ラフィス





最後の目的、唯一ダークヴォルマと戦ったとされるラフィスに会うために

セントラル王国――カルナの現在治めている国――へ向かっていた。

セントラル王国にいるその男がラフィスであるという保障はまったくないのだが…。

エーサ達と別れ、集落を後にしてシンガーラの深林をまっすぐ突っ切って行くとセントラル王国だ。

自然と歩くスピードも速まっていく。



ラフィスか…。どんな人なんだろう。

ダークヴォルマと戦ったくらいなんだから、ものすごいマッチョなんじゃ?

地面を叩き割るくらいの豪傑か?

しかもセントラル王国の最高指令官という。

みんなを従わせるほどの威厳の持ち主なんだろうか?

シオンの中で勝手なラフィス像ができあがっていく。

「シオンさん、ラフィスさんがどんな人なのか気になる?」

ただしその想像は途中でアルミオンによって遮断された。

「うん…。まぁ」

「大丈夫。ラフィスさん、悪い人じゃないし。きっと今の状況を見たら

力を貸してくれるはずだよ」

「アルミオンたちはラフィスに会ったことがあるんだ?」

「うん、1000年前にね。フェーンフィートさんが一度ラクシアスランドに帰ってきたとき

ラフィスさんもいたんだよ」

ラフィスさんってばあんまりしゃべらない人だったんだけどね、と苦笑して

「それがフェーンフィートさんを最後にみた日だ。

…あの人はダークヴォルマを封印していから命を落してしまった」

アルミオンが辛そうな瞳で、前方を歩くフィーナに目を向ける。

そうだった。フィーナが変わったのはそれからだとリースに聞いたことがある。



ちょうどシオンとアルミオンの会話が途切れたとき、



ドンッッ



こんな深林で場違いにも背後から大きな音がした。

大きな鳥が落ちてきたのだった。

「何!?」

シオンが慌てふためき、その鳥を怪しむように見つめた。

「今日の夕飯だよ」

弓を片手にメルが、鳥の足を持ち上げた。どうやらメルが仕留めた鳥らしい。

「はい!」

ぶら〜んと、鳥をシオンの前に円満な表情で差し出す彼女。

突然のことで動転していたシオンは押し付けられた鳥を受け取らず、

さっとアルミオンの後ろに隠れた。

メルはきょとんとしている。

「そうだな…今日はもう暗い。ここで野宿だな」

フィーナが空を見上げて言う。確かにもう日も沈んでいる。

「ここらへんにはまだモンスターもいないようですし、ちょうどいいかもしれませんね」

リコリスの賛成もあり、一同はここで腰をおろすことにした。







「メル!!!メルって料理かなり上手だな!!」

さっき仕留めた鳥をさばき、調理したのはメルだ。手際もよければ、

味も申し分ない。

今までの女性陣とは天と地ほど…いや、比べ物にならない。まさに救世主だった。

シオンは久々のおいしいご飯をあっさりと平らげた。

焚き火を挟んだシオンの向かいではにかんだ笑顔をみせるメルがいた。

「お兄ちゃんの食事とか作ってたのは私だしね。あんな集落じゃあ

自給自足しなきゃだし…」

「調理しようがしまいが、お腹に入れば同じだろう」

とても女性が言うべき言葉ではない言葉をしれっと言い放つフィーナ。

それはフィーナ限定だよ、とは周りの人間は言えるはずがない。

「ところでぺシリネ族っておもしろいですね。ラクシアスランドから

神狐様が渡ったという伝説なんですよね?」

リコリスがメルに尋ねる。

「うん。その神狐が人間に恋して混血である私達が生まれたの。

だから血縁によっては狐の血が濃いくて全然言葉が通じない人だっているんだよ。

それから神狐様はぺシリネの村を見守っててくださってるの」

「へー…。話に聞く限りではロマンチックですけど大変なんですね…」

「メル。その神狐がどうして今更になって生贄を要求するようになったのか

心当たりはないのか?」

フィーナの真剣な声色に、うーんとうなりを上げる彼女だったが首を横に振った。

「よくわからない…。けど、突然の要求だったよ。

…なんだか急いでるみたいな…」

「急いでいる…か。…それだけではなんとも言えんな」

視線を焚き火へと移し、腕を組んで黙り込むフィーナ。

「今は情報が少なすぎるよ。…ラフィスにあってからまた考えよう」

「そうそう。アルミオンのいうとおり!だから今日はもう寝ようぜ」

アルミオンに相槌をうち、早々と寝る準備を始めたシオン。

「まったく…あいつの特技は寝ることだな…」

フィーナが焚き火を踏み消し、深い林は真っ暗に静まり返った。







―――シオン、闇の力は増し、もう比べ物にならない…

急いで。奴の剣が完成する前に―――







「…剣?」

まだ眠気の覚めていないぼーっとする頭を起こした。

木漏れ日が優しく差し込んでいる。

「あれ?シオンさん、今朝は早いね」

ぼやけた目にぴんとがあっていくとアルミオンが。

どうやらシオンを起こすところだったらしい。

「おはよ、アルミオン…」

「なんか浮かない顔してるけど…まだ寝たりないとか?」

冗談っぽく笑うアルミオン。

「なぁアルミオン…。ダークヴォルマって剣を持ってたりするのか?」

なんの前触れもない質問に、アルミオンは目を丸くしたが

「シオンさんの剣っていうのはね、もともと神様の思いとか、

精神が固体化してできたものなんだ。ダークヴォルマも存在的には神様のようなものだからね。

剣を持っていても不思議じゃないと思うよ」と答えてくれた。

「へー…」

「どうかしたの?」

「なんか夢で――…」

「シオン、アルミオン!!そろそろ出発するって!!」

朝っぱらからハイテンションなメルの出発の合図で、シオンの言葉は

あっさりとかき消された。

急いで横にあった剣を握りしめ、シオンは急いで準備を始めた。



フィーナ曰く、今日中にはセントラル王国へつけるはずだという。

ラフィスに会えば、何かが解けるかもしれない。



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