脅威の復活






「みなさーん!」



遠くから高い声が響く。足音と共に近づいてきていた。

リコリスだ。

さきほどまで不機嫌だったリースだが、リコリスを見るなり嬉しそうに変化。

「おぉ!どうじゃ?ちゃんとできたか?」

「はい!」

それに力いっぱい返事するリコリス。

彼女の手には一個の石が握られていた。

「おぉーー!!でかしたではないか!!」

がしがしとリコリスの頭を乱暴に撫でるリースだが、

リコリスは嬉しそうに笑っていた。

ブラックオニキスのような、アメジストのような魅惑的な色を放つ石だ。

「うわー。本当にリコリス一人でやったんだー!」

その精霊石を手にとり、かざしてみたり突っついたりするシオン。

好奇心いっぱいだ。

「んー・・・。でも石がほしいんですがって頼んだら簡単に

譲ってくださいましたよ?」

「あはは。闇の精霊にリコリスの誠意が通じたんだね」

軽く笑って、アルミオンはシオンの剣に石を投入。吸い込まれるように

入っていく石はいつみても不思議だ。

「あぁ、これでここには用はないな・・・。もう発つぞ」



と、フィーナが一歩踏み出した瞬間だった。

ゴゴゴゴゴ・・・・!!!!

轟音が鳴り響く。地面が激しく揺れる。フィーナの呪文よりも強い

振動が足に直に伝わってきた。

「な、なんだ!?」

「わわっ!!」

シオンとリコリスは地面にしゃがみバランスをとる。

だが、フィーナとアルミオンとリースはなにか苦々しい表情をしていた。

「ちっ・・・。もうこんなときか・・・!」

「どうするの?僕たち、まだ全然なんだけど」

「ぬー・・・。もはや一刻も争えんな」



激しい揺れの故、木はすべて倒れ、石すら落ちてくる始末。

世界のバランスが崩されたように、ばらばらと・・。

自然災害のレベルでは、ない。

その揺れは長く続いた。・・・いや、長く続く。

世界が再び包まれるときが―――・・・。



「シオンさん、シオンさん。しっかりしてください」

誰かの声。それに薄ら薄ら意識を取り戻していく。

「あ、あぁ・・・アルミオン?」

「大丈夫ですか?」

「一応大丈夫っぽい・・・」

擦り傷切り傷もないのはアルミオンの治癒のおかげだろう。

ただあの落石倒木の中目立った外傷がなく痛みがないのは不思議だった。

「『フィーナレンスドラゴン』が僕たちをかばってくれたんだよ」

「え!?フィーナは大丈夫なの!?」

「大丈夫大丈夫」



「シオン、やっと起きたのか」

ナイスタイミングでフィーナが現れた。平静と装ってるがなにか

動揺しているようにみえるのは気のせいではないはず。

「アルミオン、リコリスたちもちょっと怪我してた。治しにいってくれ」

「わかった」

どういってアルミオンはリコリス、リースの元へ走っていった。



「フィーナ、一体何があったんだ?」

シオンがきょろきょろとあたりを見回すと、ひび割れた地面やら

荒れくれた森やらが目につく。現状理解についていけない。

「さっきの地震のせい・・・?」

「さっきのは地震なんかじゃない」

フィーナは、何か辛そうに目を伏せる。

「あれは・・・ダークヴォルマの復活・・・」

「・・・え」

ダークヴォルマの復活・・・。

今まで復活を防ぐように旅をしてきたはず。一体なぜ・・・。

魔石は半分以上壊してきた。今更闇の力がたまるなんて考えにくい。

「とんだ勘違いだった。ヤツの力は十分に溜められていた。

ただ時を待っていただけなんだ」

「時・・・?」

「あぁ。きっと今が何か都合のいいチャンスのときだったんだろう・・・」

そうだったらすべて納得がいく・・・とフィーナは悔しそうに呟いた。

守りにしては弱い魔物。そしてわざわざ時間かせぎのように遠間隔で

配置された魔石の数々・・・。

「フェーンフィートさん・・・」

無意識のうちに弱弱しく彼女が呟いた名前。

「・・・だれ?それ」

「・・・いや・・・。気にしなくて、いい」

シオンは言葉をなくし、黙り込む。

嫌な沈黙の後、リコリス、リース、そしてアルミオンが2人に近づいてきた。



「フィーナ。どうするんじゃ?まさかこれから殴りこみ?」

リースはどうやら今の状況を理解しているようだ。

それはそうかもしれない。前ダークヴォルマが現れたときは

3000歳だったのだから。

リコリスもアルミオンからきいたのだろう。表情をゆがめていた。

「・・・リース。私の、シオンの今の力ではダークヴォルマは

きっと倒せない」

フィーナははっきりと断言した。

「んー・・・。じゃあ精霊を集めてシオンさんの剣の強化・・・とか?」

アルミオンが尋ねるように言うとフィーナは軽くうなずく。

「あぁ、そしてマドラージェ遺跡に行く」

「・・・シオンさんをマドラージェ遺跡に・・・!?」

「あぁ。じゃないと歯がたたんだろうからな」

マドラージェ遺跡の名前すら知らないシオンをさておき、

話をすぱすぱと決めていく。



「あ、重要なこと忘れてた!ラフィスにあわないと!」



夢できいたラフィス。彼なら自分達に力をかしてくれるらしい。

だが、フィーナ、アルミオンだけではなくリースも今度は驚いている。

「ラフィスは、もうこの世にはいない」



ラフィスは、1000年前シオンと同じ役割にあった人物・・・。

そう、フェーンフィートドラゴンが導き役となって―――。

そのときに命を落としている。



「でも神様がラフィスの会えって・・・」

責められているような視線を感じてシオンもだんだんと口ごもる。

だが・・・

「まさか・・・」

フィーナが目を見開く。

「カルナの国にいる最高指令官・・・」

シオンとほぼ同じ歳である城の指令役。この世の唯一の夢見使い手の

第二者・・・。

「じゃが、ラフィスはもう死んでる。そんなことはないはずじゃ」

これが問題。それでも、カルナのセントラル王国に行く価値は

あるだろう・・・。



「あの、とりあえずここから脱出しませんか?村や町の状態も

気になりますし」

リコリスが申し訳なさそうに会話に入り込む。だが確かにここから早く

出発したい。

一同は北に戻るため、荒れた大地を進んでいった。





「それにしても、ダークヴォルマって本当に復活したのか・・・?」

「あぁ、闇の力の増幅を感じる」

「でも全然変化ないけど・・・」

ぼろぼろの世界になっただけ・・・。もっと、すごいことになるんじゃ

ないかと不安を感じていたシオンからしたら拍子抜けだ。

「今に生物が荒れ狂い、空が暗黒に包まれ、ダークヴォルマが姿を見せるさ」

「じゃあ、ダークヴォルマって今どこにいるんだよ?」

「時空空間の中だ」

すべての問いにはっきりと答えていくフィーナ。だが、いきなり

時空空間だなんて別世界のこといわれても想像がつかない。

「・・・それ、本当にいけるのか?」

「私とアルミオンの魔力が合わされば時空がゆがみ一瞬だけ隙ができる。

そこからー・・・」

「私の知ってるモンスターに、時空間を切り裂くモンスターがいますよ」

リコリスは、何気なく言葉を漏らした。だが、フィーナの興味が

一気にそれに注がれる。

「じゃあそいつで行こう。私だって無駄なエネルギーを消費したくない

からな」

「そのモンスターははるか東の時の大聖堂にいるといわれています」

はるか東の時の大聖堂・・・。それをきいてフィーナの表情が

わずかにゆがむ。

「時の大聖堂か・・・。きいたことはあるが、本当にいけるのか?」

だがリコリスはそれに答えなかった。いや、答えられなかった。

「まずは情報集めは先のようじゃのー・・・。時の大聖堂に一番近い

村で情報を集めるのが良いの。確かクリャ・・・えっと・・・

ソーノの村といったか・・・」

とリース。テスタルトの地理に一番詳しいのはリースかもしれない。



「精霊石集め、マドラージェ遺跡、時の大聖堂。まずどれに行くかは

シオン、貴様にまかせる」

不意に話を振られてシオンはあたふたしていたが

「ラフィスはどうするんだ?」

「ここから一番遠い国だからな。ここの問題を片付けてから向かう」

そういうフィーナの声色はいつもよりも更にそっけなく思えた。

「じゃあ・・・精霊石を集める!」

気合をいれた一言。シオンはガッツポーズを決めている。

「精霊石ぃー?もっと派手にマドラージェに行かぬか!」

「う・・・」

リースに釘をさされるまでは。

「まぁまぁ、シオンさんがせっかくやる気になってるんだからぁー」

とアルミオン。



こうして精霊石探しへー・・・。



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