旅立ちと洞窟の女




”西の都のはずれから離れた村ひとつ。太陽の森光しとき現れん”



これはあの森でフィーナが破壊した石のこと。

そして・・・



”北の聖域から暗黒へ、底に眠りし邪悪な渦”



「どういう意味?」

フィーナがすらすらと読み上げた謎の言葉にシオンは考える間もなく首をかしげた。

「北の聖域から西へ。その地下にダークマジックストーンが眠ってるんだろう」

そしてこちらも考える間もなく言い放った。

どうしてこんなに早く解読できるのか・・・。これも神のお告げ・・・?

そんな悠長なことを考えてる間にもフィーナは進む。

向こうが早いのか、それとも自分が遅いのか・・・。これでも村では早かったほうなのだが。

ついて歩くのが小走りなシオンはもう疲れてきていた。



「ここから西・・・」

北の聖域と呼ばれる土地。ただただ平凡な大地。

決して聖なる気が満ちているようにも思えないのだが・・・。

そこからフィーナは西であるだろう方向へと向く。

「はぁ、はぁ・・・。なぁ、少し休もうぜー?」

肩で息するシオンの小さな願いも叶うことなく、さっさと先へ急ぐ。



「フィーナってこのへんの地形とかに詳しいけど・・・。どこで生まれたんだ?」

「ラクシアスランド」

「・・・」

彼女との会話が続かない。フィーナは日常的な雑談というものに興味がないらしい。

必要なことだけをいってのけると、会話が終わる。

ちらりともこっちを見ることもなく。

「なぁ、ラクシアスラ・・・」

「着いたぞ」

その一言にシオンは顔をあげた。

「うわー・・・。すっげぇ」

シオンは感嘆の声をあげた。無理もない。

今まで平原だった道を歩いてきていたのだが、いつの間にか岩がごつごつした狭間にはいりこみ

目の前には地上から地下へのびる階段があるのだから。

数メートル・・・数キロメートルは奥へ続いてるんじゃないだろうか。

まるで階段が口をあけて冒険者をまってるといった感じだ。

冷たい無機質の色、入り込む冷気の中、シオンたちは地下へと下っていった。



明かりは何もない。おまけに明るいところから真っ暗なところなので目も慣れていない。

そんな中、ひたすら一段ずつ降りていく。



『ドンッ』

シオンが何かにぶつかった。フィーナだろうか・・・?とその拍子に前へ躓き・・・

「うわーーーーーっっ!!」

「え、え!? キャーーーッ!!?」

数メートルとある地下の底へと転げるようにして落下してしまった。”何か”と一緒に。

どすっと、冷たい洞窟ににぶい音が響き渡った。

「いってぇ・・・!」

「シオン、大丈夫か!? 貴様、何者!?」

足音と共に、フィーナの声が近づいてきた。

どうやらぶつかったのはフィーナじゃなかったらしい。



「ふぅー・・・。ちょっとぉ〜。いったいわね。 ぶつかっといてそれはないんじゃないの?」

洞窟の底には、火のともったランプがついていた。その光で、声の主の顔が露わになる。

赤が混じった薄茶色の長い髪に、動きやすそうな軽装の女性だった。

身長はブーツをはいてるせいでもあるが、フィーナより少し高いくらい。

そして右手には白銀の鋭利そうな槍・・・。

「あ、ごめん!」

地面に座ったままの彼女に急いで手を差し伸べて立たせてやる。

あの調子からいっても大した怪我はしてなさそうだ。

「私はカルナ。カルナ・ノーリン」

微笑みかけながらの彼女に挨拶に、シオンも慌てて自分の名前を名乗った。

「俺はシオン・ガッシュナット」

「そう、シオンね。・・・あなたは・・・」

カルナはその後、フィーナに目を向ける。

「道化師かなにかかしら?」

ひやかすかのような言い方。それに喧嘩でも売ってしまうんじゃないだろうかと、

はらはらしたシオンだったが

「私の名はフィーナ・・・。いくぞ、シオン」

それだけ言うとフィーナは、再び足を進めだした。



「ねぇ、シオンたちの目的は何なのぉ?」

「本当に薄暗くて迷っちゃいそうね〜」

「そっちには何もないと思うわ」

とりあえず、しつこかった。その上、うるさいくらいにおしゃべりだ。

沈着だったフィーナも我慢の限界のようで・・・。

「貴様、いつまでついてくる!?邪魔だ」

カルナを睨み上げた。

「いいじゃない。私もこっちに用があるんだし、ね」

「用?そんなのこっちの知ったことじゃない」

「私には重要なことなのよ」

カルナも怯むことなく、フィーナに負けじと言い返す。

「フィーナ、まさかカルナもダークマジックストーンが目的なんじゃあ・・・」

今までの会話をきいていたシオンがフィーナに声の調子を下げて言った。

カルナが『闇』に従うものじゃないとも言い切れない。

どうにせよ、石をなによりも早く見つけなければいけないのだ。

「・・・まぁいい。カルナ、貴様はついてくるな」

「ついていくんじゃなくて、行くのよ」

『屁理屈』二人揃ってそう思った。

「あ、ほらほらぁ。道がふたつに別れてるわよー」

楽しそうに前の風が吹きぬけるふたつの道を指差すカルナ。

定期的にあるランプは右の道にはない。

それでも、岩肌に反射した自然の光が薄明るく道を照らしていた。

「私はこっちの道だと思うわ」

すっとカルナが歩み寄っていったのは左の道。

しかしフィーナが歩んでいったのは右の道だった。

(俺はどうするべきなんだろう・・・)

妙な緊張感が包まれるY字路でシオンは佇む。

「シ・オ・ンくん。こっちに来てくれるわよねー?」

円満の笑みでカルナはシオンを手招きした。

「お前は当然こっちだろう」

それと同時に冷たい声が飛んできた。

究極の選択であることは間違えない。

そう思ってるのもつかの間。

あっという間に腕を引っ張られ、左の道を強制的に選ばされた。

ずるずると引きずられるように連れていかれる。シオンは選択権すら持たされてなかった。

「あ、おい。カルナ!フィーナはどうするんだよ!?」

「さあね♪勝手にやるんじゃない?」

もちろん、右の道を選んだ少女は自分の意思を曲げるようなことはしなかった。



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