アルミオン





「さぁって、ギルドに報告でも行こうかしらね」

地下洞窟から背をむけて、軽く伸びをするカルナ。

そこで一言、

「カルナ、貴様王家の者だろう」

驚くべき一言がフィーナから発せられた。

それを知っててお前や貴様と呼び捨てる彼女もある意味すごいが・・・。

「・・・そうね、よくわかったじゃない」

「その槍・・・王家の家紋が入ってるからな」

確かに彼女の槍の刃元には家紋が捺してあった。鳥が何かが描かれた繊細で美しいものだ。

「王家の家紋なんて今どき知られてないぜ?」

その家紋を珍しそうに眺めながらシオンは呟く。

今、きっと町の兵士がノーリン家の家紋を見たとしても頭ひとつ下げないだろう。

それほどのものだ。

「・・・今は、な」

会話がつかめない、意味深な言葉。ただわかったことはカルナが王家だということ。

本物の王女さま。驚き、を飛ばして実感すらわかない。

それにカルナ自身深く考えていなかったから。シオンも特に気にすることはできなかった。



「さて、シオン。長居は無用だ。さっさと行くぞ」

踵を返し、歩きだすフィーナ。

「あ、私も行きますわ」

当然のようなカルナの申し出に顔をしかめたのだが。

「なぜだ」

「だって楽しそうだしー?それに暇だからよー」

にこにこと笑いながら普通に答えを出した。戦いがどんなものかわかっているのか、仕事はどうするのか。

突っ込み所すら満載だった。

「・・・好きにしろ。私に止める権利はない。ただし、足手まといはおいていく・・・」

相変わらずの厳しい言葉。そしてやはりシオンのことは完全無視。

シオンは苦笑した。

「とりあえず・・・行こうか」

前へ向かって歩き出そうと顔を上げたとき、目の前には見知らぬ男が一人。

人のよさそうな顔をしてこちらに向いて立っていた。

いつの間に、なんていう質問を心の中に押し沈めているとき顔色を変えた人物に気がついた。

意外にもフィーナだ。

「アルミオン・・・。なぜ貴様がここに・・・」

その男はアルミオンというらしい。フィーナの表情は強張っていたがアルミオンは相変わらずにこにこしている。

「久しぶりだね、フィーナレ・・・」

「その名前を呼ぶなっ」

フィーナが檄を飛ばす。いつも冷静な彼女のそんな取り乱した表情は初めてみた。

(この人は何者だろう・・・)

マジマジとシオンは遠慮もなくその男を眺める。

金髪の整った顔立ち。

フィーナとの共通点がいくつかある。

額の宝石、そしてとがった耳・・・。おかしな服装。

「やだな。そんなに怒らなくてもいいじゃない」

のん気にはははと笑う少年。

「アルミオン・・・貴様まさか・・・」

「まさか、僕はただ様子を見に来ただけだよ」

フィーナの言葉を察していち早くアルミオンは言い放った。

残された二人には会話の内容がつかめないのは確かだ。

「ま、僕はもういいよ。またね」

最後までにこやかにそういい終わると、あたりに竜巻のような風が巻き起こり・・・

アルミオンの姿はいつの間にか消えていた。一瞬のことだ。

考えが回らないまま、『アルミオン』に対してのあやしさだけが増していった。

(フィーナとアルミオンは何かおかしい・・・)

そう思っていると、カルナがシオンにこそこそと耳打ちをしてきた。

「シオン、あの二人って恋人とかかしら?」

「え?!恋人!?フィーナに!?それならかなり物好きな奴だよ!」

結構ひどい言葉。小声でフィーナの耳には届いていないようだ。

というよりも届いていないことを願う。

「・・・いくぞ。それとカルナ。さっさとギルドに行って来い」

「え?あ、うん」

振り向きもせず、言い放つフィーナ。あっさりと同行を認めたので

カルナも驚いたようだが足音をたててギルドがあるんであろう方向へ駆けていった。



「そういえば石ってあといくつあるんだ?」

シオンの問いに、フィーナは振り向いて素直に困惑の表情を見せた。

「石は全てで10個あるとつたえられている。正確なことまでははっきりわからない」

「と、いうことはあと8個だよな。・・・で、その闇の力ってのは一体何から出てきてるわけ?」

「闇の力とは邪心。中心はダークヴォルマのものだが、人間の醜い心も含まれる。

奴は今封印されているが、力を求めて魔石に力をためているということだ。・・・わかったか?」

「なんとなく・・・」

「貴様は本当にバカだな」

「なっ・・・。俺だって好きでバカなわけじゃあ・・・」

口論の末、もごもごと口ごもって言葉を濁らせた。そのとき、遠くから軽快な足音が近づいてきた。

「おまたせー」

カルナだ。どこまで行ったのかは知らないが、息切れもしていない。

体力満点な王女様だ。「よっし、準備満点よ!どこへでも行きましょうー!!」

やる気に溢れたカルナに非難混じった目をむけ、フィーナは唇を動かした。



“東の祭壇見えしとき 光の灯つくり目を宿せ”



「なんですの?それは。私にはさーっぱりですわ」

さっきに勢いのまま、首をかしげる。

東の祭壇ということは、東の方向に何かがあるんだろう。

実際のところシオンにも何もわかっていない。

「とりあえず、行ってみるか?」

「そうですわね!行かないと始まりませんものね!!」

好奇心に満ちたにやりとした笑顔で、シオン、フィーナより一歩先を歩き始めた。



「フィーナのあのお告げ・・・というか予言みたいなのって一体・・・」

カルナの勢いに呆れているフィーナに問いかけてみた。答えはもとから予想できたのだが。

「気にするな」

「やっぱり・・・」

「ただ・・・いい線はいってるだろうがな」

「え?!」

小さく呟いた一言だが、聞き逃しはしなかった。

そしてとりあえず何かがききたくて・・・言葉を搾り出そうとした。

「フィーナは・・・」

「これ以上私に関わるな。余計な騒ぎを起こしたくないのならばな」

無愛想にそれだけ吐き捨てると、フィーナはカルナに続いていってしまった。

(騒ぎぃ・・・?)

フィーナにかかわると、何が騒ぎになるのだろうか。

耳、服、額、確かにどれも騒ぎにはなりそうだ。

だけどそこまで気にすることもないだろう。

なんともはっきりとしない気持ちだけが残ったものの、

深く気にしないのが彼の長所でもあり短所でもある。

遅れながらも二人を追いかけだした。



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