冷たい過去






残ってる精霊は光、雷、大地、氷の4つ。

大分少なく感じるが、ダークヴォルマが復活した今悠長なことはできない。

ハリウンヌスの森から出、一旦近くの町へと急行。

あのおぞましい揺れで、町はほとんど壊滅状態だった。そのせいか、

町の空気も重い。数少ない無事だった数件の家を避難所として使っているようだ。

ダークヴォルマの復活だとは、気付いてないかもしれない。だが、

明らかに「楽」の気分は失われていた。



「いいか。もうもたもたしていられない。2手に別れて石を一気に

頂きにいく」

避難所として扱われている場所のひとつを借りて、フィーナは町人から

借りたテスタルトの地図を広げた。

「ここには大地、ここには氷の精霊。そしてこっちに雷、光の雷だ」

地図に指を這わせて、ひとつひとつ場所を示す。確かに2手に別れた

ほうが得策であろう。

「・・・氷と大地はやすやすと精霊石を譲ってくれるだろう。光と雷は

正直危険だ。こいつらは一緒に叩きのめす」

叩きのめす・・・。精霊にそんな言葉つかっていいんだろうか。だが

フィーナはそんなことは耳にも留めず、すっぱりと2手に別れるメンバーを

口にした。



「と、いうことは・・・シオンさんとリース。僕とリコリスと・・・

フィーナ・・・」

フィーナの位置が意外だったのに少々目を丸くしたアルミオン。

いつものことだから、フィーナはシオンと行くと決め込んでいたらしい。

「まぁ・・・。そのほうが効率はいいと思いますけど・・・」

リコリスも言葉の上では納得しているようだが、やっぱりアルミオン

同様のようだ。

「俺はリースと二人ー!?」

「大丈夫じゃ。わらわは強い!」

不安そうにリースを見るシオンと裏腹に、リースは自信満々で声をあげた。

「氷の精霊なんて楽勝じゃー」







リースはフィーナと違って歩くのが遅い。

今ごろフィーナのペースで歩けるのなら、目的地についていたんでは

ないだろうか。

のろのろと後ろを歩くリースを尻目にシオンはそう思わずにいられない。

「う、ごほごほ。わらわはこれまでじゃ・・・」

わざとらしく、そして棒読みで弱音を吐きながら彼女のペースは落ちていく。

「おいおいー。まだ全然進んでないだろー?」

「はっ。わらわはか弱い天馬だったんじゃ」

「ぜんっぜん説得力ないけど」

「わらわは優雅に空を飛んでたんじゃ。歩くのなんて慣れとらん!」



そんなこんなで大分時間をくってしまった気がするが、ようやく氷の精

霊の住処が見えた。

氷と雪で形作られた城というより砦。轟々と冷気が渦巻いている。

「さむっ!リース、そんな薄着だけど大丈夫か?」

「はんっ。雪なんて慣れっこじゃあーっ!」

行きの棒読みはどこへやら。ずぼずぼと雪に足を埋めながら、

リースはひたすら進んでいく。

シオンも苦笑しながらそれについて歩くこととなった。



「ねぇ、リース。フェーンフィートさんってどんな人だったんだ?」

「!?」

いきなりの質問で驚いたのか、リースは急にシオンを振り向いた。

勢いよく振り向かれたせいで、驚き、シオンは後ろに尻餅をつくはめに。

上から下まで雪だらけ。



「あの方は・・・優しくて、美しく、強い方であった。1000年前の

闇を封印したのもあの方じゃ」

雪の中を進みつつ、リースは後ろを歩くシオンに語ってきかす。

「闇が生まれ、神より最も厚い信頼をうけていたあの方は自ら

テスタルトに出ていき、ラフィスの導き役を務めた。だが、ラフィスの

力もフェーンフィートさんの力も闇に敵わなかった。だが最期の力を振り絞って

フェーンフィートさんは闇の力を封印したんじゃ。・・・最強のレッドドラゴンじゃった」

リースの声色が、それから少し低くなる。

「フィーナがあんな性格になったのも・・・それ以来じゃな。

フィーナは誰よりもフェーンフィートさんも慕っていたからの。

人一倍、ショックが大きかったんじゃろうて」

われわれとの接触を拒み、ひたすら強くなることに努力し、

フェーンフィート並みの神からの信頼をうけた。

アルミオンはそんなフィーナを放っておけなかったんだろう。いつも

フィーナを気にして、近くにいてあげた。そんな意味で、一番身近な

存在だったのはアルミオンなのかもしれない。最もフィーナは

「目障り」だとか「失せろ」なんて暴言をはいていたのだが。

人一倍厳しくて、強くて、そして優しいフィーナの考えることなんて、

誰も理解できなかったのだが・・・。

「・・・そう、だったんだ・・・」

「うむ・・・。お!?あれは氷の精霊じゃあー!」

リースは辛気臭い話はこれまで、と打ち切って氷の精霊の元へ一目散に

かけていった。



『あなたは・・・シオンさんですね』

氷の精霊は落ち着いた声でシオンとリースを見据える。

小さな少女のような容姿をした精霊。この砦をかこむような冷気を

見にまとっている。

『あなたの話は、神様よりきいています』

「なら話は早いの。石をくれ」

リースは無遠慮に手を差し出して、石を要求。なんて礼儀のない言い方

だろうか。これでは律儀な精霊に失礼だ。だが、氷の精霊は気を悪くすることなく、

表情を和らげた。

『私どもに今できること・・・。それは、あなたたちを信じ、力を

貸すこと・・・。いいでしょう。石をお取りください』

どこから沸いて出たのか、ふわりと石がシオンの前に現れる。

恐る恐るそれを受けとるシオンを精霊は確認すると、その場から姿を消した。

「なんじゃ・・・。いい精霊じゃの」

「あぁ、そうだな。・・・それじゃあ、そろそろ帰ろう」

「うむ。おぬしにとってはここは寒いじゃろうからな!」

そういって満足気にここを出発したリースであったが・・・。

目的地は前にフィーナたちと話し合ったあの町へ・・・。





「おいぃぃ!リース、早く来いよーッ!!」

数メートル先を歩くシオンは度々リースを振り返って怒を散らす。

「わらわは眠いぞぅ・・・」

時はすでに夜中。リースは目をこすりながらうなり声をあげていた。

「俺だって眠いってば」

「うむむ・・・」

結局シオンはリースの背中を押して歩くこととなった。



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