リースの力






「次はハリウンヌスの森ではないか!」

リースがあの言葉をきくや否や声をあげる。



「ハリウンヌス?」

「ここより南の針葉樹林じゃ。あそこは一年中真っ暗らしいからの。

ぴったり当てはまるじゃろう」

彼女はそうやってシオンに得意気に言い終えた。

ハリウンヌスの針葉樹。針とはそのことだろう。

「意外にあっけない謎解きだったな」と、しれっと言ったフィーナに

「はん。あんな謎解きもできんとはやれやれじゃ」

リースはわざと呆れたようなため息をつく。にやにやと笑って

フィーナを見るが、相手は青筋を立ててるだけで喧嘩は買わない。



「フィーナ、怒んないの?」

小声で、にこにこしてその様子を見てるアルミオンにシオンは尋ねた。

「まぁ、ね・・・。たとえ1000年離れてるだけだけど

フィーナのほうが年上だし・・・」

「は?何の話・・・?」

「だから、フィーナの年齢だよ」

1000年離れている。確かに彼はこういった。つまりは・・・

真っ白になった脳の意識を保って言葉にする。

「フィーナって1000歳以上なのか!?」

驚きのあまり、声を荒らげる。それにみんなは怪訝そうに

声をあげた少年を振り返った。

だが、今はそんなこと気にしていられない。目を丸くしているシオンに、

「いや、フィーナは今年で5000歳くらいじゃないっけ?」

アルミオンは平然と言い放った。

つまり、フィーナと幼馴染であるアルミオンも5000歳を超える

年齢なわけであるということになる。

そして自分よりも幼いような思考のリースでさえも4000年もの

歳月を生きてきたということ。

どうみても、同い年くらいだろう・・・。シオンは彼らを交互に見比べ、

驚くべき数値をと比較する。

そんなに長い年月を超えてきたのか。少し頭を抱えた。

「恐竜型モンスターは何万年と生きるとききますけど・・・。

アルミオンさんたちもそんな昔に生きられていたんですねー・・・。

驚きです」

リコリスもほぅっと息をついたが、言葉とは裏腹にあまり驚いてる

ようには見えないのだが・・・。

「まぁ、僕たちはみんな長生きだからね」

そんな二人に苦笑しながら、アルミオンは話を簡潔にまとめて終わらせた。








「あ、あれ針葉樹林じゃないですか?」

だんだんとどんよりしてきた空色の下、むこうに広がる更に暗い森を

リコリスが指差した。

不気味でお化けがでてきてもおかしくないような木々の集まり。

「おぉ。まさしく!あれがハリウンヌスの森じゃあ!」

あれに入り込むのはなんだか気が進まない。迷ったりしたらそれこそ

帰り道を忘れてしまうんじゃないだろうか。そんな中・・・。

「あそこに精霊の石があるんですよね?」

リコリスが歩む足を休めず、前を見据えた。



「それなら、私が精霊の石をとってきます」



なんとリコリスが精霊の石をとってくると言い出すではないか。真剣だ。

石のまわりには精霊が住み着いている。その精霊を納得させて、

もしくは力でねじ伏せて石を得なくてはいけない。

「・・・お前では無理だ。アルミオン。ついていってやれ」

フィーナは踵を返してアルミオンに目で合図を送る、だが。

「いいえ。一人で大丈夫です・・・。だってみなさんはダークマジック

ストーンがあるじゃないですか・・・。私でできることがあるなら、

役に、立ちたいので・・・」

どうしても引かなかった。その静かなる空間の中にリースが割って入る。

「まぁまぁ。フィーナ、そんな鬼のような顔をするな。こやつ、

案外丈夫じゃぞ」

リコリスにさらにリースにまでそういわれ、フィーナはとうとう目を伏せた。

「勝手にしろ」

「あ、ありがとうございます・・・!」

アルミオンに精霊の居場所をきいたリコリスは一礼してから、

そちらの方向へと走っていってしまった。

足音が遠くなり、姿も暗闇の中に消えていく。



「大丈夫かな・・・リコリス」

針葉樹林へ入り込みながらシオンが呟く。

「さあな」とフィーナからそっけない返事がかえってきたのだが。

「リコリスは、自分的にお荷物になってるんじゃないかと不安なんだよ、

フィーナ。それにあの子は本当に弱くない。大丈夫だよ」

納得がいかないような苦々しい表情をしていたフィーナに

アルミオンは説得するように声をかけた。

「・・・」

だんだん木々は密集し、まさしくあたりは森へと変化していく。

まだきっと昼間であるだろうに、空には星が輝くほど太陽の光は

はいってこない。

「む。前方に大きな木発見じゃあー!!」

急にリースが駆け出し、前方にある大きな木に触れに行った。

針葉樹なのだろうか。どこかまわりの木とは違う感じがするが・・・。

フィーナもその木に近づき、あたりを見回す。

「きっとあるのはここら辺だろうな。魔石を探すぞ」





「なぁ、本当にここらへんなのかー?」

「全然見つからないけど」

「わらわは探しつかれたぞよ・・・」

「うるさい。文句言う暇があるのなら黙って探せ」

シオン、アルミオン、リースがやる気がなくなるのもわからなくはない。

かれこれどれくらいの時間探しただろうか、この場所を。

手がかりすらもないこの状況の中でやる気はだんだんと

なくなっていってしまう。

と、一瞬キラリと巨大な木が光を発したのをフィーナは見逃さなかった。

軽く目を細める。

「・・・シオン。あの木を真っ二つに切れ」

「はぁっ!?俺はきこりか!?」

「早くしないとここを火の海にするぞ」

木を切れと脅され、シオンは渋々剣を抜き、正面で構える。



スパーンッ

竹を割ったような豪快な音(木なのに)。

木は真っ二つになって左右に横たわった。

「おぉ、お見事!」

軽く拍手しつつ、リースが感心するように言ったのが聞こえた。

だが・・・フィーナが真っ二つの木を睨みつける。

「気をつけろ、魔物だ!」

パンと音をたてて、まばゆい光が発光。リースの真横で稲妻が

地面に突き刺さった。

「おぉおーッ!?なんじゃ!?」

リースが頭上に目線を移し変えると魔物らしき物体が浮遊していた。

くらげのような、空飛ぶ円盤みたいな魔物がくるくると回転している。

こっちのほうが目がまわりそうだ。

バチィッ

再び音をたてて、リースの近くに雷撃が落とされる。

「リース危ない!」

シオンがそう叫んだ瞬間、すぱんと切れの良い音。

そして地面にぽつぽつと滴る血。

「わらわを誰だと思ってるんじゃ!」

彼女が両手に握るはくるりと丸みがある刃物。

それを構えて不敵に笑っていた。

(あれは・・・チャクラム・・!)

リースのチャクラムは見事に敵を真一文字に切っていた。

・・・もっと深かったら魔物はもう倒れていたかもしれない。

「ふふん、わらわの実力はこんなものではないぞ」

得意になっているリースだが、再びくるくると回転している相手を

確認して間合いをとる。



シオンとリースが懸命に戦ったり逃げたりしている中、フィーナは

フィーナで呪文を詠唱を開始していた。

(あれ・・・この呪文ってまさか・・・)

アルミオンはハッとなってシオンとリースに急いで呼びかけた。

「シオンさん、リース。危ないから隠れて!」

「へ?」

「ぬ?・・・この呪文・・・!?」

「?」を浮かべるシオンと一方リースも顔色をかえた。



「ブラックホーールッ!!」



呪文が完成し、フィーナの呼び出したブラックホール。

あたりの木々は、しなり、葉は吸い込まれて土も荒れた。

それらはもちろんシオンたちにも及ぶ。

必死に、魔の暗闇にひきこまれないように抵抗。

魔物の行方も、お互いの無事も確認できぬままブラックホールは

すっと消えうせ、あたりに静寂が戻った。

どうやら自分はまだ、この世にとどまっている。ほっと安堵した。

のも束の間重要なことを思い出した。

「あー!フィーナ!!魔物飲み込んじゃったら剣でトドメが

させないじゃないか!」

何事もなかったかのように平然と構えているフィーナを

とがめるようにいったのだが・・・

「・・・すぐ戻ってくる」

と。その次の瞬間、シオンの背後でどさっと落下音が聞こえた。

魔物が、ぐったりして倒れている。



今回も、木の中に埋め込まれていた石をばらばらに砕け散らした。



「フィーナ!おぬし、わらわも吸い込もうとしたじゃろう!?」

しばらく地面にうつぶせていたリースが顔をあげて、

がみがみとフィーナにつっかかる。当然といえば当然だ。

「大丈夫だ。貴様なら殺しても死にきらんだろう」

こちらも当然といった感じで言い返す。

「まぁ、とりあえず全員無事、だよね?」

全身についた葉っぱをはらい落としながら、苦笑したのはアルミオン。

そして彼はふと南の方を見つめた。



(闇の精霊石の気配が消えてる・・・・)



そう感じ、柔らかく笑った。



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