空翔る天馬





―――シオン、彼はきっと役にたちます。だって、彼は闇と戦ったことがある人物・・・。

     彼の名前は・・・ラフィス―――



ザシュッ

目が覚めたとき、ここは宿のベッドの上。おまけに真横には、とがった岩。

「うぉわ!?」

何事かと身体を起こすと、ベッドからその岩は突き出していた。

「貴様、さっきから何回起こしたと思ってるんだ」

声のするほう・・・ベッドの前にフィーナが腕を組んでたっていた。

目が据わっている。

この鋭くシオンをかすめた石も、彼女の魔法だろう。

「それにしてもこれは・・・殺す気か!?」

「シオンさん、普通に起こしても全然起きなかったんですよー?」

シオンの必死の抵抗も、フィーナの後ろから顔を出したリコリスによって

詰まらされる。

「まぁまぁ・・・。そろそろ出発しようよ」

一部始終をみていたアルミオンが苦笑しながら、3人のやりとりをとめた。

確かにそろそろ出発するにはいい時間だ。

シオンもこれ以上フィーナの機嫌を損ねるためにはいかず、

大慌てで支度を終える。

八つ裂きれたベッドはそのままに、4人は次なる魔石を目指すことに。





「そうそう。ところでさ、ラフィスって知ってる?」

町から出、フィーナとアルミオンが頭上から布を取り払ったとき

シオンは尋ねた。

夢見で言われた名前、ラフィス。2人なら何か知ってるんじゃないかと。

だが、フィーナとアルミオンは予想外にもそれに一驚していた。

その反応をみると、きいてはいけないことだったんじゃないかと

後ろめたくなってくるのだが・・・。

「シオンさん、なんでラフィスさんのことを・・・」

「ラフィスはかつてダークヴォルマと一戦を交えた者・・・。

貴様と同じ役割だった奴だ」

ダークヴォルマは、1000年前に現れそいつを滅ぼすために

ラフィスは選ばれた。

そしてダークヴォルマは封印され、その戦いでラフィスも命を

落としたという・・・。

「お偉い方で、お強かったんですね」

フィーナが一通り話し終わると、リコリスは感心した様子で息をついた。

裏腹にシオンの謎は深まるばかり。1000年も前に死んだ奴を仲間に?

死者の世界から呼び出すとでも言うのだろうか。

それともラフィスの幽霊がここに?

「ふーん・・・」

生返事を返して、このあたりは深く考え込まないようにした。

「ラフィスがどうかしたのか?」

このフィーナの問いにも曖昧に何でもないと答えておいた。







次の目的地。

“光なき漆黒の世界の針を進めよ”

「今までで一番なぞな文だな・・・」

呆れまじりでシオンが呟く。

「いくら“神”なる存在でも魔の石を完全に見極められないということだ。

それほど奴の力も強いんだろう。ヒントがあるだけ有り難いと思え」

いつもどおり、彼女に冷然と言い返される。

その間にリコリスは何かに気付いたらしい。

「この漆黒の世界って・・・南のほうにある朝がこない地域ですよね?」

「うん・・・。それっぽいね。でも針なんてあるっけ?」

針、今までのセオリーでいくと何かの建物か、それとも

針を意する岩か・・・とアルミオンが考えこむ。

「とりあえず、その南の地域に行ってみるか!」

考えていてもしょうがない、とシオンは決断。比較的距離は遠くない。

そして、アルミオン曰く南の地域には精霊もいるという・・・。

目的地は一変して南に変わった。





南へ行くには岩道を越えていく必要がある。

岩場に差し掛かってすぐ、足場の悪い岩道を転ばないように慎重に歩いて行く。

ごつごつしたと数メートルのほどしか幅のない岩間を歩いている時・・・

「お、フィーナレンスとアルミオンファラールか!」

不意に声が飛んでき、シオンとフィーナは反射的に攻撃態勢を構える。

「なんじゃ、わらわを忘れたのか?」

声のするほうは・・・岩の上。目線をあげて、声の主の姿をとらえた。

ひとりの女の子が岩に座り込んでいる。いや、でもどこか違う・・・。

よくみると、頭から一本の角が突き出しているではないか。

「モ、モンスター・・・!?」

シオンの剣の柄を握る力が強くなる。それに慌てて、

アルミオンがさっと弁解を。

「や、違うよ。あれはペガサスだよ。ラクシスランドの生物、天馬だ」

「ペガサスさん、ですか・・・」リコリスも、唖然とその少女を見上げる。

ラクシスランドには、そんな生物もいるのかとシオンが目を丸くする

間にその少女は岩から軽々と飛び降りた。

肩ぐらいのライトグリーンの髪が柔らかそうに揺れる。

「シオンという奴が剣を使えなくなったというらしいんじゃが・・・

導き役の竜は何をやっとるのか・・・。フィーナは、やはり

駄目竜のハシクレじゃな」

少女はわざとあきれたようなため息をつき、フィーナをちらりと見る。

「・・・なんであんな言葉なんだ?」

テスタルトでも珍しい言葉遣い。だが、シオンの今の発言は

少女の怒りを買ったようで。

「あんな言葉とは失礼じゃな。わらわはこんな言葉でしょうがないのじゃ」

少々ムッとしたご様子。

「えっと・・・あの子の名前はリース。リースナージョペガサス。

なんでかフィーナに対抗意識があるんだ」とアルミオン。

「ライバルのラの字にもならないがな」

そしてフィーナがはっきりと付け加えた。

確かに今もリースという子は、ひとりで何か騒いでいる。結局、

謎な行動が多い子だ。

「それで・・・貴様は何をしにきたんだ?」

用がないなら、さっさと消えてくれといった感じでフィーナは

リースを睨んだけれども、睨まれた本人はマイペースににやりと笑って答えた。



「おぬしらを見ているとこちらがイライラするのでな。

わらわも旅に同行させてもらうぞ」



みんなが驚愕し、個々にさまざまな思いを抱いた瞬間だった―――・・・。




無茶苦茶で突然な奴だったけど、特に害はないからとアルミオンに宥められ

シオンはただその少女を受け入れることしかできなかった。というかリースの強引さに

立ち向かうことができなかった。




こうして(強制的に)リースをくわえてメンバーは騒がしく、いや賑やかになった。



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