魔石破壊




(カルナ・・・。あいつはこんなところに一体・・・。しかしあの槍は・・・)

フィーナは自然の光だけで照らされた岩間をスタスタと進んでいく。

こんなところで立ちすくんで震えているようなたまじゃないのはあたり前なのだが。

彼女が考えているのはカルナが片手に持っていたあの槍・・・。

いや、正確にはあれに刻まれた紋様。



ザッ



「!」

フィーナの視界が急に明るくなった。

数メートル先に小さく黒い塊が見える。それが黒く、どこか神秘的な光を放っていたのだった。

どうやらあの分かれ道・・・目的の道はこっちだったようだ。

「ハン。シオンの奴、どこをうろうろと・・・」



ズガッッ



フィーナの腕に3本の爪痕が走った。血が飛び散り、傷口からもどくどくと鮮血が流れ出す。

「ちっ・・・!もう魔物がでてきたのか」

腕を押さえることもせず、目の前で殺気立たせる魔物へ目を移す。

狼のような獣の姿をしたそれが、毛を逆立ててこちらを睨んでいた。爪には先ほどの血。

フィーナは今剣をシオンに渡している。つまり、戦うための道具すら持ってない。

が・・・

「私を・・・私を誰だと思っている・・・」

ごっという発火音の後、冷たい地下が明々と照らされる。

フィーナの手からは彼女の鮮血よりも真っ赤な炎があふれ出ていた。

それは音ほどの速さで魔物に近づくと、みるみる包んでいった。

「・・・時間稼ぎにはなるだろう」

時間稼ぎ、というよりは奴の体力を落とすことすらできる燃え上がりであったが。

地面を赤くしながら、静かに呟いた。



「フィーナ!?」

「何事です!?」

ようやくシオンとカルナがここにたどり着いた。あの轟音と燃え盛る炎の光で何かに気付いたんだろう。

「遅い。私を待たせるなど1000年早いわ」

今まで何をしていたのか、という目つきで彼らを睨むとシオンは苦笑しながら一歩後退した。

そんな二人に見向きもせず、カルナは倒れた魔物に近づいていった。

丸こげになった魔物を鼻を覆うこともせず、覗き込む。

「これは・・・ナーガに似てるわね。これを一人でこんなにしちゃうなんてフィーナって以外と強いのね〜」

誉めているのか、貶してるのか。だけどフィーナは鼻を鳴らしてシオンに一言だけ浴びせる。

「シオン。剣を渡しただろう。いけ」

「あ、あぁ・・・」

緊張する、と顔をこわばらせながら剣の柄を握り締めた。

そのまま刃を真上まで振り上げた、しかしその刃は目的にあたることなく下げられる。

ぐったりしてた魔物が再び爪を振り上げてきたのだ。

「うわっ!」

間一髪で奴の爪を逃れると飛ぶようにして後ろへ。

「しぶとい奴・・・!」

フィーナはうんざりだ、と声のトーンを落とした。

3本の爪は、無茶苦茶に3人に襲い掛かる。

「フィーナ、なんとかならないのか!?」

「もう、どうなってるんだかさっぱりですわ!!」

シオンとカルナに駆り立てられ、救いを求められた少女は小声でぶつぶつと何かを唱え始めた。

数個の言葉を並べ終わったそのとき・・・



ごおおぉぉっっ



すさまじい音をたてて、地面が揺れだす。

何が起こるともわからぬ彼らの前に分厚い水柱が噴出した。それが魔物の視界を奪う。

「シオン!今だ!!」

「お、おぅ!」

今度こそ、剣をふりあげ力の限り振り下ろす。

すると、斬るか斬らないかというほどの手ごたえで魔物の姿は魔石が壊れる音と共に消えうせた。

「ふー・・・。よかったよかった・・・」

安堵して肩の力を抜くシオンにカルナが詰め寄る。

「もう、どうなってるんですの!?」

「まぁまぁ・・・。実際のところ俺もよくわかってないし・・・。で、フィーナ。お前怪我してるだろ?」

シオンが彼女をみると、彼女の腕は真っ赤になっていた。痛々しい。

「なんだ、こんなもの。かすり傷だろう」

冗談なのか、本気なのか。それでも彼女は気にすることなく放置していた。



ごごごご・・・・!!!



安堵していた中、再び不気味な音が地面を揺らした。

とてつもなく嫌な予感がするのは気のせいではない。まさか・・・

「これは・・・ここが崩れるってことじゃありませんの・・・?」

カルナから血の気が引く。

「崩れる!?急いで上まで戻ろう!!!」

きっとさっきの水の噴出で地下のバランスが崩れたんだろう。音がだんだん大きくなる。



入り口が崩れ、地下を完全封鎖したとき3人は何秒差の危機で地上に戻っていた。

「あー・・・。危ねっ。間一髪だな」

シオンが肩で息しながら、外の新鮮の空気を吸う。

「ん?ところでカルナの目的ってなんだったんだ?」

同じく肩で息するカルナに尋ねた。そういえばカルナのことはまだ何もわかっていなかった。

「私の目的?それはこの地下に潜むモンスターの種類を調べるっていうね・・・。私、ギルドハンターなの」

「ギルドハンター!?」

ギルドハンターとは、町にあるギルドで働いてる言わば何でも屋。

料金さえ払ってくれればギルドを通して仕事を行うという仕事柄なのだ。

どうやら自分達の目的とは大分異なって、ライバルでもなんでもなかったのだ。



 戻る >>