運命




(あの女、どこにいった・・・!?)

シオンは暗い森の中、すっかり姿を見失ったフィーナの姿を探す。

このあたりは一回も訪れたことがない。そしてフィーナの行方もわからない。

それなのに不思議なことに自然と足が進んでいく。彼女のもとへ導いてくれてるようだった。

ザァ・・・

暗い木々の間をすり抜け出てきた先は不思議な、

それでもって気分が悪くなるほどの邪悪な空気が辺りを包んでいた。

シオンが声をあげたその先には何十メートルもあろうかというほどのどす黒い魔石。

あの禍々しい煙が固体化したような石だった。

「これはダークマジックストーン。闇の力が固体化したものだ」

その石――ダークマジックストーン――のすぐ下にフィーナの姿があった。

「これを壊すのがお前の仕事だ。がんばってくれ」

突然、人事のように言われた『仕事』にシオンは目を丸くする。

なにかの冗談には思えない。

「で、でも壊すって・・・」

うろたえ、おろおろするシオンにフィーナは呆れまじりの息をついた。

「・・・みていろ」

それだけいうと、フィーナは右手を手前に広げる。

すると、光の粒が彼女の手に集まってゆき一瞬の間に、剣の姿を成し上げてしまった。

(なにいまの!?かっこいいー)

なんとも不思議なことに、フィーナの手にはあの煙を倒したときの剣が再び握られていた。

シオンは口をあんぐりとあけて奇怪なことに驚き、そして胸を高鳴らせた。

輝いた瞳でフィーナと剣を交互に見つめる。

フィーナがつくりだしたその剣の刃は、一般の刀では足元にも及ばないほど光輝き、

そしてみたこともないような形だった。光で形成されたものとは思えない、

丈夫そうな剣でもちろん本物の刃だ。

そして、その剣とフィーナがなんともいえなく似合っていた。

フィーナは何事もなかったかのように剣の柄を握りなおす。

そしてシオンをちらりとみたあと、その『ダークマジックストーン』にむかって剣をかたむけた。

「こい」

挑発するような口調で、にやりと笑うとダークマジックストーンがぐらりと歪む。

『この石を壊すものは誰であろうと許さん・・・』

「!?」

なにがなんだか、全然わかっていないシオンはただ後ろに後ずさり。

石から低く、悪寒の走る声がしたかと思うと石からは、数十メートル――つまり石を同じ大きさ――の怪物が現れた。

「モンスター!?」

「こいつはダークマジックストーンを守る魔物だ」

おろおろするシオンに、ぴしゃりとフィーナは言い放つ。

全身黒っぽい茶色の毛に覆われた大きくてしっかりした体。鋭い目。

大きな爪のはえた手足。象の鼻のように長い角。

『ぐわあぁぁっっ!!!』

魔物は自分の手足ひとつにも満たないフィーナに手を力いっぱい振り下ろす。

「危ない!」

シオンがそう叫んだときと、彼女が地を蹴ったのはほぼ一緒だった。

デカブツの手は空の地面を叩きつけただけ。

フィーナの姿はいつの間にか魔物の真上にあった。

「ふん、遅いな」

剣の煌きが走ったと同時、魔物からのおびただしい低い悲鳴が森に響き渡った。

『ガアアァァァァァッ』

ズシンとゆっくり倒れゆく魔物の体。その頭上からフィーナは身軽に飛び降りた。

頭を一突きされた魔物の姿は幻だったように消えてしまった。

パリンッ

魔物が消えてしまったその後、共鳴するかのようにダークマジックストーンにひびが入り、砕け散った。

目の前でおきた夢のようなことに、唖然とする。

一人の少女が、ひとりで怪物を倒してしまったのだから。



「これがお前の使命だ」







「で、オレはなんでそのなんとかストーンを壊さないといけないんだ?」

トールト村のシオンの家。シオンは家にフィーナを呼び、くわしく事情をきこうと試みる。

いすに腰掛けていたフィーナは真剣な瞳のまま唇を動かした。

「この世界は闇に包まれる。この世界を救うことができるのは神に選ばれたお前のみなんだ」

「闇に・・・包まれる?」

「そう、闇。またの名をダークヴォルマ。1万年前、世界を我が物にしようとした悪魔のようなやつだ。

そいつは今封印されてる。だが、再び力を得るために闇の化身である

ダークマジックストーンを通して力を取り戻そうとしてる」

「つまり・・・その闇の力を復活させないために・・・石を壊すってこと・・・?」

混乱したシオンの頭で理解するのは難しかったようだ。

「まぁ、噛み砕いて言うとそういうことだ」

バンッ

シオンの家の扉が乱暴に開いたかと思うと

「村長、あいつだ!」

グレンが飛んで入ってき、フィーナを指差した。

グレンに続き、トールトの村長が家に入ってき、フィーナを見探った。

「うぅむ。確かに。あの耳、あの目、そして奇妙な衣装・・・」

村長は小さくうなり、言いにくそうに話しだす。

「すまないが、この村を出て行ってくれないか。厄介なことを起こしたくないのでな・・・」

「・・・あぁ。私の用はもう済んだ。いくぞ、シオン」

がたっと、いすをひき立ち上がるフィーナ。(と、シオン)

「な、なんでシオンまで行かないといけないんだよ!?」

グレンはそれが納得できないらしく、フィーナをじっと睨んだ。

だが、そんな睨みも彼女には通用するはずもなく、相手にもされない。

ふたりは足早にトールト村を出て行った。(シオンは強制的に)



「な、なぁ・・・オレ、剣もってきてないけど!?」

シオンは慌てて自分が丸腰だということを彼女に伝える。

すると、「あぁ、そうだったな」と意外と冷静な声がかえってきた。

シオンに差し出された1本の剣。それは、あのときの剣だ。

「石を守る魔物は神の力の宿ったその剣じゃないと絶つことができない」

「へぇ〜・・・。って・・・おもっっ!」

受け取った瞬間に感じる剣の重力。両手で腰のくらいまで懸命に持ち上げた。

これを片手で持ち上げた彼女の腕力が恐ろしい。

「フィーナって本当に何者なんだ?」

「・・・使者」

「へ!?」

「信じないだろうがな」

冷淡で妙に現実的なフィーナからは考えられない言葉だった。それ以来、フィーナは自分のことは何も話さなかった。

聞いて答えてくれたのは、シオンの『使命』のこと。

ダークマジックストーンが存在するのは10つくらいだと曖昧に答えてくれた。

そこに、闇の力が貯められるとダークヴォルマの復活。世界が闇に飲み込まれるとき。

「で、なんでオレじゃないといけないんだよ?」

「お前には夢見・・・つまり神の与えた素質を兼ね備えた者だ。

お前じゃないと闇は消滅できないし、その剣も扱えない」

「神の与えた素質・・・?」

「そう。この世に1人だけの・・・な」

そういわれると、なんだか少しだけ嬉しく感じた。自分が神に選ばれたものなんだから、と。




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