまけて恋ひはすべなし

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3620
#[題詞](安藝國長門嶋舶泊礒邊作歌五首)
#[原文]故悲思氣美 奈具左米可祢弖 比具良之能 奈久之麻可氣尓 伊保利須流可母
#[訓読]恋繁み慰めかねてひぐらしの鳴く島蔭に廬りするかも
#[仮名],こひしげみ,なぐさめかねて,ひぐらしの,なくしまかげに,いほりするかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,広島,倉橋島,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]恋情が激しいので心を慰めることも出来なくて、ひぐらしの鳴く島影に仮の宿をとることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3621
#[題詞](安藝國長門嶋舶泊礒邊作歌五首)
#[原文]和我伊能知乎 奈我刀能之麻能 小松原 伊久与乎倍弖加 可武佐備和多流
#[訓読]我が命を長門の島の小松原幾代を経てか神さびわたる
#[仮名],わがいのちを,ながとのしまの,こまつばら,いくよをへてか,かむさびわたる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,広島,倉橋島,土地讃美,羈旅
#[訓異]
#[大意]我が命を長くと思うその長門の島の小松原よ。幾代経って神々しくなっているのか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3622
#[題詞]従長門浦舶<出>之夜仰觀月光作歌三首
#[原文]月余美乃 比可里乎伎欲美 由布奈藝尓 加古能己恵欲妣 宇良<未>許具可聞
#[訓読]月読みの光りを清み夕なぎに水手の声呼び浦廻漕ぐかも
#[仮名],つくよみの,ひかりをきよみ,ゆふなぎに,かこのこゑよび,うらみこぐかも
#[左注]
#[校異]出 [西(上書訂正)][紀][細] / 末 -> 未 [万葉集古義]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,船出,出発,広島,倉橋島
#[訓異]
#[大意]月読みの光が清らかなので夕なぎに水夫の声をかけながら浦のめぐりを漕ぐことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3623
#[題詞](従長門浦舶<出>之夜仰觀月光作歌三首)
#[原文]山乃波尓 月可多夫氣婆 伊射里須流 安麻能等毛之備 於伎尓奈都佐布
#[訓読]山の端に月傾けば漁りする海人の燈火沖になづさふ
#[仮名],やまのはに,つきかたぶけば,いざりする,あまのともしび,おきになづさふ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,出発,広島,倉橋島,叙景,船出
#[訓異]
#[大意]山の稜線に月が傾くと漁をしている海人の漁り火が海にただよっている
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3624
#[題詞](従長門浦舶<出>之夜仰觀月光作歌三首)
#[原文]和礼乃未夜 欲布祢波許具登 於毛敝礼婆 於伎敝能可多尓 可治能於等須奈里
#[訓読]我れのみや夜船は漕ぐと思へれば沖辺の方に楫の音すなり
#[仮名],われのみや,よふねはこぐと,おもへれば,おきへのかたに,かぢのおとすなり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,広島,倉橋島,出発,羈旅,船出,叙景
#[訓異]
#[大意]自分たちだけが夜の船を漕ぐと思っていると、沖の方で楫の音がする
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3625
#[題詞]古挽歌一首[并短歌]
#[原文]由布左礼婆 安之敝尓佐和伎 安氣久礼婆 於伎尓奈都佐布 可母須良母 都麻等多具比弖 和我尾尓波 之毛奈布里曽等 之<路>多倍乃 波祢左之可倍弖 宇知波良比 左宿等布毛能乎 由久美都能 可敝良奴其等久 布久可是能 美延奴我其登久 安刀毛奈吉 与能比登尓之弖 和可礼尓之 伊毛我伎世弖思 奈礼其呂母 蘇弖加多思吉弖 比登里可母祢牟
#[訓読]夕されば 葦辺に騒き 明け来れば 沖になづさふ 鴨すらも 妻とたぐひて 我が尾には 霜な降りそと 白栲の 羽さし交へて うち掃ひ さ寝とふものを 行く水の 帰らぬごとく 吹く風の 見えぬがごとく 跡もなき 世の人にして 別れにし 妹が着せてし なれ衣 袖片敷きて ひとりかも寝む
#[仮名],ゆふされば,あしへにさわき,あけくれば,おきになづさふ,かもすらも,つまとたぐひて,わがをには,しもなふりそと,しろたへの,はねさしかへて,うちはらひ,さぬとふものを,ゆくみづの,かへらぬごとく,ふくかぜの,みえぬがごとく,あともなき,よのひとにして,わかれにし,いもがきせてし,なれごろも,そでかたしきて,ひとりかもねむ
#[左注](右丹比大夫悽愴亡妻歌)
#[校異]歌 [西] 謌 / 露 -> 路 [類][紀]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,挽歌,転用,古歌,作者:丹比大夫,笠麻呂,羈旅,悲別,望郷,広島,倉橋島
#[訓異]
#[大意]夕方になると葦辺に鳴き騒ぎ、夜が明けて来ると沖にただよう鴨ですら妻と一緒にいて、自分の尾には霜よ降るなと白妙の羽を互いに差し交えて、床を払って寝るというものなのに、行く水がもとへ戻らないというように、吹く風が見えないように、跡もない世の中の人であって別れてしまった妹が着せた着慣れた衣の袖を片敷いて独りで寝ることであろうか
#{語釈]
#[説明]
妻と離れている旅のわびしさを古挽歌の心情に託して船中で歌われたもの
不吉な挽歌であっても、哀歌が望郷の心情の代弁として歌われる

#[関連論文]


#[番号]15/3626
#[題詞](古挽歌一首[并短歌])反歌一首
#[原文]多都我奈伎 安之<敝>乎左之弖 等妣和多類 安奈多頭多頭志 比等里佐奴礼婆
#[訓読]鶴が鳴き葦辺をさして飛び渡るあなたづたづしひとりさ寝れば
#[仮名],たづがなき,あしへをさして,とびわたる,あなたづたづし,ひとりさぬれば
#[左注]右丹比大夫悽愴亡妻歌
#[校異]倍 -> 敝 [紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,挽歌,転用,古歌,作者:丹比大夫,笠麻呂,羈旅,悲別,望郷,広島,倉橋島
#[訓異]
#[大意]鶴が鳴き葦辺を指して飛び渡るように、ああたづたづしい、心細いことだ。独りで寝ていると
#{語釈]
たづたづし 心細い たどたどしい。鶴(たづ)がたづたづを引き出す序
04/0575H01草香江の入江にあさる葦鶴のあなたづたづし友なしにして
04/0709H01夕闇は道たづたづし月待ちて行ませ我が背子その間にも見む
11/2490H01天雲に翼打ちつけて飛ぶ鶴のたづたづしかも君しまさねば
15/3626H01鶴が鳴き葦辺をさして飛び渡るあなたづたづしひとりさ寝れば
18/4062H01夏の夜は道たづたづし船に乗り川の瀬ごとに棹さし上れ

#[説明]
歌われた時は夏なので鶴はいないが、情景は異なっても、古挽歌の持つ哀感が望郷の心情と一致している

#[関連論文]


#[番号]15/3627
#[題詞]属物發思歌一首[并短歌]
#[原文]安佐散礼婆 伊毛我手尓麻久 可我美奈須 美津能波麻備尓 於保夫祢尓 真可治之自奴伎 可良久尓々 和多理由加武等 多太牟可布 美奴面乎左指天 之保麻知弖 美乎妣伎由氣婆 於伎敝尓波 之良奈美多可美 宇良<未>欲理 許藝弖和多礼婆 和伎毛故尓 安波治乃之麻波 由布左礼婆 久毛為可久里奴 左欲布氣弖 由久敝乎之良尓 安我己許呂 安可志能宇良尓 布祢等米弖 宇伎祢乎詞都追 和多都美能 於<枳>敝乎見礼婆 伊射理須流 安麻能乎等女波 小船乗 都良々尓宇家里 安香等吉能 之保美知久礼婆 安之辨尓波 多豆奈伎和多流 安左奈藝尓 布奈弖乎世牟等 船人毛 鹿子毛許恵欲妣 柔保等里能 奈豆左比由氣婆 伊敝之麻婆 久毛為尓美延奴 安我毛敝流 許己呂奈具也等 波夜久伎弖 美牟等於毛比弖 於保夫祢乎 許藝和我由氣婆 於伎都奈美 多可久多知伎奴 与曽能<未>尓 見都追須疑由伎 多麻能宇良尓 布祢乎等杼米弖 波麻備欲里 宇良伊蘇乎見都追 奈久古奈須 祢能未之奈可由 和多都美能 多麻伎能多麻乎 伊敝都刀尓 伊毛尓也良牟等 比里比登里 素弖尓波伊礼弖 可敝之也流 都可比奈家礼婆 毛弖礼杼毛 之留思乎奈美等 麻多於伎都流可毛
#[訓読]朝されば 妹が手にまく 鏡なす 御津の浜びに 大船に 真楫しじ貫き 韓国に 渡り行かむと 直向ふ 敏馬をさして 潮待ちて 水脈引き行けば 沖辺には 白波高み 浦廻より 漕ぎて渡れば 我妹子に 淡路の島は 夕されば 雲居隠りぬ さ夜更けて ゆくへを知らに 我が心 明石の浦に 船泊めて 浮寝をしつつ わたつみの 沖辺を見れば 漁りする 海人の娘子は 小舟乗り つららに浮けり 暁の 潮満ち来れば 葦辺には 鶴鳴き渡る 朝なぎに 船出をせむと 船人も 水手も声呼び にほ鳥の なづさひ行けば 家島は 雲居に見えぬ 我が思へる 心なぐやと 早く来て 見むと思ひて 大船を 漕ぎ我が行けば 沖つ波 高く立ち来ぬ 外のみに 見つつ過ぎ行き 玉の浦に 船を留めて 浜びより 浦礒を見つつ 泣く子なす 音のみし泣かゆ わたつみの 手巻の玉を 家づとに 妹に遣らむと 拾ひ取り 袖には入れて 帰し遣る 使なければ 持てれども 験をなみと また置きつるかも
#[仮名],あさされば,いもがてにまく,かがみなす,みつのはまびに,おほぶねに,まかぢしじぬき,からくにに,わたりゆかむと,ただむかふ,みぬめをさして,しほまちて,みをひきゆけば,おきへには,しらなみたかみ,うらみより,こぎてわたれば,わぎもこに,あはぢのしまは,ゆふされば,くもゐかくりぬ,さよふけて,ゆくへをしらに,あがこころ,あかしのうらに,ふねとめて,うきねをしつつ,わたつみの,おきへをみれば,いざりする,あまのをとめは,をぶねのり,つららにうけり,あかときの,しほみちくれば,あしべには,たづなきわたる,あさなぎに,ふなでをせむと,ふなびとも,かこもこゑよび,にほどりの,なづさひゆけば,いへしまは,くもゐにみえぬ,あがもへる,こころなぐやと,はやくきて,みむとおもひて,おほぶねを,こぎわがゆけば,おきつなみ,たかくたちきぬ,よそのみに,みつつすぎゆき,たまのうらに,ふねをとどめて,はまびより,うらいそをみつつ,なくこなす,ねのみしなかゆ,わたつみの,たまきのたまを,いへづとに,いもにやらむと,ひりひとり,そでにはいれて,かへしやる,つかひなければ,もてれども,しるしをなみと,またおきつるかも
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 末 -> 未 [万葉集古義] / 枳 [西(上書訂正)][紀][細][温] / 末 -> 未 [西(訂正)][細][紀][温]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,地名,道行き,羈旅,大阪,兵庫,岡山,広島,倉橋島,序詞,枕詞,望郷,孤独
#[訓異]
#[大意]朝になると妹が手に取って抱く鏡。その鏡を見るという御津の浜辺に大船に両舷に楫をたくさん貫いて韓国へ渡って行こうと、直接に向き合っている敏馬を指して潮を待って流れをたどって行くと、沖のあたりは白波が高いので浦のめぐりから漕いで渡ると、我妹子に会うという淡路の島は夕方になると雲が置いて隠れてしまった。夜が更けて行き先もわからないで自分の気持ちは明るいという明石の浦に船を止めて波に浮いたまま寝続けて、わたつみの沖の方を見ると、漁をする海人の娘は小舟に乗って、列を作って浮いている。暁で潮が満ちてくると葦辺には鶴が鳴き渡っている。朝なぎに船出をしようと船の人も水夫も声を呼び合って、にほ鳥のように波を漂って行くと、家島は雲居はるかに見えた。自分が思っている心が穏やかになるかと早く来て見ようと思って大船を漕いで自分が行くと、沖の波が高く立って来た。外からばかり見続けて過ぎて行き、玉の浦に船を停泊させて浜辺から浦の磯を見ながら泣く子のように声を上げてばかり泣かずにはいられない。わたつみの神の手に巻いている玉を家のみやげとして妹にやろうと拾い取って袖には入れても帰し送る使いがないので、持っていてもしかたがないとまた置いたことであるよ
#{語釈]
鏡なす 見つと御津とをかける枕詞
御津  難波の御津
韓国  もともとは朝鮮半島。やがて中国も指す。広く外国という意味になる。
水脈  潮の流れ
つららに つらつらに 列をなして
にほ鳥  かいつぶり
家島 04/0509 飾磨郡家島町  相生市沖
心なぐやと  家島を見ると心が穏やかになる  家なので心が安らぐ
玉の浦 3598 未詳  岡山県倉敷市玉島 岡山県岡山市西大寺東片岡
わたつみの 手巻の玉を  海神の手に巻いている玉  07/1301

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3628
#[題詞](属物發思歌一首[并短歌])反歌二首
#[原文]多麻能宇良能 於伎都之良多麻 比利敝礼杼 麻多曽於伎都流 見流比等乎奈美
#[訓読]玉の浦の沖つ白玉拾へれどまたぞ置きつる見る人をなみ
#[仮名],たまのうらの,おきつしらたま,ひりへれど,またぞおきつる,みるひとをなみ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,望郷,地名,岡山,倉敷,広島,倉橋島,孤独
#[訓異]
#[大意]玉の浦の沖の白玉を拾うがまた置いたことだ。見る人がいないので
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3629
#[題詞]((属物發思歌一首[并短歌])反歌二首)
#[原文]安伎左良婆 和<我>布祢波弖牟 和須礼我比 与世伎弖於家礼 於伎都之良奈美
#[訓読]秋さらば我が船泊てむ忘れ貝寄せ来て置けれ沖つ白波
#[仮名],あきさらば,わがふねはてむ,わすれがひ,よせきておけれ,おきつしらなみ
#[左注]
#[校異]<> -> 我 [西(左書)][紀][細][温]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,望郷,広島,倉橋島,孤独
#[訓異]
#[大意]秋になるならば自分の船が停泊するだろう。忘れ貝よ。寄せて来て置いてくれ(そうすればしばらくはつらいことは忘れるだろう)。沖の白波よ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3630
#[題詞]周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首
#[原文]真可治奴伎 布祢之由加受波 見礼杼安可奴 麻里布能宇良尓 也杼里世麻之乎
#[訓読]真楫貫き船し行かずは見れど飽かぬ麻里布の浦に宿りせましを
#[仮名],まかぢぬき,ふねしゆかずは,みれどあかぬ,まりふのうらに,やどりせましを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,土地讃美,山口,岩国,地名
#[訓異]
#[大意]両舷に楫を取り付けて船が行くのでなかったのなら見ても見飽きることのない麻里布の浦に仮の宿をとろうものなのに
#{語釈]
周防國玖河郡麻里布浦 続紀養老五年四月二〇日周防国熊毛郡を分きて玖珂郡を置く
           山口県岩国市麻里布町
             旧玖珂郡麻里布町  今津、室木、装束、桂島
           山口県熊毛郡田布施町
             旧熊毛郡麻里布町 別府、馬島

    全注 倉橋島長門の浦出発 天平八年六月十二日午後四時半頃
       厳島南方の阿多田島北方で北流してきた潮流が西に転流するのを利用して、午後十時半頃には麻里布の浦に到着。(大島の鳴門を日中の通過になるように強行)
十三日午前七時半頃に出発。南下。大島の鳴門に向かう。
       十四日熊毛浦到着  十五日出発

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3631
#[題詞](周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
#[原文]伊都之可母 見牟等於毛比師 安波之麻乎 与曽尓也故非無 由久与思<乎>奈美
#[訓読]いつしかも見むと思ひし粟島を外にや恋ひむ行くよしをなみ
#[仮名],いつしかも,みむとおもひし,あはしまを,よそにやこひむ,ゆくよしをなみ
#[左注]
#[校異]於 -> 乎 [類][紀]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,地名,山口,岩国,土地讃美,恋情,羈旅
#[訓異]
#[大意]いつになったら逢えるだろうと思っていた粟島をよそ目に恋い思うことだろうか。行くてだてもなくて。
#{語釈]
粟島   山口県大島郡屋代島  周防大島
外にや恋ひむ 寄港、上陸しないこと。 沖合から眺めて通り過ぎていくこと

#[説明]
古事記神話の淡島と粟島とを懸けているか。
粟島も淡島の候補地の一つ。

#[関連論文]


#[番号]15/3632
#[題詞](周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
#[原文]大船尓 可之布里多弖天 波麻藝欲伎 麻里布能宇良尓 也杼里可世麻之
#[訓読]大船にかし振り立てて浜清き麻里布の浦に宿りかせまし
#[仮名],おほぶねに,かしふりたてて,はまぎよき,まりふのうらに,やどりかせまし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,山口,岩国,地名,土地讃美
#[訓異]
#[大意]大船にかしを振り立てて船をつなぎ、浜の清らかな麻里布の浦に宿りをしようものなのに。出来ないことだ。
#{語釈]
かし振り立てて 07/1190 船をつなぐために水中に立てる棒杭

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3633
#[題詞](周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
#[原文]安波思麻能 安波自等於毛布 伊毛尓安礼也 夜須伊毛祢受弖 安我故非和多流
#[訓読]粟島の逢はじと思ふ妹にあれや安寐も寝ずて我が恋ひわたる
#[仮名],あはしまの,あはじとおもふ,いもにあれや,やすいもねずて,あがこひわたる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,地名,岩国,山口,望郷,恋情,羈旅
#[訓異]
#[大意]粟島ではないが、逢えないと思う妹だからなのだろうか。安眠も出来なくて自分は恋い続けていることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3634
#[題詞](周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
#[原文]筑紫道能 可太能於保之麻 思末志久母 見祢婆古非思吉 伊毛乎於伎弖伎奴
#[訓読]筑紫道の可太の大島しましくも見ねば恋しき妹を置きて来ぬ
#[仮名],つくしぢの,かだのおほしま,しましくも,みねばこひしき,いもをおきてきぬ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,地名,岡山,山口,岩国,望郷,恋情
#[訓異]
#[大意]筑紫へ向かう道の可太の大島よ。そのシマというわけではないが、しばらくも見ないと恋しい妹を置いて来たことだ
#{語釈]
可太の大島 山口県大島郡屋代島  周防大島  シマとシマラクを懸ける

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3635
#[題詞](周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
#[原文]伊毛我伊敝治 知可久安里世婆 見礼杼安可奴 麻里布能宇良乎 見世麻思毛能乎
#[訓読]妹が家路近くありせば見れど飽かぬ麻里布の浦を見せましものを
#[仮名],いもがいへぢ,ちかくありせば,みれどあかぬ,まりふのうらを,みせましものを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,地名,山口,岩国,望郷,恋情,土地讃美
#[訓異]
#[大意]妹の家への道が近くにあるのだったら、見ても見飽きることのない麻里布の浦を見せてやろうものなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3636
#[題詞](周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
#[原文]伊敝妣等波 可敝里波也許等 伊波比之麻 伊波比麻都良牟 多妣由久和礼乎
#[訓読]家人は帰り早来と伊波比島斎ひ待つらむ旅行く我れを
#[仮名],いへびとは,かへりはやこと,いはひしま,いはひまつらむ,たびゆくわれを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,地名,山口,上関町,望郷,掛詞
#[訓異]
#[大意]家の人は早く帰って来いと祝島ではないが、潔斎して無事を祈って待っているだろう。旅を行く自分を
#{語釈]
伊波比島 山口県熊毛郡上関町 祝島
     釈注 次の瀬戸の鳴門を通過した場所になる。
        難所である鳴門通過前の安全祈願の歌と見なければならない。
        鳴門の東側にある屋代島を指す

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3637
#[題詞](周防國玖河郡麻里布浦行之時作歌八首)
#[原文]久左麻久良 多妣由久比等乎 伊波比之麻 伊久与布流末弖 伊波比伎尓家牟
#[訓読]草枕旅行く人を伊波比島幾代経るまで斎ひ来にけむ
#[仮名],くさまくら,たびゆくひとを,いはひしま,いくよふるまで,いはひきにけむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,枕詞,羈旅,地名,山口,上関町,土地讃美,掛詞
#[訓異]
#[大意]草枕旅を行く人を祝島よ。幾代経つまで祝ってきたのだろう
#{語釈]
祝ひ 精進潔斎して無事を祈る  難所である祝島の通過を祈ってきたのか

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3638
#[題詞]過大嶋鳴門而經再宿之後追作歌二首
#[原文]巨礼也己能 名尓於布奈流門能 宇頭之保尓 多麻毛可流登布 安麻乎等女杼毛
#[訓読]これやこの名に負ふ鳴門のうづ潮に玉藻刈るとふ海人娘子ども
#[仮名],これやこの,なにおふなるとの,うづしほに,たまもかるとふ,あまをとめども
#[左注]右一首田邊秋庭
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,土地讃美,山口,大畠瀬戸,叙景,追想
#[訓異]
#[大意]これがまあこの有名な鳴門の渦潮に玉藻を刈るという海人娘子たちか
#{語釈]
大嶋鳴門  大畠瀬戸
再宿  二泊

#[説明]
釈注  麻里布の浦 六月十四日午前七時半出発(前掲)
    大島の鳴門 日中の通過

田邊秋庭  伝未詳

玉藻  角島の瀬戸のワカメ  潮流の早い場所の藻が良質とされたか

#[関連論文]


#[番号]15/3639
#[題詞](過大嶋鳴門而經再宿之後追作歌二首)
#[原文]奈美能宇倍尓 宇伎祢世之欲比 安杼毛倍香 許己呂我奈之久 伊米尓美要都流
#[訓読]波の上に浮き寝せし宵あど思へか心悲しく夢に見えつる
#[仮名],なみのうへに,うきねせしよひ,あどもへか,こころがなしく,いめにみえつる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,山口,大畠瀬戸,追想,望郷
#[訓異]
#[大意]波の上に浮かんで寝た宵に、どのように思ったことなのか。心悲しくも妹が夢に見えたのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3640
#[題詞]熊毛浦舶泊之夜作歌四首
#[原文]美夜故邊尓 由可牟船毛我 可里許母能 美太礼弖於毛布 許登都(ん)夜良牟
#[訓読]都辺に行かむ船もが刈り薦の乱れて思ふ言告げやらむ
#[仮名],みやこへに,ゆかむふねもが,かりこもの,みだれておもふ,ことつげやらむ
#[左注]右一首羽栗
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羽栗,枕詞,山口,上関町,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]都の方に行く船もあればなあ。刈った薦のように乱れて思う言葉を告げてやろうのに
#{語釈]
熊毛浦 熊毛郡室津  熊毛郡平尾町小郡(おぐに) 光市室積

羽栗 伝未詳  代匠紀「名前が落ちたか」
   孝昭記 天押帯日子命の子孫 羽栗臣

#[説明]
釈注 熊毛浦での船中泊の時に、見張りとして下級官僚が不寝番をしている。
   その時のものか。

#[関連論文]


#[番号]15/3641
#[題詞](熊毛浦舶泊之夜作歌四首)
#[原文]安可等伎能 伊敝胡悲之伎尓 宇良<未>欲理 可治乃於等須流波 安麻乎等女可母
#[訓読]暁の家恋しきに浦廻より楫の音するは海人娘子かも
#[仮名],あかときの,いへごひしきに,うらみより,かぢのおとするは,あまをとめかも
#[左注]
#[校異]末 -> 未 [万葉集古義]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,山口,上関町,望郷,叙景
#[訓異]
#[大意]暁の時に家が恋しい中で、浦のめぐりから梶の音がするのは海人娘女だろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3642
#[題詞](熊毛浦舶泊之夜作歌四首)
#[原文]於枳敝欲理 之保美知久良之 可良能宇良尓 安佐里須流多豆 奈伎弖佐和伎奴
#[訓読]沖辺より潮満ち来らし可良の浦にあさりする鶴鳴きて騒きぬ
#[仮名],おきへより,しほみちくらし,からのうらに,あさりするたづ,なきてさわきぬ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,山口,上関町,叙景
#[訓異]
#[大意]沖の方から潮が満ちて来るらしい。可良の浦に餌を求めている鶴が鳴いて騒いでいる
#{語釈]
可良の浦  山口県熊毛郡上関町室津  陸地の干潟近い海か

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3643
#[題詞](熊毛浦舶泊之夜作歌四首)
#[原文]於吉敝欲里 布奈妣等能煩流 与妣与勢弖 伊射都氣也良牟 多婢能也登里乎
#[訓読]沖辺より船人上る呼び寄せていざ告げ遣らむ旅の宿りを
#[仮名],おきへより,ふなびとのぼる,よびよせて,いざつげやらむ,たびのやどりを
#[左注]一云 多妣能夜杼里乎 伊射都氣夜良奈
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,山口,上関町,望郷,異伝
#[訓異]
#[大意]沖の方から船人が上って来る。こちらに呼び寄せてさあ都の妹に知らせてやろう。旅の宿りのことを
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3643S
#[題詞](熊毛浦舶泊之夜作歌四首)一云
#[原文]多妣能夜杼里乎 伊射都氣夜良奈
#[訓読]旅の宿りをいざ告げ遣らな
#[仮名],たびのやどりを,いざつげやらな
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,異伝,羈旅,山口,上関町,望郷
#[訓異]
#[大意]旅の宿りのわびしさをさあ告げてやろう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3644
#[題詞]佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛(しもつみけ)郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首
#[原文]於保伎美能 美許等可之故美 於保<夫>祢能 由伎能麻尓末<尓> 夜杼里須流可母
#[訓読]大君の命畏み大船の行きのまにまに宿りするかも
#[仮名],おほきみの,みことかしこみ,おほぶねの,ゆきのまにまに,やどりするかも
#[左注]右一首雪宅麻呂
#[校異]布 -> 夫 [類][紀][細] / <> -> 尓 [西(右書)][類][紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,大分,中津市,作者:雪宅麻呂,不安
#[訓異]
#[大意]大君のご命令を恐れ謹んで、大船の行くのに従って宿りをすることであるなあ
#{語釈]
佐婆の海中にして忽ち逆風に遭ひ、漲浪に漂流す。經宿の後に幸くして順風を得、豊前國下毛郡分間浦に到り著く。是に追ひて艱難を怛(いた)みし、悽惆(かな)しびて作る八首

佐婆の海中 山口県防府沖  佐波郡
漲浪 みなぎる波  大波
經宿 一夜を経ること
分間浦  大分県中津市田尻 中津市和田  山国川河口付近
於是追 後になって  これまでの漂流の苦しみを回想して悲しみ
怛 万象名義 切也、痛也、憂也
悽惆 19/4292 家持の手になっているか

雪宅麻呂  伝未詳 3688題詞  壱岐で客死。雪連姓
      雪は壱岐氏か。そうだとすると卜部系で卜占を司った氏族。ただし壱岐直
      新撰姓氏録 伊吉連 連姓であるので渡来系であり壱岐氏とは別系統

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3645
#[題詞](佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
#[原文]和伎毛故波 伴也母許奴可登 麻都良牟乎 於伎尓也須麻牟 伊敝都可受之弖
#[訓読]我妹子は早も来ぬかと待つらむを沖にや住まむ家つかずして
#[仮名],わぎもこは,はやもこぬかと,まつらむを,おきにやすまむ,いへつかずして
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,大分,中津市,望郷,不安
#[訓異]
#[大意]我妹子は早くも帰っては来ないかと待っているであろうものなのに、自分は沖に住むことだろうか。家に近づくこともなくて
#{語釈]
家つかずして 3720

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3646
#[題詞](佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
#[原文]宇良<未>欲里 許藝許之布祢乎 風波夜美 於伎都美宇良尓 夜杼里須流可毛
#[訓読]浦廻より漕ぎ来し船を風早み沖つみ浦に宿りするかも
#[仮名],うらみより,こぎこしふねを,かぜはやみ,おきつみうらに,やどりするかも
#[左注]
#[校異]末 -> 未 [万葉集古義]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,大分,中津市,不安
#[訓異]
#[大意]浦のめぐりから漕いで来た船は風が早いので沖の浦で宿りをすることだ
#{語釈]
み浦 御坂と同じく恐ろしい神の宿る浦の意味
宿りするかも 漂流して一晩過ごしたことを言う

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3647
#[題詞](佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
#[原文]和伎毛故我 伊可尓於毛倍可 奴婆多末能 比登欲毛於知受 伊米尓之美由流
#[訓読]我妹子がいかに思へかぬばたまの一夜もおちず夢にし見ゆる
#[仮名],わぎもこが,いかにおもへか,ぬばたまの,ひとよもおちず,いめにしみゆる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,大分,中津市,望郷,枕詞,不安
#[訓異]
#[大意]我妹子がどのように恋しく思っているからか、ぬばたまの一夜も欠かさないで夢に見えることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3648
#[題詞](佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
#[原文]宇奈波良能 於伎敝尓等毛之 伊射流火波 安可之弖登母世 夜麻登思麻見無
#[訓読]海原の沖辺に灯し漁る火は明かして灯せ大和島見む
#[仮名],うなはらの,おきへにともし,いざるひは,あかしてともせ,やまとしまみむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,大分,中津市,望郷
#[訓異]
#[大意]海原の沖のあたりにともして漁をしている漁り火は明るくしてともせ。大和島を見ようから
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3649
#[題詞](佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
#[原文]可母自毛能 宇伎祢乎須礼婆 美奈能和多 可具呂伎可美尓 都由曽於伎尓家類
#[訓読]鴨じもの浮寝をすれば蜷の腸か黒き髪に露ぞ置きにける
#[仮名],かもじもの,うきねをすれば,みなのわた,かぐろきかみに,つゆぞおきにける
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,大分,中津市,漂泊,不安
#[訓異]
#[大意]鴨のように波に浮いて寝ると蜷の腸のように真っ黒な髪に露が置いたことであるよ
#{語釈]
露ぞ置きにける  甲板で大和の方を見て偲んでいる様子
         普通は、男を待つ女の髪に露が置くという様子が多く、都の妻のイメージと重ねる

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3650
#[題詞](佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
#[原文]比左可多能 安麻弖流月波 見都礼杼母 安我母布伊毛尓 安波奴許呂可毛
#[訓読]ひさかたの天照る月は見つれども我が思ふ妹に逢はぬころかも
#[仮名],ひさかたの,あまてるつきは,みつれども,あがもふいもに,あはぬころかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,枕詞,大分,中津市,望郷,恋情
#[訓異]
#[大意]ひさかたの天に照る月は見たけれども、自分が恋い思う妹に逢わないこのごろであるなあ
#{語釈]
見つれども  やっと空も晴れて月を見ることが出来た

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3651
#[題詞](佐婆海中忽遭逆風漲浪漂流經宿而後幸得順風到著豊前國下毛郡分間浦 於是追怛艱難悽惆作八首)
#[原文]奴波多麻能 欲和多流月者 波夜毛伊弖奴香文 宇奈波良能 夜蘇之麻能宇倍由 伊毛我安多里見牟 [旋頭歌也]
#[訓読]ぬばたまの夜渡る月は早も出でぬかも海原の八十島の上ゆ妹があたり見む [旋頭歌也]
#[仮名],ぬばたまの,よわたるつきは,はやもいでぬかも,うなはらの,やそしまのうへゆ,いもがあたりみむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,旋頭歌,枕詞,大分,中津市,望郷
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜渡る月ははやく出ては来ないか。海原の多くの島の上を通って妹のあたりを見ようものだから
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3652
#[題詞]至筑紫舘遥望本郷悽愴作歌四首
#[原文]之賀能安麻能 一日毛於知受 也久之保能 可良伎孤悲乎母 安礼波須流香母
#[訓読]志賀の海人の一日もおちず焼く塩のからき恋をも我れはするかも
#[仮名],しかのあまの,ひとひもおちず,やくしほの,からきこひをも,あれはするかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,地名,福岡,志賀島,恋情,羈旅,序詞,望郷
#[訓異]
#[大意]志賀の海人の一日も欠かさず焼く塩が辛いのではないが、つらい恋を自分はすることであるよ
#{語釈]
筑紫舘 日本書紀持統二年 のちの鴻臚館
悽愴  かなしびて 家持の表現か。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3653
#[題詞](至筑紫舘遥望本郷悽愴作歌四首)
#[原文]思可能宇良尓 伊射里須流安麻 伊敝<妣>等能 麻知古布良牟尓 安可思都流宇乎
#[訓読]志賀の浦に漁りする海人家人の待ち恋ふらむに明かし釣る魚
#[仮名],しかのうらに,いざりするあま,いへびとの,まちこふらむに,あかしつるうを
#[左注]
#[校異]比 -> 妣 [類][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,地名,福岡,志賀島,叙景,羈旅,望郷
#[訓異]
#[大意]志賀の浦に漁をしている海人は、家の人が待ちこがれているのに夜通し釣る魚であるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3654
#[題詞](至筑紫舘遥望本郷悽愴作歌四首)
#[原文]可之布江尓 多豆奈吉和多流 之可能宇良尓 於枳都之良奈美 多知之久良思母
#[訓読]可之布江に鶴鳴き渡る志賀の浦に沖つ白波立ちし来らしも
#[仮名],かしふえに,たづなきわたる,しかのうらに,おきつしらなみ,たちしくらしも
#[左注]一云 美知之伎奴良思
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,地名,福岡,志賀島,叙景,異伝
#[訓異]
#[大意]香椎の江に鶴が鳴き渡る。志賀の浦に沖の白波が立って来るらしい
#{語釈]
可之布江 香椎の入り江  06/0957 香椎の浦

#[説明]
可之布江を鶴の住処ととらえて、自身の故郷と対比している。
この季節にいるはずのない鶴を歌うことは古歌の利用か

#[関連論文]


#[番号]15/3654S
#[題詞](至筑紫舘遥望本郷悽愴作歌四首)一云
#[原文]美知之伎奴良思
#[訓読]満ちし来ぬらし
#[仮名],みちしきぬらし
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,異伝,羈旅,福岡,志賀島,叙景
#[訓異]
#[大意]満ちて来たらしい
#{語釈]
#[説明]
こちらが古歌で、本歌は改作したもの

#[関連論文]


#[番号]15/3655
#[題詞](至筑紫舘遥望本郷悽愴作歌四首)
#[原文]伊麻欲理波 安伎豆吉奴良之 安思比奇能 夜麻末都可氣尓 日具良之奈伎奴
#[訓読]今よりは秋づきぬらしあしひきの山松蔭にひぐらし鳴きぬ
#[仮名],いまよりは,あきづきぬらし,あしひきの,やままつかげに,ひぐらしなきぬ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,福岡,枕詞,恋情,叙景
#[訓異]
#[大意]今からは秋づいてきたらしい。あしひきの山の松陰にひぐらしが鳴いている
#{語釈]
#[説明]
出発の時に帰ると言っていた「秋」がまだ往路でやって来たことの悲しみの気持ち
#[関連論文]


#[番号]15/3656
#[題詞]七夕仰觀天漢各陳所思作歌三首
#[原文]安伎波疑尓 々保敝流和我母 奴礼奴等母 伎美我美布祢能 都奈之等理弖婆
#[訓読]秋萩ににほへる我が裳濡れぬとも君が御船の綱し取りてば
#[仮名],あきはぎに,にほへるわがも,ぬれぬとも,きみがみふねの,つなしとりてば
#[左注]右一首大使
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,作者:阿倍継麻呂,羈旅,七夕,織女,女歌,宴席,福岡
#[訓異]
#[大意]秋萩に照り映える自分の裳は濡れるとしてもあなたの御船の綱を取ったならば(かまわない)
#{語釈]
大使 遣新羅大使阿倍継麻呂  天平7年四月正六位上より従五位下
               新羅からの帰途、天平9年1月、対馬で病没
#[説明]
織女の歌。

#[関連論文]


#[番号]15/3657
#[題詞](七夕仰觀天漢各陳所思作歌三首)
#[原文]等之尓安里弖 比等欲伊母尓安布 比故保思母 和礼尓麻佐里弖 於毛布良米也母
#[訓読]年にありて一夜妹に逢ふ彦星も我れにまさりて思ふらめやも
#[仮名],としにありて,ひとよいもにあふ,ひこほしも,われにまさりて,おもふらめやも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,七夕,宴席,望郷,恋情,福岡
#[訓異]
#[大意]一年にあって一晩だけ妹に逢う彦星も自分にまさって思っているだろうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3658
#[題詞](七夕仰觀天漢各陳所思作歌三首)
#[原文]由布豆久欲 可氣多知与里安比 安麻能我波 許具布奈妣等乎 見流我等母之佐
#[訓読]夕月夜影立ち寄り合ひ天の川漕ぐ船人を見るが羨しさ
#[仮名],ゆふづくよ,かげたちよりあひ,あまのがは,こぐふなびとを,みるがともしさ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,七夕,宴席,望郷,恋情,福岡
#[訓異]
#[大意]夕月夜の光が立つ中で寄り合って天の川を漕ぐ船人を見るうらやましさよ。
#{語釈]
夕月 七日の月。夕月になる
影立ち寄り合ひ 光の中で寄り合っての意

#[説明]
自分は故郷の妹に会えない中で二星逢会をうらやましいと言ったもの

#[関連論文]


#[番号]15/3659
#[題詞]海邊望月作九首
#[原文]安伎可是波 比尓家尓布伎奴 和伎毛故波 伊都登<加>和礼乎 伊波比麻都良牟
#[訓読]秋風は日に異に吹きぬ我妹子はいつとか我れを斎ひ待つらむ
#[仮名],あきかぜは,ひにけにふきぬ,わぎもこは,いつとかわれを,いはひまつらむ
#[左注]大使之第二男
#[校異]可 -> 加 [類][紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,作者:阿倍継麻呂次男,羈旅,望郷,恋情,福岡
#[訓異]
#[大意]秋風は一日経つごとに吹いてくる。我妹子はいつになったら帰ってくるかと自分を精進潔斎して待っているだろうか。
#{語釈]
大使之第二男  未詳。継麻呂の次男

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3660
#[題詞](海邊望月作九首)
#[原文]可牟佐夫流 安良都能左伎尓 与須流奈美 麻奈久也伊毛尓 故非和多里奈牟
#[訓読]神さぶる荒津の崎に寄する波間なくや妹に恋ひわたりなむ
#[仮名],かむさぶる,あらつのさきに,よするなみ,まなくやいもに,こひわたりなむ
#[左注]右一首土師<稲>足
#[校異]楯 -> 稲 [西(訂正右書)][紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,地名,福岡,羈旅,望郷,枕詞,作者:土師稲足,恋情
#[訓異]
#[大意]神々しい荒津の崎に寄せる波のように絶え間なく妹に恋い続けていることであろうか
荒津の崎  12/3215 福岡市西公園あたり
土師<稲>足 伝未詳  文武元年新羅使者を迎えに九州に行った大麻呂
           神亀元年遣新羅大使 豊麻呂
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3661
#[題詞](海邊望月作九首)
#[原文]可是能牟多 与世久流奈美尓 伊射里須流 安麻乎等女良我 毛能須素奴礼奴
#[訓読]風の共寄せ来る波に漁りする海人娘子らが裳の裾濡れぬ
#[仮名],かぜのむた,よせくるなみに,いざりする,あまをとめらが,ものすそぬれぬ
#[左注]一云 安麻乃乎等賣我 毛能須蘇奴礼<濃>
#[校異]奴 -> 濃 [類][紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,福岡,叙景,羈旅,異伝
#[訓異]
#[大意]風と共に寄せてくる波に漁をする海人娘子たちの裳の裾が濡れたことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3661S
#[題詞](海邊望月作九首)一云
#[原文]安麻乃乎等賣我 毛能須蘇奴礼<濃>
#[訓読]海人の娘子が裳の裾濡れぬ
#[仮名],あまのをとめが,ものすそぬれぬ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,福岡,叙景,異伝
#[訓異]
#[大意]海人の娘子の裳の裾が濡れたことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3662
#[題詞](海邊望月作九首)
#[原文]安麻能波良 布里佐氣見礼婆 欲曽布氣尓家流 与之恵也之 比<等>里奴流欲波 安氣婆安氣奴等母
#[訓読]天の原振り放け見れば夜ぞ更けにけるよしゑやしひとり寝る夜は明けば明けぬとも
#[仮名],あまのはら,ふりさけみれば,よぞふけにける,よしゑやし,ひとりぬるよは,あけばあけぬとも
#[左注]右一首旋頭歌也
#[校異]等 [西(上書訂正)][紀][細][温]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,旋頭歌,孤独,恋情,望郷,福岡
#[訓異]
#[大意]天の原を振り仰いで見ると夜が更けたことである。そうではあるが一人で寝る夜は明けるならば明けたとしてもかまうものか
#{語釈]
#[説明]
類歌
11/2800H01暁と鶏は鳴くなりよしゑやしひとり寝る夜は明けば明けぬとも

#[関連論文]


#[番号]15/3663
#[題詞](海邊望月作九首)
#[原文]和多都美能 於伎都奈波能里 久流等伎登 伊毛我麻都良牟 月者倍尓都追
#[訓読]わたつみの沖つ縄海苔来る時と妹が待つらむ月は経につつ
#[仮名],わたつみの,おきつなはのり,くるときと,いもがまつらむ,つきはへにつつ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,植物,羈旅,福岡,望郷,漂泊
#[訓異]
#[大意]海の沖の縄海苔をたぐり寄せるというわけではないが、来る時として都では妹が待っているだろう。月は次第に経ってきて。
#{語釈]
縄海苔  海そうめん  採るのに茎を繰る(たぐり寄せる)というところから来るの序詞
12/3080H01わたつみの沖に生ひたる縄海苔の名はかつて告らじ恋ひは死ぬとも

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3664
#[題詞](海邊望月作九首)
#[原文]之可能宇良尓 伊射里須流安麻 安氣久礼婆 宇良未許具良之 可治能於等伎許由
#[訓読]志賀の浦に漁りする海人明け来れば浦廻漕ぐらし楫の音聞こゆ
#[仮名],しかのうらに,いざりするあま,あけくれば,うらみこぐらし,かぢのおときこゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,地名,志賀島,叙景,福岡
#[訓異]
#[大意]志賀の浦に漁をする海人は夜が明けて来ると浦のめぐりを漕ぐらしい。楫の音が聞こえる。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3665
#[題詞](海邊望月作九首)
#[原文]伊母乎於毛比 伊能祢良延奴尓 安可等吉能 安左宜理其問理 可里我祢曽奈久
#[訓読]妹を思ひ寐の寝らえぬに暁の朝霧隠り雁がねぞ鳴く
#[仮名],いもをおもひ,いのねらえぬに,あかときの,あさぎりごもり,かりがねぞなく
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,望郷,動物,福岡
#[訓異]
#[大意]妹を恋い思って寝ることが出来ないのに、暁の朝霧に隠って雁が鳴くことだ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3666
#[題詞](海邊望月作九首)
#[原文]由布佐礼婆 安伎可是左牟思 和伎母故我 等伎安良比其呂母 由伎弖波也伎牟
#[訓読]夕されば秋風寒し我妹子が解き洗ひ衣行きて早着む
#[仮名],ゆふされば,あきかぜさむし,わぎもこが,ときあらひごろも,ゆきてはやきむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,福岡,望郷,漂泊
#[訓異]
#[大意]夕方になると秋風が寒い。我妹子のほどいて洗った衣を故郷へ行って早く着よう
#{語釈]
解き洗ひ衣
07/1314H01橡の解き洗ひ衣のあやしくもことに着欲しきこの夕かも

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3667
#[題詞](海邊望月作九首)
#[原文]和我多妣波 比左思久安良思 許能安我家流 伊毛我許呂母能 阿可都久見礼婆
#[訓読]我が旅は久しくあらしこの我が着る妹が衣の垢つく見れば
#[仮名],わがたびは,ひさしくあらし,このあがける,いもがころもの,あかつくみれば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,福岡,望郷,漂泊
#[訓異]
#[大意]自分の旅は長く経ったらしい。この自分が着る妹の作った衣が垢が付くのを見ると
#{語釈]
#[説明]
参考
20/4388H01旅とへど真旅になりぬ家の妹が着せし衣に垢付きにかり

#[関連論文]


#[番号]15/3668
#[題詞]到筑前國志麻郡之韓亭舶泊經三日於時夜月之光皎々流照奄對此<華>旅情悽噎各陳心緒聊以裁歌六首
#[原文]於保伎美能 等保能美可度登 於毛敝礼杼 氣奈我久之安礼婆 古非尓家流可母
#[訓読]大君の遠の朝廷と思へれど日長くしあれば恋ひにけるかも
#[仮名],おほきみの,とほのみかどと,おもへれど,けながくしあれば,こひにけるかも
#[左注]右一首大使
#[校異]花([西(訂正左書)]美 -> 華 [紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,作者:阿倍継麻呂,羈旅,恋情,望郷,福岡,韓亭
#[訓異]
#[大意]大君の遠の朝廷とは思うが、都を離れて日数長くなったので都を恋い思うことである
#{語釈]
筑前國志麻郡の韓亭に到り、舶泊りして三日を經ぬ。時に夜月の光、皎々(きょうきょう)流照(りゅうしょう)す。奄(ひさ)しく此<華>(か)に對し、旅情悽噎(せいいつ)す。各(おのもおのも)心緒を陳べ、聊かに以裁(つく)る歌、六首

筑前國志麻郡之韓亭 福岡市西区唐泊 宮浦 糸島半島
          亭は宿駅(水駅)
夜月 秋夜の月
皎々流照 月光が白く照って、流れて照り輝く、空にあまねく照らす意
奄(ひさ)しく 静かにじっと
華 月華  月の光
旅情悽噎  旅の思いにむせぶ  噎 憂い、痛み

大君の遠の朝廷
03/0304H01大君の遠の朝廷とあり通ふ島門を見れば神代し思ほゆ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3669
#[題詞](到筑前國志麻郡之韓亭舶泊經三日於時夜月之光皎々流照奄對此<華>旅情悽噎各陳心緒聊以裁歌六首)
#[原文]多妣尓安礼杼 欲流波火等毛之 乎流和礼乎 也未尓也伊毛我 古非都追安流良牟
#[訓読]旅にあれど夜は火灯し居る我れを闇にや妹が恋ひつつあるらむ
#[仮名],たびにあれど,よるはひともし,をるわれを,やみにやいもが,こひつつあるらむ
#[左注]右一首大判官
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,作者:壬生宇太麻呂,羈旅,望郷,恋情,福岡,韓亭
#[訓異]
#[大意]旅に出てはいるけれども夜は火をともしている自分なのに、闇の中で妹は恋い思っているであろう
#{語釈]
大判官  壬生宇太麻呂 3612

#[説明]
旅の苦しい中にあっても、夜は火を灯している贅沢な生活をしているが、自分のいない都の妹は、火もともさずに心も暗く恋い思っているだろうかと言ったもの

#[関連論文]


#[番号]15/3670
#[題詞](到筑前國志麻郡之韓亭舶泊經三日於時夜月之光皎々流照奄對此<華>旅情悽噎各陳心緒聊以裁歌六首)
#[原文]可良等麻里 能<許>乃宇良奈美 多々奴日者 安礼杼母伊敝尓 古非奴日者奈之
#[訓読]韓亭能許の浦波立たぬ日はあれども家に恋ひぬ日はなし
#[仮名],からとまり,のこのうらなみ,たたぬひは,あれどもいへに,こひぬひはなし
#[左注]
#[校異]許 [西(上書訂正)][類][紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,福岡,韓亭,地名,能許島,恋情,望郷,羈旅
#[訓異]
#[大意]韓亭の能古の浦の波は立たない日はあるが、自分は家を恋い思わない日はない
#{語釈]
能許  能古の島

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3671
#[題詞](到筑前國志麻郡之韓亭舶泊經三日於時夜月之光皎々流照奄對此<華>旅情悽噎各陳心緒聊以裁歌六首)
#[原文]奴婆多麻乃 欲和多流月尓 安良麻世婆 伊敝奈流伊毛尓 安比弖許麻之乎
#[訓読]ぬばたまの夜渡る月にあらませば家なる妹に逢ひて来ましを
#[仮名],ぬばたまの,よわたるつきに,あらませば,いへなるいもに,あひてこましを
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,福岡,韓亭,羈旅,望郷,枕詞
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜空を渡る月であったならば、家にいる妹に会ってまた来るものなのに
#{語釈]
#[説明]
類想
14/3510H01み空行く雲にもがもな今日行きて妹に言どひ明日帰り来む

#[関連論文]


#[番号]15/3672
#[題詞](到筑前國志麻郡之韓亭舶泊經三日於時夜月之光皎々流照奄對此<華>旅情悽噎各陳心緒聊以裁歌六首)
#[原文]比左可多能 月者弖利多里 伊刀麻奈久 安麻能伊射里波 等毛之安敝里見由
#[訓読]ひさかたの月は照りたり暇なく海人の漁りは灯し合へり見ゆ
#[仮名],ひさかたの,つきはてりたり,いとまなく,あまのいざりは,ともしあへりみゆ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,枕詞,羈旅,福岡,韓亭,叙景
#[訓異]
#[大意]ひさかたの月は照っている。暇なく海人の漁は灯し合っているのが見える
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3673
#[題詞](到筑前國志麻郡之韓亭舶泊經三日於時夜月之光皎々流照奄對此<華>旅情悽噎各陳心緒聊以裁歌六首)
#[原文]可是布氣婆 於吉都思良奈美 可之故美等 能許能等麻里尓 安麻多欲曽奴流
#[訓読]風吹けば沖つ白波畏みと能許の亭にあまた夜ぞ寝る
#[仮名],かぜふけば,おきつしらなみ,かしこみと,のこのとまりに,あまたよぞぬる
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,福岡,韓亭,地名,能許島,漂泊,波待ち
#[訓異]
#[大意]風が吹くと沖の白波が恐ろしいとして能古の泊に数多くの夜を寝たことだ
#{語釈]
能許の亭 韓亭のこと
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3674
#[題詞]引津亭舶泊之作歌七首
#[原文]久左麻久良 多婢乎久流之美 故非乎礼婆 可也能山邊尓 草乎思香奈久毛
#[訓読]草枕旅を苦しみ恋ひ居れば可也の山辺にさを鹿鳴くも
#[仮名],くさまくら,たびをくるしみ,こひをれば,かやのやまへに,さをしかなくも
#[左注](右二首大判官)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,地名,福岡,可也山,引津亭,動物,望郷,漂泊,作者:壬生宇太麻呂
#[訓異]
#[大意]草枕旅が苦しいのでと都を恋い思っていると、可也の山のあたりにさを鹿が鳴くことだ
#{語釈]
引津亭  福岡県糸島郡志摩町 引津浦
07/1279H01梓弓引津の辺なるなのりその花摘むまでに逢はずあらめやもなのりその花
10/1930H01梓弓引津の辺なるなのりその花咲くまでに逢はぬ君かも

可也の山 福岡県糸島郡志摩町 可也山
#[説明]
可也山に鳴く鹿の声を聞いて、都で聞く鹿の鳴き声を思い出し、鹿が牝鹿を求めている様子に妹への恋情をつのらせている

#[関連論文]



#[番号]15/3675
#[題詞](引津亭舶泊之作歌七首)
#[原文]於吉都奈美 多可久多都日尓 安敝利伎等 美夜古能比等波 伎吉弖家牟可母
#[訓読]沖つ波高く立つ日にあへりきと都の人は聞きてけむかも
#[仮名],おきつなみ,たかくたつひに,あへりきと,みやこのひとは,ききてけむかも
#[左注]右二首大判官
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,作者:壬生宇太麻呂,羈旅,望郷,福岡,可也山,引津亭
#[訓異]
#[大意]沖の波が高く立つ日に逢っていたと都の人は聞いただろうか
#{語釈]
大判官 壬生宇太麻呂 3612

#[説明]
都の人は自分たちの旅の苦労をわかってくれているだろうかと言ったもの
#[関連論文]


#[番号]15/3676
#[題詞](引津亭舶泊之作歌七首)
#[原文]安麻等夫也 可里乎都可比尓 衣弖之可母 奈良能弥夜故尓 許登都(ん)夜良武
#[訓読]天飛ぶや雁を使に得てしかも奈良の都に言告げ遣らむ
#[仮名],あまとぶや,かりをつかひに,えてしかも,ならのみやこに,ことつげやらむ
#[左注]
#[校異](ん) [類] 氣
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,動物,望郷,枕詞,福岡,引津亭
#[訓異]
#[大意]空を飛ぶ雁を使いに得たいものだ。奈良の都に言葉を告げに遣ろうのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3677
#[題詞](引津亭舶泊之作歌七首)
#[原文]秋野乎 尓保波須波疑波 佐家礼杼母 見流之留思奈之 多婢尓師安礼婆
#[訓読]秋の野をにほはす萩は咲けれども見る験なし旅にしあれば
#[仮名],あきののを,にほはすはぎは,さけれども,みるしるしなし,たびにしあれば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,植物,漂泊,旅情,望郷,福岡,引津亭
#[訓異]
#[大意]秋の野をいろどる萩は咲いたけれども、見る甲斐もないことだ。旅であるので
#{語釈]
#[説明]
一緒に見る人(妻)もいないので、見てもしかたがない。(萩であるので、妻問う鹿も含めているか)

#[関連論文]


#[番号]15/3678
#[題詞](引津亭舶泊之作歌七首)
#[原文]伊毛乎於毛比 伊能祢良延奴尓 安伎乃野尓 草乎思香奈伎都 追麻於毛比可祢弖
#[訓読]妹を思ひ寐の寝らえぬに秋の野にさを鹿鳴きつ妻思ひかねて
#[仮名],いもをおもひ,いのねらえぬに,あきののに,さをしかなきつ,つまおもひかねて
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,動物,望郷,羈旅,福岡,引津亭
#[訓異]
#[大意]妹を恋い思って寝られないのに秋の野にさを鹿が鳴いた。妻を思う心に絶えかねて
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3679
#[題詞](引津亭舶泊之作歌七首)
#[原文]於保夫祢尓 真可治之自奴伎 等吉麻都等 和礼波於毛倍杼 月曽倍尓家流
#[訓読]大船に真楫しじ貫き時待つと我れは思へど月ぞ経にける
#[仮名],おほぶねに,まかぢしじぬき,ときまつと,われはおもへど,つきぞへにける
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,福岡,引津亭
#[訓異]
#[大意]大船に両舷に楫をたくさん貫いて出発の時を待つと自分は思っているのに月が経ったことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3680
#[題詞](引津亭舶泊之作歌七首)
#[原文]欲乎奈我美 伊能年良延奴尓 安之比奇能 山妣故等余米 佐乎思賀奈君母
#[訓読]夜を長み寐の寝らえぬにあしひきの山彦響めさを鹿鳴くも
#[仮名],よをながみ,いのねらえぬに,あしひきの,やまびことよめ,さをしかなくも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,福岡,引津亭,羈旅,動物,枕詞,望郷
#[訓異]
#[大意]夜が長いので眠ることが出来ないのに、あしひきの山彦を響かせてさを鹿が鳴くことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3681
#[題詞]肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首
#[原文]可敝里伎弖 見牟等於毛比之 和我夜度能 安伎波疑須々伎 知里尓家武可聞
#[訓読]帰り来て見むと思ひし我が宿の秋萩すすき散りにけむかも
#[仮名],かへりきて,みむとおもひし,わがやどの,あきはぎすすき,ちりにけむかも
#[左注]右一首秦田麻呂
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,佐賀県,唐津市,神集島,植物,望郷,作者:秦田麻呂
#[訓異]
#[大意]都に帰ってきて見ようと思っていた自分の家の秋萩や薄は散ってしまっているだろうか
#{語釈]
肥前國松浦郡の狛嶋の亭(とまり)に舶泊(ふなとまり)する之夜、遥かに海浪を望み、各旅心を慟(いた)みして作る歌七首

狛嶋 [西][温]左、「狛 いぬしま或説こま又本柏可尋之」
   [西][温]頭 朱書 「狛嶋(いぬしま)六条本、二条院御本也」
   [矢][京]左「狛いぬしま或説こま又本柏可尋之」
   [京]左赭「狛 いぬい本」右「柏嶋」

全釈「柏島の誤り」 現在の神集島

海浪 壱岐への海路

秦田麻呂  伝未詳

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3682
#[題詞](肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)
#[原文]安米都知能 可未乎許比都々 安礼麻多武 波夜伎万世伎美 麻多婆久流思母
#[訓読]天地の神を祈ひつつ我れ待たむ早来ませ君待たば苦しも
#[仮名],あめつちの,かみをこひつつ,あれまたむ,はやきませきみ,またばくるしも
#[左注]右一首娘子
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,佐賀県,唐津市,神集島,遊行女婦,宴席,女歌,作者:娘子
#[訓異]
#[大意]天地の神を祈りながら自分は待とう。早く帰っていらっしゃい。待っていると苦しいことだ
#{語釈]
娘子  遊行女婦 都の妻になりかわって歌う

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3683
#[題詞](肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)
#[原文]伎美乎於毛比 安我古非万久波 安良多麻乃 多都追奇其等尓 与久流日毛安良自
#[訓読]君を思ひ我が恋ひまくはあらたまの立つ月ごとに避くる日もあらじ
#[仮名],きみをおもひ,あがこひまくは,あらたまの,たつつきごとに,よくるひもあらじ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,佐賀県,唐津市,神集島,女歌,恋情
#[訓異]
#[大意]あなたを思って自分が恋い思うことは新しい月が立つごとになくなる日はないだろう
#{語釈]
避くる  避ける、なくなる。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3684
#[題詞](肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)
#[原文]秋夜乎 奈我美尓可安良武 奈曽許々波 伊能祢良要奴毛 比等里奴礼婆可
#[訓読]秋の夜を長みにかあらむなぞここば寐の寝らえぬもひとり寝ればか
#[仮名],あきのよを,ながみにかあらむ,なぞここば,いのねらえぬも,ひとりぬればか
#[左注]
#[校異]々 [類][細] 己
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,佐賀県,唐津市,神集島,孤独,恋情
#[訓異]
#[大意]秋の夜が長いからであろうか。どうしてひどく眠れないのだろう。独りで寝るからだろうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3685
#[題詞](肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)
#[原文]多良思比賣 御舶波弖家牟 松浦乃宇美 伊母我麻都<倍>伎 月者倍尓都々
#[訓読]足日女御船泊てけむ松浦の海妹が待つべき月は経につつ
#[仮名],たらしひめ,みふねはてけむ,まつらのうみ,いもがまつべき,つきはへにつつ
#[左注]
#[校異]敝 -> 倍 [類]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,佐賀県,唐津市,神集島,伝説,神功皇后,望郷,地名
#[訓異]
#[大意]足日女の御船が停泊した松浦の海よ。妹が待つはずの月は立ち続けて
#{語釈]
足日女 気長足姫(おきながたらしひめ)。神功皇后
    神功紀、摂政前紀「夏四月壬寅朔甲辰(三日)、北、火前松浦県に到」

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3686
#[題詞](肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)
#[原文]多婢奈礼婆 於毛比多要弖毛 安里都礼杼 伊敝尓安流伊毛之 於母比我奈思母
#[訓読]旅なれば思ひ絶えてもありつれど家にある妹し思ひ悲しも
#[仮名],たびなれば,おもひたえても,ありつれど,いへにあるいもし,おもひがなしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,佐賀県,唐津市,神集島,望郷
#[訓異]
#[大意]旅であるので、思いが絶えてあきらめてはいるが、家にいる妹を恋い思うと悲しいことである。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3687
#[題詞](肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)
#[原文]安思必奇能 山等妣古<由>留 可里我祢波 美也故尓由加波 伊毛尓安比弖許祢
#[訓読]あしひきの山飛び越ゆる鴈がねは都に行かば妹に逢ひて来ね
#[仮名],あしひきの,やまとびこゆる,かりがねは,みやこにゆかば,いもにあひてこね
#[左注]
#[校異]田 -> 由 [類][紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,佐賀県,唐津市,神集島,枕詞,動物,望郷
#[訓異]
#[大意]あしひきの山を飛び越える雁は都に行くならば、妹に逢って来てくれ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3688
#[題詞]到壹岐嶋雪連宅満忽遇鬼病死去之時作歌一首[并短歌]
#[原文]須賣呂伎能 等保能朝庭等 可良國尓 和多流和我世波 伊敝妣等能 伊波比麻多祢可 多太<未>可母 安夜麻知之家牟 安吉佐良婆 可敝里麻左牟等 多良知祢能 波々尓麻乎之弖 等伎毛須疑 都奇母倍奴礼婆 今日可許牟 明日可蒙許武登 伊敝<妣>等波 麻知故布良牟尓 等保能久尓 伊麻太毛都可受 也麻等乎毛 登保久左可里弖 伊波我祢乃 安良伎之麻祢尓 夜杼理須流君
#[訓読]天皇の 遠の朝廷と 韓国に 渡る我が背は 家人の 斎ひ待たねか 正身かも 過ちしけむ 秋去らば 帰りまさむと たらちねの 母に申して 時も過ぎ 月も経ぬれば 今日か来む 明日かも来むと 家人は 待ち恋ふらむに 遠の国 いまだも着かず 大和をも 遠く離りて 岩が根の 荒き島根に 宿りする君
#[仮名],すめろきの,とほのみかどと,からくにに,わたるわがせは,いへびとの,いはひまたねか,ただみかも,あやまちしけむ,あきさらば,かへりまさむと,たらちねの,ははにまをして,ときもすぎ,つきもへぬれば,けふかこむ,あすかもこむと,いへびとは,まちこふらむに,とほのくに,いまだもつかず,やまとをも,とほくさかりて,いはがねの,あらきしまねに,やどりするきみ
#[左注](右三首挽歌)
#[校異]短歌 [西] 短謌 / 末 -> 未 [万葉集略解] / 乎 [古][細] 于 / 比 -> 妣 [類][古]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,壱岐,挽歌,雪宅麻呂,枕詞,行路死人,長崎
#[訓異]
#[大意]天皇の遠い朝廷として韓国に渡る我が背は、家郷の人が潔斎して待たないからだろうか、それとも本人が間違ったからなのだろうか、秋になると帰りましょうとたらちねの母に申し上げて以来、時も過ぎ、月も経ってしまったので、今日帰ってくるか、明日戻ってくるかと家郷の人は待ち焦がれているであろうのに、遠い国にまだ着きもせず、大和をも遠く離れて、岩の根の荒い島に宿りをするあなたであることだ
#{語釈]
壹岐嶋に到り、雪連宅満忽ちに遇鬼病に遭ひて死去し時作る歌

雪連宅満 3644
鬼病 鬼にとりつかれた病。悪病。石田野に墓が残っている。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3689
#[題詞](到壹岐嶋雪連宅満忽遇鬼病死去之時作歌一首[并短歌])反歌二首
#[原文]伊波多野尓 夜杼里須流伎美 伊敝妣等乃 伊豆良等和礼乎 等<波婆>伊可尓伊波牟
#[訓読]岩田野に宿りする君家人のいづらと我れを問はばいかに言はむ
#[仮名],いはたのに,やどりするきみ,いへびとの,いづらとわれを,とはばいかにいはむ
#[左注](右三首挽歌)
#[校異]婆波 -> 波婆 [代匠記初稿本]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,挽歌,羈旅,壱岐,雪宅麻呂,地名,行路死人,長崎
#[訓異]
#[大意]岩田野に宿りをする君よ。家郷の人がどこだと自分に尋ねられるとどのように言おうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3690
#[題詞]((到壹岐嶋雪連宅満忽遇鬼病死去之時作歌一首[并短歌])反歌二首)
#[原文]与能奈可波 都祢可久能未等 和可礼奴流 君尓也毛登奈 安我孤悲由加牟
#[訓読]世間は常かくのみと別れぬる君にやもとな我が恋ひ行かむ
#[仮名],よのなかは,つねかくのみと,わかれぬる,きみにやもとな,あがこひゆかむ
#[左注]右三首挽歌
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,挽歌,羈旅,壱岐,雪宅麻呂,恋情,長崎
#[訓異]
#[大意]世の中はいつもこのようなことばかりだと、別れてしまったあなたにむやみに恋い思っていこう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3691
#[題詞]
#[原文]天地等 登毛尓母我毛等 於毛比都々 安里家牟毛能乎 波之家也思 伊敝乎波奈礼弖 奈美能宇倍由 奈豆佐比伎尓弖 安良多麻能 月日毛伎倍奴 可里我祢母 都藝弖伎奈氣婆 多良知祢能 波々母都末良母 安<佐>都由尓 毛能須蘇比都知 由布疑里尓 己呂毛弖奴礼弖 左伎久之毛 安流良牟其登久 伊R見都追 麻都良牟母能乎 世間能 比登<乃>奈氣伎<波> 安比於毛波奴 君尓安礼也母 安伎波疑能 知良敝流野邊乃 波都乎花 可里保尓布<伎>弖 久毛婆奈礼 等保伎久尓敝能 都由之毛能 佐武伎山邊尓 夜杼里世流良牟
#[訓読]天地と ともにもがもと 思ひつつ ありけむものを はしけやし 家を離れて 波の上ゆ なづさひ来にて あらたまの 月日も来経ぬ 雁がねも 継ぎて来鳴けば たらちねの 母も妻らも 朝露に 裳の裾ひづち 夕霧に 衣手濡れて 幸くしも あるらむごとく 出で見つつ 待つらむものを 世間の 人の嘆きは 相思はぬ 君にあれやも 秋萩の 散らへる野辺の 初尾花 仮廬に葺きて 雲離れ 遠き国辺の 露霜の 寒き山辺に 宿りせるらむ
#[仮名],あめつちと,ともにもがもと,おもひつつ,ありけむものを,はしけやし,いへをはなれて,なみのうへゆ,なづさひきにて,あらたまの,つきひもきへぬ,かりがねも,つぎてきなけば,たらちねの,ははもつまらも,あさつゆに,ものすそひづち,ゆふぎりに,ころもでぬれて,さきくしも,あるらむごとく,いでみつつ,まつらむものを,よのなかの,ひとのなげきは,あひおもはぬ,きみにあれやも,あきはぎの,ちらへるのへの,はつをばな,かりほにふきて,くもばなれ,とほきくにへの,つゆしもの,さむきやまへに,やどりせるらむ
#[左注](右三首葛井連子老作挽歌)
#[校異]左 -> 佐 [類][紀] / 能 -> 乃 [類][紀][細] / 婆 -> 波 [類][紀] / 疑 -> 伎 [類][古][紀]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,挽歌,雪宅麻呂,作者:葛井子老,枕詞,哀悼,壱岐,長崎
#[訓異]
#[大意]天地と共に長くいつまでもありたいと思いながらあったものなのに、いとおしい家を離れて、波の上を通って難渋してやってきて、あらたまの月日も経ってきた。雁も相次いでやってきて鳴くので、たらちねの母も妻も朝露に裳の裾が濡れて、夕霧に衣手が濡れて、無事であるように出て見ながら、待っているであろうものなのに、世の中の人が嘆くことには、ともに思わないあなたであることだ。秋萩の散りまがう野辺の穂の出た尾花を仮庵に葺いて、雲遠く離れ、遠い国のあたりの露霜の寒い山辺に宿りをなさることである。
#{語釈]
葛井連子老 伝未詳  葛井氏は、もと白猪史(しらいのふひと)、渡来系氏族


#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3692
#[題詞]反歌二首
#[原文]波之家也思 都麻毛古杼毛母 多可多加尓 麻都良牟伎美也 之麻我久礼奴流
#[訓読]はしけやし妻も子どもも高々に待つらむ君や島隠れぬる
#[仮名],はしけやし,つまもこどもも,たかたかに,まつらむきみや,しまがくれぬる
#[左注](右三首葛井連子老作挽歌)
#[校異]之 (塙) 々
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,挽歌,雪宅麻呂,作者:葛井子老,哀悼,壱岐,長崎
#[訓異]
#[大意]いとしいことだ。妻も子どもも背のびをして待っているであろうあなたが島に隠れてしまっている
#{語釈]
島隠れ  死ぬことの敬避表現。ここのみ。
06/0944H01島隠り我が漕ぎ来れば羨しかも大和へ上るま熊野の船
12/3212H01八十楫懸け島隠りなば我妹子が留まれと振らむ袖見えじかも
15/3597H01わたつみの沖つ白波立ち来らし海人娘子ども島隠る見ゆ
15/3613H01海原を八十島隠り来ぬれども奈良の都は忘れかねつも
15/3692H01はしけやし妻も子どもも高々に待つらむ君や島隠れぬる


#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3693
#[題詞](反歌二首)
#[原文]毛美知葉能 知里奈牟山尓 夜杼里奴流 君乎麻都良牟 比等之可奈之母
#[訓読]黄葉の散りなむ山に宿りぬる君を待つらむ人し悲しも
#[仮名],もみちばの,ちりなむやまに,やどりぬる,きみをまつらむ,ひとしかなしも
#[左注]右三首葛井連子老作挽歌
#[校異]之 [類][細] 思
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,挽歌,雪宅麻呂,作者:葛井子老,枕詞,哀悼,壱岐,長崎
#[訓異]
#[大意]黄葉の散っているであろう山に宿りをしているあなたを待っているであろう人が悲しいことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3694
#[題詞]
#[原文]和多都美能 <可>之故伎美知乎 也須家口母 奈久奈夜美伎弖 伊麻太尓母 毛奈久由可牟登 由吉能安末能 保都手乃宇良敝乎 可多夜伎弖 由加武<等>須流尓 伊米能其等 美知能蘇良治尓 和可礼須流伎美
#[訓読]わたつみの 畏き道を 安けくも なく悩み来て 今だにも 喪なく行かむと 壱岐の海人の ほつての占部を 肩焼きて 行かむとするに 夢のごと 道の空路に 別れする君
#[仮名],わたつみの,かしこきみちを,やすけくも,なくなやみきて,いまだにも,もなくゆかむと,ゆきのあまの,ほつてのうらへを,かたやきて,ゆかむとするに,いめのごと,みちのそらぢに,わかれするきみ
#[左注](右三首六鯖作挽歌)
#[校異]下 -> 可 [類][古][紀] / 土 -> 等 [岩波大系](塙)(楓)
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,挽歌,作者:六人部鯖麻呂,哀悼,雪宅麻呂,地名,壱岐,長崎
#[訓異]
#[大意]わたつみの恐ろしい道を安らかでもなく苦労してやってきて、今だけでも不幸なことなく行こうと、壱岐の海人の上手な占いを肩焼きにして行こうとするのに、夢のように道のむなしい途中で離別をしていまったあなたであることだ。
#{語釈]
喪なく行かむと 5/897 凶事
ほつての占部  ほつて 秀(ほ)つ手 上手なこと
    三代実録 貞観十四年四月二十四日「宮主従五位下兼行丹波権掾伊伎宿祢是雄卒。是雄者、壹伎嶋人也。本姓卜部。改為伊岐。始祖忍見足尼命。始自神代、供亀卜事。厥後子孫伝習祖業。備於卜部。是雄、卜数之道、尤究其要。日者之中、可謂独歩。
    
    延喜式、臨時祭式「凡宮主、卜部事ふるに堪へる者を取りて任ず。其の卜部は三国卜術優長者を取る。伊豆五人、壱岐五人、対馬十人。若しくは在都の人を取らば、卜術群を絶ゆるにあらざるより、すべからく充てることを得じ。

肩焼きて 14/3374
肩焼き 鹿の肩の骨を焼いて占う。亀の甲羅を焼く 象、図(かた)に焼く。焼いてその形を見る。

道の空路  道の途中の空のようなむなしい道

六鯖 続紀 天平宝字元年正月乙未(七日)、正六位上六人部連鯖麻呂に外従五位下を授く。
代匠記 名を略して書いた。
全注釈 梅花宴のように、中国風に名前を略したか。


#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3695
#[題詞]反歌二首
#[原文]牟可之欲里 伊比<祁>流許等乃 可良久尓能 可良久毛己許尓 和可礼須留可聞
#[訓読]昔より言ひけることの韓国のからくもここに別れするかも
#[仮名],むかしより,いひけることの,からくにの,からくもここに,わかれするかも
#[左注](右三首六鯖作挽歌)
#[校異]都 -> 祁 [類][紀]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,挽歌,作者:六人部鯖麻呂,哀悼,雪宅麻呂,地名,序詞,壱岐,長崎
#[訓異]
#[大意]昔から言い伝えてきたの韓国という言葉ではないが、辛いことにもここに別れをすることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3696
#[題詞](反歌二首)
#[原文]新羅奇敝可 伊敝尓可加反流 由吉能之麻 由加牟多登伎毛 於毛比可祢都母
#[訓読]新羅へか家にか帰る壱岐の島行かむたどきも思ひかねつも
#[仮名],しらきへか,いへにかかへる,ゆきのしま,ゆかむたどきも,おもひかねつも
#[左注]右三首六鯖作挽歌
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,挽歌,作者:六人部鯖麻呂,哀悼,雪宅麻呂,地名,壱岐,長崎
#[訓異]
#[大意]新羅へか、家に帰るのか、行きの島というが、行く手段も思いつくことが出来ないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3697
#[題詞]到對馬嶋淺茅浦舶泊之時不得順風經停五箇日於是瞻望物華各陳慟心作歌三首
#[原文]毛母布祢乃 波都流對馬能 安佐治山 志具礼能安米尓 毛美多比尓家里
#[訓読]百船の泊つる対馬の浅茅山しぐれの雨にもみたひにけり
#[仮名],ももふねの,はつるつしまの,あさぢやま,しぐれのあめに,もみたひにけり
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,長崎,対馬,叙景,羈旅,地名
#[訓異]
#[大意]多くの船が停泊する対馬の浅茅山よ。しぐれの雨に黄葉してきていることだ
#{語釈]
對馬嶋に到りて、淺茅浦に舶泊する時、順風を得ず、經停(けいてい)すること五箇日なり。是(ここ)に物華を瞻望し、各(おのもおのも)慟心を陳べて作る歌

淺茅浦に舶泊する時 次の停泊地が竹敷の浦。外浅茅だとすると、竹敷はさらに深く入り込むことになる。内浅茅だと、竹敷に直接行った方が合理的。そこでどこか不明。
全注釈 東海岸の厳原あたりに停泊し、大船越小船越あたりから陸上を船を引いて竹敷の浦方面に出た。
永留久恵 一行は厳原に到着。陸路竹敷に行く。船は南端を迂回して、竹敷まで回送された。厳原は当時対馬国府のあった所なので、大使らは寄った。

經停 何日か留まって宿泊すること
物華 物の美しいもの。風景 3668題詞
瞻望 望み見る

もみたひ もみつの未然形に反復継続の「ふ」のついたもの

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3698
#[題詞](到對馬嶋淺茅浦舶泊之時不得順風經停五箇日於是瞻望物華各陳慟心作歌三首)
#[原文]安麻射可流 比奈尓毛月波 弖礼々杼母 伊毛曽等保久波 和可礼伎尓家流
#[訓読]天離る鄙にも月は照れれども妹ぞ遠くは別れ来にける
#[仮名],あまざかる,ひなにもつきは,てれれども,いもぞとほくは,わかれきにける
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,長崎,対馬,望郷,枕詞
#[訓異]
#[大意]天遠く離れた鄙にも月は照っているけれども、妹は遠く別れて来たことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3699
#[題詞](到對馬嶋淺茅浦舶泊之時不得順風經停五箇日於是瞻望物華各陳慟心作歌三首)
#[原文]安伎左礼婆 於久都由之毛尓 安倍受之弖 京師乃山波 伊呂豆伎奴良牟
#[訓読]秋去れば置く露霜にあへずして都の山は色づきぬらむ
#[仮名],あきされば,おくつゆしもに,あへずして,みやこのやまは,いろづきぬらむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,長崎,対馬,望郷
#[訓異]
#[大意]秋になると置く露霜に耐えられなくなり、都の山は色づいてきているだろう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3700
#[題詞]竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首
#[原文]安之比奇能 山下比可流 毛美知葉能 知里能麻河比波 計布仁聞安流香母
#[訓読]あしひきの山下光る黄葉の散りの乱ひは今日にもあるかも
#[仮名],あしひきの,やましたひかる,もみちばの,ちりのまがひは,けふにもあるかも
#[左注]右一首大使
#[校異]<> -> 各 [類][細] / 流 [類][細](塙) 留
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,長崎,対馬,叙景,作者:阿倍継麻呂
#[訓異]
#[大意]あしひきの山の裾が光るほどの黄葉の散り乱れるのは今日であるのだなあ
#{語釈]
竹敷浦  対馬の浅茅湾奥
大使  阿倍継麻呂 3656

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3701
#[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
#[原文]多可之伎能 母美知乎見礼婆 和藝毛故我 麻多牟等伊比之 等伎曽伎尓家流
#[訓読]竹敷の黄葉を見れば我妹子が待たむと言ひし時ぞ来にける
#[仮名],たかしきの,もみちをみれば,わぎもこが,またむといひし,ときぞきにける
#[左注]右一首副使
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,長崎,対馬,地名,望郷,作者:大伴三中
#[訓異]
#[大意]竹敷の黄葉を見ると我妹子が待とうと言っていたその時がやって来ていることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3702
#[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
#[原文]多可思吉能 宇良<未>能毛美知 <和>礼由伎弖 可敝里久流末R 知里許須奈由米
#[訓読]竹敷の浦廻の黄葉我れ行きて帰り来るまで散りこすなゆめ
#[仮名],たかしきの,うらみのもみち,われゆきて,かへりくるまで,ちりこすなゆめ
#[左注]右一首大判官
#[校異]末 -> 未 [万葉集古義] / <> -> 和 [西(左書)][類][紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,長崎,対馬,地名,叙景,作者:壬生宇太麻呂
#[訓異]
#[大意]竹敷の浦のめぐりの黄葉よ。自分が行って帰ってくるまで散ってはくれるな。けっして。
#{語釈]
大判官  壬生宇太麻呂 3612

#[説明]

#[関連論文]


#[番号]15/3703
#[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
#[原文]多可思吉能 宇敝可多山者 久礼奈為能 也之保能伊呂尓 奈里尓家流香聞
#[訓読]竹敷の宇敝可多山は紅の八しほの色になりにけるかも
#[仮名],たかしきの,うへかたやまは,くれなゐの,やしほのいろに,なりにけるかも
#[左注]右一首小判官
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,長崎,対馬,地名,叙景,作者:大蔵麻呂
#[訓異]
#[大意]竹敷の宇敝可多山は紅の八しおの色になってきたことである
#{語釈]
宇敝可多山 城八幡山のことか
八しほ 11/2623
紅の八しほの衣朝な朝な馴れはすれどもいやめづらしも
紅に何度も染め直した衣 しほ 染め汁に浸す数
濃い紅色か、どす黒くなる

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3704
#[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
#[原文]毛美知婆能 知良布山邊由 許具布祢能 尓保比尓米R弖 伊R弖伎尓家里
#[訓読]黄葉の散らふ山辺ゆ漕ぐ船のにほひにめでて出でて来にけり
#[仮名],もみちばの,ちらふやまへゆ,こぐふねの,にほひにめでて,いでてきにけり
#[左注](右二首對馬娘子名玉槻)
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,長崎,対馬,遊行女婦,作者:玉槻,女歌
#[訓異]
#[大意]黄葉の散りあう山辺を通って漕ぐ船の美しい色に心引かれて出てきたことだ
#{語釈]
漕ぐ船 遣新羅使の船。官船であるので赤い色。黄葉と対比している。

對馬娘子名玉槻 遊行女婦か。和名抄 対馬上県郡玉調郷 地名をとった源氏名

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3705
#[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
#[原文]多可思吉能 多麻毛奈<婢>可之 己<藝>R奈牟 君我美布祢乎 伊都等可麻多牟
#[訓読]竹敷の玉藻靡かし漕ぎ出なむ君がみ船をいつとか待たむ
#[仮名],たかしきの,たまもなびかし,こぎでなむ,きみがみふねを,いつとかまたむ
#[左注]右二首對馬娘子名玉槻
#[校異]比 -> 婢 [類][紀][細] / 伎 -> 藝 [類][紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,長崎,対馬,地名,遊行女婦,作者:玉槻,女歌
#[訓異]
#[大意]竹敷の美しい藻を靡かせて漕ぎ出していらっしゃるあなたのみ船をいつもどってくるだろうかと思って待っていましょう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3706
#[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
#[原文]多麻之家流 伎欲吉奈藝佐乎 之保美弖婆 安可受和礼由久 可反流左尓見牟
#[訓読]玉敷ける清き渚を潮満てば飽かず我れ行く帰るさに見む
#[仮名],たましける,きよきなぎさを,しほみてば,あかずわれゆく,かへるさにみむ
#[左注]右一首大使
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,土地讃美,長崎,対馬,作者:阿倍継麻呂
#[訓異]
#[大意]玉を敷いている清らかな渚を潮が満ちてくるので満足しない思いで自分は行くことだ。帰ってきた時にまた見よう。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3707
#[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
#[原文]安伎也麻能 毛美知乎可射之 和我乎礼婆 宇良之保美知久 伊麻太安可奈久尓
#[訓読]秋山の黄葉をかざし我が居れば浦潮満ち来いまだ飽かなくに
#[仮名],あきやまの,もみちをかざし,わがをれば,うらしほみちく,いまだあかなくに
#[左注]右一首副使
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,土地讃美,長崎,対馬,作者:壬生宇太麻呂
#[訓異]
#[大意]秋の山の黄葉をかざして自分がいると、浦の潮が満ちてきた。まだ満足していないのに。
#{語釈]
副使  大伴三中 3701

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3708
#[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
#[原文]毛能毛布等 比等尓波美要<緇> 之多婢毛能 思多由故布流尓 都<奇>曽倍尓家流
#[訓読]物思ふと人には見えじ下紐の下ゆ恋ふるに月ぞ経にける
#[仮名],ものもふと,ひとにはみえじ,したびもの,したゆこふるに,つきぞへにける
#[左注]右一首大使
#[校異](ア) -> 緇 [紀][温] / 哥 -> 奇 [西(訂正)][類][紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,望郷,長崎,対馬,作者:阿倍継麻呂
#[訓異]
#[大意]もの思いをしていると人には見えるまい。下紐ではないが心の中で家郷を恋い思っていると月が経ってしまった
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3709
#[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
#[原文]伊敝豆刀尓 可比乎比里布等 於伎敝欲里 与世久流奈美尓 許呂毛弖奴礼奴
#[訓読]家づとに貝を拾ふと沖辺より寄せ来る波に衣手濡れぬ
#[仮名],いへづとに,かひをひりふと,おきへより,よせくるなみに,ころもでぬれぬ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,長崎,対馬,望郷,みやげ
#[訓異]
#[大意]家へのみやげとして貝を拾うとして沖の方から寄せてくる波に衣手が濡れたことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3710
#[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
#[原文]之保非奈<婆> 麻多母和礼許牟 伊射遊賀武 於伎都志保佐為 多可久多知伎奴
#[訓読]潮干なばまたも我れ来むいざ行かむ沖つ潮騒高く立ち来ぬ
#[仮名],しほひなば,またもわれこむ,いざゆかむ,おきつしほさゐ,たかくたちきぬ
#[左注]
#[校異]波 -> 婆 [類]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,対馬,長崎
#[訓異]
#[大意]潮が引いたならばまたも自分は来よう。さあ出発しよう。沖の潮騒が高く立って来た
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3711
#[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
#[原文]和我袖波 多毛登等保里弖 奴礼奴等母 故非和須礼我比 等良受波由可自
#[訓読]我が袖は手本通りて濡れぬとも恋忘れ貝取らずは行かじ
#[仮名],わがそでは,たもととほりて,ぬれぬとも,こひわすれがひ,とらずはゆかじ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,対馬,長崎,望郷
#[訓異]
#[大意]自分の袖は袂を通って濡れるとしても、恋い忘れ貝を取らないでは行くまいよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3712
#[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
#[原文]奴<婆>多麻能 伊毛我保須倍久 安良奈久尓 和我許呂母弖乎 奴礼弖伊可尓勢牟
#[訓読]ぬばたまの妹が干すべくあらなくに我が衣手を濡れていかにせむ
#[仮名],ぬばたまの,いもがほすべく,あらなくに,わがころもでを,ぬれていかにせむ
#[左注]
#[校異]波 -> 婆 [類][古]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,枕詞,羈旅,対馬,長崎,望郷
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの妹が乾かすにもないことなのに、自分の衣手が濡れてどうしようか。
#{語釈]
ぬばたまの 黒髪を持った妹として、妹にかかる

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3713
#[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
#[原文]毛美知婆波 伊麻波宇都呂布 和伎毛故我 麻多牟等伊比之 等伎能倍由氣婆
#[訓読]黄葉は今はうつろふ我妹子が待たむと言ひし時の経ゆけば
#[仮名],もみちばは,いまはうつろふ,わぎもこが,またむといひし,ときのへゆけば
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,望郷,対馬,長崎
#[訓異]
#[大意]黄葉は今は散っていく。我妹子が待とうと行った時が経っていくので
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3714
#[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
#[原文]安<伎>佐礼婆 故非之美伊母乎 伊米尓太尓 比左之久見牟乎 安氣尓家流香聞
#[訓読]秋されば恋しみ妹を夢にだに久しく見むを明けにけるかも
#[仮名],あきされば,こひしみいもを,いめにだに,ひさしくみむを,あけにけるかも
#[左注]
#[校異]藝 -> 伎 [紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,恋情,羈旅,望郷,対馬,長崎
#[訓異]
#[大意]秋になると恋いしいので、妹を夢にだけでも長く見ていたいのに、夜が明けたことであるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3715
#[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
#[原文]比等里能未 伎奴流許呂毛能 比毛等加婆 多礼可毛由波牟 伊敝杼保久之弖
#[訓読]ひとりのみ着寝る衣の紐解かば誰れかも結はむ家遠くして
#[仮名],ひとりのみ,きぬるころもの,ひもとかば,たれかもゆはむ,いへどほくして
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,望郷,恋情,孤独,対馬,長崎
#[訓異]
#[大意]独りでばかり着て寝る衣の紐を解くならば、誰が結ぶのだろうか。家は遠くにあって。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3716
#[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
#[原文]安麻久毛能 多由多比久礼婆 九月能 毛未知能山毛 宇都呂比尓家里
#[訓読]天雲のたゆたひ来れば九月の黄葉の山もうつろひにけり
#[仮名],あまくもの,たゆたひくれば,ながつきの,もみちのやまも,うつろひにけり
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,叙景,羈旅,対馬,長崎
#[訓異]
#[大意]天雲のように漂いながらやってくると、長月の黄葉の山も散ってしまうことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3717
#[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)
#[原文]多婢尓弖<毛> <母>奈久波也許<登> 和伎毛故我 牟須妣思比毛波 奈礼尓家流香聞
#[訓読]旅にても喪なく早来と我妹子が結びし紐はなれにけるかも
#[仮名],たびにても,もなくはやこと,わぎもこが,むすびしひもは,なれにけるかも
#[左注]
#[校異]母 -> 毛 [類] / 毛 -> 母 [類] / 等 -> 登 [類][古][紀]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,望郷,対馬,長崎
#[訓異]
#[大意]旅であっても何事もなく早く帰ってこいと我妹子が結んだ紐はよれよれになったことだ
#{語釈]
喪なく 3694

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3718
#[題詞]廻来筑紫海路入京到播磨國家嶋之時作歌五首
#[原文]伊敝之麻波 奈尓許曽安里家礼 宇奈波良乎 安我古非伎都流 伊毛母安良奈久尓
#[訓読]家島は名にこそありけれ海原を我が恋ひ来つる妹もあらなくに
#[仮名],いへしまは,なにこそありけれ,うなはらを,あがこひきつる,いももあらなくに
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,地名,姫路,兵庫,羈旅,孤独,望郷,帰途
#[訓異]
#[大意]家島は名前ばかりであるよ。海原を自分が恋い思ってやって来た妹もいないことなのに。
#{語釈]
筑紫を廻り来て、海路にして京に入らむとし、播磨國家嶋に到りし時に作る歌

家島 兵庫県飾磨郡家島町  相生市沖 実際は室津(御津町)に到着したか。 3627

家島

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3719
#[題詞](廻来筑紫海路入京到播磨國家嶋之時作歌五首)
#[原文]久左麻久良 多婢尓比左之久 安良米也等 伊毛尓伊比之乎 等之能倍奴良久
#[訓読]草枕旅に久しくあらめやと妹に言ひしを年の経ぬらく
#[仮名],くさまくら,たびにひさしく,あらめやと,いもにいひしを,としのへぬらく
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,枕詞,羈旅,望郷,帰途,姫路,兵庫
#[訓異]
#[大意]草枕旅に長くいるだろうかと妹に言っていたのに年が経ってしまったことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3720
#[題詞](廻来筑紫海路入京到播磨國家嶋之時作歌五首)
#[原文]和伎毛故乎 由伎弖波也美武 安波治之麻 久毛為尓見延奴 伊敝都久良之母
#[訓読]我妹子を行きて早見む淡路島雲居に見えぬ家つくらしも
#[仮名],わぎもこを,ゆきてはやみむ,あはぢしま,くもゐにみえぬ,いへづくらしも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,地名,淡路,兵庫,姫路,望郷,帰途,羈旅
#[訓異]
#[大意]我妹子を行って早く見よう。淡路島が雲居かなたに見えて来た。家に着くらしいよ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3721
#[題詞](廻来筑紫海路入京到播磨國家嶋之時作歌五首)
#[原文]奴婆多麻能 欲安可之母布<祢>波 許藝由可奈 美都能波麻末都 麻知故非奴良武
#[訓読]ぬばたまの夜明かしも船は漕ぎ行かな御津の浜松待ち恋ひぬらむ
#[仮名],ぬばたまの,よあかしもふねは,こぎゆかな,みつのはままつ,まちこひぬらむ
#[左注]
#[校異]弥 -> 祢 [類][紀][細]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,枕詞,地名,大阪,難波,兵庫,姫路,帰途
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜を明かしてでも船は漕ぎ行こうよ。御津の浜松が待ちこがれているだろう
#{語釈]
御津の浜松待ち恋ひぬらむ 憶良 01/63

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3722
#[題詞](廻来筑紫海路入京到播磨國家嶋之時作歌五首)
#[原文]大伴乃 美津能等麻里尓 布祢波弖々 多都多能山乎 伊都可故延伊加武
#[訓読]大伴の御津の泊りに船泊てて龍田の山をいつか越え行かむ
#[仮名],おほともの,みつのとまりに,ふねはてて,たつたのやまを,いつかこえいかむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],遣新羅使,天平8年,年紀,羈旅,地名,兵庫,姫路,大阪,難波,奈良,帰途
#[訓異]
#[大意]大伴の御津の港に船が到着して、龍田の山をいつ越えて行こうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3723
#[題詞]中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌
#[原文]安之比奇能 夜麻治古延牟等 須流君乎 許々呂尓毛知弖 夜須家久母奈之
#[訓読]あしひきの山道越えむとする君を心に持ちて安けくもなし
#[仮名],あしひきの,やまぢこえむと,するきみを,こころにもちて,やすけくもなし
#[左注](右四首娘子臨別作歌)
#[校異]弟 [細] 茅
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,贈答,枕詞,悲別,恋情,女歌,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]あしひきの山路を越えようとするあなたを心に抱いていて安らかな気持ちもないことだ
#{語釈]
目録
中臣朝臣宅守、蔵部女嬬狭野茅上娘子を娶りし時、勅して流罪に断ぜられ、越前国に配せらる。是に於いて夫婦別れ易く会い難きを相嘆き、おのおの慟しみの情を陳べて、贈答する歌

中臣朝臣宅守
天平12/06/15/六月庚午、大赦。其流人穗積朝臣老(03/0288、13/3241)、多治比眞人祖人、名負、東人、久米連若女等五人、召令入京、大原采女勝部鳥女還本郷、小野王、日奉弟日女、石上乙麻呂(03/0368、06/1019)、牟礼大野、中臣宅守、飽海古良比、不在赦限
天平宝字07/01/09/壬子、從六位上中臣朝臣宅守、從五位下

中臣系図 東人の7男 宝字八年九月の乱により除名  神祇大副

蔵部女嬬  後宮職員令 蔵司 女孺十人
      天皇に近侍して神璽・関契(三関通過の割り符)を預かる女官

狭野弟上娘子 細井本 茅上 西他 弟上

何の罪か。

姦通であるとするならば、弟上娘女も流罪になっているはず。都に留まっているということは無関係。
宅守の政治事件による失脚か(釈注)。
新婚後の流罪。

天平13/09/08/乙夘、勅、以京都新遷大赦天下、天平十三年九月八日午時以前天下罪人、大辟已下、已發覺、未發覺、已結正、未結正、無問輕重、咸釋放却、其流人未達前所、已達前所、及年滿已編付爲百姓、亦咸釋放還、其在流所生子孫、父母已亡、無可隨還者、亦不限年之遠近、情願還、皆録名聞奏、但不願還者恣聽之、又縁逆人廣繼入罪者咸從原免、又大養徳、伊賀、伊勢、美濃、近江、山背等國供奉行宮之郡、勿收今年之調、以正四位下智努王、正四位上巨勢朝臣奈:麻呂二人爲造宮卿

この時に許されたか。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3724
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]君我由久 道乃奈我弖乎 久里多々祢 也伎保呂煩散牟 安米能火毛我母
#[訓読]君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも
#[仮名],きみがゆく,みちのながてを,くりたたね,やきほろぼさむ,あめのひもがも
#[左注](右四首娘子臨別作歌)
#[校異]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,贈答,悲別,恋情,女歌,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]あなたが行く道の長い道のりをたぐり寄せて畳んで焼き滅ぼしてしまう天の火があればなあ
#{語釈]
長手 
04/0536H01意宇の海の潮干の潟の片思に思ひや行かむ道の長手を

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3725
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]和我世故之 氣太之麻可良<婆> 思漏多倍乃 蘇R乎布良左祢 見都追志努波牟
#[訓読]我が背子しけだし罷らば白栲の袖を振らさね見つつ偲はむ
#[仮名],わがせこし,けだしまからば,しろたへの,そでをふらさね,みつつしのはむ
#[左注](右四首娘子臨別作歌)
#[校異]波 -> 婆 [類][紀][細]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,贈答,悲別,恋情,女歌,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]我が背子がもし下っていかれるのならば、白妙の袖を振ってください。それを見て偲びましょう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3726
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]己能許呂波 古非都追母安良牟 多麻久之氣 安氣弖乎知欲利 須辨奈可流倍思
#[訓読]このころは恋ひつつもあらむ玉櫛笥明けてをちよりすべなかるべし
#[仮名],このころは,こひつつもあらむ,たまくしげ,あけてをちより,すべなかるべし
#[左注]右四首娘子臨別作歌
#[校異]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,贈答,枕詞,悲別,恋情,女歌,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]今の間は恋い続けてもいられよう。しかしたまくしげではないが夜が明けて以後はどうしようもないだろう。
#{語釈]
明けてをちより 夜が明けると宅守は旅だって行く。
      をち 後、それ以後

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3727
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]知里比治能 可受尓母安良奴 和礼由恵尓 於毛比和夫良牟 伊母我可奈思佐
#[訓読]塵泥の数にもあらぬ我れゆゑに思ひわぶらむ妹がかなしさ
#[仮名],ちりひぢの,かずにもあらぬ,われゆゑに,おもひわぶらむ,いもがかなしさ
#[左注](右四首中臣朝臣宅守上道作歌)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,悲別,恋情,羈旅,配流,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]塵や泥のようにものの数にも入らない自分ではあるが、もの思いでさびしくしている妹が悲しいことである
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3728
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]安乎尓与之 奈良能於保知波 由<吉>余家杼 許能山道波 由伎安之可里家利
#[訓読]あをによし奈良の大道は行きよけどこの山道は行き悪しかりけり
#[仮名],あをによし,ならのおほぢは,ゆきよけど,このやまみちは,ゆきあしかりけり
#[左注](右四首中臣朝臣宅守上道作歌)
#[校異]伎 -> 吉 [天][類][紀][細]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,羈旅,贈答,配流,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]あをによし奈良の大路は歩きやすいがこの山道は行くのに悪いことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3729
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]宇流波之等 安我毛布伊毛乎 於毛比都追 由氣婆可母等奈 由伎安思可流良武
#[訓読]愛しと我が思ふ妹を思ひつつ行けばかもとな行き悪しかるらむ
#[仮名],うるはしと,あがもふいもを,おもひつつ,ゆけばかもとな,ゆきあしかるらむ
#[左注](右四首中臣朝臣宅守上道作歌)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,羈旅,贈答,配流,恋情,悲別,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]いとしいと自分が思う妹を思いながら行くから、むやみに行きにくいのだろうか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3730
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]加思故美等 能良受安里思乎 美故之治能 多武氣尓多知弖 伊毛我名能里都
#[訓読]畏みと告らずありしをみ越道の手向けに立ちて妹が名告りつ
#[仮名],かしこみと,のらずありしを,みこしぢの,たむけにたちて,いもがなのりつ
#[左注]右四首中臣朝臣宅守上道作歌
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,配流,恋情,羈旅,手向け,悲別,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]恐ろしいからと口に出さないであったものだが、越に行く道中の手向けに立って妹の名前を言ったことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3731
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]於毛布恵尓 安布毛能奈良婆 之末思久毛 伊母我目可礼弖 安礼乎良米也母
#[訓読]思ふゑに逢ふものならばしましくも妹が目離れて我れ居らめやも
#[仮名],おもふゑに,あふものならば,しましくも,いもがめかれて,あれをらめやも
#[左注](右十四首中臣朝臣宅守)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,配流,恋情,羈旅,悲別,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]思うから会うというものであったら、しばらくの間も妹の目を離れて自分はいるだろうか
#{語釈]
思ふゑに  思ふゆゑに

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3732
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]安可祢佐須 比流波毛能母比 奴婆多麻乃 欲流波須我良尓 祢能<未>之奈加由
#[訓読]あかねさす昼は物思ひぬばたまの夜はすがらに音のみし泣かゆ
#[仮名],あかねさす,ひるはものもひ,ぬばたまの,よるはすがらに,ねのみしなかゆ
#[左注](右十四首中臣朝臣宅守)
#[校異]美 -> 未 [天][紀][細]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,恋情,枕詞,恋情,羈旅,配流,悲別,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]あかねさす昼はもの思いにふけり、ぬばたまの夜は夜中声を上げてばかりいて泣くことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3733
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]和伎毛故我 可多美能許呂母 奈可里世婆 奈尓毛能母弖加 伊能知都我麻之
#[訓読]我妹子が形見の衣なかりせば何物もてか命継がまし
#[仮名],わぎもこが,かたみのころも,なかりせば,なにものもてか,いのちつがまし
#[左注](右十四首中臣朝臣宅守)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,恋情,配流,羈旅,孤独,悲別,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]我妹子のかたみの衣がなかったならば、どの物を以て命を継ぐことが出来るだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3734
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]等保伎山 世伎毛故要伎奴 伊麻左良尓 安布倍伎与之能 奈伎我佐夫之佐 [一云 左必之佐]
#[訓読]遠き山関も越え来ぬ今さらに逢ふべきよしのなきが寂しさ [一云 さびしさ]
#[仮名],とほきやま,せきもこえきぬ,いまさらに,あふべきよしの,なきがさぶしさ,[さびしさ]
#[左注](右十四首中臣朝臣宅守)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,羈旅,配流,恋情,異伝,贈答,悲別,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]遠い山の関所も越えて来た。今あらためて逢う手だてのない寂しさよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3735
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]於毛波受母 麻許等安里衣牟也 左奴流欲能 伊米尓毛伊母我 美延射良奈久尓
#[訓読]思はずもまことあり得むやさ寝る夜の夢にも妹が見えざらなくに
#[仮名],おもはずも,まことありえむや,さぬるよの,いめにもいもが,みえざらなくに
#[左注](右十四首中臣朝臣宅守)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,羈旅,配流,恋情,悲別,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]思わずにいることが本当にあり得ようか。寝る夜の夢にも妹が見えないことなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3736
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]等保久安礼婆 一日一夜毛 於<母>波受弖 安流良牟母能等 於毛保之賣須奈
#[訓読]遠くあれば一日一夜も思はずてあるらむものと思ほしめすな
#[仮名],とほくあれば,ひとひひとよも,おもはずて,あるらむものと,おもほしめすな
#[左注](右十四首中臣朝臣宅守)
#[校異]毛 -> 母 [天][類][紀][細]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,羈旅,恋情,悲別,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]遠くにいるので一日一夜も思わないでいるだろうとお思いにはなるな
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3737
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]比等余里波 伊毛曽母安之伎 故非毛奈久 安良末<思>毛能乎 於毛波之米都追
#[訓読]人よりは妹ぞも悪しき恋もなくあらましものを思はしめつつ
#[仮名],ひとよりは,いもぞもあしき,こひもなく,あらましものを,おもはしめつつ
#[左注](右十四首中臣朝臣宅守)
#[校異]之 -> 思 [天][類][紀][細]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,羈旅,配流,贈答,恋情,悲別,怨恨,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]他人よりは妹が悪いのだ。恋い思うこともなくいられるものなのに、思わせ続けるのだから
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3738
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]於毛比都追 奴礼婆可毛<等>奈 奴婆多麻能 比等欲毛意知受 伊米尓之見由流
#[訓読]思ひつつ寝ればかもとなぬばたまの一夜もおちず夢にし見ゆる
#[仮名],おもひつつ,ぬればかもとな,ぬばたまの,ひとよもおちず,いめにしみゆる
#[左注](右十四首中臣朝臣宅守)
#[校異]登 -> 等 [天][紀]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,羈旅,配流,恋情,悲別,枕詞,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]思いながら寝るからだろうか。むやみにぬばたまの一晩も欠かさず夢に見えることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3739
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]可久婆可里 古非牟等可祢弖 之良末世婆 伊毛乎婆美受曽 安流倍久安里家留
#[訓読]かくばかり恋ひむとかねて知らませば妹をば見ずぞあるべくありける
#[仮名],かくばかり,こひむとかねて,しらませば,いもをばみずぞ,あるべくありける
#[左注](右十四首中臣朝臣宅守)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,羈旅,配流,恋情,悲別,後悔,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]このようにばかり恋い思うだろうと最初から知っていたならば、妹を見ないでいればよかった
#{語釈]
#[説明]
類歌
11/2372H01かくばかり恋ひむものぞと知らませば遠くも見べくあらましものを

#[関連論文]


#[番号]15/3740
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]安米都知能 可未奈伎毛能尓 安良婆許曽 安我毛布伊毛尓 安波受思仁世米
#[訓読]天地の神なきものにあらばこそ我が思ふ妹に逢はず死にせめ
#[仮名],あめつちの,かみなきものに,あらばこそ,あがもふいもに,あはずしにせめ
#[左注](右十四首中臣朝臣宅守)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,羈旅,配流,恋情,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]天地の神がいないものであったならばこそ、自分が恋い思う妹に逢わないで死にもしよう。(いるのだったら一目でも逢わないで死に切れようか)
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3741
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]伊能知乎之 麻多久之安良婆 安里伎奴能 安里弖能知尓毛 安波射良米也母 [一云 安里弖能乃知毛]
#[訓読]命をし全くしあらばあり衣のありて後にも逢はざらめやも [一云 ありての後も]
#[仮名],いのちをし,またくしあらば,ありきぬの,ありてのちにも,あはざらめやも,[ありてののちも]
#[左注](右十四首中臣朝臣宅守)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,羈旅,配流,恋情,枕詞,異伝,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]命さえ無事であったならば、あり衣の生きながらえての後にも逢わないということがあろうか
#{語釈]
あり衣の 14/3481 上質の布で作った衣 衣擦れの音でさゑさゑの枕詞
ここでは同音繰り返し

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3742
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]安波牟日乎 其日等之良受 等許也未尓 伊豆礼能日麻弖 安礼古非乎良牟
#[訓読]逢はむ日をその日と知らず常闇にいづれの日まで我れ恋ひ居らむ
#[仮名],あはむひを,そのひとしらず,とこやみに,いづれのひまで,あれこひをらむ
#[左注](右十四首中臣朝臣宅守)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,羈旅,配流,恋情,悲別,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]逢える日をいづれの日とはわからない。常闇にいる思いでどの日まで自分は恋い思っているのだろうか
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3743
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]多婢等伊倍婆 許等尓曽夜須伎 須久奈久毛 伊母尓戀都々 須敝奈家奈久尓
#[訓読]旅といへば言にぞやすきすくなくも妹に恋ひつつすべなけなくに
#[仮名],たびといへば,ことにぞやすき,すくなくも,いもにこひつつ,すべなけなくに
#[左注](右十四首中臣朝臣宅守)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,羈旅,配流,恋情,悲別,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]旅というと口に出すのは簡単だ。少なくとも妹に恋い続けてどうしようもないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3744
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]和伎毛故尓 古布流尓安礼波 多麻吉波流 美自可伎伊能知毛 乎之家久母奈思
#[訓読]我妹子に恋ふるに我れはたまきはる短き命も惜しけくもなし
#[仮名],わぎもこに,こふるにあれは,たまきはる,みじかきいのちも,をしけくもなし
#[左注]右十四首中臣朝臣宅守
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,羈旅,配流,枕詞,恋情,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]我妹子に恋い思うのに自分はたまきはる短い命も惜しいことはないよ
#{語釈]
#[説明]
類歌
09/1769H01かくのみし恋ひしわたればたまきはる命も我れは惜しけくもなし
12/3082H01君に逢はず久しくなりぬ玉の緒の長き命の惜しけくもなし

#[関連論文]


#[番号]15/3745
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]伊能知安良婆 安布許登母安良牟 和我由恵尓 波太奈於毛比曽 伊能知多尓敝波
#[訓読]命あらば逢ふこともあらむ我がゆゑにはだな思ひそ命だに経ば
#[仮名],いのちあらば,あふこともあらむ,わがゆゑに,はだなおもひそ,いのちだにへば
#[左注](右九首娘子)
#[校異]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,贈答,羈旅,配流,悲別,慰撫,恋情,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]命があれば逢うこともあるだろう。自分のためにひどくは恋い思うなよ。命だけでも長らえたならば(また逢えるから)
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3746
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]<比>等能宇々流 田者宇恵麻佐受 伊麻佐良尓 久尓和可礼之弖 安礼波伊可尓勢武
#[訓読]人の植うる田は植ゑまさず今さらに国別れして我れはいかにせむ
#[仮名],ひとのううる,たはうゑまさず,いまさらに,くにわかれして,あれはいかにせむ
#[左注](右九首娘子)
#[校異]此 -> 比 [類][紀][細]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,贈答,恋情,悲別,女歌,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]世間の人が植える田植えはならさずに、今更ながら国を隔てて住んで自分はどうしようか
#{語釈]
人の植うる田は植ゑまさず 田植えもする。田植え休暇がある(田仮)。

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3747
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]和我屋度能 麻都能葉見都々 安礼麻多無 波夜可反里麻世 古非之奈奴刀尓
#[訓読]我が宿の松の葉見つつ我れ待たむ早帰りませ恋ひ死なぬとに
#[仮名],わがやどの,まつのはみつつ,あれまたむ,はやかへりませ,こひしなぬとに
#[左注](右九首娘子)
#[校異]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,贈答,恋情,悲別,女歌,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]自分の家の松の葉を見ながら自分は待とう。早くお帰りください。恋い死なないうちに
#{語釈]
松の葉 待つと永遠性をかけている

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3748
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]比等久尓波 須美安之等曽伊布 須牟也氣久 波也可反里万世 古非之奈奴刀尓
#[訓読]他国は住み悪しとぞ言ふ速けく早帰りませ恋ひ死なぬとに
#[仮名],ひとくには,すみあしとぞいふ,すむやけく,はやかへりませ,こひしなぬとに
#[左注](右九首娘子)
#[校異]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,贈答,恋情,悲別,女歌,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]他所の国は住みにくいと言います。すみやかに早くお帰りください。恋い死になどしないうちに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3749
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]比等久尓々 伎美乎伊麻勢弖 伊<都><麻>弖可 安我故非乎良牟 等伎乃之良奈久
#[訓読]他国に君をいませていつまでか我が恋ひ居らむ時の知らなく
#[仮名],ひとくにに,きみをいませて,いつまでか,あがこひをらむ,ときのしらなく
#[左注](右九首娘子)
#[校異]豆 -> 都 [類][紀][細] / 摩 -> 麻 [類][紀][温][細]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,贈答,恋情,悲別,女歌,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]他の国にあなたをお置きして、いつまで自分は恋い思っているのだろうか。再会の時期もわからなくて
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3750
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]安米都知乃 曽許比能宇良尓 安我其等久 伎美尓故布良牟 比等波左祢安良自
#[訓読]天地の底ひのうらに我がごとく君に恋ふらむ人はさねあらじ
#[仮名],あめつちの,そこひのうらに,あがごとく,きみにこふらむ,ひとはさねあらじ
#[左注](右九首娘子)
#[校異]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,贈答,恋情,悲別,女歌,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]天地の果てのうちに自分のようにあなたに恋い思っている人はほんとうにないだろう
#{語釈]
底ひのうら  3/420そくへ 19/4247そきへ  「うら」は「うち」
さね  本当に ほんに
07/1069H01常はさね思はぬものをこの月の過ぎ隠らまく惜しき宵かも
09/1794H01たち変り月重なりて逢はねどもさね忘らえず面影にして
14/3391H01筑波嶺にそがひに見ゆる葦穂山悪しかるとがもさね見えなくに

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3751
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]之呂多倍能 安我之多其呂母 宇思奈波受 毛弖礼和我世故 多太尓安布麻弖尓
#[訓読]白栲の我が下衣失はず持てれ我が背子直に逢ふまでに
#[仮名],しろたへの,あがしたごろも,うしなはず,もてれわがせこ,ただにあふまでに
#[左注](右九首娘子)
#[校異]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,贈答,恋情,悲別,女歌,枕詞,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]白妙の自分の下衣をなくさないで持ってください。我が背子よ。直接逢うまでは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3752
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]波流乃日能 宇良我奈之伎尓 於久礼為弖 君尓古非都々 宇都之家米也母
#[訓読]春の日のうら悲しきに後れ居て君に恋ひつつうつしけめやも
#[仮名],はるのひの,うらがなしきに,おくれゐて,きみにこひつつ,うつしけめやも
#[左注](右九首娘子)
#[校異]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,贈答,恋情,悲別,女歌,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]春の日の何となく心悲しいのに後に残っていてあなたに恋い思い続けて正気でいられましょうか
#{語釈]
うつしけめやも  うつつ心があろうか  正気でいられようか
12/3210H01あしひきの片山雉立ち行かむ君に後れてうつしけめやも

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3753
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]安波牟日能 可多美尓世与等 多和也女能 於毛比美太礼弖 奴敝流許呂母曽
#[訓読]逢はむ日の形見にせよとたわや女の思ひ乱れて縫へる衣ぞ
#[仮名],あはむひの,かたみにせよと,たわやめの,おもひみだれて,ぬへるころもぞ
#[左注]右九首娘子
#[校異]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,贈答,恋情,悲別,女歌,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]逢う日までの形見にしなさいと手弱女が思い乱れて縫った衣であるよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3754
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]過所奈之尓 世伎等婢古由流 保等登藝須 多我子尓毛 夜麻受可欲波牟
#[訓読]過所なしに関飛び越ゆる霍公鳥多我子尓毛止まず通はむ
#[仮名],くゎそなしに,せきとびこゆる,ほととぎす,*******,やまずかよはむ
#[左注](右十三首中臣朝臣宅守)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,恋情,悲別,女歌,難訓,動物,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]関所の手形もなしに自由に関所を飛び越えるほととぎすはどんな子にでも絶えず通おうのに(自分はあなた一人でも通うことは出来ない)
#{語釈]
過所  関所の手形  関市令、公式令 過所式 手形の書式

多我子尓毛 [西]等 あまたかね 左 おほくの子 [寛]あまたかこにも
      考 わがこにもかも
      蜂屋宣朗  誰子尓毛(いづれのこにも) とあった。
            たがこにも と誤伝
            多我子尓毛 と書かれる
      釈注  多は京の誤写 都の子にも

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3755
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]宇流波之等 安我毛布伊毛乎 山川乎 奈可尓敝奈里弖 夜須家久毛奈之
#[訓読]愛しと我が思ふ妹を山川を中にへなりて安けくもなし
#[仮名],うるはしと,あがもふいもを,やまかはを,なかにへなりて,やすけくもなし
#[左注](右十三首中臣朝臣宅守)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,羈旅,配流,恋情,悲別,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]いとしいと自分が思う妹なのに山川を中に隔てて安らかな気持ちもない
#{語釈]
山川を中にへなりて
04/0601H01心ゆも我は思はずき山川も隔たらなくにかく恋ひむとは
17/3957H04来し日の極み 玉桙の 道をた遠み 山川の 隔りてあれば

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3756
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]牟可比為弖 一日毛於知受 見之可杼母 伊等波奴伊毛乎 都奇和多流麻弖
#[訓読]向ひ居て一日もおちず見しかども厭はぬ妹を月わたるまで
#[仮名],むかひゐて,ひとひもおちず,みしかども,いとはぬいもを,つきわたるまで
#[左注](右十三首中臣朝臣宅守)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,羈旅,配流,恋情,悲別,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]向き合って一日も欠かさず会っていてもイヤだとは思わない妹なのに幾月も会わないでいて
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3757
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]安我<未>許曽 世伎夜麻<故>要弖 許己尓安良米 許己呂波伊毛尓 与里尓之母能乎
#[訓読]我が身こそ関山越えてここにあらめ心は妹に寄りにしものを
#[仮名],あがみこそ,せきやまこえて,ここにあらめ,こころはいもに,よりにしものを
#[左注](右十三首中臣朝臣宅守)
#[校異]末 -> 未 [類][紀][細] / 許 -> 故 [類][紀][細]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,羈旅,配流,恋情,悲別,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]自分の身こそ関山を越えてここ(越前)にあるだろう。心は妹に寄っているものなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3758
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]佐須太氣能 大宮人者 伊麻毛可母 比等奈夫理能<未> 許能美多流良武 [一云 伊麻左倍也]
#[訓読]さす竹の大宮人は今もかも人なぶりのみ好みたるらむ [一云 今さへや]
#[仮名],さすだけの,おほみやひとは,いまもかも,ひとなぶりのみ,このみたるらむ,[いまさへや]
#[左注](右十三首中臣朝臣宅守)
#[校異]美 -> 未 [類][紀][細]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,枕詞,贈答,羈旅,配流,怨恨,異伝,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]さす竹の大宮人は今もだろうか。人をからかいなぶることばかり好んでいるのだろうか
#{語釈]
さす竹の
02/0167H18[さす竹の 皇子の宮人 ゆくへ知らにす]
06/0955H01さす竹の大宮人の家と住む佐保の山をば思ふやも君

今もかも
08/1458H01やどにある桜の花は今もかも松風早み地に散るらむ
08/1474H01今もかも大城の山に霍公鳥鳴き響むらむ我れなけれども

人なぶり 人をなぶってからかっている 宅守の憤慨

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3759
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]多知可敝里 奈氣杼毛安礼波 之流思奈美 於毛比和夫礼弖 奴流欲之曽於保伎
#[訓読]たちかへり泣けども我れは験なみ思ひわぶれて寝る夜しぞ多き
#[仮名],たちかへり,なけどもあれは,しるしなみ,おもひわぶれて,ぬるよしぞおほき
#[左注](右十三首中臣朝臣宅守)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,羈旅,配流,恋情,孤独,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]くりかえして泣くが自分は何の甲斐もないので、思いわびしんで寝る夜が多いことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3760
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]左奴流欲波 於保久安礼杼母 毛能毛波受 夜須久奴流欲波 佐祢奈伎母能乎
#[訓読]さ寝る夜は多くあれども物思はず安く寝る夜はさねなきものを
#[仮名],さぬるよは,おほくあれども,ものもはず,やすくぬるよは,さねなきものを
#[左注](右十三首中臣朝臣宅守)
#[校異]母毛 [紀][細](塙) 毛母
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,羈旅,配流,恋情,悲嘆,悲別,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]寝る夜は多くあるが、ものを思わないで安らかに寝る夜は本当にないものなのに
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3761
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]与能奈可能 都年能己等和利 可久左麻尓 奈<里>伎尓家良之 須恵之多祢可良
#[訓読]世の中の常のことわりかくさまになり来にけらしすゑし種から
#[仮名],よのなかの,つねのことわり,かくさまに,なりきにけらし,すゑしたねから
#[左注](右十三首中臣朝臣宅守)
#[校異]利 -> 里 [類][紀][細]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,羈旅,配流,恋情,悲嘆,自覚,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]世の中の一般の道理として、このようになったらしい。蒔いた種から
#{語釈]
かくさまに 罪を得て配流されたこと
すゑし種 種を据える 種を蒔く

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3762
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]和伎毛故尓 安布左可山乎 故要弖伎弖 奈伎都々乎礼杼 安布余思毛奈之
#[訓読]我妹子に逢坂山を越えて来て泣きつつ居れど逢ふよしもなし
#[仮名],わぎもこに,あふさかやまを,こえてきて,なきつつをれど,あふよしもなし
#[左注](右十三首中臣朝臣宅守)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,羈旅,配流,恋情,枕詞,地名,滋賀県,大津市,悲別,悲嘆,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]我妹子に逢うという逢坂山を越えて来て泣き続けているが逢う手だてもないことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3763
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]多婢等伊倍婆 許<登>尓曽夜須伎 須敝毛奈久 々流思伎多婢毛 許等尓麻左米也母
#[訓読]旅と言へば言にぞやすきすべもなく苦しき旅も言にまさめやも
#[仮名],たびといへば,ことにぞやすき,すべもなく,くるしきたびも,ことにまさめやも
#[左注](右十三首中臣朝臣宅守)
#[校異]等 -> 登 [類][紀][細]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,羈旅,配流,恋情,自覚,悲嘆,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]旅と言うと言葉にするには簡単だ。どうしようもなく苦しい旅も言葉にそれ以上に言えようか。言うことは出来ない。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3764
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]山川乎 奈可尓敝奈里弖 等保久登母 許己呂乎知可久 於毛保世和伎母
#[訓読]山川を中にへなりて遠くとも心を近く思ほせ我妹
#[仮名],やまかはを,なかにへなりて,とほくとも,こころをちかく,おもほせわぎも
#[左注](右十三首中臣朝臣宅守)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,羈旅,配流,恋情,悲別,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]山川を中に隔てて遠くあっても、心は近くにあるとお思いになれ。我妹よ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3765
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]麻蘇可我美 可氣弖之奴敝等 麻都里太須 可多美乃母能乎 比等尓之賣須奈
#[訓読]まそ鏡懸けて偲へとまつり出す形見のものを人に示すな
#[仮名],まそかがみ,かけてしぬへと,まつりだす,かたみのものを,ひとにしめすな
#[左注](右十三首中臣朝臣宅守)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,羈旅,配流,恋情,枕詞,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]まそ鏡ではないが心に懸けて思い出せと差し上げる形見のものを他人には示すなよ
#{語釈]
まつり出す たてまつり出す

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3766
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]宇流波之等 於毛比之於毛<波婆> 之多婢毛尓 由比都氣毛知弖 夜麻受之努波世
#[訓読]愛しと思ひし思はば下紐に結ひつけ持ちてやまず偲はせ
#[仮名],うるはしと,おもひしおもはば,したびもに,ゆひつけもちて,やまずしのはせ
#[左注]右十三首中臣朝臣宅守
#[校異]婆波 -> 波婆 [代匠記精撰本]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,贈答,羈旅,配流,恋情,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]いとしいと思いに思うのならば下紐に結びつけて持って絶えず自分を思い出してください
#{語釈]
結ひつけ持ちて 何を結ぶか明示されていないが、前作との連作であるとすると鏡

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3767
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]多麻之比波 安之多由布敝尓 多麻布礼杼 安我牟祢伊多之 古非能之氣吉尓
#[訓読]魂は朝夕にたまふれど我が胸痛し恋の繁きに
#[仮名],たましひは,あしたゆふへに,たまふれど,あがむねいたし,こひのしげきに
#[左注](右八首娘子)
#[校異]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,恋情,悲別,悲嘆,女歌,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]あなたの魂は朝夕にいただいているが、自分の胸は痛いことだ。恋が激しいので
#{語釈]
魂 遊離魂
たまふれど 賜う こちらにいただいている
      神田秀夫 魂触れ 鎮魂祭をして鎮めるが
      釈注 魂合いの信仰の存在が知られる

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3768
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]己能許呂波 君乎於毛布等 須敝毛奈伎 古非能<未>之都々 <祢>能<未>之曽奈久
#[訓読]このころは君を思ふとすべもなき恋のみしつつ音のみしぞ泣く
#[仮名],このころは,きみをおもふと,すべもなき,こひのみしつつ,ねのみしぞなく
#[左注](右八首娘子)
#[校異]末 -> 未 [紀][温][矢] / 弥 -> 祢 [紀][細][温] / 末 -> 未 [紀][温][矢]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,恋情,悲別,悲嘆,女歌,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]この頃はあなたを思うとしてどうしようもない恋ばかりして声を上げて泣いていることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3769
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]奴婆多麻乃 欲流見之君乎 安久流安之多 安波受麻尓之弖 伊麻曽久夜思吉
#[訓読]ぬばたまの夜見し君を明くる朝逢はずまにして今ぞ悔しき
#[仮名],ぬばたまの,よるみしきみを,あくるあした,あはずまにして,いまぞくやしき
#[左注](右八首娘子)
#[校異]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,枕詞,後悔,恋情,悲別,女歌,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜に逢ったあなたを明けた朝に逢わないままにあって今になって悔しいことだ
#{語釈]
朝逢はずまにして 少しでも逢える時間を作っておかなかったことへの後悔
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3770
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]安治麻野尓 屋杼礼流君我 可反里許武 等伎能牟可倍乎 伊都等可麻多武
#[訓読]味真野に宿れる君が帰り来む時の迎へをいつとか待たむ
#[仮名],あぢまのに,やどれるきみが,かへりこむ,ときのむかへを,いつとかまたむ
#[左注](右八首娘子)
#[校異]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,地名,福井県,武生市,悲別,恋情,女歌,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]味真野に宿っているあなたが帰ってくる時がやってくるのをいつとして待つことだろうか
#{語釈]
味真野 福井県武生市味真野町 味真野神社付近  越前国府の場所。宅守の配所か
時の迎へ 赦免帰京の時に出す迎えの使者
     赦免帰京の時に自分を迎えに来る使い
     赦免帰京の時を待ち受ける

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3771
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]宮人能 夜須伊毛祢受弖 家布々々等 麻都良武毛能乎 美要奴君可聞
#[訓読]宮人の安寐も寝ずて今日今日と待つらむものを見えぬ君かも
#[仮名],みやひとの,やすいもねずて,けふけふと,まつらむものを,みえぬきみかも
#[左注](右八首娘子)
#[校異]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,恋情,悲別,大赦,女歌,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]宮仕えの人が安眠もしないで今日か今日かと待っているものなのに、現れないあなたであることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3772
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]可敝里家流 比等伎多礼里等 伊比之可婆 保等保登之尓吉 君香登於毛比弖
#[訓読]帰りける人来れりと言ひしかばほとほと死にき君かと思ひて
#[仮名],かへりける,ひときたれりと,いひしかば,ほとほとしにき,きみかとおもひて
#[左注](右八首娘子)
#[校異]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,恋情,悲別,大赦,女歌,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]帰って来た人がやって来たと言ったので、うれしくてほとんど死ぬばかりの思いをした。あなたかと思って
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3773
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]君我牟多 由可麻之毛能乎 於奈自許等 於久礼弖乎礼杼 与伎許等毛奈之
#[訓読]君が共行かましものを同じこと後れて居れどよきこともなし
#[仮名],きみがむた,ゆかましものを,おなじこと,おくれてをれど,よきこともなし
#[左注](右八首娘子)
#[校異]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,恋情,悲別,大赦,女歌,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]あなたと一緒に行けばよかったのに。都にいても苦しさは同じことだ。よいこともない
#{語釈]
君が共
12/3078H01波の共靡く玉藻の片思に我が思ふ人の言の繁けく
12/3178H01国遠み思ひなわびそ風の共雲の行くごと言は通はむ
15/3661H01風の共寄せ来る波に漁りする海人娘子らが裳の裾濡れぬ

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3774
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]和我世故我 可反里吉麻佐武 等伎能多米 伊能知能己佐牟 和須礼多麻布奈
#[訓読]我が背子が帰り来まさむ時のため命残さむ忘れたまふな
#[仮名],わがせこが,かへりきまさむ,ときのため,いのちのこさむ,わすれたまふな
#[左注]右八首娘子
#[校異]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,恋情,悲別,期待,大赦,女歌,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]我が背子がお帰りになる時のために命を残そう。お忘れになるなよ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3775
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]安良多麻能 等之能乎奈我久 安波射礼杼 家之伎己許呂乎 安我毛波奈久尓
#[訓読]あらたまの年の緒長く逢はざれど異しき心を我が思はなくに
#[仮名],あらたまの,としのをながく,あはざれど,けしきこころを,あがもはなくに
#[左注](右二首中臣朝臣宅守)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,恋情,悲別,女歌,心変わり,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]あらたまの年月長く逢わないが、違った気持ちを自分は思ってはいないよ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3776
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]家布毛可母 美也故奈里世婆 見麻久保里 尓之能御馬屋乃 刀尓多弖良麻之
#[訓読]今日もかも都なりせば見まく欲り西の御馬屋の外に立てらまし
#[仮名],けふもかも,みやこなりせば,みまくほり,にしのみまやの,とにたてらまし
#[左注]右二首中臣朝臣宅守
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,配流,恋情,悲別,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]今日も都だったら妹を見たいと思って西の御馬屋の外に立っていることであろうに
#{語釈]
西の御馬屋  右馬寮の建物  釈注 在京時代の待ち合わせの場所か

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3777
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]伎能布家布 伎美尓安波受弖 須流須敝能 多度伎乎之良尓 祢能未之曽奈久
#[訓読]昨日今日君に逢はずてするすべのたどきを知らに音のみしぞ泣く
#[仮名],きのふけふ,きみにあはずて,するすべの,たどきをしらに,ねのみしぞなく
#[左注](右二首娘子)
#[校異]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,配流,恋情,悲別,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]昨日、今日はあなたに逢わなくてどうすることも出来なくて、声を上げてばかり泣くことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3778
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]之路多<倍>乃 阿我許呂毛弖乎 登里母知弖 伊波敝和我勢古 多太尓安布末R尓
#[訓読]白栲の我が衣手を取り持ちて斎へ我が背子直に逢ふまでに
#[仮名],しろたへの,あがころもでを,とりもちて,いはへわがせこ,ただにあふまでに
#[左注]右二首娘子
#[校異]信 -> 倍 [西(訂正)][類][紀][細]
#[鄣W],作者:狭野弟上娘子,天平12年,年紀,枕詞,恋情,期待,女歌,中臣宅守
#[訓異]
#[大意]白妙の自分の衣手を取り持って潔斎をしなさいよ。我が背子よ。直接逢うまでは
#{語釈]
白栲の我が衣手 3751 形見の衣

#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3779
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]和我夜度乃 波奈多知<婆>奈波 伊多都良尓 知利可須具良牟 見流比等奈思尓
#[訓読]我が宿の花橘はいたづらに散りか過ぐらむ見る人なしに
#[仮名],わがやどの,はなたちばなは,いたづらに,ちりかすぐらむ,みるひとなしに
#[左注](右七首中臣朝臣宅守寄花鳥陳思作歌)
#[校異]波 -> 婆 [類][紀][細]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,植物,譬喩,恋情,悲別,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]都の我が家の花橘は無駄に散り過ぎてしまうだろうか。見る人もなくて
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3780
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]古非之奈婆 古非毛之祢等也 保等登藝須 毛能毛布等伎尓 伎奈吉等余牟流
#[訓読]恋ひ死なば恋ひも死ねとや霍公鳥物思ふ時に来鳴き響むる
#[仮名],こひしなば,こひもしねとや,ほととぎす,ものもふときに,きなきとよむる
#[左注](右七首中臣朝臣宅守寄花鳥陳思作歌)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,動物,恋情,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]恋い死ぬならば恋いも死ねというのだろうか。ほととぎすよ。もの思いをしているときにやって来て鳴き響かせるのは
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3781
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]多婢尓之弖 毛能毛布等吉尓 保等登藝須 毛等奈那難吉曽 安我古非麻左流
#[訓読]旅にして物思ふ時に霍公鳥もとなな鳴きそ我が恋まさる
#[仮名],たびにして,ものもふときに,ほととぎす,もとなななきそ,あがこひまさる
#[左注](右七首中臣朝臣宅守寄花鳥陳思作歌)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,動物,羈旅,配流,恋情,怨恨,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]旅にあって物思いをしている時ににほととぎすよ。むやみに鳴くなよ。自分がますます恋しくなるから
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3782
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]安麻其毛理 毛能母布等伎尓 保等登藝須 和我須武佐刀尓 伎奈伎等余母須
#[訓読]雨隠り物思ふ時に霍公鳥我が住む里に来鳴き響もす
#[仮名],あまごもり,ものもふときに,ほととぎす,わがすむさとに,きなきとよもす
#[左注](右七首中臣朝臣宅守寄花鳥陳思作歌)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,動物,羈旅,配流,恋情,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]雨に降り籠められてもの思いをしている時に、霍公鳥よ。自分が住む里にやって来て響かせる
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3783
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]多婢尓之弖 伊毛尓古布礼婆 保登等伎須 和我須武佐刀尓 許<欲>奈伎和多流
#[訓読]旅にして妹に恋ふれば霍公鳥我が住む里にこよ鳴き渡る
#[仮名],たびにして,いもにこふれば,ほととぎす,わがすむさとに,こよなきわたる
#[左注](右七首中臣朝臣宅守寄花鳥陳思作歌)
#[校異]余 -> 欲 [類][細]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,動物,恋情,羈旅,配流,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]旅にあって妹に恋い思っていると霍公鳥が自分の住む里にここを通って鳴き渡ることだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]


#[番号]15/3784
#[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)
#[原文]許己呂奈伎 登里尓曽安利家流 保登等藝須 毛能毛布等伎尓 奈久倍吉毛能可
#[訓読]心なき鳥にぞありける霍公鳥物思ふ時に鳴くべきものか
#[仮名],こころなき,とりにぞありける,ほととぎす,ものもふときに,なくべきものか
#[左注](右七首中臣朝臣宅守寄花鳥陳思作歌)
#[校異]
#[鄣W],作者:中臣宅守,天平12年,年紀,動物,恋情,羈旅,配流,怨恨,狭野弟上娘子
#[訓異]
#[大意]心のない鳥であることだ。霍公鳥よ。もの思いをしている時に鳴いてよいものか
#{語釈]
#[説明]
類想
08/1476H01ひとり居て物思ふ宵に霍公鳥こゆ鳴き渡る心しあるらし
17/3912H01霍公鳥何の心ぞ橘の玉貫く月し来鳴き響むる

#[関連論文]