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万葉集 巻第18
#[番号]18/4033
#[番号]18/4034
#[番号]18/4035
#[番号]18/4036
#[番号]18/4037
#[番号]18/4038
#[番号]18/4039
#[番号]18/4040
#[番号]18/4041
#[番号]18/4042
#[番号]18/4043
#[番号]18/4044
#[番号]18/4045
#[番号]18/4046
#[番号]18/4047
#[番号]18/4048
#[番号]18/4049
#[番号]18/4050
#[番号]18/4051
#[番号]18/4052
#[番号]18/4053
#[番号]18/4054
#[番号]18/4055
#[番号]18/4056
#[番号]18/4057
#[番号]18/4058
#[番号]18/4059
#[番号]18/4060
#[番号]18/4061
#[番号]18/4062
#[番号]18/4063
#[番号]18/4064
#[番号]18/4065
#[番号]18/4066
#[番号]18/4067
#[番号]18/4068
#[番号]18/4069
#[番号]18/4070
#[番号]18/4071
#[番号]18/4072
#[番号]18/4073D
#[番号]18/4074
#[番号]18/4075
#[番号]18/4076
#[番号]18/4077
#[番号]18/4078
#[番号]18/4079
#[番号]18/4080
#[番号]18/4081
#[番号]18/4082
#[番号]18/4083
#[番号]18/4084
#[番号]18/4085
#[番号]18/4086
#[番号]18/4087
#[番号]18/4088
#[番号]18/4089
#[番号]18/4090
#[番号]18/4091
#[番号]18/4092
#[番号]18/4093
#[番号]18/4094
#[番号]18/4095
#[番号]18/4096
#[番号]18/4097
#[番号]18/4098
#[番号]18/4099
#[番号]18/4100
#[番号]18/4101
#[番号]18/4102
#[番号]18/4103
#[番号]18/4104
#[番号]18/4105
#[番号]18/4106d
#[番号]18/4106
#[番号]18/4107
#[番号]18/4108
#[番号]18/4109
#[番号]18/4110
#[番号]18/4111
#[番号]18/4032
#[題詞]天平廿年春三月廾三日左大臣橘家之使者造酒司令史田<邊>福麻呂饗于守大伴宿祢家持舘爰作新歌并便誦古詠各述心緒
#[原文]奈呉乃宇美尓 布祢之麻志可勢 於伎尓伊泥弖 奈美多知久夜等 見底可敝利許牟
#[訓読]奈呉の海に舟しまし貸せ沖に出でて波立ち来やと見て帰り来む
#[仮名],なごのうみに,ふねしましかせ,おきにいでて,なみたちくやと,みてかへりこむ
#[左注](右四首田邊史福麻呂)
#[校異]邊史 -> 邊 [元][類][細]
#[鄣W],天平20年3月23日,作者:田辺福麻呂,地名,高岡,富山,宴席,挨拶,大伴家持,年紀
#[訓異]
#[大意]奈呉の海に船をほんの少し貸してくれ。沖に出て波が寄せてくるかどうか見て帰ってこようから。
#{語釈]
#[説明]
田辺福麻呂の一首目の歌。
伊藤博 一望に見られた奈呉を眼前に見た宴の席での挨拶歌
福麻呂の来越の理由 来越人物としては、東大寺僧平栄、大原真人等が見えるがいずれも庄園との関係。福麻呂も橘家の家人として庄園関係で来たか。
或いは、編纂中の万葉集との関係も考えられる。
#[関連論文]
#[題詞](天平廿年春三月廾三日左大臣橘家之使者造酒司令史田<邊>福麻呂饗于守大伴宿祢家持舘爰作新歌并便誦古詠各述心緒)
#[原文]奈美多<底>波 奈呉能宇良<未>尓 余流可比乃 末奈伎孤悲尓曽 等之波倍尓家流
#[訓読]波立てば奈呉の浦廻に寄る貝の間なき恋にぞ年は経にける
#[仮名],なみたてば,なごのうらみに,よるかひの,まなきこひにぞ,としはへにける
#[左注](右四首田邊史福麻呂)
#[校異]弖 -> 底 [類][紀][温] / 末 -> 未 [万葉集古義]
#[鄣W],天平20年3月23日,作者:田辺福麻呂,宴席,挨拶,序詞,地名,高岡,富山,恋情,大伴家持,年紀
#[訓異]
#[大意]波が立つと奈呉の浦のめぐりに打ち寄せられる貝がびっしりとなるようにそのように絶え間もない恋を続けて年月が経ったことだ
#{語釈]
間なき 原文「末」例外的な用字。 平安朝の補修時のもの
#[説明]
前歌に続けて、家持への恋情を歌ったもの。
天平十九年五月に家持が税帳使として帰京した折り以来のことか。
#[関連論文]
#[題詞](天平廿年春三月廾三日左大臣橘家之使者造酒司令史田<邊>福麻呂饗于守大伴宿祢家持舘爰作新歌并便誦古詠各述心緒)
#[原文]奈呉能宇美尓 之保能波夜非波 安佐里之尓 伊<泥>牟等多豆波 伊麻曽奈久奈流
#[訓読]奈呉の海に潮の早干ばあさりしに出でむと鶴は今ぞ鳴くなる
#[仮名],なごのうみに,しほのはやひば,あさりしに,いでむとたづは,いまぞなくなる
#[左注](右四首田邊史福麻呂)
#[校異]R -> 泥 [元][類][紀][細]
#[鄣W],天平20年3月23日,作者:田辺福麻呂,地名,高岡,富山,動物,叙景,宴席,挨拶,大伴家持,年紀
#[訓異]
#[大意]奈呉の海に潮が早く干いたならば、餌をあさりに出ようと鶴は今さかんに鳴いていることだ。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](天平廿年春三月廾三日左大臣橘家之使者造酒司令史田<邊>福麻呂饗于守大伴宿祢家持舘爰作新歌并便誦古詠各述心緒)
#[原文]保等登藝須 伊等布登伎奈之 安夜賣具左 加豆良尓<勢>武日 許由奈伎和多礼
#[訓読]霍公鳥いとふ時なしあやめぐさかづらにせむ日こゆ鳴き渡れ
#[仮名],ほととぎす,いとふときなし,あやめぐさ,かづらにせむひ,こゆなきわたれ
#[左注]右四首田邊史福麻呂
#[校異]藝 -> 勢 [細]
#[鄣W],天平20年3月23日,作者:田辺福麻呂,動物,植物,叙景,宴席,挨拶,大伴家持,年紀
#[訓異]
#[大意]霍公鳥よ。いやだと思う時はない。だからあやめ草をかづらにする日にはここを通って鳴いてくれ。
#{語釈]
いとふ時 いやだと思う
かづらにせむ日 五月五日の端午の節句
#[説明]
古歌の転用
10/1955H01霍公鳥いとふ時なしあやめぐさかづらにせむ日こゆ鳴き渡れ
#[関連論文]
#[題詞]于時期之明日将遊覧布勢水海仍述懐各作歌
#[原文]伊可尓安流 布勢能宇良曽毛 許己太久尓 吉民我弥世武等 和礼乎等登牟流
#[訓読]いかにある布勢の浦ぞもここだくに君が見せむと我れを留むる
#[仮名],いかにある,ふせのうらぞも,ここだくに,きみがみせむと,われをとどむる
#[左注]右一首田邊史福麻呂 ( / 前件十首歌者廿四日宴作之 )
#[校異]
#[鄣W],天平20年3月24日,作者:田辺福麻呂,地名,氷見,富山,土地讃美,遊覧,宴席,年紀
#[訓異]
#[大意]どのようにある布勢の浦であるのか。こんなにも熱心にあなたが見せようと自分を引き留めるのは。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](于時期之明日将遊覧布勢水海仍述懐各作歌)
#[原文]乎敷乃佐吉 許藝多母等保里 比祢毛須尓 美等母安久倍伎 宇良尓安良奈久尓 [一云 伎美我等波須母]
#[訓読]乎布の崎漕ぎた廻りひねもすに見とも飽くべき浦にあらなくに [一云 君が問はすも]
#[仮名],をふのさき,こぎたもとほり,ひねもすに,みともあくべき,うらにあらなくに,[きみがとはすも]
#[左注]右一首守大伴宿祢家持 ( / 前件十首歌者廿四日宴作之 )
#[校異]
#[鄣W],天平20年3月24日,作者:大伴家持,地名,氷見,布施,富山,土地讃美,宴席,年紀
#[訓異]
#[大意]乎布の崎を漕ぎ廻って一日中見ていたとしても見飽きることのない浦ではないのですよ。あなたがお問いになることだ
#{語釈]
乎布の崎
17/3993H10袖振り返し あどもひて 我が漕ぎ行けば 乎布の崎
18/4037H01乎布の崎漕ぎた廻りひねもすに見とも飽くべき浦にあらなくに
18/4049H01おろかにぞ我れは思ひし乎布の浦の荒礒の廻り見れど飽かずけり
19/4187H02布勢の海に 小舟つら並め ま櫂掛け い漕ぎ廻れば 乎布の浦に
伊藤博 福麻呂の布勢の浦を受けた家持の歌であるが、乎布の崎が唐突に出ていて、福麻呂は予備知識がないとわからない。おそらく、布勢水海賦と池主の和賦とで知っていたのであろう。
第六句について 代匠記「第二句の異なり」
全釈「福麻呂は布勢の浦を問うたのであって、乎布の崎を言ったのではない。この句は六句目であって、仏足石歌体になっているか」
伊藤博 福麻呂は家持の布勢水海賦によって、乎布崎を認識していたとするならば、福麻呂歌と家持歌との間には、何らかの説明があったわけで、第二句と見てかまわない。
あなたも宣告ご承知のその浦の乎布の崎について、あなたとしてからが今更お尋ねになる。日がな一日見ても見飽きるような浦ではないのですぞ。そこは。
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](于時期之明日将遊覧布勢水海仍述懐各作歌)
#[原文]多麻久之氣 伊都之可安氣牟 布勢能宇美能 宇良乎由伎都追 多麻母比利波牟
#[訓読]玉櫛笥いつしか明けむ布勢の海の浦を行きつつ玉も拾はむ
#[仮名],たまくしげ,いつしかあけむ,ふせのうみの,うらをゆきつつ,たまもひりはむ
#[左注](右五首田邊史福麻呂 / 前件十首歌者廿四日宴作之 )
#[校異]
#[鄣W],天平20年3月24日,作者:田辺福麻呂,地名,枕詞,氷見,富山,土地讃美,宴席,年紀
#[訓異]
#[大意]玉櫛笥ではないが、いつになったら夜が明けるのだろう。布勢の海の浦を行きながら玉でも拾おう。
#{語釈]
玉櫛笥 「開ける」の枕詞
#[説明]
同様の歌
10/1873H01いつしかもこの夜の明けむ鴬の木伝ひ散らす梅の花見む
前の家持歌を受けた。
玉は都への土産にするためのもの。
#[関連論文]
#[題詞](于時期之明日将遊覧布勢水海仍述懐各作歌)
#[原文]於等能未尓 伎吉底目尓見奴 布勢能宇良乎 見受波能保良自 等之波倍奴等母
#[訓読]音のみに聞きて目に見ぬ布勢の浦を見ずは上らじ年は経ぬとも
#[仮名],おとのみに,ききてめにみぬ,ふせのうらを,みずはのぼらじ,としはへぬとも
#[左注](右五首田邊史福麻呂 / 前件十首歌者廿四日宴作之 )
#[校異]
#[鄣W],天平20年3月24日,作者:田辺福麻呂,土地讃美,地名,氷見,富山,うわさ,宴席,年紀
#[訓異]
#[大意]うわさにばかり聞いて直接目には見たことのない布勢の浦を見ないでは都には上るまい。たとえ年月が経ったとしても
#{語釈]
#[説明]
家持の布勢水海遊覧賦を福麻呂は見ている。
#[関連論文]
#[題詞](于時期之明日将遊覧布勢水海仍述懐各作歌)
#[原文]布勢能宇良乎 由<吉>底之見弖婆 毛母之綺能 於保美夜比等尓 可多利都藝底牟
#[訓読]布勢の浦を行きてし見てばももしきの大宮人に語り継ぎてむ
#[仮名],ふせのうらを,ゆきてしみてば,ももしきの,おほみやひとに,かたりつぎてむ
#[左注](右五首田邊史福麻呂 / 前件十首歌者廿四日宴作之 )
#[校異]伎 -> 吉 [元][類]
#[鄣W],天平20年3月24日,作者:田辺福麻呂,地名,土地讃美,枕詞,富山,氷見,宴席,年紀
#[訓異]
#[大意]布勢の浦を行って実際に見たならばももしきの大宮人に話し伝えよう
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](于時期之明日将遊覧布勢水海仍述懐各作歌)
#[原文]宇梅能波奈 佐伎知流曽能尓 和礼由可牟 伎美我都可比乎 可多麻知我底良
#[訓読]梅の花咲き散る園に我れ行かむ君が使を片待ちがてら
#[仮名],うめのはな,さきちるそのに,われゆかむ,きみがつかひを,かたまちがてら
#[左注](右五首田邊史福麻呂 / 前件十首歌者廿四日宴作之 )
#[校異]
#[鄣W],天平20年3月24日,作者:田辺福麻呂,植物,宴席,年紀
#[訓異]
#[大意]梅の花が咲き散る園に自分は行こう。あなたの使いを一方では待ちながら
#{語釈]
#[説明]
古歌の転用
10/1900H01梅の花咲き散る園に我れ行かむ君が使を片待ちがてり
注釈引用 和田徳一 「園」という地名に引きつけられて詠んだ。
#[関連論文]
#[題詞](于時期之明日将遊覧布勢水海仍述懐各作歌)
#[原文]敷治奈美能 佐伎由久見礼婆 保等登<藝>須 奈久倍<吉>登伎尓 知可豆伎尓家里
#[訓読]藤波の咲き行く見れば霍公鳥鳴くべき時に近づきにけり
#[仮名],ふぢなみの,さきゆくみれば,ほととぎす,なくべきときに,ちかづきにけり
#[左注]右五首田邊史福麻呂 ( / 前件十首歌者廿四日宴作之 )
#[校異]伎 -> 藝 [元][類][紀][細] / 伎 -> 吉 [元][類]
#[鄣W],天平20年3月24日,作者:田辺福麻呂,年紀,植物,動物,宴席,季節
#[訓異]
#[大意]藤波の咲いて行くのを見ると霍公鳥が鳴くような時に近づいたことだ
#{語釈]
藤波 藤の花房が多く集まっている様子を波に見立てた
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](于時期之明日将遊覧布勢水海仍述懐各作歌)
#[原文]安須能比能 敷勢能宇良<未>能 布治奈美尓 氣太之伎奈可<受> 知良之底牟可母 [一頭云 保等登藝須]
#[訓読]明日の日の布勢の浦廻の藤波にけだし来鳴かず散らしてむかも [一頭云 霍公鳥]
#[仮名],あすのひの,ふせのうらみの,ふぢなみに,けだしきなかず,ちらしてむかも,[ほととぎす]
#[左注]右一首大伴宿祢家持和之 / 前件十首歌者廿四日宴作之
#[校異]末 -> 未 [万葉集古義] / 須 -> 受 [元][類]
#[鄣W],天平20年3月24日,作者:大伴家持,年紀,宴席,地名,氷見,富山,植物,動物,季節
#[訓異]
#[大意]明日の日の布勢の浦の廻りの藤波にもしかしてやって来ては鳴かないで散らせてしまうことだろうか [一頭に 霍公鳥]
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]廿五日徃布勢水海道中馬上口号二首
#[原文]波萬部余里 和我宇知由可波 宇美邊欲<里> 牟可倍母許奴可 安麻能都里夫祢
#[訓読]浜辺より我が打ち行かば海辺より迎へも来ぬか海人の釣舟
#[仮名],はまへより,わがうちゆかば,うみへより,むかへもこぬか,あまのつりぶね
#[左注](前件十五首歌者廿五日作之)
#[校異]部 [元] 「へ」 (楓) / 利 -> 里 [元][類]
#[鄣W],天平20年3月25日,年紀,作者:大伴家持,土地讃美,叙景,富山,氷見
#[訓異]
#[大意]浜辺から自分がうち行くと海辺から迎えも来ないだろうか海人の釣舟よ。
#{語釈]
#[説明]
渋谷に崎経由で右手に海を見ながら行って、漁船が多く海に浮かんでいる様子を趣向を凝らしていったもの。
#[関連論文]
#[題詞](廿五日徃布勢水海道中馬上口号二首)
#[原文]於伎敝欲里 美知久流之保能 伊也麻之尓 安我毛布支見我 弥不根可母加礼
#[訓読]沖辺より満ち来る潮のいや増しに我が思ふ君が御船かもかれ
#[仮名],おきへより,みちくるしほの,いやましに,あがもふきみが,みふねかもかれ
#[左注](前件十五首歌者廿五日作之)
#[校異]
#[鄣W],天平20年3月25日,年紀,作者:大伴家持,恋情,富山,氷見
#[訓異]
#[大意]沖のあたりから満ちてくる潮のようにますます増して自分が大事に思うあなたの御船だろうか。あれは。
#{語釈]
#[説明]
実際に海に浮かぶ船を見て、前の歌に続けたもの。
作者は、福麻呂と見ることも出来る。
類歌
04/0617H01葦辺より満ち来る潮のいや増しに思へか君が忘れかねつる
#[関連論文]
#[題詞]至水海遊覧之時各述懐作歌
#[原文]可牟佐夫流 多流比女能佐吉 許支米具利 見礼登<毛>安可受 伊加尓和礼世牟
#[訓読]神さぶる垂姫の崎漕ぎ廻り見れども飽かずいかに我れせむ
#[仮名],かむさぶる,たるひめのさき,こぎめぐり,みれどもあかず,いかにわれせむ
#[左注]右一首田邊史福麻呂 ( / 前件十五首歌者廿五日作之)
#[校異]裳 -> 毛 [元]
#[鄣W],天平20年3月25日,作者:田辺福麻呂,年紀,地名,氷見,富山,土地讃美,遊覧,宴席
#[訓異]
#[大意]神々しい垂姫の崎を漕ぎ廻って、見ても見飽きることがない。どのように自分はしようか。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](至水海遊覧之時各述懐作歌)
#[原文]多流比賣野 宇良乎許藝都追 介敷乃日波 多努之久安曽敝 移比都支尓勢<牟>
#[訓読]垂姫の浦を漕ぎつつ今日の日は楽しく遊べ言ひ継ぎにせむ
#[仮名],たるひめの,うらをこぎつつ,けふのひは,たのしくあそべ,いひつぎにせむ
#[左注]右一首遊行女婦土師 ( / 前件十五首歌者廿五日作之)
#[校異]牟 [西(上書訂正)][元][類][古][紀]
#[鄣W],天平20年3月25日,作者:遊行女婦土師,年紀,地名,氷見,富山,土地讃美,遊覧,宴席
#[訓異]
#[大意]垂姫の浦を漕ぎながら今日の日は楽しく遊びましょう。後々に言い継ぎにしましょう。
#{語釈]
#[説明]
遊覧讃美の歌。
#[関連論文]
#[題詞](至水海遊覧之時各述懐作歌)
#[原文]多流比女能 宇良乎許具不祢 可治末尓母 奈良野和藝<弊>乎 和須礼氐於毛倍也
#[訓読]垂姫の浦を漕ぐ舟梶間にも奈良の我家を忘れて思へや
#[仮名],たるひめの,うらをこぐふね,かぢまにも,ならのわぎへを,わすれておもへや
#[左注]右一首大伴家持 ( / 前件十五首歌者廿五日作之)
#[校異]敝 -> 弊 [元][類][紀]
#[鄣W],天平20年3月25日,作者:大伴家持,年紀,序詞,地名,氷見,富山,望郷,奈良,宴席,遊覧
#[訓異]
#[大意]垂姫の浦を漕ぐ船の楫の間にも奈良の我が家を忘れて思うことがあろうか。
#{語釈]
奈良の 原文「野」 仮名遣いが乱れている。
#[説明]
讃美の歌の続きに望郷の歌。
#[関連論文]
#[題詞](至水海遊覧之時各述懐作歌)
#[原文]於呂可尓曽 和礼波於母比之 乎不乃宇良能 安利蘇野米具利 見礼度安可須介利
#[訓読]おろかにぞ我れは思ひし乎布の浦の荒礒の廻り見れど飽かずけり
#[仮名],おろかにぞ,われはおもひし,をふのうらの,ありそのめぐり,みれどあかずけり
#[左注]右一首田邊史福麻呂 ( / 前件十五首歌者廿五日作之)
#[校異]
#[鄣W],天平20年3月25日,作者:田辺福麻呂,年紀,土地讃美,地名,氷見,富山,遊覧,宴席
#[訓異]
#[大意]いい加減に自分は思っていた。乎布の浦の荒磯のまわりを見ても飽きることはない。
#{語釈]
おろかに おろそかに いい加減に
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](至水海遊覧之時各述懐作歌)
#[原文]米豆良之伎 吉美我伎麻佐婆 奈家等伊比之 夜麻保<登等>藝須 奈尓加伎奈可奴
#[訓読]めづらしき君が来まさば鳴けと言ひし山霍公鳥何か来鳴かぬ
#[仮名],めづらしき,きみがきまさば,なけといひし,やまほととぎす,なにかきなかぬ
#[左注]右一首掾久米朝臣廣縄 ( / 前件十五首歌者廿五日作之)
#[校異]等登 -> 登等 [元][類]
#[鄣W],天平20年3月25日,作者:久米広縄,年紀,動物,宴席,遊覧,氷見,富山
#[訓異]
#[大意]心引かれるあなたがいらっしゃったならば、鳴けと言った山霍公鳥はどうしてやって来て鳴かないのか
#{語釈]
めづらし 心引かれる
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](至水海遊覧之時各述懐作歌)
#[原文]多胡乃佐伎 許能久礼之氣尓 保登等藝須 伎奈伎等余米<婆> 波太古非米夜母
#[訓読]多古の崎木の暗茂に霍公鳥来鳴き響めばはだ恋ひめやも
#[仮名],たこのさき,このくれしげに,ほととぎす,きなきとよめば,はだこひめやも
#[左注]右一首大伴宿祢家持 / 前件十五首歌者廿五日作之
#[校異]波 -> 婆 [元]
#[鄣W],天平20年3月25日,作者:大伴家持,年紀,地名,氷見,富山,動物,宴席,遊覧
#[訓異]
#[大意]多胡の崎の木が暗いばかりに茂っているところに霍公鳥がやって来て鳴き響かせるとこんなにひどく恋い思うということがあろうか。
#{語釈]
木の暗茂に 木の葉がこんもりと茂って暗くなっている所
はだ はなはだ ひどく
前件十五首歌者廿五日作之 4044からの注。歌数が合わない。脱落したか。
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]掾久米朝臣廣縄之舘饗田邊史福麻呂宴歌四首
#[原文]保登等藝須 伊麻奈可受之弖 安須古要牟 夜麻尓奈久等母 之流思安良米夜母
#[訓読]霍公鳥今鳴かずして明日越えむ山に鳴くとも験あらめやも
#[仮名],ほととぎす,いまなかずして,あすこえむ,やまになくとも,しるしあらめやも
#[左注]右一首田邊史福麻呂 ( / 前<件>歌者廿六日作之)
#[校異]
#[鄣W],天平20年3月26日,作者:田辺福麻呂,年紀,動物,宴席,久米広縄,季節,高岡,富山
#[訓異]
#[大意]霍公鳥は今鳴かないで、明日に越えるであろう山に鳴いたとしても、効果があろうか。
#{語釈]
明日越えむ 明日、帰京するので越えるであろう山
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](掾久米朝臣廣縄之舘饗田邊史福麻呂宴歌四首)
#[原文]許能久礼尓 奈里奴流母能乎 保等登藝須 奈尓加伎奈可奴 伎美尓安敝流等吉
#[訓読]木の暗になりぬるものを霍公鳥何か来鳴かぬ君に逢へる時
#[仮名],このくれに,なりぬるものを,ほととぎす,なにかきなかぬ,きみにあへるとき
#[左注]右一首久米朝臣廣縄 ( / 前<件>歌者廿六日作之)
#[校異]
#[鄣W],天平20年3月26日,作者:久米広縄,年紀,田辺福麻呂,宴席,動物,高岡,富山
#[訓異]
#[大意]木がこんもりと繁って暗くなるような季節になったのに、霍公鳥よ。どうしてやって来て鳴かないのか。あなたに会っている時であるのに
#{語釈]
木の暗になりぬるものを 家持の4051を踏まえる
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](掾久米朝臣廣縄之舘饗田邊史福麻呂宴歌四首)
#[原文]保等登藝須 許欲奈枳和多礼 登毛之備乎 都久欲尓奈蘇倍 曽能可氣母見牟
#[訓読]霍公鳥こよ鳴き渡れ燈火を月夜になそへその影も見む
#[仮名],ほととぎす,こよなきわたれ,ともしびを,つくよになそへ,そのかげもみむ
#[左注](右二首大伴宿祢家持 / 前<件>歌者廿六日作之)
#[校異]
#[鄣W],天平20年3月26日,作者:大伴家持,年紀,久米広縄,田辺福麻呂,動物,宴席,高岡,富山
#[訓異]
#[大意]霍公鳥よ。ここから鳴き渡りなさいよ。燈火を月の光になぞえて、その姿も見ようから
#{語釈]
燈火を月夜になそへ 全集 旧暦3月26日は午前二時頃までは月が出ない。燈火を月に見立てる。
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](掾久米朝臣廣縄之舘饗田邊史福麻呂宴歌四首)
#[原文]可敝流<未>能 美知由可牟日波 伊都波多野 佐<可>尓蘇泥布礼 和礼乎事於毛<波>婆
#[訓読]可敝流廻の道行かむ日は五幡の坂に袖振れ我れをし思はば
#[仮名],かへるみの,みちゆかむひは,いつはたの,さかにそでふれ,われをしおもはば
#[左注]右二首大伴宿祢家持 / 前<件>歌者廿六日作之
#[校異]末 -> 未 [万葉集古義] / 波 [元][類] 婆 / 加 -> 可 [元][類][古] / 婆 -> 波 [元][類][紀] / 伴 -> 件 [元][紀][細]
#[鄣W],天平20年3月25日,作者:大伴家持,年紀,地名,福井,敦賀,羈旅,別離,出発,宴席,久米広縄,田辺福麻呂,高岡,富山
#[訓異]
#[大意]可敝流のあたりの路を行く日は五幡の坂で袖を振ってくれ。自分のことを思うのならば。
#{語釈]
可敝流 福井県南条郡今庄町婦 可敝流のあたり
五幡 福井県敦賀市五幡 北から南下して今庄町(可敝流)から峠越えになる。十下を越えた所が五幡で敦賀に至る。
原文 野、事 平安朝の補修になる特殊な用字
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]太上皇御在於難波宮之時歌七首 [清足姫天皇也] / 左大臣橘宿祢歌一首
#[原文]保里江尓波 多麻之可麻之乎 大皇乎 美敷祢許我牟登 可年弖之里勢婆
#[訓読]堀江には玉敷かましを大君を御船漕がむとかねて知りせば
#[仮名],ほりえには,たましかましを,おほきみを,みふねこがむと,かねてしりせば
#[左注](右<二>首件歌者御船泝江遊宴之日左大臣奏并御製)
#[校異]
#[鄣W],作者:橘諸兄,地名,難波,大阪,宴席,歓迎,元正天皇,伝誦,行幸
#[訓異]
#[大意]堀江には玉を敷こうものなのに。大君が船遊びをなさるとあらかじめ知っていたならば
#{語釈]
太上皇 元正上皇
在於難波宮 続紀「天平十六年閏一月中旬から十月中旬で滞在
大君を 「を」感動、主格 「大皇」は巻十七以下になって初めて現れる
御船漕がむ 船遊びをする
#[説明]
歌の時期は、家持が平城故宅にいた時。福麻呂が難波にいて、この歌を伝えていた
#[関連論文]
#[題詞](太上皇御在於難波宮之時歌七首 [清足姫天皇也]) / 御製歌一首[和]
#[原文]多萬之賀受 伎美我久伊弖伊布 保里江尓波 多麻之伎美弖々 都藝弖可欲波牟 [或云 多麻古伎之伎弖]
#[訓読]玉敷かず君が悔いて言ふ堀江には玉敷き満てて継ぎて通はむ [或云 玉扱き敷きて]
#[仮名],たましかず,きみがくいていふ,ほりえには,たましきみてて,つぎてかよはむ,[たまこきしきて]
#[左注]右<二>首件歌者御船泝江遊宴之日左大臣奏并御製
#[校異]一 -> 二 [代匠記精撰本]
#[鄣W],作者:元正天皇,橘諸兄,宴席,地名,難波,大阪,異伝,推敲,伝誦,行幸
#[訓異]
#[大意]玉を敷かないとあなたが悔やんでいう堀江には自分が玉をいっぱいに敷いて何度でも通いましょう
#{語釈]
玉敷き満てて 自分が玉をいっぱいに敷きつめて
御船泝江遊宴之日 御船(みふね)江(かは)を泝(さかのぼ)り、遊宴する日
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](太上皇御在於難波宮之時歌七首 [清足姫天皇也]) / 御製歌一首
#[原文]多知婆奈能 登乎能多知<婆>奈 夜都代尓母 安礼波和須礼自 許乃多知婆奈乎
#[訓読]橘のとをの橘八つ代にも我れは忘れじこの橘を
#[仮名],たちばなの,とをのたちばな,やつよにも,あれはわすれじ,このたちばなを
#[左注](右件歌者在於左大臣橘卿之宅肆宴御歌并奏歌<也>)
#[校異]歌 [西] 謌 / 婆 -> 波 [類]
#[鄣W],作者:元正天皇,橘諸兄,宴席,肆宴,植物,寿歌,大阪,難波,伝誦,行幸
#[訓異]
#[大意]橘の実がたわわになっている橘をいつまでも自分はわすれることはないだろう。この橘を
#{語釈]
とをの橘 実がいっぱいなって枝がたわわになっている橘
10/2315H01あしひきの山道も知らず白橿の枝もとををに雪の降れれば
八つ代にも 永遠に いつまでも
20/4448H01あぢさゐの八重咲くごとく八つ代にをいませ我が背子見つつ偲はむ
#[説明]
橘家の繁栄をたたえた言い方
#[関連論文]
#[題詞](太上皇御在於難波宮之時歌七首 [清足姫天皇也]) / 河内女王歌一首
#[原文]多知婆奈能 之多泥流尓波尓 等能多弖天 佐可弥豆伎伊麻須 和我於保伎美可母
#[訓読]橘の下照る庭に殿建てて酒みづきいます我が大君かも
#[仮名],たちばなの,したでるにはに,とのたてて,さかみづきいます,わがおほきみかも
#[左注](右件歌者在於左大臣橘卿之宅肆宴御歌并奏歌<也>)
#[校異]
#[鄣W],作者:河内女王,植物,大君讃美,橘諸兄,難波,大阪,伝誦,肆宴,宴席,元正天皇,行幸
#[訓異]
#[大意]橘が明るく下を照らしている庭に御殿を建てて酒宴を催されている我が大君であるよ
#{語釈]
河内女王 高市皇子の娘 天平十一年正月 従四位上 二十年三月正四位下
宝亀十年十二月二十三日 薨 正三位
橘の下照る庭 橘の木の下が明るく照っている庭 橘家を誉め讃えて言う
06/1053H02落ちたぎつ 瀬の音も清し 鴬の 来鳴く春へは 巌には 山下光り
19/4139H01春の園紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ娘子
酒みづきいます 全釈「酒水漬坐す 酒に浸ってゐ給う 酒宴し給うこと」
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](太上皇御在於難波宮之時歌七首 [清足姫天皇也]) / 粟田女王歌一首
#[原文]都奇麻知弖 伊敝尓波由可牟 和我佐世流 安加良多知婆奈 可氣尓見要都追
#[訓読]月待ちて家には行かむ我が插せる赤ら橘影に見えつつ
#[仮名],つきまちて,いへにはゆかむ,わがさせる,あからたちばな,かげにみえつつ
#[左注]右件歌者在於左大臣橘卿之宅肆宴御歌并奏歌<也>
#[校異]<> -> 也 [紀][細]
#[鄣W],作者:粟田女王,植物,元正天皇,橘諸兄,難波,大阪,伝誦,肆宴,宴席,行幸
#[訓異]
#[大意]月の出を待って家に帰ろう。自分がかざしにしている赤く色付いた橘の実を月の光で見えながら
#{語釈]
粟田女王 家系未詳 養老七年正月 従四位下 天平十一年正月 従四位上
二十年三月 正四位上 天平宝字五年 正三位 八年五月四日 薨去
赤ら橘 赤く色づいて熟した橘の実
影 月影
右件歌 4058~4060
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](太上皇御在於難波宮之時歌七首 [清足姫天皇也]) /
#[原文]保里江欲里 水乎妣吉之都追 美布祢左須 之津乎能登母波 加波能瀬麻宇勢
#[訓読]堀江より水脈引きしつつ御船さすしづ男の伴は川の瀬申せ
#[仮名],ほりえより,みをびきしつつ,みふねさす,しつをのともは,かはのせまうせ
#[左注](右件歌者御船以綱手泝江遊宴之日作也 傳誦之人田邊史福麻呂是也)
#[校異]
#[鄣W],地名,難波,大阪,宴席,元正天皇,田辺福麻呂,伝誦,行幸,肆宴
#[訓異]
#[大意]堀江から水筋を引きながら御船に棹を指して動かす水夫たちは、川の瀬に注意して操りなさい
#{語釈]
水脈引き 水の流れる筋 航跡
御船さす 御船の棹をさす
しづ男の伴 身分の低い鮒人たち
全注 熟語として固定していたもので、賤にとくに賤しい意をこめているわけではないであろう。
川の瀬申せ 川の瀬に注意してお仕え申し上げよ
まをすと同じ 「う」は、ワ行か。
宣長 「う(宇)」は、「を(乎)」の誤りか
02/0199H31やすみしし 我が大君の 天の下 申したまへば 万代に
05/0876H01天飛ぶや鳥にもがもや都まで送りまをして飛び帰るもの
05/0879H01万世にいましたまひて天の下奏したまはね朝廷去らずて
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](太上皇御在於難波宮之時歌七首 [清足姫天皇也]) /
#[原文]奈都乃欲波 美知多豆多都之 布祢尓能里 可波乃瀬其等尓 佐乎左指能保礼
#[訓読]夏の夜は道たづたづし船に乗り川の瀬ごとに棹さし上れ
#[仮名],なつのよは,みちたづたづし,ふねにのり,かはのせごとに,さをさしのぼれ
#[左注]右件歌者御船以綱手泝江遊宴之日作也 傳誦之人田邊史福麻呂是也
#[校異]
#[鄣W],宴席,元正天皇,田辺福麻呂,伝誦,行幸,肆宴,宴席
#[訓異]
#[大意]夏の夜は道がおぼつかない。船に乗って川の瀬ごとに棹をさして登りなさい
#{語釈]
たづたづし 心もとない おぼつかない
夏の夜は草木が繁って、下が暗く道がわからない。おぼつかない意
左注 御船綱手を以て江を泝(さかの)ぼり、遊宴する日に作る也
#[説明]
全注 この二首の作者は明確にされていない。福麻呂が諸兄の立場で代作したものか
全釈 この伝誦は三月二六日久米広縄の館での遊宴でなされたもの
#[関連論文]
#[題詞]後追和橘歌二首
#[原文]等許余物能 己能多知婆奈能 伊夜弖里尓 和期大皇波 伊麻毛見流其登
#[訓読]常世物この橘のいや照りにわご大君は今も見るごと
#[仮名],とこよもの,このたちばなの,いやてりに,わごおほきみは,いまもみるごと
#[左注](右二首大伴宿祢家持作之)
#[校異]
#[鄣W],作者:大伴家持,追和,元正天皇,橘諸兄,植物,大君讃美,高岡,富山
#[訓異]
#[大意]常世物であるこの橘がますます明るく照るように、ますます明るく照り輝いて我が大君は今も見るようにいつまでも。
#{語釈]
後追和 福麻呂から伝誦歌を聞いた時ではなく、その後での意味。
宴席で興じたということではなく、襟を正して歌ったということを強調しようとしたものか。
常世物 記紀 垂仁天皇の時代 田道間守を常世の国に遣わし、橘を持ち帰らせた
18/4111H01かけまくも あやに畏し 天皇の 神の大御代に 田道間守
18/4111H02常世に渡り 八桙持ち 参ゐ出来し時 時じくの かくの木の実を
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](後追和橘歌二首)
#[原文]大皇波 等吉波尓麻佐牟 多知婆奈能 等能乃多知婆奈 比多底里尓之弖
#[訓読]大君は常磐にまさむ橘の殿の橘ひた照りにして
#[仮名],おほきみは,ときはにまさむ,たちばなの,とののたちばな,ひたてりにして
#[左注]右二首大伴宿祢家持作之
#[校異]
#[鄣W],作者:大伴家持,追和,元正天皇,橘諸兄,植物,大君讃美,追和,高岡,富山
#[訓異]
#[大意]大君は永久不変にいらっしゃるでしょう。橘家の御殿の橘の木はひたすら照り輝いて
#{語釈]
常磐にまさむ 永久不変
06/0988H01春草は後はうつろふ巌なす常盤にいませ貴き我が君
橘の殿の橘 橘家の御殿の橘の木
ひた照りにして ひたすら照る
#[説明]
家持の寿歌
#[関連論文]
#[題詞]射水郡驛舘之屋柱題著歌一首
#[原文]安佐妣良伎 伊里江許具奈流 可治能於登乃 都波良都<婆>良尓 吾家之於母保由
#[訓読]朝開き入江漕ぐなる楫の音のつばらつばらに我家し思ほゆ
#[仮名],あさびらき,いりえこぐなる,かぢのおとの,つばらつばらに,わぎへしおもほゆ
#[左注]右一首山上臣作 不審名 或云憶良大夫之男 但其正名未詳也
#[校異]波 -> 婆 [類][細]
#[鄣W],作者:山上臣(山上憶良・息子),伝誦,望郷,序詞
#[訓異]
#[大意]朝早く出航して入江を漕ぐ楫の音がつばらつばらと聞こえるように、つくづくと自分の家のことが思われる。
#{語釈]
射水の郡の驛(うまや)の舘(たち)の屋の柱に題著(しる)す歌一首
射水郡驛 新湊市六渡寺付近の亘理(わたり)駅か。國府東南、小矢部川の対岸。
題著 記す 小島憲之「動詞に附属する助字で俗語的な用法」
つばらつばらに つくづくと
03/0333H01浅茅原つばらつばらにもの思へば古りにし里し思ほゆるかも
山上臣 山上憶良のことか。
正名 正確な名前
#[説明]
福麻呂歌七首と同じ場で披露された古歌
#[関連論文]
#[題詞]四月一日掾久米朝臣廣縄之舘宴歌四首
#[原文]宇能花能 佐久都奇多知奴 保等登藝須 伎奈吉等与米余 敷布美多里登母
#[訓読]卯の花の咲く月立ちぬ霍公鳥来鳴き響めよ含みたりとも
#[仮名],うのはなの,さくつきたちぬ,ほととぎす,きなきとよめよ,ふふみたりとも
#[左注]右一首守大伴宿祢家持作之
#[校異]
#[鄣W],天平20年4月1日,作者:大伴家持,年紀,植物,久米広縄,宴席,動物,季節,高岡,富山
#[訓異]
#[大意]卯の花の咲く月が立った。霍公鳥よ。やって来て鳴き響かせなさいよ。まだ卯の花がつぼみであったとしても。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](四月一日掾久米朝臣廣縄之舘宴歌四首)
#[原文]敷多我美能 夜麻尓許母礼流 保等登藝須 伊麻母奈加奴香 伎美尓<伎>可勢牟
#[訓読]二上の山に隠れる霍公鳥今も鳴かぬか君に聞かせむ
#[仮名],ふたがみの,やまにこもれる,ほととぎす,いまもなかぬか,きみにきかせむ
#[左注]右一首遊行女婦土師作之
#[校異]妓 -> 伎 [類][京]
#[鄣W],天平20年4月1日,作者:遊行女婦土師,年紀,久米広縄,宴席,高岡,富山,地名,動物,季節
#[訓異]
#[大意]二上の山に隠っている霍公鳥よ。たった今鳴いて欲しい。君に聞かせようから。
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](四月一日掾久米朝臣廣縄之舘宴歌四首)
#[原文]乎里安加之母 許余比波能麻牟 保等登藝須 安氣牟安之多波 奈伎和多良牟曽 [二日應立夏節 故謂之明旦将喧也]
#[訓読]居り明かしも今夜は飲まむ霍公鳥明けむ朝は鳴き渡らむぞ [二日應立夏節 故謂之明旦将喧也]
#[仮名],をりあかしも,こよひはのまむ,ほととぎす,あけむあしたは,なきわたらむぞ
#[左注]右一首守大伴宿祢家持作之
#[校異]
#[鄣W],天平20年4月1日,作者:大伴家持,年紀,久米広縄,動物,季節,宴席,高岡,富山
#[訓異]
#[大意]このまま夜を明かしてでも今夜は飲もうよ。霍公鳥よ。夜が明ける朝は鳴き渡るだろうよ。
#{語釈]
居り明かしも ここにいたまま夜を明かす 寝所に行かずに徹夜する
二日は立夏の節に應(あた)る。故に明くる旦(あさ)喧かむと謂う也
#[説明]
立夏から霍公鳥が鳴くという時告げ鳥としての観念で歌ったもの
#[関連論文]
#[題詞](四月一日掾久米朝臣廣縄之舘宴歌四首)
#[原文]安須欲里波 都藝弖伎許要牟 保登等藝須 比登欲能可良尓 古非和多流加母
#[訓読]明日よりは継ぎて聞こえむ霍公鳥一夜のからに恋ひわたるかも
#[仮名],あすよりは,つぎてきこえむ,ほととぎす,ひとよのからに,こひわたるかも
#[左注]右一首羽咋郡擬主帳能登臣乙美作
#[校異]
#[鄣W],天平20年4月1日,作者:能登乙美,年紀,動物,恋情,季節,宴席,久米広縄,高岡,富山
#[訓異]
#[大意]明日よりは毎日続いて聞こえるであろう霍公鳥よ。たった一夜であるだけなのに恋い続けることであるよ。
#{語釈]
一夜のからに たった一晩がまんすればいいだけなのに
からに だけなのに
04/0624H01道に逢ひて笑まししからに降る雪の消なば消ぬがに恋ふといふ我妹
07/1197H01手に取るがからに忘ると海人の言ひし恋忘れ貝言にしありけり
羽咋郡擬主帳能登臣乙美 続日本紀養老二年五月二日「越前国の羽咋、能登、鳳至、珠洲四郡を割きて始めて能登国を置く」
天平十三年十二月「能登国を越中国に并せる」
天平宝字元年五月「能登、安房、和泉等国、旧に依りて分立す」
擬主帳 主帳に擬せられている者。主帳に準ずる役。主帳は郡の四等官(大領、少領、主政、主帳) 帳簿文書を掌る
能登臣乙美 伝未詳。崇神記 御子大入杵命は、能登臣の祖也
#[説明]
#[関連論文]
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#[題詞]詠庭中牛麦花歌一首
#[原文]比登母等能 奈泥之故宇恵之 曽能許己呂 多礼尓見世牟等 於母比曽米家牟
#[訓読]一本のなでしこ植ゑしその心誰れに見せむと思ひ始めけむ
#[仮名],ひともとの,なでしこうゑし,そのこころ,たれにみせむと,おもひそめけむ
#[左注]右先國師従僧清見可入京師 <因>設飲饌饗宴 于時主人大伴宿祢家持作此歌詞送酒清見也
#[校異]日 -> 因 [元][紀]
#[鄣W],天平21年3月,作者:大伴家持,年紀,清見,宴席,羈旅,出発,餞別,植物,別離,高岡,富山
#[訓異]
#[大意]一本のナデシコを植えたその気持ちは、誰に見せようと思い立ったからであろうか。他でもないあなたに見せようと思ったからだ。
#{語釈]
一本の 苗を植えたことを指す
牛麦 なでしこ 瞿麥、石竹
代匠記「瞿麥を牛麦とかけるは、一切経音義の第十二に云、瞿此には謂て牛と云ふ。機密蔵の経軌には遇の字をも用いたり。瞿麥の一名を南天竺草とも云えば、若しくは南天竺などより種の伝わり来て、梵漢を交えて瞿麥とは名付けたるを、瞿を牛と翻して牛麦とかける歟。云々」
先國師 先代の国分寺の主僧
従僧 従者の僧
清見 伝未詳
送酒清見 私注「『送酒』は盃をやることであろうから、家持は清見のために酌をさせながらこの歌を誦したのであろう」
#[説明]
植えたナデシコの花も見ないで別れる清見を怨む形で惜別の情を述べたもの
#[関連論文]
#[題詞]
#[原文]之奈射可流 故之能吉美良等 可久之許曽 楊奈疑可豆良枳 多努之久安蘇婆米
#[訓読]しなざかる越の君らとかくしこそ柳かづらき楽しく遊ばめ
#[仮名],しなざかる,こしのきみらと,かくしこそ,やなぎかづらき,たのしくあそばめ
#[左注]右郡司已下子弟已上諸人多集此會 因守大伴宿祢家持作此歌也
#[校異]
#[鄣W],天平21年3月,作者:大伴家持,年紀,枕詞,植物,宴席,高岡,富山
#[訓異]
#[大意]しなざかる越の君たちとこのように楊をかづらにしたりして楽しく遊ぼうよ
#{語釈]
しなざかる 越の枕詞 家持の造語
級(しな)放(さか)る で階段状に放れていく遠い越の意か
都から離れた田舎の意
17/3969H01大君の 任けのまにまに しなざかる 越を治めに 出でて来し
18/4071H01しなざかる越の君らとかくしこそ柳かづらき楽しく遊ばめ
19/4154H01あしひきの 山坂越えて 行きかはる 年の緒長く しなざかる
19/4220H03世の理と 大夫の 引きのまにまに しなざかる
19/4250H01しなざかる越に五年住み住みて立ち別れまく惜しき宵かも
越の君 越中土着の地方官人たち 「郡司已下子弟已上諸人」を指す
#[説明]
地方の宴で中国的な情緒を醸している
楊をかづらくので、春三月頃か。そうすると瞿麥も植えたばかりの苗である。
#[関連論文]
#[題詞]
#[原文]奴<婆>多麻能 欲和多流都奇乎 伊久欲布等 余美都追伊毛波 和礼麻都良牟曽
#[訓読]ぬばたまの夜渡る月を幾夜経と数みつつ妹は我れ待つらむぞ
#[仮名],ぬばたまの,よわたるつきを,いくよふと,よみつついもは,われまつらむぞ
#[左注]右此夕月光遅流和風稍扇 即因属目聊作此歌也
#[校異]波 -> 婆 [元][類]
#[鄣W],天平21年3月,作者:大伴家持,年紀,叙景,高岡,富山,枕詞,望郷
#[訓異]
#[大意]ぬばたまの夜渡っていく月。この月を眺めながら幾晩経ったかと数えながら今頃妹は自分を待っているであろうぞ。
#{語釈]
右は此の夕、月光遅(おもぶる)に流れ、和風稍(やくやく)に扇ぐ。即ち属目に因りて聊かに此歌を作る也
#[説明]
清見送別と同日宴の月の属目詠
全注「妻と別れて年を経ている家持が、妻子を残して国庁に集まった郡司たちの立場で詠じたもの。前歌と一対。現地謳歌と家郷思慕とは、旅先で歌を詠む場合の作法」
詠作時期 日付がない。次の歌からは天平二十一年三月作、前の歌は四月の作
全釈「初夏の作」全註釈「年を越えて春の頃か」
全注「天平二十一年三月のもの。一年に近いこの空白は、ここに何らかの事情による歌の脱落があることを示す」
#[関連論文]
#[題詞]越前國掾大伴宿祢池主来贈歌三首 / 以今月十四日到来深見村 望拜彼北方常念芳徳 何日能休 兼以隣近忽増戀 加以先書云 暮春可惜 促膝未期 生別悲<兮> 夫復何言臨紙悽断奉状不備 / 三月一五日大伴宿祢池主 / 一 古人云
#[原文]
#[訓読]今月十四日を以て深見村に到来し、彼の北方を望拝し、常に芳徳を念ふこと、何(いづ)れの日か能く休(や)まむ。兼ねて隣近なるを以ちて忽(たまたま)戀を増す。加以(しかのみにあらず)先の書に云ふ、暮春惜しむ可し。膝を促(ちかづ)くること未だ期(ちぎ)らずといへり。生別の悲しび<兮> 夫れ復た何とか言はむ。紙に臨みて悽断(いた)む。状を奉ること不備なり。
#[仮名]
#[左注]
#[校異]号 -> 兮 [矢][京]
#[鄣W],天平21年3月15日,作者:大伴池主,年紀,高岡,富山,大伴家持,贈答,書簡,福井,恋情
#[訓異]
#[大意]今月十四日をもって深見村に到着し、その北の方を望み拝しました。いつもあなたの芳徳を思うこと、いつの日になったら止むことがありましょうか。その上に近いところなので、たまたま恋しさがつのりました。そればかりでなく、先日の書簡には「暮春は惜しむべし。親しく談笑する約束をまだしていない」と書かれてありました。生別離の悲しみをまた何と言いましょうか。紙に対して心が痛み、書状を奉るには形が整いません。
#{語釈]
今月十四日 天平二十一年三月十四日 池主は越前掾に転任している。
天平二十一年は、四月十四日に天平感宝元年、七月二日に天平勝宝元年に改元
深見村 石川県河北郡津幡町付近
延喜式加賀駅名 朝倉、湖津、安宅、比楽、田上(現金沢市)、深見、横山(現高松町)
池主は何らかの用事で、越前國府(武生)から来ている。当時は、越前国。
彼の北方を望拝し 家持のいる北の方を望み拝して、実際には東北方向。
戀を増す 「戀」の次に古義は、「緒」入れて、恋緒とする。注釈、
全注「対になっていて脱落したか。」
加以 類聚名義抄「シカノミナラズ」
先の書 家持からの書簡があったか。脱落した。「暮春可惜 促膝未期 」は先の書の引用文
促膝未期 親しく接して面談する日を約束していない
生別悲<兮> 夫復何言 楚辞九歌「悲しみは生別離より悲しきは莫し。楽しみは新たに相知るより楽しきは莫し。」
文選古詩 「行き生きて重ねて行き行く。君と生別離す」
状を奉ること不備なり 書簡の結び。 手紙を差し上げるのに形が整わない。
#[説明]
#[関連論文]
#[番号]18/4073
#[題詞]越前國掾大伴宿祢池主来贈歌三首 / 以今月十四日到来深見村 望拜彼北方常念芳徳 何日能休 兼以隣近忽増戀 加以先書云 暮春可惜 促膝未期 生別悲<兮> 夫復何言臨紙悽断奉状不備 / 三月一五日大伴宿祢池主 / 一 古人云
#[原文]都奇見礼婆 於奈自久尓奈里 夜麻許曽婆 伎美我安多里乎 敝太弖多里家礼
#[訓読]月見れば同じ国なり山こそば君があたりを隔てたりけれ
#[仮名],つきみれば,おなじくになり,やまこそば,きみがあたりを,へだてたりけれ
#[左注]
#[校異]号 -> 兮 [矢][京]
#[鄣W],天平21年3月15日,作者:大伴池主,年紀,高岡,富山,大伴家持,贈答,書簡,福井,恋情
#[訓異]
#[大意]月を見ると同じ国である。山こそがあなたのあたりを隔てているのだ。
#{語釈]
古人云 古歌を伝えている
#[説明]
類歌
11/2420H01月見れば国は同じぞ山へなり愛し妹はへなりたるかも
04/0765H01一重山へなれるものを月夜よみ門に出で立ち妹か待つらむ
#[関連論文]
#[題詞](越前國掾大伴宿祢池主来贈歌三首 / 以今月十四日到来深見村 望拜彼北方常念芳徳 何日能休 兼以隣近忽増戀 加以先書云 暮春可惜 促膝未期 生別悲<兮> 夫復何言臨紙悽断奉状不備 / 三月一五日大伴宿祢池主) / 一 属物發思
#[原文]櫻花 今曽盛等 雖人云 我佐不之毛 支美止之不在者
#[訓読]桜花今ぞ盛りと人は言へど我れは寂しも君としあらねば
#[仮名],さくらばな,いまぞさかりと,ひとはいへど,われはさぶしも,きみとしあらねば
#[左注]
#[校異]在 [元][類] 里
#[鄣W],天平21年3月15日,作者:大伴池主,年紀,大伴家持,高岡,富山,贈答,書簡,福井,恋情,植物
#[訓異]
#[大意]桜花は今は盛りだと人は言うが自分はさびしいことである。あなたといないので。
#{語釈]
#[説明]
表記の特殊性 漢文体表記。 体系 平安朝の補修の時に書かれたか。
類想歌
04/0486H01山の端にあぢ群騒き行くなれど我れは寂しゑ君にしあらねば
10/2290H01秋萩を散り過ぎぬべみ手折り持ち見れども寂し君にしあらねば
#[関連論文]
#[題詞](越前國掾大伴宿祢池主来贈歌三首 / 以今月十四日到来深見村 望拜彼北方常念芳徳 何日能休 兼以隣近忽増戀 加以先書云 暮春可惜 促膝未期 生別悲<兮> 夫復何言臨紙悽断奉状不備 / 三月一五日大伴宿祢池主) / 一 所心歌
#[原文]安必意毛波受 安流良牟伎美乎 安夜思苦毛 奈氣伎和多流香 比登能等布麻泥
#[訓読]相思はずあるらむ君をあやしくも嘆きわたるか人の問ふまで
#[仮名],あひおもはず,あるらむきみを,あやしくも,なげきわたるか,ひとのとふまで
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌
#[鄣W],天平21年3月15日,作者:大伴池主,年紀,大伴家持,高岡,富山,贈答,書簡,福井,恋情,怨恨
#[訓異]
#[大意]相思ではなさそうなあなたを不思議なことにも恋しくて嘆き続けていることか。人が尋ねるまで。
#{語釈]
所心歌 心に思うことをそのまま述べたという意か
#[説明]
類想歌
04/0717H01つれもなくあるらむ人を片思に我れは思へばわびしくもあるか
10/1936H01相思はずあるらむ子ゆゑ玉の緒の長き春日を思ひ暮らさく
12/3054H01相思はずあるものをかも菅の根のねもころごろに我が思へるらむ
#[関連論文]
#[題詞]越中國守大伴家持報贈歌四首 / 一 答古人云
#[原文]安之比奇能 夜麻波奈久毛我 都奇見礼婆 於奈自伎佐刀乎 許己呂敝太底都
#[訓読]あしひきの山はなくもが月見れば同じき里を心隔てつ
#[仮名],あしひきの,やまはなくもが,つきみれば,おなじきさとを,こころへだてつ
#[左注](三月十六日)
#[校異]
#[鄣W],天平21年3月16日,作者:大伴家持,年紀,高岡,富山,贈答,書簡,大伴池主,枕詞,恋情
#[訓異]
#[大意]あしひきの山がなければいいのに。月を見ると同じ里なのに、心を隔ててしまっている。
#{語釈]
4037に答えたもの
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](越中國守大伴家持報贈歌四首)一 答属目發思兼詠云遷<任>舊宅西北隅櫻樹
#[原文]和我勢故我 布流伎可吉都能 佐<久>良婆奈 伊麻太敷布賣利 比等目見尓許祢
#[訓読]我が背子が古き垣内の桜花いまだ含めり一目見に来ね
#[仮名],わがせこが,ふるきかきつの,さくらばな,いまだふふめり,ひとめみにこね
#[左注](三月十六日)
#[校異]住 -> 任 [元][細] / 具 -> 久 [元][類]
#[鄣W],天平21年3月16日,作者:大伴家持,年紀,植物,高岡,富山,贈答,書簡,大伴池主,恋愛
#[訓異]
#[大意]我が背子のもとの館の垣根の中の桜の花はいまだにつぼみのままでいる。一目見にいらっしゃいよ。
#{語釈]
属目發思に答え、兼ねて遷<任>したる舊宅(もとついへ)の西北(いぬい)の隅の櫻樹を詠みて云ふ
4047に答える
兼ねて それにかかわって
遷<任>したる舊宅(もとついへ) 池主の越中での官舎
西北(いぬい)の隅 全集「屋敷の西北(乾)隅を神聖視する俗信は、中古以降のさまざまな古文献に見える。掾の公館の西北隅に桜の木を植えてあったというのも、その信仰に関係があろうという」
#[説明]
関市令「凡そ関越えむと欲(ねが)はば、皆本部本司に経(ふ)れて、過所請へ」
私用で他国へ行くことは届けがいる。ここは歌のうえのこと。
#[関連論文]
#[題詞](越中國守大伴家持報贈歌四首)一 答所心即以古人之跡代今日之意
#[原文]故敷等伊布波 衣毛名豆氣多理 伊布須敝能 多豆伎母奈吉波 安<我>未奈里家利
#[訓読]恋ふといふはえも名付けたり言ふすべのたづきもなきは我が身なりけり
#[仮名],こふといふは,えもなづけたり,いふすべの,たづきもなきは,あがみなりけり
#[左注](三月十六日)
#[校異]賀 -> 我 [元]
#[鄣W],天平21年3月16日,作者:大伴家持,年紀,大伴池主,高岡,富山,贈答,書簡,恋愛
#[訓異]
#[大意]恋い思うというのはよくも名付けたものだ。言う方法のてだてもないのは、自分自身であることだ。
#{語釈]
所心に答へ、即ち古人の跡を以て、今日の意に代ふる
あなたの意に答えると同時に古人の言を以て今の気持ちに代える
えも名付けたり よくも名付けたものだ。感心することだ
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](越中國守大伴家持報贈歌四首)一 更矚目
#[原文]美之麻野尓 可須美多奈妣伎 之可須我尓 伎乃敷毛家布毛 由伎波敷里都追
#[訓読]三島野に霞たなびきしかすがに昨日も今日も雪は降りつつ
#[仮名],みしまのに,かすみたなびき,しかすがに,きのふもけふも,ゆきはふりつつ
#[左注]三月十六日
#[校異]
#[鄣W],天平21年3月16日,作者:大伴家持,年紀,地名,富山,季節,贈答,叙景,大伴池主,書簡,大伴池主
#[訓異]
#[大意]三島野に霞がたなびいている。そうではあるが昨日も今日も雪が降り続けている。
#{語釈]
三島野 4011 國府東南。高岡から射水郡にかけての野。鷹狩りの場
#[説明]
「更に」は独自にまとめて言い換えたもの。池主と別れたさびしさを歌う。
05/0823H01梅の花散らくはいづくしかすがにこの城の山に雪は降りつつ
07/1397H01荒礒越す波は畏ししかすがに海の玉藻の憎くはあらずて
08/1441H01うち霧らひ雪は降りつつしかすがに我家の苑に鴬鳴くも
10/1832H01うち靡く春さり来ればしかすがに天雲霧らひ雪は降りつつ
10/1834H01梅の花咲き散り過ぎぬしかすがに白雪庭に降りしきりつつ
10/1836H01風交り雪は降りつつしかすがに霞たなびき春さりにけり
10/1848H01山の際に雪は降りつつしかすがにこの川楊は萌えにけるかも
10/1862H01雪見ればいまだ冬なりしかすがに春霞立ち梅は散りつつ
12/2915H01妹と言はばなめし畏ししかすがに懸けまく欲しき言にあるかも
18/4079H01三島野に霞たなびきしかすがに昨日も今日も雪は降りつつ
20/4492H01月数めばいまだ冬なりしかすがに霞たなびく春立ちぬとか
#[関連論文]
#[題詞]姑大伴氏坂上郎女来贈越中守大伴宿祢家持歌二首
#[原文]都祢比等能 故布登伊敷欲利波 安麻里尓弖 和礼波之奴倍久 奈里尓多良受也
#[訓読]常人の恋ふといふよりはあまりにて我れは死ぬべくなりにたらずや
#[仮名],つねひとの,こふといふよりは,あまりにて,われはしぬべく,なりにたらずや
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],天平21年,作者:坂上郎女,年紀,贈答,大伴家持,恋情,高岡,富山
#[訓異]
#[大意]世の中の普通の人が恋い思うというよりも限度を超えていて、自分は死にそうにもなってしまっているではありませんか。
#{語釈]
あまりにて 限度を越えていて
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](姑大伴氏坂上郎女来贈越中守大伴宿祢家持歌二首)
#[原文]可多於毛比遠 宇万尓布都麻尓 於保世母天 故事部尓夜良波 比登加多波牟可母
#[訓読]片思ひを馬にふつまに負ほせ持て越辺に遣らば人かたはむかも
#[仮名],かたおもひを,うまにふつまに,おほせもて,こしへにやらば,ひとかたはむかも
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],天平21年,作者:坂上郎女,年紀,贈答,大伴家持,恋情,高岡,富山,地名
#[訓異]
#[大意]片思いを馬にことごとく背負わせて持って、越の国の方へやるならば、人(あなた)は、手助けしてくれるだろうか。(心を寄せてくれるだろうか)
#{語釈]
ふつまに 拾穂抄、代匠記「太くたくましい馬、ふとうま」
坂倉篤義「ふとうまだとふとまに略される。副詞的な意味の語
類聚名義抄 都 フツ すべての意
日本書紀訓 尽、悉 ふつくに ことごとくの意
「ま」は、まほらまなどの名詞を形成する。それに「に」がついて副詞的に なる。
すっかり、全部の意
かたはむかも かたふ 未詳
拾穂抄、略解 かとはさん かすめ盗む
坂倉篤義 「かた」を持つ語 法華経単字 党 かたひく たすく
紀 かたちはふ 心をよせ、あがめる
心を寄せ親しむという心的態度の根底に存する動作を言い表した もの。
全注 片棒をかついで助けるの意か。手助けする
#[説明]
都から越中に行く人に坂上郎女が託した歌か。荷馬(駄馬)を詠み込んでいるのもこの事情によるであろう。
#[関連論文]
#[題詞]越中守大伴宿祢家持報歌并所心三首
#[原文]安万射可流 比奈能<夜都>故尓 安米比度之 可久古非須良波 伊家流思留事安里
#[訓読]天離る鄙の奴に天人しかく恋すらば生ける験あり
#[仮名],あまざかる,ひなのやつこに,あめひとし,かくこひすらば,いけるしるしあり
#[左注](右四日附使贈上京師)
#[校異]都夜 -> 夜都 [万葉集略解]
#[鄣W],天平21年4(月4)日,作者:大伴家持,年紀,贈答,坂上郎女,高岡,富山,恋情
#[訓異]
#[大意]天から遠く離れた田舎の奴めに天人がこのように恋いをするというのならば生きている甲斐があることだ
#{語釈]
奴 原文 都夜故 諸本 ミヤコ 特殊な用字 全注 田舎でも自分の居る所を都と言った。
略解 宣長云 大平が説に、都夜故は夜都故(やつこ)を誤れる也と言へり」
天人 坂上郎女を指す
#[説明]
都を天と見ている。
#[関連論文]
#[題詞](越中守大伴宿祢家持報歌并所心三首)
#[原文]都祢<乃>孤悲 伊麻太夜麻奴尓 美夜古欲<里> 宇麻尓古非許婆 尓奈比安倍牟可母
#[訓読]常の恋いまだやまぬに都より馬に恋来ば担ひあへむかも
#[仮名],つねのこひ,いまだやまぬに,みやこより,うまにこひこば,になひあへむかも
#[左注](右四日附使贈上京師)
#[校異]能 -> 乃 [元][類] / 利 -> 里 [元][類]
#[鄣W],天平21年4(月4)日,作者:大伴家持,年紀,贈答,坂上郎女,高岡,富山,恋情
#[訓異]
#[大意]いつも思っている恋い慕う気持ちがまだ止んでいないのに、都より馬にいっぱいに恋いがやってくると背負い切れるだろうかなあ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](越中守大伴宿祢家持報歌并所心三首)別所心一首
#[原文]安可登吉尓 名能里奈久奈流 保登等藝須 伊夜米豆良之久 於毛保由流香母
#[訓読]暁に名告り鳴くなる霍公鳥いやめづらしく思ほゆるかも
#[仮名],あかときに,なのりなくなる,ほととぎす,いやめづらしく,おもほゆるかも
#[左注]右四日附使贈上京師
#[校異]
#[鄣W],天平21年4(月4)日,作者:大伴家持,年紀,動物,贈答,坂上郎女,序詞,恋情,高岡,富山
#[訓異]
#[大意]明け方に自分の名前を告げて鳴き声が聞こえる霍公鳥よ。そのように都からの便りはますます希にめづらしく思われてならないことだ
#{語釈]
別 前二首とは別
いやめづらしく 霍公鳥に心が引かれると同時に都からの便りの意味が入っており、坂上郎女の歌に答えたもの。
右四日附使贈上京師 代匠記「四月の誤り」
古義「四月四日のことなるべし」
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]天平感寶元年五月五日饗東大寺之占墾地使僧平榮等 于時守大伴宿祢家持送酒僧歌一首
#[原文]夜伎多知乎 刀奈美能勢伎尓 安須欲里波 毛利敝夜里蘇倍 伎美乎<等登>米牟
#[訓読]焼太刀を砺波の関に明日よりは守部遣り添へ君を留めむ
#[仮名],やきたちを,となみのせきに,あすよりは,もりへやりそへ,きみをとどめむ
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 登等 -> 等登 [元][類]
#[鄣W],天平感宝1年5月5日,作者:大伴家持,年紀,枕詞,平栄,宴席,羈旅,出発,別離,餞別,高岡,富山,地名,砺波
#[訓異]
#[大意]焼太刀を砺波の関に明日からは番人を増員してあなたを留めましょう。
#{語釈]
天平感宝元年 天平21年4月14日改元。7月2日に天平勝宝に改元
占墾地使 開墾のなわばりをするための使者 開墾奨励のために寺院にも開墾を許した
平栄 正倉院文書 越前国足羽郡司解「去る天平勝宝元年八月十四日を以て・・・同年五月を以て寺家野占寺使法師平栄、・・・寺家野占畢」
焼太刀を 焼き入れをした刀は鋭利なので、利(と)にかかる枕詞
06/0989H01焼太刀のかど打ち放ち大夫の寿く豊御酒に我れ酔ひにけり
09/1809H04すすし競ひ 相よばひ しける時は 焼太刀の 手かみ押しねり 白真弓
18/4085H01焼太刀を砺波の関に明日よりは守部遣り添へ君を留めむ
砺波の関 倶利伽藍峠砺波側の登り中腹あたり
守部遣り添へ 番人を増員して
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]同月九日諸僚會少目秦伊美吉石竹之舘飲宴 於時主人造白合花縵三枚疊置豆器捧贈賓客 各賦此縵作三首
#[原文]安夫良火<乃> 比可里尓見由流 和我可豆良 佐由利能波奈能 恵麻波之伎香母
#[訓読]油火の光りに見ゆる吾がかづらさ百合の花の笑まはしきかも
#[仮名],あぶらひの,ひかりにみゆる,わがかづら,さゆりのはなの,ゑまはしきかも
#[左注]右一首守大伴宿祢家持
#[校異]能 -> 乃 [元][類]
#[鄣W],天平感宝1年5月9日,作者:大伴家持,年紀,植物,宴席,秦石竹,主人讃美,寿歌,高岡,富山
#[訓異]
#[大意]燈火の光に見える自分の縵よ。そのさ百合の花ではないが、自然と笑まれることであるよ。
#{語釈]
諸僚 國府の諸役人
秦伊美吉石竹 続日本紀 天平宝字八年十月七日 正六位上秦忌寸伊波太気授外従五位下
宝亀五年三月五日 為飛騨守
七年三月六日 播磨介
白合花縵 百合の花で縵にしたもの。百合の種類は不明
仙覚注釈「縵は枚とは言わないだろう。枝の間違いか」
全註釈「枝も含めて縵にした。一本の百合を輪にしたものか。」
豆器 肉を盛る器。中国では祭祀用。高坏のようなもの。
賓客 家持、縄麻呂、八千島の三人。
油火の 燈油
#[説明]
全注 宴の目的 家持がこの年四月一日に従五位上の昇叙。その内宴か。
#[関連論文]
#[題詞](同月九日諸僚會少目秦伊美吉石竹之舘飲宴 於時主人造白合花縵三枚疊置豆器捧贈賓客 各賦此縵作三首)
#[原文]等毛之火能 比可里尓見由流 <左>由理婆奈 由利毛安波牟等 於母比曽米弖伎
#[訓読]灯火の光りに見ゆるさ百合花ゆりも逢はむと思ひそめてき
#[仮名],ともしびの,ひかりにみゆる,さゆりばな,ゆりもあはむと,おもひそめてき
#[左注]右一首介内蔵伊美吉縄麻呂
#[校異]佐 -> 左 [元][類]
#[鄣W],天平感宝1年5月9日,作者:内蔵縄麻呂,年紀,植物,宴席,秦石竹,序詞,主人讃美,恋情,高岡,富山
#[訓異]
#[大意]燈火お光に見えるさ百合花。そのゆりではないが後にもまた会って楽しい宴をしようと思い始めていたことだ。
#{語釈]
ゆりも 後ででも
08/1503H01我妹子が家の垣内のさ百合花ゆりと言へるはいなと言ふに似る
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](同月九日諸僚會少目秦伊美吉石竹之舘飲宴 於時主人造白合花縵三枚疊置豆器捧贈賓客 各賦此縵作三首)
#[原文]左由理<婆>奈 由<里>毛安波牟等 於毛倍許曽 伊<末>能麻左可母 宇流波之美須礼
#[訓読]さ百合花ゆりも逢はむと思へこそ今のまさかもうるはしみすれ
#[仮名],さゆりばな,ゆりもあはむと,おもへこそ,いまのまさかも,うるはしみすれ
#[左注]右一首大伴宿祢家持[和]
#[校異]波 -> 婆 [元] / 利 -> 里 [元][類] / 麻 -> 末 [元][類][紀][細]
#[鄣W],天平感宝1年5月9日,作者:大伴家持,年紀,宴席,植物,枕詞,主人讃美,高岡,富山,秦石竹
#[訓異]
#[大意]さ百合花のゆりではないが、後にも逢おうと思うからこそ今の現在も親しんでいるのだ
#{語釈]
思へこそ 「思へばこそ」の略
今のまさか 今の現在 現在を強調した言い方
うるはしみすれ いとしく思う したしく思う
#[説明]
全注「賦三首」 八千島の歌がないのは、縄麻呂の歌の対応が難しく、家持が代わって歌ったため。家持歌に「和」とあるのはそのことを示すか。
家持歌は、前歌を詰問したように見えるので、誤解されないように「和」とした。
宴席では現在の宴の楽しさを歌うのが礼儀であるのに、縄麻呂は異常に見える。そこで家持が取りなして、一瞬のしらけを救った
#[関連論文]
#[題詞]獨居幄裏遥聞霍公鳥喧作歌一首[并短歌]
#[原文]高御座 安麻<乃>日継登 須賣呂伎能 可<未>能美許登能 伎己之乎須 久尓能麻保良尓 山乎之毛 佐波尓於保美等 百鳥能 来居弖奈久許恵 春佐礼婆 伎吉<乃> 可奈之母 伊豆礼乎可 和枳弖之努波<无> 宇能花乃 佐久月多弖婆 米都良之久 鳴保等登藝須 安夜女具佐 珠奴久麻泥尓 比流久良之 欲和多之伎氣騰 伎久其等尓 許己呂都呉枳弖 宇知奈氣伎 安波礼能登里等 伊波奴登枳奈思
#[訓読]高御座 天の日継と すめろきの 神の命の 聞こしをす 国のまほらに 山をしも さはに多みと 百鳥の 来居て鳴く声 春されば 聞きのかなしも いづれをか 別きて偲はむ 卯の花の 咲く月立てば めづらしく 鳴く霍公鳥 あやめぐさ 玉貫くまでに 昼暮らし 夜わたし聞けど 聞くごとに 心つごきて うち嘆き あはれの鳥と 言はぬ時なし
#[仮名],たかみくら,あまのひつぎと,すめろきの,かみのみことの,きこしをす,くにのまほらに,やまをしも,さはにおほみと,ももとりの,きゐてなくこゑ,はるされば,ききのかなしも,いづれをか,わきてしのはむ,うのはなの,さくつきたてば,めづらしく,なくほととぎす,あやめぐさ,たまぬくまでに,ひるくらし,よわたしきけど,きくごとに,こころつごきて,うちなげき,あはれのとりと,いはぬときなし
#[左注](右四首十日大伴宿祢家持作之)
#[校異]歌 [西] 謌 / 能 -> 乃 [元][類] / 美 -> 未 [類][紀][細] / 能 -> 乃 [元][類] / 無 -> 无 [元][紀][細]
#[鄣W],天平感宝1年5月10日,作者:大伴家持,年紀,枕詞,動物,高岡,富山,植物,恋情,独詠
#[訓異]
#[大意]高御座の天つ神の継承者としてすめろきの神の命がお治めになる国のすぐれた所に山がたくさんあるからと多くの鳥がやって来て鳴く声は、春になると聞くのにしみじみとした趣がある。どの鳥を区別して賞美しよう。卯の花の咲く五月になると、心が引かれて鳴く霍公鳥よ。菖蒲草を玉に貫くまで昼は夕暮れまで、夜は朝になるまでその声を聞くが、聞くことに心が動かされてうち嘆いて感興深い鳥だと言わない時はない
#{語釈]
獨居幄裏 17/3965 獨臥帷幄之裏 「獨」離群の感情
高御座 3/372 高座の 天皇の登極する御座
天の日継 天つ神としての天皇の位を継承すること
まほら 「ま」接頭語 「ほ」秀 「ら」名詞化する接尾語 秀でた所
偲はむ 賞美する 讃美する
めづらしく 心が引かれる
夜わたし 夜中 朝になるまで
心つごきて 日本霊異記 「悸」 去々呂津古支之(こころつごきし)
胸がどきどきする 心が動く 胸がかき立てられる
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](獨居幄裏遥聞霍公鳥喧作歌一首[并短歌])反歌
#[原文]由久敝奈久 安里和多流登毛 保等登藝須 奈枳之和多良婆 可久夜思努波牟
#[訓読]ゆくへなくありわたるとも霍公鳥鳴きし渡らばかくや偲はむ
#[仮名],ゆくへなく,ありわたるとも,ほととぎす,なきしわたらば,かくやしのはむ
#[左注](右四首十日大伴宿祢家持作之)
#[校異]
#[鄣W],天平感宝1年5月10日,作者:大伴家持,年紀,動物,高岡,富山,植物,恋情,独詠,恋情
#[訓異]
#[大意]途方に暮れて日々を送る日があったとしても、霍公鳥よ。鳴き渡るのならばこのように賞美しよう。
#{語釈]
ゆくへなくありわたるとも 全釈「行方も知らずと同意で。どこともわからずの意。飛び渡るとも」
佐々木評釈「途方にくれて 日を経過する」
私注「作者自身のこと」」
自分が途方に暮れて日を過ごしていようとも
全注「得意の絶頂にある今、わびしく暮らす場合を仮想したもの」
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]((獨居幄裏遥聞霍公鳥喧作歌一首[并短歌])反歌)
#[原文]宇能花能 <登聞>尓之奈氣婆 保等登藝須 伊夜米豆良之毛 名能里奈久奈倍
#[訓読]卯の花のともにし鳴けば霍公鳥いやめづらしも名告り鳴くなへ
#[仮名],うのはなの,ともにしなけば,ほととぎす,いやめづらしも,なのりなくなへ
#[左注](右四首十日大伴宿祢家持作之)
#[校異]開 -> 登聞 [元]
#[鄣W],天平感宝1年5月10日,作者:大伴家持,年紀,植物,動物,季節,独詠,高岡,富山,恋情
#[訓異]
#[大意]卯の花が咲くのとともに鳴くので、霍公鳥はますます心引かれることだ。名前を名乗って鳴くにつけても。
#{語釈]
卯の花のともにし 卯の花が咲くのと一緒に
卯の花を連れ合いとして
鳴くなへ 「なへ」~につけて ~ごとに
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]((獨居幄裏遥聞霍公鳥喧作歌一首[并短歌])反歌)
#[原文]保<登等>藝須 伊登祢多家口波 橘<乃> <播>奈治流等吉尓 伎奈吉登余牟流
#[訓読]霍公鳥いとねたけくは橘の花散る時に来鳴き響むる
#[仮名],ほととぎす,いとねたけくは,たちばなの,はなぢるときに,きなきとよむる
#[左注]右四首十日大伴宿祢家持作之
#[校異]等登 -> 登等 [元][類][紀][細] / 能 -> 乃 [元][類] / 幡 -> 播 [元][類][紀][細]
#[鄣W],天平感宝1年5月10日,作者:大伴家持,年紀,動物,植物,季節,怨恨,独詠,高岡,富山
#[訓異]
#[大意]霍公鳥よ。たいそう癪にさわるのは、橘の花が散るときにやって来て鳴き響むことだ
#{語釈]
いとねたけくは 「ねたし」しゃくに障る にくらしい
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]行<英>遠浦之日作歌一首
#[原文]安乎能宇良尓 餘須流之良奈美 伊夜末之尓 多知之伎与世久 安由乎伊多美可聞
#[訓読]阿尾の浦に寄する白波いや増しに立ちしき寄せ来東風をいたみかも
#[仮名],あをのうらに,よするしらなみ,いやましに,たちしきよせく,あゆをいたみかも
#[左注]右一首大伴宿祢家持作之
#[校異]芙 -> 英 [紀][細]
#[鄣W],天平感宝1年,作者:大伴家持,年紀,地名,氷見,高岡,叙景
#[訓異]
#[大意]阿尾の浦に寄せる白波がますます立って重なって寄せてくる。東風がひどいからなのだろうか
#{語釈]
阿尾の浦 氷見市北 阿尾の海岸 阿尾川河口あたり
立ちしき 波がたって重なるように
東風 17/4017I01[越俗語東風謂之安由乃可是也]
#[説明]
霍公鳥詠の翌日の11日と見られるが、阿尾に行った理由は不明。
#[関連論文]
#[題詞]賀陸奥國出金詔書歌一首[并短歌]
#[原文]葦原能 美豆保國乎 安麻久太利 之良志賣之家流 須賣呂伎能 神乃美許等能 御代可佐祢 天乃日<嗣>等 之良志久流 伎美能御代々々 之伎麻世流 四方國尓波 山河乎 比呂美安都美等 多弖麻都流 御調寶波 可蘇倍衣受 都久之毛可祢都 之加礼騰母 吾大王<乃> 毛呂比登乎 伊射奈比多麻比 善事乎 波自米多麻比弖 久我祢可毛 <多>之氣久安良牟登 於母保之弖 之多奈夜麻須尓 鶏鳴 東國<乃> 美知能久乃 小田在山尓 金有等 麻宇之多麻敝礼 御心乎 安吉良米多麻比 天地乃 神安比宇豆奈比 皇御祖乃 御霊多須氣弖 遠代尓 可々里之許登乎 朕御世尓 安良波之弖安礼婆 御食國波 左可延牟物能等 可牟奈我良 於毛保之賣之弖 毛能乃布能 八十伴雄乎 麻都呂倍乃 牟氣乃麻尓々々 老人毛 女童兒毛 之我願 心太良比尓 撫賜 治賜婆 許己乎之母 安夜尓多敷刀美 宇礼之家久 伊余与於母比弖 大伴<乃> 遠都神祖乃 其名乎婆 大来目主<等> 於比母知弖 都加倍之官 海行者 美都久屍 山行者 草牟須屍 大皇乃 敝尓許曽死米 可敝里見波 勢自等許等太弖 大夫乃 伎欲吉彼名乎 伊尓之敝欲 伊麻乃乎追通尓 奈我佐敝流 於夜<乃>子等毛曽 大伴等 佐伯乃氏者 人祖乃 立流辞立 人子者 祖名不絶 大君尓 麻都呂布物能等 伊比都雅流 許等能都可左曽 梓弓 手尓等里母知弖 劔大刀 許之尓等里波伎 安佐麻毛利 由布能麻毛利<尓> 大王<乃> 三門乃麻毛利 和礼乎於吉<弖> 比等波安良自等 伊夜多氐 於毛比之麻左流 大皇乃 御言能左吉乃 [一云 乎] 聞者貴美 [一云 貴久之安礼婆]
#[訓読]葦原の 瑞穂の国を 天下り 知らしめしける すめろきの 神の命の 御代重ね 天の日継と 知らし来る 君の御代御代 敷きませる 四方の国には 山川を 広み厚みと 奉る 御調宝は 数へえず 尽くしもかねつ しかれども 我が大君の 諸人を 誘ひたまひ よきことを 始めたまひて 金かも たしけくあらむと 思ほして 下悩ますに 鶏が鳴く 東の国の 陸奥の 小田なる山に 黄金ありと 申したまへれ 御心を 明らめたまひ 天地の 神相うづなひ すめろきの 御霊助けて 遠き代に かかりしことを 我が御代に 顕はしてあれば 食す国は 栄えむものと 神ながら 思ほしめして もののふの 八十伴の緒を まつろへの 向けのまにまに 老人も 女童も しが願ふ 心足らひに 撫でたまひ 治めたまへば ここをしも あやに貴み 嬉しけく いよよ思ひて 大伴の 遠つ神祖の その名をば 大久米主と 負ひ持ちて 仕へし官 海行かば 水漬く屍 山行かば 草生す屍 大君の 辺にこそ死なめ かへり見は せじと言立て 大夫の 清きその名を いにしへよ 今のをつづに 流さへる 祖の子どもぞ 大伴と 佐伯の氏は 人の祖の 立つる言立て 人の子は 祖の名絶たず 大君に まつろふものと 言ひ継げる 言の官ぞ 梓弓 手に取り持ちて 剣大刀 腰に取り佩き 朝守り 夕の守りに 大君の 御門の守り 我れをおきて 人はあらじと いや立て 思ひし増さる 大君の 御言のさきの [一云 を] 聞けば貴み [一云 貴くしあれば]
#[仮名],あしはらの,みづほのくにを,あまくだり,しらしめしける,すめろきの,かみのみことの,みよかさね,あまのひつぎと,しらしくる,きみのみよみよ,しきませる,よものくにには,やまかはを,ひろみあつみと,たてまつる,みつきたからは,かぞへえず,つくしもかねつ,しかれども,わがおほきみの,もろひとを,いざなひたまひ,よきことを,はじめたまひて,くがねかも,たしけくあらむと,おもほして,したなやますに,とりがなく,あづまのくにの,みちのくの,をだなるやまに,くがねありと,まうしたまへれ,みこころを,あきらめたまひ,あめつちの,かみあひうづなひ,すめろきの,みたまたすけて,とほきよに,かかりしことを,わがみよに,あらはしてあれば,をすくには,さかえむものと,かむながら,おもほしめして,もののふの,やそとものをを,まつろへの,むけのまにまに,おいひとも,をみなわらはも,しがねがふ,こころだらひに,なでたまひ,をさめたまへば,ここをしも,あやにたふとみ,うれしけく,いよよおもひて,おほともの,とほつかむおやの,そのなをば,おほくめぬしと,おひもちて,つかへしつかさ,うみゆかば,みづくかばね,やまゆかば,くさむすかばね,おほきみの,へにこそしなめ,かへりみは,せじとことだて,ますらをの,きよきそのなを,いにしへよ,いまのをつづに,ながさへる,おやのこどもぞ,おほともと,さへきのうぢは,ひとのおやの,たつることだて,ひとのこは,おやのなたたず,おほきみに,まつろふものと,いひつげる,ことのつかさぞ,あづさゆみ,てにとりもちて,つるぎたち,こしにとりはき,あさまもり,ゆふのまもりに,おほきみの,みかどのまもり,われをおきて,ひとはあらじと,いやたて,おもひしまさる,おほきみの,みことのさきの[を],きけばたふとみ,[たふとくしあれば]
#[左注](天平感寶元年五月十二日於越中國守舘大伴宿祢家持作之)
#[校異]飼 -> 嗣 [細][矢][京] / 能 -> 乃 [元][類] / 多能 -> 多 [元] / 能 -> 乃 [元][類] / 御食 [元] 食 / 能 -> 乃 [元][類] / 登 -> 等 [元][類] / 太 [元][類][細](塙) 大 / 能 -> 乃 [元][類] / 余 -> 尓 [類][細] / 能 -> 乃 [元][類] / 弖且 -> 弖 [大系]
#[鄣W],天平感宝1年5月12日,作者:大伴家持,年紀,寿歌,枕詞,賀歌,高岡,富山,大君讃美,大夫
#[訓異]
#[大意]葦原の瑞穂の国を天から下ってお治めになった統率されるお方の神の命が御代を重ねて、天の継承者としてお治めになってくる大君の御代御代、領有される四方の国には山川が広く豊かであるとして奉る御貢ぎ物は数えることが出来ないほど多く尽きることもない。そうではあるが、我が大君が多くの人をお率いなさり、大仏建立の良いことを始めなさって、黄金が十分にないものかとお思いになって心をお悩ましになっていたところ、鶏が鳴く東の国の陸奥の小田という山に黄金があると奏上されたので御心を明るくなされ、天地の神がともに良しとして代々の天皇の御霊も助けてくださり、遠い昔からこのような困難を神々の加護により乗り越えてきたことを我が御代に再現してあるので、統治なさる国は栄えるものとして神さながらにお思いになって、もののふの大勢の文武百官を服従して奉仕するままに、老人も女子どももそれぞれが希望するその気持ちを満足させて、いつくしみお治めになるので、そこのところがまことに貴いことであるので、うれしいこともますます思って、大伴の遠い昔の神祖のその名を大久米主と背負い持って大君に仕えた官職であり、海を行くと水漬く屍である。山を行くと草生える屍である。大君の辺にこそ死のう。顧みることはするまいと誓いを立て、大夫の二心なき清らかなその名を昔から今の現在まで伝えてきた祖先の末裔であるぞ。大伴と佐伯の氏は祖先の立てた誓いを守って、子孫は祖先の名前を絶やさず大君に従うものとして言い継いでくる誓いの官職であるぞ。梓弓を手に取り持って剣太刀を腰に取り佩いて、朝の守護、夕方の守りに大君の御門の守りは、自分をおいて他に人はあるまいとますますそうした思いを立てることの思いが不覚なる。大君のお言葉の幸いなのを聞くと貴いので。
#{語釈]
賀陸奥國出金詔書 第十二詔 第十三詔 大仏鋳造に対して陸奥から初めての黄金献上があったことを誉め称えたもの
葦原の 瑞穂の国 葦が茂っているみずみずしい稲穂の国
高天原系神話から見た日本の予祝的呼称
すめろきの 神の命 ニニギに始まる代々の天皇
広み厚みと 厚し 豊かである意 類聚名義抄「富 アツシ サカリニ ユタカ」
御調宝は 貢ぎ物 税として納める地方の特産物
よきことを 始めたまひて 大仏建立の詔 天平十五年十月十五日
たしけくあらむと 確けし 確かだ 十分だ
第十三詔「衆人をいざなひ率いて仕え奉る心は、・・・」
小田なる山 第十三詔「食国の東の方、陸奥国の小田郡に金出でたりと奏して進れり」
天平感宝元年于閏五月十一日「金を出す山神主小田郡日下部深淵外少初位下」
小田郡 宮城県遠田郡 涌谷町黄金迫(はざま)の小山に黄金山神社
黄金 大仏渡金と金銅合金のためのもの 大仏には58.5キログラムの金が用いられているという
申したまへれ 奏上する 已然条件法
うづなひ 良しとする 神代紀「珍 うづ」
すめろきの 御霊助けて 代々の天皇の御霊もお助けくださって
かかりしことを かくありしこと 神々の加護とともに困難を乗り越えてきたこと
思ほしめして 主語は天皇
八十伴の緒を 朝廷に仕える文武百官
まつろへの 清い明き心で服従して奉仕すること
向けのまにまに 力で屈服させること こと向け和す
しが願ふ そのように願う 老人や女童の個別の願い
心足らひに 満ち足りる 満足する
撫でたまひ 民衆を愛撫し、いつくしむ
大久米主 古事記 天孫降臨 大伴の祖は「天忍日命」
神武東征「道臣命」 ただし道臣命が大久米主を統率したとある
本来は、久米氏の祖 仁徳時代に大和を統率するにあたって、仁徳の武力集団である大伴氏が大和の武力集団の久米氏を隷属化に置いた時に、組み込まれていったか。
物部、久米が前線部隊で、大伴は後方支援部隊としての役割を持っていて、大伴の祖として組み込まれていった
負ひ持ちて 背負って持って
言立て 敢えて言葉に出して誓いをする
18/4106H03かくさまに 言ひけるものを 世の人の 立つる言立て ちさの花
20/4465H10祖の官と 言立てて 授けたまへる 子孫の
言挙げ 強いて言葉に出して言う 不吉なものとされる 本来大君だけの行為
06/0972H01千万の軍なりとも言挙げせず取りて来ぬべき男とぞ思ふ
07/1113H01この小川霧ぞ結べるたぎちゆく走井の上に言挙げせねども
12/2918H01おほかたは何かも恋ひむ言挙げせず妹に寄り寝む年は近きを
13/3250H01蜻蛉島 大和の国は 神からと 言挙げせぬ国 しかれども
13/3250H02我れは言挙げす 天地の 神もはなはだ 我が思ふ 心知らずや
13/3253H01葦原の 瑞穂の国は 神ながら 言挙げせぬ国 しかれども
13/3253H02言挙げぞ我がする 言幸く ま幸くませと 障みなく 幸くいまさば
13/3253H03荒礒波 ありても見むと 百重波 千重波しきに 言挙げす我れは [言挙げす我れは]
18/4124H01我が欲りし雨は降り来ぬかくしあらば言挙げせずとも年は栄えむ
清きその名を 大君に仕える二心なき心を持った氏名
今のをつづに をつづ 顕 現実の今
佐伯の氏 祖は天津久米命(紀天孫降臨)で、大伴氏とは同族関係
新撰姓氏録 雄略天皇の時に分家
立つる言立て 祖先の立てた誓いのままに
いや立て ますますそうした思いを立てることが
御言のさきの お言葉の幸い 光栄なこと
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](賀陸奥國出金詔書歌一首[并短歌])反歌三首
#[原文]大夫能 許己呂於毛保由 於保伎美能 美許登<乃>佐吉乎 [一云 能] 聞者多布刀美 [一云 貴久之安礼婆]
#[訓読]大夫の心思ほゆ大君の御言の幸を [一云 の] 聞けば貴み [一云 貴くしあれば]
#[仮名],ますらをの,こころおもほゆ,おほきみの,みことのさきを[の],きけばたふとみ,[たふとくしあれば]
#[左注](天平感寶元年五月十二日於越中國守舘大伴宿祢家持作之)
#[校異]能 -> 乃 [元][類]
#[鄣W],天平感宝1年5月12日,作者:大伴家持,年紀,大君讃美,寿歌,賀歌,高岡,富山,大夫
#[訓異]
#[大意]大夫の精神が思われてならない。大君のお言葉の幸いなのを聞くと貴いので
#{語釈]
大夫の心 大君の辺にたって賊と勇猛果敢に戦う勇者
大君の守りと賊を征服する男
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]((賀陸奥國出金詔書歌一首[并短歌])反歌三首)
#[原文]大伴<乃> 等保追可牟於夜能 於久都奇波 之流久之米多弖 比等能之流倍久
#[訓読]大伴の遠つ神祖の奥城はしるく標立て人の知るべく
#[仮名],おほともの,とほつかむおやの,おくつきは,しるくしめたて,ひとのしるべく
#[左注](天平感寶元年五月十二日於越中國守舘大伴宿祢家持作之)
#[校異]能 -> 乃 [元][類][古]
#[鄣W],天平感宝1年5月12日,作者:大伴家持,年紀,氏族意識,寿歌,賀歌,高岡,富山
#[訓異]
#[大意]大伴の遠い神祖の墓にははっきりと標を立てなさいよ。人がわかるように
#{語釈]
しるく標立て はっきりとわかる標を立てよ
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]((賀陸奥國出金詔書歌一首[并短歌])反歌三首)
#[原文]須賣呂伎能 御代佐可延牟等 阿頭麻奈流 美知<乃>久夜麻尓 金花佐久
#[訓読]天皇の御代栄えむと東なる陸奥山に黄金花咲く
#[仮名],すめろきの,みよさかえむと,あづまなる,みちのくやまに,くがねはなさく
#[左注]天平感寶元年五月十二日於越中國守舘大伴宿祢家持作之
#[校異]能 -> 乃 [元][類]
#[鄣W],天平感宝1年5月12日,作者:大伴家持,年紀,寿歌,賀歌,高岡,富山,大君讃美
#[訓異]
#[大意]天皇の御代が栄えるだろうと東の陸奥の山に黄金が花が咲くことだ
#{語釈]
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]為幸行芳野離宮之時儲作歌一首[并短歌]
#[原文]多可美久良 安麻<乃>日嗣等 天下 志良之賣師家類 須賣呂伎乃 可未能美許等能 可之古久母 波自米多麻比弖 多不刀久母 左太米多麻敝流 美与之努能 許乃於保美夜尓 安里我欲比 賣之多麻布良之 毛能乃敷能 夜蘇等母能乎毛 於能我於弊流 於能我名負<弖> 大王乃 麻氣能麻<尓>々々 此河能 多由流許等奈久 此山能 伊夜都藝都藝尓 可久之許曽 都可倍麻都良米 伊夜等保奈我尓
#[訓読]高御座 天の日継と 天の下 知らしめしける 天皇の 神の命の 畏くも 始めたまひて 貴くも 定めたまへる み吉野の この大宮に あり通ひ 見したまふらし もののふの 八十伴の男も おのが負へる おのが名負ひて 大君の 任けのまにまに この川の 絶ゆることなく この山の いや継ぎ継ぎに かくしこそ 仕へまつらめ いや遠長に
#[仮名],たかみくら,あまのひつぎと,あめのした,しらしめしける,すめろきの,かみのみことの,かしこくも,はじめたまひて,たふとくも,さだめたまへる,みよしのの,このおほみやに,ありがよひ,めしたまふらし,もののふの,やそとものをも,おのがおへる,おのがなおひて,おほきみの,まけのまにまに,このかはの,たゆることなく,このやまの,いやつぎつぎに,かくしこそ,つかへまつらめ,いやとほながに
#[左注]
#[校異]歌 [西] 謌 / 能 -> 乃 [元][類] / 々々 -> 弖 [万葉集略解] / 久 -> 尓 [万葉考]
#[鄣W],天平感宝1年,作者:大伴家持,年紀,地名,吉野,奈良,高岡,富山,儲作,宮廷讃美,大君讃美,寿歌
#[訓異]
#[大意]高御座の天の日嗣ぎとして天の下をお治めになる天皇の神の命がおそれ多くも始めなさって貴くもお定めになったみ吉野のこの大宮にいつも通ってご覧になるらしい。もののふの大勢の伴の者たちも自分が先祖から受け継いだ自分の名前を背負って大君のご任命に従って、この川の絶えることがないように、この山がどこまでも続いているようにどこまでも続いて、このようにお仕え申し上げよう。ますます永遠に
#{語釈]
吉野離宮 菜摘集落の北。現在発掘調査で天武、持統時代の宮殿跡が遺跡としてある。
弥生時代からの遺物が出土。
雄略天皇の吉野行幸、持統天皇吉野行幸
持統時代は、吉野の聖水を取って、五穀豊穣を願う。朝臣の結束を確認する。夫天武との懐古など。
聖武が最後。孝謙天皇以降は行われなくなる。
儲作 帰京した後に聖武天皇吉野離宮に従賀することを想定して作ったもの
出金詔書歌に触発された家持の朝廷への忠誠の気持ちを歌う。橘諸兄に献上か。この年の8月に上京。
詩の六義(風・雅・頌・賦・比・興)の頌(天子を讃美する)性格がある(br>
任のまにまに 原文「麻久々々」 まくまく
注釈 13/3272 行莫々々(ゆくをゆくを)が「行莫莫」となってゆきのまくまくと訓まれる。家持は誤読したものを古語意識として用いたか。
しかし家持は他の歌で「まけのまにまに」と使っているので、当たらない
全註釈「マクは動詞まくを重ねたもので、マケと同じ」
#[説明]
類句
高御座
18/4089H01高御座 天の日継と すめろきの 神の命の 聞こしをす
天の日継ぎ
18/4089H01高御座 天の日継と すめろきの 神の命の 聞こしをす
18/4094H02神の命の 御代重ね 天の日継と 知らし来る 君の御代御代
18/4098H01高御座 天の日継と 天の下 知らしめしける 天皇の
19/4254H03いや継ぎ継ぎに 知らし来る 天の日継と 神ながら 我が大君の
20/4465H08知らしめしける 天皇の 天の日継と 継ぎてくる 君の御代御代
あり通ひ
02/0145H01鳥翔成あり通ひつつ見らめども人こそ知らね松は知るらむ
03/0304H01大君の遠の朝廷とあり通ふ島門を見れば神代し思ほゆ
03/0479H01はしきかも皇子の命のあり通ひ見しし活道の道は荒れにけり
06/0938H03浦をよみ うべも釣りはす 浜をよみ うべも塩焼く あり通ひ
06/1006H01神代より吉野の宮にあり通ひ高知らせるは山川をよみ
06/1062H01やすみしし 我が大君の あり通ふ 難波の宮は 鯨魚取り 海片付きて
06/1063H01あり通ふ難波の宮は海近み海人娘子らが乗れる舟見ゆ
10/2089H02妻恋ひに 物思ふ人 天の川 安の川原の あり通ふ 出の渡りに
12/3104H01逢はむとは千度思へどあり通ふ人目を多み恋つつぞ居る
13/3236H03欠くることなく 万代に あり通はむと 山科の 石田の杜の すめ神に
17/3907H03浮橋渡し あり通ひ 仕へまつらむ 万代までに
17/3991H08二上山に 延ふ蔦の 行きは別れず あり通ひ
17/3992H01布勢の海の沖つ白波あり通ひいや年のはに見つつ偲はむ
17/4000H05朝夕ごとに 立つ霧の 思ひ過ぎめや あり通ひ
17/4002H01片貝の川の瀬清く行く水の絶ゆることなくあり通ひ見む
18/4098H03定めたまへる み吉野の この大宮に あり通ひ
18/4099H01いにしへを思ほすらしも我ご大君吉野の宮をあり通ひ見す
19/4187H05春花の 茂き盛りに 秋の葉の もみたむ時に あり通ひ 見つつ偲はめ
見したまふらし
2/0159H01やすみしし 我が大君の 夕されば 見したまふらし 明け来れば
06/1005H01やすみしし 我が大君の 見したまふ 吉野の宮は 山高み 雲ぞたなびく
18/4098H04見したまふらし もののふの 八十伴の男も おのが負へる
01/0036H04朝川渡る 舟競ひ 夕川渡る この川の 絶ゆることなく この山の
01/0036H05いや高知らす 水激る 瀧の宮処は 見れど飽かぬかも
06/0923H03その山の いやしくしくに この川の 絶ゆることなく ももしきの
06/0923H04大宮人は 常に通はむ
#[関連論文]
#[題詞](為幸行芳野離宮之時儲作歌一首[并短歌])反歌
#[原文]伊尓之敝乎 於母保須良之母 和期於保伎美 余思努乃美夜乎 安里我欲比賣須
#[訓読]いにしへを思ほすらしも我ご大君吉野の宮をあり通ひ見す
#[仮名],いにしへを,おもほすらしも,わごおほきみ,よしののみやを,ありがよひめす
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],天平感宝1年,作者:大伴家持,年紀,地名,吉野,奈良,高岡,富山,儲作,宮廷讃美,大君讃美,寿歌
#[訓異]
#[大意]昔のことをお思いになるらしいよ。我が大君は吉野の宮をいつも通ってご覧になる。
#{語釈]
いにしへを思ほすらしも 特に持統時代の吉野行幸のことか。
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]((為幸行芳野離宮之時儲作歌一首[并短歌])反歌)
#[原文]物能乃布能 夜蘇氏人毛 与之努河波 多由流許等奈久 都可倍追通見牟
#[訓読]もののふの八十氏人も吉野川絶ゆることなく仕へつつ見む
#[仮名],もののふの,やそうぢひとも,よしのがは,たゆることなく,つかへつつみむ
#[左注]
#[校異]
#[鄣W],天平感宝1年,作者:大伴家持,年紀,地名,吉野,奈良,高岡,富山,儲作,宮廷讃美,大君讃美,寿歌
#[訓異]
#[大意]もののふの大勢の氏の人も吉野川が絶えることがないようにいつまでも大君に仕え続けて吉野を見よう
#{語釈]
#[説明]
人麻呂の吉野離宮歌を踏んでいる。
#[関連論文]
#[題詞]為贈京家願真珠歌一首[并短歌]
#[原文]珠洲乃安麻能 於伎都美可未尓 伊和多利弖 可都伎等流登伊布 安波妣多麻 伊保知毛我母 波之吉餘之 都麻乃美許<登>能 許呂毛泥乃 和可礼之等吉欲 奴婆玉乃 夜床加多<左>里 安佐祢我美 可伎母氣頭良受 伊泥氐許之 月日余美都追 奈氣久良牟 心奈具佐<尓> 保登等藝須 伎奈久五月能 安夜女具佐 波奈多知<婆>奈尓 奴吉麻自倍 可頭良尓世餘等 都追美氐夜良牟
#[訓読]珠洲の海人の 沖つ御神に い渡りて 潜き取るといふ 鰒玉 五百箇もがも はしきよし 妻の命の 衣手の 別れし時よ ぬばたまの 夜床片さり 朝寝髪 掻きも梳らず 出でて来し 月日数みつつ 嘆くらむ 心なぐさに 霍公鳥 来鳴く五月の あやめぐさ 花橘に 貫き交へ かづらにせよと 包みて遣らむ
#[仮名],すすのあまの,おきつみかみに,いわたりて,かづきとるといふ,あはびたま,いほちもがも,はしきよし,つまのみことの,ころもでの,わかれしときよ,ぬばたまの,よとこかたさり,あさねがみ,かきもけづらず,いでてこし,つきひよみつつ,なげくらむ,こころなぐさに,ほととぎす,きなくさつきの,あやめぐさ,はなたちばなに,ぬきまじへ,かづらにせよと,つつみてやらむ
#[左注](右五月十四日大伴宿祢家持依興作)
#[校異]歌 [西] 謌 / 等 -> 登 [元][紀][細] / 古 -> 左 [代匠記初稿本] / 余 -> 尓 [代匠記初稿本] / 波 -> 婆 [元][類]
#[鄣W],天平感宝1年5月14日,作者:大伴家持,年紀,贈答,地名,能登,富山,枕詞,高岡
#[訓異]
#[大意]珠洲の海人が沖の御神を祀る島に渡って潜って採るという鮑の真珠。それを五百個も欲しい。愛しい妻の命が衣手を別にして別れた時から、ぬばたまの夜の床を片方から離れて朝の寝起きの髪の毛を櫛で整えることもしないで、自分が出てきた月日を数えながら今頃は嘆息しているであろう。その気持ちを慰めるために霍公鳥がやって来て鳴く五月の菖蒲草や花橘に貫いて交えてかずらにしなさいと包んで贈ろう。
#{語釈]
京家 京の自宅。大嬢や坂上郎女を対象としている
珠洲の海人 能登半島先端珠洲市
沖つ御神 全釈「島に神を祀っているので沖の島の神の意。輪島町北方に七つ島。旧名を辺津島といって敷き亡い辺津比咩神社。さらにその北方に舳倉島があって敷き亡い沖津比咩神社がある。今昔物語に能登国の光の浦の海人が寝屋島と猫の島で鮑を採ることがある。寝屋島は、七つ島のことで猫島は舳倉島らしい」
鰒玉 鰒に出来る真珠
06/0933H03海の底 沖つ海石に 鰒玉 さはに潜き出 舟並めて 仕へ奉るし
五百箇 「ち」は「つ」と同じ。「はたち」など
片さり 西「加多古里」 代匠記「古は左の誤り。余床の片つ方に依り去りて伏すなり」
04/0633H01ここだくも思ひけめかも敷栲の枕片さる夢に見え来し
朝寝髪 掻きも梳らず
11/2578H01朝寝髪我れは梳らじうるはしき君が手枕触れてしものを
注釈 この歌を心にもっての句であろう
包みて 物を相手に送るときの所作
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](為贈京家願真珠歌一首[并短歌])
#[原文]白玉乎 都々美氐夜良<婆> 安夜女具佐 波奈多知婆奈尓 安倍母奴久我祢
#[訓読]白玉を包みて遣らばあやめぐさ花橘にあへも貫くがね
#[仮名],しらたまを,つつみてやらば,あやめぐさ,はなたちばなに,あへもぬくがね
#[左注](右五月十四日大伴宿祢家持依興作)
#[校異]波 -> 婆 [元][類]
#[鄣W],天平感宝1年5月14日,作者:大伴家持,年紀,贈答,富山,植物,高岡
#[訓異]
#[大意]真珠を包んで贈ったならば、妻は菖蒲草や花橘に貫き通すだろうに
#{語釈]
あへも貫くがね 「がね」願望、希求 ~欲しい するように
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](為贈京家願真珠歌一首[并短歌])
#[原文]於伎都之麻 伊由伎和多里弖 可豆<久>知布 安波妣多麻母我 都々美弖夜良牟
#[訓読]沖つ島い行き渡りて潜くちふ鰒玉もが包みて遣らむ
#[仮名],おきつしま,いゆきわたりて,かづくちふ,あはびたまもが,つつみてやらむ
#[左注](右五月十四日大伴宿祢家持依興作)
#[校異]具 -> 久 [元][類]
#[鄣W],天平感宝1年5月14日,作者:大伴家持,年紀,贈答,富山,高岡
#[訓異]
#[大意]沖の島に渡って行って潜って採るという鮑の真珠が欲しいものだ。包んで贈ろうから。
#{語釈]
#[説明]
藍紙本 この歌なし。元、古は4104の後に載せる。類、西、紀は、この順番。
#[関連論文]
#[題詞](為贈京家願真珠歌一首[并短歌])
#[原文]和伎母故我 許己呂奈具左尓 夜良無多米 於伎都之麻奈流 之良多麻母我毛
#[訓読]我妹子が心なぐさに遣らむため沖つ島なる白玉もがも
#[仮名],わぎもこが,こころなぐさに,やらむため,おきつしまなる,しらたまもがも
#[左注](右五月十四日大伴宿祢家持依興作)
#[校異]具 [元][類][藍][古] 久 / 左 [元][類][藍][古](塙) 佐
#[鄣W],天平感宝1年5月14日,作者:大伴家持,年紀,贈答,高岡,富山,恋愛
#[訓異]
#[大意]我妹子の心の慰めにするために沖の島にある真珠が欲しいことだ
#{語釈]
#[説明]
元、古は、4102の次に載せる。歌の内容から見て、元、古が本来の順番だったか。
注釈「長歌の句の並びからすると、島に渡っていって、心慰となっているので、多くの写本の順番になるが、「沖つ島なる白玉もがも」を受けて「沖つ島い行き渡りて」と言った。
#[関連論文]
#[題詞](為贈京家願真珠歌一首[并短歌])
#[原文]思良多麻能 伊保都追度比乎 手尓牟須妣 於許世牟安麻波 牟賀思久母安流香 [一云 我家牟伎波母]
#[訓読]白玉の五百つ集ひを手にむすびおこせむ海人はむがしくもあるか [一云 我家牟伎波母]
#[仮名],しらたまの,いほつつどひを,てにむすび,おこせむあまは,むがしくもあるか,[*******]
#[左注]右五月十四日大伴宿祢家持依興作
#[校異]
#[鄣W],天平感宝1年5月14日,作者:大伴家持,年紀,贈答,高岡,富山,異伝,推敲,難訓
#[訓異]
#[大意]真珠のたくさんの集まりを手にすくい持って自分によこす海人は、なんとありがたいことであるか。
#{語釈]
白玉の五百つ集ひ 真珠のたくさんの集まり
10/2012H01白玉の五百つ集ひを解きもみず我は干しかてぬ逢はむ日待つに
手にむすび 手にすくい持つ
07/1142H01命をし幸くよけむと石走る垂水の水をむすびて飲みつ
おこせむ よこす くれる
16/3791H09稲置娘子が 妻どふと 我れにおこせし 彼方の 二綾下沓 飛ぶ鳥
むがしくも ありがたく思う
日本霊異記「後生賢者幸勿嗤」 幸 訓注 牟我之久母
神功紀「則我王必深徳(おむがしみせむ)君王」
類聚名義抄「偉 オムカシ」
続日本紀 宇武何志 伎 事 うむかしき
一云 訓不明 わぎへむきはも と訓むと意味不明
大系 巻十八の損傷が修復されないで残ったもの
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]教喩史生尾張少咋歌一首并短歌
#[原文]七出例云 / 但犯一條即合出之 無七出輙<弃>者徒一年半 / 三不去云 / 雖犯七出不合<弃>之 違者杖一百 唯犯奸悪疾得<弃>之 / 兩妻例云 / 有妻更娶者徒一年 女家杖一百離之 / 詔書云 / 愍賜義夫節婦 / 謹案 先件數條 建法之基 化道之源也 然則義夫之道 情存無別 / 一家同財 豈有忘舊愛新之志哉 所以綴作數行之歌令悔<弃>舊之惑 其詞云
#[訓読]七出例に云はく / 但し一條を犯さば、即ち出だすべし。七出無くして、輙(たやす)く<弃>(す)つる者は、徒一年半といふ。 / 三不去に云はく / 七出を犯すと雖も、<弃>(す)つべくあらず。違ふ者は杖一百。唯し奸を犯したると悪疾とは<弃>(す)つること得といふ。 / 兩妻例に云はく / 妻有りて更に娶る者は、徒一年。女家は杖一百にして離(はな)てといふ。/ 詔書に云はく / 義夫節婦を愍(めぐ)み賜ふとのりたまふ。/ 謹みて案(かんがふ)るに、先の件の數條は、法(のり)を建つる基にして、道を化(おし)ふる源なり。然れば則ち義夫の道は、情存して別無く、 / 一家財を同じくす。豈に舊きを忘れ、新しきを愛(うつく)しぶる志有らめや。所以に數行の歌を綴り作(な)し、舊きを<弃>(す)つる惑(まどひ)を悔いしむ。其の詞に云はく
#[仮名]
#[左注]
#[校異]
#[鄣W]
#[訓異]
#[大意]七出例に言うことには、七条のうち妻が一条でも違反したならば、ただちに離縁してよい。七出の違反がなくて簡単に離婚する者は、禁固刑一年半である。また三不去にいうことには、妻が七出に違反するといっても棄てることは出来ない。違反するものは、杖打ち百回。ただし姦淫した者と悪病持ちは棄てることが出来る。両妻例に言うことには、妻があって更に結婚する者は、禁固刑一年。女子は杖打ち百回にして追放せよ。詔書に言うことには、義夫節婦は、いつくしみなさると。謹んで考えるに、先ほどのこれらの数条は、法を立てることの基本であって、教化の根元である。だから義夫の道は、情があって家族を差別せず、一家で財産を共有することにある。どうして一家の長がもとの妻を忘れて、新しい妻を愛する心があってよいだろうか。従って数行の歌を綴って、旧妻を棄てる迷いを悔い改めさせようとする。その言葉に言うには、
#{語釈]
史生 17/3955 職員令 太政官「史生十人。掌繕写公文、行署文案」
上国 史生三人 四等官の目の下に位置する。
尾張少咋 伝未詳
七出例 令義解戸令 例 条例のこと
凡棄妻。須有七出之状。一無子。
二淫【《さんずい》+失】。
三不事舅姑。
四口舌。
五盗竊。
六妬忌。七悪疾。
皆夫手書棄之。
与尊属近親同署。若不解書。畫指為記。
妻雖有棄状。有三不去。
一経持舅姑之喪。
二娶時賎後貴。
三有所受無所帰。
即犯義絶。淫【《さんずい》+失】。悪疾。不拘此令。
妻を棄てるには、以下の7つの理由(「七出の状」)に該当する必要がある。
1. 子(男子)がない。
2. 淫【《さんずい》+失】〔いんしつ/いんしち〕(=淫乱)。
3. 舅姑(ここでは夫の父母)に仕えない。
4. 口舌(推問を被ったり罪に至る類の悪言)。
5. 盗竊〔とうせつ/とうせち〕(=窃盗)。
6. 妬忌〔とき〕(=嫉妬やいじめ)。
7. 悪疾(=ハンセン病)。
皆、夫が(棄妻文書を)手書して棄てること。
尊属・近親が同じく連署すること。もし文字を解さない場合は、畫指〔かくし〕(=画指=自署の代用に人差し指の長さ・関節の位置を点で写し記す方法)によって証拠の印とすること。
妻を棄てる状況にあるといえども、棄てることのできない3つの理由(「三不去」)がある。
1. 妻が舅姑(ここでは夫の父母)の喪をつとめ終えた場合。
2. 結婚したときには賤しかったけれども、後に貴い身分となった場合。
3. 帰す実家がない場合。
しかしながら、義絶、淫乱を犯したり、悪疾である場合は、この令の三不去を適用しない。
(「和憩団欒房|養老律令の現代語訳を修正するための官制大観ブログ」より)
出之 七出例の一条を犯したならば、離別することが出来る
三不去 令義解戸令 七出例に続く条文
兩妻例 令義解戸令 三不去に続く条文 重婚の禁止
詔書 いつの詔書かは不明
和銅七年六月廿七日大赦の詔 孝子順孫 義夫節婦 表其門侶閭 終身勿事
一家同財 令義解戸令
#[説明]
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#[題詞]教喩史生尾張少咋歌一首并短歌 / 七出例云 / 但犯一條即合出之 無七出輙<弃>者徒一年半 / 三不去云 / 雖犯七出不合<弃>之 違者杖一百 唯犯奸悪疾得<弃>之 / 兩妻例云 / 有妻更娶者徒一年 女家杖一百離之 / 詔書云 / 愍賜義夫節婦 / 謹案 先件數條 建法之基 化道之源也 然則義夫之道 情存無別 / 一家同財 豈有忘舊愛新之志哉 所以綴作數行之歌令悔<弃>舊之惑 其詞云
#[原文]於保奈牟知 須久奈比古奈野 神代欲里 伊比都藝家良<久> 父母乎 見波多布刀久 妻子見波 可奈之久米具之 宇都世美能 余乃許等和利止 可久佐末尓 伊比家流物能乎 世人能 多都流許等太弖 知左能花 佐家流沙加利尓 波之吉余之 曽能都末能古等 安沙余比尓 恵美々恵末須毛 宇知奈氣支 可多里家末久波 等己之部尓 可久之母安良米也 天地能 可未許等余勢天 春花能 佐可里裳安良<牟等> <末>多之家牟 等吉能沙加利曽 波<奈礼>居弖 奈介可須移母我 何時可毛 都可比能許牟等 末多須良<无> 心左夫之苦 南吹 雪消益而 射水河 流水沫能 余留弊奈美 左夫流其兒尓 比毛能緒能 移都我利安比弖 尓保騰里能 布多理雙坐 那呉能宇美能 於支乎布可米天 左度波世流 支美我許己呂能 須敝母須敝奈佐 [言佐夫流者遊行女婦之字也]
#[訓読]大汝 少彦名の 神代より 言ひ継ぎけらく 父母を 見れば貴く 妻子見れば かなしくめぐし うつせみの 世のことわりと かくさまに 言ひけるものを 世の人の 立つる言立て ちさの花 咲ける盛りに はしきよし その妻の子と 朝夕に 笑みみ笑まずも うち嘆き 語りけまくは とこしへに かくしもあらめや 天地の 神言寄せて 春花の 盛りもあらむと 待たしけむ 時の盛りぞ 離れ居て 嘆かす妹が いつしかも 使の来むと 待たすらむ 心寂しく 南風吹き 雪消溢りて 射水川 流る水沫の 寄る辺なみ 左夫流その子に 紐の緒の いつがり合ひて にほ鳥の ふたり並び居 奈呉の海の 奥を深めて さどはせる 君が心の すべもすべなさ [言佐夫流者遊行女婦之字也]
#[仮名],おほなむち,すくなびこなの,かむよより,いひつぎけらく,ちちははを,みればたふとく,めこみれば,かなしくめぐし,うつせみの,よのことわりと,かくさまに,いひけるものを,よのひとの,たつることだて,ちさのはな,さけるさかりに,はしきよし,そのつまのこと,あさよひに,ゑみみゑまずも,うちなげき,かたりけまくは,とこしへに,かくしもあらめや,あめつちの,かみことよせて,はるはなの,さかりもあらむと,またしけむ,ときのさかりぞ,はなれゐて,なげかすいもが,いつしかも,つかひのこむと,またすらむ,こころさぶしく,みなみふき,ゆきげはふりて,いみづかは,ながるみなわの,よるへなみ,さぶるそのこに,ひものをの,いつがりあひて,にほどりの,ふたりならびゐ,なごのうみの,おきをふかめて,さどはせる,きみがこころの,すべもすべなさ
#[左注](右五月十五日守大伴宿祢家持作之)
#[校異]奇 -> 弃 [元][紀][細] / 奇 -> 弃 [元][紀][細] / 奇 -> 弃 [元][紀][細] / 之 -> 久 [万葉集略解] / <> -> 牟等 [代匠記精撰本] / <> -> 末 [代匠記精撰本] / <> -> 奈礼 [代匠記精撰本] / 無 -> 无 [元][紀][細]
#[鄣W],天平感宝1年5月15日,作者:大伴家持,年紀,教喩,律令,高岡,富山,尾張少咋,儒教,地名,木津
#[訓異]
#[大意]大汝 少彦名の神代の昔から言い継いできたことには、父母を見ると貴く、妻子を見ると愛らしくいとしいものである。現実のこの世の道理であるとこのように言ってきたものなのに、世の人の立てる言立てとして言い、ちさの花が咲いている盛りの時にいとしいその妻のあの子と朝夕に笑ったり笑わなかったりして嘆息して話すことには、いつまでもこのようにいようよ。天地の神の加護を願って春の花のように栄える時もあるだろうとお待ちになったであろうその時の盛りが今であるぞ。離れていてお嘆きになっている妻がいつになったら使いが来るだろうかとお待ちになっているその気持ちもさびしいままで、南風が吹いて雪解け水が溢れて射水川が流れる水の泡のような寄る辺のない左夫流というその子に紐の緒のようにくっついていて、かいつぶりのように二人で並んでいて、奈胡の海の沖ではないが、心の奥深くして惑っておられるあなたの心のどうしようもないことであることよ。
#{語釈]
大汝 少彦名の 神代より 国土創造の神
03/0355H01大汝少彦名のいましけむ志都の石屋は幾代経にけむ
父母を 憶良の歌に拠っている
05/0800H01父母を 見れば貴し 妻子見れば めぐし愛し 世間は
立つる言立て 続きがあいまい
ちさの花 ちしゃ、えごの木
07/1360H01息の緒に思へる我れを山ぢさの花にか君がうつろひぬらむ
笑みみ笑まずも 笑ったり笑わなかったり 「み」は、~してみたり
神言寄せて 言葉を寄せて助ける 神の加護による 助力による
04/0546H02言問はむ よしのなければ 心のみ 咽せつつあるに 天地の 神言寄せて
春花の 盛りもあらむと 立身出世して栄える時
時の盛りぞ 今がその盛んな時である 少咋が史生になって出世したこと
雪消溢りて 注釈「ゆきげまさりて」
雪解けの水があふれて
18/4116H06蓬かづらき 酒みづき 遊びなぐれど 射水川 雪消溢りて
左夫流その子 尾張少咋が心を奪われている遊女の名前
全註釈 日本霊異記 窈窕 上音要反下音調反 二会佐備
窈窕たる児という意味。ここでは落ち着かない意味で使っているか。
いつがり合ひて つながり結びつく
09/1767H01豊国の香春は我家紐児にいつがり居れば香春は我家
にほ鳥の かいつぶり
05/0794H05妹の命の 我れをばも いかにせよとか にほ鳥の ふたり並び居
奈呉の海の 沖ではないが奥 枕詞
奥を深めて 心を深くして
さどはせる 心が乱れる まどふに近い意味か
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞](教喩史生尾張少咋歌一首并短歌 / 七出例云 / 但犯一條即合出之 無七出輙<弃>者徒一年半 / 三不去云 / 雖犯七出不合<弃>之 違者杖一百 唯犯奸悪疾得<弃>之 / 兩妻例云 / 有妻更娶者徒一年 女家杖一百離之 / 詔書云 / 愍賜義夫節婦 / 謹案 先件數條 建法之基 化道之源也 然則義夫之道 情存無別 / 一家同財 豈有忘舊愛新之志哉 所以綴作數行之歌令悔<弃>舊之惑 其詞云)反歌三首
#[原文]安乎尓与之 奈良尓安流伊毛我 多可々々尓 麻都良牟許己呂 之可尓波安良司可
#[訓読]あをによし奈良にある妹が高々に待つらむ心しかにはあらじか
#[仮名],あをによし,ならにあるいもが,たかたかに,まつらむこころ,しかにはあらじか
#[左注](右五月十五日守大伴宿祢家持作之)
#[校異]
#[鄣W],天平感宝1年5月15日,作者:大伴家持,年紀,枕詞,教喩,律令,高岡,富山,尾張少咋,儒教,地名,奈良
#[訓異]
#[大意]あをによし奈良にある妻が背伸びをする思いでお待ちになっている心であるぞ。そうではないのか。
#{語釈]
高々に 高く高く 背伸びする思いで
しかにはあらじか 憶良の句に学んだ
05/0800H07国のまほらぞ かにかくに 欲しきまにまに しかにはあらじか
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]((教喩史生尾張少咋歌一首并短歌 / 七出例云 / 但犯一條即合出之 無七出輙<弃>者徒一年半 / 三不去云 / 雖犯七出不合<弃>之 違者杖一百 唯犯奸悪疾得<弃>之 / 兩妻例云 / 有妻更娶者徒一年 女家杖一百離之 / 詔書云 / 愍賜義夫節婦 / 謹案 先件數條 建法之基 化道之源也 然則義夫之道 情存無別 / 一家同財 豈有忘舊愛新之志哉 所以綴作數行之歌令悔<弃>舊之惑 其詞云)反歌三首)
#[原文]左刀妣等能 見流目波豆可之 左夫流兒尓 佐度波須伎美我 美夜泥之理夫利
#[訓読]里人の見る目恥づかし左夫流子にさどはす君が宮出後姿
#[仮名],さとびとの,みるめはづかし,さぶるこに,さどはすきみが,みやでしりぶり
#[左注](右五月十五日守大伴宿祢家持作之)
#[校異]
#[鄣W],天平感宝1年5月15日,作者:大伴家持,年紀,教喩,律令,高岡,富山,尾張少咋,儒教
#[訓異]
#[大意]里人が見る目もはづかしい。左夫流児に心を惑わせているあなたの後ろ姿は。
#{語釈]
宮出後姿 宮出 國府へ出勤すること
うしろ尻を振りながら出勤する様子を皮肉的に言っている
注釈「里人が面と向かっては役人として敬うような態度をとりながら、後ろへ廻っては陰口をきく、つまり後指をさすというような意味であると見るべきであろう
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]((教喩史生尾張少咋歌一首并短歌 / 七出例云 / 但犯一條即合出之 無七出輙<弃>者徒一年半 / 三不去云 / 雖犯七出不合<弃>之 違者杖一百 唯犯奸悪疾得<弃>之 / 兩妻例云 / 有妻更娶者徒一年 女家杖一百離之 / 詔書云 / 愍賜義夫節婦 / 謹案 先件數條 建法之基 化道之源也 然則義夫之道 情存無別 / 一家同財 豈有忘舊愛新之志哉 所以綴作數行之歌令悔<弃>舊之惑 其詞云)反歌三首)
#[原文]久礼奈為波 宇都呂布母能曽 都流波美能 奈礼尓之伎奴尓 奈保之可米夜母
#[訓読]紅はうつろふものぞ橡のなれにし来ぬになほしかめやも
#[仮名],くれなゐは,うつろふものぞ,つるはみの,なれにしきぬに,なほしかめやも
#[左注]右五月十五日守大伴宿祢家持作之
#[校異]
#[鄣W],天平感宝1年5月15日,作者:大伴家持,年紀,教喩,律令,高岡,富山,尾張少咋,儒教,植物
#[訓異]
#[大意]あざやかな紅色はすぐに褪色してしまうものであるぞ。橡で染めた着慣れた衣になお及ぶことがあろうか。
#{語釈]
紅 紅花のあざやかな紅色
橡 橡で染めた衣 櫟の実、どんぐりの煮汁で染めた黒い色
#[説明]
礼記には、本妻の承認があって妾を持てる。ただし妾は霊廟の祭祀権はない。
本妻50歳で妾を出して寝所から下がる。
従って、本妻の承認が無ければ、不倫となる。
家持は、実際に教諭しようとしたのではなく、棄怨婦の影響下、尾張少咋の事件を題材にして諧謔的に作歌した。
#[関連論文]
#[題詞]先妻不待夫君之<喚>使自来時作歌一首
#[原文]左夫流兒我 伊都伎之等<乃>尓 須受可氣奴 <波>由麻久太礼利 佐刀毛等騰呂尓
#[訓読]左夫流子が斎きし殿に鈴懸けぬ駅馬下れり里もとどろに
#[仮名],さぶるこが,いつきしとのに,すずかけぬ,はゆまくだれり,さともとどろに
#[左注]同月十七日大伴宿祢家持作之
#[校異]愛 -> 喚 [西(朱書訂正)][元][古][紀][温] / 能 -> 乃 [元][類][古] / 婆 -> 波 [古][紀][矢][京]
#[鄣W],天平感宝1年5月17日,作者:大伴家持,年紀,,教喩,律令,高岡,富山,尾張少咋,儒教,興味
#[訓異]
#[大意]左夫流児を大切に祭っている御殿に駅鈴を懸けない駅馬が下ってきた。里を鳴り響かせて
#{語釈]
斎きし殿 大切に祭ってある御殿 皮肉的に言う。
鈴懸けぬ 駅鈴を懸けない 私費でやってくる
里もとどろに 里が大騒ぎになったことを言う
注釈「何の音沙汰もなく突然やって来て、そのあと村中の評判になった有様が想像されるのである
#[説明]
#[関連論文]
#[題詞]橘歌一首[并短歌]
#[原文]可氣麻久母 安夜尓加之古思 皇神祖<乃> 可見能大御世尓 田道間守 常世尓和多利 夜保許毛知 麻為泥許之登吉 時<及>能 香久乃菓子乎 可之古久母 能許之多麻敝礼 國毛勢尓 於非多知左加延 波流左礼婆 孫枝毛伊都追 保登等藝須 奈久五月尓波 波都波奈乎 延太尓多乎理弖 乎登女良尓 都刀尓母夜里美 之路多倍能 蘇泥尓毛古伎礼 香具<播>之美 於枳弖可良之美 安由流實波 多麻尓奴伎都追 手尓麻吉弖 見礼騰毛安加受 秋豆氣婆 之具礼<乃>雨零 阿之比奇能 夜麻能許奴礼波 久<礼奈為>尓 仁保比知礼止毛 多知波奈<乃> 成流其實者 比太照尓 伊夜見我保之久 美由伎布流 冬尓伊多礼婆 霜於氣騰母 其葉毛可礼受 常磐奈須 伊夜佐加波延尓 之可礼許曽 神乃御代欲理 与呂之奈倍 此橘乎 等伎自久能 可久能木實等 名附家良之母
#[訓読]かけまくも あやに畏し 天皇の 神の大御代に 田道間守 常世に渡り 八桙持ち 参ゐ出来し時 時じくの かくの木の実を 畏くも 残したまへれ 国も狭に 生ひ立ち栄え 春されば 孫枝萌いつつ 霍公鳥 鳴く五月には 初花を 枝に手折りて 娘子らに つとにも遣りみ 白栲の 袖にも扱入れ かぐはしみ 置きて枯らしみ あゆる実は 玉に貫きつつ 手に巻きて 見れども飽かず 秋づけば しぐれの雨降り あしひきの 山の木末は 紅に にほひ散れども 橘の なれるその実は ひた照りに いや見が欲しく み雪降る 冬に至れば 霜置けども その葉も枯れず 常磐なす いやさかはえに しかれこそ 神の御代より よろしなへ この橘を 時じくの かくの木の実と 名付けけらしも
#[仮名],かけまくも,あやにかしこし,すめろきの,かみのおほみよに,たぢまもり,とこよにわたり,やほこもち,まゐでこしとき,ときじくの,かくのこのみを,かしこくも,のこしたまへれ,くにもせに,おひたちさかえ,はるされば,ひこえもいつつ,ほととぎす,なくさつきには,はつはなを,えだにたをりて,をとめらに,つとにもやりみ,しろたへの,そでにもこきれ,かぐはしみ,おきてからしみ,あゆるみは,たまにぬきつつ,てにまきて,みれどもあかず,あきづけば,しぐれのあめふり,あしひきの,やまのこぬれは,くれなゐに,にほひちれども,たちばなの,なれるそのみは,ひたてりに,いやみがほしく,みゆきふる,ふゆにいたれば,しもおけども,そのはもかれず,ときはなす,いやさかはえに,しかれこそ,かみのみよより,よろしなへ,このたちばなを,ときじくの,かくのこのみと,なづけけらしも
#[左注](閏五月廿三日大伴宿祢家持作之)
#[校異]歌 [西] 謌 / 能 -> 乃 [元][類] / 支 -> 及 [万葉考] / 幡 -> 播 [元][類][紀] / 能 -> 乃 [元][類] / <> -> 礼奈為 [西(朱書)][紀][細] / 能 -> 乃 [元][類]
#[鄣W],天平感宝1年閏5月23日,作者:大伴家持,年紀,植物,賀歌,寿歌,橘諸兄,高岡,富山,枕詞
#[訓異]
#[大意]言葉に懸けて言うのもまことにおそれ多い天皇の神の大御代に田道間守が常世に渡って多くの苗木を持って帰朝した時、その時ではないのに芳しい木の実をもったいなくも後世にお残しになったので、国も狭いばかりに生え栄えて、春になると孫の新枝が萌え出し続け、霍公鳥が鳴く五月には初花を枝ごと手折って娘子たちにみやげにでもやったりしたり、白妙の袖にもしごいて入れて、芳しいので置いてそのまま枯らしたりして、地面に落ちる実は玉に貫いたりして手に巻いて見ても見飽きることはない。秋になると時雨の雨が降って、あしひきの山のこずえは紅葉して照り映えて散ってしまうが、橘の熟しているその実は、ひたすら照り輝いていてますます見たいと思い、み雪が降る冬になると霜が置くけれどもその葉も枯れないで、永遠のようにますます栄え照り輝いて、そうではあるからこそ神の御代からふさわしくこの橘を永遠のかぐわしい木の実と名付けたらしいよ
#{語釈]
橘
06/1009
冬十一月左大辨葛城王等賜姓橘氏之時御製歌一首
橘は実さへ花さへその葉さへ枝に霜降れどいや常葉の木
右冬十一月九日 従三位葛城王従四位上佐為王等 辞皇族之高名 賜外家之橘姓已訖 於時太上天皇々后共在于皇后宮 以為肆宴而即御製賀橘之歌 并賜御酒宿祢等也 或云 此歌一首太上天皇御歌 但天皇々后御歌各有一首者 其歌遺落未得<探>求焉 今檢案内 八年十一月九日葛城王等願橘宿祢之姓上表 以十七日依表乞賜橘宿祢
右、(天平8)冬十一月九日、従三位葛城王、従四位上佐為王等、皇族の高き名を辞し、外家の橘姓を賜ふこと已に訖ぬ。時に太上天皇(元正)々后、共に皇后宮に在り、以て肆宴を為して即ち橘を賀(ほ)く歌を御製(つくら)し、并せて御酒を宿祢等に賜ふ。
或ひは云ふ、此の歌一首は、太上天皇の御歌ぞ。但し天皇々后の御歌は各一首有りといへり。其の歌遺(う)せ落(お)ちて未だ<探>求することを得ず。今案内(あない)を檢(ただ)すに、八年十一月九日、葛城王等、橘宿祢の姓を願ひてを表を上(たてま)つる。十七日を以て表の乞(ねが)ひに依りて橘姓を賜ふ。
かけまくも 言葉にかけて言うのも
02/0199H01かけまくも ゆゆしきかも
03/0475H01かけまくも あやに畏し 言はまくも ゆゆしきかも 我が大君 皇子の命
03/0478H01かけまくも あやに畏し 我が大君 皇子の命の もののふの
06/0948H04馬並めて 行かまし里を 待ちかてに 我がする春を かけまくも
06/1021H01かけまくも ゆゆし畏し 住吉の 現人神 船舳に うしはきたまひ
13/3234H04ここをしも まぐはしみかも かけまくも あやに畏き 山辺の
13/3324H01かけまくも あやに畏し 藤原の 都しみみに 人はしも 満ちてあれども
18/4111H01かけまくも あやに畏し 天皇の 神の大御代に 田道間守
20/4360H02知らしめしきと 今の緒に 絶えず言ひつつ かけまくも
田道間守 常世に渡り 垂仁記
八矛 多くの苗木
時じくの かくの木の実 その時でないのに芳しく香っている木の実
西「時支能」 トキジクノ トキジキノとしか訓めない。
最後にトキジクノと句があるので、家持はトキジクノと表現し ていた
代匠記 支の下に久が落ちた。 支はキの音仮名であり、シと訓んだ例はない
考 支は及の誤り
略解 支は敷の誤り
古義 久が落ちた
大系 支は巻十八の特殊な用字。従ってここは、
麻為泥許之登吉 非時能 または不時能 とあった原文が総称の為に 不明になり、非または不が脱落して、時の下に支が挿入された
孫枝萌いつつ 5/810序文 切り株から出てくる小枝。ここは枝から更に出る小枝
萌いつつ ヤ行上二段 普通「萌えつつ」 ヤ行下二段
ここだけ。家持の古語意識による特別な使い方か
扱入れ 手でしごいて入れる
08/1644H01引き攀ぢて折らば散るべみ梅の花袖に扱入れつ染まば染むとも
置きて枯らしみ 折り採った枝を置いてそのまま枯らしたり
あゆる実は ヤ行下二段 こぼれ落ちる 未熟のまま木から落ちる実
08/1507H02五月を近み あえぬがに 花咲きにけり 朝に日に 出で見るごとに
10/2272H01秋づけば水草の花のあえぬがに思へど知らじ直に逢はざれば
ひた照りに 4064 ひたすら照っている
いやさかはえに 彌栄映えに ますます栄えて輝いて
よろしなへ ふさわしく
01/0052H05青菅山は 背面の 大御門に よろしなへ 神さび立てり 名ぐはし
#[説明]
#[関連論文]